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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1318498
審判番号 不服2014-5888  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-01 
確定日 2016-08-16 
事件の表示 特願2010-523088「熱成形ポリエステルフィルム蓋を有するデュアルオーブナブル食品包装」拒絶査定不服審判事件〔平成21年3月12日国際公開、WO2009/032627、平成22年12月9日国内公表、特表2010-537901〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年8月26日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理2007年8月30日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年4月1日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に同日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされた。その後、平成27年1月15日付けで当審から拒絶の理由が通知され、平成27年3月31日付けで特許請求の範囲を対象とする手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成27年5月7日付けで当審から拒絶の理由が通知され、平成27年8月11日付けで特許請求の範囲及び明細書を対象とする手続補正がなされるとともに意見書が提出された。そして、平成27年11月11日付けで当審から最後の拒絶理由通知がなされ、平成28年2月16日付けで意見書が提出されたものである。

第2.本願発明
平成27年8月11日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載から見て、本願の請求項1ないし17に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項によって特定されるとおりの発明と認める。その請求項1の記載を分説して示せば、次のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。分説は当審が行った。)
《本願発明》
A.食品製品を保存及び調理するオーブナブル真空スキン包装体であって、
B.容器と、そこにヒートシールされた熱成形複合材料ポリマーフィルムカバーとを含み、
C.前記複合材料ポリマーフィルムカバーが以下を含む、オーブナブル真空スキン包装体:
(i)テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの単位を有する第1のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含む熱成形可能な基板層;及び
(ii)基板層の表面上の、第2のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含むヒートシール層であって、前記第2のコポリエステル材料は第1のコポリエステル材料とは異なるヒートシール層;
D.ここで、
i.容器はポリエステル系合成樹脂製であり、その表面上にヒートシール層と接触してシールを形成するよう適合されたシーリング領域を含む;
E.及び
ii.容器及びカバーフィルムの双方は21 CFR §177.1630 h(1)の要求、すなわち250°F(121℃)の蒸留水に2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないこと、及び、150°F(65.6℃)のn-ヘプタンに2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が溶媒に露出される食品接触表面に対して0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないことを遵守する;
F.さらに、前記熱成形複合材料ポリマーフィルムカバーが食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形可能である。

第3.当審拒絶理由
平成27年11月11日付けで当審が通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち、本願発明に係る拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
《当審拒絶理由の概要》
この出願の請求項1ないし17に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記《引用刊行物一覧》の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用刊行物一覧》
刊行物1.特開2006-327658号公報
刊行物2.国際公開2007/093798号
刊行物3.特表平10-510771号公報
刊行物4.特開2005-145070号公報
……………
刊行物6.特開平1-226577号公報
刊行物7.特許第2549842号公報
刊行物8.特公平6-49504号公報

第4.刊行物1の記載事項及び引用発明
1.刊行物1の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である刊行物1(特開2006-327658号公報)には、「調理済み食品包装体」の発明について図面とともに次の記載がある。
(ア)要約(1頁下欄)
【課題】調理された料理が見える状態で、且つ、料理の状態が維持されて陳列できるようにする食品の包装体を提供する。
【解決手段】本発明の調理済み食品包装体は、電子レンジ加熱が可能な容器入り調理済み食品の包装体であって、記容器周縁に溶着され、調理済み食品を密着状態で覆う透明な非透水性フィルムによって真空包装され、調理済み食品は移動が抑制され容器に盛り付けられた状態に維持されている。容器はトレー状又は丼状であり、容器周縁にはフランジ部が設けられている。

(イ)段落0001?0004
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理された食品の包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食材を調理し、これを包装して提供される調理済み食品は、電子レンジ等にて簡単に加熱するだけでよいことから広く普及している。そして、このような調理済み食品の保存性を高めるために、凍結や乾燥もしくは真空包装等の処理がなされている。………
………
【0004】
本発明は調理された料理が見える状態で、且つ、料理の状態が維持されて陳列できるようにする食品の包装体を提供することである。

(ウ)段落0005?0007
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明による調理済み食品包装体は、電子レンジ加熱が可能な容器入り調理済み食品の包装体であって、前記容器周縁に溶着され、前記調理済み食品を密着状態で覆う透明な非透水性フィルムによって真空包装され、前記調理済み食品は移動が抑制され容器に盛り付けられた状態に維持されていることを特徴とする。
【0006】
このような調理済み食品包装体において、容器がトレー状又は丼状であることが好ましく、また、容器周縁にはフランジ部が設けられていてもよい。
さらに、容器が合成樹脂材、セラミック材、……から選ばれた材料からなることが好ましく、さらにまた、非透水性フィルムがアイオノマー樹脂を含む材質からなることが好適である。
そして、調理済み食品は、食肉類、野菜類を含む食品原料を用いて調理されており、調理時の滲み出し液、調味液、タレ、ダシから1以上選ばれる液状物を含むことを特徴とする。………
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食品包装体は調理された状態の料理を外側から見えるようにして陳列できる。さらに、調理済み食品が真空包装されているので、大気圧で食品が容器に押し付けられることになり、容器に盛り付けられた料理の状態が維持できる。
容器をトレー状又は丼状とすることにより、電子レンジで加熱された料理を、そのまま食卓にのせることができる。
容器周縁に設けられたフランジ部はフィルムを溶着する部分であり、上方から被せることにより、フランジ部でフィルムを溶着させることができる。
容器は、合成樹脂材、セラミック材、……から選ばれた材料で形成でき、これらの材料で容器を形成することにより、それぞれ、盛り付けられる料理に適したものとすることができる。
アイオノマー樹脂を含む積層フィルムとすることで、透明性に優れ、また、料理に押圧力が加わった時に、料理を押し潰すことがないフィルムとすることができる。さらに、冷凍時、霜が発生しないので、料理の見映えがよい。………

(エ)段落0008?0011
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の調理済み食品包装体について、図面を基に詳細に説明する。図1は、食品包装体10の容器1が調理済み食品5を収納し、フィルム2で覆われることを示した斜視図であり、図2は、フィルム2が被せられて真空包装されていることを示した縦断面図である。これら図1、2に示されるように、フィルム2が容器1のフランジ部3に溶着されることにより、調理済み食品5は、調理済み食品5を密着して覆っている。この食品包装体10は、保存のために冷凍されているが、これを解凍して加熱するだけで、目で見たとおりの調理済み食品5を食すことができるようになる。
【0009】
この調理済み食品包装体10は、先ず、真空チャンバー内に、料理(調理済み食品5)が盛られた容器1を置き、フィルム2を被せ、この状態から容器1のフランジ部3にフィルム2を密着させ溶着し、真空チャンバー内から料理が盛られた容器1を取り出すことにより製造される。これにより、フィルム2は、大気圧で押し潰され、ほぼ、盛られた料理の形状で、料理が固定される。
【0010】
フィルム2は、大気圧で押し潰された際に、料理(調理済み食品5)をも押し潰すことがないように、ある程度の弾力性を備え、料理品の熱で塑性変形する特性を有した合成樹脂がよい。そして、好ましくはガスバリアー性を備えていることが好ましい。しかし、基本的には、製造後すぐ冷凍されるので、非透水性を備えていればよい。このような機能を持ったものとして、アイオノマーとエチレン-酢酸ビニル共重合体との積層構造を有する合成樹脂フィルム2が利用できる(例えば、大森化成株式会社の商品名ハイミランータイトSV)。この合成樹脂フィルム2は、上述した機能のほかに、内部に収納された料理(調理済み食品5)が視認できる透明部材であり、有害物質をブリードアウトすることがない素材であり、さらに、自己粘着性を持つ。
【0011】
合成樹脂フィルム2の自己粘着性は、合成樹脂フィルム2を加熱することによって発揮されるが、接着強度を好適なものとするために溶着温度が調節される。因みに、本発明の調理済み食品包装体10を加熱する際には、フィルム2を手で剥がしてから加熱する。したがって、手で容易に剥がせる程度の接着力で接着されていることが好ましい。フランジ部3に接着剤を塗布して密封性を向上させてもよいが、この場合には、電子レンジの加熱による容器内部の蒸気圧の上昇を減圧する手段を別途設ける。溶着されるフィルム2は、容器1の周縁部分から全体又は一部が外側にはみ出た状態とする。このようにフィルム2を容器1の周縁部分からはみ出させた場合には、フィルム2が剥がし易くなる。

(オ)段落0016
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の食品包装体の構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の食品包装体の縦断面図である。

(カ)図2
図2には、フィルム2が調理済み食品5の上面を密着して覆っていることが示されている。

2.引用発明
上記記載事項及び図1、図2の記載から見て、刊行物1に開示された技術的事項を、技術常識に照らし本願発明に倣って整理すれば、刊行物1には次の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。)
《引用発明》
a.調理済み食品5を保存し、電子レンジ等にて加熱する真空包装体であって、
b.容器1と、前記容器1に被せられて、前記調理済み食品5を密着して覆い、前記容器1に溶着された、非透水性の、積層構造を有する合成樹脂フィルム2とを含み、
c.前記積層構造を有する合成樹脂フィルム2が、以下を含む、電子レンジ等にて加熱する真空包装体:
(i)アイオノマー樹脂層;及び
(ii)エチレン-酢酸ビニル共重合体層;
d.ここで、
i.容器1は、合成樹脂製であり、その表面上に前記合成樹脂フィルム2と接触して溶着領域を形成するよう適合されたフランジ部3を含む;
e.及び
ii.前記合成樹脂フィルム2は、有害物質をブリードアウトすることがない素材であり、
f.さらに、前記合成樹脂フィルム2は、前記調理済み食品5に密着して覆うものである。

第5.当審の判断
1.本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明の構成aの「調理済み食品5」、「電子レンジ等にて加熱する」及び「電子レンジ等にて加熱する真空包装体」は、それぞれ本願発明の構成要件Aの「食品製品」、「調理する」及び「オーブナブル真空スキン包装体」に相当する。
引用発明の構成bの「容器1」及び「容器1に溶着された」は、それぞれ本願発明の構成要件Bの「容器」及び「そこにヒートシールされた」に相当する。
引用発明の構成bの「積層構造を有する合成樹脂フィルム2」は、「容器1に被せられ」るものであるから、「カバー」ということができる。また、引用発明の構成bの「積層構造を有する合成樹脂フィルム2」は、引用発明の構成cが特定するように「アイオノマー層」と「エチレンー酢酸ビニル共重合体層」とを有するフィルムであるから、「複合材料ポリマーフィルム」ということができる。さらに、「アイオノマー樹脂」も「エチレン-酢酸ビニル共重合体」も熱可塑性樹脂であるから、「アイオノマー層とエチレン-酢酸ビニル共重合体層との積層構造」は、「熱成形可能」である。すると、引用発明の構成bの「積層構造を有する合成樹脂フィルム2」は、本願発明の構成要件Bの「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」に相当する。

(2)「アイオノマー樹脂」は熱可塑性樹脂であるから、「熱成形可能」である。したがって、引用発明の構成cの「アイオノマー樹脂層」と、本願発明の構成要件Cの「(i)テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの単位を有する第1のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含む熱成形可能な基板層」とは、「熱成形可能な基板層」である限りにおいて一致する。
「エチレン-酢酸ビニル共重合体」は、接着剤として利用することが一般的であるところ、刊行物1の段落0011の「合成樹脂フィルム2の自己粘着性は、合成樹脂フィルム2を加熱することによって発揮される」との記載などから見て、引用発明の構成cの「エチレン-酢酸ビニル共重合体層」は、「ヒートシール層」であるといえる。すると、引用発明の構成cの「エチレン-酢酸ビニル共重合体層」と、本願発明の構成要件Cの「(ii)基板層の表面上の、第2のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含むヒートシール層であって、前記第2のコポリエステル材料は第1のコポリエステル材料とは異なるヒートシール層」とは、「基板層の表面上の、基板層の材料とは異なるヒートシール層」である限りにおいて一致する。

(3)引用発明の構成dの「合成樹脂製」と、本願発明の構成要件Dの「ポリエステル系合成樹脂製」とは、「合成樹脂製」である限りにおいて一致する。引用発明の構成dの「溶着」及び「溶着領域」は、本願発明の構成要件Dの「シール」に相当し、引用発明の構成dの「フランジ部3」は、本願発明の構成要件Dの「シーリング領域」に相当する。
上記(2)で述べたように引用発明の構成cの「エチレン-酢酸ビニル共重合体層」は「ヒートシール層」であると認められるから、引用発明の構成dの「合成樹脂フィルム2と接触して溶着領域を形成する」は、「合成樹脂フィルム2のヒートシール層であるエチレン-酢酸ビニル共重合体層と接触して溶着領域を形成する」という意味であることが、当業者に明らかである。すると、引用発明の構成dの「その表面上に合成樹脂フィルム2と接触して溶着領域を形成する」は、本願発明の構成要件Dの「その表面上にヒートシール層と接触してシールを形成する」に相当する。

(4)引用発明の構成eの「合成樹脂フィルム2は、有害物質をブリードアウトすることがない」と、本願発明の構成要件Eの「容器及びカバーフィルムの双方は21 CFR §177.1630 h(1)の要求、すなわち250°F(121℃)の蒸留水に2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないこと、及び、150°F(65.6℃)のn-ヘプタンに2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が溶媒に露出される食品接触表面に対して0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないことを遵守する」とは、「カバーフィルムは、有害物質をブリードアウトすることがない」限りにおいて一致する。

(5)引用発明の構成fの「調理済み食品5に密着して覆う」は、本願発明の構成要件Fの「食品表面に直接接触して該食品表面に合致する」に相当する。すると、引用発明の構成fの「合成樹脂フィルム2は、前記調理済み食品5に密着して覆うものである」は、本願発明の構成要件Fの「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバーが食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形可能である」に相当する。

2.本願発明と引用発明との一致点及び相違点
上記対比を総合すると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
《一致点》
A.食品製品を保存及び調理するオーブナブル真空スキン包装体であって、
B.容器と、そこにヒートシールされた熱成形複合材料ポリマーフィルムカバーとを含み、
C’.前記複合材料ポリマーフィルムカバーが以下を含む、オーブナブル真空スキン包装体:
(i)熱成形可能な基板層;及び
(ii)基板層の表面上の、基板層の材料とは異なるヒートシール層;
D’.ここで、
i.容器は合成樹脂製であり、その表面上にヒートシール層と接触してシールを形成するよう適合されたシーリング領域を含む;
E.及び
ii.カバーフィルムは、有害物質をブリードアウトすることがなく;
F.さらに、前記熱成形複合材料ポリマーフィルムカバーが食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形可能である。

《相違点1》
本願発明は、『「容器」及び「複合材料ポリマーフィルムカバー」の双方』とも「ポリエステル系合成樹脂製」であるのに対し、
引用発明では、『「容器」及び「複合材料ポリマーフィルムカバー」の双方』とも「合成樹脂製」であるものの、「容器」については材質が特定されておらず、「複合材料ポリマーフィルムカバー」については「ポリエステル系」ではない「合成樹脂製」である点。

《相違点2》
本願発明は、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」の基板層が「テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの単位を有する第1のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含む熱成形可能」な層であり、かつ、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」のヒートシール層が「第1のコポリエステル材料とは異なる第2のコポリエステル材料を少なくとも50重量%含む」層であるのに対し、
引用発明は、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」の基板層が「アイオノマー樹脂層」であり、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」のヒートシール層が「エチレン-酢酸ビニル共重合体層」である点。

《相違点3》
本願発明は、「容器」及び「複合材料ポリマーフィルムカバー」の双方が「21 CFR §177.1630 h(1)の要求、すなわち250°F(121℃)の蒸留水に2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないこと、及び、150°F(65.6℃)のn-ヘプタンに2時間曝されるとき、食品接触面が生成するクロロホルム可溶な抽出物が溶媒に露出される食品接触表面に対して0.02mg/in^(2)(0.0031mg/cm^(2))を超えないことを遵守する」ものであるのに対し、
引用発明は、「容器」については「有害物質をブリードアウトすることがない」ことが特定されておらず、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」については「有害物質をブリードアウトすることがない」ことが特定されているもののその具体的内容は特定されていない点。

3.相違点の検討
(1)相違点1について
ア.「電子レンジ」で加熱する調理済み食品の包装容器において、容器及びカバーフィルムの双方を「ポリエステル系合成樹脂製」とすることは、例えば刊行物3の4頁5?16行、5頁22行?6頁22行、13頁下から5?4行、14頁1行?下から4行に記載されており、周知の技術的事項である。
すると、「電子レンジ」で加熱する調理済み食品の包装容器の容器及びカバーフィルムの双方を「ポリエステル系合成樹脂製」とする、上記周知の技術的事項を、引用発明の「容器及びカバーフィルム」に適用し、引用発明の「容器及びカバーフィルム」を「ポリエステル系合成樹脂製」とすることは、必要とする耐熱性、製造や取扱いの容易性、コスト等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。

イ.また、引用発明は、「電子レンジ等にて加熱する」調理済み食品の真空包装体であるから、「電子レンジ」以外の手段によって加熱することを示唆しているものである。そして、本願の優先権主張日時点において、「電子レンジ」及び「ガスや電気式オーブン」の双方で加熱可能な、いわゆる、「デュアルオーブナブルな食品包装」が周知であり、それらの容器及びカバーフィルムを「ポリエステル系合成樹脂製」とすることも周知の技術的事項であった(例えば、刊行物2の1頁8?21行、5頁23行?6頁11行(対応する公表公報である特表2009-526672号公報(以下、「対応公表公報」という。)の段落0002、0018)、刊行物4の段落0003?0004を参照)。
「電子レンジ」による加熱のみが可能である調理済み食品の包装体よりも、「電子レンジ」及び「ガスや電気式オーブン」の双方で加熱可能な調理済み食品の包装体の方が消費者の利便性が高いことは明らかであるから、引用発明を「電子レンジ」以外の加熱手段である「ガスや電気式オーブン」によっても加熱可能な「デュアルオーブナブルな食品包装」とすることは、消費者の利便性等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項であり、その際、容器及びカバーフィルムを上記周知の「ポリエステル系合成樹脂製」とすることは、必要とする耐熱性等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。

(2)相違点2について
ア.「テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコール」は、いずれもコポリエステルに用いるモノマーとして周知である。例えば、刊行物2の5頁23行?6頁11行(対応公表公報の段落0018)や、刊行物3の6頁6?22行には、基材層のモノマー単位として「テレフタル酸、アゼライン酸、及びエチレングリコール」を用いることが記載されており、刊行物4の段落0028?0030には、基材層のモノマー単位として「テレフタル酸、エチレングリコール及びジエチレングリコール」を用いることが記載されている。また、コポリエステルを50%以上含むポリマーブレンドとすることも、例えば、刊行物2の5頁23行?6頁11行(対応公表公報の段落0018)、刊行物4の段落0112に記載されており、周知の技術的事項である。複合材料ポリマーフィルムとすることは、それぞれの層に異なる機能、例えば、支持体層としての機能及びシール性層としての機能を持たせることにより、複合材料ポリマーフィルム全体としてその用途によく適合した機能、例えば、マイクロ波加熱できる食品包装の蓋としてよく適合した機能を持たせるためであり、そのため、異なる機能を持たせる層は異なった組成等とすべきことは、当業者に自明である。
すると、引用発明の「合成樹脂フィルム2」を、相違点2に係る本願発明の構成(構成要件Cを満たす構成)の「複合材料ポリマーフィルムカバー」とすることは、耐熱性やヒートシール性能の向上等を考慮して、当業者が適宜なすべき単なる設計的事項である。

イ.なお、本願明細書等には、基板層が「テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの単位を有する第1のコポリエステル材料」を含む実施例は記載されていない。「テレフタル酸、アゼライン酸、エチレングリコール、及びジエチレングリコールの単位を有する第1のコポリエステル材料」は、任意に選択可能なモノマーとして本願明細書段落0025に列挙されたモノマーの中から、請求人が任意に選択したに過ぎず、そのような選択を行う理由やそのような選択によって奏される効果等については、本願明細書等に何も説明されていない。したがって、基板層が、前記材料の組合せからなる第1のコポリエステル材料を含む点に格別な技術的意義は認められず、この点からも、相違点2は、単なる設計的事項にすぎないといえる。

ウ.刊行物1には、「合成樹脂フィルム2(複合材料ポリマーフィルムカバー)」を、調理済み食品5(食品製品)を覆って容器1のフランジ部3に密着溶融させる際に、合成樹脂フィルム2を加熱して軟化させておくこと等、「熱成形」することは明記されていない。しかし、段落0010に「フィルム2は、……料理品の熱で塑性変形する特性を有した合成樹脂がよい。」と記載されているから、「熱成形」することが示唆されているといえる。
なお、調理済み食品等の被包装物をフィルムを用いて密着して覆う場合に真空「熱成形」等の「熱成形」を行うことは周知の技術的事項である(例えば、刊行物6の4頁上左欄1行?同頁上右欄1行、刊行物7の10欄(5頁右欄)5?21行、刊行物8の3欄(2頁左欄)25?28行、7欄(4頁左欄)1?22行を参照。また、刊行物8の10欄(5頁右欄)15?42行には、真空「熱成形」に用いるフィルムが、引用発明と同様に「アイオノマーとエチレン-酢酸ビニル共重合体との積層構造」であることが記載されている。)。さらに、ポリエステルフィルムが「熱成形ポリマーフィルムカバー」として用いられることも、例えば、刊行物6の6頁下左欄13?18行、刊行物7の5欄(3頁左欄)26?34行を参照)に記載されており、周知の技術的事項である。
すると、仮に、引用発明の「合成樹脂フィルム2」が、「熱成形」されていないとしても、「熱成形複合材料ポリマーフィルムカバー」とすることは、被包装物へのフィルムの密着を良好にすること等を考慮して、当業者が直ちになし得た単なる設計的事項である。

(3)相違点3について
食品用容器が、内容物を人体にとって安全な状態で保持すべきことは、当業者が当然考慮すべき事項である。上記(1)で述べたように、引用発明の容器及びフィルムをポリエステル系合成樹脂製とした場合に、ポリエステル系合成樹脂材料の食品用包装体としての使用に関わるFDAの21 CFR §177.1630 h(1)の要求を遵守するようにすることは、当業者が容易に推考し得たことである。FDAの21 CFR §177.1630 h(1)は、「ガスや電気式オーブン」での使用を想定している規格(要求)であるから、上記(1)イで述べたように、引用発明を「デュアルオーブナブルな食品包装」とした場合には、当該FDAの要求を遵守するようにすることは、当業者が当然に考慮する事項にすぎない。

(4)請求人の主張について
ア.請求人は、平成28年1月16日付けの意見書の〔2〕(3)において、大要次の主張を行っている。
(ア)刊行物2?4には、コポリエステルからなるフィルムカバーを食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形可能であることを開示していない。従って、当業者が、刊行物2?4に開示されているフィルムカバーを、引用発明(刊行物1記載の発明)に用いることはしないといえる。
(イ)刊行物1において「適切である」と開示している唯一の材料はアイオノマー樹脂である。刊行物1の段落0007を参酌すれば、アイオノマー樹脂を用いる理由は、アイオノマー樹脂が冷凍時に霜を発生させないためであり、刊行物1は、これ以外のタイプのフィルムが上記利点を与えるのに相応しいことを開示していない。アイオノマー樹脂の前述の「長所」に関する記載は、アイオノマーフィルムカバーを他の種類のフィルムに置き換えるべきでないという理由付けをはっきりと与えているから、そのような改変は、刊行物1記載の発明の課題の解決を阻害するものである。
(ウ)引用発明は、専ら、既に調理済みの食品の、電子レンジ内で再加熱するだけの包装に関心を向けており、従来式のオーブン(当審注:ガスや電気式のオーブン)内で218℃を超える温度で調理される未調理の食品を如何に包装するかという課題を解決するものではない。刊行物1の包装は、電子レンジによる調理済みの食品の再加熱という刊行物1に記載の発明の目的にとっては既に優れたものである。本願発明の目的のみが、従来式のオーブン内における218℃を超える温度での調理に耐えるのに十分な耐熱性を求める、という動機付けを当業者に与えるのであり、刊行物1に記載の発明の目的から、従来式のオーブン内における218℃を超える温度での調理に耐えるのに十分な耐熱性を求めるような改変を成すことはない。
(エ)従来式のオーブン内で食品を長時間及び高温で調理することは、フィルムカバー及び容器の両方について、本願発明が規定するようなクロロホルム抽出物に対する厳格な基準に適合する必要がある。これに対し、刊行物1に記載の発明が多様な材料の使用を許容しており、容器については抽出物の問題を何ら議論していない。刊行物1の段落0007には、「合成樹脂材」が、それ以上の仕様を議論することなく容器に使用でき、セラミック材、木材、紙材などまでもが使用可能であることが記載されている。調理済み食品を電子レンジ加熱するためには、抽出物の問題は本願発明ほどには重要ではないと考えられる一方で、本願発明では、調理が遥かに高温で行われ、フィルム及び容器から容易に食品内に抽出物が進入しうる状態にあるので、抽出物の問題は大いに重要である。

イ.請求人の主張についての検討
(ア)請求人の主張(ア)について
ポリエステルからなるフィルムカバーを食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形可能であることは、上記3(2)ウで指摘したように周知の技術的事項であり、また、上記3(1)イで指摘したように、刊行物1は「電子レンジ」以外の手段によって加熱することを示唆しており、「電子レンジ」及び「ガスや電気式オーブン」の双方で加熱可能な、いわゆる、「デュアルオーブナブルな食品包装」も周知の技術的事項である。すると、引用発明を「デュアルオーブナブルな食品包装」とし、そのフィルムカバーを、刊行物2?4に例示されるコポリエステルからなるフィルムカバーとして、食品表面に直接接触して該食品表面に合致するように真空下で熱成形することは、周知の技術的事項から当業者が直ちに想起し得たことである。請求人の主張(ア)は、採用することができない。

(イ)請求人の主張(イ)について
請求人が主張するように、刊行物1の段落0007には、「アイオノマー樹脂を含む積層フィルムとすることで、透明性に優れ、また、料理に押圧力が加わった時に、料理を押し潰すことがないフィルムとすることができる。さらに、冷凍時、霜が発生しないので、料理の見映えがよい。」(上記第4の1(ウ)参照)との記載がある。
しかし、刊行物1の請求項1や段落0005に「調理済み食品を密着状態で覆う透明な非透水性フィルムによって真空包装され」と記載されているように、刊行物1記載の発明は「透明な非透水性フィルム」を用いるものであり、「アイオノマーフィルム」を用いることを、発明の課題の解決するための構成要件とするものではない。
さらに、「アイオノマー樹脂」のフィルムは、透明度がよく、耐溶剤性、耐衝撃性、電気絶縁性にすぐれ、また、耐ピンホール性を有し、耐寒性に富み、低温や熱間ヒートシール性が優れていることが知られているが(例えば、プラスチック大辞典編集員会編、「プラスチック大辞典」、工業調査会、2001年11月1日初版第2刷、443頁参照)、樹脂の特性として「冷凍時、霜が発生しない」という性質があることは知られていない。
また、刊行物1の段落0005の「本発明による調理済み食品包装体は……調理済み食品を密着状態で覆う透明な非透水性フィルムによって真空包装され、前記調理済み食品は移動が抑制され容器に盛り付けられた状態に維持されている」や、段落0008の「フィルム2が容器1のフランジ部3に溶着されることにより、調理済み食品5は、調理済み食品5を密着して覆っている」との記載がある。
すると、上記「プラスチック大辞典」に記載された技術常識や、刊行物1の段落0005、0008の記載などから見て、刊行物1記載の実施の形態において「冷凍時、霜が発生しない」のは、「非透水性フィルムが調理済み食品を密着状態で覆う」ため、食品と非透水性フィルムとの間に「霜が発生」する空間が存在しなくなるためであるといえる。アイオノマーフィルムカバーを他の種類のフィルムに置き換えても、「非透水性フィルムが調理済み食品を密着状態で覆う」ようにすれば、刊行物1に記載した「冷凍時、霜が発生しない」効果が得られるといえる。
「アイオノマーフィルムカバーを他の種類のフィルムに置き換えることは、刊行物1記載の発明の課題の解決を阻害する」旨の請求人の主張(イ)は、請求人独自の見解に基づく主張であるから、採用することができない。

(ウ)請求人の主張(ウ)について
刊行物1に記載の発明が解決しようとする課題は、その段落0004に記載されているとおり、「本発明は調理された料理が見える状態で、且つ、料理の状態が維持されて陳列できるようにする食品の包装体を提供すること」であり、「専ら、既に調理済みの食品の、電子レンジ内で再加熱するだけの包装」を課題とするものではない。そして、上記3(1)イで指摘したように、「電子レンジ」及び「ガスや電気式オーブン」の双方で加熱可能な、いわゆる、「デュアルオーブナブルな食品包装」は周知の技術的事項であり、刊行物1の段落0002に「食材を調理し、これを包装して提供される調理済み食品は、電子レンジ等にて簡単に加熱するだけでよいことから広く普及している」と記載されているように、刊行物1は、「電子レンジ」以外の手段によって加熱することを示唆している。
そうすると、引用発明を「調理された料理が見える状態で、且つ、料理の状態が維持されて陳列できるようにする食品の包装体」とし、かつ、「デュアルオーブナブルな食品包装」とすることは、周知の技術的事項に基づいて当業者が直ちに想起し得たことといえる。請求人の主張(ウ)は採用できない。

(エ)請求人の主張(エ)について
上記(1)イで述べたとおり、引用発明を「デュアルオーブナブルな食品包装」とすることは、消費者の利便性等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項であり、その際、容器及びカバーフィルムを周知の「ポリエステル系合成樹脂製」とすることは、必要とする耐熱性等を考慮して、当業者が適宜決定すべき単なる設計的事項である。
上記(3)で述べたとおり、食品用容器が、内容物を人体にとって安全な状態で保持すべきことは、当業者が当然考慮すべき事項であるから、刊行物1に容器の抽出物の問題が記載されていないからといって、刊行物1の発明が、抽出物を問題にしていないことにはならない。刊行物1の発明が食品用容器である以上、抽出物、すなわち、有害物質のブリードアウトを考慮していることは、当業者に自明である。また、「デュアルオーブナブルな食品包装」の容器に、紙材などを用いることは、例えば、刊行物2の16頁8?20行(対応公表公報の段落0048)に記載されており周知の技術的事項である。
すると、上記(3)で述べたとおり、引用発明を「デュアルオーブナブルな食品包装」とし、容器及びカバーフィルムを周知の「ポリエステル系合成樹脂製」とした際に、FDAの21 CFR §177.1630 h(1)の要求を遵守するようにすることは、当業者が当然に考慮する事項である。「刊行物1に記載の発明からは、本願発明が規定するようなクロロホルム抽出物に対する厳格な基準に適合する必要」を想到できない旨の請求人の主張(エ)は、請求人独自の見解であるから、採用することができない。

(5)小括
上記(1)?(3)のとおり、相違点1?3は、いずれも当業者が容易に推考し得たことであり、上記(4)のとおり、請求人の主張は、いずれも理由がない。そして、本願発明の奏する作用効果は、当業者の予測の範囲内の事項であって格別顕著なものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-16 
結審通知日 2016-03-18 
審決日 2016-03-31 
出願番号 特願2010-523088(P2010-523088)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子島 貴裕  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 栗林 敏彦
渡邊 真
発明の名称 熱成形ポリエステルフィルム蓋を有するデュアルオーブナブル食品包装  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  

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