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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1318838
審判番号 不服2015-7965  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2016-08-29 
事件の表示 特願2011-243003「電力供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月20日出願公開、特開2013- 99215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年11月7日を出願日とする出願であって、平成27年1月27日付けで拒絶査定がなされ、同年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に、同日付けで手続補正がなされ、当審から平成28年1月22日付けで審尋がなされ、これに対し、同年3月14日付けで回答書が提出され、当審から同年4月19日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、同年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲は、平成28年6月14日付け手続補正書に記載された以下のとおりである(以下、この特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
集合住宅やビルディングの戸別のバルコニーに設置され、このバルコニー上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイと、該太陽電池アレイが発生する直流電力を充電するリチウムイオン電池と、前記太陽電池アレイが発生する直流電力または前記リチウムイオン電池が放電する直流電力を交流電力に変換するインバータと、該インバータが出力する交流電力を、前記戸別ごとの複数の電力負荷に分配供給する分電盤と、太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する電力比較器と、該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給し、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力と等しい場合にはインバータから低圧系統への電力供給を遮断し、電力負荷への電力供給を継続し、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が負荷で消費される電力に比べて低い場合には、インバータから出力される交流電力の負荷への供給を停止するとともに、低圧系統からの交流電力を電力負荷へ供給するように切り替えられる電力切替器と、を備えることを特徴とする電力供給システム。」

3.当審より通知した拒絶の理由の概要
当審において平成28年4月19日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「この審判事件に関する出願は、合議の結果、以下の理由によって拒絶をすべきものです。
理 由
A.この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1には、「太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する電力比較器と、該電力比較器による比較結果、前記直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、その直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給し、」と記載されている。

当該記載について当審は、「電力を電力負荷または低圧系統『へ選択的』に供給する」ものと解釈すべき根拠、また、その実施をどのように行うのかについて説明を求める審尋を行った。
請求人は、平成28年 3月14日付け回答書において、選択的に供給するものと解釈すべき根拠は、「または」の記載にのみ基づくことを回答する一方、その実施をどのように行うのかについては回答していない。
ここで、請求人が上記回答書で主張するように、「電力負荷を含み、かつ低圧系統を含まない場合」、および「低圧系統を含み、かつ電力負荷を含まない場合」を「選択する」ものと解釈して検討したとしても、特に、電力負荷がインバータから切り離され、かつ、低圧系統にも接続されない状態は、発明の詳細な説明に記載されたものではないし、また、このような状態の場合には発明の詳細な説明に記載されたような効果を奏することもできないものである。
すなわち、電力負荷が低圧系統に接続されたままであれば、インバータで交流変換した交流電力を低圧系統に供給したとき、電力負荷にもインバータで交流変換した交流電力が供給されることになるから、「低圧系統を含み、かつ電力負荷を含まない場合」は、電力負荷はインバータからも、低圧系統からも切り離されるものと解するほかはない。しかし、発明の詳細な説明の記載や図面にはそのような構成は示されていない。
また、電力負荷はどこからも給電されずに停電状態となることになり、発明の詳細な説明の【0012】?【0014】に記載されるような、停電等の悪影響の回避が行われるような効果を奏することもできない。

(2) ・・・・省略・・・・・
(3) ・・・・省略・・・・・
(4) ・・・・省略・・・・・

理由B.この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:登録実用新案第3165178号公報
引用文献2:登録実用新案第3169858号公報
引用文献3:特開昭62-293937号公報
・・・以下省略・・・ 」

4.明細書、特許請求の範囲及び図面の記載要件(特許法第36条第4項及び第6項)について
(1)本願発明は、「太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する電力比較器と、該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給し」とあるとおり、依然として、「電力負荷または低圧系統に供給し」という発明特定事項を有している。
当該、「太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する電力比較器と、該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給し」に関し、発明の詳細な説明には、次のような記載がある。
「【0027】
図4は、本実施形態による集合住宅等の給電システムの電気系統を概念的に示すブロック図である。このブロック図においては、太陽電池アレイ11とリチウムイオン電池12およびインバータ13との間に直流電力検出器31が接続されている。また、インバータ13と電力負荷32との間に電力切替器33、負荷電力検出器34および分電盤38が直列接続されている。電力切替器33は開閉器35を介して低圧系統36に接続されている。分電盤38は図2に示すように戸別の室内側に設置され、この室内側の複数の電力負荷にインバータ13を介して得られる交流電力を分配供給するとともに、前記電力切替器33および開閉器35を収納している。符号37は、各電力検出器31、34が検出した電力値を比較する電力比較器である。
【0028】
この回路では、太陽電池アレイ11が発生する直流電力をリチウムイオン電池12に充電するとともに、このリチウムイオン電池12によって安定化された直流電力がインバータ13に供給される。インバータ13は、その直流電力を商用周波数の交流電力に変換し、図3に示したプラグ差込口20にプラグ(図示しない)が挿し込まれた前記電力ケーブル4、この電力ケーブル4端のプラグ5、コンセント6および分電盤38を通じて低圧系統用の電力負荷32、例えば家庭用の冷蔵庫、照明灯やファックスなどの事務機器に供給可能にしている(図2参照)。
【0029】
一方、直流電力検出器31はリチウムイオン電池12の両端に得られる電力を検出し、負荷電力検出器34は電力負荷32で消費される電力を検出している。これらの各電力検出器31、34で検出された電力は電力比較器37に入力され、電力比較器37はその電力値の差分に応じた切替制御信号を電力切替器33に入力する。
【0030】
電力比較器37は、直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも十分に大きい場合には(A>B)、インバータ13からの交流電力を分電盤38を通して電力負荷32に供給するように電力切替器33を切り替えるとともに、開閉器35を介して低圧系統36へも供給(売電)する。」

上記発明の詳細な説明の記載を参照すると、本願発明の「電力負荷または低圧系統に供給し」という発明特定事項に対応する実施例として、「電力負荷32に供給する」とともに、「低圧系統36へも供給(売電)する」ことが示されている。
しかし、発明特定事項の「電力負荷または低圧系統に供給し」の「または」で示される電力供給は、「電力負荷」あるいは「低圧系統」の一方のみへの電力供給をも含むものであるが、発明の詳細な説明の全体の記載を参照しても、「電力負荷」あるいは「低圧系統」の一方のみへの電力供給を行う実施例は示されていない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載に開示される内容を越えているものである。

(2)さらに、上記(1)で検討した、本願発明の「電力負荷または低圧系統に供給し」という電力供給について、請求人は、平成28年 3月14日付け回答書で、「『または』は、論理的、数理的には『電力負荷を含み、かつ低圧系統を含む』の意味をも表しますが、本願請求項1における『または』は、『電力負荷を含み、かつ低圧系統を含まない場合』、および『低圧系統を含み、かつ電力負荷を含まない場合』に該当します。このことを明らかにするために、『電力を電力負荷または低圧系統へ選択的に供給する』との表現を、意見書内で用いました。」と説明している。
しかし、「電力負荷または低圧系統に供給し」の一つの態様である、「低圧系統」にのみ供給する場合(つまり、平成28年3月14日付け回答書でいう「低圧系統を含み、かつ電力負荷を含まない場合」)は、発明の詳細な説明の記載や図面を参照してもどのように実施することができるのか明らかでない。
つまり、上記平成28年4月19日付け拒絶の理由に、理由A.(1)として指摘したように、電力負荷が低圧系統に接続されたままであれば、インバータで交流変換した交流電力を低圧系統に供給したとき、電力負荷にもインバータで交流変換した交流電力が供給されることになるから、「低圧系統を含み、かつ電力負荷を含まない場合」は、電力負荷はインバータからも、低圧系統からも切り離されるものと解するほかはない。
そうすると、発明の詳細な説明の【0012】?【0014】に記載される、停電等の悪影響の回避が行われる効果を奏するためにはどのようにして電力負荷に給電を継続するのか、発明の詳細な説明の記載や図面を参照したとしても不明であり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(3)以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているので、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の全ての態様を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)引用文献の記載
(1-1)原査定及び当審の拒絶の理由に引用された、登録実用新案第3165178号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「集合住宅等の電力供給装置」として、図面と共に以下の記載がある(下線部は当審付加。)。

ア.「【0028】
図4は、本実施形態による集合住宅等の電力供給装置の電気系統を概念的に示す回路図である。この回路図においては、太陽電池アレイ11とリチュームイオン電池12およびインバータ13との間に直流電力検出器31が接続されている。また、インバータ13と電力負荷32との間に電力切替器33、負荷電力検出器34および分電盤38が直列接続されている。電力切替器33は開閉器35を介して低圧系統36に接続されている。分電盤38は図2に示すように戸別の室内側に設置され、この室内側の複数の電力負荷にインバータ13を介して得られる交流電力を分配供給するとともに、前記電力切替器33および開閉器35を収納している。図4に示す符号37は、各電力検出器31、34が検出した電力値を比較する電力比較器である。
【0029】
この回路では、太陽電池アレイ11が発生する直流電力をリチュームイオン電池12に充電するとともに、このリチュームイオン電池12によって安定化された直流電力がインバータ13に供給される。インバータ13は、その直流電力を商用周波数の交流電力に変換し、図3に示したプラグ差込口20にプラグ(図示しない)が挿し込まれた前記電力ケーブル4、この電力ケーブル4端のプラグ5、コンセント6および分電盤38を通じて低圧系統用の電力負荷32、例えば家庭用の冷蔵庫、照明灯やファックスなどの事務機器に供給可能にしている。
【0030】
一方、直流電力検出器31はリチュームイオン電池12の両端に得られる電力を検出し、負荷電力検出器34は電力負荷32で消費される電力を検出している。これらの各電力検出器31、34で検出された電力は電力比較器37に入力され、電力比較器37はその電力値の差分に応じた切替制御信号を電力切替器33に入力する。
【0031】
電力比較器37は、直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも十分に大きい場合には(A>B)、インバータ13からの交流電力を分電盤38を通して電力負荷32に供給するように電力切替器33を切り替えるとともに、開閉器35を介して低圧系統36へも供給(売電)する。一方、直流電力検出器31で検出した電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bに等しい場合には(A=B)、電力切替器33はインバータ13から低圧系統36への電力供給を遮断し、電力負荷32への電力供給を継続するように切り替える。
【0032】
一方、直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも低下した場合には(A<B)、電力切替器33はインバータ13から電力負荷32への交流電力の供給を停止するとともに、開閉器35を介して低圧系統36からの電力を分電盤38を通して電力負荷32へ供給するように切り替えられる。この場合に、リチュームイオン電池12の充電を継続しながら、低圧系統36の電力を購入して電力負荷32に継続して電力が供給される。これにより、電力負荷32は無停電で動作または駆動が継続される。」

イ.「【0034】
以上のように、本実施形態による集合住宅等の電力供給装置は、集合住宅等の戸別ごとのバルコニー11に、このバルコニー11上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイ11を設置し、この太陽電池アレイ11が発生する直流電力をリチュームイオン電池12に充電し、太陽電池アレイが発生する直流電力またはリチュームイオン電池12が放電する直流電力をインバータ13により交流電力に変換し、このインバータ13が出力する交流電力を戸別ごとの複数の電力負荷に分配供給するようにした構成である。」

図4には、直流電力検出器31は、太陽電池アレイ11とリチュームイオン電池12及びインバータ13とを接続する経路に設けられることが図示されている。
また、上記図面などの記載を参照すると、上記イ.の「バルコニー11」は、「バルコニー1」の誤記と認められる。

上記ア.、イ.の記載及び図面に示された事項を整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、引用発明という。)が記載されているものと認める。

「集合住宅等の戸別ごとのバルコニー1に、このバルコニー1上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイ11を設置し、この太陽電池アレイ11が発生する直流電力をリチュームイオン電池12に充電し、太陽電池アレイが発生する直流電力またはリチュームイオン電池12が放電する直流電力がインバータ13に供給され、
インバータ13は、その直流電力を商用周波数の交流電力に変換し、分電盤38を通じて低圧系統用の電力負荷32に供給し、
太陽電池アレイ11とリチュームイオン電池12及びインバータ13とを接続する経路に設けられた直流電力検出器31はリチュームイオン電池12の両端に得られる電力を検出し、負荷電力検出器34は電力負荷32で消費される電力を検出し、これらの各電力検出器31、34で検出された電力は電力比較器37に入力され、
電力比較器37は、直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも十分に大きい場合には(A>B)、インバータ13からの交流電力を電力負荷32に供給するように電力切替器33を切り替えるとともに、低圧系統36へも供給(売電)し、
直流電力検出器31で検出した電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bに等しい場合には(A=B)、電力切替器33はインバータ13から低圧系統36への電力供給を遮断し、電力負荷32への電力供給を継続するように切り替え、
直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも低下した場合には(A<B)、電力切替器33はインバータ13から電力負荷32への交流電力の供給を停止するとともに、低圧系統36からの電力を電力負荷32へ供給するように切り替えられる、集合住宅等の電力供給装置。」

(1-2)当審の拒絶の理由に引用された、特開昭62-293937号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「太陽光発電装置」として、図面と共に以下の記載がある。
「〔従来の技術〕
第3図は、一般的な太陽光発電装置を一部ブロック図で示す回路図である。図において、(1)は太陽光発電素子であり、例えばシリコン単結晶、シリコンリボン結晶、GaAs、アモルファス等によって構成された素子である。この太陽光発電素子(1)の出力側は逆流防止ダイオード(2)を介して電力変換装置(3)に接続されている。この電力変換装置(3)は、例えばトランジスタ、サイリスタ、GTO等の半導体素子によって構成されたインバータである。この電力変換装置(3)の出力側は負荷切換装置(4)を介して電力系統(5)または単独負荷(6)に接続される。なお、負荷切換装置(4)は電力系統(5)に給電する所謂連系システムと、単独負荷(6)に給電する独立システムとの切換えを行なうものであり、この負荷切換装置(4)がなく何れかのシステムに専用の場合も多い。このような太陽光発電装置においては、太陽光発電素子(1)で得られた直流電力が、電力変換装置(3)によって直流/交流変換された後に、負荷切換装置(4)を通して電力系統(5)に供給されるか、或は単独負荷(6)に供給される。」(1頁右下欄4行?2頁左上欄4行)

第3図には、電力変換装置(3)の出力を、負荷切換装置(4)により、電力系統(5)への供給と、単独負荷(6)への供給とに選択的に切換える回路が図示されている。

上記記載及び図面に示された事項からみて、引用文献2には、以下の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているものと認める。

「太陽光発電素子で得られた直流電力を、電力変換装置によって直流/交流変換された後に、負荷切換装置を通して電力系統或は負荷に選択的に供給する太陽光発電装置。」

(2)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「集合住宅等の戸別ごとのバルコニー1」と、本願発明の「集合住宅やビルディングの戸別のバルコニー」とは、「集合住宅等の戸別のバルコニー」で共通する。

・引用発明の「このバルコニー1上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイ11」は、本願発明の「このバルコニー上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイ」に相当する。

・引用発明の「リチュームイオン電池12」、「インバータ13」は、それぞれ、本願発明の「リチウムイオン電池」、「インバータ」に相当し、引用発明の「この太陽電池アレイ11が発生する直流電力をリチュームイオン電池12に充電し、太陽電池アレイが発生する直流電力またはリチュームイオン電池12が放電する直流電力がインバータ13に供給され、インバータ13は、その直流電力を商用周波数の交流電力に変換」する構成は、本願発明の「インバータ」が「該太陽電池アレイが発生する直流電力を充電するリチウムイオン電池と、前記太陽電池アレイが発生する直流電力または前記リチウムイオン電池が放電する直流電力を交流電力に変換する」構成に相当する。

・引用発明の「分電盤38」は、本願発明の「分電盤」に相当する。
また、引用発明の「インバータ13は、その直流電力を商用周波数の交流電力に変換し、分電盤38を通じて低圧系統用の電力負荷32に供給」する構成は、インバータ13が出力する交流電力を、分電盤38を通じて戸別ごとの複数の電力負荷32に電力を分配供給するものであるから、本願発明の「分電盤」が「該インバータが出力する交流電力を、前記戸別ごとの複数の電力負荷に分配供給する」構成に相当する。

・引用発明の「太陽電池アレイ11とリチュームイオン電池12及びインバータ13とを接続する経路に設けられた直流電力検出器31」が検出する「リチュームイオン電池12の両端に得られる電力」、及び「電力値A」は、太陽電池アレイ11が発生し、リチュームイオン電池12及びインバータ13に供給する直流電力であるから、本願発明の「太陽電池アレイが発生する直流電力」に相当する。
また、引用発明の「負荷電力検出器34」が検出する「電力負荷32で消費される電力」、及び「電力値B」は、本願発明の「電力負荷で消費される電力」に相当する。
そして、引用発明の「太陽電池アレイ11とリチュームイオン電池12及びインバータ13とを接続する経路に設けられた直流電力検出器31はリチュームイオン電池12の両端に得られる電力を検出し、負荷電力検出器34は電力負荷32で消費される電力を検出し、これらの各電力検出器31、34で検出された電力は電力比較器37に入力され」る構成は、本願発明の「電力比較器」が「太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する」構成に相当する。

・引用発明の「低圧系統36」は、本願発明の「低圧系統」に相当する。
また、引用発明の「電力比較器37」が「電力切替器33」を「切り替える」構成は、電力比較器37の比較結果により、電力切替器33がインバータ13、低圧系統36、電力負荷32の接続を切り替えるものであり、本願発明の「該電力比較器による比較結果」により、「切り替えられる電力切替器」の構成に相当する。

・引用発明の「電力比較器37は、直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも十分に大きい場合には(A>B)、インバータ13からの交流電力を電力負荷32に供給するように電力切替器33を切り替えるとともに、低圧系統36へも供給(売電)」する構成と、本願発明の「電力切替器」が「該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給」するように「切り替えられる」構成とを比較すると、本願発明の「または」で示される交流電力の供給条件は、論理的、数理的には「電力負荷に供給する」、かつ、「低圧系統に供給する」の意味を含むものであるから、「電力負荷および低圧系統に供給」することを含むものといえ、両者は、「電力切替器」が「該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷および低圧系統に供給」するように「切り替えられる」点において共通する。

・引用発明の「直流電力検出器31で検出した電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bに等しい場合には(A=B)、電力切替器33はインバータ13から低圧系統36への電力供給を遮断し、電力負荷32への電力供給を継続するように切り替え」る構成は、本願発明の「電力切替器」が、「前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力と等しい場合にはインバータから低圧系統への電力供給を遮断し、電力負荷への電力供給を継続」するように「切り替えられる」構成に相当する。

・引用発明の「直流電力検出器31で検出された電力値Aが負荷電力検出器34で検出された電力値Bよりも低下した場合には(A<B)、電力切替器33はインバータ13から電力負荷32への交流電力の供給を停止するとともに、低圧系統36からの電力を電力負荷32へ供給するように切り替えられる」構成は、本願発明の「電力切替器」が、「前記太陽電池アレイが発生する直流電力が負荷で消費される電力に比べて低い場合には、インバータから出力される交流電力の負荷への供給を停止するとともに、低圧系統からの交流電力を電力負荷へ供給するように切り替えられる」構成に相当する。

・引用発明の「集合住宅等の電力供給装置」は、電力供給のためのシステムといえ、本願発明の「電力供給システム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違していると認められる。
(一致点)
「集合住宅等の戸別のバルコニーに設置され、このバルコニー上で太陽光を受けて直流電力を発生する太陽電池アレイと、
該太陽電池アレイが発生する直流電力を充電するリチウムイオン電池と、前記太陽電池アレイが発生する直流電力または前記リチウムイオン電池が放電する直流電力を交流電力に変換するインバータと、
該インバータが出力する交流電力を、前記戸別ごとの複数の電力負荷に分配供給する分電盤と、
太陽電池アレイが発生する直流電力と電力負荷で消費される電力との大きさを比較する電力比較器と、
該電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷および低圧系統に供給し、
前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力と等しい場合にはインバータから低圧系統への電力供給を遮断し、電力負荷への電力供給を継続し、
前記太陽電池アレイが発生する直流電力が負荷で消費される電力に比べて低い場合には、インバータから出力される交流電力の負荷への供給を停止するとともに、低圧系統からの交流電力を電力負荷へ供給するように切り替えられる電力切替器と、
を備える電力供給システム。」

(相違点1)
集合住宅等に関して、本願発明が「集合住宅やビルディング」であるのに対して、引用発明は「集合住宅等」である点。

(相違点2)
電力比較器による比較結果、前記太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合に、本願発明は、電力切替器は、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給するように切り替えられるのに対して、引用発明は、直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷および低圧系統に供給するように切り替えられる点。

(3)判断
(相違点1について)
集合住宅等について、太陽電池が設置できるベランダを有する建物(ビルディング)とすることは適宜なし得ることであり、「集合住宅とビルディング」とすることは、当業者が適宜なし得る事項である。

(相違点2について)
本願発明の「太陽電池アレイが発生する直流電力が電力負荷で消費される電力に比べて大きい場合には、該直流電力をインバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給し」との発明特定事項は、「電力負荷」と「低圧系統」へ「または」の条件で交流電力を供給することを特定するものであり、具体的には、
a.「電力負荷」へのみ交流電力を供給
b.「低圧系統」へのみ交流電力を供給
c.「電力負荷」および「低圧系統」へ交流電力を供給
のいずれかの条件で供給を行うことを特定するものである。
なお、上記3.(1)で検討したように、本願の発明の詳細な説明の記載には、「電力負荷または低圧系統に供給し」に対応する実施例として、上記c.の条件に相当する、「電力負荷32に供給する」とともに、「低圧系統36へも供給(売電)する」ことが示されている。
そうすると、引用発明の「インバータ13からの交流電力を電力負荷32に供給するように電力切替器33を切り替えるとともに、低圧系統36へも供給(売電)し」、という構成と、本願発明の上記c.の条件に相当する「電力負荷」および「低圧系統」へ交流電力を供給することとは相異しないものであるから、相違点2については実質的に相違しない。
また、仮に、本願発明が、上記c.以外の、上記a.、b.の条件で交流電力を供給することに限定されるものであるとしても、インバータからの交流電力を「電力負荷」へ、あるいは「低圧系統」へ供給することはごく一般的な技術であるし、例えば、上記引用文献2記載の技術のごとく、「電力負荷」と「低圧系統」とに選択的に交流電力を供給することも周知の技術であるから、引用発明の、インバータ13からの交流電力を電力負荷32に供給するとともに、低圧系統36へも供給する構成を、本願発明のごとく、「インバータで交流変換した交流電力を電力負荷または低圧系統に供給」することは適宜なし得る程度のものである。
そして、本願発明に関する作用・効果も引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
さらに、本願の請求項1に係る発明は、引用発明、又は、引用発明及び周知の技術から容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-04 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2011-243003(P2011-243003)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02J)
P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 中川 真一
矢島 伸一
発明の名称 電力供給システム  
代理人 清水 定信  

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