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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1320651
審判番号 不服2015-6879  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-10 
確定日 2016-10-20 
事件の表示 特願2013-242397号「飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 4日出願公開、特開2015-100298号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月22日の出願であって、平成27年1月6日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年4月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。
その後、当審において平成28年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年5月27日に審判請求人から意見書及び手続補正書が提出された。

第2 当審で通知した拒絶理由の概要
当審において平成28年3月25日付けで通知した拒絶理由は、少なくとも特許法36条6項1号及び特許法36条6項2号を根拠とするものであり、その概要は、以下のとおりである。

(特許法第36条第6項第1号)
「平成27年4月10日付け手続補正により、特許請求の範囲は、以下のとおり補正された。

『【請求項1】
β-caryophylleneを0.5?10ppb含有する水又は炭酸水。
【請求項2】
リフレッシュ効果を有することを特徴とする請求項1に記載の水又は炭酸水。
【請求項3】
水又は炭酸水に対して濃度が0.5?10ppbとなるようにβ-caryophylleneを添加する水又は炭酸水の製造方法。』

そして、発明の課題は、『上記のように、飲料が気持ちを落ち着かせてリラックスをさせるという作用を有することは必要ではあるが、生活環境中にて常にリラックスすることが求められるのではなく、右脳を活性化(興奮)させて、より思考を深める等が要請されるときもある。
そのようなときにおいて、これまでの飲料は上記のように逆のリラックスをする効果を有していたり、あるいは気分転換等をさせるに留まっていたため、そのような効果ではない右脳を活性化(興奮)させることを目的とした飲料を提供すること』(段落【0006】。以下『本願課題』という。)と認められる。
しかしながら、発明の詳細な説明において、『水又は炭酸水』について、右脳を活性化(興奮)させることについて確認されたものは、実施例1のサンプルC:β-caryophylleneを1ppb含有する炭酸水100ml(【0015】、【0016】。下線は当審で付与。)、 実施例2のサンプルH:β-caryophylleneを0.5ppb含有する炭酸水100ml(【0017】?【0019】)、及び実施例3のサンプルK:β-caryophyllene含有ホップ香料が添加された水100ml(β-caryophyllene1ppb含有)、サンプルL:β-caryophyllene含有ホップ香料が添加された炭酸水100ml(β-caryophyllene1ppb含有)(【0020】、【0021】)のものである。
そして、以上の記載事項から、『水又は炭酸水』について、本願課題を解決したものは、(1)β-caryophylleneを0.5?1.0ppb含有した炭酸水、(2)β-caryophyllene含有ホップ香料が添加されてβ-caryophylleneを1.0ppb含有した炭酸水、及び(3)β-caryophyllene含有ホップ香料が添加されてβ-caryophylleneを1.0ppb含有した水並びに(4)各成分を添加して製造する製造方法のみである。
さらに、上記(1)?(3)並びに(4)以外の、β-caryophylleneの添加量であっても、本願課題が解決できるという技術常識は存在しない。
なお、本願の図2(E)及び(F)に示されるように、水と炭酸水では鎮静効果についての傾向が異なるから、炭酸水についての結果から水での結果を類推することはできない。
そうすると、飲用する者に種々の影響を及ぼす水や炭酸水を含む上記本願請求項1?3に係る発明の範囲まで、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。」

(特許法36条6項2号)
「(1) 請求項1の『β-caryophylleneを0.5?10ppb含有する水又は炭酸水。』との記載は、『水又は炭酸水』がβ-caryophyllene 以外の成分を含まないものを特定しているとも、あるいは、β-caryophyllene 以外の成分を含んだものを特定しているとも理解でき、発明の範囲を不明確としている。この点について、発明の詳細な説明の記載をみると、『日常生活の各場面において、単に味わったり、水分補給を行ったり、歓談時に共に味を楽しむという目的で、水、お茶、コーヒー、炭酸飲料、ジュース、ビール等の飲料を飲むことが行われてきた。また、水やお茶、炭酸水等の飲料に柑橘類等の果物等の香料を付与してなる飲料も多く市販されている。・・・』(【0002】)、
及び『(飲料)
本発明においてβ-caryophylleneが0.5?10ppbとなるように含有される対象の飲料としては、従来公知の飲料でよく、水、フレーバードウォーター、炭酸水、フレーバード炭酸水、ノンアルコールビール、ビール、茶飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁含有飲料、ジュース、野菜飲料、ココア飲料、乳飲料等である。
本発明において、これらの飲料が含有できる他の成分としては、通常、これらの飲料が含有できる成分でよく、例えば、香料、着色料、甘味料、酸味料、香辛料、酸化防止剤、褐変防止剤等を含有させることができる。』(【0011】)との記載を参酌すると、『水又は炭酸水』は、『柑橘類等の果物等の香料を付与して』いないもの、並びに『フレーバードウォーター』及び『フレーバード炭酸水』でないものが想定され、一方で、他の成分として香料等を含むものも想定されるため、不明確である。」

第3 判断
1 特許法36条6項1号について
(1) 平成28年5月27日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は以下のとおりである。

「【請求項1】
β-caryophylleneを0.5?1.0ppbとなるように、β-caryophyllene又はホップ香料を含有する水又は炭酸水(但し、コーラ飲料及びスポーツ飲料を除く)。
【請求項2】
水又は炭酸水に対して、β-caryophyllene又はホップ香料を、β-caryophylleneの濃度が0.5?1.0ppbとなるように添加する、β-caryophylleneを含有する水又は炭酸水の製造方法。」

(2) 本願明細書の記載

(H1)「【0002】
日常生活の各場面において、単に味わったり、水分補給を行ったり、歓談時に共に味を楽しむという目的で、水、お茶、コーヒー、炭酸飲料、ジュース、ビール等の飲料を飲むことが行われてきた。また、水やお茶、炭酸水等の飲料に柑橘類等の果物等の香料を付与してなる飲料も多く市販されている。
また、特許文献1に記載されているようにバラ様の香りを伴ったフルーツ様の香りが付与されたビールテイスト飲料も知られている。
これらの飲料は、例えば気持ちを落ち着かせてリラックスをするためにも飲用されており、確かに、これらの飲料は、リラックスする等の心理面での効果を期待して飲用することが多いが、リラックスする状態は脳が比較的安静化された状態である。
【0003】
さらに、ビールに呈味が類似するノンアルコール飲料も市販されている。
ビールに呈味が類似するノンアルコール飲料の一部やビールには原料としてホップが使用されており、そのホップの香気成分がこれらの飲料の呈味を大きく左右していた。ビールに含有されるホップに由来する香気成分の濃度には一定の範囲があり、ビールに呈味を類似させるノンアルコール飲料においても、多くてもビールと同様のビールの呈味となるような濃度のホップ香気成分が含有されている。
これに関して、非特許文献1の第3表に記載されているように、ビールに特徴的な香りを付与するホップ由来成分として27種の香気成分が示された。また、第2表にはホップの品種によって異なるものの、ビールにβ-caryophyllene(β-カリオフィレン)が0.1?0.3ppbの濃度で含有されていることが示されている。
また、非特許文献2の巻末の日本語Summaryには、ビール中に残存するホップ由来の香気成分が27種存在し、そのうち19種を同定できたことが記載され、さらに、第20頁表1-1には、日本で市販されているビール中の10種のテルペノイドの濃度一覧が示されており、そのうちβ-caryophylleneの濃度が0.19μg/Lであること、さらに第25頁の表1-3には実験のために試作したビールのβ-caryophylleneの濃度はホップの品種により異なり、0.1?0.3μg/Lの範囲であることが記載されている。」(下線は、当審で付与したものである。以下同様である。)

(H2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、飲料が気持ちを落ち着かせてリラックスをさせるという作用を有することは必要ではあるが、生活環境中にて常にリラックスすることが求められるのではなく、右脳を活性化(興奮)させて、より思考を深める等が要請されるときもある。
そのようなときにおいて、これまでの飲料は上記のように逆のリラックスをする効果を有していたり、あるいは気分転換等をさせるに留まっていたため、そのような効果ではない右脳を活性化(興奮)させることを目的とした飲料を提供することも求められていた。」

(H3)「【0011】
(飲料)
本発明においてβ-caryophylleneが0.5?10ppbとなるように含有される対象の飲料としては、従来公知の飲料でよく、水、フレーバードウォーター、炭酸水、フレーバード炭酸水、ノンアルコールビール、ビール、茶飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁含有飲料、ジュース、野菜飲料、ココア飲料、乳飲料等である。
本発明において、これらの飲料が含有できる他の成分としては、通常、これらの飲料が含有できる成分でよく、例えば、香料、着色料、甘味料、酸味料、香辛料、酸化防止剤、褐変防止剤等を含有させることができる。」

(H4)「【0015】
(実施例1)
実施例1においては、ホップ香料に含まれるいくつかの物質について、これらを添加した飲料を飲用したときの右脳への影響を確認した。
ホップ香料に含有される4つの物質(isobutyl isobutanoate, γ-terpinene, β-caryophyllene, geranyl acetate )を用い、ホップ香料に含有されるこれら4つの物質の重量比を考慮して、それぞれの物質の添加量を該重量比を考慮し調整して炭酸水(ガス圧3.0vol%)に添加した。これらの物質を個別に添加してなる4種の炭酸水100mlそれぞれを7名の被験者が飲用し、飲用前後の右脳の脳波を測定した。その脳波の測定結果から飲用前後の右脳基礎律動リズム度(覚醒感)を求めた。被験者が飲用した飲料のサンプルA?Dは以下の通り。
サンプルAはisobutyl isobutanoateを0.5ppb含有する炭酸水100ml
サンプルBはγ-terpineneを10ppb含有する炭酸水100ml
サンプルCはβ-caryophylleneを1ppb含有する炭酸水100ml
サンプルDはgeranyl acetateを30ppb含有する炭酸水100ml
これらの結果を図1の(A)?(D)に示す。」

(H5)「【0016】
図1の(A)?(D)に示す結果によると、isobutyl isobutanoateやγ-terpineneを添加したサンプル(A)及び(B)の炭酸水を飲用すると、飲用前よりも右脳基礎律動リズム度が若干低下して右脳の覚醒感が興奮寄りになったものの、ほとんど変化らしい変化ではない。
また、サンプル(D)の炭酸水を飲用すると飲用前より脳基礎律動リズム度が若干高くなり右脳の覚醒感が鎮静寄りになった。
これらに対して、本発明におけるβ-caryophylleneを添加したサンプル(C)の炭酸水を飲用すると、飲用前よりも明らかに右脳基礎律動リズム度が低下して右脳の覚醒感が興奮寄りになった。この結果は、β-caryophylleneを含有してなる飲料を飲用することにより、より右脳の活動が活性化(興奮)し、より思考を深め、リフレッシュされたことを示している。」

(H6)「【0017】
(実施例2)
実施例2においては、水と炭酸水の右脳に与える影響と、β-caryophylleneを含有する炭酸水のβ-caryophylleneの添加量による右脳への影響を確認した。これらの飲料100mlを7名の被験者が飲用し、飲用前後の右脳の脳波を測定した。その脳波の測定結果から飲用前後の右脳基礎律動リズム度(覚醒感)を求めた。被験者が飲用した飲料のサンプルE?Hは以下の通り。
サンプルEは何も添加しない水100ml
サンプルFは何も添加しない炭酸水100ml
サンプルGはβ-caryophylleneを0.25ppb含有する炭酸水100ml
サンプルHはβ-caryophylleneを0.5ppb含有する炭酸水100ml
これらの結果を図2の(E)?(H)に示す。
【0018】
水100mlを飲用すると、図2の(E)に示すように飲用前よりも鎮静化する効果が表れ、炭酸水100mlを飲用すると図2の(F)に示すように、水とは逆に若干興奮寄りの結果となった。
上記のように、右脳の活動を興奮寄りにする炭酸水に代えて、β-caryophylleneを0.25ppb含有する炭酸水を100ml飲用した結果である図2の(G)によれば、何も含有しない炭酸水の時の図2の(F)に示す結果とは逆に右脳の活動は若干鎮静化された結果となった。
ところが、β-caryophylleneの添加量を増加させ0.5ppbとした炭酸水を飲用した図2の(H)に示す結果によると、0.25ppbを炭酸水に添加した結果とは逆に、明らかに右脳の活動は興奮寄りとなった。この結果は、β-caryophylleneの添加量が0ppbに相当する図2の(F)と、0.25ppbを添加した結果である図2の(G)から予測される、より右脳の活動が鎮静化される効果とは明らかに逆の効果を示している。つまり、β-caryophylleneを飲料中に0.25ppbの濃度となるように添加しても、右脳を活性化(興奮)させる効果を得ることができないが、0.5ppbの濃度とすることにより右脳を活性化(興奮)させることができる。すなわち、β-caryophylleneを飲料中に0.5ppbの濃度となるように添加された飲料は、リフレッシュ効果を有することが明らかとなった。」

(H7)「【0019】
さらに、上記図2の結果を測定する際に右脳の8-13Hz周波数出現率を測定した。
この結果を図3に示す。
サンプルE及びFに比べ、β-caryophylleneの含有量を0.25ppbとした炭酸水のサンプルGを100ml飲用すると右脳の8-13Hz周波数出現率が低下したが、β-caryophylleneの含有量を0.5ppbとしたサンプルHによると、逆に右脳の8-13Hz周波数出現率が高くなり、β-caryophylleneを含有させない炭酸水よりも明らかに高くなり、右脳にはより高い出現率で8-13Hz周波数の波、つまりα波が発生した。
これは、β-caryophylleneを0.5ppb以上含有する飲料を飲用すると、単に興奮するというよりは、より心地よい興奮を感じることを示している。」

(H8)「【0020】
(実施例3)
実施例3においては、水と炭酸水のそれぞれに対してβ-caryophyllene含有ホップ香料を添加した飲料を飲用したときの右脳に与える影響を確認した。これらの飲料100mlを8名の被験者が飲用し、飲用前後の右脳の脳波を測定した。その脳波の測定結果から飲用前後の右脳基礎律動リズム度(覚醒感)を求めた。被験者が飲用した飲料のサンプルI?Lは以下の通り。
サンプルIは何も添加しない水100ml
サンプルJは何も添加しない炭酸水100ml
サンプルKはβ-caryophyllene含有ホップ香料が添加された水100ml
サンプルLはβ-caryophyllene含有ホップ香料が添加された炭酸水100ml
サンプルKとLの結果によれば、水や炭酸水にホップ香料を添加させると、それぞれ結果的にisobutyl isobutanoateを0.5ppb、γ-terpineneを10ppb、β-caryophylleneを1ppb、geranyl acetateを30ppb含有される。
これらの結果を図4の(I)?(L)に示す。
【0021】
図4の(I)に示すように、水100mlを飲用した後には右脳への影響が殆ど見られなかった。この傾向は図4の(J)に示すように炭酸水100mlを飲用した場合においても同様であった。
これらの結果に対して、図4の(K)に示すβ-caryophyllene含有ホップ香料を含有し、β-caryophylleneを1ppb含有する水を飲用した結果、及び図4の(L)に示すβ-caryophyllene含有ホップ香料を含有し、β-caryophylleneを1ppb含有する炭酸水を飲用した結果は、いずれも飲用後に右脳の活動が活発化(興奮)されたことを示している。
さらに図1の(C)や図2の(H)の結果を総合してわかるように、ホップ香料ではなくβ-caryophylleneのみを添加した炭酸水に対しても右脳の活性化(興奮)の傾向に変わりない。」

(H9)「【0022】
(実施例4)
実施例4においては、ノンアルコールビール(市販品)とビール(市販品)に対してβ-caryophylleneを添加した飲料を飲用したときの右脳に与える影響をそれぞれ確認した。
これらの飲料100mlを2名の被験者が飲用し、飲用前後の右脳の脳波を測定した。その脳波の測定結果から飲用前後の右脳基礎律動リズム度(覚醒感)を求めた。被験者が飲用した飲料のサンプルM?Pは以下の通り。
サンプルMは何も添加しないノンアルコールビール(市販品、β-caryophylleneの濃度は上記非特許文献2の記載を考慮すると多くても0.1?0.3ppb)100ml
サンプルNはサンプルMのノンアルコールビール(市販品)に、1.0ppb分のβ-caryophylleneを添加して、合計の濃度が1.1?1.3ppbとしてなるノンアルコールビール100ml
サンプルOは何も添加しないビール(市販品、β-caryophylleneの濃度は上記非特許文献2の記載を考慮すると多くても0.1?0.3ppb)100ml
サンプルPはサンプルOのビール(市販品)にβ-caryophylleneを1.0ppb分のβ-caryophylleneを添加して、合計の濃度が1.1?1.3ppbとしてなるビール100ml
これらの結果を図5の(M)?(P)に示す。
【0023】
市販のノンアルコールビールと市販のビールを飲用した場合には、図5の(M)と(O)に示すように右脳の活動は飲用前と比較して鎮静寄りになった。これらの市販のノンアルコールビールとビールは共にホップを使用しているので、上記非特許文献2によれば、ホップに由来するβ-caryophylleneを多くても0.1?0.3ppb含有しているが、飲用するとこのように鎮静寄りであった。
これに対して、市販のノンアルコールビールと市販のビールそれぞれに対して、β-caryophylleneを1.1?1.3ppbとなるように添加してなるサンプル(N)と(P)を100ml飲用すると、いずれも興奮する傾向がみられ、右脳の活動が活性化(興奮)されたことを示した。」

(H10)「
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



(3) 判断
当審の平成28年3月25日付けの拒絶理由は、上記本願明細書の記載事項に基づき、本願の請求項1及び2の「水又は炭酸水」のうち、上記本願課題(上記記載事項(H2)参照。)を解決したものは、「(1)β-caryophylleneを0.5?1.0ppb含有した炭酸水、(2)β-caryophyllene含有ホップ香料が添加されてβ-caryophylleneを1.0ppb含有した炭酸水、及び(3)β-caryophyllene含有ホップ香料が添加されてβ-caryophylleneを1.0ppb含有した水並びに(4)各成分を添加して製造する製造方法のみである。」であるとし、「本願の図2(E)及び(F)に示されるように、水と炭酸水では鎮静効果についての傾向が異なるから、炭酸水についての結果から水での結果を類推することはできない。」とするものである。
一方、請求人は、平成28年5月27日の補正により、拒絶理由(36条6項1号)は解消したと主張する(同日の意見書)。しかし、補正後の請求項1は、「β-caryophylleneを0.5?1.0ppbとなるように、β-caryophyllene」を単独に「含有する水」を含むものであるのに対し、本願の発明の詳細な説明においては、当該「水」について、飲用前に対して飲用後に右脳基礎律動波リズム度が覚醒感の興奮側に変化して、その効果があることを確認したものはないから、上記請求人の主張は採用できない。
すなわち、「水」について、発明の詳細な説明において、飲用前に対して飲用後に右脳基礎律動波リズム度が覚醒感の興奮側に変化して、その効果があることが確認されたものは、上記「(3)β-caryophyllene含有ホップ香料が添加されてβ-caryophylleneを1.0ppb含有した水」のみである(上記記載事項(H8)参照。)。そして、当該「水」は、ホップ香料を添加したものであるから、多数の香気成分を含んでいることは明らかであり(上記記載事項(H1)参照。)、種々の香気成分が人の感覚に影響を及ぼすことは技術常識といえること(上記記載事項(H1)参照。)を踏まえると、β-caryophyllene以外に多数の香気成分を含んだ「水」が上記本願課題を解決したからといって、β-caryophylleneを単独で含んだ「水」が上記本願課題を解決したということはできない。
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明に、「β-caryophylleneを0.5?1.0ppb含有した炭酸水」において、飲用前に対して飲用後に右脳基礎律動波リズム度が覚醒感の興奮側に変化して、その効果があることが確認されても(上記記載事項(H5)、(H6)、図1(C)、図2(H)参照。)、上記当審の拒絶理由で述べたように、飲用前と飲用後の右脳基礎律動波リズム度について、水は、覚醒感が鎮静側に変化し(図2(E))、炭酸水は、覚醒感が興奮側に変化しており(図2(F))、水と炭酸水とでは、その効果についての傾向が異なるから、炭酸水についての結果から水での結果を類推することはできない。
そうすると、「β-caryophylleneを0.5?1.0ppbとなるように、β-caryophyllene」を単独に「含有する水」を含む上記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らしても、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えている。
また、「水又は炭酸水に対して、β-caryophyllene又はホップ香料を、β-caryophylleneの濃度が0.5?1.0ppbとなるように添加する」ことを特定する補正後の請求項2に係る発明は、「水」「に対して、β-caryophyllene」を単独に「β-caryophylleneの濃度が0.5?1.0ppbとなるように添加する」ことを含んでいるので、請求項1について上記イで示したのと同様の理由により、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らしても、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。

(4) 以上のとおりであるから、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

2 特許法36条6項2号について
当審で通知した拒絶理由は、補正前の請求項1に記載の「水又は炭酸水」について、上記記載事項(H1)、(H3)を参酌すると、「『水又は炭酸水』は、『柑橘類等の果物等の香料を付与して』いないもの、並びに『フレーバードウォーター』及び『フレーバード炭酸水』でないものが想定され、一方で、他の成分として香料等を含むものも想定されるため、不明確である。」とするものである。
この点について、補正後の「水又は炭酸水(但し、コーラ飲料及びスポーツ飲料を除く)」は、「(但し、コーラ飲料及びスポーツ飲料を除く)」と特定しているものの、その余の「水又は炭酸水」がどのようなものまで含み得るものであるのかは、請求項1の記載からは判然としない。
そこで、発明の詳細な説明を参酌して、補正後の「水又は炭酸水(但し、コーラ飲料及びスポーツ飲料を除く)」の用語の意味を検討すると、発明の詳細な説明の上記記載事項(H1)の「水、お茶、コーヒー、炭酸飲料、ジュース、ビール等の飲料を飲むことが行われてきた。また、水やお茶、炭酸水等の飲料に柑橘類等の果物等の香料を付与してなる飲料も多く市販されている。」及び記載事項(H2)の「本発明においてβ-caryophylleneが0.5?10ppbとなるように含有される対象の飲料としては、従来公知の飲料でよく、水、フレーバードウォーター、炭酸水、フレーバード炭酸水、ノンアルコールビール、ビール、茶飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、果汁含有飲料、ジュース、野菜飲料、ココア飲料、乳飲料等である。」を参酌すれば、「水」と「炭酸水」は別異のものであり、また、「水」と「フレーバードウォーター」、「炭酸水」と「フレーバード炭酸水」も、別異のものとして、用語が区別されていると認められる。
そうすると、請求項1に記載された「水又は炭酸水(但し、コーラ飲料及びスポーツ飲料を除く)」は、フレーバードウォーターやフレーバード炭酸水を含まないものと一応解される。
一方、上記記載事項(H3)の「本発明において、これらの飲料が含有できる他の成分としては、通常、これらの飲料が含有できる成分でよく、例えば、香料、着色料、甘味料、酸味料、香辛料、酸化防止剤、褐変防止剤等を含有させることができる。」との記載によると、「水」又は「炭酸水」に香料等を加えても良く、そのようなものは、「フレーバードウォーター」又は「フレーバード炭酸水」ということもできるので、結局、請求項1に記載された「水又は炭酸水」が、「フレーバードウォーター」又は「フレーバード炭酸水」等を含んでいると解する余地もある。

そうすると、請求項1に記載された「水又は炭酸水(但し、コーラ飲料又はスポーツ飲料を除く)」がフレーバードウォーターやフレーバード炭酸水等を含むのか否かが明確でないため、発明が不明確である。

なお、請求人は「他の香気成分の併用を排除しませんが、他の香気成分の含有量は、本発明による効果を毀損しない程度であることは、本発明が意図する効果からみて明らか」であると主張するが(平成28年5月27日の意見書)、そうであるとしても、他の香気成分の含有量が「本発明による効果を毀損しない程度」とするために、どの程度の量まで許容されるのかという点について、本願明細書において、他の代表的な香気成分の含有量について目安となる数値などは何ら記載はなく、請求項1に係る発明の範囲が不明確であることに変わりはない。

よって、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび
本願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-19 
結審通知日 2016-08-23 
審決日 2016-09-07 
出願番号 特願2013-242397(P2013-242397)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司原 大樹坂崎 恵美子  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
佐々木 正章
発明の名称 飲料  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  

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