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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62B 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62B |
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管理番号 | 1319703 |
審判番号 | 不服2015-18543 |
総通号数 | 203 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-10-13 |
確定日 | 2016-10-11 |
事件の表示 | 特願2014- 98582「マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月 7日出願公開、特開2014-140774、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願(以下、「本願」という。)は、平成19年6月4日に出願した特願2007-148446号の一部を平成24年7月23日に新たな特許出願とした特願2012-162849号の一部を平成26年5月12日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月20日に手続補正書が提出され、平成26年4月6日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年7月6日付けで拒絶査定がされ、平成27年10月13日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年11月18日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出され、平成28年1月22日に上申書が提出され、平成28年5月31日付けで当審における拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年8月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成28年8月8日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、 前記マスク本体の両端部に設けられ、前記マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、 前記マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、 前記マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、 前記吸収性コアは、左右対称の形状を有する前記マスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置されるとともに前記マスク本体において前記空間と対向する領域にのみ配置され、 前記マスク本体は、少なくとも2枚のシート材を重ね合わせることで構成され、前記吸収性コアは、前記隣接する2枚のシート材の間に配置されており、 前記吸収性コアを挟む2枚のシート材は、上端の一部を除く周縁部が熱融着されており、前記上端の一部が熱融着されておらず前記2枚のシート材の間に前記吸収性コアを収納できる非融着部となり、前記吸収性コアを挟む2枚のシート材には、さらに、熱融着された前記周縁部の内側に、前記吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている、マスク。 【請求項2】 前記マスク本体は、左右均等に折りたたんだ際に折り目となる前記縦中央線を有しており、 前記縦中央線は、前記マスク本体を折りたたんだときに、少なくとも一部が平面視で円弧状に形成されている、請求項1に記載のマスク。 【請求項3】 前記マスク本体は、前記縦中央線を挟む一対のマスク片から構成され、 前記吸収性コアは、前記各マスク片にそれぞれ装着されている、請求項1または2に記載のマスク。 【請求項4】 前記吸収性コアは、目付が、200?1000g/m2の繊維素材を有している、請求項1から3のいずれかに記載のマスク。 【請求項5】 前記繊維素材は、パルプを含有している、請求項4に記載のマスク。 【請求項6】 前記吸収性コアは、前記繊維素材を挟む一対の不織布シートをさらに備えている、請求項4または5に記載のマスク。 【請求項7】 前記一対の不織布シートのうち、一方の不織布シートが疎水性を有し、他方の不織布シートが親水性を有している、請求項6に記載のマスク。 【請求項8】 前記吸収性コアには、1.3?30gの保水液が含浸されている、請求項4から7のいずれかに記載のマスク。 【請求項9】 前記保水液は、水に、ポリオールが10?50重量%配合されてなる、請求項8に記載のマスク。 【請求項10】 前記空間の体積a(cm3)と、前記吸収性コアに保水液として含浸される水の質量b(g)との関係が、0.8/70 × a + 1.2 ≦ bを満たす、請求項1から9のいずれかに記載のマスク。 【請求項11】 前記マスク本体の通気度が、5?150cm3/cm2・secである、請求項1から10のいずれかに記載のマスク。」 第3 原査定の理由について 1.原査定の理由の概要 (1)平成27年4月6日付け拒絶理由の概要 「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2006-187508号公報 引用文献2:特開2007-21029号公報 引用文献3:特開平05-261163号公報 引用文献4:特開2006-325688号公報(周知技術を示す文献) 引用文献5:特開2001-179019号公報(周知技術を示す文献) ・請求項 1,4 ・引用文献等 1-2 ・備考 引用文献1の段落【0034】-【0035】、【0039】、図1-4等参照。 引用文献1には、マスク本体に、保水液が含浸される吸収性コア(液含浸シート5)が装着される点が記載されている。 引用文献2(段落【0023】-【0025】、【0045】-【0049】)には、湿度調整機能等を有する機能層である中間層2Cが、左右対称の形状を有するマスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置されるとともに前記マスク本体において、顔への装着時に口及び鼻孔との間に形成される空間と対向する領域にのみ配置される点が記載されている。 そして、引用文献1に記載された発明の機能層であるとともに中間層でもある吸収性コアを、引用文献2に記載された発明のように配置することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 ・請求項 2 ・引用文献等 1-2 ・備考 縦中央線が、マスク本体を折りたたんだときに、少なくとも一部が平面視で円弧状に形成されている点は、引用文献1(図3参照)又は引用文献2(段落【0023】-【0025】、図1-2等参照)に記載されている。 ・請求項 3 ・引用文献等 1-2 ・備考 マスク本体が、縦中央線を挟む一対のマスク片(左側部分2L及び右側部分2R)から構成される点は、引用文献2(段落【0023】、図1等参照)に記載されている。 また、引用文献1に記載された発明の吸水性コアを、引用文献2に記載された発明に照らして左右の領域に配置し、引用文献1に記載された発明のマスク本体を引用文献2に記載された発明に照らして一対のマスク片から構成する際、引用文献1に記載された発明の吸水性コアを、各マスク片にそれぞれ装着することは、適宜なし得ることである。 ・請求項 5 ・引用文献等 1-2 ・備考 引用文献2(段落【0045】-【0049】、図9-10等参照)には、機能層を挟む2枚のシート(外層2A及び内層2B)が、複数の接着部(接合手段による接着部)において接着されており、前記接着部が、前記機能層の周縁の少なくとも一部を囲むように構成されている点が示されている。 ・請求項 6、8、11、13-14 ・引用文献等 1-2 ・備考 請求項1ないし5を引用する部分についての判断は、上記請求項1ないし5についての記載と同じである。繊維素材から形成されるフィルタ部材を製造する場合に、エアレイド法を用いることは例示するまでもなく従来から周知の事項であり、この周知技術を、繊維素材から形成されるフィルタ部材である引用文献1の液含浸シート5(吸収性コア)に適用することは容易になし得るし、引用文献1の液含浸シート5(吸収性コア)の目付、保水液、水の質量の割合、及びマスク本体の通気度は、いずれも適宜設定し得るものにすぎない。 ・請求項 7、12 ・引用文献等 1-3 ・備考 請求項6又は11を引用する部分についての判断は、上記請求項6及び11についての記載と同じである。引用文献3に示される、吸水性ポリマー22(吸収性コアに相当)の繊維素材にパルプを含有させる技術、及び保水液にポリオールを配合する技術(段落【0014】、【0015】の記載、【図2】等参照)を、引用文献1のものに適用することは容易になし得る。 ・請求項 9、10 ・引用文献等 1-5 ・備考 請求項6ないし8を引用する部分についての判断は、上記請求項6ないし8についての記載と同じである。疎水性の不織布シートと親水性の不織布シートとで繊維素材を挟むことでフィルタ部材(コアに相当)を構成する技術は、周知の技術であり(例えば、引用文献4の段落【0077】の記載、【図3】等や引用文献5の段落【0010】の記載、【図3】等参照)、この周知技術を、フィルタ部材である引用文献1の液含浸シート5(吸収性コア)に適用することは容易になし得る。」 (2)平成27年7月6日付け拒絶査定の内容 「この出願については、平成27年 4月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。 なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 ●特許法第29条第2項について ・請求項 1-4,6,9,11-12 ・引用文献等 1-2 ・備考 引用文献1及び2の記載事項については、平成27年4月6日付け拒絶理由通知書の理由の備考欄参照。 引用文献1の[0035]には、「2枚の不織布を重ね合わせて、その下端縁及び両側縁を接着又は融着して情報に開口したポケットPを設け」る点が記載されているから、当該ポケットPを形成するための2枚の不織布を重ね合わせた接合部は、接着又は融着によるものであると認められる。 そうすると、引用文献1には、吸収性コアを挟む2枚のシート材が、周縁部に、熱融着された部分(両側縁及び下端縁)と、熱融着されていない非融着部(上端縁)とが形成される点は記載されているものの、接着部が吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように前記吸収性コアを挟む2枚のシート材に形成されている点、すなわち、下端縁の接合部(吸収性コアの下端部に沿っていることは自明)が接着部である点は記載されていない。 しかしながら、当該下端縁の接合部を、接着又は融着という二者択一から接着選択することで、接着部とすることは、単なる設計的事項に過ぎない。 なお、請求項1には、「シート材は、周縁部に、・・・熱融着されておらず前記2枚のシート材の間に前記吸収性コアを収納できる非融着部とが形成される」と記載されており、当該記載は、吸収性コアを収納できる非融着部が周縁部に形成されると解釈できる。しかしながら、発明の詳細な説明をみても、吸収性コアを収納できる非融着部は、シート材の略中央部に形成されているとはいえるものの、周縁部に形成されているとはいえない。よって、上記記載を含む請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。 ・請求項 5,10 ・引用文献等 1-3 ・備考 平成27年4月6日付け拒絶理由通知書の理由の備考欄参照。 ・請求項 7-8 ・引用文献等 1-5 ・備考 平成27年4月6日付け拒絶理由通知書の理由の備考欄参照。 <引用文献等一覧> 1.特開2006-187508号公報 2.特開2007-21029号公報 3.特開平05-261163号公報 4.特開2006-325688号公報 5.特開2001-179019号公報」 2.原査定の理由についての判断 2.-1 引用文献 (1)引用文献1(特開2006-187508号公報) (1-1)引用文献1の記載事項 引用文献1には、以下の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、マスクに関し、更に詳しくは、花粉、空気中に浮遊する粉塵、結核菌等の細菌類、インフルエンザウイルス、サーズウイルス等のウイルス類等の病原菌、ホルマリン、シンナー、アンモニウム、タバコの臭い等の悪臭成分その他の汚染物質、有害物質の吸入を効果的に防止でき、また湿気吸入による喘息等の呼吸器系疾病患者の症状緩和作用等を有し、花粉症の発症予防、防塵、防臭、病気の感染の予防、更には呼吸器系疾病患者の症状緩和等にも有効なマスクに関する。」(段落【0001】) (イ)「【0008】 本発明は、上記のような従来のマスクの問題点に鑑み、空気中に浮遊する花粉、粉塵、細菌、ウイルス等の病原菌等、更には悪臭成分等の極めて微細な有害物質や汚染物質の吸入を効果的に防止でき、風邪や花粉症等の予防、更には防臭に優れた効果を発揮しうるマスクであって、しかも着用者に不快感を与えることのないマスクを提供することを目的とするものである。」(段落【0008】) (ウ)「【0009】 本発明のマスクは、少なくとも口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部と、前記覆い部の両側に設けられた耳掛け部とを備え、前記覆い部の内面側が非吸湿性の織布又は不織布で覆われているとともに、前記覆い部に、吸湿性の布又は不織布に不揮発性又は沸点が120℃以上の液体を含浸させた液含浸シートが挟まれていることを特徴とする。 【0010】 また、本発明のマスクの他の形態としては、少なくとも口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部と、前記覆い部の両側に設けられた耳掛け部とを備え、前記覆い部が、非吸湿性の不織布が少なくとも二重に重ねられており、前記非吸湿性不織布の間に、吸湿性の布又は不織布に不揮発性又は沸点が120℃以上の液体を含浸させた液含浸シートが挟まれているものである。 【0011】 前記覆い部は、口及び鼻孔に密着しないような立体形状に形成されていることが好ましい。 【0012】 前記覆い部に、上方又は側方に開口するポケットを設けておき、該ポケット内に前記液含浸シートを収容することが好ましい。 【0013】 前記覆い部の内面側、即ち、着用者の口や鼻に当たる側は、好ましくは、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる不織布で覆われているか、覆い部自体が前記不織布によって構成されていることが好ましい。 【0014】 前記液含浸シートは、吸湿性の不織布から構成することができ、コットン、レーヨン又はそれらと熱可塑性合成繊維との混紡物からなる不織布が好適に使用される。 【0015】 前記液含浸シートに含浸された液体は、不揮発性又は沸点が120℃以上の液体であり、例えば、グリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールであることが好ましい。 【0016】 前記液含浸シートに含浸された液体が、脱臭、殺菌、抗菌及び抗ウイルスの少なくとも1種の作用を有する化合物又はそれらの複合作用を有する化合物を含んでいると、より好ましい。」(段落【0009】ないし【0016】) (エ)「【0020】 本発明に係るマスクによれば、空気中に浮遊している有害物質や悪臭成分等が、覆い部を構成する、通気性を有する不織布の目より微細であっても、覆い部を通過する際に、該覆い部に挟まれた液含浸シートに含浸された液体に吸着されることで、鼻孔や口から前記有害物質等が吸入されることを防止することができる。従って、このマスクを着用することで、空気中に浮遊する粉塵、細菌、ウイルス等の病原菌、花粉等の有害物質や汚染物質、更には悪臭成分等を吸気とともに吸入することを効果的に防止でき、風邪等の病気や花粉症等の予防、悪臭予防に効果がある。また、前記と反対に、着用者の口臭成分や、着用者が保有する病原菌等が、呼気とともにはき出されて周囲に拡散されることも防止でき、口臭予防や病原菌の拡散防止の効果もある。更に、液含浸シートにより保湿性が向上して、着用者の咽喉の乾燥を防き、喘息等の気管支系の疾患の症状を軽減することもできる。従って、外出時に限らず、室内においても、例えば就寝時にこのマスクを着用しておくことで、部屋の空気の汚れや口臭を気にすることなく、爽やかな気分で安眠することができる。 【0021】 また、本発明のマスクは、覆い部の内面側が非吸湿性の織布又は不織布で覆われているか、覆い部自体が非吸湿性の不織布などにて作成されていることから、該覆い部に挟んだ液含浸シートに含浸された液体が覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元等を濡らして不快感を与えるといったこともない。 【0022】 更に、前記液体は、非揮発性又はその沸点が120℃以上で低揮発性の液体であるので、呼吸時にマスク本体を通過する空気によっても揮散され難く、前記のような有害物質や汚染物質、悪臭成分等の吸着効果が長時間にわたって維持される。なお、前記液含浸シートに含浸されている液体は、マスク使用時に液体である必要があり、例えば極寒環境下で使用する場合には、前記液体として、そのような極寒環境下でも凍結せずに液体状態を維持可能な融点を有しているものを用いる必要がある。 【0023】 更に、本発明に係るマスクは、内面側に非吸湿性の織布又は不織布を重ねるか、あるいは非吸湿性の不織布からなる覆い部に、液含浸シートを挟んだだけの簡単構造であり、マスクの素材として特に高機能で高価なものを用いる必要もなく、前記のような高機能なマスクを比較的廉価に製造することができる。 【0024】 また、前記覆い部を、口及び鼻孔に密着しないような立体形状に形成すれば、装着感が向上するとともに、液含浸シートの重みによってマスクが顔からずり落ちることを確実に防止することができる。 【0025】 前記覆い部が、上方又は側方に開口するポケットが設けられており、該ポケット内に前記液含浸シートが収容されているマスクは、覆い部への液含浸シートの装着が容易であるだけでなく、液含浸シートを覆い部へ着脱したり、液含浸シートを交換して、マスクを繰り返し使用することも可能である。 【0026】 前記覆い部の内面側に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びナイロン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる不織布を重ねる、あるいは覆い部を前記不織布で構成することで、覆い部に挟まれた液含浸シートに含浸された液体が覆い部の内面側に位置する非吸湿性の不織布に移行することがなく、前記液体が覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元の周辺を濡らして不快感を与えることを確実に防止することができる。 【0027】 前記液含浸シートが、吸湿性の不織布、とりわけコットン、レーヨン又はそれらと熱可塑性合成繊維との混紡物からなる不織布から構成されていると、液体を液含浸シートに容易に含浸させることができると同時に、含浸された液体が液含浸シートに確実に保持されて、覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元周辺等を濡らすおそれがない。 【0028】 前記液体として、グリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールからなる群から選択される少なくとも1種の多価アルコールを使用した場合には、これら多価アルコールは、経時的な蒸発減量が無いか極めて少なく、逆に空気中から水分を吸収し、増量する性質を有することから、マスクの保湿性が向上する。また、これらの多価アルコールは、毒性が非常に低く、着用者に無害であり、かつ無臭であることから装着感を損なうこともない。 【0029】 含浸液としては、前記多価アルコールを単独で、また2種以上を混合して使用してもよいし、更に、前記多価アルコールと水とを混合して使用してもよい。 【0030】 前記含浸液に、脱臭、殺菌、抗菌及び抗ウイルスの少なくとも1種の作用を有する化合物を含有させておくことで、液体による脱臭効果が向上し、また吸着された細菌やウイルス等が前記化合物により無害化され、細菌やウイルス等に起因する病気の感染をより確実に防止することができる。 (中略) 【0033】 更に、前記含窒素型ノニオン界面活性剤とパラオキシ安息香酸エステルとを併用することにより、脱臭効果、殺菌効果、防黴効果、更には悪臭防止効果といった、両者の有する効果を同時に発揮させることができる。」(段落【0020】ないし【0033】) (オ)「【0034】 図1は、本発明に係るマスクの一実施の形態を示す斜視図、図2は同じく平面図、図3は同じく縦断面図である。このマスク1は、口及び鼻孔を覆うことが可能な形状及び寸法に作成された通気性を有する覆い部2と、覆い部2の両側に設けられた一対の耳掛け部3,3、従来の一般的なマスクと同様の基本構成を有する。覆い部2は、図1、3に示すように、口m及び鼻孔nに密着しないような立体形状に形成されている。なお、覆い部2の形状は、図例のものに限定されるものではなく、種々の立体形状に形成することができる。更に、覆い部2は、必ずしも立体形状でなくてもよく、例えば図4に示すように、覆い部2Aが平面形状であってもよい。また、図1?3に示すマスク1では、覆い部2の両側に、耳を掛ける孔4を有する耳掛け部3,3が一体に形成されているが、図4に示すマスク1Aのように、覆い部2Aの両側に、ゴム紐等の伸縮性を有する材料からなる耳掛け部3A,3Aを設けたものでもよい。 【0035】 覆い部2は、非吸湿性の不織布W,Wが重ねられ、上方に開口するポケットPが設けられており、ポケットP内に液含浸シート5が収容されている。図例のマスク1、1Aでは、覆い部2、2Aは、1枚の不織布が折り畳まれた状態で、その両側縁が接着又は融着され、上方に開口したポケットPが形成されているが、2枚の不織布を重ね合わせて、その下端縁及び両側縁を接着又は融着して上方に開口したポケットPを設けてもよく、内部に液含浸シート5を挟むことが出来る構造であればよい。また、図例のマスク1、1Aでは、覆い部2、2Aは不織布を二重にして、間に液含浸シート5を挟んで構成されているが、覆い部2、2Aの内面側、又は外面側が2枚以上の不織布を重ねた構造であってもよい。更に、ポケットPは覆い部2の側方に開口していてもよく、その場合、両側に開口していてもよい。 【0036】 覆い部2は、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂又はナイロン系樹脂等の熱可塑性樹脂製で非吸湿性の不織布から作成されている。前記ポリエステル系不織布としては、例えば、東洋紡株式会社製の商品名「ボンデン」が挙げられる。また、前記ポリオレフィン系不織布としては、例えば、出光ユニテック株式会社製のポリプロピレン製スパンボンド不織布である商品名「ストラテックス」、例えば「ストラテックスRW2070」や、芯部がポリエステル、鞘部がポリエチレンの芯鞘二重構造繊維からなるオレフィン系スパンボンド不織布、例えばユニチカ株式会社製の商品名「エルベス」等が挙げられる。更に、ナイロン系不織布としては、ユニチカ株式会社製のナイロン系スパンボンド不織布である商品名「ナイエース」が挙げられる。 【0037】 液含浸シート5は、覆い部2のポケットPに収容できる大きさで、かつ好ましくは口m及び鼻孔nの両方を覆うことができる大きさである。液含浸シート5は、吸湿性の不織布からなり、コットン、レーヨン及びそれらと熱可塑性合成繊維との混紡物からなる不織布等からなる。前記コットン系不織布としては、例えば、ユニチカ株式会社製コットン不織布である商品名「コットエース」、例えば「コットエースC110S/26」(コットン100%)が挙げられる。また前記レーヨン系不織布やレーヨンとポリエステルとの混紡物からなる不織布としては、例えば、金井重要工業株式会社製、商品名「トラベロン」が挙げられる。 【0038】 液含浸シート5に含浸されている液体は、不揮発性又は沸点が120℃以上の液体である。このような液体は、マスク着用時の呼吸により短時間で揮散してしまうことがなく、10時間以上もの長時間にわたって有害物質や汚染物質の吸入防止効果、脱臭効果等が持 続する。また、含浸液は、吸着層を通過する吸気により多少は揮散して吸気とともに吸入されることもあるので、刺激性のない無臭な液体で、かつ低毒性の液体を用いることが好ましい。更に、製造のし易さからは、常温で前記吸湿性不織布に容易に含浸させることができる粘度を有する液体であることが好ましい。更に、極寒環境用途にあっては、使用時に凍結せずに液体状態を維持可能な融点を有しているものを用いる必要がある。 【0039】 前記含浸液としては、例えばグリセリン、ポリエリレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等の多価アルコールが好適に使用される。グリセリンは、透明で、糖蜜状態であり、沸点290℃の不揮発性液体であり、特に強湿性であり、保湿性に優れる。ポリエチレングリコールは、不揮発性液体で、吸湿性を有する。ポリプロピレングリコールは、不揮発性液体で、一般に保湿剤として多用されている。1,3-ブタンジオールは、沸点207℃、吸湿性の、経時400時間で25%吸湿する。1,4-ブタンジオールは、沸点228℃で、水と任意の割合で混合する。また、1,5-ペンタンジオールは、沸点238℃で、水と任意の割合で混合する。これらの多価アルコール類は、経時で蒸発減量することがなく、逆に経時により空気中から水分を吸収し、増量する性質を有し、マスクの保湿効果を向上させる。また、これら多価アルコールは毒性が低く、着用者に害を与えるおそれがなく、また無臭であることから、液含浸シートに含浸させる液体として好適である。これらの多価アルコールは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。更には、水と混合して、適宜粘度や沸点を調整して使用することも好ましい実施の形態である。」(段落【0034】ないし【0039】) (オ)「【0049】 また、マスク1は、不織布からなる覆い部2のポケットPに液含浸シート5を収容するだけで簡単に製造することができ、高機能な素材を用いたり、複雑な構造で高価なものを用いる必要がなく、高機能マスクを比較的廉価に製造することができる。更に、覆い部2に設けたポケットPに液体含浸させた液含浸シート5を収容したマスク1は、液含浸シート5の着脱や交換も簡単であり、また、異なる液体を含浸したり、異なる化合物を含む液体を含浸した種々の液含浸シート5を用意しておけば、目的に応じた多様な機能を有する他品種のマスクを簡単に製造することができる。 【0050】 なお、図例のマスク1及び1Aでは、二重の不織布W、Wからなる覆い部2に設けたポケットPに、液体を含浸した液含浸シート5を収容しているが、これに限定されるものではなく、覆い部2を構成する複数枚の不織布Wの間に液含浸シート5を挟んで、接着、溶着又は縫合してもよい。」(段落【0049】及び【0050】) (1-2)引用発明 上記(1-1)から、引用文献1には、 「通気性を有し、口及び鼻孔を覆う覆い部2と、 覆い部2の両端部に設けられ、前記覆い部2を顔に保持するための一対の耳掛け部3と、 覆い部2に装着され、含浸液が含浸される液含浸シート5と、を備え、 覆い部2は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、 液含浸シート5は、左右対称の形状を有するマスク本体において空間と対向する領域に配置され、 前記覆い部2は、少なくとも2枚の不織布W,Wを重ね合わせることで構成され、前記液含浸シート5は、前記隣接する2枚の不織布W,Wの間に配置されており、 前記液含浸シート5を挟む2枚の不織布W,Wは、上端の一部を除く周縁部が融着されており、前記上端の一部が融着されておらず前記2枚の不織布W,Wの間に前記液含浸シート5を収納できるポケットPとなる、 マスク。」 という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (2)引用文献2(特開2007-21029号公報) (2-1)引用文献2の記載事項 引用文献2には、以下の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、口許や鼻孔等の顔面の対象部位を覆うマスクに関するものである。」(段落【0001】) (イ)「【0006】 そこで、本発明の主たる課題は、不織布等のシート状素材を用いた部分における伸縮性を向上することにある。」(段落【0006】) (ウ)「【0023】 以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら詳説する。 (第一の形状例) 図1は、ポケット型のマスク1を示している。このマスク1は、口許及び鼻腔を覆う本体部2と、この本体部2を身体に係止するための係止部3とを備えている。本体部2は、幅方向中央線に関して対称をなす左側部分2L及び右側部分2Rからなり、両部分2L,2Rは平坦な素材からなり、かつ幅方向中央側の縁部4で接合されている。また、この接合部分4は、上下両側よりも中間部が外側に膨出する湾曲状をなしている。 【0024】 一方、係止部3は、耳に掛けるための開口5を有する環状の平坦部材であり、本体部2の左右両側縁2e,2eに接合されている。 【0025】 本体部2及び係止部3は、左側部分2Lと右側部分2Rとを重ね合わせた非使用状態では平坦になる。これに対して、本体部2は、左側部分2Lと右側部分2Rとの間を広げた使用状態(図示状態)ではカップ状になる。この状態で着用者の口許や鼻腔を覆うようにあてがうと、口許や鼻腔のまわりに空間を残して被覆することができる。」(段落【0023】ないし【0025】) (エ)「【0045】 (層構造) 本体部2や係止部3は、一層構造であっても良いが、複数の層からなる構造とするのが好ましい。例えば、図2に示すように、外層2A及び内層2Bを有する2層構造としたり、図9に示すように、外層2A、内層2Bおよびこれらの間に介在された中間層2Cを有する三層構造としたりすることができる。さらに、図2に示すように、外層2Aにより、本体部2と係止部3とを単一の部材として一体的に形成し、その本体部相当部分の内面に、内層2Bを積層することにより、本体部2を二層構造とすることもできる(図示しないが、内層により本体部2と係止部3とを一体的に形成し、その本体部相当部分の外面に、外層を積層することもできる)。また、このような複数の層からなる層構造は、係止部3においても採用することができる。 【0046】 複数層とする場合、層相互は、全部または一部(上下端部、左右両端部、四隅部、散点状等)を他の隣接層や隣接部材に接合固定することも、また、そのような固定なしに、ある層を他の層間に挟む等により保持させることもできる。要は、層の脱落や剥離無に使用できれば良い。 【0047】 また、複数層とする場合、少なくとも一層、例えば図2に示すような二層構造における内層2B、あるいは図9や図10に示すような三層構造における中間層2Cが、塵埃等の濾過機能、芳香機能、ウイルス・アレルゲン不活化機能、抗菌機能、形状保持機能、通気性向上機能、湿度調整機能、懐炉機能等の少なくとも一つの機能を有する機能層であるのが好ましい。 【0048】 さらに、複数層とする場合、少なくとも一層を他の層に対して着脱自在に取り付けるのも好ましい形態である。このように着脱自在の層を設ける場合、その層は前述の機能層とすることができる。 【0049】 例えば、図9に示すように、三層構造における中間層2Cを、本体部2の端縁(あるいは外層2Aもしくは内層2Bに設けた開口でも良い)の隙間を介して出し入れ自在とすることができる。図10に示す例では、両係止部3の頬に相当する部分における中間層2Cを出し入れ自在としている。この例では、出し入れする中間層2Cが懐炉であるのが好ましい。また、図示しないが、二層構造の場合、粘着材やメカニカルファスナー等の剥離及び際接着可能な接合手段を用い、一方の層を他方の層の外面に着脱自在に張り付けることもできる。着脱自在とする層の数は特に限定されるものではなく、一層でもまた複数層でも良い。 【0050】 なお、これらの例からも理解できるように、これらの層構造における層は、シート状素材S自体のみならず、シート状素材Sを複数積層したものや、懐炉のような物品も含む意である。 【0051】 (サイズ) 本体部2のサイズは適宜定めることができ、特に限定されるものではないが、例えば、ポケット型の場合で縦90?150mm、横100?350mmとすることができ、また平坦型の場合、縦60?110mm、横80?180mmとすることができる。 【0052】 (その他) 部材相互や層相互(シート状素材相互も含む)の接合は、ヒートシールやホットメルト接着、超音波溶着、粘着(剥離再接着可能又は不可能)、メカニカルファスナー等、公知の接合手段により行うことができる。」(段落【0045】ないし【0052】) (2-2)引用文献2記載の技術 上記(2-1)及び図1ないし11から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「マスクにおいて、中間層2Cは、左右対称の形状を有する前記マスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置される技術。」 (3)引用文献3(特開平5-261163号公報) (3-1)引用文献3の記載事項 引用文献3には、以下の記載がある。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、マスクに関し、さらに詳細には無塵性のマスクに関する。」(段落【0001】) (イ)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】上記の木綿製ガーゼのマスクでは、ガーゼの織糸が綿の短繊維を紡績して得た糸であるため、短繊維が抜けて塵が出やすいという問題があった。この塵に関しては、近年の半導体工学、精密機械加工などの作業の場においてマスクが用いられる場合に、非常に重要な問題である。このような作業は、無塵室で行われ、ごく僅かな塵や埃も許されないからである。 【0004】また、このようなマスクは、比較的大きな粒子は捕らえることができても、花粉、細菌、ウイルスなどの微粒子の捕集は難しいという問題もある。本発明は、前記従来技術の課題を背景になされたもので、特定の不織布を用いることにより、塵、埃が出ず、さらに吸水ポリマーを介在させることにより、微粒子を捕集することのできるマスクを提供することを目的とする。」(段落【0003】及び【0004】) (ウ)「【0013】次に、本発明のマスクは、吸水性ポリマーを介在させることによって、防塵性を増大させることができる。すなわち、一対の前記不織布からなる基材の間に吸水性ポリマーを挟んでおく。このようにすると、吸水性ポリマーが吸気中の水分を吸収して膨潤するので、これにより防塵効果が大きくなるのである。吸水性ポリマーとしては、一般的に用いられる吸水性ポリマーであればどのようなものでもよいが、その形態は、マスクに用いられることから通気性のある形態でなければならない。従って、粉末状、ビーズ状の吸水性ポリマーを接着剤によって基布に付着させた形で介在させることは、通気性のうえから好ましくない。 【0014】好ましい形態としては、繊維状の吸水性ポリマーあるいは吸水性ポリマーを繊維や糸に担持したものを用い、これを不織布、織編物、ウエブのような通気性のある形態に成形したもの、不織布、織編物、ウエブ、抄紙シート、スポンジ状のもののような通気性のある形態の基体に吸水ポリマーを担持させたものなどが挙げられる。繊維状の吸水ポリマーとしては、内芯にアクリロニトリル重合体などのアクリル繊維を用い、外側にアクリル酸塩系(共)重合体を用いた二重構造の繊維、またはこれらにレーヨンなどの高吸水性繊維を混合したものなどが挙げられる。 【0015】また、吸水性ポリマーを通気性のある基体に担持させたものは、基体の素材にレーヨン、木材パルプ、木綿、ポリエステル、セルロースなどの吸水性のものを用い、この基体にアクリル酸および/またはアクリル酸塩水溶液を含浸あるいは噴霧するなどしたのち、重合させることにより得られる。アクリル酸および/またはアクリル酸塩水溶液には、必要に応じて多官能性エチレン性不飽和モノマー、ポリグリシジルエーテル、ポリオール、ポリアミンなどの架橋剤や添加剤を加えることもできる。」(段落【0013】ないし【0015】) (3-2)引用文献3記載の技術 上記(3-1)並びに図1及び2から、引用文献3には次の技術(以下、「引用文献3記載の技術1」という。)が記載されているといえる。 「マスクにおいて、吸水性ポリマーを担持させる基体の素材にパルプを用いる技術。」 また、上記(3-1)並びに図1及び2から、引用文献3には次の技術(以下、「引用文献3記載の技術2」という。)が記載されているといえる。 「マスクにおいて、吸水性ポリマーを担持させる基体にポリオールを添加する技術。」 (4)引用文献4(特開2006-325688号公報) (4-1)引用文献4の記載事項 引用文献4には、以下の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、マスクに関するものである。」(段落【0001】) (イ)「【0005】 本発明の目的は、息や汗等の湿気を吸いとってマスク内部の濡れやべとつきを防止し、長時間の使用でも快適さを損なわないマスクを提供することにある。」(段落【0005】) (ウ)「【0076】 第2実施形態では、前記第1実施形態の疎水性のシート材に代えて、顔面側に疎水性を有し、顔面と反対側に親水性を有する部分11bを備えたシート材11aを用いたこと以外は、前記第1実施形態と同様である。 【0077】 すなわち、シート材11aは、疎水性のシート材の顔面と反対側の面に親水性を付与する処理を施して、親水性を有する部分11bを形成してなるものである。そして、図3に示すように、親水性を有する部分11bと親水性を有するシート材21とを接触させるように貼り合わせることにより、マスク本体40を得ることができる。」(段落【0076】及び【0077】) (4-2)引用文献4記載の技術 上記(4-1)及び図1ないし6から、引用文献4には次の技術(以下、「引用文献4記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「疎水性のシート材と親水性のシート材とを貼り合わせてマスク本体を得る技術。」 (5)引用文献5(特開2001-179019号公報) (5-1)引用文献5の記載事項 引用文献5には、以下の記載がある。 (ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、花粉やハウスダスト等を取り除き、アレルギー症状を軽減させるためのフィルターに関する。」(段落【0001】) (イ)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】以上述べてきたように、従来品は花粉やダストの捕捉効果が十分でなく、あるいは通気性が良くないため、効果の実感や使用感が低いものであった。従って、本発明の目的は、花粉やダストの捕捉効果が高く、花粉症予防剤等の薬剤を含浸させても通気性が良好で、効果の実感及び使用感に優れた不織布フィルターを提供することにある。」(段落【0007】) (ウ)「【0010】 【発明の実施の形態】本発明の不織布フィルターは、例えば、疎水性不織布の片面に親水性繊維または疎水性繊維を配した構造、疎水性不織布の両面に親水性繊維または疎水性繊維を配した構造、疎水性不織布の片面に親水性繊維(または疎水性繊維)を配し、他の面に疎水性繊維(または親水性繊維)を配した構造、疎水性不織布の片面または両面に親水性繊維と疎水性繊維の混合繊維を配した構造、あるいは、上記の構造で、片面を親水性繊維と疎水性繊維の混合繊維とした構造等とすることができる。」(段落【0010】) (5-2)引用文献5記載の技術 上記(5-1)から、引用文献5には次の技術(以下、「引用文献5記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「疎水性不織布の片面に親水性繊維を配した構造の不織布フィルターの技術。」 2.-2 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「覆い部2」は、その技術的意義からみて、本願発明1における「マスク本体」に相当し、以下同様に、「耳掛け部3」は「耳掛け部」に、「含浸液」は「保水液」に、「液含浸シート5」は「吸収性コア」に、「不織布W,W」は「シート材」に、「融着」は「熱融着」に、「ポケットP」は「非融着部」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「液含浸シート5は、左右対称の形状を有するマスク本体において空間と対向する領域に配置され」は、「吸収性コアは、左右対称の形状を有するマスク本体において空間と対向する領域に配置され」という限りにおいて、本願発明1における「吸収性コアは、左右対称の形状を有するマスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置されるとともにマスク本体において空間と対向する領域にのみ配置され」に相当する。 したがって、両者は、 「通気性を有し、口及び鼻孔を覆うマスク本体と、 マスク本体の両端部に設けられ、マスク本体を顔に保持するための一対の耳掛け部と、 マスク本体に装着され、保水液が含浸される吸収性コアと、を備え、 マスク本体は、顔への装着時に口及び鼻孔との間に空間を形成するように構成され、 吸収性コアは、左右対称の形状を有する前記マスク本体において空間と対向する領域に配置され、 マスク本体は、少なくとも2枚のシート材を重ね合わせることで構成され、吸収性コアは、隣接する2枚のシート材の間に配置されており、 吸収性コアを挟む2枚のシート材は、上端の一部を除く周縁部が熱融着されており、上端の一部が熱融着されておらず2枚のシート材の間に吸収性コアを収納できる非融着部となる、マスク。」 で一致し、以下の点で相違する。 <相違点> (1)「吸収性コアは、左右対称の形状を有するマスク本体において空間と対向する領域に配置され」に関して、本願発明1においては、「吸収性コアは、左右対称の形状を有する前記マスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置されるとともにマスク本体において空間と対向する領域にのみ配置され」ているのに対し、引用発明においては、本願発明1における「吸収性コア」に相当する「液含浸シート5」が、そのように配置されていない点(以下、「相違点1」という。)。 (2)本願発明1においては、「吸収性コアを挟む2枚のシート材には、さらに、熱融着された周縁部の内側に、吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている」のに対し、引用発明においては、そのような接着部が形成されていない点(以下、「相違点2」という。)。 2.-3 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用発明のマスクは「覆い部の内面側が非吸湿性の織布又は不織布で覆われているか、覆い部自体が非吸湿性の不織布などにて作成されていること」(段落【0021】)という構成を有し、それにより「該覆い部に挟んだ液含浸シートに含浸された液体が覆い部から滲みだして着用者の鼻や口元等を濡らして不快感を与えるといったこともない。」(段落【0021】)という作用効果を有するものである。したがって、本願発明1のように、「吸収性コアは、・・・マスク本体において空間と対向する領域にのみ配置され」る必要はない。現に、引用文献1の図3を参照しても、マスク着用者の鼻の位置にまで液含浸シート5が設けられている。 また、引用文献2には、「マスクにおいて、中間層2Cは、左右対称の形状を有するマスク本体の縦中央線を挟む左右の領域にそれぞれ配置される技術。」(引用文献2記載の技術)は記載されているものの、「吸収性コアは、・・・マスク本体において空間と対向する領域にのみ配置され」る技術は記載されていない。 また、引用文献3ないし5を参照しても、「吸収性コアは、・・・マスク本体において空間と対向する領域にのみ配置され」る技術は記載されていない。 してみれば、引用発明及び引用文献2ないし5記載の技術に基づいて、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたものとすることはできない。 (2)相違点2について 本願発明1は、「吸収性コアを挟む2枚のシート材には、さらに、熱融着された周縁部の内側に、吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている」ものであり、図面(図1及び2)にも、吸収性コア3の下端部に沿うように接着部124が形成されている様子が示されている。そして、本願発明1は、上記発明特定事項を有することにより、本願明細書に記載された次のような作用効果を奏することができる。 「このとき、吸収性コアがマスク本体内で移動しないようにすることが必要であり、そのために、例えば、2枚のシートの一部を接着し、この接着部が吸収性コアの周縁の少なくとも一部を囲むように構成することができる。例えば、接着部を線状に形成することができる。こうすることで、吸収性コアが接着部に囲まれるため、マスク本体内の所定の位置に保持することができる。」(段落【0025】) これに対し、引用発明は、「熱融着された周縁部の内側に、吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている」ものではなく、引用文献2ないし5にも、「熱融着された周縁部の内側に、吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている」ことは記載も示唆もされていない。 また、マスクの技術分野において、「熱融着された周縁部の内側に、吸収性コアの少なくとも下端部に沿うように接着部が形成されている」ことが本願出願前に周知の技術であったともいえない。 したがって、引用発明及び引用文献2ないし5記載の技術に基づいて、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到することができたものとすることはできない。 (2)小括 よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし5記載の技術に基づいて、当業者が容易に想到することができたとはいえない。 また、本願発明2ないし11は、本願発明1をさらに限定するものであるから、引用発明及び引用文献2ないし5記載の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することができない。 第4 当審拒絶理由について 1.当審拒絶理由の概要 「 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1に係る発明は、「マスク」(物の発明)であるが、「・・・周縁部が熱融着され」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 また、請求項6に係る発明は、「マスク」(物の発明)であるが、「前記繊維素材は、エアレイド法により製造されている」との記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。 ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物を製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。 したがって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし12に係る発明、並びに請求項6及び請求項6を引用する請求項7ないし12に係る発明は明確でない。 (注意事項) 請求人は、上記拒絶理由の<理由1>を解消するために、以下の対応をとることが考えられます(特許庁HP「プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する当面の審査・審判の取扱い等について」(http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/product_process_C150706.htm)も適宜参照して下さい。)。 ア.該当する請求項の削除 イ.該当する請求項の、物を生産する方法の発明への補正 ウ.該当する請求項の、製造方法を含まない物の発明への補正 エ.補正をせず、不可能・非実際的事情について意見書による主張及び証拠の提出 なお、補正の際は、当初明細書等に対して新規な事項を追加しないよう留意してください。特に上記ウ.において製造方法の記載を削除する補正は、当該製造方法がその物の特定に必要のない場合等であって、製造方法の記載がなくてもその物の範囲が変わらなければ許容されます。しかしながら、補正の結果、特許請求の範囲が当初明細書等に記載した事項の範囲内でなくなり、新たな技術的事項を導入することになりやすいので注意してください。 また、エ.において不可能・非実際的事情を主張する際には、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定すること」が不可能又はおよそ非実際的である事情を具体的に記載してください。例えば、その物を製造方法で記載することが慣用されている、製造方法で記載する方が分かりやすい、といったことは不可能・非実際的事情にはあたらないので注意してください。 なお、平成28年1月22日付け上申書において、「周縁部が熱溶着されており、」あるいは「周縁部が熱溶着となり、」と補正したい旨記載されていますが、「熱融着」を「熱溶着」と補正することは、明りょうでない記載の釈明に該当しないので注意して下さい。 (「・・・周縁部が熱融着されており、」と補正することは可能です。)」 2.当審拒絶理由についての判断 平成28年8月8日付け手続補正書による補正により、補正前の請求項1における「熱融着され、」という製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載は、補正後の請求項1における「熱融着されており、」という状態を表す記載に補正され、また、補正前の請求項6における「前記繊維素材は、エアレイド法により製造されている」という記載は、当該請求項6が削除されたため、存在しなくなった。 したがって、当審拒絶理由通知において指摘した特許法第36条第6項第2号の拒絶理由は解消された。 すなわち、当審拒絶理由については解消された。 3.小括 当審拒絶理由については、平成28年8月8日提出の手続補正書によって解消された。 そうすると、もはや、当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-09-26 |
出願番号 | 特願2014-98582(P2014-98582) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A62B)
P 1 8・ 537- WY (A62B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 柳元 八大 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
梶本 直樹 金澤 俊郎 |
発明の名称 | マスク |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |