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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1322319
異議申立番号 異議2016-700668  
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-02 
確定日 2016-12-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5854534号発明「ポリウレタン樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5854534号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許5854534号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年7月15日の出願であって、平成27年12月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成28年8月2日付け(受理日:同月3日)で特許異議申立人足立道子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
水酸基含有化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、金属水酸化物(C)および可塑剤(D)を含有するポリウレタン樹脂組成物(X)であって、
前記水酸基含有化合物(A)が、ポリブタジエンポリオール(A1)およびひまし油系ポリオール(A2)を含有し、
前記イソシアネート基含有化合物(B)がヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート、アロファネート、ビュレットまたはアダクト変性体を含有し、
前記金属水酸化物(C)が水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムであって、ポリウレタン樹脂組成物(X)100質量部に対して、40質量部?80質量部含有し、
前記可塑剤(D)が、水酸基含有化合物(A)および可塑剤(D)の合計100質量部に対して、10質量部?30質量部含有する、
ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ひまし油系ポリオール(A2)および前記金属水酸化物(C)の質量比が(A2):(C)=1:5?1:10である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ひまし油系ポリオール(A2)が、1.0?2.7官能のひまし油系ポリオールを含有することを特徴とする請求項1または2記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
電気電子部品用であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂組成物を硬化して得られるポリウレタン樹脂。」

第3 特許異議申立て理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である以下の文献を提出し、おおむね次の取消理由(以下、順に「理由1」ないし「理由3」という。)を主張している。

(理由1)本件特許発明1ないし5は、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
(理由2)本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(理由3)本件特許の請求項5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

甲第1号証:特開2011-1426号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開2008-231348号公報(以下、「甲2」という。)
(甲1及び甲2は、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に添付されたものである。)

第4 理由1について
1 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
水酸基含有化合物とイソシアネート基含有化合物とを反応させてなるポリウレタン樹脂と、無機充填材(D)とを含有するポリウレタン樹脂組成物であって、
前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)およびひまし油系ポリオール(B)を含有し、
前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C)を含有するポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填材(D)を、ポリウレタン樹脂組成物に対して50?95重量%含有する請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
電気電子部品用であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のポリウレタン樹脂組成物に用いるポリウレタン樹脂用原料組成物。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、放熱性および密閉条件下における耐熱性に優れたポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。」(段落【0007】)
(3)「本発明のポリウレタン樹脂組成物には、必要により可塑剤(F)を配合することができる。
このような可塑剤(F)としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレートなどのフタル酸エステル、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、アセチル化リシノール酸トリグリセリド、アセチル化ポリリシノール酸トリグリセリドなどのひまし油系エステル、トリオクチルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテートなどのトリメリット酸エステル、テトラオクチルピロメリテート、テトライソノニルピロメリテートなどのピロメリット酸エステルなどが挙げられる。これらのうち、トリメリット酸エステルがより好ましい。
上記可塑剤(F)を配合する場合の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して0.01?15重量%であることが好ましく、0.1?10重量%であることがより好ましい。配合量を上記範囲内とすることにより、ポリウレタン樹脂組成物の耐熱性を大きく低下させることなく、ポリウレタン樹脂組成物の製造時の混合粘度をより低くできる。」(段落【0040】?【0042】)
(4)「本発明のポリウレタン樹脂組成物から得られるポリウレタン樹脂は、優れた放熱性、耐熱性を有していることから、発熱を伴う電気電子部品に好適に使用することができる。このような電気電子部品としては、トランスコイル、チョークコイルおよびリアクトルコイルなどの変圧器や機器制御基盤が挙げられる。本発明のポリウレタン樹脂を使用した電気電子部品は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機、電動工具、自動車、バイクなどにできる。」(段落【0051】)
(5)「実施例及び比較例において使用する原料を以下に示す。
(ポリブタジエンポリオール(A))
A1:平均水酸基価103mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R-15HT、出光興産社製)
A2:平均水酸基価47mgKOH/gのポリブタジエンポリオール
(商品名:Poly bd R-45HT、出光興産社製)
(ひまし油系ポリオール(B))
B1: ひまし油
(商品名:ひまし油、伊藤製油社製)
B2:ひまし油脂肪酸-多価アルコールエステル
(商品名:HS 2G 160R、豊国製油社製)
(ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C))
C1:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体
(商品名:デュラネートTLA-100、旭化成ケミカルズ社製)
C2:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート
(商品名:ミリオネートMR-200、日本ポリウレタン工業社製)
(無機充填材(D))
D1: アルミナ(平均粒子径45μm)
(商品名:アルミナDAM-45、DENKA社製)
D2: アルミナ(平均粒子径3.5μm)
(商品名:LS220、日本軽金属社製)
(リン酸エステル(E))
E:下記の方法により製造したものを使用した。
(製造例1)
トリデシルアルコールを出発物質とし、エチレンオキサイド10モルを公知の方法を用いて付加して、トリデシルアルコールのアルキレンオキサイド付加物Aを得た。
続いて、四つ口フラスコに、上記トリデシルアルコールのアルキレンオキサイド付加物Aの300gと、無水リン酸22.2gとを、モル比3:1にて仕込み、撹拌しながら70℃にて4時間反応を行い、リン酸エステルを得た。(リン酸のOH基の理論上の置換数1.5)
(可塑剤(F))
F:トリイソノニルトリメリテート
(商品名:トリメックスT-10、花王社製)
(触媒(G))
G:ジオクチル錫ジラウレート」(段落【0053】)
(6)「<評価方法>
(混合粘度)
上記ポリウレタン樹脂組成物を25℃で10分間静置した後、JIS K7117に準じて25℃における粘度をBH型粘度計を用いて測定した。
(熱伝導率)
上記ポリウレタン樹脂組成物を6cm×12cm×1cmの金型に流し込み、80℃で16時間養生した後、これを脱型し、さらに25℃で24時間静置することにより熱伝導率測定用の試験片を作成した。熱伝導率は、熱伝導率計(京都電子工業(株)製、QTM-D3)を用いてプローブ法にて測定した。
(耐熱性)
上記ポリウレタン樹脂組成物を 1.5cm×1.5cm×1.5cmの金型に流し込み、80℃で16時間養生した後、これを脱型することにより、耐熱性評価用の試験片を作成した。この試験片を、内部が直径3.6cm、高さ5cmの円柱型である金属製密閉容器に入れてふたをし、150℃で14日間熱処理を行った。
続いて、耐熱性試験前後のポリウレタン樹脂を2等分し、切断面の中央の硬度(タイプA)をJIS K6253に従って測定し、耐熱性試験前の硬度に対する耐熱性試験後の硬度の割合を硬度保持率(%)とし、下記の通り評価した。
○:硬度保持率が60%以上
×:硬度保持率が60%未満
(相溶性)
別途、無機充填材(D)、リン酸エステル(E)および触媒(G)を除く成分を前記混合機を用いて混合し、25℃で5分間静置した後、混合液の濁り有無を目視にて確認した。
○:濁りなし
×:濁りあり」(段落【0056】)

2 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
(1)「【請求項1】
ポリウレタン樹脂と、水硬性アルミナと、水酸化アルミニウムと、放熱性フィラーとを含有することを特徴とする放熱性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
水酸化アルミニウムは、その平均粒子径が30?120μmであり、放熱性ポリウレタン樹脂組成物100重量部中に10?70重量%で配合されていることを特徴とする請求項1記載の放熱性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
熱伝導率が1.1?2.5W/m・Kである請求項1又は2に記載の放熱性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の放熱性ポリウレタン樹脂組成物を用いた放熱性ポリウレタンシート。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の放熱性ポリウレタン樹脂組成物を圧縮成型することにより得られる放熱性ポリウレタンシート。」(特許請求の範囲)
(2)「ポリウレタン等の樹脂に難燃性を付与するために、水酸化アルミニウムを用いることは既によく知られている(例えば、特許文献2)。しかし、水酸化アルミニウム中には比較的多くの水分が含まれており、この水分とイソシアネートとが反応することにより二酸化炭素が発生し、これが気泡となってポリウレタン樹脂の熱伝導率を低下させることとなる。
【特許文献1】特開2000-226426号公報
【特許文献2】特開2004-342758号公報(請求項1)」(段落【0003】)
(3)「本発明における水酸化アルミニウムは、放熱性ポリウレタン樹脂組成物100重量部中に10?70重量%で配合されていることが好ましい。水酸化アルミニウムの配合量が10重量%未満では難燃性が不十分となり、70重量%より多いと熱伝導率が小さくなるので好ましくない。」(段落【0015】)
(4)「(実施例1?5)
表1に示す成分のうち、液状ジフェニルメタンジイソシアネート(ミリオネートMTL、日本ポリウレタン社製)を除く成分を混合し、この混合物に液状ジフェニルメタンジイソシアネートを加えて放熱性ポリウレタン樹脂組成物を得た。これらの放熱性ポリウレタン樹脂組成物の硬化後の比重は約2.3であった。
上記放熱性ポリウレタン樹脂組成物の278gを110×110×10mm(121cm^(3))の金型に充填し、蓋をして10kgf/cm^(2)の圧力でプレスし、23℃×48時間養生した後、これを脱型して放熱性ポリウレタンの試験片を得た。なお、実施例4の試験片は、実施例1の放熱性ポリウレタン樹脂組成物を更にプレス成型により5%圧縮を施したものであり、実施例1の放熱性ポリウレタン樹脂組成物292g(実施例1の1.05倍量)を上記金型に充填し、同様に蓋をして、23℃×48時間養生した後、これを脱型することにより得たものである。
(比較例1?3)
実施例1?5と同様にしてポリウレタン樹脂組成物を得た。これらのポリウレタン樹脂組成物の硬化後の比重は約2.3であった。これらのポリウレタン樹脂組成物を用いて、実施例1?5と同様にしてポリウレタンの試験片を作製した。
【表1】

」(段落【0020】?【0023】)

3 甲1に記載された発明
上記1(1)より、甲1には「水酸基含有化合物とイソシアネート基含有化合物とを反応させてなるポリウレタン樹脂と、無機充填材(D)とを含有するポリウレタン樹脂組成物であって、前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオール(A)およびひまし油系ポリオール(B)を含有し、前記イソシアネート基含有化合物が、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性体(C)を含有し、無機充填材(D)を、ポリウレタン樹脂組成物に対して50?95重量%含有するポリウレタン樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

4 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比・判断する。
(1)本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は「水酸基含有化合物、イソシアネート基含有化合物を含有するポリウレタン樹脂組成物であって、前記水酸基含有化合物が、ポリブタジエンポリオールおよびひまし油系ポリオールを含有し、前記イソシアネート基含有化合物がヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を含有するポリウレタン樹脂組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1では、金属水酸化物である水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムをポリウレタン樹脂組成物100質量部に対して、40質量部?80質量部含有するのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
(相違点2)本件特許発明1では、可塑剤が、水酸基含有化合物および可塑剤の合計100質量部に対して、10質量部?30質量部含有するのに対して、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
(2)事案に鑑みて、はじめに上記相違点2について検討する。
本件特許の明細書の段落【0037】、【0054】の【表1】、【0061】の記載からみて、本件特許発明1では、可塑剤を水酸基含有化合物および可塑剤の合計100質量部に対して10質量部?30質量部含有させる構成により、樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくくなるという発明の効果が奏されると認められる。
そして、甲1には、ポリウレタン樹脂組成物には必要により可塑剤を配合すること及び可塑剤を配合する場合の配合量は、ポリウレタン樹脂組成物に対して0.01?15重量%であることが好ましいことが記載されているものの(上記1(3))、上記構成については記載も示唆もされていないし、仮に上記構成が示唆されているとしても、上記構成により樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくくなるという発明の効果については記載も示唆もされていない。
また、甲2には、水酸基含有化合物であるひまし油系ポリオールと可塑剤と認められるジオクチルフタレートの合計100質量部に対するジオクチルフタレートの割合が29.8質量部である事項を有する実施例が単に開示されているにすぎず(上記2(4))、当該事項の技術的意義については何ら記載されていないし、加えて、当該事項により樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくくなるという発明の効果については記載も示唆もされていない。
そうしてみると、甲1発明において、上記構成を採用することの動機づけがあるとは認められず、当該構成に想到することは当業者にとって容易であるとはいえない。加えて、上記構成を採用することにより奏される樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくくなるという発明の効果は、甲1や甲2の記載事項や技術常識から当業者が予測できない顕著なものである。
よって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて備え、さらに減縮したものであるから、上記4(2)で検討したとおり、本件特許発明1が、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2ないし5も、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 小括
したがって、本件特許発明1ないし5に対する理由1には理由がない。

第5 理由2について
1 特許異議申立人の主張の内容
本件特許の明細書中では、実施例において具体的に用いられているポリブタジエンポリオールとして、2点の平均水酸基価のポリブタジエンポリオールを用いたことしか開示されていない。
また、本件特許の明細書中では、3点のひまし油系ポリオールを用いたことしか記載されておらず、これらのひまし油系ポリオールの水酸基価については記載されていない。
ポリウレタン樹脂の耐湿熱性、難燃性等は、水酸基含有化合物の官能基数や分子量等によって大きく影響を受けることが技術常識であるところ、水酸基価によっては耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、且つ、樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂組成物を提供するとの課題が解決できない場合があることが明らかである。つまり、本件特許発明1には、本件特許発明の課題を解決できない態様が包含されることになる。
また、本件特許発明1に係る特許の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
そうすると、本件特許発明1において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本願発明の上記課題を解決できないおそれがあるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになるから、サポート要件に違反することになる。
同様の理由により、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2?5もサポート要件に違反している。

2 当審の判断
本件特許発明が解決しようとする課題は、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、かつ樹脂ケースにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂組成物を提供することである(段落【0006】)。
そして、本件特許の明細書の段落【0017】、【0020】、【0047】?【0054】、【0060】、【0061】の各記載を総合すると、本件特許発明は水酸基含有化合物(A)がポリブタジエンポリオール(A1)及びひまし油系ポリオールを含有する態様において上記課題を解決できることが読み取れるし、表1の実施例及び比較例の実験データにおいてもその点が具体的に確認されている。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、ポリブタジエンポリオールやひまし油系ポリオールの水酸基価を特定しないと、耐湿熱性、難燃性、電気絶縁性、作業性に優れ、且つ、樹脂ケールにケミカルストレスクラックが生じにくいポリウレタン樹脂組成物を提供するとの課題が解決できないとすることの具体的な根拠を示していない。
さらに、ポリブタジエンポリオールやひまし油系ポリオールの水酸基価を特定しないと上記課題が解決できないとする技術常識が存在するとも認められない。
以上を総合すると、本件特許発明1が、上記課題を解決できない態様を包含するとは認められない。
また、本件特許発明2ないし5についても同様である。
したがって、理由2には理由がない。

第6 理由3について
1 特許異議申立人の主張の内容
本件特許発明5には、ポリウレタン樹脂の製造に関して、ポリウレタン樹脂組成物を硬化させるという技術的な特徴が付された記載があるから、「その物の製造方法が記載されている場合」(プロダクトバイプロセスクレーム)に該当する。そして、「不可能・非実際的事情」が存在することについて、本件特許明細書等に記載がなく、また、本件特許出願の審査経過を参酌しても出願人(特許権者)から主張・立証がなされていないため、明確性要件を充足していない。
以上より、本件特許発明5は、明確性要件に適合せずに特許されたものであるから不明確である。

2 当審の判断
本件特許の請求項5には「請求項1?4のいずれか1項に記載のポリウレタン樹脂組成物を硬化して得られるポリウレタン樹脂。」と記載されているところ、当該「ポリウレタン樹脂組成物を硬化して得られるポリウレタン樹脂」との記載は、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎず、製造に関して経時的な要素の記載がある場合/製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合/製造方法の発明を引用する場合のいずれにも該当しない。
よって、請求項5には、その物の製造方法が記載されているとはいえず、請求項5に係る発明は明確である。
したがって、本件特許発明5に対する理由3には理由がない。

第7 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-11-14 
出願番号 特願2014-144655(P2014-144655)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山村 周平  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 前田 寛之
大島 祥吾
登録日 2015-12-18 
登録番号 特許第5854534号(P5854534)
権利者 第一工業製薬株式会社
発明の名称 ポリウレタン樹脂組成物  
代理人 前澤 龍  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 中村 哲士  
代理人 有近 康臣  
代理人 富田 克幸  

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