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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1328803
審判番号 不服2015-20749  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-20 
確定日 2017-06-20 
事件の表示 特願2012-553084「サンプル取得、処理及び反応のためのアッセイカード」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日国際公開、WO2011/100708、平成25年 5月30日国内公表、特表2013-519884、請求項の数(25)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年2月14日(パリ条約による優先権主張 平成22年2月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月19日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成27年7月16日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成28年11月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年2月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし26に係る発明は、以下の引用文献AないしCに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.米国特許出願公開第2002/0131892号明細書
B.特表2009-531064号公報
C.特開2005-031048号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 本願請求項1ないし10及び12ないし26に係る発明は、以下の引用文献1ないし4に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本願請求項14(及び請求項14を直接的、間接的に引用する請求項15ないし17)に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

引用文献等一覧
1.特開2009-014736号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2008-221213号公報(当審において新たに引用した文献)
3.特表2009-531064号公報(拒絶査定時の引用文献B)
4.特表2008-544214号公報(当審において新たに引用した文献)


第4 本願発明
本願請求項1ないし25に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明25」という。)は、平成29年2月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
反応室へのサンプルを受け取るためのサンプルポートを有する平面反応カードであって、該平面反応カードが第1の壁と第2の壁とを有し、前記第1の壁及び前記第2の壁の少なくとも一方が可撓性の壁であり、前記反応室が前記第1の壁及び前記第2の壁によって形成された平面反応カードと、
試薬を受け取るための前記平面反応カード上の試薬入力ポートであって、前記反応室と流体連通する試薬入力ポートと、
前記平面反応カードの外面に取り付けられ、前記試薬入力ポートと流体連通する少なくとも1つの試薬貯蔵部であって、該少なくとも1つの試薬貯蔵部が、加えられる力により開くことが可能な壊れやすい貯蔵室を有し、それによって当該試薬貯蔵部内の試薬を前記反応室へ与える試薬貯蔵部と、
前記平面反応カードのエッジに位置し、前記反応室での反応を監視するための光学窓と、を具備するアッセイ装置。」


第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1記載の事項
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による)。


【0020】
好ましい実施形態では、本発明はまた、1つ以上のカートリッジを収容する外部機器を提供する。外部機器は1つ以上のポンプ、または真空機器、または圧力発生源等の流体動力源を含み、流体動力源は、カートリッジ内に形成された1つ以上の出入口や通気穴と接続して、試料をカートリッジ内へ強制的に流す。機器またはカートリッジは、1つ以上のマイクロプロセッサやマイクロコントローラやメモリチップといった処理エレクトロニクスを、カートリッジの操作を制御するのに含んでもよい。
・・・
【0027】
試料流路は、試料と溶解試薬の混合のため、試料入口103から混合チェンバ107へと通じるチャネル105を含む。試料流路はまた溶解チェンバ119を含み、溶解チェンバ119では、試料がフィルターと接して試料内の例えば、細胞や胞子や微生物といった構成成分を捕える。捕えられた構成成分はチェンバ119内で溶解される。試料流路はさらに、例えば、試料が要素122を流れるとき、試料から核酸などの望みの分析物を捕えるための、貫流構成部品122を含む。
・・・
【0030】
試料流路はまた、流れ制御装置41A,41Bへと通じるチャネル135と、通気孔つきの廃棄チェンバ139へと通じるチャネル136を含む。流れ制御装置41A,41Bは、試料が捕獲要素122を流れた後、試料を廃棄チェンバ139へ導くように配置されている。流れ制御装置41A,41Bは、例えば、バルブ、分流加減器や流体ダイオードでもよい。
【0031】
溶離流体を運ぶ流路はまた、カートリッジ101内に形成されている。好ましい実施形態では、カートリッジは溶離流体を貯蔵する貯蔵チェンバ127を含む。溶離流体流路は貯蔵チェンバ127からチャネル131を通って伸び、貫流構成部品122を通過して、捕えた分析物を要素から溶解流体内へと放出する。また別の実施形態では、カートリッジは貯蔵チェンバ127の代わりに、またはそれに加えて、別個の入口を含み、溶離流体を外部源からカートリッジ内へと導く。
【0032】
溶離流体流路は要素122を通った後、試料流路から分岐する。この例では、溶離流体流路はチャネル135と辿って、流れ制御装置41A,41Bへと続いている。流れ制御装置41A,41Bは、溶離流体と溶離された分析物を、PCR試薬を含む試薬チェンバ141内へと導くように配置されている。試薬チェンバ141はPCR拡張するため、反応チェンバ143と流体接触している。
・・・
【0043】
外部及び内部流体動力源のいずれもが、本明細書中に開示されているカートリッジとともに使用するのに適している。流体動力源は、カートリッジ101自身の中あるいは上に収容されているか、又は、例えばカートリッジ101が処理のために挿入されている外部機器211に含まれるなどして、カートリッジの外部にある。本明細書中に述べられている一つの類型の流体動力源は、カートリッジ101の内部に設置された電解質ポンプ(eポンプ)である。密封されたパウチ(袋状のもの)の内部の流体は、電流によって気体成分へと分解され、それによってパウチに圧力を加え、パウチを膨張させる。この密封されたポンプ動作をするパウチ、あるいはeポンプは、試薬パウチに接触して置かれ、ポンプ動作をするパウチが膨らむにつれて、試薬パウチの内容物を、流体回路内へ押し出す。
【0044】
他の類型の流体動力源が、本発明のカートリッジとともに使用されてもよい。例えば、ステッピングモータあるいはソレノイドは、カートリッジ内部の試薬パウチに対して力及び圧力を与えるために用いられ、それによって試薬パウチの内容物を流体回路内へ押し出す。あるいは、カートリッジ内部又は外部機器の内部に設置された機械ばねは、試薬パウチに圧力をかけ、試薬を流体回路内へ押し出すための動力源を提供する。ばねに蓄積される機械的なエネルギは、生成の間カートリッジに内蔵されるか、又は、カートリッジを機器へ差し込む間に(すなわち、カートリッジを手動で差し込む際にばねを張ることによって)発生する。
【0045】
他の潜在的な流体動力源は、カートリッジ内部又は機器内部に設置された空気圧源(又は真空源)を含む。そのような流体動力源は、圧力を加えられた(又は真空にされた)缶やチップ、あるいは他の容器によって生じさせられる。動力源は、カートリッジ内部又は機器内部に設置された圧縮機又は真空ポンプであり得る。外部の圧力動力源又は真空動力源が使用される場合、カートリッジは動力源と接続するのにふさわしい孔(ポート)や通気孔(ベント)やチャネル(溝)を備えている。同様に、電気泳動性動力源又は電気浸透性動力源が利用される。圧電的に、磁気的に、あるいは静電的に駆動される薄膜ポンプ又はバルブは、カートリッジの中に組み込まれるかカートリッジが機器の中に挿入される時に上記装置が機械的にカートリッジと接続するように、機器の中に恒久的に設置される。
作動工程において、例えば核酸といった望まれる分析物を含む流体試料は、カートリッジ101の試料ポート103に添加され、例えば電気分解ポンプ、あるいは機械的ポンプによって、間断無くチャネル105を下って、ミキシングチャンバ107内へ流れ込む。溶解試薬は同時に貯蔵チャンバ109から放出され、チャネル111を下ってチャンバ107内へ流れ込む。ふさわしい溶解試薬は、例えばグアニジン塩化水素、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジンイソチオシアン酸塩、ヨウ化ナトリウム、尿素、過塩素酸塩ナトリウム、及び臭化カリウムのような、カオトロピズム塩を含有する溶液を含む。
【0046】
チャネル105及び111の中をそれぞれ移動する流体試料及び溶解試薬は、抵抗性のセンサ115によって検知される。溶解試薬が流体試料に接触すると、流体試料内に存在する細胞や胞子あるいは微生物が溶解され始める。流体試料及び溶解試薬は、試料がフィルタに接触して細胞や胞子あるいは微生物が捕獲される溶解チャンバ119内へと流れ続ける。溶解試薬は、捕獲された試料の成分を溶解し続ける。フィルタはまた、流体試料からその残骸を取り去る役目を果たす。本発明のもう一つの重要な実施形態において、超音波変換器が溶解チャンバ119の隣のカートリッジ101に連結され、例えばチャンバ119の壁に連結されており、試料の成分は変換器によってもたらされる超音波エネルギに
よって溶解される。様々な超音波溶解の実施形態は、図19及び図20を参照して、以下に非常に細部にわたって論じられている。
【0048】
流体試料が部品122を通って強制的に流された後、貯蔵領域125内の浄化試薬はチャネル129を下って、部品122を通って流れるように強制される。浄化試薬の流速は、好ましくは0.5μL/秒から50μL/秒の範囲である。流体は、チャネル121,129及び131内のフローコントローラ123によって、カートリッジの中で逆流することを妨げられている。浄化試薬は、カオトロピズム塩のような残留汚染物質を、部品122から洗い流す。pHや溶解構造やイオン濃度の異なる様々な適している浄化試薬が、この目的のために使用され、当該技術においてよく知られている。例えば、適している浄化試薬は、80mMのポタジウムアセテートと、8.3mMのTRIS塩化水素、pHは7.5で、40uMのEDTA及び55%のエタノールの溶液である。浄化試薬は、フローコントローラ41Aを通って、廃棄チャンバ139の中へと流れ続ける。
【0049】
部品122の洗浄後、貯蔵領域127からの溶離流体は、チャネル131を下り、部品122を通って押し流される。このようにして核酸が部品から溶離流体の中へと放される。この時点で、フローコントローラ41A及び41Bは、再設定されて、溶離流体がフローコントローラ41Aを通って流れるのを妨げ、そして溶離流体がフローコントローラ41Bを通って試薬チャンバ141へと流れるようにする。部品122を通る溶離流体の流速は、好ましくは0.1μL/秒から10μL/秒である。溶離流体の流速は、より多くの分析物が部品から放されるように、流体試料の流速と比べると遅い。
・・・
【0052】
部品122は、溶離流体がその中を押し流されるとき、溶離の効率を上げるために、好ましくは加熱される。加熱は、好ましくは、カートリッジ内のプロセシングエレクトロニクスの制御下で、閉回路フィードバックシステム中の抵抗性加熱要素に電力を供給することによって行われる。好ましい実施形態において、部品122は、溶離流体がその中を流れるとき、60?95℃の範囲にまで熱せられる。
【0053】
核酸を含む溶離流体は、部品122を出て、チャネル135を下って試薬チャンバ141へと進む。溶離流体及び核酸は、チャンバ141の中に含有されている乾燥PCR試薬に接触し、再形成する。そして、溶離流体、核酸及びPCR試薬は、PCRの増幅及び検出のために、反応チャンバ143内へと流れ続ける。代わりの実施形態において、溶離溶液は既にPCR試薬を含んでおり、その結果試薬はチャンバ141の中で乾燥される必要が無い。廃棄チャンバ139及び反応チャンバ143に連絡している通気口145は、この過程の間中、気体の放出が可能である。
・・・
【0118】
電気接続のその他の利用法は、電気分解反応をさせて流体の移動を実現するというものである。流体貯蔵室への電気接続は、電解ポンプ(eポンプ)を実現するために使用される。このような装置において、電流は電解液の貯蔵室を通る。この電流は気体を発生させる。というのは、電解液が酸素および水素のような気体に分解されるからである。これらの気体は、局部的な圧力を強め、動力源として使える。この圧力は、例えば、柔軟な薄膜を介してカートリッジ内の処理流体に伝導され、それゆえ、処理されるべき流体の流動を実現することができる。
【0119】
図5Aおよび図5Bは、このような電解ポンプ25の1つを示す。図5Aの平面図に示されているように、ポンプ25は星形の形状を有する電極27を含んで、気泡が貯蔵室29の内部に形成し始めた後でさえも電流路がいつも利用できるのを確実にしている。密閉リング4は、貯蔵室29内で電解液を捕らえる。図5Bの概略側面図に示されているように、流体39は、膨張可能な薄膜37を有するパウチ35内に入れられている。流体は電極27と接触し、電流が電極に加えられると分解する。分解する流体は、パウチ35内で圧力の増大を引き起こす。増大した圧力によってパウチが膨張するため、パウチは液体試薬パウチ(図示せず)に対して片寄る。それゆえ、液体パウチ内に含まれている液体試薬は、強制的に放出される。流体流の速度を測定するための前述の手段と共に、電極27への電流(電力)を制御することによって、閉鎖ループ流体流制御システムが実現され得る。これを実現することにより、処理サイクル中の様々な点における流速(そしてそれ故に、様々な反応領域における滞留時間)が、自由に制御され監視され得るので、非常にうまく制御された反応にとって多くの可能性が広がる。
・・・
【0183】
試料は、試料流路を流れて、ダイバータ174を通過し、チップ177に入り、ここで目標の分析物が抽出される。チップ177から流れてくる廃棄成分は、分流加減器175によって、第2廃棄チャンバ203に流入するように再び方向付けられる。第2廃棄チャンバ203に集まる廃棄成分は、領域178に背圧を発生する。一旦第2廃棄チャンバ203が廃棄成分でいっぱいになると、領域178の圧力は、ダイバータ175を解放し、流体を通過させるのに十分となる。同時に、電圧あるいは熱が、フレキシブル回路167のコネクタを通じてチップ177に加えられて、目標の分析物を解放する。こうして、分析物は、溶離流路を流れて、試薬チャンバ179に入り、ここで、予備乾燥された試薬が再構成され、この分析物と混ぜ合わされる。この混合物は、反応チャンバ181に流入し続けて満杯にする。溶離流路は、反応チャンバ181で終結し、ここで、例えばPCRなどの増幅が行われる。」

また、図2は、以下のようなものである。






2 引用文献1から理解できる事項
(1) 部材122は、「捕獲要素122」(【0030】段落)と「貫流構成部品122」(【0027】段落)と用語が統一されていないが「試料から核酸などの望みの分析物を捕える」(【0027】段落)との機能に照らし、「捕獲要素122」とした。

(2) 「溶解チェンバ119」及び「溶解チャンバ119」(【0046】段落)のように、用語が統一されていないめ「チェンバ」とあるのを「チャンバ」とした。

(3) 「混合チェンバ107」(【0027】段落)と「ミキシングチャンバ107」(【0045】段落)は、用語が統一されていないため「混合チャンバ」とした。

(4) 「eポンプは、試薬パウチに接触して置かれ、ポンプ動作をするパウチが膨らむにつれて、試薬パウチの内容物を、流体回路内へ押し出す」(【0043】段落)と記載されている。この態様では、パウチされた試薬を、eポンプと称されるポンプとして作用するパウチが膨らむことで、試薬パウチ内の試薬が押し出されていることが理解される。
「そして、他の類型の流体動力源が、本発明のカートリッジとともに使用されてもよい。例えば、ステッピングモータあるいはソレノイドは、カートリッジ内部の試薬パウチに対して力及び圧力を与えるために用いられ、それによって試薬パウチの内容物を流体回路内へ押し出す。あるいは、カートリッジ内部又は外部機器の内部に設置された機械ばねは、試薬パウチに圧力をかけ、試薬を流体回路内へ押し出すための動力源を提供する。」(【0044】段落)と記載されているように、試薬パウチから試薬を押し出す態様としては、eポンプ以外にもあるが、いずれも試薬パウチに圧力をかけるものと理解される。
なお、「外部機器は1つ以上のポンプ、または真空機器、または圧力発生源等の流体動力源を含み、流体動力源は、カートリッジ内に形成された1つ以上の出入口や通気穴と接続して、試料をカートリッジ内へ強制的に流す。」(【0020】段落)との記載があるが、これは、「試料をカートリッジ内へ強制的に流す」態様として、真空機器やポンプ等の流体動力源が記載されているものであって、試薬パウチから試薬を押し出す態様としては、試薬パウチに圧力をかけるもの以外は開示されていない。
そうすると、引用文献1の「カートリッジ内部の試薬パウチ」(【0044】段落)との記載と合わせると、
「溶解試薬貯蔵チャンバ109及び洗浄試薬貯蔵チャンバ125の試薬は、それぞれパウチ化されており、カートリッジ内部の試薬パウチに圧力を加えることにより試薬パウチ内の試薬を、流体回路内へ押し出す」
ことが理解される。

3 引用文献1記載の発明
図2を中心に、上記「2 引用文献1から理解できる事項」に記した内容を加えて整理すると、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用発明の認定の根拠となった対応する段落番号等を附記した。

「1) 試料ポート103(【0045】)、
2) 溶解試薬貯蔵チャンバ109 、
3) 洗浄試薬貯蔵チャンバ125、
4) 流体試料内に存在する細胞や胞子あるいは微生物が溶解しその残骸を残骸を取り去る役目を果たす溶解チャンバ119 (【0046】)、
5) 試料と溶解試薬の混合のためのミキシングチャンバ107(【0027】、【0045】) 、
6) 溶離流体貯蔵チャンバ127、
7) 試料から核酸などの望みの分析物を捕えるための捕獲構成部品122(【0027】、【0030】)、
8) PCR試薬が乾燥状態で含まれている試薬チャンバ141(【0053】)、
9) 廃棄チャンバ139、
10) 様々なチャネルや領域内の流体の存在を感知するための抵抗センサ115(【0034】)、
11) カートリッジの中で逆流することを妨げるフローコントローラ123(【0048】)、
l2) 反応チャンバ143
13) 捕獲構成部品122からの流れを2分岐し、廃棄チェンバ139へ導くか又はPCR試薬を含む試薬チェンバ141内へと導くよう配置されている、例えばバルブなどからなる流れ制御装置41A,41B(【0030】、【0032】)を有する
14) 流体試料の処理用カートリッジ(【0002】)であって、
15) 試料ポート103に導入された試料はミキシングチャンバ107に流れ込み溶解試薬貯蔵チャンバ109に貯蔵された溶解液と混合され(【0045】)、
16) 次いで、該混合された液体は、溶解チャンバ119へ送られ、
17) 次いで、フローコントローラ123を介して、捕獲構成部品122に送られ、
18) 次いで、捕獲構成部品122で、核酸などの望みの分析物が捉えられ、
19) 次いで、溶離流体貯蔵チャンバ127からの溶離流体が、チャネル131を下り、捕獲構成部品122に流され、捕獲構成部品122内で該分析物は洗浄され(【0049】、【0030】)、流れ制御装置41A,41Bにより、廃棄チェンバ139へ導かれ【0030】、
20) 次いで、捕獲構成部品122は、溶離流体がその中を押し流されるとき、溶離の効率を上げるために、好ましくは加熱され(【0052】)、捕えた核酸など分析物を捕獲構成部品122から溶解流体内へと放出し(【0031】)、流れ制御装置41A,41Bにより、溶離流体と溶離された分析物を、PCR試薬を含む試薬チェンバ141内へと導き(【0032】)、
21) 次いで、試薬チャンバ141内で、予備乾燥された試薬が再構成され、この分析物と混ぜ合わされ、この混合物は、反応チャンバ143に流入し続けて満杯にし(【0183】)、
22) 溶離流路は、反応チャンバ143で終結し、ここで、例えばPCRなどの増幅が行われ(【0183】)、
23) 溶解試薬貯蔵チャンバ109及び洗浄試薬貯蔵チャンバ125の試薬は、それぞれパウチ化されており、カートリッジ内部の試薬パウチに圧力を加えることにより、試薬パウチ内の試薬を、流体回路内へ押し出すものである(第5 2(4))
24) 流体試料の処理用カートリッジ(【0002】)。」


4 引用文献2ないし4について
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献2には、請求項1、2、【0040】ないし【0043】段落および図1ないし3、5の記載からみて、「PCR反応のための反応チャンバとして両面を可撓性フィルムにして可撓性フィルムの変形により加熱源との熱接触を良好にすることおよび反応チャンバの加熱源が設置されない側面の壁94、96を窓として反応チャンバの反応をする」という技術的事項が記載されていると認められる。

(2)当審拒絶理由に引用された引用文献3には、【0254】ないし【0275】、【0331】段落および図9、14、20ないし27、48の記載からみて、「カートリッジに配置され、圧力により密閉空間が破裂し、試薬をカートリッジに供給する試薬リザーバを有するPCRアッセイ装置」という技術的事項が記載されていると認められる。

(3)当審拒絶理由に引用された引用文献4には、以下の記載がある。
(引4a)「【0045】
図5および図6は、密封試薬チェンバーの例となる実施態様を例示する。図5は、試薬チェンバーの上面図、側面図、および下面図を示す。最上層11は、複数の気泡または小袋13を含む。下端層15は、図6に示すように、流体デバイス基部17に接合される底面を有する。下端層15は、表面全体を通り分散する複数の流体チャネル19を有し、ここでそれぞれのチャネルは下端層15を縦走する。試薬チェンバー内流体は、流体チャネル19とチェンバー13との間の破裂可能な封印21を圧することによりチェンバーに封じ込める。所定の圧力で封印は破裂し、チェンバー13内の流体が流体チャネル19へ流出できるよう破裂可能な封印21は設計される。」

(引4b)図5は以下のようなものである。




(引4c)図6は以下のようなものである。




(引4a)の下線部および(引4b)、(引4c)の記載を総合すると、引用文献4に記載の「チェンバー13」は、「流体デバイスの外面に取り付けられて」いることは明らかである。
したがって、上記(引4a)ないし(引4c)を総合すると、引用文献4には、「流体デバイスの外面に取り付けられて、内部に試薬を貯蔵する小袋である密封試薬チェンバーであって、所定の圧力で破壊され、チェンバー内の試薬が流体デバイス内の流体チャネルへ流出できるような破裂可能な封印を有する密封試薬チェンバー」の技術的事項が記載されていると認められる。
なお、引用文献4において、上記(引4a)ないし(引4c)に開示された密封試薬チェンバーを用いる実施形態は、図2ないし4に開示された実施形態とは異なる実施形態として記載されていることは、文脈上明らかである。


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「反応室へのサンプルを受け取るためのサンプルポートを有する平面反応カードであって、該平面反応カードが第1の壁と第2の壁とを有し、前記反応室が前記第1の壁及び前記第2の壁によって形成された平面反応カードと、
試薬を受け取るための前記平面反応カード上の試薬入力ポートであって、前記反応室と流体連通する試薬入力ポートと、
試薬入力ポートを通じてカートリッジ内に試薬を導入するための何らかの手段と
前記平面反応カードに位置し、前記反応室での反応を監視するための光学窓と、を具備する装置。」

(相違点)
<相違点1>
「反応室」に関して、本願発明1においては、「前記第1の壁及び前記第2の壁の少なくとも一方が可撓性の壁であ」るとのに対し、引用発明においては、「反応チャンバ」を形成する部材が可撓性であるのか否かが特定されていない点。
<相違点2>
「光学窓」の位置に関して、本願発明1においては、「前記平面反応カードのエッジに位置し」ているのに対して、引用発明においては、「カートリッジ」のどの位置であるのか特定されていない点。
<相違点3>
「試薬入力ポートを通じてカートリッジ内に試薬を導入するための何らかの手段」に関して、本願発明1においては、「前記平面反応カードの外面に取り付けられ、前記試薬入力ポートと流体連通する少なくとも1つの試薬貯蔵部であって、該少なくとも1つの試薬貯蔵部が、加えられる力により開くことが可能な壊れやすい貯蔵室を有し、それによって当該試薬貯蔵部内の試薬を前記反応室へ与える試薬貯蔵部」であるのに対し、引用発明においては、具体的にどのような手段を用いるのかが特定されていない点。
<相違点4>
「装置」が、本願発明1では「アッセイ装置」であるのに対して、引用発明においては、22)「例えばPCRなどの増幅が行われる」24)「流体試料の処理用カートリッジ」であって、アッセイすることまでは規定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点3について先に検討する。
広辞苑第6版によると、「パウチ」とは、「食品やカードを密閉保護するプラスチック製などの袋やシート。」と語義が示されている。
そして、図2の流路に照らし、少なくとも引用発明の「2) 溶解試薬貯蔵チャンバ109 」は、「1) 試料ポート103」と流体連絡しており、仮に、「2) 溶解試薬貯蔵チャンバ109 」内の23)「試薬パウチ」のどこかが開放状態にあるとコンタミネーションも起きうることが想定される。
そうすると、前記広辞苑の語義のとおり、使用前は試薬パウチにより完全密閉され、使用前に23)「試薬パウチ内の試薬を、流体回路内へ試薬を押し出す」ように使用されると理解するのが自然である。
しかしながら、引用発明は23)「カートリッジ内部の試薬パウチに圧力を加えることにより、試薬パウチ内の試薬を、流体回路内へ押し出すものであ」り、引用発明の23)「試薬パウチ」が、本願発明1の「前記試薬入力ポートと流体連通する少なくとも1つの試薬貯蔵部であって、該少なくとも1つの試薬貯蔵部が、加えられる力により開くことが可能な壊れやすい貯蔵室を有し、それによって当該試薬貯蔵部内の試薬を前記反応室へ与える試薬貯蔵部」に相当するとしても、本願発明1のごとく「前記平面反応カードの外面に取り付けられ」るように構成されているものではない。
そして、引用発明において23)「カートリッジ内部」に23)「試薬パウチ」を設けたことは、23)「カートリッジ内部の試薬パウチに圧力を加えることにより、試薬パウチ内の試薬を、流体回路内へ押し出試薬を押し出す」ためと理解できるから、引用発明の23)「カートリッジ内部の試薬パウチ」を、本願発明1のごとく「前記平面反応カードの外面に取り付けられ」るように構成する動機といえるものがない。
引用文献2?4を参酌しても、引用発明において、相違点3に記した本願発明1のごとく構成することは当業者といえども困難といえる。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。



2 本願発明2ないし25について
本願発明2ないし25も、本願発明1の「前記平面反応カードの外面に取り付けられ、前記試薬入力ポートと流体連通する少なくとも1つの試薬貯蔵部であって、該少なくとも1つの試薬貯蔵部が、加えられる力により開くことが可能な壊れやすい貯蔵室を有し、それによって当該試薬貯蔵部内の試薬を前記反応室へ与える試薬貯蔵部」と同一または類似の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明および引用文献2ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
平成29年2月7日付けの補正により、補正後の請求項1、2は、試料貯蔵部が前記平面反応カードの「外面に」取り付けられた、という技術的事項を有するものとなった。
当該「前記平面反応カードの外面に取り付けられ、前記試薬入力ポートと流体連通する少なくとも1つの試薬貯蔵部であって、該少なくとも1つの試薬貯蔵部が、加えられる力により開くことが可能な壊れやすい貯蔵室を有し、それによって当該試薬貯蔵部内の試薬を前記反応室へ与える試薬貯蔵部」は、原査定における引用文献AないしCには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし25は、当業者であっても、原査定における引用文献AないしCに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について
1 特許法第29条第2項について
当審拒絶理由においては、相違点3について、引用文献1の「試薬は、使用前に例えばカートリッジの各領域内の密封可能な入り口を通して、カートリッジ内に外部から入れられる。」(【0062】段落)との記載に基づき、試薬チェンバに試薬を導入するための具体的手段として、カートリッジ外面に取り付けられ、圧力により密閉空間が破裂し、試薬をカートリッジに供給するような周知の試薬リザーバを採用することは、当業者が適宜なし得たことであるとしている。
しかしながら、引用文献1記載の発明における試薬チェンバ141内のPCR試薬は、乾燥した状態で封入されているものであって、PCR試薬を乾燥しない場合は溶離溶液に含ませることが開示されている(【0053】段落)。
そして、上記周知の試薬リザーバは、乾燥した試薬を導入するための方法ではないため、引用文献1記載の発明において、当該周知の技術的事項を採用することの動機がない。
したがって、引用文献1記載の発明において、周知の試薬リザーバを設けることは、たとえ当業者といえども容易に想到しうるものではない。

2 特許法第36条第6項第1号について
当審では、請求項14の「該1つ又は複数の試薬貯蔵部が、」「前記反応室を通じて配置され」るという点は、発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年2月7日付けの補正において、「該1つ又は複数の試薬貯蔵部が、」「前記反応室を覆って配置され」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。


第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-06-06 
出願番号 特願2012-553084(P2012-553084)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
P 1 8・ 537- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 松岡 智也
▲高▼見 重雄
発明の名称 サンプル取得、処理及び反応のためのアッセイカード  
代理人 三橋 真二  
代理人 島田 哲郎  
代理人 前島 一夫  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 大橋 康史  
代理人 青木 篤  

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