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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1320982
審判番号 不服2016-2203  
総通号数 204 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-12-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-15 
確定日 2016-11-15 
事件の表示 特願2014- 72684「無線通信装置及び無線通信プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-195512、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成26年3月31日の出願であって、平成27年2月20日付けで拒絶理由が通知され、平成27年4月23日付けで手続補正がされ、平成27年5月27日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年8月3日付けで手続補正がされ、平成27年11月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年2月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、平成28年8月29日付けで当審から拒絶理由が通知され、平成28年8月31日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の理由の概要と前置報告の内容

1.原査定の理由の概要

この出願については、平成27年 2月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由Bによって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由B(特許法第29条第2項)について

・請求項1、8
・引用文献等1、4-6
平成27年8月3日付けの手続補正書による請求項1(以下、「補正後の請求項1」という)についての補正は、「ノイズ強度測定手段」について、本願の明細書の段落[0028]の記載との関係において不合理を生じていたものを解消するためにした、明瞭でない記載の釈明を目的とする補正であると認める。

まず、補正後の請求項1に係る発明の「ノイズ強度測定手段」について検討する。
当該「ノイズ強度測定手段」は、補正後の請求項1に記載されているとおり「同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定する」ものである。
そして、当該「ノイズ強度測定手段」で測定対象となる「ノイズ信号」は、平成27年8月3日付けの意見書において出願人が主張するように、「同一の通信システムから受信する信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置から受信する信号」や、「同一の通信システムから受信する信号以外であって、加法性白色ガウス雑音等を形成するノイズ源からのノイズ」が含むものである。
そうすると、当該ノイズ強度測定手段で測定対象となる「ノイズ信号」と、上記の拒絶理由通知書で述べた引用文献1の送信局が掲載する信号雑音比(SNR)における「雑音」とに格別の差異はない。

よって、上記の拒絶理由通知書で述べたように、SNRの算出過程において受信信号と雑音(ノイズ)の電力又は強度の算出が必要となることは周知であるから、引用文献1の送信局において、当該周知な技術に基づいて、本願の補正後の請求項1に係る発明のような「信号強度測定手段」と「ノイズ強度測定手段」とを備えるように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。
なお、上記の周知技術について、例えば、引用文献4の段落[0025]には、移動局装置4が、受信して復調したレファレンス信号の振幅値から「受信電力」を測定し、受信信号の分散値を求めることにより「ノイズ電力」を計測し、当該受信電力とノイズ電力の比を算出することで、SNRを測定することが記載されている。また、これと同様の技術内容が、引用文献5の段落[0009]、[0033]-[0067]、及び、引用文献6の段落[0095]-[0097]に記載されている。

本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載された発明との差異に関する出願人の主張について検討する。
平成27年4月23日付けの意見書において、出願人は、同日付けの手続補正書によって請求項1の「ノイズ強度測定手段」を「他の通信システムの無線通信装置からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定する」ものと補正した上で、引用文献1には「受信信号に対して他の通信システムとなるノイズ信号の強度の測定、算出手段について何ら開示も示唆されていない」旨を主張している。
しかしながら、当該「ノイズ強度測定手段」については、上述したように、平成27年8月3日付けの手続補正書によって再度補正され、同日付けの意見書で出願人が述べるように「他の通信システムの無線装置からのノイズのみを特定して、そのノイズ強度を測定するといった処理は行なうものでは」ないものとなったため、上記の出願人の主張を採用することはできない。

また、補正後の請求項1に係る発明の「ノイズ強度測定手段」以外の発明特定事項、及び、請求項8に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において述べたとおりである。

以上のことから、本願の補正後の請求項1、8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・請求項2
・引用文献等1、4-6
本願の補正後の請求項2に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において、本願の補正前の請求項2について述べたとおりである。
よって、本願の補正後の請求項2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・請求項3-5
・引用文献等1、2、4-6
本願の補正後の請求項3-5に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において、本願の補正前の請求項3-5について述べたとおりである。
よって、本願の補正後の請求項3-5に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・請求項6
・引用文献等1、2、4-6
本願の補正後の請求項6に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において、本願の補正前の請求項6について述べたとおりである。
よって、本願の補正後の請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・請求項7
・引用文献等1-6
本願の補正後の請求項7に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において、本願の補正前の請求項7について述べたとおりである。
よって、本願の補正後の請求項7に係る発明は、引用文献1、3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

・請求項9、10
・引用文献等1、4-6
本願の補正後の請求項9、10に係る発明については、上記の拒絶理由通知書において、本願の補正前の請求項9、10について述べたとおりである。
よって、本願の補正後の請求項9、10に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。

<引用文献等一覧>
1.特表2004-533791号公報
2.特開平8-167872号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2001-24582号公報
4.国際公開第2012/074048号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
5.国際公開第2012/093674号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
6.国際公開第2012/105683号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

2.前置報告の内容

平成28年2月15日付け審判請求書と同時に提出された手続補正書における請求項1に関する補正は、補正前の請求項1に記載された「他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定するノイズ強度測定手段」という記載を、「他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を上記受信手段による上記受信信号の受信前に測定するノイズ強度測定手段」とする補正であるが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「ノイズ信号強度を上記受信手段による上記受信信号の受信前に測定する」との記載はなく、また、一般に、ノイズ信号強度は受信信号の受信前に測定するものであるということはできないから、前記「他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を上記受信手段による上記受信信号の受信前に測定するノイズ強度測定手段」とした点は、当初明細書等に記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明の事項ということはできない。

ここで、上記の審判請求書において、出願人は、『本書と同時に提出した手続補正は、本願当初明細書の段落0097の記載を裏付けとするものである。』、及び、『請求項1に係る発明は、本願当初明細書の段落0097に記載の「毎回の信号強度やノイズ強度で送信出力を導出するのではなく、リンクの変動を考慮して、過去数回?数十回の平均値をベースに送信出力を導出するようにしても良い。」に基づくものである。』と主張している(以下、これを主張1という)。 また、出願人は、続けて、『すなわち、請求項1に係る発明は、1つの受信信号から受信電力とノイズ電力とを計測し、受信電力とノイズ電力の比を算出することでSNRを測定するのではなく、ノイズ強度は受信電力の算出に用いられる信号の受信前に既に受信したノイズ信号に基づき算出される。』と述べている(以下、これを主張2という)。

まず、上記の主張1について検討すると、上記の「毎回の信号強度やノイズ強度で送信出力を導出するのではなく、リンクの変動を考慮して、過去数回?数十回の平均値をベースに送信出力を導出するようにしても良い。」との事項は、「送信元である無線通信装置に対して、さらに送信出力値を下げることができる送信出力許容量」を算出する「S0-(N+C)[dBm]」で表される「式(1)」や、「送信元である無線通信装置に対して、送信出力値を上げるべき送信出力幅」を算出する「(N+C)‐S0[dBm]…(2)」で表される「式(2)」で用いられる、「自通信システムの送信元からの信号の受信信号強度S0[dBm]」や「他の通信システムからの電波やノイズ源のノイズ強度N[dBm]」(本願の明細書の段落[0036]-[0045]を参照)に関して、単に1回だけの算出結果を採用するのではなく、「過去数回?数十回」にわたる算出結果の「平均値」を採用することを意味するものと認められ、上記の補正後の請求項1のような、ノイズ強度測定手段によるノイズ信号強度の測定と、受信手段による受信信号の受信とのタイミングの前後関係について述べるものとは認められない。
よって、上記の主張1を採用することはできない。

次に、上記の主張2について検討する。
出願人は、上記のように「1つの受信信号から受信電力とノイズ電力とを計測し、受信電力とノイズ電力の比を算出することでSNRを測定するのではなく」と述べているが、本願の明細書の段落[0034]-[0035]を参照すると、「受信部110は、受信した信号を送信出力制御部100の自システム信号強度測定部102及び他システム信号ノイズ強度測定部103に与える。自システム信号強度測定部102は、自通信システムの送信元からの信号の受信信号強度S0[dBm]を測定し(S102)、他システム信号ノイズ強度測定部103は、他の通信システムからの電波やノイズ源のノイズ強度N[dBm]を測定する(S103)。」と記載されていることから、自システム信号強度測定部102及び他システム信号ノイズ強度測定部103への入力は、いずれも、受信部110は、受信した信号であり、「1つの受信信号から受信電力とノイズ電力とを計測」するものと理解される。
また、出願人は、「ノイズ強度は受信電力の算出に用いられる信号の受信前に既に受信したノイズ信号に基づき算出される」と述べているが、当該事項は本願の明細書に記載も示唆もされていない。そして、「既に受信したノイズ信号」との記載から、本願の無線通信装置は何らかの対象からノイズ信号を「受信」することが読み取れるものの、本願の明細書には何かがノイズ信号を「送信」することは記載されておらず、何がノイズ信号を送信するのか不明であるため、「既に受信したノイズ信号」との記載の技術的な意味を理解することができない。
よって、上記の主張2を採用することはできない。

また、手続補正書における請求項2、8、9、10、及び、明細書の段落[0013]-[0016]の補正についても同様である。

したがって、この補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして、この出願は原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。


第3 本願発明

本願の請求項1-10に係る発明は、平成28年8月31日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
同一及び他の通信システムを構築する他の無線通信装置から受信信号を受信する受信手段と、
同一の通信システムの他の無線通信装置から受信した信号の受信信号強度を上記他の無線通信装置毎に測定する信号強度測定手段と、
同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定するノイズ強度測定手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値と、過去複数の上記ノイズ信号強度の平均値とに基づいて、上記同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値を導出する相対変更値導出手段と、
上記相対変更値導出手段により導出された上記相対変更値を、対応する上記同一の通信システムの他の無線通信装置に送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
上記他の無線通信装置から、上記相対変更値を含む信号を受信した場合に、上記相対変更値を用いて送信信号の送信出力値を導出する送信出力値導出手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
上記相対変更値導出手段が、上記ノイズ信号強度に当該通信規格の所望SN比を加算した受信可能強度と、上記他の無線通信装置毎の上記受信信号強度とを比較し、その比較結果に基づいて、対応する上記他の無線通信装置への上記相対変更値を導出するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
上記相対変更値導出手段が、上記受信可能強度と上記他の無線通信装置毎の上記受信信号強度との差分値を、上記相対変更値とするものであることを特徴とする請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
上記相対変更値導出手段が、上記受信可能強度と上記他の無線通信装置毎の上記受信信号強度との差分値に所定のマージン値を加算した値を、上記相対変更値とするものであることを特徴とする請求項3に記載の無線通信装置。
【請求項6】
上記信号強度測定手段が、所定時間内における上記他の無線通信装置からの信号の信号強度の平均値を、上記他の無線通信装置毎の上記受信信号強度とするものであることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項7】
上記送信出力値導出手段が、複数の上記他の無線通信装置から、上記相対変更値を含む信号を受信した場合に、受信した複数の相対変更値から算出される送信出力値のうち最大送信出力値を導出するものであることを特徴とする請求項2?6のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項8】
コンピュータを、
同一及び他の通信システムを構築する他の無線通信装置から受信信号を受信する受信手段と、
同一の通信システムの他の無線通信装置から受信した信号の受信信号強度を上記他の無線通信装置毎に測定する信号強度測定手段と、
同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定するノイズ強度測定手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値と、過去複数の上記ノイズ信号強度の平均値とに基づいて、上記同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値を導出する相対変更値導出手段と、
上記相対変更値導出手段により導出された上記相対変更値を、対応する上記同一の通信システムの他の無線通信装置に送信する送信手段と
して機能させることを特徴とする無線通信プログラム。
【請求項9】
同一及び他の通信システムを構築する他の無線通信装置から受信信号を受信する受信手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置から受信した信号の受信信号強度を上記他の無線通信装置毎に測定する信号強度測定手段と、
同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定するノイズ強度測定手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値と、過去複数の上記ノイズ信号強度の平均値とに基づいて、上記同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値を導出する相対変更値導出手段と、
取得した上記他の無線通信装置の送信出力値と、上記相対変更値とに基づいて、当該他の無線通信装置に要求する送信出力値を導出する送信出力絶対値導出手段と、
上記送信出力絶対値導出手段により導出された上記送信出力値を、対応する上記同一の通信システムの他の無線通信装置に送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項10】
コンピュータを、
同一及び他の通信システムを構築する他の無線通信装置から受信信号を受信する受信手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置から受信した信号の受信信号強度を上記他の無線通信装置毎に測定する信号強度測定手段と、
同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号のノイズ信号強度を測定するノイズ強度測定手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値と、過去複数の上記ノイズ信号強度の平均値とに基づいて、上記同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値を導出する相対変更値導出手段と、
取得した上記他の無線通信装置の送信出力値と、上記相対変更値とに基づいて、当該他の無線通信装置に要求する送信出力値を導出する送信出力絶対値導出手段と、
上記送信出力絶対値導出手段により導出された上記送信出力値を、対応する同一の通信システムの上記他の無線通信装置に送信する送信手段と
して機能させることを特徴とする無線通信プログラム。」


第4 当審の判断

1.特許法第29条第2項について

(1)引用発明

原査定に引用された特表2004-533791号公報(以下「引用例1」という。)には、

「【0002】
一般に、無線LANには、インフラストラクチャベースとアドホックタイプという2つの種類がある。前者のネットワークでは、典型的には、通信は局(STAi)とアクセスポイント(AP)と呼ばれる無線ノード間でのみ行われるが、後者のネットワークでは、無線ノード間で通信が行われる。同一の無線範囲内にある局とAPは、BSS(Basic Service Set)として知られている。」

「【0010】
図1は、本発明の実施例が適用される代表的なネットワークを示す。図1に示されるように、アクセスポイント(AP)2は複数の可動局(STAi)に接続され、これら局は無線リンクを介し互いに通信したり、複数の無線チャンネルを介しAPと通信したりする。本発明の主要な原理は、送信局による受信局のローカルノイズ/干渉、チャンネルパス損失及びパフォーマンス能力に関する情報の取得を可能にする機構を提供することにある。これは、例えば、フレームが受信される時間や速度に対する受信局のノイズマージンの評価と、当該情報の送信局への送信により実行される。前述のように、ノイズマージンは、ある通信レベルまたは閾値に要する電力に対する受信信号電力の比であり、(以下において、局間の有効あるいは信頼性のある通信として知られる)、このレベルは、例えば、エラーレート、SNR(Signal-to-Noise Ratio)、その他送信パフォーマンスに関する従来の尺度のような通信に影響を与える多数の要因に基づくものである。ノイズマージンは、適切な電力レベルと適切な送信速度でフレームを送信することにより、以下に限定されるものではないが、送信電力の最小化あるいはバッテリー電源の節約などの他のタイプの電力制御、他のシステムへの干渉の回避、無線範囲の調整及び送信速度の調整に効果的である。IEEE802.11の物理層(PHY)は、異なる変調及びチャンネル符号化方式に基づき、複数の送信速度を規定し、それによって、フレームの送信機はある時点での受信機との無線チャンネル状態に基づき、複数の速度の中から1つを選択することができるようになる。典型的には、送信速度が低いほど、送信の信頼性はより高まる。ここで、図1に示されるネットワークは例示のため小規模に描かれている。実際には、大部分のネットワークはかなり多数の可動局を含んでいる。
【0011】
図1の無線LAN内のAPと各STAは、図2のブロック図に示されるアーキテクチャを有するシステムを備えることができる。図2を参照するに、APとSTAは共に、受信機12、復調器14、SNR測定回路16、メモリ18、制御プロセッサ20、タイマ22、変調器24及び送信機26を備えることができる。図2の一例となるシステムは、単に例示目的のためのものである。この説明では、可動局の説明に通常利用される用語が参照されているが、この説明とコンセプトは図2に示されたものと異なるアーキテクチャを有するシステムを含む他の処理システムに等しく適用可能である。
【0012】
作動中、受信機12と送信機26はアンテナ(図示せず)に接続され、それぞれ復調器14と変調器24を介し所望のデータを送信するため、受信信号を対応するデジタルデータに変換する。SNR測定回路16は、プロセッサ20の制御の下で動作し、受信フレームのSNRの決定あるいはノイズマージンを推定する類似の計算を実行する。その後、プロセッサ20は、あるデータ速度に関するSNR(dB)と最小許容可能SNR(SNRMIN)との差に基づき、ノイズマージンを算出する。あるデータ速度の最小許容可能SNRは、様々な方法の何れかにより決定される(例えば、エラーレート閾値が利用されてもよいし、変調エラー推定パラメータにより受信機が構成されてもよい)。例えば、802.11準拠のSTAにおいて受信PPDU(PHY Protocol Data Unit)に対し計算されるノイズマージンは、正常な受信に影響を与えることなくSTAにより許容されうるdBでのPPDUにおける追加的ノイズ/干渉として計算されてもよい。一例として、30dBのSNRの受信PPDUが24Mbpsで送信されたと受信機が判断し、当該受信機が同一のPPDUを24dB(SNRMIN)により24Mbpsで正常に受信することができる場合、6dBのノイズマージンが報告されるであろう。このノイズマージンは、以降の検索のため、プロセッサ20に接続されたメモリ18に格納される。メモリ18に格納された期限切れのノイズマージン情報の削除に、タイマ22が利用される。本実施例では、ノイズマージンは無線チャンネルの可変性及び無線LANにおけるSTAの潜在的可動性により変化する可能性があるので、ノイズマージンは更新される。」

「【0015】
送信電力レベル/送信速度の決定のためノイズマージンを決める本発明による動作ステップの原理が以下で説明される。
【0016】
図4を参照するに、本発明による処理は以下のステップを有する。ステップ100において、局STA2は、送信局STA1からフレームを受信する。ステップ110において、STA2は、受信フレームからデータ速度を抽出する。ステップ120において、STA2は、受信SNRとSNRMINとの差であるノイズマージンを計算する。ステップ130において、ノイズマージン情報がSTA1に送信される。その後、このノイズマージンは、BSSにおける送信局と受信機における所望のCN(Carrier-to-Noise)比の取得に要する送信電力の決定に利用される。ステップ140において、STA1は、ステップ120において決定された調整レベルに基づき、送信レベル及び/あるいは送信速度を調整する。
【0017】
図1では限られた数のSTAしか示されていないが、それは例示のためであり、無線LANは多数のSTA間の通信をサポートすることができるということは当業者には理解されるであろう。従って、図におけるSTAの個数は、本発明の範囲を制限するものではない。そのような事象において、各STAは、BSS内の他のSTA間、あるいはAPとのノイズマージンを追跡し、各送信局はこのノイズマージンを利用して、他のSTAあるいはAPへのフレーム送信時における送信電力レベルの調整を行うようにしてもよい。非802.11e無線LANによると、STAは、それがAPにフレームを送信しなければならないときのみ、APとのノイズマージンを追跡する必要がある。ここで、各送信局は、複雑さを低減させるため選ばれた数のSTAとのノイズマージンを追跡してもよい。さらに、期限切れの古いノイズマージン情報の利用を防ぐため、本発明はノイズマージン情報の使用期限を採用してもよい。このため、STA2がSTA1からフレームを受信することによってSTA1とのノイズマージンを更新するときはいつでも、STA2は図2のタイマ22を使って更新された各ノイズマージン情報に対しタイマを設定する。そして、STA2はフレーム送信時に直近に更新されたフレーム時刻を現在時刻と比較する。」

の記載とともに、図1に


の記載があるから、引用例1には、

「無線LANには、インフラストラクチャベースとアドホックタイプという2つの種類があり、後者のネットワークでは、無線ノード間で通信が行われ、
同一の無線範囲内にある局とAPは、BSS(Basic Service Set)として知られ、
STAは、受信機12、復調器14、SNR測定回路16、メモリ18、制御プロセッサ20、タイマ22、変調器24及び送信機26を備え、
SNR測定回路16は、プロセッサ20の制御の下で動作し、受信フレームのSNRの決定あるいはノイズマージンを推定する類似の計算を実行し、
プロセッサ20は、あるデータ速度に関するSNR(dB)と最小許容可能SNR(SNRMIN)との差に基づき、ノイズマージンを算出し、
受信PPDUに対し計算されるノイズマージンは、正常な受信に影響を与えることなくSTAにより許容されうるdBでのPPDUにおける追加的ノイズ/干渉として計算され、
一例として、30dBのSNRの受信PPDUが24Mbpsで送信されたと受信機が判断し、当該受信機が同一のPPDUを24dB(SNRMIN)により24Mbpsで正常に受信することができる場合、6dBのノイズマージンが報告され、
局STA2は、送信局STA1からフレームを受信し、受信フレームからデータ速度を抽出し、ステップ120において受信SNRとSNRMINとの差であるノイズマージンを計算し、ノイズマージン情報がSTA1に送信され、
その後、このノイズマージンは、BSSにおける送信局と受信機における所望のCN比の取得に要する送信電力の決定に利用され、STA1は、ステップ120において決定された調整レベルに基づき、送信レベル及び/あるいは送信速度を調整する
STA。」

の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)本願発明1と引用発明の比較

引用発明のSTA1とSTA2は同一の無線範囲内にあるSTAであるから、引用発明の「STA1」は、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)の「同一の通信システムの他の無線通信装置」に相当する。

引用発明の「SNR」が、受信信号強度とノイズ信号強度の比であることは当業者に周知であり、引用発明の「ノイズマージン」は、正常な受信に影響を与えることなくSTAにより許容されうるdBでのPPDUにおける追加的ノイズ/干渉として計算され、STA2が算出した「ノイズマージン」をSTA1に送信してSTA1が送信レベルを調整するから、引用発明の「ノイズマージン」は、本願発明1の「同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値」に相当し、引用発明と本願発明1はともに「受信信号強度とノイズ信号強度に基づいて相対変更値を導出」して、「同一の通信システムの他の無線通信装置に送信」している点で一致している。

したがって、本願発明1と引用発明は、

「同一の通信システムを構築する他の無線通信装置から受信信号を受信する受信手段と、
上記同一の通信システムの他の無線通信装置の受信信号強度と、ノイズ信号強度に基づいて、上記同一の通信システムの他の無線通信装置に対して現在の送信出力値から相対的に値を変更させる相対変更値を導出する相対変更値導出手段と、
上記相対変更値導出手段により導出された上記相対変更値を、対応する上記同一の通信システムの他の無線通信装置に送信する送信手段と
を備えることを特徴とする無線通信装置。

で一致し、

相違点1

「ノイズ信号」として本願発明1は、「同一の通信システムから受信する目的の信号以外であって、他の通信システムの無線通信装置ならびにノイズ源からのノイズ信号」であるのに対し、引用発明は、どのようなノイズ信号か特定されていない点。

相違点2

相対変更値を導出するにあたり、本願発明1は、「無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値」と「過去複数のノイズ信号強度の平均値」に基づくのに対し、引用発明は、どのようにSNRを求めているのか記載が特定されていない点。


(3)判断

上記相違点について検討する。

相違点1について

ノイズ信号は、「目的の信号以外」の信号のことであるから、「他の通信システムの無線通信装置」や「ノイズ源」からの信号がノイズ信号であることは当然であるから、該「他の通信システムの無線通信装置」や「ノイズ源」をノイズ信号とすることは容易に想到しうることである。

相違点2について

SNRを求めるにあたり、「受信信号強度」と「ノイズ信号強度」に基づくことは周知であるとしても、「無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値」と「過去複数のノイズ信号強度の平均値」に基づいてSNRを求めることは、周知であるとはいえない。
拒絶査定で引用された国際公開第2012/074048号、国際公開第2012/093674号、国際公開第2012/105683号は、いずれも、受信信号から演算によってノイズ電力を算出しているから信号を受信する度にSNRを求めており、「平均値」は何ら考慮されていないから、「無線通信装置毎の過去複数の受信信号強度の平均値」と「過去複数のノイズ信号強度の平均値」に基づいて相対変更値を導出することが容易であるとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

本願の請求項2-10に係る発明も、本願発明1と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2.特許法第17条の2第3項について

本願明細書には、

「【0097】
(C-2)また、毎回の信号強度やノイズ強度で送信出力を導出するのではなく、リンクの変動を考慮して、過去数回?数十回の平均値をベースに送信出力を導出するようにしても良い。」

の記載があるから、毎回の信号強度やノイズ強度で導出するのでなく、複数回の平均値をベースに送信出力を導出することが記載されているから、本願発明1は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

本願の請求項2-10に係る発明も、本願発明1と同様に、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。


第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1-10に係る発明は、いずれも、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-02 
出願番号 特願2014-72684(P2014-72684)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (H04W)
P 1 8・ 121- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 古市 徹土居 仁士石原 由晴吉村 真治▲郎▼  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 吉田 隆之
佐藤 智康
発明の名称 無線通信装置及び無線通信プログラム  
代理人 若林 裕介  
代理人 工藤 宣幸  
代理人 吉田 倫太郎  

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