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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B24B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B24B
管理番号 1326975
異議申立番号 異議2015-700291  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-10 
確定日 2017-03-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5733497号発明「二重気孔構造研磨パッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5733497号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5733497号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5733497号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成27年4月24日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人山田宏基(以下「特許異議申立人」という)により特許異議の申立てがされ、平成28年3月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年6月22日付けで意見書の提出及び訂正請求があり、平成28年9月5日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、平成28年10月14日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年1月16日付けで意見書の提出及び訂正請求がされたものである。
なお、特許法第120条の5第7項の規定により、平成28年6月22日付けの訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。
また、特許異議申立人には平成28年9月5日付けの意見書の提出の機会を与えており、訂正請求によって権利が相当程度減縮されていることも考慮し、特許法第120条の5第5項ただし書の規定における特別の事情にあたるとして、特許異議申立人には再度の意見書の提出の機会を与えていない。

2.平成29年1月16日付けの訂正請求による訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のアないしキのとおりである。
ア 訂正事項1
請求項1及び2に係る「第1の気孔」を「第1のマクロ気孔」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項1に係る「孔壁が厚さ15?55μm」を、「孔壁が、ポロメリック研磨層の表面に存在する第1の気孔群を光学鏡検法において観察したとき、測定面積(A)内に存在する気孔の数(P);各気孔の平均面積(MPA)から、各孔壁の平均厚さ(w)に、式:
w =(A/πP)^(1/2)-(MPA/π)^(1/2)
を適用した、壁の平均厚さが15?55μm」に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項1に係る「25℃で測定した貯蔵弾性率10?60MPa」を、「孔壁を形成するポリマーの、キャストフィルムの動的機械分析により25℃で測定した貯蔵弾性率が10?60MPaであり、ここで、キャストフィルムが気泡および他の欠点を含まない、厚さ300ミクロンの、独立したフィルムであり、測定が、引張測定を、薄膜治具を用い、周波数10rad/secおよび温度25℃で、ASTM D5026-06 "Standard Test Method for Plastics: Dynamic Mechanical Properties: In Tension"にしたがって、長さ20mm、幅6.5mmの寸法を有するサンプルについて行ったものであり、」に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項1に係る「孔壁内に」を「そして孔壁が、孔壁内に」に訂正する。
オ 訂正事項5
請求項1に係る「第2の気孔」を「球状である第2のミクロ気孔」に、請求項3に係る「第2の気孔群」を「第2のミクロ気孔群」に、それぞれ訂正する。
カ 訂正事項6
請求項1に係る「織物または不織構造に作って形成する」を「織物または不織構造に形成して、研磨パッドを形成する、」に訂正する。
キ 訂正事項7
請求項3に係る「10?55%」を「10?55体積%」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
上記訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0014】に記載されているように、後述する「第2のミクロ気孔」との違いを明確化するため、「マクロ」の語を補ったものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
第1の気孔がマクロ孔であることは、本件特許明細書の段落【0012】及び【0014】の記載から明らかであるから、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項1は、明瞭でない記載を明瞭な記載に訂正したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について
上記訂正事項2は、孔壁の厚さの範囲のみを規定していたものを、本件特許明細書の段落【0021】の記載にしたがい、孔壁の平均厚さを特定の式によって算出されるものとし、平均厚さを求めるために測定する面及び位置を特定するように減縮したものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項2の孔壁の平均厚さwを求める式及び該式中に用いられる測定値並びに測定値を得るための手法については、本件特許明細書の段落【0021】に記載されているから、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について
上記訂正事項3は、貯蔵弾性率の測定条件を温度のみで規定していたものを、本件特許明細書の段落【0020】の記載にしたがい、貯蔵弾性率を特定の条件によって測定されるものに減縮したものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
上記訂正事項3の貯蔵弾性率の測定条件は、本件特許明細書の段落【0020】に記載されているから、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4について
上記訂正事項4は、上記訂正事項3で貯蔵弾性率を有するのが「孔壁を形成するポリマー」であると訂正したことに伴い、「孔壁内に第2のミクロ気孔を有する」という記載が「孔壁」についてのものであることを明示するため、「そして孔壁が、」の語を補ったものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項4について、ミクロ気孔群が孔壁内に存在することは、本件特許明細書の段落【0014】の記載から明らかであるから、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項4は、請求項1に元々そのように記載されていた内容を再度明示するように訂正したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5について
上記訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0014】に記載されているように、前述した「第1のマクロ気孔」との違いを明確化するため、「ミクロ」の語を補うとともに形状を明確化したものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
第2の気孔が球状のミクロ孔であることは、本件特許明細書の段落【0014】の記載から明らかであるから、上記訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項5は、明瞭でない記載を明瞭な記載に訂正したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6について
上記訂正事項6に関する訂正前の請求項1に係る記載に対応する外国語書面の部分は、「wherein the porous polishing layer is either fixed to a polymeric film or sheet substrate or formed into a woven or non-woven structure to form the polishing pad.」という記載であった。しかし、最後の部分の「・・・ to form the polishing pad.」について、「研磨パッドを形成する」という部分が訳出されておらず、「作って形成する」という不明瞭な表現となっていた。そこで、上記訂正事項6は、当該部分を訳出することで誤訳訂正をするものであるから、特許法第120条の5第2項第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
上記訂正事項6について、この一文が対応する外国語書面の明細書には、「The porous polishing layer is either fixed to a polymeric film or sheet substrate or formed into a woven or non-woven structure to form the polishing pad.」と、請求項1と同様の記載があり、対応する本件特許明細書の箇所として段落【0010】には、「多孔質研磨層は、ポリマーフィルム基材に固定するか、あるいは織物または不織構造に形成して、研磨パッドを形成する。」という翻訳もされている。
そうすると、上記訂正事項6は、外国語書面に記載した事項の範囲内の訂正であるとともに、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正でもあるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項6は、誤訳を含む不明瞭な記載を明確にしたものであり、訂正請求項1に係る発明により保護される対象が拡張されたり、発明のカテゴリーや目的が変更されるものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

キ 訂正事項7について
上記訂正事項7は、気孔率の単位を単に「%」で表記していたため、質量百分率か体積百分率か明確でなく、本件特許明細書の段落【0015】の記載との整合性が不明確であったものを、「体積%」に訂正して気孔率の単位を体積基準に特定し、段落【0015】の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
気孔率の単位が体積基準であることは、本件特許明細書の段落【0015】に記載されているから、上記訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
また、上記訂正事項7は、明瞭でない記載を明瞭な記載に訂正したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

ク 一群の請求項について
訂正前の請求項1?3は、請求項2及び3が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、上記訂正事項1?7による訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項の規定に適合する。

(3)むすび
したがって、上記訂正請求による訂正事項1?7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。

3.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 訂正後の請求項1?3に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」という)は、以下に示すとおりのものである。

「【請求項1】
磁性、光学および半導体基材の少なくとも1種の研磨に有効な研磨パッドであって、多孔質研磨層を含み、多孔質研磨層がポリウレタンマトリックス内に二重気孔構造を有し、二重気孔構造が第1のマクロ気孔群を有し、第1のマクロ気孔群が孔壁を有し、孔壁が、ポロメリック研磨層の表面に存在する第1の気孔群を光学鏡検法において観察したとき、測定面積(A)内に存在する気孔の数(P);各気孔の平均面積(MPA)から、各孔壁の平均厚さ(w)に、式:
w =(A/πP)^(1/2)-(MPA/π)^(1/2)
を適用した、壁の平均厚さが15?55μmであり、孔壁を形成するポリマーの、キャストフィルムの動的機械分析により25℃で測定した貯蔵弾性率が10?60MPaであり、ここで、キャストフィルムが気泡および他の欠点を含まない、厚さ300ミクロンの、独立したフィルムであり、測定が、引張測定を、薄膜治具を用い、周波数10rad/secおよび温度25℃で、ASTM D5026-06 "Standard Test Method for Plastics: Dynamic Mechanical Properties: In Tension"にしたがって、長さ20mm、幅6.5mmの寸法を有するサンプルについて行ったものであり、そして孔壁が、孔壁内に球状である第2のミクロ気孔群を含有し、第2のミクロ気孔群の平均孔径が5?30μmであり、および多孔質研磨層を、ポリマーフィルムまたはシート基材に固定するか、あるいは織物または不織構造に形成して、研磨パッドを形成する、研磨パッド。
【請求項2】
第1のマクロ気孔の平均直径が、少なくとも35μmである、請求項1の研磨パッド。
【請求項3】
孔壁の横断面内に位置する第2のミクロ気孔群の気孔率が、10?55体積%である、請求項1又は2の研磨パッド。」

イ 特許法第36条第6項第1号
本件発明1?3の記載が、以下の(ア)?(オ)のとおり、発明の詳細な説明の記載と整合するようになったため、本件発明1?3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願にされたものではない。

(ア)請求項1の「第1のマクロ気孔群」が有する「孔壁の平均厚さ」については、上記訂正事項2のとおり訂正されたことにより、気孔計測測定方法としてポロメリック研磨層の表面に存在する気孔を光学鏡検法により観察し測定した値に、特定の式を適用することで算出されるものであることが、請求項1に記載されたため、発明の詳細な説明に記載されたものと整合する。

(イ)請求項1の「25℃で測定した弾性貯蔵率」については、上記訂正事項3及び4のとおり訂正されたことにより、発明の詳細な説明に記載されたものと整合する。

(ウ)請求項1?3の「第1のマクロ気孔」及び「第2のミクロ気孔」については、訂正事項1及び5のとおり訂正されたことにより、各気孔の大きさや形状の違いについて明示されたため、発明の詳細な説明に記載されたものと整合する。

(エ)請求項1の「多孔質研磨層」については、上記訂正事項6のとおり訂正されたことにより、発明の詳細な説明に記載されたものと整合する。

(オ)請求項3の「第2のミクロ気孔群の気孔率」については、上記訂正事項7のとおり訂正されたことにより、単位が「体積%」であることが明示されたため、発明の詳細な説明に記載されたものと整合する。

ウ 特許法第29条第2項
(ア)刊行物の記載
平成28年3月18日付け取消理由通知において引用した甲第1号証(特開昭64-58475号公報)には、「研磨パッド」について、図面とともに以下の事項が記載されている。

a 「1.ポリウレタンを主体とする高分子材料の微孔質シートからなる研磨用表面を有し、該研磨用表面の大部分にマクロポアが開口した研磨パッドであって、
該マクロポアの開口部の大部分が50?200μmの直径を有し、該マクロポアの深さが該開口部の直径の少なくとも1.5倍であり、そして該マクロポアの直径が底部から表面開口部に向かって徐々に大きくなっている研磨パッド。
・・・(中略)・・・
3.前記微孔質シートのマクロポアを相互に隔てる壁体がマイクロポアを含み、該マイクロポアの平均ポア直径が、前記マクロポアの平均ポア直径の10分の1を越えない特許請求の範囲第1項または第2項に記載の研磨パッド。」(1ページ左下欄5行?右下欄5行)

b 「本発明は、半導体用ウェーハ、金属サンプル、メモリーディスク表面、光学部品レンズ、ウェーハ用マスクなどの研削、ラッピング、形作り、および研磨に用いられる研磨パッドに関する。」(1ページ右下欄8?11行)

c 「本発明の研磨パッドの製造工程を、第5図?第8図に基づいて説明する。
本発明の研磨パッドは、従来の多孔質体の製造技術を利用する。従来の溶媒-非溶媒系の凝固浴処理によって、第5図に示すような、第1の基材6に微孔質シート5が積層された研磨パッドを形成する。この研磨パッドのスキン層51を除去すれば、第3図に示す従来の研磨パッドが構成される。しかし、本発明の研磨パッドを作製するには、第5図のスキン層51を除去せずに、或いは,必要に応じて極めて軽度にバフ掛けを行い、このスキン層51上に第2の基材7を接着して、第6図に示すような材料を形成する。次いで、第6図に示す材料を反転して、第1の基材6を除去すれば,この材料は、第7図に示すような外観を呈する。最後に、第7図の材料から多孔質ベース層54を除去して、下部のマクロポア52を露出させ開口する。」(3ページ右下欄16行?4ページ左上欄12行)

以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。
「半導体用ウェーハ、メモリーディスク表面、光学部品レンズの研磨に用いられる研磨パッドであって、ポリウレタンを主体とする高分子材料の微孔質シートからなる研磨用表面の大部分にマクロポアが開口しており、前記微孔質シートのマクロポアを相互に隔てる壁体がマイクロポアを含み、該マクロポアの開口部の大部分が50?200μmの直径を有し、該マイクロポアの平均ポア直径が、前記マクロポアの平均ポア直径の10分の1を越えないものであり、第2の基材上に微孔質シートを接着して研磨パッドを得る、研磨パッド。」(以下「引用発明」という)

(イ)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「半導体用ウェーハ、メモリーディスク表面、光学部品レンズの研磨に用いられる研磨パッド」は、本件発明1の「磁性、光学および半導体基材の少なくとも1種の研磨に有効な研磨パッド」に相当する。また、引用発明の「微孔質シート」、「マクロポア」、「壁体」、「マイクロポア」は、それぞれ本件発明1の「多孔質研磨層」、「第1のマクロ気孔」、「孔壁」又は「壁」、「第2のミクロ気孔」に相当することも明らかである。
そして、引用発明の「研磨パッド」は、その構造について、「微孔質シート」が、「ポリウレタンを主体とする高分子材料」からなるものであり、「研磨用表面の大部分にマクロポアが開口して」おり、さらに、「前記微孔質シートのマクロポアを相互に隔てる壁体がマイクロポアを含」んでいることから、本件発明1の「研磨パッド」が「多孔質研磨層を含み、多孔質研磨層がポリウレタンマトリックス内に二重気孔構造を有し、二重気孔構造が第1のマクロ気孔群を有し、第1のマクロ気孔群が孔壁を有し、そして孔壁が、孔壁内に第2のミクロ気孔群を含有し」た構造を限度として一致するものと認められる。
また、引用発明の「該マクロポアの開口部の大部分が50?200μmの直径を有し、該マイクロポアの平均ポア直径が、前記マクロポアの平均ポア直径の10分の1を越えないものであ」るという条件を考えると、引用発明の「マイクロポアの平均ポア直径」は、5?20μmの範囲にあるものと言え、本件発明1の「第2のミクロ気孔群の平均孔径が5?30μm」に対して、「第2のミクロ気孔群の平均孔径が5?20μm」である点では一致するものである。
さらに、引用発明の「研磨パッド」が、「第2の基材上に微孔質シートを接着して研磨パッドを得る」ものである点は、本件発明1の「研磨パッド」が、「多孔質研磨層を、ポリマーフィルムまたはシート基材に固定するか、あるいは織物または不織構造に形成して、研磨パッドを形成する」ものである点と対比して、「多孔質研磨層を、ポリマーフィルムまたはシート基材に固定して、研磨パッドを形成する」ものである点で一致するものと認められる。

そうすると、本件発明1は引用発明と下記の点で一致し、また、相違するものと認められる。
<一致点>
「磁性、光学および半導体基材の少なくとも1種の研磨に有効な研磨パッドであって、多孔質研磨層を含み、多孔質研磨層がポリウレタンマトリックス内に二重気孔構造を有し、二重気孔構造が第1のマクロ気孔群を有し、第1のマクロ気孔群が孔壁を有し、そして孔壁が、孔壁内に第2のミクロ気孔群を含有し、第2のミクロ気孔群の平均孔径が5?20μmであり、および多孔質研磨層を、ポリマーフィルムまたはシート基材に固定して、研磨パッドを形成する、研磨パッド。」である点。
<相違点1>
本件発明1の第1のマクロ気孔の孔壁について、その平均厚さが、「ポロメリック研磨層の表面に存在する第1の気孔群を光学鏡検法において観察したとき、測定面積(A)内に存在する気孔の数(P);各気孔の平均面積(MPA)から、各孔壁の平均厚さ(w)に、式:w=(A/πP)^(1/2)-(MPA/π)^(1/2)を適用した、壁の平均厚さが15?55μm」であり、孔壁を形成するポリマーの貯蔵弾性率が、「キャストフィルムの動的機械分析により25℃で測定した貯蔵弾性率が10?60MPaであり、ここで、キャストフィルムが気泡および他の欠点を含まない、厚さ300ミクロンの、独立したフィルムであり、測定が、引張測定を、薄膜治具を用い、周波数10rad/secおよび温度25℃で、ASTM D5026-06 "Standard Test Method for Plastics: Dynamic Mechanical Properties: In Tension"にしたがって、長さ20mm、幅6.5mmの寸法を有するサンプルについて行ったもの」であるのに対し、引用発明のマクロポアを相互に隔てる壁体は、本件発明1の上記特定の方法で孔壁の平均厚さ及び形成するポリマーの貯蔵弾性率を求めて、それらの値を特定の範囲としたものではない点。
<相違点2>
本件発明1の第2のミクロ気孔について、その形状が「球状である」のに対し、引用発明のマイクロポアの形状は不明である点。

(ウ)判断
上記相違点1について検討すると、引用発明においては、削り屑や使用済みスラリー洗浄が容易になされ得る研磨パッドを提供することを目的に(「(発明が解決しようとする問題点)」参照)、マクロポアの開口部直径の大きさを特定のものにすることを主題としており、マクロポアを相互に隔てる壁体の厚さを考慮するものではない。そのため、上記本件発明1の相違点1に係る構成のうち、マクロ気孔の孔壁の平均厚さを、光学鏡検法の測定及び式により算出する方法が、仮に当該技術分野で周知であったとしても、引用発明において当該周知の方法を適用して壁体の厚さを特定のものとする動機がない。
また、引用発明においては、微孔質シートを形成するポリウレタンを主体とする高分子材料について、その貯蔵弾性率を考慮するものではない。そして、本件発明1は、単に研磨パッドの硬度を調整するために貯蔵弾性率を設定するものではなく、特定の平均厚さである孔壁を備えた二重気孔構造を有する多孔質研磨層に対し、その孔壁を形成するポリマーの貯蔵弾性率を特定の手法により測定して定めたものである。そうすると、上記本件発明1の相違点1に係る構成のうち貯蔵弾性率については、引用発明において、パッドの硬さの指標として周知の貯蔵弾性率を単に適用してその数値範囲を最適化又は好適化した単なる設計的事項であるとすることはできない。
さらに、上記相違点1を解消する証拠については、他に発見することはできない。
次に、上記相違点2について検討すると、引用発明のマクロポアを相互に隔てる壁体に含まれるマイクロポアは、甲第1号証の図面を見る限り、球状ではなく不規則な形状をした孔であると認められる。そして、引用発明において、当該マイクロポアを球状に変えようとする積極的な動機は認められない。一方、研磨パッドの技術分野において、マクロポアを相互に隔てる壁体に含まれるマイクロポアの形状を球状にすることが、従来周知の技術事項であることを示す証拠も存在しない。
よって、本件発明1は、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到するものとはいえない。

(エ)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同様に、引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に想到するものとはいえない。

(オ)まとめ
したがって、本件発明1?3は、上記引用発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、訂正前の請求項1?3に係る特許について、甲第2号証(特開2009-101504号公報)及び甲第3号証(特許第5733497号公報)を提出し、それぞれを主引用例とすることで、本件発明1?3は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから特許を取り消すべきものである旨主張している。
しかし、甲第2号証は、上記3.(1)ウ(イ)で示した<相違点>について、引用発明と同様に相違するものであり、本件発明1?3は、甲第2号証及び従来周知の技術から当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
また、甲第3号証は、本件特許の特許公報そのものであって、公知日が平成27年6月10日であるから、本件発明1?3に対する公知文献とはなり得ない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性、光学および半導体基材の少なくとも1種の研磨に有効な研磨パッドであって、多孔質研磨層を含み、多孔質研磨層がポリウレタンマトリックス内に二重気孔構造を有し、二重気孔構造が第1のマクロ気孔群を有し、第1のマクロ気孔群が孔壁を有し、孔壁が、ポロメリック研磨層の表面に存在する第1の気孔群を光学鏡検法において観察したとき、測定面積(A)内に存在する気孔の数(P);各気孔の平均面積(MPA)から、各孔壁の平均厚さ(w)に、式:
w =(A/πP)^(1/2)-(MPA/π)^(1/2)
を適用した、壁の平均厚さが15?55μmであり、孔壁を形成するポリマーの、キャストフィルムの動的機械分析により25℃で測定した貯蔵弾性率が10?60MPaであり、ここで、キャストフィルムが気泡および他の欠点を含まない、厚さ300ミクロンの、独立したフィルムであり、測定が、引張測定を、薄膜治具を用い、周波数10rad/secおよび温度25℃で、ASTM D5026-06 ”Standard Test Method for Plastics:Dynamic Mechanical Properties:In Tension”にしたがって、長さ20mm、幅6.5mmの寸法を有するサンプルについて行ったものであり、そして孔壁が、孔壁内に球状である第2のミクロ気孔群を含有し、第2のミクロ気孔群の平均孔径が5?30μmであり、および多孔質研磨層を、ポリマーフィルムまたはシート基材に固定するか、あるいは織物または不織構造に形成して、研磨パッドを形成する、研磨パッド。
【請求項2】
第1のマクロ気孔の平均直径が、少なくとも35μmである、請求項1の研磨パッド。
【請求項3】
孔壁の横断面内に位置する第2のミクロ気孔群の気孔率が、10?55体積%である、請求項1又は2の研磨パッド。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-28 
出願番号 特願2010-216044(P2010-216044)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B24B)
P 1 651・ 121- YAA (B24B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 栗田 雅弘
長清 吉範
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5733497号(P5733497)
権利者 ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ シーエムピー ホウルディングス インコーポレイテッド
発明の名称 二重気孔構造研磨パッド  
代理人 津国 肇  
代理人 津国 肇  
代理人 特許業務法人津国  
代理人 特許業務法人 津国  

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