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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1325629
審判番号 不服2015-12631  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-03 
確定日 2017-03-01 
事件の表示 特願2012-505959「LED基板処理」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月28日国際公開、WO2010/123772、平成24年10月11日国内公表、特表2012-524400〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成22年(2010年)4月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年4月20日,米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 4月15日 審査請求・手続補正
平成26年 3月20日 拒絶理由通知
平成26年 7月 4日 意見書・手続補正
平成27年 2月27日 拒絶査定
平成27年 7月 3日 審判請求
平成28年 6月 9日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由」という。)
平成28年 9月 9日 意見書・手続補正
2 本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項5に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項5に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項5】
処理チャンバと,
処理チャンバの内部に配置された半導体基板を支持し,処理の間,前記半導体基板を回転するように構成された基板支持アセンブリと,
発光ダイオードアセンブリを含む光学的アセンブリと,
前記発光ダイオードアセンブリと前記基板支持アセンブリとの間に位置した,光学的拡散器を備えた半導体基板を熱的に処理するためのシステムであって,前記発光ダイオードアセンブリが,それぞれが1ミリ秒から1秒未満の範囲の持続期間を有する複数の光のパルスを放出するように構成された,劈開されていない基板上に形成された発光ダイオードのアレイを備え,前記発光ダイオードのアレイが,少なくとも200℃まで半導体基板の上面全体を急速且つ実質的に均一に加熱するパターンに配列された,半導体基板を熱的に処理するためのシステム。」
(2)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,国際公開第2008/016116号(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)
(ア)「技術分野
【0001】
本発明は,半導体ウエハ等の被処理体に対してLEDからの光を照射することにより,被処理体にアニールを行うアニール装置およびアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造において,被処理基板である半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)に対して,成膜処理,酸化拡散処理,改質処理,アニール処理等の各種熱処理が施される。そして,昨今における半導体デバイスに対する高速化や高集積化等の要求にともない,熱処理を行う際に,とりわけイオンインプランテーション後のアニール処理を行う際には拡散を最小限に抑えるため,被処理体をより高速で昇降温させることが指向されている。このような高速昇降温が可能なアニール装置として,LED(発光ダイオード)を熱源として用いた装置が提案されている(例えば,特表2005-536045号公報)。LEDによる加熱は,加熱源の黒体輻射ではなく,電子とホールとの再結合による電磁輻射を利用している。したがって,ウエハ等をLEDによって加熱する場合には,ウエハ等の降温速度を速くすることができる。このため,LEDによる加熱は最先端のプロセスへ適用することができる可能性がある。そして昨今においては,ウエハの表面部分のみを加熱する観点から,紫外光?青色光の短い波長の光を射出するLED素子として,GaNから構成されたLEDが多用されている。」
(イ)「【発明を実施するための形態】
【0017】
以下,添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。以下の実施の形態においては,表面に不純物が注入されたウエハをアニールするためのアニール装置を例にあげて説明する。ここで,図1は,本発明の一実施の形態に係るアニール装置の概略構成を示す断面図である。
【0018】
アニール装置100は,気密に構成され,ウエハWが搬入される処理容器1を有している。処理容器1の底部からは支持柱2が立設しており,支持柱2の上端から内側に延びるようにウエハWを水平に支持する支持部材3が設けられている。処理容器1の天壁および底壁のウエハWに対応する部分には,それぞれ開口部1a,1bが形成されている。この開口部1a,1bを覆うように,光透過部材5a,5bが気密に設けられている。また,処理容器1の側壁には,図示しない処理ガス供給機構から所定の処理ガスが導入される処理ガス導入口22と,図示しない排気装置が接続された排気口23と,が設けられている。さらに,処理容器1の側壁には,処理容器1に対するウエハWの搬入出を行うための搬入出口24が設けられている。この搬入出口24はゲートバルブ25により開閉可能となっている。処理容器1の内部には,支持部材3上に載置されたウエハWの温度を測定するための温度センサー26が設けられている。また,温度センサー26は処理容器1の外側に配置された計測部27に接続されている。この計測部27から後述するプロセスコントローラ60に温度検出信号が出力されるようになっている。
・・・
【0022】
加熱源7a,7bは,図2に拡大して示すように,絶縁性を有する高熱伝導性材料,典型的にはAlNセラミックスからなる支持部材32と,支持部材32上に搭載された多数のLED素子33と,を有するLEDアレイ34を複数含んでいる。加熱源7aにおいて,複数のLEDアレイ34は放熱部材29aの下面に配置されており,一方,加熱源7bにおいて,複数のLEDアレイ34は放熱部材29bの上面に配置されている。LEDアレイ34の支持部材32とLED素子33との間には電極35が設けられている。この電極35は,放熱部材29a,29bの内部を通過する給電部材36に接続されている。また,一つのLED素子33に対応する電極35と,このLED素子に隣接するLED素子33に対応する電極35と,はこれらの間を延びる接続ワイヤ37を介して接続されている。給電装置10は給電線10a,10bを介して加熱源7a,7bの給電部材36に接続されており,給電部材36を介して給電装置10から各LED素子33に給電が行われる。そして,LED素子33に給電することによりLED素子33が発光し,その光によりウエハWが表裏面から加熱されてアニール処理される。各LEDアレイ34は,平面視において例えば六角形状をなし,例えば図3に示すように配置される。一つのLEDアレイ34には,例えば2000?5000個程度のLED素子33が搭載される。LED素子33はGaAs系材料,例えばGaAs,GaAsAlで構成される。
・・・
【0027】
LED素子33は,上述したようにGaAs系材料から構成される。LED素子33を形成するGaAs系材料としては,GaAs,GaAsAlが例示される。これらの材料は,放射光の中心波長が950?970nm程度の近赤外領域であり,その放射光帯域の幅は50nm程度と狭い。アニール対象をシリコン製のウエハWとした場合,アニール対象の放射(吸収)特性は図5に示すようなものとなる。GaAs系材料の放射波長である950?970nm付近では放射率(吸収率)が0.65程度であって,放射率の値は温度によらずほぼ一定である。一方,従来LED素子として多用されてきたGaNは,放射光の中心波長が360?520nm程度の紫外?青色領域である。そして,GaNからなるLED素子の放射波長におけるシリコンの放射率(吸収率)は0.6程度である。したがって,GaAs系材料で構成されたLED素子33から射出される光の方が,GaN系材料で構成されたLED素子からの光よりも,高い吸収率でシリコン製のウエハWに吸収される。
・・・
【0029】
図7として示されたグラフにおいて,GaAs系材料から構成されたLED素子の電流-光出力特性と,GaN系材料から構成されたLED素子の電流-光出力特性と,が比較されている。このグラフにも示されているように,GaN系材料から構成されたLED素子においては,駆動電流が定格電流(50mA)の1.5倍程度を超えると,光出力が飽和する。一方,GaAs系材料から構成されたLED素子においては,駆動電流が定格電流(50mA)を大きく超えても,電流に比例して光出力が増加していく。つまり,GaAs系材料から構成されたLED素子33については,駆動電流を増加させれば,結合層,量子井戸の容量の分は光出力を増加させることができる。ただし,LED素子自体の発熱による発光量の低下が存在するため,室温では大きな光出力増加は得られない。しかしながら,上述したように冷却媒体21および放熱部材29a,29bを用いてLED素子33を冷却することにより,GaAs系材料から構成されたLED素子33から大きな光出力を得ることができるようになる。LED素子33を冷却する場合,発熱による発光量の低下を有効に抑制して十分な光出力を得るためには,冷却媒体21による冷却温度は0℃以下であることが好ましい。また,GaAs系材料から構成されたLED素子33には,パルスモードによる動作が規定されており,その場合の電流値は1A(室温)である。したがって,このように冷却媒体21および放熱部材29a,29bによりLED素子33を冷却しつつ,定格電流の20倍に相当する1Aの電流を連続モードでLED素子33へ供給することによって,定格電流をLED素子33に供給した場合と比較して20倍の光出力をLED素子33から得ることができるようになる。なお,有効な光出力を得る観点から,GaAs系材料から構成されたLED素子33に供給する電流値は100mA以上であることが好ましい。」
(ウ)「【0033】
次に,以上のようなアニール装置100を用いて実行され得るアニール方法の一例について説明する。まず,ゲートバルブ25を開にして搬入出口24からウエハWを搬入し,支持部材3上に載置する。その後,ゲートバルブ25を閉じて処理容器1内を密閉状態とする。次に,排気口23を介して図示しない排気装置により処理容器1内を排気する。また,図示しない処理ガス供給機構から処理ガス導入口22を介して所定の処理ガス,例えばアルゴンガスまたは窒素ガスを処理容器1内に導入し,処理容器1内の圧力を例えば100?10000Paの範囲内の所定の圧力に維持する。
・・・
【0035】
また,給電装置10から加熱源7a,7bのLED素子33に所定の電流を供給してLED素子33を点灯させる。この際に,LED素子33はGaAs系材料,例えばGaAs,GaAsAlで構成されている。そして,GaAs系材料から構成されたLED素子の光出力はほぼ電流に比例するので,LED素子33を冷却しつつ例えば100mA以上まで駆動電流を上昇させることによって,LED素子33から大きな光出力を得ることができる。さらに,上述したように,GaAs系材料から構成されたLED素子33の光出力は冷却による温度低下自体によっても上昇する。したがって,冷却媒体21を用いてLED素子33を冷却し,LED素子自身の発熱によるLED素子33の発光量の低下を抑制しながら,LED素子33を駆動することにより,LED素子33から著しく大きな光出力を得ることができる。これらのことから,従来よりも高い500℃/sec程度以上の加熱速度でウエハWを急速加熱することができ,従来よりも高速加熱が要求されるアニールに対しても十分に適用可能となる。」
(エ)図1には,処理容器1の内部に支持部材3が設けられていること,加熱源7aのLEDアレイ34の配置された幅がウエハWの幅とほぼ等しいこと,加熱源7aのLEDアレイ34の配置された面がウエハWの表面と実質的に平行であること,が記載されている。
(オ)図3には,LEDアレイ34が平面上に均一に配置されている加熱源7aが記載されている。
イ 引用発明1
前記アより,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「処理容器と,処理容器の内部に設けられた半導体ウエハを水平に支持する支持部材と,半導体ウエハに対してLED素子からの光を表面に照射し高速で昇降温させ,多数のLED素子を有するLEDアレイを複数含んでいる加熱源とを備えた,半導体ウエハをアニールするアニール装置。」
(3)引用文献2の記載と引用発明2
ア 引用文献2
当審拒絶理由に引用された,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2008-016545号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体ウエハ等に対してLEDからの光を照射することによりアニールを行うアニール装置およびアニール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては,被処理基板である半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)に対して,成膜処理,酸化拡散処理,改質処理,アニール処理等の各種熱処理が存在するが,半導体デバイスの高速化,高集積化の要求にともない,特にイオンインプランテーション後のアニールは,拡散を最小限に抑えるために,より高速での昇降温が指向されている。このような高速昇降温が可能なアニール装置としてLED(発光ダイオード)を熱源として用いたものが提案されている(例えば特許文献1)。」
(イ)「【0017】
以下,添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここでは,表面に不純物が注入されたウエハをアニールするためのアニール装置を例にとって説明する。
図1は,本発明の一実施形態に係るアニール装置の概略構成を示す断面図である。このアニール装置100は,気密に構成され,ウエハWが搬入されるチャンバー(処理容器)1を有している。
・・・
【0022】
LED素子15としては,射出される光の波長が紫外光?近赤外光の範囲,好ましくは0.36?1.0μmの範囲である。このような0.36?1.0μmの範囲の光を射出する材料としてはGaN,GaAs等が例示される。
・・・
【0034】
そして,DC-DCコンバータ53を制御して電気二重層コンデンサモジュール52から放電させ,各ゾーンの光源18を構成するLED素子15に所定の電流を供給してLED素子15を点灯させる。この際のLED素子15の光エネルギーにより,ウエハWを100?1000℃/sec程度の加熱速度で急速に加熱することができる。例えば,複数の光源18に配置されている多数のLED素子15を1秒間点灯することにより,1000℃程度の高温まで急速に加熱することができる。また,熱放射による加熱でないため,降温時にはLCD素子15を消灯することにより,100?200℃/sec程度の急速な冷却が可能である。」
イ 引用発明2
前記アより,引用文献2には,次の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「多数のLED素子を1秒間点灯することにより,1000℃程度の高温まで急速に加熱することができる,ウエハをアニールするためのアニール装置。」
(4)周知技術1
ア 周知例1
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-235489号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,半導体装置の製造技術に関し,特に,RTP(Rapid Thermal Processing)を採用した半導体ウエハの熱処理工程に適用して有効な技術に関する。」
(イ)「【0019】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1である枚葉式RTP装置を用いた熱処理方法を図1?図3を用いて説明する。図1は,熱処理の過程を示す工程図,図2は,熱処理時の半導体ウエハの温度および回転数の時間変化を示すグラフ図,図3は,熱処理の昇温過程およびメイン処理過程における半導体ウエハの反りを示す模式図である。本実施の形態1では,熱処理は昇温過程,所定温度を所定時間保持するメイン処理過程および降温過程とからなり,メイン処理の温度を1000℃,時間を20秒とした。
【0020】
図示は省略するが,枚葉式RTP装置には,加熱源として約1μmをピークとした赤外線領域に分布する波長を有するハロゲンランプが備わっており,ハロゲンランプのランプパワーの設定条件を変えることによって,半導体ウエハ1Wの温度を調整することができる。また枚葉式RTP装置は,半導体ウエハ1Wの面内温度の均一性を向上するために,熱処理中に半導体ウエハ1Wを回転させる機能を備えている。
【0021】
まず,半導体ウエハ1Wを枚葉式RTP装置のチャンバ内に挿入し,ステージ23上に載置した後(図1の工程101),半導体ウエハ1Wを相対的に低い回転数,例えば100rpm以下(図2では100rpm)で回転させる(図1の工程102)。ここでは,図3(a)に示すように,半導体ウエハ1Wに反りは生じない。次に,オープンループ制御によって半導体ウエハ1Wの温度を約500℃まで,例えば25℃/sec程度の昇温速度で昇温する(図1の工程103,図2のSTEP1)。」
イ 周知技術1
前記アより,次の発明(以下,「周知技術1」という。)は本願の優先日前に周知技術であったと認められる。
「半導体ウエハの熱処理装置において,半導体ウエハの面内温度の均一性を向上するために,熱処理中に半導体ウエハを回転させる機能を備えたステージ。」
(5)周知技術2
ア 周知例2
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-318171号公報(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板を熱処理する方法および半導体基板の熱処理装置に関する。」
(イ)「【0013】
本発明に従った実施の形態による半導体基板の熱処理装置は,半導体基板に注入された不純物を活性化させるために該半導体基板を熱処理する半導体基板の熱処理装置であって,前記半導体基板へ光を放射し,前記半導体基板を熱処理する光源と,前記光源と前記半導体基板との間に設けられ,前記光源からの光エネルギーが前記半導体基板内において局所的に集中することを防止する光拡散板とを備えている。」
イ 周知例3
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-296625号公報(以下,「周知例3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,半導体ウェハーやガラス基板等(以下,単に「基板」と称する)に閃光を照射することによって,または,加熱部から与えられる熱エネルギーによって基板温度を昇温させる熱処理装置,基板処理装置,および熱処理方法に関するもので,特に,基板温度の演算に使用する光の計測方式の改良に関する。」
(イ)「【0021】
<1.熱処理装置の構成>
図1および図2は本発明にかかる熱処理装置の構成を示す側断面図である。この熱処理装置は,キセノンフラッシュランプからの閃光によって半導体ウェハー等の基板の熱処理を行う装置である。
【0022】
この熱処理装置は,透光板61,底板62および一対の側板63,64からなり,その内部に半導体ウェハーWを収納して熱処理するためのチャンバー65を備える。チャンバー65の上部を構成する透光板61は,例えば,石英等の赤外線透過性を有する材料から構成されており,光源5から出射された光を透過してチャンバー65内に導くチャンバー窓として機能している。また,チャンバー65を構成する底板62には,後述する熱拡散板73および加熱プレート74を貫通して半導体ウェハーWをその下面から支持する複数(本実施の形態では3本)の支持ピン70が立設されている。
・・・
【0024】
チャンバー65は光源5の下方に設けられている。光源5は,複数(本実施形態においては27本)のキセノンフラッシュランプ69(以下,単に「フラッシュランプ69」とも称する)と,リフレクタ71とを備える。複数のフラッシュランプ69は,それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり,それぞれの長手方向が水平方向に沿うようにして互いに平行に列設されている。リフレクタ71は,複数のフラッシュランプ69の上方にそれらの全体を被うように配設されている。
【0025】
このキセノンフラッシュランプ69は,その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設されたガラス管と,該ガラス管の外局部に巻回されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから,通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら,トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には,コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ,そのときのジュール熱でキセノンガスが加熱されて光が放出される。このキセノンフラッシュランプ69においては,予め蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし10ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから,連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。本実施形態では,熱処理装置にフラッシュランプ69から出射される光の強度を計測する機構(図1および図2では図示の便宜上省略)を設けているのであるがそれについてはさらに後述する。
【0026】
光源5と透光板61との間には,光拡散板72が配設されている。この光拡散板72は,赤外線透過材料としての石英ガラスの表面に光拡散加工を施したものが使用される。
【0027】
フラッシュランプ69から放射された光の一部は直接に光拡散板72および透光板61を透過してチャンバー65内へと向かう。また,フラッシュランプ69から放射された光の他の一部は一旦リフレクタ71によって反射されてから光拡散板72および透光板61を透過してチャンバー65内へと向かう。」
ウ 周知技術2
前記ア及びイより,次の発明(以下,「周知技術2」という。)は,本願の優先日前に周知技術であったと認められる。
「半導体基板の熱処理装置において,光源からの光エネルギーが半導体基板内において局所的に集中することを防止するために,光源と半導体基板との間に光拡散板を備えること。」
(6)周知技術3
ア 周知例4
本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平8-264903号公報(以下,「周知例4」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【0069】この後、以上のようにしてレーザー構造が形成されたn型GaAs基板51をバー状に劈開して両共振器端面を形成した後、例えば真空蒸着法により、フロント側の端面にAl_(2) O_(3) 膜66とSi膜67とからなる多層膜を形成するとともに、リア側の端面にAl_(2) O_(3) 膜66とSi膜67とを2周期繰り返した多層膜を形成する。このように端面コーティングを施した後、このバーを劈開してチップ化し、パッケージングを行う。」
(イ)「【0075】また、n型GaAs基板51は、大面積のものが容易に入手可能であることから、二次元集積化ディスプレイの実現が可能である。すなわち、図8に示すように、十分に大面積のn型GaAs基板51上に、MOCVD法によりエピタキシャル成長された低結晶欠陥密度のn型バッファ層を介して、MBE法によりn型II-VI族化合物半導体層およびp型II-VI族化合物半導体層を順次エピタキシャル成長させ、さらにその上に例えば透明電極からなるp側電極を形成して全面に面発光型の発光ダイオード構造を形成した後、これをリソグラフィーおよびエッチングによるパターニングにより個々の発光ダイオードに分割し、発光ダイオードアレイを形成する。さらに、各発光ダイオードを独立に駆動することができるように配線を施す。これによって、単一基板で自発光型の二次元集積化ディスプレイを実現することができる。」
イ 周知技術3
前記アより,次の発明(以下,「周知技術3」という。)は,本願の優先日前に周知技術であったと認められる。
「基板上にエピタキシャル成長させて形成した発光ダイオードアレイにおいて,基板を劈開しないこと。」
(7)本願発明と引用発明1との対比
引用発明1の「処理容器」,「半導体ウエハ」,「LEDアレイ」は,それぞれ本願発明の「処理チャンバ」,「半導体基板」,「発光ダイオードアセンブリ」に相当すると認められる。
引用発明1の「処理容器の内部に設けられた半導体ウエハを水平に支持する支持部材」は,下記相違点を除いて,本願発明の「処理チャンバの内部に配置された半導体基板を支持するように構成された基板支持アセンブリ」に相当すると認められる。
引用発明1の「加熱源」は,「LED素子を有するLEDアレイを複数含む」から,下記相違点を除いて,本願発明の「発光ダイオードアセンブリを含む光学的アセンブリ」に相当すると認められる。
引用発明1の「半導体ウエハをアニールするアニール装置」は,下記相違点を除いて,本願発明の「半導体基板を熱的に処理するためのシステム」に相当すると認められる。
引用発明1は,「半導体ウエハに対してLED素子からの光を表面に照射」するから,半導体ウエハの上面を照射するものと認められ,かつ,「高速で昇降温させ」るから急速に加熱するものと認められる。そして,引用文献1の「加熱源のLEDアレイの配置された幅が半導体ウエハの幅とほぼ等しいこと」(前記(2)ア(エ)参照。)及び「LEDアレイが平面上に均一に配置されていること」(前記(2)ア(オ)参照。)の記載から引用発明1のLEDアレイは半導体ウエハの上面全体を実質的に均一に加熱するパターンに配列されているものと認められ,すると,引用発明1と本願発明とは「発光ダイオードアセンブリが,発光ダイオードのアレイを備え,前記発光ダイオードのアレイが,半導体基板の上面全体を急速且つ実質的に均一に加熱するパターンに配列された」点で共通している。
すると,本願発明と引用発明1とは,下記アの点で一致し,下記イの点で相違する。
ア 一致点
「処理チャンバと,
処理チャンバの内部に配置された半導体基板を支持するように構成された基板支持アセンブリと,
発光ダイオードアセンブリを含む光学的アセンブリと,
半導体基板を熱的に処理するためのシステムであって,前記発光ダイオードアセンブリが,発光ダイオードのアレイを備え,前記発光ダイオードのアレイが,半導体基板の上面全体を急速且つ実質的に均一に加熱するパターンに配列された,半導体基板を熱的に処理するためのシステム。」
イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明の「基板支持アセンブリ」が「処理の間,前記半導体基板を回転するように構成され」ているのに対し,引用発明1の「支持部材」は,半導体ウエハを回転するように構成されていない点。
(イ)相違点2
本願発明の「半導体基板を熱的に処理するためのシステム」が「前記発光ダイオードアセンブリと前記基板支持アセンブリとの間に位置した,光学的拡散器を備え」るのに対し,引用発明1の「アニール装置」は「光学的拡散器」を備えない点。
(ウ)相違点3
本願発明の「発光ダイオードのアレイ」が「それぞれが1ミリ秒から1秒未満の範囲の持続期間を有する複数の光のパルスを放出」するのに対し,引用発明1においては「LED素子からの光」が時間的にどのように放出されるのか開示されていない点。
(エ)相違点4
本願発明の「発光ダイオードのアレイ」が「劈開されていない基板上に形成され」ているのに対し,引用発明1の「LEDアレイ」が「劈開されていない基板」上に形成されることが開示されていない点。
(オ)相違点5
本願発明は「少なくとも200℃まで加熱」するのに対し,引用発明1においては加熱温度が開示されていない点。
(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
周知技術1に示されるように「半導体ウエハの熱処理装置において,熱処理中に半導体ウエハを回転させる機能を備えたステージ」は周知技術であって,引用発明1のアニール装置において半導体ウエハの均一性の高い加熱をするために,周知技術1を採用することにより相違点1に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることである。
イ 相違点2について
周知技術2に示されるように「半導体基板の熱処理装置において,光源と半導体基板との間に備えた光拡散板」は周知技術であるところ,発光ダイオードは指向性を有するものであるから,発光ダイオードのアレイにより実質的に均一に加熱している引用発明1のアニール装置においても光源からの光エネルギーが半導体基板内において局所的に集中することを防止し均一性の高い加熱をする必要があるために,周知技術2を採用することにより相違点2に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることである。
ウ 相違点3について
引用文献1には「GaAs系材料から構成されたLED素子にはパルスモードによる動作が規定されて」いるが,「LED素子を冷却」する場合は「連続モード」でLED素子を動作させることが記載されている(前記(2)ア(イ)段落0029)から,当業者にとっては,LED素子を冷却せずに簡素な構成でLEDを動作させるには,連続モードではなく,複数のパルスからなる「パルスモード」で動作させなければならないことが読み取れる。してみると,構成を簡素化することは当業者が一般的に考えることであるから,前記記載に接した当業者にとっては,引用発明1においてLED素子を「パルスモード」で動作させることが示唆されていると認められる。
そして,引用発明1において,前記示唆に従い,複数のパルスを発光させる際に,パルスの回数やパルスの時間幅を設計することは,LED素子の耐熱性能や加熱の目標温度を考慮して当業者が適宜設計できることにすぎない。例えば,引用文献2には「多数のLED素子を1秒間点灯する」ことで1000℃に加熱してウエハをアニールすることが開示されているから,これをパルスモードで発光させるにあたり,1秒間を数回のパルスに分割し,したがって,1秒未満の持続期間とすることは,当業者が容易に設計できることである。
エ 相違点4について
周知技術3に示されるように「基板上にエピタキシャル成長させて形成した発光ダイオードアレイにおいて,基板を劈開しないこと。」は周知技術であって,引用発明1のLEDアレイを周知技術3により形成した発光ダイオードアレイとすることは,当業者が容易になし得ることである。
オ 相違点5について
引用発明1には具体的な加熱温度は開示されていないが,「表面に不純物が注入されたウエハをアニールするためのアニール装置」(前記(2)ア(イ)参照。)であって,引用文献2には「表面に不純物が注入されたウエハをアニールする」ために,「1000℃程度まで」加熱することが開示されているから,表面に不純物が注入されたウエハをアニールするために加熱温度を1000℃程度を含む「少なくとも200℃」とすることは,当業者が容易になし得ることである。
(5)本願発明の効果について
本願発明の効果は,引用発明1,2の構成及び周知技術1ないし3から当業者が容易に予測しうるものであり,格別のものとはいえない。
なお,「1ミリ秒と1秒との間基板を処理することは,基板を処理するためにかかる時間をさらに短縮し,基板を処理する半導体装置のスループットを増加させる。」(本願明細書段落0018)という効果は,「それぞれが1ミリ秒から1秒未満の範囲の持続期間を有する複数の光のパルスを放出」させるという特徴を有する本願発明の奏する効果ではない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用文献1,2記載の発明及び周知技術1ないし3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 結言
したがって,本願の請求項5に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-30 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2012-505959(P2012-505959)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 勝則桑原 清  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 柴山 将隆
深沢 正志
発明の名称 LED基板処理  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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