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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01G
管理番号 1320231
異議申立番号 異議2016-700614  
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-13 
確定日 2016-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5846891号発明「植物栽培装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5846891号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5846891号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成23年12月15日に特許出願され、平成27年12月4日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人北岡睦子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明1ないし5
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」「本件発明4」「本件発明5」という。)。

3 取消理由の概要
申立人が主張する取消理由の概要は以下のとおりである。

(1)本件発明1は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件発明2は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件発明3は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(4)本件発明4は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(5)本件発明5は、甲第1号証ないし甲第11号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特公平5-60325号公報
甲第2号証:特公昭61-59693号公報
甲第3号証:特開2010-88425号公報
甲第4号証:特許第4792533号公報
甲第5号証:特開2008-61570号公報
甲第6号証:国際公開2010/140632
甲第7号証:特開2011-78332号公報
甲第8号証:特開2006-35004号公報
甲第9号証:特開2009-160585号公報
甲第10号証:植物工場学会誌、第7巻第3号第163?165頁、1995年
甲第11号証:植物工場学会誌、第11巻第1号第46?49頁、1999年

4 刊行物の記載
(1)甲第1号証について
甲第1号証には、その記載事項からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「培養液供給部401?404の培養液が貯留される培養液タンク41と、この培養液タンク41から培養液を植物栽培部601?604の栽培ベツド6へ供給して上記培養液タンク41に戻す培養液を循環する手段と、を複数組(4組)備えて、複数種類の植物を栽培するようにした植物養液栽培装置。」

(2)甲第2号証について
甲第2号証には、その記載事項(特に第4図の従来例)からみて、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「培養液111が貯留される貯液槽112と、この貯液槽112から培養液111を複数個(4個)の栽培槽115a,b,c,dへ供給して上記貯液槽112に戻す培養液を循環する手段と、を備えて、複数種類の作物を栽培するようにした養液栽培装置。」

(3)甲第3号証について
甲第3号証には、その記載事項からみて、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「養液Aが貯留される供給タンク44と、この供給タンク44から養液Aを上下複数段の栽培ベッド40へ供給して上記供給タンク44に戻す養液を循環する手段と、を備えた植物栽培システム。」

(4)甲第4号証について
甲第4号証には、その記載事項からみて、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1養液が貯留される第1養液タンク7と、第2養液が貯留される第2養液タンク18と、第1養液タンク7と第2養液タンク18から第1養液と第2養液を複数個の栽培棚槽1へ供給して上記第1養液タンク7と第2養液タンク18に戻す養液を循環する手段と、を備えて、第1養液と第2養液を切り替えて供給できるようにした水耕栽培装置。」

(5)甲第5号証について
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
ア 特許請求の範囲
「【請求項2】
水耕法による野菜栽培において、培養液により野菜を成育して一定期間栽培後、その収穫に先立って培養液の供給を停止、回収し、替わって水を供給して光合成を行なわせて植物体内に蓄積された硝酸態窒素を消費させて、硝酸態窒素の含有量を450ppm以下に減少させることを特徴とする低硝酸態窒素野菜栽培方法。
【請求項3】
培養液を水耕栽培部に供給して回収すると共に、培養液に替えて水を供給して回収する培養液供給及び循環システムと水耕栽培部とからなることを特徴とする低硝酸態窒素野菜栽培システム。
【請求項4】
前記培養液供給および循環システムは、培養液貯留タンク、灌水貯留タンク、培養液加圧ポンプ、培養液回収ポンプ、培養液調整ポンプ、EC/ph値検知制御装置、UV紫外線殺菌灯および精密濾過器を備えることを特徴とする請求項3に記載の低硝酸態窒素野菜栽培システム。
【請求項5】
前記水耕栽培部は、培養液供給管、野菜を植え込む孔を備えた多孔水耕栽管、培養液回収管および人工照明装置を備えることを特徴とする請求項3に記載の低硝酸態窒素野菜栽培システム。」
イ 発明を実施するための最良の形態
「【0020】
図2は、本発明の一実施形態による培養液供給および循環システムを示した模式図である。培養液の供給および循環システム1は、水耕栽培部2内で栽培する野菜に対して、培養液の供給および循環を行なう。まず、培養液の供給および循環システム1は、水耕栽培部2内の野菜の培養液のEC値およびph値を常時検出し、必要に応じて、培養液のEC値およびph値を調節し、2内の野菜に最適で充分な栄養を与え、迅速に成長させ、単位面積当たりの収穫効率を高める。野菜をある程度生育させた後、つまり収穫前の一定期間(本実施形態では72時間)、培養液の供給および循環システム1が培養液を回収し、水だけを提供し、水耕栽培部2内の野菜に基本的な新陳代謝を行なわせる。水耕栽培部2内の野菜に十分に光合成を行なわせ、野菜の茎葉内に蓄積された硝酸態窒素を迅速に消費させると、健康指向の低硝酸態窒素野菜を順調に栽培することができる。」

(6)甲第6号証について
甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 請求の範囲
「[請求項1]
人工照明下での水耕栽培による野菜の生産方法であって、生育させた野菜を、その収穫直前に養液を水に置き換え且つ日長時間を17時間以上として1日以上水耕栽培するものである調整栽培に付すことを特徴とする、生産方法。」
「[請求項6]
該調整栽培において野菜の硝酸イオン含有量が低下するものである、上記1ないし5の何れかの生産方法。」
イ 課題を解決するための手段
「[0011]
・・・野菜の水耕栽培の最終段階において、収穫直前の1?数日にわたって、長い日長時間(1日における明期の時間長をいう。)にし且つ水耕肥料溶液(養液)を水に置き換えることによって、硝酸イオン含有量の急速な低減と、・・・とを起こすことができ・・・」

5 判断
(1)本件発明1について
ア 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明又は甲2発明、甲3発明、甲4発明とを対比すると、甲1発明又は甲2発明、甲3発明、甲4発明のいずれにも、本件発明1の発明特定事項である「上記栽培トレイとは別に設置され、植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整スペースと、を備えたこと」が記載されていない。
(2)甲第5号証及び甲第6号証には、上記4(5)及び(6)に摘記したとおり、養液により植物を一定期間栽培後、その収穫前の数日間は養液に替えて水を吸収させて、植物内の硝酸態窒素の濃度を低減することが開示されているが、甲第5号証及び甲第6号証には、栽培トレイとは別に、植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整スペースを備えることは開示されていない。すなわち、甲1発明又は甲2発明、甲3発明、甲4発明に甲第5及び6号証に記載された発明を適用しても本件発明1とはならない。
(3)なお、甲第7ないし11号証は、本件発明2ないし5に対する証拠として提出されたものであって、栽培トレイとは別に、植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整スペースを備えることは開示されていない。
(4)そして、本件発明1は、「栽培トレイとは別に設置され、植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整スペース」(段落【0006】)を備えた構成であるから、「各栽培トレイへ養液を供給して植物を栽培する一方で、収穫時期に近づいた栽培植物だけを上記栽培トレイから上記収穫前調整スペースに移し替ればよいので、異なる時期において栽培植物内の硝酸態窒素の濃度を低減して栽培植物を収穫することができる。また、養液循環と潅水循環を切り換えるシステムが不要であり、装置のコスト低減も図れる。」(段落【0007】)との作用効果を奏するものである。
(5)したがって、本件発明1は、当業者が甲第1号証ないし甲第6号証に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人は、本件発明1には、収穫前調整のためのスペースがいかなる構成のもので、装置の他の部分とどのように関係しているのかについて、限定がまったく存在せず、そのため、植物に水を吸収させることができる限りあらゆる公知の手段(たとえば、水を張ることのできる適宜のトレイ、プランター、桶、水槽、タンク等々)が、装置の他の部分との関係でもなんらの制限も受けることなしに、全く任意に採用できるのであるから、そもそも想到の困難性は全く存在しない旨主張する。

しかしながら、申立人の上記主張は以下のとおり採用できない。
本件発明1は、「植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整スペース」を、(養液が供給される)「栽培トレイ」とは別に設置することが特定されているが、甲第1ないし4号証には、上記アで述べたようにそのような構成は記載されておらず、植物に水を吸収させる手段が公知であるとしても、本件発明1に想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。

(イ)申立人は、甲第1号証において、植物栽培部601?604の各々は、それぞれ異なった組成の培養液を供給可能な栽培スペースを形成しているから、それらのうちのどの植物栽培部も、他の植物栽培部とは異なる培養条件で栽培する、独立した別の栽培スペースとして利用できる構成のものであり、甲第1号証に記載の発明が備える「別に設置されたスペース」としての独立した別の栽培スペースを、甲第5号証又は甲第6号証に記載の「植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整」を行うためのスペースとして用いることもできたから、本件発明1に想到することは、当業者にとって容易である旨主張する。

しかしながら、申立人の上記主張は以下のとおり採用できない。
甲第1号証において、植物栽培部601?604の各々は、それぞれ異なった組成の培養液を供給可能な栽培スペースを形成しているが、これは異なる種類の植物を栽培することに対応するためであり、同等の機能を有するものであると解される。すなわち、甲第1号証の「植物栽培部601?604」は、本件発明1の「栽培トレイ」に相当するものである。
そして、甲第1号証において、植物の栽培は培養液を用いることが前提であって、植物栽培部601?604の各々は、植物に培養液を供給するスペースであるから、そのうちのどれかを水を供給するスペースとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(ウ)申立人は、甲第2ないし4号証においても、栽培トレイ(栽培槽115a,b,c,d、栽培ベッド40、栽培棚槽1)のうちのどの栽培トレイも、他の栽培トレイとは異なる培養条件で栽培する、独立した別の栽培スペースとして利用できる構成のものであり、甲第2ないし4号証に記載の発明が備える「別に設置されたスペース」としての独立した別の栽培スペースを、甲第5号証又は甲第6号証に記載の「植物に水を吸収させて植物内の硝酸態窒素の濃度を低減する収穫前調整」を行うためのスペースとして用いることもできたから、本件発明1に想到することは、当業者にとって容易である旨主張する。

しかしながら、申立人の上記主張は以下のとおり採用できない。
甲第2ないし4号証においても、栽培トレイ(栽培槽115a,b,c,d、栽培ベッド40、栽培棚槽1)の各々は、甲第1号証に記載の植物栽培部601?604と同様に、養液を供給可能な栽培スペースとして同等の機能を有するものであると解される。
そして、甲第2ないし4号証においても、植物の栽培は養液を用いることが前提であって、栽培トレイ(栽培槽115a,b,c,d、栽培ベッド40、栽培棚槽1)の各々は、植物に養液を供給するスペースであるから、そのうちのどれかを水を供給するスペースとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(2)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲第1号証ないし甲第11号証に記載の発明に基いて容易になし得たものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-10-04 
出願番号 特願2011-274160(P2011-274160)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 本村 眞也竹中 靖典  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 小野 忠悦
住田 秀弘
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5846891号(P5846891)
権利者 大和ハウス工業株式会社
発明の名称 植物栽培装置  
代理人 神保 泰三  

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