• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1326926
異議申立番号 異議2015-700212  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-24 
確定日 2017-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5724159号発明「攪拌装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5724159号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1-3]について,訂正することを認める。 特許第5724159号の請求項1に係る特許を取り消す。 特許第5724159号の請求項2及び3に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第5724159号(設定登録時の請求項の数は3。以下、「本件特許」という。)は、平成21年7月23日に出願された特願2009-172101号に係るものであって、平成27年4月10日に設定登録された。
特許異議申立人 星正美(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成27年11月24日付けで、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当合議体において、平成28年1月21日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、同年3月28日付けで、訂正請求書及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年5月16日付けで意見書を提出した。
当合議体は、平成28年7月11日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者は、同年9月12日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年10月19日付けで意見書を提出した。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?オのとおりである。
ア 特許請求の範囲の請求項1に
「回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、
を備える攪拌装置。」
とあるのを、
「回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受とを備え、
前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、
前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、
前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、
前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されている攪拌装置。」
に訂正する。

イ 特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 特許請求の範囲の請求項3を削除する。

エ 願書に添付した明細書の段落【0016】に、
「[1] 回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、を備える攪拌装置。」
とあるのを、
「[1] 回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受とを備え、前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されている攪拌装置。」
に訂正し、段落【0017】を削除する。

オ 願書に添付した明細書の段落【0030】に
「分解を用意にし」
とあるのを、
「分解を容易にし」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項アについて
訂正事項アは、訂正前の請求項1に請求項2、3を加え、さらに「縦方向に延びた」と「前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されている」と特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項アは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項アは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項イについて
訂正事項イは、特許請求の範囲の請求項2を削除するというものであるから、当該訂正事項イは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項イは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項ウについて
訂正事項ウは、特許請求の範囲の請求項3を削除するというものであるから、当該訂正事項ウは、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、当該訂正事項ウは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項エについて
訂正事項エは、上記訂正事項ア?ウに係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0016】の記載を訂正事項アに対応するように訂正するとともに、段落【0017】を削除するものであるから、当該訂正事項エは、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正事項エは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 訂正事項オについて
訂正事項オは、願書に添付した明細書の段落【0030】に、「分解を用意にし」とあるのを、「分解を容易にし」と訂正するものであるから、当該訂正事項オは、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、当該訂正事項オは、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6) 一群の請求項
訂正事項ア?オは、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-3]について、訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は適法であるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成28年9月12日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受とを備え、
前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、
前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、
前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、
前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されている攪拌装置。」

第4 取消理由(決定の予告)
平成28年7月11日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、本件特許の請求項1に係る発明(平成28年3月28日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に係る発明。)は、下記刊行物1又は2に記載の発明及び刊行物5の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消すべきであるを含む。

刊行物1: 「改訂二版化学装置便覧」第459?465頁、丸善株式会社、平成元年3月30日発行(異議申立書の証拠方法である甲第1号証。以下、単に「甲1」という。)
刊行物2: 特開平7-12137号公報(異議申立書の証拠方法である甲第2号証。以下、単に「甲2」という。)
刊行物5: 特開平11-287330号公報(異議申立書の証拠方法である甲第5号証。以下、単に「甲5」という。)

第5 当合議体の判断
本件発明は、取消理由(決定の予告)で通知した甲1又は甲2に記載の発明及び甲5に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって取り消されるべきものである。
また、請求項2及び3は、本件訂正請求により削除され、異議申立ての対象が存在しないこととなったので、当該請求項2及び3に対する異議申し立てを却下する。

1 刊行物
甲1、甲2、甲5

2 刊行物の記載事項
本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。

ア 「11・4 反応器
・・・
11・4・2 反応器の構造
・・・

a.攪拌機付き反応器
・・・反応器は図11・53に示すように槽または塔の内部に攪拌機を設け、反応物を攪拌しながら反応を進行させる。・・・この形式の反応器は各種合成樹脂の重合缶、ベンゼンの塩素化など、あるいは、リン酸肥料製造の反応器などの無機、有機化学共、広く利用されている。」(第459頁右欄23行?第460頁右欄下から9行)

本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。

イ 「【請求項1】容器を貫通した撹拌軸を支持する軸受部と駆動装置との間に固定軸継手の一方が軸方向移動可能な固定軸継手を設け、この固定軸継手を介して駆動装置の出力軸と撹拌軸とを連結したことを特徴とする撹拌機用駆動装置。」(特許請求の範囲の請求項1)

ウ 「【産業上の利用分野】本発明は、建屋内部等に設置するため高さが制約される竪型撹拌機に好適な撹拌機用駆動装置に関するものである。」(段落【0001】)

エ 「【実施例】本発明の一実施例を図1により説明する。1は容器、2は容器1を貫通する撹拌軸3の軸封部、4は撹拌軸3のスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支持する軸受で、軸受箱5及び軸受蓋6で固定される。7は撹拌軸3に挿入固着された下部固定軸継手で、駆動装置9に設置された軸受11に支持された出力軸10に隙間13を設けて遊合挿入された上部固定軸継手8にリーマーボルト12により連結され、撹拌部に加わるラジアル荷重は軸封部2上部の軸受4及び駆動装置9に設置された軸受11により支持され、回転は駆動装置9より上下固定軸継手8、7のリーマーボルト12を介して撹拌軸3に伝達される。運転中、軸受4、11間で撹拌軸3の温度上昇等により軸に熱膨張が生じた場合、出力軸10部の隙間13により上下固定軸継手8、7が動いて熱膨張を吸収することができ、軸受4、11への熱膨張により発生するスラスト荷重を無くし、かつ、軸封部2方向への軸移動が無くなり、軸封部2のメカニカルシールの洩れを防止することができる。
図2は固定軸継手のボス外周に軸方向移動可能なフランジを装着した他の実施例で、出力軸10に挿入固着されたカップリングボス16外周にキー14を介して動力伝達可能なフランジ15をカップリングボス16に遊合挿入したもので、それにより、軸受4、11間の熱膨張を容易に吸収することができ、かつ、カップリングボス16とフランジ嵌合部が軸方向移動等により摩耗した場合、駆動装置9の出力軸10を修正交換することなく、カップリングボス16とフランジ15のみを交換することが可能である。」(段落【0009】?【0010】)

オ 「

」(図1)

本件特許の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲5には、以下の事項が記載されている。

カ 「【請求項1】 回転機器の軸封部機枠に取り付けられたシールケースと、
軸封部機枠を貫通する回転軸に軸線方向に相対移動可能に且つ相対回転不能に保持されたスリーブと、
シールケースとスリーブとを軸線方向に相対移動不能に且つ相対回転可能に連結する連結部材と、
スリーブに固定された回転密封環と、
シールケースに、回転密封環に対向した状態で、軸線方向に移動可能に且つ相対回転不能に保持された静止密封環と、
シールケースと静止密封環との間に静止密封環を回転密封環へと押圧附勢すべく介挿された附勢部材と、を具備することを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】 回転機器の軸封部機枠にこれを貫通する回転軸の軸線方向に移動可能に連結支持されたシールケースと、
シールケースと回転軸とを軸線方向に相対移動可能に且つ相対回転不能に連結する連結部材と、
回転軸に固定された回転密封環と、
シールケースに、回転密封環に対向した状態で、軸線方向に移動可能に且つ相対回転不能に保持された静止密封環と、
シールケースと静止密封環との間に静止密封環を回転密封環へと押圧附勢すべく介挿された附勢部材と、を具備することを特徴とするメカニカルシール。」(特許請求の範囲)

キ 「本発明は、このような点に鑑み、回転軸の軸長が熱歪等により伸縮変化するような回転機器においても、両密封環の軸線方向における相対位置を適正に保持し得て、良好な軸封機能を発揮させることができるメカニカルシールを提供することを目的とするものである。」(段落【0009】)

ク 「スリーブ6は、図1に示す如く、シールケース5の前後長と略同一長さの円筒体であり、シールケース5内に配して回転軸4に軸線方向に相対移動可能に嵌合保持されている。スリーブ6の前後端部内周には一対の環状シール材(Oリング又は膨張黒鉛製シール材等)26、27が係合保持されていて、スリーブ6と回転軸4との間を、スリーブ6の軸線方向における相対移動を許容する状態で、二次シールしている。また、図1及び図2に示す如く、シール材26、27間に配してスリーブ6に軸線方向に延びる長孔28を形成すると共に、回転軸4に長孔28に係合するボルト29を螺着することによって、スリーブ6の回転軸4に対する軸線方向の相対移動を許容しつつ、回転軸4に対する相対回転を阻止している。なお、長孔28の前後長つまりスリーブ6の軸線方向における相対移動範囲は、予測される回転軸4の熱歪による軸長変化量に応じて設定されている。また、ボルト29には保護リング30が嵌挿されていて、ボルト29が回転軸4の軸長変化により長孔28の前後端部に衝突するような事態が発生した場合にも、ボルト29の螺子部が破損しないように工夫されている。
連結部材7は、図1に示す如く、スリーブ6の後端部とベアリング支持体24との間に装填されたベアリング(この例では、スラストベアリングを使用)で構成されており、シールケース5とスリーブ6とを相対回転可能に且つ径方向及び軸線方向に相対変位不能に連結している。なお、スリーブ6とベアリング支持体24との間には、ベアリング7の前位に配して、オイルシール31が設けられており、シールケース5には、グリース等の潤滑材をベアリング7に注入させるための潤滑材注入孔32が形成されている。
回転密封環8は、図1?図3に示す如く、シールケース5内に配してスリーブ6の前端部に嵌合固定されている。」(段落【0019】?【0020】)

ケ 「

」(図1、2)

3 甲1に記載された発明
上記2 アにおける「図11・53 攪拌機付反応器」の図面とその図面に関する具体的な説明の記載からみて、甲1には次のとおりの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させるモータ-・減速機と、
前記モーター・減速機を攪拌機付反応器本体の外部に備え、攪拌機付反応器本体内にて合成樹脂の重合を行う攪拌機付反応器本体と、
モーター・減速機からの出力軸と攪拌翼の回転軸とが、接続部位を介して攪拌機付反応器本体外部で一直線上に接続され、モーター・減速機により反応器内で回転する攪拌翼と、
攪拌翼付反応器本体外部にて接続部より下方に設置され、縦方向に延びた攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、
を備える攪拌機付反応器。」

4 甲2に記載された発明
甲2の上記2 イ?オの記載からみて、次のとおりの発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「回転可能な出力軸を有し前記出力軸を回転させる駆動装置と、
前記駆動装置を容器外に備え、容器内にて攪拌を行うものであり、
前記容器の容器外にて前記出力軸と上下軸継手により接続され、前記駆動装置により容器内にて回転運動する攪拌翼と、
前記容器の容器外にて前記上下軸継手の下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の攪拌軸を回転可能に支持する軸受と、
を備える縦型攪拌機。」

5 甲5に記載の技術事項
上記2 カ?ケには、回転軸の軸長が熱歪等により伸縮変化するような回転機器においても、両密封環の軸線方向における相対位置を適正に保持し得て、良好な軸封機能を発揮させることができるメカニカルシールを提供するための軸受の回転軸への固定法として、回転軸(4)に対して環状のスリーブ(6)を介してベアリング(7)を取り付けるものであって、スリーブ(6)がスリーブ本体と、軸部を固定するためのボルト(29)、Oリング(26、27)からなるものであって、スリーブ(6)がベアリング(7)及び回転密封環(8)と回転軸(4)との間に設けられているものが記載されている。
そして、ベアリング(7)の内側がスリーブ(6)に取り付けられていることから、甲5には、スリーブ(6)は、スリーブ本体と、回転軸(4)を固定するための固定ボルト(29)、Oリング(26、27)から構成され、前記ベアリング(7)の内輪及び回転密封輪(8)と前記回転軸(4)との間に前記スリーブ(6)を設けているといえるし、スリーブ(6)は回転軸(4)に固定ボルト(29)で固定されるものであるから、ベアリング(7)を組み付けたスリーブ(6)を差し込んで固定されるものといえる。
上記甲5に記載の技術事項における「ベアリング(7)」、「Oリング(26、27)」、「回転軸(4)」、「回転密封環(8)」は、それぞれ、本件発明の「軸受」、「シールガスケット」、「軸部」、「回転輪」に相当する。
そうすると、甲5には、本件発明における部材名でいえば、以下の技術事項が記載されているといえる。
「軸受の軸部への固定法として、軸受は軸部を管状のスリーブを介して取り付け、スリーブは、スリーブ本体と、軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成され、軸受の内輪及び回転輪と軸部との間にスリーブが設けられ、軸部に軸受を組み付けたスリーブを差し込むもの」

6 本件発明と甲1発明の対比・判断
本件発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「モーター・減速機」、「攪拌機付反応器本体」は、それぞれ、本件発明1の「動力部」、「攪拌槽」に相当する。
甲1発明の「合成樹脂の重合を行う」は、技術常識から、樹脂組成物溶液を製造する場合を包含している。
甲1発明の「接続部位」は、技術常識から「カップリング」を意味する。
そして、甲1発明の「攪拌機付反応器」は、本件発明1の「攪拌装置」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明とは

「回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受とを備え、
る攪拌装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
軸部と軸受けの固定に関して、本件発明は「前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されて」いると特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1について
甲5には、上記5に記載の、回転軸の軸長が熱歪み等により伸縮変化するような回転機器における軸受の回転軸への固定法に関する技術事項が記載されている。
そして、本件特許の出願前の当業者にとって、回転軸に設けられた軸受の回転軸の熱歪み等により、回転軸が伸縮し、軸受との位置関係に狂いが生じる問題に対応することは、加熱下、多種の重合・攪拌条件で使用される樹脂の製造に使用される攪拌機においても求められることであるから、甲1に記載はなくとも当業者が考慮すべき技術事項であったといえる。
そうすると、甲1発明の回転軸と軸受との関係において、上記5に記載の軸受の回転軸への固定法(軸受は軸部を管状のスリーブを介して取り付け、スリーブは、スリーブ本体と、軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成され、軸受の内輪及び回転輪と軸部との間にスリーブが設けられ、軸部に軸受を組み付けたスリーブを差し込むもの)を採用することは当業者が想到容易である。ここで、上記5に記載の軸受の回転軸への固定法は、分解可能であるとの記載はないが、スリーブは固定ボルトで軸部に取り付けるのであるから、スリーブと軸部は分解可能といえる。
効果について検討する。
本件特許の明細書の段落【0002】?【0012】において言及する【発明が解決しようとする課題】に対応するカップリングに起因する異物の発生を無くす点については、甲1発明のカップリングも攪拌槽外に設けられていることから、甲1発明においても奏される効果である。
本件特許の明細書の段落【0030】において言及する取り付け作業の容易性、現場での作業性の向上については、甲5に記載の固定法においても軸受をスリーブを介して組み付けるのであるから、甲1発明に甲5に記載の技術事項を適用することにより、当然に同様な効果が奏されるといえ、格別なものとはいえない。

したがって、本件発明は甲1発明及び甲5の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

7 本件発明と甲2発明との対比・判断
本件発明と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「出力軸」、「駆動装置」、「容器」、「上下軸継手」、「攪拌翼の攪拌軸」、「縦型攪拌機」は、それぞれ本件発明の「回転軸」、「動力部」、「槽」、「カップリング」、「攪拌翼の軸部」、「攪拌装置」に相当する。
甲2発明の縦型攪拌機は、当業者の技術常識から、槽内にて樹脂組成物溶液を製造するものといえる。
そうすると、本件発明と甲2発明とは、上記6に記載の一致点で一致し、上記6に記載の相違点1で相違している。
そして、当該相違点1についての判断は、上記6のとおりである。

したがって、本件発明は甲2発明及び甲5の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

第6 特許権者の意見書での主張について
1 特許権者は、平成28年9月12日提出の意見書において、概略以下の主張を行っている。
(1) 甲1、甲2は、本件特許のような0.10μm以下のレベルの微細加工に用いる樹脂組成物溶液を製造するための縦型の攪拌装置というわけではなく、「僅かな異物の発生も問題となる状況下で、カップリングに起因する異物の発生を無くす」という課題は存在せず、本件発明のように「前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、前記軸受を組み付けたスリーブを差し込み、分解可能に構成されて」いるように構成する動機がない。
(2) 甲5は、本件特許のような外部からの異物持ち込みを避けるべくクリーンルーム環境下での使用は全く意図されておらず、図を見ても、かなり大掛かりで複雑なメカニカルシールであり、回転軸も横方向に延びるもので、本件のような簡単な構造でなく分解を容易にすることは想定されていない。さらに、クリーンルーム内という限られた狭い空間での作業性を向上することは及びもつかない。甲5のスリーブは大型の機器への適用は困難で、大型化により差込距離も伸びるため作業性は大きく低下し、通常は攪拌機に適用しようとは考えない。
(3) 本件発明は、大型攪拌機を視野に入れているのに対し、甲5は、図1をみても、軸受を組み付けたスリーブを差し込んだり、分解したりすることが容易にできる構成とはいえない。甲5は、回転軸に対してスリーブを摺動させ軸方向に相対移動をさせ他所の変形を吸収するのが目的の機構で、本件発明のような縦方向に回転軸を有する攪拌装置に適用することは到底考えられない。甲5には、具体的な分解性向上に関する記述はなく、甲5のスリーブ機構(摺動機構)が分解性向上に役立つという結論に辿り着くのは不自然で、甲1又は甲2と、甲5は全く関係ない技術であって、これらを組み合わせる動機もないし、横方向に回転軸を有する甲5を甲1又は甲2と組み合わせることに阻害要因がある。

2 当合議体の判断
本件発明は上記第3に記載のとおりであって、「0.10μm以下のレベルの微細加工に用いる樹脂組成物溶液を製造するための縦型の攪拌装置」であること、「クリーンルーム内で使用する」こと、「大型攪拌機」とは特定されていないから、特許権者の上記主張は請求項の記載に基づくものでなく、失当である。
そして、甲5に記載された技術事項として認定しているのは、上記第5 5に記載のとおりであって、大型であるとか、軸が横方向に延びるものであることは認定していない。そして、甲5は駆動軸の加熱による伸縮での駆動軸と軸受との位置関係に狂いが生じる問題に対処するための技術であるから、縦方向及び横方向いずれに延びた軸であろうが、軸の向きにかかわらず適用可能である。また、甲5の適用を検討している甲1発明又は甲2発明は、大型の機器とは特定されていないから、仮に大型の機器への適用が困難との特許権者の主張が正しいとしても、甲1発明又は甲2発明への適用が困難とはいえない。
また、甲5には、分解性向上についての言及はないが、甲5には、相違点に係る本件発明と同一の構成が記載されていて、その構成により分解性向上という効果が奏されることは当業者において自明といえる。
そうすると、特許権者の上記主張を検討しても、上記第5 6における相違点についての検討は妥当である。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本件発明については、甲1発明又は甲2発明及び甲5の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明2及び3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議の申立ての対象となる請求項が存在しないこととなったので、当該請求項2及び3に対する異議申し立てを却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
攪拌装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌槽内に攪拌翼を備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路素子の製造に代表される微細加工の分野では、より高い集積度を得るために、より微細な加工が可能なリソグラフィー技術が必要とされている。例えば、0.10μm以下のレベルでの微細加工を可能とするために、より波長の短い放射線の利用及び液浸露光が検討されている。この用途に適した樹脂組成物が数多く提案され、使用されている。例えば、レジスト形成用の感放射線性樹脂組成物を含むレジスト組成物及び多層レジストにおける上層膜を形成するための樹脂組成物を含む液浸用上層膜形成用組成物が使用されている。
【0003】
また、これらの組成物を使用する微細化方法においては、更なる高解像度のパターンニングが要求されるようになっており、これらの組成物を用いて得られるパターン表面に生じるディフェクト(現像後のレジストパターンを上部から観察した際に検知される不具合全般のこと。)を無視することができなくなってきている。そのため、その改善が試みられている。
【0004】
このディフェクト要因の1つには、レジスト樹脂を含有する溶液中に、粉体原料の未溶解成分、樹脂の重合の際に副生するオリゴマーや低分子量のポリマー、また生産設備の配管及びバルブ等から混入するゴミ、微粒子等といった固形状の異物が存在することが挙げられる。
【0005】
これらディフェクト要因になり得る異物のうち、樹脂の重合の際に副生するオリゴマーや低分子量のポリマー、および未反応のモノマーにおいては、樹脂溶液に対する貧溶媒を用いた沈殿精製法(特許文献1参照)や、沈殿工程及び/又は洗浄ろ過工程による精製方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0006】
攪拌槽内に存在する異物は、外部から持ち込まれるものと内部で発生するものに分けられる。外部からの異物持込みに対しては、クリーンルーム環境下で生産を行うことによる対策の他、持ち込んでしまった異物を製品の充填前にフィルターで濾過を行う等の対策が取られる。その他にも、原料自体のクリーン化、高純度化が徹底して行われており、特にプロセス内で除去の困難な異物については、徹底した除去が行われている。
【0007】
内部で発生する異物は、発生プロセスは様々なものがあるが、主な要因として原料及び製品の変質によるもの、並びに生産設備の磨耗、損傷による磨耗片や破片などが挙げられる。内部で発生してしまった異物については、固形物についてはフィルターによる除去、非固形物については、沈殿工程及び/又は洗浄ろ過工程による精製などが行われている。プロセス内で発生した異物を取り除くにはコストがかかる他、除去工程自体が異物の発生要因になりえるため、基本的には異物の発生量を抑えることが望ましい。
【0008】
異物の発生原因としては、生産設備内の滞留部、いわゆるデッドスペースが挙げられる。これは、タンク内部の流れが悪い部分のほか、配管の行き止まり部など液の流れの悪い部分全てが該当する。これらのデッドスペースは、洗浄不足による前バッチのコンタミネーションや、長く原料/製品をホールドしているための劣化、温度むらや攪拌むらの原因となり、異物発生の原因では最大のものである。そのため、対策として攪拌槽形状の単純化や、タンク内壁の面形状に完全にフィットするバルブなど様々な対策が取られ、異物対策のレベルは向上してきた。
【0009】
ところで、攪拌装置には、動力部の回転を回転軸を介して攪拌翼に伝達するため、カップリングが設けられている(特許文献3,4の図を参照)。カップリングは有る程度大型の攪拌翼を使用する場合必須の構造である。これまで、例えば、傾斜パドル翼を供える攪拌装置は、図7に示すように、アジテーターの分解を容易に行えるようにするため、カップリング9は、攪拌槽内部の軸部8の上側、軸受11と攪拌翼7の間に設けられてきた。主な理由として、軸受11のメンテナンス時に攪拌翼7を攪拌槽2から引き出す必要が無いため、作業スペースが少なくて済むことが挙げられる。他にも、軸受11の組み立ては、攪拌槽組み立てにおいて特に精度と慎重さを要求する作業の一つであるが、攪拌翼7が付いた状態で組み立てを行うと軸受11に大きな荷重のかかった状態での作業となるため作業性が悪く、そのためカップリング9を攪拌翼7と軸受11の中間に置くことで、攪拌翼7を取り外した状態で軸受11の取り付けを行えるようにするためである。
【0010】
動力部と攪拌翼を接続するカップリングは、見落とされやすいデッドスペースである。サイズが小さく、満液で生産を行うプロセスで無い限り基本的に攪拌槽の気相部にあるため、攪拌には直接的な影響が無いことから異物の発生源として特に注目されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-161052号公報
【特許文献2】特開2005-132974号公報
【特許文献3】特開平5-212261号公報
【特許文献4】特開平8-252444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、近年の異物に対する要求の高度化から、カップリング上部に溜まる僅かな液が品質トラブルの原因となるケースが確認された。これは、過去のケースでは、その他の異物発生要因に紛れて表に現れなかったものであり、異物対策の全体的なレベルが上がったことにより、ようやく判明したものである。また、カップリング上部に溜まった異物が何らかの拍子に一気に落下した場合に、大きく異物のレベルが上昇するため、通常時はあまり目立たず再現性が低いことも解明が困難であった理由の一つである。
【0013】
過去にも、異物対策として、カップリングにカバーを当てるなどの対策が取られたことあるが、カバーとカップリングの隙間は新たなデッドスペースとなり異物発生の原因となり得た。
【0014】
本発明は、このような僅かな異物の発生も問題となる状況下で、カップリングに起因する異物の発生を無くす攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、カップリングを攪拌槽の槽外に設けることによって、カップリング起因の異物発生の可能性を完全に無くすことができる。すなわち、本発明によれば、以下の攪拌装置、及びそれを用いて得られた樹脂組成物溶液が提供される。
【0016】
[1] 回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、を備え、前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、前記軸受を組み付けた前記スリーブを差し込み、分解可能に構成されている攪拌装置。
【0017】
(削除)
【発明の効果】
【0019】
本発明のように、カップリングを攪拌槽の槽外に設けることにより、液がカップリング上部に溜まり異物を蓄積する、もしくは長時間留まり続けることで異物を発生することを防ぐことが可能となる。具体的には、前バッチ終了後に投入された洗浄溶剤がカップリング上部に留まり、これが次バッチの製品に落下することで洗浄溶剤と異物が混入するようなケースを防ぐことが出来る。他にも、上方から投入された粉体原料がカップリングの上面に堆積することなく、意図した仕込み量および投入のタイミング通りに反応系に加わる。これにより、設計した高機能性を有する樹脂組成物溶液を、生産バッチ毎での物性のばらつきを生じることなく安定して生産することができる。更には、粉体原料の未溶解分を低減することが可能になるために、得られる樹脂組成物中のディフェクト要因になりうる異物の含有量を低減することが可能になる。
【0020】
つまり、本発明のように、カップリングを槽外に出すことにより、カップリング上部に原料/製品が溜まることを防止し、カップリング起因の異物を完全に無くすことができる。従って、本発明の攪拌装置は、フォトレジスト材料等の電子材料分野に用いられる組成物や、ディスプレイ材料に用いられる配向膜組成物や着色レジスト組成物等の、異物混入に対する管理が厳しく且つ高価な樹脂組成物溶液の製造分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の攪拌装置を示す模式図である。
【図2】傾斜パドルを上方から見た平面模式図である。
【図3】カップリングの一実施形態を示す斜視図である。
【図4】マックスブレンド翼を示す模式図である。
【図5】アンカーパドルを示す模式図である。
【図6A】パドル翼を示す模式図である。
【図6B】パドル翼を上方から見た平面模式図である。
【図7】従来の攪拌装置の一実施形態を示す模式図である。
【図8A】従来の軸受の断面図である。
【図8B】従来の軸受の一部断面斜視図である。
【図9】スリーブを備えない攪拌装置の組み付け作業手順を示す模式図である。
【図10A】本発明の攪拌装置の軸受の断面図である。
【図10B】本発明の攪拌装置の軸受の一部断面斜視図である。
【図11】スリーブを備える本発明の攪拌装置の組み付け作業手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0023】
図1に、本発明の一実施形態の攪拌装置1を示す。攪拌装置1は、回転可能な回転軸5を有し回転軸5を回転させる動力部4と、動力部4を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽2と、攪拌槽2の槽外にて回転軸5とカップリング9により接続され、動力部4により槽内にて回転運動する攪拌翼7と、を備える。
【0024】
本実施形態では、攪拌翼7として傾斜パドル7pを備える。図2に傾斜パドルの平面図を示す。傾斜パドル7pは、30?60°傾斜させた平板を複数枚組み合わせたものであり、翼部自体が傾斜し、軸部8に支持されている。
【0025】
本発明の攪拌翼7の材質は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂によるライニング品などを挙げることができる。これらの中でも、通液時にディフェクト発生の要因になる異物の混入量が少ないため、ステンレス鋼、フッ素系合成樹脂によるライニング品が好ましい。
【0026】
攪拌槽2の槽外には、モーター4a、減速部4b等の動力部4を備える。動力部4は、回転可能な回転軸5を有する。モーター4aと減速部4bによって、回転軸5を所望の回転速度にて回転させることができる。回転軸5にはカップリング9が設けられており、カップリング9により、モーター4a、減速部4b等の動力部4と攪拌翼7を接合し、動力部4の回転力を攪拌翼7に伝達している。図3にカップリング9の一実施形態を示す。カップリング9は、回転軸5の端部に設けられたフランジ部5fと、攪拌翼7の軸部8の端部に設けられたフランジ部8fとが、ボルトによって固定されたものである。ボルトにて固定されているため、攪拌翼7を容易に取り外してメンテナンスを行うことができるし、傾斜パドル以外のものに変更することも容易である。カップリング9は、図1に示すように、槽外に設けられている。
【0027】
攪拌槽2は、略半球形状の底部と、その底部の周縁部から上に立設される円筒状の側壁部によって形成され、所定の容積を有する竪型円筒状のタンクであり、ステンレス、鉄等の金属によって形成されている。そして、上部には、略半球形状の蓋部3、中心部には、槽内に垂下するように、槽外のモーター4aによって回転可能とされた回転軸5にカップリング9にて接続された軸部8を有する攪拌翼7が備えられている。カップリング9より下方は、攪拌翼7の軸部8が軸受11に挿入されて蓋部3から槽内に垂下している。
【0028】
従来、図7、図8A及び図8Bに示すように、攪拌槽2の蓋部3には、軸受11が設けられ、軸受11にて、回転軸5を支持するように構成されていた。より詳しく言うと、軸受11はユニット化されており、軸受部及び内容物の漏洩を防止するシール機構より構成されている。軸受部の内輪11a及びシール機構の回転環11cは通常は動力部4に接続された回転軸5に直接取り付けられており、回転軸5と一体となって回転するようになっている。そのため、カップリング9を槽外に設ける場合、攪拌翼7の軸部8に対し軸受部の内輪11a及びシール機構の回転環11cを直接組み付ける必要が出てくるため、軸受の組み立て作業に広いスペースが必要となる他、細かな調整などの作業が行いにくくなり作業性が低下する。
【0029】
具体的には、軸受部は狭い面積で荷重を支える必要が有ることからバランス良く取り付ける必要が有り、また、シール機構は回転環11cと固定環11dを精密に位置あわせを行い摺動させることで攪拌槽内容物の漏洩を防いでいるため、どちらも回転軸5に対し精度よく組み付ける必要が有る。そのため、実際に組みつけて回転軸5を回転させ、バランスを確認する作業が必要となるが、カップリング9が槽外に出ている場合、動力部4に接続された回転軸5でなく攪拌翼7の軸部8に取り付ける必要があり、軸部8は異物対策として分解できる箇所をほとんど持たないことから、大きな状態で回転させる必要が有り確認作業が困難となる。また、軸受11の蓋部3への組み付けに際し、軸部8が付いていた状態での取り付け作業は、長い軸部8の慣性力で位置あわせが難しくなるうえ、衝突などによる破損の可能性が高まる。その他にも、図9の左図に示すように、軸受11を軸部8に組みつけてから、図9の右図のように攪拌翼7を取り付ける必要が有り、攪拌翼7の取り付けは現場で大きく蓋を引き上げて作業が必要となる上、その後に蓋部3と攪拌槽2を接続する必要が有ることから、大きく作業性が低下してしまう。
【0030】
そのため、本願発明の攪拌装置1は、回転側の内輪11a及び回転環11cを直接軸部8に取り付けるのではなく、図10A及び図10Bに示すように、内輪11a及び回転環11cと軸部8との間にスリーブ(さや管)12を設け、それを介してそれぞれを固定することで分解を容易にし、作業性の低下を回避する。スリーブ12は、管状のスリーブ本体12aと、軸部8を固定するための固定ボルト12b、シールガスケット12cから構成されており、軸受11は、攪拌翼7の軸部8をスリーブ12を介して支持する。スリーブ12の材質は特に制限は無いが、品質上の観点より強度上問題が無ければ軸部と同じ材質が望ましい。このように構成することにより、図11に示すような手順にて作業を行うことができる。まず、図11左図に示すように、軸受部(内輪11a,内輪以外11b)とシール機構(回転輪11c、固定輪11d)をスリーブ12に取り付ける。スリーブ12は軸部8と比較して小さいため、取り付け作業は容易に行える。攪拌翼7は軸部8に組み付けた状態とし、その状態で軸部8は蓋部3に通した状態で待機する。その後、軸受を組み付けたスリーブ12を上から軸部8に差込み、軸受11と軸部8の組み付け準備を完了する。その後に行う、軸受11と蓋部3、軸受11と軸部8、蓋部3と攪拌槽2、この3箇所の組み付けは、状況により作業の行いやすい順番で組み付けてよい(図11の中央図、右図)。スリーブ12と軸部8を固定することで軸受の軸部8に対する取り付けを行う。スリーブ12と軸部8の組み付け精度は、多少のずれであればスリーブ12に設けたシールガスケット12cで吸収することが可能であり、現場での作業性は向上している。
【0031】
なお、カップリング9は、図3に示すような実施形態に限定されず、動力部4の回転軸5と、回転翼7の軸部8とを連結することができる構造であればよい。このような構造として、例えば、クランプや、その他の継手を採用することもできる。
【0032】
本発明の攪拌装置は、攪拌槽2内に、邪魔板(バッフル)10を備える。具体的には、攪拌槽2には、その内壁面に沿うように軸方向に延出した2枚、または4枚の邪魔板10が円周方向に配設されている。回転軸5の回転に伴って回転する攪拌翼7による旋回する液体の回転速度は邪魔板10によって抑制され、攪拌翼7と液体との間には速度差が生じ、攪拌作用が促進され、攪拌効率を増すことができる。
【0033】
本発明の邪魔板10の構造は、特に制限がなく、一般的な邪魔板を適宜選択、適用することができる。本発明の邪魔板10の材質は、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有樹脂によるライニング品などを挙げることができる。これらの中でも、通液時にディフェクト発生の要因になる異物の混入量が少ないため、ステンレス鋼、フッ素系合成樹脂によるライニング品が好ましい。
【0034】
本発明の攪拌翼7の構造は、上記半導体製造用のフォトレジスト組成物溶液、および液晶素子材料用の樹脂組成物溶液を攪拌することが出来れば、特に制限はないが、十分な攪拌効率を達成する観点から、図1及び図2に示した傾斜パドル翼の他、図4に示すマックスブレンド翼(登録商標)、図5に示すアンカーパドル、図6A,6Bに示すパドル翼が特に好ましい。
【0035】
図4に示すマックスブレンド翼7mは、平板状の大きな攪拌面積を有した翼部の上部に、格子状にグリッド孔が形成されたグリッド部7nを有する。図5に示すアンカーパドル7gは、軸部8の最下端に、攪拌槽2の底面の形状に沿って径方向から鉛直上方に湾曲して延びる錨翼7hによって構成される馬蹄形の翼部を有する。図6A,6Bに示すパドル翼は、平板形状の攪拌翼であり、上下に2段配置されている。
【0036】
本発明における既存の攪拌装置(図7参照)との違いは、気相部に位置するカップリングの配置であり、液相部にはほとんど影響を与えない。そのため、既存の攪拌装置に対し本対策を実施する場合でも、対策前と全く同等の攪拌が実施可能である。具体的には、回転数を変更することなく、攪拌状況を表す主要なパラメーターであるレイノルズ数も完全に同じ条件での運転が可能である。このことは、新規に本対策を織り込んだ攪拌装置を製作する場合でも、これまでの思想に基づく攪拌装置と同等の攪拌効果を持つ攪拌装置が作れることを意味する。
【0037】
次に樹脂組成物溶液の製造方法について説明する。まず、攪拌装置1のタンク下部バルブ15を閉にした後に、投入部6から、原料を投入し、攪拌装置1にて樹脂組成物溶液の濃度が均一になるまで攪拌する。その後、タンク下部バルブ15を開にして、送液ポンプによって、循環ラインによって循環させ、循環ろ過を行うことにより、樹脂組成物溶液を製造することができる。循環後、ノズルから樹脂組成物溶液を充填瓶に充填し、製品としての樹脂組成物溶液を得ることができる。
【0038】
なお、本明細書において、攪拌装置1を用いて樹脂組成物溶液を製造するとは、樹脂組成物溶液の重合、調製等を意味する。本発明の攪拌装置1は、循環ろ過を行う工程に限られず、攪拌によって反応させる工程にも使用することができる。本発明の攪拌装置1を用いて製造することができる樹脂組成物溶液としては、半導体製造用のフォトレジスト組成物溶液、および液晶素子材料用の樹脂含有組成物等が挙げられる。さらに、半導体材料のリソグラフィー材料、液晶ディスプレイ用材料の配向膜、顔料分散レジスト等に用いられる組成物溶液も挙げられる。
【0039】
不具合となる異物および生産バッチ毎の物性のばらつきの原因は、液がカップリング上部に溜まり異物を蓄積する、もしくは長時間留まり続けることで異物を発生すること及び、粉体原料が攪拌槽2上部から投入されたときに、カップリング9の上部等に堆積し、溶け残り異物となること、および投入量の一部が反応系に加わらないことにある。本発明の攪拌装置1は、カップリング9が槽外に設けられているので、原料が堆積することがなく、溶け残り異物および反応系に加わる原料量のばらつきの発生が十分に低減される。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1:フォトレジスト用樹脂組成物(フォトレジスト組成物溶液)の調整)
図1の攪拌装置をクリーンルーム内に設置し、ポリエチレンフィルター(0.03μm ポール製)のろ過済みレジスト用樹脂含有溶液(2-メチル-2-アダマンチルメタクリレートとノルボルナンラクトンメタクリレートとの共重合体(重量平均分子量;13000)を8質量%含むプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液)を、100kg投入し、常圧下、その後5時間撹拌した。投入前後の異物数を液中パーティクルカウンター(リオン製Ks-41)で計測したところ、投入前が0.3μm以上の異物が10,000個/10ml、投入後0.3μm以上の異物は12,000個/10mlであった。
【0042】
(比較例1:フォトレジスト用樹脂組成物(フォトレジスト組成物溶液)の調整)
図7の攪拌装置を使用した以外は実施例1同様に調整を実施した。投入前後の異物数を液中パーティクルカウンター(リオン製Ks-41)で計測したところ、投入前が0.3μm以上の異物が10,000個/10ml、投入後0.3μm以上の異物は30,000個/10mlであった。
【0043】
カップリングを槽外に設けることにより、槽内に設けた場合に比べ異物数を減少させることができた。これにより、樹脂組成物溶液に含まれる異物に起因するディフェクトを減少させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の攪拌装置は、金属異物等の異物や金属成分等の不純物の混入に対して厳格なサブクォーターミクロンレベルの微細加工等の用途に用いられるフォトレジスト組成物溶液、液浸用組成物溶液、上層膜形成組成物等の樹脂組成物溶液の製造に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0045】
1:攪拌装置、2:攪拌槽、3:蓋部、4:動力部、4a:モーター、4b:減速部、5:回転軸、5f:(回転軸の)フランジ部、6:投入部、7:攪拌翼、7g:アンカーパドル、7m:マックスブレンド翼、7n:グリッド部、7p:傾斜パドル、7t:パドル翼、8:軸部、8f:(軸部の)フランジ部、9:カップリング、10:邪魔板、11:軸受、11a:軸受部(内輪)、11b:軸受部(内輪以外)、11c:シール機構(回転環)、11d:シール機構(固定環)、12:スリーブ、12a:スリーブ本体、12b:固定ボルト、12c:シールガスケット、15:タンク下部バルブ。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な回転軸を有し前記回転軸を回転させる動力部と、
前記動力部を槽外に備え、槽内にて樹脂組成物溶液を製造する攪拌槽と、
前記攪拌槽の槽外にて前記回転軸とカップリングにより接続され、前記動力部により槽内にて回転運動する攪拌翼と、
前記攪拌槽の槽外にて前記カップリングの下方に設置され、縦方向に延びた前記攪拌翼の軸部を回転可能に支持する軸受と、
を備え、
前記軸受は前記攪拌翼の前記軸部を管状のスリーブを介して支持し、
前記スリーブは、スリーブ本体と、前記軸部を固定するための固定ボルト、シールガスケットから構成されており、
前記軸受の内輪及び回転輪と前記軸部との間に前記スリーブを設けており、
前記軸受を組み付けた前記スリーブを差し込み、分解可能に構成されている攪拌装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-15 
出願番号 特願2009-172101(P2009-172101)
審決分類 P 1 651・ 121- ZAA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 村松 宏紀  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 大島 祥吾
守安 智
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5724159号(P5724159)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 攪拌装置  
代理人 菅野 重慶  
代理人 木川 幸治  
代理人 菅野 重慶  
代理人 木川 幸治  
代理人 渡邉 一平  
代理人 渡邉 一平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ