ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H04J 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04J 審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 H04J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04J 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04J |
---|---|
管理番号 | 1325460 |
審判番号 | 不服2015-19998 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-06 |
確定日 | 2017-03-21 |
事件の表示 | 特願2013-171165「複数のクライアント局に対する独立したデータを同時ダウンリンク伝送するアクセスポイント」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開,特開2014- 39263,請求項の数(24)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2008年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年7月18日 米国,2008年5月30日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-517184号の一部を,平成25年8月21日に新たな特許出願としたものであって,平成27年2月13日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年5月1日付けで手続補正がされたが,同年6月26日付けで補正の却下の決定がされ,同日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年11月6日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされ,その後当審において,平成28年4月20日付けで拒絶理由が通知され,同年7月26日付けで手続補正がされ,同年9月28日付けで最後の拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)が通知され,平成29年1月4日付けで手続補正がされたものである。 第2 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は次のとおりである。 1(新規事項) 平成28年7月26日付けでした手続補正は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (1)上記手続補正により,請求項1,20に,それぞれ「前記第1の伝送器及び前記2の伝送器は,前記SDT期間とは異なる期間中に,非オーバーラップ伝送手法を用いて,前記複数のクライアント局のうちの第3のクライアント局及び前記複数のクライアント局のうちの第4のクライアント局へ複数の伝送データストリームを伝送し,」,「前記SDT期間とは異なる期間中に,非オーバーラップ伝送手法を用いて,前記複数のクライアント局のうちの第3のクライアント局及び前記複数のクライアント局のうちの第4のクライアント局へ複数の伝送データストリームを伝送するステップ」との事項が追加されたが,「前記SDT期間とは異なる期間中に,非オーバーラップ伝送手法を用いて,」は「レガシーウィンドウ50にてレガシークライアント局がCSMAベース通信を行うこと」以外のものを含ものであるから,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 (2)上記手続補正により,新たに請求項16,25が追加されたが,これらの請求項が引用する各請求項においても,「第3のクライアント局及び第4のクライアント局」が同時ダウンリンク伝送に対応していないレガシークライアント局であることは規定されていないから,これらの請求項を追加した補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 (3)上記手続補正により,新たに請求項17,26が追加されたが,これらの請求項に特定されたSDT期間の伝送に先立ちクライアント局が同時ダウンリンク伝送に対応している否かを「判断」することは,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 (4)上記手続補正により,新たに請求項18,27が追加されたが,これらの請求項に特定された事項はCSMAによらず単なる時分割多重接続における処理も含まれることから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。 2 (サポート要件・明確性) この出願は,特許法第36条第6項第1号,同第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)上記1(1)?(4)のとおりであるから,サポート要件も満たしていない。 (2)「前記第1の伝送器及び前記2の伝送器」(請求項1)の記載は不明確である。 3 (実施可能要件) この出願は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (1)【0056】の「Ti」の定義がされておらず不明である。 (2)【0057】の「信号S2,S3,…,Ss」の記載は,意味不明である。 (3)【0059】の「SDTは,データ集積の概念と組み合わされ得る。」,【0070】の「AP14により伝送されたSDTデータは,データ集積モジュール307によりサブフレームに分割され得る。」なる記載は,意味不明である。 (4) 【0055】の「例えば,1つのSINRバランシング手法は,対応されるクライアント局26全体で最小SINRを最大にするステップを含む場合がある。」の記載は,不明確である。 4 (進歩性) 本願の請求項1-28に係る発明は,以下の引用文献7-10に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 7.特開2006-319959号公報 8.特開2007-110317号公報 9.特表2006-520109号公報 10.特表2005-512447号公報 第3 平成29年1月4日付けの手続補正について 1 平成29年1月4日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許請求の範囲の補正に関し,以下(i)?(vii)の事項を含むものである。 (i) 請求項1についての「前記SDT期間は,前記第1のクライアント局からの確認応答及び前記第2のクライアント局からの確認応答を,前記無線ネットワークデバイスで受信するための2つの時間スロットを含み,」との事項を追加する補正は,「SDT期間」について限定を付して特許請求の範囲を減縮するものである。 (ii) 請求項1についての「前記第1の伝送器及び前記2の伝送器」を「前記第1の伝送器及び前記第2の伝送器」とする補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (iii) 請求項1についての「前記SDT期間とは異なる期間中に,非オーバーラップ伝送手法を用いて」を「前記SDT期間とは異なるCSMAウィンドウ中に,CSMAベース通信を用いて」とする補正は,「SDT期間とは異なる期間」及び「非オーバーラップ伝送手法」について限定を付して特許請求の範囲を減縮するものである。 (iv) 請求項1についての「前記第3のクライアント局及び前記第4のクライアント局は,SDTに対応していないレガシークライアント局であり,」との事項を追加する補正は,「第3のクライアント局」及び「第4のクライアント局」について限定を付して特許請求の範囲を減縮するものである。 (v) 請求項10についての「最小の信号対干渉および雑音比を最大にすることによって生成する」を「最小の信号対干渉および雑音比が高まるように生成する」とする補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (vi) 請求項18についての補正は,上記(i),(iii),(iv)と同様である。 (vii) 本件補正前の請求項17,18,26,27は削除された。これに伴い,請求項の項番が繰り上げられた。 上記(i)?(vi)の補正事項は,特許法第17条の2第3項,同第4項に違反するところはない。 そして,「第4 本願発明」から「第6 当審の判断」までに示すように,本件補正後の請求項1-24に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。 2 本件補正は,明細書の補正に関し,以下(viii)?(xii)の事項を含むものである。 (viii) 【0055】の「最小SINRを最大にする」を「最小SINRが高まるように,SINRを高める」とする。 (ix) 【0056】に「Tiは,i番目のユーザの多重化マトリックスの列数である。」との記載を追加する。 (x) 【0057】の「信号S2,S3,…,Ss」,「信号S1」をそれぞれ「信号x_(2),x_(3),…,x_(N)」,「信号x_(1)」とする。 (xi) 【0059】の「SDTは,データ集積の概念と組み合わされ得る。」を「SDTは,データ集積の実行に加えて実行され得る。」とする。 (xii) 【0070】の「・・・サブフレームに分割され得る。」を「・・・サブフレームに集積され得る。」とする。 上記(viii)?(xii)の補正事項は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるから,特許法第17条の2第3項に違反するところはない。 3 まとめ 上記1,2のとおり,平成29年1月4日付けの手続補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反していない。 第4 本願発明 本願の請求項1-24に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明24」という。)は,平成29年1月4日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-24に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本願発明1は以下のとおりである。 「無線ネットワークデバイスであって, (i)それぞれが複数のクライアント局のうちそれぞれ1つのクライアント局に対する変調された複数のデータストリームを受け取り,(ii)複数のマトリックスを生成する複数のマトリックスモジュールであって,それぞれのマトリックスモジュールが,(i)前記無線ネットワークデバイスと前記複数のクライアント局との間のチャネル状況に基づいて前記複数のマトリックスを生成し,(ii)前記変調された前記複数のデータストリームのそれぞれに1つの前記マトリックスを適用して,多重化された複数のデータストリームを生成する,複数のマトリックスモジュールと, 複数の加算モジュールであって,それぞれの加算モジュールが,前記多重化された前記複数のデータストリームのうちの少なくとも2つを加算して伝送データストリームを生成する,複数の加算モジュールと, 第1の伝送器及び第2の伝送器であって,同時ダウンリンク伝送期間(SDT期間)中に,複数の前記伝送データストリームのうちの第1の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第1のクライアント局へ伝送し,前記SDT期間中に,前記第1の伝送データストリームが伝送されている間に,前記複数の伝送データストリームのうちの第2の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第2のクライアント局へ伝送する,第1の伝送器及び第2の伝送器と を備え, 前記SDT期間は,前記第1のクライアント局からの確認応答及び前記第2のクライアント局からの確認応答を,前記無線ネットワークデバイスで受信するための2つの時間スロットを含み, 前記第1の伝送器及び前記第2の伝送器は,前記SDT期間とは異なるCSMAウィンドウ中に,CSMAベース通信を用いて,前記複数のクライアント局のうちの第3のクライアント局及び前記複数のクライアント局のうちの第4のクライアント局へ複数の伝送データストリームを伝送し, 前記第3のクライアント局及び前記第4のクライアント局は,SDTに対応していないレガシークライアント局であり, 前記複数のマトリックスモジュールが,前記チャネル状況に基づいて,i)干渉回避と信号対干渉および騒音比(SINR)バランシングとの少なくとも1つを実行し,ii)前記複数のクライアント局のそれぞれに割り当てられる電力を前記複数のマトリックスの複数の値によって調整するべく,前記複数のマトリックスの前記複数の値を調整するよう構成され, 前記電力は,i)前記複数のクライアント局のうち,受信の信頼性が高い1つまたは複数のクライアント局にだけ割り当てられる,または,ii)前記複数のクライアント局のうち,低データ速度要件の1つまたは複数のクライアント局に小さい電力が割り当てられるように割り当てられる 無線ネットワークデバイス。」 第5 引用文献,引用発明等 1 引用文献7について 当審拒絶理由に引用された引用文献7(特開2006-319959号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【背景技術】 【0002】 近年,無線通信の大容量化,高速化の要求が非常な高まりをみせており,有限な周波数資源の有効利用効率を更に向上させる方法の研究がさかんになっている。その一つの方法として,空間領域を利用する手法が注目を集めている。 【0003】 空間領域利用技術のひとつは,アダプティブアレーアンテナ(適応アンテナ)であり,受信信号に乗算する重み付け係数(以下,この重み付け係数を「重み」という)により振幅と位相を調整することにより,所望波信号を強く受信し,干渉波信号を抑圧することにより,同一チャネル干渉を低減し,システム容量を改善することが可能となる。 【0004】 また,空間領域利用技術のもうひとつは,伝搬路における空間的な直交性を利用することで,同一時刻,同一周波数,同一符号の物理チャネルを用いて異なるデータ系列を,異なる端末装置に対して伝送する空間多重伝送技術である。 【0005】 空間多重伝送技術は,非特許文献1等において情報開示されており,この技術を用いた空間多重伝送無線基地局装置及び端末装置では,端末装置間の空間相関係数が所定値よりも低ければ空間多重伝送が可能であり,無線通信システムのスループット,同時ユーザ収容数を改善することができる。」 (2)「【0024】 図1は,本発明の第1の実施の形態に係る無線基地局装置1及び端末装置2-1?2-sの構成を示す図である。以下,本実施の形態においては,無線基地局装置1から端末装置2-1?2-sに向けての送信(以下,ダウンリンクと呼ぶ)において,Ns個の空間ストリームをs個の端末装置に向けて送信する場合の説明を行う(ここで,Ns≧sで,Nsは自然数である)。 【0025】 図1において,本発明の実施の形態の無線基地局装置1は,空間多重伝送を行うべき対象となる端末装置2-1?2-s向けの送信データ系列を生成する送信信号生成部3-1?3-sと,端末装置2-1?2-sからの受信信号から,ダウンリンクの推定チャネル情報を抽出するチャネル情報取得部4と,送信ウエイトを決定するウエイト決定部であり,複数の異なる生成アルゴリズムに基づいて送信ウエイト情報を生成する送信ウエイト生成部6-1?6-nと,送信ウエイト生成部6-1?6-nで生成された複数の送信ウエイト情報群の中から最適な送信ウエイト情報を選択するビーム選択部7とからなる送信ウエイト決定部5と,選択された送信ウエイト情報を基に,各空間ストリームの送信電力を決定し,送信電力制御情報を送出する送信電力決定部8と,特定の送信ビームを形成する為に,選択された送信ウエイト情報を用い各送信データ系列に対して送信ウエイトを乗算し,乗算した信号を高周波信号に変換する送信ビーム形成部9と,送信電力決定部8によって決定された各空間ストリームの送信電力制御情報に基づいて,送信信号生成部3-1?3-sの出力信号に対して所定の電力係数を乗算する電力係数乗算器10-1?10-sと,送信ビーム形成部9からの高周波信号を,図示しない伝送媒体に放射する無線基地局アンテナ11-1?11-sとを備えている。 【0026】 図2(a)において,複数のアンテナを有する本発明の実施の形態の端末装置2-Aは,送信ユニット210と送信ユニットアンテナ216及び受信ユニット220と受信ユニットアンテナ20-1?20-mとを備えている。」 (3)「【0033】 まず,端末装置2-A又は2-Bの送信ユニット210において,チャネル推定部222により推定された伝搬路(図示せず)のチャネル情報が,送信部212に導かれ,送信部212により,制御チャネル又は報知チャネルを介して無線基地局装置1に伝えられる。つまり,前記チャネル情報の載った制御チャネル信号又は報知チャネル信号が送信ユニットアンテナ216へと導かれ,無線基地局装置1に向けて送信ユニットアンテナ216から伝搬路(図示せず)へと放出される。」 (4)「【0038】 まず,無線基地局装置1において,チャネル情報取得部4は,空間多重接続すべき(割り当てられた)端末装置2-1?2-sから無線基地局アンテナ11-1?11-sに向けて送られてくる制御チャネル信号又は報知チャネル信号の中から,各端末装置2-1?2-sから送出されたチャネル情報をそれぞれ抽出し,送信ウエイト決定部5へ出力する。この時抽出されるチャネル情報は,無線基地局装置1から端末装置2-1?2-sへのダウンリンクのチャネル情報である。 【0039】 次に,送信ウエイト決定部5は,空間多重接続すべき端末装置2-1?2-sに対して,端末装置間の相関状況に応じて最適な信号伝送を行うために,それぞれ異なる送信ウエイト生成アルゴリズムを持つ複数の送信ウエイト生成部6-1?6-nによって複数種の送信ウエイト生成情報を生成させる。その後,ビーム選択部7によって,前記第1から第n番目の送信ウエイト生成部6-1?6-nによって生成された複数の送信ウエイト生成情報群の中から,所定の判定基準を最大化する送信ウエイト情報を選択して,この情報を送信電力決定部8と送信ビーム形成部9に出力する。 【0040】 次に,送信電力決定部8は,入力された送信ウエイト情報に基づいて,各空間多重ストリームに対する送信電力を決定する為の電力配分係数を算出する。 【0041】 一方,送信信号生成部3-1?3-sでは,空間多重接続すべき(割り当てされた)端末装置2-1?2-s宛ての信号(以下,送信データ系列と呼ぶ)がそれぞれ生成され,所定の信号処理が施された後,出力される。 【0042】 そして,電力係数乗算器10-1?10-sにおいて,各送信信号生成部3-1?3-sの信号出力に対し,送信電力決定部8で算出された電力配分係数を乗算する。 【0043】 次に,送信ビーム形成部9は,電力配分係数が乗算されたそれぞれの送信データフレーム系列信号(後述する)に対して,ビーム選択部7からの送信ウエイト情報を基に,所定の(選択された)ビームを形成する送信ウエイトを乗算したベースバンドのシンボルデータを生成する。その後,ベースバンドのシンボルデータであるデジタルデータを図示しないデジタル/アナログ変換器と,帯域制限フィルタ及び,周波数変換器により,デジタル/アナログ変換し,さらに帯域制限を行った後に,キャリア周波数に変換した高周波信号を出力する。 【0044】 そして,無線基地局アンテナ11-1?11-sは,供給された高周波信号を空間多重接続すべき端末装置2-1?2-sに向けて,図示しない伝搬路(空間)に放出する。」 (5)「【0046】 図3はダウンリンクの無線基地局装置1における空間多重伝送動作を示すフローチャートである。以下,図1及び図3を用いてダウンリンクにおける無線基地局装置1における空間多重伝送動作について説明する。内容を理解し易くする為,最初に動作の概略について説明した後,詳細事項の説明を行うこととする。 【0047】 まず,複数の端末装置2-1?2-sに対し,所定のパケットスケジューリングによりダウンリンク伝送で優先的に接続すべきs個以下の端末装置2-kを決定する(ステップS30)。ここでk=1?s(sは自然数)の端末装置2-kが優先割り当てされたものとする。ここで,スケジューリング方法としては,端末装置の受信品質を示す値の1つである信号対干渉波電力比(以下SIR(Signal-to-Interference Ratio)と呼ぶ)に基づくパケットスケジューリングであるMaximum CIR法やProportional Fairness法等があり,例えば文献A. Jalali et al, “Data Throughput of CDMA-HDR a High Efficiency-High Data Rate Personal Communication Wireless System” IEEE VTC2000-Spring, pp.1854-1858において情報開示されているような公知技術を適用する。 【0048】 次に,チャネル情報取得部4にて,割り当てられた端末装置2-1?2-sに対するダウンリンクのチャネル情報を取得する(ステップS31)。この場合,各端末装置2-1?2-sにおいて,観測したチャネル情報を予め無線基地局装置1にフィードバックするか,あるいは,TDD(Time division duplex)の場合は,伝搬路の相対性を利用することができ,各端末装置2-1?2-sからのアップリンクにおける既知信号系列の送信信号を基にダウンリンクのチャネル情報の取得が可能である。 【0049】 以下,フラットフェージング(フェージングの影響が,考慮する周波数帯域において全て同じ,つまり均一である環境状態であり,マルチパスの影響を考慮しなくてもよい環境を示す)を仮定して,得られたチャネル情報として,第k番目の端末装置2-kに対するチャネル推定行列をH(k)と表記する。チャネル推定行列は(第k番目の端末装置2-kにおける受信アンテナ数Nr(k))行(無線基地局アンテナ数Nt)列からなる行列であり,チャネル推定行列の第j行s列要素は,無線基地局装置1の第s番目のアンテナから送信される信号が端末装置2-kの第j番目の受信アンテナ20で受信される場合の複素チャネル応答を表す。 【0050】 次に,第1?第n番目の送信ウエイト生成部6-1?6-nにて,異なるウエイト生成アルゴリズムによる複数の送信ウエイト情報群を生成させる(ステップS32)。 【0051】 次に,ビーム選択部7にて,複数の送信ウエイト情報群の中から,所定の判定基準を最大にする送信ウエイト情報を選択する(ステップS33)。ここで,第n番目の送信ウエイト生成部6-nによる第k番目の端末装置2-kへの送信ウエイト情報を送信ウエイトWn(j)とする。ここで,j=1?Nu(k)であり,Wn(j)はNt個の要素をもつ列ベクトルであり,そのノルムは1に正規化されるものとする(ただし,ゼロウエイトを除く)。また,Nu(k)は端末装置2-kに対する空間多重ストリーム数である。更に,k=1?sであり,空間多重伝送により同時接続すべき全ての端末装置2-1?2-sに対するNu(k)の総数は,全ての空間多重ストリーム数をNsとした場合,Nsに等しいものとする。 【0052】 次に,送信電力決定部8にて,ビーム選択部7により選択された送信ウエイト情報に基づき,各空間ストリームに対する送信電力分配係数を決定する。なお,この場合,各々のストリームの送信電力の総和が所定の送信電力値を超えないように設定する必要がある。そして,電力係数乗算器10-1?10-sにおいて,各送信信号生成部3-1?3-sの信号出力に対し,送信電力決定部8で決定された電力配分係数を乗算する(ステップS34)。 【0053】 次に,送信ビーム形成部9にて,ビーム選択部7からの送信ウエイト情報を基に,それぞれの送信データフレーム系列信号に対して,選択されたビームを形成する送信ウエイトを乗算したベースバンドのシンボルデータを生成する。そして,ベースバンドのシンボルデータであるデジタルデータを図示しないデジタル/アナログ変換と,帯域制限フィルタ及び,周波数変換器により,デジタル/アナログ変換し,さらに帯域制限処理を行った後に,キャリア周波数帯に周波数変換した高周波信号を出力する。さらに,無線基地局アンテナ11-1?11-sにて,供給された高周波信号を図示しない伝搬路(空間)に放出する(ステップS35)。 【0054】 以上が,図3のフローチャートに示された,ダウンリンクの無線基地局装置1における空間多重伝送動作の概略説明である。次に,下記事項[1]?[3]に関して更に詳細な説明を行う。 [1]送信ウエイト生成部6-1?6-nに組み込まれる送信ウエイト生成アルゴリズムについて詳細な説明。 [2]ビーム選択部7における送信ウエイト情報選択方法について詳細な説明。 [3]送信電力分配係数の決定方法について詳細な説明。 【0055】 [1]送信ウエイト生成部6-1?6-nに組み込まれる送信ウエイト生成アルゴリズムについて詳細な説明。 【0056】 ここでは,送信ウエイト生成部6-1?6-nに組み込まれる送信ウエイト生成アルゴリズムについて詳細な説明を行う。送信ウエイト生成部6-1?6-nには,大別して,以下のような3つの方式の異なるウエイト生成アルゴリズムが組み込まれる。 【0057】 方式(A) 他端末装置2への与干渉を最小限にするという拘束条件を付加した上で所望の端末装置2への受信品質を高める送信ウエイトを生成するアルゴリズム。 【0058】 方式(B) 他端末装置2への与干渉を低減するという拘束条件を付加せずに,所望端末装置2へ受信品質を高める送信ウエイトを生成するアルゴリズム。 【0059】 方式(C) 単一の送信ウエイトを生成するアルゴリズム。 【0060】 このような3つの異なるアルゴリズムを用いることで,様々な,端末装置間の相関状況に対応可能な送信ウエイトを生成することができることが,今回シミュレーションによって分った。図6?図8は,図4(a)?図4(e)に示す指向性チャンネルモデルにおいて,図5の条件を用いて,端末装置間出射角度差AOD(2)(後述する)を変化させ,端末装置間の相関係数を変化させた時の,相関係数と通信品質の関係をシミュレーションした結果のグラフである。通信品質評価値としては,ビット誤り率(BER)=1E-3を満たす所要送信電力を用いており(但し,1アンテナ送信時の送信電力で正規化を行っている),この値の小さい方が通信品質の良い方式である。」 (6)「【0073】 以下,方式(A)タイプのアルゴリズムの各ウエイト生成手法について,さらに詳細説明を加える。 【0074】 (A-1)他の端末装置2に対しヌルを向けるヌルビーム手法の場合: ZFビームを形成する場合は,第k番目の端末装置2-kに対する送信ウエイトWk(j)を以下のように算出する。すなわち,第k番目の端末装置2-kのチャネル推定行列H(k)を除いて,同時接続すべき他の端末装置2に対する全てのチャネル推定行列H(l)に対し,(数1)に示す条件を満たす送信ウエイトWk(j)を算出する。ここでj=1?Nu(k)であり,Nu(k)は端末装置2-kに対する空間多重ストリームのストリーム数,sは空間多重される全端末装置数である。 【0075】 【数1】 【0076】 但し, 例えば,端末装置2-1に対する空間多重ストリームのストリーム数がNu(1)=3である場合,端末装置2-1に対する送信ウエイトである列ベクトルW1(j)を構成する3個の要素,W1(1)?W1(3)に対して,(数1)を満たす値が算出される。 【0077】 以上のようにして,kを1からsまで可変して全ての端末装置2-1?2-sに対する送信ウエイトを算出する。つまり合計で,全ての空間多重ストリームの総ストリーム数であるNs個分の送信ウエイトを算出する。」 (7)「【0120】 [3]送信電力分配係数の決定方法について詳細な説明。 【0121】 ここでは,送信電力分配係数の決定方法について詳細な説明を行う。電力配分は単純には,等電力分配しても良いが,下記(1)?(2)の手法の適用によりスループットの向上あるいは送信電力の低減を図ることができる。 【0122】 (1)キャパシティ(スループット)を向上させる手法: 無線基地局装置1からのブロードキャスト信号に対する端末装置2-kの受信品質としてSNR(k)を測定し,その測定情報を無線基地局装置1に予め通知しておく。各SNR(k)及びチャネル推定行列から理論的なキャパシティを基にしたWater-filling手法(SNR値の良いストリームに優先的に電力を配分する手法)を適用する。これにより,空間ストリーム毎の電力配分比率が決定されるので,その比率を電力配分係数とする。 【0123】 なお,この場合,通常,変調多値数,及び符号化率(以下,MCSと呼ぶ)の変化に対しては,離散的な値となるため,電力配分比率の補正を行うことがより望ましい。その場合,以下の様な補正手法を用いる。すなわち,算出された電力配分を行った場合の端末装置2-kにおける受信SINRを予測して,予測したSINRが,最大レートを実現するMCSにおける所要SINRを上回る場合には,上回った分だけ,必要十分以上の電力配分を端末装置2-kに与えることとなるので,その余剰分を他の端末装置2に対する空間ストリームに分配する。また,逆に,最小レートを実現するMSCにおける所要SINRを下回る場合は,端末装置2-kに対する空間ストリームを優先的に電力配分する為に,他の端末装置2に対する空間ストリームへの電力配分比率を減少させる。 【0124】 (2)送信電力を低減させる手法: まず,無線基地局装置1からのブロードキャスト信号に対する端末装置2-kの受信品質としてSNR(k)を測定し,その測定情報を無線基地局装置1に予め通知しておく。得られたSNR(k)から雑音電力を推定し,空間多重ストリーム送信時のSNRとして(数17)で定義されるSNRt(j)を予測する。ここで,j=1?Nu(k),また,Paは,空間多重ストリームを送信する際の所定の最大電力に対するブロードキャスト信号の送信電力の比を示す。さらに,h(k)は,ブロードキャスト信号が第n番目のアンテナから送信される場合,H(k)の第n列からなる,端末装置2-kの受信ユニットが備えるアンテナ数Nr(k)と同じ個数の要素からなる列ベクトルを示す。 【0125】 【数17】 【0126】 次に,無線基地局装置1において,予め,端末装置2における受信品質(SNR)と,最適なMCSの対応づけのテーブルが所有されているものとして,以下のような処理を行う。まず,全ての同時接続すべき端末装置2からQoSに関して要求されるそれぞれの許容遅延に従い,データ伝送の優先順位が高い順番から,端末装置への電力分配を行う。そして,許容遅延を満たす伝送レートを実現するMCSの組合せの中から,最小限の伝送レートを満たす所要SNRを,所定のマージンを加えた上で決定する。 【0127】 次に,空間多重ストリーム送信時のSNRであるSNRt(j)が,所要SNRとほぼ等しくなるように電力配分係数b(j)を決定する。b(j)が1より小さい場合は,その他の空間ストリーム又は,同時接続する他の端末装置2に対して,残余の送信電力を超えない範囲で電力配分を同様に行い,同時接続すべき端末装置2において所要SNRを満たさない端末装置2に対しては,送信を行わないようにする。そして,最終的には電力配分係数b(k)の総和が1以下になるように配分を行う。」 (8)「【0128】 次に,送信信号生成部3-1?3-sにおける動作について詳細な説明を行う。まず,第1?第s番目の送信信号生成部3-1?3-sでは,空間多重接続すべき(優先割り当てされた)端末装置2-1?2-s宛の信号(以下,送信データ系列と呼ぶ)をそれぞれ生成する。そして,各送信データ系列に対して,図示されていない誤り訂正符号器,インターリーバ,パンクチャ,及び変調器とを用いて,誤り訂正符号化を施し,パンクチャリング,インターリービングを行った後に所定の変調方式によりシンボルマッピングを施す。(以下,シンボルマッピングを施された信号をシンボルデータ系列或いは,空間ストリーム個別データ信号と呼ぶ)。その後,各々のシンボルデータ系列に,予め既知のパイロット信号と,制御情報を付随させて所定のフレーム構成を持つ送信信号を生成する。以下,この信号を送信データフレーム系列と呼ぶ。」 (9)「【0179】 また,送信電力決定部8は,選択された送信ウエイト情報を基に,前記複数の端末装置2-1?2-sに対する空間多重信号の送信電力を決定する機能を有する構成とすれば,複数の端末装置2-1?2-sに対する空間多重送信時において,チャネル情報により検知される多様な空間相関状況に応じて適する送信ウエイトを,複数の異なる送信ウエイト生成アルゴリズムから最適なもの選択して生成し,更にそれらの送信ウエイトで送信される信号電力を制御することができる。これにより,所望の通信品質を満たす信号電力で送信することが可能となり,必要以上の送信電力を用いた送信を行わないため同一チャネル干渉を低減できシステム容量の改善が図れるという効果が得られる。」 上記(1)?(9)の記載及び図面並びに当業者の技術常識を考慮すると,引用文献7には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「無線基地局装置であって, 空間多重伝送を行うべき対象となる複数の端末装置のうちそれぞれ1つの端末装置に対する変調された空間ストリーム個別データ信号を生成する複数の送信信号生成部と, ダウンリンクの推定チャネル情報に基づいて送信ウエイト情報を生成する送信ウエイト決定部と, 前記送信ウエイト情報を基に決定された各空間ストリームの送信電力制御情報に基づいて,空間ストリーム個別データ信号に対して所定の電力係数を乗算する電力係数乗算器と, 前記送信ウエイト情報を用いて各空間ストリーム個別データ信号に対して送信ウエイトを乗算し,乗算した信号を高周波信号に変換して特定の送信ビームを形成する送信ビーム形成部と, 送信ビーム形成部からの高周波信号を伝搬路(空間)に放射する複数の無線基地局アンテナと を備える無線ネットワークデバイス。」 2 引用文献8?10について 当審拒絶理由に引用された引用文献8(特開2007-110317号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0007】 図1は,従来のMIMO-SDMAの原理を説明する図である。図中の左側にAP,右側にUTが配置されている。この例では,1台のAPとu台のUTがMIMO-SDMAにより通信を行い,APからUTに向けてデータが送信される。各UTへ送信される送信データ(TxData)1?uは,MIMO送信処理部(MIMO TxProcess)101(101-1?101-u)で処理される。その後,データはSDMA送信処理部(SDMA TxProcess)102で,M本からなる送信アンテナ103(103-1?103-M)へ配分される。送信アンテナ103から出力されたデータは空間を伝搬する。UT-i(i=1?u)は,伝搬してきた電波をNi本の受信アンテナ104(104-1-1?104-1-N1,・・・,104-u-1?104-u-Nu)で受信し,MIMO受信処理部(MIMO RxProcess)105(105-1?105-u)でデータを復元し,受信データ(RxData)1?uを得る。送信アンテナ103とUT-iの受信アンテナ104-iの間の空間伝搬における,信号の伝達特性は数1の伝達行列Hiで表すことができる。 【0008】 【数1】 y_(i)=H_(i)x xは送信信号ベクトルx=(x(1),x(2),・・・,x(M))^(T)であり,x(1)?x(M)はM本の送信アンテナ103から出力される電波の複素振幅を表す。また,y_(i)は受信信号ベクトルy_(i)=(y_(i)(1),・・・,y_(i)(N_(i)))^(T)であり,y_(i)(1)?y_(i)(N_(i))はN_(i)本の受信アンテナ104-iで受信される電波の複素振幅を表す。 【0009】 SDMAではAPから複数のUTへ信号を同時に送信するため,受信アンテナ104において所望の信号と不要な信号が混在して受信される恐れがあり,これを回避する必要がある。そのため,前記特許文献1に記載される従来技術では,SDMA送信処理部102において信号を複数の送信アンテナ103へ分配し,出力された複数の電波が受信アンテナ104で干渉することによって,不要な信号の除去を達成している。 【0010】 例えば,APからUT-iへの送信データiについて考える。UT-i以外のUTにとって送信データiは不要な信号であるため,UT-i以外の受信アンテナ104に信号が到来しないように制御すればよい。そのためには,全てのj(ただしjはi以外)に対してy_(j)=0となるxを求めることが必要になる。ここで,y_(<i>)とH_(<i>)を数2の通り定義する。 【0011】 【数2】 すると,必要な条件は数3となる。 【0012】 【数3】 y_(<i>)=H_(<i>)x=0 このxは線形代数ではH_(<i>)の核と呼ばれ,互いに直交するL(i)個の単位ベクトルで得られることがわかっている。L(i)は数4で表される。 【0013】 【数4】 上記の単位ベクトルをSDMA制御ベクトルと呼ぶことにし,A_(i,1),・・・,A_(i,L(i))と置く。すると,送信データsを送信アンテナ103へx=sAに従って分岐させることで,UT-i以外の受信アンテナ104に信号が到来しなくなるように制御できる。SDMA制御ベクトルが複数あるので,L(i)個のデータを並列送信させることが可能である。 【0014】 上記の処理を全UTへ向けた送信データについて行い,送信アンテナ103のそれぞれに割り当てられた信号を加算して電波を出力すれば,SDMA通信が可能となる。 【0015】 図2に,SDMA送信処理部102の詳細を示す。送信データは積算部106でSDMA制御ベクトルとの積をとることにより,M本の送信アンテナ103へ分配される。同じ送信アンテナへ分配された信号は加算部107にて加算された後,送信アンテナ103から出力される。 【0016】 上記の結果,SDMA制御行列をAi=(A_(i,1),・・・,A_(i,L(i)))で定義すれば,SDMA送信処理部102の入口から受信アンテナ104-iまでの送信データiの伝達行列はH_(i)A_(i)で得られる。この伝達行列をもとに,AP1台とUT1台の間でMIMO送信処理とMIMO受信処理を制御することが可能になり,従ってAP1台からu台のUTへのSDMAが可能となる。以上の方式を,ヌルステアリング方式と呼ぶことにする。 【0017】 しかし,ヌルステアリング方式は数5の条件が成り立つ場合のみしか適用することができない。 【0018】 【数5】 例えば,APのアンテナ数が2本(M=2),UTの台数が2台(u=2)でそれぞれのアンテナ数が2本(N_(1)=2,N_(2)=2)の場合はこの条件が満たされないため,ヌルステアリング方式を適用することができない。 【0019】 次に,並列送信できるデータ数について考える。UT-iへ並列送信できるデータ数がL(i)であるから,その総和は数6のように計算できる。 【0020】 【数6】 一方,MIMO-SDMA無線データ通信システムをM本のアンテナを有するAPと,ΣN_(i)本のアンテナを有するUT間のMIMO通信ととらえれば,並列送信できるデータの最大数はmin(M,ΣN_(i))であることがわかる。ここで数7を仮定する。 【0021】 【数7】 この場合,最大でM個のデータを並列送信できることになる。そこで,ヌルステアリング方式における並列通信データ数と比較するために,数6(ヌルステアリング方式における並列通信データ数)からM(並列送信できるデータの最大数)を引き算する。その結果,数8が得られる。 【0022】 【数8】 よって,ヌルステアリング方式における並列通信データ数は最大値よりも小さくなっていることが確認できる。つまり,数5が成り立ってヌルステアリング方式が可能な場合であっても,数7が成り立つ場合(すなわち,APのアンテナ数がUTの総アンテナ数より小さい場合)にはMIMOの性能を最大限に引き出せないという問題がある。 【0023】 数5の条件に縛られず,また数7の条件に当てはまる場合でも最大限の並列通信データ数を達成する方法として,前記非特許文献1に示される方法がある。上記のような問題が発生するのはUTのアンテナ数が多い場合であるため,UTのアンテナ全てを使うのではなく,M=ΣN_(i)が成り立つようにUTで使用するアンテナを選択することで,並列通信データ数が最大となるヌルステアリング方式を可能とする。これを,アンテナ選択ヌルステアリング方式と呼ぶことにする。 【0024】 しかし,この方式ではUTのアンテナのいくつかを使わないため,そのアンテナでデータを受信しているにもかかわらず無駄に捨てていることになる。また,使用しないアンテナでの信号受信にかかる電力消費も無駄となってしまう。 【0025】 そこで,本発明の目的は,数5の条件が満たされない場合においてもMIMO-SDMAを実現し,かつ,数7で表される場合であっても全ての受信アンテナで受信された信号を有効に活用することでMIMO-SDMAの性能を向上させる無線データ通信技術を提供することにある。 【0026】 本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は,本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。 【課題を解決するための手段】 【0027】 本願において開示される発明のうち,代表的なものの概要を簡単に説明すれば,次のとおりである。 【0028】 本発明のMIMO-SDMA無線データ通信システムは,送信機として機能する1台のAPと,受信機として機能するu台のUTが同時に同じ周波数の電波を用いて通信する無線データ通信システムであって,APがM本の送信アンテナを有し,i(i=1?u)番目のUT(UT-i)がN_(i)本の受信アンテナを有する。また,APはSDMA送信処理部を有し,UTはSDMA受信処理部を有しており,本発明のUTでSDMA受信処理を行うことが特徴である。 【0029】 この構成において,SDMA送信処理部における信号処理と,電波の空間伝搬の伝達特性と,SDMA受信処理部における信号処理との3つの効果の合成によって所望の受信機とは異なる受信機へ伝送される信号を抑圧する。すなわち,前述した数5の条件が成り立たない場合には,UTのSDMA受信処理部において受信アンテナで受信した信号を合成して,合成後の信号数を受信アンテナ数よりも少なくすることで受信アンテナ数を実際よりも少なく見せる。これにより,ヌルステアリング方式によるMIMO-SDMAを可能にしている。」 当業者における技術常識を考慮すれば,例えば上記(1)の記載及び図1,2からも明らかなように,「SDMAにおいて,各端末向けの複数のデータストリームに対して1つのマトリクスを適用して多重化された複数のデータストリームを生成する複数のマトリクスモジュール,多重化された複数のデータストリームを加算して伝送データストリームを生成する複数の加算モジュールを備えるようにすること。」は,公知の技術事項である。 当審拒絶理由に引用された引用文献9(特表2006-520109号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (2)「【0141】 不均一な送信電力割り当てを伴う1つのダウンリンクスケジューリング方式では,特定の閾値SNRを上回る達成されたSNRを有する伝送チャネルだけが使用のために選択され,この閾値SNRを下回る達成されたSNRを有する伝送チャネルは使用されない。この方式は,これらの伝送チャネルに送信電力を割り当てないことによって伝送能力が限られた質の悪い伝送チャネルを削除するために使用できる。その結果,総使用可能送信電力は,選択された伝送チャネル全体で均一又は不均一に割り当てられるだろう。 【0142】 別のダウンリンクスケジューリング方式では,ほぼ等しいSNRが各データストリームを伝送するために使用される全ての伝送チャネルに対し達成されるように送信電力が割り当てられる。特定のデータストリームは複数の伝送チャネルを介して(すなわち,複数の空間サブチャネル及び/又は複数の周波数サブチャネルを介して)伝送されてよく,これらの伝送チャネルは,等しい送信電力がこれらの伝送チャネルに割り当てられる場合に異なるSNRを達成することがある。これらの伝送チャネルに異なる量の送信電力を割り当てることによって,ほぼ等しいSNRが達成されてよく,このことはしたがって単一の共通な符号化及び変調方式がこれらの伝送チャネル上で送信されるデータストリームに使用できるようにする。事実上,不均等な電力の割り当ては,伝送チャネルが受信機で同様であると見えるように伝送チャネル上でチャネル反転(inversion)を実行する。全ての伝送チャネルのチャネル反転及び選択された伝送チャネルだけのチャネル反転は,本願の譲受人に譲渡され,参照としてここに組み込まれる,3つ全てが「選択的チャネル反転を使用するマルチチャネル通信システムにおいて伝送のためにデータを処理するための方法及び装置(Method and Apparatus for Processing Data for Transmission in a Multi-Channel Communication System Using Selective Channel Inversion)」と題される2001年5月17日に出願された米国特許出願番号第09/860,274号,2001年6月14日に出願された米国特許出願番号第09/881,610号,及び2001年6月26日に出願された米国特許出願番号第09/892,379号に説明されている。 【0143】 更に別のダウンリンクスケジューリング方式では,送信電力は,所望されるデータレートがスケジュールされる端末のそれぞれに対して達成されるように割り当てられてよい。例えば,より高い優先順位が付いた端末により多くの送信電力が割り当てられ,より低い有線順位が付いた端末により少ない送信電力が割り当てられてよい。 【0144】 更に別のダウンリクスケジューリング方式では,送信電力は高スループットを達成するために不均一に割り当てられてよい。高システムスループットは,より優れた伝送チャネルにより多くの送信電力を割り当て,質の悪い伝送チャネルにより少ない送信電力を割り当てることによって達成されてよい。容量が変化する伝送チャネルへの送信電力の「最適」な割り当ては,水注入技術に基づいて実行されてよい。送信電力を水注入に基づいて割り当てるための方式は,前述された米国特許出願番号第09/978,337号に説明されている。」 上記1(7),(9)及び上記(2)にも記載されているように,「Water-filling法にて各端末装置に電力分配することや,QoSに関して要求されるそれぞれの許容遅延に従いデータ伝送の優先順位が高い順番から端末装置への電力分配を行うこと。」は,周知の技術事項である。 そして,前者によれば「電力は,受信状態が確実であることの可能性が高いクライアント局にだけ割り当てられる場合がある」こととなり,また,後者によれば「例えば,低データ速度要件のクライアント局はAPにより割り当てられる電力が少ない場合がある」こととなることは明らかである。 当審拒絶理由に引用された引用文献10(特表2005-512447号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。 (3)「【0048】 スカラー/逆高速フーリエ変換器228は,すべてのNF個の周波数ビンに対する,ユニタリー行列,V_(k),および対角行列E__(λ)(k)を受信し,そして受信された行列に基づいて送信機に対する,空間および時間上のパルス整形行列P__(tx)(n)を導出する。最初に,そのエレメントがE__(λ)(k)のエレメントの平方根である対角行列(E__(λ)(k))^(1/2)の系列を導出するために,対角行列E__(λ)(k)の平方根が計算される。対角行列E__(λ)(k)のエレメントは固有モードに割り当てられた送信電力の表示である。平方根はそこで,電力割り当てを等価な信号スケーリングに変換する。平方根対角行列(E__(λ)(k))^(1/2)および, 【数22】 の右側固有ベクトル行列の系列であるユニタリー行列,V_(k)の積がそこで計算される。この積V_(k)(E__(λ)(k))^(1/2)は,送信されたシンボルベクトルs_(n)に適用されるべき最適の空間および時間上の形状を定義する。 【0049】 積V_(k)(E__(λ)(k))^(1/2)に関する逆FFTがそこで,送信機に対する, P__(tx)(λ)=IFFT[V_(k)(E__(λ)(k))^(1/2)] 式(6) として表現することが可能な,空間および時間上のパルス整形行列P__(tx)(λ)を導出するために計算される。パルス整形行列P__(tx)(λ)は,N_(T)×N_(T)行列である。P__(tx)(λ)の各エレメントは値の系列である。P__(tx)(λ)の各列は,s_(n)の対応するエレメントに対する指向ベクトルである。 【0050】 コンボルバ230は,送信された信号ベクトルx_(n)を導出するために,送信されたシンボルベクトルs_(n)を,パルス整形行列P__(tx)(λ)とともに受信し,そして前調整(すなわちコンボルブ)する。s_(n)の,P__(tx)(λ)とのコンボリューションは, 【数23】 として表現することが可能である。式(7)に示された行列コンボリューションは,次のように実行することが可能である。時刻nに対するベクトルx_(n)の,i番目のエレメントx_(i)(n)を導出するために,行列P__(tx)(λ)のi番目の行の,ベクトルs_(n-λ)との内積はいくつかの遅延指数(たとえば0≦λ≦(N_(F)-1))に対して形成され,そして結果はエレメントx_(i)(n)を導出するために累算される。各送信アンテナ上に送信された信号(すなわちx_(n)の各エレメントすなわちx_(i)(n))は,したがって,行列P__(tx)(λ)の適切な列によって決定された重み付けを用いて,N_(R)個の変調シンボルストリームの重み付けされた組み合わせとして形成される。処理は,ベクトルx_(n)の各エレメントが行列P__(tx)(λ)のそれぞれの列およびベクトルs_(n)から導出されるように繰り返される。」 当業者における技術常識を考慮すれば,例えば上記(3)の記載及び図2からも明らかなように,「電力を対応する多重化マトリックスWの中で調整すること。」は,普通に行われていることである。 第6 当審の判断 1 新規事項について (1)上記「第3」の補正事項(iii),(vi) のとおり,補正後の請求項1,18は,「前記SDT期間とは異なるCSMAウィンドウ中に,CSMAベース通信を用いて」と限定されたことにより,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとなった。よって,上記「第2 1(1)」は解消した。 (2)上記「第3」の補正事項(iv) ,(vi) のとおり,補正後の請求項1,18が「前記第3のクライアント局及び前記第4のクライアント局は,SDTに対応していないレガシークライアント局であり,」と限定されたことにより,補正後の請求項16,23は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものとなった。よって,上記「第2 1(2)」は解消した。 (3)上記「第3」の補正事項(vii) のとおり,請求項17,18,26,27は削除された。よって,上記「第2 1(3),(4)」は解消した。 2 サポート要件・明確性について (1)上記1のとおりであるから,上記「第2 2(1)」は解消した。 (2)上記「第3」の補正事項(ii) のとおり,「前記第1の伝送器及び前記第2の伝送器」と補正されたことにより,明確になった。よって,上記「第2 1(2)」は解消した。 3 実施可能要件について (1)上記「第3」の補正事項(viii) のとおり,「Ti」の定義が明確になった。よって,上記「第2 3(1)」は解消した。 (2)上記「第3」の補正事項(ix) のとおり,【0057】は明確になった。よって,上記「第2 3(2)」は解消した。 (3)上記「第3」の補正事項(x),(xi) のとおり,【0059】,【0070】は明確になった。よって,上記「第2 3(3)」は解消した。 (4)上記「第3」の補正事項(xii) のとおり,【0055】は明確になった。よって,上記「第2 3(4)」は解消した。 4 進歩性について (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。 (ア)引用発明における「無線基地局装置」,「端末装置」,「空間ストリーム個別データ信号」,「無線基地局アンテナ」,「ダウンリンクの推定チャネル情報」は,それぞれ本願発明1における「無線ネットワークデバイス」,「クライアント局」,「データストリーム」,「伝送器」,「前記無線ネットワークデバイスと前記複数のクライアント局との間のチャネル状況」に相当する。 (イ)引用発明の「送信ウエイト決定部」,「電力係数乗算器」,「送信ビーム形成部」からなる構成は,各「送信信号生成部」により生成された「空間多重伝送を行うべき対象となる複数の端末装置のうちそれぞれ1つの端末装置に対する変調された空間ストリーム個別データ信号」を受け取り,「複数の無線基地局アンテナ」により伝搬路(空間)に放射する「各空間ストリーム」を形成するといえるから,下記の相違点1は別として,「それぞれが複数のクライアント局のうちそれぞれ1つのクライアント局に対する変調された複数のデータストリームを受け取る手段であって,前記無線ネットワークデバイスと前記複数のクライアント局との間のチャネル状況に基づいて,前記変調された前記複数のデータストリームのそれぞれに処理を行い,伝送データストリームを生成する,手段」である点で,本願発明の「複数のマトリックスモジュール」及び「複数の加算モジュール」と共通している。 (ウ)引用発明は,ダウンリンクで空間多重伝送を行うものであるから,「同時ダウンリンク伝送(SDT)」を行うものといえ,「複数の無線基地局アンテナ」は,複数の空間ストリーム個別データ信号のうちの第1の空間ストリーム個別データ信号を,前記複数の端末装置のうちの第1の端末装置へ伝送し,前記第1の空間ストリーム個別データ信号が伝送されている間に,前記複数の空間ストリーム個別データ信号のうちの第2の空間ストリーム個別データ信号を,前記複数の端末装置のうちの第2の端末装置へ伝送していることは明らかである。そして,「複数の無線基地局アンテナ」を「第1の伝送器及び第2の伝送器」と称することは任意である。 したがって,両者は,「第1の伝送器及び第2の伝送器であって,複数の前記伝送データストリームのうちの第1の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第1のクライアント局へ伝送し,前記第1の伝送データストリームが伝送されている間に,前記複数の伝送データストリームのうちの第2の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第2のクライアント局へ伝送する,第1の伝送器及び第2の伝送器」を備える点で一致している。 (エ)引用文献1の記載(上記「第5 1(7)」参照。)によれば,引用発明の送信電力制御は,「Water-filling手法(SNR値の良いストリームに優先的に電力を配分する手法)」又は最小限の伝送レートを満たす所要SNRとほぼ等しくなるように電力配分係数b(j)を決定する「送信電力を低減させる手法」によるものを含むところ,これらは明らかに,それぞれ,電力が,「i)前記複数のクライアント局のうち,受信の信頼性が高い1つまたは複数のクライアント局にだけ割り当てられる」手法,「ii)前記複数のクライアント局のうち,低データ速度要件の1つまたは複数のクライアント局に小さい電力が割り当てられるように割り当てられる」手法といえる。 したがって,両者は,下記の相違点1は別として,「前記手段が,前記チャネル状況に基づいて,i)干渉回避と信号対干渉および騒音比(SINR)バランシングとの少なくとも1つを実行し,ii)前記複数のクライアント局のそれぞれに割り当てられる電力を前記手段によって調整するべく構成され,前記電力は,i)前記複数のクライアント局のうち,受信の信頼性が高い1つまたは複数のクライアント局にだけ割り当てられる,または,ii)前記複数のクライアント局のうち,低データ速度要件の1つまたは複数のクライアント局に小さい電力が割り当てられるように割り当てられる」点で共通している。 したがって,本願発明1と引用発明とは,次の点で一致し,また,相違点している。 (一致点) 「無線ネットワークデバイスであって, それぞれが複数のクライアント局のうちそれぞれ1つのクライアント局に対する変調された複数のデータストリームを受け取る手段であって,前記無線ネットワークデバイスと前記複数のクライアント局との間のチャネル状況に基づいて,前記変調された前記複数のデータストリームのそれぞれに処理を行い,伝送データストリームを生成する,手段と, 第1の伝送器及び第2の伝送器であって,複数の前記伝送データストリームのうちの第1の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第1のクライアント局へ伝送し,前記第1の伝送データストリームが伝送されている間に,前記複数の伝送データストリームのうちの第2の伝送データストリームを,前記複数のクライアント局のうちの第2のクライアント局へ伝送する,第1の伝送器及び第2の伝送器と を備え, 前記手段が,前記チャネル状況に基づいて,i)干渉回避と信号対干渉および騒音比(SINR)バランシングとの少なくとも1つを実行し,ii)前記複数のクライアント局のそれぞれに割り当てられる電力を前記手段によって調整するべく構成され, 前記電力は,i)前記複数のクライアント局のうち,受信の信頼性が高い1つまたは複数のクライアント局にだけ割り当てられる,または,ii)前記複数のクライアント局のうち,低データ速度要件の1つまたは複数のクライアント局に小さい電力が割り当てられるように割り当てられる 無線ネットワークデバイス。」 (相違点1) 一致点の「それぞれが複数のクライアント局のうちそれぞれ1つのクライアント局に対する変調された複数のデータストリームを受け取る手段であって,・・・手段と,」に関し,本願発明1は,「(i)それぞれが複数のクライアント局のうちそれぞれ1つのクライアント局に対する変調された複数のデータストリームを受け取り,(ii)複数のマトリックスを生成する複数のマトリックスモジュールであって,それぞれのマトリックスモジュールが,(i)前記無線ネットワークデバイスと前記複数のクライアント局との間のチャネル状況に基づいて前記複数のマトリックスを生成し,(ii)前記変調された前記複数のデータストリームのそれぞれに1つの前記マトリックスを適用して,多重化された複数のデータストリームを生成する,複数のマトリックスモジュール」と,「複数の加算モジュールであって,それぞれの加算モジュールが,前記多重化された前記複数のデータストリームのうちの少なくとも2つを加算して伝送データストリームを生成する,複数の加算モジュール」であるのに対し,引用発明は,「送信ウエイト決定部」,「電力係数乗算器」,「送信ビーム形成部」であり,「送信ビーム形成部」はその具体的構成が明らかにされていない点。 また,これに伴い,電力制御が,本願発明1は「複数のマトリックス」によりなされ,引用発明は「電力係数乗算器」によりなされる点。 (相違点2) 本願発明1は,「SDT期間」と「CSMAウィンドウ」との双方が存在することを前提としており,「前記SDT期間は,前記第1のクライアント局からの確認応答及び前記第2のクライアント局からの確認応答を,前記無線ネットワークデバイスで受信するための2つの時間スロットを含み,前記第1の伝送器及び前記第2の伝送器は,前記SDT期間とは異なるCSMAウィンドウ中に,CSMAベース通信を用いて,前記複数のクライアント局のうちの第3のクライアント局及び前記複数のクライアント局のうちの第4のクライアント局へ複数の伝送データストリームを伝送し,前記第3のクライアント局及び前記第4のクライアント局は,SDTに対応していないレガシークライアント局であり,」との構成を有するのに対し,引用発明は,当該前提を持たず,本願発明1の当該構成を備えていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑みて,上記相違点2について先に検討すると,相違点2に係る本願発明1の上記構成は,上記引用文献7-10には記載されておらず,本願優先日前において周知技術であるともいえない。 ここで,WLANにおいては,CSMAベースの通信を行う競合期間と非競合期間とを交互に設けることは技術常識ともいえる周知事項であり,また,可能な限りレガシー手段との後方互換性の保つようにすることも一般的な技術課題であるが,上述のような非競合期間として「SDT期間」を採用することは,上記引用文献7-10のいずれにも教示されておらず,また,周知事項であるともいえない。 そして,本願発明1は,相違点2に係る上記構成により,SDTに対応したクライアント局及びSDTに対応していないクライアント局が混在したネットワークにおいて,ネットワーク全体の通信品質を高めることができるという,引用発明にはない作用効果を奏するものである。 したがって,他の相違点について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献8-10に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本願発明18について 本願発明18も,上記相違点2に係る本願発明1の上記構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献8-10に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (3)本願発明2-17,19-24について 本願発明2-17は本願発明1を更に限定したものであり,本願発明19-24は本願発明18を更に限定したものであるから,本願発明1,18と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献8-10に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 第7 原査定についての判断 1 原査定の概要 原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。 本願請求項1-20に係る発明は,以下の引用文献1-4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特表2005-509360号公報 2.国際公開第2007/052150号 3.国際公開第2006/051771号 4.国際公開第2006/048037号 2 当審の判断 本件補正により,本願発明1,18は,「前記SDT期間は,前記第1のクライアント局からの確認応答及び前記第2のクライアント局からの確認応答を,前記無線ネットワークデバイスで受信するための2つの時間スロットを含み,前記第1の伝送器及び前記第2の伝送器は,前記SDT期間とは異なるCSMAウィンドウ中に,CSMAベース通信を用いて,前記複数のクライアント局のうちの第3のクライアント局及び前記複数のクライアント局のうちの第4のクライアント局へ複数の伝送データストリームを伝送し,前記第3のクライアント局及び前記第4のクライアント局は,SDTに対応していないレガシークライアント局であり,」という技術的事項を有するものとなった。 当該技術的事項は,原査定における引用文献1-4には記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1-24は,当業者であっても,引用文献1-4に基づいて容易に発明できたものではない。したがって,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。 また,当該技術的事項は,原審における平成27年6月26日付けの補正の却下の決定にて引用された引用文献5(特開2006-254235号公報),引用文献6(特開2005-236686号公報)にも記載されていないので,本願発明1-24は,当業者であっても,引用文献1-6に基づいて容易に発明できたものではない。 第8 むすび 以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-03-03 |
出願番号 | 特願2013-171165(P2013-171165) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H04J)
P 1 8・ 55- WY (H04J) P 1 8・ 536- WY (H04J) P 1 8・ 575- WY (H04J) P 1 8・ 121- WY (H04J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤江 大望、速水 雄太 |
特許庁審判長 |
大塚 良平 |
特許庁審判官 |
萩原 義則 菅原 道晴 |
発明の名称 | 複数のクライアント局に対する独立したデータを同時ダウンリンク伝送するアクセスポイント |
代理人 | 龍華国際特許業務法人 |