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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E06B
管理番号 1326827
審判番号 不服2016-957  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-21 
確定日 2017-04-07 
事件の表示 特願2013-182458「防水装置の止水板」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 48676〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
平成25年 9月 3日 出願
平成26年 8月19日 拒絶理由通知(同年8月26日発送)
平成26年10月 6日 意見書・手続補正書
平成27年 3月 9日 拒絶理由通知(同年3月17日発送)
平成27年 5月18日 意見書
平成27年10月 6日 拒絶査定(同年10月20日送達)
平成28年 1月21日 審判請求書・手続補正書

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年1月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に1又は複数の補強片を渡したアルミ押出型材からなる中空板体の複数個をその長さ方向を横向きに揃え、且つ互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せて該上下の面板部同士を貫通する止めネジの締付けによって一体に接合し連結組合せ、これにより前記中空板体の長さを横幅とし、また前記連結した複数個の中空板体の全幅員を縦幅とする矩形の板本体を形成せしめる一方、前記板本体の前面側の適所に把手を、また該前面側の左右両側部に固定用締付け具を取付け一体に備えてなることを特徴とした防水装置の止水板。」

3 刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-278458号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の記載がある(審決にて下線を付した。以下同様。)。

ア 「【0018】図中の1は地下道や建物などの入口に設置して内部への浸水を防止する防水装置であって、入口の両側壁面に対向させて立設した一対の溝付支柱2と、入口の床面に所定間隔にて立設した中間支柱3と、入口の床面上に床面に対してフラットに埋設した底板4と、前記溝付支柱2及び中間支柱3へ左右両端部を取り付けた複数の防水板5とから主体を成している。」

イ 「【0022】防水板5は、1枚の長さが約2m、高さが約30cm程度のアルミ製などの押し出し成形板材であって、その前後面に固着した把持体15を一人の作業者が掴んで容易に持ち上げられる程度の軽量なつくりとしている。また、この防水板5の左右両端部近傍には防水板5を溝付支柱2及び中間支柱3に固定するための固定ハンドル16を備えていると共に、上下端部には水密ゴム17を、左右両端部には水密ゴム18とフリーベアリング19とをそれぞれ備えている。」

ウ 「【0024】防水板5の上下端部に固着した水密ゴム17は、図9に示すように、上面17aが湾曲した断面略X字形状を成しており、防水板5の自重で押圧されると、図10に示すように、湾曲していた上面17aが略平坦に変形して密着するように柔軟なものを採用している。一方、図11は従来からよく採用されている形状の水密ゴム107であって、断面が略逆U字形状を成しており、その構造上正面からの水流には十分な水密効果を発揮できるものの、上下方向からの乱流には水密効果がやや弱い傾向があった。一般に、増水時には水流は一定ではなく、また勢いもあることが多いため、従来の水密ゴム107では十分な防水を期待することができなかった。その点、本実施例の水密ゴム17ではその構造上正面からの水流は勿論、上下方向からの乱流に対しても水密効果を大きくそがれることがなく、優れた防水を期待することができる。」


エ 図1として、




オ 図4として、




カ 図9として、




キ 図10として、





ク 上記ア及びイの摘記事項、及び、上記エ、オから、「防水板5」は、「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に複数の補強片を渡した」「アルミ製などの押し出し成形板材」であって、「その複数個をその長さ方向を横向きに揃えて用いられる」ことが看て取れる。

ケ 上記ウの「防水板5の自重で押圧されると、湾曲していた上面17aが略平坦に変形して密着する」との事項を踏まえて、上記カ及びキの図面を見ると、上下の「アルミ製などの押し出し成形板材」が「互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せて該上下の面板部同士を密着して用いられている」ことが看て取れる。

コ 上記アないしケの事項を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認められる。

「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に複数の補強片を渡した、1枚の長さが約2m、高さが約30cm程度のアルミ製などの押し出し成形板材であって、その前面に把持体15を固着し、左右両端部近傍には防水板5を溝付支柱2及び中間支柱3に固定するための固定ハンドル16を備え、その複数個をその長さ方向を横向きに揃えて、互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せて該上下の面板部同士を密着して用いられ、一人の作業者が掴んで容易に持ち上げられる程度の軽量なつくりとした防水装置の防水板。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、実願昭60-160984号(実開昭62-72328号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに次の記載がある。

ア 「第1図乃至第3図に示すように、本例の防潮板2は、同一形状の4枚のパネル材3(3-1,3-2,3-3,3-4)と、これらパネル材3の長手方向の両端に取付けた縦材4から基本的に構成されている。この防潮板2は、開口部に取付けた縦材1に対して締付ハンドル5によって固着される。第4図に示すように、パネル材3は溝形断面形状の側壁部分にあたる内壁3aの中央部を断面開口側へ向けて台形状に突出させた形状を有し、アルミニウム合金から押出し成形されたものである。このパネル材3において、外壁3bの側が水圧作用側であり、水圧の作用方向に平行な上壁3f及び下壁3gには、内壁3aに隣接させてそれぞれ断面が矩形形状の突起3d及び、この突起3dが下方側から嵌入可能な溝部3eが形成され、この溝部内にはパッキン7が装着されている。また、これら上,下壁3f,3gの同一位置には、ボルト9のための穴11が形成されている。」(4頁4行?5頁1行、審決注:「縦材1」は「枠材1」の誤記と認める。)

イ 「ここで、この様に各部分が構成される防潮板2の組立ては次の様に行われる。まず、各パネル材3の突起3dを他方のパネル材の溝部3e内に嵌入し、その後ボルト穴11にボルト9を通して、隣接するパネル材3を連結する。このように連結したパネル材3の両側部に縦材4を嵌合させ、タッピン螺子12を用いて縦材4をパネル材3に連結する。この様にして一体化されたパネル材3及び縦材4を、開口部の枠1に合わせて、ハンドル5によってその枠1に固着する。」(5頁17行?6頁6行)

ウ 上記ア及びイの記載事項を参照して、第1,2,4図をみると、符号10に対する部分名称はないが、「ナットであること」が明らかである。また、「4枚のパネル材(3-1,3-2,3-3,3-4)の上壁3fと下壁3gとを接面状に衝き合せて、上,下壁3f、3g同士を貫通するボルト9をナット10で締め付けることによって連結していること」、及び、「1枚のパネル材の長さを横幅とし、一体化されたパネル材3の全幅員を縦幅とする矩形のパネル材3を防潮板2としていること」が看取できる。

4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。
(1)刊行物1発明の「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に複数の補強片を渡した、1枚の長さが約2m、高さが約30cm程度のアルミ製などの押し出し成形板材」は、本願発明の「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に1又は複数の補強片を渡したアルミ押出型材からなる中空板体」に相当する。

(2)刊行物1発明の「(アルミ製などの押し出し成形板材であって、)その前後面に把持体15を固着し」た構成は、本願発明の「(前記板本体の)前面側の適所に把手を・・・取付け一体に備えてなる」構成に相当する。
また、刊行物1発明の「左右両端部近傍には防水板5を溝付支柱2及び中間支柱3に固定するための固定ハンドル16を備え」た構成は、本願発明の「(該前面側の)左右両側部に固定用締付け具を取付け一体に備えてなる」構成に相当する。

(3)刊行物1発明の「(アルミ製などの押し出し成形板材であって・・・)その複数個をその長さ方向を横向きに揃えて、互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せて該上下の面板部同士を密着して用いられ」と、本願発明の「(縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に1又は複数の補強片を渡したアルミ押出型材からなる)中空板体の複数個をその長さ方向を横向きに揃え、且つ互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せて該上下の面板部同士を貫通する止めネジの締付けによって一体に接合し連結組合せ、これにより前記中空板体の長さを横幅とし、また前記連結した複数個の中空板体の全幅員を縦幅とする矩形の板本体を形成せしめる」構成とは、「中空板体の複数個をその長さ方向を横向きに揃え且つ互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せ」た構成で共通する。

(4)したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「縦長長方形の断面形状をなす中空の板状体の前面板部と後面板部の間に複数の補強片を渡したアルミ押出型材からなる中空板体の複数個をその長さ方向を横向きに揃え且つ互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せ、その前面側の適所に把手を、また該前面側の左右両側部に固定用締付け具を取付け一体に備えてなる防水装置の止水板。」で一致し、
下記の点で相違する。

(相違点)
「中空板体の複数個をその長さ方向を横向きに揃え且つ互いに対面する上面板部と下面板部とを接面状に衝き合せ」た構成に関して、
本願発明は、「該上下の面板部同士を貫通する止めネジの締付けによって一体に接合し連結組合せ、これにより前記中空板体の長さを横幅とし、また前記連結した複数個の中空板体の全幅員を縦幅とする矩形の板本体を形成せしめる」に対し、
刊行物1発明は、(接面状に衝き合せて)密着させるだけで、「該上下の面板部同士を貫通する止めネジの締付けによって一体に接合し連結組合せ」「連結した複数個の中空板体で矩形の板本体を形成せしめる」との構成を有していない点。

5 判断
(1)相違点について
ア 刊行物2をみると、中空板体ではないが、アルミニウム合金から押出し成形された(本願発明の「アルミ押出型材からなる」に相当。)4枚のパネル材(3-1,3-2,3-3,3-4)(本願発明の「複数個の板体」に相当。)の上壁3fと下壁3gと(本願発明の「上面板部と下面板部」に相当。)を接面状に衝き合せて、上,下壁3f、3g同士(本願発明の「上下の面板部同士」に相当。)を貫通するボルト9をナット10で締め付けることによって連結し、連結したパネル材3の両側部に縦材4を嵌合させて一体化し(本願発明の「一体に接合し連結組合せ」に相当。)、1枚のパネル材の長さを横幅とし、一体化されたパネル材3の全幅員を縦幅とする矩形のパネル材3(本願発明の「板本体」に相当。)を防潮板2(本願発明の「止水板」に相当。)とすることが記載されており、該技術事項を、刊行物1発明における1枚の中空の板状体からなる防水板に採用することは、当業者が容易になし得たことである。
なお、ボルト・ナットでの締付けをネジの締付けとすることは慣用技術の変換にすぎない。

イ また、止水板を中空板によって構成すること、及び、止水板の上下板同士を衝き合わせて接合することは、周知の技術(前者については、特許第3458077号公報の図3及び段落【0007】、後者については、特開2005-330739号公報の図7(イ)(ロ)及び段落【0019】等参照。)にすぎない。
そもそも、一般的な技術として、上下に位置する部材を単に密着させるか、それとも接合し連結するかは、部材に求められる強度や水密性等の物理的要件、作業性、可搬性などを勘案して、当業者が適宜選択できる設計的事項というべきである。

ウ したがって、相違点に係る構成の変更は、当業者が適宜なし得たことである。

(2)本願発明が奏する効果について
本願明細書には、発明の目的として「アルミ製の止水板にあって更なる軽量化を図ること」(段落【0013】)、発明の効果として「本発明によれば、アルミ製の複数個の中空板体同士の直接的な接合によって組立てて板本体を形成することから全体重量の軽減化が図られ、軽量体とすることができる。従って、この軽量化に伴って作業性,操作性に優れた止水板を提供することができることになる。」(段落【0036】)、実施例に関して「中空板体2全体の実質的な厚み(前後の厚み)を61mmとすると共に、左右の長さ(出入口の幅方向の長さ)を1415mmとしたものを2枚重ねに連結して縦の長さ(縦幅)を350mmとする板本体1Aを得た。これにより得られた止水板1の全体重量は、約6.93kgであった。従って、ここに得られた止水板は、作業員一人で容易に持ち運ぶことができる重量のものであり、またこれにより装着溝21,24に対する抜き差し操作においても一人の作業員によって楽に行えるものとなっていた。」(段落【0060】)と記載されているとおり、本願発明に係る止水板は、「軽量化に伴って作業性,操作性に優れた止水板」を提供するものであって、「作業員一人で容易に持ち運ぶことができる重量のもの」である。
一方、刊行物1発明における防水板は、1枚の中空の板状体ではあるが、1枚の長さが約2m、高さが約30cm程度のアルミ製であって、全体重量は記載されていないが、一人の作業者が掴んで容易に持ち上げられる程度の軽量なつくりとしており(上記、2(1)記載事項イ参照。)、刊行物1発明における防水板の長さ及び高さと、本願発明における2枚の中空板体の連結によって形成された板本体1Aの左右の長さ及び縦の長さ(縦幅)には大差がないから、全体重量にも大差がないと考えられる。
したがって、本願発明が奏する効果は、刊行物1発明のものと格別異なるものではない。

(3)まとめ
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明、刊行物2に記載の技術事項及び周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
したがって、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は特許を受けることができないものであるから、請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-24 
結審通知日 2017-01-31 
審決日 2017-02-14 
出願番号 特願2013-182458(P2013-182458)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E06B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 美紗子  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 藤田 都志行
赤木 啓二
発明の名称 防水装置の止水板  
代理人 中山 伸治  

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