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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1320959
審判番号 不服2015-21481  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-03 
確定日 2016-10-27 
事件の表示 特願2011-181756「電子部品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月 4日出願公開、特開2013- 44887〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成23年8月23日の出願であって、平成27年1月30日付け(発送 同年2月3日)で拒絶理由が通知され、同年4月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年8月31日付け(送達:同年9月8日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月3日に拒絶査定不服審判請求ががなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年12月3日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、本件補正前(平成27年4月1日になされたもの)の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3を、以下のとおりに補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである。)。
「【請求項1】
基板と、前記基板の表面に形成された電極を備えた電子部品の製造方法であって、
前記基板上に、反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜上に、レジスト膜を形成する工程と、
所定の形状からなるマスクを介して、KrFレーザまたはi線を照射して、前記レジスト膜を露光する工程と、
前記レジスト膜を現像し、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンを用いて、前記基板上に前記電極膜を形成する工程を備え、
前記反射防止膜の膜厚が、80nm以上、105nm以下、または、160nm以上、200nm以下である電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記レジスト膜を形成する工程が、前記基板をコーターチャックに保持しておこなわれる、請求項1または2に記載の電子部品の製造方法。」
とあったものを、独立形式の請求項1として、
「【請求項1】
基板と、前記基板の表面に形成された電極を備えた電子部品の製造方法であって、
前記基板上に、反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜上に、レジスト膜を形成する工程と、
所定の形状からなるマスクを介して、KrFレーザまたはi線を照射して、前記レジスト膜を露光する工程と、
前記レジスト膜を現像し、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンを用いて、前記基板上に前記電極膜を形成する工程とを備え、
前記反射防止膜の膜厚が、80nm以上、105nm以下、または、160nm以上、200nm以下であり、
前記レジスト膜を形成する工程は、前記基板をコーターチャックに真空吸着して行われる、電子部品の製造方法。」
に補正。

2 補正の目的
本件補正は、補正前の請求項3において、「レジスト膜を形成する工程」に関して、「基板をコーターチャックに保持しておこなわれる」とあったものを、「基板をコーターチャックに真空吸着して行われる」と補正し、「保持」を「真空吸着」に限定するものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1(1)において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-217080号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、基板上に金属からなる電極パターンを形成する方法に関する。」

(イ)「【0014】反射防止膜を酸またはアルカリのどちらにも可溶である無機物とすることで、アルカリ性現像液によりフォトレジストを除去する工程と、酸性溶液またはアルカリ性溶液のいずれかでレジストパターンを除去する工程とにおいて、反射防止膜を除去する別工程で設けることなく、同工程で除去することができる。したがって、工程の短縮を図ることができ、コストダウンを図ることができる。また、プラズマ処理によるドライエッチングを行う必要もないので、特性の劣化も回避することができる。
【0015】また、有機高分子材料からなる反射防止膜を形成したときのようなミキシングの問題がなく、ベーキングを必要としないため基板が割れる問題もない。したがって、きわめて信頼性が高い電極パターンを形成することが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例である電極パターンの形成方法を、図2および図3を用いて説明する。図2は、本発明の第1実施例の電極パターンの形成方法を示す図である。まず、図2(a)に示すように、厚み0.1から0.5mmの例えばLiTaO_(3)からなる基板1の表面に膜厚0.2μmのZnOからなる反射防止膜2をイオンプレーティング、あるいはスパッタリングで形成する。ZnOは、酸またはアルカリのどちらにも可溶である無機物である。
【0017】次に、図2(b)に示すように、反射防止膜2上にポジ型レジストであるフォトレジスト3を塗布し、100℃程度の熱をかけて硬化させる。次に、所望の形状に孔が設けられたマスク10を介して、波長365nmの紫外光を基板1表面の上方向から露光する。こうすることで、部分的にフォトレジストをアルカリ性現像液に対して可溶性に変化させることができる。なお、ここで用いられるフォトレジスト3は、できるだけ高感度のものを用いるのが好ましい。
【0018】波長365nmの紫外光は、約3.4eVのエネルギーを有する。一般に半導体に光が照射されるとき、半導体の有するバンドギャップエネルギーが光のエネルギーより小さいときに、その半導体は光のエネルギーを吸収しやすいという特性を有している。反射防止膜2であるZnOの有するバンドギャップエネルギーは約3.2eVであるので、紫外光を吸収し、不所望な部分への紫外光の乱反射を防止することができる。
【0019】次に、図2(c)に示すように、アルカリ性現像液で現像を行うことで露光された部分のフォトレジスト3を除去し、レジストパターン4を形成する。この時、現像液はアルカリ性であるため、両性酸化物であるZnOからなる反応防止膜2は、現像によってフォトレジスト3が除去された部分の直下だけが溶けて同時に除去される。したがって、フォトレジスト3が除去された部分については、基板1表面が露出し、除去されていないレジストパターン4の部分については、依然として、反射防止膜2とフォトレジストの2層構造となっている。
【0020】なお、この工程において、アルカリ性現像液による現像をあまりに長い時間行うと、フォトレジスト3が除去された部分の直下以外の反射防止膜2も溶けてしまう。そのため、現像時間には十分に注意を払う必要がある。
【0021】次に、図2(d)に示すように、のちに電極パターン6を形成する金属膜5を露出した基板1上と、レジストパターン4上とに成膜する。
【0022】最後に、図2(e)に示すように、酸性またはアルカリ性の溶液中に基板を浸漬することにより、反射防止膜2を溶解させ、反射防止膜2とその上層のレジストパターン4とを、レジストパターン4上に成膜された金属ごと一括して除去し、電極パターン6を形成する。さきにも述べたが、ZnOは、酸またはアルカリのどちらにも可溶である無機物であるので、酸性またはアルカリ性の溶液によりレジストパターン4と同時に除去することが可能である。
【0023】図3は、本発明の第2実施例である電極パターンの形成方法を示す図である。図3に示す第2実施例は、反応防止膜20としてZnOに、2%のNiを含有させたものである。反応防止膜20以外の使用する材料および工程は、第1実施例と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0024】反応防止膜20として、ZnOにNiを含有させたものを用いることにより、反射防止膜20が有するエネルギーが減少し、紫外光の吸収効率が向上するので、より薄い膜厚で反射防止効果を得ることができる。本実施例では、0.1μmの膜厚の反射防止膜2を形成した。
【0025】ここで、反射防止膜2,20の好ましい膜厚について説明する。反射防止膜2,20の膜厚が薄すぎると反射防止の効果を十分に発揮できなくなる。このため反射防止膜2,20の膜厚は少なくとも0.05μm以上であることが好ましい。また、膜厚が厚すぎると、上記した反射防止膜2,20を除去する工程において、除去に要する時間が増大し、また、アルカリ性現像液に長く浸漬すると、本来残存すべきレジストパターン4が、レジストパターン4の側壁部41方向から侵食されていき、その結果、形成される電極パターン6の幅が所望の幅よりも太くなってしまい微細な電極パターン6が形成できないという問題がある。さらに、侵食される量が多いと最悪レジストパターン4が倒れてしまうという問題も生じる。このため、反射防止膜の膜厚は多くとも0.5μm以下であることが好ましい。本発明の第2実施例において反射防止膜20を0.1μmの膜厚としたときは、0.25μmまで微小な幅の電極パターン6を形成することができた。
【0026】なお、基板1として、LiTaO_(3)からなるものを用いたが、これに限定するものではなく、たとえば水晶などの他の基板にも適用可能である。またフォトレジスト3は、ポジ型レジストに限定されるものではなく場合に応じてネガ型、ポジ型のいずれも使用することができる。」

(ウ)図2は次のものである。


(エ)引用発明
上記(イ)に記載された各構成は、電極パターンの形成方法の構成であるので、それぞれ「工程」をなすといえる。
そうすると、上記(ア)ないし(ウ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基板1の表面に反射防止膜2を形成する工程、
前記反射防止膜2上にフォトレジスト3を塗布し、硬化させる工程、
所望の形状に孔が設けられたマスク10を介して、波長365nmの紫外光を前記基板1表面の上方向から露光する工程、
アルカリ性現像液で現像を行うことで露光された部分のフォトレジスト3を除去し、レジストパターン4を形成する工程、
のちに電極パターン6を形成する金属膜5を露出した基板1上と、レジストパターン4上とに成膜する工程とを備え、
前記反射防止膜2の膜厚が薄すぎると反射防止の効果を十分に発揮できなくなるため反射防止膜2,20の膜厚は少なくとも0.05μm以上であり、また、膜厚が厚すぎると、反射防止膜2を除去する工程において、除去に要する時間が増大し、形成される電極パターン6の幅が所望の幅よりも太くなってしまい微細な電極パターン6が形成できないという問題があるため、反射防止膜の膜厚は多くとも0.5μm以下である、
前記基板1上に金属からなる電極パターンを形成する方法。」

イ 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-32496号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜の形成方法及び塗膜形成装置、特にフォトリソグラフィ法で用いるフォトレジストの下層に塗布形成される反射防止膜の形成方法及びその方法の実施に適用される塗膜形成装置に関する。」

(イ)「【0022】
図1は、本発明に係る塗膜形成装置の一実施の形態を示す構成図である。
本実施の形態に係る塗膜形成装置は、基板を回転させるいわゆる回転塗布機構と、基板を加速度をもって上昇させることができる昇降機構とを有して成る。すなわち、本実施の形態に係る塗膜形成装置1は、チャンバー2内に、塗膜材料を塗布すべき基板すなわち被塗布基板、本例では、シリコン半導体基板21を保持する基板保持手段3と、塗膜材料(所要の粘度を有する液体)を基板21の面に滴下する滴下手段である塗膜材料用ノズル4が設けられている。基板保持手段3は、半導体基板21を真空吸着で保持するための真空チャック5を有し、回転手段となるモータ6により回転可能に構成される。チャンバー2には、上下移動するためのスライダー8とスライダーを支えるレール9と図示しないが駆動源とからなる昇降機構が設けられる。この昇降機構は、基板21と共にチャンバー2を加速度をもって上昇させることが出来るように構成される。さらにチャンバー2には、塗布時の塗膜材料の残液を排出する排液口7が設けられる。
【0023】
次に、この塗膜形成装置1を用いて、本発明の一実施の形態に係る反射防止膜の形成方法を説明する。
(・・・途中省略・・・)
【0031】
次に、図1の塗膜形成装置1を用いて図3Cに示すように、反射防止膜31上にフォトレジスト層32を形成する。本例では、フォトレジスト液の滴下量を1?5cc、基板保持手段3の回転数を2000?4000rpmとする。また、フォトレジスト層のベーク処理としては、50?250℃、30?120秒とする。次いで、露光マスク14を介してフォトレジスト層32を露光する。この露光時の粗密パターンの段差を有する基板22であっても、反射防止膜31が均一な膜厚で形成されていることで、段差部で露光光Lが反射されず、フォトレジスト層32が精度よく露光される。」

(ウ)上記(ア)及び(イ)によれば、引用文献2には下記の事項(以下、「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。
「反射防止膜上にフォトレジスト層を形成する塗膜形成装置の基板保持手段が、半導体基板を真空吸着で保持するための真空チャックを有する点。」

ウ 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-269160号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置の製造方法に関し、より詳しくは、レジストパターンを使用して選択された領域に不純物をイオン注入する工程を含む半導体装置の製造方法に関する。」

(イ)「【0029】ところで、上記した反射防止膜の材料としてアモルファスカーボンを使用したがBARC(bottom antirflection coating)と呼ばれる有機樹脂、例えばDUV-42(商品名、ブリューワーサイエンス社製)を用いてもよい。そのような有機樹脂の膜厚と反射率とレジストの露光波長との関係は図7、図8のようになっている。図7では波長365nm(i線)の放射線を用い、図8では波長248nm(KrF)の放射線を用いた。
【0030】反射防止膜5の反射率としては10%以下が望ましいので、図7、図8によれば、露光波長が365nmの場合には反射防止膜5の膜厚として600Å(60nm)以上が必要となり、また、露光波長が248nmの場合には反射防止膜5の膜厚として420Å(42nm)以上が必要となる。さらに、微細化のために浅い不純物拡散層を形成するためには反射防止膜5の膜厚は1500Å(150nm)よりも薄いことが好ましい。
【0031】図7と図8を比べると反射防止膜の下地層の種類によって反射率が変わり、また、波長が短い方が反射率の下地依存性は小さくなる。図7の露光波長365nmでは、タングステイシリサイドが40nm以上で反射率が10%以下になり、多結晶シリコンとシリコンと二酸化シリコンが約60nm以上で反射率が10%以下になり、膜の種類によって膜厚の下限値に僅かにばらつきが見られた。
【0032】これに対して、図8の露光波長248nmでは、それらの膜の種類にほとんど依存せずに膜厚約42nmで反射率が10%以下になった。なお、露光光として波長193nm(ArF)を使用する場合には、特に図には示していないが、下地層がシリコン、タングステンシリサイド、多結晶シリコン、単結晶シリコンの場合に反射率を10%以下にするためには、30?150nmの範囲の厚さでアモルファスカーボンを形成したり、或いは、35?150nmの範囲の厚さでBARCを形成するのが好ましい。
【0033】ところで、上記した図5?図8は、イオン注入工程でレジストパターン形成に影響を与える下地層からの反射を一般的な光強度シュミレーションから求めたものである。下地層の条件、例えば厚さや材料が上述した条件と異なる場合には、その都度、最適な反射防止膜の膜厚を求めればよい。また、露光光源としてArFの次の世代ではどのような波長が適用されるかは不明であるがそれについても放射線である限りそのようなシュミレーションから簡単に求めることができる。」

(ウ)上記(イ)で言及される図7は次のものである。
【図7】


(エ)上記(イ)の記載を踏まえて、上記(ウ)の図7をみると、波長(λ)365nm(i線)の放射線を用いた際の、反射防止膜の反射率が、膜厚が0から増加するに従って反射率が減少し、膜厚が75?85nmの場合に反射率の極小値を有し、膜厚が120?130nmの場合に反射率の極大値を有することが見て取れる。
したがって、当該図7からは、波長(λ)365nm(i線)の放射線を用いた際は、反射防止膜の膜厚を増大させると反射率の極小値の後に極大値が現れることがわかる。

(オ)上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献3には下記の事項(以下、「引用文献3に記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。
「反射防止膜の下地層の種類によって反射率が変わり、また、波長が短い方が反射率の下地依存性は小さくなるため、下地層の条件、厚さや材料に応じて、その都度、最適な反射防止膜の膜厚を求めればよく、特に波長(λ)365nm(i線)の放射線を用いた際の、反射防止膜(有機樹脂)の膜厚と反射率との関係は、反射率は、膜厚が0から増加するに従って反射率が減少し、膜厚が75?85nmの場合に反射率の極小値を有し、膜厚が120?130nmの場合に反射率の極大値を有することを考慮する必要がある点。」

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「基板1」、「反射防止膜2」、「フォトレジスト3を塗布し、硬化させる」こと、「所望の形状に孔が設けられたマスク10」、「レジストパターン4」及び「電極パターン6を形成する金属膜5」は、本願補正発明の「基板」、「反射防止膜」、「レジスト膜」を形成すること、「所定の形状からなるマスク」、「レジストパターン」及び「電極膜」にそれぞれ相当する

(イ)引用発明は、「基板1上に金属からなる電極パターンを形成する方法」の発明であるところ、「基板1上に金属からなる電極パターンを形成」することは、「基板の表面に形成された電極を備えた電子部品」の製造方法であるといえるから、引用発明の、「基板1上に金属からなる電極パターンを形成する方法」は、本願補正発明の「基板の表面に形成された電極を備えた電子部品の製造方法」に相当する。

(ウ)引用発明は、「波長365nmの紫外光」を基板1表面の上方向から露光するところ、水銀のスペクトル線であるi線の波長は365nmである。
したがって、引用発明の「所望の形状に孔が設けられたマスク10を介して、波長365nmの紫外光を前記基板1表面の上方向から露光する工程」は、本願補正発明の「所定の形状からなるマスクを介して、i線を照射して、前記レジスト膜を露光する工程」に相当する。

(エ)引用発明の、「アルカリ性現像液で現像を行うことで露光された部分のフォトレジスト3を除去し、レジストパターン4を形成する工程」及び「のちに電極パターン6を形成する金属膜5を露出した基板1上と、レジストパターン4上とに成膜する工程とを備え」は、本願補正発明の「前記レジスト膜を現像し、レジストパターンを形成する工程」及び「前記レジストパターンを用いて、前記基板上に前記電極膜を形成する工程とを備え」に、それぞれ相当する。

(オ)以上(ア)ないし(エ)を総合すると、本願補正発明と引用発明は、
「基板と、前記基板の表面に形成された電極を備えた電子部品の製造方法であって、
前記基板上に、反射防止膜を形成する工程と、
前記反射防止膜上に、レジスト膜を形成する工程と、
所定の形状からなるマスクを介して、i線を照射して、前記レジスト膜を露光する工程と、
前記レジスト膜を現像し、レジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンを用いて、前記基板上に前記電極膜を形成する工程とを備える、電子部品の製造方法。」
である点で一致し、下記各点で相違する。

a 本願補正発明の「反射防止膜の膜厚」は、「80nm以上、105nm以下、または、160nm以上、200nm以下であ」ると特定されるのに対して、引用発明の「反射防止膜2の膜厚」は、「少なくとも0.05μm以上であり、また、」「多くとも0.5μm以下である」と特定される点(以下、「相違点1」という。)。

b 本願補正発明の「レジスト膜を形成する工程」は、「基板をコーターチャックに真空吸着して行われる」のに対して、引用発明の「反射防止膜2上にフォトレジスト3を塗布し、硬化させる工程」では基板1の扱いが特定されない点(以下、「相違点2」という。)。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
波長(λ)365nm(i線)の放射線を用いた際の、反射防止膜(有機樹脂)の膜厚と反射率とレジストの露光波長との関係は、膜厚が75?85nmの場合に極小値を有し、膜厚が120?130nmの場合に極大値を有するから、膜厚としては100?150nm付近を避けた方がよいこと(引用文献3に記載の事項)は周知の事項であるといえる。
ここで、引用発明の「反射防止膜2」は、引用文献1によれば、実施例においては、具体的には「ZnO」(上記「(2)」「ア」「(イ)」 段落【0016】)が用いられているが、段落【0014】から、「酸またはアルカリのどちらにも可溶である無機物」(上記「(2)」「ア」「(イ)」)であればよく、ZnOである必要はない。
そして、「反射防止膜の下地層の種類によって反射率が変わり、また、波長が短い方が反射率の下地依存性は小さくなるため、下地層の条件、厚さや材料に応じて、その都度、最適な反射防止膜の膜厚を求めればよ」いこと(引用文献3に記載の事項)が周知の事項であるから、下地層の条件、厚さや材料に応じて、その都度、最適な反射防止膜の膜厚を求めることは、発明を実施するに際して当然に考慮すべきことである。
そうすると、上記引用文献3に記載の事項から、波長(λ)365nm(i線)の放射線の特性として、より反射率が低くなる「反射防止膜」を得るために、反射防止膜の膜厚を波長365nm(i線)の反射率の特定値以下となる所定の範囲とすることは適宜定める事項にすぎないから、反射防止膜の膜厚を反射率が極小値を取る所定の範囲付近(上記(2)ウ(ウ)の引用文献3の図7の例においては、75?85nm)以上とし、また、上記引用文献3に記載の事項から、極大値付近(上記(2)ウ(ウ)の引用文献3の図7の例においては、100?150nm)を除外した範囲を選択すればよいと理解できる。
よって、引用発明の「反射防止膜2」において、このような波長(λ)365nm(i線)の放射線の特性を考慮して、極小値付近以上であって、極大値付近を除外した範囲を選択して、適宜の範囲を反射防止膜の膜厚と設定することに格別の困難性はない。
そして、その具体的数値範囲として、反射防止膜の材質に応じて80nm以上、105nm以下、または、160nm以上とすることは単なる設計的事項にすぎない。
さらに、「膜厚が厚すぎると、反射防止膜2を除去する工程において、除去に要する時間が増大し、形成される電極パターン6の幅が所望の幅よりも太くなってしまい微細な電極パターン6が形成できないという問題がある」(引用発明)という、製造上の観点から所定の厚み(200nm)以下として、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことに格別の困難性はなく、当業者が容易になし得たことである。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明の「反射防止膜2上にフォトレジスト3を塗布し、硬化させる工程」において、基板1を適宜の保持手段で保持することは発明を実施するに際して当然に考慮すべきことであるところ、「反射防止膜上にフォトレジスト層を形成する塗膜形成装置の基板保持手段が、半導体基板を真空吸着で保持するための真空チャックを有する点」(引用文献2に記載の事項)が周知の事項であるから、引用発明の「反射防止膜2上にフォトレジスト3を塗布し、硬化させる工程」において上記反射防止膜上にフォトレジスト層を形成する塗膜形成装置(コーター)の基板保持手段が、半導体基板を真空吸着で保持するための真空チャックを有する構成を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことに格別の困難性はなく、当業者が容易になし得たことである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成27年4月1日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、上記「第2」[理由]「1 補正の内容」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」「(2)」のとおりである。

3 対比・判断
本願発明について
上記「第2」[理由]「2 補正の目的」のとおり、本願発明は、上記「第2」[理由]「3 独立特許要件について」で検討した本願補正発明を特定するための事項である、「前記レジスト膜を形成する工程は、前記基板をコーターチャックに真空吸着して行われる」との限定を省いたものである。
これに対して、上記「第2」[理由]「3」「(3)」「イ」で検討したとおり、上記限定を省いた本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記「第2」[理由]「3」での検討と同様の理由により、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-29 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-14 
出願番号 特願2011-181756(P2011-181756)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也田口 孝明関口 英樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 森 竜介
松川 直樹
発明の名称 電子部品の製造方法  
代理人 岡田 全啓  

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