• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1328987
審判番号 不服2016-1262  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-28 
確定日 2017-06-08 
事件の表示 特願2011-214817「製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月7日出願公開,特開2012-109538〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は,平成23年9月29日(優先権主張 平成22年10月29日)の出願であって,平成27年10月27日付けで拒絶査定(謄本送達日平成27年11月4日)がなされ,それに対して,平成28年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして,当審において,平成28年12月26日付けで拒絶理由(発送日平成29年1月10日)を通知し,応答期間内である平成29年3月10日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。
ここで,この出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成29年3月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
光透過性の支持体と、上記支持体によって支持される被支持基板と、上記被支持基板における上記支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と、上記支持体と上記被支持基板との間に設けられている、無機物からなる分離層とを備えており、上記分離層は、上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっている積層体を製造する製造方法であって、
(i)上記被支持基板の一方の面上に接着剤を塗布し、当該接着剤をベークすることによって上記接着層を形成すると共に、(ii)上記支持体の一方の面上に上記無機物の分散液を塗布し、当該無機物をベークすることによって上記分離層を形成し、(iii)上記被支持基板の一方の面に形成された上記接着層に対して、上記支持体の一方の面に形成された上記分離層を、真空中で加圧して貼り付けることによって上記積層体を製造し、
上記ベークすることは、温度を上昇させつつ段階的にベークすることであり、
上記無機物は、金属原子からなることを特徴とする製造方法。」

2 引用例の記載
(1)引用例1
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2009-54883号公報(平成21年3月12日出願公開。以下,「引用例1」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器およびICカードなどの高機能化にともない、搭載される半導体チップの小型化、薄型化および高集積化への要求が高まっている。この要求を満たすためには、組み込まれる半導体チップについても薄型の半導体チップとしなければならない。このため、半導体チップの基になる半導体ウエハの厚さ(膜厚)は、現状では125?150μm程度であるが、次世代のチップ用には25?50μm程度にしなければならないと言われている。
【0003】
しかし、25?50μm程度にまで研磨された半導体ウエハは、肉薄となるため、その強度は弱くなり、クラックおよび反りが生じやすくなる。そのため、研磨される半導体ウエハに保護基板(以下、サポートプレートと称する)と呼ばれるガラスまたは硬質プラスチックなどを貼り合せることによって、半導体ウエハの強度を保持し、クラックの発生および半導体ウエハに反りが生じることを防止する方法が開発されている。
【0004】
この方法では、まず、半導体ウエハとサポートプレートとを、接着剤などの接着物質を介して貼り付ける。次に、サポートプレートにより保護されている状態において、グラインダーなどにより半導体ウエハの研磨を行う。これによって、薄化された半導体ウエハが形成される。最後に、薄化された半導体ウエハからサポートプレートを剥がす。
【特許文献1】特開2007-54798号公報(平成19年3月8日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、半導体ウエハにサポートプレートを貼り合せる場合、接着剤層を形成する半導体ウエハの接着面には、すでに回路などが形成されている。すなわち、半導体ウエハの接着面は平坦ではなく、凹凸を有している。したがって、接着剤層をこの凹凸を有する接着面に形成すると、接着面の凹凸に追従するように、形成した接着剤層の表面にも凹凸が形成されてしまう。また、接着剤層をサポートプレート上に形成する場合であっても、サポートプレートには、半導体ウエハをサポートプレートから剥離する際に剥離剤を浸入させる貫通孔が形成されているため、サポートプレート上に形成した接着剤層の表面に凹凸が形成されてしまう。
【0006】
接着剤層の表面が凹凸を有していると、半導体ウエハにサポートプレートを貼り合せた際に、半導体ウエハとサポートプレートとの厚みの分布が不均一となり、半導体ウエハからサポートプレートを剥離する際における剥離性が悪化する問題がある。また、半導体ウエハの薄化工程において、半導体ウエハの接着面と反対側の面(研磨面)に接着剤層の凹凸による転写を生じる問題がある。」
「【0013】
〔実施形態1〕
本発明に係る基板処理方法の一実施形態について以下に説明する。本発明に係る基板処理方法は、基板上に平坦な表面を有する被膜を形成することができれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。例えば、接着剤層表面の平坦化、またはエッチング膜表面の平坦化などに用いることができる。本実施形態では、半導体ウエハにサポートプレートを貼り合せる場合であり、かつ半導体ウエハ上に接着剤層を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0014】
本発明に係る基板処理方法は、主として、形成工程、押圧工程、および冷却工程を含んでいる。これらの工程について以下に説明する。
【0015】
なお、本明細書等において「平坦化」とは、電子顕微鏡(SEM)によって被膜表面を観測した際、処理前と比してその凹凸が低減されることを意味している。
【0016】
(形成工程)
形成工程は、半導体ウエハ(基板)上に熱可塑性の接着剤層(被膜)を形成する工程である。
【0017】
接着剤層は、液体状の接着剤組成物を塗布し、乾燥することによって形成してもよいし、フィルム(支持フィルム)上に接着剤層を備えた接着剤フィルムを半導体ウエハ上に重ね合わせることによって形成してもよい。
【0018】
液体状の接着剤組成物を塗布する場合に、塗布方法としては、従来公知の方法を用いることができる。従来公知の塗布方法として、具体的には、スピンコート、ディッピング、およびローラーブレードなどを挙げることができる。また、接着剤フィルムを用いて半導体ウエハ上に接着剤層を形成する場合には、接着剤層から保護フィルムを剥離し、露出した接着剤層を半導体ウエハに重ねた後、接着剤層から支持フィルムを剥離することによって形成することが好ましい。
【0019】
接着剤層の材質は、加熱することによって熱流動を生じ、かつ冷却することによって成膜する材質、すなわち熱可塑性を有する材質であれば、特に限定されるものではない。接着剤層の材質として、具体的には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、マレイミド系樹脂、などを挙げることができる。」
「【0041】
(付記事項)
本実施形態に係る基板処理方法は、押圧工程の直前までに、半導体ウエハ上に形成した接着剤層を乾燥(プリベーク)する乾燥工程を含んでいてもよい。乾燥工程における接着剤層の乾燥温度は、接着剤層に含まれる溶剤の種類に応じて適宜設定することができる。
【0042】
また、乾燥工程は、互いに異なる温度で行う少なくとも2段階の工程であることが好ましい。言い換えれば、プリベークする際には、乾燥工程を施す加熱器の温度を段階的に昇温させることが好ましい。
【0043】
乾燥工程の段階数は、特に限定されるものではないが、乾燥工程にかかる手間を考えると2段階から3段階程度であることが好ましい。例えば、乾燥工程が3段階である場合、第1段階の乾燥温度を50?150℃程度とし、第2段階の乾燥温度を100?200℃程度とし、第3段階の乾燥温度を150?200℃程度とすることが好ましい。
【0044】
乾燥工程を多段階とすることによって、接着剤層に含有されている多様な種類の溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0045】
なお、乾燥工程における乾燥時間は、特に限定されるものではないが、各温度において1?3分程度であることが好ましい。」
「【0074】
本発明に係る基板処理方法は、例えば、半導体ウエハとサポートプレートとを貼り合せる際において、熱可塑性の接着剤層を平坦化する処理として好適に利用することができる。」

イ 上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)研磨される半導体ウエハに保護基板(以下,サポートプレートと称する)と呼ばれるガラスまたは硬質プラスチックなどを貼り合せることによって,半導体ウエハの強度を保持し,クラックの発生および半導体ウエハに反りが生じることを防止する方法において(【0003】),接着剤層の表面が凹凸を有していると,半導体ウエハにサポートプレートを貼り合せた際に,半導体ウエハとサポートプレートとの厚みの分布が不均一となり,半導体ウエハからサポートプレートを剥離する際における剥離性が悪化する問題があることから(【0006】),半導体ウエハとサポートプレートとを貼り合せる際において,熱可塑性の接着剤層を平坦化する(【0074】)。

(イ)形成工程は,半導体ウエハ(基板)上に熱可塑性の接着剤層(被膜)を形成する工程において(【0016】),接着剤層は,液体状の接着剤組成物を塗布し,乾燥することによって形成してもよい(【0017】)。

(ウ)本実施形態に係る基板処理方法は,押圧工程の直前までに,半導体ウエハ上に形成した接着剤層を乾燥(プリベーク)する乾燥工程を含んでいてもよく,乾燥工程における接着剤層の乾燥温度は,接着剤層に含まれる溶剤の種類に応じて適宜設定することができ(【0041】),乾燥工程の段階数は,例えば,第1段階の乾燥温度を50?150℃程度とし,第2段階の乾燥温度を100?200℃程度とし,第3段階の乾燥温度を150?200℃程度とすることが好ましい(【0043】)。

ウ これらのことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

ガラスの保護基板(以下,サポートプレートと称する)と,上記サポートプレートと貼り合せられる半導体ウエハと,上記半導体ウエハにおける上記サポートプレートによって支持される側の面に設けられている接着剤層とを備え,
上記半導体ウエハの一方の面上に接着剤組成物を塗布し,乾燥することによって上記接着剤層を形成するとともに,半導体ウエハとサポートプレートとを貼り合せて,上記半導体ウエハの研磨を行った後,上記半導体ウエハから上記サポートプレートを剥離する方法であって,
上記乾燥することは,第1段階の乾燥温度を50?150℃程度とし,第2段階の乾燥温度を100?200℃程度とし,第3段階の乾燥温度を150?200℃程度とするものである方法。

(2)引用例2
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2005-183689号公報(平成17年7月7日出願公開。以下,「引用例2」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0003】
例えば、上記した三次元実装技術に適用される半導体チップの製造過程において、加工基板の補強のために、加工基板に対して別の基板(支持基板)を一時的に装着する技術がある。この補強用の支持基板を装着する技術としては、例えば、加工基板と支持基板とを接合材を介して貼り合わせる技術がある(例えば、特許文献2参照)。」
「【0004】
加工基板と支持基板とを接合材を介して貼り合わせる技術では、接合材を光照射することを目的として、支持基板が、光を透過するガラスからなる場合が多い。なお、上述した接合材に対する光照射は、例えば、加工基板から支持基板を剥離する際に、接合材に対して剥離を促すエネルギーを付与するために用いられる。」
「【0028】
(搬送支持体及び搬送体)
まず、本発明に係る支持基板及び搬送体の実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
支持基板50は、後述する半導体装置の製造方法における所定の処理工程(後述する研磨工程及びドライエッチング処理工程)において、半導体基板10の補強あるいは保護等を目的として、加工基板としての半導体基板10に貼り合わされ、搬送体55の形態で使用されるものである。
【0029】
搬送体55は、上記支持基板50と半導体基板10とを、樹脂層52及び剥離層53を介して一体的に接合した構成からなる。なお、樹脂層52は、半導体基板10表面の凹凸を吸収しかつ半導体基板10と支持基板50とを接合するために用いられ、剥離層53は、上記所定の処理工程の後、半導体基板10から支持基板50を剥離させるために用いられるものである。
【0030】
支持基板50の形成材料として、本例では、光を透過する透過部材であるガラスが用いられている。透過部材であるガラスを用いるのは、半導体基板10から支持基板50を剥離する際に、支持基板50の裏面50aに照射される剥離エネルギーを有する光を、剥離層53に確実に到達させるためである。」
「【0036】
図1に戻り、樹脂層52は、例えば、熱硬化性接着剤や光硬化性接着剤等の硬化性接着剤が用いられる。また、樹脂層52としては、耐ドライエッチング性の高い材料からなるのが望ましい。これは、後述するドライエッチング処理の工程において、樹脂層52の破壊を抑制し、それに伴う搬送不具合の発生を防止することを目的としている。さらに、樹脂層52として、熱伝導性の高い材料からなるのが望ましい。これは、後述するドライエッチング処理の工程において、搬送体55全体の熱伝導性を向上させ、エッチング特性を安定させることを目的としている。
【0037】
樹脂層52の配置方法としては、各種印刷法の他に、インクジェット法、粉末ジェット法、スキージング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法等の塗布法の種々の公知技術が用いられる。なお、樹脂層52は、半導体基板10から支持基板50が剥離された後、溶剤等により溶解されて除去される。
【0038】
剥離層53は、レーザ光等の照射光により当該層内や界面において剥離(「層内剥離」又は「界面剥離」ともいう)が生じる材料からなる。即ち、一定の強度の光を照射することにより、構成物質を構成する原子又は分子における原子間又は分子間の結合力が消失し又は減少し、アブレーション(ablation)等を生じ、剥離を起こすものである。また、照射光の照射により、剥離層53に含有されていた成分が気体となって放出され分離に至る場合と、剥離層53が光を吸収して気体になり、その蒸気が放出されて分離に至る場合とがある。
【0039】
剥離層53の組成としては、例えば、非晶質シリコン(a-Si)が採用され、また、当該非晶質シリコン中に水素(H)が含有されていてもよい。水素が含有されていると、光の照射により、水素が放出されることにより剥離層53に内圧が発生し、これが剥離を促進するので好ましい。この場合の水素の含有量は、2at%程度以上であることが好ましく、2?20%at%であることが更に好ましい。水素の含有量は、成膜条件、例えば、CVD法を用いる場合には、そのガス組成、ガス圧力、ガス雰囲気、ガス流量、ガス温度、基板温度、投入するパワー等の条件を適宜設定することによって調整する。この他の剥離層材料としては、酸化ケイ素もしくはケイ酸化合物、窒化ケイ素、窒化アルミ、窒化チタン等の窒化セラミックス、有機高分子材料(光の照射によりこれらの原子間結合が切断されるもの)、金属、例えば、Al、Li、Ti、Mn、In、Sn、Y、La、Ce、Nd、Pr、GdもしくはSm、又はこれらのうち少なくとも一種を含む合金が挙げられる。
【0040】
剥離層53の形成方法は、均一な厚みで剥離層53を形成可能な方法であればよく、剥離層53の組成や厚み等の諸条件に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CVD(MOCCVD、低圧CVD、ECR-CVD含む)法、蒸着、分子線蒸着(MB)、スパッタリング法、イオンドーピング法、PVD法等の各種気相成膜法、電気めっき、浸漬めっき(ディッピング)、無電解めっき法等の各種めっき法、ラングミュア・プロジェット(LB)法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法等の塗布法、各種印刷法、転写法、インクジェット法、粉末ジェット法等に適用できる。これらのうち2種以上の方法を組み合わせてもよい。」

イ 上記記載から,引用例2には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)加工基板と支持基板とを接合材を介して貼り合わせる技術では,接合材を光照射することを目的として,支持基板が,光を透過するガラスからなる場合が多い。なお,上述した接合材に対する光照射は,例えば,加工基板から支持基板を剥離する際に,接合材に対して剥離を促すエネルギーを付与するために用いられる(【0004】)。

(イ)支持基板は,後述する半導体装置の製造方法における所定の処理工程(後述する研磨工程及びドライエッチング処理工程)において,半導体基板の補強あるいは保護等を目的として,加工基板としての半導体基板に貼り合わされ,搬送体の形態で使用されるものであり(【0028】),搬送体は,上記支持基板と半導体基板とを,樹脂層及び剥離層を介して一体的に接合した構成からなる。なお,樹脂層は,半導体基板表面の凹凸を吸収しかつ半導体基板と支持基板とを接合するために用いられ,剥離層は,上記所定の処理工程の後,半導体基板から支持基板を剥離させるために用いられるものである(【0029】)。

(ウ)樹脂層は,例えば,熱硬化性接着剤や光硬化性接着剤等の硬化性接着剤が用いられる(【0036】)。

(エ)剥離層の組成としては,例えば,非晶質シリコン(a-Si)が採用され,この他の剥離層材料としては,酸化ケイ素もしくはケイ酸化合物,窒化ケイ素,窒化アルミ,窒化チタン等の窒化セラミックス,有機高分子材料(光の照射によりこれらの原子間結合が切断されるもの),金属,例えば,Al,Li,Ti,Mn,In,Sn,Y,La,Ce,Nd,Pr,GdもしくはSm,又はこれらのうち少なくとも一種を含む合金が挙げられる(【0039】)。

(オ)剥離層の形成方法は,均一な厚みで剥離層を形成可能な方法であればよく,剥離層の組成や厚み等の諸条件に応じて適宜選択することが可能である。例えば,CVD(MOCCVD,低圧CVD,ECR-CVD含む)法,蒸着,分子線蒸着(MB),スパッタリング法,イオンドーピング法,PVD法等の各種気相成膜法,電気めっき,浸漬めっき(ディッピング),無電解めっき法等の各種めっき法,ラングミュア・プロジェット(LB)法,スピンコート法,スプレーコート法,ロールコート法等の塗布法,各種印刷法,転写法,インクジェット法,粉末ジェット法等に適用できる。これらのうち2種以上の方法を組み合わせてもよい(【0040】)。

(3)引用例3
ア 特開2004-64040号公報(平成16年2月26日出願公開。以下,「引用例3」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0003】
ウェハを接着剤を介して硬い支持体に強固に固定して、裏面研削・搬送することも考案されている。このような支持体によってウェハを支持し、裏面研削・搬送の間にその破損を防止しようとするものである。このような方法によると、上記の方法と比較して低い肉厚レベルまでウェハを加工することは可能であるが、極薄肉化されたウェハを破損させずに支持体から剥離することはできず、ウェハの極薄肉化を行う方法としては実施不可能である。
・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明は、被研削基材が支持体上に固定された積層体であって、この被研削基材を支持体から容易に剥離することが可能である積層体及び製造方法並びにこのような積層体を用いた極薄基材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
・・・
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、1つの態様によると、被研削基材と、前記被研削基材と接している接合層と、光吸収剤及び熱分解性樹脂を含む光熱変換層と、光透過性支持体と、を含み、
但し、前記光熱変換層は、前記接合層とは反対側の前記被研削基材の表面を研削した後に、放射エネルギーが照射されたときに分解して、研削後の基材と前記光透過性支持体とを分離するものである、積層体が提供される。
このような積層体では、非常に低い肉厚まで研削された基材を、破損することなく支持体から剥離することが可能である。」
「【0017】
光吸収剤は、使用する波長の放射エネルギーを吸収するものである。したがって、放射エネルギーとしては、通常、300?2000nmの波長のレーザー光が考えられ、具体的には、1064nmの波長の光を発生するYAGレーザー、532nmの波長の2倍高調波YAGレーザー、780?1300nmの波長の半導体レーザーが挙げられる。レーザー光の波長にもよるが、光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルルなどの微粒子金属粉末、黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末、あるいは、芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの染料又は顔料を用いることができる。あるいは、金属蒸着膜を含む膜状の形態などであってもよい。光吸収剤の中で、カーボンブラックは特に有用である。というのは、カーボンブラックは放射エネルギー照射後の基材と支持体との剥離に要する力、すなわち、剥離力を有意に低下させ、分離性を促進するからである。」
「【0022】
光熱変換層は、カーボンブラックなどの光吸収剤と、上記の熱分解性樹脂と溶剤を混合して、前駆体塗布液を形成し、この塗布液を支持体上に塗布し、乾燥することによって形成できる。或いは、熱分解性樹脂の溶液の代わりに、光吸収剤と、上記の熱分解性樹脂の原料となるモノマーもしくはオリゴマーと、場合により、光重合開始剤などの添加剤、さらには必要ならば溶剤を混合して、前駆体塗布液を形成し、この塗布液を支持体上に塗布し、乾燥し、重合・硬化することによっても形成できる。塗布には、スピンコーティング、ダイコーティング、ロールコーティングなどの硬質支持体上への塗布に好適な一般的な塗布法が使用できる。又は、図1(c)?(e)などの両面テープ中に光熱変換層を形成する場合には、ダイコーティング、グラビアコーティング、ナイフコーティングなどの塗布法を使用して、光熱変換層をフィルム上に形成することができる。」

イ 上記記載から,引用例3には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)被研削基材が支持体上に固定された積層体であって,この被研削基材を支持体から容易に剥離することが可能である積層体及び製造方法並びにこのような積層体を用いた極薄基材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とし(【0005】),被研削基材と,前記被研削基材と接している接合層と,光吸収剤及び熱分解性樹脂を含む光熱変換層と,光透過性支持体と,を含み,前記光熱変換層は,前記接合層とは反対側の前記被研削基材の表面を研削した後に,放射エネルギーが照射されたときに分解して,研削後の基材と前記光透過性支持体とを分離するものである,積層体が提供される(【0006】)。

(イ)光吸収剤としては,例えば,鉄,アルミニウム,銅,ニッケル,コバルト,マンガン,クロム,亜鉛,テルルなどの微粒子金属粉末を用いることができ(【0017】),光熱変換層は,光吸収剤と,上記の熱分解性樹脂と溶剤を混合して,前駆体塗布液を形成し,この塗布液を支持体上に塗布し,乾燥することによって形成でき,塗布には,スピンコーティング,ダイコーティング,ロールコーティングなどの硬質支持体上への塗布に好適な一般的な塗布法が使用できる(【0022】)。

(4)引用例4
ア 特開2010-98072号公報(平成22年4月30日出願公開。以下,「引用例4」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、シリコンウェハなどの被処理基板を支持基板に貼り付けて、被処理基板を処理することで、半導体装置を製造する方法に関するとともに、そのために被処理基板を支持基板に貼り付けて積層体を製造する装置に関する。」
「【0014】
図1に示すように、先ず、支持基板1の一方の面上に光熱変換層2を形成する。支持基板1は、光を透過する性質を有するものであれば特に限定されず、ガラスやアクリル樹脂などが好ましい。支持基板1としては、後述する被処理基板3の表面よりも外形が大きい表面を有するものであれば、特に限定されず、円形、楕円形、正方形、長方形、正多角形などの形状のものが好ましい。このような支持基板1としては、例えば、直径152mm、厚さ0.7mmの円形のパイレックス(登録商標)ガラスを用いることができる。
【0015】
光熱変換層2としては、レーザー光などの光を吸収すると、これを熱エネルギーに変換して層の温度を上昇させ、温度が所定の温度に達すると、熱分解する性質を有するものであれば、特に限定されない。このような光熱変換層2としては、光吸収剤と熱分解性樹脂の混合物が好ましい。光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルルなどの微粒子金属粉末、黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末、あるいは、芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの染料又は顔料を用いることができる。また、熱分解性樹脂としては、例えば、ゼラチン、セルロース、セルロースエステル(例えば、酢酸セルロース、ニトロセルロース)、ポリフェノール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、塩化ビニリデンとアクリロニトリルとの共重合体、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ塩化ビニル、シリコーン樹脂及び/又はポリウレタン単位を含むブロックコポリマーなどを単独で又は2種以上混合して使用することができる。
【0016】
光熱変換層2は、例えば、上記の光吸収剤と熱分解性樹脂と溶剤からなる混合溶液を、支持基板1の表面上に塗布して乾燥させることで形成することができる。溶剤としては、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートなどが好ましい。塗布の方法は、スピンコーティング、ダイコーティング、ロールコーティングなどを採用できる。光熱変換層2の厚さは0.5?2.0μmが好ましい。厚さをこの範囲にすることで、熱分解により支持基板1と接着剤層4とを良好に分離することができるとともに、支持基板1側から照射される光を十分に透過することができる。」

イ 上記記載から,引用例4には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)シリコンウェハなどの被処理基板を支持基板に貼り付けて,被処理基板を処理することで,半導体装置を製造する方法に関する(【0001】)。

(イ)支持基板の一方の面上に光熱変換層を形成する。支持基板は,光を透過する性質を有するものであれば特に限定されず【0014】,光熱変換層としては,光吸収剤と熱分解性樹脂の混合物が好ましく,光吸収剤としては,例えば,鉄,アルミニウム,銅,ニッケル,コバルト,マンガン,クロム,亜鉛,テルルなどの微粒子金属粉末を用いることができ(【0015】),光熱変換層は,例えば,上記の光吸収剤と熱分解性樹脂と溶剤からなる混合溶液を,支持基板の表面上に塗布して乾燥させることで形成することができ,塗布の方法は,スピンコーティング,ダイコーティング,ロールコーティングなどを採用できる(【0016】)。

(5)引用例5
ア 特開2003-86491号公報(平成15年3月20日出願公開。以下,「引用例5」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、欠陥数の少ない塗布膜の形成を可能とする基板処理方法と塗布膜形成方法を提供することを目的とする。」
「【0069】
具体的には、一定の低い温度に保持されていたホットプレート上にウエハWを載置した後に、連続的に徐々にホットプレートの温度を上げていく方法、または、階段状に徐々に温度を上げていく方法が好適に用いられる。図8は、膜厚が80nmのレジスト膜のプリベーク処理を、それぞれ180℃に保持されたホットプレートにウエハWを載置して熱処理する従来の熱処理方法(STD)と、85℃にてベークした後に180℃でベークを行う方法(ステップベーク)によって行ったときのウエハWの欠陥数を比較して示したグラフである。
【0070】
各方法について5枚のウエハWを処理した結果、ウエハW毎の欠陥数のばらつきはあるものの、全体的にステップベークを行ったウエハWの欠陥数が少ないという結果が得られている。これは、溶剤の蒸発を穏やかに進行させたことで、溶剤の突沸等によるピンホール欠陥の発生が抑制された結果と考えられる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、ウエハWに対しては、レジスト塗布・現像処理システム1に搬入される前にスクラブ洗浄処理が施されることが一般的である。このときの条件、例えば、ブラシの回転数やウエハWの回転数、洗浄液の種類等を種々に変更することによっても、ウエハWの欠陥数を低減することが可能である。また、レジスト膜を形成する前のウエハWの表面には、所定の膜が先に形成された状態であってもよい。さらに、上記実施の形態ではレジスト膜を形成する場合について説明したが、保護膜や層間絶縁膜等を形成する場合にも本発明を適用することができる。さらにまた、基板として半導体ウエハを取り上げたが、液晶ディスプレイ(LCD)基板等の他の基板であっても、本発明を適用することができる。」

イ 上記記載から,引用例5には,次の技術的事項が記載されている。
(ア)欠陥数の少ない塗布膜の形成を可能とする基板処理方法と塗布膜形成方法を提供することを目的とする(【0005】)。

(イ)具体的には,一定の低い温度に保持されていたホットプレート上にウエハWを載置した後に,連続的に徐々にホットプレートの温度を上げていく方法,または,階段状に徐々に温度を上げていく方法が好適に用いられ,膜厚が80nmのレジスト膜のプリベーク処理を,それぞれ180℃に保持されたホットプレートにウエハWを載置して熱処理する従来の熱処理方法(STD)と,85℃にてベークした後に180℃でベークを行う方法(ステップベーク)によって行ったときのウエハWの欠陥数を比較すると(【0069】),ウエハW毎の欠陥数のばらつきはあるものの,全体的にステップベークを行ったウエハWの欠陥数が少ないという結果が得られている。これは,溶剤の蒸発を穏やかに進行させたことで,溶剤の突沸等によるピンホール欠陥の発生が抑制された結果と考えられる(【0070】)。上記実施の形態ではレジスト膜を形成する場合について説明したが,保護膜や層間絶縁膜等を形成する場合にも本発明を適用することができる(【0071】)。

(6)引用例6
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された国際公開第2008/146438号(2008年12月4日国際公開。以下,「引用例6」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「[0007] 本発明は、接着剤により貼り付けたウエハとサポートプレートとを、特にウエハの薄板化工程において剥れ難くする貼り合わせ装置、接着剤の溶解を防ぐ方法、及び貼り合わせ方法を提供する。」
「[0020] 上記接着剤が塗布されたサポートプレートおよび/またはウエハは、搬送部48によりベーク部140に搬入される。ベーク部140は、搬入されたサポートプレートおよび/またはウエハをベークする。このベーク部140は、所定温度に加熱し接着剤を硬化させる。また、真空ポンプを備え、減圧下にて加熱できるようになっていてもよい。加熱温度としては、例えば150?200℃程度が好ましい。
[0021] 上記ベークされたサポートプレートおよび/またはウエハは、搬送部48により貼り合わせ部20に搬送される。貼り合わせ部20は、接着剤を介してサポートプレートとウエハとを重ね合わせ、貼り合わせ体を作成する。この貼り合わせ体においては、ウエハの回路形成面が接着剤と面するようにする。この貼り合わせ部20は、例えば加熱可能な1対のプレスプレートを備え、プレスプレート間に接着剤を介して重ね合わせられたサポートプレートとウエハとを配置し、加熱しつつ圧着することにより貼り合わせ体を作成する。圧着の際に減圧することが好ましく、この場合真空ポンプを備えていることが好ましい。」

イ 上記記載から,引用例6には,次の技術的事項が記載されている。
接着剤により貼り付けたウエハとサポートプレートとを,特にウエハの薄板化工程において剥れ難くする貼り合わせ方法において([0007]),プレスプレート間に接着剤を介して重ね合わせられたサポートプレートとウエハとを配置し,加熱しつつ圧着することにより貼り合わせ体を作成するにあたり,圧着の際に真空ポンプで減圧する([0021])。

(7)引用例7
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2008-41987号公報(平成20年2月21日出願公開。以下,「引用例7」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、サポートプレートに接着剤を介して支持され複数に分割されたウェハとサポートプレートとを容易に剥離するサポートプレートとウェハとの剥離方法及び装置に関する。」
「【0027】
次に工程S2では、接着液を塗布されたウエハ5がスピンカップから取り出され、ベークプレートに移送される。ベークプレートはオーブンを備えている。
このベークプレートで上記液状の接着剤3´を乾燥させて流動性を低減させ、硬質接着剤層3としての層形状を維持させる。この乾燥では、例えば40?200℃で所定時間加熱される。
【0028】
続いて工程S3では、位置合わせ装置を用いてウエハ5とサポートプレート1との位置合わせを行う。
そして、工程S4において、上記のように位置合わせしたウエハ5とサポートプレート1とを接着剤層3を介して熱圧着する。この熱圧着では、再びベークプレートが用いられる。
【0029】
ベークプレートは、オーブンの他に減圧装置を備えており、上記の熱圧着は、ベークプレートの減圧チャンバ内で行われ、例えば40?300℃の熱が加えられる。この熱圧着によりウエハ5とサポートプレート1とが一時的に一体化される。」

イ 上記記載から,引用例7には,次の技術的事項が記載されている。
サポートプレートに接着剤を介して支持され複数に分割されたウェハとサポートプレートとを容易に剥離するサポートプレートとウェハとの剥離方法及び装置に関し(【0001】),位置合わせしたウエハとサポートプレートとを接着剤層を介して熱圧着する際に(【0028】),上記の熱圧着は,ベークプレートの減圧チャンバ内で行われ,この熱圧着によりウエハとサポートプレートとが一時的に一体化される(【0029】)。

(8)引用例8
ア 当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2005-302982号公報(平成17年10月27日出願公開。以下,「引用例8」という。)には,図面とともに次の記載がある。
「【0029】
半導体ウエハ1と支持板3の貼り合わせ方法としては、特に限定されないが、貼り合わせ界面に気泡をかみ込まない方法が好ましい。例えば、真空チャンバーなど真空雰囲気下で貼合せを行うことができる真空貼り合わせ装置を用いると、前記界面に気泡をかむのを抑制又は防止できる。」

イ 上記記載から,引用例8には,次の技術的事項が記載されている。
半導体ウエハと支持板の貼り合わせ方法において,界面に気泡をかむのを抑制又は防止するために,真空雰囲気下で貼合せを行う(【0029】)。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ガラスの保護基板(以下,サポートプレートと称する)」,「半導体ウエハ」,「接着剤層」はそれぞれ,本願発明における「光透過性の支持体」,「被支持基板」,「接着層」に相当する。また,引用発明において「サポートプレート」と「半導体ウエハ」とが「接着剤層」を介して貼り合わせられたものは,本願発明における「積層体」に相当する。
引用発明において,塗布された「接着剤組成物」を「乾燥する」事項は,本願発明における「接着剤をベーク」する事項に相当し,引用発明において「第1段階の乾燥温度を50?150℃程度とし,第2段階の乾燥温度を100?200℃程度とし,第3段階の乾燥温度を150?200℃程度とする」事項は,本願発明において「温度を上昇させつつ段階的にベークすること」に相当する。

したがって,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
光透過性の支持体と,上記支持体によって支持される被支持基板と,上記被支持基板における上記支持体によって支持される側の面に設けられている接着層とを備えている積層体を製造する製造方法であって,
上記被支持基板の一方の面上に接着剤を塗布し,当該接着剤をベークすることによって上記接着層を形成し,上記被支持基板の一方の面に形成された上記接着層に対して,上記支持体を,貼り付けることによって上記積層体を製造し,
上記ベークすることは,温度を上昇させつつ段階的にベークする製造方法。

<相違点1>
本願発明は,支持体と被支持基板との間に設けられている,無機物からなる分離層を備えた積層体の製造方法であって,上記無機物は,金属原子からなるものであり,上記分離層は,上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっており,上記分離層の形成は,上記支持体の一方の面上に上記無機物の分散液を塗布し,当該無機物を段階的にベークする工程を有するものであるのに対し,引用発明は,支持体と被支持基板とを分離するものであって,支持体を接着層が設けられた被支持基板に貼り付けるものではあるものの,光を吸収することで変質する分離層を有さない積層体の製造方法であり,被支持基板に貼り付ける前の支持体に,金属原子からなる無機物の分散液を塗布し,段階的にベークすることで分離層を形成するという工程を有していない点。

<相違点2>
本願発明は,支持体と被支持基板との貼り付けを行う際に,真空中で加圧して貼り付けるものであるのに対し,引用発明は,真空中での加圧貼り付けかどうかが明らかでない点。

4 当審の判断

以下,上記相違点1,2について検討する。
(1)相違点1について
支持体と被支持基板との剥離のために,支持体と被支持基板との間に光を吸収することによって変質する分離層であって,金属原子からなる分離層を設けることは,上記2(2)イ(ア)ないし(オ),上記2(3)イ(ア)及び(イ),上記2(4)イ(ア)及び(イ)のとおり従来から当業者にとって周知の技術的事項である。
そして,支持体と被支持基板との剥離手段として,種々の手段のうちのどの手段を選択するかは,当業者が適宜選択すべき事項にすぎないことから,上記周知の技術的事項を選択することで,「光透過性の支持体と,上記支持体によって支持される被支持基板と,上記被支持基板における上記支持体によって支持される側の面に設けられている接着層と,上記支持体と上記被支持基板との間に設けられている,無機物であって金属原子からなる分離層とを備えており,上記分離層は,上記支持体を介して照射される光を吸収することによって変質するようになっている積層体を製造する製造方法」とすることは,当業者にとって容易になし得た事項である。
ここで,支持体上に分離層を形成するにあたり,塗布法といった,分散液を塗布してベークする工程を有する手法は,上記周知の技術的事項で例示した引用例のそれぞれに記載されているように,分離層の形成で一般的に用いられている手法にすぎず,また,塗布された層を乾燥させるために温度を上昇させつつ段階的にベークする工程も,上記2(1)イ(ウ),上記2(5)イ(ア)及び(イ)のとおり,当業者にとって従来から周知の技術的事項にすぎないことから,支持体の一方の面上に上記金属原子からなる無機物の分散液を塗布し,当該無機物を段階的にベークする工程は,支持体上に金属原子からなる分離層を形成する際に,当業者が容易になし得た工程である。
また,金属原子からなる分離層を用いることやその分離層形成手段として無機物の分散液を塗布して,段階的にベークするという事項によって上記周知の技術的事項のそれぞれが有する効果の総和を超えるような相乗効果が生じるものでもないことから,引用発明に上記相違点1に係る事項を備えたものとすることは,引用発明及び周知の技術的事項から,当業者にとって容易になし得た事項である。

(2)相違点2について
2枚の板状の部材を接着で貼り合わせる際に,真空中で加圧して貼り付けることでより接着が効果的になされる事項は,上記2(6)ないし(8)のイのとおり,当業者にとって従来から周知の技術的事項である。そして,引用発明の接着でも,より効果的な接着手法が好ましいことは,自明の課題であるから,引用発明の接着工程を具現化するに当たり,上記従来から周知の技術的事項を採用し,真空中で加圧して貼り付けるものとすることは,当業者にとって容易になし得たものである。
したがって,引用発明において,上記相違点2を備えたものとすることは,当業者にとって容易になし得たものである。

(3)審判請求人の主張について
審判請求人は,平成29年3月10日付け意見書の(2)において「本願発明は、支持体の一方の面上に、金属原子からなる無機物の分散液を塗布し、当該分散液をベークする構成を備えています。
一方、引用文献2には、CVD法、蒸着、スパッタリング法、イオンドーピング法、PVD法、めっき法、及び、塗布法等によって分離層を形成することしか記載されておらず、上記構成はもちろん、そもそも、無機物の分散液をベークして分離層を形成する構成について記載も示唆もされていません(引用文献2の段落〔0040〕、〔0041〕等)。」と主張しているが,引用文献2(引用例2)には,分離層として金属原子が例示されており,引用文献2で例示する「塗布法」は,塗布された溶液をベークするものであることから,引用文献2に例示された種々の分離層のうち,分離層として金属原子を用い,その形成手法として塗布法を選択したものは,金属原子からなる無機物の分散液を塗布し,当該分散液をベークするものである。
加えて,当該事項は,引用例2のみならず,引用例3,4にも例示されているように,当業者にとって従来から周知の技術的事項にすぎない。

また,審判請求人は,平成29年3月10日付け意見書の(2)において「本願発明は、上記構成のように、支持体の一方の面上に、金属原子からなる無機物の分散液を塗布し、当該分散液をベークすることで、貼り付け後の積層体から支持体を剥離しやすい、金属原子からなる分離層を形成することができるという効果を奏します(本願出願当初明細書の段落〔0053〕及び〔0054〕等)。
また、当該金属原子からなる分離層は、支持体を介して照射された光を好適に吸収することができます。これにより、基板まで光が照射されにくくなり、光照射により基板に悪影響が及ぼされることを好適に防ぐことができるという効果を奏します(本願出願当初明細書の段落〔0018〕及び〔0025〕等)。
これらの効果は、引用文献1?6から予想される範囲を超える顕著な効果です。」と主張しているが,「貼り付け後の積層体から支持体を剥離しやすい分離層」は「金属原子」からなる分離層に限られるものではなく,本願出願当初明細書を参照しても,「金属原子」からなる分離層が,他のものからなる分離層に対して有利な効果があるとする記載はみられない。
そうすると,「金属原子」からなる分離層とする事項は,分離層として採用可能として知られる種々の物質のうちの1つを選択したに過ぎず,当該物質による顕著な効果があるとは認められないことから,上記主張は採用できない。

(3)そして,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2ないし8で例示される周知の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

(4)したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2ないし8で例示される周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-06 
結審通知日 2017-04-11 
審決日 2017-04-24 
出願番号 特願2011-214817(P2011-214817)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平野 崇  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
長清 吉範
発明の名称 製造方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ