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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1326871
審判番号 不服2015-16218  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-02 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 特願2011-106322「半導体装置の製造方法,半導体素子付き半導体ウェハの製造方法及び接着剤層付き半導体ウェハの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開,特開2012-238699〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成23年5月11日の出願であって,平成26年10月1日付けの拒絶理由の通知に対して,同年12月8日に意見書と手続補正書が提出され,平成27年1月6日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年3月11日に意見書が提出され,同年6月4日付けで拒絶査定され,同年9月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成26年12月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
金属バンプが形成された回路面を有する半導体ウェハの前記回路面上に,液状感光性接着剤を塗布して感光性接着剤層を形成する工程と,
前記感光性接着剤層を光照射によりBステージ化して接着剤層付き半導体ウェハを得る工程と,
前記接着剤層付き半導体ウェハの半導体ウェハを接着剤層とともに切断して複数の半導体素子に切り分けて接着剤層付き半導体素子を得る工程と,
前記接着剤層付き半導体素子と,他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材とを,前記接着剤層付き半導体素子の接着剤層を挟んで圧着する工程と,を備え,
前記液状感光性接着剤が,(A)放射線重合性化合物,(B)光開始剤,及び(C)熱硬化性樹脂,を含み,
前記(A)成分が,分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有するイミド基含有(メタ)アクリレートを含む,半導体装置の製造方法。」

2 引用例の記載と引用発明
(1)原査定の最後の拒絶理由で引用した,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2007-258508号公報(以下「引用例1」という。)には,「半導体用接着剤,これを用いた半導体装置および半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して,以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

(1a)「【請求項1】
ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物と,熱硬化性樹脂と,前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤とを含み,前記ラジカル重合性モノマーと前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤の全量に対する前記ラジカル重合性モノマーの割合が,50重量%以上85重量%以下である半導体用接着剤。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が,エポキシ樹脂である請求項1記載の半導体用接着剤。
【請求項3】
前記ラジカル重合性モノマーが,アクリル化合物である請求項1または2に記載の半導体用接着剤。
【請求項4】
前記ラジカル重合性モノマーが,一官能ラジカル重合性モノマーと,多官能ラジカル重合性モノマーとを含む請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体用接着剤。
【請求項5】
前記一官能ラジカル重合性モノマーが,前記ラジカル重合性モノマーに対して,80重量%以上99重量%以下含まれている請求項4に記載の半導体用接着剤。
<途中省略>
【請求項14】
ウエハーを準備する工程と,
前記ウエハーに請求項1乃至11のいずれかに記載の半導体用接着剤を印刷により塗布する工程と,
前記半導体用接着剤を塗布したウエハーに光照射して前記半導体用接着剤をB-ステージ化する工程と,
前記光照射後のウエハーをダイシングにより半導体チップに個片化する工程と,
前記半導体チップを基板に搭載して加熱圧着により接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法。」

(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記文献記載の従来技術は,以下の点で改善の余地を有していた。
印刷後の接着剤を加熱することによりタックをなくす手法では,溶剤を揮発させたり,樹脂成分の一部をB-ステージ化する際の加熱工程にどうしても時間がかかってしまい,半導体装置製造工程がより長くかかってしまうという課題があった。
本発明者らは上記事情に鑑み,鋭意検討の結果,接着剤にラジカル重合性モノマーと熱硬化性樹脂を配合,光照射によりB-ステージ化することのできる接着剤を用いることにより,タックフリーになるまでの時間を大幅に短縮できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば,
ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物と,熱硬化性樹脂と,その熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤とを含み,前記ラジカル重合性モノマーと前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤の全量に対する前記ラジカル重合性モノマーの割合が,50重量%以上85重量%以下である半導体用接着剤が提供される。
本発明の半導体用接着剤は,ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物とをある一定の割合で含むので,短時間の光照射後に半導体用接着剤の表面タック力が小さくなる。また,熱硬化性樹脂も含むので,光照射後に,加熱することにより溶融粘度が一定値以下になり,B-ステージ化後に容易に接着機能を発揮することができる。」

(1c)「【0010】
本発明によれば,
ウエハーを準備する工程と,
前記ウエハーに上述したいずれかの半導体用接着剤を印刷により塗布する工程と,
前記半導体用接着剤を塗布したウエハーに光照射して前記半導体用接着剤をB-ステージ化する工程と,
前記光照射後のウエハーをダイシングにより半導体チップに個片化する工程と,
前記半導体チップを基板に搭載して加熱圧着により接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法が提供される。
本発明では,ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物と,熱硬化性樹脂とを一定の割合で含む半導体用接着剤を用いて半導体装置を組み立てるため,組み立て工程における部品取扱い性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,光照射により短時間でBステージ化できる半導体用接着剤が提供される。」

(1d)「【0014】
本発明で用いられるラジカル重合性モノマーとは,一分子内に一つ以上のラジカル反応性二重結合を有するモノマーである。ラジカル重合性モノマーとしては,例えば,アクリル系モノマーやスチレン系モノマー,及びこれらのオリゴマーが挙げられる。ラジカル重合性モノマーには,ラジカル重合性官能基を分子内に一つ有する一官能ラジカル重合性モノマーと,ラジカル重合性官能基を分子内に複数有する多官能ラジカル重合性モノマーとがある。本発明においては,ラジカル重合性モノマーは単独で用いることも,2種類以上を混合して用いることもできる。ラジカル重合性モノマーとしては25℃で液状であることが好ましく,より短時間でB-ステージ化するために,反応性に優れたアクリロイル基を有する化合物が好ましい。
本発明で用いられるラジカル重合性モノマーの具体例としては,シクロへキシルアクリレート,ポリエチレングリコールアクリレート,ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールアクリレート,ポリプロピレングリコールアクリレート,ジエチレングリコールアクリレート,トリエチレングリコールアクリレート,フェノキシエチレングリコールアクリレート,4-ヒドロキシブチルアクリレート,4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル,メトキシトリエチレングリコールアクリレート,メトキシポリエチレングリコールアクリレート,2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸,ベヘニルアクリレート,イソボロニルアクリレート,2-アクリロイロキシエチルコハク酸,オクトキシポリエチレングリコールアクリレート,2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート,イソステアリルアクリレート,メトキシポリエチレングリコールアクリレート,ラウリルアクリレート,1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどの1官能アクリレート, <途中省略> シクロへキシルメタクリレート,ポリエチレングリコールメタクリレート,ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールメタクリレート,ポリプロピレングリコールメタクリレート,ジエチレングリコールメタクリレート,トリエチレングリコールメタクリレート,メトキシジエチレングリコールメタクリレート,メトキシトリエチレングリコールメタクリレート,4-ヒドロキシブチルメタクリレート,4-ヒドロキシブチルメタクリレートグリシジルエーテル,メトキシポリエチレングリコールメタクリレート,フェノキシエチレングリコールメタクリレート,2-メタクリロイロキシエチルコハク酸,2-メタクリロイロキシエチルフタル酸,2-メタイソステアリルメタクリレート,アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸,2-メタクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸,3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート,イソステアリルメタクリレート,イソボロニルメタクリレート,オクトキシポリエチレングリコールメタクリレート,ステアリルメタクリレート,1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどの1官能メタクリレート, <途中省略> などが挙げられる。」

(1e)「【0021】
本発明における半導体用接着剤は,ペースト状が好ましい。本発明の半導体用接着剤は,溶剤を含んでいてもいなくてもよいが,最終的に塗布可能なものである必要がある。溶剤を含んでいない場合には,たとえば,熱硬化性樹脂に液状樹脂を用いるなどして接着剤の粘度を下げることが必要である。」

(1f)「【0027】
「最低溶融粘度が0.1Pa・s以上1300Pa・s以下」とは,接着剤を被着体に貼り付ける際に適切に間隙を充填し,半導体装置の信頼性を向上させるために必要な溶融粘度のことである。最低溶融粘度は,好ましくは1Pa・s以上1000Pa・s以下,さらに好ましくは10Pa・s以上500Pa・s以下である。最低溶融粘度が上限値以下であると,熱圧着時に流動性が向上し,半導体チップ表面または基板に設けられた回路との間の空隙を充填することが可能となる。最低溶融粘度が下限値以上であると必要以上に半導体用接着剤がフローしてしまうことを抑制できるため,半導体素子を汚染する危険が低くなる。また,当該溶融粘度を実現する温度を従来の接着温度よりも比較的低い70℃以上180℃以下に設定することで,半導体素子の熱損傷を防ぐことができる。」

(1g)「【0030】
以上のパラメータは,例えば,本発明に含まれる,ラジカル重合性モノマー,熱硬化性樹脂の種類や混合比等を調整することによって得ることができる。一般的には,半導体用接着剤のラジカル重合性モノマーの割合を高くすればタック値が低下しやすくなり,熱硬化性樹脂の割合を高くすれば最低溶融粘度が一定範囲に入りやすくなる。本発明では,両成分を適宜調整することにより上記パラメータを実現することが可能である。
【0031】
本発明において,光照射前の状態において,E型粘度計を用いて,回転数2.5rpm,温度25℃で測定したときの粘度が,1Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。
本発明の半導体用接着剤は,例えば,カップや,シリンジ等の容器で供給されることがある。本発明の半導体用接着剤を,例えば,シリンジで供給する場合には,粘度が1Pa・s以上になると,シリンジの圧力をかけない状態で接着剤が漏れるといった問題が少なくなる。また,粘度が200Pa・s以下になると,シリンジから接着剤を出す際に,適度な圧力で接着剤を出すことができ,出す時の時間も短縮できる。さらに印刷時に接着剤表面にスジ,泡等が入ることも少なくなり,作業性に優れる。このような利点は,シリンジやカップで接着剤を供給する場合以外にもあてはまる。好ましい粘度は,10Pa・s以上100Pa・s以下である。
本発明の半導体用接着剤は,たとえば,まず(1)印刷等により層状に形成され,次に(2)光照射によりB-ステージ化され,続いて(3)加熱圧着により被着体に接着される,という工程によって使用される。本パラメータを満たす半導体用接着剤を用いると,(1)の印刷等による層形成時に作業性が向上する。なお,25℃は層形成時の温度(室温)を想定したものである。
上記粘度は,たとえば,半導体用接着剤中の液状成分の分子量や粘度,液状成分と固形成分の配合比を調整することによって達成できる。」

(1h)「【0033】
上記半導体用接着剤は,ガラス不織布等にポリイミド樹脂,エポキシ樹脂,ポリイミド系樹脂等のプラスチックを含浸・硬化させ,その表面には銅などにより回路が形成され,さらにはその上にソルダーレジスト層が形成されたリジッド回路基板,42アロイリードフレームや銅リードフレーム等のリードフレーム,または,ポリイミド系樹脂等のプラスチックフィルム上に銅などにより回路が形成され,さらにはその上にソルダーレジスト層が形成されたフレキシブル回路基板,あるいは,セラミックス製の基板などに,印刷法によって塗布・光照射されBステージ化することができる。これにより,短時間で接着剤をBステージ化でき,製造工程に滞留が発生した場合でも,接着剤付基板の保管を容易にすることができる。つぎに,このBステージ化された接着剤付き基板上に,IC,LSI等の半導体チップをのせ,加熱圧着することにより,半導体チップと基板を接合する。その後,接着剤を硬化させる工程により,半導体チップが基板に搭載される。この接着剤の硬化は,実装組立工程での問題がない場合は,封止材の後硬化工程の際に併せて行ってもよい。
また,接着剤を半導体ウエハー上に塗布する方法でも半導体装置を製造することが可能である。上記半導体用接着剤は,半導体ウエハー上に印刷法によって塗布・光照射されBステージ化することができる。これにより,短時間で接着剤をBステージ化でき,製造工程に滞留が発生した場合でも,接着剤付基板の保管を容易にすることができる。次にBステージ化された接着剤を有する半導体ウエハーをダイシングし,半導体チップに個片化する。次に,ガラス不織布等にポリイミド樹脂,エポキシ樹脂,ポリイミド系樹脂等のプラスチックを含浸・硬化させ,その表面には銅などにより回路が形成され,さらにはその上にソルダーレジスト層が形成されたリジッド回路基板,または,ポリイミド系樹脂等のプラスチックフィルム上に銅などにより回路が形成され,さらにはその上にソルダーレジスト層が形成されたフレキシブル回路基板などの上に,個片化した半導体チップを接着剤層が回路基板に接するようにのせ,加熱圧着することにより,半導体チップと基板を接合する。その後,接着剤を硬化させる工程により,半導体チップが基板に搭載される。この接着剤の硬化は,実装組立工程での問題がない場合は,封止材の後硬化工程の際に併せて行ってもよい。」

(1i)「【実施例】
【0034】
(実施例1)
ラジカル重合性モノマーとして1官能のブレンマー70PEP-350B(日本油脂(株)製)10.00重量部,多官能のNKエステル3G(新中村化学工業(株)製)0.20重量部,熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂HP-7200(大日本インキ化学工業(株)製)5.20重量部,硬化剤にフェノール樹脂PR-HF-3(住友ベークライト(株)製)2.21重量部,光反応開始材として光照射によりラジカルを発生する化合物イルガキュア651(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)0.91重量部を攪拌し溶解させ,さらに充填材としてシリカ微粒子パウダー・アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)1.19重量部,熱硬化触媒として2-(トリフェニルホスホニオ)フェノラート0.06重量部を添加し,混練することにより接着剤を作製した。配合及び実験結果を表1に示す。」

(1j)「【0037】
表1,2で用いられた原料の詳細を以下に示す。
ブレンマー70PEP-350B:ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノメタクリレート
CHDMMA:1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート
NKエステルA-BPE-10:エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート
NKエステル3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HP-7200:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂
NC-3000P:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂
N-685:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
PR-HF-3:フェノールノボラック
イルガキュア651:2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン
アエロジル R805:ナノシリカ(平均粒径12nm)
SG-80HDR:アクリル酸エステル共重合体(ブチルアクリレート-アクリロニトリル-エチルアクリレート-グリシジルメタクリレート共重合体)
【0038】
(実施例2)
1官能のラジカル重合性モノマーとしてCHDMMA(日本化成(株)製),多官能のラジカル重合性モノマーとしてNKエステルA-BPE?10(新中村化学工業(株)製),熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂NC-3000P(日本化薬(株)製)を用いた以外は,実施例1と同様に実験を行った。配合及び実験結果を表1に示す。」

(1k)「【0048】
(半導体装置の製造方法)
各実施例および比較例に記載の接着剤を,ソルダーレジストPSR-4000AUS-308(太陽インキ製造株式会社製)が塗布されたビスマレイミド-トリアジン基板(回路段差5-10μm)に,印刷機(VE-500,東レエンジニアリング(株)製,)を用いて,スキージスピード1.5mm/s,スキージ角度45度,印刷圧0.2MPaの条件で接着剤を5mm×5mm×厚み100μmに配置するように印刷した。その後,超高圧水銀ランプ(IML-5000,オーク製作所製)を使用し,照度75mW/cm^(2),波長365nmの紫外光を20秒間照射し,接着剤をBステージ化した。つぎに,半導体チップ(5mm×5mm×200μm)を機能面が接着剤に接するように,位置あわせしてのせ,130℃,3N,5秒間圧着して,100℃で1時間,その後,150℃で1時間熱処理を行い,接着剤を半硬化させた後,樹脂で封止し,175℃2時間熱処理を行い,封止樹脂を硬化させて20個の半導体装置を得た。」

・引用発明1
上記記載に照らして,引用例1には,引用例1の請求項1,請求項3,請求項4及び請求項5を引用する請求項14に係る発明である以下の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されているといえる。

「ウエハーを準備する工程と,
前記ウエハーに半導体用接着剤を印刷により塗布する工程であって,
前記半導体用接着剤が,ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物と,熱硬化性樹脂と,前記熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤とを含み,前記ラジカル重合性モノマーと前記熱硬化性樹脂と前記硬化剤の全量に対する前記ラジカル重合性モノマーの割合が,50重量%以上85重量%以下である半導体用接着剤であり,前記ラジカル重合性モノマーが,アクリル化合物であり,前記ラジカル重合性モノマーが,一官能ラジカル重合性モノマーと,多官能ラジカル重合性モノマーとを含み,前記一官能ラジカル重合性モノマーが,前記ラジカル重合性モノマーに対して,80重量%以上99重量%以下含まれている半導体用接着剤を印刷により塗布する工程と,
前記半導体用接着剤を塗布したウエハーに光照射して前記半導体用接着剤をB-ステージ化する工程と,
前記光照射後のウエハーをダイシングにより半導体チップに個片化する工程と,
前記半導体チップを基板に搭載して加熱圧着により接着する工程と,
を含む半導体装置の製造方法。」

(2)原査定の最後の拒絶理由で引用した,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-41407号公報(以下「引用例2」という。)には,「半導体装置の実装方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図4とともに以下の記載がある。

(2a)「【請求項1】 ウエハの全面に,絶縁性を有する封止樹脂,あるいは絶縁性を有する封止樹脂に導電性粒子を混入した封止樹脂を塗布する工程と,該ウエハを分割して半導体装置を形成する工程と,該半導体装置を基板に接続する工程とを有することを特徴とする半導体装置の実装方法。」

(2b)「【0002】
【従来の技術】半導体装置を基板に接続し,樹脂封止を行う半導体装置の実装方法における従来例としては,ディップ方法,滴下方法,含浸方法の3つの方法に,ほぼ分類できる。以下上記3つの各方法に関して図3を用いて説明する。なお以下の説明において突起電極は,半導体装置側に設ける例で説明するが,半導体装置を接続する基板側に突起電極を設けても良い。」

(2c)「【0015】
【課題を解決するための手段】以上の問題を解決するために本発明における半導体装置の実装方法では,以下に記載の工程を採用する。ウエハの全面に,絶縁性の封止樹脂,あるいは絶縁性の封止樹脂に導電性粒子を混入した封止樹脂を塗布する工程と,このウエハを分割して半導体装置を形成する工程と,この半導体装置を基板に接続する工程とを有する。
【0016】
【作用】本発明においては,ウエハ状態で封止樹脂をこのウエハ上に塗布し,その後ウエハを分割して半導体装置を形成し,この半導体装置を基板に接続している。このために,封止樹脂の半導体装置からのはみ出し量を適切に制御することが可能となり,隣接する半導体装置の接続を阻害することがなくなる。また,基板が液晶等の表示装置の場合,封止樹脂が表示装置のシール部に浸入することを防止することができるので,ギャップ量の変化に起因する表示装置の表示品質の劣化を防ぐことが可能となる。
【0017】
【実施例】以下本発明の実施例を図面を用いて説明する。まず図1(a)に示すように,ウエハ11上に金(Au),あるいは銅,あるいは半田からなる高さ2?50μmの突起電極13をウエハ11に形成する。この突起電極13は,上記のほかに他の導電性材料でも構わない。突起電極13の形成方法としては,メッキ法や,突起電極の形成領域に開口を設けた金属マスクを用いた真空蒸着法を用いる。その後,封止樹脂15をディスペンサ17により,ウエハ11上に2?10g滴下する。封止樹脂15をウエハ11上に滴下後,ウエハ11を一定回転数で回転させて,封止樹脂15をウエハ11全面に均一の厚さに広げる。
【0018】次に図1(b)に示すように,ウエハ11全面に形成した封止樹脂15を40?80℃の温度で加熱処理して,封止樹脂15を半硬化状態にする。半硬化させた後の封止樹脂15の厚さは,突起電極13の高さの5?200%増しの厚さが望ましい。」

(2d)「【0021】次に図1(c)に示すように,封止樹脂15をウエハ11上に形成後,このウエハ11をダイシング装置を用いて切断し,封止樹脂15を形成したウエハ11を個々の半導体装置19に分割する。
【0022】その後,図1(d)に示すように,半導体装置19に形成した突起電極13を下面側に向け,表示装置21を構成する基板33に形成した,配線回路31上に半導体装置19を配置し,さらに突起電極19と配線回路31との位置合わせを行う。
【0023】次に図1(e)に示すように,加熱加圧ヘッド23を使って半導体装置19の上から押し当てて圧接することにより,半導体装置19と基板33との接続と,封止樹脂15による樹脂封止とを同時に行う。この圧接作業の際は,表示装置21の基板33の圧接箇所の下側に加熱台25を設け,基板33を加熱すると,より効果的に封止樹脂15を硬化させることが可能である。半導体装置19と突起電極13との圧接の際の圧力は,突起電極13の高さを0?50%潰す力とする。突起電極13の高さが50%以上潰れる圧力を印加すると,突起電極13の根元の半導体装置19にひび割れが発生し,好ましくない。上記実施例では,半導体装置19を表示装置21の基板33に接続する例で説明したが,表示装置以外の他の基板でも構わない。
【0024】本発明で使用する封止樹脂15は,吸水率が0?0.5%のもので,かつ絶縁性を有し,熱硬化するものであれば材質は問わない。吸水率が0.5%より高い場合,浸入した水により封止樹脂15が膨潤し,突起電極13と接続する配線回路31との電気的機械的な接続箇所が剥がれ,接続不良となり,好ましくない。
【0025】また,封止樹脂15としては,熱硬化性の樹脂だけでなく光硬化性の樹脂でも構わない。」

(3)原査定の最後の拒絶理由で引用した,本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2010/024087号(以下「引用例3」という。)には,「感光性接着剤組成物,並びにそれを用いたフィルム状接着剤,接着シート,接着剤パターン,接着剤層付半導体ウェハ及び半導体装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図34とともに以下の記載がある。

(3a)「技術分野
[0001]本発明は,感光性接着剤組成物,並びにそれを用いたフィルム状接着剤,接着シート,接着剤パターン,接着剤層付半導体ウェハ及び半導体装置に関する。
背景技術
[0002]半導体パッケージの作製に用いられる接着剤には,接着性に加えて感光性の機能が求められている。感光性の機能を有する感光性接着剤組成物としては,従来,ポリイミド樹脂前駆体(ポリアミド酸)をベースとしたものが知られている(特許文献1?3)。」

(3b)「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0004]しかしながら,従来の感光性接着剤組成物は,接続信頼性の点で必ずしも十分ではなかった。本発明者らの検討によると,従来の感光性接着剤組成物では,パターン形成性を優先させると,パターン形成後の熱圧着時に十分な接着面積が得られないことが判明している。
[0005]そこで,本発明は,接続信頼性の向上を可能とする熱圧着性を有する感光性接着剤組成物,並びにそれを用いたフィルム状接着剤,接着シート,接着剤パターン,接着剤層付半導体ウェハ及び半導体装置を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006]本発明者らは,上記課題を解決するため鋭意検討した結果,感光性接着剤組成物を設計する際に,パターン形成後の特定の温度範囲における最低溶融粘度を指標とすることによって,低温での熱圧着性に優れ,半導体ウェハなどの良好な接続が可能となる感光性接着剤組成物が得られることを見出し,本発明を完成するに至った。
[0007]すなわち,本発明の第1の感光性接着剤組成物は,パターン形成後の20℃?200℃における最低溶融粘度が30000Pa・s以下であることを特徴とする。上記第1の感光性接着剤組成物は,上記特定の最低溶融粘度を有することにより,パターン形成後の低温での熱圧着性(以下,「低温熱圧着性」ともいう。)に優れ,その結果,半導体パッケージの接続信頼性を向上させることが可能となる。また,これにより,低温熱圧着性と他の好ましい特性との両立を図ることが容易となる。
[0008]第1の感光性接着剤組成物は,(A)アルカリ可溶性樹脂,(B)熱硬化性樹脂,(C)放射線重合性化合物及び(D)光開始剤を含有することが好ましい。これにより,上記感光性接着剤組成物は,低温熱圧着性のみならず,フィルム状に成形した場合の低温での貼付性(以下,「低温貼付性」という。),硬化物にした場合の加熱下での接着性(以下,「高温接着性」という。),及び,露光・アルカリ現像により接着剤パターンを形成した場合のパターンの精度(以下,「パターン形成性」という。)のいずれの点でも優れたものとなる。
[0009]第1の感光性接着剤組成物においては,(C)放射線重合性化合物の平均官能基当量が230g/eq以上であることが好ましい。これにより,パターン形成性を維持しつつ,光硬化時の架橋密度を低減することができ,硬化後の被着体の反りを小さくすることができる(以下,「低反り性」又は「低応力性」という。)。なお,本明細書において,「平均官能基当量」とは,感光性接着剤組成物が含有する(C)成分(放射線重合性化合物)すべての放射線重合性基当量の平均値(g/eq)を意味する。例えば,感光性接着剤組成物が,放射線重合性基当量がY(g/eq)である(C)成分をy(g)と,放射線重合性当量がZ(g/eq)である(C)成分をz(g)含有していた場合,「平均官能基当量」は,以下の式により求められる。

平均官能基当量(g/eq)=(Y×y+Z×z)/(y+z)
[0010]第1の感光性樹脂組成物において,(C)放射線重合性化合物は,ウレタン結合及び/又はイソシアヌル環を有する(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより,パターン形成性及び高温接着性の向上が可能となる。
[0011]第1の感光性樹脂組成物において,(C)放射線重合性化合物は,単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより,パターン形成性を維持しつつ,光硬化時の架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を向上させることができる。
[0012]上記単官能(メタ)アクリレートの5%重量減少温度は150℃以上であることが好ましい。これにより,熱硬化時及び硬化後の熱履歴時のアウトガス量を低減することができ,耐熱信頼性を向上させることができる。なお,本明細書において,「5%質量減少温度」とは,示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製:TG/DTA6300)を用いて,昇温速度10℃/min,窒素フロー(400ml/min)下で測定した際に質量が5%減少したときの温度を示す。」

(3c)「[0034]本発明の接着剤層付半導体ウェハは,半導体ウェハと,該半導体ウェハ上に積層された上記フィルム状接着剤からなる接着剤層と,を備える。
[0035]本発明の半導体装置は,上記感光性接着剤組成物を用いて,半導体素子同士,及び/又は,半導体素子と半導体素子搭載用支持部材とが接着された構造を有する。上記半導体素子搭載用支持部材は,透明基板とすることができる。本発明の半導体装置は,本発明の感光性接着剤組成物を用いることにより,信頼性に優れ,製造プロセスの簡略化にも十分対応可能なものとなる。」

(3d)「[0049]また,第1の感光性接着剤組成物において,(C)成分は,単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができる。
[0050]上記単官能(メタ)アクリレートの5%重量減少温度は150℃以上であることが好ましい。このような単官能(メタ)アクリレートとしては,特に限定はしないが,グリシジル基含有(メタ)アクリレート,フェノールEO変性(メタ)アクリレート,フェノールPO変性(メタ)アクリレート,ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート,ノニルフェノールPO変性(メタ)アクリレート,フェノール性水酸基含有(メタ)アクリレート,水酸基含有(メタ)アクリレート,イミド基含有(メタ)アクリレート,カルボキシル基含有(メタ)アクリレート,2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート,イソボロニル含有(メタ)アクリレート,フェニルフェノールグリシジルエーテル(メタ)アクリレート,ジシクロペンタジエニル基含有(メタ)アクリレートなどの中から,5%重量減少温度が150℃以上の化合物が挙げられる。」

(3e)「[0169]以下,(工程1)?(工程7)について詳述する。
(工程1)
図13(a)に示す半導体ウェハ8内には,ダイシングラインDによって区分された複数の半導体チップ12が形成されている。この半導体チップ12の回路面18側の面にフィルム状接着剤(接着剤層)1を積層する(図13(b))。接着剤層1を積層する方法としては,予めフィルム状に成形されたフィルム状接着剤を準備し,これを半導体ウェハ8に貼り付ける方法が簡便であるが,スピンコート法などを用いて液状の感光性接着剤組成物のワニスを半導体ウェハ8に塗布し,加熱乾燥する方法によってもよい。」

(3f)「[0243]実施例I?V及び比較例I?II
<(A)成分:ポリイミド樹脂>
<途中省略>
[0249]<(C)成分:放射線重合性化合物>
<途中省略>
<感光性接着剤組成物>
上記で得られたポリイミド樹脂(PI-1)及び(PI-2)並びに放射線重合性化合物(C-1)及び(C-2)を用いて,下記表3及び表4に示す組成比(単位:質量部)にて各成分を配合し,実施例I?V及び比較例I?IIの感光性接着剤組成物(接着剤層形成用ワニス)を得た。
[0252]表3及び表4において,各記号は下記のものを意味する。
BPE-100:新中村化学工業社製,エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(放射線重合性官能基当量240g/eq,5%重量減少温度:330℃)
A-9300:新中村化学工業社製,イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(放射線重合性官能基当量140g/eq,5%重量減少温度:>400℃)
M-140:東亜合成社製,2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート(放射線重合性官能基当量251g/eq,5%重量減少温度:200℃,グリシジル基数:0,アクリル基数:1)
4-HBAGE:日本化成社製,4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(放射線重合性官能基当量200g/eq,5%重量減少温度:135℃)
VG-3101:プリンテック(株)製,3官能エポキシ樹脂(5%重量減少温度:350℃)
YDF-870GS:東都化成社製,ビスフェノールFビスグリシジルエーテル(5%重量減少温度:270℃)
TrisP-PA:本州化学社製,トリスフェノール化合物(α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェノル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン)(5%重量減少温度:350℃)
R-972:日本アエロジル社製,疎水性フュームドシリカ(平均粒径:約16nm)
I-819:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製,ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド
パークミルD:日油社製,ジクミルパーオキサイド(1分間半減期温度:175℃) NMP:関東化学社製,N-メチル-2-ピロリドン」

(3g)[0253]の[表3]の実施例IVには,(C)放射線重合性化合物として,BPE-100,A-9300及びM-140の混合物を用いた場合に,最低溶融粘度が5900Pa・s,低温貼付性,パターン形成性及び低温熱圧着性の評価がA,反り量が7.2μm,高温接着性が0.59となることが示されている。

(3h)「[0255]<接着シート>
得られた実施例I?V及び比較例I?IIの感光性接着剤組成物を,乾燥後の膜厚が50μmとなるように,それぞれ基材(剥離剤処理PETフィルム)上に塗布し,オーブン中にて80℃で20分間加熱し,続いて120℃で20分間加熱して,基材上に感光性接着剤組成物からなる接着剤層を形成した。このようにして,基材及び基材上に形成された接着剤層を有する接着シートを得た。実施例I?V及び比較例I?IIの感光性接着剤組成物から得られた接着シートを,それぞれ,実施例I?V及び比較例I?IIの接着シートとした。
[0256]<評価試験>
(最低溶融粘度)
得られた実施例I?V及び比較例I?IIの接着シートを,テフロンシート上に,ロール加圧(温度50℃,線圧4kgf/cm,送り速度0.5m/分)によって,接着剤層がテフロンシートと接するように積層(ラミネート)した。このようにして,テフロンシート,接着剤層及び基材からなり,これらがこの順に積層する積層体を得た。
[0257]得られた積層体を,高精度平行露光機(オーク製作所製,「EXM-1172-B-∞」(商品名))により1000mJ/cm^(2)で露光し,80℃のホットプレート上で約30秒間放置した。次いで,コンベア現像機(ヤコー社製)を用いて,テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)2.38質量%溶液を現像液とし,温度26℃,スプレー圧0.18MPaの条件でスプレー現像した後,温度25℃の純水にてスプレー圧0.02MPaの条件で3分間水洗した。このようにして,テフロンシート上に,感光性接着剤組成物からなる接着剤層を形成した。基材(PETフィルム)を取り除き,テフロンシート及び上記接着剤層からなる積層体を,厚みが約200μmとなるように80℃でラミネートし,10mm×10mmの大きさに切り出し,サンプルとした。
[0258]得られたサンプルの片側のテフロンシートを剥がし,150℃で10分間加熱乾燥し,粘弾性測定装置ARES(レオメトリックス・サイエンティフィック・エフ・イー株式会社製)を用いて最低溶融粘度の測定を行った。測定プレートは直径8mmの平行プレート,測定条件は昇温5℃/min,周波数1Hzに設定した。-50℃?300℃での溶融粘度の最低値を最低溶融粘度とした。測定結果を表3及び表4に示す。
[0259](低温貼付性)
支持台上にシリコンウェハ(6インチ径,厚さ400μm)を載せ,その上に,上記接着シートを,接着剤層がシリコンウェハの裏面(支持台と反対側の面)と接するように,ロール加圧(温度100℃,線圧4kgf/cm,送り速度0.5m/分)により積層した。基材(PETフィルム)を剥離除去した後,露出した接着剤層上に,厚み80μm,幅10mm,長さ40mmのポリイミドフィルム(宇部興産社製,「ユーピレックス」(商品名))を,上記と同様の条件でロール加圧して積層した。このようにして,シリコンウェハ,接着剤層及びポリイミドフィルムからなり,これらがこの順に積層する積層体のサンプルを得た。
[0260]得られたサンプルについて,レオメータ(東洋製機製作所社製,「ストログラフE-S」(商品名))を用いて,室温で90°ピール試験を行って,接着剤層とポリイミドフィルムとのピール強度を測定した。その測定結果に基づいて,ピール強度が2N/cm以上のサンプルをA,2N/cm未満のサンプルをBとして,低温貼付性の評価を行った。評価結果を表3及び表4に示す。
[0261](高温(260℃)接着性)
ロール加圧の温度を,実施例I?V及び比較例Iの接着シートについては50℃,比較例IIの接着シートについては150℃としたこと以外は,上記低温貼付性の評価試験と同様にして,シリコンウェハ上に接着シートを積層した。得られた積層体を,接着シート側から,高精度平行露光機(オーク製作所製,「EXM-1172-B-∞」(商品名))により1000mJ/cm^(2)で露光し,80℃のホットプレート上で約30秒間放置した。基材(PETフィルム)を剥離除去した後,コンベア現像機(ヤコー社製)を用いて,テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)2.38質量%溶液を現像液とし,温度26℃,スプレー圧0.18MPaの条件でスプレー現像した後,温度25℃の純水にてスプレー圧0.02MPaの条件で6分間水洗し,150℃で1分間乾燥させた。このようにして,シリコンウェハ上に,感光性接着剤組成物からなる接着剤層を形成した。
[0262]得られたシリコンウェハ及び接着剤層からなる積層体を,3mm×3mmの大きさに個片化した。個片化した積層体を150℃で10分間乾燥させた後,ガラス基板(10mm×10mm×0.55mm)上に,接着剤層がガラス基板と接するようにして積層し,2kgfで加圧しながら10秒間圧着した。圧着温度は,実施例1?7及び比較例1?2については150℃,比較例3については200℃とした。このようにして,シリコンウェハ,接着剤層及びガラス基板からなり,これらがこの順に積層する積層体のサンプルを得た。
[0263]得られたサンプルを,オーブン中で180℃,3時間の条件で加熱し,さらに,260℃の熱盤上で10秒間加熱した後,せん断接着力試験機「Dage-4000」(商品名)を用いて接着力を測定した。測定結果を表3及び表4に示す。
[0264](パターン形成性)
ロール加圧の温度を,実施例I?V及び比較例Iの接着シートについては60℃,比較例IIの接着シートについては150℃としたこと以外は,上記高温接着性の評価試験と同様にして,シリコンウェハ上に接着シートを積層した。得られた積層体を,接着シート側から,ネガ型パターン用マスク(日立化成社製,「No.G-2」(商品名))を介して,上記試験と同様に露光した。次いで,上記試験と同様に,ホットプレート上で放置後,基材を除去し,現像・水洗を行った。このようにして,シリコンウェハ上に,感光性接着剤組成物からなる接着剤パターンを形成した。
[0265]形成された接着剤パターンを顕微鏡(倍率:50倍)にて観察し,ライン幅/スペース幅=400μm/400μmのパターンが形成されていた場合をA,形成されていなかった場合をBとして,パターン形成性の評価を行った。評価結果を表3及び表4に示す。
[0266](低温熱圧着性)
ロール加圧の温度を,実施例I?V及び比較例Iの接着シートについては50℃,比較例IIの接着シートについては150℃とし,上記ネガ型パターン用マスクに代えて額縁状6インチサイズマスクパターン(中空部2mm,線幅0.5mm)を用いたこと以外は,上記パターン形成性の評価試験と同様にして,シリコンウェハ上に,感光性接着剤組成物からなる接着剤パターンを形成した。
[0267]接着剤層付きシリコンウェハを150℃で10分間乾燥させた後,形成された接着剤パターンのシリコンウェハと反対側の面上に,ガラス基板(15mm×40mm×0.55mm)を積層し,0.5MPaで加圧しながら,150℃で10分間圧着し,シリコンウェハ,接着剤パターン及びガラス基板からなり,これらがこの順に積層する積層体のサンプルを得た。
[0268]得られたサンプルを顕微鏡(倍率:50倍)にて観察し,未接着部分(空隙)がガラス基板と接着剤パターンとの接着面積に対して20%以下であるものをA,20%以上であるものをBとして,低温熱圧着性の評価を行った。評価結果を表3及び表4に示す。
[0269]表3及び表4の結果から明らかなように,実施例I?Vの感光性接着剤又は接着シートは,比較例I及びIIの感光性接着剤又は接着シートと比べて,低温熱圧着性が顕著に優れたものであった。」

3 当審の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「ウエハー」,「半導体チップ」,「基板」,「ラジカル重合性モノマー」および「光照射によりラジカルを発生する化合物」は,それぞれ,本願発明1の「半導体ウェハ」,「半導体素子」,「半導体素子搭載用支持部材」,「放射線重合性化合物」および「光開始剤」に相当する。

イ 引用発明1の「半導体用接着剤」は,「ラジカル重合性モノマーと,光照射によりラジカルを発生する化合物と」を含むから,「感光性接着剤」の一種といえる。加えて,引用発明1の「半導体用接着剤」は,「印刷により塗布する」ものであるから,「液状」であると解される。してみれば,引用発明1の「半導体用接着剤」は,本願発明1の「液状感光性接着剤」に相当する。

ウ 以上をまとめると,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「半導体ウェハ上に,液状感光性接着剤を塗布して感光性接着剤層を形成する工程と,
前記感光性接着剤層を光照射によりBステージ化して接着剤層付き半導体ウェハを得る工程と,
前記接着剤層付き半導体ウェハの半導体ウェハを接着剤層とともに切断して複数の半導体素子に切り分けて接着剤層付き半導体素子を得る工程と,
前記接着剤層付き半導体素子と,他の半導体素子又は半導体素子搭載用支持部材とを,前記接着剤層付き半導体素子の接着剤層を挟んで圧着する工程と,を備え,
前記液状感光性接着剤が,(A)放射線重合性化合物,(B)光開始剤,及び(C)熱硬化性樹脂,を含む,半導体装置の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:感光性接着剤層が,本願発明1では,金属バンプが形成された回路面を有する半導体ウェハの前記回路面上に,設けられるのに対して,引用発明1では,そのような特定がされていない点。

・相違点2:放射線重合性化合物成分が,本願発明1では,分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有するイミド基含有(メタ)アクリレートを含むものであるのに対して,引例発明1では,このような特定がされていない点。

(2)判断
・相違点1について
ア 以下の周知例1,2の記載からも明らかなように,「半導体チップの素子面を基板側に向けて,該素子面の電極上に形成されたバンプと呼ばれる突起状電極を介して,該半導体チップを基板に接続する方法」が,いわゆる「フリップチップボンディング」として,本願の出願日前に周知であったことが技術常識として認められる。

・周知例1:「半導体用語大辞典」,日刊工業新聞社,1999年3月20日第1版第1刷発行
・「フリップチップボンディング〔flip chip bonding〕ワイヤレスボンディングの一種であり,半導体チップ表面の電極上にバンプと呼ばれる突起電極を形成し,チップの表裏を逆にして,セラミックなどの配線基板の電極とバンプとを位置合わせして,フェースダウンボンディングで接続する実装方法のことである。・・・基本的方式は1960年代前半に・・・IBMが開発したものであり,・・・最近では,バンプにかかる応力の低減や電極の多ピン化,微少ピッチ化に対応するため,・・・光硬化性樹脂などの有機材料をチップと基板の間に介在させてボンディングする方法も実用化されつつある。→・・・フェースダウンボンディング」(974-975ページ)
・「フェースダウンボンディング〔face down bonding〕通常,半導体チップの基板へのボンディング状態を示す。ワイヤレスボンディング方式の一つで,半導体素子のボンディングパッドにバンプやビームリードを形成し,この面(半導体チップの素子面(face))を下側にして基板の導体層に直接面接続する方式を示す。代表的なものにフリップチップ方式があり,狭義のフェースダウンボンディングはフリップチップボンディングのことを示す。」(940ページ)

・周知例2:「半導体大事典」,工業調査会,1999年12月20日初版第1刷発行
・「フリップチップ方式 flip chip bonding ベアチップ実装技術の一つで,半導体チップの電極パッド上に突起状電極(バンプ)が形成され,相対する基板上の電極パッドに対して位置合わせして実装する方式。・・・フリップチップ方式には,バンプの種類,および実装する基板の種類により,様々な手法が存在する。バンプ電極には,はんだ,Au,Cu,Inなど,種々の金属や合金材料が用いられている。」(1103-1104ページ)

イ そして,引用例1の上記摘記(1k)には,引用例1に記載された発明に係る各実施例に記載された接着剤を,回路段差5-10μmを有する基板に印刷し,その後,当該接着剤をBステージ化し,つぎに,半導体チップを機能面が接着剤に接するように,位置あわせしてのせ,圧着して,半導体装置を得る方法が記載されている。
ここで,半導体チップの機能面は,当該半導体チップの機能を実現するための素子が形成された面であって,当該機能を実現するために,前記素子によって構成された回路が存在することは通常であるから,半導体チップの機能面は,半導体チップの回路面(素子面)に相当するといえる。
そうすると,引用例1には,引用例1に記載された発明に係る各実施例に記載された接着剤を,半導体チップの回路面と,基板の回路を有する面との間に挟んで,圧着して,半導体装置を製造する方法が記載されているものと理解され,引用例1の上記摘記(1k)の記載は,フリップチップボンディングを示唆するものと理解できる。

ウ 一方,引用例2の上記摘記(2c),(2d)には,引用例2の特許請求の範囲に記載された発明の【実施例】として,以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
「ウエハ11上に金(Au),あるいは銅,あるいは半田からなる高さ2?50μmの突起電極13をウエハ11に形成する工程と,
封止樹脂15をディスペンサ17により,ウエハ11上に2?10g滴下し,ウエハ11を一定回転数で回転させて,封止樹脂15をウエハ11全面に均一の厚さに広げる工程と,
ウエハ11全面に形成した封止樹脂15を40?80℃の温度で加熱処理して,封止樹脂15を半硬化状態にする工程と,
封止樹脂15をウエハ11上に形成後,このウエハ11をダイシング装置を用いて切断し,封止樹脂15を形成したウエハ11を個々の半導体装置19に分割する工程と,
半導体装置19に形成した突起電極13を下面側に向け,表示装置21を構成する基板33に形成した,配線回路31上に半導体装置19を配置し,さらに突起電極19と配線回路31との位置合わせを行う工程と,
加熱加圧ヘッド23を使って半導体装置19の上から押し当てて圧接することにより,半導体装置19と基板33との接続と,封止樹脂15による樹脂封止とを同時に行う工程と,を備え,
前記封止樹脂15としては,熱硬化性の樹脂だけでなく光硬化性の樹脂でも構わないとする,半導体装置の製造方法。」
そして,引用発明2は,半導体装置19に形成した突起電極13を下面側に向け,該突起電極13と,基板33に形成した配線回路31とを位置合わせしたうえで,半導体装置19と基板33とを接続するから,上記アの技術常識に照らせば,引用発明2は,フリップチップボンディングを採用した半導体装置の製造方法と認められる。

エ 上記イのとおり,引用例1には,引用発明1がフリップチップボンディングを採用した半導体装置の製造方法であることが示唆されていると認められる。
そして,上記ウより,引用発明2は,金,あるいは銅,あるいは半田からなる突起電極,すなわち金属バンプを半導体ウェハに形成する工程と,回路面を有する前記半導体ウェハの前記回路面上に,熱硬化性又は光硬化性の樹脂である封止樹脂を塗布する工程と,前記封止樹脂を半硬化状態,すなわちB-ステージ化する工程と,前記半導体ウェハをダイシングにより半導体チップに個片化する工程と,前記半導体チップを基板に搭載し,前記封止樹脂を熱硬化又は光硬化させて圧着する工程と,を含む,フリップチップボンディングを採用した半導体装置の製造方法と認められ,ここで,前記突起電極が前記半導体ウェハの前記回路面上に形成されることは,上記アの技術常識に照らせば自明であり,また,前記封止樹脂は,光硬化性の樹脂で,前記半導体チップを前記基板に圧着することから,半導体接着用の感光性接着剤と認められる。
そうすると,フリップチップボンディングを採用した半導体装置の製造方法であることが示唆される引用発明1において,半導体ウェハの回路面に金属バンプを形成し,当該回路面上に半導体用接着剤(本願発明1の「液状感光性接着剤」に相当。)を設けるようにすることは,引用発明2のように,当業者が普通に行い得るものと認められる。

オ 以上から,相違点1に係る構成は,引用発明1において,引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認める。

・相違点2について
ア 引用例1の上記摘記(1b)の「印刷後の接着剤を加熱することによりタックをなくす手法では,溶剤を揮発させたり,樹脂成分の一部をB-ステージ化する際の加熱工程にどうしても時間がかかってしまい,半導体装置製造工程がより長くかかってしまうという課題があった。本発明者らは上記事情に鑑み,鋭意検討の結果,接着剤にラジカル重合性モノマーと熱硬化性樹脂を配合,光照射によりB-ステージ化することのできる接着剤を用いることにより,タックフリーになるまでの時間を大幅に短縮できることを見出した。」との記載から,引用発明1は,印刷後の接着剤を加熱することによりタックをなくす手法では,溶剤を揮発させたり,樹脂成分の一部をB-ステージ化する際の加熱工程にどうしても時間がかかってしまい,半導体装置製造工程がより長くかかってしまうという課題を,接着剤にラジカル重合性モノマーと熱硬化性樹脂を配合して,光照射によりB-ステージ化することによって解決した発明であると理解することができる。

イ さらに,引用例1の上記摘記(1d)には,「本発明で用いられるラジカル重合性モノマーとは,一分子内に一つ以上のラジカル反応性二重結合を有するモノマーである。ラジカル重合性モノマーとしては,例えば,アクリル系モノマーやスチレン系モノマー,及びこれらのオリゴマーが挙げられる。ラジカル重合性モノマーには,ラジカル重合性官能基を分子内に一つ有する一官能ラジカル重合性モノマーと,ラジカル重合性官能基を分子内に複数有する多官能ラジカル重合性モノマーとがある。本発明においては,ラジカル重合性モノマーは単独で用いることも,2種類以上を混合して用いることもできる。ラジカル重合性モノマーとしては25℃で液状であることが好ましく,より短時間でB-ステージ化するために,反応性に優れたアクリロイル基を有する化合物が好ましい。本発明で用いられるラジカル重合性モノマーの具体例としては,シクロへキシルアクリレート・・・<途中省略>・・・などの1官能アクリレート, <途中省略> シクロへキシルメタクリレートなどの1官能メタクリレート, <途中省略> などが挙げられる。」と記載されており,上記摘記(1h)には,「表1,2で用いられた原料の詳細を以下に示す。 ブレンマー70PEP-350B:ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノメタクリレート CHDMMA:1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート」として,いずれも,分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートが,一官能ラジカル重合性モノマーの具体例として例示されている。

ウ してみれば,当業者であれば,引用発明1の半導体用接着剤で用いる一官能ラジカル重合性モノマーとして,分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートを使用することは適宜なし得たことといえる。
そして,当該分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートとして,具体的にどのような材料を用いるかは,上記アで検討した引用発明1が解決すべき課題,すなわち,印刷後の接着剤を加熱することによりタックをなくす手法では,溶剤を揮発させたり,樹脂成分の一部をB-ステージ化する際の加熱工程にどうしても時間がかかってしまい,半導体装置製造工程がより長くかかってしまうという課題を,接着剤にラジカル重合性モノマーと熱硬化性樹脂を配合して,光照射によりB-ステージ化することによって解決するという引用発明1に係る作用機序を妨げない限りにおいて,単なる設計事項として,適宜選択し得たものであるといえる。

エ 一方,引用例3の上記摘記(3a)の「本発明は,感光性接着剤組成物,並びにそれを用いたフィルム状接着剤,接着シート,接着剤パターン,接着剤層付半導体ウェハ及び半導体装置に関する。」との記載から,引用例3には,引用発明1と共通する技術分野に係る技術的事項が開示されていると認められる。
そして,引用例3の上記摘記(3d)の「第1の感光性接着剤組成物において,(C)成分は,単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができる。<途中省略>このような単官能(メタ)アクリレートとしては,特に限定はしないが,<途中省略>イミド基含有(メタ)アクリレート,<途中省略>が挙げられる。」との記載,及び,上記摘記(3f)の「M-140:東亜合成社製,2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート」との記載から,引用発明1と共通する技術分野において,「M-140:東亜合成社製,2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート」という,イミド基含有(メタ)アクリレートを,感光性接着剤組成物の成分として使用すること,及び,このような単官能(メタ)アクリレートを用いることで,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができることが知られていたことが理解できる。

オ 上記ウで検討したように,引用発明1において,「一官能ラジカル重合性モノマー」として,分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートを使用することは,当業者が適宜なし得たことであり,当該分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有する(メタ)アクリレートとして,具体的にどのような材料を用いるかは,単なる設計事項であったと理解できる。
そして,上記エで検討したように,引用発明1と共通する技術分野において,単官能(メタ)アクリレートとして,東亜合成社等から供給される,「M-140」という「2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート」等の,イミド基含有(メタ)アクリレートを用いることが知られており,しかも,引用例3には,イミド基含有(メタ)アクリレートを,感光性接着剤組成物の成分として使用することで,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができると記載されており,引用例3に示された,これら光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性等の特性が,引用発明1の半導体用接着剤においても優れていることが望ましい特性であることは,引用発明1と,引用例3に接した当業者であれば直ちに理解するものといえる。
そうすると,引用発明1を実施するに際して,引用発明1の「一官能ラジカル重合性モノマー」である材料を具体的に選定するにあたり,引用発明1の「一官能ラジカル重合性モノマー」を,引用例3に示された,「2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート」(M-140)等の,イミド基含有(メタ)アクリレートを含むものとすることは,適宜なし得たことと認められる。
したがって,引用発明1において,上記相違点2に係る本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求の理由において,審判請求人は,「さらに,上記審査基準における『進歩性の存在を推認できる根拠』について,第II部第2章2.5(3)には,『引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には,進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として,これを参酌する。ここで,引用発明と比較した有利な効果とは,発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち,引用発明の効果と比較して有利なものをいう』との記載がされております。
この点,本願発明1,8及び15は,上記技術的特徴Cを具備することにより,『半導体ウェハや有機基板などの塗布したときのハジキやピンホールを抑制でき,かつ硬化後に優れた接着性を発現できる』という優れた効果を奏します(本願明細書の段落0092)。このような効果は,放射線重合性化合物として『イミド基含有(メタ)アクリレート』を用いた本願の実施例1?3において,バンプ部分のボイドが十分に低減された薄膜の接着剤層付き半導体ウェハが得られていることからも明らかです。そして,上記効果を奏する本願発明1,8及び15の構成は,『バンプ部分のボイドが十分に低減されており,なおかつ研削後の反りを十分小さくすることができる接着剤層付き半導体ウェハを得ることができる接着剤層付き半導体ウェハの製造方法,並びに,そのような接着剤層付き半導体ウェハを用いる,半導体装置の製造方法,半導体素子付き半導体ウェハの製造方法,及び,半導体ウェハ積層体の製造方法を提供する』(本願明細書の段落0010)という本願発明の課題を認識して初めて想到し得るものです。
一方,引用文献1,4及び5には,『金属バンプが形成された回路面を有する半導体ウェハ』が記載されておりませんので,このような引用文献1,4及び5から上記本願発明の課題は認識し得ません。そうすると,引用文献1,4及び5に基づき,上記本願発明の課題に基づく本願発明1,8及び15の構成に想到することは当業者といえども困難であり,本願発明1,8及び15の構成に基づく上記効果を予測することは,一層困難であると思料します。
以上のことから,上述した本願発明の効果は,引用文献1,4及び5に記載された発明と比較して有利な効果であるといえるものと思料致します。」と主張する。

イ しかしながら,審判請求人の前記主張は採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
すなわち,引用例1の上記摘記(1f)の記載は,接着剤層を,回路面を有する半導体ウェハの前記回路面上に設けることを意味するものと理解でき,さらに,上記「相違点1について」で検討したように,引用例1の上記摘記(1k)の記載は,接着剤を,回路面を有する半導体ウェハの前記回路面上に設け,その後,当該接着剤をBステージ化し,つぎに,半導体チップを基板に位置あわせしてのせ,圧着して,半導体装置を得るという方法を示唆するものと理解できる。
そして,引用例2及び周知技術に照らして,半導体ウェハの前記回路面が金属バンプを有することは通常のことと認められる。
そうすると,引用例1には,実質的に,金属バンプが形成された回路面を有する半導体ウェハが記載されていると認められるから,「引用文献1・・・には,『金属バンプが形成された回路面を有する半導体ウェハ』が記載されておりません」とする審判請求人の主張は採用することはできない。

ウ 加えて,引用例1の上記摘記(1g)の「また,粘度が200Pa・s以下になると,シリンジから接着剤を出す際に,適度な圧力で接着剤を出すことができ,出す時の時間も短縮できる。さらに印刷時に接着剤表面にスジ,泡等が入ることも少なくなり,作業性に優れる。このような利点は,シリンジやカップで接着剤を供給する場合以外にもあてはまる。好ましい粘度は,10Pa・s以上100Pa・s以下である。」との記載は,接合部における「泡」すなわち「ボイド」の生成を抑制する点で,本願発明1と同様な効果を示唆するものと認められる。すなわち,引用発明1においても,粘度を調整することによって,例えば,バンプ部分のボイド等の泡を少なくなくすることができると認められるから,審判請求人が主張する前記効果は格別のものとは認められない。

エ さらに,審判請求人は,「放射線重合性化合物として『イミド基含有(メタ)アクリレート』を用いた本願の実施例1?3において,バンプ部分のボイドが十分に低減された薄膜の接着剤層付き半導体ウェハが得られていることからも明らかです。」として,「(A)放射線重合性化合物」として「イミド基含有(メタ)アクリレート」を含むものであることを選択したことによる特段の効果を主張する。
しかしながら,本願の発明の詳細な説明には,放射線重合性化合物である「M-140」及び「AMP-20GY」を含む,実施例1ないし3に係る接着剤が,放射線重合性化合物を含まず,熱可塑性樹脂を含む,比較例1ないし3と比べて良好な特性を示すことが記載されているにすぎない。
そうすると,本願の発明の詳細な説明の記載からは,比較例1ないし3と比べて,本願の実施例1ないし実施例3が良好な特性を示すのは,接着剤が,「熱可塑性樹脂」ではなく,「放射線重合性化合物」を含むことによる効果であると理解することができるとしても,「(A)放射線重合性化合物」として「イミド基含有(メタ)アクリレート」を含むことを選択したことによる効果であるとは認められない。
しかも,実施例1ないし3は,いずれも,「(A)放射線重合性化合物」として,「イミド基含有単官能アクリレート」である「M-140」と,「イミド基含有(メタ)アクリレート」ではない「単官能アクリレート」である「AMP-20GY」とを,60:20の質量比で含むものである。
そうすると,本願の発明の詳細な説明の記載からは,本願の実施例1ないし実施例3が,比較例1ないし3と比べて良好な特性を示すのが,前記「(A)放射線重合性化合物」が,「M-140」を含むことによる効果なのか,「AMP-20GY」を含むことによる効果なのか,あるいは,「M-140」と「AMP-20GY」とを60:20の質量比で含むようにしたことによって得られた効果なのか,いずれを原因とした効果であるのかを知ることができない。
してみれば,この点においても,本願発明において,「(A)放射線重合性化合物」として「イミド基含有(メタ)アクリレート」を含むものであることを選択したことによる特段の効果を認めることはできない。

オ 以上検討したように,本願の発明の詳細な説明の記載からは,本願発明1において,「(A)放射線重合性化合物」を,「分子内に1つの炭素-炭素二重結合を有するイミド基含有(メタ)アクリレートを含む」ものとしたことによる顕著な効果を認めることができないから,審判請求人の主張は採用することはできない。

カ また,審判請求の理由において,審判請求人は,「上記認定において,審査官殿は,引用文献1に記載される発明において,放射線重合性化合物としてイミド基含有(メタ)アクリレートを採用することは『最適材料の選択』であると判断しているように見受けられます。しかしながら,上記審査基準に照らせば,『最適材料の選択』というためには,『一定の課題を解決するために』という動機付けが必要となります。
この点,引用文献1においては,引用文献1に記載される発明に『反り量』や『硬化性や密着性,柔軟性』を向上させるという課題が存在することは何ら示唆されておりません。引用文献1に記載される発明は,『印刷後の接着剤を加熱することによりタックをなくす手法では,溶剤を揮発させたり,樹脂成分の一部をB-ステージ化する際の加熱工程にどうしても時間がかかってしまい,半導体装置製造工程がより長くかかってしまう』ことを課題としているのであって(引用文献1の段落0006),『反り量』や『硬化性や密着性,柔軟性』を向上させることは,引用文献1に記載される発明の課題ではありません。
そうすると,引用文献1に記載される発明において,放射線重合性化合物としてM-140を採用することには,『一定の課題を解決するために』という動機付けがあるとは言えず,『イミド基含有(メタ)アクリレートを採用すること』は『最適な材料を選択すること』とはいえないと思料します。」と主張する。

キ しかしながら,上記主張は採用することができない。
すなわち,引用発明1は,半導体用接着剤を用いた半導体装置の製造方法に係る発明であるところ,接着剤が,良好な接着性を有するものであることが望ましいことは,接着剤が接着という機能を有する材料であることから,自明な事項であるといえる。
したがって,引用例1に,接着剤の接着性について何らの記載が存在しなくとも,引用発明1が,半導体用接着剤の接着性が向上することが望ましいという課題を内在していることは,当業者であれば当然に理解するといえる。
そうすると,引用例3の表3において,M-140を使用することで,良好な接着性を有する感光性接着剤組成物を得ることが示されており,また,引用例3の上記摘記(3d)に,「第1の感光性接着剤組成物において,(C)成分は,単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。これにより,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができる。・・・このような単官能(メタ)アクリレートとしては,特に限定はしないが,・・・イミド基含有(メタ)アクリレート・・・などの中から,5%重量減少温度が150℃以上の化合物が挙げられる。」と記載され,イミド基含有(メタ)アクリレートを使用することで,光硬化時に架橋密度を低減することができ,光硬化後の低温熱圧着性,低応力性及び接着性を改善することができることが示されているのであるから,当業者であれば,引用発明1の一官能ラジカル重合性モノマーを,M-140等のイミド基含有(メタ)アクリレートを含むものとする動機付けは存在するものと認められる。

ク また,審判請求の理由において,審判請求人は,「平成27年1月6日付け拒絶理由通知書において,審査官殿は,『引用文献4(特に,第243-269段落参照)には,接続信頼性を向上させるための技術において,感光性接着剤層形成用ワニスの放射線重合性化合物として,2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレートを用いることが示されている。』とご指摘されました。
しかしながら,引用文献4には,放射線重合性化合物として,敢えて2-(1,2-シクロヘキサカルボキシイミド)エチルアクリレート(以下,『M-140』と言います。)を用いる技術的意義は何ら記載されておりません。そして,審査官殿が摘示された引用文献4の実施例IV(引用文献5の段落0253(表3))において,M-140は,混合して用いられる複数種類の放射線重合性化合物のうちの一つとして用いられているに過ぎません。このような引用文献4は,引用文献1に記載の発明において,敢えてM-140を用いることを,当業者に動機づけるものではありません。
むしろ,引用文献4の表3,表5及び表6の結果を参酌した当業者であれば,引用文献1の放射線重合性化合物として,M-140ではなく,引用文献4におけるC-1,C-2,C-3等の放射線重合性化合物を用いるように動機づけられるものと思料します。
すなわち,引用文献4の段落0253(表3)には,M-140を用いた実施例IVの感光性樹脂組成物(感光性接着剤組成物)が,M-140以外の放射線重合性化合物を用いた実施例II,III及びVの感光性樹脂組成物よりも,最低溶融粘度及び高温接着性において劣ることが示されております」と主張する。

ケ しかしながら,上記主張は採用することができない。
すなわち,引用例3(引用文献5)の表3には,放射線重合性化合物として,C-1,C-2,M-140等の材料を使用した場合に,いずれも,表4の比較例と比べて,良好な評価結果を得ることができたことが記載されている。
したがって,当業者であれば,引用例3に例示された放射線重合性化合物のいずれをも,必要に応じて適宜使用し得るものと認められる。
審判請求人は,「M-140を用いた実施例IVの感光性樹脂組成物(感光性接着剤組成物)が,M-140以外の放射線重合性化合物を用いた実施例II,III及びVの感光性樹脂組成物よりも,最低溶融粘度及び高温接着性において劣ることが示されております」と主張するが,最低溶融粘度及び高温接着性の評価は,いずれも良好と判定される範囲内におけるばらつきにすぎないと認められる。
すなわち,表3の評価結果は,当業者が,放射線重合性化合物を,例えば,引用例1の上記摘記(1g)の「以上のパラメータは,例えば,本発明に含まれる,ラジカル重合性モノマー,熱硬化性樹脂の種類や混合比等を調整することによって得ることができる。」との記載に基づいて,ラジカル重合性モノマーの種類を調整するために選択する際に,あるいは,材料の単価,購入・取り扱いの容易さ等の事情に照らして材料を選択する際に,M-140を選択することを選択肢から排除すべきほどの事情であると認めることはできない。
したがって,審判請求人の主張は採用することができない。

(4)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明1において,上記相違点1,2に係る本願発明1の構成を採用することは,引用例2,引用例3に記載された技術的事項に基づいて容易になし得たことである。
したがって,本願発明1は,引用例1ないし引用例3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-03 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-21 
出願番号 特願2011-106322(P2011-106322)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼須 甲斐  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
飯田 清司
発明の名称 半導体装置の製造方法、半導体素子付き半導体ウェハの製造方法及び接着剤層付き半導体ウェハの製造方法  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 池田 正人  
代理人 古下 智也  
代理人 清水 義憲  
代理人 城戸 博兒  

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