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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16H 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H |
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管理番号 | 1323331 |
審判番号 | 不服2016-4975 |
総通号数 | 206 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-02-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-04-05 |
確定日 | 2017-01-24 |
事件の表示 | 特願2011-148154「デュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載した車両」拒絶査定不服審判事件〔平成25年1月24日出願公開、特開2013-15184、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年7月4日の出願であって、平成27年5月29日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月3日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされたが、同年12月24日付けで拒絶査定がされ(発送日:平成28年1月5日)、これに対し、平成28年4月5日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされ、同年7月12日に上申書が提出され、その後、当審において同年11月14日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年11月21日付けで手続補正書の提出がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年11月21日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1ないし3に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、 動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、 前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記発進段よりも一段以上高い歯車比を有した補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させると共に、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させ、 前記第1クラッチと前記第2クラッチとを半結合に維持した状態で、前記第2クラッチへ入力される回転数から、前記第2クラッチから出力される前記第2入力軸の回転数を減じて得られた回転数の差が予め定めた正の閾値よりも下回ったときに、前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合することを特徴とするデュアルクラッチ式変速機の制御方法。 【請求項2】 少なくとも第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、 動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合して動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機において、 前記発進段よりも一段以上高い歯車比を有している補助段と、前記第2クラッチへ入力される回転数を検出する入力回転数センサと、前記第2クラッチから出力される前記第2入力軸の回転数を検出する出力回転数センサと、制御装置とを備え、 前記制御装置に、前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させる手段と、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させる手段と、 前記第1クラッチと前記第2クラッチとを半結合に維持した状態で、前記第2クラッチへ入力される回転数から、前記第2クラッチから出力される前記第2入力軸の回転数を減じて得られた回転数の差の値が予め定めた正の閾値よりも下回るか否かを判断する手段と、 前記回転数の差の値が前記閾値よりも下回った場合に前記第1クラッチを前記第1入力軸から切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する手段とを備えることを特徴とするデュアルクラッチ式変速機。 【請求項3】 請求項2に記載のデュアルクラッチ式変速機を搭載した車両。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 本願発明1ないし3は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開2011-112174号公報 刊行物2:特表2008-513697号公報(周知技術を示す文献) (1)本願発明1について 刊行物1に記載された発明において、車速センサ22が検出している回転数は、第2歯車機構8bによって変速された第2クラッチ4bの回転数に他ならない。この点は、刊行物1の段落【0029】の記載からも明らかである。 そして、デュアルクラッチ式変速機において、クラッチへ入力される回転数とクラッチから出力される入力軸の回転数とを検出するようにすることが、従来周知の技術であることを鑑みれば(周知技術を示す刊行物2の段落【0003】、図2を参照のこと。)、刊行物1に記載された発明において、第2クラッチ4bの回転数を検出するために、第2クラッチ4bの出力側に回転数を検知するセンサを設けるようにすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。 (2)本願発明2について 上記本願発明1に対する判断を参照のこと。 (3)本願発明3について 刊行物1には、デュアルクラッチ式変速機を搭載した車両が記載されている。 2 原査定の理由の判断 (1)刊行物 原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物1には、「車両用変速機制御装置」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。 ア 「【0017】 以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。 まず第1実施形態について説明する。 図1は、本発明の実施形態に係る車両用変速機制御装置を備えた車両について駆動力の伝達経路を表すブロック図の形で示す全体構成図である。 図1に示すように車両1は、走行用の動力源であるエンジン2を搭載しており、エンジン2が出力する回転駆動力(以下、単に駆動力という)はクラッチユニット4に入力軸6を介して入力され、クラッチユニット4内で2系統に分岐される。クラッチユニット4は第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの2つのクラッチを有しており、クラッチユニット4内で2系統に分岐されたエンジン2の駆動力の一方は第1クラッチ4aの入力側に伝達され、他方は第2クラッチ4bの入力側に伝達されるようになっている。 【0018】 変速機ユニット8は、第1クラッチ4aに対応して設けられ、前進用の変速段として第1速、第3速、及び第5速の各変速段を有した第1歯車機構8aと、第2クラッチ4bに対応して設けられ、前進用の変速段として第2速、第4速、及び第6速の各変速段を有した第2歯車機構8bとを備える。即ち、第1クラッチ4aの出力側は第1歯車機構8aの入力軸に連結され、第2クラッチ4bの出力側は第2歯車機構8bの入力軸に連結されている。当該第1歯車機構8a及び第2歯車機構8bには、図示しないシンクロ機構が設けられており、当該シンクロ機構によりそれぞれの歯車機構における複数の変速段のうち1つを選択可能である。 【0019】 第1歯車機構8aから出力される駆動力、及び第2歯車機構8bから出力される駆動力は、いずれも共通の出力軸10を介してデファレンシャル装置12に伝達され、左右の駆動輪14、14に割り振られるようになっている。したがって、クラッチユニット4及び変速機ユニット8により、いわゆるデュアルクラッチトランスミッション(DCT)16が構成されている。 【0020】 なお、当該変速機ユニット8は、第1速の変速段が最低速変速段となり、第6速の変速段が最高速変速段となっている。更に、図1の全体構成図では、車両後退用の歯車機構の図示を省略している。 車両1には、車両1に搭載された各種装置を制御する車両ECU(制御手段)18が設けられており、上記DCT16も当該車両ECU18により制御される。」 イ 「【0022】 (省略) また車両1には、上記入力軸6の回転数に基づきエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ20、上記出力軸10の回転数に基づき車速を検出する車速センサ22、車両1のアクセル踏込量に応じたアクセル開度を検出するアクセル開度センサ24、車両1に作用する加速度を検出するGセンサ26等の各種センサが設けられている。これら各種センサは車両ECU18と接続されており、当該各種センサからの検出情報や、エンジン2、クラッチユニット4、変速機ユニット8の駆動状態等は車両ECU18に入力される。 【0023】 当該第1実施形態の場合、DCT16が搭載されている車両1は大型トラックであって、平地における発進用変速段は、第2歯車機構8bが有する第2速の変速段が使用されるよう設定されている。一方で、当該第1実施形態では、上記発進用変速段よりも1段高速側である第1歯車機構8aが有する第3速の変速段を上記発進用変速段での発進を補助する発進補助用変速段として使用するよう設定されている。そして、車両ECU18は、車両1が停車状態から発進する際に、上記DCT16について車両発進制御を行う。」 ウ 「【0024】 以下、第1実施形態における車両発進制御について詳しく説明する。 当該第1実施形態における発進制御では、車両発進時に、発進用変速段(第2速)を有する第2歯車機構8bに対応する第2クラッチ4bを半クラッチ状態とするとともに、発進補助用変速段(第3速)を有する第1歯車機構8aに対応する第1クラッチ4aも半クラッチ状態とし、入力軸6と出力軸10との回転数差が所定範囲内になったときに第1クラッチ4aを切断し、第2クラッチ4bを接続する。 【0025】 詳しくは、図2に当該第1実施形態において車両ECUにより実行される車両発進制御ルーチンを表したフローチャートが示されており、以下当該フローチャートに沿って説明する。 図2のステップS1において、車両ECU18は、車両1が停止しているときに、第1歯車機構8aでは発進補助用変速段である第3速を選択し、第2歯車機構8bでは発進用変速段である第2速を選択する。さらに車両ECU18は、この車両停車時に車両重量、登坂勾配を算出する。これは例えば車両重量はGセンサ26より検出される車両走行中の加速度等から算出し、登坂勾配はエンジン2の駆動状態に対する車両加速度等から算出する。 【0026】 続くステップS2では、車両発進要求があるか否かを判定する。具体的には、変速レンジがDレンジまたはRレンジに入っており、且つアクセル開度センサ24の検出情報からアクセル踏込があったか否かにより判定する。車両発進要求がなく、当該判定結果が偽(No)である場合には、車両発進制御を行う必要はなく当該ルーチンを抜ける。一方、車両発進要求があり、当該判定結果が真(Yes)である場合には、次のステップS3に進む。 【0027】 ステップS3では、上記ステップS1で算出した車両重量及び登坂勾配と、上記ステップS2で検出したアクセル開度から車両1の発進に要する発進負荷を算出する。 そして、ステップS4において、算出された発進負荷が予め設定された所定負荷以上であるか否かを判定する。当該所定負荷は発進用変速段を有する第2歯車機構8bに対応した第2クラッチ4bのみを用いて発進可能な負荷の上限値である。当該判定結果が真(Yes)である場合、即ち積載量が多く車両重量が重い場合や勾配の急な登坂路での停車等で発進負荷が所定負荷以上であり、第2クラッチ4bのみでは車両1の発進が困難である場合は、ステップS5に進む。 【0028】 ステップS5では、発進用変速段を有する第2歯車機構8bに対応した第2クラッチ4b、及び発進補助用変速段を有する第1歯車機構8aに対応した第1クラッチ4aの両クラッチを徐々に接続位置へと移動させていき、エンジン2の駆動力が歯車機構へと伝達開始される、いわゆる半クラッチ状態とする。 そして、ステップS6では、上記エンジン回転数センサ20よりDCT16の入力軸6の回転数、及び上記車速センサ22よりDCT16の出力軸10の回転数をそれぞれ検出する。 【0029】 続くステップS7において、入力軸回転数と出力軸回転数との回転数差(入力軸回転数-出力軸回転数)が所定回転数未満であるか否かを判定する。なお、当該所定回転数は低速側の変速段(当該第1実施形態では第2速)のギヤ比から推定される最終回転数に基づき設定される。低速側の変速段に対応したクラッチが完全に接続位置となったときに出力される最終回転数より一定量低い回転数を閾値回転数として、当該所定回転数は、出力軸回転数が当該閾値回転数よりも最終回転数に近いか否かを判定する値に設定される。 【0030】 当該判定結果が偽(No)である場合、即ちDCT16の入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数の範囲内に達しておらず、両クラッチの移動量にまだ余裕がある場合は、ステップS5に戻り、さらに第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを接続位置へと移動させ、ステップS6において入力軸6及び出力軸10の回転数を算出する。 そして、入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数未満まで接近し、当該判定結果が真(Yes)となった場合、即ち第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bが接続位置に近づくにつれて駆動力の伝達割合が増加し、出力軸10の回転数が第2速のギヤ比を介した最終回転数に近づき、閾値回転数に達した場合には、ステップS8に進む。 【0031】 ステップS8では、半クラッチ状態にあった第1クラッチ4aを切断状態とし、第2クラッチ4bは接続位置まで移動を継続させ、発進制御を終了する。 なお、上記ステップS4において、発進負荷が所定負荷未満であり、判定結果が偽(No)となる場合は、ステップS8に進み第1クラッチ4aは切断状態のまま、第2クラッチ4bのみを接続させて発進を行う。」 エ 「【0033】 また、2つのクラッチを接続位置まで移動させれば、低速変速段(2速)と高速変速段(3速)とでロックが生じDCT16が損傷するおそれがあるのに対し、ステップS7、8においてDCT16における入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数より小となったときに、発進補助用変速段側の第1クラッチ4aを切断することで適切なタイミングでロックを解消することができる。」 これらの記載事項及び及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「第1クラッチ4aと結合する第1歯車機構8aの入力軸と第2クラッチ4bと結合する第2歯車機構8bの入力軸とを備え、前記第1歯車機構8aの入力軸及び第2歯車機構8bの入力軸と、出力軸10との間にそれぞれ第1速、第3速、及び第5速と第2速、第4速、及び第6速の変速段を一段おきに配置し、 エンジン2から前記出力軸10への動力の伝達を開始するときに、発進用の第2速を前記第2歯車機構8bの入力軸にシンクロ機構により選択させると共に、前記第2歯車機構8bの入力軸に前記第2クラッチ4bを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチトランスミッション(DCT)16の制御方法において、 前記エンジン2から前記出力軸10への動力の伝達を開始するときに、前記第2速を前記第2歯車機構8bの入力軸に、前記第2速よりも一段高い歯車比を有した第3速を前記第1歯車機構8aの入力軸に、それぞれシンクロ機構により選択させると共に、前記第1歯車機構8aの入力軸に前記第1クラッチ4aを、前記第2歯車機構8bの入力軸に前記第2クラッチ4bをそれぞれ同時に半クラッチ状態とし、 前記第1クラッチ4aと前記第2クラッチ4bとを半クラッチ状態に維持した状態で、入力軸6と出力軸10との回転数差が、低速側の第2速に対応した前記第2クラッチ4bが完全に接続位置となったときに出力される最終回転数より一定量低い回転数を閾値回転数として、出力軸回転数が当該閾値回転数よりも最終回転数に近いか否かを判定する値に設定される所定回転数未満となった場合、半クラッチ状態にあった前記第1クラッチ4aを切断状態とし、前記第2クラッチ4bは接続位置まで移動するデュアルクラッチトランスミッション(DCT)16の制御方法。」 (2)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、その機能からみて、後者の「第1クラッチ4a」は前者の「第1クラッチ」に相当し、以下同様に、「第1歯車機構8aの入力軸」は「第1入力軸」に、「第2クラッチ4b」は「第2クラッチ」に、「第2歯車機構8bの入力軸」は「第2入力軸」に、「出力軸10」は「出力軸」に、「変速段」は「歯車段」に、「第1速、第3速、及び第5速」は「奇数段」に、「第2速、第4速、及び第6速」は「偶数段」に、「エンジン2」は「動力源」に、「発進用の第2速」は「発進用の歯車段である発進段」に、「第3速」は「補助段」に、「シンクロ機構により選択させる」ことは「同期係合させる」ことに、「デュアルクラッチトランスミッション(DCT)16」は「デュアルクラッチ式変速機」に、「半クラッチ状態」は「半結合」にそれぞれ相当する。 また、後者の「半クラッチ状態にあった前記第1クラッチ4aを切断状態とし、前記第2クラッチ4bは接続位置まで移動する」ことと、前者の「前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する」とは、「前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離し、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する」という限りで共通する。 したがって、両者は、 「第1クラッチと結合する第1入力軸と第2クラッチと結合する第2入力軸とを備え、前記第1入力軸及び前記第2入力軸と、出力軸との間にそれぞれ奇数段と偶数段の歯車段を一段おきに配置し、 動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、発進用の歯車段である発進段を前記第2入力軸に同期係合させると共に、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合させて動力の伝達を開始するデュアルクラッチ式変速機の制御方法において、 前記動力源から前記出力軸への動力の伝達を開始するときに、前記発進段を前記第2入力軸に、前記発進段よりも一段高い歯車比を有した補助段を前記第1入力軸に、それぞれ同期係合させると共に、前記第1入力軸に前記第1クラッチを、前記第2入力軸に前記第2クラッチをそれぞれ同時に半結合させ、 前記第1クラッチと前記第2クラッチとを半結合に維持した状態で、前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離し、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合するデュアルクラッチ式変速機の制御方法。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点〕 本願発明1は、「前記第2クラッチへ入力される回転数から、前記第2クラッチから出力される前記第2入力軸の回転数を減じて得られた回転数の差が予め定めた正の閾値よりも下回ったときに、前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する」のに対し、 引用発明は、「入力軸6と出力軸10との回転数差が、低速側の第2速に対応した前記第2クラッチ4bが完全に接続位置となったときに出力される最終回転数より一定量低い回転数を閾値回転数として、出力軸回転数が当該閾値回転数よりも最終回転数に近いか否かを判定する値に設定される所定回転数未満となった場合、半クラッチ状態にあった前記第1クラッチ4aを切断状態とし、前記第2クラッチ4bは接続位置まで移動する」点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 上記相違点に係る本願発明1の「前記第1入力軸から前記第1クラッチを切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する」との事項は、本願明細書の「第2クラッチC2の入力回転数Ninと、出力回転数Noutとの回転数差ΔNを算出するステップS7を行う。次に、回転数差ΔNが予め定めた閾値である設定値Nlimよりも小さいか否かを判断するステップS8を行う。補助断SG3よりも発進段DG2のギア比が低いため、先に回転数差ΔNが一致してしまう。仮に、この回転数差ΔNの値が0になる、つまり一致すると、第2クラッチC2が滑り出して、余計に摩耗してしまう。」(段落【0041】)との記載、及び「回転数差ΔNは徐々に小さくなる。時間t1で、回転数差ΔNが設定値Nlimを下回り、補助段SG3側の第1クラッチC1を完断し始める。時間t2で、発進段DG2側の第2クラッチC2の完接を開始する。上記の動作からわかるように、従来のDCTに、本発明の制御方法を適用すると、二重噛み合いや片方のクラッチが滑ってしまうことなく、発進段DG2側の第2クラッチC2の負担を低減し、摩耗を抑制することができる。」(段落【0048】ないし段落【0050】)との記載からみて、片方のクラッチが滑り余計に摩耗しないようにするためのものである。 これに対し、引用発明の「半クラッチ状態にあった前記第1クラッチ4aを切断状態とし、前記第2クラッチ4bは接続位置まで移動する」との事項は、刊行物1の「ステップS7、8においてDCT16における入力軸6と出力軸10との回転数差が所定回転数より小となったときに、発進補助用変速段側の第1クラッチ4aを切断することで適切なタイミングでロックを解消することができる」(段落【0033】)との記載からみて、ロックを解消するためのものである。 そして、刊行物1には、第2クラッチ4bの滑りによる摩耗という課題や、第1クラッチ4aの切断と第2クラッチ4bの接続との時間的前後関係についての記載や示唆はない。 そうすると、仮にクラッチへ入力される回転数とクラッチから出力される入力軸の回転数とを検出すること自体が刊行物2によって周知技術であるとしても、引用発明において、当業者が相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到し得たということができない。 ウ 小括 したがって、本願発明1は、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)本願発明2について 本願発明2のデュアルクラッチ式変速機は、「前記回転数の差の値が前記閾値よりも下回った場合に前記第1クラッチを前記第1入力軸から切り離してから、前記第2入力軸に前記第2クラッチを結合する手段とを備える」ものである。 そうすると、本願発明2は、前記(2)イと同様の理由により、当業者が刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本願発明3について 本願発明3は、本願発明2をさらに限定したものであるので、本願発明2と同様に、当業者が刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)まとめ よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1の「負でない閾値」との記載は、発明の詳細な説明の「そこで、設定値Nlimを、好ましくは『設定値Nlim=回転数差ΔN>0』となるような値に設定する」(段落【0041】)との記載と、0を含む点において整合していない。 2 当審拒絶理由の判断 請求項1は、「正の閾値」と補正された。このことにより、請求項1の記載は発明の詳細な説明と整合した。 よって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-01-12 |
出願番号 | 特願2011-148154(P2011-148154) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16H)
P 1 8・ 537- WY (F16H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 北中 忠、中村 大輔、渡邊 義之 |
特許庁審判長 |
阿部 利英 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 内田 博之 |
発明の名称 | デュアルクラッチ式変速機の制御方法とデュアルクラッチ式変速機とそれを搭載した車両 |
代理人 | 山田 祐樹 |
代理人 | 清流国際特許業務法人 |
代理人 | 境澤 正夫 |
代理人 | 昼間 孝良 |