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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1325654
審判番号 不服2016-2702  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-23 
確定日 2017-03-01 
事件の表示 特願2015-100032「自動車の消音装置」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月15日の出願であって、平成27年7月2日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年10月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月4日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月23日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年2月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年2月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成28年2月23日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年10月7日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
エンジンの排気管の下流側に設けられる自動車の消音装置であって、円筒体管状材料で構成された消音効果筒体を有し、
上記消音効果筒体は、上記エンジンの排気管から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送る絞り管部と、上記絞り管部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送るガス整流部と、上記ガス整流部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端方向に送るガス放出部とを有し、
上記絞り管部は、上記排気ガス流を上記上流側端から上記下流側端に送る方向に行くに従って上記円筒体管状材料の内径の大きさが小さくなって行くことにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力を高める構成を有し、
上記ガス整流部は、上記絞り管部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記上流側端に受けた上記排気ガス流を上記下流側端に送る方向に向って上記円筒体管状材料の内径の大きさを同じ値に維持することにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力の変動を抑制する構成を有し、
上記ガス放出部は、上記円筒体管状材料の上記上流側端から栓止蓋部材によって栓止される上記下流側端までの位置について上記ガス整流部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記円筒体管状材料の円周方向について厚みを貫通する多数の排気ガス放出孔を設けることによって当該排気ガス放出孔を通って放出される上記排気ガス流の圧力を低下させることにより排気音を消音させる構成を有し、
上記消音効果筒体は、上記絞り管部、上記ガス整流部、及び上記ガス放出部が全体として一体の、1本の管体によって構成され、かつ内面について上記絞り管部、上記ガス整流部及び上記ガス放出部の継ぎ目部分の内表面は段差なく滑らかに加工されることにより当該円筒体管状材料の内部を通る上記排気ガス流に圧力の変動を生じさせないようにした
ことを特徴とする自動車の消音装置。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
エンジンの排気管の下流側に設けられる自動車の消音装置であって、円筒体管状材料で構成された消音効果筒体を有し、
上記消音効果筒体は、上記エンジンの排気管から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送る絞り管部と、上記絞り管部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送るガス整流部と、上記ガス整流部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端方向に送るガス放出部とを有し、
上記絞り管部は、上記排気ガス流を上記上流側端から上記下流側端に送る方向に行くに従って上記円筒体管状材料の内径の大きさが小さくなって行くことにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力を高める構成を有し、
上記ガス整流部は、上記絞り管部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記上流側端に受けた上記排気ガス流を上記下流側端に送る方向に向って上記円筒体管状材料の内径の大きさを同じ値に維持することにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力の変動を抑制する構成を有し、
上記ガス放出部は、上記円筒体管状材料の上記上流側端から栓止蓋部材によって栓止される上記下流側端までの位置について上記ガス整流部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記円筒体管状材料の円周方向について厚みを貫通する多数の排気ガス放出孔を設けることによって当該排気ガス放出孔を通って放出される上記排気ガス流の圧力を低下させることにより排気音を消音させる構成を有し、
上記消音効果筒体は、上記絞り管部、上記ガス整流部、及び上記ガス放出部が全体として一体の、1本の管体によって構成され、かつ内面について、上記絞り管部、上記ガス整流部及び上記ガス放出部の継ぎ目部分の内表面は段差なく滑らかに加工されると共に、上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たないことにより、当該円筒体管状材料の内部を通る上記排気ガス流に圧力の変動を生じさせないようにした
ことを特徴とする自動車の消音装置。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)新規事項の追加について
本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、まとめて「当初明細書等」という。)には、管体の溶接加工について一切記載されていないから、本願の当初明細書等を総合しても、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1において追加された「上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」という事項を導き出すことはできない。
この点に関して、請求人は、審判請求書において、
「別途手続補正書において訂正した
『上記消音効果筒体は、上記絞り管部、上記ガス整流部、及び上記ガス放出部が全体として一体の、1本の管体によって構成され、かつ内面について、上記絞り管部、上記ガス整流部及び上記ガス放出部の継ぎ目部分の内表面は段差なく滑らかに加工されると共に、上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たないことにより、当該円筒体管状材料の内部を通る上記排気ガス流に圧力の変動を生じさせないようにした』
という補正事項は、本願明細書[0018]及び図3において、『絞り管部12B及び直管部12Aが単一パイプ材料で連接されている』こと、そして『その内周面は全体として滑らかに仕上げられている』こと、『これにより絞り管部12Bの傾斜面に沿って圧縮されながらその下流側端まで流れて来たガス流a1は、直管部12Aの上流側端を通って同一の内径面部分に移ってガス流a2として流れて行く際に、絞り管部12Bの傾斜面による圧縮を受けなくなる以外は圧力の変化が与えられず、従って安定な排気音成分を含むように整流されながら、直管部12Aの内径内を下流側端に排気ガス流a2として流れて行くことになる』が記載されていることが補正の根拠である。」(〔3〕本願発明が特許されるべき理由 (3)補正の根拠)
と主張している。
しかし、段落【0018】及び図3を総合しても、「上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」という事項を導き出すことはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(3)本件補正の目的
仮に、本件補正が新規事項の追加でないとした場合について、検討する。
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「消音効果筒体」について、「上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」という事項を付加して限定することにより、請求項1に記載される発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件についての判断
仮に、本件補正が新規事項の追加でないとした場合、本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1 明確性(特許法第36条第6項第2号)について
(1)「上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」という事項の技術的な意味について

ア 「上記1本の管体の上記内表面の全面について・・・溶接加工部位を持たない」という記載からは、「上記1本の管体の内表面の全面」が、「溶接加工部位」を持たない、という事項が読み取れるが、「上記1本の管体」が全く溶接加工がされていないという意味か、内表面には溶接加工部位を持たないが、外表面には溶接加工部位を持つという意味か、明確でない。

イ 「当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に」という記載に着目すると、「管体の長手方向に」上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たないが、「管体の長手方向」ではない方向、例えば「管体の円周方向」には溶接加工部位を持っているとも解されるが、管体の円周方向に溶接加工部位を持っているのか否か、明確でない。

(2)まとめ
上記(1)から、「上記1本の管体の上記内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」という事項は、「溶接加工部位」を全く持たないのか、内表面には溶接加工部位を持たないが外表面には溶接加工部位を持つのか、管体の長手方向には「溶接加工部位」を持たないが「管体の円周方向」には溶接加工部位を持つのか、それとも、これら全てを包含するのか、明確でない。

2-2 進歩性(特許法第29条第2項)について
2-2-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2013-160123号公報(以下、「引用文献」という。)には、「排気マフラー装置」に関し、図面とともに、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0001】
本発明は、内部にセラミック触媒体を備えるエンジンの排気マフラー装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0018】
エンジン13は、エンジンステー(不図示)によって、メインフレーム42に吊り下げられるようにして支持されている。
エンジン13は、シリンダ軸線54が車両前後方向に略水平に延びる単気筒の水平エンジンであり、車両後方側から順に、クランクケース52、シリンダブロック53、及び、シリンダヘッド55を有している。変速機(不図示)は、クランクケース52内に一体に設けられている。変速ペダル56は、クランクケース52に設けられる。
クランクケース52の左側面には、エンジン13の出力軸31が突出している。後輪14は、出力軸31のドライブスプロケット32と後輪14のドリブンスプロケット33との間に巻き掛けられたチェーン34を介して駆動される。
エンジン13の下面には、車幅方向に延びるステップステー47が取付けられ、運転者用のステップ48は、ステップステー47に設けられる。
【0019】
シリンダヘッド55の上方には、シリンダヘッド55の吸気ポートに接続されるスロットルボディ17が設けられている。
シリンダヘッド55の下面に形成された排気ポート55Aには、チェーン34の反対側の車両の右側を通って車両後部へ延びる排気マフラー装置60が接続されている。
【0020】
図2は、排気マフラー装置60の側面図である。
図1及び図2に示すように、排気マフラー装置60は、排気ポート55Aに接続されて後方に延びる排気管61と、排気管61に接続され、排気管61を通った高温・高圧の排気ガスを減圧して外部に排出するマフラー62とを有している。排気管61の後部はマフラー62内に延びており、排気ガスを浄化する触媒装置63は、排気管61の後部に設けられてマフラー62内に収納されている。
排気マフラー装置60は、排気管61に設けられた前部ハンガー部64、及び、マフラー62に設けられた後部ハンガー部65を介して、車体側にボルト等によって固定される。
【0021】
マフラー62は、排気管61よりも大径の円筒状に形成された本体ケース66(マフラー本体)を有し、複数の隔壁67A,67B及び後壁68によって本体ケース66の内部空間が複数の膨張室X,Y,Zに仕切られた多段膨張式である。前側の膨張室Xと後側の膨張室Yとは、中央の膨張室Zを通って隔壁67A,67Bを貫通する第1連通管69によって連通し、膨張室Yと膨張室Zとは隔壁67Bを貫通する第2連通管70によって連通し、膨張室Zは、隔壁67B及び後壁68を貫通するテールパイプ71によってマフラー62の外側に連通している。
本体ケース66の前部には、排気管61が接続される上流端66A側ほど小径になるテーパー部66B(小径部)が形成されている。
排気ガスは、排気管61から膨張室Xに流入し、第1連通管69を通って膨張室Yに流入し、流れ方向を反転して第2連通管70を通って膨張室Zに流入し、再び流れ方向を反転してテールパイプ71を通って外部に排出される。
【0022】
図3は、排気管61の後部の断面図である。
図2及び図3に示すように、排気管61は、複数の管を溶接で接合することで、前後に延びる一本の管状に形成されている。
排気管61は、排気ポート55Aに接続されるフランジを備えた排気ポート接続部72と、排気ポート接続部72から略同一径で触媒装置63側へ延びる管部73と、管部73から延びて触媒装置63に接続される下流テーパー管部74(排気管の下流端部)と、管部73との間に隙間を開けた状態で管部73を外側から覆うアウターパイプ75とを有する排気管上流部61A(保持筒に接続される排気管)と、この排気管上流部61Aの下流端に接続される排気管下流部61Bとを備えている。排気管下流部61Bは、触媒装置63と、触媒装置63の下流側に接続されるテーパー管88及び管89を有している。
【0023】
排気管上流部61Aの下流テーパー管部74は、管部73の後端73Aの外周面に嵌合する前側接続部74Aと、触媒装置63に接続される後側接続部74Bと、前側接続部74Aと後側接続部74Bとの間で下流側の後側接続部74B側ほど拡径するテーパー部74Cとを有している。前側接続部74Aは、溶接ビード121によって外側から溶接される。
また、下流テーパー管部74は、金属板をプレス成形して形成した一対の半割り部材78A,78Bを、合わせ面78Cで溶接して円錐状の管になるように形成されている。このため、テーパー形状の設計の自由度を向上できるとともに、生産性を向上できる。
【0024】
アウターパイプ75は、縮径された端部75Aを上流端に有し、管部73の外周面に嵌合された端部75Aが溶接されて固定される。端部75Aは、溶接ビード122によって外側から溶接される。アウターパイプ75の下流端は、管部73の後端73Aの近傍に位置している。
マフラー62の本体ケース66の上流端66Aは、アウターパイプ75の外周面75Bに溶接ビード123によって外側から溶接される。マフラー62のテーパー部66B及びアウターパイプ75の内側の空間は、膨張室Xである。
管部73の外周面においてアウターパイプ75の上流側には、断面半円状の補強板76が溶接されている。前部ハンガー部64は、補強板76及びアウターパイプ75に溶接ビード124(図2)によって外側から溶接して固定されている。」(段落【0018】ないし【0024】)

(ウ)「【0029】
図4に示すように、排気管上流部61Aの下流テーパー管部74の後側接続部74Bは、縮径部84Aの内周部に嵌合されて、溶接ビード125によって外側から溶接される。後側接続部74Bの端面85の位置は、ストレート部83の先端の位置に略一致している。
本実施の形態では、後側接続部74Bの板厚T1は、縮径部84Aの板厚T2よりも大きく設定されている。このように、縮径部84Aの内側の後側接続部74Bの板厚T1を縮径部84Aの板厚T2よりも厚くすることで、溶接ビード125の裏ビードが発生することを防止できる。これにより、排気ガスが通る後側接続部74Bの内周面の裏ビードの発生を防止でき、排気効率を向上できる。ここで、一例として、板厚T1は2mmであり、板厚T2は1mmであり、板厚T1を板厚T2の2倍以上とすることが、裏ビードの発生の防止のために好ましい。また、下流テーパー管部74の板厚は一様であり、全体に亘って板厚T1と同じ厚さになっている。」(段落【0029】)

(エ)「【0033】
触媒体80の全長は保持マット81の全長より長く、上流端80A及び上流端81Aは軸方向に揃えて配置されているため、保持マット81の下流端81Bが触媒体80の下流端80Bよりも軸方向にはみ出すことを防止できる。このため、保持マット81が邪魔にならず、圧入の作業性が良い。
図3に示すように、保持筒82の下流端83Aの内周部には、排気の下流側ほど小径になるテーパー管88(下流部排気管)が嵌合されて溶接される。テーパー管88の下流端には、後端が閉塞された管89が接続されており、排気ガスは、管89の外周面に形成された複数の小孔89Aを通って膨張室Xに流入する。
【0034】
図2に示すように、触媒装置63は、径方向よりも軸方向に長く形成されているが、マフラー62の本体ケース66によって周囲を覆われているため、細長い触媒装置63であっても強度を十分に確保できる。また、触媒装置63が細長いため、マフラー62を径方向に小型化でき、配置スペースに余裕が無い鞍乗り型車両であっても、排気マフラー装置60を配置し易い。
また、触媒装置63を本体ケース66に収納するため、マフラー62の周囲に配置される部品を触媒装置63の輻射熱から保護することができる。さらに、単一の触媒体80を本体ケース66の上流側で小径に形成されたテーパー部66Bに配置するため、マフラー62を小型化しつつ、触媒体80を排気ガスの熱で迅速に活性化できる。
【0035】
ここで、排気マフラー装置60の製造工程について説明する。
排気マフラー装置60は、触媒装置63を有する排気管下流部61Bと排気管上流部61Aとを接続した後に、本体ケース66を接続することで組立てられる。
図5は、触媒装置63の製造工程を示す図である。
図5に示すように、まず、コーティング装置100によって円筒状の基材に触媒組成物の溶液がコーティングされ、加熱炉101によって焼成されることで、触媒組成物が基材に定着され、触媒体80が形成される。コーティング及び焼成の工程は、1回または複数回実施される。
次いで、圧入工程では、触媒体80に保持マット81が巻き付けられ、縮径部84Aとは反対側の下流端83Aから、触媒体80及び保持マット81が保持筒82に圧入され、触媒装置63が完成する。その後、触媒装置63の下流端83Aの内周部には、管89(図3)と一体に溶接されたテーパー管88が嵌合されて溶接される。
なお、ここでは、コーティング及び焼成の工程は、圧入工程の前に行われるものとして説明したが、これに限らず、圧入工程の後の工程のみ、或いは、圧入工程の前後の両方の工程でコーティング及び焼成を行っても良い。
【0036】
排気管上流部61Aは、図3に示すように、排気ポート接続部72(図2)、管部73、下流テーパー管部74、アウターパイプ75、補強板76及び前部ハンガー部64を予め一体に溶接して形成された小組体90として用意される。小組体90が形成された段階で、溶接ビード121,122,124及び補強板76の溶接部の裏ビードの有無がチェックされ、必要であれば、裏ビードは除去される。
次に、小組体90の下流テーパー管部74の後側接続部74Bが保持筒82の縮径部84Aに嵌合され、溶接ビード125によって溶接される。ここで、後側接続部74Bの板厚T1は、縮径部84Aの板厚T2よりも大きく設定されているため、溶接ビード125の裏ビードの発生を防止できる。」(段落【0033】ないし【0036】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)及び図1ないし5の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(エ)及び図1ないし5の記載から、引用文献には、エンジン13の排気管61の下流に設けられる自動二輪車の排気マフラー装置60が記載されていることが分かる。なお、排気マフラー装置60が消音装置の機能を有することは、技術常識である。

(キ)上記(1)(イ)(特に段落【0020】及び【0022】を参照。)及び図1ないし5の記載から、引用文献に記載された排気マフラー装置60は、排気管61と、マフラー62とを有し、排気管61は、排気管上流部61Aと排気管下流部61Bとを備え、排気管下流部61Bは、触媒装置63と、テーパ管88及び管89を有していることが分かる。

(ク)上記(1)(エ)(特に段落【0033】及び【0035】を参照。)及び図1ないし5の記載から、引用文献に記載された排気マフラー装置60は、排気の下流側ほど小径になるテーパー管88(下流部排気管)を備え、テーパー管88の下流端には、後端が閉塞された管89(以下、閉塞する部材を「閉塞部材」という。)が接続されており、排気ガスは、管89の外周面に形成された複数の小孔89Aを通って膨張室Xに流入することが分かる。なお、排気の下流側ほど小径になるテーパー管88により、排気ガス流の圧力を高める効果を有することは技術常識である。

(ケ)上記(1)(エ)及び図1ないし5の記載から、引用文献に記載された排気マフラー装置60において、管89は、テーパー管88の下流側端の内径と同じ大きさの内径を有し、内径が変化しないことが分かる。なお、内径が変化しない管89の上流側部分により、排気ガス流の圧力の変動を抑制することは、技術常識である。

(コ)上記(1)(エ)(特に段落【0033】及び【0035】を参照。)及び図1ないし5の記載から、引用文献に記載された排気マフラー装置60において、管89の下流側部分の外周面には、複数の小孔89Aが設けられ、排気ガスは、管89の外周面に形成された複数の小孔89Aを通って膨張室Xに流入することが分かる。なお、膨張室で膨張することにより、排気ガス流の圧力が低下することは技術常識である。

(サ)上記(1)(エ)の段落【0035】の「管89(図3)と一体に溶接されたテーパー管88」という記載から、テーパー管88と管89とは溶接されて一体となっていることが分かる。また、図3及び4を参酌すると、テーパー管88の下流側端の内側に管89が挿入されて管89の外側が溶接されており、図4のテーパー管88の上流側と同様に、内側の管89の内周面は溶接されていないことが分かる。したがって、一体となったテーパー管88及び管89の内周面には、溶接加工部位がないことが分かる。

(シ)上記(1)(エ)の段落【0036】の「・・・溶接ビード121,122,124及び補強板76の溶接部の裏ビードの有無がチェックされ、必要であれば、裏ビードは除去される。」という記載から、溶接後に溶接部の裏ビードの有無がチェックされ、除去する必要があれば裏ビードは除去されることが分かる。さらに、上記(1)(ウ)の段落【0029】の「これにより、排気ガスが通る後側接続部74Bの内周面の裏ビードの発生を防止でき、排気効率を向上できる。」という記載を勘案すると、排気管の内周面の裏ビードの発生を防止する(又は裏ビードを除去する)ことにより、排気効率を向上できることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし5の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「エンジン13の排気管61の下流側に設けられる自動二輪車の排気マフラー装置60であって、円筒体管状材料で構成されたマフラー62を有し、
上記マフラー62は、上記エンジン13の排気管61から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送るテーパー管88と、上記テーパー管88から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送る管89の上流側部分と、上記管89の上流側部分から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端方向に送る管89の下流側部分とを有し、
上記テーパー管88は、上記排気ガス流を上記上流側端から上記下流側端に送る方向に行くに従って上記円筒体管状材料の内径の大きさが小さくなって行くことにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力を高める構成を有し、
上記管89の上流側部分は、上記テーパー管88の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記上流側端に受けた上記排気ガス流を上記下流側端に送る方向に向って上記円筒体管状材料の内径の大きさを同じ値に維持することにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力の変動を抑制する構成を有し、
上記管89の下流側部分は、上記円筒体管状材料の上記上流側端から閉塞部材によって閉塞される上記下流側端までの位置について上記管89の上流側部分の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記円筒体管状材料の円周方向について厚みを貫通する多数の小孔89Aを設けることによって当該小孔89Aを通って放出される上記排気ガス流の圧力を低下させることにより排気音を消音させる構成を有し、
上記マフラー62は、上記テーパー管88、上記管89の上流側部分、及び上記管89の下流側部分が全体として一体の、1本の管体によって構成された、
自動二輪車の排気マフラー装置60。」

2-2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「エンジン13」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「排気管61」は「排気管」に、「自動二輪車」は「自動車」に、「排気マフラー装置60」は「消音装置」に、「マフラー62」は「消音効果筒体」に、「テーパー管88」は「絞り管部」に、「管89の上流側部分」は「ガス整流部」に、「管89の下流側部分」は「ガス放出部」に、「閉塞部材」は「栓止蓋部材」に、「閉塞」は「栓止」に、それぞれ、相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「エンジンの排気管の下流側に設けられる自動車の消音装置であって、円筒体管状材料で構成された消音効果筒体を有し、
上記消音効果筒体は、上記エンジンの排気管から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送る絞り管部と、上記絞り管部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端に送るガス整流部と、上記ガス整流部から送られて来る排気ガス流を上流側端に受けて下流側端方向に送るガス放出部とを有し、
上記絞り管部は、上記排気ガス流を上記上流側端から上記下流側端に送る方向に行くに従って上記円筒体管状材料の内径の大きさが小さくなって行くことにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力を高める構成を有し、
上記ガス整流部は、上記絞り管部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記上流側端に受けた上記排気ガス流を上記下流側端に送る方向に向って上記円筒体管状材料の内径の大きさを同じ値に維持することにより当該内径内を通る上記排気ガス流の圧力の変動を抑制する構成を有し、
上記ガス放出部は、上記円筒体管状材料の上記上流側端から栓止蓋部材によって栓止される上記下流側端までの位置について上記ガス整流部の上記下流側端の内径と同じ大きさの内径を有すると共に、上記円筒体管状材料の円周方向について厚みを貫通する多数の排気ガス放出孔を設けることによって当該排気ガス放出孔を通って放出される上記排気ガス流の圧力を低下させることにより排気音を消音させる構成を有し、
上記消音効果筒体は、上記絞り管部、上記ガス整流部、及び上記ガス放出部が全体として一体の、1本の管体によって構成される、
自動車の消音装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点〉
本願補正発明においては、消音効果筒体の内面が、「絞り管部、ガス整流部及びガス放出部の継ぎ目部分の内表面は段差なく滑らかに加工されると共に、1本の管体の内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たないことにより、当該円筒体管状材料の内部を通る排気ガス流に圧力の変動を生じさせないようにした」ものであるのに対して、引用発明においては、マフラー62の内面が、そのようなものであるか否か明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

2-2-3 判断
上記2-2-1(2)(サ)において示したように、引用発明は、一体となったテーパ管88及び管89の内周面には、溶接加工部位を有しないものである。すなわち、「1本の管体の内表面の全面について当該管体の長手方向に上流側端から下流側端までの間に溶接加工部位を持たない」ものである。
また、上記2-2-1(2)(シ)において示したように、引用発明において、仮に、溶接部の裏ビード(すなわち、管内周面のビード)が発生したとしても、必要があれば、裏ビードが除去される。そして、引用文献の段落【0029】に記載されているように、裏ビードを除去することにより、排気効率を向上できる。
また、「管の継ぎ目部分の内表面を段差なく滑らかに加工する技術」は、本願出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開平7-63053号公報(特に、特許請求の範囲の請求項1、段落【0014】及び図2を参照。)、特開平9-209751号公報(特に、特許請求の範囲の請求項1、段落【0013】及び【0017】並びに図8及び9を参照。)、特開2001-138086号公報(特に、特許請求の範囲の請求項1、段落【0013】ないし【0015】及び図1ないし7を参照。)、特開昭50-92254号公報(特に、第1ページ左下欄第18行ないし右下欄第13行、第2ページ左下欄第16行ないし右下欄第15行及び図面を参照。)実願昭53-174912号(実開昭55-93447号)のマイクロフィルム(特に、明細書第1ページ第14ないし16行、第2ページ第9行ないし3ページ第2行及び図面を参照。)等の記載を参照。)である。
そして、管の継ぎ目部分の内表面を段差なく滑らかに加工することにより、当該円筒体管状材料の内部を通る排気ガス流に圧力の変動を生じないことは、当業者にとって自明の効果にすぎない。
してみれば、引用発明において、周知技術を適用することにより、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、上記1(2)において検討したように、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が新規事項の追加に該当しないとしても、上記2において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、平成28年2月23日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成27年10月7日提出の手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2 引用文献及び引用発明
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2013-160123号公報)及び引用発明は、前記第2[理由]2-2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
前記第2[理由]1(3)で検討したとおり、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2[理由]2-2に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3 1ないし4のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-29 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-17 
出願番号 特願2015-100032(P2015-100032)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
P 1 8・ 575- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 梶本 直樹
金澤 俊郎
発明の名称 自動車の消音装置  
代理人 田辺 恵基  

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