ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更 H01L 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) H01L 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 H01L 審判 全部申し立て 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否 H01L 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 H01L 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L |
---|---|
管理番号 | 1322255 |
異議申立番号 | 異議2015-700069 |
総通号数 | 205 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-10-07 |
確定日 | 2016-09-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5699282号発明「有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5699282号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5699282号の請求項1、2及び4に係る特許を維持する。 特許第5699282号の請求項3に係る特許についての申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5699282号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成27年2月27日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 特許業務法人プロテックにより特許異議の申立てがなされ、平成27年11月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年2月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、この訂正を「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)があったものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)本件訂正の内容 本件訂正は、請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正であって、訂正事項1ないし5からなり、その内容は、次のアないしオのとおりである(下線は、当審において、本件訂正前後の対応箇所を表すものとして付与した。)。 ア 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「JIS Z9112で規定する白色範囲内にある」とあったものを、「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」と訂正する。 イ 訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ 訂正事項3 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれか一項」とあったものを、「請求項1又は2」と訂正する。 エ 訂正事項4 本件訂正前の特許明細書の段落【0008】に「JIS Z9112で規定する白色範囲内にある」とあったものを、「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」に訂正する。 オ 訂正事項5 本件訂正前の特許明細書の段落【0011】を削除する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件訂正は、請求項1ないし4からなる一群の請求項に係る訂正であって、訂正事項1ないし5からなるものであるから、訂正事項1ないし5に係る訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否については、個別の訂正事項ごとに検討する。 ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に「JIS Z9112で規定する白色範囲内」とあったものを「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内」とする訂正(以下「訂正事項1-1」という。)と、本件訂正前の請求項3に特定されていた「CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」という事項を請求項1に繰り入れる訂正(以下「訂正事項1-2」という。)に分けられる。 訂正事項1-1の訂正は、当審において平成27年11月27日付けで通知した取消理由の理由1が、本件訂正前の請求項1の「JIS Z9112で規定する白色(範囲内)」が不明瞭な記載であり、したがって本件特許の請求項1に係る発明は明確でなく、また、請求項1の記載を引用する請求項2ないし4に係る発明も同様に明確でないというものであったため、本件訂正前の請求項1に「JIS Z9112で規定する白色範囲内にある」とあったものを、「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」とすることにより、明瞭でない記載を明瞭な記載に訂正しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると認められる。 また、訂正事項1-2の訂正は、本件訂正前の請求項1の記載を引用していた請求項3に係る発明を、新たな請求項1とするための訂正であって、本件補正前の請求項1に発明特定事項を直列的に付加するものであり、請求項1の減縮に該当する。よって、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)新規事項の有無について a 訂正事項1-1について (a)甲第1号証(JIS Z9112:2012)10頁の「1 今回の改正までの経緯 この規格は、1983年にJIS Z9112:1976(けい光ランプの色度区分)及びJIS Z9301:1978(けい光ランプの演色性区分)の両規格を、JIS Z9112として統合した後、1990年及び2004年(以下、旧規格という。)の改正を経て今回の改正に至った。」との記載、乙第1号証(JIS Z9112:2004)9頁の「1.1 制定の趣旨 この規格は、昭和58年にJIS Z9112:1976(けい光ランプの色度区分)とJIS Z9301:1978(けい光ランプの演色性区分)の両規格を統合したものである。」との記載、乙第2号証(JIS Z9112:1990)6頁の「I.まえがき この規格は、昭和58年にJIS Z9112-1976(けい光ランプの色度区分)とJIS Z9301-1978(けい光ランプの演色性区分)の両規格を統合し、大幅な改正を加えたJIS Z9112-1983(蛍光ランプの光源色及び演色性による区分)を改正したものである。」との記載及び乙第3号証(JIS Z9112:1983)7頁の「I.まえがき この規格は、JIS Z9112-1976(蛍光ランプの色度区分)及びJIS Z9301-1978(蛍光ランプの演色性区分)の両規格を統合し、大幅な改正を加えたものである。」との記載から、JIS Z9112は、1983年(昭和58年)にJIS Z9112:1976(蛍光ランプの色度区分)及びJIS Z9301:1978(蛍光ランプの演色性区分)の両規格をJIS Z9112:1983として統合した後、1990年(平成2年)、2004年(平成16年)及び2012年(平成24年)の改正を経ていることが認められる。 また、技術常識として、JIS規格は、改正されると同時にそれ以前の版は廃止になるのであり、ある時点で有効な版はただ一つしかないものであり、そうすると、本件訂正前の請求項1の「JIS Z9112」のように何年改正の版であるかを特定する記載がなく、また、発明の詳細な説明にも何年改正の版であるかを特定する手がかりとなる記載がない場合、当該「JIS Z9112」との記載は、その記載の時点で有効なJIS規格の版を意味すると解するのが相当である。 しかるに、本件特許に係る出願は、平成23年3月24日になされたものであり、また、JIS Z9112:2004は、乙第1号証表紙の「平成16年3月20日改正」との記載からみて、平成16年3月20日に改正され、甲第1号証表紙の「平成24年12月20日改正」との記載からみて、平成24年12月20日にJIS Z9112:2012への改正に伴い廃止されたものであると認められることに鑑みると、本件訂正前の請求項1の「JIS Z9112」という記載に接した当業者は、技術常識に照らして、本件訂正後の「JIS Z9112:2004」という事項が請求項1に記載されているのと同然であると理解するものというべきである。 (b)JIS Z9112:2004(乙第1号証)の4頁の脚注には、「関連規格」として、「JIS Z8110 色の表示方法-光源色の色名」が挙げられている。そして、JIS Z8110:1995(乙第5号証)の4頁の「表3 慣用色名」の右欄には、「(5)白色を細分して示す色名」の下に、「電球色(^(8))」、「温白色(^(8))」、「白色(狭義の)(^(8))」、「昼白色(^(8))」、「昼光色(^(8))」、「月光色(^(9))」及び「昼光白色(^(10))」と記載されており、さらに、同表の注(^(8))には「JIS Z9112参照。」と記載されている。これらのことからみて、JIS Z9112とJIS Z8110は、相互に相手を参照し合う規格であると認められる。 そうすると、JIS Z8110の表3の記載等に照らして、JIS Z9112:2004(乙第1号証)の第2頁の「4.2 色度範囲」等に記載された「昼光色」、「昼白色」、「白色」、「温白色」及び「電球色」の五つの色名に含まれる「白色」は「狭義の」「白色」であり、上記五つの色名は、「白色(以下、便宜上、「狭義の白色」に対して「広義の白色」という。)を細分して示す色名」の一部であるとの解釈が成り立つのだから、上記五つの色名のそれぞれによって表される色は、広義の白色に含まれるといえる。 (c)本件特許の実施例(特許明細書の段落【0066】?【0073】参照。)の有機エレクトロルミネッセンス素子1では、発光輝度が100cd/m^(2)の場合の色温度が2350Kで、発光輝度が5000cd/m^(2)の場合の色温度が3400Kである(【0071】参照。)。乙第1号証2頁の表1(下記)に照らすと、JIS Z9112:2004の光源色の区分における色温度2350Kの色は電球色であり、同じく色温度3400Kの色は温白色である。 <乙第1号証2頁の表1> また、この実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子1の100?5000cd/m^(2)までの発光輝度の変化に伴う発光色の変化を、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上にプロットした本件特許の図7(下記)において、発光色の変化が描く軌跡は、その大半が図中に五つある四角形のうち最も右側の四角形の中にあり、また、その一部が右側から二番目の四角形の中にある。 <本件特許の図7> ここで、図7とJIS Z9112:2004の「付図1 xy色度図上における蛍光ランプの光源色の色度範囲」(乙第1号証第5頁;下記3.(4)イに掲げた参考図と同じもの)とを対比してみると、両図にそれぞれ五つある四角形の各頂点の座標、すなわち五つの四角形のそれぞれの位置及び形状はよく一致しているから、図7の五つの四角形は、広義の白色を細分して示す五つの光源色、すなわち、左から順に、昼光色(D)、昼白色(N)、狭義の白色(W)、温白色(WW)及び電球色(L)の色度範囲を表しているものと認められる。 そうすると、上記実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子1の100?5000cd/m^(2)までの発光輝度の変化に伴う発光色の変化が描く軌跡は、その大半が電球色(L)の色度範囲の中にあり、その一部が温白色(WW)の色度範囲の中にあるということになる。一方、本件特許の明細書には、100?5000cd/m^(2)までの発光輝度の変化に伴う発光色の変化が描く軌跡が狭義の白色(W)の色度範囲内にある実施例は記載されていない。 仮に、本件訂正前の請求項1の「JIS Z9112で規定する白色範囲内」が狭義の白色(W)の範囲内のみを示すと解したならば、狭義の白色(W)の範囲内に入る実施例がなく、狭義の白色(W)ではない電球色(L)と温白色(WW)の範囲内に入るもののみが実施例とされていることになり、したがって、そのように解することは不合理である。 (d)上記(b)及び(c)からみて、特許明細書及び特許請求の範囲の記載に接した当業者は、技術常識に照らして、本件訂正後の「電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内」という事項が特許明細書及び特許請求の範囲に記載されているのと同然であると理解するものというべきである。 b 訂正事項1-2について 「CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」という事項は、本件訂正前の請求項3及び段落【0011】に記載されていた事項であるから、新規事項でないことは明らかである。 c 小括 上記a及びbからみて、訂正事項1及び4に新規事項はない。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記(ア)及び(イ)で述べたとおり、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、また、特許明細書に記載された事項の範囲内において発光輝度の上昇に伴い発光色がどのように変化するかを限定したものといえるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正であって、本件訂正前の請求項1の記載を引用していた請求項3に係る特許発明を、本件訂正後の請求項1に改めるための訂正(訂正事項1-2に係る訂正)に伴って、請求項3の記載が不明瞭にならないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、この訂正は、何ら実質的な事項を付加するものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれか一項」とあったものを、「請求項1又は2」とする訂正であって、本件訂正前の請求項1の記載を引用していた請求項3に係る特許発明を、本件訂正後の請求項1に改めるための訂正(訂正事項1-2に係る訂正)及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正(訂正事項2に係る訂正)に伴って、請求項4の記載が不明瞭にならないようにするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、この訂正は、何ら実質的な事項を付加するものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 訂正事項4について 訂正事項4は、本件訂正前の特許明細書の段落【0008】に「JIS Z9112で規定する白色範囲内」とあったものを、「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」へと訂正するものであって、この訂正は、訂正事項1に伴って、段落【0008】の記載が不明瞭な記載にならないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、この訂正は、訂正事項1と同じ理由(上記ア参照。)により、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 オ 訂正事項5について 訂正事項5は、本件訂正前の特許明細書の段落【0011】を削除する訂正であって、本件訂正前の請求項1の記載を引用していた請求項3に係る特許発明を、本件訂正後の請求項1に改めるための訂正(訂正事項1-2に係る訂正)及び本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する訂正(訂正事項2に係る訂正)に伴い、特許請求の範囲の記載に対応する特許明細書の段落【0011】の記載が不明瞭にならないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、この訂正は、何ら実質的な事項を付加するものではないから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1、2及び4に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 本件発明1 「【請求項1】 正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上6000cd/m^(2)以下の範囲において高くなるに従って発光色の色温度が高くなり、 正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、 CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する有機エレクトロルミネッセンス素子。」 本件発明2 「【請求項2】 正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上5000cd/m^(2)以下の範囲における発光色の色温度の最大値と最小値との差が500K以上である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。」 本件発明4 「【請求項4】 請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明器具。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して平成27年11月27日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。 ア 請求項1ないし4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。 イ 請求項1及び4に係る発明は、当業者が、甲2号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同項に係る特許は、取り消されるべきものである。 (3)甲号証の記載 甲第2号証(特開2010-40216号公報)には、「電極に印加する電圧の変化に対する色味の変化が少なく、かつ、電気抵抗の高い透明電極による電圧低下を軽減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子、該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置、面状光源、および照明装置」(【0008】)の発明が記載されており、さらに、「発光する光のピーク波長が異なる複数の発光層を所定の順序で配置することによる効果を確認するために、透明陽極の基板側の表面に補助電極を配置せず、発光層を赤、緑、青に発光する3つの発光層から構成し、これら発光層を陽極から陰極に向けて、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の順に配置した有機エレクトロルミネッセンス素子」である「作製例2」(【0153】)について、電圧を印加してその輝度及び色度を測定したところ、輝度100cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.349,0.398)であり、輝度1000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.340,0.405)であり、輝度10000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.333,0.408)であったこと(【0167】の【表2】)が記載されている。 以上の記載によれば、甲第2号証には次の発明が記載されていると認められる。 「電極に印加する電圧の変化に対する色味の変化が少なく、かつ、電気抵抗の高い透明電極による電圧低下を軽減し、発光面積が大きい場合でも発光輝度のムラが十分に抑制され、均一発光が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置であって、 透明陽極の基板側の表面に補助電極を配置せず、発光層を赤、緑、青に発光する3つの発光層を陽極から陰極に向けて、赤色発光層、緑色発光層、青色発光層の順に配置して構成し、 電圧を印加して測定した輝度及び色度が、輝度100cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.349,0.398)であり、輝度1000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.340,0.405)であり、輝度10000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.333,0.408)である、 有機エレクトロルミネッセンス素子及び当該有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた照明装置。」(以下「甲2発明」という。) (4)判断 ア 特許法第36条第6項第2号について 本件訂正後の請求項1は、訂正事項1-1に係る訂正(上記2.(2)ア(ア)参照。)により、「JIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内」との事項を有するようになったところ、JIS Z9112:2004では、電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色の色度範囲はそれぞれ明確に規定されており、そうすると、もはや「白色(範囲内)」が不明瞭な記載であるということはできないから、本件訂正後の請求項1に記載不備はない。 同様に、本件訂正後の請求項2及び4にも記載不備はない。 イ 特許法第29条第2項について (対比・判断) 本件発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明は、電圧を印加して測定した輝度及び色度が、輝度100cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.349,0.398)であり、輝度1000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.340,0.405)であり、輝度10000cd/m^(2)で発光時の色度(x,y)が(0.333,0.408)であり、当該輝度及び色度(x,y)をJIS Z9112:2004の付図1(本件発明1の「CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図」に相当。)上にプロットすると、100?10000cd/m^(2)までの発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡は、同図の五つの四角形(それぞれ、昼光色(D)、昼白色(N)、狭義の白色(W)、温白色(WW)及び電球色(L)の色度範囲を表す)のいずれの中にも入らず、また、同図の黒体放射の軌跡(本件発明1の「黒体軌跡」に相当。)と交差もしないことがわかる(下記参考図を参照。)。 <参考図> したがって、甲2発明は、本件発明1の、「正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあ」るという事項、及び、「CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」という事項をいずれも有していない。そして、当該事項(以下「相違点に係る構成」という。)により、本件発明1は、使用環境に応じて発光輝度を変えても人間が快適に感じ得るような照明を実現することができるという顕著な効果を奏するものである。 甲2には、相違点に係る構成は記載も示唆もされておらず、また、甲1、3及び4を参照しても、相違点に係る構成には至らない。 以上より、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明2及び4は、それぞれ、本件発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付した発明であり、本件発明1が、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2及び4も、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人 特許業務法人プロテックは、訂正事項1-2による本件発明の請求項1及び2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する(平成28年6月13日提出の意見書の理由2)が、甲第3号証には、本件発明1の「CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する」という事項が記載されているとは認められず、したがって、本件発明1が甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ むすび 以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件請求項1、2及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また、請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人 特許業務法人プロテックがした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明器具 【技術分野】 【0001】 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、及びこの有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明器具に関する。 【背景技術】 【0002】 有機エレクトロルミネッセンス素子は、低電圧で高輝度の面発光が可能であること等の理由により、フラットパネルディスプレイ、液晶表示装置用バックライト、照明用の光源などとして活用可能な次世代光源として注目を集めている。 【0003】 従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の一例が、特許文献1に開示されている。この有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光層を、第1の蛍光材料が添加された正孔輸送性材料を母材とする正孔輸送性発光層と、第2の蛍光材料が添加された電子輸送性材料を母材とする電子輸送性発光層とにより構成し、正孔輸送性発光層と電子輸送性発光層とを同時に発光させてこれら両発光層からの発光色を混色として認識させるようにし、正孔輸送性発光層から発光される発光色の発光スペクトルと電子輸送性発光層から発光される発光色の発光スペクトルとが略同じになるように、正孔輸送性発光層及び電子輸送性発光層の第1の蛍光材料、第2の蛍光材料は共に2種類以上の蛍光材料よりなり、該2種類以上の蛍光材料の固体状態の蛍光ピーク波長が異なっている。この特許文献1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子は、印加電流量の変化や発光時間の経過に伴う発光色の色度変化を防止する観点から構成されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特許3589960号 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 一方、本発明者らは、有機エレクトロルミネッセンス素子の設計にあたり、素子を使用する状況に応じて、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度が調整される際に、輝度が変わっても人間が快適に感じる照明を実現するという、従来十分に検討されていなかった事項に着目した新たな検討をおこなった。このような観点に着目した有機エレクトロルミネッセンス素子の開発は、未だなされていなかった。 【0006】 このような有機エレクトロルミネッセンス素子の開発に当たっては、有機エレクトロルミネッセンスを用いる用途に応じて、個別に有機エレクトロルミネッセンス素子の発光輝度と色温度を設計する手法も考えられる。しかし、この場合は用途に応じて多種多様な有機エレクトロルミネッセンス素子が必要となる。このため、部材コストの増大、開発負担の増大、製品品種の切り替えに伴う工程タクトの増加などが発生し、低コスト化が図れない課題が発生する。更に、ユーザーにとっても、使用環境に応じて、多種多様な製品から最適な素子を選択しなければならず、負担が大きい。 【0007】 本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、使用環境に応じて発光輝度を変えても人間が快適に感じ得るような照明を実現できる有機エレクトロルミネッセンス素子、及びこの有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明器具を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上6000cd/m^(2)以下の範囲において、輝度が高くなるに従って発光色の色温度が高くなり、正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差することを特徴とする。 【0009】 本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子では、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上5000cd/m^(2)以下の範囲における発光色の色温度の最大値と最小値との差が500K以上であることが好ましい。 【0011】(削除) 【発明の効果】 【0012】 本発明によれば、使用環境に応じて、発光輝度を変えても人間が快適に感じ得るような照明を実現することができる。 【図面の簡単な説明】 【0013】 【図1】本発明の一実施形態における、有機エレクトロルミネッセンス素子の層構造の概略を示す断面図である。 【図2】緑色域の発光強度の低下が発生する原因として想定するメカニズムを示す想定メカニズム図である。 【図3】本発明の一実施形態における、照明器具を示す断面図である。 【図4】前記照明器具の分解斜視図である。 【図5】前記照明器具におけるユニットを示す分解斜視図である。 【図6】実施例における有機エレクトロルミネッセンス素子の正面方向の発光輝度と発光色の色温度との関係を測定した結果を示すグラフである。 【図7】実施例における有機エレクトロルミネッセンス素子の正面方向の発光輝度の変化に伴う発光色の変化と、黒体軌跡とを、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上にプロットした結果を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0014】 本実施形態における有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を、図1に概略的に示す。この有機エレクトロルミネッセンス素子1は、第一の発光ユニット11、第二の発光ユニット12、並びに第一の発光ユニット11と第二の発光ユニット12との間に介在する中間層13を備えるマルチユニット素子である。 【0015】 この有機エレクトロルミネッセンス素子1は、基板14、第一の電極15、第一の発光ユニット11、中間層13、第二の発光ユニット12、及び第二の電極16が、この順番に積層している構造を有する。 【0016】 基板14は光透過性を有することが好ましい。基板14は無色透明であっても、多少着色されていてもよい。基板14は磨りガラス状であってもよい。 【0017】 基板14の材質としては、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどの透明ガラス;ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂等のプラスチックなどが挙げられる。基板14の形状はフィルム状でも板状でもよい。 【0018】 基板14が光拡散効果を有することも好ましい。このような基板14の構造としては、母相と、この母相中に分散している母相とは屈折率の異なる粒子、粉体、気泡等とを備える構造、表面に光拡散性向上のための形状加工が施されている構造、光拡散性向上のために基板表面に光散乱性フィルムやマイクロレンズフィルムを積層した構造などが、挙げられる。 【0019】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光が基板14を透過する必要がない場合には、基板14は光透過性を有しなくてもよい。この場合、素子の発光特性、寿命特性等を損なわない限り、基板14の材質は特に制限されない。例えば、素子の温度上昇を抑制する観点からは、基板14が、アルミニウム製の金属フォイルなど熱伝導性の高い材質から形成されることが好ましい。 【0020】 第一の電極15は陽極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子1における陽極は、発光層2中にホールを注入するための電極である。第一の電極15は、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物等の材料から形成されることが好ましく、特に仕事関数が4eV以上の材料から形成されること、すなわち第一の電極15の仕事関数が4eV以上となることが好ましい。このような第一の電極15を形成する材料としては、例えば、ITO(インジウム-スズ酸化物)、SnO_(2)、ZnO、IZO(インジウム-亜鉛酸化物)等の金属酸化物等が用いられる。第一の電極15は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、塗布等の適宜の方法により形成され得る。有機エレクトロルミネッセンスの発光が第一の電極15を透過する場合には、第一の電極15の光透過率が70%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましい。さらに、第一の電極15のシート抵抗は数百Ω/□以下であることが好ましく、特に100Ω/□以下であることが好ましい。第一の電極15の厚みは、第一の電極15の光透過率、シート抵抗等の特性が所望の程度となるように適宜設定される。第一の電極15の好ましい厚みは第一の電極15を構成する材料によって異なるが、第一の電極15の厚みは500nm以下、好ましくは10?300nmの範囲で設定されるのがよい。 【0021】 第一の電極15から発光層2へホールを低電圧で注入するためには、第一の電極15上にホール注入層を積層することが好ましい。ホール注入層を形成する材料としては、例えば、PEDOT/PSS、ポリアニリン等の導電性高分子;任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子;カーボンナノチューブ、CuPc(銅フタロシアニン)、MTDATA[4,4’,4”-Tris(3-methyl-phenylphenylamino)tri-phenylamine]、TiOPC(チタニルフタロシアニン)、アモルファスカーボンなどの、導電性と光透過性とを併せ持つ材料が挙げられる。ホール注入層が導電性高分子から形成される場合には、例えば導電性高分子がインク状に加工されてから、塗布法、印刷法などの手法で成膜されることでホール注入層が形成される。ホール注入層が低分子有機材料や無機物から形成される場合には、例えば真空蒸着法などによりホール注入層が形成される。 【0022】 第二の電極16は陰極として機能する。有機エレクトロルミネッセンス素子1における陰極は、発光層2中に電子を注入するための電極である。第二の電極16は、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物、これらの混合物などの材料から形成されることが好ましい。特に第二の電極16が仕事関数が5eV以下の材料から形成されること、すなわち第二の電極16の仕事関数が5eV以下となることが好ましい。このような第二の電極16を形成する材料としては、例えば、Al、Ag、MgAgなどが挙げられる。Al/Al_(2)O_(3)混合物などからも第二の電極16が形成され得る。有機エレクトロルミネッセンスの発光が第二の電極16を透過する場合には、第二の電極16が複数の層から成り、その層の一部がITO、IZOなどに代表される透明な導電性材料から形成されることも好ましい。第二の電極16は、これらの材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法等の適宜の方法により形成され得る。有機エレクトロルミネッセンスの発光が第一の電極15を透過する場合には、第二の電極16の光透過率が10%以下であることが好ましい。但し、有機エレクトロルミネッセンスの発光が第二の電極16を透過する場合には、第二の電極16の光透過率が70%以上であることが好ましい。第二の電極16の厚みは、第二の電極16の光透過率、シート抵抗等の特性が所望の程度となるように適宜設定される。第二の電極16の好ましい厚みは第二の電極16を構成する材料によって異なるが、第二の電極16の厚みは500nm以下、好ましくは20?300nmの範囲で設定されるのがよい。 【0023】 第二の電極16から発光層2へ電子を低電圧で注入するために、第二の電極16上に電子注入層を積層することが好ましい。電子注入層を形成する材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属の炭酸化物、アルカリ土類金属、これらの金属を含む合金などが挙げられ、これらの具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、フッ化リチウム、Li_(2)O、Li_(2)CO_(3)、マグネシウム、MgO、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、Al/LiF混合物等が挙げられる。また、電子注入層は、リチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属などがドープされている有機物層などからも形成され得る。 【0024】 第一の発光ユニット11は、発光層2を備える。第一の発光ユニット11は必要に応じて更にホール輸送層3、電子輸送層4等を備えてもよい。第二の発光ユニット12も、発光層2を備える。第二の発光ユニット12も、必要に応じて更にホール輸送層3、電子輸送層4等を備えてもよい。各発光ユニットは、例えばホール輸送層3/一以上の発光層2/電子輸送層4という、積層構造を有する。 【0025】 本態様では、第一の発光ユニット11は、発光層2として、青色域発光層21と蛍光発光を示す緑色域発光層22(第一の緑色域発光層22)とを備える。青色域発光層21は青色光を発する発光層2であり、第一の緑色域発光層22は緑色光を発する発光層2である。一方、第二の発光ユニット12は、発光層2として、赤色域発光層23と燐光発光を示す緑色域発光層24(第二の緑色域発光層24)とを備える。赤色域発光層23は赤色光を発する発光層2であり、第二の緑色域発光層24は緑色光を発する発光層2である。 【0026】 各発光層2は、発光性有機物質(ドーパント)がドープされた有機材料(ホスト材料)から形成され得る。 【0027】 ホスト材料としては、電子輸送性の材料、ホール輸送性の材料、電子輸送性とホール輸送性とを併せ持つ材料の、いずれも使用され得る。ホスト材料として電子輸送性の材料とホール輸送性の材料とが併用されてもよい。発光層2内にホスト材料の濃度勾配が形成されてもよく、例えば発光層2内で第一の電極15に近いほどホール輸送性の材料の濃度が高く、第二の電極16に近いほど電子輸送性の材料の濃度が高くなるように、発光層2が形成されても良い。ホスト材料として使用される電子輸送性の材料やホール輸送性の材料は、特に制限されず、例えばホール輸送性の材料は後述するホール輸送層3を構成し得る材料から、電子輸送性の材料は後述する電子輸送層4を構成し得る材料から、適宜選択され得る。 【0028】 第一の緑色域発光層22を構成するホスト材料としては、Alq_(3)(トリス(8-オキソキノリン)アルミニウム(III))、ADN、BDAFなどが挙げられる。第一の緑色域発光層22における蛍光発光性のドーパントとしては、C545T(クマリンC545T;10-2-(ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-(1)ベンゾピロピラノ(6,7,-8-ij)キノリジン-11-オン))、DMQA、coumarin6、rubreneなどが挙げられる。第一の緑色域発光層22におけるドーパントの濃度は1?20質量%の範囲であることが好ましい。 【0029】 第二の緑色域発光層24を構成するホスト材料としては、CBP、CzTT、TCTA、mCP、CDBPなどが挙げられる。第二の緑色域発光層24における燐光発光性のドーパントとしては、Ir(ppy)_(3)(ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、Ir(ppy)_(2)(acac)、Ir(mppy)_(3)などが挙げられる。第二の緑色域発光層24におけるドーパントの濃度は1?40質量%の範囲であることが好ましい。 【0030】 赤色域発光層23を構成するホスト材料としては、CBP(4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル)、CzTT、TCTA、mCP、CDBPなどが挙げられる。赤色域発光層23におけるドーパントとしては、Btp_(2)Ir(acac)(ビス-(3-(2-(2-ピリジル)ベンゾチエニル)モノ-アセチルアセトネート)イリジウム(III)))、Bt_(2)Ir(acac)、PtOEPなどが挙げられる。赤色域発光層23におけるドーパントの濃度は1?40質量%の範囲であることが好ましい。 【0031】 青色域発光層21を構成するホスト材料としては、TBADN(2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン)、ADN、BDAFなどが挙げられる。青色域発光層21におけるドーパントとしては、TBP(1-tert-ブチル-ペリレン)、BCzVBi、peryleneなどが挙げられる。電荷移動補助ドーパントとして、NPD(4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル)、TPD(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン)、Spiro-TADなども用いられ得る。青色域発光層21におけるドーパントの濃度は1?30質量%の範囲であることが好ましい。 【0032】 各発光層2は、真空蒸着、転写等の乾式プロセスや、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等の湿式プロセスなど、適宜の手法により形成され得る。 【0033】 ホール輸送層3を構成する材料(ホール輸送性材料)は、ホール輸送性を有する化合物の群から適宜選定されるが、電子供与性を有し、また電子供与によりラジカルカチオン化した際にも安定である化合物であることが好ましい。ホール輸送性材料としては、例えば、ポリアニリン、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TPD)、2-TNATA、4,4’,4”-トリス(N-(3-メチルフェニル)N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ-NPD、スピロ-TPD、スピロ-TAD、TNBなどを代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物、スターバーストアミン類(m-MTDATA)、TDATA系材料として1-TMATA、2-TNATA、p-PMTDATA、TFATAなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、一般に知られる任意のホール輸送材料が使用される。ホール輸送層3は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。 【0034】 電子輸送層4を形成する材料(電子輸送性材料)は、電子を輸送する能力を有し、第二の電極16から注入された電子を受けると共に発光層2に対して優れた電子注入効果を発揮し、さらに電子輸送層4へのホールの移動を阻害し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物であることが好ましい。電子輸送性材料として、Alq3、オキサジアゾール誘導体、スターバーストオキサジアゾール、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体などが挙げられる。電子輸送性材料の具体例として、フルオレン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、アントラキノジメタン、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニル(CBP)等やそれらの化合物、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体などが挙げられる。金属錯体化合物としては、具体的には、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリ(2-メチル-8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(o-クレゾラート)ガリウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)(1-ナフトラート)アルミニウム、ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノラート等が挙げられるが、これらに限定されない。含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール、チアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール誘導体などが好ましく、具体的には、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-オキサゾール、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-チアゾール、2,5-ビス(1-フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-(4’-tert-ブチルフェニル)-5-(4”-ビフェニル)1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,4-ビス[2-(5-フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5-ビス(1-ナフチル)-1,3,4-トリアゾール、3-(4-ビフェニルイル)-4-フェニル-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。電子輸送性材料として、ポリマー有機エレクトロルミネッセンス素子1に使用されるポリマー材料も挙げられる。このポリマー材料として、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等が挙げられる。電子輸送層4の厚みに特に制限はないが、例えば、10?300nmの範囲に形成される。電子輸送層4は蒸着法などの適宜の方法で形成され得る。 【0035】 中間層13は、二つの発光ユニットを電気的に直列接続する機能を果たす。中間層13は透明性が高く、且つ熱的・電気的に安定性が高いことが好ましい。中間層13は、例えば等電位面を形成する層、電荷発生層などから形成され得る。等電位面を形成する層もしくは電荷発生層の材料としては、例えばAg、Au、Al等の金属薄膜;酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステン等の金属酸化物;ITO、IZO、AZO、GZO、ATO、SnO_(2)等の透明導電膜;いわゆるn型半導体とp型半導体との積層体;金属薄膜もしくは透明導電膜と、n型半導体及びp型半導体のうちの一方又は双方との積層体;n型半導体とp型半導体の混合物;n型半導体とp型半導体とのうちの一方又は双方と金属との混合物などが挙げられる。前記n型半導体やp型半導体としては、特に制限されることなく必要に応じて選定されたものが使用される。n型半導体やp型半導体は、無機材料、有機材料のうちいずれであっても良い。n型半導体やp型半導体は、有機材料と金属との混合物;有機材料と金属酸化物との組み合わせ;有機材料と有機系アクセプタ/ドナー材料や無機系アクセプタ/ドナー材料との組み合わせ等であってもよい。中間層13は、BCP:Li、ITO、NPD:MoO_(3)、Liq:Alなどからも形成され得る。BCPは2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナンスロリンを示す。例えば、中間層13は、BCP:Liからなる第1層を陽極側に、ITOからなる第2層を陰極側に配置した二層構成のものにすることができる。中間層13がAlq3/Li_(2)O/HAT-CN6、Alq3/Li_(2)O、Alq3/Li_(2)O/Alq3/HAT-CN6などの層構造を有していることも好ましい。 【0036】 本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子1では、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上6000cd/m^(2)以下の範囲において、輝度が高くなるに従って発光色の色温度が高くなる。正面方向とは、有機エレクトロルミネッセンス素子1を構成する複数の層の積層方向と一致し、光が出射する方向である。 【0037】 人が光源を視認する場合の光源の発光輝度と色温度は、人の快・不快の感情と相関し、発光輝度が高い場合には色温度が高いことが好まれ、発光輝度が低い場合には色温度が低いことが好まれる(Kruithor,A.A 1941 Tubular luminescence Lamps for general illumination、30 医療福祉研究第2号2006参照)。本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子1は、上記のような輝度-色温度特性を有するため、発光輝度が高い場合には色温度が高く、発光輝度が低い場合には色温度が低くなる。このため、使用環境が変わっても快適な照明が可能となる。また、環境温度に応じて色温度が変化することで、一種類の素子のみによってこのような輝度-色温度特性が実現できるため、快適な照明が低コストで実現できる。 【0038】 人間は、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上5000cd/m^(2)以下の範囲で、有機エレクトロルミネッセンス素子1からの発光をより快適に感じる。このため、手元を照らすスタンド照明など、光源(有機エレクトロルミネッセンス素子)が目元に近い場合などのように比較的低い輝度(例えば100?1500cd/m^(2)の範囲)で用いられる場合には発光色を3000Kより低い色温度とすることにより、不快に感じることなく作業性を確保することができる。一方、室内天井灯など、比較的高い輝度(例えば1500cd/m^(2)以上)で用いられる場合は発光色を3000Kより高い色温度とすることにより、快適に作業することができる。 【0039】 有機エレクトロルミネッセンス素子1は、100cd/m^(2)?5000cd/m^(2)の範囲内の発光輝度(正面方向の発光輝度)で発光し得ることが好ましい。この場合、手元を照らすスタンド照明から室内の天井灯までの幅広い用途に対して、一種類の有機エレクトロルミネッセンス素子が適用される。このため低コスト化が可能となる。 【0040】 更に、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上5000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度の最大値と最小値との差が500K以上であることが好ましい。すなわち、正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)である場合の色温度と、正面方向の発光輝度が5000cd/m^(2)である場合の色温度との差が、500K以上であることが好ましい。この場合、輝度が変わっても、人間が不快に感じることなくなり、しかも特に低色温度領域での作業性等の違いを実感できるようになる。これは、人間は、500K以上の色温度の差異を知覚することができるからである。この色温度間の差の上限は特に制限されないが、輝度の違いによって被照射物の色の見え方があまりにも異なることは好ましくないため、1000K以下であることが好ましい。 【0041】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z 9112で規定する白色範囲内にあることも好ましい。この場合、白色範囲を保ちつつ、色温度を変化させることができる。この場合、被照射物の色を自然に見せることができる。 【0042】 CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差することも好ましい。この場合、黒体軌跡と交差する軌跡を描くことにより、より視認する色の違いが明瞭となるため作業性が改善する。 【0043】 このような本実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子1は、次のようにして実現される。 【0044】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光輝度は主として、視感度が敏感な緑色域の光を発する発光層2の発光強度によって調整され得る。一方、有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光色の色温度は青色域の光を発する発光層2と赤色域の光を発する発光層2の発光強度によって調整され得る。また、青色域の光を発する発光層2と赤色域の光を発する発光層2の発光強度は、各発光層2の膜厚、ドープ濃度、各発光層2の周辺に存在する輸送層などの構成、中間層13の構成などによって、調整され得る。 【0045】 色温度は、本来は熱を有する物体が黒体輻射で発光する際のスペクトルで定義される。これに対し、光源の色温度は、主に照明用途に白色で発光する際のスペクトルが黒体輻射のラインのどこに近似的に相当するかで決定される(JIS Z8725:1999参照)。つまり、有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光スペクトルの形状が決まれば、各波長での視感度曲線の強度を加味して色温度が計算で求まる。 【0046】 例えば、色温度が高いということは、白色スペクトルを赤色域、緑色域、及び青色域の成分に分解した場合のこれらのバランスを考えると、緑色域から赤色域に亘る成分の相対強度が減少すると共に、青色域から緑色域に亘る成分の相対強度が増加することを意味する。 【0047】 また、有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光輝度は、通電する電流量にほぼ比例する。したがって、発光輝度の増加に従って発光色の色温度が増加するという発光特性は、有機エレクトロルミネッセンス素子1の通電量が増加すると、白色の発光スペクトルの緑色域から赤色域に亘る成分の相対強度が減少すると共に、青色域から緑色域に亘る成分の相対強度が増加することに帰着する。 【0048】 本実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス素子1は、赤色光を発する発光層2、緑色光を発する発光層2、及び青色光を発する発光層2を備える。このため、通電量が低くなるほど、青色光を発する発光層2の発光強度の相対値に対して、緑色光を発する発光層2及び赤色光を発する発光層2の発光強度の相対値が増大し、通電量が高くなるほど、赤色光を発する発光層2の発光強度の相対値に対して、青色光を発する発光層2及び緑色光を発する発光層2の発光強度の相対値が増大すればよい。 【0049】 複数の発光層2が直列に接続されている場合、有機エレクトロルミネッセンス素子1への電流量が同一であっても、赤色光を発する発光層2の発光強度、緑色光を発する発光層2の発光強度、及び青色光を発する発光層2の発光強度は、有機エレクトロルミネッセンス素子1内のキャリアバランスの状態によって変動する。電流量は、電子とホールを足した総電荷で定義される。各発光層2においてこの電子とホールのバランスが1:1に近いことが、各発光層2の発光強度の相対値が最も高くなるための条件の一つである。 【0050】 本実施形態では、有機エレクトロルミネッセンス素子1は、第一の発光ユニット11、第二の発光ユニット12、及び前記第一の発光ユニット11と前記第二の発光ユニット12との間に介在する中間層13を備えるマルチユニット素子である。このようなマルチユニット型素子において、発光輝度が高くなるのに伴って色温度が高くなることを実現するための方法の一つは、発光輝度が高くなるほど第二の発光ユニット12における赤色域発光層23内のキャリアバランスが悪化すると共にこの赤色域発光層23に隣接する第二の緑色域発光層24内のキャリアバランスが良くなるように素子設計することが、挙げられる。すなわち、発光輝度が高くなって有機エレクトロルミネッセンス素子1全体としてキャリアバランスがホールリッチ方向にシフトしたときに、赤色域発光層23の発光強度が低下するように素子設計する。 【0051】 具体的には、例えば第二の発光ユニット12において陰極側に第二の緑色域発光層24が、陽極側に赤色域発光層23が配置され、且つ第二の緑色域発光層24の厚みを基準とした赤色域発光層23の厚みの割合が2?30%となるような素子設計がされる。この場合、発光輝度が高くなりホール数が増加すると、ホールと電子のキャリアバランスが、赤色域発光層23よりも二の緑色域発光層24において最適に近づく。その結果、赤色域発光層23の発光強度の相対値が下がると共に、第二の緑色発光層24の発光輝度の相対値が上昇し、このため発光色の色温度が高温側にシフトする。 【0052】 また、第二の緑色域発光層24で発生する励起子のエネルギーは赤色域発光層23に遷移しやすいため、発光輝度が高い場合に第二の緑色域発光層24内のキャリアバランスが良くなっても、第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23へのエネルギー遷移によって赤色域発光層23の発光強度の相対値が上昇してしまうこともあり得る(図2参照)。第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23へのエネルギーの遷移が生じる理由は、次の通りであると推察される。燐光発光の際の励起子は三重項からの遷移のため励起子寿命が蛍光材料より長いのが通常であるから、燐光発光性のドーパントを含む第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23へのエネルギーの遷移は、顕著に現れる。第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23へ遷移するエネルギーの量は、励起子寿命、励起子の移動距離、ドーパント濃度などが調整されることで制御され得る。 【0053】 但し、第二の緑色域発光層24の厚みが厚くなるほど、第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23までの励起子の移動距離も長くなるため、エネルギーの遷移量は少なくなる。また、赤色域発光層23の厚みが小さくなるほど、並びに赤色域発光層23内のドーパントの濃度が低くなるほど、緑色域発光層22から赤色域発光層23へエネルギーが遷移しにくくなる。従って、第二の緑色域発光層24の厚み、赤色域発光層23の厚み、赤色域発光層23内のドーパントの濃度などが調整されることで、発光輝度が上昇する場合の第二の緑色域発光層から赤色域発光層23へのエネルギーの遷移が抑制され得る。 【0054】 発光輝度が高くなる場合での第二の緑色域発光層24から赤色域発光層23へのエネルギーの遷移を抑制するためには、第二の緑色域発光層24の厚みを基準とした赤色域発光層23の厚みの割合が2?30%の範囲であることが好ましい。このような場合、赤色域発光層23の厚みが十分に薄くなることで、第二の緑色域発光層24の励起子エネルギーが赤色発光層へ遷移しにくい構造となる。この場合、第二の緑色域発光層の厚みは10nm?40nmの範囲であることが好ましい。 【0055】 発光輝度が高くなる場合に有機エレクトロルミネッセンス素子1全体がホールリッチとなるための素子設計の手法として、ホール数を増加させる方法と、ホールの移動度を高くする方法とが挙げられる。 【0056】 ホール数を増加させる方法としては、高輝度(すなわち、高電流、高電圧領域)での陽極からのホール注入を促進する方法が挙げられる。このためには、陽極とホール注入層とのHOMOレベルの差が0.3eV以下となるように素子設計がされることが好ましく、この場合、高電流域(=高電圧域、例えば6V)でバンドが曲がった際にホール注入が増加し得る。 【0057】 ホールの移動度を高くする方法としては、有機エレクトロルミネッセンス素子1を構成する有機材料として、高温における電子移動度の増加割合よりも、ホール移動度の増加割合の方が大きい材料を使用することが挙げられる。これは、輸送層の移動度が低いと発光層2以外の有機層に電荷が溜まり、それにより有機エレクトロルミネッセンス素子1内で電圧分割が生じて有機層に印加される分圧が低下する。その結果、有機層での電界強度が低下することになり、電荷が移動しにくくなるためである。 【0058】 また、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差するようになるためには、第2の発光ユニット12における赤色域発光層23の膜厚が、緑色域発光層24の膜厚よりも薄ければよく、好ましくは第二の緑色域発光層24の厚みを基準とした赤色域発光層23の厚みの割合が2%?30%の範囲である。 【0059】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z 9112で規定する白色範囲内にあるようにするためには、第2の発光ユニット12における赤色域発光層23の膜厚が、緑色域発光層24の膜厚よりも薄ければよく、好ましくは第二の緑色域発光層24の厚みを基準とした赤色域発光層23の割合が2%?30%の範囲、より好ましくは3%?10%の範囲である。 【0060】 本実施形態において、照明器具3は、有機エレクトロルミネッセンス素子1、有機エレクトロルミネッセンス素子1と電源とを接続する接続端子、並びに有機エレクトロルミネッセンス素子1を保持する筐体を備える。図3?図5は有機エレクトロルミネセンス素子を備える照明器具3の一例を示す。照明器具3は、有機エレクトロルミネッセンス素子1を備えるユニット31と、このユニット31を保持する筐体と、ユニット31から照射される光を放出する前面パネル32と、ユニット31に電力を供給する配線部33とを、備える。 【0061】 筐体は、正面側筐体34及び背面側筐体35を備える。正面側筐体34は枠体状に形成され、背面側筐体35は下面開口の蓋体状に形成されている。正面側筐体34及び背面側筐体35は、重なり合わさってユニット31を保持する。正面側筐体34は、背面側筐体35の側壁と接する周縁部に、導体のリード線やコネクタ等である配線部33を通すための溝を有し、また、下面開口には透光性を有する板状の前面パネル32が設置される。 【0062】 ユニット31は、有機エレクトロルミネッセンス素子1と、有機エレクトロルミネッセンス素子1に給電する給電部36と、有機エレクトロルミネッセンス素子1と給電部36を保持する正面側ケース37及び背面側素子ケース38と、を備える。 【0063】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の基板14上には、第一の電極15に接続されているプラス電極39と、第二の電極16に接続されているマイナス電極40も形成されている。基板14上には有機エレクトロルミネッセンス素子1を覆う封止基板44も設けられている。配線部33が取り付けられた一対の給電部36が、プラス電極39及びマイナス電極40にそれぞれ接触することで、有機エレクトロルミネッセンス素子1に給電される。 【0064】 給電部36は、プラス電極39及びマイナス電極40と接する複数の接点部41を有し、これら各接点部41がプラス電極39及びマイナス電極40に素子ケース37、38によって圧接されることで機械的及び電気的に多点にて接続される。接点部41は、板状の銅やステンレススチールのような金属導電体から成る給電部36に曲げ加工を施すことで、ディンプル状に形成され、このディンプル状部分の凸側がプラス電極39及びマイナス電極40と接する。なお、給電部36は、板状の金属導電体にディンプル状の接点部41を形成したもの以外に、例えば、線状の金属導電体にコイル状の接点部41を形成したものであってもよい。 【0065】 素子ケース37、38は、いずれも蓋体状に形成されている。正面側素子ケース37は、有機エレクトロルミネッセンス素子1の基板14と対向するケース壁に光を出射するための開口部42と、ケース側壁に給電部36を保持するための溝部43と、を有する。素子ケース37、38は、アクリル等の樹脂から形成され、互いの側壁同士が接するようにして重なり合わさることで、直方体の箱状となり、有機エレクトロルミネッセンス素子1と給電部36を保持する。 【実施例】 【0066】 ガラス基板14上にITOを厚み130nmに成膜することで第一の電極15を形成した。更に第一の電極15の上にPEDOT/PSSからなる厚み35nmのホール注入層を湿式法により形成した。続いてホール輸送層3、青領域発光層2(蛍光発光)、第一の緑色域発光層22(蛍光発光)、電子輸送層4を、蒸着法により5nm?60nmの厚みに順次形成した。次に、Alq3/Li_(2)O/Alq3/HAT-CN6の層構造を有する中間層13を層厚15nmで積層した。次に、ホール輸送層3、赤色域発光層23(燐光発光)、第二の緑色域発光層24(燐光発光)、電子輸送層4を、各層が最大50nmの膜厚で順次形成した。続いて、Li膜からなる電子注入層、Al膜からなる第二の電極16を順次形成した。本実施例では赤色域発光層23の厚みは2nm、第二の緑色域発光層24の厚みは40nmとした。 【0067】 青色域発光層21におけるドーパントの発光スペクトルのピーク波長は450nm、第二の緑色域発光層24におけるドーパントの発光スペクトルのピーク波長は563nm、赤色域発光層23におけるドーパントの発光スペクトルのピーク波長は620nmであった。 【0068】 この有機エレクトロルミネッセンス素子1のスペクトル、各種演色性、発光色を、分光放射輝度計(CS-2000)を用いて測定したところ、その結果は次の通りであった。 【0069】 素子温度30℃での有機エレクトロルミネッセンス素子1の発光スペクトルにおける、青(450nm):緑(563nm):赤(623nm)のピーク強度比は、1:1.5:2.5であった。 【0070】 有機エレクトロルミネッセンス素子1のスペクトル、発光輝度、発光色を、分光放射輝度計(CS-2000)を用いて測定したところ、その結果は次の通りであった。 【0071】 有機エレクトロルミネッセンス素子1を発光輝度を変化させて発光させた場合の発光色の色温度の変化の測定結果を図6に示す。このように、発光輝度が増加するに伴って発光色の色温度も上昇した。発光輝度が100cd/m^(2)の場合の色温度は2350K、発光輝度が5000cd/m^(2)の場合の色温度は3400Kであった。 【0072】 有機エレクトロルミネッセンス素子1の100?5000cd/m^(2)までの発光輝度の変化に伴う発光色の変化を、CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上にプロットした結果を、図7に示す。この結果、発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差した。 【0073】 上記素子構成において、赤色域発光層23の膜厚/第二の緑色域発光層24の膜厚を、1nm/35nmに変更した素子、並びに3nm/40nmに変更した素子も作製し、上記実施例と同様にスペクトル、各種演色性、発光色を測定した。その結果、上記実施例の場合と同様に、発光輝度が増加するに伴って発光色の色温度も上昇し、またXY色度図上で発光色の変化が描く軌跡が黒体軌跡と交差することが、確認された。 【符号の説明】 【0074】 1 有機エレクトロルミネッセンス素子 3 照明器具 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上6000cd/m^(2)以下の範囲において高くなるに従って発光色の色温度が高くなり、 正面方向の発光輝度が500cd/m^(2)以上3000cd/m^(2)以下の範囲において、発光色の色温度がJIS Z9112:2004で電球色、温白色、白色、昼白色、及び昼光色として規定する白色範囲内にあり、 CIE 1931 XYZ表色系によるXY色度図上で、発光輝度の上昇に伴う発光色の変化が描く軌跡が、黒体軌跡と交差する有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項2】 正面方向の発光輝度が100cd/m^(2)以上5000cd/m^(2)以下の範囲における発光色の色温度の最大値と最小値との差が500K以上である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備える照明器具。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-09-01 |
出願番号 | 特願2011-66566(P2011-66566) |
審決分類 |
P
1
651・
851-
YAA
(H01L)
P 1 651・ 853- YAA (H01L) P 1 651・ 854- YAA (H01L) P 1 651・ 831- YAA (H01L) P 1 651・ 841- YAA (H01L) P 1 651・ 537- YAA (H01L) P 1 651・ 855- YAA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 本田 博幸 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
西村 仁志 樋口 信宏 |
登録日 | 2015-02-27 |
登録番号 | 特許第5699282号(P5699282) |
権利者 | パナソニックIPマネジメント株式会社 |
発明の名称 | 有機エレクトロルミネッセンス素子及び照明器具 |
代理人 | 竹尾 由重 |
代理人 | 竹尾 由重 |
代理人 | 水尻 勝久 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 水尻 勝久 |
代理人 | 西川 惠清 |