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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1325521
審判番号 不服2015-21609  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-04 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2011-135615「接着フィルム付き半導体チップの製造方法及び半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 4811、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月17日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 4月17日 審査請求
平成27年 3月11日 拒絶理由通知
平成27年 5月 8日 意見書・手続補正書
平成27年 8月31日 拒絶査定
平成27年12月 4日 審判請求
平成28年12月 2日 拒絶理由通知(当審)
平成28年12月16日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成28年12月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
間隔をおいて配置された複数の半導体チップを、光硬化性成分を含む接着フィルムに貼り付ける貼り付け工程と、
光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップをマスクとして前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射し、前記接着フィルムの露光部分及び前記粘着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着フィルムの露光部分と前記粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くする露光工程と、
前記露光工程の後に、前記接着フィルムの未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程と、を備え、
前記貼り付け工程において、前記粘着フィルム及び前記接着フィルムを備える積層シートの当該接着フィルムに前記半導体チップを貼り付ける、接着フィルム付き半導体チップの製造方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。
「この出願については、平成27年 3月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項 1-4
・引用文献等 1,2

先に通知した下記引用文献1には、『図1は、ウエハ形状のチップ(W1)が空隙を持って配列されたチップ集合体(W)が、剥離可能な粘着シート(X)に貼着保持された状態を示す断端面図である。先ず、この図1に示した状態のチップ集合体が用意される(工程1)。その方法としては、例えば、先ダイシング法(特許文献1に示された方法)が挙げられる。即ち、ウエハの表面側から所定のチップ厚よりも深い溝を形成(ハーフカットダイシング)し、次いでウエハの表面側に保護テープを貼着した後、表面側を保持した状態で裏面側から所定の厚さまで研削することにより、ウエハをチップ(W1)に個片化し、図1に示すような状態のチップ集合体を得ることができる。この場合保護テープが剥離可能な粘着シート(X)に相当する。また、所定の厚さに研削され、個片化されていないウエハをダイシング粘着シートに貼着固定してフルカットダイシングする通常のプロセスによって、チップ集合体を得てもよい。その場合は剥離可能な粘着シート(X)はダイシング用粘着シートである。そして、これらの場合においては、空隙部はダイシングした際の溝(カーフ)を意味する。』([0015])、『続いて、図2に示すように、エネルギー線硬化性でありかつ熱硬化性である粘着剤層(Y2)が基材フィルム(Y1)の片面に剥離可能に設けられた接着シート(Y)を、チップ集合体(W)のチップ面に、粘着剤層(Y2)を接して貼着し、剥離可能な粘着シート(X)は剥離除去する。(工程2)次いで、同じく図2に示すように、基材フィルム(Y1)側からエネルギー線を照射して接着剤層(Y2)を半硬化させるとともに、接着シート(Y)から基材フィルム(Y1)を除去する。(工程3)』([0016])、『次いで、図3に示すように、基材フィルム(Z1)の片面にエネルギー線硬化性の粘着剤層(Z2)を設けた粘着シート(Z)を、半硬化した接着剤層(Y2)上に、粘着剤層(Z2)を接して、貼着する。 (工程4)』([0017])、『次いで、図4に示すように、チップ集合体(W)の空隙部に対応する、接着剤層(Y2)及び粘着剤層(Z2)の部分にエネルギー線を照射し、当該部分を同時に硬化させる。 (工程5)』([0018])、『次いで、図5に示すように、個々のチップ(W1)を粘着シート(Z)から剥離することにより、チップ集合体(W)の空隙部に対応する接着剤層(Y2)が同伴されず、チップ(W1)と同形状の接着剤層(Y2)が積層されたチップを得る。(工程6)チップ(W1)の剥離は通常のピックアップにより行うことができる。』([0019])、『本発明によれば、裏面に同一形状の接着剤層が積層された個片化されたウエハ形状のチップが得られるので、チップが基台上へ極めて精度良く固着(ダイボンディング)され、機能上の支障を生じることのない半導体装置の製造に好適である。』([0067])、等と記載されている。

平成27年5月8日付け手続補正書にて補正された本願の請求項1に係る発明と、引用文献1に記載された発明とを比較すると、本願の請求項1に係る発明においては、貼り付け工程において、粘着フィルム及び接着フィルムを備える積層シートの接着フィルムに半導体チップを貼り付けているのに対して、引用文献1に記載された発明においては、接着シートと粘着シートとが各々別体である点(以下、『相違点』という)で相違し、その余の点では一致する。

上記相違点について検討する。
粘着シートの技術分野において、基材フィルムの上面に粘着フィルム(粘着剤層)、接着フィルム(ダイアタッチフィルム)を積層した積層シートは周知・慣用の技術である(必要であれば、先に通知した下記引用文献2参照)。
そして、引用文献1に記載された発明において、上記周知・慣用の技術を勘案し、接着シート(Y)と粘着シート(Z)の別々のシートを用いる構成に換えて、接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)とが積層された積層シートを用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、請求項2-4に係る発明と、引用文献1に記載された発明との差異も格別なものでない。

また、平成27年5月8日付け意見書にて、引用文献1の発明においては、接着剤層と粘着剤層とを順次貼り付けることを必須の構成しているので、予め接着剤層と粘着剤層とを積層して積層シートを得た後に積層シートをチップに貼り付ける技術を採用することは当業者といえども困難である、との主張(3(B)参照)については、上記にて説示したように、基材フィルムの上面に粘着フィルム(粘着剤層)、接着フィルム(ダイアタッチフィルム)を積層した積層シートが周知・慣用の技術であり、また、接着剤層と粘着剤層とを順次2枚のシートにより貼り付けるという手間を省くために、一度で、予め準備をした積層シート1枚を貼りつけるという構成に換えることは普通の発想であるので、上記相違点は格別なものとは認められず、出願人の主張は採用できない。

よって、請求項1-4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>

1.特開2005-322853号公報
2.特開2011-44444号公報(周知技術を示す文献)」

2 原査定の理由についての当審の判断
(1)引用文献1及び2の記載事項及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2005-322853号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(当審注.下線は、参考のために、当審において付したものである。以下において同じ。)
a「【0001】
本発明は、接着剤層付き半導体チップの製造方法に関し、更に詳しくは、接着剤層が精度よくチップに積層された半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウエハは、所定の厚さに研削した大径のウエハをダイシング用粘着シートに貼着・固定してダイシングしてチップとする方法により製造されていたが、近年の要請に従って薄厚化したウエハにこの方法を適用した場合、ダイシング時にチップの欠け(チッピング)やチップクラックが発生しやすい。
【0003】
このような薄厚ウエハのダイシング時の問題を解決する方法として、ウエハの表面側から所定のチップ厚よりも深い溝を形成し、次いでウエハの表面側に保護テープを貼着した後、表面側を保持した状態で裏面側から所定の厚さまで研削する方法が提案されている。また、この方法の場合、研削後のウエハの裏面にマウンティング用テープを貼着してチップの集合体を一括してマウンティング用テープ上に保持した後、ペレットをマウンティング用テープから分離して基台上に固着することが提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
一方、ペレットは接着剤を使用して基台上に固着(ダイボンディング)されるが、その方法として、基台の所定の位置に液体接着剤を塗布したりシート状接着剤を貼付しておく方法の他に、ペレットの裏面に接着剤層を設け、その接着剤層を介して基台上に固着する方法が行われている。
【0005】
このペレットの裏面に接着剤層を設ける方法としては、ペレットとほぼ同一形状のシート状接着剤を貼付する方法も考えられるが、位置制御が困難で煩雑であり、実用的ではない。
これに対し、上記のウエハの表面側から溝を形成した後に所定の厚さまで研削し、その後にマウンティング用テープを貼着する方法において、ウエハの集合体とマウンティング用テープの間にシート状接着剤を介在させ、チップの集合体のダイシング部分(カーフ)にダイシングブレードを挿入して接着剤層を切断し、チップとそれに貼付されたシート状接着剤とをほぼ同一形状とする方法が提案されている。(例えば、特許文献2参照)
【0006】
しかし、この方法の場合、ウエハのダイシングとシート状接着剤の切断という2回の切断作業を行う必要があって煩雑であり、しかも、チップとそれに貼付されたシート状接着剤とを精度良く同一形状とすることは困難であって、チップよりもシート状接着剤の方が大きくなることが多く、チップよりはみ出した部分がチップの使用に際して種々の不都合を生じる可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特開平5-335411号公報
【特許文献2】特開平2001-156027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、個片化されたウエハ形状のチップの面上に精度良く接着剤層を積層し得る、接着剤層付き半導体チップの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、個片化されたウエハ形状のチップ集合体のチップ面上にエネルギー線硬化性で且つ熱硬化性を有する接着剤層を設け、その接着剤層にエネルギー線を照射して半硬化させ、次いでその接着剤層にエネルギー線硬化性の粘着剤層を有する粘着シートを貼着した後、接着剤層及び粘着剤層の集合体の空隙部に対応する部分にエネルギー線を照射することにより、その部分の接着剤層及び粘着剤層が硬化、一体化し、チップのピックアップの際には、チップと同一形状の接着剤層のみがチップの面上に残ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。」
b「【0015】
以下、本発明の各工程を、断端面図である図1?5に基づいて説明する。
図1は、ウエハ形状のチップ(W1)が空隙を持って配列されたチップ集合体(W)が、剥離可能な粘着シート(X)に貼着保持された状態を示す断端面図である。
先ず、この図1に示した状態のチップ集合体が用意される(工程1)。
その方法としては、例えば、先ダイシング法(特許文献1に示された方法)が挙げられる。即ち、ウエハの表面側から所定のチップ厚よりも深い溝を形成(ハーフカットダイシング)し、次いでウエハの表面側に保護テープを貼着した後、表面側を保持した状態で裏面側から所定の厚さまで研削することにより、ウエハをチップ(W1)に個片化し、図1に示すような状態のチップ集合体を得ることができる。この場合保護テープが剥離可能な粘着シート(X)に相当する。
また、所定の厚さに研削され、個片化されていないウエハをダイシング粘着シートに貼着固定してフルカットダイシングする通常のプロセスによって、チップ集合体を得てもよい。その場合は剥離可能な粘着シート(X)はダイシング用粘着シートである。
そして、これらの場合においては、空隙部はダイシングした際の溝(カーフ)を意味する。
【0016】
続いて、図2に示すように、エネルギー線硬化性でありかつ熱硬化性である粘着剤層(Y2)(当審注.「接着剤層(Y2)」の誤記と認める。)が基材フィルム(Y1)の片面に剥離可能に設けられた接着シート(Y)を、チップ集合体(W)のチップ面に、粘着剤層(Y2)(当審注.「接着剤層(Y2)」の誤記と認める。)を接して貼着し、剥離可能な粘着シート(X)は剥離除去する。(工程2)
次いで、同じく図2に示すように、基材フィルム(Y1)側からエネルギー線を照射して接着剤層(Y2)を半硬化させるとともに、接着シート(Y)から基材フィルム(Y1)を除去する。(工程3)尚、図2においては、剥離可能な粘着シート(X)が工程2で剥離除去されるが、本発明においてはこれに限らず、工程6を終えるまで貼付したまま全ての工程を行ってもよいし、工程3?工程6のいずれかの段階で剥離除去してもよい。
接着剤層(Y2)を半硬化させることにより、ほぼ完全に接着剤層(Y2)表面の粘着力が消失するが、接着剤層(Y2)のエネルギー線硬化性は、完全に消失しないで再度のエネルギー線照射でも硬化が起こる状態となる。半硬化した接着剤層(Y2)は、工程6におけるチップ(W1)の剥離において剥離力を低減できるようになる。また、粘着性を失っているので基材フィルム(Y1)を除去した後の取り扱いが簡単になり、粘着シート(Z)の貼着ミスをすることが無くなる。なお、工程3において、エネルギー線の照射と、基材フィルム(Y1)の除去は、どちらを先に行ってもよい。
この際のエネルギー線の照射量は、接着剤層(Y2)の組成やエネルギー線の種類によりに異なるが、例えば紫外線の場合は50?200mJ/cm^(2)程度が好ましく、電子線を用いる場合は、10?1000krad程度が好ましい。
【0017】
次いで、図3に示すように、基材フィルム(Z1)の片面にエネルギー線硬化性の粘着剤層(Z2)を設けた粘着シート(Z)を、半硬化した接着剤層(Y2)上に、粘着剤層(Z2)を接して、貼着する。 (工程4)
図中Rはリングフレームであり、このようにリングフレームで固定して、以降の工程を行うのが好ましい。
【0018】
次いで、図4に示すように、チップ集合体(W)の空隙部に対応する、接着剤層(Y2)及び粘着剤層(Z2)の部分にエネルギー線を照射し、当該部分を同時に硬化させる。 (工程5)
接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)が同時にエネルギー線照射されることにより、エネルギー線照射された部分はそれぞれが硬化すると同時に一体化し、一体化部分(YZ)が形成される。
図4では、チップ集合体(W)の空隙部に対応する部分のエネルギー線照射は、チップ集合体(W)のチップ越しに行うことにより、チップがマスクとなってチップに対応する部分の照射が行われないようにしている。反対に、チップ集合体(W)と同形状のマスクを用意し、チップ(W1)の位置が合うように該マスクを粘着シート(Z)上に設けて、粘着シート(Z)側よりエネルギー線照射を行ってもよい。
この際のエネルギー線の照射量は、粘着剤層(Z2)の組成やエネルギー線の種類により異なるが、例えば紫外線の場合は40?250mJ/cm^(2)程度が好ましく、電子線を用いる場合は、10?1000krad程度が好ましい。
【0019】
次いで、図5に示すように、個々のチップ(W1)を粘着シート(Z)から剥離することにより、チップ集合体(W)の空隙部に対応する接着剤層(Y2)が同伴されず、チップ(W1)と同形状の接着剤層(Y2)が積層されたチップを得る。(工程6)
チップ(W1)の剥離は通常のピックアップにより行うことができる。接着剤層(Y2)の空隙部に対応する部分は、接触している粘着剤の部分と一体化して硬化した一体化部分(XY) (当審注.「一体化部分(YZ)」の誤記と認める。)を形成しているのに対し、その他の部分、即ちチップに対応する部分は粘着剤層(Z2)とは一体化していない。このため、ピックアップにより接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)の界面で剥離が起こり、また、空隙部に対応する部分とその他の部分との境界で接着剤層(Y2)は厚さ方向で破断し、接着剤層(Y2)はチップ(W1)と同形状となる。
また、チップ(W1)を粘着シート(Z)から剥離する別の方法として、吸着テーブルのような固定手段を用いてチップ集合体(W)の全チップ(W1)を固定し、固定手段にチップ集合体(W)を転写するように粘着シート(Z)の180°剥離を行ってもよい。」
c「【0022】
接着剤層(Y2)を構成する接着剤は、エネルギー線硬化性で且つ熱硬化性であれば特に制限はないが、ポリマー成分、熱硬化性成分、エネルギー線硬化性成分を主成分とし、さらにそれぞれの硬化成分のための開始剤、その他の助剤を適宜配合した接着剤組成物が好ましい。」
d「【0033】
粘着剤層(Z2)を構成する粘着剤は、エネルギー線硬化性であると共に、チップ(W1)をピックアップすることができるように、粘着剤層(Z2)がエネルギー線硬化されていない状態で、半硬化状態の接着剤層(Y2)との剥離性を有するという要件を満たすものであれば、特に制限はない。
このような粘着剤組成物としては、例えば、酢酸ビニル共重合ポリマーとエネルギー線硬化性の樹脂(モノマーまたはオリゴマー)を含有する粘着剤組成物が好ましく、さらに具体的な例としては、粘着性のアクリル系共重合ポリマー〔成分(A)〕、酢酸ビニルモノマーから導かれる構成単位を50?99.99質量%含有する酢酸ビニル共重合ポリマー〔成分(B)〕及びエネルギー線硬化性のモノマー又はオリゴマー〔成分(C)〕を主成分とする粘着剤組成物が好ましい。」
e「【0067】
本発明によれば、裏面に同一形状の接着剤層が積層された個片化されたウエハ形状のチップが得られるので、チップが基台上へ極めて精度良く固着(ダイボンディング)され、機能上の支障を生じることのない半導体装置の製造に好適である。」
(イ)引用発明
上記(ア)の引用文献1の記載と当該技術分野における技術常識より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「チップ(W1)が空隙を持って配列されたチップ集合体(W)を用意する工程(工程1)と、
前記チップ集合体(W)のチップ面に、エネルギー線硬化性成分を含む接着剤層(Y2)が基材フィルム(Y1)の片面に剥離可能に設けられた接着シート(Y)を、前記接着剤層(Y2)を接して貼着する工程(工程2)と、
前記基材フィルム(Y1)側から紫外線を照射して前記接着剤層(Y2)を半硬化させるとともに、前記接着シート(Y)から前記基材フィルム(Y1)を除去する工程(工程3)と、
前記半硬化した接着剤層(Y2)上に、基材フィルム(Z1)の片面にエネルギー線硬化性成分を含む粘着剤層(Z2)を設けた粘着シート(Z)を、前記粘着剤層(Z2)を接して貼着する工程(工程4)と、
前記チップ集合体(W)のチップ(W1)をマスクとして、前記チップ集合体(W)の空隙部に対応する前記接着剤層(Y2)及び前記粘着剤層(Z2)の部分に紫外線を照射し、当該部分を同時に硬化させ、一体化部分(YZ)を形成する工程(工程5)と、
個々のチップ(W1)をピックアップし、個々のチップ(W1)を粘着シート(Z)から剥離することにより、チップ集合体(W)の空隙部に対応する接着剤層(Y2)が同伴されず、チップ(W1)と同形状の接着剤層(Y2)が積層されたチップを得る工程(工程6)と、
を備える接着剤層付き半導体チップの製造方法。」
イ 引用文献2の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2011-44444号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面に積層してなる粘着剤層と、さらに前記粘着剤層に積層されたダイアタッチフィルムと、を備え、前記基材フィルムがプロピレン系共重合体で形成されている多層粘着シート。」

(2)対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)上記(1)ア(ア)aの引用文献1の記載(段落[0001])より、引用発明における「チップ(W1)」は「半導体チップ」であるといえる。
また、引用発明における「チップ集合体(W)」は、「チップ(W1)が空隙を持って配列され」たものであるから、「間隔をおいて配置された複数の半導体チップ」であるといえる。
また、引用発明における「エネルギー線硬化性成分」は、紫外線を照射することにより硬化するものであるから、「光硬化性成分」であるといえる。そうすると、引用発明における「エネルギー線硬化性成分を含む接着剤層(Y2)」と本願発明における「光硬化性成分を含む接着フィルム」とは、「光硬化性成分を含む接着物」である点において共通し、下記相違点1において相違するといえる。
以上より、引用発明における「前記チップ集合体(W)のチップ面に、エネルギー線硬化性成分を含む接着剤層(Y2)が基材フィルム(Y1)の片面に剥離可能に設けられた接着シート(Y)を、前記接着剤層(Y2)を接して貼着する工程(工程2)」と、本願発明における「間隔をおいて配置された複数の半導体チップを、光硬化性成分を含む接着フィルムに貼り付ける貼り付け工程」とは、「間隔をおいて配置された複数の半導体チップを、光硬化性成分を含む接着物に貼り付ける貼り付け工程」である点において共通し、下記相違点1及び3において相違するといえる。
(イ)引用発明における「エネルギー線硬化性成分を含む粘着剤層(Z2)」と、本願発明における「光硬化性成分を含む粘着フィルム」とは、「光硬化性成分を含む粘着物」である点において共通し、下記相違点2において相違するといえる。
また、上記(1)ア(ア)bの引用文献1の記載(段落[0018])及び引用文献1の[図4]の記載より、引用発明の「工程5」は、「粘着剤層(Z2)」が「接着剤層(Y2)」を挟んで「チップ(W1)」の反対側に配置された状態で行われるといえる。
また、当該技術分野における技術常識より、引用発明の「工程5」において、露光部分におけるエネルギー線硬化性成分の反応が進行していることは明らかである。
また、上記(1)ア(ア)bの引用文献1の記載(段落[0018]及び[0019])並びに引用文献1の[図4]及び[図5]の記載より、引用発明の「工程5」において形成される「一体化部分(YZ)」は「剥離し難」いものであるといえる。
そうすると、引用発明における「前記チップ集合体(W)のチップ(W1)をマスクとして、前記チップ集合体(W)の空隙部に対応する前記接着剤層(Y2)及び前記粘着剤層(Z2)の部分に紫外線を照射し、当該部分を同時に硬化させ、一体化部分(YZ)を形成する工程(工程5)」と、本願発明における「光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップをマスクとして前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射し、前記接着フィルムの露光部分及び前記粘着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着フィルムの露光部分と前記粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くする露光工程」とは、「光硬化性成分を含む粘着物が前記接着物を挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップをマスクとして前記接着物及び前記粘着物に光を照射し、前記接着物の露光部分及び前記粘着物の露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着物の露光部分と前記粘着物の露光部分とを剥離し難くする露光工程」である点において共通し、下記相違点1及び2において相違するといえる。
(ウ)上記(1)ア(ア)bの引用文献1の記載(段落[0018]及び[0019])並びに引用文献1の[図4]及び[図5]の記載より、引用発明の「工程6」においては、「接着剤層Y2」のうち、「工程5」において紫外線が照射されなかった部分、すなわち「未露光」の部分が、「チップ(W1)」に付着するといえる。
そうすると、引用発明における「個々のチップ(W1)をピックアップし、個々のチップ(W1)を粘着シート(Z)から剥離することにより、チップ集合体(W)の空隙部に対応する接着剤層(Y2)が同伴されず、チップ(W1)と同形状の接着剤層(Y2)が積層されたチップを得る工程(工程6)」と、本願発明における「前記露光工程の後に、前記接着フィルムの未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程」とは、「前記露光工程の後に、前記接着物の前記露光工程における未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程」である点において共通し、下記相違点1及び4において相違するといえる。
(エ)引用発明は「接着剤層付き半導体チップの製造方法」であり、本願発明は「接着フィルム付き半導体チップの製造方法」であるから、両者は「接着物付き半導体チップの製造方法」である点において共通し、下記相違点1において相違するといえる。

イ 以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりであると認められる。
(ア)一致点
「間隔をおいて配置された複数の半導体チップを、光硬化性成分を含む接着物に貼り付ける貼り付け工程と、
光硬化性成分を含む粘着物が前記接着物を挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップをマスクとして前記接着物及び前記粘着物に光を照射し、前記接着物の露光部分及び前記粘着物の露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着物の露光部分と前記粘着物の露光部分とを剥離し難くする露光工程と、
前記露光工程の後に、前記接着物の前記露光工程における未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程と、
を備える、接着物付き半導体チップの製造方法。」
(イ)相違点
・相違点1
「接着物」に関し、本願発明の「接着物」は「接着フィルム」であるのに対し、引用発明の「接着物」は「粘着剤層(Y2)」であって、「フィルム」であるとは特定していない点。
・相違点2
「粘着物」に関し、本願発明の「粘着物」は「粘着フィルム」であるのに対し、引用発明の「粘着物」は「粘着剤層(Z2)」であって、「フィルム」であるとは特定していない点。
・相違点3
本願発明は、「貼り付け工程」において「粘着フィルム及び接着フィルムを備える積層シートの当該接着フィルムに半導体チップを貼り付ける」のに対し、引用発明は、「接着剤層(Y2)」と「粘着剤層(Z2)」を備える積層シートの「接着剤層(Y2)」にチップ(W1)を貼り付ける構成を備えない点。
・相違点4
本願発明の「ピックアップする工程」においては、接着フィルムの「未露光部分」が付着した前記半導体チップをピックアップするのに対し、引用発明の工程6では、工程3において露光され半硬化させられた「接着剤層(Y2)」のうち、工程5において露光されなかった部分が付着したチップ(W1)をピックアップしており、工程6においてチップ(W1)に付着する「接着剤層(Y2)」が「未露光部分」であると言い得るか不明である点。

(3)判断
ア 本願発明の進歩性について
上記相違点3について検討する。
上記(1)ア(ア)a、b及びdの引用文献1の記載(段落[0009]、[0016]及び[0033])より、引用発明において課題を解決するためには、接着剤層(Y2)を露光して半硬化する工程(工程3)が必須であると認められる。
また、(1)ア(ア)a、b及びdの引用文献1の記載(段落[0009]、[0019]及び[0033])より、引用発明において課題を解決するためには、チップの空隙部に対応する部分においてのみ接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)を一体化させ、チップに対応する部分においては両者を一体化させないことが必要であると認められる。
そして、引用発明において上記相違点3に係る構成、すなわち接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)を備える積層シートの接着剤層(Y2)にチップ(W1)を貼り付ける構成を採用した場合には、工程3において接着剤層(Y2)に紫外線を照射する際に、接着剤層(Y2)よりも光源側に位置する粘着剤層(Z2)にも紫外線が同時に照射され、チップの空隙部に対応する部分のみならずチップに対応する部分においても接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)とが一体化し、工程6において、チップに対応する部分の接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)とが剥離され難くなるから、引用発明の課題を解決することが困難となることは明らかである。また、これを避けるために、工程3(接着剤層(Y2)を半硬化する工程)を省略した場合も、工程6において、チップに対応する部分の接着剤層(Y2)と粘着剤層(Z2)とが剥離され難くなり、引用発明の課題を解決することが困難となることは明らかである。
以上のとおり、引用発明において上記相違点3に係る構成を採用した場合には、引用発明の課題を解決することが困難となることが明らかであるから、引用発明において上記相違点3に係る構成を採用することには、阻害要因があるといえる。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本願の請求項2ないし4に係る発明の進歩性について
本願の請求項2ないし4に係る発明はいずれも請求項1を引用しており、本願の請求項2ないし4に係る発明は本願発明の発明特定事項を全て有する発明である。
してみれば、本願発明が引用発明及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本願の請求項2ないし4に係る発明も、引用発明及び引用文献2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 原査定の理由についてのまとめ
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
平成28年12月2日付けで当審より通知した拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。

「1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



●理由1(明確性)について
・請求項 1-4
(1)本願の請求項1に『光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程』と記載されている。(当審注.下線は当審において付したもの。以下において同じ。)
上記記載からは、半導体チップをマスクとして光を照射するのか、それとも、半導体チップを透過した光を照射するのかが不明確である。
また、これに伴い、接着フィルム及び粘着フィルムのうち半導体チップによってマスクされていない部分にのみ光を照射するのか、それとも、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して光を照射するのかが不明確である。
また、上記記載が、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して半導体チップを透過した光を照射することを意味する場合には、上記『露光工程』の技術的意味を理解することができない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
したがって、請求項1ないし4に係る発明は明確でない。

(2)本願の請求項1に『光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程』と記載されている。
上記記載からは、光をどの程度照射するのかが不明であり、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じ、互いに剥離しがたくなるまで光を照射しているのか否かが不明確である。
また、上記記載が、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じない程度の微弱な光を照射することをも含む場合には、上記『露光工程』の技術的意味を理解することができない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
したがって、請求項1ないし4に係る発明は明確でない。

(3)本願の請求項1に『前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程』と記載されている。そして、請求項1の全体の記載より、上記工程は請求項1に係る発明における最終の工程と認められる。したがって、請求項1に係る発明は『接着フィルムが付着した半導体チップ』を製造する方法であると認められる。
他方、本願の請求項1には『接着剤層付き半導体チップの製造方法。』と記載されており、当該記載からは、請求項1に係る発明は『接着剤層付き半導体チップ』を製造する方法であると認められる。
このように、請求項1における上記各記載が互いに整合していないために、請求項1に係る発明が『接着フィルムが付着した半導体チップ』を製造する方法であるのか、それとも『接着剤層付き半導体チップ』を製造する方法であるのかが不明確である。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
したがって、請求項1ないし4に係る発明は明確でない。

(4)本願の請求項1に『前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程』と記載されている。
上記記載からは、接着フィルムの未露光部分のみが半導体チップに付着するのか、それとも接着フィルム全体が半導体チップに付着するのかが不明確である。
また、上記記載が、接着フィルム全体が半導体チップに付着することを意味する場合には、上記『前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程』の技術的意味を理解することができない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
したがって、請求項1ないし4に係る発明は明確でない。

・請求項 4
本願の請求項4に『支持部材』との記載があるが、何を支持するための部材であるのかが不明である。
したがって、請求項4に係る発明は明確でない。

●理由2(サポート要件)について
・請求項 1-4
(1)本願の請求項1に『光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程』と記載されている。
上記記載からは、半導体チップをマスクとして光を照射するのか、それとも、半導体チップを透過した光を照射するのかが不明確である。
また、これに伴い、接着フィルム及び粘着フィルムのうち半導体チップによってマスクされていない部分にのみ光を照射するのか、それとも、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して光を照射するのかが不明確である。
そして、上記記載が、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して半導体チップを透過した光を照射することを意味する場合には、そのような『露光工程』は、発明の詳細な説明には記載されていない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
よって、請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)本願の請求項1に『光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程』と記載されている。
上記記載からは、光をどの程度照射するのかが不明であり、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じ、互いに剥離しがたくなるまで光を照射しているのか否かが不明確である。
そして、上記記載が、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じない程度の微弱な光を照射することをも含む場合には、本願発明の課題を解決できないことが明らかであるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
よって、請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(3)本願の請求項1に『前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程』と記載されている。
上記記載からは、接着フィルムの未露光部分のみが半導体チップに付着するのか、それとも接着フィルム全体が半導体チップに付着するのかが不明確である。
そして、上記記載が、接着フィルム全体が半導体チップに付着することを意味する場合には、本願発明の課題を解決できないことが明らかであるから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても上記と同様のことが言える。
よって、請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

・請求項 4
本願の請求項4に『支持部材』との記載があるが、発明の詳細な説明に記載された事項との対応関係が不明瞭である。
よって、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)理由1(明確性)について
ア 当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」の「請求項 1-4」の(1)において、請求項1の「光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程」との記載からは、半導体チップをマスクとして光を照射するのか、それとも、半導体チップを透過した光を照射するのかが不明確である旨が指摘された。
また、当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」の「請求項 1-4」の(2)において、請求項1の上記記載からは、光をどの程度照射するのかが不明であり、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じ、互いに剥離しがたくなるまで光を照射しているのか否かが不明確である旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項1の上記記載は「光硬化性成分を含む粘着フィルムが前記接着フィルムを挟んで前記半導体チップの反対側に配置された状態で、前記半導体チップをマスクとして前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射し、前記接着フィルムの露光部分及び前記粘着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着フィルムの露光部分と前記粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くする露光工程」と補正され、半導体チップをマスクとして光を照射すること、及び、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて接着フィルムの露光部分と粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くすることが明確となった。
イ 当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」の「請求項 1-4」の(3)において、請求項1に係る発明が「接着フィルムが付着した半導体チップ」を製造する方法であるのか、それとも「接着剤層付き半導体チップ」を製造する方法であるのかが不明確である旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項1の「接着剤層付き半導体チップの製造方法。」との記載が「接着フィルム付き半導体チップの製造方法。」と補正されるとともに、請求項4の「接着剤層付き半導体チップ」との記載が「接着フィルム付き半導体チップ」と補正され、請求項1ないし3に係る発明が「接着フィルム付き半導体チップ」の製造方法であることが明確となり、また、請求項4に係る発明が当該「接着フィルム付き半導体チップ」を用いた半導体装置の製造方法であることが明確となった。
ウ 当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」の「請求項 1-4」の(4)において、請求項1の「前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程」との記載からは、接着フィルムの未露光部分のみが半導体チップに付着するのか、それとも接着フィルム全体が半導体チップに付着するのかが不明確である旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項1の上記記載が「前記露光工程の後に、前記接着フィルムの未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程」と補正され、接着フィルムの未露光部分が半導体チップに付着することが明確となった。
エ 当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」の「請求項 4」において、請求項4の「支持部材」が何を支持するための部材であるのかが不明である旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項4の「支持部材」との記載が「実装基板」に補正され、記載の意味が明確となった。
オ 上記アないしエのとおり、当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」に示した拒絶の理由は全て解消しているから、当該理由によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)理由2(サポート要件)について
ア 当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)について」の「請求項 1-4」の(1)において、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して半導体チップを透過した光を照射する「露光工程」は、発明の詳細な説明には記載されていない旨が指摘された。
また、当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)について」の「請求項 1-4」の(2)において、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じない程度の微弱な光を照射するものは、本願発明の課題を解決できないことが明らかであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項1の「前記半導体チップを介して前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射する露光工程」との記載が「前記半導体チップをマスクとして前記接着フィルム及び前記粘着フィルムに光を照射し、前記接着フィルムの露光部分及び前記粘着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて前記接着フィルムの露光部分と前記粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くする露光工程」と補正され、半導体チップをマスクとして光を照射すること、及び、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応を進行させて接着フィルムの露光部分と粘着フィルムの露光部分とを剥離し難くすることが明確となり、接着フィルム及び粘着フィルムの全体に対して半導体チップを透過した光を照射するものや、粘着フィルム及び接着フィルムの露光部分において光硬化性成分の反応が生じない程度の微弱な光を照射するものは、請求項1ないし4に係る発明には含まれないことが明確となった。
イ 当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)について」の「請求項 1-4」の(3)において、接着フィルム全体が半導体チップに付着するものは本願発明の課題を解決できないことが明らかであるから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項1の「前記露光工程の後に、前記接着フィルムが付着した前記半導体チップをピックアップする工程」との記載が「前記露光工程の後に、前記接着フィルムの未露光部分が付着した前記半導体チップをピックアップする工程」と補正され、接着フィルムの未露光部分が半導体チップに付着することが明確となり、接着フィルム全体が半導体チップに付着するものは、請求項1ないし4に係る発明には含まれないことが明確となった。
ウ 当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)について」の「請求項 4」において、請求項4に記載された「支持部材」と、発明の詳細な説明に記載された事項との対応関係が不明瞭である旨が指摘された。
これに対し、平成28年12月16日付け手続補正書による補正により、請求項4の「支持部材」との記載が「実装基板」と補正され、発明の詳細な説明に記載された「実装基板」に対応するものであることが明確となった。
エ 上記アないしウのとおり、当審拒絶理由の「理由2(サポート要件)について」に示した拒絶の理由は全て解消しているから、当該理由によっては、本願を拒絶することはできない。

3 当審拒絶理由についてのまとめ
以上のとおり、当審拒絶理由の「理由1(明確性)について」及び「理由2(サポート要件)について」に示した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そうすると、もはや、当審拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。

第5 結言
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2011-135615(P2011-135615)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 和樹  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
須藤 竜也
発明の名称 接着フィルム付き半導体チップの製造方法及び半導体装置の製造方法  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 城戸 博兒  
代理人 古下 智也  
代理人 池田 正人  

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