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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1324770
審判番号 不服2016-6226  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-26 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2015-12406「イヤホン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月28日出願公開、特開2015-100130〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年1月12日に出願した特願2006-5412号の一部を平成21年3月6日に新たな出願とした特願2009-53594号の一部を平成25年2月8日に新たな出願とした特願2013-23155号の一部を同年6月28日に新たな出願とした特願2013-135957号の一部を平成27年1月26日に新たな特許出願としたものであって、同年8月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日付けで手続補正がなされたが、平成28年2月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月26日付けで拒絶査定不服の審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年4月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年4月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年9月29日付け手続補正により補正された)下記の(1)に示す請求項1ないし10を、下記の(2)に示す請求項1ないし10へと補正するものである(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし10
「 【請求項1】
振動板と当該振動板を支持する支持部とを含むドライバユニットと、
イヤピースを保持し前接合部を有するハウジング前部と、
後接合部を有し当該後接合部が前記前接合部と接合することで生じる内部空間に前記ドライバユニットを外部に露出させることなく配置させるハウジング後部と、
前記前接合部と前記後接合部との接合部を覆い、イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配されるリング部と
を有するイヤホン。
【請求項2】
前記リング部の材質はゴムである
請求項1に記載のイヤホン。
【請求項3】
前記リング部は前記ドライバユニットの周囲を囲む位置に配される
請求項1乃至請求項2の何れかに記載のイヤホン。
【請求項4】
前記リング部の外周は曲面を含む
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のイヤホン。
【請求項5】
前記リング部は使用者の耳甲介腔内に配される
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のイヤホン。
【請求項6】
前記リング部の外径は、前記イヤピースの最外形よりも大きい
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のイヤホン。
【請求項7】
前記ハウジング後部には、前記内部空間と前記ハウジング後部の後方とを連通する孔部が形成される
請求項1乃至請求項6の何れかに記載のイヤホン。
【請求項8】
前記リング部は、前記孔部の少なくとも一部を覆う
請求項7に記載のイヤホン。
【請求項9】
音楽再生装置から供給される信号により前記振動板を振動させて音を発生させる
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のイヤホン。
【請求項10】
音楽プレーヤから供給される音声信号に応じた音を発生させる
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のイヤホン。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10
「 【請求項1】
振動板と当該振動板を支持する支持部とを含むドライバユニットと、
イヤピースを保持し前接合部を有するハウジング前部と、
後接合部を有し当該後接合部が前記前接合部と接合することで生じる内部空間に前記ドライバユニットを外部に露出させることなく配置させるハウジング後部と、
接合された前記前接合部と前記後接合部との接合部を覆い、イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配されるリング部と
を有するイヤホン。
【請求項2】
前記リング部の材質はゴムである
請求項1に記載のイヤホン。
【請求項3】
前記リング部は前記ドライバユニットの周囲を囲む位置に配される
請求項1乃至請求項2の何れかに記載のイヤホン。
【請求項4】
前記リング部の外周は曲面を含む
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のイヤホン。
【請求項5】
前記リング部は使用者の耳甲介腔内に配される
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のイヤホン。
【請求項6】
前記リング部の外径は、前記イヤピースの最外形よりも大きい
請求項1乃至請求項5の何れかに記載のイヤホン。
【請求項7】
前記ハウジング後部には、前記内部空間と前記ハウジング後部の後方とを連通する孔部が形成される
請求項1乃至請求項6の何れかに記載のイヤホン。
【請求項8】
前記リング部は、前記孔部の少なくとも一部を覆う
請求項7に記載のイヤホン。
【請求項9】
音楽再生装置から供給される信号により前記振動板を振動させて音を発生させる
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のイヤホン。
【請求項10】
音楽プレーヤから供給される音声信号に応じた音を発生させる
請求項1乃至請求項8の何れかに記載のイヤホン。」

2 新規事項の有無及び補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の請求項1に記載の「イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配されるリング部」が覆う「前記前接合部と前記後接合部との接合部」について、「接合された」との限定を付加したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(1)引用例
ア.特開2005-191663号公報
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-191663号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(ア)「【技術分野】
【0001】
この発明は放音部を外耳道入口に装着または挿入して用いるインサート型ヘッドホンに関する。」
(イ)「【実施例】
【0026】
図1及び図2はこの発明に係るインサート型ヘッドホンの一実施例構成図で、図1は図2のI‐I線に沿う縦断面図、図2は図1のII-II線に沿う横断面図である。
【0027】
図1と図2において、振動板とその駆動用磁気回路を含むと共に段部を有するほぼ円盤状のドライバーユニット10と、一端に内方フランジを有すると共にドライバーユニット10の外周を包囲するほぼ円筒形に、たとえば金属で形成したユニットホルダー20と、ドライバーユニット10の段部とユニットホルダー20の内方フランジの間に配置されるリング状の通気抵抗体30と、ユニットホルダー20及び通気抵抗体30と組み合わせたドライバーユニット10を載置すると共にヘッドホンを収容するハウジングの一半部をなす前部ハウジング体50とは、後で詳述するようにモジュール化され、この発明のインサート型ヘッドホンの主要部を構成する。これら部品の分解斜視図が図3に示される。
【0028】
ドライバーユニット10は、図1に一部を断面で示す振動板11と、その放音側を保護すると共にその放射音を通過させる放音開口13を有するプロテクタ板12と、振動板11の背面側で振動板を電磁的に駆動する磁気回路の一部をなし、外周端壁で振動板11の外周を保持すると共に外周端壁に隣接する背面側に段部16を有するヨーク板14とでなる。ここでこの発明の特徴としてヨーク板14は外周端壁の少なくとも一箇所に、外周端壁の全長に亘って、望ましくは段部16にかけて伸びるスリット15を備える。」
(ウ)「【0030】
前部ハウジング体50はたとえばプラスチックによりほぼ円盤状の受台部51とほぼ筒状の放音部52を含んで断面においてほぼT字状に形成され、後端面53でドライバーユニット10のヨーク板14の外周端壁前端面を受ける受台部51は、ドライバーユニット10の振動板プロテクタ板12と空隙を介して対抗する開口部分から前方に向け、つまり、ヘッドホンを使用者の耳孔内に装着したときに外耳道入口に向けて筒状に延びる放音部52と一体に形成される。
(中略)
【0032】
前部ハウジング体50は更に、筒状の放音部52の外周を取り巻く柔軟なイヤーパッド70を備える。例えばゴムのような弾性材料でなるこのイヤーパッド70は、後方端の内方突起71を放音部52外周の溝56に嵌合しかつ放音部先端から突き出して固定する筒状部とその先端から受台部前面近くまで延びる球状部とでなり、放音部52を耳孔に挿入したときに耳孔の周面に接合してヘッドホンを安定に装着させると共に、放音部と耳孔の間を好適に密閉する。」
(エ)「【0034】
背面空間を区画する後部ハウジング体40は、例えばプラスチックで、ユニットホルダー20の前方端外周を覆う前部ハウジング体50の外周壁の後端縁に当接係合する前端縁を有するほぼ半球形に形成してその内部に背面空間41を区画し、後方の一部に設けた穴に駆動回路用のコードを導出する弾性材料製のブッシング90を挿通する。ブッシング90は比較的に長くしてコード表面との接触面を増すことによりある程度の気密性を保つ一方、後部ハウジング体40の前端縁近くの、ここではドライバーユニットのユニットホルダー20の通気孔22に近接した位置に複数のスリット42を設けることにより、背面空間41を外部に連通する。」
(オ)「【0035】
前部ハウジング体50と後部ハウジング体40とは、前部ハウジング体50の受台部51と後部ハウジング体40の前端縁の外周を覆うカップリングカバー60で結合される。ほぼ筒状のカップリングカバー60の前方端に設けた内方フランジ61を前部ハウジング体の受台部51の前端面に当て、後方端側内面に設けたフック62を後部ハウジング体のスリット42の前方側に設けた突条43に弾性的に係合して、両ハウジング体40,50を相互に結合してハウジングを形成する。」
(カ)「【0038】
この様に、この発明に係るインサート型ヘッドホンは、請求項1に記載の通り放音開口13を有して振動板11の前面の放音側を保護するプロテクタ板12および振動板の背面側において振動板駆動回路の一部を構成すると共に外周端壁で振動板外周を保護するヨーク板14を備えるドライバーユニット10と、ドライバーユニットを収容してプロテクタ板前面の放音空間およびヨーク板後方の外部と連通した背面空間を区画するハウジングと、ヘッドホンの耳孔への装着時に密閉される放音空間を背面空間に通気抵抗体30を介して連通する連通路とを備え、連通路はドライバーユニットのヨーク板の外周端壁に設けたスリット15でなり、通気抵抗体30はスリット15の背面空間側を塞いでなるので、放音空間に音のコモリが生じることが防止され、低音から高音までの全音域で周波数特性を向上することができる。」

上記(ア)及び(ウ)の記載からみて、インサート型ヘッドホンは、使用者の耳孔内に装着されるものである。
また、上記(イ)の記載からみて、ドライバーユニット10は、振動板11とヨーク板14とを含んでおり、当該ヨーク板14はその外周端壁で振動板11の外周を保持するものである。
また、上記(ウ)の記載からみて、前部ハウジング体50は、イヤーパッド70を備えている。
また、上記(オ)の記載からみて、前部ハウジング体50と後部ハウジング体40とが、前部ハウジング体50の受台部51と後部ハウジング体40の前端縁の外周を覆うカップリングカバー60で結合されることによって、ハウジングが形成される。その際、上記(エ)の記載からみて、前部ハウジング体の後端縁と後部ハウジング体の前端縁は当接係合するとともに、図1及び図2の記載からみて、前記後端縁と前記前端縁とが当接係合している部分はカップリングカバー60で覆われている。
さらに、受台部51の形状は円盤状(上記(ウ)参照)であって、後部ハウジング体40の形状は半球状(上記(エ)参照)であることに加えて図1及び2の記載も勘案すると、それらを覆うカップリングカバー60の形状はリング状であるといえる。
そして、上記(カ)の記載によれば、ハウジングにドライバーユニット10を収容しているが、図1及び図2の記載を参酌すると、前部ハウジング体50と後部ハウジング体40とによって形成されるハウジングの内部空間に、ドライバーユニット10を外部に露出させることなく収容している。

したがって、上記(ア)ないし(カ)及び、図1ないし図5の記載事項を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「振動板11と当該振動板11を保持するヨーク板14とを含むドライバーユニット10と、
イヤーパッド70を備え後端縁を有する前部ハウジング体50と、
前記後端縁と当接係合する前端縁を有する後部ハウジング体40と、
前記前部ハウジング体50と後部ハウジング体40とを結合して形成され、内部空間に前記ドライバーユニット10を外部に露出させることなく収容するハウジングと、
前記後端縁と前記前端縁とが当接係合している部分を覆うリング状のカップリングカバー60と
を有し、使用者の耳孔内に装着されるインサート型ヘッドホン。」

イ.特開2000-341784号公報
本願の出願前に公開された特開2000-341784号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。

(キ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耳介に装着されて用いられるイヤホンに関し、特に、弾性を有する耳介装着部材を備えたイヤホンに関する。」
(ク)「【0013】本発明に係るイヤホンは、図1及び図2に示すように、スピーカユニット1と、このスピーカユニット1を収納するイヤホン本体を構成するハウジング2を備える。ハウジング2は、合成樹脂を成形して形成され、耳介の凹部に装着される大きさを有する略球状に形成されている。ハウジング2は、直径R1を9?11mmの大きさに形成されている。」
(ケ)「【0015】スピーカユニット1を収納するハウジング2は、図2に示すように、前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7を突き合わせて結合されて構成される。前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7は、突き合わせ面側にそれぞれ突設した係合爪片8,9を相対係合させることによって結合されることによりハウジング2を構成する。このとき、前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7の突き合わせ部は、ハウジング2の外周囲に巻装されるベルト10により密閉される。」

上記(キ)ないし(ケ)の記載からみて、耳介に装着されるイヤホンのハウジング2は、前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7を突き合わせて結合することにより構成され、前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7を結合するために、それぞれの突き合わせ面側に突設した係合爪片8,9を相対係合させている。
また、上記(ケ)の記載に加えて、図1及び図2の記載も参酌すると、結合された前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7の突き合わせ部は、リング状のベルト10で覆われている。
したがって、上記(キ)ないし(ケ)並びに図1及び2の記載事項を総合勘案すると、引用例2には、耳介に装着されるイヤホンに関して、次の技術事項が記載されている。

(a)前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7を結合してハウジング2を構成するために、前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7の突き合わせ面側にそれぞれ突設した係合爪片8,9を相対係合させること。
(b)結合された前部ハウジング半体6と後部ハウジング半体7の突き合わせ部を、リング状のベルト10で覆うこと。

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明における「ドライバーユニット10」「イヤーパッド70」「前部ハウジング体50」「後部ハウジング体40」は、本願補正発明における「ドライバユニット」「イヤーピース」「ハウジング前部」「ハウジング後部」にそれぞれ相当する。
イ.引用発明における「ヨーク板14」は、振動板11を保持しているから、本願補正発明における「振動板を支持する支持部」に相当する。
ウ.引用発明における「前部ハウジング体50」が有する「後端縁」と「後部ハウジング体40」が有する「前端縁」は、ハウジングを形成した際に「当接係合」すなわち「接合」するものであるから、本願補正発明における「前接合部」と「後接合部」にそれぞれ相当する。
エ.引用発明において、ドライバーユニット10を外部に露出させることなく収容するための内部空間は、「前部ハウジング体50」が有する「後端縁」と「後部ハウジング体40」が有する「前端縁」の上記「接合」によって形成される。そして、引用発明において、上記内部空間にドライバーユニット10を「収容」することは、本願補正発明において内部空間にドライバユニットを「配置」することに相当する。
オ.引用発明における「カップリングカバー60」の形状はリング状であるから、本願補正発明における「リング部」に相当する。そして、引用発明において、当該「カップリングカバー60」が覆っている「後端縁と前端縁とが当接結合している部分」は、本願補正発明における「前接合部と後接合部との接合部」に相当する。
カ.引用発明における「インサート型ヘッドホン」は使用者の耳孔内に装着されるものであるから、本願補正発明における「イヤホン」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明は、
「振動板と当該振動板を支持する支持部とを含むドライバユニットと、
イヤピースを保持し前接合部を有するハウジング前部と、
後接合部を有し当該後接合部が前記前接合部と接合することで生じる内部空間に前記ドライバユニットを外部に露出させることなく配置させるハウジング後部と、
前記前接合部と前記後接合部との接合部を覆うリング部と
を有するイヤホン。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
リング部が、本願補正発明においては、「接合された前接合部と後接合部との接合部」を覆っているのに対し、引用発明においては、「前接合部と後接合部との接合部」を覆ってはいるものの、「接合された前接合部と後接合部との接合部」を覆っているとまではいえない点。
[相違点2]
本願補正発明においては、リング部が「イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配される」のに対して、引用発明においては、イヤホン装着時のリング部と耳介の位置関係について特定されていない点。

(3)判断
上記各相違点について検討する。
ア.相違点1について
引用発明においては、ハウジング前部(前部ハウジング体50)とハウジング後部(後部ハウジング体40)とを結合してハウジングを形成しているが、具体的にどのような手段・手法で結合するかは当業者が適宜選択し得ることであり、上記(1)イで説示した引用例2に記載の技術事項(a)を採用して、ハウジング前部とハウジング後部の突き合わせ面側にそれぞれ突設した係合爪片を相対係合させることによって結合するようにすることは、当業者にとって格別の技術的困難性を伴うことではない。
また、そのようしてハウジング前部とハウジング後部とを結合した場合においても、前接合部と後接合部との接合部をリング部で覆うようにすることは、上記(1)イで説示した引用例2の技術事項(b)からみて、当業者が適宜なし得ることであり、そうすると、リング部は、「接合された前接合部と後接合部との接合部」を覆うことになる。
したがって、相違点1については、引用発明及び引用例2に記載の技術事項(a)及び(b)に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

イ.相違点2について
イヤーピースを外耳道に挿入して装着する音響機器において、当該音響機器が使用者の耳に装着された場合に、イヤーピースを保持するハウジングの前面又は側面の一部が耳介に接触することは、例えば以下の周知例1ないし6に記載されているように周知であるから、引用例1の図1及び図2に記載のような形状のイヤホンであれば、そのハウジングの前面又は側面の一部は耳介に当然に接触するものである。そして、引用例1の図1及び図2に記載のカップリングカバー60(リング部)の配置を勘案すると、引用発明におけるリング部は、イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する。
また、引用例1に記載のハウジングよりも大きいハウジングを有するイヤホンも周知であるが、ハウジングの大きさをそのように変えても、使用者の耳に装着された場合に当該ハウジングの前面又は側面の一部は耳介に当然に接触するから、リング部が「イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配される」ように設計することは、当業者にとって格別の創意工夫を要することではない。

周知例1:特開2003-32772号公報(原査定で周知技術を示す文献として提示。特に、図9参照。)
周知例2:特開2003-125476号公報(原査定で周知技術を示す文献として提示。特に、図1参照。)
周知例3:実願昭63-33814号(実開平1-137691号)のマイクロフィルム(特に、第8図参照。)
周知例4:特開平5-284584号公報(特に、図3参照。)
周知例5:実公昭47-42593号公報(特に、第3図参照。)
周知例6:特開2005-244645号公報(特に、段落【0026】の「ハウジング2は…耳珠と対珠に支持されて」という記載参照。)

ウ.本願補正発明の効果について
審判請求人は、審判請求書において、
「(4-4)これに対し本願発明は、上記第3の特徴点のように構成することにより、段落[0034]に記載されているように『ハウジング前部5Aとハウジング後部5Bとの接合済みの接合部をゴムリング16で保護及び隠蔽することでユーザの耳を接合部から保護する』といった格別な作用効果を奏するが、かかる作用効果を奏する構成は引用文献1乃至引用文献4には開示も示唆もされていない。」
と主張している。
しかしながら、上記アで述べたとおり、引用例2に記載の技術事項(b)を適用した場合には、接合済みの接合部はリング部で覆われるから、接合済みの接合部が使用者の耳介に直接接触することはない。
したがって、本願補正発明の効果についても、引用発明及び引用例2に記載された技術事項から予測し得る範囲内のものであって格別のものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項並びに周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年4月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成27年9月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に示したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1の記載事項及び引用発明は、上記第2の3(1)ア.で説示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「イヤホンが使用者の耳に装着された場合に耳介に接触する位置に配されるリング部」が覆う「前記前接合部と前記後接合部との接合部」について、「接合された」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明の相違点は、上記第2の3(2)で挙げた相違点2のみとなり、当該相違点2については上記第2の3(3)で判断したとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-05 
結審通知日 2016-12-06 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2015-12406(P2015-12406)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
P 1 8・ 575- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下林 義明松田 直也深沢 正志  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
國分 直樹
発明の名称 イヤホン  
代理人 田辺 恵基  

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