• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許  A01N
審判 全部無効 2項進歩性  A01N
管理番号 1329368
審判番号 無効2016-800025  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-19 
確定日 2017-05-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4177719号発明「防蟻用組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4177719号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1?14〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成15年6月24日(優先権主張 平成14年6月28日)に、齋藤信夫(以下「齋藤氏」という。)を出願人として、名称を「防蟻用組成物」とする発明について特許出願(特願2003-179339号)がされ、平成20年8月29日に、特許第4177719号として設定登録がなされた(請求項の数7。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」といい、特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。その後、平成21年11月9日に、この特許権が齋藤氏から株式会社エコパウダー(以下「被請求人」という。)に移転された。

本件特許について、利害関係人であるアーテック工房株式会社(以下「請求人」という。)から、本件無効審判の請求がなされた。その手続きの経緯は以下のとおりである。

平成28年 2月19日 審判請求書・甲第1?45号証提出(請求人)
同年 5月13日 審判事件答弁書・乙第1?31号証提出(被請求 人)
同日 訂正請求書(被請求人)
同年 6月28日 弁駁書・甲第46?52号証提出(請求人)
同年 7月21日 補正許否の決定
同日 審尋
同年 8月22日 回答書・上申書(請求人)
同年 8月23日 審判事件答弁書(2)・乙第32?36号証提出 (被請求人)
同年 9月30日 審理事項通知書
同年10月14日 上申書(被請求人)
同年11月 1日 上申書・乙第37?47号証提出(被請求人)
同年11月 2日 上申書・甲第53?63号証の2提出(請求人)
同年11月16日 口頭審理陳述要領書・甲第64号証提出(請求人 )
同日 口頭審理陳述要領書・乙第48?53号証提出( 被請求人)
同年11月30日 口頭審理
同年12月14日 上申書・甲第64号証?甲第64号証の9再提出 、甲第65号証提出(請求人)
同日 上申書(2)・乙第17号証再提出、乙第54? 61号証提出(被請求人)
同年12月28日 上申書(請求人)
同日 上申書(3)・乙第62号証提出(被請求人)
平成29年 2月27日 審理終結通知

第2 訂正の可否についての当審の判断
1 訂正の内容
被請求人は、審判長が審判請求書の副本を送達し、被請求人が答弁書を提出するために指定した期間内である平成28年5月13日に訂正請求書を提出して、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件の特許請求の範囲の請求項1である「植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。」を、
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、
前記ホウ酸類の含有量は1?40質量%であることを特徴とする防蟻用組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件の特許請求の範囲の請求項3である、「被膜形成性ポリマーが、アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである請求項1又は2記載の防蟻用組成物。」を、
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、被膜形成性ポリマーが、アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである防蟻用組成物。」に訂正する。

(4)訂正事項4
本件特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
本件特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
本件特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(8)訂正事項8
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項8を加入する。
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、水溶性多糖類と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。」

(9)訂正事項9
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項9を加入する。
「水溶性多糖類が、でんぷん又はセルロースエーテルである請求項8記載の防蟻用組成物。」

(10)訂正事項10
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項10を加入する。
「セルロースエーテルが、メチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項9記載の防蟻用組成物。」

(11)訂正事項11
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項11を加入する。
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、ポリアミド樹脂と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。」

(12)訂正事項12
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項10を加入する。
「ポリアミド樹脂が、非晶性でエタノール可溶性のポリアミドである請求項11記載の防蟻用組成物。」

(13)訂正事項13
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項13を加入する。
「炭が、白炭又は白炭と黒炭の混合物である請求項1、3、8乃至12のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。」

(14)訂正事項14
本件特許請求の範囲に、新たに下記請求項14を加入する。
「さらに、シリカを配合することを特徴とする請求項1、3、8乃至13のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。」

2 判断
上記訂正事項の適否について検討する。

(1)一群の請求項について
訂正事項1?14に係る訂正前の請求項1?7について、請求項2?7はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、特許法施行規則第45条の4に該当するので、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、」を加入する訂正(以下「訂正事項1-1」という。)と、「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」を「被膜形成性ポリマーエマルジョン」とした訂正(以下「訂正事項1-2」という。)と、「前記ホウ酸類の含有量は1?40質量%である」ことを加入する訂正(以下「訂正事項1-3」という。)である。
以下、訂正事項1-1?1-3について、それぞれを検討する。

ア 訂正の目的について
訂正事項1-1は、防蟻用組成物の用途を「塗膜形成用」に限定する訂正である。
訂正事項1-2は、防蟻用組成物の「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」とした成分を、「被膜形成性ポリマーエマルジョン」に限定する訂正である。
訂正事項1-3は、防蟻用組成物中のホウ酸類の含有量を「1?40質量%」と限定する訂正である。
したがって、訂正事項1-1?1-3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記アで述べたとおり、訂正事項1-1?1-3は、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
訂正事項1-1について、願書に添付した明細書の段落【0014】には、「本発明においては、植物由来の炭粉末を主成分とした被膜形成性ポリマー、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂含有組成物がホウ酸類を保持して木材等の表面に塗膜を形成する。」ことが記載され、防蟻用組成物が塗膜形成用であることが示されているといえるから、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
訂正事項1-2は、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
訂正事項1-3について、願書に添付した明細書の段落【0045】には、「ホウ酸類の含有量は防蟻用組成物中1?40質量%が好ましく」と記載されているから、訂正事項1-3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
したがって、訂正事項1-1?1-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項2、4?7について
ア 訂正の目的について
訂正事項2、4?7は、訂正前の請求項2、4?7を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更、新規事項の追加について
上記アで述べたとおり、訂正事項2、4?7は、請求項2、4?7を削除する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当せず、また、新規事項の追加に当たらないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとする訂正(以下「訂正事項3-1」という。)と、訂正前の請求項1において、「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、」を加入する訂正(以下「訂正事項3-2」という。)と、訂正前の請求項3が請求項1の記載を引用しないものとする訂正に伴い、訂正前の請求項1が選択肢としていた「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」を「被膜形成性ポリマーエマルジョン」とした訂正(以下「訂正事項3-3」という。)である。
以下、訂正事項3-1?3-3について、それぞれを検討する。

ア 訂正の目的について
訂正事項3-1は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であり、特許法第134の2第1項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正に該当する。
訂正事項3-2は、防蟻用組成物の用途を「塗膜形成用」に限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項3-3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1を引用した上で「被膜形成性ポリマーがアクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである」としていた記載を、他の請求項の記載を引用しないものとする訂正事項3-1に伴い、訂正前の請求項1に記載された「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」となるところ、「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」は「ポリマーエマルジョン」であって、「水溶性多糖類及びポリアミド樹脂」でないことから、「被膜形成性ポリマーエマルジョン」に限定することで技術的に整合させて明瞭とする訂正であり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
したがって、訂正事項3-1?3-3は、特許法第134条の2第1項ただし書に掲げる目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3-1は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であり、特許請求の範囲の内容は同じであるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかである。
訂正事項3-2は、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかである。
訂正事項3-3は、請求項の記載を技術的に明瞭にした訂正であるから、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかである。
したがって、訂正事項3-1?3-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
訂正事項3-1は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であるから、新規事項の追加に当たらないことは明らかである。
訂正事項3-2は、訂正事項1-1と同じ訂正であり、上記(2)ウで述べた理由と同じ理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
訂正事項3-3について、願書に添付した明細書の段落【0029】には、「本発明における被膜形成性ポリマーエマルジョンに分散されているポリマーは被膜形成性のポリマーであ」ることが記載され、具体例として、同【0030】には、アクリル系ポリマーが記載され、同【0031】には、酢酸ビニル系ポリマーが記載されているから、訂正事項3-3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
したがって、訂正事項3-1?3-3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項1において、「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、」を加入する訂正(以下「訂正事項8-1」という。)と、「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」を「水溶性多糖類」をとした訂正(以下「訂正事項8-2」という。)であり、そして、新たに請求項8とした訂正である。
以下、訂正事項8-1?8-2について、それぞれを検討する。

ア 訂正の目的について
訂正事項8-1は、防蟻用組成物の用途を「塗膜形成用」に限定する訂正である。
訂正事項8-2は、防蟻用組成物の「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」とした成分を、「水溶性多糖類」に限定する訂正である。
なお、訂正後の請求項8は、新たに追加されたものであるが、上述のとおり、訂正前の請求項1において、「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」という、構成要件が択一的なものとして記載された発明特定事項が存在したところ、この発明特定事項を、訂正後の請求項1を「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、訂正後の請求項8を「水溶性多糖類」、訂正後の請求項11を「ポリアミド樹脂」にそれぞれ限定して複数の請求項としたものであって、訂正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものを、それぞれ独立の請求項とすることにより、請求項の数が増加する場合に当たるから、実質的に新たな請求項を追加するものとはいえず、請求項8を追加する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる(平成19年(行ケ)第10335号、平成23年(行ケ)第10226号参照)
そして、請求項9?14を追加する訂正も、後述するように、訂正前の請求項が実質的に複数の請求項を含むものを、それぞれ独立の請求項とすることにより、請求項の数が増加することになった場合に当たるから、実質的に新たな請求項を追加するものとはいえず、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
したがって、訂正事項8-1?8-2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項8-1?8-2は、上記アで述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
訂正事項8-1は、訂正事項1-1と同じ訂正事項であり、上記(2)ウで述べた理由と同じ理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
訂正事項8-2は、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
したがって、訂正事項8-1?8-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(6)訂正事項9について
訂正事項9に係る訂正後の請求項9の記載内容は、訂正前の請求項4と同じであるが、訂正前の請求項4が削除され、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用していたところ、訂正前の請求項1が選択肢としていた「水溶性多糖類」に限定した訂正後の請求項8を引用する、新たな請求項9とした訂正である。

ア 訂正の目的について
訂正事項9により追加された請求項9は、その内容は訂正前の請求項4と同じであるが、上記(5)アで述べたように、請求項9が引用する請求項8における訂正事項8が特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、訂正事項9も特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記(5)イで述べたように、請求項9が引用する請求項8における訂正事項8が、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、訂正事項9も実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
上記(5)ウで述べたように、請求項9が引用する請求項8における訂正事項8が、新規事項の追加に当たらないのであるから、訂正事項9も新規事項の追加に当たらず、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(7)訂正事項10について
訂正事項10に係る訂正後の請求項10の記載内容は、訂正前の請求項5と同じであるが、訂正前の請求項5が削除され、訂正前の請求項5が訂正前の請求項4を引用していたところ、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1の選択肢の「水溶性多糖類」に限定した訂正後の請求項9とする訂正に伴い、引用する請求項を、訂正後の請求項9として新たに請求項10とした訂正である。

ア 訂正の目的について
訂正事項10により追加された請求項10は、その内容は訂正前の請求項5と同じであるが、上記(6)アで述べたように、引用する請求項9における訂正事項9が特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、訂正事項10も特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記(6)イで述べたように、請求項10が引用する請求項9における訂正事項9が、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、訂正事項10も実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
上記(6)ウで述べたように、請求項10が引用する請求項9における訂正事項9が、新規事項の追加に当たらないのであるから、訂正事項10も新規事項の追加に当たらず、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(8)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項1において、「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、」を加入する訂正(以下「訂正事項11-1」という。)と、訂正前の請求項1が選択肢としていた「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」を「ポリアミド樹脂」とした訂正(以下「訂正事項11-2」という。)であり、そして、新たに請求項11とした訂正である。
以下、訂正事項11-1?11-2について、それぞれを検討する。

ア 訂正の目的について
訂正事項11-1は、防蟻用組成物の用途を「塗膜形成用」に限定する訂正である。
訂正事項11-2は、防蟻用組成物の「被膜形成性ポリマーエマルジョン、水溶性多糖類及びポリアミド樹脂からなる群から選ばれた1種又は2種以上」とした成分を、「ポリアミド樹脂」に限定する訂正である。
したがって、訂正事項11-1?11-2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項11-1?11-2は、上記アで述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
訂正事項11-1は、訂正事項1-1と同じ訂正事項であり、上記(2)ウで述べた理由と同じ理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
訂正事項11-2は、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえる。
したがって、訂正事項11-1?11-2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(9)訂正事項12について
訂正事項12に係る訂正後の請求項12の記載内容は、訂正前の請求項6と同じであるが、訂正前の請求項6が削除され、訂正前の請求項6が訂正前の請求項1を引用していたところ、訂正前の請求項1が選択肢としていた「ポリアミド樹脂」に限定した訂正後の請求項11を引用する、新たな請求項12とした訂正である。

ア 訂正の目的について
訂正事項12により追加された請求項12は、その内容は訂正前の請求項6と同じであるが、上記(8)アで述べたように、引用する請求項11における訂正事項11が特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるから、訂正事項12も特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記(8)イで述べたように、請求項12が引用する請求項11における訂正事項11が、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、訂正事項12も実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
上記(8)ウで述べたように、請求項12が引用する請求項11における訂正事項11が、新規事項の追加に当たらないのであるから、訂正事項12も新規事項の追加に当たらず、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(10)訂正事項13について
訂正事項13に係る訂正後の請求項13の記載内容は、訂正前の請求項2と同じであるが、訂正前の請求項2が削除され、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用していたところ、訂正前の請求項1が、上述のとおり、それぞれ訂正後の請求項1、3、8及び11に限定して独立請求項となり、それらの請求項を更に訂正前の請求項4?6で限定して訂正後の請求項9、10、12としたことに伴い、引用する請求項を、訂正後の請求項1、3、8乃至12のいずれか一項として新たに請求項13とした訂正である。

ア 訂正の目的について
訂正事項13により追加された請求項13は、その内容は訂正前の請求項2と同じであるが、訂正事項13により訂正された請求項13が引用する請求項1、3、8乃至12における訂正事項1、3、8?12は、上記(2)ア、(4)ア?(9)アで述べたように特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、訂正事項13も特許法第134条の2第1項ただし書第1及び3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記(2)イ、(4)イ?(9)イで述べたように、請求項13が引用する請求項1、3、8乃至12における訂正事項1、3、8?12が、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、訂正事項13も実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
上記(2)ウ、(4)ウ?(9)ウで述べたように、請求項13が引用する請求項1、3、8乃至12における訂正事項1、3、8乃至12が、新規事項の追加に当たらないのであるから、訂正事項13も新規事項の追加に当たらず、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(11)訂正事項14について
訂正事項14に係る訂正後の請求項14の記載内容は、訂正前の請求項7と同じであるが、訂正前の請求項7が削除され、訂正前の請求項7が訂正前の請求項1乃至6を引用していたところ、訂正前の請求項1が、上述のとおり、それぞれ訂正後の請求項1、3、8及び11に限定して独立請求項となり、それらの請求項を更に訂正前の請求項2、4?6で限定して訂正後の請求項9、10、12、13としたことに伴い、引用する請求項を、訂正後の請求項1、3、8乃至13のいずれか一項として新たに請求項14とした訂正である。

ア 訂正の目的について
訂正事項14により追加された請求項14は、その内容は訂正前の請求項7と同じであるが、上記(2)ア、(4)ア?(10)アで述べたように、請求項14が引用する請求項1、3、8乃至13における訂正事項1、3、8?13が、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、訂正事項14も特許法第134条の2第1項ただし書第1及び3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
上記(2)イ、(4)イ?(10)イで述べたように、請求項14が引用する請求項1、3、8乃至13における訂正事項1、3、8?13が、実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるから、訂正事項14も実質上特許請求の範囲の拡張・変更に該当しないことは明らかであるといえ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
上記(2)ウ、(4)ウ?(10)ウで述べたように、請求項14が引用する請求項1、3、8乃至13における訂正事項1、3、8乃至13が、新規事項の追加に当たらないのであるから、訂正事項14も新規事項の追加に当たらず、明らかに願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたといえるので、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項、第3項の規定に適合し、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1、3、8?14に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明8」?「本件発明14」といい、合わせて「本件発明」ともいう。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、3、8?14に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、
前記ホウ酸類の含有量は1?40質量%であることを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項3】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、
被膜形成性ポリマーが、アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである防蟻用組成物。
【請求項8】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、水溶性多糖類と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項9】
水溶性多糖類が、でんぷん又はセルロースエーテルである請求項8記載の防蟻用組成物。
【請求項10】
セルロースエーテルが、メチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項9記載の防蟻用組成物。
【請求項11】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、ポリアミド樹脂と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項12】
ポリアミド樹脂が、非晶性でエタノール可溶性のポリアミドである請求項11記載の防蟻用組成物。
【請求項13】
炭が、白炭又は白炭と黒炭の混合物である請求項1、3、8乃至12のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。
【請求項14】
さらに、シリカを配合することを特徴とする請求項1、3、8乃至13のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。」

第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書、弁駁書、平成28年11月2日付け上申書、口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は、「特許第4177719号の請求項1?7に係る発明の特許を無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であったところ(審判請求書第3頁「6.請求の趣旨」)、上記「第2」で述べたように、本件訂正が認められたことに伴い、請求人が主張する請求の趣旨は、「特許第4177719号の訂正後の請求項1、3、8?14に係る発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認められる。(第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)

そして、請求人が主張する無効理由は、本件訂正を踏まえると、概略以下のとおりである。
(審判請求書第79頁第16行?第93頁第10行、弁駁書第25頁第9行?第102頁第10行、補正許否の決定、審理事項通知書「第1 2(4)、(5)」、平成28年11月2日付け上申書第2頁第20行?第34頁第11行、口頭審理陳述要領書第2頁第17行?第10頁第17行、第1回口頭審理調書「請求人 2」を参照)
なお、請求人は、無効理由1?3を取り下げ、被請求人は、無効理由1?3の取り下げに同意した。(第1回口頭審理調書「請求人 3」、「被請求人 3」を参照)

(1)無効理由4
本件発明1、3、8?14は、本件優先日前に頒布された甲第46号証(主引用例)及び甲第1、2、5、47?50号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1、3、8?14の特許が特許法第29条に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由5
本件発明は、その特許が発明者でない者であって、その発明について特許を受ける権利を継承しないものの特許出願に対して特許されたものであるから、平成23年法律第63号改正附則第2条第9項によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第123条第1項第6号(以下「改正前の特許法第123条第1項第6号」という。)に該当し無効とされるべきものである。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書とともに提出した証拠方法
甲第1号証 特開平1-295948号公報
甲第2号証 特開平8-143401号公報
甲第3号証 特開2000-26218号公報
甲第4号証 高沸点アクリル系樹脂原料による木材へのホウ酸固定化(I)、林産試験場報、第12巻、第6号、第16?18頁、1998年
甲第5号証 特開平11-29742号公報
甲第6号証 特開2001-294506号公報
甲第7号証 特開平6-107510号公報
甲第8号証 特開2003-267802号公報
甲第9号証 特開2003-137711号公報
甲第10号証 特開平5-339114号公報
甲第11号証 特開2005-336271号公報
甲第12号証 試験成績書、独立行政法人森林総合研究所理事長、平成14年4月16日
甲第13号証 特約店販売基本契約書、製造元:アーテック工房株式会社、特約店販売元:株式会社日榮住宅建設、平成11年7月15日
甲第14号証 特約店販売基本契約書の付属協定書、製造元:アーテック工房株式会社、特約店:株式会社エコパウダー、株式会社日榮住宅建設、平成12年6月14日
甲第15号証 ヘルスコキュアー特約店販売契約書、販売(製造元):アーテック工房株式会社、買主(特約店):株式会社エコパウダー、平成13年7月15日
甲第16号証 特開平10-67965号公報
甲第17号証 特開平10-110136号公報
甲第18号証 試験成績書、農林水産省森林総合研究所長、平成10年5月26日
甲第19号証 熊本における最大6年間の野外防蟻試験結果、鈴木憲太郎著、第51回日本木材学会大会 研究発表要旨集、日本木材学会、第407頁、2001年4月2日?4日
甲第20号証 各種木材保存処理材について最大7年の野外耐蟻性試験結果、鈴木憲太郎著、第52回日本木材学会大会 研究発表要旨集、日本木材学会、第399頁、2002年4月2日?4日
甲第21号証 ホウ酸処理木材の表面燃焼性および耐火性、林産試験場報、第13巻、第2号、第8?14頁、1999年
甲第22号証 研究課題 接着剤混入法による高耐久性木質材料の製造システムの開発、科学研究費助成事業データベースのウエブページ、2015年12月14日(印刷日)(https://kaken.nii.ac.jp/d/p/08556028.ja.html)
甲第23号証 特集『木材に関する質問と回答(その1)』-木材保存-、林産試だより、2001年10月号、第2?16頁、2001年
甲第24号証 再表01-097965号の書誌事項、請求項1?81についての特許情報プラットフォームのウエブページ、2015年8月19日(印刷日)(https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM301_Detailed.action)
甲第25号証 特開2000-189031号公報の書誌事項、要約、請求項1についての科学技術総合リンクセンターのウエブページ、2015年8月19日(印刷日)(http://jglobal.jst.go.jp/detail.php?JGLOBAL_ID=200903062406357237)
甲第26号証 「新商品販売のお知らせ」と題する書面、アーテック工房株 式会社、平成13年7月9日、
「新商品販売開始のお知らせ」と題する書面、アーテック工 房株式会社、平成13年7月15日
甲第27号証 「特約店販売の実績について」と題する書面、アーテック工房株式会社、平成13年12月13日
甲第28号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社への商品 注文書、平成13年9月3日、
アーテック工房株式会社から株式会社エコパウダーへの請求 書、平成13年9月22日
甲第29号証 請求人製品の販売開始を知らせる通知書、アーテック工房株式会社、平成13年8月
甲第30号証 性能受託試験証明書、社団法人日本木材保存協会、平成13年8月9日
甲第31号証 ヘルスコキュアーの防蟻効力試験結果、東京農業大学林産化学研究室、平成13年9月21日
甲第32号証の1 国際公開第03/005826号
甲第32号証の2 米国特許第6995199号(甲第32号証の1のファミリー)
甲第32号証の3 中国特許1233242号の第1頁、抄訳文(甲第32号証の1のファミリー)
甲第33号証 鈴木憲太郎氏からアーテック工房株式会社の末武譲氏への電子メール、2002年2月6日
甲第34号証 ヘルスコ・キュアーのカタログ、アーテック工房株式会社、平成14年5月
甲第35号証 「ヘルスコ・キュアー「カタログ・4つ折」の見本送付」と題する書面、アーテック工房株式会社、平成14年6月5日
甲第36号証の1 アーテック工房株式会社が株式会社ビーインターナショナルから購入したホウ酸の受領書、アーテック工房株式会社、2002年5月16日
甲第36号証の2 アーテック工房株式会社が株式会社山三商事から購入したホウ酸の納品書兼請求書、株式会社山三商事、2002年6月20日
甲第37号証 アーテック工房株式会社が有限会社山峰燃料から購入したタールの請求書、有限会社山峰燃料、平成14年5月13日
甲第38号証 アーテック工房株式会社が昭栄薬品株式会社から購入したウルトラゾールH-40の請求書、昭栄薬品株式会社、2002年6月30日
甲第39号証 アーテック工房株式会社がエンセキ通商株式会社から購入したアピザスAP-DSの請求書、エンセキ通商株式会社、2002年4月30日
甲第40号証 アーテック工房株式会社が株式会社三峡から購入した備長炭パウダーの請求書、株式会社三峡、平成14年4月24日
甲第41号証 記録ノート(甲第41号証には、表題が記されていないため、「記録ノート」と表記した。)、末武譲、2002年6月4日?2002年11月2日
甲第42号証 「試験」と表題が記されたノート、末武譲、2001年10月23日?2003年4月5日
甲第43号証 「実験」と表題が記されたノート、末武譲、2003年1月17日?2003年8月15日
甲第44号証 特許第4177719号の原簿
甲第45号証 特許第4177719号の特許公報

(2)弁駁書とともに提出した証拠方法
甲第46号証 特開平3-200701号公報
甲第47号証 特開平7-279271号公報
甲第48号証 特開2002-121497号公報
甲第49号証 特開平1-318071号公報
甲第50号証 特開平10-265508号公報
甲第51号証 防蟻防腐用液状活性触媒炭 ヘルスコ・キュアーの製品マニュアル、第31、36、37頁、アーテック工房株式会社、平成15年2月
甲第52号証 齊藤信夫氏からアーテック工房株式会社へ送った通知書、平成21年8月21日

(3)平成28年11月2日付け上申書とともに提出した証拠方法
甲第53号証 「活性炭の原料」を記載した株式会社クラレのウエブページ
、平成28年10月24日(印刷日)(http://www.kuraray-c.co.jp/activecarbon/about/03.html)
甲第54号証 「活性炭の種類と用途」を記載した満栄工業株式会社のウエブページ、平成28年10月24日(印刷日)(http://www.man-ei.co.jp/about/02.html)
甲第55号証 「活性炭とは?」を記載したフタムラ化学株式会社のウエブページ、平成28年10月24日(印刷日)(http://www.futamura.co.jp/activated_carbon/carbon01.html)
甲第56号証 特開昭50-99870号公報
甲第57号証 甲第41号証の末武譲と氏名を記載した付箋紙が貼られた頁 甲第41号証の第9、12、16、17、23、26、30 、34頁
甲第42号証の第8、11頁
(頁数については、いずれも表紙を除いた頁数で表す。)
甲第58号証の1 アーテック工房株式会社 末武譲氏の名刺
甲第58号証の2 アーテック工房株式会社 末武譲氏の名刺
甲第59号証 営業日報(2002年7月1日?5日、26日、27日、8月8日?11日、9月2日、6日?10日、24日、25日、10月25日、26日、2001年11月24日、2002年5月23日、2002年10月16日)、アーテック工房株式会社
甲第60号証 スケジュール帳(7月1日?7日、22日?28日、8月5日?11日、9月2日?8日、23日?29日、10月21日?27日)、末武譲氏
甲第61号証 末武譲氏の筆跡を示す資料、末武譲、平成28年10月29日
甲第62号証 株式会社山三商事の森下晋朗氏から末武氏への電子メール、 2001年12月6日、
東洋インキ製造株式会社の浜坂光雄氏から末武氏へのファク シミリ、平成14年12月17日、
東洋インキ製造株式会社の浜坂氏から末武氏へ送付された技 術報告書、平成14年12月13日、
美濃顔料化学株式会社の石崎氏から末武氏へ送付された資料 、平成14年12月16日、
森林総合研究所の鈴木憲太郎氏から末武譲氏へ送付された電 子メール、2002年2月6日
甲第63号証の1 スケジュール帳(12月9日?15日)、末武譲氏
甲第63号証の2 営業日報(2002年12月12日?14日)、アーテック工房株式会社

(4)口頭審理陳述要領書とともに提出した証拠方法
甲第64号証 取引先に提出した請求人の製品に関する防蟻効力試験の報告書、末武譲

(5)平成28年12月14日付け上申書とともに提出した証拠方法
甲第64号証(再提出) 甲第64号証の1?9をまとめた冊子の表紙「積水ハウス(株)防蟻効力試験」、アーテック工房株式会社
甲第64号証の1 土壌処理用防蟻剤等の防蟻効力野外試験報告書、末武譲
甲第64号証の2 忌避性能試験、末武譲、平成14年4月8日
甲第64号証の3 白蟻隙間貫通試験報告書、末武譲、平成14年8月1日
甲第64号証の4 白蟻隙間通過試験報告書、末武譲
甲第64号証の5 白蟻昇降試験報告書、末武譲
甲第64号証の6 貫通防止性能試験(1)、末武譲、平成13年10月21日
甲第64号証の7 貫通防止性能試験(2)、末武譲、平成13年10月16日
甲第64号証の8 試験報告書、日本応用化学工業株式会社、平成12年10月4日
甲第64号証の9 防腐効力試験、小林智紀、平成14年10月1日
甲第65号証 陳述書、末武譲、平成28年12月9日

3 証拠の認否について
被請求人は、甲第41?43号証は、作成者の署名又は押印がないので、作成者が明らかではなく、真正に成立した文書とはいえないので、成立を否認すると主張する。(口頭審理陳述要領書の第21頁第22行?第23頁下から4行、第1回調書「被請求人 5」)

一方、請求人は、平成28年11月2日付け上申書の第29頁第12?25行、第30頁第7?15行において、甲第41号証の第2頁(甲第57号証の第1頁)には、末武譲氏(以下「末武氏」という。)の自筆で「末武譲」と記載した付箋が貼り付けてあること、甲第61号証には、末武氏が自筆した自身の氏名、数字が記載され、甲第61号証の筆跡が甲第41?43号証の筆跡と同じであることを主張する。また、平成28年12月14日付け上申書の第2頁第7?15行において、末武氏が単独で記載したことを記した陳述書(甲第65号証)を提出して、甲第41?43号証の作成者は末武氏であることを主張する。

そこで、甲第41?43号証が真正に成立した文書であるかについて検討する。

ここで、甲第41?43号証をみてみると、作成者とされる末武氏又は代理人の署名又は押印はない。確かに、甲第41号証の第2頁に、「末武譲」と記載された付箋が貼り付けられているものの、付箋は後から貼り付けることができるので、甲第41号証の第2頁にある付箋のみからは、甲第41号証に末武氏の署名があるとはいえない。
しかしながら、甲第65号証において、末武氏が甲第41?43号証は、末武氏自身が単独で記載したことを陳述しており、また、末武氏の筆跡を示すために提出された甲第61号証に記載された末武氏の自筆の数字や原料名の筆跡と、甲第41号証の第6?8頁(甲第41?43号証の頁数については、表紙を除いた頁数で表す。以下同じである。)、甲第42号証の第4?6頁、甲第43号証の第10頁に記載された数字や原料名の筆跡を比較すると、筆跡がよく似ていること、甲第41?43号証の作成者が末武氏ではないと合理的に疑わせる証拠がないことからすれば、甲第41?43号証の作成者は、末武氏であるとしても矛盾はないから、甲第41?43号証は一応真正に成立したものとして、以下、その内容を検討する。

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 答弁の趣旨並びにその主張
被請求人が主張する答弁の趣旨は、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書第2頁「6 答弁の趣旨」、第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。

そして、被請求人は請求人が主張する上記無効理由4及び5は、審判事件答弁書、審判事件答弁書(2)、平成28年11月1日付け上申書、口頭審理陳述要領書、平成28年12月14日付け上申書(2)、平成28年12月28日付け上申書(3)において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人が提出した証拠方法
(1)審判事件答弁書とともに提出した証拠方法
乙第1号証 「シロアリ処理」を記載した株式会社アイジーコンサルティングのウエブページ、2016年4月1日(印刷日)(http://www.e-igc.jp/lasting/termite.php)
乙第2号証 特願2003-179339号の拒絶理由に対する意見書、齊藤信夫氏、平成20年6月16日
乙第3号証 アーテック工房株式会社から東京アルパ特許事務所へのファクシミリ、平成21年10月8日
乙第4号証 報告書、株式会社住化分析センター、2009年11月30日
乙第5号証 特許業務法人東京アルパ特許事務所、アーテック工房株式会社、株式会社カーボマックスジャパンから齊藤信夫氏への回答書、平成21年12月4日
乙第6号証 防蟻防腐用液状活性触媒炭 ヘルスコ・キュアーの冊子、アーテック工房株式会社、平成15年2月
乙第7号証の1 株式会社エコパウダーが早川商事株式会社から購入した硼酸の納品書、早川商事株式会社、2005年12月8日
乙第7号証の2 株式会社エコパウダーが早川商事株式会社から購入した硼酸の納品書、早川商事株式会社、2006年6月8日
乙第8号証 ヘルスコ・キュアーのカタログ、アーテック工房株式会社、平成14年5月
乙第9号証 鉱石を英訳するとmineralであることを記載した株式会社アルクのウエブページ、平成28年2月15日(印刷日)
乙第10号証 ヘルスコートシリーズに関するアーテック工房株式会社のウエブページ、2015年8月31日(印刷日)(http://www.healthcoat.com/healthcoat_index.html)
乙第11号証の1 株式会社エコパウダーの商品紹介を記載した株式会社エコパウダーのウエブページ、2015年6月9日(印刷日)(http://ecopowder.com/products/)
乙第11号証の2 株式会社エコパウダーの商品「エコパウダーBX」の紹介を記載した株式会社エコパウダーのウエブページ、2015年6月9日(印刷日)(http://ecopowder.com/products/shiroari/ecopowderbx/ecopowderbx1.html)
乙第12号証 エコボロンより安価なホウ酸系防蟻剤を記載したウエブページ、2015年8月31日(印刷日)(http://エコボロン.seesaa.net/article/415301741.html)
乙第13号証 製品名ヘルスコ・キュアーの製品安全データシート、アーテック工房株式会社、平成20年5月1日
乙第14号証 シロアリ対策を記載した株式会社幸健ホームウエブページ、2016年2月4日(印刷日)(http://www.koukenhome.jp/termite/page/2)
乙第15号証 荒川民雄氏から齊藤信夫氏へのホウ酸がシロアリの生態を狂わせることに関する電子メール、2016年1月18日
乙第16号証の1 特開2001-79981号公報
乙第16号証の2 特開平10-252146号公報
乙第16号証の3 特開2003-119428号公報
乙第16号証の4 特開2003-268290号公報
乙第17号証 ホウ酸で長寿命住宅をつくろう、岩月淳著、株式会社ココロ 2013年8月1日 第1刷発行、第90?103頁、奥付の頁
乙第18号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社に送った通知書、平成14年4月15日
乙第19号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社に送った通知書、平成14年4月22日
乙第20号証 アーテック工房株式会社から株式会社エコパウダーに送った回答書、平成14年2月22日
乙第21号証 写真、株式会社エコパウダー、平成10年1月15日
乙第22号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社に送った通知書、平成14年4月11日
乙第23号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社に送ったファクシミリ、平成14年2月16日
乙第24号証 株式会社エコパウダーからアーテック工房株式会社に送った解約通知書、平成14年5月1日
乙第25号証 シロアリに対する本件発明の実験の写真、株式会社エコパウダー、平成14年5月17日及び平成14年6月3日
乙第26号証の1 乙第26号証の2の電子ファイルのプロパティ、株式会社エコパウダー、平成14年4月12日
乙第26号証の2 「炭の力(防蟻専用)開発の経緯について」と題する書面、株式会社エコパウダー
乙第27号証 ヘルスコート 概要を記載したウエブページ、株式会社ビルドイースト、2016年2月15日(印刷日)(http://build-east.com/health.html)
乙第28号証 特許第3133962号公報
乙第29号証 ヘルスコ・キュアーのカタログ、アーテック工房株式会社、平成14年5月
乙第30号証 広辞苑第五版「沸石」の項 新村出編 株式会社岩波書店、1998年11月11日
乙第31号証 林産試験場報 第12巻(1998年)の発行月を示したウエブページ、2016年2月15日(印刷日)(http://www.fpri.hro.or.jp/gijutsujoho/kanko/joho1998.htm)

(2)平成28年8月23日付け審判事件答弁書(2)とともに提出された証拠方法
乙第32号証 特開2000-228574号公報
乙第33号証 化学大辞典第1版第5刷 「アクリル樹脂」の項、大木道則他3名編、株式会社東京化学同人 1998年6月1日発行
乙第34号証 特開昭63-196503号公報
乙第35号証 JIS A 9302、及びJIS A 9112の改正について、松岡昭四郎著 木材保存 Vol.15-6 1989年
乙第36号証 国際公開第03-005826号のパテントファミリー情報を表示したNRIサイバーパテントデスクのウエブページ、2016年6月1日(印刷日)(https://www.nri-cyberpatent.co.jp/nri/familylist)

(3)平成28年11月1日付け上申書とともに提出された証拠方法
乙第37号証 陳述書、齊藤信夫氏、平成28年10月3日
乙第38号証 写真、株式会社エコパウダー、平成14年4月19日
乙第39号証 写真、株式会社エコパウダー、平成14年4月28日
乙第40号証 陳述書、今村祐嗣氏、平成28年10月6日
乙第41号証 今村氏との打ち合わせ日時を示すメモ、浅葉健介氏、平成14年4月16日
乙第42号証 硼酸塩処理材に対する地下棲息性シロアリの行動、しろあり、公益社団法人日本しろあり対策協会 2016.1、No.165 第11?15頁
乙第43号証 今村祐嗣氏のプロフィール、平成28年10月21日
乙第44号証 JIS K 1571:2010、財団法人日本規格協会、平成22年9月21日発行
乙第45号証 炭の力の試作 処方内容を示したメモ、株式会社エコパウダー、平成14年4月23日
乙第46号証 写真、株式会社エコパウダー、
乙第47号証 京都大学 木質科学研究所 教授 今村祐嗣氏の名刺

(4)口頭審理陳述要領書とともに提出された証拠方法
乙第48号証 エコパウダー シロアリを防ぐ天然塗料に関する新聞記事、日刊工業新聞、2003年3月27日
乙第49号証 化管法に基づくSDS制度について、厚生労働省、平成28年11月12日
乙第50号証 エコパウダーBXの化学物質等安全データシート、株式会社エコパウダー、2004年4月1日
乙第51号証 活性炭を記載したブリタニカ国際大百科事典 小項目辞典の解説を示したコトバンクのウエブページ、2016年11月14日(印刷日)(https://kotobank.jp/word/%E6%B4%BB%E6%80%A7%E7%82%AD-45263)
乙第52号証 活性炭の種類を記載した株式会社クラレのウエブページ
、平成28年11月14日(印刷日)(http://www.kuraray-c.co.jp/activecarbon/about/04.html)
乙第53号証 広辞苑第四版「屑」の項、新村出編 株式会社岩波書店、1991年11月15日発行

(5)平成28年12月14日付け上申書(2)とともに提出された証拠方法
乙第54号証 対比実験記録、齊藤信夫氏、平成20年5月18日、平成20年5月20日
乙第55号証 対比実験記録、齊藤信夫氏、平成20年5月20日
乙第56号証 乙第55号証の電子ファイルのプロパティ、株式会社エコパウダー、2008年5月20日
乙第57号証 Tree’s REPORT PADの表紙
乙第58号証の1 Tree’s REPORT PADは現在お取り扱いできないことを示したアマゾンのウエブページ、2016年12月8日(印刷日)(https://www.amazon.co.jp/プラス-レポートパッド6号-A罫50枚-RE-005A-76-512-/dp/B001P0716A)
乙第58号証の2 Tree’s REPORT PADは販売終了したことを示したウエブページ、2016年12月8日(印刷日)(http://murauchi.com/MCJ-front-web/CoD/0000002520886)
乙第59号証 特願2003-179339号の期間延長請求書、株式会社エコパウダー、平成20年5月12日
乙第60号証 陳述書、齋藤信夫氏、平成28年12月13日
乙第61号証 経歴書、齋藤信夫氏、平成28年12月12日
乙第17号証(再提出) ホウ酸で長寿命住宅をつくろう、岩月淳著、株式会社ココロ 2013年8月1日 第1刷発行、第90?103頁、第262?263頁、奥付の頁

(6)平成28年12月28日付け上申書(3)とともに提出された証拠方法
乙第62号証 平成27年(ワ)第16829号の被告準備書面(3)の第1頁、第9頁、アーテック工房株式会社、平成28年4月8日

第6 無効理由についての当審の判断
当審は、上記無効理由4については理由がないものと判断する。また、無効理由5については、不適法な無効審判の請求であると判断し、仮にそうでないとしても、理由がないものと判断する。その理由は以下に示すとおりである。

1 無効理由4
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第46号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第46号証には、以下の事項が記載されている。
(46a)「2.特許請求の範囲
1.アクリル酸エステル系重合体水性エマルジョンと無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を水に溶解させたA液とを混合することを特徴とする防蟻・防虫・防腐剤組成物。
・・・
4.無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤がほう酸とほう砂の混合物であることを特徴とする請求項1、2および3の防蟻・防虫・防腐剤組成物。」(特許請求の範囲の請求項1、請求項4)

(46b)「3.発明の詳細な説明
〔産業上の利用分野〕
この発明は防蟻・防虫・防腐剤組成物に関するものである。
そして、特に建築物の白蟻の駆除及び/又は予防(予蟻)のために木材や土壌を処理する用途に使用し、長期間防蟻・防虫・防腐効果が持続し、しかも人畜への危険、不快臭、地下水汚染が少なく、かつ使用方法が簡便である乳剤タイプの防蟻・防虫・防腐剤組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第6?14行)

(46c)「〔作用〕
請求項1の発明の防蟻・防虫・防腐剤組成物において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤は調製時加温されて高濃度に溶解したままアクリル酸エステル系重合体水性エマルジョン中に溶解又は分散するので、防蟻・防虫・防腐効果が大きくなり、人畜に対する危害及び臭気が殆どなく、施工後水分が蒸発したとき、アクリル酸エステル系重合体の連続被膜に包まれて水に溶けがたくなり、長期間効力を維持するとともに地下水を汚染しない。」(第3頁左下欄第15行?同頁右下欄第4行)

(46d)「〔実施例〕
この発明において、アクリル酸エステル系共重合体水性エマルジョンは、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を高濃度で溶解または分散し、低温での析出を防ぎ、施工後水が蒸発した状態では連続被膜を形成して、防蟻・防虫・防腐剤を木部、土壌面に密着させ、水による溶脱を防ぐ。
・・・
無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤は耐久遅効性であって、有機化合物系防蟻・防虫・防腐剤と比較して防蟻効果を得るには高濃度を必要とし、かつ白蟻を死滅させるのに長時間を必要とするが、分解しがたく長期間防蟻・防虫効果を持続するので予防剤としてはきわめて有用である。そして有機化合物系防蟻・防虫剤に乏しい防腐効果を備えている。」(第4頁左上欄第3行?右上欄第5行)

(46e)「実施例1
モビニール DM765 10kg
(商品名、ヘキスト合成株式会社製、アクリル酸エステル-スチレン共重合体、濃度約50%)に攪拌しつつ
水 8kg
を添加し、粘度を適当に調節した後、
ネオゲン 1kg
ノイゲンEA 80 1kg
(どちらも商品名、第一工業製薬株式会社製、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)を添加して攪拌を続け均一な稀釈液とする。
水 50kg
を約65℃に加温し、攪拌しつつ、
ほう酸 15kg
ほう砂 15kg
を添加し完全に溶解させてA液とする。
ついで前記希釈液を攪拌しつつ徐々にA液を添加し、均一に混合分散させて防蟻・防虫・防腐剤組成物とする。
前記希釈液にA液を添加中、混合液の液温を40?50℃に調節する必要がある。
かくして得た組成物は建築現場において、3倍に水で稀釈し、木部用、土壌用、白蟻駆除用、白蟻予防用の用途に使用する。あるいは他の有機非塩素系防蟻・防虫剤の乳剤と混用してもよい。
なお、この組成物は調製後12ケ月以上保存しても変質せず、きわめて安定であった。
気温が0℃以下になる冬期の場合は、一部ほう酸、ほう砂の沈澱が析出することがあるが、加温攪拌すれば安定な元の状態に復元する故実用上差支えない。」(第6頁右上欄第4行?同頁左下欄第16行)

(46f)「防腐効果
JISA9302に従い、実施例1?5の組成物をそれぞれ所定倍率に水で稀釈し、杉辺材に所定塗布量を塗布し、防腐効力値を求めた。その数値を第3表に示す。この数値よりこの発明の防蟻・防虫・防腐剤組成物にはすぐれた防腐効果があることがわかる。

注、対照とは防腐処理をせずに同1条件下で処理したもの
」(第8頁左下欄第9行?右下欄)

イ 甲第47号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第47号証には、以下の事項が記載されている。
(47a)「【請求項1】 防蟻資材(P) を収容する装置本体(1) と、該装置本体(1) を建造物の基礎構造体側面の地上面、もしくは基礎構造体側面の地上部分の中間高さ位置に支持する支持手段(2) とよりなり、さらに上記装置本体(1) の少なくとも地面に対向する面を、白蟻の通過が可能な程度の網目粗さの網状体(11)で構成したことを特徴とする建造物の防蟻装置。
【請求項2】 上記防蟻資材(P) が、繊維質材料、ガラス繊維、ガラス粒、小石、砂、プラスチック粒、アルミニウム顆粒、セラミックス粒、モミ殻、活性炭、木炭屑のうちより選択される1種もしくは2種以上の原料で構成される担体(P1)に、白蟻防除の薬効成分を含浸、付着、もしくは混入してなる請求項1に記載の建造物の防蟻装置。」

(47b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建造物の基礎構造体回りに配置され、該建造物への白蟻の侵入を阻止すると同時に床下からの湿気、腐食・腐朽菌の侵入を防止するようにした建造物の防蟻装置に関するものである。」

(47c)「【0012】
【作用】上記の構成によれば、建造物に食害をもたらさんとして基礎構造体の地中部分の側面を伝って這い上がって来る白蟻は、必然的に地上面もしくは地上面から所定の中間高さに設置された装置本体1の網状体11の網目を通じて防蟻資材Pに接触する。」

(47d)「【0014】このうち、特に繊維質材料、ガラス繊維で担体P1を構成した場合には、該担体P1の一部が上記網状体11の網目より垂下・突出して、白蟻との接触面積が拡大される。また、活性炭、木炭屑で担体P1を構成した場合には、該担体P1が基礎構造体側面を通じて伝い上がって来る床下地面からの水分を吸収し建造物の腐食を防止する作用を奏する。
【0015】尚、上記白蟻防除の薬効成分は接触毒性を有するものに限定されず、例えばホウ酸等の喫食毒性やあるいは白蟻体内の水分を吸収する吸水性高分子材料を用いることができる。」

(47e)「【0024】さらに上記防蟻資材Pは繊維質材料(いわゆる「ホウ酸入りファイバー」)を担体P1として用い、ホウ酸を含浸させている。このような構成の防蟻資材P自体は格別新規なものではなく、従来より防蟻効果を発揮する床下断熱材として使用されていたものであるが、この実施例で採用することにより、後述するような格別の作用・効果を奏することとなる。」

(47f)「【0025】上記のような構成によれば、建造物に食害をもたらさんとして基礎構造体Fの側面を伝って這い上がって来る白蟻は、その経路途中に設置された装置本体1下面の網状体11の網目を通じて防蟻資材Pに接触することになり、これによって白蟻の侵入を阻止することになる。」

(47g)「【0027】しかも、上記防蟻資材P1は地表から所定の高さ位置において支持されることになるので、地表からの水分による薬効成分の散逸が起こりにくいとともに、上記白蟻防除に有効に採用する装置本体1の下面には床下から落下した塵埃の落下による堆積することがないので、長期間にわたって白蟻の防除機能を維持することができる。」

(47h)「【0035】さらに上記担体P1に活性炭を混入しているので、地面からの湿気を活性炭が吸収するように、建造物の床下(例えば大引や根太)に水が侵入することを抑制できる効果を奏するとともに、さらに上記α-ピネンによる針葉樹特有の芳香が上方の居住空間に拡散し、居住者に対して安らぎ感を与え、かつ土中の腐食・腐朽菌の殺菌作用を奏し、上記防腐機能を保障するという付加価値をも提供することができる。」

(47i)「【0036】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、基礎構造体の側面を伝って這い上がって来る白蟻を、装置本体の地面に対向する面、すなわち網状体より露出する防蟻資材によって防除するようにしているので、床下より落下する塵埃によって防除機能が阻害されることがないので、その薬効を長期間にわたって維持することができる効果がある。
【0037】しかも上記防蟻資材の担体を繊維状物質で構成すると、該担体が網状体の網目より垂下して防蟻に有効な面積が拡大されるので確実な防蟻機能が保障されることになり、活性炭、木炭屑で担体を構成すると地面からの湿気を吸収することができ、大引や根太等の建造物の下部の腐食を抑制する効果がある。」

ウ 甲第48号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第48号証には、以下の事項が記載されている。
(48a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エマルジョン系樹脂をバインダーとして、グラファイトシリカと炭粉を配合してそれぞれの物理的乃至物埋化学的特性を発揮させる塗装材。
【請求項2】 グラファイトシリカがブラック珪岩である請求項1記載の塗装材。
【請求項3】 エマルジョンポリエステル100部に対し、ブラック珪岩粉末約40?60部、炭粉末約80?100部を配合して成る請求項1又は2記載の塗装材の製造方法。」

(48b)「【0002】
【従来の技術】これまでに、木炭粉末の吸湿性、吸放臭性、防虫性、マイナスイオン効果などに着目して、これを有機溶剤系樹脂に配合した塗料組成物が提案されている(特願平11-29742)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、木炭粉末の特性にとどまらず、常温域で高遠赤外線を放射するグラファイトシリカに着目し、さらには大気汚染物質の分解除去作用を有する光触媒酸化チタンに着目し、エマルジョン系樹脂をバインダーとして配合することにより、取扱い安全で環境にやさしく、分散性、経時安定性、塗膜性に優れた塗装材と、その製造方法を提供する。」

(48c)「【0009】又、備長炭等の木炭は、周知のように、吸湿性、吸放臭性、防虫性、マイナスイオン効果などが顕著である。」

(48d)「【0011】ブラック珪岩は、先第三系黒色硬質泥岩類中の断層破砕部に産出し、炭素含有率数%の黒色物の通称で、二酸化珪素を主成分とする。その物理的特異性として、常温にして高放射率の中間赤外線(波長4μm?14μmの生育光線)を放射し、その生育光線波長域の電磁波は、生体に様々な好影響をもたらし、水のクラスター(重合)を切断したり、植物・種子中の低分子物質の重合を切断したり、不飽和脂肪酸の二重結合を切断したりすることが、最近の研究成果で明らかにされ、さらにサルモネラ菌、赤痢菌、チフス菌等の病原菌や、アンモニア、ホルムアルデヒト、硫化水素等の気体を吸収・分解することも確認されている。」

エ 甲第49号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第49号証には、以下の事項が記載されている。
(49a)「2.特許請求の範囲
1.合成樹脂、ホウ素化合物およびグリコールエーテル系有機溶媒からなる殺虫・抗菌塗料。
2.合成樹脂はエチルセルローズ、酢酸ビニル樹脂、アクリル系樹脂およびウレタン樹脂より選ばれる1種である請求項1記載の殺虫・抗菌塗料。
3.ホウ素化合物はオルトホウ酸である請求項1記載の殺虫・抗菌塗料。」

(49b)「本発明は、ダニ、白アリ類に対する殺虫性およびカビ、白せん菌類に対する抗菌性などの薬効を具備した合成樹脂塗料およびその製造方法ならびにその応用品に関するものである。」(第2頁左上欄第9?12行)

(49c)「一方、本発明の合成樹脂エマルジョンおよびホウ素化合物からなる殺虫・抗菌塗料は、合成樹脂エマルジョンにホウ素化合物、特にオルトホウ酸を混合して均一に分散させて塗料化することによって製造することができる。使用する合成樹脂エマルジョンの固形分濃度は塗料としての塗布性、オルトホウ酸を固定して長期間薬効を維持させるなどの点において30?60重量%とするのが好適である。また、塗料としての粘度を調整する目的で増粘剤、例えばポリエステル系増粘剤などを少量混合してもよい、塗料に含まれるオルトホウ酸の量は5?20重量%で充分効果が発現される。而して、オルトホウ酸の量は前述の合成樹脂の場合と同様に抗菌塗料としての使用においては殺虫塗料としての使用に比して少量で効果が発現される。」(第5頁左上欄第17行?右上欄第12行)

オ 甲第50号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第50号証には、以下の事項が記載されている。
(50a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 CH_(2)=CH-、-CH=CH-、CH_(2)=C(CH_(3))-、-CH_(2)=N-、-CH=N-、NH=CH-、NH=N-、及び/または-N=N-を構造部分に有する有機化合物、ホウ素含有化合物、及び重合触媒を同時にまたは相前後させて多孔質物品に含浸及び/または塗布し、前記有機化合物を、ホウ素含有化合物存在下で重合触媒により多孔質物品中及び/または多孔質物品表面で重合することを特徴とする多孔質物品の処理方法。
・・・
【請求項24】 多孔質物品が金属焼結体、鋳造品、合金、ダイカスト品、セラミックス、レンガ、コンクリート、木材、木片、木粉、木質加工材、モミ殻、藺草、藁、竹材、皮、布、不繊布、繊維、活性炭、もしくは合成樹脂の発泡体である請求項1?23のいずれかに記載の多孔質物品の処理方法。」

(50b)「【0003】
【従来の技術】従来、木材などの多孔質物品に抗菌性や防虫性を付与する目的で、銅、亜鉛、ニッケル、ヒ素、あるいはフッ素の塩などの添加が実施されている。しかしながらこれらの物質を多量に使用することによる環境への影響、人体への毒性が問題とされている。一方、ホウ酸、ホウ砂などのホウ素含有化合物は、前記の化合物に比べ安全性が高く、また、耐性菌の出現が困難であること、無色・無臭であること、白蟻、ダニ、ゴキブリなどに対する殺虫性も併せ持つことなどの利点を有し、長年にわたって様々な分野で使用されてきた。
【0004】しかしながら、ホウ素含有化合物と木材、繊維などの多孔質物品との反応性が低いため、多孔質物品にホウ素含有化合物を含浸あるいは塗布した処理物から、雨水などにより容易にホウ素含有化合物が溶出し、その結果、防腐・防虫効果が減少するという欠点を有する。・・・」

(50c)「【0066】本発明において、多孔質物品に塗布あるいは含浸して使用されるホウ酸(オルトホウ酸)、メタホウ酸、四ホウ酸、八ホウ酸などのホウ素含有化合物、及びこれらのアルカリ金属塩、その他金属塩、錯体などのホウ素含有化合物の処理液中の濃度は、0.01?50%、好ましくは0.1 ?20%である。」

カ 甲第1号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「2.特許請求の範囲
1.家屋の床下土壌面に、防腐防虫防蟻薬剤を活性炭に吸着せしめてなる防腐防虫防蟻薬剤組成物を、撒布することを特徴とする家屋の防湿防腐防虫防蟻処理方法。
2.家屋の床下土壌面に、防腐防虫防蟻薬剤をカプセル中に包含せしめたカプセル化物を活性炭に吸着せしめてなる防腐防虫防蟻薬剤組成物を、撒布することを特徴とする家屋の防湿防腐防虫防蟻処理方法。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)

(1b)「本発明に使用される活性炭は、木材やヤシの実のカラなどの各種のものを原料としたもので良く、粉末活性炭でも造粒活性炭でも良い。活性炭の内部は著しく多孔質であり、防腐防虫防蟻剤に対して強力な吸着能をもつ。
本発明では各種の防腐防虫防蟻剤(以下単に薬剤ということもある)を使用することができる。
ここに例示すると、有機リン系化合物、ドリン剤、ピレスロイド系化合物、有機塩素化合物、ほう素化合物、ふっ素化合物等の防虫剤、JIS K1550に規定する1種、2種、3種のフェノール類、無機ふつ化物系木材防腐剤、JIS K1554に規定する1号、2号、クロム、銅、ひ素化合物系木材防腐剤、JIS K2439に規定するクレオソート油等がある。これら薬剤は水等に溶解し、あるいはそのまま液剤の形で用いられる。」(第2頁左下欄第19行?同頁右下欄第15行)

(1c)「本発明によれば、活性炭に上記薬剤を吸着させることにより防湿、防腐、防虫、防蟻効果を兼備させることができ、本発明では薬剤は吸着能の強力な活性炭に吸着されているので薬剤の流出が極めて少なく環境衛生が保全され、また、薬剤が活性炭に吸着されているので作業者の安全が保たれ、然も、当該吸着物を撒布すれば良く、シートの切断やつなぐなどの手間がいらず、作業が簡単である。」(第3頁右上欄第10?18行)

(1d)「本発明で上記薬剤に、アルカリで分解されやすい例えば有機リン系の薬剤を用いる場合、活性炭は一般にアルカリ性であるので、分解されるおそれがある。
そこで、本発明では活性炭を用いるための上記対策として、薬剤をカプセル中に包含せしめ、これを活性炭に吸着せしめるようにした。
これにより上記アルカリ分解に対する対策を施せるばかりでなく、アルカリで分解されやすい薬剤の分解が抑止され、しかも、長期間にわたり少しずつ薬剤をカプセルより発散させるので、薬効の持続性が良好になる。
当該カプセルの例としては、ゼラチン、ポリウレタン、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、卵アルブミン、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エチルセルロース、スチレン-ブタジエン共重体、酢酸ビニル-エチレン共重体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、ビニルエステル、メタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、塩素化天然ゴム、セルロース誘導体などが挙げられる。」(第3頁右上欄第19行?同頁左下欄第20行)


キ 甲第2号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 白アリ防除剤を吸着せしめた活性炭、ゼオチイト、シリカゲル及び活性アルミナからなる群より選ばれた一種または二種以上の吸着剤を、エマルジョンに分散せしめてなる白アリ防除用塗布剤。」

(2b)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は家屋に使用されている白アリ防除用の木材含浸剤或いは塗布剤の防除効果持続期間が、家屋の寿命に較べて著しく短い点と現存家屋の木材等に白アリ防除剤を再含浸させる処理工事が容易でない点に注目してその改善方法について研究した。防除効果が消失する最も大きな原因は防除剤が低いながらも蒸気圧を有しその揮発性に基づく蒸発である点に注目し、防除剤を特定の吸着剤に吸着させて保持することにより、蒸気圧を抑制すれば効果の持続期間が延長出来ることを見出した。更に防除剤を吸着させた吸着剤をエマルジョン中に分散させて塗布することにより、現存家屋の木材等にも容易に適用できる方法についても研究して本発明に到達した。」

(2c)「【0021】また、本発明に使用されるシリカゲルは、ケイ酸コロイド溶液を凝固させて製造された吸着剤である。主成分は二酸化ケイ素で細孔構造を有し、90?500 m^(2)/gの比表面積を持ち、そのファンデルワールス力によって高い吸着性を示す。その細孔容積は0.3ml/g 以上が好ましく、粒度、形状は粒径が小さな粒子或いは粉末状が好ましい。」

ク 甲第5号証
本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】 ポリアミド樹脂塗料に木炭粉末が配合されていることを特徴とする、塗料組成物。
【請求項2】 ポリアミド樹脂がε-カプロラクタムと、ヘキサメチレンジアミンと、アジピン酸と、セバシン酸とを重合原料として得られる共重合ナイロン、又はε-カプロラクタムと、ヘキサメチレンジアミンと、アジピン酸と、セバシン酸と、ω-ラウロラクタムと、ω-アミノドデカン酸とを原料として得られる共重合ナイロンであることを特徴とする、請求項1に記載の塗料組成物。
・・・
【請求項4】 溶剤がエタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ラウリルアルコール、ダイアセトン、シクロヘキサノール及びトリエタノールアミンから選択された少なくとも 1 種類のものであることを特徴とする、請求項1に記載の塗料組成物。」

(5b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題乃至発明の目的】
・・・
【0004】処で、木炭は周囲の湿度が高くなると吸湿し、湿度が低くなると排湿し、基本的には湿分を平均で約 55% 程度に保つ、いわゆる調湿作用を有することが知られている。
【0005】更に、木炭は固形燃料としての用途の他に従来からカビ、ダニ、シロアリの発生を防ぐと言った防黴・防虫作用及びアンモニア、ホルムアルテヒド等の不快臭を吸着するといった脱臭作用を有することが知られており、・・・
【0008】木炭は本来微細な多孔質の形態を有しているため、微粉化することが比較的容易であり、10 - 30μm の微粉末を得ることができる。この木炭粉末を含有する塗料を調製するために各種の樹脂、溶剤及びビヒクル等と混合し、塗料としての実用性を調べる試験を行ったが、本来木炭は溶剤等に対する溶解性を有していないために、いずれも良好な結果を得ることはできなかった。即ち、種々の溶剤系塗料及び水系塗料に木炭粉末を配合することを試みたが、撹拌工程において均一に拡散しなかったり、実際の塗装工程において色ムラが生じる等の課題を生じ、実際に使用し得るに足る塗料を調製することができなかったのである。
【0009】従って、本発明は木炭粉末を含有し、且つ木炭がその特性を発揮し得る建築用塗料組成物を提供することを目的とする。」

(5c)「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者等は木炭が有している上述の有利な特性を生かした建築用塗料組成物を提供するため更に鋭意検討を重ねた結果、前記の課題を解決し、本発明を完成するに至った。
【0011】即ち、本発明者等は木炭粉末をナイロン樹脂塗料に配合することにより、木炭を塗料に均一に混合することが可能となり、塗布後も色ムラの生じない塗料を調製することができることを見出したのである。更に、木炭粉末を適当な比率で配合したナイロン樹脂塗料組成物は、ナイロン樹脂の特性と木炭の特性とを併せ有していることが判明したのである。」

(5d)「【0013】本発明による塗料組成物において、ナイロン樹脂とはポリアミド樹脂がε-カプロラクタムと、ヘキサメチレンジアミンと、アジピン酸と、セバシン酸とを重合原料として得られる共重合ナイロン、又はε-カプロラクタムと、ヘキサメチレンジアミンと、アジピン酸と、セバシン酸と、ω-ラウロラクタムと、ω-アミノドデカン酸とを原料として得られる共重合ナイロンであることができる。」

(5e)「【0014】本発明による塗料組成物において、木炭の占める割合は重量において 1% - 50% であることができる。上記ナイロン樹脂塗料に配合する木炭において、白炭と木炭の配合比は任意に設定することができる。即ち、白炭は空気の浄化作用及び電磁波除去作用において特に優れており、一方黒炭は調湿作用、抗菌作用、防虫作用に特に優れているので、これらを考慮に入れて白炭と黒炭の配合比を設定するのである。」

(5f)「【0015】溶剤は、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、ベンジルアルコール、ラウリルアルコール、ダイアセトン、シクロヘキサノール又はトリエタノールアミン或いはこれらの混合物であることができる。
【0016】本発明による塗料組成物において、ナイロン樹脂として上記の共重合タイプのナイロン樹脂が選択された理由は、一般に、結晶性を弱めたナイロン樹脂の共通の性質として水溶性乃至アルコール可溶性を有しており、これらの特性が木炭との親和性、包合性及び接着性を向上させるからである。」

(5g)「【0019】
【実施例等】次に、試験例及び実施例により本発明を更に詳細に且つ具体的に説明する。
試験例1 (塗料の検討)
ナイロン樹脂を主成分とする塗料 (低融点型及び高融点型、ナイロン 6、66、12 を含有) 或いは種々の汎用塗料に 30μm に粉砕した木炭粉末 (白炭 : 黒炭= 5 : 5) を塗料に対して 20% 混合し、供試塗料とした。その塗料における木炭の分散や色ムラの状態を調べた後、スレート板及び木板材に、80mm×100mm の面積に刷毛にて 2 回塗布し、仕上がり状態を検討した。結果は下記の表1に示されている通りであり、ナイロン樹脂を主成分とした塗料に木炭を配合しても色ムラ等の問題はなく、仕上がりも良好であったのに対し、アクリル樹脂を主成分とした塗料に木炭を混合すると分散状態が悪く、仕上がり状態も塗料として使用に耐え得るものではなかった。
【0020】
【表1】

混合結果に関して 仕上がり結果に関して
×:不良(分離有り) ×:不良(色ムラ有り)
△:やや不良 △:やや不良
○:良好 ○:良好


(2)甲第46号証に記載された発明
甲第46号証の特許請求の範囲の請求項1には、「アクリル酸エステル系重合体水性エマルジョンと無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を水に溶解させたA液とを混合することを特徴とする防蟻・防虫・防腐剤組成物。」が記載され(摘記(46a))、その具体例である実施例1では、アクリル酸エステル系重合体水性エマルジョンとして、アクリル酸エステル-スチレン共重合体が用いることが記載されている(摘記(46e))。また、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤の成分としてのほう酸及びほう砂の配合量は、組成物全重量100kgに対してそれぞれ15kgであることが記載されている(摘記(46e))から、ほう酸及びほう砂の配合割合はそれぞれ15重量%であるといえる。更に、実施例1の組成物を杉辺材に塗布することも記載されている(摘記(46f))。
以上のことから、甲第46号証には、
「アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンと無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤としてほう酸を15重量%、ほう砂を15重量%水に溶解させたA液とを混合する杉辺材に塗布するための防蟻・防虫・防腐剤組成物」の発明(以下「甲46発明」という。)が記載されていると認める。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲46発明とを対比する。
甲46発明の「アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョン」は、本件発明1の「ポリマーエマルジョン」であることは明らかである。そして、甲第46号証には、このエマルジョンが被膜形成性であると明記されているわけではないが、アクリル酸エステル系共重合体水性エマルジョンは、施工後水が蒸発した状態で連続被膜を形成して防蟻・防虫・防腐剤を木部に密着させることが記載されていることからみて(摘記(46d))、甲46発明のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンは、明らかに被膜形成性のエマルジョンであるといえる。また、甲46発明の杉辺材に塗布する防蟻・防虫・防腐剤組成物は、塗膜が形成されることは明らかであるから、甲46発明の「防蟻・防虫・防腐剤組成物」は塗膜形成用であるといえ、本件発明1の「塗膜形成用の防蟻用組成物」に相当する。本件発明1のホウ酸類とは、本件特許明細書の段落【0045】には、ホウ酸又はホウ酸塩と記載され、特にホウ酸ナトリウムが好ましいと記載されている。一方、甲46発明のほう砂は、理想的な組成はNa_(2)B_(4)O_(7)・10H_(2)Oで表され、ホウ酸ナトリウムに相当する化合物であるといえ、また、甲46発明のほう酸は明らかに本件発明1のホウ酸類に相当する。そして、甲46発明のほう酸の配合割合は15重量%であり、ほう砂の配合割合も15重量%であり、ほう砂が全てホウ酸塩に相当するとしても、併せて最大で30重量%の含有量を有するから、甲46発明の「ほう酸を15重量%、ほう砂を15重量%」含むことは、本件発明1の「ホウ酸類の含有量は1?40重量%である」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、前記ホウ酸類の含有量が1?40重量%であることを特徴とする防蟻用組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-46-1)本件発明1では、防蟻用組成物中に「植物由来の炭粉末」を含有しているのに対し、甲46発明では、植物由来の炭粉末を含有していない点

(イ)相違点についての検討
この相違点1-46-1について、以下の甲第47号証、甲第1号証、甲第48号証との組み合わせについて、それぞれ検討する。

a 甲第47号証との組合せについての検討
甲第46号証には、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤組成物に関し、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤をアクリル酸エステル系重合体水性エマルジョン中に溶解又は分散させ、これを木材に塗布すると、アクリル酸エステル系重合体が連続被膜を形成して無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が木部に密着し、水による溶脱を防止し、長期間効力を維持するという効果が記載されており(摘記(46b)(46c)(46d)参照)、当業者であれば、無機ホウ素系防蟻・防虫・防腐剤はアクリル酸エステル系重合体による連続被膜によりすでに保持されているため、水による溶脱を防ぐことができ、長期間効果が維持されていると解せるので、甲第46号証をみても、さらに無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題が存在するとは認識できない。

次に、甲第47号証をみると、その特許請求の範囲の請求項1に、「防蟻資材(P) を収容する装置本体(1) と、該装置本体(1) を建造物の基礎構造体側面の地上面、もしくは基礎構造体側面の地上部分の中間高さ位置に支持する支持手段(2) とよりなり、さらに上記装置本体(1) の少なくとも地面に対向する面を、白蟻の通過が可能な程度の網目粗さの網状体(11)で構成したことを特徴とする建造物の防蟻装置」が記載されている(摘記(47a))。この防蟻装置は、建造物の基礎構造体側面に、地面に向かう面に白蟻が通過可能な粗さの網状体を設け、その上に防蟻資材が収容されている防蟻装置であるので、地上面から基礎構造体の側面を伝って這い上がってくる白蟻が、網状体を通過したところで、網状体の上に収容されている防蟻資材に接触することで、これ以上の白蟻の侵入を阻止し白蟻を防除する作用を有するものということができる。(摘記(47b)(47c)(47f)(47i)参照)
また、甲第47号証には、防蟻資材として活性炭、木炭屑を含めて具体的な材料が例示される担体に、白蟻防除の薬効成分を含浸、付着、もしくは混入することが記載され(摘記(47a))、白蟻防除の薬効成分として、ホウ酸等の喫食毒性を用いることができることも記載されている(摘記(47d))。
したがって、甲第47号証の防蟻装置では、活性炭や木炭屑の担体にホウ酸を薬効成分として保持されてはいるものの、それは、建造物の基礎構造体側面の空間にむき出しに配置された状態にあり、そこに白蟻が通ることで長期間にわたって白蟻の防除機能を維持することができるものであると理解できる(摘記(47g))。

してみると、甲第47号証に記載の防蟻装置は、建造物の基礎構造体の側面空間にホウ酸を担持した活性炭や木炭屑を保持するものであって、塗膜形成用の成分を含有させることを前提としたものではないから、塗膜形成用の成分を含有する甲46発明に、甲第47号証に記載された活性炭や木炭屑を配合する動機付けがあるとはいえない。また、甲第47号証において、薬効成分であるホウ酸を担体である活性炭、木炭屑で保持したものが記載されているからといって、すでにほう酸の水による溶脱が防止できるとの開示がある甲46発明において、その開示に反して、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題が存在することを認識できるとはいえない。

さらに、甲46発明においては、無機ほう酸系防蟻剤が高濃度にエマルジョン中に溶解して防蟻効果を奏するものであって(摘記(46c)(46d))、高濃度のほう酸が組成物全体に均一に存在していると解されるところ、甲第47号証に記載されるホウ酸を担持した活性炭等を甲46発明のエマルジョンと混合させると、ホウ酸は組成物中の活性炭等に局在し、甲46発明のようにほう酸を高濃度に均一に組成物中に存在させることができなくなるから、同様の防蟻効果を奏するともいえず、この点からも、甲第47号証に記載されるホウ酸を担持した活性炭等を甲46発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

なお、甲第49号証には、殺シロ蟻剤を含む塗料において、殺シロ蟻剤であるオルトホウ酸を5?20重量を配合した塗料が記載され、甲第50号証には、殺シロアリ剤であるホウ素含有化合物を0.01?50%含む処理剤で木材を処理する方法が記載されているが、そのような塗料において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題が存在することを認識することはできない。

このように、甲第46、47、49、50号証を合わせてみても、当業者が、甲46発明おいて無機ホウ素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題が存在することを認識することはできないのであるから、甲46発明において、そのような課題を解決するために、甲第47号証のホウ酸が担持された活性炭や木炭屑という構成のみを適用し、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。
また、この相違点を構成するための課題やこの相違点を構成した結果生じる作用効果に照らして、上で述べた以外に、この相違点を構成するための動機付けとなるものも認められない。

したがって、甲第47、49、50号証には、甲46発明において、相違点1-46-1を備える構成に変更する動機付けがあるとはいえないから、相違点1-46-1を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

b 甲第1号証との組合せについての検討
甲第1号証には、家屋の床下土壌面に、防腐防虫防蟻薬剤を活性炭に吸着せしめてなる防腐防虫防蟻薬剤組成物を、撒布することにより家屋の防湿防腐防虫防蟻処理方法が記載され(摘記(1a))、活性炭に吸着させる防腐防虫防蟻剤としてほう素化合物を含めて具体的な化合物が例示されており(摘記(1b))、活性炭に薬剤を吸着させているため、薬剤の流出が極めて少なく環境衛生が保全されるという効果も記載されている(摘記(1c))。

しかしながら、甲第1号証に記載された防腐防虫防蟻薬剤組成物は、活性炭に吸着された防腐防虫防蟻薬剤を含有するものであって、塗膜形成用の成分を含有させることを前提としたものではないから、塗膜形成用の成分を含有する甲46発明に甲第1号証に記載された活性炭を配合する動機付けがあるとはいえない。また、甲第1号証に記載された防腐防虫防蟻薬剤組成物には、被膜を形成する成分は含有されておらず、活性炭に吸着した防腐防虫防蟻薬剤をそのままの状態で使用する際に、薬剤の流出が極めて少ないという効果を奏するものであるから、甲第1号証の記載をみた当業者であっても、塗膜を形成することでほう酸の水による溶脱を防ぐとの開示がある甲46発明において、その開示に反して、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題が存在することを認識できるとはいえない。

さらに、甲46発明においては、無機ほう酸系防蟻剤が高濃度に均一に存在していることにより防蟻効果を奏すると解されるところ、甲第1号証に記載される防蟻薬剤を担持した活性炭を甲46発明のエマルジョンと混合させると、防蟻薬剤が活性炭に局在してしまい高濃度に均一に防蟻薬剤を存在させることができなくなるため、同様の防蟻効果を奏するといえず、この点からも、甲第1号証に記載された活性炭を甲46発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

なお、甲第49、50号証をみても、当業者が、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできないことは、上記aで述べたとおりである。

このように、甲第1、46、49、50号証を合わせてみても、当業者が、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできないのであるから、甲46発明において、そのような課題を解決するために、甲第1号証の防蟻薬剤が担持された活性炭という構成のみを適用し、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。
また、この相違点を構成するための課題やこの相違点を構成した結果生じる作用効果に照らして、上で述べた以外に、この相違点を構成するための動機付けとなるものも認められない。

したがって、甲第1、49、50号証には、甲46発明において、相違点1-46-1を備える構成に変更する動機付けがあるとはいえないから、相違点1-46-1を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

c 甲第48号証との組合せについての検討
甲第48号証には、「エマルジョン系樹脂をバインダーとして、グラファイトシリカと炭粉を配合してそれぞれの物理的乃至物埋化学的特性を発揮させる塗装材」が記載されており(摘記(48a))、木炭粉末は、吸湿性、吸放臭性、防虫性、マイナスイオン効果のために塗料に配合することが記載されている(摘記(48b)参照)。

しかしながら、甲第48号証に記載された塗装材には、そもそも無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が配合されていないので、甲第48号証をみた当業者は、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできず、甲第48号証に炭粉を配合した塗装材が防虫性があることが記載されているとしても、この課題を解決するために、甲46発明において、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。

また、甲46発明においては、無機ほう酸系防蟻剤が高濃度に均一に存在していることにより防蟻効果を奏するのに対し、甲第48号証には、防虫性のために、エマルジョン樹脂に配合した木炭粉末の作用により防虫性等を奏するものであり、甲46発明と甲第48号証に記載された塗料とは防虫性に関する作用機序が異なるといえるから、この観点からみても、防虫性の作用機序が異なる甲第48号証に記載された炭粉を甲46発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

次に、上記以外の課題から、甲46発明において、甲第48号証に記載された木炭粉末を適用する動機付けがあるかについて検討する。

上述のとおり、甲第48号証には、吸湿性、吸放臭性、マイナスイオン効果を奏するために、甲46発明と同じエマルジョン系樹脂を用いる塗料に炭粉を配合したことが記載されている。そこで、仮に、甲46発明においても、これら吸湿性、吸放臭性等の課題があるとすれば、甲46発明において、甲第48号証に記載された炭粉を配合することに一応の動機付けがあることになる。
しかしながら、甲第46、48号証には、甲46発明においても、このような課題があることを示唆する記載はなく、さらに、本件発明1は、ホウ酸類と植物由来の炭粉末とが被膜形成性ポリマーエマルジョンに含まれていることにより、ホウ酸類が強固に吸着保持され、耐候操作後においてもシロアリ死中率、木材片の質量減少率に関し優れた効果が維持されるものであり、甲第46、48号証には、植物由来の炭粉末とホウ酸類との組み合わせにより生じる上記効果は記載されていないから、この効果は予測できず、本件発明1は、顕著な効果を奏するといえる。
したがって、ホウ酸の溶脱防止以外の課題からの動機付けについて一応検討しても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、甲第49、50号証をみても、当業者が、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできないことは、上記aで述べたとおりである。

更に、この相違点を構成するための課題やこの相違点を構成した結果生じる作用効果に照らして、上で述べた以外に、この相違点を構成するための動機付けとなるものも認められない。

よって、甲第48、49、50号証には、甲46発明において、相違点1-46-1を備える構成に変更する動機付けがあるとはいえないから、相違点1-46-1を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)効果について
上記(イ)で述べたとおり、甲46発明において相違点1-46-1を構成することが容易であるとはいえないが、念のため効果についてさらに具体的に検討する。

本件特許明細書の段落【0015】には、本件発明の塗膜は、炭粉末と被膜形成性ポリマーエマルジョンとにより、ホウ酸類を強固に吸着保持し、長期にわたってホウ酸類の防蟻効果を持続させることができることが記載されている。また、段落【0056】以降の実施例にて、その実施例1及び2として本件発明1の防蟻用組成物を木材片に塗布し、耐候操作を行った場合であったとしても、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されていることが記載されている。

更に、本件特許出願の審査過程において、その有利な効果を示すために被請求人から提出された乙第2号証には、木炭粉末が配合されていない比較実験例B1が記載されており、この比較実験例では、耐候操作を行った場合、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されないことが記載されていることから、ホウ酸類が植物由来の炭粉末と被膜形成性ポリマーエマルジョンとに含まれている本願発明1の具体例である実施例1及び2が、木炭粉末が配合されていない比較例との対比において耐候操作を行った場合の白蟻の死中率、木材片の質量減少率が優れるといえる。

一方、甲第46号証には、ホウ酸類と被膜形成性ポリマーエマルジョンとを含む組成物が、長期間効力が維持するとの記載はある(摘記(46c))だけであって、植物由来の炭粉末と組み合わせた場合の効果は記載されていない。
甲第47号証には、活性炭、木炭屑の担体に保持されたホウ酸を薬効成分とする防蟻資材が、長期間にわたって白蟻の防除機能を維持することができるとの記載がされているが(摘記(47g))、防蟻資材が塗膜中に含まれた場合の効果を示唆するものではない。
甲第1号証には、薬剤が活性炭に吸着しているので、薬剤の流出が少ないことが記載されているが、被膜形成性ポリマーエマルジョンを組み合わせた場合の効果は記載されていない。
甲第48号証には、炭粉を含む塗装材が分散性、経時安定性、塗膜性に優れることが記載されているだけであり、防蟻薬剤を含むことは記載されてなく、防蟻薬剤であるホウ酸類の流出を防止することに関する効果の記載はない。

このように、引用した甲第46、47、1、48号証には、ホウ酸類が植物由来の炭粉末と被膜形成性ポリマーエマルジョンとに含まれていることにより、ホウ酸類の防蟻効果を長期間持続させ、耐候操作を行った場合の白蟻の死中率、木材片の質量減少率が優れることについては記載又は示唆されていないので、本件発明1は、当業者の予測を超えた効果を奏するといえる。

(エ)請求人の主張
a 甲第47号証との組合せについて
請求人は、甲第47号証には、建造物の基礎構造体周りに配置され、建造物への白蟻の侵入を阻止すると同時に床下からの湿気、腐食・腐朽菌の侵入を防止した建造物の防蟻装置に関し、担体に活性炭、木炭屑を用い、白蟻防除の薬効成分としてホウ酸を含浸、付着させる防蟻資材が記載されており、甲46発明と技術分野、課題、作用・機能が共通するから、甲46発明に甲第47号証に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けがある旨を主張している。(弁駁書第31頁第9行?第40頁第17行、平成28年11月2日付け上申書第5頁第31行?第6頁第25行)

b 甲第1号証との組合せについて
請求人は、甲第1号証には、家屋の床下土壌面に撒布される土壌の防湿防腐防虫防蟻薬剤において、活性炭にホウ酸類を吸着させて防蟻・防腐効果を長期に維持することが記載されており、甲46発明と技術分野、課題、作用・機能が共通するから、甲46発明に甲第1号証に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けがある旨を主張している。(弁駁書第41頁第5行?第49頁第6行、平成28年11月2日付け上申書第15頁第2行?第17頁第4行)

c 甲第48号証との組合せについて
請求人は、甲第48号証には、エマルジョン系樹脂に炭粉を配合した塗装材に関し、木炭粉末が吸湿性、吸放臭性、防虫性、マイナスイオン効果を有することが記載されており、甲46発明と技術分野、課題、作用・機能が共通するから、甲46発明に甲第48号証に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けがある旨を主張している。(弁駁書第49頁第19行?第58頁第12行、平成28年11月2日付け上申書第18頁第29行?第19頁第29行)

d 効果について
請求人は、本件特許明細書には、具体的な実施例においてのみ効果を奏することが記載されているだけであり、本件発明1の全体にわたり、同様の効果を奏するとはいえない旨を主張する。(平成28年11月2日付け上申書第12頁第7行?第14頁第28行)

(オ)請求人の主張の検討
a 甲第47、1、48号証との組合せについて
請求人は、甲第47、1、48号証との組合せについて概略同等のことを主張しているので、ここではまとめて検討する。

請求人は、甲第46号証と甲第47、1、48号証において、発明の技術分野、発明の課題、発明の作用・機能が共通する点を単に示して、両者を組み合わせる動機付けがあると主張している。

しかしながら、発明の技術分野、課題、作用・機能が共通するという点は、あくまで相違点を構成する動機付けとなり得るというだけであって、これらが共通しさえすれば、直ちに相違点を構成する動機付けがあると判断されるものではない。

そして、甲46発明と甲第47、1、48号証とを組み合わせる動機付けを個別に検討した結果、当業者が、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできず、相違点1-46-1を構成する動機付けがあるとはいえないことは、上記(イ)で述べたとおりであるから、この点における請求人の主張は採用できない。

b 効果について
上記aで述べたように、甲46発明において、甲第47、1、48号証とを組み合わせて本件発明1を構成することができないのであるから、効果の点について検討するまでもなく、本件発明1を当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。
加えて、本件特許明細書には、段落【0015】に、本件発明の塗膜は、炭粉末と被膜形成性ポリマーエマルジョンとにより、ホウ酸類を強固に吸着保持し、長期にわたってホウ酸類の防蟻効果を持続させることができるという作用効果が記載され、その効果は、具体的に実施例により裏付けられるものであって、本件発明1は具体的な実施例の場合のみならず、所定の効果を奏することが理解できる。
一方、本件発明1が、具体的な実施例以外の態様では効果を奏さないとする合理的な理由及びそれを裏付ける証拠も示されてない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(カ)まとめ
よって、本件発明1は、甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲46発明とを対比する。
本件発明3は、塗膜形成用の防蟻用組成物であって、被膜形成性ポリマーエマルジョンを有する点で本件発明1と同じであるから、上記ア(ア)で述べたように、甲46発明のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンは本件発明3の被膜形成性ポリマーエマルジョンに相当し、甲46発明の防蟻・防虫・防腐剤組成物は、本件発明3の塗膜形成用の防蟻用組成物に相当する。そして、本件明細書の段落【0030】には、被膜形成性ポリマーエマルジョンとしてアクリル系ポリマーが記載され、共重合できるモノマーとしてスチレンが挙げられており、本件発明3のアクリル系ポリマーには、アクリル酸エステルとスチレンとの共重合体も含まれているから、甲46発明のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンは、本件発明3のポリマーエマルジョンがアクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーであることに相当する。
そうすると、両者は、
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、被膜形成性ポリマーが、アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである防蟻用組成物」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3-46-1)
本件発明3では、防蟻用組成物中に「植物由来の炭粉末」を含有しているのに対し、甲46発明では、植物由来の炭粉末を含有していない点

(イ)相違点及び効果についての検討
この相違点3-46-1について、甲第47号証、甲第1号証、甲第48号証との組み合わせについて検討するが、この相違点3-46-1は、上記ア(ア)で述べた相違点1-46-1と同じであるから、上記ア(イ)で述べた理由と同じ理由により、本件発明3は、甲第46号証に記載された発明及び甲第47、1、48号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。また、効果についても、上記ア(ウ)で述べた理由と同じ理由により、本件発明3は、予測を超えた効果を奏するといえる。

(ウ)まとめ
よって、本件発明3は、甲第46号証に記載された発明及び甲第47、1、48号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

ウ 本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と甲46発明とを対比する。
甲46発明の杉辺材に塗布する防蟻・防虫・防腐剤組成物は、塗膜が形成されることは明らかであるから、甲46発明の防蟻・防虫・防腐剤組成物は塗膜形成用であるといえ、本件発明8の塗膜形成用の防蟻用組成物に相当する。
そうすると、両者は、
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
ホウ酸類を含有する防蟻用組成物」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点8-46-1)
本件発明8では、防蟻用組成物中に「植物由来の炭粉末」を含有しているのに対し、甲46発明では、植物由来の炭粉末を含有していない点
(相違点8-46-2)
本件発明8では、「水溶性多糖類」を含有しているのに対し、甲46発明では、「アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョン」を含有している点

(イ)相違点についての検討
この相違点8-46-1及び8-46-2について、甲第1号証との組合せについて検討する。
a 相違点8-46-1について
相違点8-46-1は、上記ア(ア)で述べた相違点1-46-1と同じであるから、上記ア(イ)bで述べた理由と同じ理由により、相違点8-46-1は、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

b 相違点8-46-2について
甲第1号証には、家屋の床下土壌面に、防腐防虫防蟻薬剤をカプセル中に包含せしめたカプセル化物を活性炭に吸着せしめてなる防腐防虫防蟻薬剤組成物を、撒布することを特徴とする家屋の防湿防腐防虫防蟻処理方法について記載がされ(摘記(1a))、活性炭は一般にアルカリ性であるので、薬剤に、アルカリで分解されやすい例えば有機リン系の薬剤を用いる場合には、薬剤をカプセル中に包含せしめ、これを活性炭に吸着せしめるようにしたこと、このカプセルの材料として、セルロース誘導体の具体例が記載されている(摘記(1d))。

ここで、甲第1号証に記載されているセルロース誘導体は、薬剤をアルカリから保護するために薬剤を包むカプセル剤の材料であり、被膜を形成する材料としてセルロース誘導体が記載されているわけではない。そうすると、当業者であっても、甲第1号証に記載された防腐防虫防蟻薬剤をカプセルで包むカプセル剤のためのセルロース誘導体を、甲46発明において塗膜を形成するためのアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンに置き換えて用いるとはいえず、相違点8-46-2を構成することに動機付けがあるとはいえない。

以上のとおりであるので、甲第1号証には、甲46発明において、相違点8-46-2を備える動機付けがあるとはいえないから、相違点8-46-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ウ)効果について
本件発明8における効果について、本件特許明細書の段落【0015】に記載されている事項については、上記ア(ウ)で述べたとおりであるが、本件発明8は、水溶性多糖類を含有する防蟻用組成物であることから、本件特許明細書中の実施例は、実施例3及び4であり、乙第2号証に記載された比較実験例は、比較実験例B3である。
この上で、本願特許明細書の段落【0056】以降の実施例についてみてみると、その実施例3及び4として示された本件発明8の防蟻用組成物を木材片に塗布し、耐候操作を行った場合であったとしても、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されていることが記載されている。
乙第2号証には、木炭粉末が配合されていない比較実験例B3が記載されており、この比較実験例では、耐候操作を行った場合、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されないことが記載されていることから、ホウ酸類が植物由来の炭粉末と水溶性多糖類とに含まれている本願発明8の具体例である実施例3及び4が、木炭粉末が配合されていない比較実験例B3との対比において、耐候操作を行った場合の白蟻の死中率、木材片の質量減少率が優れるといえる。
したがって、本件発明8は、予測を超えた効果を奏するといえる。

(エ)請求人の主張について
請求人は、甲第6?9号証には、防蟻用組成物の使用する態様として、塗料としての塗布と、カプセル剤としての撒布が記載されており、両者は一般的に知られていること、甲46発明と甲第1号証とは、技術分野、課題、作用・機能が共通すること、甲46発明のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンを甲第1号証に記載された薬剤を包むカプセル剤として使用されるセルロース誘導体に置き換えることに何ら不自然なことはないこと、を理由に、甲46発明において、甲第1号証に記載されたセルロース誘導体を置き換えることは容易である旨の主張をする。(弁駁書第74頁第2行?第76頁第13行、平成28年11月2日付け上申書第22頁第15行?第23頁第17行)

(オ)請求人の主張の検討
甲第6号証には、その請求項1に
「 式[I]
【化1】

(式中、R^(1)はハロゲン原子、炭素数1?6のアルキル、炭素数2?6のアルケニルおよび炭素数2?6のアルキニルからなる群より独立して選ばれる1つまたは同一かもしくは異なる2つの置換基を有するフェニル、無置換フェニル、炭素数2?12のアルキル、炭素数2?12のアルケニル、炭素数2?12のアルキニル、炭素数2?12のヒドロキシアルキル、炭素数2?12のヒドロキシアルケニル、または炭素数2?12のヒドロキシアルキニルを示し、W^(1)は単結合、炭素数1?6のアルキレン、炭素数2?6のアルケニレンまたは炭素数2?6のアルキニレンを示す)で表されるサリチル酸エステル化合物を少なくとも1種含有してなる木材害虫防除剤。」が記載され、請求項18に「 シロアリ用である請求項1?17のいずれかに記載の木材害虫防除剤。」が記載されており、段落【0064】には、「本発明の木材害虫防除剤は、その使用目的によって使用形態が異なり、化合物[I]をそのまま直接使用したり、適当な液体担体に分散または溶解させたり、所望の場合は、さらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤、増粘剤、沈降防止剤、安定剤、固着剤、樹脂などの通常の添加剤を添加し、油剤、乳剤、水和剤、分散剤、懸濁剤、ペースト剤、各種粒剤、マイクロカプセル剤、噴霧剤、エアゾール剤、発泡剤、塗料などの製剤として使用することもできる。これらの配合は、通常の配合手段で行うことができる。」ことが記載され、段落【0073】には、「本発明の木材害虫防除剤を使用した木材害虫防除方法としては、木材害虫の発生源や侵入源、木材害虫を排除せしめようとする被保護物に対応して、従来の木材害虫防除剤について適用されてきたあらゆる方法をそのまま利用できる。例えば、木材処理用として本発明の木材害虫防除剤を使用する方法としては、木材への塗布、吹き付け、注入、浸漬などが挙げられ、また土壌処理用として本発明の木材害虫防除剤を使用する方法としては、土壌への散布、加圧注入、混合などが挙げられる。」ことが記載されている。

甲第7号証には、その請求項1に、
「式〔I〕:
【化1】

[式中、Rは水素、C_(1-6)アルキル-カルボニル基またはC_(1-6)アルコキシ-カルボニル基を示す。]で表される化合物またはその塩を含有することを特徴とするシロアリ防除剤。」が記載され、段落【0013】には、「・・・本発明で用いられる化合物は通常のシロアリ防除剤のあらゆる形態に使用可能である。即ち水和剤、乳剤、油剤、ペースト剤、塗料、懸濁剤、粉剤、粒剤、高発泡剤、非水溶液、マイクロカプセル又はマイクロスフェア剤等を掲げる事が出来る。これ等の製剤は公知の方法で製造する事ができ、使用目的に応じて製剤化すれば良い。したがって、処理対象が木材であるか、土壌であるか、処理方法が塗布、吹付け、浸漬、注入、散布、混合などにより適宜選択することが好ましい。現在シロアリ防除剤は大きく分けて土壌処理、木部処理、被覆処理のそれぞれに分けられる。土壌処理には好ましくは、乳剤、粉剤、粒剤、懸濁剤、マイクロカプセル又はマイクロスフェア剤が用いられ、木部処理には、好ましくは、非水溶液が用いられ、被覆処理には、好ましくは、有効成分含有高分子化合物が用いられる。」ことが記載されている。

しかしながら、甲第6又は7号証に記載される白アリ防除剤は、サリチル酸エステル化合物や、上記式〔1〕で示される特定の有機化合物を有効成分とするものであって、甲46発明の無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤と異なる。そして、有効成分である白アリ防除剤の種類が異なれば、水への溶解性が異なり、また、白アリ防除剤を塗布するのか、撒布するのかによっても、水による溶脱の程度が異なることも明らかであるから、甲第6又は7号証に白アリ防除剤の使用方法として、土壌撒布とともに塗布が例示されていたとしても、当業者が、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を塗布するための組成物である甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識できるとはいえないから、甲46発明において、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。

なお、甲第8及び9号証は、本件特許出願の優先日後に頒布された刊行物である上に、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱する課題を示唆する文献でもないので、これらの文献をみても、本件特許出願の優先日前に、当業者が、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識できるとはいえず、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。

(カ)まとめ
よって、本件発明8は、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

エ 本件発明9、10について
本件発明9及び10は、本件発明8を引用した上で、本件発明8を更に限定した発明である。
そして、上記ウで述べたように、本件発明8が、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないのであるから、本件発明9及び10も同じ理由により、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

オ 本件発明11について
(ア)対比
本件発明11と甲46発明とを対比する。
本件発明11は、ポリアミド樹脂を含有する点でのみ、水溶性多糖類を含有する本件発明8と相違するから、本件発明11と甲46発明とを対比すると、上記ウ(ア)で述べたように、両者は
「塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
ホウ酸類を含有する防蟻用組成物」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点11-46-1)
本件発明11では、防蟻用組成物中に「植物由来の炭粉末」を含有しているのに対し、甲46発明では、植物由来の炭粉末を含有していない点
(相違点11-46-2)
本件発明11では、「ポリアミド樹脂」を含有しているのに対し、甲46発明では、アクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンを含有している点

(イ)相違点についての検討
この相違点11-46-1及び11-46-2について、甲第1号証又は甲第5号証との組合せについて検討する。

a 甲第1号証との組合せについて
(a)相違点11-46-1について
この相違点11-46-1は、上記ア(ア)で述べた相違点1-46-1と同じであるから、上記ア(イ)bで述べた理由と同じ理由により、相違点11-46-1は、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

(b)相違点11-46-2について
上記ウ(イ)bで述べたように、甲第1号証には、カプセルの例として、ポリアミドの例示を含め、具体例が記載されているが(摘記(1d))、あくまでカプセル剤のためのものであるから、甲46発明において塗膜を形成するためのアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンに置き換えて、ポリアミドを用いるとはいえず、相違点11-46-2を構成することに動機付けがあるとはいえない。

以上のとおりであるので、甲第1号証には、甲46発明において、相違点11-46-2を備える動機付けがあるとはいえないから、相違点11-46-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

b 甲第5号証との組合せについて
(a)相違点11-46-1について
甲第5号証には、ポリアミド樹脂塗料に木炭粉末が配合されていることを特徴とする、塗料組成物が記載され(摘記(5a))、木炭はシロアリの発生を防ぐ防虫作用を有することが記載され(摘記(5b)参照)、木炭粉末をナイロン樹脂塗料に配合することにより、木炭を塗料に均一に混合することが可能となり、塗布後も色ムラの生じない塗料を調製することができたことが記載されている(摘記(5c))。

しかしながら、甲第5号証に記載された塗料組成物には、そもそも無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が配合されていないので、甲第5号証をみた当業者であっても、甲46発明において、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤が水により溶脱するという課題を認識することはできず、甲第5号証に、木炭粉末を配合した塗料組成物が防虫性があることが記載されているとしても、この課題を解決するために、甲46発明において、植物由来の炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。

また、甲第5号証には、種々の溶剤系塗料及び水系塗料に木炭粉末を配合したが、撹拌工程において均一に拡散しない、塗装工程において色ムラが生じることが記載され(摘記(5b))、試験例1では、アクリル樹脂の塗料に木炭を配合すると分散状態が悪く、仕上がり状態も色ムラがあることが記載されている(摘記(5g))。この記載をみた当業者であれば、木炭粉末をアクリル樹脂に配合しようとはしないから、この点からも、アクリル樹脂に含まれるアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンを含有する甲46発明において、甲第5号証に記載された木炭粉末を配合する動機付けがあるとはいえない。

次に、上記以外の課題から、甲46発明において、甲第5号証に記載された木炭粉末を適用する動機付けがあるかについて検討する。

上述のとおり、甲第5号証には、吸湿性、吸放臭性、防虫性、マイナスイオン効果を奏するために、甲46発明と同じエマルジョン系樹脂を用いる塗料に木炭粉末を配合したことが記載されているので、甲46発明においても、これら吸湿性、吸放臭性、防虫性等の課題があるとすれば、甲46発明において、甲第5号証に記載された木炭粉末を配合することに動機付けがあるといえる。
しかしながら、防虫性については、すでにほう酸を含むことにより、その課題が解決されており、甲第5号証の塗料組成物は、その使用目的が防虫用のみに限定されたものでないから、甲46発明において、その他の吸湿性等の課題があるとはいえない。仮にそのような課題があるとしても、本件発明11は、ホウ酸類と植物由来の炭粉末とが被膜形成性ポリマーエマルジョンに含まれていることにより、ホウ酸類が強固に吸着保持され、耐候操作後においてもシロアリ死中率、木材片の質量減少率に関し優れた効果が維持されるものであり、甲第46、5号証には、植物由来の炭粉末とホウ酸類との組み合わせにより生じる上記効果は記載されていないから、この効果は予測できず、本件発明11は、顕著な効果を奏するといえる。
したがって、ホウ酸の溶脱防止以外の課題からの動機付けについて一応検討しても、本件発明11は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、甲第5号証には、甲46発明において、相違点11-46-1を備える構成に変更する動機付けがあるとはいえないから、相違点11-46-1を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(b)相違点11-46-2について
甲第5号証には、ポリアミド樹脂塗料に木炭粉末が配合されていることを特徴とする、塗料組成物が記載され(摘記(5a))、木炭はシロアリの発生を防ぐ作用を有することが記載されている(摘記(5b))。

しかしながら、甲第46号証には、「アクリル酸エステル系共重合体水性エマルジョンは、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を高濃度で溶解または分散し、低温での析出を防ぎ、施工後水が蒸発した状態では連続被膜を形成して、防蟻・防虫・防腐剤を木部、土壌面に密着させ、水による溶脱を防ぐ。」との記載がされている(摘記(46d))ことから、無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を高濃度で配合するには、水性のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンを用いることが必須であるといえるところ、甲第5号証に記載された水性エマルジョンとはいえないポリアミド樹脂に置き換えてしまうと、同様に高濃度で無機ほう素系防蟻・防虫・防腐剤を配合することができるとはいえないから、甲46発明のアクリル酸エステル-スチレン共重合体エマルジョンを甲第5号証に記載されたポリアミド樹脂に置き換える動機付けがあるとはいえない。

(ウ)効果について
本件発明11における効果について、本件特許明細書の段落【0015】に記載されている事項については、上記ア(ウ)で述べたとおりであるが、本件発明11は、ポリアミド樹脂を含有する防蟻用組成物であることから、本件特許明細書中の実施例は、実施例5であり、乙第2号証に記載された比較実験例は、比較実験例B5である。
この上で、本願特許明細書の段落【0056】以降の実施例についてみてみると、その実施例5として示された本件発明11の防蟻用組成物を木材片に塗布し、耐候操作を行った場合であったとしても、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されていることが記載されている。
乙第2号証には、木炭粉末が配合されていない比較実験例B5が記載されており、この比較実験例では、耐候操作を行った場合、シロアリの死中率、木材片の質量減少率について優れた効果が維持されないことが記載されていることから、ホウ酸類が植物由来の炭粉末とポリアミド樹脂とに含まれている本願発明11の具体例である実施例5が、木炭粉末が配合されていない比較実験例B5との対比において、耐候操作を行った場合の白蟻の死中率、木材片の質量減少率が優れるといえる。
したがって、本件発明11は、予測を超えた効果を奏するといえる。

(エ)まとめ
よって、本件発明11は、甲第46号証に記載された発明及び甲第1号証又は甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

カ 本件発明12について
本件発明12は、本件発明11を引用した上で、本件発明11を更に限定した発明である。
本件発明12における発明を特定するための事項については、甲第5号証に、結晶性を弱めた共重合ポリアミド樹脂が用いられ、これは、エタノールが例示されるアルコールに可溶であるという性質を有することが記載されている(摘記(5a)(5d)(5f)参照)。
しかしながら、上記オで述べたとおり、本件発明11が、甲第46号証に記載された発明及び甲第1又は5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないのであるから、甲第5号証に上記の事項が記載されていたとしても、本件発明12も同じ理由により、甲第46号証に記載された発明及び甲第1又は5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

キ 本件発明13について
本件発明13は、本件発明1、3、8乃至12を引用した上で、本件発明1、3、8乃至12を更に限定した発明である。
本件発明13における発明を特定するための事項については、甲第5号証に、木炭は白炭と黒炭を含み、それぞれの性質を考慮に入れて白炭と黒炭との配合比を設定できるとの記載がされている(摘記(5e))。
しかしながら、上記ア?カで述べたとおり、本件発明1、3、8乃至12が、甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50、1、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないのであるから、甲第5号証に上記の事項が記載されていたとしても、本件発明13も同じ理由により、甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50、1、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

ク 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1、3、8乃至13を引用した上で、本件発明1、3、8乃至13を更に限定した発明である。
本件発明14における発明を特定するための事項については、甲第2号証に、シリカゲルが白アリ防除剤の吸着剤として記載されている(摘記(5e))
しかしながら、上記ア?キで述べたとおり、本件発明1、3、8乃至13が、甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50、1、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないのであるから、甲第2号証に上記の事項が記載されていたとしても、本件発明14も同じ理由により、甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50、1、2、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。

(4)小括
本件発明1、3、8?14は、本件優先日前に頒布された甲第46号証に記載された発明及び甲第47?50、1、2、5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえず、本件発明1、3、8?14についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

2 無効理由5
当審は、請求人は特許を受ける権利を有する者であるということはできず、請求人適格を有さないと判断する。請求人が主張する冒認出願の理由について検討しても、本件特許が、改正前の特許法第123条第1項第6号に該当するとはいえないと判断する。

(1)適用する法規について
平成23年法律第63号の附則第2条第9項の「新特許法・・・第123条第1項第6号・・・の規定は、この法律の施行の日以後にする特許出願について適用し、この法律の施行の日前にした特許出願については、なお従前の例による。」との規定によれば、同法の施行の日前である平成15年6月24日に出願された特許出願に係る本件特許については、同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前の特許法」という。)第123条第1項第6号の規定(「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」)が適用される。
平成26年法律第36号の附則第2条第17項の「この法律の施行前に請求された特許無効審判については、新特許法第123条第2項の規定にかかわらず、なお従前の例による。」との規定によれば、同法の施行日後に請求された本件特許無効審判については、同法による改正後の特許法(すなわち、現行特許法、以下単に「特許法」という。)第123条第2項の規定(「特許無効審判は、利害関係人(前項第2号・・・又は同項第6号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。」)が適用されるから、本件無効審判においては、同条第1項第6号に該当することを理由とする請求は、「特許を受ける権利を有する者」に限りすることができる。

(2)請求人適格と冒認出願の判断手法について
請求人適格に関しては、(1)で述べたとおり、「特許を受ける権利を有する者に限り請求することができる。」とされている。

一方、冒認出願に関しては、(1)で述べたとおり、「その特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」と規定されている。ところで、冒認出願を理由として請求された特許無効審判において、「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は、特許権者が負担すると解するべきであるが、特許権者の行うべき主張、立証の内容、程度は、冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容、程度がどのようなものかによって大きく左右され、まずは、冒認を主張する請求人が、どの程度それを疑わせる事情を具体的に主張し、かつ、これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し、次いで、特許権者が請求人の主張立証を凌ぎ、特許権者の代表者が発明者であることを認定し得るだけの主張立証をしているか否かを検討するもの、と解される(参考:知財高判平21.6.29(平成20(行ケ)10427)、知財高判平29.1.25(平成27(行ケ)10230))。

この判示事項を本件の無効理由5に当てはめ、冒認出願を主張する請求人が、冒認出願であることを疑わせる以下の事情、
ア 請求人の前代表者である吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成したこと、
イ 請求人の前代表者である吉松氏が本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人の代表者である齋藤氏に伝えたか、少なくとも被請求人の代表者である齋藤氏が本件発明の内容を知りうる状態にあったこと、
を具体的に主張し、かつ、これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し、
次いで、被請求人が請求人の主張立証を凌ぎ、被請求人が、
ウ 本件特許出願の発明者が本件発明の真の発明者であること、
を認定し得るだけの主張立証をしているか否かを検討する。

このように、冒認出願に関して上記ア?ウを検討する必要があるところ、その要件の一つである「請求人の前代表者である吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成したこと」が、請求人が請求人適格を有することについての前提となることから、本件では、冒認出願に関する上記ア?ウの要件を検討をすることで、請求人が請求人適格を有するかについても、同時に検討する。

(3)本件発明について
本件発明1、3、8?14は、上記「第3」で示したとおりであると認める。

(4)請求人(前代表者である吉松氏)が本件優先日前に本件発明を完成したことについて
ア 事実認定
請求人(前代表者である吉松氏)が本件優先日前に本件発明を完成したことに関しては、請求人及び被請求人の主張及び両者が提示した証拠から、以下の事実が認められる。

(1ア)甲第12号証によれば、遅くとも平成10年9月までに、吉松氏は、独立行政法人森林研究所の鈴木憲太郎氏(以下「鈴木氏」という。)に、液状活性触媒炭塗料製品の野外耐蟻性試験を依頼し、平成10年9月10日から試験を開始した。そして、平成14年4月16日に、吉松氏は、鈴木氏から、特殊加工木炭、鉱石入り通気型木炭塗料、商品名:ヘルスコ・キュアーが、3年5月経過後においても、シロアリの食害の被害がなく、防蟻性を有していたという報告を受けた。

(1イ)甲第32号証の1によれば、2002年(平成14年)7月8日に、吉松氏は、吉松氏を出願人及び発明者とする国際出願(国際出願番号PCT/JP02/06897、優先日:2001年(平成13年)7月10日)を行った。発明の内容は、アクリル樹脂、木炭粉末、タール、沸石を含有する水溶性の塗料であり、白蟻に対して忌避、殺蟻効果が示された。

(1ウ)甲第15号証によれば、平成13年7月15日に、請求人は、被請求人と、請求人が製造・販売する「液状活性触媒炭 防蟻・防腐剤『ヘルスコ・キュアー』」について、特約店販売契約を結んだ。

(1エ)甲第29号証によれば、平成13年8月には、請求人は、防蟻用塗料である「液状活性触媒炭 ヘルスコ・キュアー」の販売を開始した。

(1オ)ヘルスコ・キュアーのカタログである甲第34号証及び乙第8号証によれば、ヘルスコ・キュアーは、木質系の天然素材と微粉末木質炭素、天然鉱石を配合した防蟻防腐材であり、金属成分の定量分析の結果、天然素材におけるミネラル分中の金属のみ検出された。甲第35号証によれば、ヘルスコ・キュアーのパンフレット(甲第34号証)は、平成14年6月5日に、取引先に送付された。

(1カ)乙第6号証には、ヘルスコ・キュアーは、天然鉱石を20%含むものであり、金属成分としてホウ素を半定量値として0.02重量%含有するとの金属成分の定量分析結果が示されている。

(1キ)甲第41号証には、以下の事項が記載されている。
a 「Date 02.6.4
・・・」(3頁右欄)

b 「Date 02.6.17
計量
・・・
H-40 227.5
ドラS 97.5
NaOH 2% 12.76 + 10 H_(2)O
水 628+72.2
NTA 78
炭 150
ゼオ 320
B 80
アピ 4.8

・・・

NaOH 2% 77.4g
NaOH 1.6+1.6
NTA 7.8
B 4.8(3%)
H-40 33
炭 15
ゼオ 32

・・・

H-40 325kg
NaOH溶液 12.76(NaOH)+10kg(水)
水 700kg
NTA 78kg
炭 150kg
ゼオ 320kg
アピ 4.8kg
ホーサン 80kg

・・・

H-40 3.09kg
NaOH 0.1215+0.0952
水 6.666
NTA 0.7428
炭 1.4285
ゼオ 3.0476
アピ 0.0457
ホーサン(5%) 0.7619

H-40 139.5
NaOH 6.12+4.5 ○水(○の中に水の文字)
水 301.5
NTA 33.75
炭 64.35
ゼオ 137.25
アピ 2.16
ホーサン 34.2

H-40 3.1kg
NaOH 0.136+0.1 ○水(○の中に水の文字)
水 6.7
NTA 0.75
炭 1.5
ゼオ 3.26
アピ 0.048
ホーサン(3%) 0.48

H-40 3.1kg
NaOH 0.136+0.1
水 6.7
NTA 0.75
炭 1.3
ゼオ 3.9
アピ 0.048
」(第6頁右欄?第8頁右欄中段)。

c 「02.7.1
・営業会議
・・・
・施工ビデオ
キュアー、点検まで
・缶のステッカー 見直し カラー入れ
ヘルス キュアー
ねる炭マット、残康(在庫数)
・・・
平野美術館
キュアー ○+(○の中に+の文字) ヘルスコート
虫テスト → 害虫テスト
美術館用
特約店 ・担当者 -責任者 を決める → 指導
・結果がOKの時(計画通り)キックバック(商品券etc)」(第10頁左欄第4行?第11頁右欄)

d 「Date 02.11.2
・・・」(第39頁左欄)

(1ク)甲第42号証には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は、甲第42号証における取り消し線を表す。)
a 「Date 02.8.10
H-40 3.25 3.25 32.5g
NaOH 70.2 7.2 7.2 6.81 64.9g
水 6.49
NTA 0.78 0.78 50% 0.5ml 7.8g
炭 1.5 1kg 10g
ゼオ 3.2 3.2 32g
アピ 48g 0.48g
消 48g 0.48g
B 0.8 8g
NH_(3) 0.16 0.48kg 4.8g」(第15頁左欄)

(1ケ)甲第43号証には、以下の事項が記載されている。
「Date 03.8.15
・・・
NTA 1.6 1.36 13.6
F 0.16 0.14 1.4
H_(2)O 7.8 6.6 66
NaOH 0.468 0.4 4
B 0.46 0.4 4
2606 3.6 3 30
炭 1.6 1.36 13.6
ゼ 3.2 2.7 27 159.6g
」(第10頁左欄)

(1コ)請求人への請求書である甲第38号証には、商品名として「ウルトラゾール H-40」が記載されている。

(1サ)請求人への請求書である甲第40号証には、商品名として「備長炭パウダー」が記載されている。

以下、上記(1ア)?(1サ)で示した認定された事実を、「認定事実(1ア)」?「認定事実(1サ)」という。

イ 判断
(ア)認定事実(1ア)?(1カ)について
認定事実(1ア)によれば、平成14年4月16日に、吉松氏は、防蟻性を有する「特殊加工木炭、鉱石入り通気型木炭塗料(商品名:ヘルスコ・キュアー)」を発明したことは認められるが、鉱石がホウ酸類であることの事実を裏付ける証拠はなく、認定事実(1ア)から、吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成していたということはできない。

認定事実(1イ)によれば、優先日である平成13年7月10日には、吉松氏が白アリに対して忌避、殺蟻効果を有する、アクリル樹脂、木炭粉末、タール、沸石を含有する塗料を発明したことは認められるが、沸石はゼオライトであり、アルミノケイ酸塩であって、ホウ酸類ではなく、認定事実(1イ)から、吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成していたということはできない。

認定事実(1ウ)?(1カ)によれば、遅くとも平成13年8月に、請求人が販売を開始した防蟻性能を有する「液状活性触媒炭 ヘルスコ・キュアー」は、天然鉱石を20%含むとともに、金属元素としてホウ素が0.02重量%存在しているといえる。しかしながら、0.02重量%という量は、本件発明1又は3が防蟻用組成物であることからすれば、非常に微量であり、その効果を発揮するために、意図的に含有させたものということはできない。

さらに、金属元素としてのホウ素は、ホウ酸類以外の化合物を由来とするホウ素の場合もあり得るから、ヘルスコ・キュアーが金属元素としてホウ素を0.02重量%存在しているとしても、そもそもホウ酸類を含むともいえない。

次に、天然鉱石がホウ酸を意味するとの請求人の主張に沿って解釈すると、ヘルスコ・キュアーがホウ酸(H_(3)BO_(3))を20重量%含むことは、金属元素としてのホウ素を3.6重量%含むことになり、金属元素としてホウ素を0.02重量%含むとする分析結果と矛盾するから、ヘルスコ・キュアーに含まれる天然鉱石がホウ酸を意味すると解釈することはできない。
以上のことからすると、認定事実(1ウ)?(1カ)から、ヘルスコ・キュアーがホウ酸類を含有するとは認められない。
したがって、認定事実(1ウ)?(1カ)から、吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成していたということはできない。

(イ)認定事実(1キ)?(1サ)について
a 甲第41?43号証に記載された組成物の成分と本件発明の組成物の成分との対応について
認定事実(1キ)bによれば、「炭」は、その記載のみから植物由来の炭粉末と直ちに判断できないが、認定事実(1サ)によれば、請求人は備長炭パウダーを購入していること、請求人においてその他の炭を使用する特段の理由もないから、「炭」は備長炭パウダーであると解することができ、本件発明の「植物由来の炭粉末」と一応認められる。
同じ認定事実(1キ)bによる「B」について、「B」は、ホウ素を表す元素記号であり、また、甲第41号証には、組成の表示に「B」の記載がなく、「ホーサン」と記載されている場合があるから、「B」は、ホウ酸と一応認められる。
これに対して、認定事実(1キ)bによれば、「H-40」は、その表記が一致するから、認定事実(1コ)による「ウルトラゾール H-40」と一応認められるが、ウルトラゾールH-40が、「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」、「水溶性多糖類」又は「ポリアミド樹脂」であることを示す証拠は一切ないので、甲第41号証に記載された「H-40」が、本件発明1の「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、本件発明3の「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」、本件発明8の「水溶性多糖類」又は本件発明11の「ポリアミド樹脂」であるとはいうことはできない。

以上のことからすると、甲第41号証には、「H-40」、「植物由来の炭粉末」、「ホウ酸類」を含有する組成物が記載されていると認められるが、本件発明1の「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、本件発明3の「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」、本件発明8の「水溶性多糖類」、本件発明11の「ポリアミド樹脂」に相当する成分を含有することが立証されていないから、甲第41号証には、本件発明1、3、8?14と同じ組成物が記載されていたとはいえない。

認定事実(1ク)によれば、甲第42号証には、「H-40」、「炭」、「B」を含有する組成物が記載されており、「H-40」、「植物由来の炭粉末」、「ホウ酸類」を含有する組成物が記載されていると認められる。しかしながら、上で検討したとおり、「H-40」が、「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」、「水溶性多糖類」又は「ポリアミド樹脂」であるとはいえないから、甲第42号証には、本件発明1、3、8?14と同じ組成物が記載されていたとはいえない。

認定事実(1ケ)によれば、甲第43号証には、「炭」、「B」を含有する組成物が記載されていると認められるが、その組成物は「H-40」を含有するものではなく、「被膜形成性ポリマーエマルジョン」、「アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマー」、「水溶性多糖類」又は「ポリアミド樹脂」を含有する組成物であるとはいえないから、甲第43号証には、本件発明1、3、8?14と同じ組成物が記載されていたとはいえない。

このように、認定事実(1キ)?(1サ)からは、甲第41?43号証には、本件発明1、3、8?14と同じ組成物は記載されていたとはいえないから、本件優先日前に、吉松氏が本件発明を完成していたということはできない。

請求人は、審判請求書第91頁のノートの語句と原料の種類を改めて整理した表に基づき、「H-40」は、「アクリル系樹脂」であると主張するので、仮に、「H-40」が「アクリル系樹脂」であるものとして、念のため以下に検討する。

b 請求人が、本件発明1又は3に対応した組成物を製造していたことを理由に、吉松氏が本件優先日前に本件発明1又は3を完成させていたといえるかについて
請求人は、甲第41?43号証によれば、本件優先日前に製造、販売していたヘルスコ・キュアーが本件発明1又は3に当たるものであって、このことから、本件優先日前に、吉松氏が本件発明を完成していたと主張するので、この主張について検討する。

上記aで述べたように、甲第41号証には、「H-40」、「植物由来の炭粉末」、「ホウ酸類」を含有する組成物が記載されていると認められ、甲第41号証に記載される組成物中のホウ酸の含有量は、2.77?4.76重量%と計算される。
また、甲第42号証にも、「H-40」、「植物由来の炭粉末」、「ホウ酸類」を含有する組成物が記載されていると認められ、甲第42号証に記載される組成物中のホウ酸の含有量は、5.0重量%と計算される。
一方、甲第43号証は、「H-40」を含有することは記載されておらず、そもそも本件発明1又は3に対応する組成物は記載されていない。
そして、本件発明1の「被膜形成性ポリマーエマルジョン」に、アクリル系樹脂が該当することは明らかであるから、甲第41及び42号証には、本件発明1又は3に対応する組成物が記載されていることになる。

そこで、請求人が、甲第41及び42号証の記載から、商品名ヘルスコ・キュアーとして本件発明1又は3に対応する組成物を製造していたといえるかについて検討する。

(a)甲第41号証について
製造メーカーにおける商品の製造記録とは、販売後に、製造した商品から製造の内容を確認できるように記録したものであることが通例であり、製造者が製造物に欠陥があった場合に、賠償の責任を負うとされる製造物責任法(第3条参照)も考慮して、製造日、製造、販売した製品名、製造の内容を記録しておき、管理することは普通のことである。
認定事実(1エ)によれば、請求人は防蟻用塗料を製造、販売する法人(製造メーカー)である。製造メーカーであれば、特定の日のみ製品を製造し、その日以外は製造していないことは不自然であるし、一定の期間に渡り製造した製品に関して製造の内容だけを記載した文書を「製造記録」と題して作成、保存することが自然であるといえる。そして、「製造記録」の文書に記載する内容は、製造日、製品名及びロット番号に関連させて、製造の内容である原材料、その配合割合、製造量を記載する等、製造に関係がある内容だけを、統一した表記で記載して、製品を製造・管理する部署において保管しておくことが自然であるといえる。
なお、製造メーカーが、製品を製品名とロット番号とで管理することは、実際、請求書である甲第38号証には、ヘルスコートという製品について「ロット番号20621 ヘルスコート」と記載されていることとも符合する。

この上で、まず、甲第41号証が製造記録ノートである、とした場合の、全体の体裁、全体を通しての記載内容について検討する。
上記したように、甲第41号証が製造を記録したノートであるならば、表紙に「製造記録」と記載があることが自然であるが、甲第41号証には、表題に「製造記録」という記載はない。そして、認定事実(1キ)a及びdによれば、甲第41号証は、2002年(平成14年)6月4日?2002年(平成14年)11月2日までの期間に記載されたノートであるといえるところ、この期間のうち、組成物(原材料、その配合割合、製造量等)が記載された箇所は、2002年(平成14年)6月17日だけであり、その他の日付で組成物の記載はなく、一定の期間に渡り連続して組成物は記載されていない。これに対し、認定事実(1キ)cによれば、その日以外は、製品の製造記録とは全く関係のない営業会議と題される記載がされており、甲第41号証のノートは、少なくとも製品の製造記録であると主張するものだけを記録として残しているものではない。

このように、甲第41号証の全体の体裁、全体を通しての記載内容から判断して、甲第41号証が製造記録ノートであるということはできない。

次に、甲第41号証に記載された組成物の具体的な記載内容について検討する。
認定事実(1ウ)及び(1エ)によれば、ヘルスコ・キュアーは、遅くとも平成13年(2001年)8月に販売が開始されているから、甲第41号証の本件発明1又は3に対応する組成物が記載された2002年(平成14年)6月17日当時、ヘルスコ・キュアーという商品名が用いられているといえるところ、甲第41号証が製造記録であるとすると、そこにはヘルスコ・キュアーという商品名が記載されていることが自然であるといえる。
また、認定事実(1キ)bによれば、甲第41号証には、原料の配合割合が異なる複数の組成物が記載されており、原料の配合割合が異なれば、防蟻用塗料の性質が異なることからしても、甲第41号証がヘルスコ・キュアーの製造記録であるならば、同じヘルスコ・キュアーという商品であっても、性質が異なる組成物毎にロット番号を記載して、製造した製品と販売先を管理することは当然行われることであるといえる。
しかしながら、甲第41号証には、ただ、組成物の原料、配合割合、製造量が記載されているだけであり、本件発明1又は3に対応する組成物が、商品名であるヘルスコ・キュアー及びロット番号と関連させて記載されていない。ましてや、2002(平成14年)6月17日の記載だけみても、組成物の原料、配合割合、製造量が統一した表記で記載されているものでもない。

このように、甲第41号証に記載された組成物の具体的な記載内容からみても、甲第41号証が製造記録ノートであるというには不自然である。

さらに、甲第41号証に記載された組成物が、ヘルスコ・キュアーの製造記録であることを結びつける他の証拠もない。

以上のことからすると、甲第41号証の記載から、請求人が、2002年(平成14年)6月17日に、本件発明1又は3に対応した組成物を製造していたということはできないから、そのことを理由に吉松氏が、2002年(平成14年)6月17日より前に、本件発明1又は3を完成させていたとはいえない。

(b)甲第42号証について
甲第42号証に記載された本件発明1又は3に対応する組成物は、本件優先日後の2002年(平成14年)8月10日のみしか記載されておらず、直ちに本件優先日前に本件発明1又は3に対応した組成物が製造されたとはいえない。
加えて、甲第42号証の表紙には「試験」と記載がされているが、「製造記録」との記載ではなく、また、一定の期間に渡り連続して組成物が記載されているわけでもない。
また、甲第42号証には、ただ、組成物の原料、配合割合、製造量が記載されているだけであり、本件発明1又は3に対応する組成物が商品名であるヘルスコ・キュアー及びロット番号と関連させて記載されておらず、ましてや、組成物の原料、配合割合、製造量が統一した表記で記載されているものでもない。
さらに、甲第42号証に記載された組成物が、ヘルスコ・キュアーの製造記録であることを結びつける他の証拠もない。

以上のことからすると、甲第42号証が製造記録ノートであるということはできず、甲第42号証の記載から、請求人が、本件優先日前に、本件発明1又は3に対応した組成物を製造していたということはできないから、そのことを理由に、吉松氏が、本件優先日前に、本件発明1又は3を完成させていたとはいえない。

c 甲第41及び42号証の記載から、吉松氏が本件発明1又は3の発明を完成したといえるかについて

上記bで述べたように、甲第41及び42号証の記載から、請求人が、本件優先日前に、本件発明1又は3に対応した組成物を製造していたとはいえないが、甲第41及び42号証に本件発明1又は3に対応する組成物が記載されているという事実から、本件発明を完成していたといえるかについて、以下に検討する。

甲第41、42号証が、本件発明1又は3に対応する組成物が記載された何らかの実験記録であるとすると,甲第41、42号証の作成者は、請求人が発明者であると主張する吉松氏ではなく、末武氏となる点で矛盾がある。この点は、仮に、吉松氏が末武氏に指示をして、実験記録として記載させたものと解しても、以下に述べるとおり、甲第41、42号証の記載から本件発明1又は3を吉松氏が完成させていたとは認めることはできない。

(a)発明の完成について
発明の完成については、「発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作であり(特許法第2条第1項)、一定の技術的課題(目的)の設定、その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成しうるという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが、発明が完成したというためには、その技術的手段が、当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し、またこれをもって足りるものと解するのが相当である」(最高裁判所第二小法廷判決 昭和61年(オ)第454号)と判示されている。

この判示事項を本件発明に当てはめてみると、本件優先日前に、本件発明1又は3で特定される成分を含有する塗膜形成用の防蟻用組成物が、当業者が防蟻性という効果を挙げることができる程度までに具体的、客観的なものとして甲第41、42号証に記載されていることが必要であると解される。

(b)甲第41号証の記載について
上記bで述べたように、「H-40」が「アクリル系樹脂」であるとするならば、甲第41号証に記載される組成物中のホウ酸の含有量は、2.77?4.76重量%であると計算されることからみて、甲第41号証には、本件発明1又は3に対応する組成物が一応記載されていたと認めることができる。

しかしながら、これらの記載は、単に成分が混合された組成物が記載されているだけであり、この組成物をどのような使用方法でどのような用途に用いるのかについては記載されていない。また、この組成物を使用した場合の結果、すなわち防蟻効果のデータも記載されておらず、この組成物の効果をを記載した他の証拠も示されていない。

したがって、甲第41号証には、「塗膜形成用である防蟻用」組成物が、防蟻性に優れるという効果を挙げることができる程度にまで具体的、客観的に記載されているとはいえないから、仮に、甲第41号証の上記記載が、何らかの実験記録であるとしても、吉松氏が本件優先日前に、本件発明1又は3を完成していたということはできない。

(c)甲第42号証の記載について
上記b(b)で述べたように、甲第42号証に記載される組成物中のホウ酸の含有量は、5.0重量%であると計算されることからみて、本件発明1又は3に対応する組成物が一応記載されたと認めることができるが、これは、本件優先日の後の平成14年8月10日の記載であるから、本件優先日前に、本件発明1又は3を完成していたことを示す直接的な証拠であるとはいえない。また、甲第42号証には、防蟻効果のデータも記載されていない。

したがって、甲第42号証には、本件優先日前に「塗膜形成用である防蟻用」組成物が、防蟻性に優れるという効果を挙げることができる程度までに具体的、客観的に記載されているとはいえないから、仮に、甲第42号証の上記記載が、何らかの実験記録であるとしても、吉松氏が本件優先日前に、本件発明1又は3を完成していたということはできない。

(d)まとめ
上記(b)及び(c)で述べたように、甲第41及び42号証の記載から、吉松氏が本件優先日前に、本件発明1又は3を完成させたとはいえない。

d 認定事実(1キ)?(1サ)のまとめ
以上のとおり、認定事実(1キ)?(1サ)から、吉松氏が本件発明1又は3を、本件優先日前に完成させていたとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、認定事実(1ア)?(1サ)からは、それらの相互の事実関係を考慮しても、吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成していたという事実を導くことはできない。

ウ 請求人の主張について
(ア)請求人は、吉松氏は、鈴木氏の下でホウ酸のシロアリに対する殺蟻効果を知り、平成10年9月以降、木炭塗料へホウ酸を配合することを進め、5ヶ月後の平成11年2月には、「木炭、アクリル系樹脂、ホウ酸」から構成された防蟻用の塗料組成物を完成した、と主張し、ホウ酸が、人体に対して有毒であるというイメージや模倣懸念のため、甲第12号証には、ホウ酸を鉱石と記載したと主張する。(審判請求書第85頁第16行?第87頁第10行)

(イ)請求人は、「ホウ酸を配合した組成」と「ホウ酸未配合の組成」の両方の製品を製造していたと主張し、乙第6号証の金属成分の分析試験は、ホウ酸未配合の製品の試験であると主張する。(弁駁書第96頁第2?13行)

(ウ)請求人は、甲第41号証の平成14年6月17日に記載された組成物の缶数(152缶)は、平成14年度におけるヘルスコ・キュアー全体の出荷量の1300缶からみて、製品として製造された缶数として適切な量であるから、甲第41号証の組成物の記載は、製品の製造を記録したものである旨を主張し、また、平成14年当時の全ての製品の製造記録・製造実績を示す資料類は紛失してしまったとも主張する。(弁駁書第97頁第8行?第98頁第7行、平成28年12月14日付け上申書第2頁第20行?第3頁第3行)

エ 請求人の主張についての検討
(ア)について
請求人は、平成11年2月には、「木炭、アクリル系樹脂、ホウ酸」から構成された防蟻用の塗料組成物を完成したと主張するが、この事実を立証する証拠は一切なく、請求人の主張は採用できない。
また、甲第12号証には、塗料に鉱石を含有することは記載されているが、ホウ酸類を含有することについては記載がない。そして、一般に、鉱石がホウ酸類を意味するとはいえず、また、ホウ酸類を鉱石と呼ぶことが慣用されていたともいえない。仮に、請求人が主張するように、ホウ酸を鉱石と表記したとすると、上記イ(ア)で述べたように、認定事実(1カ)における、ヘルスコ・キュアーがホウ酸を20%含むことと、金属元素としてのホウ素を0.02重量%含むとの分析結果との間に矛盾があるから、請求人の主張は採用することはできない。

(イ)について
請求人の主張のとおり、請求人は「ホウ酸を配合した組成」と「ホウ酸未配合の組成」の両方の製品を製造し、乙第6号証の金属成分の分析試験は、ホウ酸未配合の製品の試験であるとしても、上記イ(ア)で検討したとおり、請求人は、ヘルスコ・キュアーがホウ酸類を含有することを立証していないことに変わりはないから、この主張からは、ヘルスコ・キュアーがホウ酸類を含有しているとはいえない。そして、請求人は、ホウ酸を配合した本件発明1又は3に対応する組成物を製造していたということはできないことは、上記イ(イ)bで述べたとおりである。なお、乙第6号証の金属分析試験がホウ酸未配合のものであるという請求人の主張は、乙第6号証に記載のヘルスコ・キュアーが、請求人が首尾一貫して主張するホウ酸の別表記としての天然鉱石が、20%含まれる旨の表記があることと矛盾しており、採用できない。

(ウ)について
上記イ(イ)bで述べたように、甲第41号証の記載から、本件発明1又は3に対応した組成物を製造していたとはいえない。加えて、請求人は、平成14年当時の全ての製品の製造記録・製造実績を示す資料類は紛失してしまったと主張するが、平成14年度当時のヘルスコ・キュアーの出荷量が1300缶であることすら立証されていないのであるから、甲第41号証に記載された組成物の缶数が適切な量であることが判断できないし、甲第41号証の組成物の記載が、製品の製造を記録したものであることも立証できておらず、この主張は採用できない。

オ まとめ
したがって、請求人の主張及び全ての証拠をみても、請求人の前代表者である吉松氏が本件優先日前に本件発明を完成したとすることはできない。
よって、請求人が吉松氏から特許を受ける権利を承継したか否かにかかわらず、請求人は、請求人適格を有さない。

このように、請求人は、請求人適格を有するものとはいえないが、念のため、冒認出願についての検討を更に行う。

(5)請求人の前代表者である吉松氏が本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人の代表者である齊藤氏に伝えたか、少なくとも被請求人の代表者である齊藤氏が本件発明の内容を知りうる状態にあったことについて
ア 事実認定
請求人の前代表者である吉松氏が本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人の代表者である齊藤氏に伝えたか、少なくとも被請求人の代表者である齊藤氏が本件発明の内容を知りうる状態にあったことに関しては、請求人及び被請求人の主張及び両者が提示した証拠から、以下の事実が認められる。

(2ア)甲第13号証によれば、平成11年7月15日に、請求人は、齋藤氏が代表取締役を務めていた株式会社日榮住宅建設と、請求人が製造・販売する木炭塗料(ヘルスコート)等の商品について、特約店販売契約を結んだ。

(2イ)甲第15号証によれば、平成13年7月15日に、請求人は、被請求人と、請求人が製造・販売する液状活性触媒炭 防蟻・防腐剤「ヘルスコ・キュアー」について、特約店販売契約を結んだ。

(2ウ)乙第22号証によれば、平成13年9月以降、被請求人は、請求人に対して、ヘルスコ・キュアーの安全データシートの提出を求めていたが、少なくとも平成14年4月11日までに送られることはなかった。

以下、上記(2ア)?(2ウ)で示した認定された事実を、「認定事実(2ア)」?「認定事実(2ウ)」という。

イ 判断
認定事実(2ア)及び(2イ)によれば、平成11年7月15日以降、請求人は被請求人とヘルスコートについての特約店販売契約を結び、平成13年7月15日に、請求人は被請求人とヘルスコ・キュアーについての特約店販売契約を結んだので、平成13年7月15日以降、被請求人がヘルスコ・キュアーの営業・販売をしていた事実は認められる。しかしながら、本件優先日前に、被請求人は請求人からヘルスコ・キュアーの原料とその配合割合を知らされたとする事実ついては、証拠がなく、むしろ、認定事実(2ウ)によれば、被請求人は請求人にヘルスコ・キュアーの安全データシートの提出を求めていたにもかかわらず、その提出がなかったことが推認される。
してみると、その他共同してヘルスコ・キュアーの研究を行ったといったその他の事情もなく、請求人(前代表者である吉松氏)が本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人(代表者である齊藤氏)に伝えたか、少なくとも被請求人(代表者である齊藤氏)が本件発明の内容を知り得る状態にあったと認めることはできない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成11年7月15日に、齋藤氏とヘルスコートについての特約店販売契約を結び、それ以降、吉松氏が齊藤氏にゴキブリに効くホウ酸団子がシロアリにも効く旨を伝え、また、木炭、アクリル系樹脂、ホウ酸から構成された防蟻用の塗料組成物について情報提供を行ったと主張している。(審判請求書第81頁第1?第9行、第82頁第2?8行)

エ 請求人の主張についての検討
請求人の主張について検討するが、吉松氏が齊藤氏にホウ酸団子がシロアリに効くことを伝えたとすること、また、木炭、アクリル系樹脂、ホウ酸から構成された防蟻用の塗料組成物についての情報提供を行ったことを認めるに足りる証拠はないので、請求人の主張はいずれも採用できない。

オ まとめ
以上のとおりであるので、請求人の主張及び全ての証拠をみても、請求人(前代表者である吉松氏)が本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人(代表者である齊藤氏)に伝えたか、少なくとも被請求人(代表者である齊藤氏)が本件発明の内容を知りうる状態にあったということはできない。

(6)本件特許出願の発明者が本件発明の真の発明者であることについて
ア 事実認定
本件特許出願の発明者が本件発明の真の発明者であることに関しては、請求人及び被請求人の主張及び両者が提示した証拠から、以下の事実が認められる。

(3ア)乙第61号証によれば、齊藤氏は、1968年(昭和43年)2月28日に高校を卒業後、同年4月1日に、株式会社アース商会に入社して、配送、営業の業務に携わった。その後、1973年(昭和48年)8月1日に、株式会社東建に入社して、設計、営業の業務に携わった。そして、1978年(昭和53年)9月1日に、建築工事業、不動産取引業を事業とする株式会社日榮住宅に入社し、設計、企画、営業に従事した。1984年(昭和59年)4月1日に、同社の代表取締役に就任した。1990年(平成2年)1月26日に、損害保険代理店である有限会社エイチ・アンド・シー(現在の株式会社エコパウダー(被請求人))を設立し、代表取締役に就任した。

(3イ)乙第16号証の1によれば、平成11年9月20日に、齋藤氏を発明者として、木炭粉末を接着剤により固定した木炭粉末の吸着特性とを活かした健康畳に関する発明を特許出願した(特願平11-264817号)。

(3ウ)乙第16号証の3によれば、平成14年8月6日(優先日:平成13年8月7日)に、齋藤氏を発明者及び出願人として、植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む塗膜性能に優れたエアゾール組成物を特許出願(特願2002-228172号)した。特許出願明細書の段落【0002】には、木炭は、シロアリの発生を防ぐ作用があることが記載され、同【0032】には、活用例として白蟻防除の例が記載されている。

(3エ)乙第16号証の4によれば、平成14年3月18日に、齋藤氏を発明者及び出願人として、植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む炭塗料を特許出願(特願2002-74560号)した。特許出願明細書の段落【0002】には、木炭は、シロアリの発生を防ぐ作用があることが記載され、同【0036】には、活用例として白蟻防除の例が記載されている。

(3オ)平成15年6月24日(優先日:平成14年6月28日)に、齊藤氏は、齋藤氏を発明者及び出願人として、本件発明の特許出願を行った。

(3カ)乙第40号証によれば、平成14年4月25日に、齊藤氏は、京都大学の今村祐嗣教授にホウ酸が配合された防蟻塗料の屋外防蟻試験を依頼した。

(3キ)乙第2号証によれば、本件特許出願に対して、平成20年3月18日付けで発送された拒絶理由通知に対し、比較実験例が記載された意見書が提出された。ここには、比較実験例を記載した以外の箇所に、平成15年4月11日以降、京都大学の今村祐嗣教授に野外防蟻効力試験の評価を依頼したことが記載されている。

(3ク)乙第54号証によれば、平成20年3月25日から同年5月20日までの期間、拒絶理由通知に対する比較実験が行われ、平成26年6月26日付け意見書(乙第2号証)の中で示した比較実験結果が得られた。

(3ケ)乙第60号証によれば、乙第2号証に示した比較実験は、齊藤氏が行った。

以下、上記(3ア)?(3ケ)で示した認定された事実を、「認定事実(3ア)」?「認定事実(3ケ)」という。

イ 判断
上記認定事実(3ア)によれば、齊藤氏は、昭和43年2月に高校を卒業し、他社における職務経験の後、昭和53年9月1日に株式会社日榮住宅に入社した。
昭和59年に同社の代表取締役に就任後、認定事実(3イ)によれば、平成11年には、本件発明の成分である木炭粉末の吸着特性を活かした健康畳に関する特許出願をし、認定事実(3ウ)によれば、平成14年8月6日(優先日:平成13年8月7日)に、本件発明の成分である植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む塗膜性能に優れたエアゾール組成物の特許出願をした(乙第16号証の3)。また、認定事実(3エ)によれば、平成14年3月18日に、本件発明の前提技術ということができる、植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む炭塗料についての特許出願をした(乙第16号証の4)。これら2件の特許出願には、活用例として白蟻防除が記載されている。
その後、認定事実(3オ)によれば、齊藤氏は、齊藤氏が発明者及び出願人である防蟻用組成物に係る本件特許出願を行った。このように、乙第16号証の3に始まり、乙第16号証の4へと続き本件特許出願まで、植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む塗料に関する一連の特許出願が継続してなされていることからすれば、冒認によりこれらの特許出願がすべてなされたと解することは不自然であり、少なくとも本件優先日前までに、齊藤氏が本件発明をするに足る行動をしていたことがうかがえる。

さらに、乙第16号証の4には、本件発明の前提技術といえる植物由来の炭粉末、ポリマーエマルジョンを含む炭塗料に係る発明が記載され、活用例として白蟻防除が記載されており、木炭がシロアリの発生を防ぐと記載されているから、上記前提技術を特許出願した後、それを前提として、シロアリの防除を課題とした本件発明を出願したことに不自然な点はない。

また、上記前提技術に基づいて、ホウ酸類を配合するという着想さえあり、それによるシロアリの防除効果が確認できれば本件発明を完成させることができるといえるから、上記前提技術を発明し、防蟻防除に関心をもって出願を行っていた齊藤氏が本件発明を着想し、その効果を確認して本件発明を完成したとしても、不自然なことはない。

さらに、本件発明の効果の確認については、認定事実(3カ)によれば、本件優先日前の平成14年4月25日に、齊藤氏は、第三者である京都大学の今村祐嗣教授に、ホウ酸が配合された防蟻塗料の屋外防蟻試験を依頼しているが、これは、認定事実(3キ)による、平成15年4月11日以降、本件特許出願の審査の過程において、拒絶理由に対する意見書に記載する対比実験のために、齊藤氏が京都大学の今村祐嗣教授に防蟻試験を依頼したことと符合しており、齊藤氏が本件優先日前に京都大学の今村祐嗣教授にホウ酸が配合された防蟻塗料の屋外防蟻試験を依頼したことを客観的に裏付けるものである。
そして、認定事実(3キ)?(3ケ)によれば、本件優先日の後ではあるが、本件特許出願に対して拒絶理由が通知された際に、拒絶理由に対して反論を行うため、齊藤氏自ら比較実験を開始し、滞りなく実験結果を得ており、これも、本件発明が齊藤氏によってなされたことを裏付けるものといえる。

これらのことを総合すれば、被請求人は、齊藤氏が本件発明を発明した事実を認めることができる実験記録等の直接的な証拠は提出していないが、一連の関連出願や今村教授とのやりとりの事実からみて、齊藤氏が本件発明を発明したことが強く推認できるといえ、他に齊藤氏が発明者でないとする合理的な理由及びそれを裏付ける証拠はない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、吉松氏が平成11年2月の時点で本件発明を完成しており、本件優先日前に、齋藤氏にホウ酸がシロアリに効果があることを伝えていたことを前提として、齋藤氏が本件発明を発明したとの主張、立証は、いずれも吉松氏が発明をしたとする主張、立証を覆していない旨を主張している。(平成28年11月16日口頭審理陳述要領書第3頁第22行?第4頁第22行、第8頁第5行?第10頁第8行)

また、乙第16号証の1?乙第16号証の4には、ホウ酸類を配合することは全く記載がなく、これらの証拠では、齊藤氏が本件発明の発明者である証拠にならない旨を主張している。(平成28年11月16日口頭審理陳述要領書第6頁第17行?第8頁第4行)

エ 請求人の主張についての検討
上記(4)及び(5)で述べたように、吉松氏が本件発明を発明したものということはできず、また、吉松氏が本件発明の内容を本件優先日前に、齊藤氏に伝えたか、少なくとも齊藤氏が本件発明の内容を知りうる状態にあったともいえないので、これらを前提とする請求人の主張は採用できない。

また、発明とは新たな技術思想を創作することであるから、本件発明とは別の特許出願である乙第16号証の1?乙第16号証の4にホウ酸類を配合することが記載されていないとしても、その後にホウ酸類を配合する発明をすることに不自然な点はなく、ホウ酸類を含むことが乙第16号証の1?乙第16号証の4に記載されていないことを理由に、齋藤氏が本件発明の発明者ではないということはできず、請求人の主張は採用できない。

(7)冒認出願のまとめ
上記(4)及び(5)で述べたように、請求人は、請求人の前代表者である吉松氏が、本件優先日前に本件発明を完成したこと、及び、本件発明の内容を本件優先日前に、被請求人の代表者である齋藤氏に伝えたか、少なくとも齋藤氏が本件発明の内容を知りうる状態にしたということについて、ともにこれらの主張を裏付ける証拠を十分に提出しておらず、一方、上記(6)で述べたように、被請求人は、請求人の主張立証を凌ぎ、齋藤氏が本件発明の真の発明者であることを一応推認し得るだけの主張立証をしており、その他これを疑わせる合理的な理由及びそれを裏付ける証拠は存在していない。

よって、本件特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願(冒認出願)に対してされたとはいえない。

(8)小括
上記で述べたとおり、請求人は特許を受ける権利を有する者であるということはできず、請求人は、請求人適格を有さないから、特許法第123条第2項に適合せず、この理由による無効審判の請求は不適法なものである。
また、請求人が主張する冒認出願の理由について検討しても、本件特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとはいえないから、改正前の特許法第123条第1項第6号に該当しない。
したがって、請求人が主張する無効理由5によっては、本件特許を無効とすることはできない。

第7 まとめ
以上のとおり、請求人が示した理由及び証拠によっては、本件発明1、3、8?14の特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、
前記ホウ酸類の含有量は1?40質量%であることを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、被膜形成性ポリマーエマルジョンと、ホウ酸類とを含有し、
被膜形成性ポリマーが、アクリル系ポリマー又は酢酸ビニル系ポリマーである防蟻用組成物。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、水溶性多糖類と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項9】
水溶性多糖類が、でんぷん又はセルロースエーテルである請求項8記載の防蟻用組成物。
【請求項10】
セルロースエーテルが、メチルセルロース又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項9記載の防蟻用組成物。
【請求項11】
塗膜形成用の防蟻用組成物であって、
植物由来の炭粉末と、ポリアミド樹脂と、ホウ酸類とを含有することを特徴とする防蟻用組成物。
【請求項12】
ポリアミド樹脂が、非晶性でエタノール可溶性のポリアミドである請求項11記載の防蟻用組成物。
【請求項13】
炭が、白炭又は白炭と黒炭の混合物である請求項1、3、8乃至12のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。
【請求項14】
さらに、シリカを配合することを特徴とする請求項1、3、8乃至13のいずれか一項に記載の防蟻用組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-02-27 
結審通知日 2017-03-01 
審決日 2017-03-21 
出願番号 特願2003-179339(P2003-179339)
審決分類 P 1 113・ 152- YAA (A01N)
P 1 113・ 121- YAA (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 智子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 佐藤 健史
瀬良 聡機
登録日 2008-08-29 
登録番号 特許第4177719号(P4177719)
発明の名称 防蟻用組成物  
代理人 堀田 明希  
代理人 梶村 龍太  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 大野 聖二  
代理人 大野 浩之  
代理人 森田 靖之  
代理人 大野 浩之  
代理人 大野 聖二  
代理人 有吉 修一朗  
代理人 大坪 めぐみ  
代理人 田中 雅敏  
代理人 酒谷 誠一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ