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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1328279
審判番号 不服2016-16374  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-05-12 
事件の表示 特願2015-558288「成形体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月21日国際公開、WO2016/009858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年7月3日(優先権主張平成26年7月16日(特願2014-146002号),平成26年9月30日(特願2014-200251号),いずれも日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年3月22日付けの拒絶理由通知に応答して同年4月11日付けで手続補正書と意見書が提出され、同年6月27日付けの拒絶理由通知に応答して同年8月5日付けで手続補正書と意見書が提出されたが、同年9月13日付けで拒絶査定がなされ、同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求された。その後、当審からの同年12月6日付けの拒絶理由通知に応答して、平成29年1月31日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2.当審拒絶理由
当審拒絶理由は、要するに、本願の請求項1?6に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、引用刊行物として、以下の引用刊行物が指摘されている。
A.特開2003-246817号公報(以下、「引用文献A」という。)
B.国際公開第2011/030784号(以下、「引用文献B」という。)
C.特開2007-308611号公報(以下、「引用文献C」という。)
D.特開2012-116916号公報(「引用文献D」という。)
E.国際公開第2005/073291号(「引用文献E」という。)
そして、当審拒絶理由は、より具体的には、本願の請求項1?6に係る発明は、上記引用文献Aに記載された発明及び本願の優先日当時の周知技術(引用文献B?E)から、当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。

3.本願発明
本願請求項1?6に係る発明は、平成29年1月31日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、
アミノ基を有する共役ジエン系重合体(A)0.05質量部以上30質量部以下と、
炭素繊維(B)3質量部以上150質量部以下と、
をブレンドして混合物を得て、
該混合物を溶融混練し、ペレットを作製した後、成形体を作製する、成形体の製造方法。」

4.引用文献の記載
(1)引用文献Aの記載
引用文献Aには、次のとおり記載されている。(なお、下線は当審合議体で付した。以下、この審決中で同様である。また、丸付き数字は表記できないので、カギ括弧付き文字(例えば、丸付き1であれば<1>)で表記した。)

(a)特許請求の範囲の請求項8、9及び19
「【請求項8】 共役ジエン又は共役ジエン及び他の単量体を、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として重合し、得られた共役ジエン系重合体にアルコキシシラン化合物を加えて反応停止させた変性重合体を水素添加して得られることを特徴とする水添変性重合体。
【請求項9】 上記アルコキシシラン化合物は下記一般式(6)で表される化合物であり、且つ、上記変性重合体に保護基を有する場合、本水添変性重合体は、水素添加の最中及び/又は終了後に、該変性重合体に結合した該保護基を外すことにより得られる請求項8に記載の水添変性重合体。
R^(10)_((4-m-n))Si(OR^(11))_(m)X_(n) ・・・・(6)
[上記一般式(6)中、R^(10)は炭素数1?20のアルキル基、炭素数6?20のアリール基、炭素数7?20のアラルキル基又は炭素数1?100のオルガノシロキシ基であり、R^(10)が複数ある場合は、各R^(10)は同じ基でも異なる基でもよい。また、R^(11)は炭素数1?20のアルキル基、炭素数6?20のアリール基又は炭素数7?20のアラルキル基であり、R^(11)が複数ある場合は、各R11は同じ基でも異なる基でもよい。Xは少なくともN原子、O原子、Si原子のいずれか1つ以上含む極性基を有する置換基であり(但し、OR^(11)は除く。)、Xが複数ある場合は、各Xは同じ基でも異なる基でもよく、また、各Xは独立の置換基でも環状構造を形成していてもよい。mは1、2、3又は4であり、nは0、1、2又は3である。mとnの和は1?4である。]
【請求項19】 請求項1乃至10のいずれかに記載の水添変性重合体と、非極性重合体、極性重合体及び充填剤から選ばれる少なくとも1種と、を含有することを特徴とする水添変性重合体組成物。」


(b)【0001】?【0021】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水添変性重合体及びその製造方法並びにそれを含む組成物に関し、更に詳しくは、耐衝撃性、強度、接着性の改質及び外観に優れた成形品が得られる水添変性重合体及びその製造方法並びにそれを含む組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、高分子物質は多くの材料に使用されているが、強度、耐熱性、耐衝撃性、接着性、コスト等の面で、その殆どは単一の高分子物質でなく、多成分の高分子物質やフィラー等の補強剤との組成物として使用されている。例えば、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素からなるブロック共重合体の水素添加物である水添ブロック共重合体は、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂等の非極性樹脂や、エチレン・プロピレンゴム等の非極性ゴムとは比較的相容性が高いことから、種々の組成物が製造され、広く利用されている。
【0003】しかし、従来の水添ブロック共重合体は、PETやABS、ナイロン等のような極性樹脂とは相容性が低いことから、使用に耐え得る物性を確保するには、水添ブロック共重合体に極性基を付与する必要がある。かかる極性基を付与する方法としては、・・・極性基含有単量体をグラフトする方法がある。これらのグラフト法は、極性基を任意の量で付加することが可能だが・・・目的とする物性を再現性よく得ることが難しいという問題がある。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性、強度、接着性の改質及び外観のバランスに優れた成形品が得られる水添変性重合体及びその製造方法並びにそれを含む組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成するべく鋭意検討した。その結果、極性樹脂やフィラーと相互作用のある極性基を導入すべく、触媒を用いて単量体を重合して得られるリビングポリマーを、保護されたアミノ基やエポキシ基、アルコキシシリル基等の極性基を有する化合物と反応させる等により変性し、得られた変性重合体を水素添加することにより、成形品の耐衝撃性、強度、接着性、外観の改質に優れた水添変性重合体が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
・・・
【0012】第2の観点の発明の水添変性重合体は、共役ジエン又は共役ジエン及び他の単量体を、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として重合し、得られた共役ジエン系重合体にアルコキシシラン化合物を加えて反応停止させた変性重合体を水素添加して得られることを特徴とする。上記アルコキシシラン化合物としては、下記一般式(6)で表される化合物を用いることができる。第2の観点の発明の水添変性重合体は、得られた変性重合体に保護基を有する場合、水素添加の最中及び/又は終了後に、上記変性重合体に結合している保護基を外すことにより得られるものとすることができる。
・・・
【0021】
【発明の効果】本発明の水添変性重合体は、極性樹脂改質効果に優れ、また、従来の異種重合体混合物の相容化効果にも優れている。よって、本発明の水添変性重合体は、他の重合体等を含む重合体組成物とすることにより、剛性、耐熱性、耐衝撃性、面衝撃性、引張破断伸び、鏡面性、層間剥離のバランスに優れた成形品を与えることができる。また、本発明の水添変性重合体の製造方法によれば、上記有用な効果を有する水添変性重合体を製造することができる。本発明の水添変性重合体組成物によれば、上記水添変性重合体と、非極性重合体、極性重合体及び充填剤から選ばれる少なくとも1種と、が均一に混合され、必要に応じて添加される添加剤を含有することによって、剛性、耐熱性、耐衝撃性、面衝撃性、引張破断伸び、鏡面性、層間剥離のバランスに優れた成形品を与えることができる。本発明の水添変性重合体及びこれを含有する組成物の利用分野としては、広く食品包装容器、各種トレー、シート、チューブ、フィルム、繊維、積層物、コーティングやプリント基板の電気・電子部品、コンピュータ等のOA機器や家電の筺体、自動車内外装材、外板部品、精密部品、建材等の各種工業部品等が挙げられる。また、これらの利用分野では、水添変性重合体を含む重合体組成物を発泡しても好ましく使用できる。」

(c)【0052】?【0068】
「【0052】次に、第2の観点の発明の水添変性重合体を製造するには・・・
【0053】上記のようにして得られた共役ジエン系重合体は、アルコキシシラン化合物を加えて反応停止させることによって変性重合体となる。好ましくは共役ジエン系重合体の活性点にアルコキシシラン化合物を反応させて、重合体末端に極性基が結合した末端変性重合体とする。これにより、従来の方法と比べて、極性樹脂やフィラーとの親和性に優れると共に、耐衝撃性、強度、接着性に優れた成形品を与える水添変性重合体を得ることができる。
【0054】上記アルコキシシラン化合物は、上記共役ジエン系重合体に反応させて変性重合体とすることができる限り、その構造には限定はない。上記アルコキシシラン化合物としては、上記一般式(6)及び(10)で表される化合物の少なくとも1種を用いることが好ましい。上記一般式(6)及び(10)中、・・・Xは少なくともN原子、O原子、Si原子のいずれか1つ以上含む極性基を有する置換基であり・・・
・・・
【0056】また、置換基XにN原子を含む化合物としては特に限定されないが、上記一般式(6)及び(10)で表されるアルコキシシラン化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
<1>加水分解等により保護基を外すと1級アミンとなる化合物
N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン・・・N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、・・・等。
・・・
【0062】これらの中で、上記芳香族炭化水素系アルコキシシラン化合物及び上記極性基を有するXを含有するアルコキシシラン化合物が変性反応、水添反応、物性改良の点から好ましく、更に、上記極性基を有するXを含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。また、上記極性基を有するXを含有するアルコキシシラン化合物の中でも、N原子を含有するものが物性改良の点から好ましく、特に、トリメチルシリル基等の保護基を外すことによって1級又は2級アミンとなる保護された1級又は2級アミノ基を有するものが好ましく、中でも特に1級アミノ基を有するものが好ましい。上記例示したアルコキシシラン化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
・・・
【0068】第2の観点の発明においては、上記変性重合体に保護基が結合していれば、その保護基をアニオン重合の後のどの時期に外してもよいが、通常、上記保護基は、水素添加反応の最中及び/又は終了後に外すことが好ましい。・・・」

(d)【0077】?【0088】
「【0077】本発明の水添変性重合体は、各種重合体等と配合されることにより、優れた物性を有する水添変性重合体組成物を与えることができる。本発明の水添変性重合体組成物は、上記水添変性重合体(以下、「成分(I)」という。)と、非極性重合体(以下、「成分(II-1)」という。)、極性重合体(以下、「成分(II-2)」という。)及び充填剤(以下、「成分(III)」という。)から選ばれる少なくとも1種と、を含有する。尚、上記極性重合体に上記水添変性重合体は含まないものとする。上記非極性重合体及び上記極性重合体は、樹脂でもゴムでもよい。
【0078】上記成分(II-1)としては、ポリオレフィン系重合体及び芳香族ビニル系重合体が好ましい。上記ポリオレフィン系重合体としては、・・・ランダムタイプまたはブロックタイプまたはホモタイプ等のポリプロピレン樹脂(PP)・・・等が挙げられる。・・・
【0079】また、上記成分(II-2)としては、カルボキシル基(酸無水物、金属塩となっているカルボキシル基も含む。)、ヒドロキシル基、ハロゲン基、エポキシ基、オキサゾリン基、スルホン酸基、イソシアネート基、チオ-ル基、エステル結合、カーボネート結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、尿素結合から選ばれる少なくとも1種を有する重合体が好ましい。これらを有する重合体としては、・・・ポリエチレンテレフタレート(PET)・・・等のポリエステル樹脂、・・・等が挙げられる。・・・
【0080】上記成分(II-1)及び(II-2)として例示した重合体のうち、上記成分(I)の分子鎖構造に起因して、エチレンを構造単位として含有するポリエチレン樹脂や、プロピレンを構造単位として含有するポリプロピレン樹脂及び芳香族ビニルを構造単位とするポリスチレン系樹脂、更にはポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが物性改良効果に優れ、使用用途を広範なものとすることができるので特に好ましい。また、上記成分(I)中のアミノ基等の極性基に起因して、特に分子中にカルボキシル基(酸無水物、金属塩となっているカルボキシル基も含む。)、ヒドロキシル基・・・等の官能基、並びにエステル結合・・・等を有する重合体も物性改良効果に優れ、使用用途を広範なものとすることができるので特に好ましい。
【0081】本発明の水添変性重合体組成物が上記成分(I)及び上記成分(II-1)を含有する場合、あるいは上記成分(I)及び上記成分(II-2)を含有する場合、いずれも以下のような含有割合とすることができる。即ち、上記成分(II-1)及び上記成分(II-2)を「成分(II)」として表すと、上記成分(I)及び上記成分(II)の合計を100質量部とした場合、(I)/(II)は、好ましくは1?99質量部/99?1質量部、より好ましくは5?95質量部/95?5質量部、更に好ましくは10?90質量部/90?10質量部、特に好ましくは20?80質量部/80?20質量部である。上記のような含有割合とすることにより、要求される性能を満足することができる。
【0082】また、本発明の水添変性重合体組成物が上記成分(I)、上記成分(II-1)及び上記成分(II-2)を含有する場合、以下のような含有割合とすることができる。即ち、上記成分(II-1)及び上記成分(II-2)は、これらの合計を100質量部とすると、(II-1)/(II-2)が好ましくは1?99質量部/99?1質量部、より好ましくは5?95質量部/95?5質量部、更に好ましくは10?90質量部/90?10質量部であり、上記成分(I)の含有量は、上記成分(II-1)及び上記成分(II-2)の含有量の少ない方を100質量部として、好ましくは1?100質量部、より好ましくは5?50質量部、更に好ましくは10?40質量部である。上記のような含有割合とすることにより、要求される性能を満足することができる。
【0083】上記成分(III)としては、水酸化マグネシウムの他、・・・金属繊維等の無機繊維・・・等が挙げられる。・・・
【0084】これらの中で難燃剤として用いられるものは、例えば水酸化マグネシウム・・・等が挙げられる。・・・水酸化マグネシウムは難燃効果が高く特に好ましい。・・・
【0085】本発明の水添変性重合体組成物が上記成分(I)及び成分(III)を含有する場合、上記成分(I)、成分(II-1)及び成分(III)を含有する場合、上記成分(I)、成分(II-2)及び成分(III)を含有する場合、上記成分(I)、成分(II-1)、成分(II-2)及び成分(III)を含有する場合、以下のような含有割合とすることができる。即ち、上記成分(III)の含有量は、上記成分(I)等の重合体成分の合計を100質量部とした場合、好ましくは1?90質量部、より好ましくは2?80質量部、特に好ましくは5?70質量部である。かかる範囲とすることにより、上記成分(I)、成分(II-1)、及び成分(II-2)による効果を阻害することなく、難燃性や強度等の性質を付与することができる。
【0086】本発明の水添変性重合体組成物には、上記成分以外に、その他の添加剤として、・・・炭素繊維・・・を配合することができる。・・・
【0087】本発明の水添変性重合体組成物の製造には、押出機・・・等の従来公知の混練り機、及びそれらを組み合わせた混練り機を使用することができる。混練りするにあたり、各成分を一括混練りしてもよく、また任意の成分を混練りした後、残りの成分を添加し混練りする多段分割混練り法を採用することができる。また、このようにして得られた重合体組成物は射出成形・・等の公知の方法で成形することが可能である。・・・
【0088】本発明の水添変性重合体組成物は、上記構成を備えることにより、耐衝撃性、強度、成形加工性、接着性のバランスに優れた成形品を与える。

(e)【0089】?【0117】
「【0089】
【実施例】以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、下記説明において、部及び%は特に断らない限り重量基準である。
〔1〕実験例1
(1)水添触媒の製造
以下の方法により、実施例及び比較例で使用する水添触媒(触媒A及びB)を製造した。
<製造例1>触媒A[ビス(η^(5)-シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロライド]の合成
・・・触媒A・・・を得た。尚、収率は95%であった。
・・・
【0093】(2)水添変性重合体の製造
以下に記載の方法により、水添変性重合体(I-1?15)を製造した。
・・・
【0094】<実施例1>水添変性SEBS重合体の重合
窒素置換された内容積10リットルの反応容器に、シクロヘキサン5000g、テトラヒドロフラン150g、スチレン400g、及び変性剤として、3-リチオ-1-[N,N-ビス(トリメチルシリル)]アミノプロパン2.88gを加え、重合開始温度50℃にて重合した。反応完結後、温度を20℃として1,3-ブタジエン500gを添加して断熱重合した。30分後、スチレン100gを添加し、更に重合を行った。そして、反応溶液を80℃以上にして系内に水素を導入した。次いで、上記触媒A0.32g、テトラクロロシラン0.39gを加え、水素圧1.0MPaを保つようにして1時間反応させた。反応後、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出した。次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、保護基を外すと同時に水添変性SEBS重合体(I-1)を得た。
・・・
【0098】<実施例5>水添変性SEBS重合体の重合
重合開始剤にn-BuLiを用いて、表1の実施例5に示す水添前共重合体構造になるように重合開始剤の量、単量体種類、単量体量、重合温度、重合時間等を変化させて、実施例1に準じ、SEBS重合体を得た。そして、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン4.23gを加え、上記SEBS重合体の活性点に30分反応させた。そして、反応溶液を80℃以上にして系内に水素を導入した。次いで、上記触媒A0.55g、トリエチルアルミニウム0.25g、及びn-BuLi0.45gを加え、水素圧1.0MPaを保つようにして1時間反応させた。反応後、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添変性SEBS重合体(I-5)を得た。
・・・
【0109】上記実施例1?15の水添変性重合体(I-1?15)の評価をするにあたり、比較例として、表3に示す未変性水添重合体(<1>?<5>)を製造した。
【0110】
【表1】

・・・
【0113】(3)物性評価
上記方法により得られた(I-3)、(I-5)及び(I-12)の水添変性重合体等を用いて、表4に示す配合処方で混合した。成分(II-2)として、ポリエチレンテレフタレート(商品名「RT523C」日本ユニペット社製)を用いた。また、未変性水添重合体は、表3に示したものを用いた。得られた混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物とし、その後、ペレットとした。そして、このペレットを用いて射出成形により物性評価用の試験片を作製した。そして、下記に記載の方法により、実施例16?18及び比較例1?2の各試験片の物性評価を行った。その結果を以下の表4に示す。
【0114】<1>剛性
ASTM D790に従って、三点曲げ試験法により、23℃の温度条件下で曲げ弾性率を測定し、剛性の指標とした。
<2>耐衝撃性
ASTM D256に従って、アイゾット衝撃試験器により、23℃の温度条件下でアイゾット衝撃強度を測定し、耐衝撃性の指標とした。
<3>面衝撃性
耐衝撃性を表すもう一つの指標として、面衝撃性を測定した。面衝撃性は、重合体組成物を射出成形し得られた3.2mmの平板状試験片を25mmφの穴の上に置き、先端が半球状の15.7mmφの打撃棒を用いて2.4m/sの速度で打撃し、試験片が破壊するまでの変位と荷重の測定から破壊エネルギーを算出し、その大きさを面衝撃性の指標とした。
<4>引張破断強度及び引張破断伸び
ASTM D638に従って、23℃の温度条件下で試験片の引張試験を行い測定した。
・・・
【0115】
【表4】

【0116】次に、上記方法により得られた(I-1、2、4?11)の水添変性重合体等を用いて、表5・・・に示す配合処方で混合した。成分(II-1)として、ホモタイプのポリプロピレン(商品名「K1016」 チッソ社製)を、成分(II-2)として、ポリエチレンテレフタレート(商品名「RT523C」 日本ユニペット社製)を用いた。また、未変性水添重合体<1>?<5>は、表3に示したものを用いた。得られた混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物とし、その後、ペレットとした。そして、このペレットを用いて射出成形により物性評価用の試験片を作製した。そして、上記に記載の方法により、実施例19?28及び比較例3?8の各試験片の性能評価を行った。その結果を以下の表5・・・に示す。
【0117】
【表5】


(当審注;表3の記載は省略する。)

(f)【0144】?【0146】
「【0144】〔3〕実施例の効果
表4より、上記成分(I)が本発明の範囲に含まれる実施例16?18は、剛性が2150MPa以上、耐衝撃性が9.2kgcm/cm以上、面衝撃性が3210kgcm/cm以上、引張破断伸びが740%以上と大きく、鏡面性に優れ、層間剥離も認められなかった。よって、上記成分(I)が本発明の範囲に含まれる実施例16?18は、耐衝撃性、強度、接着性のバランスに優れた成形品を与える水添変性重合体組成物であることが分かる。
【0145】これに対し、重合体成分として、上記成分(I)を含まず、PETのみを含有する比較例1は実施例16?18と比べて、剛性が2650MPaと高い反面、耐衝撃性が3.8kgcm/cmと低く、面衝撃性は2830kgcm/cmと低く、更に引張破断伸びは80%と著しく低いことが分かる。一方、未変性水添重合体を用いた比較例2は、鏡面性が悪く、層間剥離があり、耐衝撃性が5.0kgcm/cm、面衝撃性が2500kgcm/cm、引張破断伸びが120kgcm/cmである。即ち、比較例2は、比較例1と比較して、耐衝撃性と破断伸びが僅かに改質されているが、実施例16?18と比較して、改質効果がある成形品を与える組成物とはいえないことが分かる。
【0146】また、表5より、本発明の水添変性重合体を含む重合体組成物である実施例19?28では、耐衝撃性が6.1kgcm/cm以上、面衝撃性が1470kgcm/cm以上、引張破断伸びが750%以上と大きく、鏡面性に優れ、層間剥離も認められなかった。よって、本発明の水添変性重合体を含有させることにより、耐衝撃性、強度、接着性のバランスに優れた水添変性重合体組成物とすることができることが分かる。特に、表5の実施例中、実施例26よりも他の実施例、即ち、第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有する水添変性重合体を用いた実施例が、特に耐衝撃性に優れていることが分かる。このことは、第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基によって変性した水添変性重合体が特に優れていることを示している。」

(2)引用文献Bの記載
引用文献Bには、次のとおり記載されている。
(g)[0001]?[0010]
「[0001] 本発明は、熱可塑性樹脂の補強材として用いられる炭素繊維束の製造方法に関するものであり、特に、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂の補強材として好適な炭素繊維束の製造方法に関するものである。・・・
背景技術
[0002] 炭素繊維束は、熱可塑性樹脂等の補強材として用いられるものであり、炭素からなる単繊維が複数まとまった形態をなしている。
熱可塑性樹脂の補強材として用いられる場合、一般に、炭素繊維束は、長さ5?15mmに切断された形態で供される。この炭素繊維束と熱可塑性樹脂とを混練したペレットを製造するに当たっては、炭素繊維束が定量的に押出機内に供されることが必要であるが、そのためには炭素繊維束の形態安定性が重要となる。炭素繊維束の形態が適切でないと、吐出斑の原因となり得ることがある。また、一定の押出速度が得られなくなるため、炭素繊維束が破断する、いわゆるストランド切れが発生し、ペレットの生産性が大幅に低下する恐れがあった。
[0003] さらに、近年、長繊維ペレットといわれる材料が注目されており、長繊維ペレットを製造する際は、炭素繊維束は連続繊維の形態でペレット製造工程に投入されることになる。この場合、炭素繊維束には毛羽やフライが発生し易く、また、炭素繊維束がバラケ易く、その取り扱いが困難であった。
さらに、炭素繊維束を織物にして熱可塑性樹脂を含浸させたシート材料として使用する場合もあり、炭素繊維束の製織性や製織後の織布の取り扱い性なども重要な特性となっている。
・・・
[0006] ・・・
発明の概要
・・・
[0010]本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン樹脂との良好な界面接着性を発現でき、ポリオレフィン系樹脂の強化に有用な炭素繊維束及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(h)[0088]?[0092]
「[0088] <熱可塑性樹脂組成物>
熱可塑性樹脂組成物は、マトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂に、本発明の炭素繊維束を混練することにより得られる。炭素繊維束を熱可塑性樹脂に混練するに際しては、連続あるいは所定の長さに切断された状態の炭素繊維束を押出機に供給し、熱可塑性樹脂と混練してペレットとすることが好ましい。
また、熱可塑性樹脂組成物は、射出成形法等の公知の成形法により成形することにより、任意の形状の成形品(炭素繊維強化複合成形品)を提供できる。
[0089] 熱可塑性樹脂組成物を調製するに当たっては、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、本発明の炭素繊維束の配合量が好ましくは3?60質量%、より好ましくは5?50質量%となるように、熱可塑性樹脂に配合する。炭素繊維束の配合量が3質量%未満であると、成形品の機械物性向上効果が不十分となる恐れがある。また、炭素繊維束の配合量が60質量%を超えると、それ以上の著しい向上効果が得られないと共に、ペレット製造時の工程安定性が低下し、またペレットに斑等が生じ、成形品の品質安定性が悪化する恐れがある。
・・・
[0092] このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物は、本発明の炭素繊維束を含有するので、曲げ強度、衝撃強度、及び曲げ弾性率に優れる。」

(3)引用文献Cの記載
引用文献Cには、次のとおり記載されている。
(i)特許請求の範囲
「【請求項1】
下記の成分(A)?(D)を、組成物を構成する全成分の合計100重量%に対して、それぞれ下記の比率で含有してなる自動車外装部品製造用熱可塑性樹脂組成物。
成分(A):ISO-307に準拠して測定される粘度数が80?120ml/gの範囲内であるポリアミド6樹脂:35?77重量%
成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系化合物重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物、並びに、不飽和酸及び/又はその誘導体でグラフト変性された、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系化合物重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物:1?20重量%
成分(C):炭素繊維:21?40重量%
成分(D):エチレンビニルアルコール樹脂:1?5重量%
・・・
【請求項8】
請求項1?7の何れか1項に記載の自動車外装部品製造用熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、得られた射出成形体に静電塗装を施してなる自動車外装部品。」
(j)【0032】?【0037】
「【0032】
各成分の含有率
本発明の自動車外装部品製造用熱可塑性樹脂組成物における、各成分(A)?(D)の含有率は、組成物を構成する全成分の合計100重量%に対して、それぞれ、下記の範囲内にあることが必要である。
成分(A):35?77重量%、好ましくは47?71重量%
成分(B):1?20重量%、好ましくは3?15重量%
成分(C):21?40重量%、好ましくは25?35重量%
成分(D):1?5重量%、好ましくは1?3重量%
これら各成分の含有率が、一つでも上記の範囲内にない場合には、流動性、耐衝撃性、寸法安定性、耐熱剛性、導電性、塗装密着性、外観等の物性バランスを高度に均衡させることはできない。
【0033】
・・・
成分(C)の含有率は、この範囲より少ないと寸法安定性、導電性、耐熱剛性が低下し、この範囲より多いと流動性、耐衝撃性、外観等が低下する。
・・・
【0035】
本発明における自動車外装部品製造用熱可塑性樹脂組成物の製造は、バンバリーミキサーや、押出機を使用しての溶融混練、或いはドライブレンド等、熱可塑性樹脂組成物の製造方法として、従来から公知の各種方法にて行うことができる。
・・・
【0036】
本発明の樹脂組成物から自動車外装部品を製造する方法に関して、この製造方法は特に限定されるものではなく、樹脂組成物について一般に採用されている成形法、すなわち射出成形法、中空成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等を採用することができる。」

(4)引用文献Dの記載
引用文献Dには、次のとおり記載されている。
(k)請求項1
「(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として、(A)ポリプロピレン樹脂40?94.5重量%、(B)炭素繊維5?40重量%、および(C)難燃剤0.5?20重量%を含む炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品であり、成形品中において(B)炭素繊維が屈曲して存在していることを特徴とする炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品。」
(m)【0058】
「(B)炭素繊維は5?40重量%、好ましくは10?35重量%、より好ましくは15?30重量%である。(B)炭素繊維が5重量%未満では、成形品の力学特性が不十分となる場合があり、40重量%を超えると射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある。」
(n)【0087】
「本発明の炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品は、難燃性、成形性に優れており、強化繊維とポリプロピレン樹脂との界面接着性が良好であるため、曲げ特性や耐衝撃特性に優れるため、電気・電子機器、OA機器、家電機器または自動車の構造部品、内部部材および筐体などに好適に用いられる。」

(5)引用文献Eの記載
引用文献Eには、次のとおり記載されている。
(p)[0007]?[0009]
「[0007] 本発明は、上記現状に鑑み、ポリオレフイン系炭素繊維強化樹脂組成物の強度(曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度)を向上させることを目的とする。
・・・
[0008] 上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ね、炭素繊維が有する反応性官能基と反応できる官能基(アミノ基等)を有する変性ポリオレフイン系樹脂が、炭素繊維の表面に存在する官能基(カルボキシル基、キノン基等)と反応して結合を形成し、マトリックス樹脂であるポリオレフイン系樹脂と炭素繊維との界面強度を強固にし、目的とする物性を向上させることができることを見出し本発明を完成させた。
[0009] すなわち、本発明は、
(1)(A)炭素繊維、
(B)ポリオレフイン系樹脂、及び
(C)上記(A)炭素繊維が有する反応性官能基と反応しうる官能基を1種以上有する変性ポリオレフイン系樹脂、
を、下記割合(質量%)で含むことを特徴とする繊維強化樹脂組成物。
(A):[(B)+(C)]=1?80:99?20・・・」
(q)[0044]?[0045]
「[0044] 次に、本発明の組成物における、上記 (A)?(C)成分の配合割合は、質量%で、
(A):[(B)+(C)]=1?80:99?20
であり、好ましくは
(A):[(B)+(C)]=2?40:98?60
である。
[0045] (A)炭素繊維の割合が1質量%未満では、炭素繊維による樹脂の強化効果が現れず、80質量%を超えると、靱性が失われる場合がある。」
(r)[0072]?[0082]
「[0072] 実施例1、2及び比較例1、2
二軸混練機(TEM20;東芝機械製)を用い、トップフィード部に、・・・ポリプロピレン系樹脂、変性ポリプロピレン系樹脂及び炭素繊維を投入した。シリンダー温度200℃、スクリュー回転数350rpmで混練し、ストランドを水冷後、ペレタイザで切断し、それぞれ炭素繊維強化樹脂ペレットを得た。
・・・
[0074] [表2]

[0075] 得られた炭素繊維強化樹脂ペレットから、・・・射出成形サンプル(多目的試験片A形)を作製した。
・・・
[0079] ・・・実施例1、2及び比較例1、2、及び実施例3、4及び比較例3、4の炭素繊維強化樹脂は、それぞれ密度、組成物中の重量平均繊維長及び繊維のアスペクト比がいずれも同じであるにもかかわらず、アミノ基含有ポリオレフィンを添加した実施例1?4では、引張破壊応力曲げ強さ、曲げ弾性率及びシャルピー衝撃強さがいずれも比較例1?4のものに比べて向上したことがわかる。
・・・
[0081] 本発明によれば、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度が向上した炭素繊維強化樹脂組成物を提供することができる。
[0082] 本発明の繊維強化樹脂組成物から得られる成形品は、自動車部品(フロントエンド、ファンシェラウド、クーリングファン、エンジンアンダーカバー、エンジンカバー、ラジエターボックス、サイドドア、バックドアインナー、バックドアアウター、外板、ルーフレール、ドアハンドル、ラゲージボックス、ホイールカバー、ハンドル、クーリングモジュール、エアークリーナー)、二輪・自転車部品(・・・)、住宅関連部品(・・・)、その他(電動工具部品、草刈り機ハンドル、ホースジョイント、樹脂ボルト、コンクリート型枠)や、特に剛性や耐久性の要求される自動車部品(・・・)やバルブ類として好適に利用できる。」

(なお、通し番号の(l)及び(o)は、数字と判別しにくいため使用していない。)

5.引用文献Aに記載の発明及び本願発明との対比
(1)引用文献Aに記載の発明
引用文献Aの「(I-1、2、4?11)の水添変性重合体等を用いて、表5・・・に示す配合処方で混合した。成分(II-1)として、ホモタイプのポリプロピレン(・・・)を、成分(II-2)として、ポリエチレンテレフタレート(・・・)を用いた。・・・得られた混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物とし、その後、ペレットとした。そして、このペレットを用いて射出成形により・・・試験片を作製した。・・・その結果を以下の表5・・・に示す。 」(上記4.(1)(e)【0116】)なる記載及び、表5の実施例22の欄の記載(同(e)の【0117】;成分(I)として「I-5」5質量%、成分(II-1)80質量%、成分(II-2)15質量%)によれば、引用文献Aには、実施例22として、
「成分(I)であるI-5の水添変性重合体を5質量%、成分(II-1)であるホモタイプのポリプロピレンを80質量%、成分(II-2)であるポリエチレンテレフタレート15質量%を混合して得られた混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物とし、その後、ペレットとし、このペレットを用いて射出成形により試験片を製造する方法」が記載されているといえる。

ここで、成分(I)、(II-1)及び(II-2)について、引用文献Aに、「本発明の水添変性重合体は、各種重合体等と配合されることにより、優れた物性を有する水添変性重合体組成物を与えることができる。本発明の水添変性重合体組成物は、上記水添変性重合体(以下、「成分(I)」という。)と、非極性重合体(以下、「成分(II-1)」という。)、極性重合体(以下、「成分(II-2)」という。)及び充填剤(以下、「成分(III)」という。)から選ばれる少なくとも1種と、を含有する。」(同(d)【0077】)と記載されているとおり、成分(I)は「水添変性重合体」、成分(II-1)は「非極性重合体」、成分(II-2)は「極性重合体」であるし、前記実施例22の成分(II-1)の「ホモタイプのポリプロピレン」及び成分(II-2)の「ポリエチレンテレフタレート」は、それぞれ、【0078】及び【0079】(同(d))に記載のとおり、いずれも「樹脂」である。
次に、「I-5の水添変性重合体」は、引用文献Aの実施例5及び表1の実施例5の欄の記載(同(e)【0098】及び【0110】)及び実施例5が引用する実施例1の記載(同(e)【0094】)によれば、重合開始剤にn-BuLi(これは、同(e)【0089】の記載によれば、n-ブチルリチウムである。)を用いて、スチレン15質量%、1,3-ブタジエン85質量%、1,2結合含量78質量%、カップリング率10.1%及び重量平均分子量11.7×10^(4)である水添前共重合体を得て、これに、変性剤として、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを反応させた後に、水素添加反応をさせ、反応後の溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって得られたものである。
ここで、変性剤である「N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン」は、引用文献Aに、「置換基XにN原子を含む化合物である一般式(6)で表されるアルコキシシラン化合物」であって、「加水分解等により保護基を外すと1級アミンとなる化合物」の具体例として記載されているものであり(同(c)の【0056】)、該化合物は、一般式(6)において、R^(10)が炭素数1のアルキル基であり、R^(11)が炭素数2のアルキル基であり、XはN原子を含む極性基を有する置換基であり、mは2であり、nは1である場合に相当する。
また、引用文献Aの実施例5の「反応後の溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去する」工程は、実施例5が引用する実施例1の記載(同(e)の【0094】)によれば、「保護基を外す」工程であり、この工程では、「保護基」である「トリメチルシリル基」が外されることとなる。
そして、一般式(6)の変性剤化合物で変性された水素変性重合体については、引用文献Aの請求項8を引用する請求項9((同(a))に記載されているものである。
そうすると、「I-5の水添変性重合体」を、請求項8を引用する請求項9の記載にならって記載すると、「I-5の水添変性重合体」は、
「有機アルカリ金属化合物であるn-ブチルリチウムを重合開始剤として重合して製造された、1,3-ブタジエン85質量%及び他の単量体であるスチレン15質量%からなる共役ジエン系重合体に、次の一般式(6)
R^(10)_((4-m-n))Si(OR^(11))_(m)X_(n) ・・・・(6)
で表される保護基を有するアルコキシシラン化合物であるN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを加えて反応停止させて変性重合体とした後、水素添加し、ついで、保護基を外して得られる1級アミノ基を有する水添変性重合体である、
前記方法。」
と表現できる。

以上によれば、引用文献Aには、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「水添変性重合体成分(I)であるI-5の水添変性重合体5質量%、非極性重合体成分(II-1)であるホモタイプのポリプロピレン樹脂80質量%、極性重合体成分(II-2)であるポリエチレンテレフタレート樹脂15質量%を混合して得られた混合物を、二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物とし、その後、ペレットとし、このペレットを用いて射出成形により試験片を製造する方法であって、
I-5の水添変性重合体は、有機アルカリ金属化合物であるn-ブチルリチウムを重合開始剤として重合して製造された、1,3-ブタジエン85質量%及び他の単量体であるスチレン15質量%からなる共役ジエン系重合体に、次の一般式(6)
R^(10)_((4-m-n))Si(OR^(11))_(m)X_(n) ・・・・(6)
で表される保護基を有するアルコキシシラン化合物であるN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを加えて反応停止させて変性重合体とした後、水素添加し、ついで、保護基を外して得られる1級アミノ基を有する水添変性重合体である、
前記方法。」

(2)本願発明との対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「極性重合体成分(II-1)であるホモタイプのポリプロピレン樹脂」及び「極性重合体成分(II-2)であるポリエチレンテレフタレート樹脂」は、本願発明の「(C)」成分である「熱可塑性樹脂」に相当する。
また、引用発明の、「有機アルカリ金属化合物であるn-ブチルリチウムを重合開始剤として重合して製造された、1,3-ブタジエン85質量%及び他の単量体であるスチレン15質量%からなる共役ジエン系重合体に、次の一般式(6)
R^(10)_((4-m-n))Si(OR^(11))_(m)X_(n) ・・・・(6)
で表される保護基を有するアルコキシシラン化合物であるN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを加えて反応停止させて変性重合体とした後、水素添加し、ついで、保護基を外して得られる1級アミノ基を有する水添変性重合体」である「水添変性重合体成分(I)であるI-5の水添変性重合体」は、本願発明の成分「(A)」である「アミノ基を有する共役ジエン系重合体」に相当する。
そして、引用発明では、非極性重合体成分(II-1)であるホモタイプのポリプロピレン樹脂80質量%及び極性重合体成分(II-2)であるポリエチレンテレフタレート樹脂15質量%からなる重合体成分(II)の合計95質量%に対し、I-5の水添変性重合体が5質量%となる配合割合でこれらを混合(これは、本願発明の「ブレンド」に相当する。)しているところ、これは、本願発明にならい、重合体成分(II)100質量部に対する割合で換算すると、重合体成分(II)100質量部に対し、I-5の水添変性重合体は、5.3質量部(=5×100÷95)の割合となる量である。
そして、この配合割合は、本願発明の「熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、アミノ基を有する共役ジエン系重合体(A)0.05質量部以上30質量部以下」の条件を満足している。
さらに、引用発明の「二軸押出機を用いて溶融混練りして組成物と」する工程及び「射出成形により試験片を製造する」工程は、それぞれ、本願発明の「溶融混練」する工程及び「成形体を作製する」工程に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、
「熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、
アミノ基を有する共役ジエン系重合体(A)0.05質量部以上30質量部以下をブレンドして混合物を得て、
該混合物を溶融混練し、ペレットを作製した後、成形体を作製する、成形体の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
熱可塑性樹脂に対して、アミノ基を有する共役ジエン系重合体をブレンドしてなる混合物を得て、混合物を溶融混練し、ペレットを作製した後、成形体を作製する、成形体の製造方法において、本願発明では、ペレットの作製に使用される混合物に、「熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、炭素繊維(B)3質量部以上150質量部以下をブレンド」して混合物を得て、該混合物からペレットを作製した後、成形体を作製するのに対し、引用発明では、ペレットの作製に使用される混合物に炭素繊維がブレンドされていない混合物からペレットを作製した後、成形体を作製する点。

6.相違点についての判断
以下、相違点について検討する。

(1)引用発明の成形体の製造方法において、原料混合物を1級アミノ基を有する成分(I)の水添変性重合体であるI-5を含むものとする点の技術的意義について(前提)
引用文献Aには、従来より、高分子物質は、強度、耐衝撃性等の面から、多成分の高分子物質やフィラー等の補強剤との組成物として使用されていること、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素からなるブロック共重合体の水素添加物である水添ブロック共重合体は、ポリオレフィン樹脂等の非極性樹脂とは比較的相容性が高く、種々の組成物が製造され広く利用されているが、従来の水添ブロック共重合体は、PET等の極性樹脂とは相容性が低いため、極性基を付与する必要があること、極性基を付与する従来の方法では、目的とする物性の再現性や成形品の耐候性で問題があったこと、引用発明は、耐衝撃性、強度、接着性の改質及び外観のバランスに優れた成形品が得られる組成物を提供するものであることが記載されている。(上記4.(1)の(b)【0001】?【0004】)
また、引用文献Aには、引用発明は、極性樹脂やフィラーと相互作用のある極性基を導入すべく、触媒を用いて単量体を重合して得られるリビングポリマーを、保護されたアミノ基等の極性基を有する化合物と反応させる等により変性し、得られた変性重合体を水素添加することによって、成形品の耐衝撃性、強度、接着性、外観の改質に優れた水添変性重合体が得られることを見出して完成されたこと(同(b)【0005】)、水添変性重合体(成分(I))は、極性樹脂改質効果や従来の異種重合体混合物の相容化効果に優れて、重合体組成物とすることにより、剛性、耐熱性、耐衝撃性、面衝撃性、引張破断伸び、鏡面性、層間剥離のバランスに優れた成形品とできること、水添変性重合体と、非極性重合体、極性重合体及び充填剤から選ばれる少なくとも1種とが均一に混合され、必要に応じて添加される添加剤を含有することによって、剛性、耐熱性、耐衝撃性、面衝撃性、引張破断伸び、鏡面性、層間剥離のバランスに優れた成形品を与えることができること、組成物の利用分野としては、食品包装容器、各種トレー、シート、チューブ、フィルム、繊維、積層物、コーティングや電気・電子部品、OA機器や家電の筺体、自動車内外装材、外板部品、精密部品、建材等の各種工業部品等が挙げられることが記載されている(同(b)【0021】)。
さらに、引用文献Aには、共役ジエン系重合体の活性点に一般式(6)のアルコキシシラン化合物を反応させて、重合体末端に極性基が結合した末端変性重合体(これには、引用発明のI-5の水添変性重合体が包含される。)とすることにより、極性樹脂やフィラーとの親和性に優れると共に、耐衝撃性、強度、接着性に優れた成形品を与える水添変性重合体となることも記載されている(同(c)【0053】?【0054】)。

これら引用文献Aの記載によれば、従来から、強度、耐衝撃性等の物性に優れた成形品を得るために、高分子物質やフィラー等の補強剤を含む組成物とすることが知られていたところ、引用発明の成分(I)を含む組成物は、成分(I)が、極性樹脂やフィラーとの親和性、異種重合体混合物の相容化効果に優れることから、成形品を、剛性、耐熱性、耐衝撃性、面衝撃性、引張破断伸び、鏡面性、層間剥離のバランスに優れたものとできるとされている。
そして、引用文献Aには、成形体を構成する原料成分として成分(I)に相当する「1級アミノ基を有する水添変性重合体であるI-5」が含まれる樹脂混合物から製造される引用発明の成形体が、耐衝撃性、強度、接着性に優れた成形品を与えることも具体的に示されており(同(e)【0117】表5の実施例22の欄及び同(f)の【0146】)、また、表5に示される結果を受けて、「特に、表5の実施例中、実施例26よりも他の実施例、即ち、第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有する水添変性重合体を用いた実施例が、特に耐衝撃性に優れていることが分かる。このことは、第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基によって変性した水添変性重合体が特に優れていることを示している。」(同(f)の【0146】)と記載されている。

そうすると、引用発明の成形体の製造方法において、原料混合物を1級アミノ基を有する成分(I)の水添変性重合体であるI-5を含むものとする点の技術的意義は、原料混合物に含まれる水添変性重合体I-5に含まれる1級アミノ基に起因して、極性樹脂やフィラー等の補強剤との親和性に優れる結果、耐衝撃性、強度、接着性等の各種物性に優れる成形体が得られるというものであると認められる。

(2)本願の優先日当時の周知技術について
以下に記載するとおり、引用発明を開示する引用文献Aと同様に、シート、電気・電子部品、OA機器や家電の筺体、自動車内外装材、外板部品、精密部品、建材等の各種工業部品等として用いられる樹脂成形品として、補強繊維である炭素繊維を含む炭素繊維強化樹脂組成物からなり、強度等の物性が改善された樹脂成形品は、本願の優先日当時に周知であったし、炭素繊維強化樹脂成形品を構成する樹脂と炭素繊維との配合割合が本願発明と同程度のものも当業者に広く知られていた(引用文献B?E参照。)。
具体的には、本願優先日当時の周知技術を示す引用文献B?Eには、それぞれ、上記4.(2)?(5)に示した事項が記載されているところ、これらの引用文献に記載される炭素繊維強化樹脂成形品を構成する樹脂と炭素繊維との配合割合を本願発明の発明特定事項にならって換算すると以下のとおりとなる。
・引用文献B
上記4.(2)(h)の[0089]によれば、「熱可塑性樹脂組成物100質量%中・・・炭素繊維束の配合量が好ましくは3?60質量%・・・となるように、熱可塑性樹脂に配合」され、「炭素繊維束の配合量が3質量%未満であると、成形品の機械物性向上効果が不十分となる恐れがある」(ここで、「機械物性」は、同(h)の[0092]からみて、「曲げ強度、衝撃強度、及び曲げ弾性率」を意図すると解される。)。
そして、上記配合量を換算すると、熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して炭素繊維が3.1?150質量部であり、本願発明の配合割合と重複一致している。
・引用文献C
上記4.(3)(i)及び(j)によれば、
「成分(A)?(D)を、組成物を構成する全成分の合計100重量%に対して、
成分(A):・・・ポリアミド6樹脂:35?77重量%
成分(B):ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系化合物重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物、並びに、不飽和酸及び/又はその誘導体でグラフト変性された、ビニル芳香族化合物重合体ブロックと共役ジエン系化合物重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物:1?20重量%
成分(C):炭素繊維:21?40重量%
成分(D):エチレンビニルアルコール樹脂:1?5重量%」となる比率で含有する組成物からの成形体とすることが必要であり、成分(C)の炭素繊維がこの範囲より少ないと、「寸法安定性、・・・耐熱剛性が低下し、この範囲より多いと流動性、耐衝撃性、外観等が低下する」とされているが、成分(C)以外を熱可塑性樹脂として換算した場合、その質量比は、熱可塑性樹脂:炭素繊維=79:21?60:40であるから、熱可塑性樹脂100質量部に対して炭素繊維は26.6?66.7質量部であり、本願発明の配合割合と重複一致している。
・引用文献D
上記4.(4)(k)によれば、「(A)、(B)および(C)の合計を100重量%として、(A)ポリプロピレン樹脂40?94.5重量%、(B)炭素繊維5?40重量%、および(C)難燃剤0.5?20重量%を含む炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂成形品」とされており、同(m)によれば、「炭素繊維が5重量%未満では、成形品の力学特性が不十分となる場合があり、40重量%を超えると射出成形などの成形加工の際に流動性が低下する場合がある」とされているが、これによると、熱可塑性樹脂である(A)ポリプロピレン樹脂と(B)炭素繊維の質量比は、熱可塑性樹脂:炭素繊維=40:40?94.5:5であるから、熱可塑性樹脂100質量部に対して炭素繊維は5.3?100質量部であり、本願発明の配合割合と重複一致している。
・引用文献E
上記4.(5)(p)の[0009]、(q)[0044]及び(r)[0082]によれば、成形品を製造するための「(A)炭素繊維、(B)ポリオレフイン系樹脂、及び(C)上記(A)炭素繊維が有する反応性官能基と反応しうる官能基(アミノ基等)を1種以上有する変性ポリオレフイン系樹脂を・・・含む繊維強化樹脂組成物」は、「(A)?(C)成分の配合割合は、質量%で、好ましくは、(A):[(B)+(C)]=2?40:98?60」であり、(p)[0045]によれば、「炭素繊維の割合が1質量%未満では、炭素繊維による樹脂の強化効果が現れず、80質量%を超えると、靱性が失われる場合がある」とされている。
ここで、熱可塑性樹脂に相当する、(B)ポリオレフイン系樹脂及び(C)上記(A)炭素繊維が有する反応性官能基と反応しうる官能基(アミノ基等)を1種以上有する変性ポリオレフイン系樹脂の合計を100質量部として換算すると、炭素繊維は2.0?66.7質量部であり、本願発明の配合割合と大部分で重複一致している。
なお、引用文献Eにおいて、(C)成分の「(A)炭素繊維が有する反応性官能基と反応しうる官能基(アミノ基等)を1種以上有する変性ポリオレフイン系樹脂」は、炭素繊維が有する反応性官能基と反応できる官能基(アミノ基)を有する変性ポリオレフイン系樹脂が、炭素繊維の表面に存在する官能基と反応して結合を形成し、マトリックス樹脂であるポリオレフイン系樹脂と炭素繊維との界面強度を強固にして成形体の曲げ強度、衝撃強度等の強度物性を向上させる点(上記(p)の[0007]及び[0008])で、本願発明の「アミノ基を有する共役ジエン系重合体(A)」と同じ機能(本願明細書の[0024]参照。)を有するものであることから、引用文献Eの(C)成分を熱可塑性樹脂から除外して考えた場合であっても、引用文献Eの表2(上記(r)[0074])の実施例1では、(A)炭素繊維が10質量%、(B)ポリオレフイン系樹脂が86質量%となっており、これは、換算すると、ポリオレフイン系樹脂100質量部に対して炭素繊維は11.6質量部であり、本願発明の配合割合と一致している。

(3)引用発明の試験片の製造方法において、成形体の製造原料「混合物」に、熱可塑性樹脂((II-1)のホモタイプのポリプロピレン樹脂及び極性重合体成分(II-2)のポリエチレンテレフタレート樹脂)100質量部に対して、炭素繊維3質量部以上150質量部以下をブレンド」して混合物とし、該混合物からペレットを作製した後、試験片を作製する方法とする点の容易性の判断について
(1)で述べたように、引用発明は、成形体の原料混合物を1級アミノ基を有する成分(I)の水添変性重合体I-5を含むものとすることで、該重合体I-5に含まれる1級アミノ基に起因して、極性樹脂やフィラー等の補強剤との親和性に優れ、その結果、耐衝撃性、強度等の物性に優れる成形体とすることができることを前提とするものであるところ、引用文献Aには、成形体を構成する原料成分に関し、「その他の添加剤」として「炭素繊維」が具体的に例示されている(上記(d)の【0086】)。
また、(2)で述べたように、本願の優先日当時、各種用途に用いられる樹脂成形品として、樹脂の補強剤として炭素繊維を使用して、曲げ強度や衝撃強度等の強度物性が改善された樹脂成形品とすることは本願の優先日当時に周知であったし、炭素繊維強化樹脂成形品を構成する樹脂と炭素繊維との配合割合が本願発明と同程度のものとすることも当業者に広く知られていた。
さらに、引用発明において、引用文献Aの記載に従い成形体を構成する原料に、「その他の添加剤」として「炭素繊維」を添加する場合には、引用発明の成形体原料である混合物に炭素繊維を添加(ブレンド)して行うことが自然と解されるし、炭素繊維強化樹脂成形品の製造にあたり、熱可塑性樹脂に炭素繊維をブレンドした混合物からペレットを作製し、該ペレットを使用して成形品を作製する手法自体、本願優先日当時周知であった(例えば、引用文献E(上記(r)[0072])、特開昭63-297455号公報(実施例1)参照。)
そうすると、かかる本願の優先日当時の周知技術を認識している当業者であれば、引用発明において、より強度等の物性に優れた成形品を製造するために、引用発明において、引用文献Aにも記載され、樹脂の補強剤として周知の「炭素繊維」を、原料混合物に本願発明で特定される程度に「ブレンド」し、該混合物からペレットを作製した後、成形体を作製する方法とすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

(4)本願発明の効果について
本願明細書には、本願発明の効果に関し、「3.5.実施例1?74、比較例1?37」の項目([0171]?[0181])に、本願発明の(A)成分、(B)成分及び(C)成分に対して酸化防止剤を添加し、ハンドブレンドして得た混合物を、単軸押出機に供給して溶融混練し、ペレットを得た後、射出成形機を用いて、配向プレートを成形し、カッターにて試験片を切り出し、切削整形したものについて各種物性評価を行った結果が記載されており、「3.6.評価結果」の項目([0182]?[0187]の特に[0183]及び[0186])には、「比較例2によれば、(B)成分を含まないため、実施例に比べて曲げ強度及び落錘衝撃強度が劣ることが判明した。」、「比較例6によれば、(C)成分100質量部に対して(B)成分の含有割合が170質量部と多いため、実施例に比べて落錘衝撃強度が劣り、またストランドの毛羽立ちが見られた。」と記載されている。
しかしながら、(2)で記載した引用文献B?Eの記載からも明らかなとおり、成形体を製造する原料に炭素繊維を補強剤として含有せしめることで、曲げ強度や衝撃強度といった強度特性がより改善された成形体とすることができることは、本願優先日当時に周知の事項であったといえる。
また、(1)で記載したとおり、引用文献Aには、引用発明における成形体原料混合物が1級アミノ基を有する成分(I)の水添変性重合体I-5を含むことで、該重合体中の1級アミノ基に起因して、フィラー等の補強剤との親和性に優れ、その結果、耐衝撃性、強度等の物性に優れる成形体とすることができることも記載されているところ、引用文献Eの記載(上記4.(5)の(p)[0008]及び(r)[0079])によれは、アミノ基を有する重合体I-5は炭素繊維の表面に存在する官能基と反応し得るものと解され、その結果、炭素繊維と樹脂との界面強度がより一層改善することが期待できる。
そうすると、成分(I)の水添変性重合体I-5を含む原料混合物を炭素繊維を含有するものとすることで、なお一層、曲げ強度及び衝撃強度(これには、落錘衝撃強度も含まれる)が改善できることは、引用文献Aの記載及び本願優先日当時の周知技術から、当業者が予測し得る範囲内の効果に過ぎない。
また、そもそも、炭素繊維の含有量を本願発明の程度とすることが一般的である上、引用文献B、Cには、炭素繊維の含有量が多すぎると、「ペレット製造時の工程安定性が低下し、またペレットに斑等が生じ、成形品の品質安定性が悪化する」(引用文献B;上記4.(2)(h)[0089])、「耐衝撃性・・・が低下する」(引用文献C;上記4.(3)(j)【0033】)と、それぞれ記載されているし、樹脂と炭素繊維の親和性・界面強度を改善すれば、樹脂と炭素繊維界面が剥離することによるストランドの毛羽立ちが抑制できると解されるから、炭素繊維含有量を本願発明とすることによる効果も、引用文献Aの記載及び本願優先日当時の周知技術から、当業者が予測し得る範囲内の効果に過ぎない。

(5)請求人の主張について
請求人は、平成29年1月31日付けの意見書の4.(1)において、
「引用文献Aには、成分(I)、成分(II-1)及び成分(III)を混合して組成物とし、押出成形により成形体を得た具体的な実施例として、実施例29?32及び比較例9が記載されています(0119?0120段落)。しかしながら、これらの実施例では、成分(II-1)15質量部に対して、成分(I)が25質量部、成分(III)が60質量部添加されています。すなわち、成分(II-1)100質量部に対して、成分(I)が167質量部、成分(III)が400質量部添加されていることになります。これらの実施例で使用した組成物における組成は、本願発明1の特定の組成比とは全く異なります。
これに対して、本願発明1の特定の組成比を引用文献Aの形式で記載してみると、共役ジエン系重合体(A)/熱可塑性樹脂(C)は、0.0005?23質量部/99.9995?77質量部となります。そうすると、本願発明1の特定の組成比は、引用文献Aの0081段落の特に好ましい範囲とは僅かに重複しますが、引用文献Aの前記の記載内容から本願発明1の特定の組成比を当業者が導き出すためには相当の試行錯誤を要するものと思料いたします。
また、本願明細書の実施例でも立証されているように、本願発明1は、熱可塑性樹脂100質量部に対して共役ジエン系重合体(A)を0.07?3質量部(微量)とした組成比の組成物からなる成形体であっても、本願発明の解決課題である耐衝撃性や曲げ強度などの機械的特性の向上が見られます。
以上のように、引用文献Aには、本願発明1の製造方法及び特定の組成比が記載されているとはいえず、本願発明の課題を解決するために引用文献Aの記載内容から本願発明1の特定の組成比を当業者が導き出すためには相当の試行錯誤を要するものと思料いたします。よって、本願発明1は、引用発明Aから当業者が容易に想到し得る発明とはいえません。」
と、主張する。

まず、請求人が主張する引用文献Aの実施例29?32について検討すると、引用文献Aの【0119】に、
「・・・(I-5)、(I-6)、(I-9)及び(I-14)の水添変性重合体等を用いて、表7に示す配合処方で混合した。成分(II-1)としてポリプロピレン・・・を用い、成分(III)として難燃性を付与する水酸化マグネシウム・・・を用いた。・・・これらの各成分を、220℃に温度調整された単軸押出機を用いて混合して組成物とし、押出成形により、物性評価用の試験片を作製した。そして、上記に記載の方法により、実施例29?32及び比較例9の各試験片の性能評価を行った。その結果を以下の表7に示す。」
と記載されているとおり、実施例29?32は、難燃性の成形品の製造のために、充填剤成分(III)として難燃剤である「水酸化マグネシウム」を使用するものであって、炭素繊維強化樹脂成形品の製造のための炭素繊維のように、成形品の強度を改善する樹脂強化用の「補強剤」として使用されるものではない。
そうすると、上記実施例の記載をもって、本願発明が、引用文献Aに記載された発明及び本願優先日の周知技術から当業者が容易に想到し得た発明ではないとすることはできない。
さらに、請求人が「本願発明1は、熱可塑性樹脂100質量部に対して共役ジエン系重合体(A)を0.07?3質量部(微量)とした組成比の組成物からなる成形体であっても、本願発明の解決課題である耐衝撃性や曲げ強度などの機械的特性の向上が見られます」と主張する点については、本願発明(請求人のいう本願発明1)では、共役ジエン系重合体(A)の熱可塑性樹脂100質量部に対する配合量は、「0.05質量部以上30質量部以下」と特定されており、この点は本願発明との相違点ではないから、この点の請求人の主張は採用できない。

なお、引用文献Aにおいては、充填剤成分(III)に関し、炭素繊維がその概念上含まれる無機繊維が例示され(上記4.(1)(d)【0083】)、また、【0085】(同(d))には、成分(III)の含有量について、本願発明の「熱可塑性樹脂(C)」に相当する成分(II)と本願発明の「共役ジエン系重合体(A)」に相当する成分(I)とを合わせたものに相当する「成分(I)等の重合体成分の合計を100質量部とした場合、好ましくは1?90質量部」と記載されており、引用文献Aにおいて、成分(I)/(II)の組成比が好ましくは1?99質量部/99?1質量部(【0081】)とされていることからすれば、(I)/(II)の組成比範囲の大部分で、成分(III)の成分(II)に対する組成比が重複しているし、引用文献Aの【0085】には、「かかる範囲とすることにより、「上記成分(I)、成分(II-1)、及び成分(II-2)による効果を阻害することなく、難燃性や強度等の性質を付与することができる。」とも記載されているのであるから、この点からも、引用発明において、炭素繊維の含有量を本願発明の程度とすることは、当業者が容易になし得たことといえ、引用文献Aの充填剤(III)についての記載が、本願発明に進歩性がないことを裏付けるものではあっても、引用発明から本願発明を想到することが容易でないことの根拠とはなりえない。

(6)小括
よって、本願発明は、引用発明(引用文献Aに記載された発明)及び本願の優先日当時の周知技術(引用文献B?E)から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり、本願発明(本願請求項1に係る発明)は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-08 
結審通知日 2017-03-15 
審決日 2017-03-30 
出願番号 特願2015-558288(P2015-558288)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柴田 昌弘新留 豊  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 渕野 留香
橋本 栄和
発明の名称 成形体の製造方法  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  
代理人 松本 充史  

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