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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01D
管理番号 1322890
審判番号 不服2015-17552  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-28 
確定日 2017-01-10 
事件の表示 特願2011-106684「変位検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開、特開2012-237644、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)5月11日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 7月 4日付け:拒絶理由の通知
平成26年 9月 3日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 2月 9日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成27年 3月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年 7月16日付け:平成27年3月27日の手続補正について
の補正却下の決定、拒絶査定
平成27年 9月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年 5月27日付け:当審拒絶理由の通知
平成28年 7月 8日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年 8月26日付け:当審拒絶理由(最後の拒絶理由)の通知
平成28年10月24日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年10月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「 【請求項1】
台形または矩形のレリーフが形成された基板の全面を反射膜で覆ってなる回折格子と、
可干渉光を出射する光源部と、前記光源部から出射された光束を二つの光束に分割する光束分割部と、を含み、前記二つの光束をP偏光として前記回折格子上に照射させる照射光学系と、
前記二つの光束が前記回折格子により回折されることによって生じる二つの第1回折光をそれぞれ反射し、前記回折格子上にP偏光として再入射させるレンズとミラーとからなる反射光学系と、
前記回折格子に再入射した二つの前記第1回折光が回折されて生じる二つの第2回折光を干渉させる干渉光学系と、
前記干渉光学系により干渉した光を受光する受光部と、
前記受光部において取得した干渉信号に基づいて、前記回折格子の位置情報を検出する位置情報検出部と、を備え、
前記回折格子のレリーフの周期は、前記回折格子に入射する前記可干渉光の波長の1.5倍以下であり、
前記レリーフの周期構造は、前記回折格子の2次元方向に形成され、
前記2次元方向の一つの方向ごとに、前記照射光学系と前記反射光学系と前記干渉光学系と前記受光部とがそれぞれ配設され、
前記反射光学系は、前記レンズの光軸を前記第1回折光の光軸からずらすか、あるいは前記第1回折光の光軸と一致させた前記レンズの光軸に対して前記ミラーの反射面を垂直から傾けることにより、前記第1回折光が生じた位置に対して前記回折格子の周期方向上に変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる構成であって、前記レンズの焦点が前記回折格子上に配置され、
前記2次元方向のそれぞれの方向に配置される照射光学系、反射光学系、干渉光学系及び受光素子は、2次元方向のうちの一方の方向に配置された照射光学系、反射光学系によって前記回折格子に入射される異なる2点を接続する線分と、2次元方向のうちの他方に配置された照射光学系、反射光学系によって前記回折格子に入射される異なる2点を接続する線分とが交差するように配列される
ことを特徴とする変位検出装置。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2006-177876号公報
刊行物2:特開平1-269002号公報
刊行物3:特開2007-218833号公報

刊行物1の図1から、第1のコーナーキューブ191で再帰反射されて出射された光波L9が回折格子111へ入射する位置(以下、「位置1B」という。)と、第1のコーナーキューブ191へ入射する回折光L7を生成している回折格子111上の位置(換言すれば、光波L5が回折格子111へ入射している位置、以下、「位置1A」という。)が、異なる位置であること、及び、第2のコーナーキューブ192で再帰反射されて出射された光波L10が回折格子111へ入射する位置(位置1A)と、第2のコーナーキューブ192へ入射する回折光L8を生成している回折格子111上の位置(換言すれば、光波L6が回折格子111へ入射している位置である、位置1B)が、異なる位置であることが、視認される。また、図1から、これらの位置1A、1Bでは、光波L9及び光波L10が回折格子111の格子周期Pに対して十分収束しているとみなせることは、当業者にとって自明なことである。

X、Yの各方向毎に変位検出系を設けて、X、Yの2次元方向の変位を検出する技術は、本願出願前に当業者にとって周知の技術(例えば、刊行物2(特に、第3ページ左上欄第9行?第5ページ左下欄第7行及び第1?3図)を参照)である。
刊行物3(特に、段落【0102】?【0114】及び図11?15を参照)には、2次元の回折格子を用いた変位検出装置において、第1の測定ラインと第2の測定ラインとが交差するように、照射(光源、レンズ等)、反射(ミラー等)、干渉(メイン偏光ビームスプリッタ)の各光学系及び光電変換器を含む受光処理系を配置する技術が、開示されている。また、刊行物3の段落【0105】には、「回折格子112は、2次元的に対称構造となっている。これにより、第1のラインL1上での測定中心と、第2のラインL2上での測定中心とを点Jに一致させることができる。」という技術が、開示されている。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物の記載事項
ア 刊行物1(特開2006-177876号公報)の記載事項
刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0001】
本発明は、変位検出装置に関する。例えば、レーザー干渉式の変位検出装置に関する。」

(b)「【0026】
以下、本発明の実施の形態を図示するとともに図中の各要素に付した符号を参照して説明する。
(第1実施形態)
本発明の変位検出装置に係る第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の変位検出装置に係る第1実施形態の構成を示す図である。
変位検出装置100は、スケール110と、検出ヘッド部120と、を備える。
スケール110は、水平に配設されており、測長方向となる長手方向に沿ってスライド移動可能に設けられている。ここで、説明の都合上、スケール110の長手方向(測長方向)をx軸とし、スケール110の法線方向をz軸とし、スケール110の短手方向(図1の紙面に垂直方向)をy軸とする。
【0027】
スケール110において検出ヘッド部120に対向する面には、長手方向(x軸方向)に沿って反射型の回折格子111が設けられている。
回折格子111の表面には偏光特性を有する金属薄膜が蒸着されており、入射光の偏光方向をそのまま維持した状態で光を反射回折する。なお、このような金属薄膜としては、アルミニウム、クロム、金の薄膜が例として挙げられる。
回折格子111のピッチPは、ブラッグの回折条件を満たす格子周期であり、使用する光の波長が可視域から近赤外域であれば、格子ピッチPは0.4μm?1.0μmとすることが例として挙げられる。そして、このようにブラッグの回折条件を満たす回折格子111は、xz面内に振動方向を有する偏光(以下、P波と称する)に対して高い回折効率を示す。
【0028】
検出ヘッド部120は、発光受光部130と、光学デバイスユニット部160と、を備える。
発光受光部130は、光学デバイスユニット部160を介してスケール110に向けてレーザー光(可干渉光)L1を発射する光源部140と、スケール110の回折格子111で回折されて光学デバイスユニット部160を介して合波された光L15を受光する受光部150と、を備える。
光源部140は、レーザーダイオードである光源141およびレンズ142によって構成され、光源部140の光発射方向はスケール110の測長方向と平行(すなわち水平方向)であり、光源部140からの光(L1)は45度偏光である。
レーザー光源141からの光(L1)は、可視域から近赤外域の可干渉光とし、例えば赤色レーザー光(波長650nm近傍)とすることが例として挙げられる。
【0029】
受光部150は、回折格子111で回折されたのち光学デバイスユニット部160で合波された光(L15)を四光波(L19?L22)に分波する分波部151と、分波された4つの光(L19?L22)を受光する四つのフォトダイオード156A?156Dと、を備えている。
【0030】
分波部151は、光学デバイスユニット部160で合波された光(L15)を二光束(L17、L18)に分波する無偏光ビームスプリッタ152と、無偏光ビームスプリッタ152からの一方の光(L17)をさらに二光束(L19、L20)に分波する偏光ビームスプリッタ153と、無偏光ビームスプリッタ152からの他方の光(L18)を二光束(L21、L22)に分波する偏光ビームスプリッタ154と、無偏光ビームスプリッタ152と偏光ビームスプリッタ154との間に配置された位相差板155と、を備えている。」

(c)「【0033】
導波ミラー161は、三角柱状のプリズムであり、光源部140から水平に発射された光(L1)を斜め45°下方に向けて反射(L2)するとともにスケール110からの反射回折光(L15)を反射して受光部150に導く。
偏光ビームスプリッタ170は、P波のみを透過させて、光源部140からのレーザー光(L1)を二光束(L3、L4)に分波する。光源部140からのレーザー光(L1)は45度偏光で偏光ビームスプリッタ170に入射するところ、偏光ビームスプリッタ170にて反射されるS波(-x方向への光L3)と、ビームスプリッタ170を透過するP波(+x方向への光L4)と、に分波される。」

(d)「【0035】
反射ミラー部180は、偏光ビームスプリッタ170で分波された一方の光(-x方向への光L3)をスケール110に向けて反射(L5)する第1ミラー(光学素子)181と、偏光ビームスプリッタ170で分波された他方の光(+x方向への光L4)をスケール110に向けて反射(L6)する第2ミラー(光学素子)182と、を備える。
第1ミラー181および第2ミラー182にて反射された光(L5、L6)は、スケール110上の同一点に入射する。ただし、図1中では説明の都合上、多少ずらして描いている。
また、本実施形態においては、例えば波長λと格子周期Pとがλ≒1.59Pを満たす条件の下で第1ミラー181および第2ミラー182で反射された光(L5、L6)がスケール110に入射する入射角αが62度になるように第1ミラー181および第2ミラー182の配置角度を調整している。
【0036】
再帰反射部190は、第1ミラー181からの入射光(L5)がスケール110で反射回折された回折光(L7)を再帰反射(L9)する第1コーナーキューブ(再帰反射手段)191と、第2ミラー182からの入射光(L6)がスケール110で反射回折された回折光(L8)を再帰反射(L10)する第2コーナーキューブ(再帰反射手段)192と、を備える。
第1コーナーキューブ191および第2コーナーキューブ192は、第1ミラー181および第2ミラー182よりもスケール110から離間した位置であって、かつ、偏光ビームスプリッタ170と第1ミラー181、第2ミラー182のそれぞれとを結ぶ線よりもスケール110から離間した位置に配置されている。
【0037】
第1ミラー181および第2ミラー182からスケール110に入射した入射光(L5、L6)が回折格子111で回折されて生じる回折光のうち、-1次の回折光(L7、L8)を再帰反射(L9、L10)するように第1コーナーキューブ191および第2コーナーキューブ192が配置されている。
また、第1コーナーキューブ191および第2コーナーキューブ192の内面には、偏光特性を有する金属の膜、例えば、銀、アルミニウム等の金属膜が蒸着されており、第1、第2コーナーキューブ191、192からの再帰反射光の偏光方向は入射光の偏光方向と一致する。
【0038】
なお、本実施形態では、-1次の回折光(L7、L8)が出射される角度は45°であり、すなわち、第1コーナーキューブ191および第2コーナーキューブ192から再帰される再帰光(L9、L10)の入射角βは45度である。つまり、第1および第2反射ミラー181、182からスケール110に入射する光(L5、L6)の入射角αの方が第1および第2コーナーキューブ191、192からスケール110に再帰する光(L9、L10)の角度βよりも大きくとられている。
【0039】
ここで、図2は第1実施形態の一部の斜視図であって、図2に示されるように、コーナーキューブ(191、192)によって光(L9)が再帰されるとき、再帰光(L9)の光路は、-1次の回折光(L7)に対してスケール110の短手方向(y方向)にシフトされる。なお、図2中では、説明の都合上、カバーガラスも省略している。
【0040】
カバーガラス162は、入射光(L5、L6)に対してブルースター角に配置されており、P波のみを透過させることによってブルースター窓として機能する。
1/2波長板163は、偏光ビームスプリッタ170を通過して導波ミラー161で反射された光の偏光方向を45度回転させて受光部150に光(L16)を入射させる。
【0041】
このような構成において、光源部140から発射された光が受光部150で受光されるまでの光路について簡単に説明する。
光源部140から発射されたレーザー光L1は、導波ミラー161で反射(L2)されたのち、偏光ビームスプリッタ170で分波され(L3、L4)、第1ミラー181および第2ミラー182で反射されてスケール110に入射される(L5、L6)。
ここで、光源部140から発射される光(L1)は45度の偏光で導波ミラー161に入射し、導波ミラー161からの反射光(L2)が偏光ビームスプリッタ170で分波されるとき、P波(L4)が透過し、S波が反射される。さらに、このS波は1/2波長板175AによってP波(L3)となる。そして、カバーガラス162はP波だけを透過させるので、偏光ビームスプリッタ170からの二光波(L3、L4)がフィルタリングされて、P波のみがスケール110に照射される。
【0042】
この入射光(L5、L6)がスケール110で反射回折されて生じる-1次の回折光(L7、L8)が第1および第2コーナーキューブ191、192により再帰反射されてスケール110に再度入射する(L9、L10)。この再帰光(L9、L10)がスケール110で反射回折された光(L11、L12)が、第1および第2ミラー181、182で反射(L13、L14)されて偏光ビームスプリッタ170で合波される。
【0043】
ここで、スケール110の回折格子111には偏光特性を有する金属薄膜(例えば、アルミニウム薄膜)が蒸着されており、第1および第2コーナーキューブ191、192の内面には偏光特性を有する金属膜(例えば、銀)が蒸着されているので、スケール110およびコーナーキューブ191、192での反射では光の偏光方向は変化せずに保たれ、スケール110に入射する二光波(L5、L6)がP波ならば、偏光ビームスプリッタに戻る光(L13、L14)もP波のままである。
また、反射ミラー181、182で反射されて偏光ビームスプリッタ170へ向かう光(L13、L14)のうち一方(L13)は1/2波長板175Aによって偏光方向が回転されてP波からS波になるので、偏光ビームスプリッタ170で総て反射されることになり、他方の光(L14)は、透明媒体175Bを介して光路長の調整は受けるが偏光方向は変化せずにP波のまま偏光ビームスプリッタ170に入射してそのまま偏光ビームスプリッタ170を透過する。すなわち、スケール110で反射回折された二光束は偏光ビームスプリッタ170で合波されて総て同じ方向に進行する光(L15)となる。
【0044】
偏光ビームスプリッタ170で合波された光(L15)は、一方がS波であり他方がP波であるところ、導波ミラー161で反射され、さらに1/2波長板163にて偏光方向
が回転されることで二光束の振動方向がそれぞれ45回転されて45度偏光と135度偏光とからなる光(L16)になって受光部150に入射する。
【0045】
受光部150では、導波ミラー161からの光束(L16)がまず無偏光ビームスプリッタ152で分波される(L17、L18)。分波された光のうち一方(L17)は偏光ビームスプリッタ153によってさらに分波される(L19、L20)。このとき、導波ミラー161から受光部150に入射する光束は45度偏光と135度偏光とが合波された光であるので、偏光ビームスプリッタ153で透過光(L19)と反射光(L20)とに分波されるときに互いに干渉して透過光(L19)と反射光(L20)とでは180度の位相差を有する光となる。
この180度位相差の二光束がそれぞれフォトダイオード156A,156Bで受光されるので、例えば、フォトダイオード156Aで正弦信号(Sin)が得られるとすると、フォトダイオード156Bではマイナスの正弦信号(-Sin)が得られる。
【0046】
また、無偏光ビームスプリッタ152で分波された他方の光(L18)は、位相差板(1/2波長板)155で振動方向が90度回転されたのち偏光ビームスプリッタ154で分波されて(L21、L22)、それぞれの光束がフォトダイオード156C、156Dで受光される。そして、偏光ビームスプリッタ154で透過光(L21)と反射光(L22)とに分波されるときに互いに干渉して透過光と反射光とでは180度の位相差を有し、フォトダイオード156Cで余弦信号(Cos)が得られるとすると、フォトダイオード156Dではマイナスの余弦信号(-Cos)が得られる。
【0047】
そして、フォトダイオード156Aとフォトダイオード156Bとからの信号が差動増幅され、フォトダイオード156Cとフォトダイオード156Dとからの信号が差動増幅され、これら差動増幅された二つの信号からリサージュ図形が描かれる。このリサージュ図形の変化からスケール110と検出ヘッド部120との相対変位量が検出される。」

(e)「【0051】
このように、スケール110の揺動に伴う回折角変動が小さくなる結果、スケール110の揺動が多少あった場合でも、+x方向の光路長と-x方向の光路長とのずれが小さくなる。すなわち、スケール110の多少の揺動だけでは干渉光が変化しないので、スケール110と検出ヘッド部120との相対変位が高精度に検出される。
また、スケール110の揺動に伴う回折角変動が小さくなる結果、ビームスプリッタ170における回折光の合波が精密に行われ、十分な強度の干渉光が受光部150で受光される。すると、スケール110の揺動があった場合でも干渉光による受光信号のレベルが保たれるので、高精度な解析が可能になり、検出精度が維持される。
そして、回折格子111での回折光の回折効率が十分に高いので、干渉光による受光信号レベルが高くなり、検出精度が向上される。」

(f)【図1】および【図2】より、「回折格子111が矩形のレリーフ形状をしている」ことが見てとれる。

(g)【図1】より、「第1コーナーキューブ191と第2コーナーキューブ192とが対称に配置されている」ことが見てとれる。

(ア)刊行物1には「変位検出装置」(【0001】)が記載されている。

(イ)刊行物1の「スケール110において検出ヘッド部120に対向する面には、長手方向に沿って反射型の回折格子111が設けられている」(【0027】)、「回折格子111の表面には偏光特性を有する金属薄膜が蒸着されており、入射光の偏光方向をそのまま維持した状態で光を反射回折する」(【0027】)という記載と、上記(f)とを踏まえれば、刊行物1には、「矩形のレリーフ形状をしている回折格子111であって、スケール110において検出ヘッド部120に対向する面に、長手方向(x軸方向)に沿って設けられ、金属薄膜が蒸着された反射型の回折格子111」が記載されているということができる。

(ウ)
a 刊行物1の「光源部140は、レーザーダイオードである光源141およびレンズ142によって構成され」(【0028】)という記載より、刊行物1には、「レーザーダイオードである光源141およびレンズ142によって構成される光源部140」が記載されているといえる。

b 刊行物1の「光源部140から発射されたレーザー光L1は、導波ミラー161で反射(L2)されたのち、偏光ビームスプリッタ170で分波され(L3、L4)」(【0041】)という記載より、刊行物1には、「光源部140から発射されたレーザー光L1が導波ミラー161で反射された光波L2を光波L3と光波L4へ分波する偏光ビームスプリッタ170」が記載されているといえる。

c 刊行物1の「レーザー光L1は、・・・(略)・・・偏光ビームスプリッタ170で分波され(L3、L4)、第1ミラー181および第2ミラー182で反射されてスケール110に入射される(L5、L6)」(【0041】)、「カバーガラス162はP波だけを透過させるので、偏光ビームスプリッタ170からの二光波(L3、L4)がフィルタリングされて、P波のみがスケール110に照射される」(【0041】)、「カバーガラス162は、入射光(L5、L6)に対してブルースター角に配置されており、P波のみを透過させる」(【0040】)という記載より、刊行物1には、「偏光ビームスプリッタ170からの二光波(L3、L4)をフィルタリングして、P波のみをスケール110に照射する、P波だけを透過するカバーガラス162」が記載されているといえる。

(エ)
a 刊行物1の「再帰反射部190は、第1ミラー181からの入射光(L5)がスケール110で反射回折された回折光(L7)を再帰反射(L9)する第1コーナーキューブ(再帰反射手段)191と、第2ミラー182からの入射光(L6)がスケール110で反射回折された回折光(L8)を再帰反射(L10)する第2コーナーキューブ(再帰反射手段)192と、を備える」(【0036】)、「再帰光(L9、L10)」(【0038】)、「第1および第2コーナーキューブ191、192からスケール110に再帰する光(L9、L10)」(【0038】)という記載より、刊行物1には、「回折された回折光L7を再帰反射して再帰光L9として回折格子111に入射させる第1コーナーキューブ191と、回折された回折光L8を再帰反射して再帰光L10として回折格子111に入射させる第2コーナーキューブ192」が記載されているといえる。

b 刊行物1の「第1、第2コーナーキューブ191、192からの再帰反射光の偏光方向は入射光の偏光方向と一致する」(【0037】)、「スケール110の回折格子111には偏光特性を有する金属薄膜(例えば、アルミニウム薄膜)が蒸着されており、第1および第2コーナーキューブ191、192の内面には偏光特性を有する金属膜(例えば、銀)が蒸着されているので、スケール110およびコーナーキューブ191、192での反射では光の偏光方向は変化せずに保たれ、スケール110に入射する二光波(L5、L6)がP波ならば、偏光ビームスプリッタに戻る光(L13、L14)もP波のままである」(【0043】)という記載より、刊行物1には、「第1および第2コーナーキューブ191、192からの再帰反射光の偏光方向はP波のままである」ことが記載されているといえる。

c 上記aおよびbより、刊行物1には、「回折された回折光L7を再帰反射してP波のまま再帰光L9として回折格子111に入射させる第1コーナーキューブ191と、回折された光波L8を再帰反射してP波のまま再帰光L10として回折格子111に入射させる第2コーナーキューブ192」が記載されているといえる。

(オ)刊行物1の「分波部151は、光学デバイスユニット部160で合波された光(L15)を二光束(L17、L18)に分波する無偏光ビームスプリッタ152と、無偏光ビームスプリッタ152からの一方の光(L17)をさらに二光束(L19、L20)に分波する偏光ビームスプリッタ153と、無偏光ビームスプリッタ152からの他方の光(L18)を二光束(L21、L22)に分波する偏光ビームスプリッタ154と、無偏光ビームスプリッタ152と偏光ビームスプリッタ154との間に配置された位相差板155と、を備えている」(【0030】)、「偏光ビームスプリッタ153で透過光(L19)と反射光(L20)とに分波されるときに互いに干渉して」(【0045】)、「偏光ビームスプリッタ154で透過光(L21)と反射光(L22)とに分波されるときに互いに干渉して」(【0046】)という記載から、刊行物1には、「光学デバイスユニット部160で合波された光(L15)を二光束(L17、L18)に分波する無偏光ビームスプリッタ152と、無偏光ビームスプリッタ152からの一方の光(L17)をさらに二光束(L19、L20)に分波して二光束(L19、L20)を干渉させる偏光ビームスプリッタ153と、無偏光ビームスプリッタ152からの他方の光(L18)を二光束(L21、L22)に分波して二光束(L21、L22)を干渉させる偏光ビームスプリッタ154と、無偏光ビームスプリッタ152と偏光ビームスプリッタ154との間に配置された位相差板155と、を備えている分波部151」が記載されているといえる。

(カ)刊行物1の「分波された4つの光(L19?L22)を受光する四つのフォトダイオード156A?156Dと、を備えている」(【0029】)という記載より、刊行物1には、「分波された4つの光(L19?L22)を受光する4つのフォトダイオード156A?156D」が記載されているといえる。

(キ)刊行物1の「フォトダイオード156Aとフォトダイオード156Bとからの信号が差動増幅され、フォトダイオード156Cとフォトダイオード156Dとからの信号が差動増幅され、これら差動増幅された二つの信号からリサージュ図形が描かれる。このリサージュ図形の変化からスケール110と検出ヘッド部120との相対変位量が検出される」(【0047】)という記載より、刊行物1には、「フォトダイオード156Aとフォトダイオード156Bとからの信号を差動増幅し、フォトダイオード156Cとフォトダイオード156Dとからの信号を差動増幅し、これら差動増幅された二つの信号からリサージュ図形を描き、このリサージュ図形の変化からスケール110と検出ヘッド部120との相対変位量を検出する手段」が記載されているといえる。

(ク)刊行物1の「本実施形態においては、例えば波長λと格子周期Pとがλ≒1.59Pを満たす」(【0035】)という記載より、刊行物1には、「波長λと格子周期Pとがλ≒1.59Pを満たす」ことが記載されているといえる。

(ケ)
a 刊行物1の「コーナーキューブ(191、192)によって光(L9)が再帰されるとき、再帰光(L9)の光路は、-1次の回折光(L7)に対してスケール110の短手方向(y方向)にシフトされる」(【0039】)、「スケール110において検出ヘッド部120に対向する面には、長手方向(x軸方向)に沿って反射型の回折格子111が設けられている」(【0027】)という記載より、刊行物1には、「第1コーナーキューブ191で再帰反射されて出射された再帰光L9が回折格子111へ入射する位置が、第1コーナーキューブ191へ入射する回折光L7を生成している回折格子111上の位置に対して、回折格子111の短手方向にシフトされる」ことが記載されているといえる。

b 刊行物1には、再帰光(L10)の光路が回折光(L8)に対してスケール110の短手方向(y方向)にシフトされる点は明記されていないものの、刊行物1には、「偏光ビームスプリッタ170にて反射されるS波(-x方向への光L3)と、ビームスプリッタ170を透過するP波(+x方向への光L4)」(【0033】)について、「+x方向の光路長と-x方向の光路長とのずれが小さくなる」(【0051】)べきことが記載されており、上記(g)のとおり「第1コーナーキューブ191と第2コーナーキューブ192とが対称に配置されている」ことも踏まえれば、刊行物1において、スケールの揺動がない場合には+x方向の光路長と-x方向の光路長とは一致すべきものであり、「コーナーキューブ(191、192)によって光(L9)が再帰されるとき、再帰光(L9)の光路は、-1次の回折光(L7)に対してスケール110の短手方向(y方向)にシフトされる」(【0039】)という記載は、「コーナーキューブ(192)」、「再帰光(L10)」および「回折光(L8)」にも当てはまるものであるといえる。
よって、上記aと同様に、刊行物1には、「第2コーナーキューブ192で再帰反射されて出射された再帰光L10が回折格子111へ入射する位置が、第2コーナーキューブ192へ入射する回折光L8を生成している回折格子111上の位置に対して、回折格子111の短手方向にシフトされる」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物1に記載された事項と上記(ア)ないし(ケ)とを総合すると、刊行物1には以下の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「矩形のレリーフ形状をしている回折格子111であって、スケール110において検出ヘッド部120に対向する面に、長手方向に沿って設けられ、金属薄膜が蒸着された反射型の回折格子111と、
レーザーダイオードである光源141およびレンズ142によって構成される光源部140と、光源部140から発射されたレーザー光L1が導波ミラー161で反射された光波L2を光波L3と光波L4へ分波する偏光ビームスプリッタ170と、偏光ビームスプリッタ170からの二光波(L3、L4)をフィルタリングして、P波のみをスケール110に照射する、P波だけを透過するカバーガラス162と、
回折された回折光L7を再帰反射してP波のまま再帰光L9として回折格子111に入射させる第1コーナーキューブ191と、回折された回折光L8を再帰反射してP波のまま再帰光L10として回折格子111に入射させる第2コーナーキューブ192と、
光学デバイスユニット部160で合波された光(L15)を二光束(L17、L18)に分波する無偏光ビームスプリッタ152と、無偏光ビームスプリッタ152からの一方の光(L17)をさらに二光束(L19、L20)に分波して二光束(L19、L20)を干渉させる偏光ビームスプリッタ153と、無偏光ビームスプリッタ152からの他方の光(L18)を二光束(L21、L22)に分波して二光束(L21、L22)を干渉させる偏光ビームスプリッタ154と、無偏光ビームスプリッタ152と偏光ビームスプリッタ154との間に配置された位相差板155と、を備えている分波部151と、
分波された4つの光(L19?L22)を受光する4つのフォトダイオード156A?156Dと、
フォトダイオード156Aとフォトダイオード156Bとからの信号を差動増幅し、フォトダイオード156Cとフォトダイオード156Dとからの信号を差動増幅し、これら差動増幅された二つの信号からリサージュ図形を描き、このリサージュ図形の変化からスケール110と検出ヘッド部120との相対変位量を検出する手段と、
を備え、
波長λと格子周期Pとがλ≒1.59Pを満たし、
第1コーナーキューブ191で再帰反射されて出射された再帰光L9が回折格子111へ入射する位置が、第1コーナーキューブ191へ入射する回折光L7を生成している回折格子111上の位置に対して、回折格子111の短手方向にシフトされ、第2コーナーキューブ192で再帰反射されて出射された再帰光L10が回折格子111へ入射する位置が、第2コーナーキューブ192へ入射する回折光L8を生成している回折格子111上の位置に対して、回折格子111の短手方向にシフトされる、
変位検出装置。」

イ 刊行物2(特開平1-269002号公報)の記載事項
刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「2.特許請求の範囲
(1)相互に直交するX-Y方向の目盛が形成され、相対的にX-Y方向に移動する2つの部材の一方に配設される2次元スケールと、前記目盛に対向して前記他方の部材に設けられ、第1の光ビームを射出する第1の光源及び第2の光ビームを射出する第2の光源と、前記第1の光ビームの前記X方向の目盛による複数の回折光の混合波を光電変換して前記第1の検出信号を得るX方向変位検出器と、前記第2の光ビームの前記Y方向の目盛による複数の回折光の混合波を光電変換して前記第2の検出信号を得るY方向変位検出器と、を有してなる2次元変位検出装置。
(2)前記2次元スケールは、ガラス基板に互いに直交する縦縞状のパターンの金属膜を蒸着して形成されてなる請求項1の2次元変位検出装置。
(3)前記2次元スケールは、重クロム酸ゼラチンに2光束レーザの干渉縞を複数回露光した後現像することにより形成されたボリュームタイプホログラムとされた請求項1の2次元変位検出装置。」

(b)「【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
この発明は、投影検査機や測定顕微鏡あるいは工作機械等で測定対象物あるいはワークの変位量、寸法等を2次元的に捉える2次元変位検出装置に関する。」

したがって、上記の刊行物2に記載された事項を総合すると、刊行物2には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物2に記載の技術」という。)。

「相互に直交するX-Y方向の目盛が形成され、相対的にX-Y方向に移動する2つの部材の一方に配設される2次元スケールと、前記目盛に対向して前記他方の部材に設けられ、第1の光ビームを射出する第1の光源及び第2の光ビームを射出する第2の光源と、前記第1の光ビームの前記X方向の目盛による複数の回折光の混合波を光電変換して前記第1の検出信号を得るX方向変位検出器と、前記第2の光ビームの前記Y方向の目盛による複数の回折光の混合波を光電変換して前記第2の検出信号を得るY方向変位検出器と、を有してなる2次元変位検出装置。」

ウ 刊行物3(特開2007-218833号公報)の記載事項
刊行物3には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0001】
本発明は、光の干渉を利用してスケールの変位(移動)量を検出する変位検出装置、これに搭載される偏光ビームスプリッタ及び回折格子に関する。」

(b)「【0006】
本発明の別の目的は、正確な2次元の変位を検出することができる変位検出装置等を提供することにある。」

(c)「【0029】
図1は、本発明の一実施の形態に係る変位検出装置の原理を説明するための光学系を示す図である。図2は、変位検出装置の実際の光学系を示す斜視図である。図1は、原理を説明するための図であるので、図1に示す光学部品と図2に示す光学部品の配置が異なる場合もある。
【0030】
変位検出装置1は、第1の位相検出部10と、第2の位相検出部11と、反射型の回折格子(スケール)12と、インクリメンタル信号発生器13と、第1の位相検出器14と、第2の位相検出器15と、位相比較器16と、パルス信号発生器17とを備える。
【0031】
第1の位相検出部10は、図1に示すように、可干渉光の光源20と、第1のレンズ21と、第1のビームスプリッタ(BS)4と、メイン偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)22と、第1の1/4波長板23と、ミラー24と、第2の1/4波長板123と、ミラー124と、第2のレンズ26と、第1の受光処理系37とを備える。」

(d)「【0033】
第1の受光処理系37は、第2のビームスプリッタ(BS)27と、第2のPBS28と、第1の光電変換器29と、第2の光電変換器30と、第5の1/4波長板31と、第3のPBS32と、第3の光電変換器33と、第4の光電変換器34と、第1の差動増幅器35と、第2の差動増幅器36とを備えている。第1の位相検出部10は、回折格子12上の回折格子を読み取り、読み取った結果を、インクリメンタル信号発生器13及び第1の位相検出器14に出力する。
【0034】
図1に示すように、第2の位相検出部11は、上記光源20、上記第1のレンズ21、第1のビームスプリッタ(BS)4及びメインPBS22を共用する。また、第2の位相検出部11は、第3の1/4波長板43 と、ミラー44と、第4の1/4波長板143と、ミラー144と、第3のレンズ46と、第2の受光処理系38とを備える。」

(e)「【0036】
第2の受光処理系38は、第1の受光処理系37と同様の構成をしており、第2のビームスプリッタ(BS)47と、第2のPBS48と、第1の光電変換器49と、第2の光電変換器50と、第5の1/4波長板51と、第3のPBS52と、第3の光電変換器53と、第4の光電変換器54と、第1の差動増幅器55と、第2の差動増幅器56とを備えている。第2の位相検出部11は、回折格子12上の回折格子を読み取り、読み取った結果を第2の位相検出器15に出力する。
【0037】
ここで、回折格子12について説明する。図3は、回折格子12を示す平面図である。回折格子12は、格子ピッチがΛでなる第1の領域A1及びA2を有し、第1の領域A1及びA2の領域の格子ピッチΛとは異なる格子ピッチΛ+Λ/n(nは0以外の実数)でなる第2の領域B1及びB2を有する。第1の領域A1及びA2、第2の領域B1及びB2は、測定方向であるx方向に1つのラインL1上に配置されており、回折格子12が変位の測定対象に取り付けられ、変位検出装置1はその測定対象がx方向に動くときの変位を検出する。以下、第1の領域を単に「A」、第2の領域「B」と言う場合もある。
【0038】
図3に示す回折格子12において、点Jは回折格子12の中心となる点であり、x方向及びこれに直交するy方向での中心となる点である。ここでは、ラインL1を仮想的に点Jを通るラインとすると、後述するように、メインPBS22で生成される複数の偏光ビームのすべてが、点Jを通るラインL1上に入射されるように、光源20からのビームのメインPBS22への入射角度が設定され、あるいはメインPBS22が設計されている。具体的には、第1の領域A1及びA2へのそれぞれのレーザビームの入射点(P1点、P2点)と、第2の領域B1及びB2へのそれぞれのレーザビームの入射点(Q1点、Q2点)は、ラインL1上に並んでいる。また、第1の領域A1及びA2は、第2の領域B1及びB2を挟むように配置されており、この回折格子12は、2次元的に(x-y平面内で)対称構造になっている。」

(f)「【0046】
次に、第1の位相検出部10の動作を説明する。光源20は、第1のレンズ21にレーザビームを出射する。第1のレンズ21は、入射したビームを適度に絞り、第1のBS4にレーザビームを出射する。第1のBS4は、2つのレーザビーム(第1のレーザビームM1及び第2のレーザビームM2)に分割して、それら2つのビームを平行にしてメインPBS22に出射する。図5及び図6に示すように、第1のレーザビームM1及び第2のレーザビームM2は、メインPBS22の上面から斜めに入射し、その入射位置をそれぞれ符号C1及びC2で表している。
【0047】
メインPBS22は、上記偏光分割面5により、入射された第1のレーザビームM1をP偏光成分を有するビームとS偏光成分を有するビームの2つに分割する。このとき、P偏光成分を有するビームは偏光分割面5を透過し、S偏光成分を有するビームは反射する。メインPBS22は、回折格子12の第1の領域A1のP1点までの光路と、A2のP2までの光路が中心対称となるように、P偏光成分を有するビームをP1点に入射し、S偏光成分を有するビームをP2点に入射する。同様に、メインPBS22は、入射された第2のレーザビームM2をP偏光成分を有するビームとS偏光成分を有するビームの2つに分割する。メインPBS22は、回折格子12の第2の領域B1のQ1点までの光路と、A2のP2までの光路が中心対称となるように、P偏光成分を有するビームをP1点に入射し、S偏光成分を有するビームをP2点に入射する。」

(g)「【0053】
P1点で回折されたビームは、第1の1/4波長板23を通過し、ミラー24で垂直に反射される。つまり、ミラー24は再び第1の1/4波長板23へビームを導き、第1の1/4波長板23は回折格子12のP1点へ向けて再びビームを出射する。回折格子12は、第1の1/4波長板23からの戻りビームをP1点で再び回折させてメインPBS22に導く。第1の1/4波長板23の光学軸は、入射されたビームの偏光方向に対して45度傾けてあるので、P1点に戻ったビームはS偏光成分のビームとなっている。つまり、第1の1/4波長板23は、ビームの偏波を変換する偏波変換素子であり、本実施の形態では、第1の1/4波長板23をビームが往復するので、P偏光成分のビームがS偏光成分のビームとなる。」

(h)「【0055】
また、P2点で回折されたビームは、第2の1/4波長板123を通過し、ミラー124で垂直に反射され、再び第2の1/4波長板123を通過して回折格子12のP2点へ戻る。第2の1/4波長板123をビームが往復するので、S偏光成分のビームがP偏光成分のビームとなる。」

(i)「【0057】
P1点から戻ってきたビームは、S偏光成分を有しているので、メインPBS22の偏光分割面5を通過し、また、P2点から戻ってきたビームは、P偏光成分を有しているので、偏光分割面5で反射される。したがって、P1点及びP2点から戻ってきたビームは、偏光分割面5で重ね合わされて、第2のレンズ26に入射する。また、Q1点及びQ2点から戻ってきたビームも同様であり、偏光分割面5で重ね合わされて、第3のレンズ46に入射する。」

(j)「【0066】
第2のレンズ26は、入力されたビームを適度に絞り、BS27に入射する。BS27は、後述するように、第1及び第2の差動増幅器35及び36で、互いに90度位相の異なる信号(sin信号及びcos信号)をそれぞれ生成するために、入射ビームを分割する。BS27は、分割した一方のビームを第2のPBS28に入射し、他方のビームを第5の1/4波長板31に入射する。BS27から出射したP偏光成分及びS偏光成分を有するビームは、このままでは互いに干渉しないので、第2のPBS28は入射されるビームの偏光方向が45度傾くように配置されている。これにより互いのビームが干渉するようになる。また、第2のPBS28は、S偏光成分を有する干渉光を反射させ、P偏光成分を有する干渉光を透過させるように分割する。反射したS偏光成分を有する干渉光は第1の光電変換器29に入射し、透過したP偏光成分を有する干渉光は第2の光電変換器30に入射する。また、第1の光電変換器29では、第2の光電変換器30と180度位相の異なる信号が得られる。」

(k)「【0068】
第5の1/4波長板31は、上記第2のPBS28と同様に、P偏光成分を有する光及びS偏光成分を有するビームの干渉光を得るために、入射されるビームの偏光方向が45度傾くように配置されている。第5の1/4波長板31に入射されたビームは、P偏光成分を有するビームとS偏光成分を有するビームとが互いに逆回りの円偏光となり、重ね合わされて直線偏光となり、第3のPBS32に入射する。第3のPBS32に入射されたビームは、上記第2のPBS28の場合と同様に、S偏光成分を有するビームとP偏光成分を有するビームに分割され、S偏光成分を有するビームを第3の光電変換器33に入射し、P偏光成分を有するビームを第4の光電変換器34に入射する。なお、第3のPBS32に入射される直線偏光の偏光方向は、回折格子がx方向にΛ/2だけ移動すると1回転する。したがって、第3の光電変換器33及び第4の光電変換器34は、第1の光電変換器29及び第2の光電変換器30と同様にAcos(4Kx+δ’)の干渉信号を得ることができる。」

(l)「【0102】
図11は、本発明のさらに別の実施の形態に係る変位検出装置の光学系を示す斜視図である。これ以降の説明では、図1及び図2等に示した実施の形態に係る変位検出装置1の部材や機能等について同様のものは説明を簡略または省略し、異なる点を中心に説明する。
【0103】
上記実施の形態に係る変位検出装置では、測定ラインがx軸方向のみの1次元の回折格子12が用いられた。図11に示す形態に係る変位検出装置2は、測定ラインがx軸方向及びy軸方向のみの2次元の回折格子112を用いる。
【0104】
図12は、その回折格子112を示す平面図である。回折格子112の中央の格子部分は正方形でなり、点Jは回折格子112の中心点である。回折格子112は、x軸に平行な第1のラインL1上に並んだ第1の格子領域A1、A2、B1及びB2と、y軸に平行な第2のラインL2上に並んだ第2の格子領域C1、C2、D1及びD2とを有する。第1の領域A1及びA2、第3の領域C1及びC2は、同じ第1の格子ピッチでなる。第2の領域B1及びB2、第4の領域D1及びD2は、上記第1の格子ピッチとは異なる第2の格子ピッチでなる。図3で示した1次元の回折格子12と同様に、第1の格子ピッチがΛである場合、第2の格子ピッチは、Λ+Λ/n(nは0以外の実数)となるように設定される。
【0105】
また、回折格子112は上述したように正方形でなり、第1の格子領域A1、A2、B1及びB2がラインL1上で点Jを中心に対称的に配置され、かつ、第2の格子領域C1、C2、D1及びD2が点Jを中心に対称的に配置されている。つまり、回折格子112は、2次元的に対称構造となっている。これにより、第1のラインL1上での測定中心と、第2のラインL2上での測定中心とを点Jに一致させることができる。例えば単に1次元変位検出装置を2つ組み合わせてこれらを近接させることにより、2次元の変位検出装置が構成されると考えられるが、実際には2つの直交する軸上で測定中心を一致させることはできず、回折格子が取り付けられる測定対象のテーブルの姿勢変化に対し、測定誤差が生じる。この点、回折格子112が用いられれば、そのような問題を解決することができる。
【0106】
なお、このスケールの一辺の長さsは、例えば10mmであり、回折格子部分の一辺の長さtは、例えば5.7mmであるが、これに限られない。
【0107】
図13は、この2次元の変位検出装置2に搭載されるメインPBSを示す斜視図である。図14は、そのメインPBS122を示す平面図である。メインPBS122は、x軸の変位検出で用いられた第1の偏光分割面5に対して直交する第2の偏光分割面6を有する。具体的には、第2の偏光分割面6は、回折格子112の面(x-y平面)に直交し、かつ、第1の偏光分割面5に対して直交する。
【0108】
なお、図14では、上記第1の位相検出部10の光学系及び第2の位相検出部11の光学系(光源20、1/4波長板23等、ミラー24等)の図示を省略している。
【0109】
変位検出装置2は、上記変位検出装置1が備える第1の位相検出部10及び第2の位相検出部11と同様の位相検出部(第3及び第4の位相検出部)をさらにそれぞれ備えている。具体的には、変位検出装置2の第3の位相検出部は、図14に示すように、光源120、第1のレンズ121と、第1のビームスプリッタ(BS)104と、メイン偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)122と、第1の1/4波長板223と、ミラー224と、第2の1/4波長板123と、ミラー124と、第2のレンズ126と、第3の受光処理系137とを備える。
【0110】
同様に、変位検出装置2の第4の位相検出部は、上記光源120、上記第1のレンズ121、第1のビームスプリッタ(BS)104及びメインPBS122を共用する。第1のビームスプリッタ(BS)104により第3のレーザビームN1及び第4のレーザビームN2が生成される。また、第2の位相検出部は、第3の1/4波長板243と、ミラー244と、第4の1/4波長板343と、ミラー344と、第3のレンズ146と、第4の受光処理系138とを備える。
【0111】
第3の受光処理系137及び第4の受光処理系138の構成については、上記第1の受光処理系37及び第2の受光処理系38と同様であり、説明を省略する。
【0112】
すなわち、第3の位相検出部の光学系及び第4の位相検出部の光学系は、上記第1の位相検出部10の光学系及び第2の位相検出部11の光学系の配置からx-y平面内で90°変えて配置されたものである。
【0113】
図15は、第1?第4の受光処理系37、38、137及び138で得られる信号の処理システムを示すブロック図である。第3の受光処理系137で得られる信号は、位相検出器114で位相検出され、第4の受光処理系138で得られる信号は、第1の位相検出器115で位相検出される。なお、変位検出装置1では、インクリメンタル信号発生器13が第1の受光処理系37及び第2の受光処理系38からの信号を入力していた。しかし、本実施の形態では、インクリメンタル信号発生器13では、第1の位相検出器14と第2の位相検出器15の位相の加算を変位量とすることで、さらに細かく信号を発生することが可能となる。インクリメンタル信号発生器113についても同様である。
【0114】
以上のように、本実施の形態に係る変位検出装置2によれば、x軸での測定中心とy軸での測定中心とを一致させることができるので、測定誤差を発生することなく、2次元の変位を検出することができる。」

(m)【図1】および【図3】より「P1点およびP2点が回折格子12にある」ことが見てとれる。

(ア)刊行物3の「本発明は、・・・(略)変位検出装置・・・(略)・・・に関する。」(【0001】)という記載より、刊行物3には、「変位検出装置」が記載されているといえる。

(イ)刊行物3の「変位検出装置1は、第1の位相検出部10と、第2の位相検出部11と、反射型の回折格子(スケール)12と、・・・(略)・・・を備える」(【0030】)、「図11に示す形態に係る変位検出装置2は、測定ラインがx軸方向及びy軸方向のみの2次元の回折格子112を用いる」(【0103】)、「変位検出装置2は、上記変位検出装置1が備える第1の位相検出部10及び第2の位相検出部11と同様の位相検出部(第3及び第4の位相検出部)をさらにそれぞれ備えている」(【0109】)という記載より、刊行物3には、「変位検出装置が、反射型の2次元の回折格子と、第1ないし第4の位相検出部とを備える」ことが記載されているといえる。

(ウ)
a 刊行物3の「第1の位相検出部10は、図1に示すように、可干渉光の光源20と、第1のレンズ21と、第1のビームスプリッタ(BS)4と、メイン偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)22と、第1の1/4波長板23と、ミラー24と、第2の1/4波長板123と、ミラー124と、第2のレンズ26と、第1の受光処理系37とを備える」(【0031】、「第2の位相検出部11は、上記光源20、上記第1のレンズ21、第1のビームスプリッタ(BS)4及びメインPBS22を共用する。また、第2の位相検出部11は、第3の1/4波長板43 と、ミラー44と、第4の1/4波長板143と、ミラー144と、第3のレンズ46と、第2の受光処理系38とを備える」(【0034】)、「変位検出装置2は、上記変位検出装置1が備える第1の位相検出部10及び第2の位相検出部11と同様の位相検出部(第3及び第4の位相検出部)をさらにそれぞれ備えている」(【0109】)という記載より、刊行物3には、「各位相検出部は、光源と、レンズと、ビームスプリッタと、メイン偏光ビームスプリッタと、ミラーと、受光処理系とを備える」ことが記載されているといえる。

b 刊行物3の「光源20は、第1のレンズ21にレーザビームを出射する。第1のレンズ21は、入射したビームを適度に絞り、第1のBS4にレーザビームを出射する。第1のBS4は、2つのレーザビーム(第1のレーザビームM1及び第2のレーザビームM2)に分割して、それら2つのビームを平行にしてメインPBS22に出射する」(【0046】)、「メインPBS22は、上記偏光分割面5により、入射された第1のレーザビームM1をP偏光成分を有するビームとS偏光成分を有するビームの2つに分割する。・・・(略)・・・メインPBS22は、回折格子12の第1の領域A1のP1点までの光路と、A2のP2までの光路が中心対称となるように、P偏光成分を有するビームをP1点に入射し、S偏光成分を有するビームをP2点に入射する」(【0047】)という記載および上記(m)より、刊行物3には、「位相検出部における光源、レンズ、ビームスプリッタおよびメイン偏光ビームスプリッタは、2つのビームをそれぞれ回折格子の2つの点に入射する」ことが記載されているといえる。

c 刊行物3の「P1点で回折されたビームは、第1の1/4波長板23を通過し、ミラー24で垂直に反射される。つまり、ミラー24は再び第1の1/4波長板23へビームを導き、第1の1/4波長板23は回折格子12のP1点へ向けて再びビームを出射する」(【0053】)、「P2点で回折されたビームは、・・・(略)・・・ミラー124で垂直に反射され、・・・(略)・・・回折格子12のP2点へ戻る」(【0055】)という記載および上記(m)より、刊行物3には、「位相検出部における2つのミラーは、回折された2つのビームをそれぞれ反射して回折格子の2つの点に再び入射する」ことが記載されているといえる。

d したがって、上記aないしcを総合すれば、刊行物3には、「各位相検出部は、それぞれ、2つのビームを回折格子上の2つの点に入射する光源、レンズ、ビームスプリッタおよびメイン偏光ビームスプリッタと、回折された2つのビームをそれぞれ反射して回折格子の前記2つの点に再び入射する2つのミラーと、受光処理系とを備える」ことが記載されているといえる。

(エ)
a 刊行物3の「第1の受光処理系37は、第2のビームスプリッタ(BS)27と、第2のPBS28と、第1の光電変換器29と、第2の光電変換器30と、・・・(略)・・・第3のPBS32と、第3の光電変換器33と、第4の光電変換器34と、・・・(略)・・・を備えている」(【0033】)、「第2の受光処理系38は、第1の受光処理系37と同様の構成をしており」(【0036】)、「第3の受光処理系137及び第4の受光処理系138の構成については、上記第1の受光処理系37及び第2の受光処理系38と同様であり」(【0111】)という記載より、刊行物3には、「各受光処理系は、ビームスプリッタと、2つのメイン偏光ビームスプリッタと4つの光電変換器を備える」ことが記載されているといえる。

b 刊行物3の「P1点及びP2点から戻ってきたビームは、偏光分割面5で重ね合わされて、第2のレンズ26に入射する」(【0057】)、「第2のレンズ26は、入力されたビームを適度に絞り、BS27に入射する。・・・(略)・・・BS27は、分割した一方のビームを第2のPBS28に入射し、他方のビームを第5の1/4波長板31に入射する」(【0066】)、「第5の1/4波長板31に入射されたビームは、P偏光成分を有するビームとS偏光成分を有するビームとが互いに逆回りの円偏光となり、重ね合わされて直線偏光となり、第3のPBS32に入射する」(【0068】)という記載より、刊行物3には、「受光処理系におけるビームスプリッタは、回折格子の点から戻ってきて重ね合わせられた2つのビームを分割して2つのメイン偏光ビームスプリッタに入射する」ことが記載されているといえる。

c 刊行物3の「第2のPBS28は入射されるビームの偏光方向が45度傾くように配置されている。これにより互いのビームが干渉するようになる。また、第2のPBS28は、S偏光成分を有する干渉光を反射させ、P偏光成分を有する干渉光を透過させるように分割する。反射したS偏光成分を有する干渉光は第1の光電変換器29に入射し、透過したP偏光成分を有する干渉光は第2の光電変換器30に入射する」(【0066】)、「第3のPBS32に入射されたビームは、上記第2のPBS28の場合と同様に、S偏光成分を有するビームとP偏光成分を有するビームに分割され、S偏光成分を有するビームを第3の光電変換器33に入射し、P偏光成分を有するビームを第4の光電変換器34に入射する。・・・(略)・・・したがって、第3の光電変換器33及び第4の光電変換器34は、第1の光電変換器29及び第2の光電変換器30と同様にAcos(4Kx+δ’)の干渉信号を得ることができる」(【0068】)という記載より、刊行物3には、「受光処理系における2つのメイン偏光ビームスプリッタは、回折格子の2つの点から戻ってきて重ね合わせられた2つのビームをそれぞれ干渉させ分割し、4つの干渉光を4つの光電変換器に入射する」ことが記載されているといえる。

d 上記aないしcを総合すれば、刊行物3には、「各受光処理系は、それぞれ、回折格子の2つの点から戻ってきて重ね合わせられた2つのビームを分割して2つのメイン偏光ビームスプリッタに入射するビームスプリッタと、分割された2つのビームをそれぞれ干渉させ分割し、4つの干渉光を4つの光電変換器に入射する2つのメイン偏光ビームスプリッタとを備える」ことが記載されているといえる。

(オ)刊行物3の「回折格子12が変位の測定対象に取り付けられ、変位検出装置1はその測定対象がx方向に動くときの変位を検出する」(【0037】)、「変位検出装置2は、上記変位検出装置1が備える第1の位相検出部10及び第2の位相検出部11と同様の位相検出部(第3及び第4の位相検出部)をさらにそれぞれ備えている」(【0109】)、「第3の位相検出部の光学系及び第4の位相検出部の光学系は、上記第1の位相検出部10の光学系及び第2の位相検出部11の光学系の配置からx-y平面内で90°変えて配置されたものである」(【0112】)という記載より、刊行物3には、「第1および第2の位相検出部は、回折格子がx方向に動くときの変位を検出し、第3および第4の位相検出部は、回折格子がy方向に動くときの変位を検出する」ことが記載されているといえる。

(カ)刊行物3の「第1の位相検出部10は、・・・(略)・・・メイン偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)22と、・・・(略)を備える」(【0031】)、「回折格子12において、点Jは回折格子12の中心となる点であり、x方向及びこれに直交するy方向での中心となる点である。ここでは、ラインL1を仮想的に点Jを通るラインとすると、後述するように、メインPBS22で生成される複数の偏光ビームのすべてが、点Jを通るラインL1上に入射されるように、光源20からのビームのメインPBS22への入射角度が設定され、あるいはメインPBS22が設計されている」(【0038】)、「x軸に平行な第1のラインL1」(【0104】)、「y軸に平行な第2のラインL2」(【0104】)、「回折格子112は、2次元的に対称構造となっている。これにより、第1のラインL1上での測定中心と、第2のラインL2上での測定中心とを点Jに一致させることができる」(【0105】)という記載と、メイン偏光ビームスプリッタ22は位相検出部に備えられるものであることと上記(オ)とを踏まえると、刊行物3には、「第1および第2の位相検出部のメイン偏光ビームスプリッタで生成される複数の偏光ビームのすべてが、回折格子12の中心となる点Jを通るx軸に平行なラインL1に入射され、第3および第4の位相検出部のメイン偏光ビームスプリッタで生成される複数の偏光ビームのすべてが、回折格子12の中心となる点Jを通るy軸に平行なラインL2に入射されるように、設定または設計され、第1のラインL1上での測定中心と、第2のラインL2上での測定中心とを点Jに一致させる」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物3に記載された事項と上記(ア)ないし(カ)とを総合すると、刊行物3には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物3に記載の技術」という。)。

「反射型の2次元の回折格子と、
第1ないし第4の位相検出部とを備え、
各位相検出部は、それぞれ、2つのビームをそれぞれ回折格子上の2つの点に入射する光源、レンズ、ビームスプリッタおよびメイン偏光ビームスプリッタと、回折された2つのビームをそれぞれ反射して回折格子の前記2つの点に再び入射する2つのミラーと、受光処理系とを備え、
各受光処理系は、それぞれ、回折格子の2つの点から戻ってきて重ね合わせられた2つのビームを分割して2つのメイン偏光ビームスプリッタに入射するビームスプリッタと、分割された2つのビームをそれぞれ干渉させ分割し、4つの干渉光を4つの光電変換器に入射する2つのメイン偏光ビームスプリッタとを備え、
第1および第2の位相検出部は、回折格子がx方向に動くときの変位を検出し、第3および第4の位相検出部は、回折格子がy方向に動くときの変位を検出し、
第1および第2の位相検出部のメイン偏光ビームスプリッタで生成される複数の偏光ビームのすべてが、回折格子12の中心となる点Jを通るx軸に平行なラインL1に入射され、第3および第4の位相検出部のメイン偏光ビームスプリッタで生成される複数の偏光ビームのすべてが、回折格子12の中心となる点Jを通るy軸に平行なラインL2に入射されるように、設定または設計され、第1のラインL1上での測定中心と、第2のラインL2上での測定中心とを点Jに一致させる、
変位検出装置。」

(2)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。

イ 引用発明の「光源部140」、「偏光ビームスプリッタ170」、「カバーガラス162」、「分波部151」、「4つのフォトダイオード156A?156D」、「相対変位量を検出する手段」は、それぞれ、本願発明の「光源部」、「光束分割部」、「照射光学系」、「干渉光学系」、「受光部」、「位置情報検出部」に相当する。

ウ 引用発明の「回折格子111」と本願発明の「回折格子」とは、「矩形のレリーフが形成された基板の全面を反射膜で覆ってなる回折格子」であって、「前記回折格子のレリーフの周期は、前記回折格子に入射する前記可干渉光の波長の1.5倍以下であ」る点で共通する。

エ 引用発明において、再帰光が回折格子へ入射する位置が、コーナーキューブへ入射する回折光を生成している回折格子上の位置に対して、回折格子の短手方向にシフトされるということは、再帰光が回折格子へ入射する位置が、コーナーキューブへ入射する回折光を生成している回折格子上の位置に対して変位することといえるため、引用発明の「第1および第2コーナーキューブ191、192」と、本願発明の「反射光学系」とは、「前記二つの光束が前記回折格子により回折されることによって生じる二つの第1回折光をそれぞれ反射し、前記回折格子上にP偏光として再入射させるミラーからなる反射光学系」であって、「前記反射光学系は、前記第1回折光が生じた位置に対して変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる構成であ」る点で共通する。

オ すると、本願発明と引用発明とは、次の一致点および相違点を有する。

<一致点>
「矩形のレリーフが形成された基板の全面を反射膜で覆ってなる回折格子と、
可干渉光を出射する光源部と、前記光源部から出射された光束を二つの光束に分割する光束分割部と、を含み、前記二つの光束をP偏光として前記回折格子上に照射させる照射光学系と、
前記二つの光束が前記回折格子により回折されることによって生じる二つの第1回折光をそれぞれ反射し、前記回折格子上にP偏光として再入射させるミラーとからなる反射光学系と、
前記回折格子に再入射した二つの前記第1回折光が回折されて生じる二つの第2回折光を干渉させる干渉光学系と、
前記干渉光学系により干渉した光を受光する受光部と、
前記受光部において取得した干渉信号に基づいて、前記回折格子の位置情報を検出する位置情報検出部と、を備え、
前記回折格子のレリーフの周期は、前記回折格子に入射する前記可干渉光の波長の1.5倍以下であり、
前記反射光学系は、前記第1回折光が生じた位置に対して変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる構成である、
変位検出装置。」

<相違点>
【相違点1】
本願発明における「反射光学系」は、「レンズとミラーとからなる」ものであり、「前記レンズの光軸を前記第1回折光の光軸からずらすか、あるいは前記第1回折光の光軸と一致させた前記レンズの光軸に対して前記ミラーの反射面を垂直から傾けることにより」、前記第1回折光が生じた位置に対して「前記回折格子の周期方向上に」変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる構成であって、「前記レンズの焦点が前記回折格子上に配置され」るのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

【相違点2】
本願発明では、「前記レリーフの周期構造は、前記回折格子の2次元方向に形成され」、「前記2次元方向の一つの方向ごとに、前記照射光学系と前記反射光学系と前記干渉光学系と前記受光部とがそれぞれ配設され」、「前記2次元方向のそれぞれの方向に配置される照射光学系、反射光学系、干渉光学系及び受光素子は、2次元方向のうちの一方の方向に配置された照射光学系、反射光学系によって前記回折格子に入射される異なる2点を接続する線分と、2次元方向のうちの他方に配置された照射光学系、反射光学系によって前記回折格子に入射される異なる2点を接続する線分とが交差するように配列される」のに対し、引用発明にはそのような特定がない点。

(3)判断
ア 上記相違点1について検討する。

イ 引用発明は、再帰光が回折格子へ入射する位置が、コーナーキューブへ入射する回折光を生成している回折格子上の位置に対して、回折格子の短手方向にシフトされる、すなわち、回折格子の周期方向と直交する方向に変位させるものであって、回折格子の周期方向に変位させるものではない。また、刊行物2および3に記載の技術は、いずれも「前記第1回折光が生じた位置に対して前記回折格子の周期方向上に変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる」構成に関するものではなく、当該構成は周知技術であるともいえないため、相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明、刊行物2および3に記載された事項および周知技術から容易に想到できたものとはいえない。

ウ したがって、上記相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明、刊行物2および3に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、刊行物2および3に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明と同様に、当業者が引用発明、刊行物2および3に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 平成28年 5月27日付け当審拒絶理由について
1 平成28年 5月27日付け当審拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2006-177876号公報
刊行物3:特開2007-218833号公報
刊行物4:特開2007-263711号公報
刊行物5:特開平7-4993号公報
刊行物6:Hagen Schweitzer, LightTrans GmbH、Rigorous analysis of general 2D and 3D gratings with VirtualLab(TM) 4、ドイツ、2010.11.15、http://www.lighttrans.com/fileadmin/MDB/Download/Talks/Webinar_November_2010_Grating_Simulation.pdf

刊行物4の段落【0025】-【0035】には、合波干渉型光学装置において、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis:厳密結合波解析)法などを用い、入射波長以下の周期をもつ回折格子(反射型回折格子を含む)に対して、デューティ比および凸部高さを変えることにより、種々の波長、偏光に対する回折効率などを適宜設定する発明が記載されている。
本件出願の明細書及び図面を参照しても、請求項1に係る発明においてD(レリーフの突起の幅)/Λ(レリーフの周期)を0.7?0.9にすることによる有利な効果が顕著性等を有することを示すデータ等は開示されていないため、刊行物1に記載された発明において、刊行物4に記載された発明に倣ってRCWA法などを用い、実験的に回折格子のデューティ比等の数値範囲を最適化又は好適化し、デューティ比を請求項1に記載された数値範囲内にすることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮である。

刊行物3の段落【0102】?【0114】及び図11?15には、2次元の回折格子を用いた変位検出装置において、第1の測定ラインL1と第2の測定ラインL2とが交差するように、光源、レンズ等(請求項1の「照射光学系」に相当)、ミラー等(請求項1の「反射光学系」に相当)、メイン偏光ビームスプリッタ(請求項1の「干渉光学系」に相当)の各光学系及び光電変換器を含む受光処理系を配置する発明が記載されており、刊行物1に記載された発明に刊行物3に記載された発明を適用することに特段の困難性はない。また、刊行物3の段落【0105】には、第1の測定ラインL1上での測定中心と、第2の測定ラインL2上での測定中心とを点Jに一致させることが記載されている。

刊行物5の段落【0009】,図3や、刊行物6のp.4,5に記載されているように、2次元方向に周期構造を形成するように回折格子を設計する技術は当業者によく知られたものであり、その点は特段のことではない。

2 平成28年 5月27日付け当審拒絶理由の判断
(1)刊行物の記載事項
平成28年 5月27日付け当審拒絶理由で引用された刊行物1および3の記載事項は、上記「第3」の「2(1)」の「ア 刊行物1(特開2006-177876号公報)の記載事項」および「ウ 刊行物3(特開2007-218833号公報)の記載事項」に記載したとおりである。

ア 刊行物4(特開2007-263711号公報)の記載事項
刊行物4には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0001】
本発明は、プレナー回折格子を含む光学装置に関し、より詳細には、本発明は、入射光線よりも回折格子の格子周期が短いプレナー回折格子を含む合波干渉型光学装置および光エンコーダに関する。」

(b)「【0025】
図1は、本発明に使用するプレナー回折格子の実施の形態を示した図である。図1に示すように、本発明で使用するプレナー回折格子は、軟質ガラス、パイレックス(登録商標)、石英ガラス、ゼロ膨張ガラスなどの基板10上に、周期的に櫛歯型の凹凸部が形成されている。凹部は、互いに隣接する凸部の間に光学キャビティ12を形成し、複数の凹部が凸部により分離されて周期的な屈折率変調を与えている。本発明では、この凹部を他の誘電体で充填することもできる。図1(a)に示した実施の形態は、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーで作製したマスクパターンを用いて、基板10を直接エッチングして光学キャビティ(凹部)12が形成されており、現在の微細加工技術を用いれば、半導体レーザなどの出力波長以下の0.2μm程度の周期まで高精度に作製が可能である。また、この回折格子を分波、回折、合波するために用いるためには、通常、デューティ比は1程度が適しており、加工精度も高くでき、ヘリウム-ネオンレーザ、アルゴンイオン・レーザ、半導体レーザなどの出力波長領域で、光学キャビティを提供する。なお、本発明では、入射波長以下の周期をもつ回折格子に対して、デューティ比および凸部高さを変えることにより、種々の波長、偏光に対する回折効率などを適宜に設定することができる。
【0026】
図1(b)は、本発明のプレナー型回折格子の第2の実施形態を示す。図1(b)に示した実施の形態は、基板14上に光学的に透明なポリマー膜、酸化膜などを形成し、フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーで作製したマスクパターンを用いて、ポリマー膜16をエッチングすることにより、凹部を形成し、隣接した凸部16の間に光学キャビティ18を形成して透過型回折格子を作製している。また、反射型回折格子を作製する場合には、基板14に、誘電体多層膜や反射金属膜20などの光反射膜をコーティングした上に、凸部16および凹部18のプレナー回折格子を作製して、反射型回折格子としている。本発明では、光学装置の構成に応じて、透過型または反射型の両方の回折格子を使用することができる。ポリマー膜による表面の凹凸回折格子は、ナノインプリント技術によって、複製を大量に作製することが可能である。」

(c)「【0033】
図2(c)は、回折格子の格子周期が、入射波長以下になった場合の入射光に対する回折現象の様子を示している。平面波が入射した場合には、回折格子の凹部と凸部での位相差が生じないので、回折光は発生せず平面波がそのまま透過することになる。よって、垂直に入射に対しては回折格子として使用できないが、図2(d)のように入射光を傾けていくと回折光が発生するようになる。
【0034】
この現象の説明は難しく、古くはブラッグ反射でこの現象を説明していたが、デューティ比の依存性、入射角度依存性、格子高さの依存性等の説明は難しかった。それに対して、この周期的な凹凸格子の横方向の周期的境界条件を満足する伝播導波モードをマクスウエル方程式によって厳密に解く方法がある。この考えに基づくと、垂直入射の場合には、基本モードのみが励起され伝播モードに位相差が生じないため回折光が生じない。それに対して、斜め入射にすることにより多重のモードが励起され、しかも回折格子の出口まで伝播してきたこれらのモードを合成した波面が、凹凸の1周期内で位相分布をもつため回折光が生じると考えられる。現在は、このような考え方で回折効率が定量的に計算できるようになってきている。このように、従来はこの回折特性を定量的に明確にするのが困難であったため、リニアエンコーダに適したスケールの設計ができなかった。
【0035】
そのため、これと類似の現象である参照光と物体光の2光束干渉でホログラフィック回折格子を作製して、参照光を照明すると物体光に対応する回折光が生じることを利用して、アナログ的な位相変調によるスケールが作製されていた。このスケールでは、この回折角に精度よく合致したデジタル的な凹凸回折格子の作製が困難なため、分波器と合波干渉器の両方にデジタル的な凹凸回折格子を用いて、合波干渉型リニアエンコーダを構成することは難しかった。それに対して本発明では、厳密な電磁波解析理論であるRCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis:厳密結合波解析)法などを用いて解析した結果、この回折特性を定量的に評価できるようになり、リニアエンコーダ用のスケールを設計できることを見出し実験的にも確認ができた。本発明において、回折格子の周期を波長以下にし、偏光面、入射角の設定に対してスケールの凹凸型回折格子の周期、格子高さ最適化すれば、波長以上の周期の回折格子を用いる場合よりも、回折効率を高く、より小型で調整の容易なリニアエンコーダを構成できることを開示した。」

(ア)刊行物4の「本発明は、・・・(略)・・・合波干渉型光学装置・・・(略)・・・に関する」という記載より、刊行物4には「合波干渉型光学装置」(【0001】)が記載されているといえる。

(イ)刊行物4の「本発明では、光学装置の構成に応じて、透過型または反射型の両方の回折格子を使用することができる」(【0026】)という記載より、刊行物4には、「透過型または反射型の回折格子を備える」ことが記載されているといえる。

(ウ)刊行物4の「本発明では、・・・(略)・・・RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis:厳密結合波解析)法などを用いて解析した結果、この回折特性を定量的に評価できるようになり、リニアエンコーダ用のスケールを設計できることを見出し実験的にも確認ができた。本発明において、回折格子の周期を波長以下にし、偏光面、入射角の設定に対してスケールの凹凸型回折格子の周期、格子高さ最適化すれば、波長以上の周期の回折格子を用いる場合よりも、回折効率を高く、より小型で調整の容易なリニアエンコーダを構成できることを開示した」(【0035】)、「本発明では、入射波長以下の周期をもつ回折格子に対して、デューティ比および凸部高さを変えることにより、種々の波長、偏光に対する回折効率などを適宜に設定することができる」(【0025】)という記載より、刊行物4には、「RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis:厳密結合波解析)法などを用い、入射波長以下の周期をもつ回折格子に対して、デューティ比および凸部高さを変えることにより、種々の波長、偏光に対する回折効率などを適宜に設定する」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物4に記載された事項と上記(ア)ないし(ウ)とを総合すると、刊行物4には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物4に記載の技術」という。)。

「透過型または反射型の回折格子を備える合波干渉型光学装置において、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis:厳密結合波解析)法などを用い、入射波長以下の周期をもつ回折格子に対して、デューティ比および凸部高さを変えることにより、種々の波長、偏光に対する回折効率などを適宜に設定する技術。」

イ 刊行物5(特開平7-4993号公報)の記載事項
刊行物5には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【0009】図2,図3はそれぞれ本発明において用いられる回折格子2の斜視図,平面図である。なお、以下では、x,y,zの直交座標系を想定して説明する。図2,図3の回折格子2は、同一平面上(x-y平面上)に格子が直交するように配列形成されている所謂クロスグレ-ティング構造(2次元回折格子)となっており、x方向,y方向の格子間の間隔,すなわちピッチはそれぞれΛ_(x),Λ_(y)に設定されている。また、図2,図3の例では、回折格子2,すなわちクロスグレ-ティングは、回折効率を高めるため(位相変調型のものにするため)、表面に格子(凹凸)の形成された(山と谷が縦横に形成された)表面レリ-フグレ-ティングとなっている。」

(ア)刊行物5の「図2,図3の回折格子2は、同一平面上(x-y平面上)に格子が直交するように配列形成されている所謂クロスグレ-ティング構造(2次元回折格子)となっており、x方向,y方向の格子間の間隔,すなわちピッチはそれぞれΛ_(x),Λ_(y)に設定されている。また、図2,図3の例では、・・・(略)・・・表面に格子(凹凸)の形成された(山と谷が縦横に形成された)表面レリ-フグレ-ティングとなっている」(【0009】)という記載より、刊行物5には「x方向およびy方向に所定のピッチの格子が配列形成された表面レリ-フグレ-ティング」が記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物5に記載された事項と上記(ア)とを総合すると、刊行物5には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物5に記載の技術」という。)。

「x方向およびy方向に所定のピッチの格子が配列形成された表面レリ-フグレ-ティング。」

ウ 刊行物6(Rigorous analysis of general 2D and 3D gratings with VirtualLab(TM) 4)の記載事項

(a)刊行物6の第5頁には、「Periodic in x-direction(当審訳:x方向に周期的)」かつ「Periodic in y-direction(当審訳:y方向に周期的)」である「3D Grating(当審訳:三次元回折格子)」が開示されていることが見てとれる。

(ア)上記(a)より、刊行物6には、「x方向およびy方向に周期的な回折格子」が記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物6に記載された事項と上記(ア)とを総合すると、刊行物6には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物6に記載の技術」という。)。

「x方向およびy方向に周期的な回折格子。」

(2)対比・判断
ア 平成28年 5月27日付け当審拒絶理由で引用された刊行物1と原査定の理由で引用された刊行物1とは、同一の刊行物であるところ、本願発明と引用発明とは、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示したとおりの一致点および相違点を有する。

イ 上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点1について検討する。

ウ 引用発明は、再帰光が回折格子へ入射する位置が、コーナーキューブへ入射する回折光を生成している回折格子上の位置に対して、回折格子の短手方向にシフトされる、すなわち、回折格子の周期方向と直交する方向に変位させるものであって、回折格子の周期方向に変位させるものではない。また、刊行物3ないし6に記載の技術は、いずれも「前記第1回折光が生じた位置に対して前記回折格子の周期方向上に変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる」構成に関するものではなく、当該構成は周知技術であるともいえないため、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明、刊行物3ないし6に記載された事項および周知技術から容易に想到できたものとはいえない。

エ したがって、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明、刊行物3ないし6に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、刊行物3ないし6に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明と同様に、当業者が引用発明、刊行物3ないし6に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そうすると、平成28年 5月27日付け当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 平成28年 8月26日付け当審拒絶理由について
1 平成28年 8月26日付け当審拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2006-177876号公報
刊行物3:特開2007-218833号公報
刊行物5:特開平7-4993号公報
刊行物6:Hagen Schweitzer, LightTrans GmbH、Rigorous analysis of general 2D and 3D gratings with VirtualLab(TM) 4、ドイツ、2010.11.15、http://www.lighttrans.com/fileadmin/MDB/Download/Talks/Webinar_November_2010_Grating_Simulation.pdf
刊行物7:特開2009-257841号公報

刊行物7の【請求項1】,段落【0001】,【0015】,【0016】,【0057】,【0059】,【0086】-【0096】,【0112】-【0114】,【0118】,【0119】,図1-図6には、光学式変位測定装置において、移動位置検出方向以外への回折格子の変位の影響を抑えるため、レンズ等の光学素子からなる結像素子と光を反射する反射器とから反射光学系を構成し、結像素子の焦点位置に回折格子と反射器とを配置する技術が記載されている。
刊行物1に記載された発明において、移動位置検出方向以外への回折格子の変位の影響を抑えるため、刊行物7に記載された技術を適用し、レンズ等の光学素子からなる結像素子と光を反射する反射器とから反射光学系を構成し、結像素子の焦点位置に回折格子と反射器とを配置することは、当業者が容易に想到し得ることである。
その際、光波L9が回折格子111へ入射する位置と、回折光L7を生成している回折格子111上の位置とを異なる位置とし、光波L10が回折格子111へ入射する位置と、回折光L8を生成している回折格子111上の位置とを異なる位置とするため、結像素子の光軸を回折光の光軸からずらすか、あるいは回折光の光軸と一致させた結像素子の光軸に対して反射器の反射面を垂直から傾けることは、当業者が適宜なし得る事項である。

刊行物3の段落【0102】-【0114】および図11-図15には、2次元の回折格子を用いた変位検出装置において、第1の測定ラインL1と第2の測定ラインL2とが交差するように、光源、レンズ等(請求項1の「照射光学系」に相当)、ミラー等(請求項1の「反射光学系」に相当)、メイン偏光ビームスプリッタ(請求項1の「干渉光学系」に相当)の各光学系及び光電変換器を含む受光処理系を配置する発明が記載されており、引用文献1に記載された発明に引用文献3に記載された発明を適用することに特段の困難性はない。また、刊行物3の段落【0105】には、第1の測定ラインL1上での測定中心と、第2の測定ラインL2上での測定中心とを点Jに一致させることが記載されている。

刊行物5の段落【0009】,図3や、刊行物6のp.4,5に記載されているように、2次元方向に周期構造を形成するように回折格子を設計する技術は当業者によく知られたものであり、その点は特段のことではない。

2 平成28年 8月26日付け当審拒絶理由の判断
(1)刊行物の記載事項
平成28年 8月26日付け当審拒絶理由で引用された刊行物1および3の記載事項は、上記「第3」の「2(1)」の「ア 刊行物1(特開2006-177876号公報)の記載事項」および「ウ 刊行物3(特開2007-218833号公報)の記載事項」に記載したとおりである。
また、平成28年 8月26日付け当審拒絶理由で引用された刊行物5および6の記載事項は、上記「第4」の「2(1)」の「イ 刊行物5(特開平7-4993号公報)の記載事項」および「ウ 刊行物6(Rigorous analysis of general 2D and 3D gratings with VirtualLab(TM) 4)の記載事項」に記載したとおりである。

ア 刊行物7(特開2009-257841号公報)の記載事項
刊行物7には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

(a)「【請求項1】
可干渉光が照射され、この可干渉光に対して格子ベクトルに平行な方向に相対移動し、この可干渉光を回折する回折格子と、
可干渉光を発光する発光部と、
前記発光部により発光された可干渉光を2つの可干渉光に分割して、前記回折格子に各可干渉光を照射し、2つの1回回折光を生じさせると共に、2つの1回回折光を前記回折格子により回折させて生じさせた2つの2回回折光を干渉させる照射受光光学系と、
2つの可干渉光を前記回折格子により回折させて生じさせた2つの1回回折光をそれぞれ反射して、前記回折格子に2つの1回回折光を照射する反射光学系と、
前記照射受光光学系により2つの2回回折光を干渉させた干渉光を受光して干渉信号を検出する受光部とを備え、
前記照射受光光学系は、前記発光部により発光された可干渉光を集光する第1の結像素子を備えると共に、前記回折格子で回折された2回回折光を前記受光部に結像する第2の結像素子を備え、
前記反射光学系は、前記回折格子により回折させて生じさせた2つの1回回折光の一方を反射して、前記回折格子に照射する一方の反射器と前記回折格子の間に第3の結像素子を備えると共に、2つの1回回折光の他方を反射して、前記回折格子に照射する他方の反射器と前記回折格子の間に第4の結像素子を備え、
前記第3の結像素子と前記第4の結像素子の焦点距離が等しく、かつ、前記回折格子を前記第3の結像素子及び前記第4の結像素子の一方の焦点位置に配置し、一方の前記反射器を前記第3の結像素子の他方の焦点位置に配置し、他方の前記反射器を前記第4の結像素子の他方の焦点位置に配置した光学式変位測定装置。」

(b)「【0001】
本発明は、工作機械や半導体製造装置等の可動部分の相対移動位置を検出する光学式変位測定装置に関する。詳しくは、回折格子で回折された2つの回折光を再度回折格子に照射する反射光学系で、それぞれの反射光学系で結像素子の焦点距離を等しくすると共に、結像素子の焦点位置付近に回折格子と反射器を配置することで、移動位置検出方向以外への回折格子の変位の影響を抑えるものである。」

(c)「【0064】
偏光ビームスプリッタ22で反射した一方の可干渉光La1はS偏光の光で、反射器23により反射され、回折格子11Tの格子面11a上の所定の点Pに照射される。そして、この所定の点Pに照射された一方の可干渉光La1が回折され、回折格子11Tを透過した1回回折光Lb1が生じる。この1回回折光Lb1は、この所定の点Pから発生する。
【0065】
回折格子11Tで発生した1回回折光Lb1は、反射光学系16で第3の結像素子27を通過して集光され、1/4波長板28を通過して反射器26に結像される。反射器26に結像された1回回折光Lb1は、反射器26により反射面に対して垂直に反射され、再び1/4波長板28を通過し、第3の結像素子27でコリメートされ、回折格子11Tの格子面11a上の所定の点Pに照射される。
【0066】
そして、この所定の点Pに照射された1回回折光Lb1が回折され、回折格子11Tを透過した2回回折光Lc1が生じる。この2回回折光Lc1は、可干渉光La1と同一の光路を戻り、偏光ビームスプリッタ22に入射する。
【0067】
偏光ビームスプリッタ22を透過した他方の可干渉光La2はP偏光の光で、反射器24により反射され、回折格子11Tの格子面11a上において、一方の可干渉光La1の照射位置と同じ所定の点Pに照射される。そして、この所定の点Pに照射された他方の可干渉光La2が回折され、回折格子11Tを透過した1回回折光Lb2が生じる。この1回回折光Lb2は、この所定の点Pから発生する。
【0068】
回折格子11Tで発生した1回回折光Lb2は、反射光学系17で第4の結像素子30を通過して集光され、1/4波長板31を通過して反射器29に結像される。反射器29に結像された1回回折光Lb2は、反射器29により反射面に対して垂直に反射され、再び1/4波長板31を通過し、第4の結像素子30でコリメートされ、回折格子11Tの格子面11a上の所定の点Pに照射される。
【0069】
そして、この所定の点Pに照射された1回回折光Lb2が回折され、回折格子11Tを透過した2回回折光Lc2が生じる。この2回回折光Lc2は、可干渉光La2と同一の光路を戻り、偏光ビームスプリッタ22に入射する。」

(ア)刊行物7の「1回回折光Lb1は、この所定の点Pから発生する」(【0064】)、「反射器26に結像された1回回折光Lb1は、反射器26により反射面に対して垂直に反射され、・・・(略)・・・回折格子11Tの格子面11a上の所定の点Pに照射される」(【0065】)、「1回回折光Lb2は、この所定の点Pから発生する」(【0067】)、「反射器29に結像された1回回折光Lb2は、反射器29により反射面に対して垂直に反射され、・・・(略)・・・回折格子11Tの格子面11a上の所定の点Pに照射される」(【0068】)という記載から、刊行物7には、「2つの1回回折光が発生する回折格子上の点と、反射された2つの第1回回折光が照射される回折格子上の点とが同じである」ことが記載されているといえる。

したがって、上記の刊行物7に記載された事項と上記(ア)とを総合すると、刊行物7には以下の技術が記載されている(以下、「刊行物7に記載の技術」という。)。

「可干渉光が照射され、この可干渉光に対して格子ベクトルに平行な方向に相対移動し、この可干渉光を回折する回折格子と、
可干渉光を発光する発光部と、
前記発光部により発光された可干渉光を2つの可干渉光に分割して、前記回折格子に各可干渉光を照射し、2つの1回回折光を生じさせると共に、2つの1回回折光を前記回折格子により回折させて生じさせた2つの2回回折光を干渉させる照射受光光学系と、
2つの可干渉光を前記回折格子により回折させて生じさせた2つの1回回折光をそれぞれ反射して、前記回折格子に2つの1回回折光を照射する反射光学系と、
前記照射受光光学系により2つの2回回折光を干渉させた干渉光を受光して干渉信号を検出する受光部とを備え、
前記照射受光光学系は、前記発光部により発光された可干渉光を集光する第1の結像素子を備えると共に、前記回折格子で回折された2回回折光を前記受光部に結像する第2の結像素子を備え、
前記反射光学系は、前記回折格子により回折させて生じさせた2つの1回回折光の一方を反射して、前記回折格子に照射する一方の反射器と前記回折格子の間に第3の結像素子を備えると共に、2つの1回回折光の他方を反射して、前記回折格子に照射する他方の反射器と前記回折格子の間に第4の結像素子を備え、
前記第3の結像素子と前記第4の結像素子の焦点距離が等しく、かつ、前記回折格子を前記第3の結像素子及び前記第4の結像素子の一方の焦点位置に配置し、一方の前記反射器を前記第3の結像素子の他方の焦点位置に配置し、他方の前記反射器を前記第4の結像素子の他方の焦点位置に配置した光学式変位測定装置であって、
2つの1回回折光が発生する回折格子上の点と、反射された2つの第1回回折光が照射される回折格子上の点とが同じである、
光学式変位測定装置。」

(2)対比・判断
ア 平成28年 8月26日付け当審拒絶理由で引用された刊行物1と原査定の理由で引用された刊行物1とは、同一の刊行物であるところ、本願発明と引用発明とは、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示したとおりの一致点および相違点を有する。

イ 上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点1について検討する。

ウ 引用発明は、再帰光が回折格子へ入射する位置が、コーナーキューブへ入射する回折光を生成している回折格子上の位置に対して、回折格子の短手方向にシフトされる、すなわち、回折格子の周期方向と直交する方向に変位させるものであって、回折格子の周期方向に変位させるものではない。また、刊行物3、5ないし7に記載の技術は、いずれも「前記第1回折光が生じた位置に対して前記回折格子の周期方向上に変位させた前記回折格子上の位置に前記第1回折光を再入射させる」構成に関するものではなく、当該構成は周知技術であるともいえないため、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点1に係る本願発明の構成は、当業者が引用発明、刊行物3、5ないし7に記載された事項および周知技術から容易に想到できたものとはいえない。

エ したがって、上記「第3」の「2(2)対比」の「オ」において示した相違点2について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明、刊行物3、5ないし7に記載された事項および周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。

(3)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明、刊行物3、5ないし7に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるから、本願の請求項2および3に係る発明は、本願発明と同様に、当業者が引用発明、刊行物3、5ないし7に記載された事項および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
そうすると、もはや、平成28年 8月26日付け当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由および当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2011-106684(P2011-106684)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 久  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 高橋 克
清水 稔
発明の名称 変位検出装置  
代理人 特許業務法人信友国際特許事務所  

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