• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1320842
審判番号 不服2016-4251  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-21 
確定日 2016-11-15 
事件の表示 特願2011-272319号「車両駆動システムの制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月24日出願公開、特開2013-123939号、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月13日の出願であって、平成27年5月20日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年1月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年3月21日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年7月15日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められる以下のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)。

「 【請求項1】
エンジンの動力と第1のモータジェネレータ(以下「第1のMG」と表記する)及び第2のモータジェネレータ(以下「第2のMG」と表記する)の動力を車両の車軸に伝達可能な動力伝達装置と、前記第1及び第2のMGと電力を授受するバッテリとを備えた車両駆動システムの制御装置において、
前記動力伝達装置は、前記エンジンの動力を伝達するエンジン入力軸と、前記第1のMGの動力を伝達するモータ入力軸と、前記第2のMGの動力が入力されると共に前記車軸に伝達するための動力を出力する出力軸と、前記エンジン入力軸の動力を前記モータ入力軸を介さずに前記出力軸に伝達するためのエンジン側ギヤ機構と、前記モータ入力軸の動力を前記エンジン入力軸を介さずに前記出力軸に伝達するためのモータ側ギヤ機構と、前記エンジン入力軸と前記モータ入力軸との間の動力伝達を断続する第1のクラッチと、前記モータ側ギヤ機構と前記出力軸との間の動力伝達を断続する第2のクラッチと、前記エンジン側ギヤ機構と前記出力軸との間の動力伝達を断続する第3のクラッチとを備え、前記第1のクラッチが接続された場合に前記エンジン側ギヤ機構と前記モータ側ギヤ機構との間が動力伝達可能となるように構成され、
前記車両の減速時に、前記バッテリの残容量又はこれに応じて変化する情報(以下これらを「バッテリ残量情報」と総称する)が所定の閾値よりも低い場合には前記第1のクラッチと前記第2のクラッチと前記第3のクラッチを全て切断して前記車軸の動力で前記第2のMGを駆動して該第2のMGで発電した電力を前記バッテリに充電するMG回生制御を実行し、前記バッテリ残量情報が前記閾値以上の場合には前記エンジン側ギヤ機構と前記モータ側ギヤ機構のうちでギヤ比が小さい方のギヤ機構である前記エンジン側ギヤ機構を介して前記車軸の動力を前記エンジンに伝達するように前記第1のクラッチと前記第2のクラッチを切断すると共に前記第3のクラッチを接続して前記車軸の動力で前記エンジンを駆動する第1のエンジン回生制御を実行する減速時回生制御手段を備えていることを特徴とする車両駆動システムの制御装置。
【請求項2】
前記減速時回生制御手段は、前記車両の減速時に前記バッテリ残量情報が前記閾値以上の場合に、前記出力軸の回転速度と前記第1のエンジン回生制御で使用する前記エンジン側ギヤ機構のギヤ比とに基づいて前記第1のエンジン回生制御により上昇可能なエンジン回転速度を算出し、該上昇可能なエンジン回転速度が所定の再始動回転速度下限値よりも高いときに、前記第1のエンジン回生制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項3】
前記減速時回生制御手段は、前記第1のエンジン回生制御を実行した後、前記エンジン側ギヤ機構と前記モータ側ギヤ機構のうちでギヤ比が大きい方のギヤ機構である前記モータ側ギヤ機構を介して前記車軸の動力を前記エンジンに伝達するように前記各クラッチを制御して前記エンジンを駆動する第2のエンジン回生制御に移行することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項4】
前記減速時回生制御手段は、前記第1のエンジン回生制御により前記エンジンの回転速度が所定の再始動回転速度下限値よりも高くなったときに、前記出力軸の回転速度と前記第2のエンジン回生制御で使用する前記モータ側ギヤ機構のギヤ比とに基づいて前記第2のエンジン回生制御により上昇可能なエンジン回転速度を算出し、該上昇可能なエンジン回転速度が所定の再始動回転速度上限値よりも高いときに、前記第2のエンジン回生制御に移行することを特徴とする請求項3に記載の車両駆動システムの制御装置。」

第3 原査定の理由の概要
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-4
・引用文献 1-3

引用文献1には、図3に示されるように、エンジン、第1モーター20及び第2モーター22を備え、入力軸46(エンジン入力軸)と第1モーター20の出力軸(モータ入力軸)とを断続するサブクラッチ76(第1のクラッチ)と、第3駆動歯車90及び第2減速出力歯車92(モータ側ギヤ機構)と出力軸66とを断続する第2サブクラッチ88(第2のクラッチ)と、1速入力歯車50及び3速出力歯車70(エンジン側ギヤ機構)と出力軸66とを断続する第2スリーブ74(第3のクラッチ)とを備え、車両減速時に第2モーターのみによる回生を可能とした自動車用変速機の発明が記載されている(特に、段落[0030]、[0049]-[0054]、図3を参照)。
引用文献1において、図3の記載と各歯車の名称から、1速入力歯車50及び3速出力歯車70(エンジン側ギヤ機構)によって第3速が形成されることは明らかである。
また、引用文献1の段落[0054]には、「第1スリーブ64および第2スリーブ74は中立のまま、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を全て接続状態にすることで、エンジン12による出力軸66の駆動が可能になる。」と記載されており、すなわち、本願発明における第3のクラッチを接続しないまま第1のクラッチと第2のクラッチとを接続することで、モータ側ギヤ機構を介してエンジンと駆動軸の駆動接続が可能であることが記載されている。
さらに、引用文献1の段落[0054]には、「第1スリーブ64および第2スリーブ74が中立で、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を接続してエンジン12が出力軸66を駆動する際の変速比が一般的な変速機の第1速に相当する値にすることもできる。」と記載されており、エンジンからみて、モータ側ギヤ機構を介した方が、エンジン側ギヤ機構を介するよりもギヤ比が大きくなるように構成できることも示唆されている。

引用文献2には、蓄電量に応じて該蓄電量が所定値より小さいとモータによる回生制動を行い、所定値以上であるとエンジンフリクションによる減速を行う制御装置が記載されている(特に、段落[0082]、図6を参照)。

引用文献3には、エンジンの燃料カットを伴う減速中に、エンジン回転数を所定回転数以上に維持するためにギヤ比の小さい段からギヤ比の大きい段へ移行する技術事項が示唆されている(特に、段落[0003]-[0004]、図を参照)。

引用文献1に記載された発明の変速機を備えた車両において、引用文献2に記載された、蓄電量に応じた制動制御を適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、引用文献1に記載された発明において、引用文献3で示唆される、エンジン回転数を所定回転数以上に維持するためにギヤ比の小さい段からギヤ比の大きい段へ移行する技術を適用して、引用文献1に記載された発明における、エンジンと出力軸との間にあるギヤ段を適宜に選択して第1のエンジン回生制御及び第2のエンジン回生制御を実行することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
特に、引用文献1には、上記のとおり「第1スリーブ64および第2スリーブ74が中立で、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を接続してエンジン12が出力軸66を駆動する際の変速比が一般的な変速機の第1速に相当する値にすることもできる」と記載されているから、引用文献3の前記技術を適用するにあたって、ギヤ比の大きい段として、第3速を形成する1速入力歯車50及び3速出力歯車70(エンジン側ギヤ機構)を選択するべく第2スリーブ74を3速出力歯車70に連結するとともに、ギヤ比の小さい段として、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を接続して形成される第1速に相当するギヤ比の動力伝達経路を選択するように各クラッチを制御するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

よって、請求項1-4に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
1.特開平11-170877号公報
2.特開2010-173420号公報
3.特開2003-320871号公報

第4 当審の判断
1.刊行物1(特開平11-170877号公報)
(1)刊行物1の記載事項
1a)「【請求項1】 同期噛み合い式変速機構への入力軸とエンジンのクランク軸との間がクラッチにより連結、切り離し可能で、前記同期噛み合い式変速機構にて変速した駆動力を出力軸から車輪に伝える自動車用変速機において、前記入力軸を駆動可能な第1モーターを備えたことを特徴とする自動車用変速機。
【請求項2】 前記第1モーターは、前記同期噛み合い式変速機構が中立において前記クラッチが連結された状態で、エンジンを始動可能であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用変速機。
【請求項3】 前記第1モーターが、サブクラッチを介して入力軸を駆動することを特徴とする請求項1乃至2に記載の自動車用変速機。
【請求項4】 前記第1モーターが、前記サブクラッチと並列に配置したワンウエイクラッチを介して自動車の前進方向に入力軸を駆動可能に構成したことを特徴とする請求項3に記載の自動車用変速機。
【請求項5】 前記第1モーターが、電磁クラッチを介してクーラーのコンプレッサーを駆動可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の自動車用変速機。
【請求項6】 前記出力軸を駆動可能な第2モーターを備えて、少なくとも自動車の発進時あるいは低速時の加速において、第1モーターの前記入力軸の駆動に加えて第2モーターで前記出力軸を駆動可能にしたことを特徴とする請求項1乃至5に記載の自動車用変速機。
【請求項7】 前記第1モーターは、入力軸に固定された歯車と噛み合いながら副軸または出力軸に回転自在に設けられた歯車を駆動することを特徴とする請求項1乃至6に記載の自動車用変速機。
【請求項8】 前記第1モーターは、前記入力軸に加えて、第2サブクラッチを介して出力軸をも駆動可能に構成したことを特徴とする請求項1乃至6に記載の自動車用変速機。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項8】)、(なお、下線は、理解の一助とするために当審にて付したものである。以下同様。)

1b)「【0014】
【作用】請求項1に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、自動車が一定速度より低速になった場合にエンジンを停止させ、その後の始動にあってはクラッチを連結して第1モーターで同期噛み合い式変速機構の入力軸を駆動することで静粛かつ自動的にエンジンを始動させる。また、発進時や低速走行での加速時に第1モーターで駆動することで、より大きい加速力を得るようにすることもできる。さらに、この第1モーターを発電機に切り替え、制動時のエネルギー回生を行わせるようにしても良い。また、変速操作中に入力軸回転数が最適になるよう第1モーターで制御させるようにしても良い。
【0015】また、請求項2に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、同期噛み合い式変速機構が中立でクラッチを連結すれば入力軸がクラッチを介してエンジンのクランク軸と一体回転可能になるので、第1モーターが入力軸を駆動することでクランク軸を回転させる結果、自動車が停車中か走行中かを問わず、随時、容易かつ自動的にエンジンが始動される。
【0016】また、請求項3に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、第1モーターと入力軸との間にサブクラッチを設けてあるので、これら間で動力伝達・遮断の切り替えが可能となる。したがって、入力軸の回転数上昇が必要なダウン変速操作中にサブクラッチを切っておけば第1モーターのイナーシャによる同期機構への負担が過大にならず、スムーズで素早い変速が可能になる。
【0017】また、請求項4に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、第1モーターと入力軸との間に上記サブクラッチに加え、これと並列にワンウエイクラッチを設けて、自動車の前進方向にのみ入力軸を動力伝達可能にしたので、通常はサブクラッチを切ったままでも上記変速操作の前後での第1モーターによる駆動が機械的に実行される。この結果、コントローラーの制御も簡単で済む。
【0018】また、請求項5に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、エンジンを停止させた停車時等にあっても、電磁クラッチを連結して第1モーターで駆動すれば、クーラーのコンプレッサーを駆動して冷房を効かせることができる。
【0019】また、請求項6に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、少なくとも自動車の発進時あるいは低速走行の加速時に、第1モーターでの入力軸駆動に加えて第2モーターが出力軸を駆動する。このため、低速時にエンジンを停止したままでも両モーターで走行可能となる。この走行は停車前の制動時の回生エネルギーを利用する結果、燃費の大幅な向上、排ガス発生の低減が期待できる。もちろん、上記制動時のエネルギー回生のため、制動時に両モーターを発電機に切り替えるようにしても良い。
【0020】また、請求項7に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、第1モーターは、入力軸に固定された歯車と噛み合いながら副軸または出力軸に回転自在に設けられた歯車を駆動するように構成したため、第1モーターを設置する場所の選択自由度が向上する。」(段落【0014】ないし【0020】)

1c)「【0025】シフトレバー30は一般的な自動変速機と同様に、駐車のための『P』、後進のための『R』、中立の『N』、通常走行用の『D』、エンジンブレーキ等に使う『L』などのボジションを選択することができる。第1モーター20および第2モーター22はコントローラー28の作用で発電機に切り替えることができ、発電した場合はバッテリー42の充電を行う。
【0026】次に図1の変速機10を説明する。44は図2に記載したエンジン12のクランク軸である。入力軸46はクラッチディスク48と連結しており、クラッチディスク48はクラッチ16が図2に記載したクラッチアクチュエーター18により操作されることでエンジン12のクランク軸44との接続、切り離しが可能である。入力軸46には、1速入力歯車50と2速入力歯車52が常時一体回転可能に設けられるとともに、第1減速歯車54-Aとこれに一体の第2減速歯車54-Bとが回転自在に支持される。
【0027】副軸56は減速入力歯車58と一体になっており、減速入力歯車58は第1減速歯車54-Aと噛み合っている。副軸56には1速出力歯車60および2速出力歯車62が回転自在に設けられ、1速出力歯車60は1速入力歯車50と、2速出力歯車62は2速入力歯車52とそれぞれ噛み合っている。副軸56は、図2の変速アクチュエーター14により移動操作される第1スリーブ64により1速出力歯車60および2速出力歯車62とそれぞれ選択的に連結可能である。尚、第1スリーブ64と1速出力歯車60、2速出力歯車62との間には図示しないが、変速をスムーズに行うための円錐摩擦面を備えた同期機構が設けてある。
【0028】出力軸66は、第2減速歯車54-Bと噛み合った減速出力歯車68と一体になっており、図示しない差動装置等を介して自動車の車輪を駆動する。したがって、出力軸66は減速入力歯車58、第1減速歯車54-A、第2減速歯車54-B、減速出力歯車68を介して副軸56と連結されている。出力軸66には、3速出力歯車70および4速出力歯車72とが回転自在に設けられ、3速出力歯車70は1速入力歯車50と、4速出力歯車72は2速入力歯車52とそれぞれ噛み合っている。出力軸66は、図2の変速アクチュエーター14により移動操作される第2スリーブ74により3速出力歯車70および4速出力歯車72とそれぞれ選択的に連結可能である。尚、第2スリーブ74と3速出力歯車70、4速出力歯車72との間には図示しないが、変速をスムーズに行うための円錐摩擦面を備えた同期機構が設けてある。これら第1スリーブ64、1速出力歯車60、2速出力歯車62、第2スリーブ74、3速出力歯車70、4速出力歯車72などは、前進4段の同期噛み合い式変速機構を構成する。
【0029】第1モーター20は、サブクラッチ76および該サブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ(以下、OWCという)78を介して第1駆動歯車80と連結され、第1駆動歯車80は1速出力歯車60と噛み合っている。OWC78は第1モーター20が入力軸46を、エンジン12の回転と同じ回転方向、つまり自動車の前進方向に駆動する場合のみ、動力を伝達できるように構成されている。したがって、第1モーター20はサブクラッチ76およびOWC78、さらに第1駆動歯車80と1速出力歯車60および1速入力歯車50を介して入力軸46を駆動することができる。」(段落【0025】ないし【0029】)

1d)「【0049】前述の制動時のエネルギー回生を行う場合や、自動車を後進させる際に第1モーター20で駆動する場合は、サブクラッチ76を接続することで入力軸46と第1モーター20とを連結する。すなわち、自動車を後進させる場合は第1スリーブ64を1速出力歯車60と連結した上で、第1モーター20を逆転することでサブクラッチ76を介して逆転駆動が行われる。無論、同時に第2モーター22も逆転させて両モーター20、22で後進駆動できることは言うまでもない。
【0050】制動時のエネルギー回生は、ドライバーがブレーキペダル38を踏み込んだ場合、およびシフトレバー30を『L』レンジにしてスロットルペダル34を踏み込まながった場合に、両モーター20、22を発電機に切り替えて行われる。この際も、第2モーター22のみで発電させる場合と第1モーター20も発電させる場合の使い分けができる。したがって、両モーター20、22の発電量を制御することでいわゆるエンジンブレーキの効きを制御することができる。
【0051】次に、図3は、本発明の他の実施形態を表わすスケルトン図である。図1の実施形態との主な違いは、第1モーター20と第2モーター22の配置が異なること、および第1モーター20が第2サブクラッチ88を介して出力軸66をも駆動可能に構成したことである。
【0052】すなわち、第2モーター22は第2駆動歯車86を介して第2減速歯車54-Bを経て出力軸66を駆動可能であり、第1モーター20はOWC78またはサブクラッチ76を介して4速出力歯車72を経て入力軸46を駆動可能であることに加えて、第3駆動歯車90、第2減速出力歯車92を経て第2サブクラッチ88を介して出力軸66をも駆動可能である。
【0053】したがって、第1モーター20は、第1スリーブ64および第2スリーブ74が中立状態であっても、第2サブクラッチ88を介して出力軸66を駆動できるので、第1モーター20および第2モーター22のみによる走行状態からエンジン12を始動する際の操作が簡単になる。すなわち、第1スリーブ64および第2スリーブ74は中立のまま、第2サブクラッチ88を切ってクラッチ16を接続することで、第1モーター20は出力軸66の駆動をやめて入力軸46を介してエンジン12を回転させ、始動する。この後、再び、第1モーター20による出力軸66の駆動に戻る際も第1スリーブ64および第2スリーブ74の移動を必要とせず、直ちに第2サブクラッチ88を接続するだけでよい。
【0054】また、この際に、第1スリーブ64および第2スリーブ74は中立のまま、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を全て接続状態にすることで、エンジン12による出力軸66の駆動が可能になる。この場合は、第1スリーブ64および第2スリーブ74を所定の出力歯車60、62、70、72と連結することによる1速乃至4速とは異なる変速比で駆動することになるので、実質的に5段変速機と同じ機能を有することになるとともに、エンジン12による駆動経路も多様化して選択の自由度が増える。第1スリーブ64および第2スリーブ74が中立で、クラッチ16、サブクラッチ76および第2サブクラッチ88を接続してエンジン12が出力軸66を駆動する際の変速比が一般的な変速機の第1速に相当する値にすることもできる。」(段落【0049】ないし【0054】)

1e)「【0063】(6)請求項6に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、出力軸を駆動可能な第2モーターを備えたため、自動車の発進時および少なくとも低速時の加速において、エンジンを停止したままで第2モーターによる駆動が可能であるだけでなく、必要に応じて第1モーターと第2モーターの両者で駆動することで大きな駆動力を容易に得られるので低速時にモーターのみで走行可能になる。また、両モーターを発電機に切り替えることにより、制動時のエネルギー回生率を向上し、蓄電した電力を効率よく生かして自動車の燃費を大幅に向上することができる。」(段落【0063】)

1f)「【0065】(8)請求項8に記載の本発明の自動車用変速機にあっては、第1モーターは、入力軸の駆動に加えて、第2サブクラッチを介して出力軸をも駆動可能に構成したため、第2クラッチを接続するだけで直ちに出力軸を駆動することができるため、第1モーターによる出力軸駆動状態からエンジン始動作用へ移行し、再び出力軸駆動状態へ戻ることを素早く、且つスムーズに行うことができる。さらに、サブクラッチと第2サブクラッチとを接続することにより、エンジンの動力を同期噛み合い変速機構とは別の変速比で車輪に伝達できるので、実質的に変速段数が多くなるとともに、動力伝達経路の選択自由度が向上する。」(段落【0065】)

(2)刊行物1記載の発明
上記(1)及び図1ないし3の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「エンジンの駆動力と、第1モーター20及び第2モーター22の駆動力を車両の車軸に伝達する歯車機構と、第1モーター20及び第2モータ-22と電力を授受するバッテリー42とを備えた車両の制御装置において、
歯車機構は、エンジンの駆動力を伝達する入力軸46と、第1モータ20の駆動力を伝達する入力軸と、第2モーター22の駆動力が入力される出力軸66と、入力軸46の駆動力を、第1モータ20の駆動力を伝達する入力軸を介さずに出力軸66に伝達するための前進4段の同期噛み合い式変速機構と、第1モータ20の駆動力を入力軸46を介さずに出力軸66に伝達するための第2減速出力歯車92及び第3駆動歯車90と、入力軸46と第1モータの駆動力20を伝達する入力軸との間の駆動力の伝達を断続するサブクラッチ76およびサブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ78と、前記第2減速出力歯車92及び第3駆動歯車90と出力軸66との間の駆動力の伝達を断続する第2サブクラッチ88と、前進4段の同期噛み合い式変速機構と出力軸66との間の駆動力の伝達を断続する第1スリーブ64及び第2スリーブ74とを備え、サブクラッチ76が接続された場合に前進4段の同期噛み合い式変速機構と第2減速出力歯車92及び第3駆動歯車90との間が駆動力を伝達することが可能となるように構成され、
車両の制動時には、サブクラッチ76を接続することで入力軸46と第1モータ20とを連結し、第2モータ22のみで発電、あるいは、第2モータ22及び第1モータ20を発電させることにより制動時のエネルギー回生制御を行う、車両の制御装置。」

2.刊行物2(特開2010-173420号公報)
(1)刊行物2の記載事項
2a)「【請求項1】
駆動輪を駆動可能なエンジンと、回転駆動により前記駆動輪を駆動するとともに回生制動によりバッテリーを蓄電可能なモータと、を有し、
前記バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量以上である場合の減速時に、前記エンジンのフリクションにより制動力を発生する車両が備える車両の制動力制御装置であって、
前記駆動輪のロックを検出するロック検出手段と、前記モータの動作を制御するモータ制御手段と、前記フリクションを算出するフリクション算出手段と、前記モータが回転駆動により発生するトルクを制御するモータトルク制御手段と、を備え、
前記モータ制御手段は、前記バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量以上である場合の減速時に前記ロック検出手段が前記駆動輪のロックを検出すると、前記モータの動作を回転駆動に制御し、
前記モータトルク制御手段は、前記モータが回転駆動により発生するトルクを、前記フリクション算出手段が算出したフリクション以下となるように制御することを特徴とする車両の制動力制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【請求項5】
前記車両は、前記駆動輪から車両前後方向にオフセットして配置した従動輪と、前記エンジンと前記駆動輪との駆動力伝達経路を接続または解放するクラッチと、を有し、
前記駆動輪の回転状態と前記従動輪の回転状態との偏差を検出する回転偏差検出手段と、前記クラッチがスリップしながら接続しているか否かを判定する半クラッチ判定手段と、を備え、
前記モータトルク制御手段は、前記回転偏差検出手段が検出した前記偏差に基づいて前記モータが回転駆動により発生するトルクをフィードバック制御するフィードバック制御手段と、前記半クラッチ判定手段の判定結果に基づいて前記フィードバック制御に用いるフィードバックゲインを二通りに切り換えるゲイン切り換え手段と、を備え、
前記フィードバック制御手段は、前記回転偏差検出手段が検出した前記偏差が所定の偏差以上である場合に前記フィードバック制御を行い、
前記ゲイン切り換え手段は、前記半クラッチ判定手段が、前記クラッチがスリップしながら接続していると判定すると前記フィードバックゲインを第一ゲインに切り換え、前記半クラッチ判定手段が、前記クラッチがスリップせずに接続していると判定すると前記フィードバックゲインを前記第一ゲインよりも小さい第二ゲインに切り換えることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載した車両の制動力制御装置。
【請求項6】
前記バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量以上であれば前記クラッチを接続状態とするクラッチ接続指令を出力し、且つ前記バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量未満であれば前記クラッチを解放状態とするクラッチ解放指令を出力するクラッチ制御手段を備え、
前記クラッチ制御手段は、前記フィードバック制御中は前記クラッチ接続指令及び前記クラッチ解放指令の出力を行わないことを特徴とする請求項5に記載した車両の制動力制御装置。
【請求項7】
モータの回生制動により蓄電されたバッテリーの蓄電量が所定の蓄電量以上である場合の減速時に、駆動輪を駆動可能なエンジンのフリクションにより制動力を発生する車両の制動力制御方法であって、
前記バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量以上である場合の減速時に前記駆動輪のロックを検出すると、前記モータを回転駆動させて前記駆動輪を駆動させ、且つ前記モータが回転駆動により発生するトルクを、前記フリクション以下とすることを特徴とする車両の制動力制御方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項5】ないし【請求項7】)

2c)「【0015】
また、モータ4は、ロータが外力により回転させられる場合には、これらの磁界の相互作用により、電機子コイルの両端に起電力を発生して、発電動作する。モータ4が発電した電力は、インバータ24を介してバッテリー26へ蓄電可能となっている。
ここで、上記の「ロータが外力により回転させられる場合」とは、車両Cの制動時等、車両Cの減速時に、駆動輪2が外力により回転させられ、この回転が変速機14を介してロータへ伝達されて、車両Cがモータ4により回生制動する場合である。すなわち、モータ4は、回生制動により、バッテリー26を蓄電可能である。
【0016】
以上により、モータ4は、回転駆動により駆動輪2を駆動するとともに、回生制動によりバッテリー26を蓄電可能な構成である。
インバータ24は、モータ4が発電した電力を、バッテリー26へ供給する。具体的には、モータ4が発電した直流の電力を、例えば、三相交流等の交流電力に変換して、バッテリー26へ供給する。
また、インバータ24は、車両制御コントローラ10が出力する制御信号に基づき、バッテリー26からモータ4へ供給する電力を制御するとともに、モータ4が回転駆動により発生するトルクを制御する。
バッテリー26は、インバータ24から供給される電力を蓄電可能であるとともに、蓄電した電力をインバータ24へ供給可能である。」(段落【0015】及び【0016】)

2d)「【0029】
制動力制御手段48は、要求制動力検出手段44及びバッテリー蓄電量検出手段46が出力した情報信号に基づいて、車両Cの減速時に発生する制動力を制御するための情報信号を生成する。そして、この生成した情報信号を、エンジン制御手段50、クラッチ制御手段52及びモータ制御手段56へ出力する。
ここで、車両Cの減速時に発生する制動力の制御は、要求制動力とバッテリー蓄電量に基づき、エンジン1が発生する制動力、クラッチ16の接続状態、モータ4が発生する制動力を制御して行う。
【0030】
一例としては、要求制動力が、エンジンブレーキによる要求制動力以上であるとともに、バッテリー蓄電量が、所定の蓄電量以上である場合、エンジン1のフリクションにより制動力を発生するように、エンジン1、モータ4及びクラッチ16を制御する。これは、クラッチ16を接続状態とするとともに、エンジン1の発生するトルクを、エンジン1のフリクションが発生するトルクに制御し、さらに、モータ4の回生トルクを減少させる制御である。
【0031】
なお、所定の蓄電量は、例えば、バッテリー26の蓄電量が満充電である状態の蓄電量から、安全性を考慮して、数%程度減少させた蓄電量に設定する。
エンジン制御手段50は、エンジン1との間で相互に情報信号の入出力を行う。さらに、制動力制御手段48及びエンジン1が出力した情報信号に基づいて、エンジン1の駆動状態(回転数、トルク等)を制御する。」(段落【0029】ないし【0031】)

2e)「【0052】
以下、制動力制御装置が行う処理について、図1から図3を参照しつつ、図4を用いて、具体的に説明する。
図4は、制動力制御装置の処理を示すフローチャートである。
図4中に示すフローチャートは、車両Cが走行している状態からスタートする(START)。
車両Cの走行時において、要求制動力検出手段44が、運転者によるアクセルペダル22及びブレーキペダル42の操作量を検出する。そして、この検出した操作量に基づいて算出した要求制動力に基づき、制動力制御手段48が、運転者からの減速要求が有るか否かを判定(図4中に示す「減速要求有?」)する(ステップS10)。
【0053】
ここで、例えば、アクセルペダル22の操作量が「0」である場合や、ブレーキペダル42の操作量が「0」を超えている場合、要求制動力がある、すなわち、運転者からの減速要求が有ると判定する。
ステップS10において、制動力制御手段48が、運転者からの減速要求が無い(図中に示す「No」)と判定すると、制動力制御装置が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。
【0054】
一方、ステップS10において、運転者からの減速要求が有る(図中に示す「Yes」)と判定した制動力制御手段48は、さらに、バッテリー蓄電量検出手段46が取得したバッテリー蓄電量を参照する。そして、このバッテリー蓄電量が、所定の蓄電量以上であるか否かを判定する(図4中に示す「蓄電量所定値以上?」)する(ステップS12)。
ステップS12において、制動力制御手段48が、バッテリー蓄電量が所定の蓄電量未満である(図中に示す「No」)と判定すると、制動力制御手段48は、クラッチ制御手段52へ、クラッチ16を解放状態とする制御指令を出力する。この制御指令の入力を受けたクラッチ制御手段52は、クラッチ16へ、クラッチ解放指令を出力し、クラッチ16を解放状態(図4中に示す「クラッチオフ」)とする(ステップS14)。
【0055】
ステップS14において、クラッチ16を解放状態とすると、制動力制御手段48は、車両Cの減速時に発生する制動力を制御するための情報信号を、モータ制御手段56へ出力する。この情報信号の入力を受けたモータ制御手段56は、モータ4の回生トルクを、車両Cの減速時に必要な制動力を発生可能であり、モータ4が発電した電力をバッテリー26へ蓄電可能なトルクに制御する情報信号を、インバータ24へ出力する。これにより、モータ4の回生トルクで発生する制動力により車両Cの減速力を制御(図中に示す「モータ回生減速力制御」)するとともに、モータ4の回生により発電した電力をバッテリー26へ蓄電する(ステップS18)。
【0056】
ステップS18において、モータ4の回生トルクを制御すると、モータ制御手段56は、ロック検出手段54が出力した情報信号に基づき、駆動輪2のロックによりスリップが発生しているか否かを判定(図中に示す「スリップ有?」)する(ステップS20)。
ステップS20において、モータ制御手段56が、駆動輪2のロックによりスリップが発生していない(図中に示す「No」)と判定すると、制動力制御装置が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。
【0057】
一方、ステップS20において、駆動輪2のロックによりスリップが発生している(図中に示す「Yes」)と判定したモータ制御手段56は、駆動輪2のロックを抑制するようにモータ4の動作を制御する情報信号を、インバータ24へ出力する。これにより、モータ4が発生する回生トルク、またはモータ4が回転駆動により発生するトルクで駆動輪2を駆動させて、駆動輪2のロックにより発生しているスリップを抑制(図中に示す「モータスリップ制御」)する(ステップS22)。
【0058】
駆動輪2のロックを抑制するようにモータ4の動作を制御すると、制動力制御装置が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。
一方、ステップS12において、バッテリー蓄電量が所定の蓄電量以上である(図中に示す「Yes」)と判定した制動力制御手段48は、クラッチ制御手段52へ、クラッチ16を接続状態とする制御指令を出力する。この制御指令の入力を受けたクラッチ制御手段52は、クラッチ16へ、クラッチ接続指令を出力し、クラッチ16を接続状態(図4中に示す「クラッチ締結」)とする(ステップS16)。
【0059】
ステップS16において、クラッチ16を接続状態とすると、制動力制御手段48は、車両Cの減速時に発生する制動力を制御するための情報信号を、エンジン制御手段50へ出力する。この情報信号の入力を受けたエンジン制御手段50は、エンジン1の駆動状態を制御する。これにより、エンジン1の駆動状態を、車両Cの減速力となるエンジン1のフリクションが発生する駆動状態に制御(図中に示す「エンジンフリクションによる減速力制御」)する(ステップS24)。
【0060】
ステップS24において、エンジン1の駆動状態を制御した後、モータ制御手段56が、ロック検出手段54が出力した情報信号に基づき、駆動輪2のロックによりスリップが発生しているか否かを判定(図中に示す「スリップ有?」)する(ステップS26)。
ステップS26において、モータ制御手段56が、駆動輪2のロックによりスリップが発生していない(図中に示す「No」)と判定すると、制動力制御装置が行う処理は、ステップS10の処理へ復帰(RETURN)する。」(段落【0052】ないし【0060】)

(2)刊行物2の技術
上記(1)及び図1ないし6の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2の技術」という。)が記載されている。

「車両Cの減速時に、バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量未満である場合、モータ4の回生トルクで発生する制動力により車両Cの減速力を制御してモータ4の回生により発電した電力をバッテリー26へ蓄電する一方、バッテリー蓄電量が、所定の蓄電量以上である場合、エンジン1のフリクションにより制動力を発生する技術。」

3.刊行物3(特開2003-320871号公報)
(1)刊行物3の記載事項
3a)「【請求項1】 エンジン及びモータジェネレータを含む駆動源と、この駆動源の駆動力を段階的に変速して駆動輪へ伝達する有段式の自動変速機と、上記エンジンとモータジェネレータ及び自動変速機との動力伝達を断続するクラッチと、を有し、このクラッチの締結率を連続的に変更可能なハイブリッド車両の回生制御装置において、
上記エンジンの燃料カットを伴う車両減速中に、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低くならないように、車速の低下に応じて上記自動変速機のシフトダウンを行うシフトダウン手段と、
上記車両減速中のエンジン回転数をほぼ上記下限回転数に維持するように、上記クラッチの締結率を変更する締結率変更手段と、
このクラッチの締結率の変更に応じて回生トルクを設定し、上記モータジェネレータを回生制御する回生制御手段と、を有することを特徴とするハイブリッド車の回生制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

3b)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係るハイブリッド車両は、エンジン及びモータジェネレータを含む駆動源と、この駆動源の駆動力を段階的に変速して駆動輪へ伝達する有段式の自動変速機と、上記エンジンとモータジェネレータ及び自動変速機との動力伝達を断続するクラッチと、を有している。このクラッチは締結率を連続的に変更可能なもので、周知の油圧多板式クラッチなどを用いることができる。
【0007】上記エンジンの燃料カットを伴う車両減速時には、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低くならないように、車速の低下に応じて上記自動変速機のシフトダウンを行う。このシフトダウンによりエンジン回転数は一時的に上昇しようとするが、このエンジン回転数を下限回転数の近傍に維持するように、クラッチの締結率を変更制御する。そして、このクラッチの締結率の変更に応じて回生トルクを設定し、上記モータジェネレータを回生制御する。このときの回生トルクは、典型的には、クラッチを意図的に滑らせることによるエンジン制動トルクの減少分に相当する。
【0008】
【発明の効果】本発明によれば、燃料カットを伴う車両減速時に、車速の低下に応じてシフトダウンを行い、再加速時のエンジンストールを確実に回避しつつ、クラッチの締結率を変更制御することにより、このシフトダウンによるエンジン回転数の上昇を抑制することができる。このため、エンジン制動トルクが抑制され、その分、モータジェネレータの回生トルクを増加することができるので、エネルギー効率が向上し、特に燃費の向上効果を得ることができる。」(段落【0006】ないし【0008】)

(2)刊行物3の技術
上記(1)及び図1ないし9の記載からみて、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3の技術」という。)が記載されている。

「エンジンの燃料カットを伴う車両減速時には、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低くならないように、車速の低下に応じて上記自動変速機のシフトダウンを行う技術。」

4.対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「駆動力」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「動力」に相当し、以下同様に、「第1モータ20」は「第1のモータジェネレータ」あるいは「第1のMG」に、「第2モーター22」は「第2のモータジェネレータ」あるいは「第2のMG」に、「伝達する」は「伝達可能な」に、「バッテリー42」は「バッテリ」に、「車両の制御装置」は「車両駆動システムの制御装置」に、「歯車機構」は「動力伝達装置」に、「エンジンの駆動力を伝達する入力軸46」あるいは「入力軸46」は「エンジン入力軸」に、「第1モータ20の駆動力を伝達する入力軸」は「モータ入力軸」に、「出力軸66」は「車軸に伝達するための動力を出力する出力軸」に、「前進4段の同期噛み合い式変速機構」は「エンジン側ギヤ機構」に、「第2減速出力歯車92及び第3駆動歯車90」は「モータ側ギヤ機構」に、「駆動力の伝達」は「動力伝達」に、「第2サブクラッチ88」は「第2のクラッチ」に、「第1スリーブ64及び第2スリーブ74」は「第3のクラッチ」に、「駆動力を伝達することが可能」は「動力伝達可能」に、「車両の制動時」は「車両の減速時」に、「車両の制御装置」は「車両駆動システムの制御装置」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明における「サブクラッチ76およびサブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ78」と本願発明1における「第1のクラッチ」とは、「動力断続機構」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「エンジンの動力と第1のモータジェネレータ(以下「第1のMG」と表記する)及び第2のモータジェネレータ(以下「第2のMG」と表記する)の動力を車両の車軸に伝達可能な動力伝達装置と、前記第1及び第2のMGと電力を授受するバッテリとを備えた車両駆動システムの制御装置において、
前記動力伝達装置は、前記エンジンの動力を伝達するエンジン入力軸と、前記第1のMGの動力を伝達するモータ入力軸と、前記第2のMGの動力が入力されると共に前記車軸に伝達するための動力を出力する出力軸と、前記エンジン入力軸の動力を前記モータ入力軸を介さずに前記出力軸に伝達するためのエンジン側ギヤ機構と、前記モータ入力軸の動力を前記エンジン入力軸を介さずに前記出力軸に伝達するためのモータ側ギヤ機構と、前記エンジン入力軸と前記モータ入力軸との間の動力伝達を断続する動力断続機構と、前記モータ側ギヤ機構と前記出力軸との間の動力伝達を断続する第2のクラッチと、前記エンジン側ギヤ機構と前記出力軸との間の動力伝達を断続する第3のクラッチとを備え、前記第1のクラッチが接続された場合に前記エンジン側ギヤ機構と前記モータ側ギヤ機構との間が動力伝達可能となるように構成された、車両駆動システムの制御装置」

[相違点1]
動力断続機構が、本願発明1においては「第1のクラッチ」であるのに対して、引用発明においては「サブクラッチ76およびサブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ78」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明1においては、「車両の減速時に、バッテリの残容量又はこれに応じて変化する情報(以下これらを「バッテリ残量情報」と総称する)が所定の閾値よりも低い場合には第1のクラッチと第2のクラッチと第3のクラッチを全て切断して車軸の動力で第2のMGを駆動して該第2のMGで発電した電力をバッテリに充電するMG回生制御を実行し、バッテリ残量情報が閾値以上の場合にはエンジン側ギヤ機構とモータ側ギヤ機構のうちでギヤ比が小さい方のギヤ機構であるエンジン側ギヤ機構を介して車軸の動力をエンジンに伝達するように第1のクラッチと第2のクラッチを切断すると共に第3のクラッチを接続して車軸の動力でエンジンを駆動する第1のエンジン回生制御を実行する減速時回生制御手段を備えている」のに対して、引用発明においては、「車両の制動時には、サブクラッチ76を接続することで入力軸46と第1モータ20とを連結し、第2モータ22のみで発電、あるいは、第2モータ22及び第1モータ20を発電させることにより制動時のエネルギー回生制御を行う」点(以下、「相違点2」という。)。

上記相違点について検討する。

[相違点1について]
上記相違点1に係る引用発明の「サブクラッチ76およびサブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ78」は、上記1.1c)の刊行物1の記載「【0029】第1モーター20は、サブクラッチ76および該サブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ(以下、OWCという)78を介して第1駆動歯車80と連結され、第1駆動歯車80は1速出力歯車60と噛み合っている。OWC78は第1モーター20が入力軸46を、エンジン12の回転と同じ回転方向、つまり自動車の前進方向に駆動する場合のみ、動力を伝達できるように構成されている。したがって、第1モーター20はサブクラッチ76およびOWC78、さらに第1駆動歯車80と1速出力歯車60および1速入力歯車50を介して入力軸46を駆動することができる。」によれば、ワンウエイクラッチ78は、第1モータ20が、入力軸46をエンジン12の回転と同じ回転方向に駆動する場合に動力を伝達するように機能するものであって、そのような機能を有することが引用発明のワンウエイクラッチ78において前提である以上、引用発明における「サブクラッチ76およびサブクラッチ76と並列に設けられたワンウエイクラッチ78」からワンウエイクラッチ78を除去してサブクラッチ76のみとする動機付けは見出せない。
また、その点は、上記刊行物2の技術及び刊行物3の技術において示唆されるものでもない。
よって、引用発明において、刊行物2の技術及び刊行物3の技術を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

[相違点2について]
刊行物2の技術は「車両Cの減速時に、バッテリーの蓄電量が所定の蓄電量未満である場合、モータ4の回生トルクで発生する制動力により車両Cの減速力を制御してモータ4の回生により発電した電力をバッテリー26へ蓄電する一方、バッテリー蓄電量が、所定の蓄電量以上である場合、エンジン1のフリクションにより制動力を発生する技術」であり、
刊行物3の技術は「エンジンの燃料カットを伴う車両減速時には、エンジン回転数が所定の下限回転数よりも低くならないように、車速の低下に応じて上記自動変速機のシフトダウンを行う技術」である。
しかしながら、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項である「車両の減速時に、バッテリの残容量又はこれに応じて変化する情報(以下これらを「バッテリ残量情報」と総称する)が所定の閾値よりも低い場合には第1のクラッチと第2のクラッチと第3のクラッチを全て切断して車軸の動力で第2のMGを駆動して該第2のMGで発電した電力をバッテリに充電するMG回生制御を実行」すること、及び「バッテリ残量情報が閾値以上の場合にはエンジン側ギヤ機構とモータ側ギヤ機構のうちでギヤ比が小さい方のギヤ機構であるエンジン側ギヤ機構を介して車軸の動力をエンジンに伝達するように第1のクラッチと第2のクラッチを切断すると共に第3のクラッチを接続して車軸の動力でエンジンを駆動する第1のエンジン回生制御を実行する減速時回生制御手段を備えている」ことについては、いずれも引用発明はもとより、上記刊行物2の技術及び刊行物3の技術においても開示ないし示唆するものではない。
よって、引用発明において、刊行物2の技術及び刊行物3の技術を適用することにより、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。

したがって、引用発明に刊行物2の技術及び刊行物3の技術を適用することにより、上記相違点1及び2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとすることはできないのであるから、本願発明1は、引用発明、引用例2の技術及び刊行物3の技術に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし4について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし4は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし4は、本件発明の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし4は、本願発明1と同様の理由で、引用発明、引用例2の技術及び刊行物3の技術に基いて当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、いずれも引用発明、引用例2の技術及び刊行物3の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-10-31 
出願番号 特願2011-272319(P2011-272319)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼木 真顕  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
松下 聡
発明の名称 車両駆動システムの制御装置  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 鎌田 徹  
代理人 津田 拓真  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ