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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A62C
管理番号 1326682
審判番号 不服2016-237  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-06 
確定日 2017-03-30 
事件の表示 特願2014-105467「設備室、ガス消火方法およびガス消火設備」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 8月14日出願公開、特開2014-144383〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年7月15日(優先権主張平成21年10月23日、平成22年2月4日、平成22年4月2日)に出願した特願2010-161096号(以下、「原出願」という。)の一部を平成25年3月14日に新たな特許出願(特願2013-52442号)とし、さらにその一部を平成26年5月21日に新たな特許出願としたものであって、平成27年4月2日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年6月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年6月22日付けで最後の拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年8月31日に意見書が提出されたが、平成27年9月25日付けで拒絶査定がされ、平成28年1月6日に拒絶査定不服審判が請求され、さらに当審において、平成28年10月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知されたのに対し、平成28年12月16日に意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成27年6月8日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願時に願書に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
少なくとも精密機器または電気通信機器を含む機器設備を有する建物内の設備室であって、
天井または壁面に設けられ、消火ガス供給源から供給される消火ガスを噴射する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッドに着脱可能に設けられる消音装置であって、前記噴射ヘッドから噴射された消火ガスを拡散させ、該消火ガスの減圧膨張を抑制する多孔質金属から成る吸音材を備え、消火ガスによる衝撃波の発生を抑えて室内に消火ガスを放出して消火する消音装置と、を備える建物内の設備室。」

3.引用文献
3.1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原出願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である特表2003-530922号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「有人環境での低酸素濃度火災予防システム及び火災抑止システム並びに呼吸可能な消火性組成物」に関し、図面とともに次の記載がある。

(ア)「【0001】
発明の技術分野
本発明は、低酸素濃度環境を利用して燃焼する火災を瞬時に消火し、火災の発生を防止する火災防止システム及び火災抑止システムの方法、装置及び組成物に属する。
【0002】
呼吸可能な火災抑止気体の制御された放出に基づく動作モードを有によって、人にやさしい本システムは、毒性が全くなく全自動化されかつ完全に自己持続性である。従って、住宅、コンビナート、輸送用トンネル、車両手段、保管所、コンピュータ室及び他の包囲された環境に対し理想的に完全な火災予防システムを提供するのに適する。
【0003】
相当量の電子装置を有する場所で発生する大多数の火災(工業及び非工業の両方とも)では、この火災防止抑止システム、FirePASS、商標は、水、泡又は他の損害を生ずる薬剤を全く要しない付加的な利益を有する。従って、従来の火災抑止システムでは破壊される複合的な電気装置(及びその蓄積データ)に害を与えずに火災防止抑止システムを十分に実施できる。
【0004】
銀行、保険会社、通信会社、製造業者、医療提供者及び軍用施設等の技術集約型事業では、損害を生じないことが非常に重要であると共に、電子装置の存在と火災による危険性の増加との間の直接関係を考えるとき、重要性が更に増大する。」(段落【0001】ないし【0004】)

(イ)「【0091】
図10は、火災抑止モードで設置されたビルFirePASSを備える多層建築物101の概略図である。
【0092】
建築物101の屋根に設置される大型なFirePASSブロック(ハイポキシコ社から市販)は、周辺空気から酸素を抽出して低酸素濃度空気(又は消火剤)を供給する低酸素空気発生装置102を備える。低酸素空気発生装置102は、圧縮機103に連結して、貯蔵容器104に高圧で低酸素濃度空気を供給する。そこで一旦、約200バールの一定圧力で貯蔵容器104内に低酸素濃度空気が保持される。
【0093】
図10に示すように、エレベータシャフトの外部又は内部の何れかに沿って建築物の全体にわたり、各階に排出ノズル106を有する垂直火災抑止剤供給管105を設置できる。排出ノズル106は、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えている。
【0094】
火災が検知されると、中央制御盤からの信号により、放出弁107の開放が開始され、貯蔵された低酸素濃度空気(火災抑止剤)を分配管105内に圧送する。FirePASSが迅速な反応時間で対応すれば、火災を検知した階に呼吸可能な火災抑止環境を形成すれば十分のはずである。しかしながら、付加的な予防措置として、低酸素濃度薬剤を隣接階にも放出すべきである。ビル用FirePASSは、十分な量の低酸素火災抑止剤(酸素含有率10%以下で)を所望の階に放出して、約12%-15%の酸素含有率を有する呼吸可能な火災抑止大気を形成する。
【0095】
低酸素濃度大気の正圧は、確実に全部屋に浸透して、あらゆる室の火元を瞬時に鎮火する。また、隣接する階に低酸素濃度環境を形成することにより、建築物の上部に火災が拡大しない。本システムの重要な長所は、現在、適当な場所に配置された(例えばスプリンクラシステム、気体火災抑止システム等により使用される)火災検出装置/消火装置を容易に組み込める点にある。
【0096】
図10の下部に示すように、独立した階に個々のフロアFirePASSに接続した個々の火災検出システムを設けてもよい。高圧の低酸素濃度気体容器108は、各室に排出ノズルを有する分配管109を通じて階の全体にわたって低酸素薬剤を放出できる。約12%?15%の酸素含有率を有する安全な呼吸可能大気を各室に確立すれば、非常に低濃度の酸素の貯蔵気体を使用して、容器の貯蔵圧力及びサイズを減少できる。低酸素火災抑止薬剤を有する独立する消火装置を建築物の選択された室で使用できる。図12についてこの装置を後述する。」(段落【0091】ないし【0096】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)及び(イ)並びに図10の記載から、以下の事項が分かる。

(カ)図10において、建築物101の内部に複数の部屋が設けられていることが看取される。

(キ)上記(1)(ア)、(イ)及び上記(カ)並びに図10の記載から、引用文献1に記載された建築物101内部の各室の天井壁面には、低酸素空気発生装置102から供給される低酸素濃度空気(又は消火剤)を放出する排出ノズル106が設置されていることが分かる。

(ク)上記(1)(イ)及び図10の記載から、引用文献1に記載された建築物101内部の各室に設置された排出ノズル106は、高圧火災抑止剤である低酸素濃度空気の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図10の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「建築物101内部の室であって、
天井壁面に設けられ、低酸素空気発生装置102から供給される低酸素濃度空気を放出する排出ノズル106を備え、
前記排出ノズル106は、高圧火災抑止剤である低酸素濃度空気の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備える建築物101内部の室。」

3.2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原出願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である欧州特許出願公開第1151800号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、「Silenced nozzle for discharge of extinguishing gas」(消火ガス噴出用消音ノズル)に関し、図面とともに次の記載がある(3.2(1)において、括弧内に当審で作成した当審仮訳を示す。)。

(サ)「[0001] The present invention refers to … a gaseous-type extinguishing fluid.」(段落[0001])
([0001]この発明は消火ガス噴出用消音ノズルに関し、特にガス系消火システムへの応用に適する。)

(シ)「[0003] The dispensing nozzles … the unbearable noise produced by said nozzles.」(段落[0003]ないし[0005])」
([0003]従来技術では、消火システムの噴出ノズルは、深刻な欠点を有する。これら公知の噴出ノズルは、高圧消火ガスを噴出する際、極めて大きな騒音を発する。)
[0004]従来技術では、ノズルが消火ガスを噴出する間、騒音レベルは最大で130ないし140dB辺りにまで達し、平均騒音レベルは100dBを超えるまでに達する。
[0005]労働環境で測定される騒音の許容最大値は90dBである。 可燃性の製品を扱う工場のような、火災リスクのある労働環境では、消火システムのノズルからのガス噴出が、誤って起きるかもしれない;その結果、全ての作業員が、ノズルから発生する耐えられない騒音のため、仕事場を放棄せざるを得なくされる。)

(ス)「[0017]The nozzle … considerably decrease the noisiness of the nozzle.」(段落[0017])
([0017]この発明における消火ガスを噴出するノズルは、少なくとも1つの焼結フィルターを囲むベースとカバーからなる金属製のボディを有する。上記焼結フィルターは、消火ガスの噴出により発生する空気の振動をかなり弱めることができる高いフィルター機能を有し、それによりノズルの騒音を相当に減らす。)

(セ)「[0023] The nozzle 1 … the base body 2 and the cover 3.」(段落[0023])
([0023]ノズル1は、本質的には3つの要素:ベースボディ2、カバー3及びベースボディ2とカバー3の間に含まれる焼結フィルタの組立体4からなる。)

(ソ)「[0034] The filter assembly 4 … protrudes downward from the base body 2.」(段落[0034]ないし[0036])
([0034]フィルタ組立体4は、亜鉛コートした金属ワイヤが金型で好適に圧縮され、カバー3の孔8と等しい直径か、あるいは幾分小さくされた円板形状のフィルタボディとした2つの焼結フィルタ31及び32を備える。フィルタ31及び32は、拡散熱処理されて高い機械的耐性を有し、高圧かつ高温(およそ500℃)で用いた場合でも長寿命を保証する。フィルタ31及び32はさらに、とても高いフィルタリングフィールド(10-50ミクロン)を有し、この場合、消火ガス噴出に起因する空気変動に伴う騒音の相当な減衰を保証する。
[0035]金属製のバッフルは、消火ガスの流れをそらせるように、2つのフィルタ31及び32の間に設けられる。
[0036]バッフル33を間に挟んだ焼結フィルタ31及び32を含むフィルタ組立体4は、カバーの孔8内に配置され、フィルタ31の底の端部はベースボディの台座20に配置される。そして、ボルト11が孔10と22に差し込まれ、ベースボディ2から下向きに突き出た各ボルト11の軸端に捩って取付けられるナット25で締結される。)

(2)引用文献2記載の事項
上記(1)(サ)ないし(ソ)及び図4の記載から、以下の事項が分かる。

(タ)上記(1)(サ)ないし(ソ)及び図4の記載から、引用文献2には、ガス系消火システムに使用される消火ガス噴出用消音ノズルに係る技術が記載されていることが分かる。

(チ)上記(1)(ス)ないし(ソ)及び図4の記載から、引用文献2に記載された消火ガス噴出用消音ノズルは、焼結金属からなるフィルターを備え、該フィルターは、消火ガスの噴出により生じる空気の振動を弱め、騒音を相当程度低減するものであることが分かる。

(3)引用文献2記載技術
上記(1)及び(2)並びに図4の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認める。

「ガス系消火システムに使用される消火ガス噴出用消音ノズルにおいて、該消音ノズルは焼結金属からなるフィルターを備え、該フィルターは、消火ガスの噴出により生じる空気の振動を弱め、騒音を相当程度低減する技術。」

3.3 引用文献3
原出願の優先日前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である実願昭62-35839号(実開昭63-143715号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、「放風用消音器」に関し、図面とともに次の記載がある。

(1)引用文献3の記載
(ナ)「1. 排気管出口の断面積急拡大部に、流れがその中を通って漸次拡大するように多孔質金属を配したことを特徴とする放風用消音器。」(実用新案登録請求の範囲の請求項1)

(ニ)「「実施例」
本考案の一実施例を第1図に、第1図のA部の各種断面図を第2図(a),(b),(c),(d)に示す。
1は消音器、2は排気管、3は消音エレメント、4は弁、5は多孔質金属で、排気管2出口の断面積急拡大部に、流れがその中を通って漸次拡大するように配されている。
多孔質金属としては連通気孔を持った発泡金属やメッシュデミスタのような気孔率の大きなものが良い。また、金属に限らず耐久性の強いものであれば多孔質セラミックも使える。
6は多孔質金属5を抑える抑えの多孔板で、多孔質金属5と抑えの多孔板6で多孔質金属ディフューザを構成する。
第2図(a)は多孔質金属5を排気管2出口に直接設置した場合、第2図(b)は排気管2出口に排気管出口多孔板7を設置しその外側に配した場合、第2図(c)は多孔質金属5,排気管出口多孔板7を球形にした場合、第2図は(d)は排気管2出口を多孔管にしたものである。
押さえの多孔板6に通過する流速はできる限り小さくする方が発生音は小さくなり、その開口面積は少なくとも全量放風時のチョーク断面積以上とする必要がある。
ガスの流れは第3図に示すように速度の遅い整流された流れ8になる。
多孔質金属5は一般に抑えの多孔板6で保持されるが、抑えの多孔板6に代ってフラットバーやアングル材等で抑えてもよい。
「考案の効果」
本考案は上記構造であるので、
(1) 排気管出口ディフューザで衝撃波や強い乱れの発生を防ぐことができ、ディフューザでの発生音を小さくできる。
(2) 適度に背圧をたてることができ、排気管径を小さくできるとともに、弁での発生音も小さくすることができる。
(3) 発生音自体が小さくなるので、消音エレメントも小さなもので済ますことができる。
等の効果がある。」(明細書第4ページ第6行ないし第6ページ第5行)

(2)引用文献3記載技術
上記(1)及び第1ないし4図の記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載技術」という。)が記載されていると認める。
「放風用消音器において、排気管2出口の断面積拡大部に、流れがその中を通って漸次拡大するように多孔質金属5を配することにより、衝撃波の発生を防ぎ、発生音を小さくし、適度に背圧をたてることができる技術。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「建築物101」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「建物」に相当し、以下同様に「天井壁面」は「天井または壁面」に、「低酸素空気発生装置102」は[消火ガス供給源]に、「低酸素濃度空気」は「消火ガス」に、「放出する」は「噴射する」に、「排出ノズル106」は「噴射ヘッド」に、「消音器」は「消音装置」にそれぞれ相当する。
また、「建物内の室」という限りにおいて、引用発明における「建築物101内部の室」は、本願発明における「少なくとも精密機器または電気通信機器を含む機器設備を有する建物内の設備室」に相当する。
そして、「噴射ヘッドに設けられる消音装置」という限りにおいて、引用発明における「排出ノズル」が備える「高圧火災抑止剤である低酸素濃度空気の放出により生じる騒音を減少させる消音器」は、本願発明における「噴射ヘッドに着脱可能に設けられる消音装置であって、前記噴射ヘッドから噴射された消火ガスを拡散させ、該消火ガスの減圧膨張を抑制する多孔質金属から成る吸音材を備え、消火ガスによる衝撃波の発生を抑えて室内に消火ガスを放出して消火する消音装置」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、
「 建物内の室であって、
天井または壁面に設けられ、消火ガス供給源から供給される消火ガスを噴射する噴射ヘッドと、
前記噴射ヘッドに設けられる消音装置を備える建物内の室。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(a)「建物内の室」に関し、本願発明においては「少なくとも精密機器または電気通信機器を含む機器設備を有する建物内の設備室」であるのに対し、引用発明においては「建築物101内部の室」である点(以下、「相違点1」という。)。
(b)「噴射ヘッドに設けられる消音装置」に関し、本願発明においては「噴射ヘッドに着脱可能に設けられる消音装置であって、前記噴射ヘッドから噴射された消火ガスを拡散させ、該消火ガスの減圧膨張を抑制する多孔質金属から成る吸音材を備え、消火ガスによる衝撃波の発生を抑えて室内に消火ガスを放出して消火する消音装置」であるのに対し、引用発明においては「排出ノズル」が備える「高圧火災抑止剤である低酸素濃度空気の放出により生じる騒音を減少させる消音器」である点(以下、「相違点2」という。)。

5.判断
まず、上記相違点1について検討すれば、消火ガスを放出して消火する装置を、精密機器または電気通信機器を含む機器設備を有する設備室に設置することは、本願出願前に広く知られたことである(以下、「周知技術」という。)。また、上記3.1(1)(ア)にも示されるように、消火ガスを放出して消火する装置は、水や泡等を用いないという点で、電子装置を有する室に設置するのに適した装置であるということもできる。
そして、消火ガスを放出して消火する装置に係る引用発明を、精密機器または電気通信機器を含む機器設備を有する設備室に設置することにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。

次に、上記相違点2について検討すれば、引用発明における消音器を備えた排出ノズル106を、噴射ヘッドと該噴射ヘッドに着脱可能に設けられる消音器から構成することは、設計上、適宜に定める程度の事項にすぎず(以下、「設計事項」という。)、それによって引用発明と比較して格別に有利な作用効果を奏するものとはいえない。
また、引用文献2記載技術において、燒結金属からなるフィルターが、流れを拡散させ、減圧膨張を抑制するとの作用効果を奏することは明らかである。
さらに、引用文献3記載技術は、消音器において、排気管2出口の断面積拡大部に、流れがその中を通って漸次拡大するように多孔質金属5を配することにより、衝撃波の発生を防ぎ、発生音を小さくすることを示唆している。
そして、引用発明と引用文献2記載技術とは、消火ガス噴出の際の騒音の低減という共通の課題を有するといえるから、引用発明において、上記設計事項と共に引用文献3記載技術を斟酌することにより消火ガスによる衝撃波の発生を考慮しつつ、消音器に引用文献2記載技術の焼結金属からなるフィルターを採用することによって、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである(以下、この理由を「理由1」という。)。

また、上記相違点2についてさらに検討すれば、引用文献3記載技術に係る消音器は「排気管2出口の断面積拡大部に、流れがその中を通って漸次拡大するように多孔質金属5を配することにより、衝撃波の発生を防ぎ、発生音を小さくする消音器」であるところ、引用発明において、上記設計事項と共に消火装置の消音ノズルに燒結金属を用いるという引用文献2記載技術を考慮しつつ、多孔質金属5を配した引用文献3記載技術に係る消音器を適用することで、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである(以下、この理由を「理由2」という。)。

さらに、引用発明と引用文献3記載技術とは、いずれも、気体噴出により発生する騒音の消音技術という点で互いに関連する技術分野に属するといえるから、引用発明において、上記設計事項を斟酌しつつ、引用文献3記載技術に係る消音器を適用することで、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである(以下、この理由を「理由3」という。)。

なお、当審拒絶理由として上記理由1ないし3を通知したところ、平成28年12月16日提出の意見書において、審判請求人は理由2及び3に対して反論しているものの、理由1については反論をしていない。
そして、審判請求人の理由2及び3に対する反論として、引用文献3の記載「排気管径を小さくし、排気管出口で流れをチョークさせ、背圧を適度に増して、弁での発生音を小さくできる条件で、ディフューザでの発生音を小さくできる構造を提供する」を根拠に、チョーク流れになると、排気される流体の質量流量が一定となり、圧力を変化させても質量流量は大きくならず、このような排気条件では、予め定める時間内に、予め定める量の消火ガスを放出することはできず、消火対象区画内を消火することができない旨を主張している。
確かに引用文献3には、弁4での発生音を小さくするために排気管出口で流れをチョークさせる旨も記載されているが、同文献の実用新案登録請求の範囲に「弁」が記載されておらず、「多孔質金属」が記載されていることからみても、多孔質金属5の奏する作用効果に着目したものであって、弁4での発生音を小さくすることを前提とした発明とは認められない。したがって、弁4での発生音を小さくすることを条件として引用文献3記載技術を解釈する審判請求人の上記主張は失当である。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2及び3記載技術並びに周知技術及び設計事項から予測できる作用効果以上の格別な作用効果を奏するものではない。

6.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2及び3記載技術並びに周知技術及び設計事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
上記のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-25 
結審通知日 2017-01-31 
審決日 2017-02-14 
出願番号 特願2014-105467(P2014-105467)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A62C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳元 八大  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 三島木 英宏
中村 達之
発明の名称 設備室、ガス消火方法およびガス消火設備  
代理人 西教 圭一郎  

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