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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1327019
異議申立番号 異議2016-701075  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-22 
確定日 2017-04-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第5924089号発明「感放射線性着色組成物、カラーフィルタ及び表示素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5924089号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許異議申立事件に係る特許第5924089号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)は,平成24年4月11日に出願され,平成28年4月28日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対し,平成28年11月22日に特許異議申立人より請求項1ないし4に係る特許について本件特許異議の申立てがされ,当審において,平成29年1月30日付けで取消理由が通知され,同年3月29日に特許権者より意見書が提出された。


2 本件特許の請求項1ないし4に係る発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」といい,これらを総称して「本件特許発明」という。)は,設定登録がなされた特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ,当該請求項1ないし4の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
(A)レーキ顔料を含む着色剤,(B)バインダー樹脂,(C)光重合開始剤,(D)2個以上の重合性不飽和結合を有する化合物及び(E)多官能チオールを含有する感放射線性着色組成物であって,
前記レーキ顔料が,キサンテン系レーキ顔料及びトリアリールメタン系レーキ顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたものであり,
前記(B)バインダー樹脂が,重合性不飽和基及びカルボキシル基を有する重合体であり,
前記(E)多官能チオールが,脂肪族多官能チオール,シロキサン多官能チオール及び含フッ素多官能チオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものであることを特徴とする感放射線性着色組成物。
【請求項2】
前記(E)多官能チオールの含有量が,前記(D)2個以上の重合性不飽和結合を有する化合物100質量部に対して0.1質量部?30質量部であることを特徴とする請求項1に記載の感放射線性着色組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の感放射線性着色組成物を用いて形成された着色層を有することを特徴とするカラーフィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載のカラーフィルタを有することを特徴とする表示素子。」


3 平成29年1月30日付けで通知された取消理由
本件特許の請求項1ないし4に係る特許に対して平成29年1月30日付けで通知された取消理由(以下,平成29年1月30日付けでした取消理由の通知を「本件取消理由通知」といい,通知された取消理由を「本件取消理由」という。)で引用した引用例及び参考資料並びに本件取消理由の概要は,次のとおりである。
(1)引用例及び参考資料
[引用例]
甲第1号証:特開2010-237384号公報
甲第4号証:韓国特許公開第10-2010-0029479号公報
[参考資料]
甲第2号証:橋本勲著,”有機顔料ハンドブック”,初版,カラーオフィス発行,2006年5月,p.589
甲第3号証:”Chemical Book 2,2,6,6-テトラキス(アクリロイルオキシメチル)-4-オキサヘプタン-1,7-ジオール1-アクリラート”,[online],[平成28年10月30日検索],インターネット<URL:http://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6125345.htm>
甲第5号証:特開2010-24434号公報
甲第6号証:特開2006-163084号公報
甲第7号証:特開2011-43707号公報
甲第8号証:特開2004-285281号公報
甲第9号証:特開2002-97224号公報
(以下,甲第1号証ないし甲第9号証をそれぞれ「甲1」ないし「甲9」という。)

(2)本件取消理由の概要
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。


4 引用例
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1発明」の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項1】
透明基材と,該透明基材上に所定のパターンで設けられた赤色着色層,緑色着色層及び染料色素又はレーキ顔料を含有する青色着色層とを有し,
各着色層の開口部表面の断面視形状について,
断面視形状が左右対称な開口部表面を有する着色層が,前記赤色着色層及び前記緑色着色層の一方であり,
断面視形状が一定方向に傾斜する開口部表面を有するものであって該傾斜の高い部分が前記左右対称な着色層に隣接する着色層が,前記赤色着色層及び前記緑色着色層の他方であり,
断面視形状が前記一定方向に傾斜する着色層の傾斜角度よりも小さい角度で傾斜している着色層が,青色着色層である,ことを特徴とするカラーフィルタ。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,カラーフィルタ,その製造方法,有機ELディスプレイ及び液晶ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,次世代型のディスプレイとして,エレクトロルミネッセンス(以下EL)素子で構成されたELディスプレイが期待されている。EL素子には無機EL素子と有機EL素子とがあり,いずれのEL素子も自己発光性であるために視認性が高く,また完全固体素子であるために耐衝撃性に優れるとともに取り扱いが容易であるという利点がある。このため,グラフィックディスプレイの画素やテレビ画像表示装置の画素,あるいは面光源等としての研究開発及び実用化が進められている。
・・・(中略)・・・
【0004】
有機EL素子におけるカラー表示の方式としては,(1)青色,赤色,緑色等の各色の発光材料を成膜する3色塗り分け方式,(2)青色発光する発光層と,青→緑及び青→赤にそれぞれ色変換する色変換層(CCM層)とを組合せて3色を発色させるCCM方式,(3)白色発光する発光層と,青色,赤色,緑色等のカラーフィルタとを組み合わせる方式,等が挙げられる。このうち,発光効率の点からは,(1)の3色塗り分け方式が最も有力であり,携帯電話,携帯情報端末(PDA)等に実用化されている。
【0005】
これらの有機EL素子においては,電極が金属系材料からなることから,周囲が明るい環境での使用を想定した場合,外光反射により表示コントラストが著しく低下するといった問題があった。そのため,A.有機EL素子のマンサイド側に円偏光板を貼付する,B.カラーフィルタを適用する,C.無彩色もしくは無彩色に近い色目で着色する(所謂ティント処理を施す),といった種々の対策がとられている。・・・(中略)・・・特に3色塗りわけ方式の有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせは,発光効率,色純度,外光反射防止のバランスの点から最も優れており,実際に商品化もされている。
・・・(中略)・・・
【0007】
3色塗り分け方式の有機EL素子とカラーフィルタとを組み合わせた有機ELディスプレイにおいて,有機EL素子を構成する青色発光体は,緑色発光体や赤色発光体に比較して寿命が短く,その青色発光体の寿命がディプレイ全体の寿命を左右している。そのため,特に青色での発光を減衰しないようなパネルを構成することは,有機ELディスプレイ自体の長寿命化に直接つながる。
【0008】
こうしたパネル構成の観点から,特に3色塗りわけ方式の有機EL素子とカラーフィルタとの組み合わせを見た場合,上記した青色光を可能な限り減衰しないようにしたカラーフィルタを用いることができれば,緑色発光体や赤色発光体に比べて寿命が短いとされる青色発光体の使用可能期間を長くすることができ,長寿命化を実現できる。そのため,青色発光体に対応したカラーフィルタの青色着色層の透過率を高くすることが望ましいと言える。
【0009】
ところで,カラーフィルタは,大きく別けて,着色層を構成する色材に染料を用いたタイプと顔料を用いたタイプの2種類がある。現在では,耐光性と耐熱性に優れる顔料分散型のカラーフィルタが一般的である。・・・(中略)・・・しかしながら,青色着色層については,現在使用可能な顔料系で最も透過率に優れる顔料を適用しても,十分な透過率が確保できているとは言えないものであった。
【0010】
一方,色材として染料を用いたカラーフィルタは,その染料が分子レベルでバインダーに溶解するため,顔料を用いたカラーフィルタに比べて着色層の透過率を高くすることができる。しかし,染料は,耐光性と耐熱性の点では顔料よりも信頼性が劣るといった問題があった。特に液晶ディスプレイ用途を考えると,液晶配向膜としてのポリイミド膜を230℃以上の高温で焼成する必要があるため,一般的に180℃程度で分解が始まる染料は適用することができなかった。ところが,有機ELディスプレイの製造工程においては,当然ながら高温を必要とする液晶配向膜を形成するプロセスが不要なため,カラーフィルタに対する耐熱性の要求は,時間にもよるが最高でも150℃程度に緩和される。そのため,従来の液晶ディスプレイ向けのカラーフィルタでは適用が難しかった染料系の着色材料が使用可能となっている。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
カラーフィルタを構成する各着色層は,色材を含有するレジスト材料を基材上に塗布した後にパターニングする工程によって形成されるが,パターニングされた後の着色層は,その後に例えば170℃?240℃程度の温度で加熱処理(「熱キュア」ともいう。)される。こうした熱キュアは,耐熱性のよい顔料色素に対してはあまり影響を及ぼさないが,耐熱性に劣る染料色素に対しては劣化させ易く,例えば染料色素を用いたことによる青色着色層の優れた透過率を低下させてしまうという問題がある。また,染料色素をレーキ化して構成したレーキ顔料も耐熱性に劣るものとなり,劣化して透過率が低下し易い。
【0013】
そのため,せっかく染料色素やレーキ顔料を用いて透過性に優れた青色着色層を形成しても,その青色着色層が,赤色着色層や緑色着色層等の他の着色層を形成する際の熱キュアの影響を受けて透過率が低下してしまえば,青色発光の輝度を一定にさせるために有機EL素子を構成する青色発光体の電流値を上げることになる。その結果,青色発光体の寿命が低下し易く,長寿命化を実現できない。
【0014】
本発明は,こうした問題を解決するためになされたものであって,その目的は,色純度に優れる3色塗り分け方式の有機EL発光体を備えた有機ELディスプレイの長寿命化を実現できる,透過率が高く色純度に優れた表示を可能にするカラーフィルタ及びその製造方法を提供することにある。また,そのカラーフィルタを備えた有機ELディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明のカラーフィルタは,透明基材と,該透明基材上に所定のパターンで設けられた赤色着色層,緑色着色層及び染料色素又はレーキ顔料を含有する青色着色層とを有し,
各着色層の開口部表面の断面視形状について,断面視形状が左右対称な開口部表面を有する着色層が,前記赤色着色層及び前記緑色着色層の一方であり,断面視形状が一定方向に傾斜する開口部表面を有するものであって該傾斜の高い部分が前記左右対称な着色層に隣接する着色層が,前記赤色着色層及び前記緑色着色層の他方であり,断面視形状が前記一定方向に傾斜する着色層の傾斜角度よりも小さい角度で傾斜している着色層が,青色着色層である,ことを特徴とする。
【0016】
この発明の構造形態は,カラーフィルタの生産時において,所定パターンからなる各着色層を,赤色着色層,緑色着色層,青色着色層の順,又は,緑色着色層,赤色着色層,青色着色層の順で形成した場合,すなわち,耐熱性のよい顔料色素を含む赤色着色層と緑色着色層を予め形成し,耐熱性に劣る染料色素又はレーキ顔料を含む青色着色層の形成を最後に行った場合に好ましく得ることができる形態である。したがって,上記構造形態を備えた本発明のカラーフィルタは,青色着色層に対する熱履歴が極力抑えられており,その結果,青色着色層に含まれる染料色素又はレーキ顔料の劣化が極力抑制された状態で形成されているので,透過率に優れたカラーフィルタを提供することができる。なお,染料色素とレーキ顔料については後述する。
【0017】
こうして得られたカラーフィルタを色純度に優れる3色塗り分け方式の有機EL発光体と組み合わせて有機ELディスプレイを構成すれば,有機EL発光体が備える青色発光層の電流値を高くしなくても十分な輝度が得られるので,青色発光層の寿命を延ばすことができ,有機ELディスプレイの安定した色調を長期間保持することができる。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0024】
本発明のカラーフィルタによれば,その構造形態は青色着色層が最後に形成されたものであることを示すので,青色着色層に対する熱履歴が極力抑えられ,結果として青色着色層に含まれる染料色素又はレーキ顔料の劣化が極力抑制された状態で形成されている。その結果,透過率に優れたカラーフィルタを提供することができる。
【0025】
こうして得られたカラーフィルタを色純度に優れる3色塗り分け方式の有機EL発光体と組み合わせて本発明の有機ELディスプレイを構成すれば,有機EL発光体が備える青色発光層の電流値を高くしなくても十分な輝度が得られるので,青色発光層の寿命を延ばすことができ,有機ELディスプレイの安定した色調を長期間保持することができる。その結果,有機ELディスプレイの長寿命化を実現できる。また,同様に,得られたカラーフィルタを液晶ディスプレイの構成要素として用いれば,液晶ディスプレイの安定した色調を長期間保持することができ,その結果,液晶ディスプレイの長寿命化を実現できる。」

(ウ) 「【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のカラーフィルタの一例を示す模式的な断面図である。」

(エ) 「【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,本発明のカラーフィルタ,その製造方法,有機ELディスプレイ及び液晶ディスプレイの実施の形態について説明する。なお,本発明は以下の実施形態に限定解釈されるものではない。
【0029】
[カラーフィルタ及びその製造方法]
(カラーフィルタ)
図1は本発明のカラーフィルタの一例を示す模式的な断面図であり,図2は本発明のカラーフィルタの他の一例を示す模式的な断面図である。・・・(中略)・・・本発明のカラーフィルタ10A,10B(総称する場合は符号10で表す。)は,図1?図3に示すように,透明基材1と,透明基材1上に所定のパターンで設けられた赤色着色層3R,緑色着色層3G及び青色着色層3B(各着色層を総称する場合は符号3で表す。)とを有するカラーフィルタである。
【0030】
このカラーフィルタ10では,赤色着色層3R及び緑色着色層3Gは顔料色素を含有し,青色着色層3Bは染料色素又はレーキ顔料を含有する。そして,各着色層3の開口部11の表面12(開口部表面12という。)の断面視形状は3つの態様に分けられ,その各態様は以下のように,3種の着色層それぞれを表している。すなわち,(1)断面視形状が左右対称な開口部表面12Aを有する着色層(第1着色層という。)が,赤色着色層3R及び緑色着色層3Gの一方であり,(2)断面視形状が一定方向に傾斜する開口部表面12Bを有する着色層であって,その傾斜の高い部分が前記左右対称な第1着色層に隣接する着色層(第2着色層という。)が,赤色着色層3R及び緑色着色層3Gの他方であり,(3)断面視形状が前記一定方向に傾斜する第2着色層の傾斜角度θ1よりも小さい角度θ2で傾斜している開口部表面12Cを有する着色層(第3着色層という。)が,青色着色層である,ように構成されている。
・・・(中略)・・・
【0037】
以上説明した本発明に係るカラーフィルタ10の構造形態は,カラーフィルタ10の生産時において,所定パターンからなる各着色層3を,赤色着色層3R,緑色着色層3G,青色着色層3Bの順,又は,緑色着色層3G,赤色着色層3R,青色着色層3Bの順で形成した場合,すなわち,耐熱性のよい顔料色素を含む赤色着色層3Rと緑色着色層3Gを予め形成し,耐熱性に劣る染料色素又はレーキ顔料を含む青色着色層3Bの形成を最後に行った場合に好ましく得ることができる形態である。
【0038】
青色着色層3Bを最後に形成するということは,後述の図4に示す製造方法で説明するように,耐熱性に劣る染料色素又はレーキ顔料を用いた青色着色層3Bに対して,赤色着色層3Rや緑色着色層3G等の他の着色層を形成する際の熱キュア時の熱負荷を与えないということであり,その結果,青色着色層3Bには,青色着色層自身の熱キュア時の熱負荷が加わるのみである。そのため,熱負荷を最小限に抑えることができるので,青色着色層3Bに含まれる染料色素又はレーキ顔料の劣化を極力抑制することができ,青色着色層3Bの透過率の低下を防ぐことができる。
・・・(中略)・・・
【0048】
本発明のカラーフィルタ10において,青色着色層3Bが熱履歴(熱キュア)に弱い染料色素又はレーキ顔料を含有し,青色着色層3B以外の赤色着色層3R及び緑色着色層3G等は熱履歴(熱キュア)に強い顔料色素を含有していることが好ましいが,染料色素又はレーキ顔料を含有していてもよい。ここで,青色着色層3Bが染料色素又はレーキ顔料を含有するのが好ましい理由は,このカラーフィルタと組み合わせて用いられる有機EL発光体において,発光寿命が赤色発光層や緑色発光層に比べて比較的短いとされる青色発光層の寿命を高めるため,その青色発光層に加える電流値はあまり大きくしない方がよく,そのため,熱履歴には弱いが高い透過率を示す染料色素又はレーキ顔料を用いて青色着色層3Bを形成することが好ましいからである。一方,青色着色層3B以外の着色層が顔料色素を含有するのが好ましい理由は,顔料色素は信頼性やコストメリットが確立されており,染料又はレーキ顔料に比較して透過率が劣るものの,図5に示す3色塗り分け方式の有機EL発光体のように,青色着色層3B以外の着色層に対応する赤色発光層や緑色発光層は電流値を増して発光輝度をアップしても長寿命を実現できるからである。
【0049】
青色着色層3Bに含まれる青色染料としては,トリアリールメタン系染料,メチン系染料,アントラキノン系染料,アゾ系染料,トリフェニルメタン系染料等を挙げることができ,中でも,後述の実施例に示すように,トリアリールメタン系染料やメチン系染料を好ましく用いることができる。
【0050】
同様にして,染料のレーキ化により構成したレーキ顔料も好適に用いることができる。ここでレーキ化とは,染料の溶液(一般には水溶液)に金属塩を加えて染料の金属塩を構成し,不溶性の微粒子を構成する手法を指す。レーキ化には,酸性染料,媒染染料,すなわちスルホン酸基,カルボン酸基,又は金属に配位しうる基を有する天然染料,アゾ染料,トリフェニルメタン染料を適用することができ,その場合の沈殿剤は金属塩が用いられる。同様にして塩基性染料も適用でき,この場合は沈殿剤としてリンタングステン,リンモリブデン,又はリンタングステンモリブデン等のヘテロポリ酸が用いられる。レーキ化により,染料の比較的に高い透過率と大きく損なうことなく,耐熱性,耐光性などの信頼性を向上させることができる。
【0051】
本発明においては,トリアリールメタン系染料のレーキ顔料が好適に適用できる。一例として,Fanal Blue D6340(BASF)・・・(中略)・・・等が挙げられる。
【0052】
なお,染料色素又はレーキ顔料は,顔料色素に比べて紫外線によって透過率が低下し易い傾向がある。そのため,青色着色層3Bの透過率を維持するために,着色層形成用材料に,例えば一重項クエンチャーを配合してもよい。使用可能なクエンチャーとしては,ジアルキルホスフェート,ジアルキルカルバネート又はベンゼンジチオールあるいはその類似ジチオール等の金属錯体を好ましく挙げることができ,また,その金属錯体を構成する金属としては,ニッケル,銅又はコバルト等を挙げることができる。青色着色層3B内に一重項クエンチャーが含まれることにより,仮に活性酸素が青色着色層3Bにアタックした場合であっても,活性酸素を一重項クエンチャーが捕獲することができるので,活性酸素が染料色素又はレーキ顔料を劣化させて青色着色層3Bの透過率が低下するのを抑制することができる。なお,この一重項クエンチャーは顔料色素を用いた赤色着色層3Rと緑色着色層3Gに配合しても構わない。
【0053】
同様に,青色着色層3Bの透過率を維持するために,青色着色層形成用材料に,酸化防止剤を添加してもよい。使用可能な酸化防止剤としては,・・・(中略)・・・6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(住友化学社製:Sumilizer GP)等のヒンダートフェノール系酸化防止剤を挙げることができる。この酸化防止剤は顔料色素を用いた赤色着色層3Rと緑色着色層3Gに配合しても構わない。
【0054】
ところで,カラーフィルタには全ての着色層が顔料色素で構成された顔料分散型のものと,全ての着色層が染料色素で構成された染料含有型のものがあるが,液晶ディスプレイに適用されるカラーフィルタにおいては,耐光性及び耐熱性に優れる顔料分散型のものが一般的に用いられている。その理由は,液晶ディスプレイでは,液晶配向膜としてのポリイミド膜を230℃以上の高温で焼成する必要があるため,一般的に180℃程度で分解が始まる染料を用いたカラーフィルタに液晶配向膜としてのポリイミド膜を形成する場合には使用することができないためである。しかし,本発明においては,液晶配向膜を形成する必要がなく,さらにカラーフィルタに加わる温度もせいぜい150℃程度であるので,顔料に比べて耐熱性が劣るとされる染料を用いることが可能である。しかも,染料色素は,分子レベルでバインダー樹脂に溶解できるので顔料色素に比べて透過率を高くすることができるという利点がある。こうしたことから,従来の液晶ディスプレイ向けカラーフィルタでは適用が難しかった染料系の着色材料を好ましく使用することができる。
【0055】
バインダー樹脂としては,ベンジルメタクリレート:スチレン:アクリル酸:2-ヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体等を挙げることができる。
【0056】
溶剤としては,・・・(中略)・・・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート・・・(中略)・・・が使用可能である。単一種の溶媒を使用しただけでは,レジスト組成物の溶解性が不充分である場合や,レジストを塗布する際における塗布の相手方となる素材(基材を構成する素材)が侵される虞がある場合等には,2種以上の溶媒を混合使用することにより,これらの不都合を回避することができる。
【0057】
また,必要に応じて配合される界面活性剤としては,フッソ系界面活性剤や,ノニオン系界面活性剤等を挙げることができる。」

(オ) 「【0095】
[実施例1]
<カラーフィルタの作製>
最初に,カラーフィルタを作製した。透明基材1としてガラス基板(コーニング社製,1737材)を準備し,洗浄処理を施した後のガラス基板上に,先ず,厚さが1.2μmで,平面視で縦横が格子状のパターンとなるようにブラックマトリクス層2を形成した。このブラックマトリクス層2は,下記のブラックマトリクス層用フォトレジストをスピンコート法で塗布し,90℃・3分間の条件でプリベーク(予備焼成)し,所定のパターンに形成されたマスクを用いて露光(100mJ/cm2)し,続いて0.05%KOH水溶液を用いたスプレー現像を60秒行った後,230℃・30分間ポストベーク(焼成)することによって形成した。
・・・(中略)・・・
【0097】
次に,着色層3を形成した。この着色層3は,下記赤色,緑色,青色の各色パターン形成用のフォトレジストを調整した後,先ず,赤色パターン形成用の顔料分散型フォトレジストをブラックマトリクス層2が形成された透明基材1上にスピンコート法で塗布し,80℃・5分間の条件でプリベーク(予備焼成)し,赤色の色パターンに応じた所定の着色パターン用フォトマスクを用いて,紫外線露光(300mJ/cm^(2))した。次いで,0.1%KOH水溶液を用いたスプレー現像を60秒行った後,220℃・30分間ポストベーク(熱キュア)し,ブラックマトリクス層2の形成パターンに対して所定の位置に,膜厚1.1μmの赤色着色層3Rを短冊状パターンで形成した。
【0098】
引き続き,緑色パターン形成用の顔料分散型フォトレジストを用いて同様の手法を繰り返し,所定のパターンで形成されたブラックマトリクス層2及び赤色着色層3Rの形成パターンに対して所定の位置に,膜厚1.1μmの緑色着色層3Gを短冊状パターンで形成した。このときのポストベーク(熱キュア)も220℃・30分間の条件で行った。さらに引き続き,青色パターン形成用の染料フォトレジストを用い且つポストベーク条件を150℃・30分間に変更した以外は,上記赤色着色層3R及び緑色着色層3Gと同様な手法により,膜厚1.1μmの青色着色層3Bを短冊状パターンで形成した。
・・・(中略)・・・
【0107】
[実施例2]
実施例1の有機ELディスプレイにおいて,カラーフィルタを作製する際に,青色パターン形成用の染料フォトレジストの代わりに下記の青色パターン用レーキ顔料分散型フォトレジストを用いた他は,実施例1と同じ条件で実施例2のカラーフィルタを作製した。さらに,実施例1と同様に,得られたカラーフィルタを用いて実施例2の有機ELディスプレイを作製した。
【0108】
(青色パターン用レーキ顔料分散型フォトレジスト)
・青レーキ顔料(Fanal Blue D6340(BASF社製)…6.0重量部
・顔料誘導体(ゼネカ(株)製,ソルスパース12000)…0.6重量部
・分散剤(ゼネカ(株)製,ソルスパース24000)…2.4重量部
・モノマー(サートマー(株)製,SR399)…4.0重量部
・ポリマー1…5.0重量部
・開始剤(チバガイギー社製,イルガキュア907)…1.4重量部
・開始剤(2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール)…0.6重量部
・酸化防止剤6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(住友化学社製,Sumilizer GP)…0.9重量部
・溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)…80.0重量部
・上記ポリマー1は,ベンジルメタクリレート:スチレン:アクリル酸:2-ヒドロキシエチルメタクリレート=15.6:37.0:30.5:16.9(モル比)の共重合体100モル%に対して,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを16.9モル%付加したものであり,重量平均分子量は42500である。
・・・(中略)・・・
【0117】
[評価試験]
(表面の断面視形状)
実施例1,2及び比較例1?4で得られたカラーフィルタについて,各色の表面の断面視形状を評価した。その評価は,触針式表面粗さ測定装置(小坂研究所社製,型番:ET4000L-S)で測定して得られた粗さプロファイルで行った。なお,傾斜角度θ1,θ2は,図3に示すように,縦軸長さと横軸長さ(共に単位はμm)の比を1:250としてグラフに表したときの角度で評価した。
・・・(中略)・・・
【0119】
実施例2においても実施例1と同様の傾向を示し,また,緑色着色層の傾斜角度θ1は19°であり,青色着色層の傾斜角度θ2は6°であった。
・・・(中略)・・・
【0121】
(色度)
実施例1?3及び比較例1?6の有機ELディスプレイの色度を測定した。色度は,ΔE_(94)色差色(CIE 1994)で評価し,その色度は,トプコン社製の分光放射計(型名:SR-2)を用いて有機ELディスプレイの発光スペクトルを測定し,その分光放射計内の計算ソフトで計算して求めた。また,分光スペクトルは,オリンパス社製の顕微分光測色機(型名:OSP-SP200)を用いて測定した。表1は,実施例1?3及び比較例1?6で得られたカラーフィルタの各色(表1中,R,G,Bで表している。)のCIE色度(2度視野)と,青色着色層(B)については,有機ELディスプレイを構成したもの(表1中,「OLED-B」で表している。)のCIE色度(2度視野)の測定結果である。
【0122】
【表1】

【0123】
また,表1の有機ELディスプレイについて比較すると,実施例1の有機ELディスプレイは,その青色光の色度が(0.138,0.073)となり,NTSC規格を完全に実現できる青色色度の領域に入っていた。一方,比較例1,2の有機ELディスプレイでは,その青色光の色度がそれぞれ(0.155,0.117),(0.143,0.087)となり,NTSC規格を完全に実現できる青色色度領域から外れていた。これらの結果から,着色層をパターニングした後のポストべーク条件が,青色着色層3Bを構成する染料色素又はレーキ顔料を劣化させていることが確認できた。
【0124】
また,実施例2の有機ELディスプレイは,その青色光の色度が(0.145,0.047)となり,EBU規格を完全実現できる青色色度の領域に入っていた。一方,比較例3,4の有機ELディスプレイでは,その青色光の色度がそれぞれ(0.143,0.060),(0.144,0.050)となり,EBU規格を完全実現できる青色色度の領域から外れていた。」

(カ) 「【図1】



イ 甲1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(カ)を含む甲1の全記載から,甲1に次の発明が記載されていると認められる。

「青レーキ顔料として,BASF社製のFanal Blue D6340を6.0重量部と,
顔料誘導体として,ゼネカ(株)製のソルスパース12000を0.6重量部と,
分散剤として,ゼネカ(株)製のソルスパース24000を2.4重量部と,
モノマーとして,サートマー(株)製のSR399を4.0重量部と,
バインダー樹脂として,ベンジルメタクリレート:スチレン:アクリル酸:2-ヒドロキシエチルメタクリレート=15.6:37.0:30.5:16.9(モル比)の共重合体100モル%に対して,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを16.9モル%付加して得られる,重量平均分子量が42500のポリマー1を5.0重量部と,
開始剤として,チバガイギー社製のイルガキュア907を1.4重量部及び2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾールを0.6重量部と,
酸化防止剤として,住友化学社製のSumilizer GPを0.9重量部と,
溶剤として,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを80.0重量部と,
からなる青色パターン用レーキ顔料分散型フォトレジスト。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)甲4
ア 甲4の記載
甲4は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には次の記載がある。(下線部は,後述する「甲4技術事項」の認定に特に関連する箇所を示す。)
(ア) 「

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

」(3ページ20行ないし4ページ25行)
[日本語訳]
「明細書
発明の詳細な説明

技術分野
[0001]本発明は,着色感光性樹脂造成物,上記造成物で形成された画素を含むカラーフィルター,上記カラーフィルターを備えた液晶表示装置に関するものである。

背景技術
[0002]カラーフィルターは,撮像素子,液晶表示装置(LCD)などに広く利用されているもので,その応用範囲が急速に拡大している。カラー液晶表示装置などに使用されるカラーフィルターは,通常のブラックマトリックスパターン形成された基板上に赤色,緑色,青色の各色に相当する顔料を含有する着色感光性樹脂造成物をスピンコーティングによって均一に塗布した後,加熱乾燥(以下,予備焼成という場合もある)して形成された塗膜を露光,現像して,必要に応じて,より加熱硬化(以下,「後焼成」という場合もある)する操作を色ごとに繰り返して,各色の画素を形成することにより製造されている。このとき,ガラス基板を使用しているが壊れやすく,重く,厚いという問題点を有している。これにガラス基板を代替するために,プラスチック基板を使用することを検討する内容が日本国特開平11-271736号公報等に記載されている。
[0003]しかし,プラスチック基板の使用時には,低温プロセスの導入が不可欠であり,そのために製造された従来の着色感光性樹脂造成物は,完全な硬化が行われず,感度と耐薬品性が不足している欠点を露出している。
[0004]これらの問題を解決するための方法で日本国特許第2937208号には,熱架橋剤としてメラミン樹脂を用いることが記載されており,日本国特開平2003-113224号公報などには,熱架橋剤として脂環式エポキシ樹脂を利用する方法が記載されているが,このような方法を使用しても,まだ150℃以下で後焼成を行う場合,感度,および耐薬品性が不足している問題が発生し,これの改善が求められている。

発明の内容
解決しようとする課題
[0005]本発明の目的は,150℃以下の低温焼成工程での場合でも,ガラスまたはプラスチック基板上の完全な硬化が可能であり,これを使用して製造された画素が,優れた感度と耐薬品性を示す着色感光性樹脂造成物を提供することである。
・・・(中略)・・・
課題解決手段
[0008]本発明の目的を達成するために,
[0009](A)結合剤樹脂,(B)光重合性化合物,(C)光重合開始剤,(D)着色材料と(E)溶剤を含有する着色感光性樹脂造成物として,
[0010]上記(C)光重合開始剤が,(1)アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物で構成された群から選ばれた1種以上;と(2)多官能チオール化合物を含み,(2)多官能チオール化合物が光重合開始剤の合計質量を基準として0.1?50質量%の範囲である着色感光性樹脂造成物を提供する。
・・・(中略)・・・
効果
[0014]本発明の着色感光性樹脂造成物は,150℃以下の低温焼成工程での場合でも,ガラスまたはプラスチック基板上の完全な硬化が可能なため,これを使用して製造された画素は,優れた感度及び耐薬品性を示す。また,本発明の着色感光性樹脂造成物を使用して形成されている画素を含むカラーフィルター,液晶表示装置にも高品質を示す。」

(イ) 「

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

・・・(中略)・・・

」(4ページ26行ないし11ページ36行)
[日本語訳]
「発明実施のための具体的な内容
[0015]以下,本発明を詳細に説明する。
[0016]本発明は(A)結合剤樹脂,(B)光重合性化合物,(C)光重合開始剤,(D)着色材料及び(E)溶剤を含有する着色光性樹脂造成物で,(C)光重合開始剤が(1)アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物で構成された群から選ばれた1種以上;及び(2)多官能チオール化合物を含み,(2)多官能チオール化合物が光重合開始剤の合計質量を基準として0.1?50質量%の範囲である着色感光性樹脂造成物に関するものである。
[0017]結合剤 樹脂(A)
[0018]上記結合剤樹脂(A)は,通常,光や熱の作用による反応性及びアルカリ溶解性を持って,着色材料の分散媒として作用する。
[0019]本発明の結合剤樹脂(A)は,分子内に脂環式エポキシ基及び不飽和結合を有する化合物(A1)を重合(これは共重合も含む概念である)して,得られる構成単位を含む樹脂である。つまり,不飽和結合を有する化合物(A1)は単独または他の化合物と一緒に重合され,前記結合剤樹脂(A)を成すようになる。
[0020]好ましくは,本発明に係る上記結合剤樹脂は,下記の化合物(A1)から化合物(A3)を共重合して得られる重合体,または下記の(A4)をさらに反応させて得られる不飽和基含有樹脂であることがよい。
[0021]本発明に係る結合剤樹脂(A)をより詳細に説明すると,次のとおりである:
[0022](A1):分子内に脂環式エポキシ基及び不飽和結合を有する化合物(A1),
[0023](A2):(A1)及び(A3)と共重合可能な不飽和結合を有する化合物,
[0024](A3):不飽和カルボン酸化合物,及び
[0025](A4):1分子中に不飽和結合とエポキシ基を有する化合物。
[0026]上記結合剤樹脂(A)は,通常,光や熱の作用による反応性及びアルカリ溶解性を持って,着色材料の分散媒として作用する。
・・・(中略)・・・
[0055]本発明の一実施形態の着色感光性樹脂造成物に含有される結合剤樹脂(A)は,(A1)から(A3)を共重合して得られる共重合体に(A4)をさらに反応させることによって得ることができる。上記の共重合体に(A4)を付加することにより,結合剤樹脂に光/熱硬化性を付与することができる。
[0056]本発明において,1分子中に不飽和結合とエポキシ基を有する化合物(A4)の具体的な一例としては,グリシジル(メタ)アクリレート,3,4-エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート,3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート,メチルグリシジル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらの中でグリシジル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらは,それぞれ単独で,または2種以上を組み合わせて使用することができる。
[0057]上記不飽和結合とエポキシ基を有する化合物(A4)は上記の共重合体に含まれる不飽和カルボン酸化合物(A3)モル数に対して5?80モル%反応させることが好ましく,特に10?80モル%がいい。(A4)の組成比が上記範囲内であれば感度及び現像性が優れているため好ましい。
・・・(中略)・・・
[0064](B)光重合性化合物
[0065]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(B)光重合性化合物は,光及び後述する光重合開始剤の作用で重合できる化合物として,単官能モノマー,2官能モノマー,その他の多官能単量体などを挙げることができる。
・・・(中略)・・・
[0069]これらの中で2官能以上の多官能モノマーが好ましく使用される。特に好ましくは,5官能以上の多官能モノマーである。
・・・(中略)・・・
[0073](C)光重合開始剤
[0074]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(C)光重合開始剤は,1分子中に2個以上のメルカプト基を含有する(2)多官能チオール化合物を必須成分とし,主光重合開始剤としては,アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物を単独または併用して使用することが望ましい。
[0075]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(C)光重合開始剤の中で1分子中に2個以上のメルカプト基を含有する多官能チオール化合物としては,例えば,トリス-(3-メルカプトプロピオンイルオキシ)-エチル-イソシアヌレート,トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネート,ペンタエリスリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート,ジペンタエリスリトールテトラキス-3-メルカプトプロピオネート等を挙げることができる。
[0076]上記のように1分子中に2個以上のメルカプト基を含有する多官能チオール化合物は,上記化合物に限定されず,すべて本発明に含まれる。
[0077]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(C)光重合開始剤の中でアセトフェノン系化合物としては,例えば,ジエトキシアセトフェノン,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン,ベンジルジメチルケタール,2-ヒドロキシ-1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチルプロパン-1-オン,1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン,2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン,2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン,2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパン-1-オンのオリゴマーなどを挙げることができる。アセトフェノン系化合物としては,例えばする化学式3で表示される化合物を挙げることができる。
[0078]<化学式3>
・・・(中略)・・・
[0082]オキシム系化合物としては,例えば,下記の化学式4,5,6などを挙げることができる。
[0083]<化学式4>
・・・(中略)・・・
[0089]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(C)光重合開始剤の中でトリアジン系化合物としては,例えば,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-[2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル]-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-[2-(フラン-2-イル)エテニル]-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-[2-(4-ジエチルアミノ-2 - メチルフェニル)エテニル]-1,3,5-トリアジン,2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-[2-(3,4ジメトキシフェニル)エテニル]-1,3,5-トリアジンなどを挙げることが可能である。
[0090]上記アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物は,それぞれ単独または2種以上を組み合わせて使用することができ,また,他の種類の光重合開始剤を組み合わせて使用することもできる。
[0091]また,本発明の効果を損なわない程度であれば,この分野で通常使用されているその他の光重合開始剤などを追加で併用することもできる。その他の光重合開始剤としては,例えば,ベンゾイン系化合物,ベンゾフェノン系化合物,チオクサントン系化合物,アントラセン系化合物などを挙げることができる。これらは,それぞれ単独で,または2種以上組み合わせて使用することができる。
・・・(中略)・・・
[0101](C)光重合開始剤の使用量は,固形分を基準に(A)結合剤樹脂と(B)光重合性化合物の合計量に対して質量分率で通常0.1?40質量%,好ましくは0.5?30質量%ある。(C)光重合開始剤が上記基準に0.1?40質量%の範囲であれば画素部の感度や密着性が良好になる傾向があるので好ましい。
[0102]また,上記多官能チオール化合物は,上記光重合開始剤の合計質量を基準として,0.1?50質量%で含まれており,好ましくは5?30質量%で含まれる。上記の範囲で含まれる場合,耐薬品性および耐エッチング性に優れ,テーパー直進性も良好になる。
[0103](D)着色材料
[0104]通常の顔料として顔料分散レジストに使用される有機顔料または無機顔料であることが望ましい。必要に応じて染料を使用することもあり,これは本発明に含まれる。
[0105]無機顔料としては,金属酸化物や金属錯塩等の金属化合物を挙げることができ,具体的には,鉄,コバルト,アルミニウム,カドミウム,鉛,銅,チタン,マグネシウム,クロム,亜鉛,アンチモン等の金属の酸化物または複合金属酸化物などを挙げることができる。
[0106]前記有機顔料と無機顔料としては,具体的には,色指数(The society of Dyers and Colourists出版)でピグメントに分類されている化合物を挙げることができ,より具体的には,以下のような色指数(CI)番号の顔料が挙げられるが,必ずしもこれらに限定されるものではない。
[0107]C.I.ピグメントイエロー20,24,31,53,83,86,93,94,109,110,117,125,137,138,139,147,148,150,153,154,166,173,180および185
[0108]C.I.ピグメントオレンジ13,31,36,38,40,42,43,51,55,59,61,64,65,および71
[0109]C.I.ピグメントレッド9,97,105,122,123,144,149,166,168,176,177,180,192,215,216,224,242,254,255および264
[0110]C.I.ピグメントバイオレット14,19,23,29,32,33,36,37および38
[0111]C.I.ピグメントブルー15(15:3,15:4,15:6など),21,28,60,64および76
[0112]C.I.ピグメントグリーン7,10,15,25,36,47および58
[0113]C.Iピグメントブラウン28
[0114]C.Iピグメントブラック1および7など
[0115]これらの(D)着色材料はそれぞれ単独で,または2種以上組み合わせて使用することができる。(D)着色材料の含有量は,着色感光性樹脂造成物中の固形分に対して質量分率で通常3?60質量%,好ましくは5?55質量%の範囲である。(D)着色材料の含有量が上記基準で3?60質量%の範囲であれば薄膜を形成しても画素の色濃度が十分であり,現像時秘話焼付の不足性が低下しないため,残渣が発生しにくい傾向があるので望ましい。
[0116](E)溶剤
[0117]本発明の着色感光性樹脂造成物に含有される(E)溶剤は特に制限されず,着色感光性樹脂造成物の分野で使用されている各種の有機溶剤を使用することができる。
・・・(中略)・・・
[0122]本発明の着色感光性樹脂造成物中の(E)溶剤の含有量は,それを含んでいる着色感光性樹脂造成物全体量に対して質量分率で,通常60?90質量%,好ましくは70?85質量%である。(E)溶剤の含有量が上記基準に60?90質量%の範囲であれば,ロールコーター,スピンコーター,スリット・アンド・スピンコーター,スリットコーター(ダイコーターとも呼ばれている場合がある),インクジェットなどの塗布装置で塗布したとき塗布性が良好になる傾向があるので好ましい。
[0123](F)添加剤
[0124]本発明の着色感光性樹脂造成物には,必要に応じて充填剤,他のポリマー化合物,硬化剤,顔料分散剤。密着促進剤,酸化防止剤,紫外線吸収剤,凝集防止剤等の(F)添加剤を併用することも可能である。」

(ウ) 「

・・・(中略)・・・

」(14ページ17行ないし16ページ末行)
[日本語訳]
「[0162]以下,実施例により本発明をより具体的に説明するが,本発明は実施例により限定されることはもちろんではない。また,以下の実施例,比較例では含有量を示す「%」および「部」は,特に断りのない限り質量基準である。
[0163]製造例1:樹脂Aの合成
[0164]攪拌機,温度計,還流冷却管,滴下ロート及び窒素導入管を備えたフラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート40部,プロピレングリコールモノメチルエーテル140部を導入して,フラスコ内の雰囲気を空気から窒素にした後,100℃に昇温後ビニルトルエン29.5部(0.25モル),メタクリル酸25.8部(0.3モル),3-(メタクリロイルオキシメチル)-3-エチルオキセタン82.8部(0.45モル)とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート136部を含む混合物にアゾビスイソブチロニトリル4部を添加した溶液を滴下ロートから2時間かけてフラスコに滴下して,80℃で5時間攪拌を続けた。続いて,フラスコ内の雰囲気を窒素から空気にして,グリシジルメタクリレート14.2部(0.1モル:本反応に使用したメタクリル酸のカルボキシル基に対して33モル%),トリスジメチルアミノメチルフェノル0.5部とハイドロキノン0.1部をフラスコ内に投入して110℃で6時間反応を継続し,固形分酸価が82mgKOH/gである樹脂Aを得た。GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は25,000であり,分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。
・・・(中略)・・・
[0176]実施例1?4および比較例における1?3:着色感光性樹脂造成物の製造
[0177]下記の表1に記載された各成分のうち,予め(D)着色材料である顔料と(F)添加剤である顔料分散剤の合計量が顔料,顔料分散剤,およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合物に対して20質量%になるように混合して,ビーズミルを用いて顔料を十分に分散させた後,ビーズミルを分離して,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの残量を含む残りの成分を添加して混合して着色感光性樹脂造成物を得た。
表1
[0178]単位(質量%)

[0179](A)結合剤樹脂:上記製造例で合成されたA
[0180](B)光重合性化合物:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPHA,日本化薬(株)製造)
[0181](C)光重合開始剤
[0182](C1-1):トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネート(TMMP;3官能,堺化学社製品)
[0183](C1-2):ペンタエリルトリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート(PEMP;4官能,堺化学社製品)
[0184](C2):2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルポリノフェニル)ブタン-1-オン(Irgacure369;Ciba Specialty Chemical社製)
[0185](C3):エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチル-4テトラヒドロピラニルオキシベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(IrgacureOXE02;Ciba Specialty Chemical社製)
[0186](C-A):4,4’ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(EAB-F:保土ヶ谷化学(株)製造)
[0187](D)着色材料
[0188](D-1):赤色顔料分散液(C.I.ピグメント・レッド254)
[0189](D-2):黄色顔料分散液(C.I.ピグメントイエロー138)
[0190](E)溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
[0191](F-1)ノボラックエポキシ樹脂(SUMI-EPOXY ESCN-195XL;住友化学工業(株)製造)
[0192](F-2)顔料分散剤(ポリエステル系)
[0193]試験例。
[0194]2平方インチのガラス基板(コーニング社製造,#1737)を中性洗剤,合物,およびアルコール]の順に洗浄してから乾燥させた。このガラス基板上に,上記の着色感光性樹脂造成物(表1)を100mJ/cm^(2)の露光量(365nm)に露光して現像工程を省略したときの後焼成後の膜厚が1.9μmになるようにスピンコーティングして,続いてクリーンオーブン中,100℃で3分間予備乾燥(予備焼成)した。冷却した後,この着色感光性樹脂造成物を塗布した基板と石英ガラス製フォトマスク(透過率を1?100%の範囲で階段状に変化させるパターンと1μmで50μmまでのライン/スペースパターンを有する)の間隔を100μmにして,ウシオデンキ(株)製の超高圧水銀ランプ(商品名USH-250D)を用いて,大気雰囲気下で100mJ/cm^(2)の露光量(365nm)で光照射した。その後,非イオン系界面活性剤0.12%と水酸化カリウム0.06%を含む水系現像液に上記塗膜を26℃で所定時間浸しておいて現像した後,水洗した後,150℃(表2)または140℃(表3)で30分間乾燥させ(後焼成)して,その結果を下記の表2および3に示した。
表2
[0195]150℃の後焼成(乾燥工程)

表3
[0196]140℃後焼成(乾燥工程)

[0197]*1:耐薬品性は,NMPの下で23℃/40分の間に解決前後の色の変化値(△Eab)測定に評価する。
[0198]△EabはCIE 1976(L*,a*,b*)空間表色系による下の飽和公式によって要求される値である(日本色彩学会編,新編色彩科学ハンドブック(昭和60年)p.266)。
[0199]△Eab={(△L)2+(△a)2+(△b)2}1/2
[0200]○:△Eab=2未満,X:△Eab=2超え
[0201]*2:○:テーパー直進性よし,X:テーパー直進性劣悪
[0202]*3:耐エッチング性ストリップエッチング液(商品名:PRS-2000,ドンウファインケム(株)製造)の下で100℃/5分,膜がスウェリング(swelling)される程度を目視で評価した。
[0203]○:スウェリングあり,X:スウェリングなし
[0204]上記試験の結果,実施例1?4の着色感光性樹脂造成物から得られた画素は耐薬品性に優れており,耐エッチング性の評価にも膜がスウェリングされる現象が発生していなかった。また,現像後の良好なパターンのテーパーを形成することができた。
[0205]結論として,本発明の着色感光性樹脂造成物は,低温の後焼成工程後にも感度と耐薬品性が優れて確認することができた。」

イ 甲4に記載された技術事項
前記ア(ア)ないし(ウ)を含む甲4の全記載から,甲4に次の技術事項が記載されていると認められる。

「結合剤樹脂,光重合性化合物,光重合開始剤,着色材料及び溶剤を含有する着色感光性樹脂造成物において,
前記光重合開始剤として,アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物で構成された群から選ばれた1種以上と,1分子中に2個以上のメルカプト基を含有する多官能チオール化合物として,トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネートやペンタエリルトリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート等とを含むものであって,前記多官能チオール化合物が前記光重合開始剤の合計質量を基準として0.1?50質量%の範囲であるものを用いると,
プラスチック基板の使用時等の150℃以下の低温焼成工程であっても,完全な硬化が可能となり,これを使用して製造された画素が,優れた感度及び耐薬品性を示すこと。」(以下,「甲4技術事項」という。)

5 本件取消理由についての判断
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア) 甲1発明が「開始剤」として含有する「チバガイギー社製のイルガキュア907」及び「2,2’-ビス(o-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール」が光重合開始剤であることは当業者に自明であり,かつ,「モノマー」である「サートマー(株)製のSR399」が「2,2,6,6-テトラキス(アクリロイルオキシメチル)-4-オキサヘプタン-1,7-ジオール1-アクリラート」であることは,甲3の記載から明らかであり,当該「2,2,6,6-テトラキス(アクリロイルオキシメチル)-4-オキサヘプタン-1,7-ジオール1-アクリラート」は5つの重合性不飽和結合を有する化合物であるから,甲1発明は,レーキ顔料と,バインダー樹脂と,光重合開始剤と,2個以上の重合性不飽和結合を有する化合物とを含有する「感放射線性着色組成物」である。
したがって,本件特許発明1と甲1発明は,「(A)レーキ顔料を含む着色剤,(B)バインダー樹脂,(C)光重合開始剤及び(D)2個以上の重合性不飽和結合を有する化合物を含有する感放射線性着色組成物」である点で共通する。

(イ) 甲1発明が「青レーキ顔料」(本件特許発明1における「レーキ顔料」に相当する。以下,「ア 本件特許発明1と甲1発明の対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に続く()中の文言は,当該構成発明の構成に相当する本件特許発明1の発明特定事項を指す。)として含有する「BASF社製のFanal Blue D6340」が,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料であることは,甲2の記載より明らかであるから,甲1発明は,「レーキ顔料が,キサンテン系レーキ顔料及びトリアリールメタン系レーキ顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたものであ」るという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(ウ) 甲1発明が「バインダー樹脂」((B)バインダー樹脂)として含有する「ポリマー1」は,ベンジルメタクリレート:スチレン:アクリル酸:2-ヒドロキシエチルメタクリレート=15.6:37.0:30.5:16.9(モル比)の共重合体100モル%に対して,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを16.9モル%付加して得られる重合体であるところ,当該重合体が,2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート由来の重合性不飽和基と,アクリル酸由来のカルボキシル基とを有していることは当業者に自明であるから,甲1発明は,「(B)バインダー樹脂が,重合性不飽和基及びカルボキシル基を有する重合体であ」るという本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(エ) 前記(ア)ないし(ウ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「(A)レーキ顔料を含む着色剤,(B)バインダー樹脂,(C)光重合開始剤及び(D)2個以上の重合性不飽和結合を有する化合物を含有する感放射線性着色組成物であって,
前記レーキ顔料が,キサンテン系レーキ顔料及びトリアリールメタン系レーキ顔料よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたものであり,
前記(B)バインダー樹脂が,重合性不飽和基及びカルボキシル基を有する重合体である感放射線性着色組成物。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件特許発明1が,脂肪族多官能チオール,シロキサン多官能チオール及び含フッ素多官能チオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の(E)多官能チオールを含有するのに対して,
甲1発明は,多官能チオールを含有してはいない点。

イ 判断
(ア) 意見書において,特許権者は,耐熱性,耐溶剤性及び解像度という特性に優れたカラーフィルタを製造できるという本件特許発明1の効果は格別顕著なものである旨主張する。
そこで,本件特許発明1が有する効果について,以下に検討する。

(イ) 本件特許の明細書【0003】ないし【0005】には,要するに「表示素子の高輝度化と高色純度化,又は固体撮像素子の高精細化を実現するには,カラーフィルタに用いる着色剤として染料を用いることが有効であるが,染料は耐熱性,耐候性等に劣るため,染料ではなくレーキ顔料を用いることが提案されているが,レーキ顔料であっても,露光・現像後の加熱(ポストベーク)やポリイミド等を用いた配向膜の形成等で行われる,200℃を超えるような加熱工程を経ると,色度特性の低下を免れないこと」及び「レーキ顔料が使用されているカラーフィルタは,耐溶剤性が不十分である」ことが説明されているところ,当該説明及び【0006】の記載から,本件特許発明が解決しようとする課題が,このような「着色剤としてレーキ顔料を用いたカラーフィルタ用の感放射線性着色組成物」において,200℃を超えるような加熱工程を経たときの色度特性の低下を抑制すること,及び,耐溶剤性を改善することにあると理解される。
また,本件特許の明細書【0007】及び【0008】の記載から,本件特許発明が,前記課題を解決するための主要な手段として,レーキ顔料とともに多官能性チオールを含有させるという構成を採用したものと理解されるところ,【0142】の表1には,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料又はキサンテン系レーキ顔料を含む着色剤と,含フッ素多官能チオール,脂肪族多官能チオール又はシロキサン多官能チオールとを含有する実施例1ないし12が,同じ着色剤を含有するが,多官能チオールを含有しない比較例1ないし4と比べて,耐熱性及び耐溶剤性に優れていることが示されている。(なお,前記【表1】に示された「耐熱性」は,200℃で90分間の追加ベークを行う前後での色変化に基づく評価であり,「耐溶剤性」は,25℃のN-メチルピロリドンへの30分間の浸漬を行う前後での色変化に基づく評価である。また,「バインダー樹脂(B-1)」は,重合性不飽和基を有していないから,実施例1ないし12のうち本件特許発明の実施例に該当するのは,実施例6及び11である。)
以上によれば,本件特許発明1においては,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料又はキサンテン系レーキ顔料とともに,脂肪族多官能チオール,シロキサン多官能チオール及び含フッ素多官能チオールよりなる群から選ばれる多官能チオールを含有させることで,レーキ顔料を用いた場合の課題であった200℃を超えるような加熱工程を経たときの色度特性の低下を抑制することができるとともに,耐溶剤性も改善するという効果が得られるものと認められる。

(ウ) 一方,甲1の【0004】ないし【0016】等の記載からは,3色塗り分け方式の有機EL素子とカラーフィルタとを組み合わせた有機ELディスプレイにおいて,長寿命化を実現するためには,カラーフィルタの青色着色層の透過率を高くすることが必要となるところ,顔料を用いた青色着色層では十分な透過率が確保できず,染料やレーキ顔料を用いた青色着色層では,染料やレーキ顔料が,カラーフィルタ製造時の加熱処理によって劣化して透過率が低下してしまうという課題を解決するために,各着色層のうち,青色着色層の形成を最後に行うことで,他の着色層の形成時に青色着色層が加熱されないようにすることで,青色着色層の劣化を極力抑制するとの技術思想を理解できるところ,甲1発明は,当該技術思想における青色着色層を形成するためのレーキ顔料分散型フォトレジストであると理解できる。
また,【0107】には,実施例1と同じ条件で実施例2のカラーフィルタを作成したことが記載され,【0097】及び【0098】には,実施例1のカラーフィルタの青色着色層のポストベークの条件が150℃で30分間であり,他の着色層のポストベークの条件が220℃で30分間であることが記載されているところ,【0122】の表2には,甲1発明を用いた青色着色層を最後に形成した実施例2のカラーフィルタと,甲1発明を用いた青色着色層を最初及び2番目に形成した比較例3及び4のカラーフィルタの各色のCIE色度が示されている。
すなわち,甲1には,レーキ顔料分散型フォトレジストを用いた着色層の形成については,本件特許の明細書にいうところの「200℃を超えるような加熱工程」を避けることが記載されているのみであって,レーキ顔料(ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料又はキサンテン系レーキ顔料)とともに,脂肪族多官能チオール,シロキサン多官能チオール及び含フッ素多官能チオールよりなる群から選ばれる多官能チオールを含有させることで,「200℃を超えるような加熱工程」を経たときの色度特性の低下を抑制できるという効果が得られることは,記載も示唆もされていない。
しかるに,甲1発明は,多官能チオールを含有していないのだから,当然,「200℃を超えるような加熱工程」を経たときの色度特性の低下を抑制できるという効果を有するものではない。
そうすると,本件特許発明1が有する「レーキ顔料を用いた場合の課題であった200℃を超えるような加熱工程を経たときの色度特性の低下を抑制できる」という効果は,甲1発明の有する効果とは異質な効果を有しているといえる。

(エ) また,甲4には,前記4(2)イで認定したとおり,
「結合剤樹脂,光重合性化合物,光重合開始剤,着色材料及び溶剤を含有する着色感光性樹脂造成物において,
前記光重合開始剤として,アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物で構成された群から選ばれた1種以上と,トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネートやペンタエリルトリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート等の多官能チオール化合物とを含むものであって,前記多官能チオール化合物が前記光重合開始剤の合計質量を基準として0.1?50質量%の範囲であるものを用いると,
プラスチック基板の使用時等の150℃以下の低温焼成工程であっても,完全な硬化が可能となり,これを使用して製造された画素が,優れた感度及び耐薬品性を示すこと。」(甲4技術事項)
が記載されているところ,「トリメチロールプロパントリス-3-メルカプトプロピオネート」及び「ペンタエリルトリトールテトラキス3-メルカプトプロピオネート」はどちらも脂肪族多官能チオールに該当する化合物であるから,光重合開始剤として,アセトフェノン,オキシム及びトリアジン系化合物で構成された群から選ばれた1種以上と,特定の「脂肪族多官能チオール」とを特定の割合で含むものを用いることで,低温焼成であっても耐薬品性を向上させることができることが開示されているといえるものの,当該光重合開始剤を,レーキ顔料(ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料又はキサンテン系レーキ顔料)とともに含有させることで,「200℃を超えるような加熱工程」を経たときの色度特性の低下を抑制できるという効果が得られることは,記載も示唆もされていない。

(オ) さらに,参考資料として引用した各甲号証を含め,ヘテロポリ酸によりレーキ化されたトリアリールメタン系レーキ顔料又はキサンテン系レーキ顔料とともに,脂肪族多官能チオール,シロキサン多官能チオール及び含フッ素多官能チオールよりなる群から選ばれる多官能チオールを含有させることによって,レーキ顔料を用いた場合の課題であった200℃を超えるような加熱工程を経たときの色度特性の低下を抑制できるという効果が得られることが,当業者に予測可能であったことを示す証拠は見当たらない。

(カ) 前記(エ)及び(オ)によれば,本件特許発明1が有する「レーキ顔料を用いた場合の課題であった200℃を超えるような加熱工程を経たときの色度特性の低下を抑制できる」という効果は,本件特許に係る特許出願の出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではないといわざるを得ない。

(キ) 以上によれば,本件特許発明1は,甲1発明が有する効果とは異質の効果を有し,当該効果は本件特許に係る特許出願の出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではないから,本件特許発明1は進歩性を有しているというべきである。
したがって,本件特許発明1が,甲1発明及び甲4技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4についても,本件特許発明1と同様の理由で,甲1発明及び甲4記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
前記(1)及び(2)のとおりであるから,本件取消理由によって,本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。


6 特許異議申立人の主張について
特許異議申立書に記載された申立ての理由のうち,本件取消理由通知で取り上げなかった理由はない。

なお,特許異議申立人は,特許異議申立書37ページ20行ないし38ページ7行において,甲8や甲9に言及した上で,様々なタイプの感放射線性着色組成物において,耐熱変色性を向上するために多官能チオール化合物を添加する技術が知られており,耐熱性を確保するという本件特許発明1の効果が,当業者が予期し得る程度の効果である旨主張する。
しかしながら,甲8の【0184】の「多官能チオール化合物は,・・・(中略)・・・感光性着色組成物の耐熱変色性を向上させる作用を有する。」との記載については,甲8の【0125】ないし【0127】に例示された顔料(レーキ顔料は見当たらない。)からみて,顔料自体の熱変色を指しているとは考え難く,バインダー樹脂等の熱変色を指していると解するのが自然であるし,甲9の【0042】の「多官能チオールは,・・・(中略)・・・硬化時の黄変防止・・・(中略)・・・できる。」との記載についても,同様に,バインダー樹脂等の黄変を指していると解するのが自然であって,これらの記載が,多官能チオールによって,200℃を超えるような加熱工程を経たときのレーキ顔料の色度特性の低下を抑制できることを開示もしくは示唆しているとは認められないから,前記特許異議申立人の主張は採用できない。


7 むすび
以上のとおりであるから,本件取消理由通知により通知された本件取消理由及び特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては,本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-13 
出願番号 特願2012-90300(P2012-90300)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G03F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉持 俊輔石附 直弥高橋 純平  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
清水 康司
登録日 2016-04-28 
登録番号 特許第5924089号(P5924089)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 感放射線性着色組成物、カラーフィルタ及び表示素子  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 山本 博人  
代理人 村田 正樹  
代理人 高野 登志雄  
代理人 中嶋 俊夫  

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