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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04M
管理番号 1320009
審判番号 不服2015-5994  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-01 
確定日 2016-10-31 
事件の表示 特願2013-514404「位置に基づく情報のプリフェッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月15日国際公開,WO2011/156789,平成25年10月10日国内公表,特表2013-538472,請求項の数(25)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2011年6月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年6月10日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年2月4日付けで拒絶理由(以下,「原審拒絶理由」という。)が通知され,これに対し,同年7月10日付けで手続補正がされ,同年11月26日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,平成27年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,当審において同年11月13日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由1」という。)が通知され,これに対し,平成28年2月16日付けで手続補正がされ,これに対し,同年2月26日付けで拒絶理由(以下,「当審拒絶理由2」という。)が通知され,これに対し,同年6月9日付けで手続補正がされ,さらに,同年8月31日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし25に係る発明は,平成28年8月31日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものと認める。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 メモリに結合されたモバイルデバイスにおいて,前記モバイルデバイスのある位置への到着を電子的に検出するステップであって,
前記モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求めるステップと,
前記モバイルデバイスの速度を電子的に求めるステップと,
前記推定された位置が事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にあることを,電子的に検出するステップと,
前記推定された位置が前記事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にある場合に,前記速度に基づいて,前記モバイルデバイスが前記ジオフェンスで囲まれた領域内を単に通過しているだけであるかどうかを判定するステップであって,前記モバイルデバイスが単に通過していると判定される場合,前記到着は検出されない,ステップと
を含むステップと,
前記到着の前記検出に応答して,前記メモリのより低いメモリ階層から,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチするステップであって,前記モバイルデバイスが,前記情報が前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される前に,ユーザによる入力を伴うことなく前記情報を表す前記1つまたは複数の電気デジタル信号を,前記メモリのより高いメモリ階層に保存するステップと
を含み,
前記プリフェッチするステップは,前記到着が検出されないと判定された場合には実行されない,方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
原審拒絶理由の概要は,次のとおりである。

「 理 由

(理由A)
この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

請求項:1-3,5,6,8,10,12,15,42-44,61,62
引用文献:1
引用文献1には,携帯型の記憶補助装置に,所定の半径を有する通知ゾーンや時間帯等を設定しておき,利用者が通知ゾーン(本願の「ジオフェンスで囲まれた領域内」に相当)に進入したときに,その場所で果たすべき用件等がメッセージ等で通知されることが記載されており(【0042】-【0051】,【図1】-【図11】等),通知の際には通知のためのアプリケーションや機能が実行されていることは一般的である。

請求項:4,7
引用文献:1,2
引用文献2には,携帯電話機の速度や加速度等と所定の閾値とを比較した結果に応じて,所定のアプリの起動を行うことが記載されている。(【0013】-【0029】,【図3】)
したがって,引用文献1の通知のためのアプリケーションの起動の契機として,引用文献2のようにさらに速度等を用いることは,当業者が容易に採用し得たことである。

請求項:9,11,45
引用文献:1,3
引用文献3には,移動体端末の場所に応じて,メールアプリケーションを起動し,電話帳データを提示する等してメールの送信を行うことが記載されている。(【0008】,【0218】-【0221】等)
したがって,引用文献1記載の位置に応じた起動アプリケーションとして,引用文献3のように,送信メールや連絡先リストの定時を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

請求項:13,14,46,47
引用文献:1
ユーザへの通知を所定間隔で繰り返す機能は,携帯端末において通常採用されている機能である。

請求項:16,17
引用文献:1,4
引用文献4には,携帯電話機が所定のポイントに到達すると,GPS測位部の電源をオンにすることが記載されている。(【0041】-【0047】)
したがって,引用文献1において,通知ゾーンの到達にあわせて引用文献4記載のようにGPS測位部の電源をオンにする構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。

請求項:18-36,48-60,63
引用文献:5
ユーザの動作にあわせて複数の機能を実行するモバイルデバイスはたとえば引用文献5等に開示されるように当業者における周知技術に過ぎず,どのような機能を実行するかも当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。

請求項:37-39,41
引用文献:1,3
ある位置からの出発を判断する構成は引用文献3の【0247】等に記載されている。

請求項:40
引用文献:1-3
引用文献1-3により進歩性は認められない。


引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2004-102928号公報
2.特開2010-081319号公報
3.特許第3669702号公報
4.特開2009-294000号公報
5.特表2010-507870号公報

----------------------------------
(理由B)
(以下省略)」

原査定の理由の概要は,次のとおりである。
なお,原査定時の請求項1は,原審拒絶理由通知時の請求項2に対応している。

「 この出願については,平成26年 2月 4日付け拒絶理由通知書に記載した理由Aによって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考:

請求項1-59について:
出願人は,手続補正書を提出するとともに,意見書において,
(a)独立請求項1,35,39,57,58およびそれらの従属請求項について,「引用文献1?5のいずれも,単独でもその組み合わせにおいても,独立請求項1に記載の「前記到着の前記検出に応答して,前記メモリから,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の実行に関連する情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチする」ことを開示,示唆していないものと思料いたします。」と述べ,特に引用文献1に対して,「引用文献1におけるメッセージは,所与の位置(すなわち,駅の近く)で実行されることが可能な用件についての通知メッセージであり,「モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の実行に関連する情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号」ではないものです。
所与の位置で実行されることが可能な用件についての通知が,「モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の実行に関連する情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号」であること,またはこれを含むことについては,何ら開示,示唆されておりません。」と主張している。
また,
(b)独立請求項17,44,50および59,およびそれらの従属請求項について,「引用文献1?5のいずれも,単独でもその組み合わせにおいても,独立請求項17に記載の「前記1つまたは複数の電気デジタル信号の前記処理に応答して,前記モバイルデバイス上で1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能をユーザが実行する可能性を推測する」こと,および「前記可能性に少なくとも一部基づいて,前記モバイルデバイス上での前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の前記実行に関連する情報を電子的にプリフェッチする」ことを開示,示唆していないものと思料いたします。」と主張している。

上記各々の主張について検討する。
まず,主張(a)について,引用文献1では,【0025】,【0035】,【図1】等に開示されるように,所定の通知ゾーンに到達した際に端末上に表示するためのリマンディングメッセージを,データ管理部(本願の「メモリ」に相当)に登録しておき,実際に通知ゾーンに到達したことを検出すると,リマインティングメッセージの内容をデータ管理部から読み出して表示部に表示しているものである。
ここで,リマインディングメッセージの内容は,リマインド通知という機能を実行する際に関連する情報であることは明らかであり,データ管理部に登録されている情報がデジタル信号で格納されてデジタル信号で入出力が行われることも当然であるから,引用文献1には,「前記到着の前記検出に応答して,前記メモリから,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の実行に関連する情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチする」ことは開示されている。

また,主張(b)については,引用文献5の【0071】において,本来ユーザが意図的な入力を行ってデバイスの機能の設定調節を行うべきところを,センサから供給されたデータ(本願の「電気デジタル信号の前記処理」に相当)に応答して自動的に調節していることが記載されている。
この動作は,センサのデータに応じて,ユーザが今後行うであろう入力動作を予測していることに相当するものであり,ユーザが入力すると予測される命令と同値の命令信号を自動的に読み出しているものであるから,引用文献5には,「前記1つまたは複数の電気デジタル信号の前記処理に応答して,前記モバイルデバイス上で1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能をユーザが実行する可能性を推測する」こと,および「前記可能性に少なくとも一部基づいて,前記モバイルデバイス上での前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能の前記実行に関連する情報を電子的にプリフェッチする」ことは開示されている。

よって,出願人の上記主張を採用することはできず,本願の請求項1-59に係る発明は,依然として当業者が容易に想到し得たものとなっている。

引用文献等一覧
1.特開2004-102928号公報
2.特開2010-081319号公報
3.特許第3669702号公報
4.特開2009-294000号公報
5.特表2010-507870号公報

(以下省略)」

そうすると,原査定の拒絶の理由の趣旨は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,当業者が特開2004-102928号公報(引用文献1)に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。

2.当審における原査定の判断
(1)引用発明
原査定で引用された特開2004-102928号公報(ここでは,単に「引用文献」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0008】
したがって,本発明の課題は,利用者が通常利用しているルート上にあるが普段下車しない駅や,通常利用しているルートの範囲内にはない駅で実行可能な用件を,適切なタイミングで通知することのできる記憶補助装置を提供することにある。」(第4ページ)

イ 「【0014】
図1は,本発明の好適な実施の形態による記憶補助装置の構成を示すブロック図である。この記憶補助装置は,利用者が携帯する携帯端末として構成される。この記憶補助装置は,登録した用件を実行できる場所近傍に来ると利用者に通知を行うという従来装置と同様の機能に加え,利用者が普段は通過する駅等で実行する用件を合わせて通知できる機能を備える。この付加機能を沿線検索機能と呼ぶことにする。この沿線検索機能では,例えば利用者が普段利用する乗車駅(又は乗車バス停など)などの所定の場所に来ると,その利用者が利用する路線上の他の駅近辺で実行可能な用件を検索し,その検索結果を通知する。この通知により,利用者はその用件が行える駅で下車するように心構えをしたり,その駅に停車する列車を選んだりすることができる。」(第5ページ)

ウ 「【0034】
この手順では,まず位置検出部10が定期的に検出する現在位置及び現在時刻の情報を取得し(S10),その現在位置がいずれかの通知ゾーン内であるか否かを沿線検索設定データ202を参照して判定する(S12)。この判定の結果,現在位置が通知ゾーン内でなければ,通常の近傍検索機能により,現在位置近傍の所定検索エリア(例えば現在位置を中心とした半径50mの円)内で実行可能な用件を検索する(S30)。この近傍検索機能の処理は,従来と同様の処理でよい。一例を簡単に説明すると,まず用件データ204に登録された用件のうち,実行予定日や時間帯指定などから現時点で実行してよいものを抽出する。一方,店舗/施設データ206から,検索エリア内の店舗/施設を抽出し,定休日や営業時間の情報から,その中から現時点で利用可能なもののみを更に抽出する。そして,抽出した各用件と各店舗/施設とで,「行為タイプ」及び「目的/対象」を互いに突き合わせ,両者が一致するものがあれば,それら用件と店舗/施設のペアをリマインディングメッセージにより通知する。
【0035】
ステップS12の判定で,現在位置がいずれかの通知ゾーンの中であると判定した場合は,更に沿線検索データ202に登録されたどの通知ゾーン内かを識別し(S14),識別した通知ゾーンの通知時間帯と現在時刻とを比較して,現在時刻がその通知時間帯内か否かを判定する(S16)。現在時刻が通知時間帯内でなければ,通常の近傍検索機能により,検索エリア内で実行できる用件の検索を行う(S30)。ステップS16で通知時間帯内と判定した場合,実行可能用件検索部24は,沿線検索機能による用件検索を実行する。この検索処理では,まず,ステップS14で識別した現在の通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データ202から取り出し(S18),用件データ204に含まれる未実行の用件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出する(S20)。この用件検出では,用件データ204(図4参照)から,実行場所を示す「場所指定」の駅名等がそれら沿線検索対象駅のいずれかに一致するものを検出すればよい。また,「場所指定」がない未実行用件のうち,沿線検索対象駅の近傍所定範囲(例えば半径100mの円)内の店舗/施設で実行可能なものを検出するようにしてもよい。次に,ステップS20の用件検出で1つでも用件が検出されたかどうかを判定し(S22),検出されていなければ処理を終了し,検出されていれば,それら検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知して(S24),処理を終了する。」(第9ページ)

エ 「【0042】
この場合,利用者Xは,オフィスからH駅に至るルート上(例えばH駅の50メートル手前)に通知ゾーン(半径20メートル)を設定し,通知時間帯として,早い時刻での帰宅に相当する15:00?17:00を設定した。次に,沿線検索対象として,H駅からM駅間のA駅,B駅,C駅,D駅,E駅,F駅,G駅を登録した。さらに,H駅から自宅からは逆方向にあるJ駅,K駅についても,これら駅周辺で用を足す場合もあるので,沿線検索対象に登録した。以上の設定を行ない,利用者が,A駅,B駅,C駅,D駅,E駅,F駅,G駅,J駅,K駅のいずれかで実行可能な用件を登録しておくと,利用者が通知ゾーンに進入したときに,それらの場所で果たすべき用件が通知される。このような通知が,H駅直前の通知ゾーンでなされれば,利用者は,沿線で実行できる用件があることと,その用件を実行するには普段(急行電車)とは変えて各駅停車に乗る必要があるなどという情報を得ることができ,その駅から先の行動計画を立てることができる。
【0043】
なお,以上の例では,店舗/施設データや通知ゾーンの位置を本装置に登録する際,利用者がその店舗又は施設や通知ゾーンの場所に実際に行き,その場でその場所の位置情報を取得して登録する例を示したが,これ以外の登録方法も可能である。例えば,マップデータ208を表示部28に表示し,そのマップ表示上でアクティブスポットや店舗等の位置をスタイラスペンなどで指し示すことで,それらの位置情報を登録することができる。また,本装置のメーカー等が,主要駅の改札口等の通知ゾーン候補場所の位置情報を提供し,それを利用者が自分の装置にインストールするような態様ももちろん可能である。
【0044】
また,以上の例では,携帯型の記憶補助装置が図1に示す構成要素をすべて備える装置構成を説明したが,この代わりに利用者が携帯する装置の機能を限定し,残りの機能部分をその携帯装置と通信可能なサーバで実行するようなシステム構成も可能である。このようなシステム構成の一例を図11に示す。この図では,各構成要素のうち,図1に示した構成要素と同一又は類似の機能を果たす構成要素については,符号の下2桁の値を図1の対応要素の符号の値と同じものとすることで両者の対応関係が把握しやすくしており,それら対応要素については詳細な説明は省略する。
【0045】
図11のシステム構成では,実行可能用件検出部324やメッセージ/マップ作成部326,データ管理部320など,比較的処理負荷が高い構成要素や比較的大容量の記憶容量を要する構成要素をサーバ300に配している。一方,携帯端末100には,位置検出部
110や表示部128,アラーム発生部130など,利用者の位置検出や利用者に対するメッセージ通知のために必要な最小限の構成要素のみを配している。携帯端末100とサーバ300とは,各々の通信処理部132及び332により互いにデータ通信可能となっている。このデータ通信は,例えば携帯電話やPHSなどの回線を利用して行うことができる。例えばある利用者の携帯端末100の位置検出部110が現在位置を検出する都度,その現在位置の情報は,その利用者を特定する識別情報と共に,通信処理部132を介してサーバ300の通信処理部332に伝えられ,実行可能用件検出部324に渡される。実行可能用件検出部324は,その現在位置情報に基づき検索エリアを特定し,利用者が沿線検索の通知ゾーンに達したかどうかを判別し,データ管理部320内に登録された当該利用者の用件データ204と店舗/施設データ206とを調べ,検索エリア内,又は沿線検索対象駅で実行可能な用件とその実行場所を求める。そして,この結果において実行可能な用件が見つかれば,メッセージ/マップ作成部326がリマインディングメッセージ通知画面と検索結果マップ画面の情報を作成し,これを通信処理部332を介して,利用者の携帯端末100に送信する。これを受けた携帯端末100では,それらメッセージ通知画面及びマップ画面のデータを作業記憶に記憶して表示部128に表示するともに,アラーム発生部130からアラーム音を出力する。これにより,携帯端末100を持つ利用者に対してリマインディングメッセージサービスを提供することができる。
【0046】
このシステムでは,マップデータ208や店舗/施設データ206はサーバ300側で管理するので,個々の利用者が個別にそれらデータを入力したりインストールする必要はない。なお,店舗/施設データ206に関しては,個別の利用者に固有のデータを追加登録したい場合も考えられるので,データ管理部320に利用者別に専用の追加店舗/施設データを登録できるようにすることも好適である。
【0047】
このシステムにおいて,サーバ300への沿線検索設定データ202や用件データ204,及び利用者固有の店舗/施設データの登録は,サーバ300の沿線検索設定部314,用件データ設定部316及び店舗/施設データ設定部318が,それぞれデータ登録用のウェブページ(表示内容は図3,5,7と同様でよい)を作成して携帯端末100に提供することにより行えばよい。この場合,携帯端末100のブラウザ134がその登録用ウェブページを表示部128に表示し,このページの各入力欄に対する利用者の入力内容を取得してサーバ300に返す。サーバ300では,沿線検索設定部314,用件データ設定部316及び店舗/施設データ設定部318が,携帯端末100から送信されてきた入力内容の情報に従って,データ管理部320内の当該利用者の沿線検索設定データや用件データに対して情報の追加や削除,修正を行う。
【0048】
以上の実施形態で示した例では,利用者が自宅や勤務地から乗降駅に向かうルート上の,例えばその乗降駅の50メートル手前に通知ゾーンを設定したが,現在位置検出精度や検索速度が十分良好である場合には,通知ゾーンを当該乗降駅の入り口や券売機,改札口等に設定することもできる。この場合,利用者がその乗降駅の入り口や券売機,改札口に達した時に沿線検索の結果が提示されるので,途中駅で実行できる用件などといった沿線検索結果を,利用者にとって分かりやすい(忘れにくい)タイミングで提示することができる。
【0049】
また沿線検索に時間がかかる場合などには,検索開始の判断を行う第1ゾーンと,その検索の結果を提示する第2ゾーンとに分けてゾーン設定を行い,例えば第1ゾーンを乗降駅の手前に設定し,第2ゾーンをその乗降駅の入り口や券売機,改札口の近傍に設定するなどの仕組みを採用すればよい。この場合,実行可能用件検出部24は,位置検出部10の検出結果により利用者が第1ゾーンに達したと判断した場合に沿線検索機能による検索を開始し,その検索結果を保持し,その後利用者が第2ゾーンに達したと判断した場合に,保持した検索結果を提示するよう構成すればよい。
【0050】
また,以上の各実施の形態では,位置検出部10の位置検出機構としてGPSを利用したが,これは一例にすぎない。位置検出機構としては,必要とする位置精度を満足するものであれば,どのようなものをもちいてもよい。
【0051】
以上説明した各実施の形態の記憶補助装置,記憶補助サーバ,及び携帯端末は,GPS受信機や通信装置,ディスプレイ装置などの固有のハードウエアで実現される機能部分を除けば,上述の各機能を記述したプログラムをプロセッサに実行させることにより実現される。」(第11?13ページ)

前記アないしエ及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより複数の処理を実行する携帯端末において,
位置検出機構(GPS)により前記携帯端末の現在位置を取得し,
前記現在位置が事前に登録された通知ゾーン(例えば,所定の駅を中心とした所定の半径の円)内かを識別し,
前記現在位置が前記通知ゾーン内である場合に,前記通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データから取り出し,要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出して,検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知する,
方法。」

(2)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「メモリ」及び「携帯端末」はそれぞれ,本願発明の「メモリ」及び「モバイルデバイス」に相当する。そして,引用発明において,「携帯端末」が「メモリに結合された」ものであることは自明であるから,引用発明は,実質的に,本願発明の「メモリに結合されたモバイルデバイス」という構成を備えている。
引用発明においては,プロセッサがプログラムを実行することにより,複数の処理を実行しているから,各処理は,「電子的に」実行されることは自明である。また,各処理を「ステップ」ということは任意である。
本願発明の「モバイルデバイスの位置」は,「モバイルデバイス」の「現在位置」であることは自明である。また,引用発明において,「位置検出機構(GPS)」が,必ずしも正確な位置を検出できるものではなく,「位置の推定」の範疇であることは技術常識から明らかであり,また,「取得する」ことと「求める」こととは同義であるから,引用発明の「位置検出機構(GPS)により前記携帯端末の現在位置を取得し」は,本願発明の「前記モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求めるステップ」に相当する。
引用発明において,「通知ゾーン」は,所定の地点を中心とした所定の半径を有する円であり,この円は,「通知ゾーン」の内側と外側とを区切る地理的な(geo-)境界線(fence)を定めるものであるから,本願発明の「ジオフェンスに囲まれた領域」に相当するといえる。また,引用発明の「事前に登録」は,本願発明の「事前に定義」に包含される概念であり,「識別」と「検出」は同義である。よって,引用発明の「前記現在位置が事前に登録された通知ゾーン(例えば,所定の駅を中心とした所定の半径の円)内かを識別し」は,本願発明の「前記推定された位置が事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にあることを,電子的に検出するステップ」に相当する。
引用発明は,現在位置が「通知ゾーン」内である場合に,その「通知ゾーン」に対応する沿線検索対象駅,すなわち,「通知ゾーン」の中心にある駅についての未実行の用件を検索して通知するものであるから,現在位置が「通知ゾーン」内であるか否かを識別することは,実質的に,「携帯端末」が,所定の駅(すなわち,「ある位置」)への到着を電子的に検出していることに他ならない。よって,引用発明は,本願発明の「前記モバイルデバイスのある位置への到着を電子的に検出するステップ」を,「位置検出機構(GPS)により前記携帯端末の現在位置を取得し,」及び「前記現在位置が事前に登録された通知ゾーン(例えば,所定の駅を中心とした所定の半径の円)内かを識別し」の処理により実現しているといえる。
引用発明の「前記現在位置が前記通知ゾーン内である場合に,前記通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データから取り出し,要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出して,検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知する」における,「要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出」すること,及び,「リマインディングメッセージを通知する」ことは,「用件」の「検出」,「リマインディングメッセージ」の「通知」といった1又は複数の機能に関する処理を実行することに等しく,本願発明の「プリフェッチ」も同様である。よって,引用発明の「前記現在位置が前記通知ゾーン内である場合に,前記通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データから取り出し,要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出して,検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知する」と,本願発明の「前記到着の前記検出に応答して,前記メモリのより低いメモリ階層から,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチするステップ」とは,「前記到着の前記検出に応答して,1つまたは複数の機能に関する処理を実行するステップ」である点において共通する。

イ 一致点及び相違点
以上を総合すれば,本願発明と引用発明とは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 メモリに結合されたモバイルデバイスにおいて,前記モバイルデバイスのある位置への到着を電子的に検出するステップであって,
前記モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求めるステップと,
前記推定された位置が事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にあることを,電子的に検出するステップと,
前記到着の前記検出に応答して,1つまたは複数の機能に関する処理を実行するステップと
を含む,方法。」

[相違点1]
「到着の前記検出に応答」に対する「処理」が,本願発明は,「前記メモリのより低いメモリ階層から,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチするステップであって,前記モバイルデバイスが,前記情報が前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される前に,ユーザによる入力を伴うことなく前記情報を表す前記1つまたは複数の電気デジタル信号を,前記メモリのより高いメモリ階層に保存するステップ」であるのに対し,引用発明は,「前記通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データから取り出し,要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出して,検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知する」処理である点。

[相違点2]
本願発明は,「モバイルデバイスの速度を電子的に求めるステップ」との構成,「前記推定された位置が前記事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にある場合に,前記速度に基づいて,前記モバイルデバイスが前記ジオフェンスで囲まれた領域内を単に通過しているだけであるかどうかを判定するステップであって,前記モバイルデバイスが単に通過していると判定される場合,前記到着は検出されない」との構成,さらに,「前記プリフェッチするステップは,前記到着が検出されないと判定された場合には実行されない」との構成を有するのに対し,引用発明は,これらの構成について言及がない点。

ウ 判断
・[相違点1]について
引用発明の携帯端末が,どのようなメモリ構造を有し,メモリに記憶されたプログラムをどのように実行するのかについて何ら特定していない。よって,引用発明には,「プリフェッチ」に係る構成を付加するための前提となる構成が存在しない。
そして,アプリケーションを実行するに際して,アプリケーションプログラムや関連する情報をより低い階層のメモリからより高い階層のメモリに転送して実行することが周知技術であるとしても,「到着」の「検出」に応答して「プリフェッチ」(すなわち,事前にプログラムを実行できる状態とすること)をすることまでは周知技術であるということはできない。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用することの動機付けがなく,仮に動機付けが認められて,引用発明に上記周知技術を適用し得たとしても,[相違点1]に係る本願発明の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

・[相違点2]について
[相違点2]に係る本願発明の構成は,原審拒絶理由に提示された他の引用文献には記載も示唆もなく,また,本願の優先日における技術常識ないし周知技術であったともいえない。
よって,引用発明から,[相違点2]に係る本願発明の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

(3)小括
したがって,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項2ないし13に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項14に係る発明は,本願発明の「到着」を「出発」に置き換えたものであり,前記[相違点1]及び[相違点2]に係る本願発明の構成を実質的に備えているから,同様に,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項15ないし17に係る発明は,本願の請求項14に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項18に係る発明,請求項24に係る発明及び請求項25に係る発明はそれぞれ,本願発明を「装置」,「モバイルデバイス」及び「コンピュータ可読記録媒体」の形式として記載したものであり,前記[相違点1]及び[相違点2]に係る本願発明の構成を実質的に備えているから,同様に,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項19ないし23に係る発明は,本願の請求項18に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由1について
(1)当審拒絶理由1の概要
当審拒絶理由1の概要は,次のとおりである。

「 理 由

1.(発明の単一性)この出願は,下記の点で特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(単一性)について
(…中略…)
したがって,請求項17乃至34,44乃至56及び59に係る発明は,特許法第37条以外の要件についての審査対象としない。

●理由2(明確性)について
(…中略…)
したがって,従属項も含め,請求項1乃至16,35乃至43,57及び58に係る発明は明確でない。

●理由3(進歩性)について
(1)請求項1,57および58について
引用文献1,2

引用文献1(特に,【0002】,【0003】,【0009】乃至【0037】,【0040】,【0043】,【0045】,【0047】乃至【0088】,図1乃至図13参照。)には,半導体メモリ等の内部記憶装置120,ハードディスク装置等の外部記憶装置180,外部通信装置130,GPS等に基づいて携帯端末100の位置情報を求めて出力する位置情報取得装置170,各種装置に結合された処理装置110等からなる携帯端末100において,処理装置が,外部記憶装置に記憶されたアプリケーションプログラムを内部記憶装置にロードして起動することを前提に,アプリケーションプログラムの起動時間を短縮するために,ユーザから起動の指示入力をうける前に,実行される可能性の高いアプリケーションプログラムを内部記憶装置にプレロードするものであって,プレロードのトリガとして拠点が発生した場合,すなわち,ユーザの拠点が変わった場合には,優先AP情報テーブル内のユーザ位置関連テーブルに基づいて,当該拠点に関連付けられたアプリケーションプログラムをプレロードすることが記載されている。
引用文献1の「携帯端末」,「外部記憶装置」及び「内部記憶装置」のそれぞれは,請求項1に係る発明の「モバイルデバイス」,「メモリのより低いメモリ階層」及び「メモリのより高いメモリ階層」に相当する。
引用文献1において,電気デジタル信号として内部記憶装置に記憶されたアプリケーションプログラムを実行することにより,「アプリケーション」又はこれに対応する「機能」が実現されることは自明であるから,当該「アプリケーションプログラム」を表す,内部記憶装置上の電気デジタル信号は,請求項1に係る発明の「前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つ又は複数の電気デジタル信号」に相当する。
引用文献1の「プレロード」は,「preload」の訳語であり該「preload」を日本語読みしたときの発音の差異により「プリロード」と言い換え得るものである。一方,請求項1に係る発明の「プリフェッチ」は,明細書の段落【0010】に「本明細書で言及される場合,「プリフェッチ」,「プリロード」,および/またはそのような用語の複数形は,交換可能に用いられる」と記載されているように,「プリロード」と同義である。さらに,引用文献1の「プレロード」は,ユーザから起動の指示入力をうける前に,実行される可能性の高いアプリケーションプログラムをロードすることであるから,当該ロードのタイミングは,当該アプリケーションプログラムを実行することによって実現される「アプリケーション」または「機能」によって当該アプリケーションプログラムが利用される前であることが明らかである。
よって,引用文献1の「プレロード」は,請求項1に係る発明の「プリフェッチ」に相当する。
引用文献1において,プレロードのトリガとして拠点が発生したこと,すなわち,ユーザの拠点が変わったことを推定することは,携帯端末が有する位置情報取得装置が,ユーザが保持する携帯端末の位置を電子的に推定することによって行われていることは自明であり,この点において,請求項1に係る発明の「モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求める」ことに対応している。
また,「ユーザの拠点が変わった」ことは,ユーザすなわち携帯端末が,当該拠点に到着しなければ推定し得ないことであるから,実質的に,請求項1に係る発明の「モバイルデバイスへのある位置への到着を電子的に検出する」ことに対応している。
以上の対応関係を考慮すると,請求項1に係る発明と,引用文献1に記載したものとは,以下の点において相違し,その余の点において一致している。

[相違点]
請求項1に係る発明は,「推定された位置」が「事前に定義されるジオフェンスに囲まれた領域内にあること」を検出するのに対し,引用文献1は,「ユーザの拠点が変わったこと」を推定することが,「事前に定義されるジオフェンスに囲まれた領域内」にあることを検出することにより実現しているかどうか不明である点。

上記相違点について検討する。
引用文献2(特に,【0014】,【0017】,【0034】,【0035】,【0042】参照。)には,通知ゾーン(位置)及び時間に基づいて通知処理を行う携帯端末において,例として,利用者が,所定の駅の50メートル手前に半径20メートルの「通知ゾーン」を設定することが記載されている。この記載から,「通知ゾーン」は,所定の地点を中心として,所定の半径を有する円内の領域であると解される。そうすると,この領域を囲む円は,「通知ゾーン」の内側と外側を区切る地理的な(geo-)境界線(fence)を定めるものであるから,本願の「ジオフェンス」に相当し,また,前記円内の領域は,本願の「事前に定義されるジオフェンスに囲まれた領域」に相当するものである。
すると,引用文献2には,携帯端末における処理のトリガとなる位置の推定において,「事前に定義されるジオフェンスに囲まれた領域」内にあることを検出することが記載されている。
よって,引用文献1において,「ユーザの拠点が変わったこと」を推定するために,ユーザが保有する携帯端末が事前に定義されるジオフェンスに囲まれた領域内」にあることを検出するよう構成することは当業者にとって格別困難なことではない。

なお,請求項1に係る「ジオフェンス」の形状が,円のみならず,種々の形状を含むとしても,そのように構成することは必要に応じて当業者が適宜なし得ることにすぎず,格別な困難性はない。
また,請求項1に係る「情報」が,プログラムのみならず,プログラムにより使用されるプログラムデータをも含むとしても,プログラムは,当該プログラムのみでは実行することができず,実行にはプログラムデータが必要であることが出願時の技術常識であることを考慮すれば,引用文献1において,当該「アプリケーションプログラム」によって利用されるプログラムデータも合わせて「プレロード」の対象とすべきことは,当業者にとって自明または必要に応じて適宜実施し得ることにすぎない。

したがって,請求項1に係る発明は,引用文献1に基づいて,引用文献2に記載の周知技術を参酌することによりにより当業者が容易に想到し得たことである。
請求項1とカテゴリが異なるだけの請求項57および58に係る発明についても同様。

(2)請求項2について
引用文献1,2,3

(…中略…)

(3)請求項3について
引用文献1,2,4,5

(…中略…)

(4)請求項4について
引用文献1,2

(…中略…)

(5)請求項5について
引用文献1,2

(…中略…)

(6)請求項6について
引用文献1,2,4

(…中略…)

(7)請求項7について
引用文献1,2,4

(…中略…)

(8)請求項8乃至11について
引用文献1,2,3,5,6

(…中略…)

(9)請求項12及び13について
引用文献1,2,5,7,8

(…中略…)

(10)請求項14について
引用文献1,2

(…中略…)

(11)請求項15及び16について
引用文献1,2,9

(…中略…)

(12)請求項35について
引用文献1,2,3

(…中略…)

(13)請求項36及び37について
引用文献1,2,3,5,6

(…中略…)

(14)請求項38について
引用文献1,2,3

(…中略…)

(15)請求項39について
引用文献1,2

(…中略…)

(16)請求項40について
引用文献1,2

(…中略…)

(17)請求項41について
引用文献1,2,3,5,6

(…中略…)

(18)請求項42及び43について
引用文献1,2,5,7,8

(…中略…)

拒絶の理由が新たに発見された場合には,拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>
1.特開2005-275707号公報
2.特開2004-102928号公報
(以下省略)」

そうすると,当審拒絶理由1の趣旨は,補正前の請求項1ないし59に係る発明は,特許法第37条に規定する要件(発明の単一性)を満たしておらず,補正前の請求項1ないし16,35ないし43,57及び58に係る発明は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしておらず,補正前の請求項1に係る発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたので特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。

(2)当審拒絶理由1の判断
ア 理由1(発明の単一性)について
平成28年6月9日付けの手続補正により,補正前の請求項17ないし34及び44ないし56及び59が削除され,補正後の請求項1ないし24に係る発明は,発明の単一性の要件が満たされるようになった。
また,平成28年8月31日付けの手続補正後の請求項1ないし25に係る発明は,発明の単一性の要件を満たしている。

イ 理由2(明確性要件)について
理由2において指摘した拒絶の理由は,平成28年6月9日付けの手続補正又は同時に提出された意見書における釈明により解消した。

ウ 理由3(進歩性)について
(ア)引用発明
a.引用発明1
原審拒絶理由1で引用された特開2005-275707号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(a)「【0002】
情報処理装置は,ユーザインタフェースを通じてユーザから受けた入力信号に応じて,様々なアプリケーションプログラムの起動,終了を行う。アプリケーションプログラムは,通常は記憶容量の比較的大きなハードディスク装置等の外部記憶装置に記憶されており,起動時に半導体記憶装置等の主記憶装置に読み出されて,プロセッサにより実行が開始される。
【0003】
このアプリケーションプログラムの起動時間を短縮する方法として,使用頻度の高いアプリケーションプログラムについて,ユーザから起動の指示入力をうける前に,主記憶装置に記憶しておくようにする技術が開発されている。」(第8ページ)

(b)「【0009】
===携帯端末===
まず本実施の形態に係る携帯端末100について図1を用いて説明する。
本実施の形態に係る携帯端末100は情報処理装置200の一形態であり,例えばハンドヘルドコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)等の携帯可能な情報処理装置200,自動車や船舶,航空機等に搭載されるナビゲーション装置等の情報処理装置200(以下車載端末とも記す),その他,住宅やビルで例えば空調や照明の制御のために使用されるホームサーバ等の情報処理装置200とすることができる。その他携帯電話機も含まれるようにすることもできる。
【0010】
図1に示すように,本実施の形態に係る携帯端末100は,処理装置(プロセッサ)110,内部記憶装置(第1の記憶装置)120,外部通信装置130,タイマー装置140,入力装置150,出力装置160,位置情報取得装置(位置情報出力装置)170,外部記憶装置(第2の記憶装置)180を備えて構成される。
【0011】
処理装置110は,携帯端末100の全体の制御を司るもので,内部記憶装置120に記憶された各種プログラムを実行する。これにより上記携帯端末100としての機能が実現される。処理装置110は例えばCPU(Central Processing Unit)とすることができる。また内部記憶装置120は例えば半導体メモリとすることができる。
【0012】
また外部記憶装置180には複数のプログラムが記憶され,本実施の形態に係る各種の動作を行うためのコードから構成されるAP実行管理プログラム800やアプリケーションプログラム(以下APとも記す)810が記憶される。また外部記憶装置180には,AP実行実績情報テーブル900,優先AP情報テーブル910,ユーザのスケジュール情報テーブル940,AP起動状態保存データ700,実行中AP管理テーブル920,プレロード中AP管理テーブル930等の各種テーブルやデータが記憶されている。詳細については後述する。外部記憶装置180は例えばハードディスク装置とすることができる。また半導体メモリとすることもできる。
【0013】
処理装置110は,外部記憶装置180に記憶されたこれらのプログラムやテーブルを読み出して内部記憶装置120に記憶する(以下,ロードするとも記す)。そして,内部記憶装置120に記憶されたこれらのプログラムを実行する。そして処理装置110によ
りAP実行管理プログラム800が実行されることにより,プログラム実行実績情報記憶部や,プログラム類別制御部,プレロード制御部が実現される。
(…中略…)
【0016】
位置情報取得装置170は,携帯端末100の位置を示す情報を出力する装置であり,例えば人工衛星から送信されるGPS(Global Positioning System)信号を受信し,携帯端末100の緯度を示す情報及び経度を示す情報を出力するGPS受信器とすることができる。また上記GPS受信器は,携帯端末100の高度を示す情報も出力するものとすることもできる。この場合,携帯端末100の高度も分かるので,緯度,経度を示す情報と組み合わせることにより,例えば高層ビルの中において携帯端末100の存在する階数までも特定することも可能となる。その他位置情報取得装置170は,携帯電話用通信アンテナから送信される電波を受信し,携帯端末100の位置を求め,携帯端末100の位置を示す情報を出力するようにすることもできる。
(…中略…)
【0024】
携帯端末100は一人のユーザにより継続して使用されることが多い。また車載端末100の場合には,一人か,限られた数のユーザにより使用されることが多い。これらの場合,ユーザが少数に限定されているため,使用されるアプリケーションプログラム810のプロファイル情報を記憶しておくようにすることにより,使用されるアプリケーションプログラム810の予測が可能になると考えられる。
【0025】
一方,業務用に使用される車載端末100では,複数の人間によって使用される場合があるが,業務遂行という同じ目的のもとに車載端末100を使用するため,各使用者のアプリケーションプログラム810のプロファイル情報は類似すると予想できる。そのため,業務別というまとまりで使用アプリケーションプログラム810のプロファイル情報をとることによって,その業務遂行における使用アプリケーションプログラム810の高確率な予測が可能となると考えられる。
【0026】
また使用アプリケーションプログラム810のプロファイル情報としては,使用回数だけではなく,携帯端末100の電源を入れてから(携帯端末100を使用開始状態にしてから)アプリケーションプログラム810が実行されるまでの経過時間や,アプリケーションプログラム810の使用順序,アプリケーションプログラム810が実行される際のユーザのスケジュール情報,アプリケーションプログラム810実行時に実行されているアプリケーションプログラム810,アプリケーションプログラム810実行時の日時(曜日)や場所などとすることができる。これらのアプリケーションプログラム810実行時の様々な状況情報から,アプリケーションプログラム810の実行前に,アプリケーションプログラム810を外部記憶装置180から内部記憶装置120にロードしておくこと(以下,プレロードとも記す)により,アプリケーションプログラム810の実行時にアプリケーションプログラム810が既に内部記憶装置120に記憶されている確率を上げることができ,多くのアプリケーションプログラム810の起動時間の短縮を図ることが可能となる。
(…中略…)
【0032】
===優先AP情報テーブル===
優先AP情報テーブル910は,実時間用テーブル911,端末起動直後用テーブル912,ユーザ位置関連テーブル913,ユーザスケジュール関連テーブル914,AP関連テーブル915を備える。
【0033】
優先AP情報テーブル910の生成は,上記実時間用テーブル911,端末起動直後用テーブル912,ユーザ位置関連テーブル913,ユーザスケジュール関連テーブル914,AP関連テーブル915の各テーブルを生成することにより行われる。
【0034】
例えばAP実行情報902のうち開始実時刻情報903に注目し,実時刻の10:00から11:00の間に起動されたアプリケーションプログラム810とその起動回数をカウントすることにより,この時間帯に起動される回数の多い順にアプリケーションプログラム810をソートできる。その上位から規定数のアプリケーションプログラム810を実時間の10:00から11:00の間に起動される可能性の高い優先アプリケーションプログラム810として優先AP情報テーブル910のうちの実時間用テーブル911の10:00から11:00用データとして設定する。これにより,時間帯に応じて実行される可能性の高いアプリケーションプログラム810をプレロードすることが可能となる。
【0035】
また,端末起動直後用テーブル912は,端末起動直後情報904及び開始実時刻情報903に基づいて生成される。これにより,ユーザが携帯端末100の使用を開始した直後に実行される可能性の高いアプリケーションプログラム810を,ユーザが携帯端末100の使用を開始した時間帯に応じてプレロードすることが可能となる。
【0036】
またユーザの活動拠点が複数ある場合には,ユーザ位置情報906に基づいて,拠点ごとの各アプリケーションプログラム810の起動回数が拠点訪問回数に対して規定の割合を超えた場合に,そのアプリケーションプログラム810をその拠点の優先アプリケーションプログラム810としてユーザ位置関連テーブル913に記憶しておくことができる。例えば拠点P1に9回訪れてその間にプログラムBを7回実行した場合(使用率は78%)で,例えば上記規定の割合が70%とした場合には,プログラムBを拠点P1の優先アプリケーションプログラム810とすることができる。これにより,現在のユーザの位置に応じて実行される可能性の高いアプリケーションプログラム810をプレロードすることが可能となる。
【0037】
同様に,ユーザスケジュール情報907に基づいて,イベントまたはユーザの状態によっていくつかのカテゴリに分類されたユーザスケジュール毎のアプリケーションプログラム810の起動割合が規定の割合を超えた場合に,そのアプリケーションプログラム810をそのカテゴリの優先アプリケーションプログラム810としてユーザスケジュール関連テーブル914に記憶しておくことができる。これにより,現在のユーザのスケジュールに応じて実行される可能性の高いアプリケーションプログラム810をプレロードすることが可能となる。」(第9-14ページ)

(c)「【0043】
ユーザ位置関連テーブル913の生成は,外部記憶装置180に記憶された各アプリケーションプログラム810の識別子を,それぞれに対応付けられたユーザ位置情報906に基づいて,携帯端末100の位置に応じて区分される複数の第4のグループのいずれかに類別することにより行われる。各第4のグループは,例えば図5に示すユーザ位置関連テーブル913の「拠点」欄の”P1”,”P2”,”P3”等で区分けされる各欄に類別される各アプリケーションプログラム810の識別子で構成される。ここで例えば”P1”の欄に類別されるアプリケーションプログラム810は,携帯端末100が拠点P1に存在している間に実行されたアプリケーションプログラム810であることを示す。なお,各第4のグループ内に類別されるアプリケーションプログラム810は,実行頻度が多い順にそれぞれ「優先AP」欄の”1”,”2”の各欄に類別される。「拠点」欄としては例えば”会社の所在地”や,”自宅の所在地”,”取引先の所在地”,”学校の所在地”等とすることができる。
(…中略…)
【0045】
本実施例では,アプリケーションプログラム810実行時の状態データとして時刻,ユーザ位置,ユーザスケジュール,関連するアプリケーションプログラム810の情報を収集し,それぞれの項目別に優先アプリケーションプログラム810選択用のテーブルを作成する例を示したが,実行環境や使用状況によってこれらの内の一部の項目についてのみ収拾したデータで生成したテーブルでも効果が得られる。」(第15-16ページ)

(d)「【0064】
次に,プレロードのトリガが発生した場合に,プレロードを行うアプリケーションプログラム810の更新を行うプレロードAP更新処理(S1004)のフローチャートを図11,図12に示す。
【0065】
ここでは,プレロードのトリガに応じて,それぞれS3000,S3002,S3004,S3006,S3008で処理が分岐され,それぞれS3001,S3003,S3005,S3007,S3009の各処理が行われる。
(…中略…)
【0071】
次に,プレロードのトリガが拠点である場合には(S3010)S3011に進み,優先AP更新処理を行う。そしてユーザ位置関連テーブル913に基づいてアプリケーションプログラム810のプレロードを行う(S3011)。なお詳細は後述するが,この際,優先度=5として優先AP更新処理を行う。
(…中略…)
【0078】
そしてS4006においてプレロード中AP管理テーブル930を更新した後,アプリケーションプログラムのプレロードを行う(S4007)。そしてS4002に戻り,次のアプリケーションプログラム810のプレロードを行う。
【0079】
このように,本実施の形態においては,アプリケーションプログラム810のプレロードは,現在の時刻に応じた第1のグループに類別されたアプリケーションプログラム810の識別子により特定されるアプリケーションプログラム810の少なくともいずれか,現在の時刻に応じた第2のグループに類別されたアプリケーションプログラム810の識別子により特定されるアプリケーションプログラム810の少なくともいずれか,処理装置110により現在実行されているアプリケーションプログラム810の識別子に応じた第3のグループに類別されたアプリケーションプログラム810の識別子により特定されるアプリケーションプログラム810の少なくともいずれか,携帯端末100の現在の位置に応じた第4のグループに類別されたアプリケーションプログラム810の識別子により特定されるアプリケーションプログラム810の少なくともいずれか,及び,ユーザの現在の行動内容に応じた第5のグループに類別されたアプリケーションプログラム810の識別子により特定されるアプリケーションプログラム810の少なくともいずれか,のうちの少なくともいずれかを,外部記憶装置180から読み出して内部記憶装置120に記憶しておくことにより行われる。
」(第19-20ページ)

前記(a)ないし(d)及びこの分野における技術常識を参酌すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認める。

「 内部記憶装置,外部記憶装置,位置情報取得装置,処理装置を備え,処理装置が内部記憶装置に記憶されたアプリケーションプログラムを含むプログラムを実行することにより複数の機能を実現する携帯端末において,
前記位置情報取得装置がGPS信号又は携帯電話用通信アンテナから送信される電波を受信して,携帯端末の位置を示す情報を出力し,
前記携帯端末の位置に基づいて,携帯端末がある拠点を訪問したと判定し,
前記携帯端末がある拠点を訪問したと判定した場合に,ユーザから起動の指示入力をうける前に,当該拠点に対応付けられているアプリケーションプログラムを外部記憶装置から読み出して内部記憶装置に記憶することによりプレロードする,
方法。」

b.引用発明2
原審拒絶理由1において引用文献2として引用された特開2004-102928号公報(ここでは,「引用文献2」という。)は,「第3 原査定の理由について」の「2.原査定の判断」の「(1)引用発明」において,「引用文献」として認定したものである。そして,引用文献2に記載された発明(以下,「引用発明2」という。)を,前記「(1)引用発明」において「引用発明」として認定したものと認める。(以下に再掲する。)

「 メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより複数の処理を実行する携帯端末において,
位置検出機構(GPS)により前記携帯端末の現在位置を取得し,
前記現在位置が事前に登録された通知ゾーン(例えば,所定の駅を中心とした所定の半径の円)内かを識別し,
前記現在位置が前記通知ゾーン内である場合に,前記通知ゾーンに対応する沿線検索対象駅を,沿線検索設定データから取り出し,要件データに含まれる未実行の要件の中から,それら沿線検索対象駅で実行可能な用件を検出して,検出した用件を知らせるリマインディングメッセージを通知する,
方法。」

イ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「内部記憶装置」及び「外部記憶装置」は,いずれも本願発明の「メモリ」に相当する。また,引用発明1の「携帯端末」は,本願発明の「モバイルデバイス」に相当する。また,引用発明1において,「携帯端末」が「メモリに結合された」ものであることは自明であるから,引用発明1は,実質的に,本願発明の「メモリに結合されたモバイルデバイス」という構成を備えている。
引用発明1においては,処理装置がアプリケーションプログラムを含むプログラムを実行することにより複数の機能を実行しているから,各機能は,「電子的に」実行されることは自明である。また,各機能の実行を「ステップ」ということは任意である。
引用発明1の「携帯端末の位置」は,本願発明の「モバイルデバイスの位置」に相当する。また,引用発明1において,「位置情報取得装置」は,「GPS信号又は携帯電話用通信アンテナから送信される電波」に基づいて,「携帯端末の位置」を正確に求めるものではなく,「位置の推定」の範疇であることは技術常識から明らかである。よって,引用発明1の「前記位置情報取得装置がGPS信号又は携帯電話用通信アンテナから送信される電波を受信して,携帯端末の位置を求め」は,本願発明の「前記モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求めるステップ」に相当する。
引用発明1における「拠点」は本願発明の「ある位置」に含まれる概念であり,「訪問」と「到着」,「判定」と「検出」はそれぞれ同義であるから,引用発明1の「前記携帯端末の位置に基づいて,携帯端末がある拠点を訪問したと判定」することは,本願発明の「前記モバイルデバイスのある位置への到着を電子的に検出するステップ」に相当する。
引用文献1の【0043】には,「拠点」として,「会社の所在地」,「自宅の所在地」,「取引先の所在地」,「学校の所在地」といった例が挙げられており,会社,自宅,取引先及び学校が,事前に定義された所定の領域を占めることは自明である。そうすると,引用発明1の「拠点」と,本願発明の「ジオフェンスで囲まれた領域内」とは,「事前に定義された所定の領域内」である点において共通する。よって,引用発明1の「前記携帯端末の位置に基づいて,携帯端末がある拠点を訪問したと判定」することと,本願発明の「前記推定された位置が事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にあることを,電子的に検出するステップ」とは,「前記推定された位置が事前に定義された所定の領域内にあることを,電子的に検出するステップ」である点において共通する。
引用発明1において,「前記携帯端末がある拠点を訪問したと判定した場合」に「プレロードする」ことは,本願発明の「前記到着の前記検出に応答」することに相当する。
引用発明1の「アプリケーションプログラム」は,当該「アプリケーションプログラム」によって実現されるアプリケーション又は機能からみれば,「当該アプリケーション又は機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号」であることは自明である。また,引用発明1の「外部記憶装置」及び「内部記憶装置」はそれぞれ,本願発明の「メモリのより低いメモリ階層」及び「メモリのより高いメモリ階層」に相当する。また,引用発明1の「ユーザが起動の指示入力をうける前に」は,本願発明の「ユーザによる入力を伴うことなく」に相当する。また,引用発明1の「記憶」と本願発明の「保存」は同義である。さらに,引用発明1の「プレロード」は,本願発明の「プリフェッチ」に含まれる概念である。よって,引用発明1の「前記携帯端末がある拠点を訪問したと判定した場合に,ユーザから起動の指示入力をうける前に,当該拠点に対応付けられているアプリケーションプログラムを外部記憶装置から読み出して内部記憶装置に記憶することによりプレロードする」は,本願発明の「前記到着の前記検出に応答して,前記メモリのより低いメモリ階層から,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチするステップであって,前記モバイルデバイスが,前記情報が前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される前に,ユーザによる入力を伴うことなく前記情報を表す前記1つまたは複数の電気デジタル信号を,前記メモリのより高いメモリ階層に保存するステップ」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
以上を総合すれば,本願発明と引用発明1とは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 メモリに結合されたモバイルデバイスにおいて,前記モバイルデバイスのある位置への到着を電子的に検出するステップであって,
前記モバイルデバイスの位置の推定を電子的に求めるステップと,
前記推定された位置が事前に定義された所定の領域内にあることを,電子的に検出するステップと,
を含むステップと,
前記到着の前記検出に応答して,前記メモリのより低いメモリ階層から,前記モバイルデバイス上での1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される情報を表す,1つまたは複数の電気デジタル信号をプリフェッチするステップであって,前記モバイルデバイスが,前記情報が前記1つまたは複数のアプリケーションおよび/または機能によって利用される前に,ユーザによる入力を伴うことなく前記情報を表す前記1つまたは複数の電気デジタル信号を,前記メモリのより高いメモリ階層に保存するステップと
を含む,
方法。」

[相違点1]
「所定の領域内」が,本願発明は,「ジオフェンスで囲まれた領域内」であるのに対し,引用発明1は,「拠点」である点。

[相違点2]
本願発明は,「モバイルデバイスの速度を電子的に求めるステップ」との構成,「前記推定された位置が前記事前に定義されたジオフェンスで囲まれた領域内にある場合に,前記速度に基づいて,前記モバイルデバイスが前記ジオフェンスで囲まれた領域内を単に通過しているだけであるかどうかを判定するステップであって,前記モバイルデバイスが単に通過していると判定される場合,前記到着は検出されない」との構成,さらに,「前記プリフェッチするステップは,前記到着が検出されないと判定された場合には実行されない」との構成を有するのに対し,引用発明は,これらの構成について言及がない点。

(ウ)判断
事案に鑑み,[相違点2]について,先ず判断する。
[相違点2]に係る本願発明の構成は,当審拒絶理由1に提示された他の引用文献には記載も示唆もなく,また,本願の優先日における技術常識ないし周知技術であったともいえない。
よって,引用発明1及び引用発明2から,[相違点2]に係る本願発明の構成を当業者が容易に想到し得たということはできない。

ウ 小括
したがって,本願発明は,[相違点1]について検討するまでもなく,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
本願の請求項2ないし13に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項14に係る発明は,本願発明の「到着」を「出発」に置き換えたものであり,前記[相違点1]及び[相違点2]に係る本願発明の構成を実質的に備えているから,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項15ないし17に係る発明は,本願の請求項14に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項18に係る発明,請求項24に係る発明及び請求項25に係る発明はそれぞれ,本願発明を「装置」,「モバイルデバイス」及び「コンピュータ可読記録媒体」の形式として記載したものであり,前記[相違点1]及び[相違点2]に係る本願発明の構成を実質的に備えているから,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項19ないし23に係る発明は,本願の請求項18に係る発明をさらに限定したものであるので,同様に,引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって,原審拒絶理由1の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

2.当審拒絶理由2について
(1)当審拒絶理由2の概要
当審拒絶理由2の概要は,次のとおりである。

「 理 由

1.(新規事項)平成28年2月16日付け手続補正書でした補正は,下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては,当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下,翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては,翻訳文等又は当該補正後の明細書,特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。
2.(サポート要件)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



●理由1(新規事項)について
(…中略…)

なお,当該補正がなされた請求項1,7,11,16,20,22,24,25及び26に記載した事項は,翻訳文等に記載した事項の範囲内にないから,従属項も含めた請求項1ないし26に係る発明については新規性,進歩性等の特許要件についての審査を行っていない。

●理由2(サポート要件)について
(…中略…)

よって,請求項1ないし26に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものではない。

●理由3(明確性)について
(…中略…)

よって,従属項も含め,請求項1ないし26に係る発明は,明確でない。
(以下省略)」

そうすると,原審拒絶理由2の趣旨は,平成28年2月16日付けの手続補正は,翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものではないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件(新規事項)を満たしておらず,請求項1ないし26に係る発明は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)及び同第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていないから,特許をうけることができない,というものである。

(2)当審拒絶理由2の判断
ア 理由1(新規事項)について
平成28年8月31日付けの手続補正により,特許請求の範囲の各請求項に係る発明から,「メモリのより低いメモリ階層」から「メモリのより高いメモリ階層」への「プリフェッチ」が「事前に定義された時間間隔」でなされるとの新規事項に係る構成が削除されるなど,翻訳文等に記載した事項の範囲内で補正されることにより,理由1は解消した。

イ 理由2(サポート要件)について
前記アと同様の理由により,理由2は解消した。

ウ 理由3(明確性要件)について
平成28年8月31日付けの手続補正により,特許請求の範囲の各請求項に係る発明において,「ジオエリアの重心」が「ジオフェンスで囲まれた領域」に補正され,「プリフェッチ」が「事前に定義された時間間隔」でなされるとの構成が削除されるなどにより,理由3は解消した。

(3)まとめ
よって,原審拒絶理由2の理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-14 
出願番号 特願2013-514404(P2013-514404)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04M)
P 1 8・ 537- WY (H04M)
P 1 8・ 55- WY (H04M)
P 1 8・ 65- WY (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 倍司保田 亨介  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
山中 実
発明の名称 位置に基づく情報のプリフェッチ  
代理人 黒田 晋平  
代理人 村山 靖彦  

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