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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1326941 |
異議申立番号 | 異議2016-700029 |
総通号数 | 209 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-05-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-01-15 |
確定日 | 2017-02-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5757788号発明「野菜果汁混合飲料及びその製造方法、並びに、野菜の青臭み抑制方法及び濃厚感改善方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5757788号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2-6〕、7、8について」)訂正することを認める。 特許第5757788号の請求項1?8に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5757788号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年6月12日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人カゴメ株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成28年4月13日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年6月16日に意見書の提出がなされ、平成28年7月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成28年9月21日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、平成28年10月24日に特許異議申立人カゴメ株式会社より意見書の提出がなされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正する。 「【請求項1】 野菜果汁混合飲料の製造方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の製造方法。」(下線は訂正箇所を示す。以下同様である。) (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を以下の事項により特定されるとおりの請求項2として訂正する。 「【請求項2】 野菜果汁混合飲料であって、 野菜汁と果汁の混合物及びニンジンピューレを含み、前記ニンジンピューレを含む野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量が2.3?6.7mg/100gであり、 前記カンペステロールの含有量[B]に対する前記β-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6である、 野菜果汁混合飲料。」 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項7を以下の事項により特定されるとおりの請求項7として訂正する。 「【請求項7】 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法。」 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8を以下の事項により特定されるとおりの請求項8として訂正する。 「【請求項8】 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法。」 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正の目的について ア 訂正事項1について 訂正事項1は、「野菜果汁混合物」を「調整」することについて、訂正前の「野菜汁及び果汁を混合」することに加えて、さらに「ニンジンピューレを添加することにより」との特定を行い、かつ、「前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物」と特定することにより、「野菜果汁混合物」がニンジンピューレ添加後のものであることを特定し、さらに、「カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]」について、「7.0?12.0」であったものを「8.7?9.6」と、より限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、調整対象である「野菜果汁混合物」について、「野菜汁と果汁の混合物及びニンジンピューレを含み、前記ニンジンピューレを含む」と特定することにより、「野菜果汁混合物」が「ニンジンピューレ」を含むことを特定し、さらに、「カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]」について、「7.0?12.0」であったものを「8.7?9.6」と、より限定するものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ウ 訂正事項3、4について 上記アで述べたことと同様に、訂正事項3及び4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 エ 以上のとおり、訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について ア 訂正事項1について 本件特許明細書には、以下の記載がなされている。 「【0050】 (実施例2) 市販の野菜果汁混合飲料に、市販のニンジンピューレを9:1の重量比で配合することにより、重量比[A]/[B]が9.6である実施例2の野菜果汁混合飲料を作製した。 【0051】 (実施例3) 市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で8:2とし、重量比[A]/[B]を9.4とすること以外は、実施例2と同様に処理して、実施例3の野菜果汁混合飲料を作製した。 【0052】 (実施例4) 市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で7:3とし、重量比[A]/[B]を8.7とすること以外は、実施例2と同様に処理して、実施例4の野菜果汁混合飲料を作製した。 【0053】 (実施例5) 市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で5:5とし、重量比[A]/[B]を9.4とすること以外は、実施例2と同様に処理して、実施例5の野菜果汁混合飲料を作製した。」 上記記載より、市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとを配合すること、すなわち「野菜汁及び果汁を混合し」たものに、「ニンジンピューレを添加すること」が記載されている。また、訂正前の請求項1の「野菜果汁混合物」が「野菜汁及び果汁を混合し、野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整」されたものであることから、「野菜果汁混合物」が、「野菜果汁混合飲料」と同じ内容を意味していることは明らかである。 さらに、訂正事項1の「前記カンペステロールの含有量[B]に対する前記β-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]」を「8.7?9.6」とすることについて、数値範囲の上限値及び下限値については、本件特許明細書の【0056】【表1】中において、ステロール比として実施例2に「9.6」、実施例4に「8.7」の記載がなされている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載されていた事項であって、新規事項を追加するものではなく、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 イ 訂正事項2について 上記アで摘示した本件特許明細書の記載より、「野菜果汁混合物」と同じ意味である「野菜果汁混合飲料」が「ニンジンピューレ」を含んだものであることが記載されている。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載されていた事項であって、新規事項を追加するものではなく、また、請求項2?6の一群の請求項ごとに請求された訂正であり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 ウ 訂正事項3、4について 上記アで述べたことと同様に、訂正事項3及び4は、願書に添付した明細書に記載されていた事項であって、新規事項を追加するものではなく、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。 (3) むすび したがって、上記訂正請求による訂正事項1?4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1、〔2-6〕、7、8について訂正を認める。 第3 取消理由についての判断 1 訂正請求項1?8に係る発明 上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明8」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 野菜果汁混合飲料の製造方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の製造方法。 【請求項2】 野菜果汁混合飲料であって、 野菜汁と果汁の混合物及びニンジンピューレを含み、前記ニンジンピューレを含む野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量が2.3?6.7mg/100gであり、 前記カンペステロールの含有量[B]に対する前記β-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6である、 野菜果汁混合飲料。 【請求項3】 発酵野菜汁及び増粘剤を実質的に含まない、 請求項2に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項4】 前記野菜汁として少なくともニンジン汁を含む、 請求項2又は3に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項5】 前記果汁として少なくともリンゴ果汁を含む、 請求項2?4のいずれか一項に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項6】 請求項2?5のいずれか一項に記載の野菜果汁混合飲料が、容器内に封入された、 容器詰野菜果汁混合飲料。 【請求項7】 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法。 【請求項8】 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法。」 2 取消理由について (サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の「β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が7.0?12.0となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整」することによって、本件特許の課題である「野菜の青臭みが抑制されているのみならず、野菜の濃厚感が高い」(段落【0007】)野菜果汁混合飲料を得ることができることを当業者が認識できないから、本件発明1?8は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 3 判断 (1) 本件発明1、7及び8の「野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整」(以下「特定事項A」という。)すること、又は本件発明2?6の「野菜汁と果汁の混合物及びニンジンピューレを含み、前記ニンジンピューレを含む野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量が2.3?6.7mg/100gであり、 前記カンペステロールの含有量[B]に対する前記β-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6である、」(以下「特定事項B」という。)とすることによって、本件発明1?8の課題である「野菜の青臭みが抑制されているのみならず、野菜の濃厚感が高い」(段落【0007】)野菜果汁混合飲料を得ることができることを当業者が認識できるか否かについて、以下検討する。 (2) 上記特定事項Aにより調整した野菜果汁混合飲料又は上記特定事項Bの野菜果汁混合飲料について、以下のものが総合評価において「○」とされ、本件特許明細書の表1によると、ステロール量、ステロール比、濃厚感(a)、野菜の青臭み(b)、a-bは、それぞれ以下のとおりである。 ア (実施例2)市販の野菜果汁混合飲料に、市販のニンジンピューレを9:1の重量比で配合した、重量比[A]/[B]が9.6である野菜果汁混合飲料(段落【0050】)。 ステロール量:2.3、ステロール比:9.6、濃厚感(a):3.0、 野菜の青臭み(b):1.7、a-b:1.3。 イ (実施例3)市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で8:2とし、重量比[A]/[B]を9.4とした野菜果汁混合飲料(段落【0051】)。 ステロール量:4.4、ステロール比:9.4、濃厚感(a):3.2、 野菜の青臭み(b):1.6、a-b:1.6。 ウ (実施例4)市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で7:3とし、重量比[A]/[B]を8.7とした野菜果汁混合飲料(段落【0052】)。 ステロール量:5.2、ステロール比:8.7、濃厚感(a):5.0、 野菜の青臭み(b):2.7、a-b:2.3。 エ (実施例5)市販の野菜果汁混合飲料と市販のニンジンピューレとの配合割合を重量比で5:5とし、重量比[A]/[B]を9.4とした野菜果汁混合飲料(段落【0053】)。 ステロール量:6.7、ステロール比:9.4、濃厚感(a):5.0、 野菜の青臭み(b):3.6、a-b:1.4。 (3) 一方、比較例として記載された野菜果汁混合飲料は、以下のとおりである。また、本件特許明細書の表1によると、ステロール量、ステロール比、濃厚感(a)、野菜の青臭み(b)、a-bも以下のとおりである。 ア (比較例1)重量比[A]/[B]が4.7である市販の紙パック入り野菜100%飲料(段落【0046】)。 ステロール量:4.7、ステロール比:4.7、濃厚感(a):4.6、野菜の青臭み(b):4.6、a-b:0.0。 イ (比較例2)比較例1の重量比[A]/[B]が4.7である野菜100%飲料に、市販の透明リンゴ果汁(植物ステロール非含有)を配合することにより、上記の重量比[A]/[B]が4.7である野菜果汁混合飲料(段落【0047】)。 ステロール量:2.3、ステロール比:4.7、濃厚感(a):3.5、野菜の青臭み(b):3.2、a-b:0.3。 ウ (比較例3) 重量比[A]/[B]が1.5である市販の無塩トマト100%ジュースに、比較例2で用いた市販の透明リンゴ果汁(植物ステロール非含有)を配合することにより、上記の重量比[A]/[B]が1.5とした野菜果汁混合飲料(段落【0048】)。 ステロール量:1.8、ステロール比:1.5、濃厚感(a):2.4、野菜の青臭み(b):3.7、a-b:-1.3。 (4) そこで、上記(2)に記載の事項を検討するに、当該実施例2?5からは、総合評価が「○」の野菜果汁混合飲料について、ステロール量及びステロール比をみてみると、ステロール量である「β-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量」が「2.3?6.7mg/100g」の範囲にあったこと、「カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6」の範囲にあったことはいえるものの、逆に、上記特定事項A又はBを満たすニンジンピューレが添加された野菜果汁混合飲料が、野菜果汁混合飲料の原材料の野菜汁、果汁の種類や配合量に関わらず、必ず「野菜の青臭みが抑制されているのみならず、野菜の濃厚感が高い」ものであるとは直ちにいうことはできない。すなわち、野菜果汁混合飲料に原材料として用いる野菜汁、果汁の種類や配合量が、野菜果汁混合飲料の野菜の青臭みや野菜の濃厚感に影響することは明らかであることから、実施例2?5から理解できるのは、特定の「市販の野菜果汁混合飲料」にニンジンピューレを配合した実施例2?5の評価が良かったという程度の事項であり、当該評価とステロール量やステロール比との関連を特定できるものではないし、また、そのような関連があるとできる技術常識もない。 この点について、特許権者は、「ここで、実施例2?5に関しニンジンピューレ等を配合することがその評価に寄与したとも考えられるとのご指摘について、本件訂正発明は、ニンジンピューレを配合したものに特定されたため、評価に寄与し得る成分がさらに限定されたものとなりました。 また、『野菜混合果汁として用いる野菜汁、果汁の種類や量が、野菜果汁混合飲料の野菜の青臭みや野菜の濃厚感に影響することは明らか』とのご指摘に関し、配合成分の種類として『ニンジンピューレ』が特定されたのは前述のとおりです。なお、配合成分の量については規定されていませんが、本件訂正発明においては、配合成分の量ではなく、ステロール量およびステロール比を上記範囲内とした場合に、ニンジンピューレの配合量を多種変化させても本件訂正発明の課題が解決されることは、実施例2?5の結果から示されています。」(平成28年9月21日意見書5ページ3?14行)と主張している。 しかしながら、実施例2?5の「市販の野菜果汁混合飲料」を用いたもの以外に、総合評価が「○」である実施例は示されておらず、しかも、当該「市販の野菜果汁混合飲料」の原材料に用いられている野菜汁、果汁の種類や配合量すら示されていない。そうすると、上記特定事項A又はBを特定したとしても、原材料に用いられている野菜汁、果汁の種類や配合量に関わらず、本件特許発明の課題を解決できたものが得られるということはできない。 また、特許権者は「ニンジンピューレを配合したものに特定された」旨主張しているが、その配合量を特定するものではなく、上記「市販の野菜果汁混合飲料」を含めて、野菜飲料にニンジン成分を含ませることは、ごく普通なことを考慮すると、上記の特定は、本件特許発明の課題解決に寄与するものとはいえない。 そうすると、本件特許明細書の表1で、野菜果汁混合飲料について、「○」となされた総合評価は、特定事項A又はBを満たしているものになされているといえるとしても、野菜果汁混合飲料の原材料に用いられている野菜汁、果汁の種類や配合量に関わらず、本件特許発明の課題を解決できたものとして得られる評価ということはできない。 (5) 以上のとおりであるから、特定事項Aを備える本件発明1、7及び8、並びに特定事項Bを備える本件発明2?6により、上記本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できず、本件発明1?8は発明の詳細な説明に記載されたものとすることはできない。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明1?8についての特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであり、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 野菜果汁混合飲料の製造方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の製造方法。 【請求項2】 野菜果汁混合飲料であって、 野菜汁と果汁の混合物及びニンジンピューレを含み、前記ニンジンピューレを含む野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量が2.3?6.7mg/100gであり、 前記カンペステロールの含有量[B]に対する前記β-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6である、 野菜果汁混合飲料。 【請求項3】 発酵野菜汁及び増粘剤を実質的に含まない、 請求項2に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項4】 前記野菜汁として少なくともニンジン汁を含む、 請求項2又は3に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項5】 前記果汁として少なくともリンゴ果汁を含む、 請求項2?4のいずれか一項に記載の野菜果汁混合飲料。 【請求項6】 請求項2?5のいずれか一項に記載の野菜果汁混合飲料が、容器内に封入された、 容器詰野菜果汁混合飲料。 【請求項7】 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の青臭み抑制方法。 【請求項8】 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法であって、 野菜汁及び果汁を混合し、ニンジンピューレを添加することにより、前記ニンジンピューレを添加した後の野菜果汁混合物中の水不溶性成分に含まれるβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロールの含有量を2.3?6.7mg/100gに調整し、カンペステロールの含有量[B]に対するβ-シトステロールの含有量[A]の重量比[A]/[B]が8.7?9.6となるように、前記β-シトステロールの含有量及び前記カンペステロールの含有量を調整する、 野菜果汁混合飲料の野菜の濃厚感改善方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-12-22 |
出願番号 | 特願2011-117319(P2011-117319) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
ZAA
(A23L)
P 1 651・ 537- ZAA (A23L) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 太田 雄三 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
紀本 孝 山崎 勝司 |
登録日 | 2015-06-12 |
登録番号 | 特許第5757788号(P5757788) |
権利者 | 株式会社 伊藤園 |
発明の名称 | 野菜果汁混合飲料及びその製造方法、並びに、野菜の青臭み抑制方法及び濃厚感改善方法 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 遠山 友寛 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 遠山 友寛 |
代理人 | 田岡 洋 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 宮下 洋明 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 田岡 洋 |