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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1329111
異議申立番号 異議2017-700237  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-07 
確定日 2017-06-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5987186号発明「波長走査型光干渉断層撮影装置及び断層撮影方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5987186号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5987186号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年6月17日に特許出願され、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 小林幸男(以下「申立人」という。)により請求項1?4に対して特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
特許第5987186号の請求項1?4に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
波長が走査されてなる波長走査光を出力する波長走査光源と、
前記波長の走査の過程において、前記波長走査光の波数が所定の変化量だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号を出力する波数等間隔クロック出力部と、
前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部と、
前記干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部と、
前記第1サンプリング部で取得された第1サンプリングデータ列と、前記第2サンプリング部で取得された第2サンプリングデータ列と、の両方に基づいて断層画像データを生成する断層画像生成部と、
を備える波長走査型光干渉断層撮影装置。
【請求項2】
前記断層画像生成部は、
前記第1サンプリング部で取得された第1サンプリングデータ列と、前記第2サンプリング部で取得された第2サンプリングデータ列と、を入れ子に並べてなる統合サンプリングデータ列を作成するとともに、当該統合サンプリングデータ列に対する離散フーリエ変換処理を経て前記断層画像データを生成する
請求項1に記載の波長走査型光干渉断層撮影装置。
【請求項3】
前記断層画像生成部は、
少なくとも、前記第1サンプリングデータ列に対する離散フーリエ変換処理を経て得た第1中間データと、前記第2サンプリングデータ列に対する離散フーリエ変換処理を経て得た第2中間データと、の両方に対して加算平均処理を行い、前記断層画像データを生成する
請求項1又は請求項2に記載の波長走査型光干渉断層撮影装置。
【請求項4】
波長が走査されてなる波長走査光を出力するステップと、
前記波長の走査の過程において、前記波長走査光の波数が所定の変化量だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号を出力するステップと、
第1サンプリング部が、前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングするステップと、
第2サンプリング部が、前記干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングするステップと、
前記第1サンプリング部で取得された第1サンプリングデータ列と、前記第2サンプリング部で取得された第2サンプリングデータ列と、の両方に基づいて断層画像データを生成するステップと、
を有する断層撮影方法。」

3.申立て理由の概要

(1)申立て理由1(進歩性)
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証?甲第9号証(以下、「甲1」?「甲9」という。)を提出し、本件特許発明1、2及び4は、甲1に記載された発明、甲2?4に記載された周知技術及び甲5に記載された技術的事項に基づき、また、本件特許発明3は、甲1に記載された発明、甲2?4に記載された周知技術、甲5に記載された発明及び甲6?9に記載された周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(証拠一覧)
甲1:Zhao Wangら、“Depth?encoded all-fiber swept source polarization sensitive OCT”、BIOMEDICL OPTICS EXPRESS、 Vo1.5、 N0.9、第2931-2949頁
甲2:特開平4-267628号公報
甲3:特開2008-11189号公報
甲4:特開2011-49746号公報
甲5:特開2014-16181号公報
甲6:特開2010-110393号公報
甲7:特開2011-87813号公報
甲8:特開2011-115507号公報
甲9:特開2011-200635号公報

(2)申立て理由2(サポート要件)
本件特許発明3において、「離散フーリエ変換処理を経て得た第1中間データ」と「離散フーリエ変換処理を経て得た第2中間データ」「の両方に対して加算平均処理を行い」「断層画像データを生成する」ことは、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。
よって、本件特許発明3は、特許法第36条第6項第1号の規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、請求項3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

4.甲各号証の記載等

(1)甲1記載の事項
甲1には、以下の記載がある。(下線は、当審において付加したものである。以下、同様である。)

ア 第2941頁第20?33行
「2.2 Ophthalmic PS-OCT
Figure 2 shows the schematic of the ophthalmic PS-OCT system.A commercially available short cavity 1050nm wavelength swept laser (Axsun Technologies Inc.)with a sweep repetition rate of 100kHz was used as the light source.The laser sweep range was 108nm and the average output power was 30mW.The laser output was attenuated by 1.5dB and split with an 80/20 coupler,with 80% directed to the sample path,and 20% to the reference path.A 5m PM fiber (PM980-XP,Thorlabs Inc.)was used for polarization multiplexing,generating a 0.97mm depth separation in air between the two orthogonal polarization states.After the PM fiber,light was further split by an 80/20 coupler,with 20% directed to the patient interface(PIU).The light from the sample and reference arms was recombined by a 50/50 coupler.The horizontally and vertically polarized signals were further split by two FPBS (FiberLogix International Limited.)and detected by two balanced receivers(PDB130C,Thorlabs Inc.)that were modified with fiber coupled diodes and higher trans-impedance gain to achieve ?250MHz bandwidth. 」
(当審訳)
「2.2 眼科PS-OCT
図2は、眼科PS-OCTシステムの概略図を示す。100kHzの掃引反復レートの商用短共振器の1050nm波長の掃引レーザー(Axsunテクノロジー社)が、光源として使用される。レーザー掃引範囲は108nmであり、平均出力パワーは、30mWであった。レーザーの出力は1.5dBで弱められ、80/20カプラで分離され、80%はサンプルパスに送られ、20%が参照パスに送られる。5mのPMファイバ(PM980-XP、Thorlabs社)が、偏光合成して、2つの直交する偏光状態の間の空中で0.97mm深度の分離を生成するために使用された。PMファイバの後、光は更に80/20カプラで分離され、20%は患者インターフェース(PIU)に送られる。サンプルアームおよび参照アームからの光は、50/50カプラにより再合成される。水平偏光の信号および垂直偏光の信号は、さらに2つのFPBS(ファイバロジックインターナショナル リミテッド)により分離され、250MHzまでの帯域を達成するためにファイバ結合型ダイオードおよび高度トランスインピーダンス・ゲインを用いて改良された、2つの平衡受信器(PDB130C、Thorlab社)により検出される。」

イ 第2941頁第36?40行
「2.2.1 Optical clock frequency doubling
The Axsun laser provides a clock frequency of 209-328MHz,corresponding to 3.7mm imaging range(in air).This is insufficient for imaging structures in the eye using depthencoded PS-OCT.To extend the imaging range,we electronically doubled the k-clock provided by the laser [64]. 」
(当審訳)
「2.1.1 光クロックの周波数の2倍化
Axsunレーザーは、209-328MHzのクロック周波数を供給し、これは3.7mmの撮影範囲(空中)に対応する。これは、深度で符号化されるPS-OCTを用いる目の中の撮影の機構としては不十分である。撮影範囲を拡張するために、当該レーザーにより供給されるkクロックを電子的に2倍化する [64]。」

ウ 第2942頁第5?6行
「With the frequency-doubled clock,the imaging range was effectively doubled to be 7.4mm in air. 」
(当審訳)
「周波数が2倍化されたクロックを用いると、撮影範囲は効果的に2倍化し、空中で7.4mmとなる。」

エ 第2942頁第13?16行
「2.2.2 Image processing
Images from the two polarization channels were first processed using standard OCT procedures,including background subtraction,numerical dispersion compensation,spectralshaping and Fast Fourier Transform(FFT).」
(当審訳)
「2.2.2 画像処理
2つの偏光チャネルからの画像は、まず、背景減算、数値分散補償、スペクトル形成、および、高速フーリエ変換(FFT)を含む標準のOCT手順を用いて処理される。」

オ 第2942頁 眼科PS-OCTシステムの概略図


(2)甲1記載の事項の整理
上記(1)で摘記した甲1記載の事項を整理する。

ア 上記(1)イに記載の「Axsunレーザー」が、上記(1)アに記載の「掃引レーザー」を指すことは、文脈上明らかである。

イ 上記(1)イに記載の「当該レーザーにより供給されるkクロックを電子的に2倍化」するために、上記(1)オのFig.2から、「光クロック周波数2倍化手段」があることが理解できる。

ウ 上記(1)エに記載の「画像処理」は、上記(1)オのFig.2から、「DAQ」により処理されていることが理解できる。

(3)甲1に記載された発明の認定
上記(1)ア?オの記載及び上記(2)ア?ウを総合すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。

「眼科PS-OCTシステムであって、
100kHzの掃引反復レートの商用短共振器の1050nm波長の掃引レーザーが、光源として使用され、レーザー掃引範囲は108nmであり、平均出力パワーは、30mWであり、レーザーの出力は1.5dBで弱められ、80/20カプラで分離され、80%はサンプルパスに送られ、20%が参照パスに送られ、5mのPMファイバが、偏光合成して、2つの直交する偏光状態の間の空中で0.97mm深度の分離を生成するために使用され、PMファイバの後、光は更に80/20カプラで分離され、20%は患者インターフェースに送られ、サンプルアームおよび参照アームからの光は、50/50カプラにより再合成される。水平偏光の信号および垂直偏光の信号は、さらに2つのFPBSにより分離され、250MHzまでの帯域を達成するためにファイバ結合型ダイオードおよび高度トランスインピーダンス・ゲインを用いて改良された、2つの平衡受信器により検出され、
前記掃引レーザーは、光クロック周波数2倍化手段に209-328MHzのクロック周波数を供給し、これは3.7mmの撮影範囲(空中)に対応し、撮影範囲を拡張するために、当該レーザーにより供給されるkクロックを、前記光クロック周波数2倍化手段により電子的に2倍化し、周波数が2倍化されたクロックを用いると、撮影範囲は効果的に2倍化し、空中で7.4mmとなり、
2つの偏光チャネルからの画像は、まず、背景減算、数値分散補償、スペクトル形成、および、高速フーリエ変換を含む標準のOCT手順を用いて、DAQにより処理される、
眼科PS-OCTシステム。」(以下、「甲1発明」という。)

(4)甲2記載の事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0010】そこで、このような問題点を解決するために、デジタイズのタイミングを校正するインターリーブ・デジタイズ装置が開示されている(U.S.P.4,962,380 )。この従来例を図6に、またその各部の波形を図7に示し、説明する。ここにおいて図5に示した各構成要素に対応するものについては同じ記号を付した。
【0011】クロック源12Cは図7(a)に示すように、一定振幅の正弦波を発生しており、これが可変遅延素子VD1Bに印加され、可変遅延素子VD1Bからは図7(b)に示すように、(a)のクロック源12Cの出力の正弦波における位相π/4において立上がるクロックCK1を出力する。このπ/4の位相遅延は、制御部19Cからの指示をアナログ量に変換するためのDA変換器DA1を介して受けることによって設定される。
【0012】クロックCK1は可変遅延素子VD2Bにおいて制御部19Cの指示をDA変換器DA2を介して受けてさらに遅延され、クロックCK1に対してはπ/2遅れて、図7(a)のクロック源12Cの正弦波の位相3π/4において立上がる(c)のクロックCK2を発生する。
【0013】クロックCK2は可変遅延素子VD3Bにおいて制御部19Cの指示をDA変換器DA3を介して受けてさらに遅延され、クロックCK2に対してはπ/2遅れて、図7(a)のクロック源12Cの正弦波の位相5π/4において立上がる(d)のクロックCK3を発生する。
【0014】クロックCK4は可変遅延素子VD4Bにおいて制御部19Cの指示をDA変換器DA4を介して受けてさらに遅延され、クロックCK3に対してはπ/2遅れて、図7(a)のクロック源12Cの正弦波の位相7π/4において立上がる(e)のクロックCK4を発生する。
【0015】クロックCK1はサンプル・ホールド回路SH1,AD変換器AD1に、クロックCK2はサンプル・ホールド回路SH2,AD変換器AD2に、クロックCK3はサンプル・ホールド回路SH3,AD変換器AD3に、クロックCK4はサンプル・ホールド回路SH4,AD変換器AD4に印加される。図7(a)のクロック源12Cの正弦波はスイッチ14の端子aにも印加されており、スイッチ14が端子a側に接続されているときには、この正弦波はバッファ・アンプ15を介して各サンプル・ホールド回路SH1?SH4に印加されている。
【0016】そこで図7(a)の正弦波の各位相π/4,3π/4,5π/4,7π/4において、サンプル・ホールド回路SH1,AD変換器AD1,メモリM1を含む第1の組のデジタイザ、サンプル・ホールド回路SH2,AD変換器AD2,メモリM2を含む第2の組のデジタイザ、サンプル・ホールド回路SH3,AD変換器AD3,メモリM3を含む第3の組のデジタイザ、サンプル・ホールド回路SH4,AD変換器AD4,メモリM4を含む第4の組のデジタイザが動作するから、図7(a)の正弦波の波高値の0.707あるいは-0.707の振幅をデジタイズすることになる。
【0017】したがって、メモリM1?M4に格納されたデータの絶対値を制御部19Cが読出し、その値が0.707と異なる場合にはデジタイズのタイミングを変更して各デジタイザの出力の絶対値が所定値(0.707)になるようにしている。このようにして校正が完了すると、クロック源12Cの正弦波の周波数が、たとえば250MHz、すなわち周期Ts=4n sec のときには、正確に1n sec の周期(1000MHz)でインターリーブ・デジタイズが実行される。そこでスイッチ14は端子b側に切替えられて、入力端子10に印加された信号を1nsecの周期でデジタイズすることになる。」

イ 図6


ウ 図7


(5)甲3記載の事項
甲3には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0004】
図8は、2つのA/D変換回路を用いたインターリーブA/D変換装置の典型的な構成を示す図である。図9は、図8の回路の動作を説明するタイミング図である。第1のA/D変換回路11と第2のA/D変換回路12は、それぞれ180°位相のずれたクロック(CK1、CK2)をサンプリングクロックとして、入力信号をA/D変換する。各サンプリングクロック(CK1、CK2)の周波数(サンプリング周波数)は同じである。セレクタ(「ADC出力セレクタ」ともいう)10は、第1のA/D変換回路11と第2のA/D変換回路12の変換出力(デジタル信号)を切り替えて出力することで、クロック(CK1、CK2)の周波数の2倍のサンプリング周波数のA/D変換装置を実現している。
【0005】
図8では、第1のA/D変換回路11と第2のA/D変換回路12を並列に配置した例を示したが、並列に使用するA/D変換回路の個数をMとすると、所定のサンプリング周波数のA/D変換装置を実現する場合、並列配置された各A/D変換回路のサンプリング周波数を1/Mに緩和することができる。すなわち、低速A/D変換回路を複数個並列に配置し、多相クロックで駆動することで、高速なA/D変換装置を実現することができるため、A/D変換回路自体の設計が容易となる。」

イ 図8


ウ 図9


(6)甲4記載の事項
甲4には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換装置に関する。特に、複数の低速なA/D変換回路を予め決められた順序の繰り返しで並列動作させるアナログ-デジタル変換するタイムインターリーブ(時間インターリーブ)方式のA/D変換装置及びその校正に関する。」

イ 「【0017】
最初に、図1に示すようにA/D変換回路101?104はインターリーブ動作するA/D変換回路、A/D変換回路105は校正動作する冗長A/D変換回路として割り当てる。そして、インターリーブ動作するA/D変換回路101?104の入力信号スイッチ、出力信号スイッチ、クロックスイッチ及び調整信号スイッチは、それぞれ次のように接続する。入力信号スイッチ111?114は入力信号100側に接続する。出力信号スイッチ121?124はデジタル処理部200側に接続する。クロックスイッチ131?134は順に4相クロックのCLK1、CLK2、CLK3、CLK4側に接続する。調整信号スイッチ141?144は未接続としオープンとする。
【0018】
校正動作する冗長A/D変換回路として割り当てられたA/D変換回路105の入力信号スイッチ、出力信号スイッチ、クロックスイッチ及び調整信号スイッチは、それぞれ次のように接続する。入力信号スイッチ115は校正信号301側に接続する。出力信号スイッチ125は校正用制御回路400側に接続する。クロックスイッチ135は4相クロックのCLK1側に接続する。調整信号スイッチ145は校正用制御回路400からの調整出力165をA/D変換回路105に接続する。
【0019】
以上の各スイッチの接続によりA/D変換回路101?104は、入力信号100、デジタル処理部200に接続され、それぞれ位相が異なる4相のクロック(CLK1?CLK4)でインターリーブ動作する。4相のクロック(CLK1?CLK4)は、図2に示すように90度ずつ位相が異なるクロックを用いることができる。そして、各A/D変換出力151?154をデジタル処理部200にて束ねて、4つのA/D変換回路全体としてサンプリング周波数が4倍のタイムインターリーブA/D変換装置として動作させることができる。」

ウ 図1


ウ 図2


(7)甲5記載の事項
甲5には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0067】
(実施例1)
図5は本実施例のOCT装置を示す模式図である。図5において、501、502はそれぞれ波長掃引波長範囲の異なる波長掃引光源である。
【0068】
501として、波長選択機構として回転体を備えた光源であるポリゴンスキャナー方式(ポリゴンミラーを備えた)の波長掃引光源で、波長掃引波長が795nmから845nm、波長掃引速度25kHzの光源を用いた。
【0069】
502としては、同じくポリゴンスキャナー方式の波長掃引光源で、波長掃引波長が840nmから880nm、波長掃引速度25kHzの光源を用いた。
【0070】
光源501、502は光スイッチユニット103の入力ポートに接続する。光スイッチ103は2入力-1出力で切り替え速度100MHzのものを用いた。
【0071】
104、105は2入力-2出力、分岐比50対50の光カプラーである。106は入力-2出力、分岐比90対10の光カプラーで、参照側光学系107に多くの光量を分配するように接続してある。
【0072】
107は参照側光学系、108は測定側光学系である。
【0073】
光カプラー106、参照側光学系107、測定側光学系108でOCT信号取得用干渉計113を構成している。
【0074】
109は干渉信号を差動検出するための差動検出器である。ここで、差動検出器109には異なる2系列の干渉信号が光スイッチユニット103の切り替え周波数で切り替わって交互に入力されるので、前記切り替え周波数より高い応答周波数をもつ必要がある。
【0075】
正確に2系列の干渉信号を検出するためには、差動検出器109の高周波応答周波数は光スイッチ103の切り替え周波数の2倍以上あることが好ましい。
【0076】
本実施例では、後述するように光スイッチユニット103を51.2MHzで切り替えるので、差動検出器109はDCから200MHzの応答帯域を持つものを使用した。
【0077】
510、511はともにサンプリング速度50MHz、アナログ帯域DCから50MHzのAD変換器であり、コントローラ512によりインターリーブ動作する。513は差動検出器109の出力信号をAD変換器510、511に振り分ける切り替え器である。
【0078】
つまり、510、511、512が一体となり、デジタルサンプリング速度100MHzのAD変換器として機能する。
【0079】
ここで、インターリーブ動作とは、サンプリング速度50MHzのAD変換器501、502で交互にデータをサンプリングする事により100MHzのAD変換器として機能させる方式動作である。
【0080】
コントローラ512はこの動作を制御する回路である。
【0081】
本発明の装置では、異なる2系列の干渉信号を光スイッチ503の切り替えに同期して交互に差動検出器で検出する必要がある。
【0082】
このため、1台のAD変換器でAD変換を行うと、2系列の干渉信号のクロストークを避けるためには、AD変換器が光スイッチ503の切り替え周波数より早い周波数まで応答する必要がある。
【0083】
すなわち、広帯域なアナログ帯域を持つAD変換器が必要となり、このようなAD変換器は高価である。本実施例のように、2系列の干渉信号を系列ごとに専用のAD変換器でAD変換する構成にすると、前記系列間のクロストークは生じないため広帯域なアナログ帯域が不要となり、低コスト化に有利となる。
【0084】
111は信号処理装置であり、AD変換されたデジタルデータ列を波数順に並べ替え、波数リニアに補正し、逆フーリエ変換して断層情報を算出する処理を行う。
【0085】
514は光スイッチとAD変換動作を同期して実行するためのクロック装置である。クロック装置514から51.2MHzの切り替え信号を出力し、1掃引あたり2048点の干渉データを取得して断層像を得た。本実施例の装置により、高速、高深さ分解能、高SN、低コストなオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィ装置が構成出来る。」

イ 図5


(8)甲6?9記載の事項

甲6の段落【0019】、【0074】及び【0075】、甲7の段落【0025】、【0028】及び【0030】、甲8の段落【0025】及び【0045】、甲9の段落【0014】及び【0028】の記載を踏まえると、甲6?9はいずれにも、「フーリエ変換により得られた複数の断層画像を合成することにより新たな断層画像を生成すること」が記載されているといえる。

5.申立て理由1(進歩性)の判断
(1)本件特許発明1について

ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明の「光源として使用され、レーザー掃引範囲は108nmであ」る「100kHzの掃引反復レートの商用短共振器の1050nm波長の掃引レーザー」は、本件特許発明1の「波長が走査されてなる波長走査光を出力する波長走査光源」に相当する。

(イ)甲1発明の「前記掃引レーザーは、光クロック周波数2倍化手段に209-328MHzのクロック周波数を供給」する際に、「kクロック」として供給している。そして、当該「kクロック」とは、波長掃引の過程において、掃引レーザー光の波数が所定の等しい変化量(波数変化量Δk)だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号であることが本件出願時の技術常識である点に鑑みると、甲1発明の「前記掃引レーザー」は、「kクロック」を出力する手段を含むものといえるので、本件特許発明1の「前記波長の走査の過程において、前記波長走査光の波数が所定の変化量だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号を出力する波数等間隔クロック出力部」を含むものといえる。

(ウ)
a 甲1発明の「参照アームからの光」は、「波長の掃引レーザー」からの光であり、本件特許発明1の「波長走査光」に相当する。また、甲1発明の「80/20カプラで分離され、20%は患者インターフェースに送られ」だ後の「サンプルアーム」「からの光」は、本件特許発明1の「波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光」に相当する。そして、甲1発明の「サンプルアームおよび参照アームからの光」を「50/50カプラにより再合成」して得られる光は、干渉された光であるから、本件特許発明1の「干渉光」に相当する。

b 甲1発明の「DAQ」は、「当該レーザーにより供給されるkクロックを、前記光クロック周波数2倍化手段により電子的に2倍化し」た「kクロック」を用いて、上記aの干渉光の強度をサンプリングするサンプリング手段を含んでいることは、技術的に明らかである。

c よって、甲1発明の「DAQ」と、本件特許発明1の「前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部と、
前記干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部」とは、
「前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号を2倍化したタイミングでサンプリングするサンプリング部」である点で共通する。

(エ)上記(ウ)を踏まえると、甲1発明の「DAQ」は、前記サンプリング手段で取得されたサンプリングデータ列から、「標準のOCT手順を用いて、」「2つの偏光チャネルからの画像」を生成するもの、すなわち断層画像生成手段であるから、甲1発明の「DAQ」と、本件特許発明1の「前記第1サンプリング部で取得された第1サンプリングデータ列と、前記第2サンプリング部で取得された第2サンプリングデータ列と、の両方に基づいて断層画像データを生成する断層画像生成部」とは、「前記サンプリング部で取得されたサンプリングデータ列に基づいて断層画像データを生成する断層画像生成部」である点で共通する。

(オ)甲1発明の「PS-OCT」は、「Polarization sensitive optical coherence tomography」(甲1の第2931頁のAbstract:第1行を参照。)の略語であり、偏光感受光干渉断層撮影装置のことであるから、甲1発明の「波長の掃引レーザー」を「光源として使用」する「眼科PS-OCTシステム」は、本件特許発明1の「波長走査型光干渉断層撮影装置」に相当する。

イ 一致点、相違点
よって、本件特許発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の2点で相違する。

(一致点)
「波長が走査されてなる波長走査光を出力する波長走査光源と、
前記波長の走査の過程において、前記波長走査光の波数が所定の変化量だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号を出力する波数等間隔クロック出力部と、
前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号を2倍化したタイミングでサンプリングするサンプリング部と、
前記サンプリング部で取得されたサンプリングデータ列に基づいて断層画像データを生成する断層画像生成部と、
を備える波長走査型光干渉断層撮影装置。」

(相違点1)
サンプリング部に関して、
本件特許発明1は、「前記波長走査光と、当該波長走査光が撮影対象物にて反射してなる対象物反射光と、の干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部と、
前記干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部」であるのに対して、
甲1発明は、「当該レーザーにより供給されるkクロックを、前記光クロック周波数2倍化手段により電子的に2倍化し」た「kクロック」を用いて、干渉光の強度をサンプリングするサンプリング手段(DAQ)である点。

(相違点2)
断層画像生成部に関して、
本件特許発明1は、「前記第1サンプリング部で取得された第1サンプリングデータ列と、前記第2サンプリング部で取得された第2サンプリングデータ列と、の両方に基づいて断層画像データを生成する断層画像生成部」であるのに対して、
甲1発明は、前記サンプリング手段で取得されたサンプリングデータ列から、「標準のOCT手順を用いて、」「2つの偏光チャネルからの画像」を生成する断層画像生成手段(DAQ)である点。

ウ 判断
上記相違点1について検討する。

(ア)上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項、すなわち、「干渉光の強度を、」波長の走査の過程において、波長走査光の波数が所定の変化量だけ変化したタイミングで立ち上り及び立ち下りを交互に繰り返すクロック信号、いわゆるkクロック信号「の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部と、前記干渉光の強度を、前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部」については、甲2?甲4のいずれにも、以下a?cに説示するとおり、記載も示唆もされていない。

a 甲2には、上記4(4)の記載を踏まえると、インターリーブ・デジタイズ装置において、クロック源12Cの出力の正弦波における位相π/4、3π/4、5π/4において立上がるクロックCK1?CK4を発生させ、クロック源12Cの正弦波の周波数が、たとえば250MHz、すなわち周期Ts=4n sec のときには、正確に1n sec の周期(1000MHz)でインターリーブ・デジタイズが実行されることが開示されている。
そして、甲2で使用されるクロック信号は、一定周期(一定周波数)のクロック信号であって、甲2は、このような一定周期(一定周波数)のクロック信号が用いられることを前提に、インターリーブ・デジタイズが実行されるものであるから、そもそも、kクロック信号を用いてサンプリングするものではない。

b 甲3には、上記4(5)の記載を踏まえると、2つのA/D変換回路を用いたインターリーブA/D変換装置において、クロック(CK1、CK2)の周波数の2倍のサンプリング周波数のA/D変換装置を実現していることが開示されている。
そして、甲3で使用されるクロック信号は、一定周期(一定周波数)のクロック信号であって、甲3は、このような一定周期(一定周波数)のクロック信号が用いられることを前提に、インターリーブA/D変換が実行されるものであるから、そもそも、kクロック信号を用いてサンプリングするものではない。

c 甲4には、複数の低速なA/D変換回路を予め決められた順序の繰り返しで並列動作させるアナログ-デジタル変換するタイムインターリーブ(時間インターリーブ)方式のA/D変換装置において、A/D変換回路101?104は、入力信号100、デジタル処理部200に接続され、それぞれ位相が異なる4相のクロック(CLK1?CLK4)でインターリーブ動作し、各A/D変換出力151?154をデジタル処理部200にて束ねて、4つのA/D変換回路全体としてサンプリング周波数が4倍のタイムインターリーブA/D変換装置として動作させることができることが開示されている。
そして、甲4で使用されるクロック信号は、一定周期(一定周波数)のクロック信号であって、甲4は、このような一定周期(一定周波数)のクロック信号が用いられることを前提に、タイムインターリーブ(時間インターリーブ)方式のA/D変換が実行されるものであるから、そもそも、kクロック信号を用いてサンプリングするものではない。

(イ)上記(ア)で説示したとおり、甲2?4に記載されたタイムインターリーブA/D変換装置は、そもそも、kクロック信号を用いたサンプリングする技術とはいえない以上、甲1発明における「『当該レーザーにより供給されるkクロックを、前記光クロック周波数2倍化手段により電子的に2倍化し』た『kクロック』を用いて、干渉光の強度をサンプリングするサンプリング手段」の代替手段とはなり得ない。

(ウ)また、甲5?9のいずれにも、kクロック信号の立ち上りと立ち下りのタイミングでサンプリングする点について、記載も示唆もされていない。

(エ)以上のことから、甲1発明において、甲2?9に記載された技術事項に基づいて、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(オ)申立人による相違点1に係る理由について

a 申立人の主張
申立人の主張は、以下のとおりものである(特許異議申立書第15頁第20行?第23頁第1行)。

「甲第2号証の図7のCK1とCK3を参照すると、CK1の立ち下がりのタイミングは、CK3の立ち上がりのタイミングに対応し、同様に、CK2の立ち下がりのタイミングは、CK4の立ち上がりのタイミングに対応する。(第17頁第3?6行)
「甲第3号証の図9のS2(CK1)とS3(CK2)を参照すると、CK1の立ち下がりのタイミングは、CK2の立ち上がりのタイミングに対応する。」(第18頁第9?11行)
「甲第4号証の図2のCLK1?CLK4を参照すると、CLK1の立ち下がりのタイミングは、CLK3の立ち上がりのタイミングに対応し、同様に、CLK2の立ち下がりのタイミングは、CLK4の立ち上がりのタイミングに対応する。」(第20頁第16?18行)
「このように、甲第2号証ないし甲第4号証の記載から、本件特許発明1の構成Cにおける『前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部』と本件特許発明1の構成Dにおける『前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部』は、周知の技術であると認められる。」(第20頁第24行?第21頁第1行)
「甲第5号証には、波長掃引光源を有するOCT装置(「波長走査型光干渉断層撮影装置」)に対して、インクーリーブ動作を行うことが記載されていることからも、甲2?4には、波長走査型光干渉断層撮影装置に関する直接的な記載が無いとしても、それらと甲1発明とを組み合わせることに何ら困難性はないのである。」(第22頁第7?11行)

b 当審の見解
当審の見解を以下に示す。

(a)甲2?4に記載されたタイムインターリーブA/D変換装置は、位相が異なるクロック信号の立ち上がりのタイミングでA/D変換するA/D変換器を、入力信号に対して複数個並列に接続したものであるから、それぞれのA/D変換器には、異なる位相のクロック信号が入力されることになる。
ここで、「それぞれのA/D変換器」は、本件補正発明1の「第1サンプリング部」及び「第2サンプリング部」に対応するところ、本件補正発明1では、「第1サンプリング部」及び「第2サンプリング部」には、「前記クロック信号」、すなわち同じクロック信号が入力されることになるから、「本件特許発明1の構成Cにおける『前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部』と本件特許発明1の構成Dにおける『前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部』は、周知の技術である」という請求人の上記主張は、甲2?4の証拠から裏付けられていない。

(b)請求人は、甲2?4には、複数のクロック信号のうち1つのクロック信号だけに注目すると、1つのクロック信号の立ち上がりと立ち下がりのタイミングでA/D変換していると解釈できることを、上記周知技術の根拠としているが、仮に、このような解釈に立っても、「クロック信号の立ち上り及び立ち下がりのタイミングでサンプリングするサンプリング部」が周知技術であることを立証しているにすぎず、「本件特許発明1の構成Cにおける『前記クロック信号の立ち上りのタイミングでサンプリングする第1サンプリング部』と本件特許発明1の構成Dにおける『前記クロック信号の立ち下りのタイミングでサンプリングする第2サンプリング部』は、周知の技術である」という上記主張の根拠にはならない。

(c)甲第5号証には、波長掃引光源を有するOCT装置に対して、インクーリーブ動作を行うことが記載されていることから、甲1発明に甲2?4のタイムインターリーブA/D変換装置を組み合わせる阻害要因がないとしても、上記(a)及び(b)で説示したとおり、上記周知技術が甲2?4から導けないことから、甲1発明から出発して、そこに甲2?4を組み合わせても、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項の構成に到達しないことは明らかである。

(d)以上のことから、請求人の上記主張を採用することはできない。

(カ)小括
以上のとおりであるから、上記相違点2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2?9に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1の構成を全て含むものであるから、本件特許発明2及び3も、上記(1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(3)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1に対応する方法の発明(カテゴリ上に差異がある程度の発明)であるから、本件特許発明4も、上記(1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

6.申立て理由2(サポート要件)の判断

ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断基準

審査基準は、大合議判決(知財高判平17.11.11 平成17年(行ケ)10042号大合議判決 「偏光フィルムの製造方法」)を受けたものであり、次のように記載されている。

(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討してなされる。

(2) 審査官は、この対比、検討に当たって、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について検討する。

(3)審査官によるこの実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べることによりなされる。請求項に係る発明が、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないことになる。審査官は、発明の課題を、原則として、発明の詳細な説明の記載から把握する。

イ 判断

上記アで説示したように、発明の課題は、原則として、発明の詳細な説明の記載から把握するものであって、必ずしも、明細書の特定の欄に記載されていなければならない、というものではない(知財高裁平成23年(行ケ)10235号判決)。
この点を踏まえて具体的に検討すると、
本件特許発明3に係る発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の第2の実施形態(段落【0045】?【0061】)の記載から、「スペックルノイズの低減」を含むことが把握できる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の第2の実施形態(段落【0045】?【0061】)には、「スペックルノイズの低減」という課題を解決するために、離散フーリエ変換処理を経て得た第1中間データと離散フーリエ変換処理を経て得た第2中間データの両方に対して加算平均処理を行い断層画像データを生成することが記載されている。
以上のことから、本件特許発明3に係る発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明から、上記のとおり把握でき、その課題を解決するための手段が本件特許発明3の構成に反映されていると認められる。
よって、本件特許発明3において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっているとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。

7.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-31 
出願番号 特願2015-122155(P2015-122155)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G01N)
P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小野寺 麻美子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼見 重雄
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5987186号(P5987186)
権利者 学校法人北里研究所
発明の名称 波長走査型光干渉断層撮影装置及び断層撮影方法  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 飯田 雅人  

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