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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G09G
管理番号 1323323
審判番号 不服2015-20949  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-25 
確定日 2017-01-05 
事件の表示 特願2013-518020「表示システムおよびその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日国際公開、WO2012/165302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
特許出願: 平成24年5月24日
(優先権主張(平成23年5月27日(以下、「優先日」という。))を伴う国際出願)
拒絶査定: 平成27年8月14日(送達日:同年同月25日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成27年11月25日
手続補正: 平成27年11月25日
拒絶理由通知: 平成28年8月17日
(以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月23日)
手続補正: 平成28年10月13日(以下、「本件補正」という。)
意見書: 平成28年10月13日(以下、「本件意見書」という。)


2.本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「走査処理を行って画像信号に基づく画像を表示素子にて表示する表示モジュールと、
該表示モジュールを制御する表示制御装置と、
該表示制御装置に前記画像信号を転送する本体装置とを備えた表示システムであって、
前記表示制御装置は、前記画像信号を受信しなくなったときに、前記画像信号の前記表示モジュールへの転送を停止し、前記走査処理の休止を前記表示モジュールに指示するものであり、
前記表示モジュールは、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されているフレーム期間では、転送された前記画像信号の走査処理を行い、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されていないフレーム期間では、前記走査処理を休止し、
前記本体装置は、前記走査処理を行う走査期間と、前記走査処理を休止する休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における前記走査期間および前記休止期間の和が所定の期間となるように、前記表示制御装置に前記画像信号を転送することを特徴とする表示システム。」(以下、「本願発明」という。)


3.当審拒絶理由
これに対し、当審拒絶理由における理由3の概要は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-35195号公報(発明の名称:表示制御装置、出願人:キヤノン株式会社、公開日:平成5年2月12日、以下、「引用例」という。)に記載された発明、及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。


4.引用例記載の事項・引用発明
(1)記載事項
引用例には、次の事項(a)ないし(e)が図面とともに記載されている。(下線は当審が付した。以下同様。)

(a)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表示制御装置に関し、詳しくは、例えば強誘電性液晶を表示更新のための動作媒体として用い電界の印加等によって更新された表示状態を保持可能な表示素子を具えた表示装置のための表示制御装置に関する。」

(b)
「【0003】この点を補うものとして液晶表示器(以下、LCDという)を用いることができる。すなわち、LCDによれば、表示装置全体の小型化(特に薄型化)を図ることができる。このようなLCDの中には、強誘電性液晶(以下、FLC:Ferroelectric Liquid Crystalという)の液晶セルを用いた表示器(以下、FLCD:FLCディスプレイという)があり、その特長の1つは、その液晶セルが電界の印加に対して表示状態の保存性を有することにある。そのため、FLCDを駆動する場合には、CRTや他の液晶表示器と異なり、表示画面の連続的なリフレッシュ駆動の周期に時間的な余裕ができ、また、その連続的なリフレッシュ駆動とは別に、表示画面上の変更に当たる部分のみの表示状態を更新する部分書き換え駆動が可能となる。したがって、このようなFLCDは他の液晶表示器と比較して大画面の表示器とすることができる。」

(c)
「【0006】
【課題を解決するための手段】そのために、本発明は、更新された表示状態を保持可能な表示素子の複数が配列される表示画面を具えた表示装置のための表示制御装置において、表示データ供給源からの表示データの供給を監視する監視手段を具備し、該監視手段は、当該供給が所定時間以上途絶えたときに前記表示装置における表示素子の駆動を停止させることを特徴とする。

・・・

【0009】(1)第1実施例
(1.1)概要
図1は本発明の第1実施例の概要を示す説明図である。ここで、FLC素子を用いて構成した表示器(FLCパネル)1に対してホスト装置をなす表示データ供給手段(例えば図2のような情報処理システムを用いることができるが、これに限られるものではない)2は、データ表示,消去,更新等にあたってビデオメモリ3をアクセスする。表示駆動制御手段4では、ビデオメモリ3の内容について、表示器駆動手段5を介しFLCパネル1を駆動(部分書換えまたはリフレッシュ)する。本例の特徴の一つは、アクセス監視手段6を設けて表示データ供給手段2によるビデオメモリ3の非アクセス時間を監視し、ある時間以上のアクセスがなければ、すなわち現在の表示内容に変更がなければ表示駆動制御手段4により表示器駆動手段5に対しFLCパネル1の駆動を禁止させることである。FLC素子は、前述のように、駆動を停止しても一方の配向状態を保持しているので、FLCパネル1上での表示データの消失等の不都合は生じず、いわゆるバックライト等の光源さえ確保されていればオペレータの視認性も損われることはない。
【0010】そのようにFLCパネル1の駆動を停止する状態(以下その状態をスタティックモードという)を得ることで、連続的駆動によるFLC素子の劣化を遅らせ、FLCパネルの長寿命化を達成でき、かつ消費電力を低減できる訳である。また、スタティックモードではリフレッシュによるちらつき等も生じないために、オペレータの目の疲労度も低下できることが期待される。」

(d)
「【0036】さらに、269は制御部であり、タイマ46が発生する上記タイムアップ信号Dをスタティックモード指示信号STとして入力し、当該入力時にはコモン駆動部263およびセグメント駆動部265に対しFLCパネルの駆動を停止させる。この駆動停止のためには種々の方式が考えられるが、例えば両駆動部に対しその出力電圧を一定値に保持させるようにすることができる。この場合コモンラインとセグメントラインとの間に電位差が無くなるので、FLC素子は駆動されず、従って本発明の主目的である長寿命化が達成できる。また、そのときの出力電圧を低いものとすれば、省電力化が達成できる。そして、このように駆動を止めても、FLC素子の特性により配向状態には変化が生じないので、表示機能が阻害されることはない。むしろ、非駆動状態とすることで表示の更新(リフレッシュ)も行われないために、ちらつきのない表示状態が得られることになる。

・・・

【0038】ここで、ステップS1の条件判別としては種々の態様が考えられる。例えば、システムに時間変更を指示するためのボリウム,スイッチ等が設けられていればそれらの操作に応じて、あるいは所定のキー操作を受容可能であれば当該操作に応じて、その操作状態を判別するものとすることができる。また、アプリケーションによっても表示内容の更新の頻度は異なることから、現在使用しているアプリケーションを判別するものとすることもできる。さらに、カーソル移動などのグラフィックイベントを判別するものであってもよい。加えて、オペレータの習熟度によっても表示内容の更新のためのキー操作,マウス操作の速度が異なることから、表示更新のインターバル等を判別するなどしてもよい。あるいは、以上の組合せを採ることも可能である。」

(e)
「【0044】(2)第2実施例
上記第1実施例においては、スタティックモード移行を指示する信号STをFLCDに対して送出することによりスタティックモードを取るようにしたが、本例ではFLCDインタフェースが水平同期信号HSYNCをFLCDに向けて送出するようにするとともに、当該HSYNC信号を用いてスタティックモードへの移行が行われるようにする。すなわち、本例におけるFLCDはホストないしFLCDインタフェースに対して公知のLCDやCRTと同様HSYNC信号を受取って動作する受動デバイスとして機能させ、その機能の一部を用いてFLCパネルの非駆動状態が得られるようにする。
【0045】図9は本例におけるFLCDインタフェースの構成を示し、ここで図3と同様に構成できる各部については対応箇所に同一符号を付してある。
【0046】本例における同期制御回路139は、図3の同期制御回路39とほぼ同様のものであるが、さらにHSYNC信号を発生するための発振器,分周器等を具備し、当該HSYNC信号をドライバ142を介してFLCD126に供給する。そして、タイマ46が発生するタイムアップ信号Dに応じ、HSYNC信号の供給を停止するように構成されている。このHSYNC信号停止のためには、信号Dに応じてHSYNC信号が消勢されるような論理ゲートを付加すればよい。
【0047】図10は本例におけるFLCD126の構成例を示し、FLCパネル261,コモン駆動部263およびセグメント駆動部265については第1実施例の図5におけるものと同一の構成である。データ変換部1267および制御部1269もそれぞれ図5における各部267および269と同様であるが、本例のデータ変換部1267はFLCDインタフェース側から供給されるHSYNC信号に応じて表示データ信号のAddress信号部とData信号との振分け動作を行う。また、制御部1269は、HSYNC信号の供給が停止したときにコモン駆動部263およびセグメント駆動部265に対しFLCパネル261に駆動を停止させる。これによりスタティックモードに移行する。
【0048】本例においても、スタティックモード移行までの時間はタイマ46にセットする時間を変更することにより可変とすることができる。そして、タイマ46への時間設定は、図6に関して述べたと同様に実行することができる。
【0049】図11および図12は、それぞれ、本例でのスタティックモードでの動作を説明するためのフローチャートおよびタイミングチャートである。すなわち、CPU11から表示領域内へのアクセスがある場合には(動作OP11)、前回のアクセス時からの計時動作の停止、現在からの計時開始、およびスタティックモード移行のための信号Dの消勢、およびHSYNC発生再開を行う(動作OP13)。
【0050】逆に、アクセスがなければ計時動作を続行させる(動作OP15)。そして図6のステップS3と同様に設定された時間Tが経過した場合には(動作OP17)、スタティックモードへの移行のための信号Dを付勢して、HSYNC信号の発生を停止させる(動作OP19)。
【0051】これらの動作は具体的には図9におけるメモリコントローラ40,タイマ46、および同期制御回路139の動作として行われるものである。すなわち、メモリコントローラ40はCPU11によるビデオメモリ41のアクセスをタイマ46に通知し、タイマ46は当該通知に応じて計時している時間のリセットおよび計時動作のリスタートを行い、設定時間のタイムアップとともにこれを信号Dとして同期制御回路139に通知する。同期制御回路139ではこれに応じてHSYNC信号のFLCD126への供給を停止し、さらにこれに伴ってFLCパネル26の駆動が停止される。そして、スタティックモードであってもCPU11によるビデオメモリ41のアクセスがあれば、タイマのリセット/リスタートが行われて信号Dが消勢され、HSYNC信号の供給が再開されてFLCD26のスタティックモードが解除されるのは勿論である。」

(2)引用発明
前記記載(a)ないし(e)、及び図9ないし12の内容を総合勘案すると、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「水平同期信号HSYNCを受取って動作するFLCディスプレイ126と、
FLCDインタフェースと、
CPU11とを備えた表示装置であって、
前記FLCDインタフェースは、CPU11から表示領域内へのアクセスがなく設定された時間Tが経過した場合には、HSYNC信号の発生を停止させるものであり、
前記FLCディスプレイ126は、CPU11によるビデオメモリ41のアクセスがタイマ46に通知され、設定時間のタイムアップに応じてHSYNC信号のFLCディスプレイ126への供給が停止され、さらにこれに伴ってFLCパネル26の駆動が停止され、そして、CPU11によるビデオメモリ41のアクセスがあれば、HSYNC信号の供給が再開される、表示装置。」(以下、「引用発明」という。)

5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明における「水平同期信号HSYNCを受取って動作するFLCディスプレイ126」は、走査処理を行って画像信号に基づく画像を表示素子で表示するものであることは明らかであるから、本願発明における「走査処理を行って画像信号に基づく画像を表示素子にて表示する表示モジュール」に相当するといえる。
また、引用発明における「FLCDインタフェース」及び「CPU11とを備えた表示装置」は、それぞれ本願発明における「該表示モジュールを制御する表示制御装置」及び「該表示制御装置に前記画像信号を転送する本体装置とを備えた表示システム」に相当する。
引用発明において、「CPU11から表示領域内へのアクセスがなく設定された時間Tが経過した場合」とは、CPU11から画像信号を受信しなくなった状態であり、その状態では画像信号のFLCディスプレイ126への転送が停止されていることも明らかといえる。そうすると、引用発明において「前記FLCDインタフェースは、CPU11から表示領域内へのアクセスがなく設定された時間Tが経過した場合には、HSYNC信号の発生を停止させるものであ」ることは、本願発明における「前記表示制御装置は、前記画像信号を受信しなくなったときに、前記画像信号の前記表示モジュールへの転送を停止し、前記走査処理の休止を前記表示モジュールに指示するものであ」ることに相当する。
また、引用発明は「CPU11によるビデオメモリ41のアクセス」、すなわち画像信号の転送があれば「HSYNC信号の供給が再開」、すなわち画像信号の走査処理が行われ、逆に前記アクセスの設定時間のタイムアップに応じて(すなわち、転送が一定時間無ければ)「HSYNC信号のFLCディスプレイ126への供給が停止され」るのであるから、「前記走査処理を休止」しているといえる。したがって、引用発明における「前記FLCディスプレイ126は、CPU11によるビデオメモリ41のアクセスがタイマ46に通知され、設定時間のタイムアップに応じてHSYNC信号のFLCディスプレイ126への供給が停止され、さらにこれに伴ってFLCパネル26の駆動が停止され、そして、CPU11によるビデオメモリ41のアクセスがあれば、HSYNC信号の供給が再開される」点と、本願発明における「前記表示モジュールは、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されているフレーム期間では、転送された前記画像信号の走査処理を行い、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されていないフレーム期間では、前記走査処理を休止」する点とは、「前記表示モジュールは、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されている期間では、転送された前記画像信号の走査処理を行い、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されていない期間では、前記走査処理を休止」する点で共通する。

してみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

(一致点)
「走査処理を行って画像信号に基づく画像を表示素子にて表示する表示モジュールと、
該表示モジュールを制御する表示制御装置と、
該表示制御装置に前記画像信号を転送する本体装置とを備えた表示システムであって、
前記表示制御装置は、前記画像信号を受信しなくなったときに、前記画像信号の前記表示モジュールへの転送を停止し、前記走査処理の休止を前記表示モジュールに指示するものであり、
前記表示モジュールは、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されている期間では、転送された前記画像信号の走査処理を行い、前記表示制御装置から前記画像信号が転送されていない期間では、前記走査処理を休止することを特徴とする表示システム。」

(相違点)
相違点1
本願発明においては「前記本体装置は、前記走査処理を行う走査期間と、前記走査処理を休止する休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における前記走査期間および前記休止期間の和が所定の期間となるように、前記表示制御装置に前記画像信号を転送する」とされているのに対し、引用発明においてはそのような特定は無い点。

相違点2
本願発明においては、走査処理の実行、休止がいずれも「フレーム期間」で行われているのに対し、引用発明においては走査処理の実行、休止が「フレーム期間」で行われているか否かは不明である点。


6.判断
上記相違点1ないし2についてそれぞれ検討する。
当審拒絶理由において引用刊行物2として例示された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-312253号公報(以下、「周知例」という。)には、図1と共に下記のように記載されている。

(a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マトリクス型の表示装置の低消費電力化に関するものである。」

(b)
「【0079】また、コントロールIC5の内部には、ゲートスタートパルス信号GSPのパルス間隔の設定を行うGSP変換回路7が備えられている。ゲートスタートパルス信号GSPのパルス間隔は、表示のフレーム周波数が通常の60Hzである場合は約16.7msecである。GSP変換回路7は、例えばこのゲートスタートパルス信号GSPのパルス間隔を167msecと長くすることができる。1画面の走査期間T1が通常のままであるとすると、上記のパルス間隔のうち約9/10は全走査信号線を非走査状態とする期間となる。このように、GSP変換回路7では、走査期間T1が終了した後に再びゲートスタートパルス信号GSPがゲートドライバ3に入力されるまでの非走査期間が、走査期間T1より長くなるように設定することができる。この走査期間T1より長い非走査期間を休止期間T2と呼ぶことにする。非走査期間として休止期間T2を設定した場合の、走査信号線G1 ?Gn に供給する走査信号の波形を図1に示す。同図においてn=4としたとき、従来の図17に示す走査信号の波形と比較して、非走査期間が垂直帰線期間に代わって走査期間T1より長い休止期間T2に設定され、フレームやフィールドを表す垂直周期が長くなっていることが分かる。
【0080】GSP変換回路7で非走査期間として休止期間T2を設定すると、1垂直期間は走査期間T1と休止期間T2との和になる。例えば走査期間T1を通常の60Hz相当の時間に設定すると、それよりも長い休止期間T2が存在するために、垂直周波数が30Hzより低い周波数となる。走査期間T1と非走査期間とは、静止画や動画など表示したい画像における動きの程度に応じて適宜設定すればよく、GSP変換回路7では画像の内容に応じて複数の非走査期間を設定することができるようになっている。そして、非走査期間の少なくとも1つは休止期間T2となっている。同図では、GSP変換回路7が外部から入力される非走査期間設定信号M1・M2に応じて非走査期間の設定を変えるようになっている。非走査期間設定信号の数は任意でよいが、例えばこの2種類の非走査期間設定信号M1・M2が論理信号であれば、非走査期間を4通りに設定することができる。
【0081】休止期間T2を設けることにより、画面を書き換える回数、すなわちソースドライバ4から出力するデータ信号の供給周波数を減少させることができるので、画素を充電する電力を削減することができる。従って、液晶表示装置1が明るさ、コントラスト、応答速度、階調性などの基本的な表示品位を確保することのできるアクティブマトリクス型の液晶表示装置である場合に、非走査期間として休止期間T2を設定すれば、データ信号の供給周波数に正比例して増加するデータ信号線ドライバの消費電力を、上記表示品位を犠牲にすることなく容易にかつ十分に削減することができる。
【0082】このような理由から、静止画のように画像に動きのない表示や、動画でも画像に動きの少ない表示などに対しては、非走査期間を長い休止期間T2に設定すればよい。また、動きの多い動画に対しては、非走査期間として短い休止期間T2や、休止期間T2よりも短い非走査期間に設定すればよい。例えば16.7msecという走査期間に対して十分短い非走査期間に設定すると、駆動周波数は通常の60Hz相当となるので、十分に速い動画表示が可能になる。これに対し、非走査期間を3333msecという長い休止期間T2に設定すると、静止画や動きの少ない動画に対して、画面を書き換えることによる消費電力を基本的な表示品位を保ったまま削減することができる。すなわち、液晶パネル2を動画ディスプレイと低消費電力ディスプレイとに切り換えて使用することができる。このように、静止画や動画など表示画像の種類に応じて画面を書き換える周期を変化させることができるので、表示画像の種類ごとに最適な低消費電力化を図ることができる。」

相違点1について
周知例にも記載されているように、表示装置において消費電力の低減を図って休止期間を設ける際に、休止期間を走査期間と交互に一定長で繰り返し設けるようにすることは周知技術であって、これを消費電力の低減(引用例の段落【0010】)という同様な課題を有する引用発明に採用することは当業者が容易になし得たものである。そしてその場合、「走査処理を行う走査期間と、前記走査処理を休止する休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における前記走査期間および前記休止期間の和が所定の期間となる」ことは明らかである。

相違点2について
通常、走査処理の実行期間とはフレーム期間そのものである。また、走査期間の休止期間の長さについても、必要に応じて適宜選択されるべきものであって、これをフレーム期間もしくはその倍数とすることも一般に検討されるべき範ちゅうのものに過ぎない。上記周知例においても、
「【0079】・・・ゲートスタートパルス信号GSPのパルス間隔は、表示のフレーム周波数が通常の60Hzである場合は約16.7msecである。GSP変換回路7は、例えばこのゲートスタートパルス信号GSPのパルス間隔を167msecと長くすることができる。1画面の走査期間T1が通常のままであるとすると、上記のパルス間隔のうち約9/10は全走査信号線を非走査状態とする期間となる。・・・」
とされており、非走査状態とする期間(休止期間)は走査期間T1(実行期間)、すなわちフレーム期間の9倍とされている。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測可能なものであって、格別のものではない。

したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。


7.請求人の主張について
審判請求人は、本件意見書において、概略、以下のように主張しているので、検討する。
(1)請求人の主張の概要
「2.2.理由3(特許法第29条第2項違反)に対する意見
(1)本願請求項に係る発明の特定
独立新請求項1・16に係る発明(本願発明)は、下記の特徴点(a)?(c)を有しています。

〔特徴点〕
(a)本体装置は、表示モジュールが走査処理を行う走査期間と、上記表示モジュールが上記走査処理を休止する休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における上記走査期間および上記休止期間の和が所定の期間となるように、表示制御装置に画像信号を転送する点。
(b)上記表示制御装置は、上記画像信号を受信しなくなったときに、上記画像信号の上記表示モジュールへの転送を停止し、上記走査処理の休止を上記表示モジュールに指示する点。
(c)上記表示モジュールは、上記表示制御装置から上記画像信号が転送されているフレーム期間では、転送された上記画像信号の走査処理を行い、上記表示制御装置から上記画像信号が転送されていないフレーム期間では、上記走査処理を休止する点。

(2)本願発明と引用刊行物に記載の発明との対比
(2-1)これに対し、上記拒絶理由通知では、上記引用例を用いて下記のように指摘されています(下線強調)。
「引用例(…)には、表示データ供給源からの表示データの供給が所定時間以上途絶えたときに表示装置における表示素子の駆動を停止させるようにした液晶表示器の表示制御装置が記載されている。」

一方、本願発明では、上記特徴点(b)のように、表示制御装置は、本体装置から画像信号を受信しなくなったときに、走査処理の休止を前記表示モジュールに指示すればよく、引用例のように、画像信号を所定時間以上受信していないかを判断する必要がありません。これは、上記表示制御装置に画像信号を転送する上記本体装置が上記特徴点(a)を有することに由来します。
さらに、引用例では、上記表示データの供給が途絶えてから所定時間は、上記表示素子が駆動されることになり、上記画像信号が転送されない期間に走査処理を休止する本願発明の上記特徴点(c)とは本質的に相違します。

(2-2)また、上記拒絶理由通知では、上記周知例を用いて下記のように指摘されています。
「周知例(…)にも記載されているように、液晶表示装置において消費電力の低減を図って休止期間を設ける際に、休止期間を走査期間と交互に一定長で繰り返し設けるようにすることは周知な手法であって、これを引用例に記載の発明に採用することは当業者が容易になし得たものである。そしてその場合、「走査処理を行う走査期間と、前記走査処理を休止する休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における前記走査期間および前記休止期間の和が所定の期間となる」ことは明らかである。」

一方、本願発明では、上記特徴点(c)のように、上記走査処理を行う走査期間と、上記走査処理を休止する休止期間とのそれぞれが、1または複数のフレーム期間となっています。
これに対し、周知例では、休止期間T2は「走査期間T1…よりも長い」ことが開示されていますが、1または複数のフレーム期間であることは開示も示唆もなされておりません。
従って、1または複数のフレーム期間である走査期間と、1または複数のフレーム期間である休止期間とが周期的に発生し、かつ、1周期における上記走査期間および上記休止期間の和が所定の期間となるように表示モジュールを制御するように構成することは、引用例および周知例に開示も示唆もなされておらず、当業者といえども到底想到し得ることではないと考えます。さらに、本願発明は、この構成を採用することにより、「走査処理の回数が低減しており、その結果、消費電力を低減できる」と共に(本願の当初明細書の段落[0061])、周期的なタイミングで走査処理の開始および休止を行うことができるので、「表示用信号の受信や、走査処理の実行を失敗することを回避できる」(上記明細書の段落[0094]・[0095])という格別な作用効果を奏します。

以上のように、本願発明は、引用発明に基づいて容易に発明をすることができた発明ではなく、引用発明では得られない特有の効果を奏するものです。それゆえ、本願発明は、十分に進歩性の要件を満たしていると考えます。」

(2)検討
まず、請求人は、
「本願発明では、・・・本体装置から画像信号を受信しなくなったときに、走査処理の休止を前記表示モジュールに指示すればよく、引用例のように、画像信号を所定時間以上受信していないかを判断する必要がありません。・・・さらに、引用例では、上記表示データの供給が途絶えてから所定時間は、上記表示素子が駆動されることになり、・・・本願発明の上記特徴点(c)とは本質的に相違します。」
と主張している。しかしながら、引用例には
「【0006】
・・・表示データ供給源からの表示データの供給を監視する監視手段を具備し、該監視手段は、当該供給が所定時間以上途絶えたときに前記表示装置における表示素子の駆動を停止させることを特徴とする。」
と記載されており、引用発明が「CPU11から表示領域内へのアクセスがなく設定された時間Tが経過した場合」をもって「表示データ供給源からの表示データの供給」が途絶えたこと、すなわち画像信号を受信しなくなったことを判定しているものであることは明らかといえる。そうすると、引用発明は「前記表示制御装置は、前記画像信号を受信しなくなったときに、前記画像信号の前記表示モジュールへの転送を停止し、前記走査処理の休止を前記表示モジュールに指示するもの」であり、請求人の上記主張は採用できない。
なお、本願明細書においては、どのようにして「本体装置から画像信号を受信しなくなったとき」を判定するのかに関する記載はなく、「所定時間」なしで該判定を実現する方法は不明である。

次に、請求人は、
「・・・周知例では、休止期間T2は「走査期間T1…よりも長い」ことが開示されていますが、1または複数のフレーム期間であることは開示も示唆もなされておりません。従って、・・・当業者といえども到底想到し得ることではないと考えます。」
と主張している。しかしながら、上記「6.判断」の「相違点2について」で述べたように、走査処理の実行期間とはフレーム期間そのものであり、走査期間の休止期間の長さは必要に応じて適宜選択されるべきものであって、これをフレーム期間もしくはその倍数とすることも一般に検討されるべき範ちゅうのものに過ぎないのであるから、請求人の上記主張は採用できない。


8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は当審拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-02 
結審通知日 2016-11-08 
審決日 2016-11-21 
出願番号 特願2013-518020(P2013-518020)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 直明  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 大和田 有軌
中塚 直樹
発明の名称 表示システムおよびその制御方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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