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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 判示事項別分類コード:122 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1322052
審判番号 不服2015-8395  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-07 
確定日 2016-12-13 
事件の表示 特願2012-507434「非平面な基板表面を有する基板を処理する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日国際公開、WO2010/124213、平成24年10月18日国内公表、特表2012-525011、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)4月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月24日、米国、2010年4月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年3月14日付けで審査請求がなされ、平成26年3月12日付けで拒絶理由が通知され、同年6月25日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたが、平成27年1月20日付けで拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成27年5月7日付けで審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされ、平成28年7月15日付けで当審から拒絶理由を通知し、同年10月19日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成28年10月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)および請求項7に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び、
前記第1面に前記第2面より大きな濃度のドーパントを注入し、前記基板にイオンを注入する第1段階と、
前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階と、
前記第2段階の後に、前記基板にイオンを注入する第3段階であって、前記第1面は、前記第2面が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備え、
前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚く、
前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である方法。」

「【請求項7】
非平面的な基板にイオンを注入する方法であって、
前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階と、
前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階と、
前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備え、
前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
「この出願については、平成26年 3月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

・出願人は、意見書において、「引用文献1には、バックゲート部109を堆積させる第2段階が記載されている。
ここで、審査官殿は、CVDによって堆積された「トレンチ型バックゲート部109」を、イオン注入をブロックするものとして認定されている。
しかしながら、引用文献1には、「層間絶縁膜114をマスクにしてフッ化ボロン等のP型不純物をコンタクト開口115に対する斜め回転注入方法」(段落0020第1文)を行うことが記載されているものの、「トレンチ型バックゲート部109」を「マスク」として用いることについて何ら示唆されていなく、また開示されてもいない。引用文献1には、「トレンチ型バックゲート部109」に関して、「ドレイン-ソース間電圧印加時にトレンチ型バックゲート部109の直のP- 型層112及び、P型ベース層103内部に伸びる空乏層のソース電極116へのリーチスルーによる耐圧低下を防止する」という用途しか記載されていない。
即ち、引用文献1には、「前記第1面が更に処理されるのを制限する第1の膜を堆積する第2段階と、前記第2段階の後に、前記第2面に注入されるイオンの総量が、前記第1面に注入されるイオンの総量より多く、イオンを注入する第3段階」について、開示されていない。」と主張している。

しかしながら、引用文献1の第3図(c)において、「トレンチ型バックゲート部109」が形成された状態で斜めイオン注入を行うことによって、第2面には、P+型ベース層113(P型不純物濃度1E19/cm^3 【0013】)が形成されているのに対して、第1面(トレンチ110の底)には、依然として、斜めイオン注入前のP-型層112(3E15/cm^3 【0013】)のままの状態であることが示されているから、前記トレンチ型バックゲート部109が、前記イオン注入に対して、第1面が更に処理されるのを制限するマスクとして機能し、そのための十分な厚さを有していることは明らかである。
よって、請求項1,5,8-9に係る発明は、新規性進歩性を有しない。

ここで、第2段階の間に、第2面上に第2の膜が堆積され、第1の膜の膜厚は、第2の膜の膜厚よりも大きくなるようにすることは、堆積による第1の面(水平面)への第1の膜の形成時に、第2面(垂直面)上にも第2の膜が薄く形成されてしまう蓋然性が高いことを考慮すれば、請求項2に係る発明は、新規性進歩性を有しないし、第1の膜の膜厚を第2の膜の膜厚の10倍とすることは、適宜なし得た設計的事項であるから、請求項4に係る発明は、進歩性を有しない。
また、第1の膜厚をどの程度の厚さとするかは、所望する耐圧低下防止の程度などに応じて適宜なし得た設計的事項であるから、請求項3に係る発明は、進歩性を有しない。
さらに、膜を、酸素、窒素を含むガスやプラズマに暴露することは、先に示した引用文献4に記載されているから、請求項6-7,10-11に係る発明は、進歩性を有しない。

・また、出願人は、意見書において、「引用文献2には、イオン注入を完全にブロックできる厚さの膜809を堆積によって形成する工程と、第2面に対してドープする工程と、第1面に垂直な角度でイオン注入処理を行う工程とを有する方法が記載されている。つまり、引用文献2に記載の発明は、基板に「イオンを注入する」第1段階と、膜を「堆積」する第2段階と、第2段階の後に、イオンを「注入」する第3段階を実施する順番について開示されていない。」と主張しているが、先に述べたように、引用文献2の段落【0038】には、先に示したこれらの工程は、他の順序によって形成してもよいことが記載されているから、引用文献2に記載の発明において、第1面に垂直な角度でイオン注入処理工程(第1面に第2面よりも多くのイオンを注入する第1段階)を行い、その後、第1面上に、所定の膜を堆積によって形成する工程(第1面が更に処理されるのを制限する第1の膜を堆積する第2段階)を行い、その後、第2面に対してドープする工程(第2段階の後に、第2面に注入されるイオンの総量が、第1面に注入されたイオンの総量よりも多く、イオンを注入する第3段階)を行うことは、当業者であれば適宜なし得た事項であるから、請求項1,5,8-9に係る発明は、進歩性を有しない。

ここで、第2段階の間に、第2面上に第2の膜が堆積され、第1の膜の膜厚は、第2の膜の膜厚よりも大きくなるようにすることは、堆積による第1の面(水平面)への第1の膜の形成時に、第2面(垂直面)上にも第2の膜が薄く形成されてしまう蓋然性が高いことを考慮すれば、請求項2に係る発明は、新規性進歩性を有しないし、第1の膜の膜厚を第2の膜の膜厚の10倍とすることは、適宜なし得た設計的事項であるから、請求項4に係る発明は、進歩性を有しない。
また、第1の膜厚をどの程度の厚さ以上のものとするかは、第1の膜の材料に応じた完全なブロッキングマスク化のために、適宜なし得た設計的事項であるから、請求項3に係る発明は、進歩性を有しない。
さらに、膜を、酸素、窒素を含むガスやプラズマに暴露することは、先に示した引用文献4に記載されているから、請求項6-7,10-11に係る発明は、進歩性を有しない。


したがって、引用文献1-4に記載の発明に基づいて、本願の請求項1-11に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

よって、出願人の主張は採用できない。」


また、平成26年3月12日付け拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。

「(1)1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
理由(1)について
・請求項1-17
・引用文献1-5

備考
・請求項1-17について
引用文献1(特に、段落【0014】-【0020】及び第2-3図参照。)には、第1面(トレンチ110の底面)及び第2面(トレンチ110の側面)を有する非平面的な基板をイオン注入処理する方法であって、前記基板の前記第1面を前記第2面より完全に処理する第1段階(第2図(b)トレンチ110の底面112aにイオン注入)と、前記第1面が更に処理されるのを制限する第2段階(第2図(d)?第3図(b)イオン注入をブロックするトレンチ型バックゲート部109をCVDによる堆積で形成。)と、前記第2段階の後に、前記第2面を前記第1面より完全に処理する第3段階(第3図(c)P+型ベース層113となるトレンチの側面領域にイオン注入)とを備える方法が記載されているから、請求項1-10,14-15に係る発明は、新規性進歩性を有しない。

引用文献2(特に、特許請求の範囲,段落【0035】,【0038】,【0051】,【0054】-【0055】,【0058】及び第4,8図参照。)には、第1面及び第2面を有するフィン101を有する基板に対して、プラズマドーピングによってイオン注入処理を行う方法であって、前記基板の前記第1面(フィン上面)にイオン注入を完全にブロックできる厚さの膜809を堆積によって形成する工程と、第2面(フィンの左側面803及び右側面804)に対してドープする工程(第2面を第1面より完全に処理する段階)と、前記膜を除去する工程と、前記第1面(フィン上面802)に垂直な角度でイオン注入処理を行う工程(第1面を第2面より完全に処理する工程)とを有する方法(【0058】)及び、これらの工程は他の順序によって形成してもよいこと(【0038】)が記載されているから、引用文献1に記載の発明において、第1面に垂直な角度でイオン注入処理工程(第1面を第2面よりも完全に処理する工程)を行い、その後、第1面上に、所定の膜を堆積によって形成する工程(第1面が更に処理されるのを制限する工程)を行い、その後、第2面に対してドープする工程(第2段階の後に、第2面を第1面よりも完全に処理する工程)を行うことは、当業者であれば適宜なし得た事項であるから、請求項1-10,13-15に係る発明は、進歩性を有しない。

そして、堆積膜の形成をはじめに行うことも適宜なし得た事項であるし、堆積膜形成後にイオン注入を行うことは、引用文献3(特に、段落【0030】参照。)などに記載されているから、請求項13に係る発明は、進歩性を有しない。
さらに、膜を酸素や窒素を含むガスやプラズマに暴露して、酸化や窒化処理を行うことは、引用文献4(特に、段落【0025】-【0026】,【0037】参照。)に記載されているから、請求項11-12,16-17に係る発明は、進歩性を有しない。

したがって、引用文献1-4に記載の発明に基づいて、本願の請求項1-17に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
引用文献5(特に、段落【0055】-【0057】及びFig4B-4C参照。)には、 第1面(N領域)及び第2面(P領域)を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記基板の前記第1面を前記第2面より完全に処理する第1段階(イオン注入225a)と、前記第1面が更に処理されるのを制限する第2段階(フォトレジストパターン217b形成)と、前記第2段階の後に、前記第2面を前記第1面より完全に処理する第3段階(イオン注入225b)とを備える方法が記載されているから、請求項1-5,7-8に係る発明は、新規性進歩性を有しない。

したがって、引用文献1-5に記載の発明に基づいて、本願の請求項1-17に係る発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。


理由(2)について

・発明の詳細な説明には、非平面的な基板に対する処理として、イオン注入によるドーピングを行った具体例しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、基板を処理する方法を何ら特定していない請求項1-4,6-13に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。

・発明の詳細な説明には、第1段階と第3段階とが、同じ処理工程である具体例しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、第1段階と第3段階とが、異なる処理工程である場合を含む請求項1,3-13に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。

・発明の詳細な説明には、第1面が更に処理されるのを制限する第2段階の具体例として、基板上に膜を堆積し、膜が、例えば、第1領域102aへの更なるイオン注入を防ぐ又は制限するのに十分な膜厚を有していることによって、第1面が更に処理されるのを制限する具体例(【0016】や【0020】など。)しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、第2段階として、その具体的な方法を何ら特定しておらず、例えば、第1面上で第1面から離れた位置にハードマスクを配置して第1面へのイオン注入を防いだりする場合なども含まれてしまう請求項1-9,11-14,16-17に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。

よって、請求項1-17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

・請求項11-12には、「前記膜」と記載されているが、請求項11-12が引用している請求項8には、「膜」が記載されていないから、請求項11-12に係る発明は、不明りょうである。
よって、請求項11-12に係る発明は明確でない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-324196号公報
2.特開2008-053725号公報
3.特開2006-121019号公報
4.特開2006-128380号公報
5.米国特許出願公開第2006/240636号明細書」

2 原査定の理由についての当審の判断
A 理由(1)について
(1)引用例1の記載事項及び引用例1発明
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2003-324196号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。(なお、下線は、当審において付与した。以下、同じ。)

(ア)「【0014】以上の構成の縦型MOSFETの製造方法を図2?図3を参照して説明する。先ず、図2(a)のように、低抵抗ドリフト層としてのN^(+) 型半導体基板101上に高低抵抗ドリフト層としてのN^(-) 型エピタキシャル層102を成長する。そして、N^(-) 型エピタキシャル層102の表面上にフォトレジストを塗布し、かつ後にトレンチ型バックゲート部を形成する領域を開口したレジストパターンPR1を形成する。次いで、このレジストパターンPR1をマスクに用いて前記N-型エピタキシャル層102を所要の深さまで選択エッチングしてトレンチ110を形成する。
【0015】次いで、図2(b)のように、表面からボロン等のP型イオンを入射角度0°でイオン注入し、トレンチ底部に選択的に導入してイオン注入層112aを形成する。このとき、イオン注入エネルギーを変えて、注入の深さ位置を数箇所に分けている。ここでは、イオン注入の深さ位置を異なる2箇所にしている。この時、高エネルギーイオン注入を行えば、より深い位置にイオン注入することができることは言うまでもない。
【0016】次いで、図2(c)のように、前記レジストパターンを除去した後、熱処理を施し、イオン注入した深さ方向に異なる2箇所のP型不純物を拡散し、それぞれP^(-) 型層112を形成する。ここでは、各P^(-) 型層112は深さ方向及び平面方向に拡散し、この拡散によって各P^(-) 型層112は連結して深さ方向に一体化したP^(-) 型層として形成されることになる。
【0017】次いで、図2(d)のように、全面にCVD法等によって酸化膜を十分な厚さに成長して前記トレンチ110を埋め込むと共に、当該酸化膜をエッチバックして表面上の酸化膜は除去する一方でトレンチ110の内部にのみ酸化膜111を残す。これにより、トレンチ型バックゲート部109が形成される。
【0018】次いで、図3(a)のように、全面にP型不純物をイオン注入し、かつ熱処理により活性化してN^(-) 型エピタキシャル層102の表面にP型ベース層103を形成する。さらに、形成されたP型ベース層103の表面にN型不純物をイオン注入し、かつ熱処理して当該表面にN^(+) 型ソース層104を形成する。さらに、図外のフォトレジストでレジストパターンを形成し、前記N^(+) 型ソース層104、P^(+) 型ベース層103をエッチングしてトレンチ106を形成する。そして、このトレンチ106の内面にゲート絶縁膜107を形成し、その内部にポリシリコン108を埋設し、トレンチ型ゲート電極105を形成する。
【0019】次いで、図3(b)のように、前記N^(+) 型ソース層105の表面上に酸化膜等の層間絶縁膜114を成長した後、フォトレジストをパターニングしたレジストパターンをマスクにして当該層間絶縁膜114を選択的にエッチングし、前記トレンチ型バックゲート部109よりも若干広い領域を開口してコンタクト開口115を形成する。また、このエッチング時には、前記N^(+) 型ソース層104の下層の前記P型ベース層103の一部がトレンチ内に露出するように、トレンチ110内に埋設した前記酸化膜111の表面を一部エッチングする。
【0020】その後、図3(c)のように、P型ベース層103とのオーム接触を行うために、前記N^(+) 型ソース層104に対して前記層間絶縁膜114をマスクにしてフッ化ボロン等のP型不純物をコンタクト開口115に対する斜め回転注入方法で行い、かつ活性化のための熱処理を行なってトレンチ110の開口周縁部に沿うN^(+) 型ソース層104の下層にP^(+) 型ベース層113を形成する。」

イ 引用例1発明
上記(ア)より、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「半導体基板にトレンチを形成し、
トレンチ底部にP型イオンを入射角度0°でイオン注入し、トレンチ底部にイオンを選択的に導入してイオン注入層を形成し、
トレンチの内部に酸化膜を埋設し、
トレンチ内に埋設した酸化膜の表面を一部エッチングし、
トレンチの開口周縁部P^(+) 型ベース層を形成するために、P型不純物をコンタクト開口に対する斜め回転注入法で行う方法。」

(2)引用例2の記載事項及び引用例2発明
ア 引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2008-53725号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(ア)「【0007】
本発明は、マルチゲートデバイスのドーピング方法に関し、かかる方法は、それぞれのフィンが上面、第1側面、および第2側面を含む、少なくとも1つのフィンを基板にパターニングする工程と、フィンの上にゲート電極をパターニングする工程と、ドーパントイオンを用いた注入により、フィンをドーピングする工程とを含み、かかる方法は、
ブロッキングマスク材料が、フィンの上面の少なくとも一部の上に存在し、フィンの側面の上には存在しないように(即ち、側面が露出したままであるように)、ゲート電極のパターニング工程後にブロッキングマスク材料を提供することにより、ブロッキングマスク材料が、ドーパントイオンからフィンの上面を、少なくとも部分的にブロックする工程と、 フィンの上面の法線方向に対してゼロとは異なった入射角で、ドーパントイオンをフィンに注入する工程とを含むことを特徴とする方法である。」

(イ)「【0051】
本発明の第3の工程では、図4に示すように、少なくとも1つのフィンの少なくとも上面(402)の上に、ブロッキングマスク材料(409)が堆積される。マスク材料は、フィンの側面(403、404)の上には堆積されない。加えて、複数のフィンが連続するフィンの間でパターニングされる場合、ブロッキングマスク材料(409)は、フィンに隣接する両側の基板上に堆積されても良い。ブロッキングマスク材料(409)は、ブロッキング材料として提供され、続く注入工程において、完全にまたは部分的にドーパントイオンをブロックする。ブロッキングマスク材料は、フィンの上面の少なくとも一部に存在し、フィンの上面を、ドーパントイオンから少なくとも部分的にブロックする。ブロッキングマスク材料は、また、フィンの上面を、ドーパントイオンから、完全にブロックしても良い。ブロッキング材料は、例えばMBE、CVD、PECVD、スパッタのような視線(line-of-sight)堆積技術で堆積するのが好ましい。視線堆積技術は、図5に点線の矢印で示すように、ソースからの視線でのみ起きる堆積技術を意味する。視線堆積技術を使用することにより、ブロッキング材料は、少なくとも1つのフィンの側面上には堆積されない。ブロッキング材料は、フィンの少なくとも上面上に堆積される。もし複数のフォンがパターニングされた場合、ブロッキングマスク材料は、フィンの上面上と、連続するフィンの間の基板/ウエハ表面上に存在する。ブロッキングマスク材料は、視線堆積技術で堆積できる材料、またはドーパントイオンを完全または部分的にブロックできる材料として当業者に知られた他の材料から選択できる。例えば、アモルファスカーボンのハードマスク材料が、このブロッキングマスク材料として使用できる。図5Aは、その上にPECVDによりアモルファスカーボンのハードマスク材料(509)が堆積された、1つの分離されたフィン(501)を示す顕微鏡(走査電子顕微鏡)の像である。この視線堆積技術を用いることにより、アモルファスカーボンのハードマスクが、フィンの上面上と、フィン(509)に隣接する両側のウエハ表面上に堆積される。フィンの側面には、材料は堆積されない。アモルファスカーボンのハードマスクの膜厚は、約55nmである。図5Bは、その上にPECVDによりアモルファスカーボンのハードマスク材料が堆積された、複数のフィン(例えば22つのフィン)を示す顕微鏡(走査電子顕微鏡)の像である。フィンの高さは約100nmであり、フィンの幅は約100nmであり、フィンのピッチは約250nmである。この視線堆積技術を用いることにより、アモルファスカーボンのハードマスクが、フィンの上面上と、フィンに隣接する両側の基板/ウエハ表面上に堆積される。フィンの側面上には、材料は堆積されない。アモルファスカーボンのハードマスク膜の厚みは、約55nmである。高密度の構造では、堆積プロセスパラメータを調整することにより、連続するフィンの間のブロッキング材料の堆積を制限することができる。」

(ウ)「【0058】
本発明の好適な具体例では、完全なブロッキングマスク材料(809)が、フィンまたは複数のフィンの少なくとも上面に堆積される。完全なブロッキングマスク材料の堆積後、フィンまたは複数のフィンの左側面(803)が、傾斜角αの第1注入工程を行うことによりドープされ、フィンの第1側面(803)がドープされる(図8A)。次に、傾斜角βで、第2注入工程(図8B)が行われ、フィンまたは複数のフィンの右側面(804)がドープされる。第2傾斜角βは、好適には第1傾斜角αと等しく、符号が逆である。完全なブロッキングハードマスク材料を除去した後に、フィンの上面(802)に対して垂直な注入角を用いた第3注入工程(図8C)で、上面が注入される。言い換えれば、フィンの上面の法線方向に対して入射角θ=0で、ドーパントイオンを用いた追加の注入工程が行われる。言い換え有れば、この追加の注入工程は、フィンの上面に対して垂直に行われる。」

イ 引用例2発明
上記(ア)-(ウ)より、引用例2には、次の発明(以下、「引用例2発明」という。)が記載されていると認められる。

「フィンを基板上にパターニングし、
完全なブロッキングマスク材料をフィンの側面に堆積させずに、フィンの上面に堆積し、
フィンの左側面に、傾斜角αの第1注入工程を行うことにより、フィンの左側面をドープし、
フィンの右側面に、傾斜角-αの第2注入工程を行うことにより、フィンの右側面をドープし、
完全なブロッキングハードマスク材料を除去し、
フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う方法。」

(3)対比・判断
ア 本願発明1と引用例1発明について
a.本願発明1と引用例1発明を対比する。

(ア)引用例1発明の「トレンチ底部」は、基板の平面に対して水平な方向に延びており、また、「トレンチの開口周縁部」は、基板の平面に対して垂直な方向であるから、引用例1発明の「トレンチ」を処理する方法は、本願発明1の「第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び、」と、「第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であ」る点で、共通する。
(イ)引用例1発明の「トレンチ底部にP型イオンを入射角度0°でイオン注入し、トレンチ底部に選択的に導入してイオン注入層を形成」することは、本願発明1の「前記第1面に前記第2面より大きな濃度のドーパントを注入し、前記基板にイオンを注入する第1段階」に相当する。
(ウ)引用例1発明の「トレンチの内部に酸化膜を埋設」し「トレンチ内に埋設した酸化膜の表面を一部エッチング」することは、この酸化膜により、トレンチ底部に対するイオンの追加注入を阻止していることから、本願発明1の「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階」と、「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面」「上の第2の膜を堆積する第2段階」である点で共通する。
(エ)引用例1発明の「トレンチの開口周縁部P^(+) 型ベース層を形成するために、P型不純物をコンタクト開口に対する斜め回転注入法で行う」ことは、本願発明1の「前記第2段階の後に、前記基板にイオンを注入する第3段階であって、前記第1面は、前記第2面が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」に相当する。

b.以上(ア)?(エ)のことから、本願発明1と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、
前記第1面に前記第2面より大きな濃度のドーパントを注入し、前記基板にイオンを注入する第1段階と、
前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階と、
前記第2段階の後に、前記基板にイオンを注入する第3段階であって、前記第1面は、前記第2面が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備え、
る方法。」

[相違点1]
本願発明1の「第2面」は、「前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び」ているのに対して、引用例1発明はそうでない点。

[相違点2]
本願発明1は、第2段階で堆積される「前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜」について「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚く」なっているのに対して、引用例1発明の「前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜」に相当する、トレンチ内に埋設された酸化膜は、そのような構成を有していない点。

[相違点3]
本願発明1は、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」のに対して、引用例1発明は、そのようになっていない点。

c.判断
各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例1発明は、「トレンチ」を対象としているから、本願発明1の、「前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び」る構造を想起し、引用例1発明を本願発明1と同様の発明とすることができたとは認められない。

[相違点2]について
引用例1発明のトレンチ内に埋設された酸化膜は、トレンチ内部に酸化膜が埋設されるとともに、トレンチ内に埋設された酸化膜の表面を一部エッチングしているから、引用例1発明において、第2段階で堆積される「前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜」について「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚く」することを想起し、引用例1発明を本願発明1と同様の発明とすることができたとは認められない。

[相違点3]について
引用例1発明は、本願発明1の「第1段階」に相当する時に、「入射角度0°でイオン注入し」、本願発明1の「第2段階」に相当する時に、「P型不純物をコンタクト開口に対する斜め回転注入法で行」っているから、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ようにすることを想起し、引用例1発明を本願発明1と同様の発明とすることができたとは認められない。

そして、本願発明1は、特に[相違点2]および[相違点3]を有することによって、異なる角度で向けられている複数の表面を均一な特性とすることができる(本願明細書段落番号【0005】)という引用例1発明に記載された発明にはない格別の効果を有するものである。
そうすると、[相違点1]乃至[相違点3]に係る構成は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。
したがって、本願発明1は引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本願発明1と引用例2発明について
a.本願発明1と引用例2発明を対比する。
(ア)引用例2発明の「フィン」は、本願発明1の「第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び」るものに相当する。
(イ)引用例2発明の「フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う」ことは、本願発明1の「前記第1面に前記第2面より大きな濃度のドーパントを注入し、前記基板にイオンを注入する第1段階」に対応する。
(ウ)引用例2発明の「完全なブロッキングマスク材料をフィンの側面に堆積させずに、フィンの上面に堆積」することは、本願発明1の「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階」と、「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜」「を堆積する」「段階」を有する点で共通する。
(エ)引用例2発明の「フィンの左側面に、傾斜角αの第1注入工程を行うことにより、フィンの左側面をドープし、フィンの右側面に、傾斜角-αの第2注入工程を行うことにより、フィンの右側面をドープ」することは、本願発明1の「前記第2段階の後に、前記基板にイオンを注入する第3段階であって、前記第1面は、前記第2面が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」に対応する。

b.以上(ア)?(エ)のことから、本願発明1と引用例2発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「第1面及び第2面を有する非平面的な基板を処理する方法であって、前記第1面は、前記基板の平面に対して水平な方向に延び、前記第2面は、前記基板の前記平面に対して垂直な方向であって、前記第1面から下方に延び、
前記第1面に前記第2面より大きな濃度のドーパントを注入し、前記基板にイオンを注入する段階と、
前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜を堆積する第2段階と、
前記第2段階の後に、前記基板にイオンを注入する第3段階であって、前記第1面は、前記第2面が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備える方法。」

[相違点1]
本願発明1は、「前記第2面全体上の第2の膜を堆積」し、「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚く」なっているのに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

[相違点2]
本願発明1は、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」のに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

[相違点3]
本願発明1は、「第1の段階」「第2の段階」「第3の段階」の順で、基板の処理を行っているのに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

c.判断
各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例2発明は、ブロッキングマスク材料をフィンの側面に堆積さていないから、引用例2の記載のみで、「前記第2面全体上の第2の膜を堆積」し、「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚く」することを想起することができたとは認められない。

[相違点2]について
引用例2発明は、注入工程について、傾斜角αで行う「第1注入工程」と、傾斜角-αで行う「第2注入工程」と、「フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う」ことにより、3度のイオン注入を行っており、本願発明1のように「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ことにより、2度のイオン注入により処理されることを、想起することができたとは認められない。

そうすると、[相違点1]及び[相違点2]に係る構成は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。
したがって、本願発明1は、他の相違点については検討するまでもなく、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本願発明2と引用例1発明について
a.本願発明2と引用例1発明を対比する。
(ア)引用例1発明は「半導体基板」に「トレンチ」が形成されており、このため「半導体基板」は、非平面であると言える。そうすると、引用例1発明の「半導体基板」は、本願発明2の「非平面的な基板」に相当するとともに、引用例1発明の「半導体基板」も「前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板」であると認められる。
(イ)引用例1発明の「トレンチ底部にP型イオンを入射角度0°でイオン注入」することは、本願発明2の「前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階」に相当する。
(ウ)引用例1発明の「トレンチの内部に酸化膜を埋設し、トレンチ内に埋設した酸化膜の表面を一部エッチング」することは、本願発明2の「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階」と、「膜」を「堆積させる第2段階」である点で共通する。
(エ)引用例1発明の「トレンチの開口周縁部P^(+) 型ベース層を形成するために、P型不純物をコンタクト開口に対する斜め回転注入法で行う」ことは、本願発明2の「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」と、「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には」「イオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」である点で共通する。

b.以上(ア)?(エ)のことから、本願発明2と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「非平面的な基板にイオンを注入する方法であって、
前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階と、
膜を堆積させる第2段階と、
前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分にはイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備える方法。」

[相違点1]
本願発明2の「第2段階」は、「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させ」ているのに対して、引用例1発明はそのようになっていない点。

[相違点2]
本願発明2の「第3段階」は、「前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され」ているのに対して、引用例1発明はそのようになっていない点。

[相違点3]
本願発明2の「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」のに対して、引用例1発明はそのようになっていない点。

c.判断
各相違点について検討する。

[相違点1]および[相違点2]について
引用例1発明のトレンチ内に埋設された酸化膜は、トレンチ内部に酸化膜が埋設されるとともに、トレンチ内に埋設された酸化膜の表面を一部エッチングしているから、引用例1発明において、第2段階で堆積される「第2面部分の膜」に相当する構成を有しておらず、本願発明2の「第2面部分の膜」と同様の構成を想起し、引用例1発明を本願発明2と同様の発明とすることができたとは認められない([相違点1])。
また、そのため、第3段階において、「前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され」るようにし、引用例1発明を本願発明2と同様の発明とすることができたとは認められない([相違点2])。

[相違点3]について
引用例1発明は、本願発明2の「第1段階」に相当する時に、「入射角度0°でイオン注入し」、本願発明2の「第2段階」に相当する時に、「P型不純物をコンタクト開口に対する斜め回転注入法で行」っているから、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ようにすることを想起し、引用例1発明を本願発明2と同様の発明とすることができたとは認められない。

そして、本願発明2は、[相違点1]乃至[相違点3]を有することによって、異なる角度で向けられている複数の表面を均一な特性とすることができる(本願明細書段落番号【0005】)という引用例1発明に記載された発明にはない格別の効果を有するものである。
そうすると、[相違点1]乃至[相違点3]に係る構成は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。
したがって、本願発明2は引用例1に記載された発明ではなく、また、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


エ 本願発明2と引用例2発明について
a.本願発明2と引用例2発明を対比する。
(ア)引用例2発明の「フィン」がパターニングされた「基板」は、本願発明1の「非平面的な基板」に相当し、また、引用例2発明の「基板」は「フィン」を有しているから、本願発明2の「前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板」に相当する構成を有していると認められる。
(イ)引用例2発明の「フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う」ことは、本願発明2の「前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階」に対応する。
(ウ)引用例2発明の「完全なブロッキングマスク材料をフィンの側面に堆積させずに、フィンの上面に堆積」することは、本願発明2の「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階」と、「膜を」「前記基板の前記第1面部分の全体上に堆積させる」「段階」である点で共通する。
(エ)引用例2発明の「フィンの左側面に、傾斜角αの第1注入工程を行うことにより、フィンの左側面をドープし、フィンの右側面に、傾斜角-αの第2注入工程を行うことにより、フィンの右側面をドープ」することは、本願発明2の「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」と、「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される」「段階」である点で共通する。

b.以上(ア)?(エ)のことから、本願発明2と引用例2発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「非平面的な基板にイオンを注入する方法であって、
前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する段階と、
膜を前記基板の前記第1面部分の全体上に堆積させる段階と、
前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される段階と
を備える方法。」

[相違点1]
本願発明2は、「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させ」ているのに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

[相違点2]
本願発明2は、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」のに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

[相違点3]
本願発明2は、「第1の段階」「第2の段階」「第3の段階」の順で、基板の処理を行っているのに対して、引用例2発明はそのようになっていない点。

c.判断
各相違点について検討する。

[相違点1]について
引用例2発明は、ブロッキングマスク材料をフィンの側面に堆積さていないから、引用例2の記載のみで、「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させ」ることを想起することができたとは認められない。

[相違点2]について
引用例2発明は、注入工程について、傾斜角αで行う「第1注入工程」と、傾斜角-αで行う「第2注入工程」と、「フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う」ことにより、3度のイオン注入を行っており、本願発明2のように「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ことにより、2度のイオン注入により処理されることを、想起することができたとは認められない。

そして、本願発明2は、特に[相違点2]を有することによって、引用例2発明に比べイオン注入の回数を少なくすることができるという格別の効果を有するものである。

そうすると、[相違点1]及び[相違点2]に係る構成は、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。
したがって、本願発明2は、他の相違点については検討するまでもなく、引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本願の請求項2ないし6および8ないし10に係る発明の進歩性について
本願の請求項2ないし5および8ないし10は、それぞれ請求項1および7を引用しており、本願の請求項2ないし5および8ないし10に係る発明は本願発明1および2の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明1および2が引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願の請求項2ないし5および8ないし10に係る発明も、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)理由(1)についてのまとめ
以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、引用例1に記載された発明でなく、また、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由(1)によっては、本願を拒絶することはできない。

B 理由(2)について
(1)理由(2)の「・発明の詳細な説明には、非平面的な基板に対する処理として、イオン注入によるドーピングを行った具体例しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、基板を処理する方法を何ら特定していない請求項1-4,6-13に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。」について

請求項1ないし10に記載された発明は、補正により「非平面な基板」に対して「ドーパントを注入する」「イオン注入」を行う方法となったから、請求項1ないし10に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、原査定の理由(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)理由(2)の「・発明の詳細な説明には、第1段階と第3段階とが、同じ処理工程である具体例しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、第1段階と第3段階とが、異なる処理工程である場合を含む請求項1,3-13に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。」について

請求項1ないし10に記載された発明は、補正により「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れは同一方向である」となり、第1段階と第3段階は同じ処理工程となったから、請求項1ないし10に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、原査定の理由(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

(3)理由(2)の「・発明の詳細な説明には、第1面が更に処理されるのを制限する第2段階の具体例として、基板上に膜を堆積し、膜が、例えば、第1領域102aへの更なるイオン注入を防ぐ又は制限するのに十分な膜厚を有していることによって、第1面が更に処理されるのを制限する具体例(【0016】や【0020】など。)しか開示されていないから、前記具体例によって開示された内容を、第2段階として、その具体的な方法を何ら特定しておらず、例えば、第1面上で第1面から離れた位置にハードマスクを配置して第1面へのイオン注入を防いだりする場合なども含まれてしまう請求項1-9,11-14,16-17に係る発明にまで拡張ないし一般化することは出来ない。」について

請求項1ないし6に記載された発明は、補正により、「第2段階」が「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階」となったから、請求項1ないし6に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、請求項7ないし10に記載された発明は、補正により、「第2段階」が「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階」となったから、請求項7ないし10に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、原査定の理由(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

(4)理由(2)の「・請求項11-12には、「前記膜」と記載されているが、請求項11-12が引用している請求項8には、「膜」が記載されていないから、請求項11-12に係る発明は、不明りょうである。」について

請求項1に記載された発明は、補正により、「第2段階」が「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階」となったから、補正後の請求項5および6に記載された発明の「前記膜」に対応する構成が、補正後の請求項5および6が引用する補正後の請求項1に存在し、補正後の請求項5および6に記載された発明の「前記膜」が何に対応するのか明確になった。
したがって、原査定の理由(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

(5)理由(2)についてのまとめ
以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、明確であるから、原査定の理由(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

3 原査定の理由についてのまとめ
以上のとおり、本願の請求項1ないし10に係る発明は、引用例1に記載された発明でなく、また、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確であるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審の拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
平成28年7月15日付けで当審より通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「A.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項7に記載された発明は、「前記イオンの流れに対して平行又は実質的に平行な第2面部分を有」し、該「前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入されるイオン注入を前記基板に行う」ことを行っているが、イオンの流れに対して平行又は実質的に平行な第2面部分に(膜を介して)イオンが注入されるイオン注入とは、どのようにして行われているのか、発明の詳細な説明に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは、言えない。
つまり、発明の詳細な説明には、第2面部分にイオンを注入するイオン注入について
「【0019】
本開示の方法は、第3段階を備えてもよい。第3段階において、膜が上面に形成されていない又は膜厚が薄い膜が上面に形成されている第2面部分104が、優先的に処理される。本実施形態では、第3段階は、第1段階と同じ又は同様な構成である。例えば、第1段階が、注入工程である場合には、第3段階も、注入工程となる。また、第1段階で注入されるドーパントと、第3段階で注入されるドーパントとは、同じ種を含んでもよいし、異なる種を含んでもよい。
【0020】
粒子が、第2面部分104に入射すると、領域104aが処理される。一方で、第1面部分102上に形成された膜106は、面部分102及び第1領域102aが更に処理されるのを防ぐ又は制限してもよい。したがって、第1面部分102及び第1領域102aへの粒子の注入及び処理が行われないようにされる。これに替えて、第2面部分104にドーパントが注入される割合よりも低い割合で、第1面部分102にドーパントを注入してもよい。膜の第1面部分102への粒子注入を防ぐ又は制限し、第2面部分104及び第2領域104aへの粒子注入を促進することにより、ドーパントレベル及び注入深さにおける大幅な差、又は、異なる面部分間に生じるその他の違いを避ける又は修正することができると考えられる。」
との記載があるのみで、どのようにして、イオンの流れに対して垂直又は実質的に垂直な「第1面部分102」の下にある、イオンの流れに対して並行又は実質的に平行な「第2面部分104」に対してイオンの注入が行われるのかわからない。また、当該技術分野における技術常識を参酌した場合、「第2面部分104」は、イオンの流れに対して「第1面部分102」の影となり、イオンは「第2面部分104」に到達することができないと考えられる。
したがって、発明の詳細な説明に、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したとは言えず、また、当該技術分野における技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明の記載からは、上記のイオン注入を行う方法が、当業者に自明であるとは認められない。


B.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項1に記載された発明は、「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面上の第1の膜及び前記第2面上の第2の膜を堆積する第2段階」と記載されているが、該第2段階に形成される第1および第2の膜は、発明の詳細な説明【0015】や図1cの記載によると、第1および第2面上の全面に第1および第2の膜が堆積していると認められる。
そして、請求項1の記載では、第1および第2面上の一部に第1および第2の膜が堆積していものを含むものとなっている。
従って、請求項1および請求項1を引用する請求項2乃至6に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは言えない。

2.請求項1に記載された発明は、「前記第2の膜を介して前記第2面に注入されるイオンの総量が、前記第1面に注入されるイオンの総量より多く、イオンを注入する」としているが、この記載が発明の詳細な説明のどの記載に対応するのかわからない。
つまり、ある「面に注入されるイオンの総量」とは、通常、注入される面の面積と、その面に注入されるイオンの単位面積当たりの量の積で計算されるところ、そのような総量を基準とした、注入されるイオンの量に関する記載は、発明の詳細な説明には認められない。
また【0020】に「これに替えて、第2面部分104にドーパントが注入される割合よりも低い割合で、第1面部分102にドーパントを注入してもよい。」との記載があるが、これは割合を言っており、総量について記載しているとは認められない(なお、上記「割合」は、何を基準とする割合であるのかこの記載だけでは不明である。)。
従って、請求項1および請求項1を引用する請求項2乃至6に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは言えない。

3.請求項7に記載された発明は、「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分上及び前記第2面部分上に堆積させる段階」と記載されているが、上記1.で検討したとおり、請求項7の記載では、第1面部分上及び第2面部分上の一部に堆積されるものを含むものとなっているから、請求項7および請求項7を引用する請求項8乃至10に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとは言えない。


C.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項4に記載された「更なる処理」が如何なる処理であるのかわからない。また、「更なる処理」がわからないために、「制限するのに充分な厚み」が如何なる厚さの厚みであるのか分からない。
そのため、請求項4に記載された発明は明確でない。

2.請求項7に記載された「前記イオンの流れに対して」「実質的に垂直な第1面部分」および「前記イオンの流れに対して」「実質的に平行な第2面部分」とは、如何なるものであるのかわからない。
つまり、「実質的に垂直」および「実質的に並行」とは、垂直や並行に対して何度までをいうのかわからないために、請求項7に記載された発明および請求項7を引用する請求項8乃至10に記載された発明が、不明確となっている。


D.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



<引用文献等一覧>
引用例1:特開2008-53725号公報
引用例2:特開2007-110110号公報
引用例3:特開平11-111870号公報
引用例4:特開昭61-194780号公報


・請求項1
・引用例 1-4
・備考

引用例1【0058】に記載された発明と、請求項1に係る発明は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

[相違点1]
請求項1に係る発明は、
「前記第1面に前記第2面より多くのイオンを注入し、前記基板にイオンを注入する第1段階と、
前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面上の第1の膜及び前記第2面上の第2の膜を堆積する第2段階と、
前記第2段階の後に、前記第2の膜を介して前記第2面に注入されるイオンの総量が、前記第1面に注入されるイオンの総量より多く、イオンを注入する第3段階と」
を有しているのに対して、
引用例1【0058】に記載された発明は、
「完全なブロッキングマスク材料(809)が、フィンまたは複数のフィンの少なくとも上面に堆積される。」(請求項1に係る発明の「第2段階」に対応する。)
「フィンまたは複数のフィンの左側面(803)が、傾斜角αの第1注入工程を行うことによりドープされ、フィンの第1側面(803)がドープされる(図8A)。次に、傾斜角βで、第2注入工程(図8B)が行われ、フィンまたは複数のフィンの右側面(804)がドープされる。」(請求項1に係る発明の「第3段階」に対応する。)
「完全なブロッキングハードマスク材料を除去した後に、フィンの上面(802)に対して垂直な注入角を用いた第3注入工程(図8C)で、上面が注入される。」(請求項1に係る発明の「第1段階」に対応する。)
としており、対応する段階の実施する順番が異なる点。

[相違点2]
請求項1に係る発明は、「前記第2面上の第2の膜を堆積」を行い、「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚」くしているのに対して、引用例1【0058】に記載された発明は、対応する膜の堆積を行っていない点。

以下、各相違点について検討する。
[相違点1]について
2つの処理を行う際に、その処理の順番を替えることにより処理の結果が変わることがない場合、2つの処理をどの順番で行うかは、当業者が適宜選択する事項である。
そして、引用例1【0058】に記載された発明の処理の順番を入れ替え、「フィンの上面(802)に対して垂直な注入角を用いた第3注入工程(図8C)で、上面が注入される。」工程を行った後に、「完全なブロッキングマスク材料(809)が、フィンまたは複数のフィンの少なくとも上面に堆積される。」工程を行った後に、「フィンまたは複数のフィンの左側面(803)が、傾斜角αの第1注入工程を行うことによりドープされ、フィンの第1側面(803)がドープされる(図8A)。次に、傾斜角βで、第2注入工程(図8B)が行われ、フィンまたは複数のフィンの右側面(804)がドープされる。」工程を行っても処理の結果に違いがあるとは認められない。
そうすると、引用例1【0058】に記載された発明の処理の順番を入れ替えて、請求項1に係る発明と同じ順番で実施するようにすることは、当業者が適宜為し得た事項である。

[相違点2]について
イオン注入を行う際に、イオンを注入する面に膜を設けてからイオン注入を行うことは、引用例2【0029】、引用例3【0050】、引用例4第1頁左下欄18行乃至右下欄2行に記載されているように、適宜行われている公知技術である。
そして、引用例1【0058】に記載された発明において、注入されるイオンの量を制限するため、もしくは、イオンが注入される面の損傷を低減するため、あるいは、イオンが注入される面を汚染から保護するため、等を目的として、請求項1に係る発明と同様に「前記第2面上の第2の膜を堆積」することは、当業者が適宜為し得た事項である。
その際に、「前記第2面上の第2の膜」は、注入されるイオンを通す必要があることから、「前記第1の膜の厚さは前記第2の膜の厚さよりも厚」くすることは、当然なされていると認められる。


・請求項2-4
・引用例 1-4
・備考
引用例1に「【0027】
本発明の具体例では、ブロッキングマスク材料の密度および膜厚に依存して、ブロッキングマスク材料はドーパントイオンをブロックする。」と記載されているように、請求項2乃至4に係る発明の「第1の膜」に対応する「ブロッキングマスク材料」は、請求項4に係る発明と同様に、「前記第1の膜が、前記第1面の更なる処理を制限するのに十分な厚みになるまで」、ブロッキングマスク材料を堆積させていると認められる。
また、「ブロッキングマスク材料」の厚さをどのような厚さにするかは、注入を制限するイオンが有するエネルギーから、当業者が設計時に適宜考慮する事項であるから、請求項2および3に係る発明のように、その厚さを「80オングストロームを超える」ものとすることや、「第2膜の厚さの10倍」とすることは、当業者が適宜為し得た事項である。

・請求項5,6
・引用例 1-4
・備考
引用例1に「【0030】
本発明の具体例では、ブロッキングマスク材料は、アモルファスカーボン、酸化物、または窒化物から選択される。」と記載されているように、請求項5及び6に係る発明の「第1の膜」に対応する「ブロッキングマスク材料」は、酸化物または窒化物であるから、これらの窒化物または酸化物を得るために、「ブロッキングマスク材料」の元となる材料を堆積した後に、酸化もしくは窒化するために、請求項5および6に係る発明のように、「酸素を含有する原子、分子又はプラズマに暴露する段階」もしくは「窒素を含有する原子、分子又はプラズマに暴露する段階」を有するようにすることは、当業者が適宜為し得た事項である。

・請求項7
・引用例 2
・備考
引用例2「第1の実施の形態」に記載された発明の「半導体基板1」「トレンチ5の底部U」「トレンチ壁」「二酸化シリコンから成るゲート誘電体20をトレンチ5の基板1の上に形成する」ことは、請求項7に係る発明の「基板」「前記イオンの流れに対して垂直又は実質的に垂直な第1面部分」「前記イオンの流れに対して平行又は実質的に平行な第2面部分」「膜を前記基板の前記第1面部分上に堆積させる」ことに相当する。
また、引用例2「第3の実施形態」【0027】には、「不純物ドープ領域50をトレンチ5の底面Uの下方にパンチスルー防止領域として形成するためのイオン注入I'を、ゲート誘電体20形成の前に、または後に、かつトレンチ5にゲート電極を形成する前に行なう。」(請求項7に係る発明の「基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも多くイオンを注入する」ことに対応する。)ことが記載されている。
さらに、引用例2「第4の実施形態」【0029】には、「このイオン注入I''は都合上、内部絶縁スペーサ25を形成した後に、当該スペーサをマスクとして使用して行なわれる。」との記載があり、上記記載の「内部絶縁スペーサ25」の形成は、請求項7に係る発明の「膜を前記基板の前記第2面部分上に堆積させる」ことに対応する。
また、上記「イオン注入I''」は、請求項7に係る発明の「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入されるイオン注入を前記基板に行う」ことに対応する。
そして、引用例2「第1の実施の形態」に記載された発明に、引用例2に記載された「第3の実施の形態」および「第4の実施の形態」に記載された技術を適用することは、当業者が適宜為し得ることであるから、請求項7に係る発明は、引用例2に記載された公知技術から適宜為し得たものであると認められる。

・請求項8
・引用例 2
・備考
引用例2「第4の実施形態」においても、「イオン注入I''」に際して、「イオンが前記膜を通過して前記第1面部分へと注入されるのを防ぐのに十分な膜厚を有」していると認められる。

・請求項9,10
・引用例 2
・備考
形成された膜を酸素や窒素に暴露することは、当業者が必要に応じ適宜為し得る事項である。」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)記載要件について
ア 理由A.について
請求項7は、
「非平面的な基板にイオンを注入する方法であって、
前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階と、
前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階と、
前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備え、
前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である方法。」
と補正され、「前記イオンの流れに対して平行又は実質的に平行な第2面部分を有」し、該「前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入されるイオン注入を前記基板に行う」ことは削除されたから、請求項7に記載された発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、当審拒絶理由のA.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。

イ 理由B.について
(ア)理由B.1.について
請求項1の「第2段階」は、補正により「前記第1面が更に処理されるのを制限する前記第1面全体上の第1の膜及び前記第2面全体上の第2の膜を堆積する第2段階」となったから、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、当審拒絶理由のB.1.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
(イ)理由B.2.について
請求項1は、補正により「面に注入されるイオンの総量」との記載は削除されたから、請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、当審拒絶理由のB.2.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
(ウ)理由B.3.について
請求項7は補正により、該当する記載が「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階」となったから、請求項7に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、当審拒絶理由のB.3.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。

ウ 理由C.について
(ア)理由C.1.について
請求項4の「第1面の更なる処理」は、補正により「前記第3段階におけるイオン注入による前記第1面の更なる処理」となったから、請求項4に記載された発明は、明確となった。
したがって、当審拒絶理由のC.1.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
(イ)理由C.2.について
請求項7は、補正により「実質的」との言葉は削除されたから、請求項7に記載された発明は、明確となった。
したがって、当審拒絶理由のC.2.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)進歩性について
ア 引用例2(当審の拒絶理由において引用例1として引用した文献)の記載事項及び引用例2発明
(ア)引用例2
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2008-53725号公報には、図面とともに、上記「第3 2 (2) ア」で示したことが記載されている。

(イ)引用例2発明
引用例2には、上記「第3 2 A (2) イ」で示した発明が記載されていると認められる。

イ 引用例3(当審の拒絶理由において引用例2として引用した文献)の記載事項及び引用例3発明
(ア)引用例3
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2007-110110号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(a)「【0013】
本発明の好適な実施形態は図に例示され、そして以下の記述において説明される。これらの図では、同じ参照記号は同じ、または機能的に等価な構成要素を指す。
図1は、本発明の第1の実施形態としてのトレンチトランジスタの幾何学構造の模式平面図を示し、図1A,Bは図1のラインA-A'及び線B-B'にそれぞれ沿った2つの異なる模式断面を示す。
【0014】
図1では、参照記号1は半導体基板を指し、この基板では、犠牲窒化膜層3が基板表面に設けられ、そして分離トレンチIT'がトレンチトランジスタの形成領域RTの横に設けられ、分離トレンチIT'は、基板1の上側表面にまで延びる絶縁材料としてのSiO_(2)によって充填される。詳細には、このような構造は、CMPプロセス(化学的機械研磨法)を使用して得られる。更に、図1A,Bによれば、ソース/ドレイン領域4が半導体基板1の表面に、例えばイオン注入工程により形成される。
【0015】
次に、マスク層の開口3aを、方向B-B'に延び、かつ基板1を形成領域RTの中心領域において露出させるマスク層3に形成する。開口3aは、トレンチ5の内、後続の工程で基板1においてエッチングされる予定の位置を画定する。
【0016】
図1A,B?図7A,Bは、本発明の第1の実施形態としてのトレンチトランジスタの図1A,Bから始まる形成方法、及び該当するトレンチトランジスタの、図1のラインA-A'及びB-B'にそれぞれ沿った2つの異なる模式断面を示している。
【0017】
図2A,Bに示す後続のプロセス工程では、トレンチトランジスタのトレンチ5はドライエッチングプロセスにより形成される。参照記号Uはトレンチ5の底面を指す。ドライエッチングプロセスは、この工程においてハードマスクとして機能するマスク層3がエッチングされないようにマスク層3に対して高い選択性を示すようにシリコンをエッチングする選択エッチングプロセスである。
【0018】
図3A,Bに示す次のプロセス工程では、図3Bからはっきりと分かるように、ウェットエッチングを行なって分離トレンチIT'の酸化シリコンの内、トレンチ5の横の部分をB-B'の方向に除去する。このウェットエッチング工程では、シリコン基板1のシリコンがエッチングされないようにシリコンに対して高い選択性を示すように酸化シリコンをエッチングする。このウェットエッチング工程では、トレンチ5はB-B'の方向に形成され、そしてトレンチ5の底面Uの下方に位置し、かつトレンチ5の横に位置するアンダーカット領域5aが方向B-B'に沿って形成される。前記アンダーカット領域5aを設けることにより、チャネル領域上のゲートに対する制御性が3ゲート構造によって向上する、というのは、ゲートが底面Uのエッジの下方にまで延びることができるからである。
【0019】
その後、図4A,Bに示すように、二酸化シリコンから成るゲート誘電体20をトレンチ5の基板1の上に形成する。次に、トレンチ5、及び分離トレンチIT'の隣接アンダーカット領域5aを、好適には堆積工程及び後続のCMPプロセス工程において正確な形状になる導電性ポリシリコン充填材から成るゲート電極30'で充填し、マスク層3は研磨停止層として機能する。従って、ポリシリコンから成るゲート電極30'はマスク層3の表面にまで延びる。
【0020】
図5A,Bに示すように、次に、トレンチ5内のゲート電極30'を、マスク層3をマスクとして使用してソース/ドレイン領域4の深さの位置の下方にまでエッチバックする。
【0021】
図6A,Bを参照すると、マスク層3が除去されることが分かる。後続のプロセス工程では、低濃度ソース/ドレイン領域4'(LDD)を、エッチバックされたゲート電極30'の上のトレンチの壁の位置の半導体基板1に形成する。このイオン注入Iは自己整合的に行なわれるので、ゲート電極30'下のチャネル領域がソース/ドレイン領域4,4'に良好に接続される。トレンチ壁から始まる、半導体基板1内の低濃度ソース/ドレイン領域4'(LDD)は横方向長さdがソース/ドレイン領域4よりも短い。これにより、ゲート近傍の電流の流れが良くなり、ポテンシャルが低下する経路を制御することができ、そして良好な耐圧特性が得られる。
【0022】
図7A,Bに示す後続のプロセス工程において、次に、酸化シリコンから成る絶縁スペーサ25をエッチバックされたゲート電極30'の上のトレンチ壁に形成する。この後、導電性ポリシリコン層30''を堆積させ、そして研磨により不要部分を除去してゲート電極の上側領域を形成する。
【0023】
このようにして、第1の実施形態によるトレンチトランジスタが完成する。この後のプロセス工程(図示せず)においては、次に、ソース/ドレイン領域4及びゲート電極30',30''を更に別の回路要素(ここには示さず)に接続する。」

(b)「【0026】
図9A,Bは本発明の第3の実施形態としてのトレンチトランジスタの形成方法、及び該当するトレンチトランジスタの、図1のラインA-A'及びB-B'にそれぞれ沿った2つの異なる模式断面を示している。
【0027】
図9A,Bによる第3の実施形態では、不純物ドープ領域50をトレンチ5の底面Uの下方にパンチスルー防止領域として形成するためのイオン注入I'を、ゲート誘電体20形成の前に、または後に、かつトレンチ5にゲート電極を形成する前に行なう。従って、深い位置でのパンチスルーによる電流経路の発生を抑制することができる。このイオン注入によって、トレンチ5の深さに依存しないチャネルドープ領域を形成することができ、そして勿論、このイオン注入を斜めの方向から行なって、DRAM半導体メモリ回路に使用される場合のノード側に対する距離を大きくすることができる。」

(c)「【0028】
図10A,Bは本発明の第4の実施形態としてのトレンチトランジスタの形成方法、及び該当するトレンチトランジスタの、図1のラインA-A'及びB-B'にそれぞれ沿った2つの異なる模式断面を示している。
【0029】
図10A,Bによる本発明の第4の実施形態では、非常に浅い斜めイオン注入I''を行なって、打ち返しのための逆導電型の不純物のイオン注入によって非常に薄い不純物濃度になったソース/ドレイン領域4''を形成する、すなわちソース/ドレイン領域4に横方向の不純物勾配が形成されるようにして当該領域に生じる高電界を緩和する。このイオン注入I''は都合上、内部絶縁スペーサ25を形成した後に、当該スペーサをマスクとして使用して行なわれる。この実施形態は、第1の実施形態または第2の実施形態のいずれかと組み合わせることができる。」

(イ-1)引用例3発明
上記(a)-(c)より、引用例3には、次の発明(以下、「引用例3発明」という。)が記載されていると認められる。

「トレンチトランジスタのトレンチをドライエッチングで形成し、
トレンチの底面の下方にパンチスルー防止領域としてのイオン注入を行い、
二酸化シリコンからなるゲート誘電体をトレンチの基板の上に形成し、
酸化シリコンからなる絶縁スペーサをトレンチ壁に形成し、
絶縁スペーサ形成した後に、絶縁スペーサをマスクとして、非常に浅い斜めイオン注入を行って、非常に薄不純物濃度になったソース/ドレイン領域を形成する 方法。」

(イ-2)引用例3記載事項
上記(c)により、引用例3には、以下の事項が記載されている。

「絶縁スペーサを形成し、絶縁スペーサをマスクとして、非常に浅い斜めイオン注入を行うこと。」

ウ 引用例4(当審の拒絶理由において引用例3として引用した文献)の記載事項
(ア)引用例4
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開平11-111870号公報(以下、「引用例4」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(a)「【0050】また、本実施形態では、この多結晶シリコン層4をむき出しにしたまま、イオン注入を行ったが、このかわりに、いわゆるスルーインプラントによる方法を採用することもできる。これは、イオン注入を多結晶シリコン層4に対して行うと損傷が発生してしまうが、この損傷を低減するために、この層の上に、例えば薄い酸化膜などを形成し、これを介してイオンの注入を行うものである。イオン注入法によれば、他の手法に比べ、不純物イオン濃度を低くすることができる。」

(イ)引用例4記載事項
上記(a)により、引用例4には、以下の事項が記載されている。

「イオン注入による多結晶シリコン層の損傷を低減するために、薄酸化膜などを形成し、これを介してイオン注入を行うこと。」

エ 引用例5(当審の拒絶理由において引用例4として引用した文献)の記載事項
(ア)引用例5
当審の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭61-194780号公報(以下、「引用例5」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

(a)「〔背景技術〕
化合物半導体、特に、GaAsMESFETのイオン注入に際しては、GaAs基板の表面を露出した状態でのイオン打込みが行われている(例えば、電子材料、1983年1月号、P47)。しかし、基板表面にこれを保護するための膜を形成した上で、この膜(スルー膜)を通したイオン打込みの方が、汚染などの問題で高活性率が得られると考えられる。しかしながら、このスルー膜としてSiO_(2)膜やSi_(3)N_(4)膜を用いることが考えられるが、SiO_(2)膜中のOやSi_(3)N_(4)膜中のNがノックオンされ、GaAs基板中に入ると基板のごく表面層に高抵抗層を形成し良好な素子特性が得られないという問題がある。」(第1頁左下欄14行乃至右下欄7行)

(イ)引用例5記載事項
上記(a)により、引用例5には、以下の事項が記載されている。

「イオン打込みの際に、基板表面にこれを保護するための膜を形成した上で、この膜を通したイオン打込みの方が、汚染などの問題で高活性率が得られること。」

オ 対比・判断
(ア)本願発明1と引用例2発明について
(a) 本願発明1と引用例2発明は、上記「第3 2 A (3) イ b.」で示した点で、一致また相違する。

(b)判断
[相違点2]ついて検討する。

[相違点2]について
引用例2発明は、注入工程について、傾斜角αで行う「第1注入工程」と、傾斜角-αで行う「第2注入工程」と、「フィンの上面に対して垂直に、ドーパントイオンを用いた追加の注入を行う」ことにより、3度のイオン注入を行っており、本願発明1のように「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ことにより、2度のイオン注入により処理されることを、想起することができたとは認められない。
また、引用例3ないし5の記載から、引用例2発明において、上記[相違点2]について、本願発明1の方法を採用することが容易であるとも言えない。
そして、本願発明1は、特に[相違点2]を有することによって、引用例2発明に比べイオン注入の回数を少なくすることができるという格別の効果を有するものである。
そうすると、[相違点2]に係る構成は、引用例2-5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。

したがって、本願発明1は、他の相違点については検討するまでもなく、引用例2-5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)本願発明2と引用例3発明について
(a)本願発明2と引用例3発明を対比する。
(あ)引用例3発明は、「トレンチトランジスタのトレンチをドライエッチングで形成し、トレンチの底面の下方にパンチスルー防止領域としてのイオン注入を行い」また「非常に浅い斜めイオン注入を行って」いるから、このことは、本願発明2の「非平面的な基板にイオンを注入する方法」に相当し、また、「前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行」うことに相当する。
(い)引用例3発明の「トレンチの底面の下方にパンチスルー防止領域としてのイオン注入を行」うことは、本願発明2の「前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階」に相当する。
(う)引用例3発明の「二酸化シリコンからなるゲート誘電体をトレンチの基板の上に形成し、酸化シリコンからなる絶縁スペーサをトレンチ壁に形成」することは、本願発明2の「前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階」に相当する。
(え)引用例3発明の「絶縁スペーサ形成した後に、絶縁スペーサをマスクとして、非常に浅い斜めイオン注入を行って、非常に薄不純物濃度になったソース/ドレイン領域を形成す」ことは、本願発明2の「前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階」に相当する。

(b)以上(あ)?(え)のことから、本願発明2と引用例3発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。

[一致点]
「非平面的な基板にイオンを注入する方法であって、
前記基板の平面に平行な第1面部分、及び、前記基板の前記平面に垂直な第2面部分を有する前記基板にイオン注入を行い、前記第1面部分には、前記第2面部分よりも大きな濃度のドーパントを注入する第1段階と、
前記第2面部分上よりも前記第1面部分上において膜厚が大きい膜を前記基板の前記第1面部分の全体上及び前記第2面部分の全体上に堆積させる第2段階と、
前記第1面部分上の前記膜により、前記第1面部分への更なるイオン注入が制限されると同時に、前記第2面部分には前記膜を介してイオンが注入され、前記第1面部分は、前記第2面部分が注入される割合よりも低い割合で、ドーパントが注入される第3段階と
を備える方法。」

[相違点]
本願発明2は、「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」のに対して、引用例3発明はそうでない点。

(c)判断
上記相違点について検討する。

引用例3発明では、イオン注入を「パンチスルー防止領域」を形成するためのイオン注入と、非常に浅い斜めイオン注入を行っており、図10Aの記載からみて、該斜め注入は2度に分けて行われると認められ、引用例3発明では、イオン注入が3度に分けて行われており、本願発明2のように「前記第1段階および前記第3段階のイオンの流れが同一方向である」ことにより、2度のイオン注入により処理されることを、想起することができたとは認められない。

そして、本願発明2は、上記[相違点]を有することによって、引用例3発明に比べイオン注入回数を少なくすることができるという格別の効果を有するものである。

そうすると、[相違点]に係る構成は、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到してたものであるとは言えない。
したがって、本願発明1は、引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(ウ)本願の請求項2ないし6および8ないし10に係る発明の進歩性について
本願の請求項2ないし5および8ないし10は、それぞれ請求項1および7を引用しており、本願の請求項2ないし5および8ないし10に係る発明は本願発明1および2の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明1および2が引用例2-5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本願の請求項2ないし5および8ないし10に係る発明も、引用例2-5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)当審拒絶理由についてのまとめ
以上のとおり、当審拒絶理由のA.乃至D.に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そすると、もはや、当審の拒絶理由によっては本願を拒絶することはできない。

第5 結語
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶するべき理由は発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-11-28 
出願番号 特願2012-507434(P2012-507434)
審決分類 P 1 8・ 122- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 桑原 清  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 小田 浩
加藤 浩一
発明の名称 非平面な基板表面を有する基板を処理する方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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