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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1324238
審判番号 不服2016-2064  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-10 
確定日 2017-02-14 
事件の表示 特願2012-69350「減衰バルブ構造」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月3日出願公開、特開2013-200001、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月26日の出願であって、平成27年6月19日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年8月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月9日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年11月17日)、これに対し、平成28年2月10日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、同年3月14日に前置報告がなされ、同年6月14日に上申書が提出され、その後、当審において同年11月16日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年11月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年11月28日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
シリンダ内に一方室と他方室とを区画する隔壁体と、上記隔壁体に設けられて上記一方室と上記他方室との連通を許容するポートと、上記ポートの下流側端を開放可能に閉塞するバルブと、上記隔壁体の軸芯部に設けられる軸体とを有する減衰バルブ構造において、
上記軸体は、上記ポートを迂回して上記一方室と上記他方室との連通を許容するバイパス路を上記軸体内に有し、
上記バイパス路には、弁体と、上記弁体を離着座させるシート部と、上記弁体を上記シート部に着座させる附勢バネと、上記バイパス路における抵抗を設定する流路を有する部材とが設けられ、
上記流路を有する部材は、上記弁体の背後側に上記軸体に着脱自在に螺着される部材であり、
上記部材における上記抵抗の変更によって上記バルブの上記ポートの開放作動後の上記ポートにおけるポート特性に連続する抑制される特性の減衰力を変更可能である
ことを特徴とする減衰バルブ構造。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
平成27年8月25日の手続補正により補正された請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:実願昭57-64743号(実開昭58-16347号)のマ イクロフィルム
刊行物2:特開平9-177864号公報

(1)請求項1について
ア 刊行物1には、油圧緩衝器において、ピストンロッド1が油通路3及び5(本願の「バイパス路」に相当)を有し、油路3及び5上には、開閉バルブ8(「弁体」)と、ストッパ2’(「シート部」)と、スプリング10と、スプリング10を一端で支持するカラー9とがあることが記載されている。(第4頁第13行?第7頁第7行、第1図?第2図)
なお、カラー9の内径の油通路3は小径であるから、ピストン7の上下運動に伴って油通路3で流路が絞られることにより、何らかの抵抗は発生されていると認められる。
この際、カラー9の内径は特に限定される必要はなく、どのような内径のカラー9を用いるかは適宜に変更できるものと認められ、内径に応じて油通路3を通行可能な作動油の量が変化することは明らかであるから、使用の際に選択したカラー9の内径に応じて油通路3における絞りの抵抗が設定されていることに相当する。
また、カラー9に関して、第5ページ第3?8行に記載されるように、油通路3に嵌合固定してスプリング10の一端を支持しているものであるが、固定方法として嵌合しているだけであれば、溶接による固着方法等とは異なり、人手あるいは何らかの機械的な手段等によって着脱が可能な固定方法であると認められる。
よって、刊行物1に記載の発明に基いて、請求項1に係る発明は、当業者が容易になし得たものである。

イ 刊行物2には、油圧緩衝器において、ピストンロッド6がバイパス通路11を有し、バイパス通路11には、弁体12aと、弁体12aを内周面で保持する小径部11a(本願の「シート部」に相当)と、自然長時において弁体12aを小径部11a内に保持させる下室側スプリング12c(「附勢バネ」)と、弁体12aのシリンダ下方側においてピストンロッド6と着脱自在に装着されるナット6cとがあり、ナット6cには、バイパス通路11の一部の開口部11c(「流路」)があることが記載されている。(【0016】?【0021】、【0036】?【0040】、【図1】)
ここで、ナット6cの内径に応じてバイパス通路11を通行可能な作動油の量が変化することは明らかであるから、ナット6c内の開口部11cはバイパス通路11の抵抗を設定していることに相当する。
なお、本願請求項1の記載からでは、「シート部」がどのような形状であるかの限定がない。本願請求項1において「シート部」の特徴として読み取れる限定事項は「弁体を離着座させる」ものであること、そして附勢バネが弁体を着座させる場所であることのみである。そして刊行物2における小径部11aは、弁体12aを内径で保持するものである。同時に、小径部11aの保持は、スプリングが弁体12aを付勢することによってもなされている。してみれば、刊行物献2の「小径部11a」と本願の「シート部」との間に差異は認められない。
刊行物2に記載の発明に基づいて、請求項1に係る発明は、当業者が容易になし得たものである。

(2)請求項2について
ア 刊行物1において、カラー9を移動させることは記載されていないが、嵌合による固定であれば、途中で人手や機械的な手段を介して取り外すことで固定を解除できることは明らかであり、本願の「移動可能」に相当する特徴はカラー9も有している。
なお、その取り外しの最中にはカラー9がスプリング10を付勢する力は弱まるため、スプリング10の付勢力は変更されるものと認められる。

イ 刊行物2の【図1】のナット6cはバイパス通路11に対して着脱可能と認められるため、バイパス路11に対して移動可能であると認められる。
なお、下室側スプリング12cと上室側スプリング12bとを同時に使って軸方向の上下から弁体12aを保持する場合、下室側スプリング12cの一端が固定されたナット6cを上下に移動させれば各スプリングに対して多少の付勢力変化を与えるものと認められる。

(3)請求項3について
請求項3に係る発明は、刊行物1又は2の記載に基いて、当業者が容易になし得たことである。

(4)請求項4及び5について
請求項4及び5に係る発明は、刊行物1の記載に基いて、当業者が容易になし得たことである。

2 原査定の理由の判断
(1)刊行物
ア 刊行物1
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物1には、「油圧緩衝器の減衰力調整機構」に関して、図面(特に、第1図、第2図参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「本考案は、上述のような従来の欠陥を排除すると共に組付けも比較的容易な調整機構を提案するもので、シリンダ内をピストンによって少くとも二分して形成した油室間を連通する減衰用のオリフイスの調整を従来の如く、第1図示のような固定型のニードルバルブではなく、スプリングによって弾力的に保持される開閉バルブ構造にすることによって、初期減衰力調定後の油室内の温度上昇に基づく作動油の粘性の低下をスプリングの弾力変化によって補償するようにしたものである。
以下図面に示した実施例に基いて本考案の要旨を説明する。
第2図は本考案機構を装備した油圧緩衝器の一実施例を示す一部切欠縦断側面図で、第1図と同様な部分には同一符号を符しである。
即ち符号1はピストンロツド、2は作動杆、3は油通路、4は油通路3のオリフイス、5はピストンロツド1に穿設した伸び側用の油通路、6はシリンダで、内筒6aと外筒6bとの二重構造でピストン7によって分割される油室Aと同Bとの中、油室Bには油室Cが連通し、一部に空気室Dを設けである。
8は開閉バルブで、ピストンロツド1に摺動自在に遊嵌し、前記作動杆2の先端のストツパ2’に対向して移動する弁座の役割を果すもので、油通路3に嵌合固定したカラー9にスプリング10を介して一端を支持されると同時に前述の開閉パルプ8を他端で弾力的に支持するようにしである。
またピストン7には通路7aを設けて、チェックバルブ7bを配設しである。」(4ページ1行?5ページ10行)

(イ)「本考案減衰力調整機構においては、初期減衰力の調整は、アジヤスタ15を回動して作動杆2を移動し、開閉バルブ8を介してスプリング10の弾力を調定するもので、従前のように作動杆2に直結したニードル2aの位置を移動し、オリフイス4の開口面積を変化するものとは基本的構造が異なるものである。
かくして初期減衰力の調整後、シリンダ6の温度が上昇し、作動油の温度上昇による粘性の低下に際しては、作動杆2が膨張して、その分だけスプリング10を圧縮し、開閉バルブ8に対しそれだけ弾圧力を増加することとなるが、開閉バルブ8はストッパ2’に弾接し油室A、Bの圧力差、即ちピストン7の矢標方向(伸び側方向)への移動によって、オリフイス4が前述の設定弾力に対応して開放されるものであるから、開閉バルブ8やストツパ2’が従前のように損傷を受けることを確実に防止し得るもので、このことは作動油の温度低下の場合には、逆方向に同様に作用することは云うまでもない。」(6ページ8行?7ページ7行)

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

「シリンダ6内に油室Aと油室Bとを区画するピストン7と、上記ピストン7に設けられて上記油室Aと上記油室Bとの連通を許容する通路7aと、上記通路7aの下流側端を開放可能に閉塞するチエツクバルブ7bと、上記ピストン7の貫通部に設けられるピストンロツド1とを有する減衰力調整機構において、
上記ピストンロツド1は、上記油室Aと上記油室Bとの連通を許容する油通路3及び油通路5を上記ピストンロツド1内に有し、
上記油通路3及び油通路5には、開閉バルブ8と、上記開閉バルブ8を離着座させるストツパ2’と、上記開閉バルブ8を上記ストツパ2’に着座させるスプリング10と、開口部を有するカラー9とが設けられ、
上記カラー9は、上記開閉バルブ8の背後側で上記ピストンロツド1に設けられる部材である減衰力調整機構。」

イ 刊行物2
原審において通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物2には、「油圧緩衝器」に関して、図面(特に、図1ないし図3参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0016】図1に示すように、本実施の形態にかかる油圧緩衝器1は、油液が封入されたシリンダ2内に、ピストン3が摺動可能に嵌装されており、このピストン3によってシリンダ2内がシリンダ上室4とシリンダ下室5との2室に画成されている。ピストン3は、ピストンロッド6の一端が貫通して連結されており、ピストンロッド6の他端側は、シリンダ2の端部に装着されたロッドガイドおよびオイルシール(ともに図示せず)を挿通してシリンダ2の外部まで延ばされている。ピストンロッド6はロッドガイドを摺動するロッド部6aとピストン3を貫通連結する連結部6bとからなり、ピストンロッド6内には、後述のバイパス通路11と、スプリングバルブ12とが設けられている。
【0017】シリンダ2の外周には外筒(図示せず)が設けられ、シリンダ2と外筒との間にリザーバ室(図示せず)が形成されており、シリンダ下室5とリザーバ室とがシリンダ2の底部に設けられたベースバルブ(図示せず)を介して適度な流通抵抗を持って連通されている。そして、リザーバ室には、油液およびガスが封入されており、ピストンロッド6の侵入、退出によるシリンダ2内の容積変化をガスの圧縮、膨張によって補償するようになっている。
【0018】ピストン3は、シリンダ2に摺動可能に嵌合し、ピストン2には上室4と下室5とを連通する第1の連通路7と第2の連通路8とが穿設されている。第1の連通路7と第2の連通路8とは互いに交わることがないようになっており、この第1の連通路7と第2の連通路8とから主油液通路が構成される。
【0019】また、ピストン3の上室4側、下室5側にそれぞれディスクバルブ9、10が設けられており、ディスクバルブ9、10とピストン3との間は外周部に切欠きの設けられた薄いディスク9a、10aが設けてあり、これによってオリフィス9b、10bが形成されている。このディスクバルブ9、10と、オリフィス9b、10bとで減衰力発生機構を構成している。
【0020】バイパス通路11は、上室4に開口する開口部11bと、下室5に開口する開口部11cと、ピストンロッド6内に軸方向に穿設され、開口部11bと開口部11cとを連通する連通部11dとからなっている。連通部11dには、小径部11aおよびその両側に位置する大径部11e、11fが設けられている。
【0021】球形の弁体12aは小径部11a内で移動可能に嵌入され、その直径は小径部11aの内径とほぼ等しくしてある。また、弁体12aは、上室側スプリング12bと下室側スプリング12cとにより小径部11a内に保持されている。そして、弁体12aが小径部11aに嵌入しているときには、バイパス通路11は遮断され、油液を流通することがないようになっている。また、弁体12aが大径部11e、11fに移動したときには、バイパス通路11は連通され、油液の流通を可能にしている。
【0022】スプリングバルブ12は、弁体12aと上室側スプリング12bと下室側スプリング12cと小径部11aとから構成される。スプリングバルブ12の縮み行程時の開弁圧(弁体12aが大径部11eに移動するときの下室5と上室4との圧力差)は、ディスクバルブ9の開弁圧よりも大きく、伸び行程時の開弁圧(弁体12aが大径部11fに移動するときの上室4と下室5との圧力差)はディスクバルブ10の開弁圧よりも大きく設定されている。」

(イ)「【0024】次に、以上のように構成した本実施の形態の作用について、図3を用いて説明する。(省略)」

(ウ)「【0026】また、車両が凹凸のある路面を走行しているときなど、油圧緩衝器1のピストン速度が0.15?0.7m/sと大きい領域(図3中、vA?vB’の領域)では、伸び行程時では上室4側の圧力上昇によりディスクバルブ10が開弁し、第1の流れA_(1)は第1の連通路7と通ってディスクバルブ10を介した流れとなり、バルブ特性の減衰力が発生する。このときにはディスクバルブ10が全開に達していない状態であり、減衰力は図3中A-B’のようにピストン速度に応じて直線的に変化する。」

(エ)「【0028】次に、走行中に車両が大きな断差や陥没を通過したときなど、油圧緩衝器1のピストン速度が非常に大きい領域(図3中、vB’以上の領域)では、伸び行程時では油液の流れはピストン速度がvAからvB’のときと同じであるが、ディスクバルブ10が全開となり、第1の連通路7がオリフィスとして作用して、減衰力はB’-C’に示されるようにピストン速度に応じて二次曲線的に変化する。」

(オ)「【0030】しかし、ピストン速度が所定の移動速度1.0m/s(図3中vB)以上になったときには、伸び行程時では図2右側に示すように、シリンダ上室4側の圧力により、バイパス通路11内の弁体12aが下室5側に押動されて小径部11aから大径部11fに移動し、バイパス通路11が連通され上室4側の油液が下室5側に流入する第3の流れC_(1)が生じる。このときの減衰力は図3中B-Cのようになり、B-C’に比べて減衰力がカット(低減)される。」

(カ)「【0032】このように、ピストン速度がvB以上の場合には、スプリングバルブ12が開弁してバイパス通路11を介して高圧室側の油液を低圧室側に逃がすことで、減衰力の過度の上昇を抑えることができ、車両が路面の大きな段差や陥没を通過するときなどに緩衝器が伸縮しないで車両に衝撃が伝播することを防止し、車両の乗り心地を向上させることができる。」

(キ)「【0036】なお、弁体12aは上記のように球形であることが望ましいが、小径部11aに嵌入したときにバイパス通路11を遮断し、大径部11e、11fに移動したときにバイパス通路11を連通すればよく、柱体や錐体などでも構わず、この場合、バイパス通路の形状は弁体の形状に合わせて加工されていればよい。
【0037】また、弁体を柱体とし、小径部との当接部分をシール材等で覆うことにより、バイパス通路の遮断性を向上することも可能である。」

(ク)「【0039】また、スプリングバルブ12は上室側スプリング12bまたは下室側スプリング12cのどちらか一方だけでもよく、・・・」

(ケ)「【0040】同様に、下室側スプリング12cのみを用いる場合にはナット6cに下室側スプリング12cの一端を固定し、他端を弁体12aに固定する。このときの下室側スプリング12cは自然長のときに弁体12aが小径部11aに嵌入して保持され、油圧緩衝器1の伸び行程時には下室側スプリング12bが縮んで弁体12aが小径部11aから大径部11fに移動し、縮み行程時には下室側スプリング12cが伸びて弁体12aが小径部11aから大径部11eに移動する。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には、下室側スプリング12cのみを用いる態様に関して、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

「シリンダ2内にシリンダ上室4とシリンダ下室5とを区画するピストン3と、上記ピストン3に設けられて上記シリンダ上室4と上記シリンダ下室5との連通を許容する第1の連通路7と、上記第1の連通路7の下流側端を開放可能に閉塞するディスクバルブ10と、上記ピストン3の貫通部に設けられるピストンロッド6とを有する油圧緩衝器において、
上記ピストンロッド6は、上記第1の連通路7を迂回して上記シリンダ上室4と上記シリンダ下室5との連通を許容するバイパス通路11を上記ピストンロッド6内に有し、
上記バイパス通路11には、弁体12aと、上記弁体12aを嵌入又は非嵌入させるバイパス通路11の小径部11aと、上記弁体12aを上記小径部11aに嵌入させる下側スプリングバルブ12cと、開口部11cを有するナット6cとが設けられ、
上記ナット6cは、上記弁体12aの背後側に上記ピストンロッド6に螺着される部材であり、
上記ディスクバルブ10の上記第1の連通路7の全開後の上記第1の連通路7における減衰力に連続する低減された減衰力を生じる油圧緩衝器。」

ウ 刊行物3
前置報告において引用され、本願の出願日前に頒布された特開2008-82491号公報(以下「刊行物3」という。)には、「緩衝器のバルブ構造」に関して、図面(特に、図1、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0013】一実施の形態におけるベースバルブ1は、図1に示すように、複筒型の緩衝器Dに具現化されており、緩衝器Dのシリンダ40の端部に嵌合するポート3を備えたバルブディスク2と、バルブディスク2に積層されポート3を閉塞する環状のリーフバルブ4と、ポート2の上流に設けた流路5と、流路上流側の圧力が大きくなると当該流路5における流路面積を減じる弁要素6と、流路5と並列に設けたバイパス路7と、流路上流側の圧力が大きくなるとバイパス路7を開放するリリーフ弁8とを備えて構成されている。
【0014】
他方、バルブ構造が具現化される緩衝器は、周知であるので詳細には図示して説明しないが、具体的にたとえば、シリンダ40と、シリンダ40の上端を封止するヘッド部材(図示せず)と、ヘッド部材(図示せず)を摺動自在に貫通するピストンロッド(図示せず)と、ピストンロッドの端部に設けたピストン(図示せず)と、シリンダ40内にピストンで隔成されるロッド側室(図示せず)とピストンより下方側のピストン側室41と、シリンダ40の外方に設けた外筒42と、外筒42の下端を封止する封止部材43と、シリンダ40の下端に設けたベースバルブ1と、シリンダ40と外筒42との間に形成されシリンダ40から出没するピストンロッドの体積分のシリンダ内容積変化を補償するリザーバ44とを備えて構成され、シリンダ40内には流体、具体的には作動油が充填され、リザーバ44内には作動油と気体が封入されている。
【0015】
そして、上記ベースバルブ1にあっては、緩衝器Dの圧縮行程時にピストン側室41内の圧力が上昇してポート3を介してリザーバ44へ作動油が移動するときに、その作動油の移動にリーフバルブ4で抵抗を与えて所定の圧力損失を生じせしめて、緩衝器Dに所定の圧側減衰力を発生させる減衰力発生要素として機能する。
【0016】
以下、このベースバルブ1について詳しく説明すると、バルブディスク2は、円盤状に形成される本体2aと、本体2aの外周側下端に設けられた鍔部2bと、本体2aの図1中下端に設けた凹部2cと、本体2aの軸芯部に設けられ後述のリーフバルブ4の内周をバルブディスク2に固定するロッド9が挿通される挿通孔2dと、本体2aの図1中上面と凹部2cとを連通するポート3と、ポート3に連通する窓10と、ポート3の出口端となる窓10の外周側に形成され凹部2cの底面よりリーフバルブ4側に突出する環状の弁座2eとを備えて構成され、シリンダ40の内周に本体2aを嵌合させ、シリンダ40と封止部材43とで鍔部2bが挟持されてシリンダ40に固定されている。
【0017】
このバルブディスク2は、このように、シリンダ40の下端に固定されることによってシリンダ40内のピストン側室41とリザーバ44とを区画し、鍔部2bに設けた切欠2fによって凹部2c内とリザーバ44との連通が確保され、これらピストン側室41とリザーバ44とは、バルブディスク2に形成したポート3を介して連通されるほか、バルブディスク2には緩衝器Dが伸長するときにリザーバ44からピストン側室41へと向かう作動油の流れを許容する伸側のポート2gがポート3より外周側に設けられている。」

(イ)「【0026】
上記したロッド9は、詳しくは、筒状とされてピストン側室41とリザーバ44との連通を許容し流路5に並列されるバイパス路7を形成している。そして、このロッド9の内径が中間から拡径されてロッド9の内周に段部9bが形成されており、ロッド9内には、段部9bの内縁で形成される環状の弁座17に着座する弁体18と、弁体18を弁座17側へ向けて附勢するバネ19が収容され、ロッド9の下端内周にはバネ19の図1中下端を支承する環状のバネ座20が螺着され、弁座17、弁体18およびバネ19でリリーフ弁8がロッド9に内設されている。」

(ウ)「【0029】
他方、ピストン1の速度が中速領域に達する場合、ピストン側室41内の圧力の作用では弁体13を弁座14に着座させるまで撓ませることができず、また、リリーフ弁8もバイパス路7を開放しないように設定されている。しかしながら、この場合には、ピストン側室41内の圧力が大きくなり、ポート3を通過する作動油のリーフバルブ4を図1中下方へ撓ませる力が大きくなり、リーフバルブ4はポート3を大きく開放して、ポート3を作動油が通過するときに生じる圧力損失は、ポート3で流量が制限されることによって生じるものが支配的となり、その圧側減衰力における減衰特性はいわゆるポート特性となる。このときの減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)は、図2中実線で示すが如くとなり、ピストン速度の増加に対して比例はするものの低速領域より減衰係数は低くなり、減衰特性の傾きが小さくなる。
【0030】
つづいて、ピストン速度が高速領域に達すると、ピストン側室41内の圧力の作用で弁体13が大きく撓んで弁座14側に接近して流路5の流路面積を狭める。この場合、リリーフ弁8はまだバイパス路7を開放せず、したがって、作動油がベースバルブ1を通過するときに生じる圧力損失は、作動油が流路面積が狭められた流路5を通過するときに生じるものが支配的となり、減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)は、図2中実線で示すが如くとなり、この中速領域にある場合よりも傾きが大きくなり、高速領域における減衰係数は大きくなる。
【0031】
つづき、ピストン1の速度が高々速領域に達して、上室41内の圧力と下室42内の圧力との差がますます大きくなり、作動油のリーフバルブ4を図1中下方へ押し下げる力がさらに大きくなる。
【0032】
そして、ピストン1の速度が高速領域を超えて高々速領域にある場合、ピストン側室41内の圧力の作用で弁体13が弁座14に完全に着座して流路5を閉塞し、今度は、リリーフ弁8がバイパス路7を開放する。したがって、作動油がベースバルブ1を通過するときに生じる圧力損失は、作動油がリリーフ弁8を通過するときに生じるものが支配的となり、減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)は、図2中実線で示すが如くとなり、傾きが高速領域より小さくなり、高々速領域における減衰力が大きくなりすぎることが防止されることになる。」

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物3には、次の発明(以下「刊行物3に記載された事項」という。)が記載されている。

「ピストン側室41とリザーバ44とを区画するバルブディスク2と、上記バルブディスク2に設けられて上記ピストン側室41と上記リザーバ44との連通を許容するポート3と、上記ポート3の下流側端を開放可能に閉塞するリーフバルブ4と、上記バルブディスク2の軸芯部に設けられるロッド9とを有する緩衝器のバルブ構造において、
上記ロッド9は、上記ポート3を迂回して上記ピストン側室41と上記リザーバ44との連通を許容するバイパス路7を上記ロッド9内に有し、
上記バイパス路7には、弁体18と、上記弁体18を離着座させる弁座17と、上記弁体18を上記弁座17に着座させるバネ19と、開口部を有するバネ座20とが設けられ、
上記バネ座20は、上記弁体18の背後側に上記ロッド9に螺着される部材であり、
高々速領域における減衰力が大きくなりすぎることが防止される緩衝器のバルブ構造。」

(2)本願発明1について
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、その機能からみて、後者の「シリンダ6」は前者の「シリンダ」に相当し、以下同様に、「油室Aと油室B」は「一方室と他方室」に、「ピストン7」は「隔壁体」に、「通路7a」は「ポート」に、「チエツクバルブ7b」は「バルブ」に、「ピストン7の貫通部」は「隔壁体の軸芯部」に、「ピストンロツド1」は「軸体」に、「減衰力調整機構」は「減衰バルブ構造」に、「油通路3及び油通路5」は「バイパス路」に、「開閉バルブ8」は「弁体」に、「ストツパ2’」は「シート部」に、「スプリング10」は「附勢バネ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「開口部を有するカラー9」と前者の「バイパス路における抵抗を設定する流路を有する部材」とは、「流路を有する部材」という限りで共通し、後者の「上記カラー9は、上記開閉バルブ8の背後側で上記ピストンロツド1に設けられる部材」と前者の「上記流路を有する部材は、上記弁体の背後側に上記軸体に着脱自在に螺着される部材」とは、「上記流路を有する部材は、上記弁体の背後側に上記軸体に設けられる部材」という限りで共通する。

したがって、両者は、
「シリンダ内に一方室と他方室とを区画する隔壁体と、上記隔壁体に設けられて上記一方室と上記他方室との連通を許容するポートと、上記ポートの下流側端を開放可能に閉塞するバルブと、上記隔壁体の軸芯部に設けられる軸体とを有する減衰バルブ構造において、
上記軸体は、上記一方室と上記他方室との連通を許容するバイパス路を上記軸体内に有し、
上記バイパス路には、弁体と、上記弁体を離着座させるシート部と、上記弁体を上記シート部に着座させる附勢バネと、流路を有する部材とが設けられ、
上記流路を有する部材は、上記弁体の背後側に上記軸体に設けられる部材である減衰バルブ構造。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、バイパス路が「上記ポートを迂回し」、バイパス路には「上記バイパス路における抵抗を設定する」流路を有する部材が「着脱自在に螺着され」、「上記部材における上記抵抗の変更によって上記バルブの上記ポートの開放作動後の上記ポートにおけるポート特性に連続する抑制される特性の減衰力を変更可能である」のに対し、
引用発明1は、油通路3及び油通路5には開口部を有するカラー9が設けられる点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
刊行物1には「本考案減衰力調整機構においては、初期減衰力の調整は、アジヤスタ15を回動して作動杆2を移動し、開閉バルブ8を介してスプリング10の弾力を調定する」(前記(1)ア(イ))及び「ピストン7の矢標方向(伸び側方向)への移動によって、オリフイス4が前述の設定弾力に対応して開放される」(同)と記載されている。これらの記載によれば、引用発明1の初期減衰力が開閉バルブ8及びスプリング10によって設定されることが把握できるが、刊行物1には、カラー9の開口部が油通路3及び油通路5における抵抗を設定し、減衰力に関連することは記載も示唆もされていない。

そうすると、引用発明1において、当業者が相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到し得たとはいえない。

次に、引用発明2を検討する。
本願発明と引用発明2とを対比すると、後者の「シリンダ2」は前者の「シリンダ」に相当し、以下同様に、「シリンダ上室4とシリンダ下室5」は「一方室と他方室」に、「ピストン3」は「隔壁体」に、「第1の連通路7」は「ポート」に、「ディスクバルブ10」は「バルブ」に、「ピストン3の貫通部」は「隔壁体の軸芯部」に、「ピストンロッド6」は「軸体」に、「油圧緩衝器」は「減衰バルブ構造」に、「バイパス通路11」は「バイパス路」に、「弁体12a」は「弁体」に、「上記弁体12aを嵌入又は非嵌入させるバイパス通路11の小径部11a」は「上記弁体を離着座させるシート部」に、「下側スプリングバルブ12c」は「附勢バネ」にそれぞれ相当する。
また、後者の「開口部11cを有するナット6c」と前者の「バイパス路における抵抗を設定する流路を有する部材」とは、「流路を有する部材」という限りで共通し、後者の「弁体12aの背後側に上記ピストンロッド6に螺着される部材」と前者の「弁体の背後側に上記軸体に着脱自在に螺着される部材」とは、「弁体の背後側に上記軸体に螺着される部材」という限りで共通する。

そうすると、両者は、以下の点で一致し、相違する。
〔一致点〕
「シリンダ内に一方室と他方室とを区画する隔壁体と、上記隔壁体に設けられて上記一方室と上記他方室との連通を許容するポートと、上記ポートの下流側端を開放可能に閉塞するバルブと、上記隔壁体の軸芯部に設けられる軸体とを有する減衰バルブ構造において、
上記軸体は、上記ポートを迂回して上記一方室と上記他方室との連通を許容するバイパス路を上記軸体内に有し、
上記バイパス路には、弁体と、上記弁体を離着座させるシート部と、上記弁体を上記シート部に着座させる附勢バネと、流路を有する部材とが設けられ、
上記流路を有する部材は、上記弁体の背後側に上記軸体に螺着される部材である減衰バルブ構造。」

〔相違点2〕
本願発明は、流路を有する部材が「着脱自在に」螺着され、「上記バイパス路における抵抗を設定」し、「上記部材における上記抵抗の変更によって上記バルブの上記ポートの開放作動後の上記ポートにおけるポート特性に連続する抑制される特性の減衰力を変更可能である」のに対し、
引用発明2は、開口部11cを有するナット6cが「着脱自在に」螺着されるか不明であり、上記ディスクバルブ10の上記第1の連通路7の全開後の上記第1の連通路7における減衰力に連続する低減された減衰力を生じる点。

そして、刊行物2には「バイパス通路11内の弁体12aが下室5側に押動されて小径部11aから大径部11fに移動し、バイパス通路11が連通され上室4側の油液が下室5側に流入する第3の流れC_(1)が生じる。このときの減衰力は図3中B-Cのようになり、B-C’に比べて減衰力がカット(低減)される」(段落【0030】)と記載されている。この記載によれば、引用発明2の低減された減衰力がバイパス通路11によって設定されることは把握できるが、刊行物2には、ナット6cの開口部11cがバイパス通路11における抵抗を設定し、減衰力に関連することは記載も示唆もされていない。

そうすると、引用発明2において、当業者が相違点2に係る本願発明の構成を容易に想到し得たとはいえない。

次に、刊行物3を検討する。
刊行物3には「今度は、リリーフ弁8がバイパス路7を開放する。したがって、作動油がベースバルブ1を通過するときに生じる圧力損失は、作動油がリリーフ弁8を通過するときに生じるものが支配的となり」(段落【0032】)と記載されている。この記載によれば、刊行物3に記載された事項の減衰力がリリーフ弁8によって設定されることは把握できるが、刊行物3には、バネ座20の開口部がバイパス通路7における抵抗を設定し、減衰力に関連することは記載も示唆もされていない。

そうすると、刊行物1ないし3には、相違点1及び2に係る本願発明の構成のうち「上記バイパス路における抵抗を設定する流路を有する部材」が設けられ、「上記部材における上記抵抗の変更によって」「減衰力を変更可能である」ことが記載も示唆もされていないから、引用発明1、2及び刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が相違点1及び2に係る本願発明の構成を容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2、又は引用発明1、2及び刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本願発明2ないし5について
請求項2ないし5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用発明1、引用発明2、又は引用発明1、2及び刊行物3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
請求項1の「部材によって上記流路の抵抗が決定される」との記載が同「上記バイパス路における抵抗を設定する流路を有する部材」との記載と整合しないから、部材が決定する抵抗が「流路の抵抗」なのか、「バイパス路における抵抗」なのか不明確である。

2 当審拒絶理由の判断
補正により、請求項1から「流路の抵抗」との文言が削除された。
これにより、特許請求の範囲の請求項1の記載は明確となった。
よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2012-69350(P2012-69350)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F16F)
P 1 8・ 121- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 阿部 利英
特許庁審判官 小関 峰夫
冨岡 和人
発明の名称 減衰バルブ構造  
代理人 天野 泉  
代理人 石川 憲  

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