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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1320496
審判番号 不服2015-16249  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-02 
確定日 2016-11-01 
事件の表示 特願2010-131534「光学素子、および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 2月10日出願公開、特開2011- 28229、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 事案の概要
1 手続の経緯
本願は,平成22年6月8日(優先権主張 平成21年7月3日)の出願であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成26年 2月28日:拒絶理由通知(同年3月4日発送)
平成26年 5月 7日:意見書
平成26年 5月 7日:手続補正書
平成26年11月17日:拒絶理由通知(同年同月25日発送)
平成27年 1月26日:意見書
平成27年 1月26日:手続補正書
平成27年 5月29日:拒絶査定(同年6月2日送達)(以下「原査定」という。)
平成27年 9月 2日:審判請求
平成27年 9月 2日:手続補正書
平成28年 6月16日:拒絶理由通知(同年同月21日発送)(以下「当審拒絶理由」という。)
平成28年 7月28日:意見書
平成28年 7月28日:手続補正書(この手続補正書による補正を「本件補正」という。)

2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「一主面に可視光の波長以下の微細ピッチで複数配置された,凸状または凹状の構造体を備え,
上記構造体が形成された上記一主面が親水性を有し,
上記構造体が形成された上記一主面の純水に対する接触角は,10.6°以上30°以下であり,
上記構造体が形成された上記一主面のオレイン酸に対する接触角は,10.7°以上30°以下であり,
上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい光学素子。」

なお,請求項2?11は,直接または間接的に請求項1の記載を引用して記載されたものであり,これら請求項に係る発明は,本願発明の構成に対して,さらに発明特定事項を付加した発明となっている。

3 原査定の理由の概要
原査定の理由は,概略,本願発明は,本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1:再公表特許第2008/096872号
引用文献2:特開2007-313686号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平10-166495号公報(周知技術を示す文献)

4 当審拒絶理由
当審拒絶理由は,概略,本件補正前の請求項1?13に係る発明のうち,本件補正前の請求項12に係る発明である本願発明以外の発明は,その優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用例に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用例1:国際公開第2008/096872号
引用例2:特開2007-58162号公報
引用例3:特開2007-313686号公報

第2 当合議体の判断
念のために,本願発明が,原査定の理由の引用文献1に対応する国際公開である,上記引用例1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か,以下,検討する。
1 引用例1の記載事項及び引用発明
(1) 引用例1の記載事項
引用例1には,概略,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定に使用した箇所である。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は,透明成形体およびこれを用いた反射防止物品に関する。
(中略)
背景技術
[0002] 各種ディスプレー,レンズ,ショーウィンドーなどの空気と接する界面(表面)では,太陽光や照明等が表面で反射することによる視認性の低下が問題点となっていた。反射を減らすための方法としては,フィルム表面での反射光と,フィルムと基材の界面での反射光とが干渉によって打ち消し合うように,屈折率の異なる数層のフィルムを積層する方法が知られている。これらのフィルムは,通常,スパッタリング,蒸着,コーティング等の方法で製造される。しかし,このような方法では,フィルムの積層数を増やしても反射率及び反射率の波長依存性の低下には限界があった。また,製造コスト削減のために積層数を減らすためには,より低屈折率の材料が求められていた。
[0003] 材料の屈折率を下げるためには,何らかの方法で材料中に空気を導入することが有効であるが,その一つとして,例えばフィルムの表面に微細凹凸構造を形成する方法が広く知られている。この方法によれば,微細凹凸構造が形成された表面の層全体の屈折率が,空気と微細凹凸構造を形成する材料との体積比により決定されるため,大幅に屈折率を下げることが可能になり,積層数が少なくても反射率を低下させることができる。
[0004] また,ガラス基板上に形成された反射防止膜において,角錐状の凸部が膜全体に連続的に形成された反射防止膜が提案されている(例えば,特許文献1参照)。特許文献1に記載のように,角錐状の凸部(微細凹凸構造)が形成された反射防止膜は,膜面方向に切断した時の断面積が連続的に変化し,空気から基板まで徐々に屈折率が増大していくため,有効な反射防止の手段となる。また,該反射防止膜は,他の方法では置き換えられない優れた光学性能を示す。
[0005] 上記のような微細凹凸構造による反射防止膜は,空気と接する界面で使用されるため,主に防汚性と耐擦傷性が付与されていることが好ましい。
[0006] 防汚性付与の方法としては,微細凹凸構造の表面上にポリテトラフルオロエチレンからなる皮膜を成膜する方法(例えば,特許文献2参照)や,フッ素含有化合物を含む樹脂組成物から形成される層に微細凹凸構造を有するスタンパを圧接する方法(例えば,特許文献3参照)など,表面エネルギーを低下させて汚れをはじくことにより,防汚性を付与する方法が提案されている。
[0007] また,基材表面に,微細な凹凸構造をもつ光触媒層(酸化チタンなど)をコーティングする方法(例えば,特許文献4参照)や,基材表面にケイ素酸化合物などの無機酸化物からなる親水性皮膜をスパッタリングにより形成する方法(例えば,特許文献5参照),無機微粒子溶液をソーダガラスの表面にスピンコートした後,加熱し硬化させる方法(例えば,特許文献6参照)などのように表面を親水化することにより,付着した汚れを水で浮かせて拭き取る方法も提案されている。
[0008] 耐擦傷性を付与する方法としては,上記の特許文献5および6のように塗膜に無機微粒子を分散させる方法や,架橋性の多官能モノマーを硬化させた高硬度樹脂を用いることが一般的である。
[0009] その他にも,微細凹凸構造ではないが,親水性のモノマーと多官能モノマーとを組み合わせて,防汚性と耐擦傷性の両立を実現する方法(例えば,特許文献7参照)が幾つか提案されている。
[0010] しかしながら,特許文献1記載の活性エネルギー線硬化樹脂は,親水性ではないために,水接触角が25°より大きくなり防汚性が発現しない。
[0011] また,特許文献2および3に記載のように表面エネルギーを低下させると汚れは付着しにくくなるが,使用時に凹部に汚れが入り込んでしまうため,一旦汚れが付着するとその汚れを取り除くことは困難であるという問題点があった。
[0012] また,特許文献4に記載のように光触媒を用いた場合,室内では汚れの分解が進行しにくかった。また,樹脂フィルム等を基材として用いてその表面に光触媒層をコーティングすると,樹脂フィルムまでも分解されてしまう等の問題があった。
[0013] また,特許文献5,6に記載の製造方法で得られる微細凹凸構造を有する防汚性物品は,隣り合う凸部同士の距離や,凸部の高さを調節することが難しく,反射防止性が十分に得られないという問題があった。
[0014] また,特許文献7に記載の方法を微細凹凸構造に適用しても,十分に防汚性が付与されないという問題点があった。」

イ 「発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0015] 本発明は,上記事情を鑑みてなされたもので,表面に防汚性および耐擦傷性の良好な微細凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂が形成された透明成形体の提供を課題とする。
課題を解決するための手段
[0016] 本発明の透明成形体は,透明基板と,前記透明基板の少なくとも一方の表面に形成された活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物からなる凹凸層とを含む透明成形体であって,前記凹凸層は,隣り合う凸部同士の間隔が可視光の波長以下である凹凸構造を有し,前記凹凸層の表面の水接触角が25°以下,かつ前記凹凸層の表面の弾性率が200MPa以上であることを特徴とする。
[0017] ここで,前記凹凸層を形成する活性エネルギー線硬化樹脂が,4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位10?50質量部,2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位30?80質量部,単官能単量体単位0?20質量部の重合体からなることが好ましい。
[0018] 前記2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位は,ポリエチレンジアクリレート単位(エチレングリコールの平均繰り返し単位が6?40,または9?30であることが好ましい)であることが好ましい。
[0019] 本発明の反射防止物品は,前記透明成形体を用いることを特徴とする。
発明の効果
[0020] 本発明によれば,表面に耐擦傷性および防汚性の良好な凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂が形成された透明成形体を実現できる。」

ウ 「発明を実施するための最良の形態
[0023] 以下本発明を詳細に説明する。
図1は,本発明の透明成形体10の一例を示す縦断面図である。透明成形体10は,後述する透明基材11の表面に活性エネルギー線硬化樹脂12が形成されたものである。透明成形体10においては,その表面に微細凹凸構造が形成され,微細凹凸構造の表面の水接触角が25°以下である。
[0024] 透明成形体10は,表面全体に微細凹凸構造が形成されていてもよく,表面の一部に微細凹凸構造が形成されていてもよい。特に,透明成形体10が膜形状の場合は,一方の表面の全面に微細凹凸構造が形成されていてもよく,一方の表面の一部に微細凹凸構造が形成されていてもよい。また,他方の表面に微細凹凸構造が形成されていてもよく,形成されていなくてもよい。凹凸構造は,自己組織化を主として形成されるため,均一形状をとることもあれば,不均一形状をとることもある。
[0025] 前記微細凹凸構造は,該微細凹凸構造の隣り合う凸部同士の距離w1が可視光の波長以下であると,反射防止性を発現できるので,透明成形体が反射防止物品である場合には好ましい。前記距離w1が可視光の波長より大きいと,微細凹凸構造が形成された表面上で可視光の散乱が起こるため,反射防止物品などの光学用途には適さない。また,前記距離w1が30nmより小さい微細凹凸構造は作製することが困難である。
[0026] なお,本発明において「可視光の波長」とは400nmの波長を意味する。
[0027] 前記凸部13の高さd1は100nm以上であることが好ましく,150nm以上であることがより好ましい。100nm未満だと最低反射率が上昇したり,特定波長の反射率が上昇したりして,透明成形体が反射防止物品である場合には反射防止性が不十分となる。
[0028] アスペクト比(前記凸部13の高さ/隣り合う凸部同士の間隔)は,1.0?5.0であることが好ましく,1.2?4.0であることがより好ましく,1.5?3.0であることが最も好ましい。アスペクト比が1.0より小さいと,最低反射率が上昇したり,特定波長の反射率が上昇したりして,透明成形体が反射防止物品である場合には反射防止性が不十分となり,5より大きいと,擦った際に凸部が折れやすいため,耐擦傷性が低下したり,反射防止性能を示さなくなったりする。
[0029] なお,本発明において「凸部の高さ」とは,図1に示すように,凸部13の先端13aから隣接する凹部14の底部14aまでの垂直距離のことである。
また,微細凹凸構造の凸部13の形状は特に限定されないが,連続的に屈折率を増大させて低反射率と低波長依存性を両立させた反射防止機能を得るためには,図1に示すような略円錐形状,図2に示すような釣鐘形状など,膜面で切断した時の断面積の占有率が連続的に増大するような構造が好ましい。また,より微細な凸部が複数合一して上記の微細凹凸構造を形成していてもよい。
[0030] 本発明の透明成形体においては,その表面に上述したような微細凹凸構造が形成されている。この微細凹凸構造の表面の水接触角は,25°以下が好ましく,23°以下がより好ましく,21°以下が最も好ましい。水接触角が25°より大きいと十分な防汚性が発現せず,油脂などの汚れを拭き取りにくくなる。また,水接触角が3°より低いと,樹脂が吸水膨張して凹凸形状が変化し,所望の反射防止特性を示さないことがあるため,水接触角は3°以上であることが好ましい。水接触角を25°以下とするためには,微細凹凸構造を構成する材料を適宜選択すればよい。なお,本発明の透明成形体が,例えばフィルムのような膜形状をしている場合,一方の表面の全面または一部に上述した微細凹凸構造を形成し,該表面の水接触角が25°以下であれば,他方の表面が微細凹凸構造を有する場合,その表面の水接触角は25°を超えてもよい。
[0031] また,前記微細凹凸構造の表面の弾性率は,フィッシャー社製「FISCHERSCOPE^( (R)) HM2000」を用いて,実施例に記載の方法で測定する。該表面の弾性率は200MPa以上であることが好ましく,600MPa以上であることがより好ましい。弾性率が200MPaよりも小さいと,十分な耐擦傷性が発現しない。また,弾性率が3500MPaを超えると,例えば透明基材上に微細凹凸構造を有する樹脂を形成する場合に,透明基材の変形に樹脂が追随できないために,樹脂に小さな亀裂が入ることがあるため,該表面の弾性率は3500MPa以下であることが好ましく,3000MPa以下であることがより好ましく,2500MPa以下であることが最も好ましい。」

エ 「[図1]



オ 「[図2]



カ 「[0032] 透明成形体の表面に微細凹凸構造を形成する方法は特に限定されないが,例えば,微細凹凸構造が形成されたスタンパを用いて,射出成形,プレス成形する方法,微細凹凸構造が形成されたスタンパと透明基材の間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し,活性エネルギー線照射にて活性エネルギー線硬化性組成物を硬化してスタンパの凹凸形状を転写した後,離型する方法,微細凹凸構造が形成されたスタンパと透明基材の間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し,活性エネルギー線硬化性組成物にスタンパの凹凸形状を転写した後離型し,その後に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させる方法が挙げられる。中でも,凹凸構造の転写性,表面組成の自由度を考慮すると,微細凹凸構造が形成されたスタンパと透明基材の間に活性エネルギー線硬化性組成物を充填し,活性エネルギー線照射にて活性エネルギー線硬化性組成物を硬化してスタンパの凹凸形状を転写した後,離型する方法が本発明には適している。」

キ 「[0038] 活性エネルギー線硬化樹脂は1種以上の単量体単位から構成されるが,水接触角を25°以下にするためには,4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位10?50質量部,2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位30?80質量部,単官能単量体単位0?20質量部から構成されるのが好ましい。なお,4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位と2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位は,同一であってもよい。
[0039] 4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位は,4官能以上が好ましく,5官能以上の単量体単位を用いることがより好ましい。例えば,ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物,ウレタンアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL220,EBECRYL1290,EBECRYL1290K,EBECRYL5129,EBECRYL8210,EBECRYL8301,KRM8200),ポリエーテルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL81),変性エポキシアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL3416),ポリエステルアクリレート類(ダイセル・サイテック社製:EBECRYL450,EBECRYL657,EBECRYL800,EBECRYL810,EBECRYL811,EBECRYL812,EBECRYL1830,EBECRYL845,EBECRYL846,EBECRYL1870)などが好適である。これらの多官能(メタ)アクリレート単位は単独で用いても,2種以上を併用してもよい。4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位は,10?50質量部用いることが好ましい。耐水性や耐薬品性の観点から,20?50質量部用いることがより好ましく,30?50質量部用いることが最も好ましい。添加量が10質量部より少ないと弾性率が低すぎて耐擦傷性が低下し,50質量部より多いと樹脂表面に小さな亀裂が入って外観不良となることがある。
[0040] 2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位としては,アロニックスM-240,アロニックスM260(東亞合成社製),NKエステルAT-20E,NKエステルATM-35E(新中村化学社製)などの長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能アクリレート類,ポリエチレングリコールジメタクリレートが好適に用いられる。水接触角を25°以下にするためには,一分子内に存在するポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位の合計が6?40であることが好ましく,9?30であることがより好ましく,12?20であることが最も好ましい。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が6より小さいと,親水性が十分でないために防汚性が低下し,40より大きいと,4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとの相溶性が低下するために,活性エネルギー線硬化組成物が分離した状態になってしまう。これらの親水性(メタ)アクリレート単位は単独で用いても,2種以上を併用してもよい。2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位は,30?80質量部用いることが好ましく,40?70質量部用いることがより好ましい。添加量が30質量部より少ないと表面の親水化が不足して防汚性が十分に発現せず,80質量部より多いと表面の弾性率が低下して耐擦傷性が低下してしまう。
[0041] 単官能単量体単位は4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位および2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位と相溶するものであれば特に限定されないが,例えばM-20G,M-90G,M-230G(新中村化学社製)などのエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート類,ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどのエステル基に水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート類,単官能アクリルアミド類,メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート,メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートなどのカチオン性単量体類などの親水性単官能単量体が好適である。また,アクリロイルモルホリンやビニルピロリドンなどの粘度調整剤,透明基材への密着性を向上させるアクリロイルイソシアネート類などの密着性向上剤なども用いることができる。
[0042] 単官能単量体単位は0?20質量部用いることが好ましく,5?15質量部用いることがより好ましい。単官能単量体単位を導入することにより,透明基材と活性エネルギー線硬化樹脂の密着性が向上する。添加量が20質量部より多いと,4官能以上の多官能(メタ)アクリレート単位または2官能以上の親水性(メタ)アクリレート単位のどちらかの添加量が不足して防汚性または耐擦傷性が十分に発現しないことがある。
[0043] これらの単官能単量体単位は,1種または2種以上を(共)重合した低重合度の重合体として活性エネルギー線硬化性組成物に0?35質量部配合してもよい。具体的には,M-230G(新中村化学社製)などのエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート類と,メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートの40/60共重合オリゴマー(MRCユニテック社製「MGポリマー」)などが挙げられる。
[0044] さらに,活性エネルギー線硬化性組成物には上述した各種単量体や低重合度の重合体以外に帯電防止剤,離型剤,紫外線吸収剤,コロイダルシリカなどの微粒子が含まれていてもよい。」

ク 「[0049] このようにして得られる本発明の透明成形体は,例えば反射防止膜(反射防止フィルムを含む),反射防止体などの反射防止物品,光導波路,レリーフホログラム,太陽電池,レンズ,偏光分離素子,有機エレクトロルミネッセンスの光取り出し率向上部材などの光学物品,細胞培養シートとしての用途に展開が期待できる。特に反射防止膜(反射防止フィルムを含む),反射防止体などの反射防止物品としての用途に適している。
[0050] 反射防止物品が膜形状である場合には,例えば,液晶表示装置,プラズマディスプレイパネル,エレクトロルミネッセンスディスプレイ,陰極管表示装置のような画像表示装置,レンズ,ショーウィンドー,自動車メーターカバー,眼鏡レンズ等の対象物の表面に貼り付けて使用される。
[0051] 反射防止物品が立体形状である場合には,予め用途に応じた形状の透明基材を用いて透明成形体を製造しておき,これを上記対象物の表面を構成する部材として使用することもできる。
[0052] また,対象物が画像表示装置である場合には,その表面に限らず,その前面板に対して反射防止物品を貼り付けてもよいし,前面板そのものを本発明の透明成形体から構成することもできる。
[0053] このように本発明の透明成形体は,表面に微細凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂から形成され,該表面の水接触角が25°以下であるため,防汚性に優れる。また,該表面の弾性率が200MPa以上であるため,耐擦傷性に優れる。また,微細凹凸構造の隣り合う凸部同士の距離が可視光の波長(400nm)以下であれば,反射防止性に優れるので,特に反射防止物品に好適に使用できる。また,凸部の高さが100nm以上であれば,反射防止性により優れる。
[0054] さらに,本発明の反射防止物品は,本発明の透明成形体を用いるので,防汚性と反射防止性に優れる。」

ケ 「[0055] 以下,本発明を実施例により具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
[0056]<各種評価および測定方法>
(水接触角の判定)
接触角測定装置(Kruss社製,「DSA10-Mk2」)を用いて,11.6μlの水を,後述する実施例および比較例において作製した活性エネルギー線硬化樹脂の表面に滴下した後,10秒後の接触角を1秒間隔で10点測定し,それらの平均値を算出した。同一の操作を,水を滴下する位置を変えて3回行い,それらの平均値を算出することにより水接触角を決定した。」

コ 「実施例1
[0065]<透明成形体の製造>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20質量部,アロニックスM-260(東亜合成社製,ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位は13)70質量部,ヒドロキシエチルアクリレート10質量部にイルガキュア184(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)を,単量体を100質量部として1.5質量部溶解させ,活性エネルギー線硬化性組成物を得た。該活性エネルギー線硬化性組成物をスタンパ上に数滴垂らし,アクリル樹脂フィルムで押し広げながら被覆した後,フィルム側から400mJ/cm2(審決注:「^(2)」の誤記。)のエネルギーで紫外線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を光硬化させた。フィルムとスタンパを剥離して,図2に示すような,隣り合う凸部同士の距離w1が200nm,凸部の高さd1が200nmの微細凹凸構造を有する透明成形体を得た。
[0066]<評価>
得られた透明成形体の水接触角,防汚性試験,耐擦傷性試験,反射率の各評価を行った。結果を表1に示す。
また,透明成形体の表面を電子顕微鏡で観察したところ,凸部が2?3個合一することで,隣り合う凸部同士の距離が,スタンパの距離よりも大きくなっていた。」

サ 「[0079][表1]



シ 「[0080] 表1からも明らかなように,実施例の透明成形体は,水接触角が25°以下であり,水拭きによる指紋拭き取りの効果が見られ,指紋が目視でわからない程度まで拭き取り可能となった。更に実施例の透明成形体は,表面の弾性率が200MPa以上であるので,耐擦傷性に優れ,試験後の傷つきは見られなかった。また,いずれも波長依存性の小さい低反射率の透明成形体であった。
[0081] 一方,比較例の透明成形体は,水接触角が25°より大きなものは,実施例に比べて水拭きによる指紋拭き取りの効果が劣っており,弾性率が200MPaより小さいものは耐擦傷性が大きく劣っていた。また,ポリエチレングリコールの繰り返し単位が6より小さいものは,実施例に比べて水拭きによる指紋拭き取りの効果が劣っていた。
産業上の利用可能性
[0082] 本願発明の透明成形体は,表面に微細凹凸構造を有する活性エネルギー線硬化樹脂から形成され,該表面の水接触角が25°以下であるため,防汚性に優れる。また,該表面の弾性率が200MPa以上であるため,耐擦傷性に優れる。また,微細凹凸構造の隣り合う凸部同士の距離が可視光の波長(400nm)以下であれば,反射防止性に優れるので,特に反射防止物品に好適に使用できる。また,凸部の高さが100nm以上であれば,反射防止性により優れる。
さらに,本願発明の反射防止物品は,本発明の透明成形体を用いるので,防汚性と反射防止性に優れる。」

(2)引用発明
そうすると,引用例1には,実施例1として,透明成形体に関する以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお,下記の各構成を引用した段落番号等を参照のため併記した。
「[0065]ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)20質量部,アロニックスM-260(東亜合成社製,ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位は13)70質量部,ヒドロキシエチルアクリレート10質量部にイルガキュア184(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)を,単量体を100質量部として1.5質量部溶解させ,活性エネルギー線硬化性組成物を得て,
該活性エネルギー線硬化性組成物をスタンパ上に数滴垂らし,アクリル樹脂フィルムで押し広げながら被覆した後,フィルム側から400mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物を光硬化させ,
フィルムとスタンパを剥離して得られる,隣り合う凸部同士の距離w1が200nm,凸部の高さd1が200nmの微細凹凸構造を[0082]表面に有する活性エネルギー線硬化樹脂から形成される透明成形体であって,
[0056]接触角測定装置を用いて,11.6μlの水を,活性エネルギー線硬化樹脂の表面に滴下した後,10秒後の接触角を1秒間隔で10点測定し,それらの平均値を算出し,同一の操作を,水を滴下する位置を変えて3回行い,それらの平均値を算出することにより決定した[0079][表1]水接触角が18.0°であり,
[0082]反射防止物品として用いられる
[0065]透明成形体。」

2 対比及び判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 構造体
引用発明の「微細凹凸構造」は,「隣り合う凸部同士の距離w1が200nm」である。引用発明の「微細凹凸構造」は,「隣り合う凸部」を有しているのであるから,「複数」配置されているといえる。引用発明の「微細凹凸構造」の「隣り合う凸部同士の距離w1」は,本願発明の「微細ピッチ」に相当する。ここで,「200nm」が可視光の波長以下であることは技術常識であり,本願の明細書においても「可視光の波長以下とは,約400nm以下の波長を示す。」と記載されている(段落【0031】)。したがって,引用発明の「微細凹凸構造」は,本願発明の「構造体」に相当し,本願発明の「可視光の波長以下の微細ピッチで複数配置された」及び「凸状または凹状」との要件を満たす。

イ 光学素子
引用発明の「反射防止物品として用いられる」「透明成形体」は,本願発明の「光学素子」に相当する。そして,引用発明の「透明成形体」の「微細凹凸構造」が形成された面は,本願発明の「一主面」に相当するとともに,引用発明の「透明成形体」は,本願発明の「光学素子」の「一主面」に「構造体を備え」るとの要件を満たす。

ウ 親水性,接触角
引用発明の「活性エネルギー線硬化樹脂」は,「隣り合う凸部同士の距離w1が200nm,凸部の高さd1が200nmの微細凹凸構造を表面に有する」ところ,「接触角測定装置を用いて,11.6μlの水を,活性エネルギー線硬化樹脂の表面に滴下した後,10秒後の接触角を1秒間隔で10点測定し,それらの平均値を算出し,同一の操作を,水を滴下する位置を変えて3回行い,それらの平均値を算出することにより決定した水接触角が18.0°」である。引用発明の「活性エネルギー線硬化樹脂」の「表面」の「水接触角」は,「18.0°」であるから,測定条件等の差異を考慮するとしても,本願発明の「上記構造体が形成された上記一主面の純水に対する接触角は,10.6°以上30°以下であり」の要件を満たすといえる。
「親水性」に関して,本願の発明の詳細な説明を参照しても,水との相互作用がどの程度大きく,親和性がどの程度大きければ「親水性」であるのか明確な定義は存在しない。しかしながら,本願の発明の詳細な説明の段落【0025】には,「本発明では,可視光の波長以下の微細ピッチで凸状または凹状の構造体を基体の一主面に複数配置し,構造体が形成された基体の一主面に親水性を付与し,純水に対する接触角を30°以下としている。」と記載されている。そして,引用発明の「活性エネルギー線硬化樹脂」の「表面」の「水接触角」は「18.0°」である。したがって,引用発明の「活性エネルギー線硬化樹脂」の「表面」は,「親水性」を有するといえる。よって,引用発明の「透明成形体」は,本願発明の「上記構造体が形成された上記一主面が親水性を有」するとの要件を満たす。

(2) 一致点
本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「一主面に可視光の波長以下の微細ピッチで複数配置された,凸状または凹状の構造体を備え,
上記構造体が形成された上記一主面が親水性を有し,
上記構造体が形成された上記一主面の純水に対する接触角は,10.6°以上30°以下である光学素子。」

(3) 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。

本願発明の「光学素子」は,「上記構造体が形成された上記一主面のオレイン酸に対する接触角は,10.7°以上30°以下であり,上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい」のに対して,引用発明の「透明成形体」は,オレイン酸に対する接触角が不明であり,したがって,「上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい」か否かも不明な点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用例1には,光学素子の水に対する接触角についての記載はあるものの,オレイン酸に対する接触角について一切記載がなく,したがって,オレイン酸に対する接触角と純水に対する接触角との関係についても記載がない。そうしてみると,引用例1には,当業者が「上記構造体が形成された上記一主面のオレイン酸に対する接触角は,10.7°以上30°以下」とするとともに「上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい」とすることについての動機付けが存在しないというべきである。
そして,その他の引用例等を参照しても,引用発明の光学素子について,「上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい」ものとする合理的理由もない。
したがって,当業者が,引用発明に基づいて,「上記構造体が形成された上記一主面のオレイン酸に対する接触角は,10.7°以上30°以下であり,上記オレイン酸に対する接触角が,上記純水に対する接触角より大きい」「光学素子」とすることは,容易に発明できたということができない。

(5)小括
したがって,本願発明は,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2?11に係る発明は,本願発明をさらに限定したものであるので,本願発明と同様に,当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,原査定の理由或いは当審拒絶理由によっては,本願を拒絶することはできない。

第3 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-18 
出願番号 特願2010-131534(P2010-131534)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 居島 一仁大森 伸一  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
多田 達也
発明の名称 光学素子、および表示装置  
代理人 杉浦 正知  
代理人 杉浦 拓真  

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