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審決分類 審判 一部無効 特123条1項5号  H05B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
管理番号 1324176
審判番号 無効2011-800099  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-14 
確定日 2017-02-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第4511024号「高透明性非金属カソード」の特許無効審判事件についてされた平成24年 4月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10314号平成25年10月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4511024号の請求項1?6、9?10に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許は、ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ、ザ ユニバーシティー オブ サザン カルフォリニア(以下、「被請求人」という。)により出願された、1998年10月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年10月9日、1997年11月3日、1997年11月5日、1997年12月1日、1998年4月1日、1998年4月3日、1998年4月10日、1998年9月14日、米国)を国際出願日とする出願である特願2000-516507号に係り、平成22年2月25日付けの手続補正によって補正された願書に添付された明細書及び図面の内容について、特許第4511024号として平成22年5月14日に設定登録されたものである。
本件特許無効審判事件は、請求人 株式会社半導体エネルギー研究所(以下、単に「請求人」という。)が、「特許第4511024号の請求項1?6、9?10に係る発明についての特許を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。との審決を求める。」として、平成23年6月14日に請求したものであって、当該審判請求後の手続は以下のとおりである。

平成23年11月 2日 答弁書
平成24年 2月16日 請求人 口頭審理陳述要領書
平成24年 3月 9日 被請求人 口頭審理陳述要領書
平成24年 3月15日 第1回口頭審理
平成24年 4月10日 審理終結
平成24年 4月25日 第1次審決(特許第4511024号の請求項1ないし6、9、10に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。)
平成24年 9月 5日 出訴(平成24年(行ケ)10314号)
平成25年10月31日 第1次審決を取り消すとの判決


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?6、9?10に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1?6、9?10」という。)は、それぞれ、その本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?6、9?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
発光層を有する、エレクトロルミネッセンスを生ずることができる有機発光デバイスであって、
前記発光層は、電荷キャリアーホスト材料と、前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとして用いられる燐光材料とからなり、
前記有機発光デバイスに電圧を印加すると、前記電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ、且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する有機発光デバイス。
【請求項2】
前記有機発光デバイスが、10cd/m^(2)を超える表示輝度を与えることができる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記電荷キャリアーホスト材料が、ホール輸送材料である請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記電荷キャリアーホスト材料が、電子輸送材料である請求項1、2、または3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記燐光材料が、10μ秒以下の燐光寿命を有する、請求項1、2、3、または4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記燐光材料が、10?100μ秒の光ルミネッセンス寿命を有する、請求項1、2、3、または4に記載のデバイス。
【請求項9】
前記有機発光デバイスを通って電圧を印加した場合、外部量子効率が室温で少なくとも0.14%である、請求項1?8のいずれかに記載のデバイス。
【請求項10】
前記有機発光デバイスを通って電圧を印加した場合、外部量子効率が室温で少なくとも0.07%である、請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9に記載のデバイス。


第3 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、本件特許発明1?6、9?10についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証?甲第47号証を提出し、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1
本件特許発明1、2、4、6、9?10の優先日は甲第9号証に係る米国特許出願の出願日であり、本件特許発明1、2、4、6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2-1
本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由2-2
本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11号証?甲第22号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由2-3
本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第23号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(5)無効理由2-4
本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第24号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(6)無効理由3
本件特許発明1?6、9?10の優先日が甲第5号証に係る米国特許出願の出願日であったとしても、本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前の他の特許出願であって、その優先日後に国際公開された甲第37号証に記載の発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(7)無効理由4
本件特許発明1?6は、先願の地位を有する甲第38号証に係る発明と実質的に同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(8)無効理由5
本件特許発明1?6、9?10は、発明の詳細な説明に記載したものではないから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである
、というものであって、概略、以下のとおり、主張している。

特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
さて、本件特許発明の課題は、必ずしも明確ではないが、本件特許明細書全体の記載から、励起子三重項状態を通るエネルギー遷移径路を有効に利用することによって、全OLED量子効率を向上させることであると考えられる。
そして、本件特許明細書には、ホスト材料としてAlq_(3)を、燐光ドーパント材料としてPtOEPを採用したものについて、外部量子効率が0.07?0.2%となったという実験データを開示するのみである。
すると、ホスト材料としてAlq_(3)を、燐光ドーパントとしてPtOEPを採用したもの以外のホスト材料と燐光ドーパント材料を使用した場合に、全OLED量子効率を向上させることができることを認識することはできない。
したがって、本件特許発明1?6、9?10は、ホスト材料としてAlq_(3)を、燐光ドーパント材料としてPtOEPを採用したものに限定しているものではないから、上記課題を解決することができると認識することができるものであるということはできない。

(9)無効理由6
外国語特許出願である本件特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないから、本件特許出願は特許法第184条の18による読み替え後の特許法第123条第1項第5号に該当し、本件特許発明1?6、9?10の特許は無効とすべきである
、というものであって、概略、以下のとおり、主張している。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「燐光放射線を室温において発光する有機発光デバイス」と記載されている。
しかし、本件特許の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲及び図面には、燐光放射線を「室温」において発光する有機発光デバイスについて記載されていない。
本件特許の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載として、本件特許の国際公開公報(WO99/20081(甲第44号証:以下、単に、「本件国際公開公報」という。))の記載に基づいて、検討すると、
本件国際公開公報第19頁第10?13行には、「Another of the benefits of PtOEP-doped OLEDs is that such OLEDs have a stability, when the device is exposed to ambient environmental conditions for a few days, that is comparable to prior art devices and, in particular, a decidedly greater shelf life stability as compared with TPP-doped devices.」と記載されており、「室温」が「ambient environmental conditions」であるとしても、該記載は、「shelf life」に関する記載であって、燐光放射線を発光するときの「ambient environmental conditions」を記載したものではない。
また、本件特許の優先日当時、有機ELデバイスにおいて、常温や室温で燐光発光するとは技術常識であったとまではいえないことも考慮すると、本件特許の国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲及び図面には、燐光放射線を「室温」において発光する有機発光デバイスについて記載されておらず、かつ、記載されているのと同然であるということもできない。

2.甲第1号証?甲第47号証
請求人が提出した証拠方法(甲第1号証?甲第47号証)は、次のとおりである。
(1)甲第1号証:NATURE, Vol.395, 10 September 1998, PP. 151-154
(2)甲第2号証:優先権書類、08/948,130の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(3)甲第3号証:優先権書類、60/064,005の明細書及び図面
(4)甲第4号証:優先権書類、08/964,863の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(5)甲第5号証:優先権書類、08/980,986の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(6)甲第6号証:優先権書類、09/053,030の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(7)甲第7号証:優先権書類、09/054,707の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(8)甲第8号証:優先権書類、09/058,305の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(9)甲第9号証:優先権書類、09/152,960の明細書、特許請求の範囲、要約及び図面
(10)甲第10号証:特許・実用新案審査基準第IV第1章4.1基本的な考え方(2)
(11)甲第11号証:特開平2-261889号公報
(12)甲第12号証:Appl.Phys.Lett.,vol.71, 3 November 1997, pp.2596-2598
(13)甲第13号証:Photochemical Processes in Organized Molecular Systems, K.Honda(Editor), Elsevier Science Publishers B.V., 1991, pp.437-450
(14)甲第14号証:1990年秋季第51回応用物理学会学術講演会予稿集、第3分冊、p.1041, 28a-PB-8
(15)甲第15号証:Appl.Phys.Lett.,vol.69, 8 July 1996, pp.224-226
(16)甲第16号証:Polymer Preprints, April 1997, vol.38 pp.351-352
(17)甲第17号証:Chem.Mater. August 1997 vol.9, pp.1710-1712
(18)甲第18号証:特開昭61-37889号公報
(19)甲第19号証:特開昭61-62582号公報
(20)甲第20号証:Appl.Phys.Lett.,vol.69, 16 September 1996, pp.1686-1688
(21)甲第21号証:特開昭63-253225号公報
(22)甲第22号証:Journal of the American Chemical Society, January 15, 1969, pp.253-257
(23)甲第23号証:Inog. Chem. 1986, 25, pp.3858-3865
(24)甲第24号証:Chem. Phys. Lett., 1 June 1977 Vol.48, pp.233-236
(25)甲第25号証:“Mechanism of Phosphorescence Quenching in Photomagnetic Molecules Determined by Positron Annihilation Spectroscopy” ;Presented at the 61st Meeting of the Southeastern Section of the American Physical Society held at Newport News, Virginia(USA), 10-12 November 1994
(26)甲第26号証:特表平4-502815号公報
(27)甲第27号証:特開平7-12661号公報
(28)甲第28号証:特開平9-306669号公報
(29)甲第29号証:特開平5-202356号公報
(30)甲第30号証:特開平5-29080号公報
(31)甲第31号証:特開平6-243966号公報
(32)甲第32号証:特開平7-90260号公報
(33)甲第33号証:特開平7-126615号公報
(34)甲第34号証:特開平9-148072号公報
(35)甲第35号証:平成21年8月4日に作成の面接記録に添付された面接資料
(36)甲第36号証:平成22年2月25日付意見書
(37)甲第37号証:WO98/00474
(38)甲第38号証:本件特許の分割出願の出願書類
(39)甲第39号証:本件特許の分割出願の平成21年9月15日付拒絶理由通知書
(40)甲第40号証:本件特許の分割出願の平成21年11月27日に作成の面接記録に添付された資料
(41)甲第41号証:本件特許の分割出願の平成22年5月18日付拒絶査定謄本
(42)甲第42号証:本件特許の分割出願の平成22年9月27日付上申書
(43)甲第43号証:平成22年3月12日付上申書
(44)甲第44号証:WO99/20081
(45)甲第45号証:特許・実用新案審査基準第III部第I節新規事項3.1及び第VIII部外国語書面出願 5.1.2原文新規事項の具体的判断基準(1)
(46)甲第46号証:平成17年6月17日付意見書
(47)甲第47号証:EP0390551B1

3.被請求人の主張
これに対して被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として乙第1号証?乙第4号証を提出し、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1 について
本件特許発明1、2、4、6、9?10の優先日は甲第5号証に係る米国特許出願の出願日であり、甲第1号証の刊行物は、その優先日後に頒布された刊行物であるから、本件特許発明1、2、4、6、9?10は特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(2)無効理由2-1 について
甲第1号証の刊行物は、本件特許発明1、2、4、6、9?10の優先日後に頒布された刊行物であるから、本件特許発明1?6、9?10は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする請求人の主張は妥当でない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(3)無効理由2-2について
本件特許発明1?6、9?10は、甲第11号証?甲第22号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(4)無効理由2-3について
本件特許発明1?6、9?10は、甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第23号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(5)無効理由2-4について
本件特許発明1?6、9?10は、甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第24号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(6)無効理由3について
本件特許発明1?6、9?10は、甲第37号証に記載の発明と実質的に同一であるということはできない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(7)無効理由4について
本件特許発明1?6は、甲第38号証に係る発明と実質的に同一であるということはできない。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない。

(8)無効理由5について
本件特許発明1?6、9?10は、発明の詳細な説明に記載したものであるから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない
、というものであって、概略、以下のとおり、主張している。

ドーパント材料については、本件特許明細書の段落【0174】?【0176】に、PtOEPに加えて、一群の燐光材料を記載している。
ホスト材料については、Alq_(3)に加えて、ポリビニルカルバゾール(本件特許明細書段落【0191】)を記載しており、さらに、本件特許出願前から電荷キャリア材料として多くの化合物が知られており、当業者は、それらの中から燐光材料に適したホスト材料を見つけることができる。
したがって、本件特許発明1?6、9?10は、室温で電界燐光発光できる任意の燐光材料に適用して、適切な電荷キャリアーホスト材料と組み合わせることによって、有機ELデバイスの外部量子効率を高めることができるから、本件特許発明1?6、9?10は、本件特許明細書に記載したものである。

(9)無効理由6について
外国語特許出願である本件特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。したがって、その特許は、無効とされるべきものではない
、というものであって、概略、以下のとおり、主張している。

本件特許発明は、コンピュータ、テレビジョン等に使用されることが記載されており、コンピュータ、テレビジョン等は室温で使用されることが前提とされているものであること、また、当該技術分野においては、実施例などにおいて温度が特記されていない場合には、室温で試験されたことは当業者には自明であるから、本件特許発明の有機発光デバイスが室温で燐光発光することは当業者には自明のことである。

4.乙第1号証?乙第4号証
被請求人が提出した証拠方法(乙第1号証?乙第4号証)は、次のとおりである。
(1)乙第1号証:平成14年(行ケ)539号審決取消請求事件の判決文
(2)乙第2号証:特許・実用新案審査基準第II部第2章 新規性進歩性(抜粋)
(3)乙第3号証:筒井哲夫、応用物理 第66巻 第2号(1997)第109-116ページ
(4)乙第4号証:不服2006-9861号審判事件における平成21年8月25日付で発送の拒絶理由通知書


第4 当審の判断
上記平成24年(行ケ)10314号の判決(以下「前判決」という。)において、知的財産高等裁判所は、
「また、本件優先権主張日当時,有機ELデバイスにおいて,いかなる化学物質が,常温でもリン光が観測される有機色素として第2の有機色素に選択され,この第2の有機色素が,第1の有機色素の非放射性の励起三重項状態からエネルギーを受け取り,励起三重項状態に励起して,この励起三重項状態から基底状態に遷移する際に室温でリン光を発光するのかが,当業者の技術常識として解明されていたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告が本件優先権主張日当時において「常温でリン光を発光する有機電界発光素子」が知られていたことの根拠として挙げる各文献(甲12ないし17,20,21,23,27,29,44,乙15,27)の記載内容は,前記3のとおりであるから,上記各文献によっても,本件優先権主張日当時,常温でリン光を発光する有機電界発光素子が当業者の技術常識として解明されていたとは認めるには足りない。
すなわち,上記各文献のうち,有機電解発光素子がリン光発光することを開示するものは,発光層として(Eu_(0.1)Gd_(0.9))(TTA)_(3)(TPPO)_(2)及び2-(4-ビフェニル)-5-(4-t-ブチルフェニルイル)-1,3,4-オキサジアゾールが分散したポリ(N-ビニルカルバゾール)膜を有するもの(甲12),発光層としてクマリン色素を有するもの(甲13),発光層としてBB又はCP1を有するもの(甲14),及び発光層としてベンゾフェノンが分散したポリ(メチルメタクリレート)膜を有するもの(甲15)であるが,いずれも極めて低温での発光である。また,乙15については,CP1が室温でリン光発光することが見いだされたことに基づく将来的な展望は述べられておらず,CP1の発光寿命は非常に短いことから,現在の方法のままでは三重項励起子から強い長発光寿命成分を取り出すのは,キャリヤとの相互作用のため,非常に難しく,EL素子の発光層としては適さないと解される記載部分があり,別途,新しいタイプのリン光物質を探索する必要性が述べられているものと理解できることから,乙15に接した当業者であれば,CP1が有機電界発光素子の発光層として使用可能な常温でリン光発光する有機色素であると認識することはないと認められることは前記3(4)イのとおりである。さらに,甲44及び乙27については,平成9年5月に開催された国際会議においてTangが講演をした際に,有機固体のEL発光においては,励起子の75%を占める三重項励起状態から基底状態への遷移が非放射性経路として発光を伴わない熱運動による失活であるとされ,三重項からの発光(リン光発光)は存在しないものと取り扱われていること,他方,Tangが同講演においてPtOEPをELに用いることを発表したことがうかがわれるものの,それが常温によるものなのか,三重項励起状態からのリン光発光なのかについて何らの記載もないことは前記3(13)イのとおりであって,少なくとも,甲44及び乙27は,本件優先権主張日当時,常温でリン光を発光する有機電界発光素子が当業者の技術常識として解明されていたことの根拠となるものではない。
さらに,甲21,23,27には室温で光励起によってリン光を発光(PL)することが記載されているものの,光励起によるリン光発光についての技術が,それとは発光に至るまでの原理の異なる有機電界発光素子における技術に直ちに適用可能であるという技術常識の存在を認めるに足りる証拠はないから,上記各文献に室温で電圧印加による発光(EL)が記載されているということはできない。被告は,この点について,PLとELが密接な関係を有することは技術常識であるから,PL発光を示す物質を有機ELデバイスに用いたとしてもEL発光を生じさせるのが困難であるということはない旨主張するが,光励起によりリン光を発する物質を有機電界発光素子の発光層に使用した場合に室温でリン光発光したことは,被告が提示する本件優先権主張日前のいずれの証拠にも示されていない。したがって,PLとELに密接な関係を有する部分が存在するとしても,それだけでは,光励起によるリン光発光についての技術事項であれば,有機電界発光素子からの発光に適用することができるということはできず,まして,本件優先権主張日当時にかかる技術常識があるということもできない。
さらに,上記文献中,甲16及び17記載のELデバイスが室温でリン光発光することについては何らの記載もないことは前記3(6)イ及び(7)イのとおりであり,甲20記載のELデバイスがリン光発光することについては何らの記載もないことは前記3(8)イのとおりであり,甲29記載のELデバイスからの発光は蛍光であると認められることは前記3(12)イのとおりである。
結局,常温でリン光発光する有機電界発光素子を開示する証拠はなく,本件優先権主張日当時、有機ELデバイスの発光層に使用される有機色素であって常温でリン光発光する有機色素の存在が当業者の技術常識として確立していたということはできない。」、
「そうすると,引用例1に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件優先権主張日当時の技術常識に基づいて,「常温でリン光発光する有機電界発光素子」を見いだすことができる程度に,引用例1にその技術事項が開示されているということはできない。」(判決「第4」「4」「(3)」、「(4)」)
と判示しているので、該判示を前提とする。

1.無効理由2-2、2-3、2-4
請求人は、上述のとおり、無効理由2-2、2-3、2-4として、それぞれ、本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11号証?甲第22号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第23号証、甲第28号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、甲第11号証?甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証、甲第24号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである旨、主張しているところ、これらをまとめて、本件特許発明1?6、9?10は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第11号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて、以下に検討する。

(1)甲第11号証
甲第11号証には次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

(ア)「(産業上の利用分野)
本発明は表示素子、照明素子などとして用いられる有機電界発光素子に関する。
(従来の技術)
近年、携帯用TV、コンピュータの需要の増加に伴い、フラットパネルディスプレイを中心とした薄型軽量の表示素子の開発が急速に進められている。」(第1ページ左下欄下から第6行?右下欄第2行)

(イ)「以上のように、有機電界発光素子では、発光層と電極との間にキャリア移動層を設けることにより、低電圧の直流電源で高輝度の発光が得られる可能性があることが見出されている。しかし、有機色素分子が固体凝集状態である場合には、発光が生じにくいという問題がある。また、発光が生じたとしても二量体化又は多量体化した励起色素分子からの発光が主であり、発光波長が長波長側にシフトするという問題がある。
本発明はこれらの問題を解決し、発光輝度が高く、しかも発光波長を制御することができる有機電界発光素子を提供することを目的とする。」(第2ページ左下欄下から第5行?右下欄第7行)

(ウ)「本発明の有機電界発光素子は、少なくとも一方が光を透過する2枚の電極間に、有機色素薄膜からなる発光層を設けた有機電界発光素子において、前記発光層が、第1の有機色素に、該第1の有機色素の光吸収端よりも長波長側にその光吸収端を有する第2の有機色素を、該第2の有機色素が10モル%以下の割合となるように分散させた有機色素薄膜からなることを特徴とするものである。
本発明において、第1の有機色素に要求される特性としては、電極からキャリアとして正孔又は電子が効率よく注入されること、注入されたキャリアが効率よく色素分子と再結合すること、キャリアの再結合によって色素分子が効率よく励起されること、励起状態からの無輻射失活過程が少ないことが挙げられる。このほか、薄膜形成が容易なこと、構造的及び化学的安定性に優れていることが挙げられる。
本発明において、第2の有機色素の要求される特性としては、励起状態の第1の有機色素から効率よく励起エネルギーを受け取り(エネルギー受容性が高い)、特定波長の発光が効率よく得られることが挙げられる。
ここで、第1の有機色素の励起状態には一重項状態と三重項状態との2つの状態がある。このうち有機電界発光素子で主に発光に寄与するのは、励起一重項からの蛍光であることが知られている。したがって、第2の有機色素としては、一重項-一重項の励起エネルギー移動を起こしやすいものが選択される。その選択の基準になるのは、第1の有機色素の蛍光発光スペクトルと第2の有機色素の光吸収スペクトルとの間に重なりが存在することである。一般的には、第1の有機色素の光吸収スペクトルの吸収端波長より、第2の有機色素の光吸収スペクトルの吸収端波長が長波長側にあればよい。
また、有機電界発光素子については、常温ではもう1つの励起状態である三重項状態からの発光であるリン光の寄与は認められていない。これは第1の有機色素として適当な有機色素の多くは、常温ではリン光を示さないからである(ただし、これらの色素でも低温ではリン光を示す)。したがって、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取って励起状態となり、かつ常温で蛍光又はリン光を発光する性質のある第2の有機色素を選択することができる。
本発明において、第1の有機色素中に分散される第2の有機色素は1種に限らず、2種以上でもよい。例えば、第1の有機色素中に第2の有機色素として、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素と、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素とを分散させることにより、効率よく発光させることが可能となる。また、第1の有機色素中に第2の有機色素として複数の色素を分散させることにより、多波長の発光特性が得られ、RGB強度を調節することにより高効率で白色発光が得られる。」(第2ページ右下欄第10行?第3ページ左下欄第6行)

(エ)「有機電界発光素子の発光機構は2段階に分けることができる。第1段階は電極に電圧を印加することによって発光層にキャリアが注入され、このキャリアが再結合して発光性色素が励起状態になる段階である。第2段階は励起状態の発光性色素が基底状態に戻る段階である。第2段階には、発光過程と非発光過程とがある。このうち、励起一重項状態からの発光速度は10^(9)秒^(-1)のオーダーであり、蛍光と呼ばれる。また、励起三重項状態からの発光速度は10^(3)?l0^(0)秒^(-1)のオーダーであり、リン光と呼ばれる。非発光過程は分子の熱運動などによるもので、常温では一重項、三重項とも10^(7)?10^(8)秒^(-1)のオーダーである。このため、常温では蛍光はよく観察されるが、リン光は観察されないのが普通である。
ところで、固体結晶のように有機色素が凝集した状態では、励起した有機色素は励起子(エキシトン)となり、その励起状態の寿命中にある範囲でエネルギー移動できると考えられている。そのエネルギー移動できる範囲は、一般に10^(3)?l0^(5)個分子である。この範囲に不純物や格子欠陥による非発光サイトが存在すると、励起状態の有機色素分子がトラップされて非発光失活してしまう。斉藤らが報告しているように、ガスや溶液のように色素濃度が希薄な状態では蛍光が観察される色素でも、固体凝集状態では蛍光が観察されなくなるのはこのためである。
また、固体凝集状態では励起状態にある分子が隣接した分子と多量体化(一般には二量体(エキサイマー)化)してエネルギー的に安定状態になることが知られている。これはエネルギー移動がからんだ一種の発光性トラップである。前述したように、励起状態の色素分子は二量体又は多量体すると安定となり、その発光波長は、孤立した励起状態の色素分子からの発光波長よりも長波長側ヘシフトする。
以上をまとめると、〔1〕(当審注:〔 〕は原文においては数字を丸で囲んだものであることを示す。以下同じ。)常温では励起三重項状態からの発光過程(リン光)が生じにくいため、理論発光効率が低下する。〔2〕励起エネルギー移動が生じる過程で10^(3)?10^(5)個分子に1個の割合でも非発光サイトが存在すると、発光が観測されない。〔3〕励起状態にある分子が多量体化して安定になると、発光波長が長波長側ヘシフトする。これらが原因となって、有機電界発光素子の実現を困難にしていた。
これに対して、本発明では、第1の有機色素中に第2の有機色素を分散させることにより、これらの問題を解消して発光効率を向上することができる。
すなわち、〔1〕については、常温でもリン光が観測される有機色素があり、これを第2の有機色素として用いることにより、第1の有機色素の励起三重項状態のエネルギーを効率よく利用することができる。このような有機色素としては、カルボニル基を有するもの、水素が重水素に置換されているもの、ハロゲンなどの重元素を含むものなどがある。これらの置換基はいずれもリン光発光速度を速め、非発光速度を低下させる作用を有する。ただし、このような有機色素を高濃度に添加すると、励起一重項の失活を招くので適切ではない。
〔2〕については、非発光サイトより高濃度で第2の有機色素を分散させることにより、励起状態、特に励起一重項状態の第1の有機色素からのエネルギーが非発光サイトへ移動するのを防止し、第2の有機色素へのエネルギー移動により効率よく発光させることができる。
〔3〕についても同様であり、励起状態の第1の有機色素が多量体化して安定になる前に、第2の有機色素へのエネルギー移動により効率よく発光させることができる。
ただし、第2の有機色素の割合が大きくなると、第2の有機色素自体に〔2〕、〔3〕の問題が生じるので、これを適当な濃度に抑え、第2の有機色素を孤立状態にする必要がある。」(第4ページ左下欄第10行?第5ページ左下欄第3行)

(オ)「(実施例)
以下、本発明の詳細な説明する。
第1図に本発明に係る有機電界発光素子の構成図を示す。第1図において、ガラス基板1上にはITO電極2、正孔移動層(TPD)3、第1の有機色素としてアントラセン及び第2の有機色素としてペリレン、テトラセン、又はペンタセンからなる発光層4、電子移動層(PV)5、及びAl電極6が順次形成されている。また、ITO電極2とAl電極6との間には直流電源7が接続される。
ITO電極2はスパッタ法により形成された。正孔移動層3、発光層4、電子移動層5は、有機化合物を真空昇華することにより形成され、それぞれの膜厚は0.5?1μmである。Al電極6は真空蒸着法により形成された。
このうち、発光層4は以下のようにして形成された。まず、昇華精製したアントラセン結晶に対して、第2の有機色素(ペリレン、テトラセン、又はペンタセン)を0.01?1モル%の割合で配合し、アルゴンガスを流しながら、石英容器中で融点まで加熱し撹拌しながら融解した。結晶どうしが完全に混合されると、比較的速やかに冷却して固体になる。これを原料として昇華することにより発光層4を製膜した。なお、製膜された発光層中の第2の有機色素の含有量は、予め所定の組成の原料を用い、石英基板上に発光層成分だけを単独で製膜し、その吸収スペクトルを測定することにより調べておいた。
第1図の構成で、ITO電極2をプラス極、Al電極6をマイナス極として直流電圧を印加し、電流量を測定するとともに、ガラス基板1側で発光スペクトル及びその強度を測定した。
その結果、直流電圧30Vで5mA/cm^(2)の電流が流れ、最大輝度5000cd/m^(2)が得られた。また、発光スペクトルはそれぞれペリレン、テトラセン、又はペンタセンの孤立した励起一重項からの発光が主であった(第2図)。また、発光層としてアントラセン中にペリレンを分散させたものを用いた素子について、ペリレンの添加量と発光強度との関係を第3図に示す。第3図から、ペリレンの添加量は0.1?1モル%の範囲が最適であることがわかる。」(第5ページ右下欄第4行?第6ページ右上欄第6行)

上記摘記事項(ウ)に、「また、有機電界発光素子については、常温ではもう1つの励起状態である三重項状態からの発光であるリン光の寄与は認められていない。これは第1の有機色素として適当な有機色素の多くは、常温ではリン光を示さないからである(ただし、これらの色素でも低温ではリン光を示す)。したがって、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取って励起状態となり、かつ常温で蛍光又はリン光を発光する性質のある第2の有機色素を選択することができる。本発明において、第1の有機色素中に分散される第2の有機色素は1種に限らず、2種以上でもよい。例えば、第1の有機色素中に第2の有機色素として、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素と、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素とを分散させることにより、効率よく発光させることが可能となる。」との記載があり、「第2の有機色素」として、「第1の有機色素」の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取って励起状態となり、常温でリン光を発光するものを選択することができるとの技術事項が開示されている。
しかし、本件特許の優先日当時、有機ELデバイスの発光層に使用される有機色素であって常温でリン光発光する有機色素の存在が当業者の技術常識として確立していたということはできないから、甲第11号証に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件特許の優先日当時の技術常識に基づいて、「常温でリン光発光する有機電界発光素子」を見いだすことができる程度に、甲第11号証にその技術事項が開示されているということはできない。

また、甲第11号証には、第2の有機色素の励起一重項状態からの発光が、常温で観察されるとの明記はないが、上記摘記事項(ウ)の「有機電界発光素子については、常温ではもう1つの励起状態である三重項状態からの発光であるリン光の寄与は認められていない。これは第1の有機色素として適当な有機色素の多くは、常温ではリン光を示さないからである(ただし、これらの色素でも低温ではリン光を示す)。」、「常温で蛍光又はリン光を発光する性質のある第2の有機色素を選択することができる。」、上記摘記事項(エ)の「このため、常温では蛍光はよく観察されるが、リン光は観察されないのが普通である。」等の記載を参酌すれば、第2の有機色素の励起一重項状態からの発光(蛍光)が、常温で観察されることが開示されていることは明らかである。

これらの点を踏まえると、甲第11号証には、
「少なくとも一方が光を透過する2枚の電極間に、有機色素薄膜からなる発光層を設けた有機電界発光素子において、
前記発光層が、第1の有機色素に、該第1の有機色素の光吸収端よりも長波長側にその光吸収端を有する第2の有機色素を、該第2の有機色素が10モル%以下の割合となるように分散させた有機色素薄膜からなり、
第1の有機色素としては、電極からキャリアとして正孔又は電子が効率よく注入されるものが、第2の有機色素としては、一重項-一重項の励起エネルギー移動を起こしやすいものが選択され、
第2の有機色素は、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取り、励起一重項状態から常温で発光する有機電界発光素子。」の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されている。

(2)本件特許発明1と甲11発明との対比
(ア)甲11発明の「少なくとも一方が光を透過する2枚の電極間に、有機色素薄膜からなる発光層を設けた有機電界発光素子」が、本件特許発明1の「発光層を有する、エレクトロルミネッセンスを生ずることができる有機発光デバイス」に相当する。

(イ)甲11発明における「第1の有機色素」は、「電極からキャリアとして正孔又は電子が効率よく注入されるものが」「選択され」るものであり、また、「第2の有機色素が10モル%以下の割合となるように分散させた」ものであるから、本件特許発明1の「電荷キャリアーホスト材料」に相当する。また、甲11発明における「第2の有機色素」は、「第1の有機色素に、」「該第2の有機色素が10モル%以下の割合となるように分散させた」ものであるから、本件特許発明1の「電荷キャリアーホスト材料のドーパント」に相当する。
すると、甲11発明の「前記発光層が、第1の有機色素に、該第1の有機色素の光吸収端よりも長波長側にその光吸収端を有する第2の有機色素を、該第2の有機色素が10モル%以下の割合となるように分散させた有機色素薄膜からな」ることと、本件特許発明1の「前記発光層は、電荷キャリアーホスト材料と、前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとして用いられる燐光材料とからな」ることとは、「前記発光層は、電荷キャリアーホスト材料と、前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとからな」ることで一致する。

(ウ)本件特許発明1の「燐光材料」は、「ドーパントとして用いられる」ものであるから、「燐光材料」が発光することは、「ドーパント」が発光することであるともいえる。
すると、甲11発明の「第2の有機色素としては、一重項-一重項の励起エネルギー移動を起こしやすいものが選択され、第2の有機色素は、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取り、励起一重項状態から常温で発光する」ことと、本件特許発明1の「前記有機発光デバイスに電圧を印加すると、前記電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ、且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する」こととは、「前記有機発光デバイスに電圧を印加すると、前記電荷キャリアーホスト材料のエネルギーが前記ドーパントに移行することができ、且つ前記ドーパントが室温において発光する」ことで一致する。

(3)一致点
すると、本件特許発明1と甲11発明は、
「発光層を有する、エレクトロルミネッセンスを生ずることができる有機発光デバイスであって、
前記発光層は、電荷キャリアーホスト材料と、前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとからなり、
前記有機発光デバイスに電圧を印加すると、前記電荷キャリアーホスト材料のエネルギーが前記ドーパントに移行することができ、且つ前記ドーパントが室温において発光する有機発光デバイス。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(4)相違点
「ドーパント」について、本件特許発明1では、「燐光材料」であって、「前記電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ、且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する」のに対して、甲11発明では、「一重項-一重項の励起エネルギー移動を起こしやすいものが選択され、第2の有機色素は、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取り、励起一重項状態から常温で発光する」点で、相違する。

(5)相違点についての検討
請求人が提出した甲第12号証?甲第34号証を含む全証拠には、電荷キャリアーホスト材料と該電荷キャリアーホスト材料のドーパントとからなる発光層を有する有機発光デバイスにおいて、該有機発光デバイスに電圧を印加したとき、電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーを受け取り、三重項分子励起状態となり、該三重項分子励起状態から燐光放射線を室温において発光する燐光材料は開示されていないから、当業者といえども、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を得ることはできない。

さらに、甲第11号証に、「第1の有機色素」の励起三重項状態からエネルギーを受け取って励起状態となり、かつ常温でリン光を発光するものを「第2の有機色素」として選択すると、「第1の有機色素」の励起三重項状態のエネルギーを効率よく利用することができるという技術的事項が記載されていることや、甲第12号証?甲第15号証に、液体窒素温度程度の極低温でリン光を発光するEL発光材料が記載されていること、甲第16号証、甲第17号証、甲第20号証に、EL発光材料であるRu(II)錯体(燐光発光するとは認められない。)が記載されていること、甲第21号証、甲第23号証、甲第27号証に、室温で燐光発光するPL発光材料であるRu(II)錯体、Pt(II)錯体、Ir(III)錯体、PtOEPが記載されていること等を勘案しても、甲第12号証?甲第34号証を含む全証拠には、有機電界発光素子に使用される有機色素であって、常温でリン光発光する有機色素は開示されていない以上、当業者といえども、そのような断片的な技術的事項からでは、上記相違点に係る本件特許発明1の発明特定事項を得ることはできない。

また、請求人は、甲第21号証、甲第23号証、甲第27号証には、室温で燐光を発光する燐光材料が記載されているから、これらの燐光材料を有機電界発光素子に用いることは、当業者には容易であると主張するが、甲第21号証、甲第23号証、甲第27号証に記載された、室温で燐光を発光する燐光材料は、光励起により燐光を発光するリン光材料であって、光励起による燐光発光と電気励起による燐光発光は、その発光に至る原理が異なるものであり、また、室温で光励起により燐光を発する物質を有機電界発光素子の発光層に使用した場合に室温で燐光発光したことは、甲第12号証?甲第34号証を含む全証拠には示されていない。
したがって、室温で光励起により燐光発光する物質が存在するとしても、それだけでは、有機電界発光素子に適用することができるということはできない。

(6)小括
してみると、本件特許発明1は、甲第11号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(7)本件特許発明2?6、9?10について
本件特許発明2?6、9?10は、本件特許発明1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様、甲第11号証?甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(8)結論
以上のとおり、本件特許発明1?6、9?10は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許発明1?6、9?10についての特許は、特許法第123条第1項第2号には該当せず、請求人の主張する無効理由2-2、2-3、2-4のいずれの理由によっても、無効とすることはできない。

2.無効理由5
請求人は、上述のとおり、無効理由5として、本件特許発明1?6、9?10は、発明の詳細な説明に記載したものではないから特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、その特許は、特許法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである旨、主張しているので、以下に検討する。
検討に際しては、大合議判決(平成17年(行ケ)10042号)の判示を基に、特許請求の範囲が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているかどうかについて検討する。

(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書及び図面のうち、本件特許発明1?6、9?10に関する記載は、以下のとおりである。

(ア)「【0023】
1996年12月23日に出願された同時係属中の米国特許出願08/774,333は、飽和赤色発光を生ずる発光化合物を含むOLEDに関する。発光層は、式I:
【0024】
【化25】

【0025】
(式中、Xは、C又はNであり、
R_(8)、R_(9)及びR_(10)は、夫々独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択され、
R_(9)及びR_(10)は、一緒になって融合環を形成していてもよく、
M_(1)は、二価、三価、又は四価の金属であり、
a、b及びcは、夫々0又は1であり、然も、XがCである場合、aは1であり;XがNである場合、aは0であり;cが1である場合、bは0であり;bが1である場合cは0である。)
により表される化学構造を有する発光化合物からなる。
【0026】
米国特許出願Serial No.08/774,087に記載されている例は、X=C;R_(8)=フェニル;R_(9)=R_(10)=H;c=0;及びb=1の場合の式Iの発光化合物を含んでいる。この化合物は、化学名5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン(TPP)を有する。TPP含有発光層を有するOLEDは、二つの狭い帯域からなる発光スペクトルを生じ、それは図1に示すように、約650及び約713nmの所に中心を有する。このデバイスからの発光は、TPPドーパントからの蛍光を含んでいる。TPPドープデバイスについての問題の一つは、発光の約40%を占める713nmでの狭い帯域が、表示用途に有用な範囲内に入っていないことである。第二の問題は、TPPドープOLEDは非常に不安定であり、そのためそのようなデバイスの保存寿命が非常に短いのが典型的である。TPPドープ装置のこれらの二つの特徴が改善されることが望ましいであろう。本発明は、従来のデバイスのこれらの問題に対処することを目的としている。
【0027】
本発明の別の特徴は、スピン統計議論に基づき、OLED中に生じた励起子の大部分が非発光三重項電子状態になっていることが一般に理解されている。そのような三重項状態の形成は、OLEDの励起エネルギーの基底状態への無放射遷移による実質的な損失を与える結果になる。この励起子三重項状態を通るエネルギー遷移経路を利用することにより、例えば、励起子三重項状態エネルギーを発光物質へ移行させることにより、全OLED量子効率を向上させることができれば望ましいであろう。残念ながら励起三項重状態からのエネルギーは或る環境下で燐光発光分子の三重項状態へ効果的に転移させることができることは知られているが、燐光消滅速度が、表示デバイスで用いるのに適切になる程充分速いものとは考えられていない。本発明は、更に従来のデバイスのそのような問題にも対処したOLEDにも関する。」
(なお、上記段落【0023】中の「米国特許出願08/774,333」について、当該米国特許出願は、「Camera flash control device and method thereof for preventing red-eye phenomenon」に係るものである(米国特許第5694626号明細書参照)から、当該米国特許出願番号は誤記であると認める。なお、正しい米国特許出願番号は不明である。)

(イ)「【0057】
本発明は、更にデバイスからの発光が燐光減衰過程によって得られるOLED及びそのOLED製法に関し、この場合燐光減衰速度は、表示デバイスの必要条件を満たすのに充分な速さを持っている。
【0058】
特に、本発明は、更に励起子一重項又は三重項状態からのエネルギーを受けて、そのエネルギーを燐光放射線として発光することができる材料を有するOLEDに関する。
【0059】
本発明の利点の一つは、燐光減衰過程が励起子三重項状態のエネルギーを利用していることであり、そのエネルギーは無発光エネルギー転移及び緩和過程によりOLED内で浪費されるのが典型的なものである。本発明は、更に高度に飽和した赤色発光を生ずることができる材料から構成されてOLEDに関する。特に本発明のOLEDは、トリス-8-ヒドロキシキノリン-アルミニウム(Alq_(3))からなる電子輸送層中でPtOEPをドープした場合に、640nm近くにピークを有する狭い発光帯域を生ずる化合物である白金オクタエチルポルフィン(PtOEP)から構成することもできる。そのような発光は高度に飽和した赤色発光として認められる。
【0060】
PtOEPドープOLEDの別の利点は、そのようなOLEDが、装置を数日間周囲の環境条件に曝した場合、従来の装置に匹敵する安定性、特にTPPドープデバイスと比較して確実に一層長い保存寿命安定性を有することである。
【0061】
本発明は、更に燐光ドーパント化合物がスペクトル範囲で高度に飽和した赤色発光を生じ、そのため人間の目の視感反応機能が、PtOEPドープOLEDと比較して著しく増大した材料及びOLEDの製法に関する。
【0062】
特に、本発明は、更にOLEDで用いられる燐光ドーパント化合物を選択する方法に関し、この場合その燐光化合物はPtOEPのような化合物の四重対称性と比較して減少した対称性を有する白金ポルフィン化合物になるように選択することができ、その結果、飽和赤色として認められるスペクトル範囲中に依然として入りながら、目の感度曲線のピークの方へ移行した発光ピークを有する化合物を得ることができる。」

(ウ)「【0161】
本発明は、更にデバイスからの発光が燐光減衰過程によって得られるOLEDにも関し、この場合燐光減衰速度は表示デバイスの要件に合うように充分速いものとする。本発明の代表的な態様として、発光層は式D-I:
【0162】
【化43】

【0163】
〔(式中、M=Pt;a=1;b=0;c=1;X=C;R_(8)=H;及びR_(9)=R_(10)=Et(エチル)。〕
によって表される構造を有する発光化合物からなる。特に、この化合物、白金オクタエチルポルフィン(PtOEP)は、式D-II:
【0164】
【化44】

【0165】
の化学構造を有する。OLEDの発光材料としてPtOEPのようなドーパント化合物を選択する利点は、就中、二つの特別な事実に基づく。第一はこの分子の光ルミネッセンス量子収量がTPPよりもかなり大きく、PtOEPは50%より大きな光ルミネッセンス量子収量を有し、固体状態では90%位の高さであるのに対し、TPPは僅か約10%の光ルミネッセンス量子収量しか持たない。光ルミネッセンス量子収量の増大は、増大した効率を持つOLEDの製造を可能にする。PtOEPのような燐光化合物を選択することによって与えられる第二の利点は、そのような分子からの発光が三重項状態から来ることである。三重項状態へ励起することができる分子は、非放射性励起子三重項状態から燐光放射線としてこのエネルギーを放射発光することができる三重項状態へエネルギーを移行させる可能性を与える。三重項状態からくる放射線と呼ぶ燐光は、典型的には、一重項状態からの放射線と呼ばれている蛍光よりも遥かに低い速度で起きるが、それにも拘わらずPtOEPのような化合物からの燐光は、或る表示装置の要件を満足するのに充分な位速い。特にAlq3層中のドーパントとして用いた場合、約7μsecの寿命を有するPtOEPのような化合物を、約10μsec以下の速さのスイッチング時間を必要とする受動マトリックス表示器に用いるか、又はスイッチング時間が約10msecでありさえすればよい活性マトリックス表示器に用いることができる。
【0166】
本発明の代表的な態様として、PtOEPは、ITO/TPD/Alq_(3)/Mg-AgOLEDのAlq_(3)層中へドープすることができる。そのようなPtOEPドープOLEDの挙動は、TPPドーパントを用いて製造したOLEDとは非常に異なっている。TPPを0.5モル%より大きな量でドーピングすると、OLEDからの発光は排他的にTPPからのものになる。これに対し、中程度から低いドーピング量のPtOEPのAlq_(3)中に入れると、発光は低電圧では主にPtOEP発光によるが、電圧を増大すると、Alq_(3)発光が現れる。中程度に高い電圧(例えば、15V)では、発光の大部分はAlq_(3)からくる。0.6モル%のPtOEPをドープしたOLEDについてのELスペクトルを図4D2に示す。1.3モル%のPtOEPについてのスペクトルは、0.6モル%の装置について示したものとほぼ同じ形を有する。6モル%のPtOEPを用いて製造したOLEDのスペクトルの形は、図4D3に示してある。電圧を増大するにつれて、赤色発光の強度は著しく増大するが、Alq_(3)からの発光寄与は高電圧でも観察されていない。
【0167】
本発明は、それがどのように作動するかについての理論には限定されるものではないが、電圧を増大するについてAlq_(3)の発光が増大することについての説明は、Alq_(3)及びPtOEPについての光ルミネッセンスの寿命の差に関係していると考えられる。Alq_(3)についてのPL寿命は、固体状態及び溶液状態の両方で約13nsec(ナノ秒)であるのに対し、PtOEPのPL寿命は、媒体により約10?約100μsec(マイクロ秒)の範囲にある。もしPtOEPドープ装置に印加する電圧を低く維持すると、PtOEPへ移行する励起子の数は充分少なく、励起したPtOEP分子がAlq_(3)励起子発生速度に対し充分な速度で緩和することができ、Alq_(3)からのエネルギー移動のために充分なドーパント分子が常に存在する結果を与える。電圧を増大すると、有効PtOEPドーパント分子が飽和し、励起子がAlq_(3)中で生成していくような速度を保って行くのに充分な速さで緩和することができなくなる。この高い電圧範囲では、励起エネルギーがPtOEP分子へ移動される前に、Alq_(3)励起子の幾らかが放射線発光により緩和する。6モル%のPtOEPでは、励起子の全てを捕捉するのに充分なドーパントが存在するが、一層多くのドーピング量は全効率を減少させることになる。
【0168】
この説明は、PtOEPをドープしたAlq_(3)デバイスについて異なったドーピング量での波長の関数としてPLスペクトルを示した図4D4に示されている結果によっても更に支持されている。0.6モル%の最も低いドーピング量では、Alq_(3)大きな発光帯特性観察されているが、高い6モル%のPtOEPドーピング量では、Alq_(3)からの全ての励起子エネルギーを捕捉するのに充分なPtOEPが存在すると思われる。
【0169】
PtOEP系OLEDからの発光は非常に狭く、645nmの所に中心を有する。飽和赤色発光に相当するこの狭い帯域は、約30nmの半値幅を有する。図4D5に示した溶液中のPtOEPについての異なった励起波長で、波長の関数としてのPLスペクトルを、PtOEPドープAlq_(3)OLEDのELスペクトルと比較すると、PtOEPドープOLEDは、約645nmの所にピークの中心を有するPtOEPからの狭い発光帯域を選択的に生ずることを示している。この狭い高度に飽和した赤色発光は、PtOEPのPL励起スペクトルと、Alq_(3)からの広帯域発光との比較により溶液中のPtOEPのPLスペクトルについて観察されているように、約620及び約685nmの所に中心を有する更に別の帯域を予想させるにも拘わらず、他のPtOEPピークが殆ど全く存在することなく発生する。
【0170】
正味の結果は、PtOEPドープデバイスからの発光が、飽和赤色発光に関して、TPPドープデバイスのものよりも著しく良いことである。なぜなら、700nmより高い所では長い波長テイル又はピークは存在しないからである。外部量子収率であるこれらのデバイスについての量子効率を表D1に列挙する。夫々の場合について、ドープしたデバイスと平行に製造した基準デバイス(ITO/TPD/Alq_(3)/Mg:Ag)のものと一緒に効率が列挙されている。低い駆動電圧では、ドープしたデバイスの効率が優れているが、高い電圧ではドープしてないデバイスが大きな効率を有する。これらの結果は、PtOEPドープデバイスが、従来のAlq_(3)ドープデバイスに匹敵する効率を持って作動することができることを示している。
【0171】
数日間周囲環境条件に曝したPtOEPデバイスの保存寿命は、ドープしていないAlq_(3)デバイスに匹敵し、ドーパントとしてTPPを用いて製造したデバイスよりも決定的に優れていることが観察された。
【0172】

【0173】
そのようなOLEDは、例えば、約10μsec以下のスイッチング時間を有する受動マトリックス平面パネル表示器、スイッチング時間が約10msecでありさえすればよい活性マトリックス表示器、又は低解像力表示器用途に用いることができる。燐光化合物は、一般に式D-I:
【0174】
【化45】

【0175】
(式中、Xは、C又はNであり、
R_(8)、R_(9)及びR_(10)は、夫々独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択され、
R_(9)及びR_(10)は、一緒になって融合環を形成していてもよく、
M_(1)は、二価、三価、又は四価の金属であり、
a、b及びcは、夫々0又は1であり、然も、XがCである場合、aは1であり;XがNである場合、aは0であり;cが1である場合、bは0であり;bが1である場合cは0である。)
の化学構造を有する燐光化合物から選択される。
【0176】
燐光化合物は、別の例として、部分的又は完全に水素化された燐光ポルフィリン化合物から選択することもできる。
【0177】
燐光寿命に従って燐光化合物を選択することに加えて、或る用途では約10μ秒以下の燐光寿命を有する化合物を選択することを意味するが、燐光化合物は、電荷キャリヤー物質から励起子三重項エネルギーを選択的に捕捉し、次にその励起エネルギーを、Alq_(3)系OLEDのPtOEPにより示されるような高度に飽和した色に相当する狭い発光帯域中の燐光として発するように選択される。
【0178】
PtOEP自身は、OLED中の燐光化合物として用いられる最も望ましい性質の組合せを有することが証明されているが、そのような化合物は人間の目の標準CIE明所視反応機能が約550nmの所に中心を持つ視感透過率の縁近くの飽和赤色発光を生ずる利点を有する。特に、スペクトルの青色及び赤色端部では、波長の関数として視感度に急激な減少が存在する。
【0179】
もし大きな外部量子効率を持つが、視感度が実質的に一層高くなる所の幾らか短い波長の所に狭いピークを有する飽和赤色発光であると認められるものを生ずる蛍光化合物が見出されるならば、望ましいであろう。例えば、もし発光帯域幅が実質的に一定に保たれ、発光ピークが同じ数のホトン(photon)を生ずるOLED、例えば、同じ電流及び量子収量を有するOLEDについて約20nm短波長側へ移行することができるならば、デバイスの知覚される輝度は約2倍増大するであろう。即ち、二つのデバイスから来るホトン数が同じでも、標準の観察者は、短波長にピークを有するデバイスについては輝度が2倍増大したと知覚するであろう。しかし、発光は依然として飽和赤色として知覚される範囲内にあり、従って、OLEDとして有用であろう。
【0180】
従って、本発明は、更に燐光減衰過程によりデバイスからの発光が得られるOLEDに関し、この場合燐光減衰速度は、表示デバイスの要件に合うように充分速く、特に燐光ドーパント化合物は、例えば、PtOEPの四重対称を持つ場合と比較して少ない対称性を持つ白金ポルフィリンからなる。
【0181】
OLEDの発光物質として白金ポルフィリン化合物のような燐光ドーパント化合物を選択する利点は、就中、二つの特別な事実に基づいている。第一はこの化合物の光ルミネッセンス量子収量がTPPのような従来化合物より大きいことである。例えば、PtOEPは50%より大きな光ルミネッセンス量子収量を有し、固体状態では90%位の高さであるのに対し、TPPは僅か約10%の光ルミネッセンス量子収量しか持たない。光ルミネッセンス量子収量の改良は、増大した効率を持つOLEDの製造を可能にする。
【0182】
白金ポルフィリン化合物のような燐光化合物を選択することによって与えられる第二の利点は、そのような化合物からの発光が典型的には三重項状態から来ることである。三重項状態へ励起することができる分子は、非放射性励起子三重項状態から燐光放射線としてこのエネルギーを放射発光することができる三重項状態へエネルギーを移行させる可能性を与える。三重項状態からくる放射線と呼ぶ燐光は、典型的には、一重項状態からの放射線と呼ばれている蛍光よりも遥かに低い速度で起きるが、白金ポルフィリン化合物のような化合物からの燐光は、或る表示デバイスの要件を満足するのに充分な位速い。特にAlq_(3)層中のドーパントとして用いた場合、約7μsecの寿命を有するPtOEPのような化合物を、約10μsec以下の速さのスイッチング時間を必要とする受動マトリックス表示器に用いるか、又はスイッチング時間が約10msecでありさえすればよい活性マトリックス表示器に用いることができる。
【0183】
本発明の特別の利点は、視感曲線のピークの方へ発光ピークを移行するが、依然として飽和赤色として知覚されるスペクトル範囲内に入っているように、燐光白金ポルフィリン化合物を選択することである。特に、PtOEPのような化合物を、ポルフィリンリガンドの四重対称性を壊すことにより化学的に変化させることにより、発光ピークが、PtOEPと比較して約15?30nm短波長側へ移行させることができることが見出された。
【0184】
本発明は、特に式E-II:
【0185】
【化46】

【0186】
(式中、R基、R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)は独立にアルキル、アリール又は水素であり、但しR基の少なくとも一つは少なくとも他のR基の一つと異なっている。)
の構造を有する燐光ドーパント化合物を含むOLEDに関する。
【0187】
更に特に、本発明のOLEDは、式E-III:
【0188】
【化47】

【0189】
(式中、R_(5)及びR_(6)は、電子供与体又は電子受容体基であり、例えば、-F、-CN、又は-OCH_(3)であり、R_(5)及びR_(6)は同じでも異なっていてもよい。)の構造を有する燐光化合物を有する。
【0190】
OLEDで用いられる代表的化合物として、ポルフィリンの5、15位置にあるフェニル基を、図5E1に示されているような白金(II) 5,15-メモ-ジフェニルポルフィリン化合物(PtDPP)に到達するように選択的に置換することにより燐光白金化合物を選択することができる。別法として、白金化合物は、図5E1に示したような残りの5,15-置換ポルフィリン化合物のどの一つからでも製造することができる。特に、本発明の代表的な態様として、燐光白金ポルフィリン化合物は、5,15-メモ-ジフェニルポルフィリン(H_(2)DPP);5,15-メモ-ビス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリン(H_(2)BPFPP);5,15-メモ-ビス(4-シアノフェニル)ポルフィリン(H_(2)BCPP);又は5,15-メモ-ビス(4-アニシル)ポルフィリン(H_(2)BAP)から製造することができる。そのような化合物は、後に記載するような方法により製造することができる。
【0191】
本発明の代表的な態様として、燐光白金ポルフィリン化合物としてPtDPPをドープしたOLEDが製造された。図5E2に示すように、ポリビニルカルバゾールの重合体マトリックス中にPtDPPをドープしたOLED(PtDPPドープ重合体OLEDと呼ぶ)のエレクトロルミネッセンススペクトルは、ポリスチレン中のPtDPPの光ルミネッセンスピークに近い所に発光ピークを生じた。これらのピークは、PtOEPドープAlq_(3)層を有するOLEDのエレクトロルミネッセンススペクトルと比較して短波長側へ約20nm移動していた。
【0192】
図5E3aに示したように、ITO/NPD/Alq_(3)-PtDPP/MgAg(PtDPPがAlq_(3)層中にドープされている)の層からなるOLEDの場合、9V、15V、又は24Vで作動させたOLEDの場合、約630nmの所に発光ピークを有する狭い帯域のエレクトロルミネッセンススペクトルを生じた。Alq_(3)系装置は、電圧を増大するに従って僅かに青へ移行するが、これは明らかに500?550nmのスペクトル範囲内のAlq_(3)発光の増大によるものである。図5E3bに示したように、PtDPPをドープしたAlq_(3)層を有するOLEDの場合、PtOEPをドープしたAlq_(3)層を有するOLEDにより生じた発光ピークと比較して、発光ピークは約15nm短波長側へ移行していた。これらの結果は、同じ量子収量を有するOLEDについて、PtDPPドープAlq_(3)層を有するOLEDは、PtOEPドープAlq_(3)層を有するOLEDよりも1.4倍の輝度を持つことを示している。
【0193】
発光ピークに15?20nmの青色移行を起こしたOLEDを製造する実質的重要性は、図5E4に示したCIE色度座標の右端に示されているデータにより例示することができる。この図には、CIE色度曲線が示されており、600、650及び700nmの所の飽和単色線の(x,y)座標が夫々含まれている。PtDPPをドープしたAlq_(3)層を有するOLEDにより生じた発光の(x,y)座標を、DCM2、インジゴ及びPtOEPのような他の赤色発光ドーパントを含むOLEDと比較する。
【0194】
図5E5に破線で示した人間の目の感度についてのCIE標準明所視反応曲線を用いることにより、与えられた明所視発光レベルでの相対的輝度を、次の式によって示されるような明所視反応曲線を用いて標準化した発光スペクトルの重なりを計算することにより決定することができる。
【0195】
I(ルーメン)∝∫(明所視反応)(ELスペクトル)dλ
〔式中、I(ルーメン)は、知覚された強度(ルーメン)である。この関数は視感重なり積分として言及されている。図E5に示した代表的データにより例示されているように、PtDPP発光OLEDの視感重なり積分は0.17(相対的単位)であり、PtOEP発光OLED0.13よりもかなり大きい。正味の結果は、PtDPP発光OLEDについては、CIE座標が色度座標の飽和赤色領域内に留まっているが、知覚された輝度は、PtOEP発光OLEDの場合よりも40%以上大きい。
【0196】
DCM2発光OLEDの視感重なり積分は、PtDPP又はPtOEPの場合よりもかなり大きい(夫々0.17又は0.13に対し0.19)が、即ち、もし同じ明所視出力レベルが実現されるならば、DCM2発光OLEDは実際明るいと言えるものではない。なぜなら、DCM2発光OLEDの量子効率は燐光Pt含有化合物を用いて作ったOLEDによって実現されるものよりも実質的に小さいからである。
【0197】
DCM2は、式:
【0198】
【化48】

【0199】
によって表される構造を有するが、OLED用途で有用な赤色発光発色団として記載されている。C.W.タング(Tang)等、「ドープした有機薄膜のエレクトロルミネッセンス」(Electroluminescence of doped organic thin films)、J.Appl.Phys.65,3610(1989)。」

(エ)「【0294】
D.燐光ドーパント化合物を含む発光層を有するOLEDの例
有機発光デバイス(OLED)の製造に用いた手順は次の通りであった。
ホール輸送材料TPD及び電子輸送材料Alq_(3)を、文献の手順に従って合成し、使用する前に昇華した。ドーパントPtOEPはユタ州ローガンのポルフィリン・プロダクツ社から購入し、受け取ったまま用いた。
【0295】
OLEDは次の手順を用いて製造した:
ITO/硼珪酸塩基板(100Ω/□)を、洗浄剤を用いて5分間超音波にかけ、次に脱イオン水で濯くことにより清浄にした。それらを、次に2分間、沸騰する1,1,1-トリクロロエタン中で2回処理した。それら基板をアセトンと共に2分間2回超音波にかけ、メタノールで2分間2回超音波にかけた。
【0296】
蒸着する前にバックグラウンド圧力を通常7×10^(-7)トール以下にし、蒸着中の圧力を約5×10^(-7)?1.1×10^(-6)トールにした。
【0297】
全ての化学物質を、種々のタンタルボート中で抵抗加熱した。先ずTPDを1?4Å/秒の速度で蒸着した。その厚さは典型的には300Åに調節した。
【0298】
電子輸送層Alq_(3)にPtOEPをドープした。典型的には、基板を覆ったままドーパントを先ず気化した。ドーパントの速度が安定化した後、ホスト材料を或る速度まで気化した。次に基板上の覆いを開け、ホスト及びゲストを希望の濃度で蒸着した。ドーパントの速度は通常0.1?0.2Å/秒であった。この層の全厚さは約450Åに調節した。
【0299】
次に基板を蒸着装置から取り出し、基板上にマスクを直接置いた。マスクはステンレス鋼シートから作られており、0.25、0.5、0.75、及び1.0mmの直径を持つ孔が開いていた。次にそれら基板を真空中へ戻し、更に被覆した。
【0300】
マグネシウム及び銀を、通常2.6Å/秒の速度で同時に蒸着した。Mg:Agの比率は7:1?12:1の範囲にあった。この層の厚さは、典型的には500Åであった。最後に1000ÅのAgを1?4Å/秒の速度で蒸着した。
【0301】
デバイスの特徴は、製造してから5時間以内に決定した。典型的には、エレクトロルミネッセンススペクトル、I-V曲線、及び量子収量を直接前面から測定した。
【0302】
E.対称性の少ない燐光ドーパント化合物を含む発光層を有するOLEDの例
ホール輸送材料TPD及び電子輸送材料Alq_(3)を、文献の手順に従って合成し、使用する前に昇華した。ドーパントPtDPP化合物、及び同じく白金化されていてもよい付加的ポルフィリン化合物を、下に記載するように合成した。
【0303】
OLEDは次の手順を用いて製造した:
ITO/硼珪酸塩基板(100Ω/□)を、5分間、洗浄剤と共に超音波にかけ、次に脱イオン水で濯くことにより清浄にした。それらを、次に2分間、沸騰する1,1,1-トリクロロエタン中で2回処理した。それら基板をアセトンと共に2分間2回超音波にかけ、メタノールで2分間2回超音波にかけた。
【0304】
蒸着する前にバックグラウンド圧力を通常7×10^(-7)トール以下にし、蒸着中の圧力を約5×10^(-7)?1.1×10^(-6)トールにした。
【0305】
全ての化学物質を、種々のタンタルボート中で抵抗加熱した。先ずTPDを1?4Å/秒の速度で蒸着した。その厚さは典型的には300Åに調節した。
【0306】
電子輸送層Alq_(3)にドーパント化合物、例えばPtDPPをドープした。典型的には、基板を覆ったままドーパントを先ず気化した。ドーパントの速度が安定化した後、ホスト材料を或る速度まで気化した。次に基板上の覆いを開け、ホスト及びゲストを希望の濃度で蒸着した。ドーパントの速度は通常0.1?0.2Å/秒であった。この層の全厚さは約450Åに調節した。
【0307】
基板を蒸着装置から取り出し、基板上にマスクを直接置いた。マスクはステンレス鋼シートから作られており、0.25、0.5、0.75、及び1.0mmの直径を持つ孔が開いていた。次にそれら基板を真空中へ戻し、更に被覆した。
【0308】
マグネシウム及び銀を、通常2.6Å/秒の速度で同時に蒸着した。Mg:Agの比率は7:1?12:1の範囲にあった。この層の厚さは、典型的には500Åであった。最後に1000ÅのAgを1?4Å/秒の速度で蒸着した。
【0309】
デバイスの特徴は、製造してから5時間以内に決定した。典型的には、エレクトロルミネッセンススペクトル、I-V曲線、及び量子収量を直接前面から測定した。
【0310】
化合物の合成及びそれらの特性
2,2’-ジピリルメタンを、文献の手順〔Aust.J.Chem.,22,229-249(1969)〕を修正して製造した。
【0311】
2,2’-ジピリルチオン。150mlの乾燥THF中にチオホスゲン7.0ml(90mM)を入れた激しく撹拌した溶液に、12.5g(186mM)のピロールを滴下した。30分後、メタノール(20ml)を添加し、混合物を室温で30分間更に撹拌した。次に、得られた混合物を乾燥するまで蒸発した。この粗製材料を、更に精製することなく次の段階で用いた。
【0312】
2,2’-ジピリルケトン。前述の粗製チオンを10gのKOHを含有する200mlの95%EtOHの中に入れたものへ、0℃で17mlのH_(2)O_(2)(30%)をゆっくり添加した。その混合物を、0℃で2時間撹拌し、次に60℃で30分間撹拌し、然る後、その最初の体積の1/5まで濃縮した。100mlのH_(2)Oを添加し、沈澱物を濾過し、冷EtOHで洗浄し、乾燥した生成物(5.6g,チオホスゲンから39%)を得、それは次の段階で用いるのに充分純粋であった。
【0313】
2,2’-ジピリルメタン。3.3mlのモルホリンを含有する200mlの95%のエタノール中に3.3g(20.1mM)の2,2’-ジピリルケトンを入れた溶液に、N_(2)中で還流させながらNaBH_(4)を数回にわけて(1.7g×6)添加した。各添加後10分して3mlのH_(2)Oを添加した。最後の添加後、混合物を更に2時間還流させた。次に300mlのH_(2)Oを添加し、その混合物をEt_(2)Oで数回抽出した。抽出物を一緒にし、MgSO_(4)で乾燥し、濃縮して濃い油を得、それをヘキサンで、抽出物がTLCにより認め得る程の量の生成物を示さなくなるまで、抽出した。一緒にしたヘキサン部分を濃縮し、生成物として2.3g(78%)の淡黄色の結晶を得た。
【0314】
5,15-メソ-ジフェニルポルフィリンの一般的合成:
2,2’-ジピリルメタン(0.5g、3.42mM)及び等モル量のアルデヒドを500mlの乾燥CH_(2)Cl_(2)中に溶解した。その溶液をN_(2)で15分間パージした。次にトリフルオロ酢酸(154μl、2.6mM)を注射器で添加し、混合物を3時間N_(2)中で光を当てないようにして撹拌した。2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノキノン(1.04g、4.6mM)を添加し、撹拌を30分間続けた。得られた暗い溶液をその最初の体積の1/3まで濃縮し、ヘキサンでシリカゲルを詰めたカラムに注いだ。CH_(2)Cl_(2)で溶離することにより紫の帯域を与え、それを濃縮して紫の固体を得、それを濾過し、エタノールで洗浄し、次にヘキサンで洗浄した。それら固体は、光ルミネッセンスの測定を行なうのに充分純粋であった。
【0315】
5,15-メモ-ジフェニルポルフィリン(H_(2)DPP):収率:0.63g、80%、MS(El)m/z(相対強度)462(M^(+)、100)、386(50)、368(30)、313(25)、231(50)。
5,15-メモ-ビス(ペンタフルオロフェニル)ポルフィリン(H_(2)BPFPP):収率:0.05g、5%、MS(El)、m/z(相対強度)642(M^(+)、100)、632(8)、602(8)、368(45)、321(35)、236(40)。
5,15-メモ-ビス(4-シクロフェニル)ポルフィリン(H_(2)BCPP):収率:0.09g、10%、MS(El)、m/z(相対強度)512(M^(+)、100)、411(50)、368(35)、355(40)、294(45)、281(50)。
5,15-メモ-ビス(4-アニシル)ポルフィリン(H_(2)BAP):収率:0.09g、10%、MS(El)m/z(相対強度)522(M^(+)、8)、416(100)、401(20)、372(23)。
【0316】
白金(II)5,15-メモ-ジフェニルポルフィリン(PtDPP)。10mlの乾燥トルエン中にH_(2)DPP(0.05g、0.11mM)及びPt(PhCN)_(2)Cl_(2)(0.1g、0.22mM)を入れた混合物を、N_(2)中で24時間還流した。得られた溶液を真空中で完全に乾燥し、微量のPhCNを除去した。暗い固体をCH_(2)Cl_(2)中に溶解し、ヘキサン:CH_(2)Cl_(2)(1:1v/v)を用いてクロマトグラフにかけ、生成物として赤色固体(0.04g、56%)を得た。1H NMR:δ10.15(s、2H)、9.207(dd、4H、J_(1)=12Hz、J_(2)=7.5Hz)、8.93(dd、4H、J_(1)=12Hz、J_(2)=7.5Hz)8.18(m、4H)、7.77(m、6H)。%、MS(El)m/z(相対強度)655(M^(+)、100)、577(30)、326(50)、288(35)。」

(オ)「【図4D1】

【図4D2】

【図4D3】

【図4D4】

【図4D5】

【図5E1】

【図5E2】

【図5E3a】

【図5E3b】

【図5E4】

【図5E5】



なお、他に、段落【0329】の(62)?(64)、(66)、(70)?(77)、(79)、(81)、(84)?(89)には、上記記載事項(ア)?(オ)に記載された事項に含まれる事項が記載されているが、重複するので、省略する。

(2)本件特許発明が解決しようとする課題
本件特許発明1?6、9?10が解決しようとする課題について、本件特許明細書には、「(背景技術)」の項目中の記載である、上記(ア)の記載事項中の段落【0026】に「・・・第二の問題は、TPPドープOLEDは非常に不安定であり、そのためそのようなデバイスの保存寿命が非常に短いのが典型的である。TPPドープ装置のこれらの二つの特徴が改善されることが望ましいであろう。本発明は、従来のデバイスのこれらの問題に対処することを目的としている。」、【0027】に「本発明の別の特徴は、スピン統計議論に基づき、OLED中に生じた励起子の大部分が非発光三重項電子状態になっていることが一般に理解されている。そのような三重項状態の形成は、OLEDの励起エネルギーの基底状態への無放射遷移による実質的な損失を与える結果になる。この励起子三重項状態を通るエネルギー遷移経路を利用することにより、例えば、励起子三重項状態エネルギーを発光物質へ移行させることにより、全OLED量子効率を向上させることができれば望ましいであろう。」という記載(いずれも、下線は当審が付した。)がある。
また、甲第11号証に、「したがって、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取って励起状態となり、かつ、常温で蛍光又はリン光を発光する性質のある第2の有機色素を選択することができる。・・・例えば、第1の有機色素中に第2の有機色素として、第1の有機色素の励起一重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素と、第1の有機色素の励起三重項状態から励起エネルギーを受け取る有機色素とを分散させることにより、効率よく発光させることが可能となる。」(公報第3頁右上欄第11行?同頁左下欄第2行)、「すなわち、1(○付き数字)については、常温でもリン光が観測される色素があり、これを第2の有機色素として用いることにより、第1の有機色素の励起三重項状態のエネルギーを効率よく利用することができる。」(公報第5頁左上欄第19行?同頁右上欄第3行)と記載されるように、第1の有機色素の励起三重項状態のエネルギーを受け取り、リン光(励起三重項状態からの発光)を発光する第2の有機色素を用いた場合、効率よく発光させることができるという理論的可能性が当業者には知られている。
そして、本件特許の優先日時点では、甲第12号証?甲第15号証に記載されるように、励起一重項状態からの発光(蛍光)よりも効率よく発光できる励起三重項状態からの発光(燐光)が可能な材料の研究が行われていたという状況をも考慮すれば、本件特許発明の課題は、理論的可能性としては知られていた、非放射性励起子三重項状態のエネルギーを励起子三重項状態のエネルギーに移行させ、励起子三重項状態から燐光放射線を発光する、具体的な有機電界発光材料を見いだすことであるといえる。

(3)課題を解決できると認識できる範囲
請求人は、電荷キャリアーホスト材料とドーパントの両者を特定して実験を行った組み合わせ以外の組み合わせでは課題を解決できないと主張し、被請求人は、特定の組み合わせ以外にも、一群の燐光材料の開示及び他のホスト材料の開示等から当業者が適切な組み合わせを見つけることができると主張していることから、電荷キャリアーホスト材料とドーパントの両者について、以下に検討する。

(a)電荷キャリアーホスト材料について
上記「第4」「1.」「(1)」「(ア)」?「(オ)」の記載から、電荷キャリアーホスト材料は非放射性励起子三重項状態からドーパントとして用いられる燐光材料の三重項励起状態にエネルギーを移行させる役割を果たすものであるから、電荷キャリアーホスト材料に求められる性質は、電荷(電子及び/又はホール)輸送性を有すること、及び、電気励起可能であって、ドーパントとして用いられる燐光材料の三重項励起状態にエネルギーを移行することが可能であることの2点であることは、当業者には明らかである。
そして、本件特許の優先日当時、電荷(電子及び/又はホール)輸送性を有し、かつ、電気励起可能である多数の化合物が知られており、また、電荷キャリアーホスト材料が非放射性励起子三重項状態からドーパントとして用いられる燐光材料にエネルギーを移行することが可能であるか否かは、電荷キャリアーホスト材料の三重項励起状態のエネルギーとドーパントとして用いられる燐光材料の三重項励起状態のエネルギーとを比較することにより、ある程度の予測が付くことが当業者の技術常識であったから、当業者であれば、本件特許発明の「電荷キャリアーホスト材料」として、公知の、電荷(電子及び/又はホール)輸送性を有し、かつ、電気励起可能である化合物の中から、ドーパントとして用いられる燐光材料が決まれば、それに適したものを選択して使用することができると認められる。

(b)ドーパントとして用いられる燐光材料について
本件特許明細書には、上記課題を解決するための技術事項として、段落【0161】?【0199】に記載されるように、ドーパントとして用いられる燐光材料として、
【化44】(略)、
【化45】(略)
(式中、Xは、C又はNであり、
R_(8)、R_(9)及びR_(10)は、夫々独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択され、
R_(9)及びR_(10)は、一緒になって融合環を形成していてもよく、
M_(1)は、二価、三価、又は四価の金属であり、
a、b及びcは、夫々0又は1であり、然も、XがCである場合、aは1であり;XがNである場合、aは0であり;cが1である場合、bは0であり;bが1である場合cは0である。)、
【化46】(略)
(式中、R基、R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)は独立にアルキル、アリール又は水素であり、但しR基の少なくとも一つは少なくとも他のR基の一つと異なっている。)、
又は、
【化47】(略)
(式中、R_(5)及びR_(6)は、電子供与体又は電子受容体基であり、例えば、-F、-CN、又は-OCH_(3)であり、R_(5)及びR_(6)は同じでも異なっていてもよい。)
、という燐光発光化合物を使用することが記載されている。
ここで、【化45】における、M_(1)は、二価、三価、又は四価の金属であるという特定については、甲第12号証(第2596頁左欄下から3行?同頁右欄第3行参照)に記載されるように、金属錯体は、配位子と金属イオンとの間のスピン軌道相互作用により、配位子分子が燐光を発光すること、すなわち、配位子と金属イオンの具体的な組み合わせにより、燐光発光するか否か、また、どの程度の温度で燐光発光するかが左右されることが知られていたことを考慮すると、本件特許明細書には、【化45】において、M_(1)がPtであるときは燐光発光することは記載されているが、M_(1)が他にどのような二価、三価、又は四価の金属であれば燐光発光するかは記載されておらず、かつ、本件特許の優先日当時、Ptの他に、【化45】が燐光発光する二価、三価、又は四価の金属の存在が知られていなかったことから、【化45】において、実質的に、ドーパントとして用いられる燐光材料として開示されていると認められるのは、M_(1)がPtのもののみであると認められる。
また、本件特許の優先日当時、有機ELデバイスにおいて、いかなる化学物質が、常温でも燐光が観測されるドーパント材料として、ホスト材料の非放射性励起子三重項状態からエネルギーを受け取り、三重項励起状態に励起されて、この三重項励起状態から室温で燐光放射線を発光するのかが、当業者の技術常識として解明されていたとも認められないから、本件特許明細書に記載された上記化合物の他に、どのような化合物が、有機ELデバイスにおいて、燐光が観測されるドーパント材料として、ホスト材料の非放射性励起子三重項状態からエネルギーを受け取り、三重項励起状態に励起されて、この三重項励起状態から燐光放射線を発光するのかは不明であるというほかない。

すると、上記(a)及び(b)で検討した事項から、本件特許明細書の記載において、上記課題を解決できると認識できる範囲、又は、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲は、
発光層を有する、エレクトロルミネッセンスを生ずることができる有機発光デバイスであって、
前記発光層は、電荷キャリアーホスト材料と、前記電荷キャリアーホスト材料のドーパントとして用いられる燐光材料とからなり、
燐光材料が、
【化44】(略)、
【化45】(略)
(式中、Xは、C又はNであり、
R_(8)、R_(9)及びR_(10)は、夫々独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群から選択され、
R_(9)及びR_(10)は、一緒になって融合環を形成していてもよく、
M_(1)は、白金であり、
a、b及びcは、夫々0又は1であり、然も、XがCである場合、aは1であり;XがNである場合、aは0であり;cが1である場合、bは0であり;bが1である場合cは0である。)、
【化46】(略)
(式中、R基、R_(1)、R_(2)、R_(3)及びR_(4)は独立にアルキル、アリール又は水素であり、但しR基の少なくとも一つは少なくとも他のR基の一つと異なっている。)、
又は、
【化47】(略)
(式中、R_(5)及びR_(6)は、電子供与体又は電子受容体基であり、例えば、-F、-CN、又は-OCH_(3)であり、R_(5)及びR_(6)は同じでも異なっていてもよい。)
であり、
前記有機発光デバイスに電圧を印加すると、前記電荷キャリアーホスト材料の非放射性励起子三重項状態のエネルギーが前記燐光材料の三重項分子励起状態に移行することができ、且つ前記燐光材料の前記三重項分子励起状態から燐光放射線を発光する有機発光デバイス
、であると認められる。

(4)結論
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記課題を解決できると認識できる範囲、又は、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲は上述のとおりであって、励起子三重項状態から燐光放射線を発光する有機電界発光材料として見いだされたのは、上述の【化44】?【化47】(ただし、M_(1)は白金である。)のみであるのに対して、本件特許発明1?6、9?10は、ドーパントとして用いられる燐光材料として、具体的な材料が何ら限定されていないことは、具体的な材料を限定した請求項7及び8が直接あるいは間接に請求項1?6を引用していることも考慮すれば、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?6、9?10の記載から明らかである。そして、ドーパントとして用いられる燐光材料として、具体的な材料が何ら限定されていない本件特許発明1?6、9?10には、例えば、金属を考えてみても、蛍光EL発光材料、極低温での燐光発光を示す燐光EL発光材料や燐光PL発光材料である金属錯体に使用されるEu、Gd(いずれも甲第12号証参照)、Ru(甲第16号証、甲第16号証、甲第20号証、甲第21号証参照)、Ir(甲第23号証参照)等というPt以外の金属が広く含まれることになる。
してみると、本件特許発明1?6、9?10は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいうことはできず、発明の詳細な説明の記載の範囲を超えているものである。

したがって、本件特許発明1?6、9?10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

3.無効理由6
請求人は、上述のとおり、無効理由6として、外国語特許出願である本件特許出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が国際出願日における国際出願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「国際出願明細書等」という。)に記載した事項の範囲内にないから、本件特許出願は特許法第184条の18による読み替え後の特許法第123条第1項第5号に該当し、本件特許発明1?6、9?10の特許は無効とすべきである旨、主張しているので、以下に検討する。

(1)本件特許明細書の記載
国際出願明細書等のうち、本件特許発明1?6、9?10に関する記載は、以下のとおりである。(国際出願明細書等は、本件国際公開公報の記載に基づく。)

(カ)「Co-pending U.S. 08/774,333, filed December 23, 1996, is directed to OLEDs containing emitting compounds that produce a saturated red emission. The emission layer is comprised of an emitting compound having a chemical structure represented by Formula I:

wherein X is C or N; R_(8), R_(9) and R_(10) are each independently selected from the group consisting of hydrogen, alkyl, substituted alkyl, aryl and substituted aryl; wherein R_(9) and R_(10) may be combined together to form a fused ring;
M_(1) is a divalent, trivalent or tetravalent metal; and
a, b and c are each 0 or 1 ; wherein, when X is C, then a is 1 ; when X is N, then a is 0;
when c is 1 , then b is 0; and when b is 1 , c is 0.

The examples disclosed in Serial No. 08/774,087 included an emissive compound of formula I wherein X = C; R_(8) = phenyl;
R_(9) = R_(10) = H; c = 0; and b = 1. This compound has the chemical name 5,10,15,20- tetraphenyl-21 H,23H-porphine (TPP). OLEDs comprised of the TPP-containing emissive layer produce an emission spectrum comprised of two narrow bands that are centered at about 650 and about 713 nm, as shown in Fig. 1. The emission from this device involves fluorescence from the TPP dopant. One of the problems with the TPP-doped device is that the narrow band at 713 nm, which comprises about 40% of the emission, is not within a range that is useful for display applications. A second problem is that TPP-doped OLEDs are very unstable, such that the shelf life of such devices is typically very short. It would be desirable if these two aspects of TPP-doped devices could be improved. The present invention is directed to addressing these problems of prior art devices.

Another aspect of the present invention relates to the fact that, based on spin statistical arguments, it is generally understood that the majority of the excitons that are produced in an OLED are in a non-emissive triplet electronic state. Formation of such triplet states can result in a substantial loss of the excitation energy in the OLED via radiationless transitions to the ground state. It would be desirable if the total OLED quantum efficiency could be enhanced by utilizing this energy transfer pathway through the exciton triplet states, for example, by having the exciton triplet state energy transferred to an emissive material. Unfortunately, though it is known that the energy from an excited triplet state may be efficiently transferred under certain circumstances to the triplet state of a molecule that phosphoresces, the phosphorescent decay rate is typically not expected to be rapid enough to be adequate for use in a display device. The present invention is further directed to OLEDs which also address such problems of prior art devices.」
(第10頁第1行?第11行第22行)

(キ)「The present invention is yet further directed to OLEDs, and a method of fabricating OLEDs, in which emission from the device may be obtained via a phosphorescent decay process wherein the phosphorescent decay rate is rapid enough to meet the requirements of a display device.

More specifically, the present invention is further directed to OLEDs that may also be comprised of a material that is capable of receiving the energy from an exciton singlet or triplet state and emitting that energy as phosphorescent radiation.

One of the benefits of the present invention is that the phosphorescent decay process utilizes exciton triplet state energy that is typically wasted in an OLED via a radiationless energy transfer and relaxation process. The present invention is further directed to OLEDs that may be comprised of materials capable of producing a highly saturated red emission. More specifically, OLEDs of the present invention may also be comprised of platinum octaethylporphine (PtOEP), a compound that produces a narrow emission band that peaks near 640 nm when the PtOEP is doped in an electron transporting layer comprised of tris-(8-hydroxyquinoline)-aluminum (Alq_(3)). Such emission is perceived as highly saturated red emission.

Another of the benefits of PtOEP-doped OLEDs is that such OLEDs have a stability, when the device is exposed to ambient environmental conditions for a few days, that is comparable to prior art devices and, in particular, a decidedly greater shelf life stability as compared with TPP-doped devices.

The present invention is still further directed to materials and methods for fabricating OLEDs in which the phosphorescent dopant compound produces a highly saturated red emission in a spectral region for which the photopic response function for the human eye is significantly increased as compared with PtOEP-doped OLEDs.

More specifically, the present invention is further directed to a method of selecting phosphorescent dopant compounds for use in an OLED, wherein the phosphorescent compound may be selected to be a platinum-porphine compound having reduced symmetry as compared with the 4-fold symmetry of compounds such as PtOEP, so as to obtain compounds having an emission peak shifted toward the peak of the eye sensitivity curve, while still remaining in a spectral region that is perceived as saturated red.」
(第18頁第22行?第19頁第26行)

(ク)「The present invention is still further directed to OLEDs in which emission from the device is obtained via a phosphorescent decay process wherein the phosphorescent decay rate is rapid enough to meet the requirements of a display device. As a representative embodiment of the present invention the emission layer is comprised of an emitting compound having a structure represented by Formula D-l:

wherein M = Pt; a = 1; b = 0; c = 1 ; X = C; and R_(8) = H; and
R_(9) = R_(10) = Et (ethyl). In particular, this compound, platinum octaethylporphine(PtOEP), has the chemical structure of formula D-ll:

The advantage of selecting a dopant compound such as PtOEP as the emissive material of an OLED is based, inter alia, on two particular facts. First, the photoluminescent quantum yield for this molecule is significantly greater than TPP, PtOEP having a photoluminescent quantum yield of greater than 50%, and as high as 90% in the solid state, and TPP having a photoluminescent quantum yield of only about 10%. The improved photoluminescent quantum yield makes it possible to fabricate OLEDs with increased efficiencies. A second advantage that is offered by selecting a phosphorescent compound such as PtOEP is that the emission from such a molecule comes from a triplet state. A molecule that is capable of being excited to a triplet state provides the possibility of having the energy transferred from the non-emissive exciton triplet state to a triplet state that is capable of radiatively emitting this energy as phosphorescent radiation. Though phosphorescence, which refers to radiation that comes from a triplet state, typically occurs at a much slower rate than fluorescence, which refers to radiation from a singlet state, the phosphorescence from a compound such as PtOEP is, nevertheless, sufficiently rapid to satisfy the requirements of certain display devices. In particular, a compound such as PtOEP, which has a lifetime of about 7 μsec when used as the dopant in an Alq_(3) layer, may be used in passive matrix displays that require a switching time of not faster than about 10 μsec or in an active matrix display for which the switching time only needs to be about 10 msec.

As a representative embodiment of the present invention, the PtOEP may be doped into the Alq_(3) layer of an ITO/TPD/Alq_(3)/Mg-Ag OLED. The behavior of such PtOEP- doped OLEDs is very different from OLEDs prepared with TPP dopants. At doping levels greater than 0.5 mol % TPP, the emission from the OLED is exclusively from the TPP. In contrast, at low to moderate doping levels of PtOEP in Alq_(3), the emission is dominated by PtOEP emission at low voltage, but as the voltage is increased, Alq_(3) emission appears. At moderately high voltages (e.g., 15 V) the majority of the emission comes from Alq_(3). The EL spectra for a 0.6 mol % PtOEP doped OLED are given in Fig. D2. The spectra for 1.3 mol % PtOEP have about the same shape as those shown for the 0.6 mol % device. The shape of the spectra of an OLED prepared with 6 mol % PtOEP are shown in Fig. D3. As the voltage is increased, the intensity of the red emission increases significantly, but a contribution from Alq_(3) emission is not observed, even at a high voltage.
While the present invention is not limited by the theory of how it works, it is believed that the explanation for the increase in Alq_(3) emission as the voltage is increased is related to the different lifetimes for photoluminescence for Alq_(3) and PtOEP. The PL lifetime for Alq_(3) is about 13 nsec (nanoseconds) in both the solid state and in solution, whereas the PL lifetime of PtOEP varies from about 10 to about 100 μsec (microseconds) depending on the medium. If the voltage applied to the PtOEP- doped device is kept low, the number of excitons transferred to PtOEP is small enough such that the excited PtOEP molecules can relax at a sufficient rate relative to the Alq_(3) exciton creation rate, with the result that there are always enough dopant molecules for energy transfer from the Alq_(3). As the voltage is increased, the available PtOEP dopant molecules become saturated and cannot relax fast enough to keep up with the rate at which the excitons are being created in the Alq_(3). In this higher voltage regime, some of the Alq_(3) excitons relax by radiative emission before the excitation energy can be transferred to the PtOEP molecules. At 6 mol % PtOEP, enough dopant is present to trap all of the excitons, but the higher doping levels lead to decreased overall efficiency.

This explanation is further supported by the results shown in Fig. D4, which show the PL spectra as a function of wavelength at different doping levels for PtOEP-doped Alq_(3) devices. At the lowest doping levels of 0.6 mol %, a large emission band characteristic of Alq_(3) is observed, whereas for the high 6 mol % PtOEP-doping level, there appears to be sufficient PtOEP present to capture all the exciton energy from the Alq_(3).

The emission from the PtOEP-based OLEDs is very narrow and centered at 645 nm. This narrow band, which corresponds to saturated red emission, has a full width at half maximum of about 30 nm. A comparison of the PL spectra as a function of wavelength at different excitation wavelengths for PtOEP in solution, as shown in Fig. D5, with the EL spectrum of a PtOEP-doped Alq_(3) OLED, shows that a PtOEP- doped OLED selectively produces the narrow band of emission from PtOEP that is centered with a peak at about 645 nm. This narrow, highly saturated red emission is produced, with almost the total absence of the other PtOEP peaks, even though a comparison of the PL excitation spectrum of PtOEP with the broad emission band from the Alq_(3) might lead one to expect additional bands centered at about 620 and about 685 nm, as is observed for the PL spectra of PtOEP in solution.

The net result is that the emission from a PtOEP-doped device is significantly better, with respect to the saturated red emission, than that of a TPP-doped device since there is no long wavelength tail or peak above 700 nm. The quantum efficiencies for these devices, which are external quantum yields, are listed in Table D1. In each case, the efficiency is listed along with that of a reference device (ITO/TPD/Alq_(3)/Mg-Ag) prepared in parallel with the doped device. At low drive voltages, the efficiencies of the doped devices are superior, while at higher voltages the undoped device has a higher efficiency. These results show that PtOEP-doped devices are capable of performing with efficiencies comparable to prior art Alq_(3)-doped devices.

The shelf lives of PtOEP devices that were exposed to ambient environmental conditions for a few days were observed to be comparable to undoped Alq_(3) devices and decidedly superior to devices prepared with TPP as the dopant.

Such OLEDs may be used, for example, in passive matrix flat panel displays having a switching time not faster than about 10 μsec, in active matrix displays for which the switching time only needs to be about 10 msec, or in low resolution display applications. The phosphorescent compounds may be generally selected from those phosphorescent compounds which have the chemical structure of formula D-l:

wherein X is C or N;
R_(8), R_(9) and R_(10) are each independently selected from the group consisting of hydrogen, alkyl, substituted alkyl, aryl and substituted aryl;
R_(9) and R_(10) may be combined together to form a fused ring;
M_(1) is a divalent, trivalent or tetravalent metal; and
a, b and c are each 0 or 1 ;
wherein, when X is C, then a is 1 ; when X is N, then a is 0;
when c is 1 , then b is 0; and when b is 1 , c is 0.

The phosphorescent compounds may also be selected, as another example, from phosphorescent porphyrin compounds, which may be partly or fully hydrogenated.

In addition to selecting phosphorescent compounds according to their phosphorescent lifetimes, which for certain applications may mean selecting compounds having a phosphorescent lifetime not longer than about 10 μsec, the phosphorescent compounds may be selected according to their ability to effectively capture the exciton triplet energy from a charge carrier material and then to emit that excitation energy as phosphorescence in a narrow emission band corresponding to a highly saturated color, such as demonstrated by PtOEP in an Alq_(3)-based OLED.

Though PtOEP may itself yet prove to have the most desirable combination of properties for useas the phosphorescent compound in an OLED, such a compound has the disadvantage of producing the saturated red emission near the edge of the eye sensitivity curve, for which the standardized CIE photopic response function of the human eye is centered at about 550 nm. In particular, at the blue and red ends of the spectrum, there is a steep reduction in the eye sensitivity as a function of wavelength.

It would be desirable if phosphorescent compounds could be found which produce what is perceived to be a saturated red emission with a high external quantum efficiency, but with narrow peaks at somewhat shorter wavelengths for which there is a substantially higher eye sensitivity. For example, if the emission bandwidth could be kept substantially constant and the emission peak shifted about 20 nm toward shorter wavelengths, for an OLED producing the same number of photons, for example, an OLED with the same current and quantum yield, the perceived brightness of the device could be increased by a factor of about two. That is, though the number of photons coming from the two devices would be the same, the standard observer would perceive a factor of two increase in brightness for the device having the peak at the shorter wavelength. The emission would, however, be in a region that would still be perceived as saturated red and, thus, still be useful in an OLED.

The present invention is thus further directed to OLEDs in which emission from the device is obtained via a phosphorescent decay process wherein the phosphorescent decay rate is rapid enough to meet the requirements of a display device, and wherein, in particular, the phosphorescent dopant compound is comprised of a platinum porphyrin having reduced symmetry as compared, for example, with the 4-fold symmetry of PtOEP.

The advantage of selecting a phosphorescent dopant compound such as a platinum porphyrin compound as the emissive material of an OLED is based, inter alia, on two particular facts. First, the photoluminescent quantum yield for such compounds may be significantly greater than prior art compounds such as TPP. For example, PtOEP has a photoluminescent quantum yield of greater than 50%, and as high as 90% in the solid state, and TPP has a photoluminescent quantum yield of only about 10%. An improved photoluminescent quantum yield offers the possibility of fabricating OLEDs with increased efficiencies.

A second advantage that is offered by selecting a phosphorescent compound such as a platinum porphyrin compound is that the emission from such a compound typically comes from a triplet state. A molecule that is capable of being excited to a triplet state provides the possibility of having the energy transferred from the non- emissive exciton triplet state to a triplet state that is capable of radiatively emitting this energy as phosphorescent radiation. Though phosphorescence, which refers to radiation that comes from a triplet state, typically occurs at a much slower rate than fluorescence, which refers to radiation from a singlet state, the phosphorescence from a compound such as a platinum porphyrin compound may be sufficiently rapid to satisfy the requirements of certain display devices. In particular, a compound such as PtOEP, which has a lifetime of about 7 μsec when used as the dopant in an Alq_(3) layer, may be used in passive matrix displays that require a switching time of not faster than about 10 μsec or in an active matrix display for which the switching time only needs to be about 10 msec.

A specific advantage of the present invention is that phosphorescent platinum porphyrin compounds are selected so as to have an emission peak shifted toward the peak of the eye sensitivity curve, while still remaining in a spectral region that is perceived as saturated red. In particular, by chemically modifying compounds such as PtOEP by breaking the 4-fold symmetry of the porphyrin ligand, it has been found that the emission peaks can be shifted about 15-30 nm towards shorter wavelengths, as compared with PtOEP.

The present invention is directed, in particular, to OLEDs containing a phosphorescent dopant compound having the structure with the formula E-ll:

where the R-groups R_(1), R_(2), R_(3) and R_(4) are, independently of one another, alkyl, aryl or hydrogen, with the proviso that at least one of the R-groups is different from at least one other R-group.

Still more specifically, the OLEDs of the present invention are comprised of phosphorescent compounds having the structure with the formula E-lll:

wherein R_(5) and R_(6) may be an electron donor or electron acceptor group, for example, -F,
-CN or -OCH_(3), and R_(5) and R_(6) may be the same or different.

As representative compounds to be used in OLEDS, the phosphorescent platinum compound may be selected by selectively substituting a phenyl-group at the 5,15 positions of the porphyrin ring so as to arrive at the platinum (II) 5,15-memo-diphenylporphyrin compound (PtDPP) as shown in Fig. E1. Altematively, a platinum compound may be prepared from any one of the remaining 5,15-substituted porphyrin compounds that are also shown in Fig. E1. In particular, as representative embodiments of the present invention, the phosphorescent platinum porphyrin compound may be prepared from 5,15-memo-diphenylporphyrin (H_(2)DPP); 5,15-memo-bis(pentafluorophenyl)porphyrin (H_(2)BPFPP); 5,15-memo-bis(4-cyanophenyl)porphyrin (H_(2)BCPP); or 5,15-memo-bis(4-anisyl)porphyrin (H_(2)BAP). Such compounds may be prepared using methods such as described hereinafter.

As a representative embodiment of the subject invention, OLEDs were fabricated in which PtDPP was doped as the phosphorescent platinum porphyrin compound. As shown in Fig. E2, the electroluminescent spectra of an OLED having PtDPP doped into a polymer mixture of polyvinyl carbazole (which is referred to as PtDPP doped polymer OLED) produced an emission peak near the photoluminescence peak of PtDPP in polystyrene. These peaks were shifted about 20 nm towards lower wavelengths as compared with the electroluminescent spectra of an OLED having a PtDPP-doped Alq_(3) layer.

As shown in Fig. E3a, for OLEDs comprised of layers of ITO/NPD/Alq_(3)-PtDPP/MgAg, (PtDPP being doped in the Alq_(3) layer), an electroluminescent spectra is produced which has a narrow band of emission peaking at about 630 nm for OLEDs operated at 9V, 15V or 24V. The Alq_(3)-based device produced a small blue shift as the voltage was increased, apparently due to the increase in the Alq_(3) emission in the spectra region from 500 to 550 nm. As shown in Fig. E3b, for an OLED having the Alq_(3) layer doped with PtDPP, the emission peak was shifted about 15 nm towards shorter wavelengths as compared with the emission peak produced by an OLED having the Alq_(3) layer doped with PtOEP. These results show that for OLEDs having equal quantum yields, an OLED having a PtDPP-doped Alq_(3) layer would have 1.4 times the brightness of an OLED having a PtOEP-doped Alq_(3) layer.

The practical significance of fabricating OLEDs having a 15-20 nm blue shift in the emission peak can be illustrated by the data as shown in the right hand corner of the CIE chromaticity diagram, which is shown in Fig. E4. Shown in this figure is the CIE chromaticity curve for which the (x, y) coordinates of saturated monochromatic lines at 600, 650 and 700 nm, respectively, are included. The (x,y) coordinates of the emission produced by an OLED having a PtDPP-doped Alq_(3) layer is compared with OLEDs containing other red-emitting dopants, such as DCM2, indigo and PtOEP.

By using the CIE standardized photopic response curve for human eye sensitivity, which is shown as the broken line in Fig. E5, the relative brightness at a given photopic output level can be determined by calculating the overlap of the normalized emission spectra with the photopic response curve, as shown by the following equation,

I_(lumens) ∝∫(photopic response)(EL spectrum)dλ,

where I_(lumens) is the perceived intensity in lumens. This function may be referred to as the luminous overlap integral. As illustrated by the representative data shown in Fig. E5, the luminous overlap integral of a PtDPP-emitting OLED, 0.17 (relative units), is significantly greater than that of a PtOEP-emitting OLED, 0.13. The net result is that for a PtDPP-emitting OLED, the CIE coordinates remain in the saturated red region of the chromaticity diagram, while the perceived brightness may be up to 40% or more greater than for a PtOEP-emitting OLED.

Though the luminous overlap integral of a DCM2-emitting OLED would be significantly higher than either PtDPP or PtOEP (0.19 vs. 0.17 or 0.13, respectively), that is, if the same photopic output levels could be realized, a DCM2-emitting OLED is not in fact nearly as bright, since the quantum efficiency of a DCM2-emitting OLED is substantially less than can be realized for OLEDs fabricated with the phosphorescent Pt-containing compounds.

DCM2, which has a structure represented by the formula:

has been described as a red emitting chromophore useful in OLED applications. C.W. Tang et al., Electroluminescence of doped organic thin films, J. Appl. Phys. 65, 3610 (1989).」
(第54頁第28行?第67頁第4行)

(ケ)「 D. Examples of OLEDs containing an emissive layer comprised of a phosphorescent dopant compound
The procedures that were used for fabrication of Organic Light-Emitting Devices (OLEDs) were as follows:

The hole transporting material TPD and the electron transporting material Alq_(3) were synthesized according to literature procedures, and were sublimed before use. The dopant PtOEP was purchased from Porphyrin Products, Inc., Logan, UT, and was used as received.

OLEDs were prepared using the following procedures:
The ITO/Borosilicate substrates (100Ω/square) were cleaned by sonicating with detergent for five minutes followed by rinsing with deionized water. They were then treated twice in boiling 1 ,1 ,1-trichloroethane for two minutes. The substrates were then sonicated twice with acetone for two minutes and twice with methanol for two minutes.

The background pressure prior to deposition was normally 7x10^(-7) torr or lower and the pressure during the deposition was around 5x10^(-7) to 1.1x10^(-6) torr.

All the chemicals were resistively heated in various tantalum boats. TPD was first deposited at a rate from one to four Å/s. The thickness was typically controlled at 300 Å.

The electron transporting layer Alq3 was doped with PtOEP. Typically, the dopant was first vaporized with the substrates covered. After the rate of the dopant was stabilized, the host material was vaporized to the certain rate. The cover over the substrates was then opened and the host and guest were deposited at the desired concentration. The rate of dopant was normally 0.1 - 0.2 Å/s. The total thickness of this layer was controlled at about 450 Å.

The substrates were removed from the deposition system and masks were put directly on the substrates. The masks were made of stainless steel sheet and contain holes with diameters of 0.25, 0.5, 0.75 and 1.0 mm. The substrates were then put back into vacuum for further coating.

Magnesium and silver were co-deposited at a rate normally of 2.6 A/s. The ratio of Mg:Ag varied from 7:1 to 12:1. The thickness of this layer was typically 500 Å. Finally, 1000 Å Ag was deposited at the rate between one to four Å/s.

The devices were characterized within five hours of fabrication. Typically electroluminescent spectra, I-V curves, and quantum yields were measured from direct front.

E. Examples of OLEDs containing an emissive layer comprised of a phosphorescent dopant compound with reduced symmetry
The hole transporting material TPD and the electron transporting material Alq_(3) were synthesized according to literature procedures, and were sublimed before use. The dopant PtDPP compound and additional porphyrin compounds that may also be platinated were synthesized as described below.

OLEDs were prepared using the following procedures:
The ITO/Borosilicate substrates (100Ω/square) were cleaned by sonicating with detergent for five minutes followed by rinsing with deionized water. They were then treated twice in boiling 1,1 ,1-trichloroethane for two minutes. The substrates were then sonicated twice with acetone for two minutes and twice with methanol for two minutes.

The background pressure prior to deposition was normally 7x10^(-7) torr or lower and the pressure during the deposition was around 5x10^(-7) to 1.1x10^(-6) torr. All the chemicals were resistively heated in various tantalum boats. TPD was first deposited at a rate from one to four A/s. The thickness was typically controlled at 300 Å.

The electron transporting layer Alq_(3) was doped with the dopant compound, for example, PtDPP. Typically, the dopant was first vaporized with the substrates covered. After the rate of the dopant was stabilized, the host material was vaporized to at a certain rate. The cover over the substrates was then opened and the host and guest were deposited at the desired concentration. The rate of dopant was normally 0.1 - 0.2 Å/s. The total thickness of this layer was controlled at about 450 Å.

The substrates were removed from the deposition system and masks were put directly on the substrates. The masks were made of stainless steel sheet and contain holes with diameters of 0.25, 0.5, 0.75 and 1.0 mm. The substrates were then put back into vacuum for further coating.

Magnesium and silver were co-deposited at a rate normally of 2.6 Å/s. The ratio of Mg:Ag varied from 7:1 to 12:1. The thickness of this layer was typically 500 Å. Finally, 1000 Å Ag was deposited at the rate between one to four Å/s.

The devices were characterized within five hours of fabrication. Typically electroluminescent spectra, I-V curves, and quantum yields were measured from direct front.

Syntheses of Compounds and their characterization
2,2'-Dipyrrylmethane was prepared from a modified literature procedure (Aust. J.Chem., 1969, 22, 229-249):

2,2'-Dipyrrylthione. To a vigorously stirred solution of 7.0 mL (90 mmol) of thiophosgene in 150 mL of dry THF at 0℃ was added dropwise 12.5 g (186 mmol) of pyrrole. After 30 minutes, methanol (20 mL) was added and the mixture was further stirred for 30 minutes at room temperature. The resulting mixture was then evaporated to dryness. This crude material was used for the next step without further purification.

2,2'-Dipyrrylketone. To the aforementioned crude thione in 200 mL of 95% EtOH containing 10 g of KOH was added 17 mL of H_(2)O_(2) (30%) at 0℃ slowly. The mixture was stirred at 0℃ for 2 hours and then at 60℃ for 30 minutes after which was concentrated to 1/5 of its original volume. 100 mL of H_(2)O was added and the precipitate was filtered, washed with cold EtOH and dried to give the product (5.6 g, 39% from thiophosgene) which was sufficiently pure for the next step.

2,2'-Dipyrrylmethane. To a solution of 3.3 g (20.1 mmol) of 2,2'-dipyrrylketone in 200 mL of 95% ethanol containing 3.3 mL of morpholine under N_(2) at reflux was added NaBH_(4) (1.7 g x 6) in several portions. 3 mL of H_(2)O was added 10 minutes after each addition. The mixture was further refluxed for 2 hours after the last addition. 300 mL of H_(2)O was then added and the mixture was extracted several times with Et_(2)O. The combined extract was dried with MgSO_(4) and concentrated to give a thick oil which was extracted with hexane until the extract showed no appreciable amount of the product by TLC. The combined hexane portions were concentrated to give 2.3 g (78%) of pale yellow crystals as the product.

General synthesis of 5,15-meso-diphenylporphyrins:
2,2'-Dipyrrylmethane (0.5 g, 3.42 mmol) and an equimolar amount of the aldehyde were dissolved in 500 mL of dry CH_(2)Cl_(2). The solution was purged with N_(2) for 15 minutes. Trifluoroacetic acid (154 μL, 2.6 mmol) was then added via syringe and the mixture was stirred for 3 hours under N_(2) in the absence of light. 2,3-Dichloro-5,6- dicyanoquinone (1.04 g, 4.6 mmol) was added and stirring was continued for 30 minutes. The resulting dark solution was concentrated to 1/3 of its original volume and poured onto a column of silica gel packed with hexane. Elution with CH_(2)Cl_(2) afforded a purple band which was concentrated to give purple solids that were filtered and washed with ethanol followed by heaxane. The solids were pure enough for photoluminescence measurements.

5,15-memo-diphenyiporphyrin (H_(2)DPP): yield: 0.63 g., 80%, MS (El) m/z (relative intensity) 462 (M^(+), 100), 386 (50), 368 (30), 313 (25), 231 (50).
5,15-t 77 memo-bis(pentafluorophenyl)porphyrin (H_(2)BPFPP): yield: 0.05 g, 5%, MS (El), m/z (relative intensity) 642 (M^(+), 100), 623 (8), 602 (8), 368 (45), 321 (35), 236 (40).
5,15-memo-bis(4-cyanophenyl)porphyrin (H_(2)BCPP): yield: 0.09 g, 10%, MS (El), m/z (relative intensity) 512 (M^(+), 100), 411 (50), 368 (35), 355 (40), 294 (45), 281 (50).
5,15-memo-bis(4-anisyl)porphyrin (H_(2)BAP): yield: 0.09 g, 10%, MS (El) m/z (relative intensity) 522 (M^(+), 8), 416 (100), 401 (20), 372 (23).

Platinum (II) 5, 15-memo-diphenylporphyrin (PtDPP). A mixture of H_(2)DPP (0.05 g, 0.11 mmol) and Pt(PhCN)_(2)Cl_(2) (0.1 g, 0.22 mmol) in 10 mL of dry toluene was refluxed for 24 hours under N_(2). The resulting solution was dried completely under vacuum to remove traces of PhCN. The dark solid was dissolved in CH_(2)Cl_(2) and chromatographed using hexane : CH_(2)Cl_(2) (1:1 , v/v) as the eluent to give red solids as the product (0.04 g, 56%). 1NMR: σ10.15 (s,2H), 9.207 (dd, 4H, J_(1) = 12 Hz, J_(2) = 7.5 Hz), 8.93 (dd, 4H,J_(1) = 12 Hz, J_(2) =7.5 Hz), 8.18 (m, 4H), 7.77 (m, 6H). %, MS (El) m/z (relative intensity) 655 (M^(+), 100), 577 (30), 326 (50), 288 (35).」
(第92頁第1行?第96頁第17行)

(コ)「



なお、上記記載(カ)?(コ)の日本語訳としては、それぞれ、上記「第4」「2.」「(1)」の(ア)?(オ)を採用する。

(2)国際出願明細書等における室温に関連する記載について
上記記載(カ)?(コ)中に、室温に関連する記載は下記の2箇所のみである。

「Another of the benefits of PtOEP-doped OLEDs is that such OLEDs have a stability, when the device is exposed to ambient environmental conditions for a few days, that is comparable to prior art devices and, in particular, a decidedly greater shelf life stability as compared with TPP-doped devices.」(第19頁第10?13行)
日本語訳
「PtOEPドープOLEDの別の利点は、そのようなOLEDが、装置を数日間周囲の環境条件に曝した場合、従来の装置に匹敵する安定性、特にTPPドープデバイスと比較して確実に一層長い保存寿命安定性を有することである。」(段落【0060】)

「The shelf lives of PtOEP devices that were exposed to ambient environmental conditions for a few days were observed to be comparable to undoped Alq_(3) devices and decidedly superior to devices prepared with TPP as the dopant.」(第58頁第16?18行)
日本語訳
「数日間周囲環境条件に曝したPtOEPデバイスの保存寿命は、ドープしていないAlq_(3)デバイスに匹敵し、ドーパントとしてTPPを用いて製造したデバイスよりも決定的に優れていることが観察された。」(段落【0171】)

上記記載中の「ambient environmental conditions」(「周囲の環境条件」、「周囲環境条件」)が周囲の温度を含む概念であることは明らかであるが、上記記載からは、周囲の温度を含む周囲の環境条件がどのようなものであるかは不明であり、かつ、国際出願明細書等の他の記載を参照しても、上記「ambient environmental conditions」の周囲の温度を含む周囲の環境条件がどのようなものであるのかを示唆する記載もない。
さらに、上記記載は、「shelf life stability」(「保存寿命安定性」)、「shelf lives」(「保存寿命」)に関する記載であって、国際出願明細書等の第11頁第4?8行(日本語訳として、段落【0026】参照)に記載された「保存寿命」についての課題の記載とも整合するものであるし、デバイス保存中にデバイスを発光させることはないと解するのが相当であるから、上記記載はデバイス発光時の周囲の環境条件を記載したものではないことが明らかである。
してみると、上記記載からは、本件特許発明に係る有機発光デバイスが室温において発光することが記載されているとは認められない。

また、前判決において判示されるように、本件優先権主張日当時、有機ELデバイスの発光層に使用される有機色素であって常温でリン光発光する有機色素の存在が当業者の技術常識として確立していたということはできない状況において、本件の国際出願明細書等に何らリン光発光特性の測定条件が記載されていない場合に、国際出願明細書等の記載に触れた当業者は、本件優先権主張日当時の技術常識から、前記測定が低温で行われたと認識するのが自然であって、前記測定が室温で行われたとは認識しないというべきである。

したがって、国際出願明細書等の記載及び技術常識から燐光放射線が室温で発光することを意味するとはいえず、「室温において」を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものである。

(3)被請求人の主張について
被請求人は、本件特許発明に係る有機発光デバイスは、コンピュータ、テレビジョン等に使用されることが記載されており、これらの製品は室温で使用されることが前提とされているものであること、また、当該技術分野においては、実施例などにおいて温度が特記されていない場合には、有機ELデバイスの発光は室温で測定されるべきであることは当業者には慣例であるから、本件特許発明の有機発光デバイスが室温で燐光発光することは当業者には自明のことであると主張する。

しかし、本件特許発明に係る有機発光デバイスが、コンピュータ、テレビジョン等の通常は室温で使用されることが前提とされている製品に使用されることが記載されているとしても、前判決において判示されるように、有機ELデバイスにおいて、いかなる化学物質が、常温で燐光が観測されるドーパント材料として、ホスト材料の非放射性励起子三重項状態からエネルギーを受け取り、三重項励起状態に励起されて、この三重項励起状態から室温で燐光放射線を発光するのかが、当業者の技術常識として解明されていたとも認められない本件特許の優先日当時において、甲第12号証(第2596頁左欄第1?4行、第2597頁右欄第17?42行、FIG.5,6参照)、甲第13号証(「1.INTRODUCTION」の第3?5行、「4.EMISSION VIA TRIPLET EXCITONS」(特に、第445頁下から第3行?第446頁第1行)参照)、甲第14号証(【結果・考察】欄参照)、甲第15号証(第224頁左欄第3?6行、第225頁左欄第32?42行、FIG.3参照)に示されるように、表示デバイスとして使用することを目的としている燐光発光する有機発光デバイスにおいても、室温のみならず、低温においても、その発光を測定することが通常であったといえる。
これらのことを考慮すると、燐光発光する有機発光デバイスの技術分野においては、実施例などにおいて温度が特記されていない場合、室温ではなく、低温において測定されている可能性も十分に考え得るから、室温で使用する製品の用途の記載があるからといって、国際出願明細書等の記載及び技術常識から燐光放射線が室温で発光することを意味するとはいえない。

(4)結論
以上のとおり、本件特許発明1の「燐光放射線を室温において発光する有機発光デバイス」との発明特定事項は、国際出願明細書等に記載した範囲のものとはいえない。また、本件特許発明2?6、9?10についても同様である。

したがって、外国語特許出願である本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1?6、9?10に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないから、本件特許出願は特許法第184条の18による読み替え後の特許法第123条第1項第5号に該当し、その特許は無効とすべきである。

4.無効理由1、2-1、3、4について
上記のとおりであるから、無効理由2-2、2-3、2-4、5、6以外の無効理由1、2-1、3、4については、判断するまでもない。


第5 まとめ
以上のとおり、本件特許第4511024号の請求項1?6、9?10に係る発明の特許は、いずれも、無効理由5、6のいずれの理由によっても無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2014-02-25 
結審通知日 2014-02-27 
審決日 2014-03-19 
出願番号 特願2000-516507(P2000-516507)
審決分類 P 1 123・ 537- Z (H05B)
P 1 123・ 54- Z (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東松 修太郎  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 土屋 知久
瀬良 聡機
登録日 2010-05-14 
登録番号 特許第4511024号(P4511024)
発明の名称 高透明性非金属カソード  
代理人 堀江 健太郎  
代理人 武井 紀英  
代理人 渡邊 肇  
代理人 高橋 元弘  
代理人 渡部 崇  
代理人 堀江 健太郎  
代理人 実広 信哉  
代理人 吉本 智史  
代理人 実広 信哉  
代理人 加茂 裕邦  
代理人 武井 紀英  
代理人 渡部 崇  

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