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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1319021
審判番号 不服2015-21641  
総通号数 202 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2016-09-05 
事件の表示 特願2012-197503「回転塗布方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月20日出願公開、特開2014- 50803〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月7日の出願であって、平成26年12月17日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年3月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年8月31日付けで拒絶査定がされ、平成27年12月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年12月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年12月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成27年12月4日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年3月9日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項12の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項12
「 【請求項12】
基板に、23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体をプリウェット液として滴下して、前記基板を回転させることで、前記基板の表面に前記プリウェット液を広げ、
前記基板の表面に前記プリウェット液を広げた後、前記基板を第1の回転数で回転させながら、前記基板に塗布液を第1の滴下量だけ滴下することで、前記基板の端部よりも内側の位置まで前記塗布液を広げ、
前記塗布液を前記第1の滴下量だけ滴下した後、前記基板を前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数で回転させながら、前記基板に前記塗布液を第2の滴下量だけ滴下することで、前記基板の端部または端部近傍まで前記塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法であって、
前記基板の表面に前記プリウェット液を広げるために前記基板を回転させ始めてから、前記塗布液を滴下するまでの時間が、1秒以上である回転塗布方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
基板に、23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体をプリウェット液として滴下して、前記基板を回転させることで、前記基板の表面に前記プリウェット液を広げ、
前記基板の表面に前記プリウェット液を広げた後、前記基板を第1の回転数(rpm)で回転させながら、前記基板に塗布液を第1の滴下量だけ滴下することで、前記基板の端部よりも内側の位置まで前記塗布液を広げ、
前記塗布液を前記第1の滴下量だけ滴下した後、前記基板を前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数(rpm)で回転させながら、前記基板に前記塗布液を第2の滴下量だけ滴下することで、前記基板の端部または端部近傍まで前記塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法であって、
前記基板の表面に前記プリウェット液を広げるために前記プリウェット液を液体を滴下した後に前記基板を回転させ始めてから、前記塗布液を滴下するまでの時間が、1秒以上である回転塗布方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項12における発明特定事項である「第1の回転数」及び「第2の回転数」について、「第1の回転数(rpm)」及び「第2の回転数(rpm)」と限定するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項12における発明特定事項である「前記基板を回転させ始めてから」について、「前記プリウェット液を液体を滴下した後に」という事項を付加して限定することにより、本件補正前の特許請求の範囲の請求項12に記載された発明を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明に限定するものであって、本件補正前の請求項12に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件についての判断
本件補正における本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
2-1-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特許第4745358号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「回転塗布方法、および回転塗布装置」に関し、図面とともに、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を基板に供給し、この基板を回転させて塗布膜を形成する回転塗布方法であって、
前記基板を第1の回転数で前記基板の中央部を中心に回転させながら、前記塗布液を第1の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を前記第1の滴下量だけ滴下した後、前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数で前記基板を回転させながら、前記塗布液を第2の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を第2の滴下量だけ滴下した後、前記塗布液の膜厚を決定するための第3の回転数で前記基板を回転させる、ことを含み、
前記第1の回転数は、空気抵抗により前記第1の滴下量の前記塗布液が前記基板に均一に広がらずに前記第1の滴下量の前記塗布液の端部が盛り上がる回転数である
ことを特徴とする回転塗布方法。
【請求項2】
前記第1の滴下量は、前記第2の滴下量以上であることを特徴とする請求項1に記載の回転塗布方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

(イ)「【0001】
本発明は、塗布液を基板に供給し、この基板を回転させて塗布膜を形成する回転塗布方法および回転塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転塗布方法(スピンコーティング法)は、基板上に塗布液を滴下した後、塗布液の膜厚を決定する回転数で基板を回転して塗布膜を形成する方法である。
【0003】
この回転塗布方法の特徴は、膜厚は回転数のみで決定され、膜厚均一性が良く、プロセス時間が短いことである。半導体デバイスや液晶ディスプレーなどの製造工程で汎用的に使用されており、その用途も多い。
(中略)
【0013】
このような回転塗布方法は、上述用途の他、有機EL材料の塗布、MEMS、光学材料の製造など多方面で使用されている。
【0014】
ここで、代表的な回転塗布方法は、静止した基板の表面中央部に塗布液を滴下してから、基板を回転させて薬液を基板全体に均一に拡散させる方法である。しかし、この方法では、基板1枚を処理するのに、多くの塗布液が必要になる。
【0015】
そこで、従来の回転塗布方法には、半導体基板を低回転数で回転させながら塗布液を滴下した後、塗布液の膜厚を決定する回転数で基板を回転して塗布膜を形成するものがある。
【0016】
上記従来の回転塗布方法は、かなりの量の塗布液を必要とし、基板面積が大きくなると周辺部まで塗れなくなるという問題がある。
【0017】
そこで、従来の他の回転塗布方法には、塗布液滴下時の回転数を膜厚決定の回転数よりも大きくする。これにより、ある程度上記問題を回避でき、大面積基板にも対応できるようになる(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0018】
しかしながら、上記回転塗布方法では、塗布液の使用量は多いという問題がある。
【0019】
ここで、基板と塗布液との間の濡れ性が悪い場合には、塗布液がはじかれてしまい塗布むらが発生するとともに、膜厚均一性が悪化する。この膜厚均一性の悪化を防止するため、塗布前に溶媒(溶剤)で基板を濡らすプレコート処理方法が、提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
【0020】
この回転塗布方法は、溶剤を基板の表面に回転塗布した後に、塗布液を滴下して回転塗布する方法(プレコート法)である。
【0021】
このプレコート法は、塗布液を少量化することができるとともに、均一な膜厚を得ることができる。このため、最先端のフォトレジスト工程で広く使われている。
【0022】
このプレコート法の短所として、溶剤の供給機構が新たに必要になり、溶剤の使用量が多くなる。また、段差を有する基板や、基板に様々な材料が使用されている場合など、溶剤を滴下することで塗布むらを誘発する場合もあると考えられる。
【0023】
そこで、さらに他の回転塗布方法には、塗布液を基板に滴下する際、第1の回転数で塗布液を滴下し、続いて第2の回転数で滴下する方法ある(例えば、特許文献5参照。)。すなわち、塗布液の滴下を2段階以上に分けて途中で回転数を変えるやり方である。
【0024】
この回転塗布方法では、第1の回転数が低いため、塗布液が基板全体に広がりにくく塗布残りが発生する可能性がある。
【0025】
一方、高速の第1の回転数で塗布液を滴下し、続いて低速の第2の回転数で滴下する回転塗布方法がある(例えば、特許文献6、7、8参照。)。
【0026】
特許文献7に記載の回転塗布方法では、第1の回転数で塗布液を基板全面に広げている。
【0027】
これに対し、特許文献6、8に記載の回転塗布方法では、塗布液が、基板全面に到達する前に第1から第2の回転数に移行するようにしているが、第1の滴下量は基板全体を覆うに十分な塗布液量で、さらに第2の滴下により過剰の塗布液を使用する。また、滴下後の回転数(膜厚決定の回転数など)を滴下時の回転数よりも高く設定しているため、高回転時に過剰の塗布液が基板外に排出される。
【0028】
半導体デバイスの製造では、円形な基板を用い、フォトマスク基板や液晶ディスプレーの製造等の場合には四角い基板を用いるといった違いがある。
【0029】
しかし、回転塗布方法はいずれの基板に対しても用いられる。それらの中でも段差の付いた基板への塗布は、平坦な基板への塗布と比較して塗布液の使用量が多くなる。
【0030】
また、基板の大口径化・装置の大型化に伴って、基板回転時の乱流の影響が大きくなり、また高回転で廻すと基板が飛んでしまう恐れが生じる。
【0031】
そのため、回転数の最大値は旧タイプの装置よりも低くなり、プロセス上の制約が多くなる。
【特許文献1】特開平8-330206号公報
【特許文献2】特開2004-64071号公報
【特許文献3】特開平5-123632号公報
【特許文献4】特開平5-243140号公報
【特許文献5】特許2638969号
【特許文献6】特開2000-157922
【特許文献7】特開2000-279874
【特許文献8】特開2006-156565
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、塗布液の滴下量を削減しつつ、より広範囲に塗布膜を成膜することが可能な回転塗布方法および回転塗布装置を提供することを目的とする。」(段落【0001】ないし【0032】)

(ウ)「【0033】
本発明の一態様に係る実施例に従った回転塗布方法は、
塗布液を基板に供給し、この基板を回転させて塗布膜を形成する回転塗布方法であって、
前記基板を第1の回転数で前記基板の中央部を中心に回転させながら、前記塗布液を第1の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を前記第1の滴下量だけ滴下した後、前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数で前記基板を回転させながら、前記塗布液を第2の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を第2の滴下量だけ滴下した後、前記塗布液の膜厚を決定するための第3の回転数で前記基板を回転させる、ことを含み、
前記第1の回転数は、空気抵抗により前記第1の滴下量の前記塗布液が前記基板に均一に広がらない回転数であることを特徴とする。
【0034】
本発明の他の態様に係る実施例に従った回転塗布装置は、
塗布液を基板に供給し、この基板を回転させて塗布膜を形成する回転塗布装置であって、
前記基板を載置して水平に保持する保持部と、
前記保持部を鉛直方向に平行な回転軸線まわりに回転駆動することにより、前記基板を回転させる回転駆動源と、
前記保持部に保持される前記基板に前記塗布液を供給する塗布液供給部と、を備え、
前記回転駆動源により前記基板を第1の回転数で前記基板の中央部を中心に前記基板を回転させながら、前記塗布液供給部により前記塗布液を第1の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を前記第1の滴下量だけ滴下した後、前記回転駆動源により前記第1の回転数よりも小さい第2の回転数で前記基板を回転させながら、前記塗布液供給部により前記塗布液を第2の滴下量だけ前記基板の中央部に滴下し、
前記塗布液を第2の滴下量だけ滴下した後、前記回転駆動源により前記塗布液の膜厚を決定するための第3の回転数で前記基板を回転させ、
前記第1の回転数は、空気抵抗により前記第1の滴下量の前記塗布液が前記基板に均一に広がらない回転数であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の回転塗布方法および回転塗布装置によれば、塗布液の滴下量を削減しつつ、より広範囲に塗布膜を成膜することができる。」(段落【0033】ないし【0035】)

(エ)「【0036】
回転塗布方法では、基板が大口径化するに従って、基板回転時に大気の影響を受けやすくなる。特に、基板外周部では大気抵抗が大きくなるので、回転数の増大に依存して塗布液が広がりにくくなる。
(中略)
【0048】
そこで、本発明の実施形態では、(1)塗布液を基板中央部に滴下し、塗布液が基板全体に実質的に広がりえない第1の回転数N_(1)にて基板を回転させながら塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下する。
【0049】
基板の回転数は、塗布液が基板外周部で十分な空気抵抗を受けるだけの速度であることが必要である。例えば、300mm基板の場合には3000rpm以上が望ましい。
【0050】
このプロセスにより外周部は実質的に塗布されない状態を作り出すことができる。回転数が速ければ塗布されない限界点に到達する時間が短くなり、かつ端部での塗布液の盛り上がり量を大きくすることができる。第1の滴下量M_(1)は、低回転時においても基板全体に塗布できないような少量であることが望ましい。
【0051】
次に、(2)第1の回転数N_(1)よりも小さい第2の回転数N_(2)にて基板を回転させながら塗布液を第2の滴下量M_(2)だけ滴下する。(1)の滴下と(2)の滴下は連続的に行われることが望ましい。
【0052】
第1の回転数で基板の途中まで進んでいた塗布液は、第2の滴下により外周部へ向けて押し出されることになる。その際、第2の回転数を第1の回転数より落とすことで外周部における空気抵抗が弱まり、塗布液は外周部へ向けて移動しやすくなる。
【0053】
また、塗布液端部の盛り上がりが低くなりながら移動できるので、盛り上がった部分で外周部を塗布することができる。
【0054】
そのため、第2の滴下量を多くする必要はなく、第2の滴下量M_(2)は第1の滴下量M_(1)未満でかまわない。このようにして、塗布液を基板全面または基板外周部近傍まで広げる。
【0055】
次に、(3)塗布液の膜厚を決定する回転数で基板を回転することにより、塗布液の膜厚を所定値に制御する。」(段落【0036】ないし【0055】)

(オ)「【0061】
図4に示すように、回転塗布装置100は、基板であるウエハ1を載置して水平に保持する保持部2と、保持部2を鉛直方向に平行な回転軸線3まわりに回転駆動することにより、ウエハ1を回転させる回転駆動源であるモータ4と、保持部2に保持されるウエハ1に塗布液を供給する塗布液供給部5と、制御部10と、を備える。
【0062】
図4に示すように、本実施例の回転塗布方法は、例えば、ウエハ1の厚み方向一方側の表面部(以後、単に表面部と称する)に、塗布液を滴下し、塗布膜6を形成するために用いられる。
【0063】
なお、本実施例による回転塗布方法は、例えば、粘度が0.1mPa・s以上1000mPa・s以下の有機材料、無機材料等から構成される塗布液を塗布する場合に、特に好適に用いられる。粘度はこの範囲外であってもかまわない。
【0064】
ウエハ1は、表面部の反対側(以後、単に裏面部と称する)が保持部2に接するように保持部2に保持される。本実施例で用いられるウエハ1は、円形状の基板であり、その直径は、例えば300mmである。ウエハ1の形状は、これに限定されず、矩形状などの多角形状であってもよい。なお、ウエハ1は回転軸線3が中央部分に位置するように保持部2に載置される。
(中略)
【0075】
次に、以上のような構成を有する回転塗布装置100による回転塗布方法の各条件の一例について説明する。
【0076】
図5は、本実施例1に係る回転塗布方法のレシピの一例を示す図である。また、図6は、図5に示すレシピで回転塗布装置100を動作させるシーケンスの一例を示す図である。また、図7は、図5に示すレシピで回転塗布装置100を動作させるシーケンスの他の例を示す図である。なお、本実施例の実験においては、塗布材料として、粘度1mPa・sの材料を選択した。
【0077】
なお、図6においては、第1の回転数N_(1)>第2の回転数N_(2)に設定されている。また、図7においては、第1の回転数N_(1)<第2の回転数N_(2)に設定されている。
【0078】
図6または図7に示すように、先ず、第1の回転数N_(1)でウエハを回転させながら、塗布液を滴下する(ステップS1)。
【0079】
すなわち、回転塗布装置100は、モータ4によりウエハ1を第1の回転数N_(1)でウエハ1の中央部を中心にウエハ1を回転させながら、塗布液供給部5により塗布液を第1の滴下量M_(1)だけウエハ1の中央部に滴下する。
【0080】
ここで、第1の回転数N_(1)は、空気抵抗により第1の滴下量M1の塗布液が基板全体に均一に広がらない回転数に設定される。例えば、基板(ウエハ)が300mmの直径を有する場合、後述のように、第1の回転数N_(1)が3000rpm、第1の滴下量M_(1)が0.4mlに設定される。なお、空気抵抗により第1の滴下量M_(1)の塗布液が基板全体に均一に広がらない状態とは、例えば、既述の図2Dないし図2Fに示すような状態である。
【0081】
次に、第2の回転数N2にて 更に塗布液を滴下する(ステップS2)。なお、塗布液の滴下は、ステップS1とステップS2との間で連続して実施してもよい。
【0082】
すなわち、図6では、回転塗布装置100は、塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下した後、モータ4により第1の回転数N_(1)よりも小さい第2の回転数N_(2)でウエハ1を回転させながら、塗布液供給部5により塗布液を第2の滴下量M_(2)だけウエハ1の中央部に滴下する。一方、図7では、回転塗布装置100は、塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下した後、モータ4により第1の回転数N_(1)よりも大きい第2の回転数N_(2)でウエハ1を回転させながら、塗布液供給部5により塗布液を第2の滴下量M2だけウエハ1の中央部に滴下する。
【0083】
その後、回転数N_(3)でリフロー処理を行なう(ステップS3)。このリフロー処理により、ウエハ1上に塗布された塗布液の膜厚の均一性が向上する。
【0084】
その後、回転数N4で膜厚を決定する処理を行なう(ステップS4)。
【0085】
すなわち、回転塗布装置100は、塗布液を第2の滴下量M_(2)だけ滴下した後、塗布液の膜厚を決定するための第3の回転数で、モータ4によりウエハ1を回転させる。これにより、ウエハ1上に成膜された塗布膜の膜厚が所望の値に制御される。
【0086】
以上のようにして塗布液を基板に塗布した後、回転塗布装置100には図示していないシンナーでエッジカットを行ない、基板をホットプレートに自動搬送してベークしてから冷却する。
【0087】
ここで、基板の回転速度を変化させた場合における塗布特性の変化について分析した結果を説明する。
【0088】
図5に示すレシピの条件のうち、第1の回転数N_(1)、塗布液を滴下する時間T_(1)と、第2の回転数N_(2)、塗布液を滴下する時間T_(2)と、変更して、図6、図7に示すフローにより得られた塗布膜を分析した。
【0089】
図8は、第1、第2の回転数N_(1)、N_(2)を変化させて成膜した塗布膜の膜厚の面内均一性3σ/<x>と目視結果とを示す図である。
【0090】
なお、ウエハには、パターンが形成されていない、直径300mmの円形なシリコン基板を用いた。また、ステップS3の回転数N_(3)を100rpm、ステップS4の回転数N_(4)を694rpmに固定した。また、塗布時間は、ステップS1で時間0.4秒(滴下量0.4ml)、ステップS2で時間0.3秒(滴下量0.3ml)、合計で時間0.7秒(総滴下量0.7ml)に設定した。
【0091】
図8に示すように、第1の回転数N_(1)を大きくして、第2の回転数N_(2)を小さくすると、塗布むらが解消されウエハエッジまで塗布できる。特に、第1の回転数N_(1)と第2の回転数N_(2)との差が大きくなると、膜厚の面内均一性が向上する。
【0092】
したがって、ウエハ全面に(より広範囲に)塗布するためには、第1の回転数N_(1)>第2の回転数N_(2)に設定することが有効であると考えられる。」(段落【0061】ないし【0092】)

(2)引用文献1の記載から分かること
上記(1)及び図1ないし24の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(オ)及び図1ないし24の記載から、引用文献1には、基板を回転させて塗布液を塗布する回転塗布方法が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ア)ないし(オ)(特に段落【0082】)及び図1ないし24の記載から、引用文献1に記載された回転塗布方法は、塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下した後、第1の回転数N_(1)よりも小さい第2の回転数N_(2)でウエハ1を回転させながら、塗布液を第2の滴下量M_(2)だけウエハ1の中央部に滴下する方法であることが分かる。

(ク)上記(1)(エ)(特に段落【0052】)及び(オ)(特に段落【0080】ないし【0082】)及び図1ないし24の記載から、引用文献1に記載された回転塗布方法は、基板を第1の回転数N_(1)で回転させながら、基板に塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下することで、塗布液が基板の外周部よりも内側の位置まで広がり、基板を第2の回転数N_(2)で回転させながら、基板に塗布液を第2の滴下量M_(2)だけ滴下することで塗布液が基板の外周部まで拡がることが分かる。

(ケ)上記(1)(オ)(特に段落【0091】)及び図1ないし24の記載から、引用文献1に記載された回転塗布方法は、第1の回転数N_(1)を大きくして、第2の回転数N_(2)を小さくすると、塗布むらが解消されウエハエッジまで塗布できることが分かる。

(コ)上記(1)(ウ)(特に段落【0035】)及び図1ないし24の記載から、引用文献1に記載された回転塗布方法により、塗布液の滴下量を削減しつつ、より広範囲に塗布膜を成膜することができることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし24の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「基板を第1の回転数N_(1)で回転させながら、基板に塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下することで、基板の外周部よりも内側の位置まで塗布液を広げ、
塗布液を第1の滴下量M_(1)だけ滴下した後、基板を第1の回転数N_(1)よりも小さい第2の回転数N_(2)で回転させながら、基板に塗布液を第2の滴下量M_(2)だけ滴下することで、基板の外周部まで塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法。」

2-1-2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-77310号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「塗布方法」に関し、図面とともに、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フォトリソグラフィー技術による半導体の製造工程において、シリコンウエハなどの被処理基板上にレジスト材料などの塗布剤を塗布するための塗布方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、シリコンウエハなどの基板にレジスト材料などの塗布剤を塗布する方法としては、スピンコート法と呼ばれる方法を用いるのが一般的に用いられている。
【0003】このスピンコート法とは、シリコンウエハなどの基板をスピンチャックと呼ばれる円盤状の保持部材上に吸着保持し、この基板のほぼ中心に溶液状のレジスト材料を吐出し、しかる後、このスピンチャックを高速回転する方法である。スピンチャックを高速回転することにより、中心に置かれたレジスト材料には遠心力が作用し、この遠心力によりレジスト材料は基板表面上を中心から半径方向外側に拡散し、基板表面全体を覆う。更に高速回転を続けると、余分なレジスト材料は遠心力で振り切り除去され、基板上には膜厚が均一で薄い塗膜が形成される。」(段落【0001】ないし【0003】)

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかるに、レジスト材料とウエハWとは必ずしも親和性が高くない。そのため、ウエハW表面に供給されたレジスト材料がウエハW表面の一部に偏って部分的に厚い塗布部を形成したり、反対にウエハW表面の一部ではレジスト材料がはじかれて塗膜が部分的に薄くなる場合があり、ウエハW表面全体でみると塗膜が不均一になる場合がある。このように塗膜の膜厚が不均一になると、ウエハW表面上に形成される半導体素子の品質にばらつきが生じ、半導体素子の歩留まりが低下して素子1個当たりの生産コストが上昇するという問題があった。
【0005】本発明は、このような課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明は、ウエハW表面に形成されるレジスト膜の膜厚をウエハW表面全体にわたって均一な厚さに形成することのできる塗布方法を提供することを目的とする。」(段落【0004】及び【0005】)

(ウ)「【0046】次に、本実施形態に係るレジスト塗布ユニット(COT)について説明する。図4は本実施形態に係るレジスト塗布ユニット(COT)の概略断面図である。
【0047】このレジスト塗布ユニット(COT)の中央部には環状のカップCΡが配設され、カップCΡの内側にはスピンチャック51が配置されている。スピンチャック51は真空吸着によってウエハWを固定保持した状態で駆動モータ52によって回転駆動される。
(中略)
【0049】ウエハW表面に塗布液としてのレジスト液を吐出するためのレジストノズル60は、レジストノズルスキャンアーム61の先端部にノズル保持体62を介して着脱可能に取り付けられている。このレジストノズルスキャンアーム61は、ユニット底板50の上に一方向(Y方向)に敷設されたガイドレール63上で水平移動可能な垂直支持部材64の上端部に取り付けられており、図示しないY方向駆動機構によって垂直支持部材64と一体にY方向に移動するようになっている。
(中略)
【0053】また、レジストノズル60に隣接してシンナーノズル60aが配設されている。
【0054】このシンナーノズル60aには図示しないシンナー供給系が接続されており、後述するようにこのシンナーノズル60aからウエハWに溶剤を滴下してプリウェットを行うようになっている。
(中略)
【0061】本実施形態のレジスト塗布ユニット(COT)を備えた塗布現像処理システム1を起動すると、ウエハカセットCRからウエハWが取り出され、メインアーム22により搬送されてレジスト塗布ユニット(COT)内にアクセスする。しかる後に以下のレジスト塗布の処理が開始される。
【0062】まず、メインアーム22は、ウエハWを塗布ユニット(COT)内のスピンチャック51のリフター(図示省略)に引き渡し、このリフターが下降することによりスピンチャック51上にウエハWをセットする(ステップ1/時間t_(0 ))。次に、ウエハW上面にプリウェットを行う(ステップ2)。このプリウェットはウエハW上面全体に溶剤を薄くのばしてレジストとウエハW上面との馴染みをよくするための処理であり、以下のようにして行う。
【0063】まずレジストノズルスキャンアーム61が移動してこのスピンチャック51に保持された回転前のウエハWのほぼ中心真上の位置にレジストノズル60を移動させる。次いでモータ52を駆動してスピンチャック51ごとウエハWの回転を開始させ加速する(時間t_(1 )?t_(2 ))。このウエハWが回転した状態で、レジストノズルスキャンアーム61先端のレジストノズル60に隣接配置されたシンナーノズル60aから溶剤を所定量滴下する(時間t_(3 )?t_(4 ))。図9に示すように、滴下された溶剤はウエハWに作用する遠心力でウエハWの半径方向外側に向けて拡散され、瞬時にウエハW上面全体を薄く覆う。そして余分の溶剤は遠心力で振り切られて除去される。プリウェットが完了すると一旦ウエハWの回転を止める(時間t_(6 )?t_(7 ))。なお、プリウェット後ウエハWの回転を継続したまま後続のレジスト塗布工程に移行してもよい。
【0064】プリウェットに引き続き、以下のレジスト塗布工程を行う。
【0065】まず、モータ52を駆動してスピンチャック51ごとウエハWの回転を開始し、所定の速度、すなわち第1の速度まで加速する(ステップ3/時間t_(7 )?t_(8))。
【0066】このときの第1の速度は、ウエハWの中心に吐出されたレジストを半径方向外向きに拡散するとともに余分なレジストを振り切り除去するのに十分な遠心力を発生させることのできる速度である。
【0067】そしてこの第1の速度の値は、レジストの粘度や種類、ウエハWの直径、塗布時の温度や湿度などにより異なる、いわゆる設計事項であり、一義的に特定することはできない。但し、一例として挙げるならば、この第1の速度は2000?4000r.p.m.の範囲が好ましい。
【0068】ここでこの第1の速度の好ましい範囲の上限を4000r.p.m.にしたのは、この第1の速度が上記上限値を越えると、第1回目に吐出した少量のレジストの揮発が進み、第2回目に吐出したレジストが広がらない、という弊害を生じるからである。
【0069】一方、この第1の速度の好ましい範囲の下限を2000r.p.m.にしたのは、この第1の速度が上記下限値を下回ると、第2回目の吐出も同じ回転数で行う為、第2回目に吐出したレジストが広がらず、膜厚の均一性が得られない、という弊害を生じるからである。
【0070】ウエハWの回転速度が第1の速度で定速回転するようになった後(ステップ4)、時間t_(9 )?t_(10)にかけて一回目のレジスト吐出を行う(ステップ5)。
【0071】この一回目のレジスト吐出量、即ち第1の量は、後続する二回目のレジスト吐出で吐出されるレジストのウエハW上面に対する滑りや拡散性をよくし、塗膜の膜厚を均一化できる量である。
(中略)
【0078】上記一回目のレジスト吐出で吐出されたレジストは図10?図11に示すようにウエハWの中心付近に吐出され、遠心力でウエハWの半径方向外向きに拡散され、上下方向の厚さが薄くなると同時に水平方向に広がる。そして図12に示したように、この一回目のレジスト吐出で吐出されたレジストはウエハWの中心付近を部分的に覆う。
【0079】上記1回目のレジスト吐出が完了して所定時間t_(10)?t_(11)経過した後、以下に説明する2回目のレジスト吐出を行う。
【0080】ここで、上記1回目のレジスト吐出と2回目のレジスト吐出との間の時間t_(10)?t_(11)は上記1回目のレジスト吐出で吐出されたレジストをウエハW上面に十分拡散できる時間である。
【0081】この時間t_(10)?t_(11)はいわゆる設計事項であり、一義的に特定することはできないが、一例として挙げるならば、この間の時間t_(10)?t_(11)は0.1?0.5秒の範囲が好ましい。
(中略)
【0094】上記二回目のレジスト吐出で吐出されたレジストは図13に示すように上記一回目のレジスト吐出で形成されたレジストの薄膜上に吐出される。このとき、二回目に吐出されたレジストは図13に示すように、一回目の吐出で形成された薄膜上を滑り、水平方向に拡散してゆく。そのため図14,図15に示すように、二回目に吐出されたレジストはウエハWの外周縁付近まで速やかに拡散し、ウエハW上面全体を覆う。その後時間t_(13)までの定速回転でレジストの上下方向の厚さが減少するとともに膜厚が薄くなり、また膜厚が均一化される。そして余分のレジストが遠心力で振り切り除去されて膜厚が均一で薄い塗膜が形成される(図16)。
【0095】上述したように、本実施形態に係る塗布ユニットでは、回転するウエハWにレジストを吐出するレジスト吐出工程を二回に分け、一定速度で回転するウエハW上面に適切なタイミングでレジスト吐出を行う。そのため、一回目の吐出でウエハW上面に吐出されるレジストが二回目の吐出で吐出されるレジストの滑りや拡散性をよくする働きをする。その結果、二回目に吐出されるレジストは一回目に吐出されて形成されたレジスト薄膜上をウエハWの半径方向外向きに速やかに拡散し上記一回目に吐出されたレジストと相俟ってウエハW上面全体にわたって均一で膜厚の薄いレジスト膜を形成する。」(段落【0046】ないし【0095】)

(エ)「【0100】実施例1
この実施例では、上記第1の実施形態で説明した塗布ユニットを用いて塗布処理を行った。
【0101】処理条件は以下に示した通りであった。
【0102】
ステップ 時間(秒) 回転数(r.p.m.) 加速度(r.p.m./秒)
2 1.0 0
3?4 1.0 2000 10000
5 0.1 3200 10000
5と6との間隔 0.1 3200 10000
6 0.3 3200 10000
7 25 3000 10000
吐出容積 0.4ml
吐出速度 1.0ml/秒
ポンプ ミリポアポンプ 型式 rainbow (MILLIPORE社製)
エアオペレーションバルブ 型式X-25(CKD社製)
使用薬液 PFI-38A4 (粘度3cP/住友化学社製)
上記の条件で塗布処理したウエハについて下記の要領で膜厚測定したところ、次のような測定結果が得られた。図17はこの測定結果をグラフ化したものである。膜厚測定は1ロットの製品からサンプルを1枚抽出し、このサンプルの39箇所について測定した。測定装置はナノスペックN-5100-L12(ナノメトリクスジャパン社製)を使用した。
(中略)
【0105】実施例2
この実施例では、以下に示した処理条件で塗布処理を行った。
【0106】
ステップ 時間(秒) 回転数(r.p.m.) 加速度(r.p.m./秒)
2 1.0 0
3?4 1.0 2000 10000
5 0.1 3200 10000
5と6との間隔 0.1 3200 10000
6 0.3 3200 10000
7 25 3000 10000
吐出容積 0.4ml
吐出速度 1.0ml/秒
ポンプ ミリポアポンプ 型式 rainbow(MILLIPORE社製)
エアオペレーションバルブ 型式X-25(CKD社製)
使用薬液 PFI-38A4(粘度3cP/住友化学社製)
上記の条件で塗布処理したウエハについて下記の要領で膜厚測定したところ、次のような測定結果が得られた。図18はこの測定結果をグラフ化したものである。膜厚測定は1ロットの製品からサンプルを1枚抽出し、このサンプルの39箇所について測定した。測定装置はナノスペックN5100-L12(ナノメトリクスジャパン社製)を使用した。
(中略)
【0109】実施例3
この実施例では、以下に示した処理条件で塗布処理を行った。
【0110】
ステップ 時間(秒) 回転数(r.p.m.) 加速度(r.p.m./秒)
2 1.0 0
3?4 1.0 2000 10000
5 0.1 3200 10000
5と6との間隔 0.1 3200 10000
6 0.4 3200 10000
7 25 3000 10000
吐出容積 0.5ml
吐出速度 1.0ml/秒
ポンプ ミリポアポンプ 型式 rainbow(MILLIPORE社製)
エアオペレーションバルブ 型式X-25(CKD社製)
使用薬液 PFI-38A4(粘度3cP/住友化学社製)
上記の条件で塗布処理したウエハについて下記の要領で膜厚測定したところ、次のような測定結果が得られた。図19はこの測定結果をグラフ化したものである。膜厚測定は1ロットの製品からサンプルを1枚抽出し、このサンプルの39箇所について測定した。測定装置はナノスペックN5100-L12(ナノメトリクスジャパン社製)を使用した。
【0111】
測定点 39箇所
最小値 5363(オングストローム)
最大値 5397(オングストローム)
差 34(オングストローム)
平均値 5383.51(オングストローム)
SD 9.92
3シグマ 29.75
上記結果が示すように、膜厚の一番薄い部分と厚い部分との差は34オングストロームであり、膜厚が薄く、しかもその分布が極めて均一である。」(段落【0100】ないし【0111】)

(2)引用文献2の記載から分かること
上記(1)及び図1ないし23の記載から、引用文献2には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1ないし23の記載から、引用文献2には、シリコンウエハなどの基板にレジスト材料(レジスト液)などの塗布剤(塗布液)を塗布する方法として、スピンコート法を用いる塗布方法が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1ないし23の記載から、引用文献2に記載された塗布方法は、ウエハW上面にプリウェットを行った後、2回に分けてレジスト塗布を行うことが分かる。

(ク)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1ないし23の記載から、引用文献2に記載された塗布方法において、ステップ2でウエハW上面にプリウェットを行ってから、ステップ4で塗布液を塗布するまでの時間は、1.0秒程度(段落【0102】、【0106】及び【0110】を参照。)であることが分かる。

(3)引用文献2記載の技術
上記(1)及び(2)並びに図1ないし23の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。

「基板に、プリウェットのための溶剤を滴下して基板を回転させることで基板の表面にプリウエットのための溶剤を広げ、
基板の表面にプリウェットのための溶剤を広げた後、基板を所定の回転数で回転させながら、基板に塗布液を所定の滴下量だけ滴下することで、塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「第1の回転数N_(1)」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「第1の回転数(rpm)」に相当し、以下同様に、「第1の滴下量M_(1)」は「第1の滴下量」に、「基板の外周部よりも内側の位置」は「基板の端部よりも内側の位置」に、「第2の回転数N_(2)」は「第2の回転数(rpm)」に、「第2の滴下量M_(2)」は「第2の滴下量」に、「基板の外周部」は「基板の端部または端部近傍」に、それぞれ、相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「基板を第1の回転数で回転させながら、基板に塗布液を第1の滴下量だけ滴下することで、基板の端部よりも内側の位置まで塗布液を広げ、
塗布液を第1の滴下量だけ滴下した後、基板を第1の回転数よりも小さい第2の回転数で回転させながら、基板に塗布液を第2の滴下量だけ滴下することで、基板の端部または端部近傍まで塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
・本願補正発明においては「基板に、23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体をプリウェット液として滴下して、前記基板を回転させることで、前記基板の表面に前記プリウェット液を広げ」、「前記基板の表面に前記プリウェット液を広げた後」塗布を行い、「前記基板の表面に前記プリウェット液を広げるために前記プリウェット液を液体を滴下した後に前記基板を回転させ始めてから、前記塗布液を滴下するまでの時間が、1秒以上である」のに対し、引用発明においては、そのようなプリウェットを行っているのかどうか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

2-3 判断
上記相違点について検討する。
本願の明細書を参照すると、本願補正発明における「23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体」とは、「テルペン類」を意味し、「テルペン類の例としては、α-ピネン、β-ピネン、p-メンタン、d-リモネン、ジペンテン、1,8-シネオールなどが挙げられる。」(段落【0056】)と記載されている。
ところで、回転塗布方法において、基板の濡れ性を向上させるために、塗布液を滴下する前にプリウェット液を滴下する技術は、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、引用文献2記載の技術、平成26年12月17日付け拒絶理由通知において引用された特開2007-114715号公報(段落【0052】ないし【0059】等を参照。)のほか、特開2009-145395号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】及び段落【0004】ないし【0006】等の記載を参照。)及び特開2004-39828号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項13】及び段落【0002】ないし【0005】等の記載を参照。)等を参照。)である。
また、基板の表面にプリウェット液を広げるためにプリウェット液を液体を滴下した後に基板を回転させ始めてから、塗布液を滴下する技術も、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開2009-145395号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】、段落【0035】及び【0037】等の記載を参照。)及び特開2004-39828号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項13】、段落【0014】及び【0048】ないし【0052】等の記載を参照。)等を参照。)である。
そして、プリウェット液として、「テルペン類」又は「蒸気圧が低い液体」を用いる技術も、本願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、平成26年12月17日付け拒絶理由通知において引用された特開2007-114715号公報(段落【0035】及び【0052】ないし【0059】等を参照。)のほか、特開2009-145395号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】及び段落【0042】の「1,8シネオール」に関する記載等を参照。)及び特開2004-39828号公報(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項13】及び段落【0037】の「蒸気圧が、5.0mmHg以下のプリウェット剤」に関する記載等を参照。)等を参照。)である。
また、プリウェット液として、「テルペン類」又は「蒸気圧が低い液体」を用いる場合には、プリウェット液が急速に蒸発するおそれがないとの性質を利用して、プリウェット液の塗布むらを減らすために、プリウェット液を基板上に広げる回転状態を比較的長時間保持するようにすることは、当業者が容易に想到できることである。
そして、本願補正発明において「1秒」という数値には格別の臨界的意義が認められず、また、「1秒以上」という時間は、その上限が規定されておらず、格別なものであるとも認められない。
また、実験等により数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
してみれば、引用発明1において、周知技術1ないし3を適用して、プリウェット液として、「テルペン類」又は「蒸気圧が低い液体」を用い、その際に、基板の表面にプリウェット液を広げるためにプリウェット液を液体を滴下した後に基板を回転させ始めてから、塗布液を滴下するまでの時間を1秒以上として相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明並びに周知技術1ないし3から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、平成27年12月4日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成27年3月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項12に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)(ア)の【請求項12】のとおりのものである。

2 引用発明及び引用文献2記載の技術
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特許第4745358号公報)及び引用発明は、前記第2[理由]2-1 2-1-1に記載したとおりである。
また、本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2000-77310号公報)及び引用文献2記載の技術は、前記第2[理由]2-1 2-1-2に記載したとおりである。

3 対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「基板を第1の回転数で回転させながら、基板に塗布液を第1の滴下量だけ滴下することで、基板の端部よりも内側の位置まで塗布液を広げ、
塗布液を第1の滴下量だけ滴下した後、基板を第1の回転数よりも小さい第2の回転数で回転させながら、基板に塗布液を第2の滴下量だけ滴下することで、基板の端部または端部近傍まで塗布液を広げる、
ことを含む回転塗布方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点’〉
・本願発明においては「基板に、23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体をプリウェット液として滴下して、前記基板を回転させることで、前記基板の表面に前記プリウェット液を広げ」、「前記基板の表面に前記プリウェット液を広げた後」塗布を行い、「前記基板の表面に前記プリウェット液を広げるために前記基板を回転させ始めてから、前記塗布液を滴下するまでの時間が、1秒以上である」のに対し、引用発明においては、そのようなプリウェットを行っているのかどうか明らかでない点(以下、「相違点’」という。)。

〈相違点’についての判断〉
(1)判断1
回転塗布方法において、基板の濡れ性を向上させるために、塗布液を滴下する前にプリウェット液を滴下するにあたり、基板の表面にプリウェット液を広げるために基板を回転させ始めてから、塗布液を滴下することは、引用文献2に記載されている(上記第2[理由]2-1-2(3)の「引用文献2記載の技術」を参照。)。
また、その際に、プリウェットを行ってから、塗布液を塗布するまでの時間を1秒程度とすることも、引用文献2に記載されている(上記2-1-1(2)(ク)を参照。)。
そして、プリウェット液として、「23℃における蒸気圧が6hPa以下の液体」である「テルペン類」を用いる技術は、本願出願前の周知の技術(以下、「周知技術3’」という。例えば、平成26年12月17日付け拒絶理由通知において引用された特開2007-114715号公報(段落【0035】及び【0052】ないし【0059】等の記載を参照。)及び特開2008-203638号公報(段落【0036】等の記載を参照。)等を参照。)である。
また、プリウェット液として、「テルペン類」を用いる場合には、プリウェット液が急速に蒸発するおそれがないとの性質を利用して、プリウェット液の塗布むらを減らすために、プリウエット液を基板上に広げる回転状態を比較的長時間保持するようにすることは、当業者が容易に想到できることである。
そして、本願補正発明において「1秒」という数値には格別の臨界的意義が認められず、また、「1秒以上」という時間は、その上限が規定されておらず、引用文献2にも同程度の時間が記載されていることから、格別なものであるとも認められない。
また、実験等により数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、当業者にとって格別困難なこととは認められない。
してみれば、引用発明1において、引用文献2記載の技術及び周知技術3’を適用して、プリウェット液として、「テルペン類」を用い、その際に、基板の表面にプリウェット液を広げるために基板を回転させ始めてから、塗布液を滴下するまでの時間を1秒以上として相違点’に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)判断2
また、本願発明における「基板に、・・・液体をプリウェット液として滴下して、前記基板を回転させることで、前記基板の表面に前記プリウェット液を広げ」という事項が、プリウェット液を滴下後に基板を回転させるという意味であったとしても、前記第2[理由]2-2及び2-3に記載したとおり、本願補正発明は引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明の上位概念である本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載の技術並びに周知技術3’、又は、引用発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-04 
結審通知日 2016-07-08 
審決日 2016-07-21 
出願番号 特願2012-197503(P2012-197503)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05C)
P 1 8・ 575- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大谷 光司  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 梶本 直樹
金澤 俊郎
発明の名称 回転塗布方法  
代理人 大西 邦幸  
代理人 黒田 久美子  
代理人 高橋 拓也  
代理人 原 拓実  
代理人 石川 隆史  
代理人 渡邊 実  
代理人 野木 新治  

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