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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1329908
審判番号 不服2016-6376  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-07-26 
事件の表示 特願2015-502166「基板テーブルシステム、リソグラフィ装置および基板テーブル交換方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/143777、平成27年 4月30日国内公表、特表2015-513225、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)2月15日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年3月27日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月31日(発送 同年8月4日)で拒絶理由が通知され、同年10月20日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、平成28年1月5日付けで拒絶査定(謄本送達日 同年同月7日、以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、平成29年2月15日付け(発送 同年同月16日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年5月1日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年6月1日付け(発送 同年同月5日)で当審より拒絶理由(以下「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年6月27日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、平成29年6月27付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし12は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
基板テーブルと、第1方向および前記第1方向に直交する第2方向によって画定される水平な移動平面内で前記基板テーブルを移動させる双方向性モータと、を備える基板テーブルシステムであって、前記双方向性モータは、
前記第1方向に延在する第1プッシャ構造であって、前記基板テーブルが前記第1プッシャ構造に対して移動可能であり、前記第1プッシャ構造および前記基板テーブルは、協働して、前記第1プッシャ構造と前記基板テーブルとの間に前記第1方向の力を及ぼす第1モータを形成する、第1プッシャ構造と、
前記第1方向に延在する第2プッシャ構造であって、前記基板テーブルが前記第2プッシャ構造に対して前記第1および第2方向に沿って移動可能であり、前記第2プッシャ構造および前記基板テーブルは、協働して、前記第2プッシャ構造と前記基板テーブルとの間に前記第2方向の力を及ぼす第2モータを形成する、第2プッシャ構造と、を備え、
前記第1および第2プッシャ構造は、前記第2方向に沿って延在するフレーム構造に移動可能に接続され、前記フレーム構造は、前記第2方向に沿って前記第1プッシャ構造を案内するためのガイドフレームであり、
前記第1モータは前記基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすように構成され、前記第2モータは非接触モータである、基板テーブルシステム。
【請求項2】
前記基板テーブルには、前記第1プッシャ構造の少なくとも一部を収容する、前記第1方向に沿って延在する開口が設けられる、請求項1に記載の基板テーブルシステム。
【請求項3】
前記フレーム構造は、前記第2方向に沿って延在する2つの平行なガイドフレームを備え、前記第1プッシャ構造は、前記第1方向に沿って、一方の前記ガイドフレームから前記ガイドフレーム間の実質的に中間まで延在する、請求項1または2に記載の基板テーブルシステム。
【請求項4】
前記第2プッシャ構造は、前記第1方向に沿って、一方の前記ガイドフレームから他方の前記ガイドフレームまで延在する、請求項3に記載の基板テーブルシステム。
【請求項5】
前記第1プッシャ構造に含まれる前記第1モータの一部は、実質的に、前記第1プッシャ構造の長さに沿って前記第1方向に延在する、請求項1?4のいずれか1項に記載の基板テーブルシステム。
【請求項6】
前記第2プッシャ構造に含まれる前記第2モータの一部は、前記第1プッシャ構造に沿って延在する前記第1モータの前記一部の長さと少なくとも同じ長さに沿って前記第1方向に延在する、請求項1?5のいずれか1項に記載の基板テーブルシステム。
【請求項7】
前記第1および第2モータはそれぞれ、前記第1、第2プッシャ構造それぞれに含まれる磁石と、前記基板テーブルに含まれるコイルとで形成される、請求項1?6のいずれか1項に記載の基板テーブルシステム。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の基板テーブルシステムを備えるリソグラフィ装置。
【請求項9】
請求項1?7のいずれか1項に記載の基板テーブルシステムを2つ備え、前記基板テーブルシステムの前記基板テーブルが、前記基板テーブルシステムの前記第2プッシャ構造同士の間に配置される、請求項8に記載のリソグラフィ装置。
【請求項10】
前記第2方向に沿って見た場合、前記第1プッシャ構造は、前記第2プッシャ構造より低い高さを有し、前記基板テーブル同士の衝突を防ぐ中心クラッシュポールの周りに対称的に配置される、請求項9に記載のリソグラフィ装置。
【請求項11】
前記基板テーブルはそれぞれ、当該基板テーブルがその第2プッシャ構造に対向する側と、当該基板テーブルが他方の第2プッシャ構造に対向する側とに前記第2モータのそれぞれの一部を備える、請求項9または10に記載のリソグラフィ装置。
【請求項12】
前記リソグラフィ装置の投影システムの下に一方の前記基板テーブルを位置決めすることと、
他方の前記基板テーブルを、一方の前記基板テーブルに対して前記第1方向に隣接するように位置決めすることと、
前記他方の基板テーブルが前記投影システムの下に位置決めされる位置まで、前記一方および前記他方の基板テーブルを前記第1方向に同期的に移動させることと、
各基板テーブルに関して、それぞれの基板テーブルと、他方の前記基板テーブルシステムの前記第2プッシャ構造との間の接続を確立することと、各基板テーブルに関して、それぞれの基板テーブルと、その基板テーブルが交換前に接続されていた前記第2プッシャ構造との間の接続を解除することと、により前記基板テーブルシステムの前記基板テーブルを交換する、請求項9または10に記載のリソグラフィ装置。」

なお、本願発明2ないし7は、本願発明1を減縮した発明である。また、本願発明8は、本願発明2ないし7のいずれかの基板テーブルシステムを備えるリソグラフィ装の発明であり、さらに、本願発明9ないし12は、本願発明8を減縮した発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2004-134456号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、移動装置及び露光装置並びにデバイスの製造方法に関する。」

イ 「【0032】
次に、本発明の好適な第1の実施の形態に係る移動装置のより具体的な構成について説明する。図2は、本発明の好適な実施形態に係る移動装置のより具体的な構成を示す図である。図2に示すように、移動装置の基準面である平面ガイド面6は、基準構造体4上に設けられている。天板(X-Yステージ)5の下に設けられた可動部3(図1(b)を参照)は、静圧軸受7によって、平面ガイド面6に対して非接触に支持されており、XY方向に移動することができる。可動部3の両脇には、可動部3をY方向の長ストロークおよびX方向の短ストロークに駆動するための電磁アクチュエータ8(不図示)、8’が設けられている。電磁アクチュエータ8、8’は、それぞれ左右に互いに分離・独立した可動子2、2’と固定子1、1’とを含む(図1(a)、(b)を参照)。左右の可動子2、2’には、それぞれ左右2個の可動部Yマグネット10と、左右2個の可動部Xマグネット11とが取り付けられている。固定子1、1’は、静圧軸受9(図1(b)を参照)によって、平面ガイド面6に対して非接触に支持されており、XY方向(平面方向)に移動することができる。また、固定子1、1’は、所定の質量を持ち、可動部3及び可動子2、2’を含む可動体300の加減速によって生じる反力を、平面ガイド面6上を移動することによって吸収することができる。また、固定子1、1’の内部には、X軸リニアモータ単相コイル12と、Y方向に複数のコイルを並べたY軸リニアモータ多相コイル13とが配置され、これらを切り替えてX軸及びY軸の移動を行うことができる。
【0033】
天板(X-Yステージ)5の位置は、レーザヘッド16、Y軸計測用ミラー17、X軸計測用バーミラー18、左右2個のY軸計測用ディテクタ19、前後2個のX軸計測用ディテクタ20等から構成されるレーザ干渉計によって計測される。即ち、天板5のX軸方向の位置は、天板5に塔載された光学素子22、22’にY方向からレーザ光が照射され、その計測光がX軸方向に反射または偏光されてX軸計測用バーミラー18に照射されて、X軸計測用ディテクタ20で計測される。また、天板5のY軸方向の位置は、Y方向からレーザ光がY軸計測用バーミラー17に照射されて、X軸計測用ディテクタ19によって計測されることにより行われる。固定子1、1’のY軸方向の位置は、左右2つの固定子Y軸計測用ディテクタ21によって計測される。
【0034】
天板(X-Yステージ)5上に基板(ウエハ)が載置された可動部3は、可動子2、2’と固定子1、1’とでそれぞれ構成される電磁アクチュエータ8、8’によってXY方向に移動する。固定子1、1’は、可動部3及び可動子2、2’を含む可動体300に作用する力の反力を受ける。固定子1、1’は、この反力によって、平面ガイド面6上を移動する。固定子1、1’は、平面ガイド面6上を移動することによって、反力を吸収することができる。本実施形態では、例えば、可動部3を含む可動体300が+Y方向に移動すると、固定子1、1’は-Y方向に反力を受けて、-Y方向に移動する。
【0035】
さらに、本実施形態では、固定子1、1’をY軸方向へ駆動するアクチュエータとして、左右2個のY軸位置制御用リニアモータ14、14’が基準構造体4に設けられている。同様に、固定子1、1’をX軸方向へ駆動する左右前後4個のX軸位置制御用リニアモータ15、15’が基準構造体4に設けられている。
【0036】
また、X軸位置制御用リニアモータ15、15’の各々の支線の左右に、前後計4個のX方向位置測定器が設けられ(不図示)、固定子1、1’のX方向の位置を計測することができる。」

ウ 図1及び2は次のものである。

図2


(2)上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「平面ガイド面6は、基準構造体4上に設けられ、
天板(X-Yステージ)5の下に設けられた可動部3は、静圧軸受7によって、平面ガイド面6に対して非接触に支持されており、XY方向に移動することができ、
前記可動部3の両脇には、可動部3をY方向の長ストロークおよびX方向の短ストロークに駆動するための電磁アクチュエータ8、8’が設けられ、
前記電磁アクチュエータ8、8’は、それぞれ左右に互いに分離・独立した可動子2、2’と固定子1、1’とを含み、
前記左右の可動子2、2’には、それぞれ左右2個の可動部Yマグネット10と、左右2個の可動部Xマグネット11とが取り付けられ、
前記固定子1、1’は、静圧軸受9によって、平面ガイド面6に対して非接触に支持されており、XY方向(平面方向)に移動することができ、また、固定子1、1’は、所定の質量を持ち、可動部3及び可動子2、2’を含む可動体300の加減速によって生じる反力を、平面ガイド面6上を移動することによって吸収することができ、また、固定子1、1’の内部には、X軸リニアモータ単相コイル12と、Y方向に複数のコイルを並べたY軸リニアモータ多相コイル13とが配置され、これらを切り替えてX軸及びY軸の移動を行うことができ、
前記固定子1、1’をY軸方向へ駆動するアクチュエータとして、左右2個のY軸位置制御用リニアモータ14、14’が基準構造体4に設けられ、同様に、前記固定子1、1’をX軸方向へ駆動する左右前後4個のX軸位置制御用リニアモータ15、15’が基準構造体4に設けられている、移動装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2008-147635号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を露光する露光装置、露光方法及びデバイス製造方法に関する。」

イ 「【0129】
基板ステージ駆動システム5は、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを同期移動させる際に、透過部材81、透過部材82、第1基板ステージ1、及び第2基板ステージ2の少なくとも1つが、第1光学素子8との間で、液体LQを保持可能な空間を形成するために、第1基板ステージ1の透過部材81の端面81Eと第2基板ステージ2の透過部材82の端面82Eとを接近又は接触させる(SE2)。
【0130】
制御装置7は、透過部材81、透過部材82、第1基板ステージ1、及び第2基板ステージ2の少なくとも1つが、第1光学素子8との間で液体LQを保持可能な空間を形成し続けるようにする。すなわち、透過部材81の端面81Eと透過部材82の端面82Eとを接近又は接触させた状態で、第1光学素子8と対向する位置を含むガイド面GFの第1領域SP1で、基板ステージ駆動システム5を用いて、第1光学素子8に対して、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とをXY平面内で同期移動する(SE3)。本実施形態においては、制御装置7は、第1基板ステージ1の透過部材81の端面81Eと第2基板ステージ2の透過部材82の端面82Eとを接近又は接触させた状態で、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを+X方向に同期移動する。これにより、図9に示すような、第1基板ステージ1及び透過部材81の少なくとも一方と第1光学素子8とが対向する状態から、図10に示すような、第2基板ステージ2及び透過部材82の少なくとも一方と第1光学素子8とが対向する状態に変化させることができる。すなわち、第1基板ステージ1及び透過部材81の少なくとも一方と第1光学素子8との間に液体LQが保持されている状態から、第2基板ステージ2及び透過部材82の少なくとも一方と第1光学素子8との間に液体LQが保持される状態に変化させることができる。なお、図示はしていないが、図9に示す状態から図10に示す状態に変化する過程で、制御装置7は、まず、第1基板ステージ1の透過部材81の端面81Eと第2基板ステージ2の透過部材82の端面82Eとを接近又は接触させた状態で、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを-Y方向に同期移動して、液浸空間LSがY方向において透過部材81の端面81Eに形成されている段差81Dの位置に至るまで移動する。次いで、制御装置は、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを+X方向に同期移動して、液浸空間LSが透過部材81、82の端面81E、82Eに形成されている段差81D、82Dの上を通過して第2基板ステージ2上に移動することができる。そして、制御装置は、第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを+Y方向に同期移動して図10に示すような配置に第1光学素子8を位置づけることができる。ここで、液浸空間LSが第1基板ステージ1(または透過部材81)から第2基板ステージ2(または透過部材82)に移動した後、第1、第2基板ステージ1、2を図10に示す配置にすることなく、第1基板ステージ1の第2領域SP2への移動、及び第2基板ステージ2の第1領域SP1内の所定位置、例えば光センサ75による計測が行われる位置、あるいは露光開始位置への移動を開始しても良い。また、第1、第2基板ステージ1、2を図8、図9に示す配置にした時点で、Y軸方向に関して第1光学素子8が透過部材81、82の段差81D、82Dとほぼ同一位置となるように第1、第2基板ステージ1、2を位置決めしても良い。」

ウ 図8ないし10は次のものである。
図8

図9

図10


(2)上記(1)によれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されているものと認められる。
「第1基板ステージ1と第2基板ステージ2とを同期移動させる基板ステージ駆動システム。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「可動部3」及び「(可動部3の)移動装置」は、本願発明1における「基板テーブル」及び「基板テーブルシステム」に相当する。

イ 引用発明における「電磁アクチュエータ8、8’」は、「可動部3の両脇に」、「可動部3をY方向の長ストロークおよびX方向の短ストロークに駆動するため」に「設けられ」、「可動部3は、静圧軸受7によって、平面ガイド面6に対して非接触に支持されており、XY方向に移動することができ」るから、本願発明1における、「第1方向および前記第1方向に直交する第2方向によって画定される水平な移動平面内で前記基板テーブルを移動させる」「双方向性モータ」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「基板テーブルと、第1方向および前記第1方向に直交する第2方向によって画定される水平な移動平面内で前記基板テーブルを移動させる双方向性モータと、を備える基板テーブルシステム。」

(相違点)
本願発明1の「双方向性モータ」は、「前記第1方向に延在する第1プッシャ構造であって、前記基板テーブルが前記第1プッシャ構造に対して移動可能であり、前記第1プッシャ構造および前記基板テーブルは、協働して、前記第1プッシャ構造と前記基板テーブルとの間に前記第1方向の力を及ぼす第1モータを形成する、第1プッシャ構造と、前記第1方向に延在する第2プッシャ構造であって、前記基板テーブルが前記第2プッシャ構造に対して前記第1および第2方向に沿って移動可能であり、前記第2プッシャ構造および前記基板テーブルは、協働して、前記第2プッシャ構造と前記基板テーブルとの間に前記第2方向の力を及ぼす第2モータを形成する、第2プッシャ構造と、を備え、前記第1および第2プッシャ構造は、前記第2方向に沿って延在するフレーム構造に移動可能に接続され、前記フレーム構造は、前記第2方向に沿って前記第1プッシャ構造を案内するためのガイドフレームであり、前記第1モータは前記基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすように構成され、前記第2モータは非接触モータである」(以下「構成X」という。)のに対し、引用発明の「電磁アクチュエータ8、8’」は、単一の「プッシャ構造」に相当するから、「第1プッシャ構造」及び「第2プッシャ構造」からなるものではなく(以下「相違点1」という)、また、「電磁アクチュエータ8、8’」が「基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすように構成され」るものとはされない点(以下「相違点2」という)。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討すると、引用発明の「電磁アクチュエータ8、8’」(プッシャ構造に相当)は「固定子1、1’の内部には、X軸リニアモータ単相コイル12と、Y方向に複数のコイルを並べたY軸リニアモータ多相コイル13とが配置され、これらを切り替えてX軸及びY軸の移動を行うことができ」るものであるとともに、さらに、「前記固定子1、1’をY軸方向へ駆動するアクチュエータとして、左右2個のY軸位置制御用リニアモータ14、14’が基準構造体4に設けられ、同様に、前記固定子1、1’をX軸方向へ駆動する左右前後4個のX軸位置制御用リニアモータ15、15’が基準構造体4に設けられている」ものである。
そうすると、「X軸及びY軸の移動を行うことができ」る「電磁アクチュエータ8、8’」、「Y軸位置制御用リニアモータ14、14’」及び「X軸位置制御用リニアモータ15、15’」が設けられている引用発明の「電磁アクチュエータ8、8’」(プッシャ構造に相当)を、「第1プッシャ構造」及び「第2プッシャ構造」からなるものとする必要性がなく、引用発明において上記相違点に係る本願発明1の構成となす動機はない。
また、引用文献2に記載の事項を見ても、引用発明において、「固定子1、1’をX軸方向へ駆動する左右前後4個のX軸位置制御用リニアモータ15、15’」にかえて、「電磁アクチュエータ8、8’」に相当するプッシャ構造を設けるとの記載も、また、このようにすることを示唆する記載もない。
したがって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし12について
本願発明2も、本願発明1の「双方向性モータ」は、上記構成Xと同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1ないし12について、上記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、及び、上記引用文献1及び2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年6月27日付け手続補正により補正された請求項1ないし12は、それぞれ上記構成Xを有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし12は、引用発明ではなく、また、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由1の概要は次のとおりである。
本願明細書によれば、本願発明の解決すべき課題は「第1モータが基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼす構成であること」、及び、本願発明の解決すべき課題を解決する手段は「第2モータを非接触モータとすること」と理解される。
しかしながら、本願請求項1に係る発明は、本願発明の解決すべき課題を解決する構成を特定しない。
そして、本願発明の解決すべき課題を解決する構成を備えない本願請求項1に係る発明は、本願発明の解決すべき課題解決できない、本願明細書に記載されていない発明を含むと認められ、本願請求項1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 当審拒絶理由2の概要は次のとおりである。
本願明細書には、「図2に示すような構成は、第1モータが基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼし、かつ/または第2モータが基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすことを可能にし得る。」(【0027】)、及び、「本明細書に開示される概念は、第1および第2モータによって基板テーブルの重心に力を及ぼすことを可能にすることに加えて、高い処理能力も可能にする。」(【0028】)と記載される。
しかるところ、「高い処理能力を可能にする基板テーブルシステムを提供する」(【0007】)との課題を解決するためには、「第1モータが基板テーブルの重心に力を及ぼ」す必要がある。
これに対して、請求項1は、「前記第1モータ及び/又は前記第2モータは、前記基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすように構成され」るものと特定されるため、課題を解決できない発明を含む表現となっているから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないと認められ、本願請求項1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 平成29年6月27付けの手続補正により、本願請求項1は、「前記第1モータは前記基板テーブルの実質的に重心に力を及ぼすように構成され、前記第2モータは非接触モータである」と補正された結果、上記「1」及び「2」の拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし12は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-07-14 
出願番号 特願2015-502166(P2015-502166)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松岡 智也田口 孝明  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 小松 徹三
松川 直樹
発明の名称 基板テーブルシステム、リソグラフィ装置および基板テーブル交換方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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