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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1323485
異議申立番号 異議2016-700405  
総通号数 206 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-02-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-05-10 
確定日 2016-11-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5808156号発明「多層吸着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5808156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5808156号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5808156号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年6月8日に特許出願され、平成27年9月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1?4に係る特許について、平成28年5月10日付けで特許異議申立人小松一枝、前田知子により、そして、平成28年5月9日付けで特許異議申立人千阪実木により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成28年6月29日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年8月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を、単に「本件訂正」ということがある。)がされ、上記3名の特許異議申立人に意見を求めたが、いずれからも意見書が提出されなかったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項のとおりである。
《訂正事項》
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、」について、
「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される多層吸着シートであって、アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、」に訂正する(下線は、訂正箇所)。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項
上記訂正事項は、訂正前の請求項1では特定されていなかった多層吸着シートの使用形態(用途)を、「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される」ものに限定するものであるから、この訂正事項の訂正は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
本件特許明細書の段落【0002】、【0008】及び【0018】の記載並びに図1に表された構成からみて、上記訂正事項の訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
そして、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
また、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用する請求項であるから、請求項1?4は一群の請求項であるところ、上記の訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)請求項1?4に係る発明
上記2.に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件訂正請求により訂正された請求項1?4にそれぞれ記載された発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)と認められ、それぞれの請求項には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される多層吸着シートであって、
アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、
前記発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層と、
前記PETフィルム基材層の前記発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層と、
を備え、前記PETフィルム基材層の厚みが5μm?250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下であることを特徴とする多層吸着シート。
【請求項2】
前記粘着層の前記PETフィルム基材層とは反対側の面に積層されたPETフィルムからなるラミネート層をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の多層吸着シート。
【請求項3】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるn層(ただし、nは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるn層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の多層吸着シート。
【請求項4】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるm層(ただし、mは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるm-1層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の多層吸着シート。」

(2)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、4に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由]
本件特許の請求項1,2,4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開平8-80688号公報
引用文献2:登録実用新案第3163406号公報
引用文献3:特開2010-70740号公報
請求項1に係る発明は、引用発明1及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項1に係る発明は、引用発明3及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項2,4に係る発明は、引用発明3及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)取消理由についての判断
ア 引用文献1(特に実施例3に基づいて)には、
「厚みが300μmのウレタン樹脂系発泡層と、
前記発泡層の裏面に積層された1層のPETフィルムと、
前記PETフィルムの前記発泡層とは反対側の面に積層されたゴム系粘着剤からなる粘着剤層と、
を備え、前記PETフィルムの厚みが75μmであり、かつ全体の厚みが425μmである、フレキソ版仮止め用密着シート。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

イ 本件訂正発明1と引用発明1を対比すると、
本件訂正発明1が「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される多層吸着シート」であって、「アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、前記発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層と、前記PETフィルム基材層の前記発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層と、を備え、前記PETフィルム基材層の厚みが5μm?250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下」であるのに対し、
引用発明1は「フレキソ版仮止め用密着シート」であって、「厚みが300μmのウレタン樹脂系発泡層と、前記発泡層の裏面に積層された1層のPETフィルムと、前記PETフィルムの前記発泡層とは反対側の面に積層されたゴム系粘着剤からなる粘着剤層と、を備え、前記PETフィルムの厚みが75μmであり、かつ全体の厚みが425μm」である点で相違する。

ウ 本件訂正発明1は、従来、搬送対象物としての偏光フィルムを貼付位置まで搬送する吸着シートは、発泡樹脂層の好ましい厚みが2?8mmとされ、しかも基材層として分厚い布やクロス、不織布を使用しており、吸着シート全体の厚みが数mm?10数mm以上と非常に分厚いものであったため、吸着シートを外表面に設けた無限搬送ベルトが搬送経路の屈曲部を通過する際、吸着シートにかかる引っ張り力は、吸着シートの屈曲中心から近い基材層と比べて遠い発泡樹脂層においては大きく、吸着シート内部で引っ張り力に偏りが生じ、発泡樹脂層に延び癖がついて表面に皺が生じたり、吸着シートが捲れ上がったりして、偏光フィルムの吸着・搬送に支障をきたすおそれがあるという課題(同段落【0008】?【0010】)を解決しようとしてなされたものである。
そのために、本件訂正発明1は、「多層吸着シート」が「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される」ことに由来する上記課題の解決のために、「多層吸着シート」の各層の材料と厚さについて、「アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、前記発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層と、前記PETフィルム基材層の前記発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層と、を備え、前記PETフィルム基材層の厚みが5μm?250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下である」という構成を採用したものである。
これに対し、引用発明1の「密着シート」は、用途が「フレキソ版仮止め用」であり、貼り付けられる版胴が円弧状ではあるものの、複数の屈曲部を有する搬送経路に貼り付けられるものではないため、本件訂正発明1のように、複数の屈曲部を通過する際の密着シート内部の引っ張り力の偏りへの対処が求められるものではなく、このような引用発明1の「密着シート」において、本件訂正発明1の多層吸着シートの各層の材料と厚さに係る構成を採用しようとする動機付けがない。
したがって、本件訂正発明1の「多層吸着シート」の各層の材料や厚さについて、特許異議申立人が提出した他の証拠に個々に示唆する記載があるとしても、引用発明1の「密着シート」に対して、複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用されることへの対処として、特許異議申立人の他の証拠に記載された構成を参照しようとする動機付けがない以上、本件訂正発明1は、引用発明1及び特許異議申立人が提出した他の証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ また、引用文献3についても、同様に、引用文献3に記載された発明の「転倒すべり防止シート」は、「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される」ものではなく、示唆もされていないものであるから、本件訂正発明1の多層吸着シートの各層の材料と厚さに係る構成を採用しようとする動機付けが存在せず、本件訂正発明1は、引用文献3に記載された発明及び特許異議申立人が提出した他の証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件訂正発明2?4は、いずれも本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定されたものであるから、引用文献1に記載された発明、あるいは、引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人が提出した各証拠のいずれにも、本件訂正発明1に特定された「複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される多層吸着シート」は記載されておらず、本件訂正発明1は、当該構成のものにおいて、上記(3)ウに示した課題を解決しようとしてなされたものである。
したがって、本件訂正発明1と本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2?4は、特許異議申立人提出の各証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由よっては、本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の屈曲部を有する搬送経路を走行する無限搬送ベルトに貼り付けて使用される多層吸着シートであって、
アクリル系発泡樹脂からなる厚みが50μm?500μmの発泡樹脂層と、
前記発泡樹脂層の裏面に積層された少なくとも1層のPETフィルム基材層と、
前記PETフィルム基材層の前記発泡樹脂層とは反対側の面に積層されたアクリル系粘着剤からなる粘着層と、
を備え、前記PETフィルム基材層の厚みが5μm?250μmであり、かつ全体の厚みが800μm以下であることを特徴とする多層吸着シート。
【請求項2】
前記粘着層の前記PETフィルム基材層とは反対側の面に積層されたPETフィルムからなるラミネート層をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の多層吸着シート。
【請求項3】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるn層(ただし、nは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるn層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の多層吸着シート。
【請求項4】
前記ラミネート層の前記粘着層とは反対側の面に、交互に積層されたアクリル系粘着剤からなるm層(ただし、mは1以上の整数)の粘着層とPETフィルムからなるm-1層のラミネート層とをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の多層吸着シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-10-26 
出願番号 特願2011-127987(P2011-127987)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中山 基志  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 高橋 祐介
井上 茂夫
登録日 2015-09-18 
登録番号 特許第5808156号(P5808156)
権利者 株式会社石山製作所 日栄化工株式会社
発明の名称 多層吸着シート  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  
代理人 特許業務法人みのり特許事務所  

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