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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61F |
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管理番号 | 1328832 |
審判番号 | 不服2015-2226 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-02-05 |
確定日 | 2017-06-05 |
事件の表示 | 特願2012-516342「光学的に連結された蝸牛インプラントシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月23日国際公開、WO2010/148324、平成24年12月6日国内公表、特表2012-530552〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成22年6月18日(パリ条約による優先権主張、2009年6月18日、2009年6月24日、いずれも米国)を国際出願日とする出願であって、 平成25年6月17日付けで審査請求がなされると共に、手続補正がなされ、 平成26年4月15日付けで拒絶理由通知(同年同月18日発送)がなされ、 これに対して平成26年9月10日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、 同年10月1日付けで上記平成26年4月15日付けの拒絶理由通知書に記載した理由(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年同月7日謄本発送・送達)がなされたものである。 これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許をすべきものであるとの審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成27年2月5日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされた。 これに対して同年3月17日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、 その後、当審合議体より平成28年6月21日付け拒絶理由通知(同年同月22日発送)がなされ、 これに対して同年12月14日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年12月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のものである。 (本願発明) 「使用者に音声信号を伝送するためのシステムであって、該システムは、 該使用者の蝸牛内に少なくとも部分的に配置するように構成される複数の電極を備える電極アレイと、 音源から該音声信号を受信するように構成される回路と、 該回路に連結され、異なる波長の複数の光パルスを含みかつ該音声信号を含む波長多重化光信号を放出するように構成される少なくとも1つの光源と、 該波長多重化光信号を受信し、該光パルスに応じて該電極に電流を通すように構成される少なくとも1つの検出器と を備え、 該波長多重化光信号は、複数の光チャネルを備え、該複数のうちの各光チャネルは、該音の少なくとも1つの周波数に対応し、 該波長多重化光信号は、該使用者の鼓膜を通して該少なくとも1つの検出器に伝送され、該少なくとも1つの検出器は、中耳に装着され、かつ、該蝸牛内に少なくとも部分的に配置される該電極アレイに連結される、システム。」 第3 引用文献・引用発明 1.引用文献1の記載事項及び引用発明 本願の優先日前に頒布され、当審が上記平成28年6月21日付けの拒絶理由通知において引用した、特表2005-516505号公報(以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。) A 「【0001】 本発明は、聴取インプラントを備える補聴器システムおよび聴取インプラントを駆動する方法に関する。」 B 「【0007】 概括的に言えば、本発明は、中耳または内耳のインプラントを光信号を使用して駆動することに基づいている。 【0008】 第1の態様において、本発明は、 外耳道モジュールおよびインプラントを備え、 外耳道モジュールは、マイクロフォン、光源、パワー源および必要な電子回路を備え、 インプラントは、聴取アクチュエータに作動可能に結合した光受信機を備える補聴器システムであって、 使用時に、外耳道モジュールのマイクロフォンによって検出される音が光源の光によって変調された光信号として変換かつ送信され、前記変調された光信号が、前記耳のインプラントの光受信機により検出され、かつ聴取アクチュエータを駆動する電気信号に変換される補聴器システムを提供する。 【0009】 インプラントは、中耳または内耳内すなわち鼓膜の体側に配置されることが理解される。 【0010】 本システムの有利性は、光信号が音情報を供給するだけでなく・・・(中略)・・・ 【0011】 したがって、さらなる態様において、本発明は、1つの光源または複数の光源の光を患者の鼓膜を通過させ、前記光源の光を耳のインプラントに受信させる工程を含む、耳のインプラントを駆動する方法および/または耳のインプラントに信号を送信する方法であって、前記光源の光が前記耳のインプラントを駆動できる方法、および/または前記耳のインプラントに信号を送信することができる方法を提供する。 【0012】 外耳道モジュールの構成部品は、典型的には、外耳道内に適合する形状に作られた単一のハウジングに収容される。マイクロフォンは、使用時に音を容易に検出できるようにハウジング内に置かれる。こうして、マイクロフォンは、一般に、音を受信するため耳の外側方向に向けて配設される。マイクロフォンによって受信された音は、当業者に知られている適切な手段によって電気信号に変換され電気信号は次に適当な変調手段によって変調信号に変換される。変調された信号は次いで変調された光信号として光源から出力される。」 C 「【0020】 作動(actuation)は、機械的な駆動でもよいし電気的な駆動でもよい。中耳において、作動は一般に耳小骨連鎖またはより具体的には耳小骨連鎖の個々の骨の機械的振動である。アクチュエータが内耳内に設置されると、作動は、たとえば内耳内の外リンパ液の直接または間接振動によって機械的に実行されるか、あるいはたとえば蝸牛に結合した電極または電極アレイに対して電気的に実行されてもよい。」 D 「【0025】 図1は、外耳道モジュール1および耳のインプラント20の相対的な配置を図式的に示す。図示されるように、耳モジュール1は耳道3内に配置される。耳モジュール1は、耳道3の閉塞を防止するためにモジュール1を通るチャネル5を有する。変調されたIR光信号(破線7で示される)は、鼓膜11を通ってインプラント20によって検出されるようにLED9によって放出される。この実施形態において、インプラントは他のどこかたとえば岬角に配置されてもよいが、インプラント20はあぶみ骨を振動させるためにきぬたあぶみ骨の関節に着座する。 【0026】 図2は、本発明の耳モジュール1およびインプラント20の構成部品をより詳細に示す。耳モジュール1は、マイクロフォン11、および、音を電気信号に変換するように関連付けられた電子回路13であって、音が電気信号に変換され次いで変調された光信号7(破線矢印で示される)としてLED9によって変換かつ送信されるように関連付けられた電子回路13を備える。耳モジュールへのパワーは電池15によって供給される。変調された光信号7は鼓膜11を通過しインプラント20のフォトダイオード22によって検出される。フォトダイオード22は、PZTピエゾセラミック材料製のディスクアクチュエータ24を駆動/発振させるために、光信号7を電気信号に変換する。」 上記摘記事項A?Dより、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (引用発明) 「聴取インプラントを備える補聴器システムであって、該システムは、 蝸牛に連結した電極アレイと、 音を受信するため耳の外側方向に向けて配設されるマイクロフォンと、 該マイクロフォンによって受信された音を電気信号に変換し、次に変調手段によって変調信号に変換する電子回路13の出力を受けて変調された光信号7を出力する光源であるLED9と、 該変調された光信号7を受信し、光信号7を電気信号に変換して前記電極アレイを電気的に駆動するフォトダイオード22と、 を備え、 該変調された光信号7は、患者の鼓膜を通して鼓膜の体側に配置された該フォトダイオード22に伝送され、該フォトダイオード22は鼓膜の体側である中耳に装着され、かつ、該蝸牛に連結した電極アレイを電気的に駆動するようになされる、補聴器システム。」 2.引用文献2の記載事項 本願の優先日前に頒布され、当審が上記平成28年6月21日付けの拒絶理由通知において引用した、特公昭62-1726号公報(以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。) A 「1 蝸牛内に移植されたn組の電極であつて、それらが刺戟された時に当該電極が脳をして可聴周波域内のn個の異なる周波数を区別可能ならしめるようにn個の異なる位置に占位させた当該n組の電極を持つ装置と;最小パルス持続時間tのn個の生理的パルス信号をF>1/tの頻度で逐次分析するための手段と、マイクロフオンで収集される音情報信号を分析し、かくして脳で区別可能な前記n個の周波数に対応した周波数のn個の分析信号を生成するための手段と、該分析信号を処理して前記生理的パルス信号を生成するための手段と、それぞれが前記n組の電極に割当てられ、かつ割当てられた前記電極に伝達すべきエネルギをそれぞれ示す少なくともn個のパルスをそれぞぞれ含む複数のラスタ信号によつて波形を定義された高周波信号を、皮膚を通じてかつ単一の送信コイルによつて送信するための手段とを備える外部送信器と;前記送信コイルに誘導的に結合された単一の受信コイルを持つ受信器移植体であつて、当該受信器移植体をそれ自体が受信する信号によつて作動可能とするための手段とを備える当該受信器移植体とを具備して成る、聴力補綴装置。」(第1頁第1-2欄、特許請求の範囲、第1項) B 「この発明による聴力補綴装置は、音域内のn個の個別の周波数を脳が判別できるように選定される蝸牛内の個別のn個の位置に移植されるn個の電極と、最小パルス持続時間がtのn個の生理的パルス信号F>1/tの速度で順次分析するための手段を必須要素として含む送信器とを具備する。上記生理的パルス信号は、脳によつて区別できるn個の周波数に対応するn個の周波数成分を得るために、マイクロフオンで収集された情報信号から導き出されたn個の分析信号からつくられる。」(第4頁第7欄第32-41行) C 「第1図はこの発明による聴力補綴装置の送信器のブロツク図である。マイクロフオン1は増幅器2に結合されており、この増幅器2の出力は信号圧縮器3に結合される。 信号圧縮器3において、音情報信号の動的特性が耳の動的特性に適合化される。例えば、40dB(知覚できるようになる雑音レベル)から100dB(苦痛を感じ始める雑音レベル)まで変化する雑音は信号圧縮器3によつて4dBの範囲内まで圧縮される。この圧縮率は収集される各時点の雑音レベルに常に比例するため、脳における知覚感度が変化することが無い(通常、かかる圧縮操作は鼓膜と中耳で行なわれる)。上記信号圧縮器3は、アナログ尖頭値検出器と、この検出器のアナログ出力から制御用デイジタル信号を演算する計算器、および上記増幅器2から出力されるアナログ信号を上記デイジタル信号で振幅変調した信号に変換するためのアナログ/デイジタル乗算器とによつて上手に構成できる(ただし信号圧縮器の回路は詳細には示さない。)。 上記信号圧縮器3は分析回路網4に結合される。この分析回路網4は、増幅および圧縮した音情報信号をn個の分析信号に変換する。これら分析信号の周波数は脳で区別できるn個の周波数にそれぞれ対応する。この様な作用を達成するために、上記分析回路網4はn個のフイルタF_(1),F_(2),…F_(n)を備えている。そして、受信用移植体に結合したn個の電極を媒介して脳で区別できるn個の周波数に相当するn個の周波数に合わせた周波数特性を前記フイルタF_(1),F_(2),…,F_(N)に与えている。一例を挙げれば、分析回路網4は、適正に理解容易な情報を包含する周波数帯域、例えば300Hz?3000Hzの帯域を分析可能とする少なくとも8個のフイルタ(8個の移植電極に対する)によつて構成でき、また脳で区別される周波数をスペクトル移動によつて例えば100KHz?10KHzの帯域に置き換えるよう構成できる。」(第4頁第8欄第12行-第5頁第9欄第4行) D 「論理回路11において、マルチプレクサ9、アナログデイジタル変換器7および整合回路網10から与えられるデータが処理されて第3図に示すようなパルス信号(すなわちラスタ信号)stが得られる。すなわち、分析された生理的信号(SP_(1)?SPn)のレベルが低い時には上記パルス信号stのパルス幅は極めて狭くなり(パルスi_(0)はSP_(1)の分析時に相当)、逆に当該レベルが高いと当該パルス幅が広くなるように変調される(パルスicはSP_(2)の分析時に相当)。パルスic等のパルス信号stのパルスは、それと同時にアナログ/デイジタル変換器7によつて与えられるデイジタル信号の値と整合回路網10によつて与えられる修正数に依存して決まる。すなわち、ic等のインパルスの情報は振幅修正済のものである。 パルス信号stはゲート信号としてアンドゲート14の入力に伝達され、このゲート信号によつてアンドゲート14が開かれると発振器13で発生される高周波信号soが当該ゲートを通じて送出される。この発振キヤリア周波数は略々3MHzが好ましい。アンドゲート14は送信コイル15に接続される(このコイル15はリング状のものとして図示されているが、このようなリング形状は患者が掛ける眼鏡の片側にコイル15を取付けてアンテナを構成するのに適している。そしてこの場合、送信コイル15はフレキシブルなワイヤによつて携帯型の送信器収納ケースに接続される。このアンテナ(送信コイル)の正確な位置は、手術後のテスト中に選定されるものであり、それがエネルギと聴取に必要な情報とを送信しようとしている受信用移植体の位置によつて決定される。)。」(第5頁第10欄第24行-第6頁第11欄第10行) E 「第2図に受信器移植体のブロツク図を簡略化して示してある。回路の大部分は送信器に設けられており、この受信器移植体は入力コイル16と、n個の電極に出力端子e_(1),e_(2),…e_(n)をそれぞれ結合したセレクタ20と、チヤンネル復調器18と、リセツト積分器19、および出力蓄積コンデンサCを持つ整流フイルタ17から出来ている。 受信器移植体が自己作動する、つまり受信信号でそれ自体が給電されるような構成であることは前に述べた。送信される信号がラスタ信号stで定義される波形の高周波信号であることも既に述べた。この高周波信号は整流・ろ過され、その結果得られる直流信号は前記コンデンサCに蓄積されて受信器移植体の給電に利用される。ラスタ信号を復調する前にある程度の信号をコンデンサCに蓄わえる必要があるので、ラスタ信号の前に第3図の波形st中に示すパルスi_(a)を送る。しかしラスタ信号の全てのパルスがコンデンサCの充電に利用されることは当然である。 回路18はチヤンネル復調器であり、換言すれば、セレクタ20の歩進を制御することによつて蝸牛内に移植した電極の逐次選択を制御する。このセレクタ20の歩進はラスタ信号の前縁で制御される。すなわち、第3図に波形stが示す時間se_(1)にセレクタ20の出力端子e_(1)に接続されている電極が選択され、また時間se_(2)にセレクタ出力端子e_(2)に接続されている電極が選択される。」(第6頁第12欄第25行-第7頁第13欄第7行) 第4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「聴取インプラントを備える補聴器システム」は、補聴器が一般的に使用者に音声信号を伝送する機能を備えるものであるから、本願発明の「使用者に音声信号を伝送するためのシステム」に相当する。 また、引用発明の「蝸牛に連結した電極アレイ」は、アレイという表現がそもそも複数のものを整列させたことを内容とするものであることから、本願発明の「該使用者の蝸牛内に少なくとも部分的に配置するように構成される複数の電極を備える電極アレイ」に相当する。 更に引用発明の「音を受信するため耳の外側方向に向けて配設されるマイクロフォン」は、本願発明の「音源から該音声信号を受信するように構成される回路」に相当する。 次に引用発明の「該マイクロフォンによって受信された音を電気信号に変換し、次に変調手段によって変調信号に変換する電子回路13の出力を受けて変調された光信号7を出力する光源であるLED9」は、「音声信号」を何らかの形で光信号として放出する点で、本願発明の「該回路に連結され、」「該音声信号を含む」「光信号を放出するように構成される少なくとも1つの光源」に共通し、 そして引用発明の「該」「光信号7を受信し、光信号7を電気信号に変換して前記電極アレイを電気的に駆動するフォトダイオード22」は、本願発明の「光信号を受信し、該光パルスに応じて該電極に電流を通すように構成される少なくとも1つの検出器」に相当する。 最後に、引用発明の「該変調された光信号7は、患者の鼓膜を通して鼓膜の体側に配置された該フォトダイオード22に伝送され、該フォトダイオード22は鼓膜の体側である中耳に装着され、かつ、該蝸牛に連結した電極アレイを電気的に駆動するようになされる」は、光信号の変調された態様を除く限りにおいて、本願発明の「光信号は、該使用者の鼓膜を通して該少なくとも1つの検出器に伝送され、該少なくとも1つの検出器は、中耳に装着され、かつ、該蝸牛内に少なくとも部分的に配置される該電極アレイに連結される」に相当する。 以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。 (一致点) 「使用者に音声信号を伝送するためのシステムであって、該システムは、 該使用者の蝸牛内に少なくとも部分的に配置するように構成される複数の電極を備える電極アレイと、 音源から該音声信号を受信するように構成される回路と、 該回路に連結され、該音声信号を含む光信号を放出するように構成される光源と、 該光信号を受信し、該電極に電流を通すように構成される検出器と を備え、 該光信号は、該使用者の鼓膜を通して該検出器に伝送され、該検出器は、中耳に装着され、かつ、該蝸牛内に少なくとも部分的に配置される該電極アレイに連結される、システム。」 (相違点1) 光源から放出される光信号の形態に関し、本願発明は、「異なる波長の複数の光パルスを含みかつ該音声信号を含む波長多重化光信号」でありかつ、「該波長多重化光信号は、複数の光チャネルを備え、該複数のうちの各光チャネルは、該音の少なくとも1つの周波数に対応」するのに対して、引用発明の光信号は、「変調」されるとのみされていて音の周波数と対応した複数のチャネルを備えた波長多重化とされていない点。 (相違点2) 前記相違点1にて相違するとされた光信号の受信後の処理に関し、本願発明の「検出器」は、「該光パルスに応じて該電極に電流を通すように構成される」としているのに対して、引用発明の対応する「フォトダイオード22」に関する処理は、「該光パルスに応じて該電極に電流を通すように構成される」との事項を伴っていない点。 第5 判断 上記相違点1ないし2について検討する。 上記相違点1及び2に係る本願発明の音声信号の伝達処理は、本件明細書の説明や図面の図示を参酌すれば、音声を異なる「周波数」を基準とした「複数の光チャネル」と称する複数の周波数範囲に分割し、光源を駆動する電気信号を、周波数範囲ごとに音声信号でパルス幅変調させたものを生成し、マルチプレクサにより波長多重化として出力させ(【図2-1】、【0090】等参照)、受信側の「検出器」は、デマルチプレクサにより電極アレイの複数電極に対応する電気信号に復調されるとしたもの(【図2-4】、【0095】等参照)であると理解される。 一方、補聴器に関する技術を記載し、当審の拒絶理由通知で引用し、本件の優先日前に公知とされている引用文献2には、蝸牛内に複数(n組)配置される電極からの刺激を利用した聴力補綴装置は、マイクロフォンで収集した音情報信号を、該電極に対応した複数(n個)の周波数に分析し、n個の変調パルスを生成してマルチプレクサを介して複数のパルスを含むラスタ信号stとして送信され、第2図に示すように受信機側ではチャンネル復調器18及びセレクタ20を介して蝸牛内に移植した複数電極向けの電流信号を得る技術が記載されている。そうすると、補聴器の分野で音声信号を複数の周波数範囲に分割した上でパルス幅変調させた複数信号を作成し、マルチプレクサを介して送信信号にする送信信号処理、及び、当該送信信号を受信した後、復調により複数の周波数範囲ごとの信号を得て、蝸牛内に配置された電極用の刺激信号を生成するとした受信側信号処理は、いずれも公知の技術に過ぎないと言える。 とすれば、当該相違点に係る相違は、いずれも補聴器の分野では新規な技術的事項ではなく、当業者が知り得る公知の技術的事項に過ぎないと認められる。 また、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知の技術的事項が各々奏する効果を単に総合したものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。 したがって、本願発明は、引用発明及び公知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。 なお、請求人は、平成28年12月14日付け意見書にて、引用文献1の段落0010の記載を挙げつつ、フォトダイオード21に追加の独立電源が必要となる見解を示すことによって、本願請求項に係る発明への容易想到性を否定する意見を述べているが、元々本願請求項に係る発明が、追加の独立電源を要するか否かを明示したものとはなっていないことから判断すると、係る事情が本件発明への容易想到性に影響を与える関係に無いことが明らかであるから、係る請求人の主張は採り上げる余地がない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明及び引用文献2に記載の公知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項についての検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、上記結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-01-12 |
結審通知日 | 2017-01-13 |
審決日 | 2017-01-24 |
出願番号 | 特願2012-516342(P2012-516342) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 宏之 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
西村 泰英 栗田 雅弘 |
発明の名称 | 光学的に連結された蝸牛インプラントシステムおよび方法 |
代理人 | 石川 大輔 |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 健策 |
代理人 | 飯田 貴敏 |