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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 G01C 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01C |
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管理番号 | 1328591 |
審判番号 | 不服2016-6839 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-09 |
確定日 | 2017-06-13 |
事件の表示 | 特願2015-528784「作業機械の制御システム及び作業機械」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日国際公開、WO2015/167022、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許出願: 平成27年5月29日(国際出願) 拒絶理由通知: 平成27年11月10日(発送日:同年同月17日) 拒絶査定: 平成28年2月4日(以下、「原査定」という。送達日:同年同月9日) 拒絶査定不服審判の請求: 平成28年5月9日 手続補正: 平成28年5月9日 拒絶理由通知: 平成29年2月9日 (以下、「当審拒絶理由」という。発送日:同年同月14日) 手続補正: 平成29年4月17日(以下、「本件補正」という。) 意見書: 平成29年4月17日(以下、「本件意見書」という。) 第2 原査定の概要 1.(進歩性)この出願の請求項1-9,13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 <引用文献等一覧> 1.特開2004-125580号公報 第3 当審拒絶理由の概要 1 本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2 本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3 本件出願の請求項1-13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用刊行物 1.特開2004-125580号公報(拒絶査定時の引用文献1と同じ。) 第4 本願発明 本願請求項1-11に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明11」という。)は、平成29年4月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1-11は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 走行装置、作業具を有する作業機、及び前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体を備える作業機械を制御するシステムであって、 前記作業機械の位置を検出する位置検出装置と、 前記作業機械が有する前記上部旋回体に取り付けられて、前記上部旋回体の動作を示す動作情報を検出する慣性計測装置と、 前記位置検出装置によって検出された位置の情報を前記作業機械の位置に関連する位置情報として出力する第1のモードと、前記状態検出装置によって検出された前記動作情報及び前記位置検出装置による測位が異常となる前における前記作業機械の基準となる位置であって、前記旋回体の回転中心軸と前記走行装置が接地する面に相当する面との交点である特定点の両方を用いて求められた前記位置情報を出力する第2のモードと、前記位置情報を出力しない第3のモードと、のいずれか1つで動作し、 前記位置検出装置による測位が正常である場合は前記第1のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行していない静定状態である場合には前記第2のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行している非静定状態である場合には前記第3のモードで動作する位置情報生成部と、 前記位置情報生成部から得られる前記位置情報に基づき前記作業機の位置を求める目標値生成部と、 を含み、前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める、作業機械の制御システム。 【請求項2】 前記位置情報生成部は、 前記第2のモードで動作中に、前記作業機械の動作を検出するための機器及び前記作業機械の位置を求めるための機器の少なくとも一方に関する異常があった場合、前記第3のモードで動作する、 請求項1に記載の作業機械の制御システム。 【請求項3】 前記位置情報生成部は、さらに、前記第2のモードで動作中に前記位置検出装置による測位が正常になった場合は前記第1のモードで、前記第2のモードで動作中に前記作業機械が走行した場合を条件として前記第3のモードで動作する、 請求項1に記載の作業機械の制御システム。 【請求項4】 前記位置情報生成部は、 前記条件に代えて、前記作業機械の動作を検出するための機器及び前記作業機械の位置を求めるための機器の少なくとも一方に関する異常があった場合を条件として、前記第3のモードで動作する、 請求項3に記載の作業機械の制御システム。 【請求項5】 前記位置情報生成部は、 前記旋回体の旋回中、前記第2のモードで動作中に前記位置検出装置による測位が正常になった場合は、少なくとも前記旋回体の旋回が終了するまで前記第2のモードでの動作を継続する、請求項3に記載の作業機械の制御システム。 【請求項6】 前記位置情報生成部は、 前記条件に代えて、前記第2のモードで動作中、前記作業機械の動作を検出するための機器及び前記作業機械の位置を求めるための機器の少なくとも一方に関する異常があった場合を条件として、前記第3のモードで動作する、 請求項3に記載の作業機械の制御システム。 【請求項7】 前記位置情報生成部は、 前記条件に代えて、前記第2のモードで動作した時間が閾値を超えた場合を条件として、前記第3のモードで動作する、 請求項3に記載の作業機械の制御システム。 【請求項8】 前記位置情報生成部は、 前記条件に代えて、前記第2のモードで動作中、前記旋回体が同一方向に特定角度よりも大きく旋回した場合を条件として、前記第3のモードで動作する、 請求項3に記載の作業機械の制御システム。 【請求項9】 走行装置、作業具を有する作業機、前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体を備える作業機械を制御するシステムであって、 前記作業機械の位置を検出する位置検出装置と、 前記作業機械が有する前記上部旋回体に取り付けられて、前記上部旋回体の動作を示す動作情報を検出する慣性計測装置と、 前記位置検出装置によって検出された位置の情報を前記作業機械の位置に関連する位置情報として出力する第1のモードと、前記状態検出装置によって検出された前記動作情報及び前記位置検出装置による測位が異常となる前における前記作業機械の基準となる位置であって、前記旋回体の回転中心軸と前記走行装置が接地する面に相当する面との交点である特定点の両方を用いて求められた前記位置情報を出力する第2のモードと、前記位置情報を出力しない第3のモードと、のいずれか1つを、前記位置検出装置による測位が正常であるか異常であるか及び前記上部旋回体が旋回するか否かを用いて選択して動作する位置情報生成部と、 前記位置情報生成部から得られる前記位置情報に基づき前記作業機の位置を求める目標値生成部と、 を含み、前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める、作業機械の制御システム。 【請求項10】 前記位置情報生成部は、 前記作業機械が走行していない静定状態かつ前記位置検出装置による測位が正常である場合には前記第1のモードで動作し、かつ前記特定点を求め、 前記作業機械が前記静定状態かつ前記位置検出装置による測位が異常になった場合に、前記特定点を用いて前記第2のモードで動作する、 請求項9に記載の作業機械の制御システム。 【請求項11】 請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の作業機械の制御システムを備える、作業機械。」 第5 引用文献、引用発明等 1.引用文献1について 当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、油圧ショベル等の作業機械の位置計測システムに係り、特に、モニタポイントの3次元空間における絶対位置を計測するに好適な作業機械の位置計測システムに関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、建設施工現場においてGPS等の3次元位置計測装置を用いて建設機械のモニタポイントの位置を計測し、作業管理を行うことがなされている。モニタポイントの代表例としては、建設機械の作業装置の位置,例えば油圧ショベルのバケット先端位置がある。このバケット先端位置を計測できれば、その計測データを予め設定した地形データや目標形状データと比較することにより施工中の作業進行状況を把握でき、施工中の管理が行える。また、施工後も、計測データから出来形データ(例えば掘削地形データ)を生成することで、施工管理が行える。」 「【0020】 図1は、本発明の一実施の形態による作業機械の位置計測システムの構成を示すブロック図である。 【0021】 位置計測システムは、基準局からの補正データ(後述)をアンテナ33を介して受信する無線機41と、この無線機41で受信した補正データを分配する分配機42と、この分配機42で分配した補正データとGPSアンテナ31,32により受信されるGPS衛星からの信号とに基づいてGPSアンテナ31,32の3次元位置をリアルタイムに計測するGPS受信機43,44と、このGPS受信機43,44からの位置データと角度センサ21,22,23や傾斜センサ24やジャイロ25などの各種センサからの角度データとに基づき、油圧ショベル1のバケット7の先端(モニタポイント)の位置を演算し、さらに後述する3次元目標地形を示すデータが所定のメモリに記憶されているパネルコンピュータ45と、このパネルコンピュータ45により演算された位置データや3次元目標地形をイラスト等を交えて表示する表示装置46と、パネルコンピュータ45により演算された位置データ及びその演算状態データをアンテナ35を介して送信するための無線機47と、コンピュータ45での演算状態を音声によりオペレータに知らせるためのスピーカ48とを備えている。なお、GPSアンテナ31とGPS受信機43,GPSアンテナ32とGPS受信機44はそれぞれ1セットのGPS(Groba1 Positioning System)を構成している。 【0022】 図2は、本発明の実施の形態による建設機械の掘削作業教示装置を用いた油圧ショベルの外観を示す図である。 【0023】 油圧ショベル1は下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に設けられ、下部走行体2と共に本体を構成する上部旋回体3と、上部旋回体3に設けられたフロント作業機4とからなる。フロント作業機4は上部旋回体3に上下方向に回転可能に設けられたブーム5と、ブーム5の先端に上下方向に回転可能に設けられたアーム6と、アーム6の先端に上下方向に回転可能に設けられたバケット7とで構成され、それぞれ、ブームシリンダ8、アームシリンダ9、バケットシリンダ10を伸縮することにより駆動される。上部旋回体3には運転室11が設けられている。 【0024】 また、油圧ショベル1には、上部旋回体3とブーム5との回転角(ブーム角度)を検出する角度センサ21と、ブーム5とアーム6との回転角(アーム角度)を検出する角度センサ22と、アーム6とバケット7との回転角(バケット角度)を検出する角度センサ23と、上部旋回体3の前後方向の傾斜角(ピッチ角度)及び左右方向の傾斜角(ロール角度)を検出する傾斜センサ24、油圧ショベル1のヨウ角度を検出するジャイロ25とが設けられている。 【0025】 更に、油圧ショベル1には、GPS衛星からの信号を受信する2個のGPSアンテナ31,32と、基準局からの補正データ(後述)を受信するための無線アンテナ33と、位置データを送信する無線アンテナ35が設けられている。2個のGPSアンテナ31,32は上部旋回体3の旋回中心から外れた旋回体後部の左右に設置されている。」 「【0029】 一方、図1に示した車載側のGPS受信機43,44は、アンテナ33を介して無線機41,42により受信される補正データと、アンテナ31,32により受信されるGPS衛星からの信号に基づき、アンテナ31,32の3次元位置をRTK計測する、このRTK計測によって、アンテナ31,32の3次元位置が約±1?2cmの精度で計測される。そして、計測された3次元位置データはパネルコンピュータ45に入力される。 【0030】 また、傾斜センサ24によって油圧ショベル1のピッチ角度及びロール角度、角度センサ21?23によってそれぞれブーム5、アーム6及びバケット7の各角度、ジャイロ25によって油圧ショベル1のヨウ角度が計測され、同様にパネルコンピュータ45に入力される。 【0031】 パネルコンピュータ25はGPS受信機43,44からの位置データと、各種センサ21?24からの各角度データに基づき、一般的なベクトル演算と座標変換を行って、バケット7の先端の3次元位置を演算する。 【0032】 次に、図4?図11を用いてパネルコンピュータ45における3次元位置演算処理につい て説明する。 【0033】 図4は、バケット7の先端の3次元空問での絶対位置を演算するために使用する座標系を示す図である。 【0034】 図4において、Σ0はGPSの準拠楕円体の中心に原点O0を持つグローバル座標系、Σ1a,Σ2a,Σ2b,Σ2a’およびΣ2b’はそれぞれGPSアンテナ31および32の計測位置を原点に持つGPS座標系、Σ5およびΣ5’は油圧ショベル1の上部旋回体3に固定され、旋回べースフレームと旋回中心との交点に原点を持つショベル座標系、Σ9はバケット7に固定され、バケット7の先端に原点を持つバケット先端座標系である。」 「【0042】 次に、図4を用いて車載GPSの計測精度変化が生じた場合の演算処理について説明する。 【0043】 前述したように、車載GPSの計測精度は常に最良の状態(FIX)とは限らない。従って、車載GPSの計測精度がFIX以外の場合は何らかの補正を行わなければならない。 【0044】 先ず、第1のケースとして、GPSアンテナ31とGPS受信機43で構成されるGPS_Aの計測精度がFIX以外となった場合について説明する。 【0045】 この場合は、GPSアンテナ32とGPS受信機44で構成されるGPS_Bの計測精度がFIX状態を保っているので、GPS座標系Σ2bを基準として考えればよい。」 「【0054】 次に、第3のケースとして、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となった場合について説明する。 【0055】 この場合は、ショベル座標系Σ5を基準として考えればよい。 【0056】 ここで、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となる1サイクル前のグローバル座標系Σ0に対するショベル座標系Σ5をΣ5_prv、油圧ショベル1のヨウ角度をθy_prv2とおく。そして、座標系Σ5_prvのy軸周りに座標系Σ5_prvを(θy-θy_prv2)の回転を行って座標系Σ5b’を求める。 【0057】 このようにして求めた座標系Σ5b’と、ブーム5の基端との位置関係a6およびd6と、ブーム5、アームおよびバケット7の寸法a7,a8およびa9、さらに、ブーム角度φ6、アーム角度φ7およびバケット角度φ8により求められるバケット先端座標系Σ9とにより、グローバル座標系Σ0でのバケット7の先端位置を求めることができる。 【0058】 従って、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となった場合でもバケット7の先端位置を高精度で求めることがでる。ただし、この場合は油圧ショベル1を走行させてしまうと誤差が生じるため、旋回を含むフロント作業のみの動作にの制限される。」 したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(対応する記載のある引用文献1の段落を括弧書きで示す。) 「下部走行体2、ブーム5と、ブーム5の先端に上下方向に回転可能に設けられたアーム6と、アーム6の先端に上下方向に回転可能に設けられたバケット7とで構成されるフロント作業機4、ブーム5が上下方向に回転可能に設けられ、かつ下部走行体2上に旋回可能に設けられ、下部走行体2と共に本体を構成する上部旋回体3とからなる作業機械(油圧ショベル1)の作業管理を行う位置計測システムであって、(【0001】、【0023】) GPS衛星からの信号を受信する2個のGPSアンテナ31,32と、その3次元位置をリアルタイムに計測するGPS受信機43,44と、(【0021】、【0025】) 上部旋回体3とブーム5との回転角(ブーム角度)を検出する角度センサ21と、ブーム5とアーム6との回転角(アーム角度)を検出する角度センサ22と、アーム6とバケット7との回転角(バケット角度)を検出する角度センサ23と、上部旋回体3の前後方向の傾斜角(ピッチ角度)及び左右方向の傾斜角(ロール角度)を検出する傾斜センサ24、油圧ショベル1のヨウ角度を検出するジャイロ25と、(【0024】) GPS受信機43,44からの位置データと角度センサ21,22,23や傾斜センサ24やジャイロ25などの各種センサからの角度データとに基づき、油圧ショベル1のバケット7の先端(モニタポイント)の位置が演算され、(【0021】) GPSアンテナ31とGPS受信機43で構成されるGPS_A(【0044】)と、GPSアンテナ32とGPS受信機44で構成されるGPS_B(【0045】)の計測精度が共に最良の状態(FIX)(【0043】)以外となった場合(【0054】)、油圧ショベル1の上部旋回体3に固定され、旋回べースフレームと旋回中心との交点に原点を持つショベル座標系であるΣ5(【0034】)を基準として考え(【0055】)、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となる1サイクル前のグローバル座標系Σ0に対するショベル座標系Σ5(【0056】)により、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となった場合でもバケット7の先端位置を高精度で求めることができるが、この場合は油圧ショベル1を走行させてしまうと誤差が生じるため、旋回を含むフロント作業のみの動作に制限される(【0058】)、パネルコンピュータ45(【0021】)と、 を備える、作業機械(油圧ショベル1)の位置計測システム。」 第6 当審拒絶理由についての判断 1.特許法第29条第2項について (1)本願発明1について ア 対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 引用発明における「下部走行体2」、「ブーム5と、ブーム5の先端に上下方向に回転可能に設けられたアーム6と、アーム6の先端に上下方向に回転可能に設けられたバケット7とで構成されるフロント作業機4」、「ブーム5が上下方向に回転可能に設けられ、かつ下部走行体2上に旋回可能に設けられ、下部走行体2と共に本体を構成する上部旋回体3」、及び「作業機械(油圧ショベル1)の作業管理を行う位置計測システム」は、それぞれ本願発明1における「走行装置」、「作業具を有する作業機」、「前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体」、及び「作業機械を制御するシステム」に相当するから、引用発明における「下部走行体2、ブーム5と、ブーム5の先端に上下方向に回転可能に設けられたアーム6と、アーム6の先端に上下方向に回転可能に設けられたバケット7とで構成されるフロント作業機4、ブーム5が上下方向に回転可能に設けられ、かつ下部走行体2上に旋回可能に設けられ、下部走行体2と共に本体を構成する上部旋回体3とからなる作業機械(油圧ショベル1)の作業管理を行う位置計測システム」は、本願発明における「走行装置、作業具を有する作業機、及び前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体を備える作業機械を制御するシステム」に相当する。 また、引用発明における「GPS衛星からの信号を受信する2個のGPSアンテナ31,32と、その3次元位置をリアルタイムに計測するGPS受信機43,44」及び「油圧ショベル1のヨウ角度を検出するジャイロ25」は、それぞれ本願発明における「前記作業機械の位置を検出する位置検出装置」及び「前記作業機械が有する前記上部旋回体に取り付けられて、前記上部旋回体の動作を示す動作情報を検出する慣性計測装置」に相当する。 次に、引用発明において「GPS受信機43,44からの位置データと角度センサ21,22,23や傾斜センサ24やジャイロ25などの各種センサからの角度データとに基づき、油圧ショベル1のバケット7の先端(モニタポイント)の位置が演算され」ることが、本願発明1において「前記位置検出装置による測位が正常である場合」の「前記位置検出装置によって検出された位置の情報を前記作業機械の位置に関連する位置情報として出力する第1のモード」で動作して作業機の位置を求めることに相当する。そして、引用発明において「GPSアンテナ31とGPS受信機43で構成されるGPS_A(【0044】)と、GPSアンテナ32とGPS受信機44で構成されるGPS_B(【0045】)の計測精度が共に最良の状態(FIX)(【0043】)以外となった場合(【0054】)、油圧ショベル1の上部旋回体3に固定され、旋回べースフレームと旋回中心との交点に原点を持つショベル座標系であるΣ5(【0034】)を基準として考え(【0055】)、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となる1サイクル前のグローバル座標系Σ0に対するショベル座標系Σ5(【0056】)により、GPS_AとGPS_Bの計測精度が共にFIX以外となった場合でもバケット7の先端位置を高精度で求めることができるが、この場合は油圧ショベル1を走行させてしまうと誤差が生じるため、旋回を含むフロント作業のみの動作に制限される」ことと、本願発明1において「前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行していない静定状態である場合」の「前記状態検出装置によって検出された前記動作情報及び前記位置検出装置による測位が異常となる前における前記作業機械の基準となる位置であって、前記旋回体の回転中心軸と前記走行装置が接地する面に相当する面との交点である特定点の両方を用いて求められた前記位置情報を出力する第2のモード」で動作して作業機の位置を求めることとは、「前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行していない静定状態である場合」の「前記状態検出装置によって検出された前記動作情報及び前記位置検出装置による測位が異常となる前における前記作業機械の基準となる位置の両方を用いて求められた前記位置情報を出力する第2のモード」で動作して作業機の位置を求める点で共通するといえる。 次に、引用発明における「パネルコンピュータ45」は、下記の相違点を除いて、本願発明における「位置情報生成部」及び「目標値生成部」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「走行装置、作業具を有する作業機、及び前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体を備える作業機械を制御するシステムであって、 前記作業機械の位置を検出する位置検出装置と、 前記作業機械が有する前記上部旋回体に取り付けられて、前記上部旋回体の動作を示す動作情報を検出する慣性計測装置と、 前記位置検出装置によって検出された位置の情報を前記作業機械の位置に関連する位置情報として出力する第1のモードと、前記状態検出装置によって検出された前記動作情報及び前記位置検出装置による測位が異常となる前における前記作業機械の基準となる位置の両方を用いて求められた前記位置情報を出力する第2のモードと、のいずれか1つで動作し、 前記位置検出装置による測位が正常である場合は前記第1のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行していない静定状態である場合には前記第2のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行している非静定状態である場合には前記第3のモードで動作する位置情報生成部と、 前記位置情報生成部から得られる前記位置情報に基づき前記作業機の位置を求める目標値生成部と、 を含む、作業機械の制御システム。」 (相違点) (相違点1)本願発明1では、「作業機械の基準となる位置」である「特定点」が、「前記旋回体の回転中心軸と前記走行装置が接地する面に相当する面との交点である」のに対し、引用発明においては、基準となるショベル座標系Σ5の原点は「油圧ショベル1の上部旋回体3に固定され、旋回べースフレームと旋回中心との交点」であるとされている点。 (相違点2)本願発明1において、位置情報生成部は「前記位置情報を出力しない第3のモード」を有しており、「前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が非静定状態である場合には前記第3のモードで動作する」のに対し、引用発明においては、そのようなモードに関して明示されていない点。 (相違点3)本願発明1では、「前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める」のに対し、引用発明においては、ピッチ角度は「傾斜センサ24」によって検出されており、また「GPSアンテナ31とGPS受信機43で構成されるGPS_Aと、GPSアンテナ32とGPS受信機44で構成されるGPS_Bの計測精度が共に最良の状態(FIX)以外となった場合」(本願発明1の「第2モード」に相当。)の位置演算に「ピッチ角度」を用いることも示されていない点。 イ 相違点についての判断 事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討すると、相違点3に係る本願発明1の「前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める」という構成は、上記引用文献1には記載されておらず、本願の国際出願前において周知技術であるともいえない。 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 (2)本願発明9について 本願発明9も、本願発明1の「前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 (3)本願発明2-8,10,11について 本願の請求項2-8,10,11は、本願の請求項1または9を直接または間接的に引用するものであるから、本願発明2-8,10,11は本願発明1の「前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める」と同一の構成を備えるものであり、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 2.特許法第36条第6項第1号について 当審では、 「a.請求項1において、 「前記作業機械の動作を示す動作情報を検出する状態検出装置」 とあるが、「作業機械」は「走行装置」を含むものであるから、上記「状態検出装置」は走行状態のみを検出する装置をも含むものとなる。 しかしながら、本件出願の発明の詳細な説明にはそのような構成は記載されておらず、また自明でもない。 したがって、請求項1に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、請求項5,10及び請求項1,5,10を直接または間接的に引用する請求項2-4,6-9,11-13に記載の発明に関しても同様である。 (上記記載は「前記作業機の動作を示す動作情報を検出する状態検出装置」とされることが適当ではないか。) b.請求項1-11,13の記載はいずれも、少なくとも動作開始時において「第2のモード」を選定する条件が不明瞭(「静定状態」の定義が不明であるため。)であるか、もしくは条件が特定されていないものである。したがって、例えば、作業機械が走行している場合に「第2のモード」が選定される制御システムを含む記載となっているが、本件出願の発明の詳細な説明にはそのような制御システムの構成は記載されておらず、また自明でもない。 したがって、請求項1-11及び請求項13(請求項12を引用するものを除く。)に記載の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」 との拒絶の理由を通知しているが、本件補正によって、請求項1の記載が「走行装置、作業具を有する作業機、及び前記作業機が取り付けられ、かつ前記走行装置の上に搭載されて旋回する上部旋回体を備える作業機械を制御するシステムであって、前記作業機械の位置を検出する位置検出装置と、前記作業機械が有する前記上部旋回体に取り付けられて、前記上部旋回体の動作を示す動作情報を検出する慣性計測装置と、・・・前記位置検出装置による測位が正常である場合は前記第1のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行していない静定状態である場合には前記第2のモードで、前記位置検出装置による測位が異常かつ前記作業機械が走行している非静定状態である場合には前記第3のモードで動作する位置情報生成部と、・・・」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。 3.特許法第36条第6項第2号について (1)当審では、 「a.請求項1において、 「前記旋回体」 とあるが、それ以前に旋回体に関する記載はなく、上記記載がどのような構成を指すのかが不明瞭である。 また、請求項1を直接引用する請求項2,13の記載に関しても同様である。 b.請求項1において、 「前記作業機械が静定状態である場合」及び「前記作業機械が非静定状態である場合」 とあるが、それぞれどのような状態の場合を指すのかが不明瞭である。発明の詳細な説明の記載を参照しても、例えば、 「【0105】 油圧ショベル100が静定状態であるか否かは、次のように判定される。・・・ (1)走行用レバー25FL及び走行用レバー25FRの少なくとも一方がONである場合は、油圧ショベル100が非静定状態、すなわち動的状態である。 (2)走行用レバー25FL及び走行用レバー25FRの両方がOFFである場合には、油圧ショベル100が静定状態、すなわち静的状態である。」 「【0087】 センサコントローラ39は、油圧ショベル100の位置情報IPLを表示コントローラ28に出力するにあたって、第1モードと、第2モードと、第3モードとの3モードのうち、いずれか1つのモードで動作する。・・・姿勢角演算部39A及び位置情報演算部39B、すなわち処理部39Pは、圧力センサ66、27PCからの検出値に基づいて油圧ショベル100の静定状態を判定し、判定結果に基づいて第1のモード、第2のモード又は第3のモードのうちいずれか1つを実行する。」 といったように、静定状態の判定に関して異なる定義がなされており、請求項1の上記記載がこれらのいずれを指すのかが不明である。 また、請求項5,11及び請求項1,5を直接または間接的に引用する請求項2-4,6-9、並びに請求項13の記載に関しても同様である。 (審判請求書における、「(3)特許法第36条第6項第1号について ・・・・すなわち、非静定状態は油圧ショベルが走行している状態であり、静定状態は油圧ショベルが走行していない状態です。」との主張を踏まえれば、上記記載はそれぞれ「前記作業機械が走行していない静定状態である場合」及び「前記作業機械が走行している非静定状態である場合」とされることが適当ではないか。) c.請求項2,4,7において、 「前記作業機械の動作を検出する機器及び前記作業機械の位置を求める機器」 とあるが、それぞれが引用する各請求項に対応する記載はなく、上記記載の意味が不明瞭である。 (上記記載は「前記状態検出装置及び前記位置検出装置」とされることが適当ではないか。) d.請求項5においては、 「前記第2のモードで動作中に前記位置検出装置による測位が正常になった場合は前記第1のモードで、前記第2のモードで動作中に前記作業機械が非静定状態となった場合を条件として前記第3のモードで動作する位置情報生成部と、」 として、第2のモードで動作中における動作変更判定条件は示されているものの、そもそも動作開始時の第1ないし第3のモードの選択条件が特定されていないため、どのような制御をおこなうシステムであるのかが不明である。 また、請求項5を直接または間接的に引用する請求項6-9,13の記載に関しても同様である。 e.請求項9において、 「前記位置情報生成部は、・・・前記作業機械の位置を出力しない、」 とあるが、引用する請求項5において、位置情報生成部が出力するのは「作業機械の位置に関連する位置情報」とされており(求められている「位置」は、目標値生成部による「作業機の位置」である。)、その記載の意味が不明瞭である。 (上記記載は「前記位置情報生成部は、・・・前記第3のモードで動作する、」とされることが適当ではないか。) f.請求項10において、 「前記位置検出装置による測位の状態及び前記作業機械の状態」 とあるが、「測位の状態」とは測位が正常か異常かということを指すのか、それ以外のものを含むのか、また「作業機械の状態」とは何を指すのかが特定されておらず、どのような制御をおこなうシステムであるのかが不明である。 また、請求項10を引用する請求項13の記載に関しても同様である。 」 との拒絶の理由を通知しているが、本件補正によって、特許請求の範囲が補正(上記「第4 本願発明」を参照。)された結果、この拒絶の理由aないしfはいずれも解消した。 第7 原査定についての判断 1.特許法第29条第2項について 本件補正により、補正後の請求項1-11は、「前記目標値生成部は、前記第2モードにおいて前記慣性計測装置により検出されるピッチ角情報を用いて前記作業機の位置を求める」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は、原査定における引用文献1(当審拒絶理由における引用文献1と同じ。)には記載されておらず、周知技術でもないので、本願発明1-11は、当業者であっても、原査定における引用文献1に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。 2.特許法第36条第6項第1号について 本件補正により、この拒絶の理由は解消した。 3.特許法第36条第4項第1号について 審判請求書における主張により、この拒絶の理由は解消した。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-05-30 |
出願番号 | 特願2015-528784(P2015-528784) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WY
(G01C)
P 1 8・ 121- WY (G01C) P 1 8・ 537- WY (G01C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ▲うし▼田 真悟 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
中塚 直樹 須原 宏光 |
発明の名称 | 作業機械の制御システム及び作業機械 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |