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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1324228
審判番号 不服2015-12148  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-26 
確定日 2017-01-24 
事件の表示 特願2011-520130「スキンホワイトニング(色を薄くする)化合物系列」拒絶査定不服審判事件〔平成22年1月28日国際公開、WO2010/011630、平成23年11月24日国内公表、特表2011-528719〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2009年7月21日(優先権主張外国庁受理2008年7月21日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月14日付けで拒絶理由が通知され、同年7月16日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月23日付けで拒絶査定がされ、同年6月26日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年8月4日に審判請求書を補正する手続補正書が提出され、平成28年7月21日に上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成27年6月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「式III:

の化合物又は薬学的に許容しうるその塩
[式中、R_(1)は、HまたはC_(1)-C_(10)アルキルであり;そして
R_(2)は、4-ヒドロキシフェン-1-イル、4-メトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシフェン-1-イル、3,5-ジメトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシ-3-メチルフェン-1-イル、2,4,6-トリメトキシフェン-1-イル、フラン-3-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、フラン-2-イル、5-エチルフラン-2-イル、又はピリジン-3-イルである]。」

第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成26年1月14日付けの拒絶理由通知における理由3(特許法第29条第2項)であり、その拒絶理由通知では引用文献1?12を引用し、引用文献ごとに請求項1?9、11?15、21のうちの適用のある請求項に理由2(特許法第29条第1項第3号)と理由3(特許法第29条第2項)の両方又は理由3を通知していたうちの、引用文献2、6又は7に基づく理由3である。そのうちの引用文献7に基づく理由3は、理由2とともに通知されていて、概略、この出願の請求項7?9、11、15に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献7は、特開2008-56651号公報(以下「刊行物1」という。)である。本願発明は、拒絶理由で言及された請求項7に対応するものであって、拒絶理由で言及された請求項7において「式中、R_(1)は、HまたはC_(1)-C_(10)アルキルから成る群より選択され;そしてR_(2)は、フェニル、ビフェニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-フラニル、3-フラニルまたは2-テトラヒドロフラニルから成る群より選択される芳香環、ヘテロ芳香環または複素環式環より選択され;ここにおいて、R_(2)は、C1-C10アルキル基、C1-C10アルコキシ基またはヒドロキシル基から成る群より独立して選択される1?3個の残基(R’、R''、R''')で置換されている」と特定されていたものを、補正後の請求項6において、それに代えて「式中、R_(1)は、HまたはC_(1)-C_(10)アルキルであり;そして R_(2)は、4-ヒドロキシフェン-1-イル、4-メトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシフェン-1-イル、3,5-ジメトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシ-3-メチルフェン-1-イル、2,4,6-トリメトキシフェン-1-イル、フラン-3-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、フラン-2-イル、5-エチルフラン-2-イル、又はピリジン-3-イルである」と補正したものである。本願発明に係る請求項は、審判請求時の平成27年6月26日付けの手続補正では、補正されていない。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:特開2008-56651号公報

2 刊行物に記載された事項

ア 刊行物1
(1a)「【請求項1】式(I)

(式中、Rは、水素原子又はグリコシル基を表わし、mは1又は2を表し、mが2の場合、Rは、同一又は異なっていてもよい)
で示されるビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤。
【請求項2】式(I)で示される化合物が、式(Ia)

(式中、R_(1)及びR_(2)は、同一又は異なって、水素原子又はグリコシル基を表わす)
であることを特徴とする請求項1記載のビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)
(1b)「【請求項7】2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドを出発物質として、該化合物から得られる式(II)

(式中、X_(1)及びX_(2)は、同一又は異なって、水酸基の保護基を表す)
で表されるベンズアルデヒド誘導体と、同じく、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドから得られる式(III)

(式中、Y_(1)及びY_(2)は、同一又は異なって、水酸基の保護基を表し、Zはハロゲン原子を表す)
で表されるホスホニウム塩とを、ウィッティッヒ(Wittig)反応条件下に反応させ、式(IV)

(式中、X_(1)、X_(2)、Y_(1)及びY_(2)は、前記と同義である)
で表されるスチルベン誘導体を得、次いで、式(IV)で表される化合物を水素添加反応に付すことにより、式(V)

(式中、X_(11)、X_(21)、Y_(11)及びY_(21)は、同一又は異なって、水素原子又は水酸基の保護基を表す)
で表されるビベンジル誘導体を製造する工程を含む、式(Ia)

(式中、R_(1)及びR_(2)は、同一又は異なって、水素原子又はグリコシル基を表わす)
で表されるビベンジル誘導体の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項7)
(1c)「【技術分野】
【0001】本発明はフェノール類の成分が段階的に着色・ポリマー化する際にその化学反応を促進させる酸化還元酵素であるチロシナーゼに対して、その酵素機能を阻害する機能を持つレゾルシノール誘導体と結合したビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤とその製造方法等に関する。」(4頁下から2行?5頁4行)
(1d)「【背景技術】
【0002】酸化還元酵素のポリフェノールオキシダーゼ(チロシナーゼを含む)は動植物の細胞構成組織に含まれるフェノール類の化学反応を促進させる作用があり、人の皮膚では褐色化(日焼け)を引き起こし、青果類や魚介類などの食品では褐変による商品価値の低下や食品に含まれ有益な抗酸化活性のあるポリフェノール類を分解し、昆虫では外皮に含まれるフェノール成分を化学変化させることによって変態して成虫になれることが知られている。
このように、ポリフェノールオキシダーゼは動植物におけるフェノール類の着色・ポリマー化現象の初期反応を触媒する酸化還元酵素として知られている。
【0003】例えば、日焼けが起きる仕組みは、過剰紫外線によって皮膚基底層の色素細胞(メラノサイト)が活性化しチロシンから生成した過剰のメラニンが皮膚に沈着する現象であるが、キシロンからドーパ、ドーパキノン、メラニンへと段階的に化学変化する過程で、酵素であるポリフェノールオキシダーゼが触媒として作用する。その際にその変化は濃度が濃くなる方向に褐色化が進んで行き、その結果、人の顔ではシミやソバカスができ、手足などの皮膚は褐色に日焼けする。
原因となる褐色色素であるメラニンは動植物に広く分布しており、弱いながらも紫外線を吸収する性質を持っているため、動物の皮膚や表皮を紫外線から守る役割を果たしているが、過剰なメラニン色素の沈着はシミやソバカスの原因となり、肌の老化を促進するとともにそのときの過剰紫外線による細胞の損傷は膚がんの主因ともなっている。
動植物における色素形成反応の初期段階には,チロシナーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)が深く関与している。チロシナーゼは,活性中心に銅を含む酸化還元酵素で,モノフェノールのo-ヒドロキシ化と,o-ジフェノールのo-キノンへの酸化という2つの連続した反応を触媒する。最終的に,o-キノン由来の重合体が褐色色素となる。すなわち,これらの色素形成を抑制するためには,チロシナーゼの働きを阻害する必要がある。このようなチロシナーゼのポリマー化現象に係る触媒機能を阻害するための物質として、従来、コウジ酸、ビタミンC、ハイドロキノン、アルブチン、ヘキシルレゾルシノールなどがチロシナーゼ阻害剤として用いられてきた。
【0004】このうちコウジ酸は、日本では、日焼けや褐変を防ぐものとして古くから化粧品や食品に添加されてきたが、発がん性も認められるとの理由で、現在では使用禁止薬物に指定されており使用はされていない。
また、ビタミンCやハイドロキノンは人への毒性はないが色素形成が抑制できる。この色素形成の抑制は、フェノール類の着色・ポリマー化現象を促進するチロシナーゼの触媒機能の阻害によるものではなく、着色・ポリマー化する過程でチロシナーゼで生成されたドーパキノンをドーパ(DOPA)に還元することによって色素の形成を抑制するものである。
【0005】さらに、アルブチン及び下記特許文献1に開示されたヘキシルレゾルシノールなどのレゾルシノール構造と水溶性の性質を兼ね備えたチロシナーゼの触媒機能を阻害する化合物が、コウジ酸に代わる美白化粧剤として提案されている。その他、新規成分であるピペロナルドオキシムまたはその誘導体
【0006】【特許文献1】特開2006-124358号公報」(5頁5?49行)
(1e)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】そのレゾルシノール構造の化合物のうちアルブチンは美白化粧剤に用いたとき、高い水溶性のために細胞毒性が低い点は評価できてもチロシナーゼ阻害活性が弱いという点ではあまり評価されていない。また、上記特許文献1に開示されたヘキシルレゾルシノール誘導体は、環境ホルモンのノニルフェノールと構造が類似し、強いチロシナーゼの活性阻害剤としての機能が認められているが、水溶性が低く細胞毒性が疑われている。そこで、本発明の課題は、動植物が持つフェノール類を段階的に着色・ポリマー化させるチロシナーゼ(EC1.14.18.1)の活性に対して高い阻害効果が得られ、生命体である動植物に対する毒性が少ないチロシナーゼの活性阻害剤と、その剤の製造方法やその剤の利用方法を提供することにある。」(6頁1?11行)
(1f)「【課題を解決するための手段】
【0008】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、ユリ科の薬用植物であるChlorophytum arundinaceumの抽出物中に存在する特定のビベンジル配糖体、及び化学合成誘導体が水溶性で強いチロシナーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】すなわち本発明は、(1)以下の式(I)(式中、Rは、水素原子又はグリコシル基を表わし、mは1又は2を表し、mが2の場合、Rは、同一又は異なっていてもよい)で示されるビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤に関する。

【0010】また本発明は、(2)上記式(I)で示される化合物が、式(Ia)(式中、R_(1)及びR_(2)は、同一又は異なって、水素原子又はグリコシル基を表わす)であることを特徴とする上記(1)記載のビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤に関する。

」(6頁12?40行)
(1g)「【0013】さらに、本発明は、(7)2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドを出発物質として、該化合物から得られる以下の式(II)

(式中、X_(1)及びX_(2)は、同一又は異なって、水酸基の保護基を表す)で表されるベンズアルデヒド誘導体と、同じく、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドから得られる以下の式(III)

(式中、Y_(1)及びY_(2)は、同一又は異なって、水酸基の保護基を表し、Zはハロゲン原子を表す)で表されるホスホニウム塩とを、ウィッティッヒ(Wittig)反応条件下に反応させ、以下の式(IV)

(式中、X_(1)、X_(2)、Y_(1)及びY_(2)は、前記と同義である;波線はシス又はトランスを表す)で表されるスチルベン誘導体を得、次いで、式(IV)で表される化合物を水素添加反応に付すことにより、以下の式(V)

(式中、X_(11)、X_(21)、Y_(11)及びY_(21)は、同一又は異なって、水素原子又は水酸基の保護基を表す)で表されるビベンジル誘導体を製造する工程を含む、以下の式(Ia)

(式中、R_(1)及びR_(2)は、同一又は異なって、水素原子又はグリコシル基を表わす)
で表されるビベンジル誘導体の製造方法・・・に関する。」(7頁12行?8頁末行)
(1h)「【発明の効果】
【0015】本発明のビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤は、皮膚褐色化防止機能性化粧品即ち皮膚の美白化粧品や、野菜など植物カット食材の鮮度保持を目的とする褐変防止機能性添加剤や昆虫のさなぎ化抑止機能による殺虫剤としての用途が期待できる。また、本発明のビベンジル誘導体を含有するチロシナーゼの活性阻害剤の製造方法は、安価なジヒドロキシベンズアルデヒドから多くて8段階程度の短い工程で合成できるため、グラムスケールでの各化合物の供給が可能となる。」(9頁4?11行)
(1i)「【0019】本発明のチロシナーゼの活性阻害剤として好ましく使用することができる具体的化合物としては、前記式(Ia)中、R_(1)がキシロシル基を表わし、R_(2)が水素原子を表わす下記式で示される化合物(以下「化合物(1)」という)が例示される。

【0020】また、式(Ia)中、R_(1)及びR_(2)が、共にキシロシル基を表わす下記式で示される化合物(以下、「化合物(2)」という)が例示される
【0021】

【0022】また、式(Ia)中、R_(1)が水素原子を表わし、R_(2)がキシロシル基を表わす下記式で示される化合物(以下、「化合物(3)」という)が例示される。
【0023】

【0024】さらに、式(Ia)中、R_(1)及びR_(2)が、共に水素原子を表わす下記式で示される化合物(以下、「化合物(4)」という)が例示される。
【0025】

」(9頁下から4行?11頁10行)
(1j)「【0049】製造法D.化合物(4)の製造方法
化合物(4)は、下記[化20]に示す反応工程に従い製造することができる。
【化20】

【0050】(工程a)
2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドから、製造法A、化合物(7)の製法と同様の方法で得られる2,4-ジベンジルオキシベンズアルデヒド(20)と製造法A、工程bで得られるホスホニウム塩(8)を用いて、製造法A、工程cの方法に準じてスチルベン(21)を得る。
(工程b)
スチルベン(21)は、触媒の存在下に水素添加反応を行うことにより、二重結合の還元及びベンジル基の脱保護を同時に行い、目的とするビベンジル誘導体(4)を得る。
この反応では、触媒として、例えば、水酸化パラジウム-活性炭素、パラジウム-炭素、酸化白金などが用いられ、溶媒としては、酢酸エチル、THF、MeOH、エタノールなどが、単独又は混合して用いられる。反応時間は、-78℃から使用する溶媒の沸点の間で、また、反応時間は、5分から48時間の間で行われ、使用する溶媒及び塩基等により適宜選択すればよい。
【0051】上記各製造法における中間体および目的化合物は、有機合成化学で常用される精製法、例えば、中和、濾過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して単離精製することができる。また、中間体においては、特に精製することなく次の反応に供することも可能である。」(15頁下から3行?16頁27行)
(1k)「【0053】また、上記化合物(1)?(4)における親水性をコンピュータで計算した結果を下記に示す。
(化合物) (LogP)
1 1.68
2 0.38
3 1.68
4 2.99
この表のLogPの値は、小さいほど親水性が高く、水に溶けやすいことを示している。
ビベンジル誘導体のうち、化合物(1)?(3)には糖類のキシロースを含むので毒性が少なく、安全性が高いので食品など多様な用途に使用可能となる。
【0054】上記データから明らかなように、本発明の阻害剤として使用される化合物は、水溶性に優れており、また、チロシナーゼの活性に対してコウジ酸の5倍?20倍にもなる極めて高い阻害効果が得られる(実施例5参照)。
一般に、ビベンジル誘導体に糖類のキシロースを含む場合は毒性が少なくなることが知られているので、人体や食品等に用途が広がる可能性がある。」(16頁37行?17頁4行)
(1L)「【0055】化合物(I)を本発明のチロシナーゼの活性阻害剤として使用する場合、そのまま単独で使用することも可能であるが、通常、各種用途に応じた使用形態とすることが望ましく、活性成分である化合物(I)と医薬品、化粧品などに一般に用いられる各種成分、例えば、水性成分、油性成分、粉末成分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、色剤、香料、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤、あるいは紫外線防御剤などを1種又は2種以上を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。」(17頁5?11行)
(1m)「【実施例4】
【0066】2,2’,4,4’-テトラヒドロキシスチルベン[化合物(4)]の合成
2,4-ジベンジルオキシベンズアルデヒド(20)とホスホニウム塩(8)とをTHF中、LiHMDS存在下で、室温で1時間、ウイッテイッヒ反応を行い、スチルベン(21)を42%の収率で得た。このスチルベンは不安定であったため、速やかに次の反応を行った。スチルベン(21)をTHF溶媒中、20%水酸化パラジウム-活性炭素を触媒として、室温で12時間、水素添加反応を行うことにより、二重結合の還元及びベンジル基の脱保護を同時に行い、85%の収率で白色結晶のビベンジル誘導体(4)を得た。総収率は、36%であった。得られた化合物(4)の構造は、^(1)H-NMR及び^(13)C-NMRにより決定した。
【0067】2,2’,4,4’-テトラヒドロキシスチルベン[化合物(4)]

」(20頁7?23行)
(1n)「【実施例5】
【0068】チロシナーゼの活性阻害効果
DOPA49mgを50mlの精製水に溶解し、5mMのDOPA水溶液を調製した。
合成したビベンジル誘導体(1)?(4)とコウジ酸(対照化合物)は、それぞれDMSOに溶解し、5mMのサンプル溶液を調製した。
チロシナーゼを50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に溶解し、0.67mg/mlの酵素溶液を調製した。サンプル溶液をDMSOで希釈し、その0.1mlを3ml容のキュベットに量り取った。次にキュベットに、250nMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)0.6ml、DOPA溶液0.3ml、精製水1.9mlおよび酵素溶液0.1mlを加えてすばやく混合し、分光光度計で475nmの吸光値の変化を計測した。各測定は、30℃で60秒間行い、1秒ごとの吸光値をコンピュータに保存した。得られた吸光値を直線回帰し、ブランク測定時の傾きを100%として50%阻害濃度(IC_(50))を算出した。この実験は各サンプルに付き3回行った。結果を[表1]に示す。
【0069】【表1】

【0070】また、試験化合物(1)?(4)及びコウジ酸の濃度変化による阻害活性との関係について、[図1]?[図4]及び[図6]に示す。また、上記各化合物のデータを比較するために棒グラフに表したのが[図5]である。
上記[表1]のIC_(50) に示されるデータは、50%阻害する各誘導体の濃度を示し、値が低いほどチロシナーゼに対する阻害活性が強いことを示している。また、±以下の数値は実験3回による標準誤差を示している。
【0071】この実験データから、従来、国内で化粧品や食品にチロシナーゼ阻害剤として用いられてきたコウジ酸と比較すると、本発明のチロシナーゼ阻害剤として使用される化合物(1)では約5倍、化合物(2)は約10倍、化合物(3)及び(4)では約20倍と、いずれも非常に強いチロシナーゼ阻害活性を示しているこが確認できる。」(20頁24行?21頁27行)
(1o)「【図面の簡単な説明】
【0072】
・・・・・・・・・・・・・・・
【図4】本発明の化合物4のグラフ図である。
【図5】各化合物を比較した棒グラフ図である。
【図6】従来のコウジ酸のグラフ図である。」

【図4】

【図5】

【図6】

」(21頁28行?22頁)

3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、動植物に対する毒性が少なく、チロシナーゼ阻害活性を有するビベンジル誘導体に関する特許文献である(摘示(1a)?(1h))。
刊行物1には、上記化合物について、請求項1に以下の式(I)

が示され、段落【0025】には、その具体的な化合物として、下記式で表される化合物(4)(化合物名:4-(2-(2,4-ジヒドロキシフェニル-1-イル)エチル)ベンゼン-1,3-ジオール)が記載されている(摘示(1a)、(1i))。

そして、刊行物1には、下記式(Ia)(R_(1)及びR_(2)は、同一又は異なって、水素原子又はグリコシル基を表わす。)で表される化合物の製造方法及び下記式(II)及び(III)(置換基の説明は省略する。)で表される反応出発物質について記載されるとともに(摘示(1b)、(1f)、(1j))、





上記化合物(4)を実施例4において実際に合成して、実施例5では、この化合物がチロシナーゼの阻害活性効果を有することを確認したことが記載されている(摘示(1m)?(1o))。
したがって、刊行物1には、
「4-(2-(2,4-ジヒドロキシフェニル-1-イル)エチル)ベンゼン-1,3-ジオール」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用化合物である「4-(2-(2,4-ジヒドロキシフェニル-1-イル)エチル)ベンゼン-1,3-ジオール」と、本願発明の式IIIで表される化合物のうち置換基R_(1)が水素原子であって、置換基R_(2)が4-ヒドロキシフェン-1-イルであるものは、共に1位及び3位にヒドロキシル基が結合したベンゼン環の4位にエチレン基を介してフェニル基が結合した化合物であって、当該フェニル基にはヒドロキシル基が置換している化合物である点で同じである。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「1位及び3位にヒドロキシル基が結合したベンゼン環の4位にエチレン基を介してフェニル基が結合した化合物であって、当該フェニル基にはヒドロキシル基が置換している化合物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明においては、「式III:

の化合物又は薬学的に許容しうるその塩
[式中、R_(1)は、HまたはC_(1)-C_(10)アルキルであり;そして
R_(2)は、4-ヒドロキシフェン-1-イル、4-メトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシフェン-1-イル、3,5-ジメトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシ-3-メチルフェン-1-イル、2,4,6-トリメトキシフェン-1-イル、フラン-3-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、フラン-2-イル、5-エチルフラン-2-イル、又はピリジン-3-イルである]。」と特定され、上記式IIIにおける置換基R_(2)がヒドロキシル基で置換されたフェニル基である場合には、置換基R_(2)は4-ヒドロキシフェン-1-イルであるのに対し、引用発明における引用化合物は上記式IIIにおける置換基R_(2)が2,4-ジヒドロキシフェン-1-イルである化合物である点

(2)相違点についての検討

ア 新たな化合物を得る動機付けについて
医薬化合物の技術分野においては、生理活性を有することが知られている既知化合物の構造を参考に、構造の類似する新たな化合物を製造し、その活性を確認することは、文献を示すまでもなく、当業者が適宜行うことであると認められる。
そして、刊行物1には、チロシナーゼの活性阻害剤として好ましく使用することができる具体的化合物として、引用化合物(4-(2-(2,4-ジヒドロキシフェニル-1-イル)エチル)ベンゼン-1,3-ジオール)が例示されると共に、当該化合物について実際に製造し、そのチロシナーゼ阻害活性が確認されていることから(摘示(1i)、(1m)、(1n)、(1o))、当該化合物の構造を参考に、新たな化合物を実際に製造して、その活性を確認することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 本願発明の式IIIの化合物のうち、置換基R_(2)が4-ヒドロキシフェン-1-イルである化合物を得ることについて
刊行物1には、チロシナーゼ阻害活性を有するものとして下記式(I)で表される化合物が示されており(摘示(1a)、(1f))、

当該式中の置換基Rは水素原子又はグリコシル基を表し、mは1又は2を表すことが記載されている。ここで、刊行物1に記載された引用化合物は、上記式(I)中、置換基Rが水素原子であって、mが2であり、置換基ROが、ベンゼン環の2位及び4位に結合するものに相当する。
してみると、刊行物1にチロシナーゼ阻害活性を有するものとして具体的に記載された引用化合物に基づき構造の類似する新たな化合物を製造するにあたり、上記式(I)における置換基R及びmの定義を参考にして、mが1である化合物を設計し、引用化合物においてベンゼン環の2位及び4位に結合するヒドロキシル基について、一方を含まない4-ヒドロキシフェン-1-イル基を有する化合物とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、刊行物1には、引用化合物の製造方法及びその反応出発物質も具体的に記載されていることから(摘示(1b)、(1g)、(1j))、4-ヒドロキシフェン-1-イル基を有する化合物は、引用化合物を製造する際の反応出発物質に代えて、4-ヒドロキシフェン-1-イル基に対応する化合物を反応出発物質に用いることで、当業者が容易に製造し得るといえ、本願発明の式IIIの化合物中、置換基R_(2)が4-ヒドロキシフェン-1-イルである化合物を製造することについて特段の困難性があるとも認められない。

ウ 以上によれば、引用発明において、チロシナーゼ阻害活性を有する新たな化合物を検討して、相違点1に係る「式III:

の化合物又は薬学的に許容しうるその塩
[式中、R_(1)は、HまたはC_(1)-C_(10)アルキルであり;そして
R_(2)は、4-ヒドロキシフェン-1-イル、4-メトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシフェン-1-イル、3,5-ジメトキシフェン-1-イル、2,4-ジメトキシ-3-メチルフェン-1-イル、2,4,6-トリメトキシフェン-1-イル、フラン-3-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、フラン-2-イル、5-エチルフラン-2-イル、又はピリジン-3-イルである]」との特定のうち、置換基R_(1)が水素原子であって、置換基R_(2)が4-ヒドロキシフェン-1-イルである構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)発明の効果について
本願明細書の段落【0010】には、
「[0007]本出願は、チロシナーゼに対する優れた阻害活性および極めて低い細胞傷害性を有する新しい一連の新規な色素脱失剤を提供する。それら化合物は、安定性であり、しかも一般的に入手可能な出発物質から容易に合成される。より詳しくは、本発明は、チロシナーゼ阻害剤として有用である新規な2,4-ジヒドロキシベンゼン誘導体を提供する。本発明は、これらチロシナーゼ阻害剤の薬学的に許容しうる塩を包含する。更に、本発明に包含されるのは、本発明の少なくとも一つのチロシナーゼ阻害剤および少なくとも一つの薬学的に許容しうる担体を含んで成る医薬組成物である。本発明のそれら組成物は、いずれか適する薬学的に許容しうる剤形で製造することができる。」
と記載されている。
また、段落【0164】?【0165】の表3には、実施例6に記載の方法により測定した式IIIの代表的な化合物のキノコチロシナーゼ阻害活性(IC_(50))が記載され、段落【0210】の表5には、実施例6又は7に記載の方法により測定した式IIIの化合物(化合物17,18,19,24)のキノコチロシナーゼ阻害活性(IC_(50))、メラニン生産阻害活性(IC_(50))及び細胞生存能力(LD_(50))が記載されている。加えて、図4?7には、実施例7に記載の方法により測定した上記化合物のメラニン生産の阻害プロフィールと細胞生存能力が記載されている。
そうすると、本願発明の効果は、請求項6に記載の式IIIで表される新規な2,4-ジヒドロキシベンゼン誘導体の提供、及び、当該化合物がチロシナーゼに対する阻害活性を有すると共に、低い細胞障害性を有することであると認められる。
しかしながら、上記(2)に述べたとおり、式IIIで表されるジヒドロキシベンゼン誘導体は、刊行物1に基づき、当業者が容易に得ることができたものであるから、式IIIで表されるジヒドロキシベンゼン誘導体の提供は、格別の効果であるとすることはできない。
そして、刊行物1には、同文献が、動植物に対する毒性が少ないチロシナーゼ活性阻害剤を提供するものであることが記載され(摘示(1e))、実施例5においては、引用化合物のチロシナーゼ阻害活性(IC_(50))が0.37±0.06μMであることが記載されている(摘示(1n))。加えて、引用化合物は、本願明細書中に記載の化合物16と同じものであるが、本願明細書の表3及び5における化合物16についての記載と、本願発明の式IIIの化合物(化合物17,18,19,24)についての記載を比較しても、本願発明が、引用化合物に比して優れたチロシナーゼ阻害活性、メラニン生産阻害活性又は細胞生存能力を有するとも認められない。
してみると、本願発明のチロシナーゼに対する阻害活性や低い細胞障害性についての効果が、引用発明と比較して、当業者が予測を超える格別顕著なものとも認められない。

(4)まとめ
したがって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-29 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2011-520130(P2011-520130)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 淳江間 正起  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
発明の名称 スキンホワイトニング(色を薄くする)化合物系列  
代理人 梶田 剛  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 山本 修  

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