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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1318858
審判番号 不服2015-21695  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-07 
確定日 2016-09-01 
事件の表示 特願2015- 97291「太陽電池用ガラス基板及びそれを用いた太陽電池」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月24日出願公開、特開2015-233134〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月12日(優先権主張 平成26年5月15日(以下、「優先日」という。))の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 7月 8日付け 拒絶理由の通知
平成27年 8月 4日 意見書、手続補正書の提出
平成27年 8月19日付け 拒絶査定(同年9月8日送達)
平成27年12月 7日 審判請求、手続補正

第2 平成27年12月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成27年12月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、そのうち特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(平成27年8月4日付けの手続補正書)の請求項1に、

「酸化物基準の質量百分率表示で、ガラス母組成として、SrOを5?13.0%、BaOを0.5?4.0%、K_(2)Oを3.5?15%含み、Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgOが-4.00?5.00%であり、Na_(2)O/K_(2)Oが1.0?2.0であり、(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)が2.5以上であり、前記ガラス母組成100質量部に対しFeをFe_(2)O_(3)換算で0.08?0.5質量部含み、β-OHが0.12mm^(-1)?0.4mm^(-1)である、太陽電池用ガラス基板。」
とあったものを、

「酸化物基準の質量百分率表示で、ガラス母組成として、SrOを5?13.0%、BaOを0.5?4.0%、K_(2)Oを3.5?15%、MgOを0?2.0%含み、Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgOが-4.00?5.00%であり、Na_(2)O/K_(2)Oが1.0?2.0であり、(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)が2.5以上であり、前記ガラス母組成100質量部に対しFeをFe_(2)O_(3)換算で0.08?0.5質量部含み、β-OHが0.12mm^(-1)?0.4mm^(-1)である、太陽電池用ガラス基板。」

と補正することを含むものである(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

2 補正の適否
補正前の「ガラス母組成」について、「MgOを0?2.0%」含むと限定する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1に本件補正後の請求項1として記載されたとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2013-147417号公報(公開日:平成25年8月1日、以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付したものである。)

a「【0011】
そこで、本発明の技術的課題は、アルカリ成分、特にNa_(2)Oを含むと共に、歪点が十分に高く、しかも周辺部材の熱膨張係数に整合し得る太陽電池用ガラス基板を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討した結果、各成分の含有量を規制すると共に、ガラス中の水分量を規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の太陽電池用ガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 40?70%、Al_(2)O_(3) 1?20%、Na_(2)O 1?20%を含有し、且つガラス中の水分量が25mmol/L未満であることを特徴とする。
【0013】
ここで、「ガラス中の水分量」は、波長2700nmにおける光吸収から、以下の方法により算出される値を指す。
【0014】
まず汎用のFT-IR装置を用い、波長2500?6500nmにおける光吸収を測定し、波長2700n近傍での吸収極大値A_(m)[%]を決定する。次に、下記数式1により、吸収係数α[cm^(-1)]を求める。なお、数式1において、d[cm]は、測定試料の厚さであり、T_(i)[%]は、測定試料の内部透過率である。
【0015】
【数1】α=(1/d)×log_(10){1/(T_(i)/100)}[cm^(-1)]
【0016】
ここで、内部透過率T_(i)は、下記数式2を用いて、吸収極大値A_(m)、屈折率n_(d)から算出した値である。
【0017】
【数2】 T_(i)=A_(m)/{(1-R)}
但し、R=[1-{(n_(d)-1)/(n_(d)+1)}^(2)]^(2)
【0018】
続いて、含水量c[mol/L]を下記数式3により算出する。
【0019】
【数3】c=α/e
【0020】
なお、eは、GlastechnischenBerichten"第36巻、第9号、第350頁から読み取ることができる。そして、本願では、eとして、110[Lmol^(-1)cm^(-1)]を採用することとする。」

b「【0028】
本発明の太陽電池用ガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO_(2) 40?70%、Al_(2)O3 1?20%、Na_(2)O 1?20%を含有する。上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に説明する。
【0029】
SiO_(2)は、ガラスネットワークを形成する成分である。その含有量は40?70%、好ましくは45?60%、より好ましくは47?57%、更に好ましくは49?52%である。SiO_(2)の含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなることに加えて、熱膨張係数が低くなり過ぎて、薄膜太陽電池等の電極膜、光電変換膜の熱膨張係数に整合させ難くなる。一方、SiO_(2)の含有量が少な過ぎると、耐失透性が低下し易くなる。更に、熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラス基板の耐熱衝撃性が低下し易くなり、結果として、薄膜太陽電池等を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板に割れが発生し易くなる。
【0030】
Al_(2)O_(3)は、歪点を高める成分であると共に、耐候性、化学的耐久性を高める成分であり、更にはガラス基板の表面硬度を高める成分である。その含有量は1?20%、好ましくは5?17%、より好ましくは8?16%、更に好ましくは10.0超?15%、特に好ましくは11.0超?14.5%、最も好ましくは11.5?14%である。Al_(2)O_(3)の含有量が多過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下し易くなる。一方、Al_(2)O_(3)の含有量が少な過ぎると、歪点が低下し易くなる。なお、ガラス基板の表面硬度が高いと、CIGS系太陽電池のパターニングにおいて、光電変換膜を除去する工程で、ガラス基板が破損し難くなる。
【0031】
Na_(2)Oは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、Na_(2)Oは、CIGS系太陽電池を作製する際に、カルコパイライト結晶の成長に対して効果的な成分であり、光電変換効率を高めるために重要な成分である。Na_(2)Oの含有量は1?20%、好ましくは2?15%、より好ましくは3.5?13%、更に好ましくは4.3超?10%である。Na_(2)Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラス基板の耐熱衝撃性が低下し易くなる。結果として、薄膜太陽電池等を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板に熱収縮や熱変形が生じたり、割れが発生し易くなる。一方、Na_(2)Oの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなる。
【0032】
上記成分以外にも、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0033】
B_(2)O_(3)は、ガラスの粘度を下げることにより、溶融温度、成形温度を低下させる成分であるが、歪点を低下させる成分であり、また溶融時の成分揮発に伴い、炉耐火物材料を消耗させる成分である。また、ガラス中の水分量を増加させる成分である。よって、B_(2)O_(3)の含有量は、好ましくは0?15%未満、0?5%未満、0?1.5%、特に0?0.1%未満である。
【0034】
Li_(2)Oは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、Li_(2)Oは、Na_(2)Oと同様にして、CIGS系太陽電池を作製する際に、カルコパイライト結晶の成長に対して効果的な成分である。しかし、Li_(2)Oは、原料コストが高いことに加えて、歪点を大幅に低下させる成分である。よって、Li_(2)Oの含有量は、好ましくは0?10%、0?2%、特に0?0.1%未満である。
【0035】
K_(2)Oは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、K_(2)Oは、Na_(2)Oと同様にして、CIGS系太陽電池を作製する際に、カルコパイライト結晶の成長に対して効果的な成分であり、光電変換効率を高めるために重要な成分である。しかし、K_(2)Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラス基板の耐熱衝撃性が低下し易くなる。結果として、薄膜太陽電池等を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板に熱収縮や熱変形が生じたり、割れが発生し易くなる。よって、K_(2)Oの含有量は、好ましくは0?15%、0.1?10%、特に4?8%である。
【0036】
MgO+CaO+SrO+BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。しかし、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、ガラス基板に成形し難くなる。よって、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は、好ましくは5?35%、10?30%、15?27%、18?25%、特に20?23%である。
【0037】
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、MgOは、アルカリ土類酸化物の中では、ガラス基板を割れ難くする効果が大きい成分である。しかし、MgOは、失透結晶を析出させ易い成分である。よって、MgOの含有量は、好ましくは0?10%、0?5%未満、0.01?4%、0.03?3%、特に0.5?2.5%である。
【0038】
CaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなり、ガラス基板に成形し難くなる。よって、CaOの含有量は、好ましくは0?10%、0.1?9%、2.9超?8%、3.0?7.5%、特に4.2?6%である。
【0039】
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、SrOは、ZrO_(2)と共存する場合に、ZrO_(2)系の失透結晶の析出を抑制する成分である。SrOの含有量が多過ぎると、長石族の失透結晶が析出し易くなり、また原料コストが高騰する。よって、SrOの含有量は、好ましくは0?15%、0.1?13%、特に4.0超?12%である。
【0040】
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。BaOの含有量が多過ぎると、バリウム長石族の失透結晶が析出し易くなり、また原料コストが高騰する。更に、密度が増大して、支持部材のコストが高騰し易くなる。一方、BaOの含有量が少な過ぎると、高温粘度が不当に高くなり、溶融性、成形性が低下する傾向がある。よって、BaOの含有量は、好ましくは0?15%、0.1?12%、特に2.0超?10%である。
【0041】
ZrO_(2)は、高温粘度を上げずに、歪点を高める成分である。しかし、ZrO_(2)の含有量が多過ぎると、密度が高くなり易く、またガラス基板が割れ易くなり、更にはZrO_(2)系の失透結晶が析出し易くなり、ガラス基板に成形し難くなる。よって、ZrO_(2)の含有量は、好ましくは0?15%、0?10%、0?7%、0.1?6.5%、特に2?6%である。
【0042】
ガラス中のFeはFe^(2+)又はFe^(3+)の状態で存在するが、特にFe^(2+)は近赤外領域に強い光吸収特性を有する。このため、Fe^(2+)は、大容量のガラス溶解窯において、ガラス溶解窯内の輻射エネルギーを吸収し易く、溶融効率を高める効果を有する。また、Fe^(3+)は、鉄の価数変化の際に酸素を放出するため、清澄効果も有する。更に、高純度原料(Fe_(2)O_(3)の含有量が極めて少ない原料)の使用を制限して、少量のFe_(2)O_(3)を含む原料を使用すると、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。一方、Fe_(2)O_(3)の含有量が多過ぎると、太陽光を吸収し易くなるため、薄膜太陽電池等の表面温度が上昇し易くなり、結果として、光電変換効率が低下する虞がある。また窯の輻射エネルギーが、エネルギー源の近傍で吸収されて、窯の中央部に到達せず、ガラス溶解窯の熱分布にムラが生じ易くなる。よって、Fe_(2)O_(3)の含有量は、好ましくは0?1%、特に0.01?1%である。更に、Fe_(2)O_(3)の好適な下限範囲は0.020%超、0.050%超、特に0.080%超である。なお、本発明では、酸化鉄は、Feの価数に係らず、「Fe_(2)O_(3)」に換算して表記するものとする。」

c「【0052】
本発明の太陽電池用ガラス基板において、ガラス中の水分量は25mmol/L未満で
あり、好ましくは10?23mmol/L、15?21mmol/L、特に18?20mmol/Lである。このようにすれば、光電変換効率の改善に有効なアルカリ成分、特にNa_(2)Oを多く添加しても、高歪点を維持することできる。」

d「【表1】


(イ)上記記載から、引用例1には、太陽電池用ガラス基板(段落0028)について、次の技術事項が記載されている。

上記d(【表1】)の「実施例No.7」の記載から、
「ガラス組成(wt%)として、 Al_(2)O_(3)を13.5%、MgOを0%、CaOを7%、SrOを12.4%、BaOを2%、Na_(2)Oを2%、K_(2)Oを2.9%、Fe_(2)O_(3)を0.1%含み、H_(2)Oを19.4(mmol/L)含む」ことが読み取れる。

段落0042の記載から、
「ガラス中のFeはFe^(2+)又はFe^(3+)の状態で存在するが、Feの価数に係らず、「Fe_(2)O_(3)」に換算して表記するものとする」との技術事項が読み取れる。

(ウ)これらのことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ガラス組成(wt%)として、 Al_(2)O_(3)を13.5%、MgOを0%、CaOを7%、SrOを12.4%、BaOを2%、Na_(2)Oを7%、K_(2)Oを2.9%、Fe_(2)O_(3)を0.1%(ガラス中のFeはFe^(2+)又はFe^(3+)の状態で存在するが、Feの価数に係らず、「Fe_(2)O_(3)」に換算して表記するものとする)含み、H_(2)Oを19.4(mmol/L)含む太陽電池用ガラス基板。」

イ 引用例2
(ア)原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された、本願の優先日前に頒布された国際公開第2013/108790号(国際公開日:2013年(平成25年)7月25日、以下、「引用例2」という。)には、太陽電池用ガラス基板について、次の記載がある。(下線は当審で付したものである。)
a「[0020] MgO:MgOはガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有させるが、その含有量が2.5%未満であると、ガラスの高温粘度が上昇し溶解性が悪化するおそれがある。また、化学的耐久性が悪くなり、密度が増大するおそれがある。その含有量は、好ましくは3%以上である。
しかし、その含有量が5%超であると、発電効率が低下するおそれがある。また失透温度が上昇するおそれがある。その含有量は、好ましくは5%以下、より好ましくは4.5%以下である。」

b「[0030] また、Na_(2)O量とK_(2)O量の比(K_(2)O/Na_(2)O)は1.3以下である。Na_(2)O量がK_(2)O量に対して少ないと、ガラス上のCIGS層へのNa拡散が不十分となり、発電効率も不十分となるおそれがある。K_(2)O/Na_(2)Oは、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.1以下、特に好ましくは1.0以下である。しかし、ガラス基板上のCIGS層へのK拡散を確保し発電効率を確保する観点から、K_(2)O/Na_(2)Oは、0.4以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上である。」

(イ) 上記(ア)aの記載から、引用例2には、
「太陽電池用ガラス基板において、MgOはガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有させるものであり、ガラスの高温粘度、化学的耐久性、発電効率、失透温度を考慮すると、3%以上5%以下とするのが好ましい。」との技術事項が記載されていると認められる。

(ウ) 上記(ア)bの記載から、引用例2には、
「太陽電池用ガラス基板において、ガラス上のCIGS層へのK拡散を確保し発電効率を確保する観点から、K_(2)O/Na_(2)Oは、0.7以上1.0以下とすることが好ましい。」との技術事項が記載されていると認められる。
ここで、前記「K_(2)O/Na_(2)O」を「Na_(2)O/K_(2)O」に書き換えると、
「太陽電池用ガラス基板について、ガラス上のCIGS層へのNa拡散、K拡散を確保し発電効率を確保する観点から、Na_(2)O/K_(2)Oは、1.0以上1.4以下とすることが好ましい。」との技術事項が記載されていると認められる。

ウ 引用例3
(ア)本願の優先日前に頒布された国際公開第2013/133273号(国際公開日:2013年(平成25年)9月12日、以下、「引用例3」という。)には、太陽電池用ガラス基板について、次の記載がある。(下線は当審で付したものである。)
a「[0027] MgO:MgOはガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有してもよい。その含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
しかし、その含有量が6%超であると、失透温度が上昇するおそれがある。さらに、発電効率が低下するおそれがある。その含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2.5%以下、特に好ましくは2.0%以下、一層好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1.0%以下である。」

b「[0037] また、Na_(2)OとK_(2)Oの比Na_(2)O/K_(2)Oは0.7以上である。Na_(2)O量がK_(2)O量に対して少なすぎると、ガラス基板上のCIGS層へのNa拡散が不十分となり、発電効率も不十分となるおそれがある。Na_(2)O/K_(2)Oは好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上、さらに好ましくは1.0以上である。
しかし、Na_(2)O/K_(2)Oが2.0超であるとガラス転移点温度が下がりすぎるおそれがある。また、前述のK_(2)Oによる、CIGS太陽電池の製造工程における高温でのCIGSの結晶成長において、CIGS組成の変化を抑えて、短絡電流の低下を抑える効果が得られなくなるおそれがある。そのためNa_(2)O/K_(2)Oは1.7以下が好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.4以下であることがさらに好ましい。」

(イ) 上記(ア)aの記載において、MgOは「含有してもよい」という記載は、含有しない場合(0%)も含むと解されるから、引用例3には、
「太陽電池用ガラス基板において、MgOはガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有してもよく(含有しない場合を含む)、その含有量は、失透温度、発電効率を考慮すると、0.05%以上4%以下とするのが好ましい。」との技術事項が記載されていると認められる。


(ウ) 上記(ア)bの記載から、引用例3には、
「太陽電池用ガラス基板において、Na_(2)O/K_(2)Oは、ガラス基板上のCIGS層へのNa拡散、発電効率、ガラス転移点温度、K_(2)OによるCIGS組成の変化を抑えて短絡電流の低下を抑える効果の観点から、1.0以上1.4以下とすることが好ましい。」との技術事項が記載されていると認められる。

エ 周知技術
引用例2に関する上記イ(ウ)の記載、及び引用例3に関する上記ウ(ウ)の記載から、
「太陽電池用ガラス基板において、Na_(2)O/K_(2)Oは、ガラス基板上のCIGS層へのNa拡散、K拡散、発電効率、ガラス転移点温度、K_(2)OによるCIGS組成の変化を抑えて短絡電流の低下を抑える効果の観点から、1.0以上1.4以下とすることが好ましい。」ことは、周知技術であるといえる。

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「ガラス組成(wt%)として、 」「SrOを12.4%」含むことは、本件補正発明の「酸化物基準の質量百分率表示で、ガラス母組成として、SrOを5?13.0%」含むことに相当する。

引用発明の「ガラス組成(wt%)として、 」「BaOを2%」含むことは、本件補正発明の「酸化物基準の質量百分率表示で、」「BaOを0.5?4.0%」含むことに相当する。

引用発明の「ガラス組成(wt%)として、 」「K_(2)Oを2.9%」含むことと、本件補正発明の「酸化物基準の質量百分率表示で、」「K_(2)Oを3.5?15%」含むこととは、共に「K_(2)Oを」含む点で共通する。

引用発明の「ガラス組成(wt%)として、 」「MgOを0%」含むことは、本件補正発明の「酸化物基準の質量百分率表示で、」「MgOを0?2.0%」含むことに相当する。

引用発明において、「ガラス組成(wt%)として、 Al_(2)O_(3)を13.5%、MgOを0%、」「Na_(2)Oを7%、K_(2)Oを2.9%」含むことを、「Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgO」の式に当てはめると、13.5%-7%-2.9%-0%=3.6と計算されるから、引用発明の「ガラス組成(wt%)」は、本件補正発明の「Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgOが-4.00?5.00%であ」ることに相当する。

引用発明において、「ガラス組成(wt%)として、」 「MgOを0%、CaOを7%、」「Na_(2)Oを7%、K_(2)Oを2.9%」含むことを、「(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)」の式に当てはめると、(2×7%-2×0%-7%)/(7%/2.9%)=2.9と計算されるから、引用発明の「ガラス組成(wt%)」は、本件補正発明の「(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)が2.5以上であ」ることに相当する。

引用発明において、「ガラス組成(wt%)として、」「Fe_(2)O_(3)を0.1%(ガラス中のFeはFe^(2+)又はFe^(3+)の状態で存在するが、Feの価数に係らず、「Fe_(2)O_(3)」に換算して表記するものとする)含」むことは、本件補正発明の「前記ガラス母組成100質量部に対しFeをFe_(2)O_(3)換算で0.08?0.5質量部含」むことに相当する。

引用発明の「H_(2)Oを19.4(mmol/L)含む」ことに関連して、引用例1の段落0013ないし段落0020に、
「ガラス中の水分量」は、波長2700nmにおける光吸収から、吸収係数α[cm^(-1)]を
吸収係数α=(1/d)×log_(10){1/(T_(i)/100)}[cm^(-1)]
(d[cm]は、測定試料の厚さであり、T_(i)[%]は、測定試料の内部透過率)
の式により求め、
含水量c[mol/L]=α/e(なお、eは、110[Lmol^(-1)cm^(-1)])
により算出することが記載されている。

一方、本願明細書には、β-OHの求め方に関して、以下の記載がある。
「【0112】
(4)β-OH:β-OHは、FTIR装置を用い、波長2700nmにおける光吸収から、以下の方法により算出した。
【0113】
まず、ガラス板の波長2500?6500nmにおける透過率および反射率を測定した。波長2700nm付近での吸収の極大での透過率をT、反射率をRとする。内部透過率T_(i)は、下記式より求めることができる。
【0114】
Ti=1-T-R
ガラス板の厚みをd(mm)とすると、β-OH(mm^(-1))は、下記式より求めることができる。
【0115】
(β-OH)=(1/d)×Log_(10){1/T_(i)}」

ここで、引用発明の「吸収係数α[cm^(-1)]」、「測定試料の厚さ」「d[cm]」、「内部透過率」「T_(i)[%]」と本件補正発明の「β-OH(mm^(-1))」、「ガラス板の厚みをd(mm)」「内部透過率T_(i)」は、単位表現が異なるものの、それぞれ同じものである。
そして、含水量c[mol/L]=α/e(なお、eは、110[Lmol^(-1)cm^(-1)])の式から、引用発明の「H_(2)Oを19.4(mmol/L)含む」ことを「β-OH(mm^(-1))」に換算すると、
「β-OH(mm^(-1))」=α[cm^(-1)]/10=110[Lmol^(-1)cm^(-1)]×19.4(mmol/L)/10000=0.21(mm^(-1))となる。
よって、引用発明の「H_(2)Oを19.4(mmol/L)含む」ことは、β-OHが0.21(mm^(-1))であることであり、本件補正発明の「β-OHが0.12mm^(-1)?0.4mm^(-1)である」ことに相当する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
(ア) 一致点
「酸化物基準の質量百分率表示で、ガラス母組成として、SrOを5?13.0%、BaOを0.5?4.0%、K_(2)Oを含み、MgOを0?2.0%含み、Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgOが-4.00?5.00%であり、(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)が2.5以上であり、前記ガラス母組成100質量部に対しFeをFe_(2)O_(3)換算で0.08?0.5質量部含み、β-OHが0.12mm^(-1)?0.4mm^(-1)である、太陽電池用ガラス基板。」

(イ) 相違点1
K_(2)Oを、本件補正発明は「3.5?15%」含むのに対し、引用発明は「2.9%」含む点。

(ウ) 相違点2
Na_(2)O/K_(2)Oが本件補正発明は、「1.0?2.0であ」るのに対し、引用発明は、2.4(=7%/2.9%)である点。

(4) 判断
以下、相違点1と相違点2とを併せて検討する。
引用例1には、引用発明(「実施例No.7」)に加え、
「【0035】
K_(2)Oは、熱膨張係数を調整する成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性、成形性を高める成分である。また、K_(2)Oは、Na_(2)Oと同様にして、CIGS系太陽電池を作製する際に、カルコパイライト結晶の成長に対して効果的な成分であり、光電変換効率を高めるために重要な成分である。しかし、K_(2)Oの含有量が多過ぎると、歪点が低下し易くなり、また熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラス基板の耐熱衝撃性が低下し易くなる。結果として、薄膜太陽電池等を製造する際の熱処理工程で、ガラス基板に熱収縮や熱変形が生じたり、割れが発生し易くなる。よって、K_(2)Oの含有量は、好ましくは0?15%、0.1?10%、特に4?8%である。」との記載がある。
よって、引用例1には、「光電変換効率を高めるために重要な成分であるK_(2)Oの含有量は、特に4?8%とすることが好ましい。」との技術事項(以下、「引用例1に記載された技術事項」という。)が記載されていると認められる。
そして、光電変換効率を高めるために重要な成分であるK_(2)Oを適正量含有させるとの課題を、引用例1に記載された引用発明も有していることは明らかであるから、引用例1に記載された技術事項を採用し、引用発明のK_(2)Oの含有量を、特に好ましいとする「4?8%」とすることに困難性は見いだせない。
また、「太陽電池用ガラス基板において、Na_(2)O/K_(2)Oは、ガラス基板上のCIGS層へのNa拡散、K拡散、発電効率、ガラス転移点温度、K_(2)OによるCIGS組成の変化を抑えて短絡電流の低下を抑える効果の観点から、1.0以上1.4以下とすることが好ましい。」ことは、周知技術であり、Na_(2)O及びK_(2)Oを含有する太陽電池用ガラス基板である引用発明に、太陽電池用ガラス基板のNa_(2)O/K_(2)Oに関する周知技術を適用することに困難性は見いだせないから、引用発明にNa_(2)O/K_(2)Oとして1.0以上1.4以下にする周知技術を適用することに困難性は見いだせない。

ここで、引用発明のNa_(2)Oは7%であるから、引用発明において、引用例1の記載事項のK_(2)Oの含有量が4?8%の範囲のうちの5?7%の範囲であると、Na_(2)O/K_(2)Oが1.0以上1.4以下となる。
また、K_(2)Oの含有量を5?7%としたとしても、引用発明において、「Al_(2)O_(3)-Na_(2)O-K_(2)O-MgO」は、13.5%-7%-(5?7%)-0%=(-0.5?1.5)と計算され、本件補正発明の「-4.00?5.00%」であることに相当し、「(2×Na_(2)O-2×MgO-CaO)/(Na_(2)O/K_(2)O)」は、5?7と計算され、本件補正発明の「2.5以上」であることに相当することに変わりはない。

ところで、引用発明のMgOの含有量は0%であるところ、周知技術を示す文献である引用例2には、MgOの含有量は3%以上5%以下(上記(2)イ(イ))であることが記載されており、MgOの含有量は異なっている。
しかしながら、MgOの含有量とNa_(2)O/K_(2)Oのどちらのパラメータも結果的に発電効率に影響を及ぼすことで共通するものの、MgOは、ガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があり、MgOの含有量は、ガラスの高温粘度や失透温度によりMgO含有量の範囲が決められるものであるのに対し(引用例1段落0037、引用例2段落0020、引用例3段落0027の記載参照。)、Na_(2)O/K_(2)Oは、ガラス上のCIGS層へのNa拡散やK拡散に影響するパラメータであり、Na拡散やK拡散やガラス転移点温度を考慮して決められるものである(引用例2段落0030、引用例3段落0037の記載参照。)から、MgOの含有量とNa_(2)O/K_(2)Oは、それぞれ異なる観点により調整されるパラメータである。また、Na_(2)O/K_(2)Oを「1.0以上1.4以下」とする周知技術を示す文献である引用例3に、「太陽電池用ガラス基板において、MgOはガラスの溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する効果があるので含有してもよく(含有しない場合を含む)、その含有量は、失透温度、発電効率を考慮すると、0.05%以上4%以下とするのが好ましい。」との技術事項が記載されていることに鑑みるに、MgOの含有量が異なるからといって、引用発明に、Na_(2)O/K_(2)Oを「1.0以上1.4以下」とする周知技術の適用を阻害することにはならない。

したがって、引用発明に引用例1に記載された技術事項及び周知技術を適用することにより、K_(2)Oの含有量として5?7%を採用し、Na_(2)O/K_(2)Oとして1.0以上1.4以下とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本件補正発明のNa_(2)O/K_(2)Oが「1.0?2.0」であることの効果は、引用例2(段落[0030])及び引用例3([0037])に記載された技術事項から容易に想到し得るものであるから、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用例1記載された技術事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明、引用例1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5) 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成27年12月7日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成27年8月4日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1に本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1に記載された引用発明及び技術事項並びに周知技術は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「ガラス母組成」について、「MgOを0?2.0%」含むとする限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)(4)に記載したとおり、引用発明、引用例1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、容易に想到し得ることであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例1に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-04 
結審通知日 2016-07-05 
審決日 2016-07-19 
出願番号 特願2015-97291(P2015-97291)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記河村 麻梨子井上 徹  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 松川 直樹
森 竜介
発明の名称 太陽電池用ガラス基板及びそれを用いた太陽電池  
代理人 三好 秀和  

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