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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06K
管理番号 1330097
異議申立番号 異議2016-701122  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-08 
確定日 2017-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5932470号発明「ICカード」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5932470号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。 特許第5932470号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5932470号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成24年5月8日に特許出願され、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人藤江 桂子(以下、単に「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年1月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月3日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年5月10日付けで意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項は、以下のア、イのとおりである。
ア 訂正事項1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記アンテナの両端が接続されるアンテナ端子を両端部に有する基板と」とあるのを、「前記アンテナの両端が接続されるアンテナ端子を両端部の上に有する基板と」と訂正する。
イ 訂正事項2
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に「前記接続パターンは、間隔を存して複数本配設され」とあるのを、「前記延出部の長さは前記アンテナ端子の長さより短く形成され、前記接続パターンは、間隔を存して複数本配設され」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1とこれを引用する請求項2との訂正であって、これらの一群の請求項について訂正の請求が行われたものである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「【0015】図中5は、フレキシブルな基板で、この基板5上の略中央部にはLSI6が実装され、両端部にはアンテナ端子9が設けられている。また、基板5上にはその両端部のアンテナ端子9とLSI6の相対する辺との間に位置してワイヤボンディング専用の端子7がそれぞれ配置されている。・・・」「【0017】なお、封止材10の下に端子7があると封止材10と基板5との接着力低下につながるので、封止材10の下に存在する端子7はアンテナ端子9よりも幅狭に形成されている。」との記載があり、基板5に対してアンテナ端子9及びワイヤボンディング専用の端子7が設けられた方向を「上」とし、封止剤10に対しワイヤボンディング専用の端子7が設けられている方向が「下」である旨が示されている。
このことから、訂正事項1は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内において、「アンテナ端子」が「基板」の「上」方向にある旨を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1とこれを引用する請求項2との訂正であって、これらの一群の請求項について訂正の請求が行われたものである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「【0015】 図中5は、フレキシブルな基板で、この基板5上の略中央部にはLSI6が実装され、両端部にはアンテナ端子9が設けられている。また、基板5上にはその両端部のアンテナ端子9とLSI6の相対する辺との間に位置してワイヤボンディング専用の端子7がそれぞれ配置されている。・・・」「【0016】ところで、上記したLSI6上のパッド6aは、LSI6の相対する辺の近傍に一つずつ配置され、また、上記したワイヤボンディング専用の端子7は、LSI6のパッド6aが配置される辺に沿って延出するように形成される延出部7aと、この延出部7aと上記アンテナ端子9とを接続する接続パターン7bとを有して構成されている。」との記載があり、図3及び図11においては、延出部7aの長さがアンテナ端子9の長さより短いものが図示されている。さらに、「【0017】なお、封止材10の下に端子7があると封止材10と基板5との接着力低下につながるので、封止材10の下に存在する端子7はアンテナ端子9よりも幅狭に形成されている。」との記載があるところ、図3及び図11とこの段落【0017】の記載とを併せてみれば、延出部7aの長さがアンテナ端子9の長さより短いことによって、端子を「幅狭」のものとするのと同様に、「端子7」による「封止材10と基板5との接着力低下」が生じなくなるという作用効果を奏することも明らかである。
以上を踏まえれば、訂正事項2は、本件特許の明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「延出部」が「前記アンテナ端子の長さより短く形成され」た「長さ」のものである旨を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
アンテナを有するカード基材と、
このカード基材上に搭載され、前記アンテナに接続されるICモジュールとを備え、
前記ICモジュールは、
前記アンテナの両端が接続されるアンテナ端子を両端部の上に有する基板と、
この基板上に前記アンテナ端子間に位置して搭載され、一対のパッドを有するLSIと、
前記基板上に前記LSIの相対する辺と前記アンテナ端子との間に位置してそれぞれ配置され、前記アンテナ端子に電気的に接続されるワイヤボンディング専用端子と、
このワイヤボンディング専用端子と前記LSIの前記パッドとを電気的に接続するワイヤとを具備し、
前記ワイヤボンディング専用端子は、前記LSIの辺に沿って延出するように形成され前記ワイヤが接続される延出部、及びこの延出部と前記アンテナ端子とを接続する接続パターンを有し、
前記延出部の長さは前記アンテナ端子の長さより短く形成され、
前記接続パターンは、間隔を存して複数本配設され、
前記LSI、前記ワイヤボンディング専用端子の前記延出部、及び前記ワイヤを前記接続パターンの少なくとも一部分とともに封止材で封止して構成されるICカード。
【請求項2】
前記カード基材の両面にオーバシート材を張り合わせた請求項1に記載のICカード。

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して平成29年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1及び2に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:国際公開2011/088987号(甲第4号証)
引用文献2:Klaus Finkenzeller,ソフト工学研究所訳,
RFIDハンドブック,日刊工業新聞社,2001年02月26日,
260-261ページ
引用文献3:坂川義満,ICカードの技術解説,会誌ENCORE,
一般社団法人半導体産業人協会,2001年1月31日,
No16,11-12ページ
(発行元のHP「開発ものがたり」
http://www.shmj.or.jp/dev_storyより取得。)
引用文献4:最新略語辞典2000,DOS/V POWER REPORT,
2000年04月01日,第10巻,第4号,
付録26ページ
引用文献5:特開2004-234593号公報(甲第1号証)
引用文献6:特許4179423号公報(甲第2号証)
引用文献7:特開2003-218172号公報(甲第3号証)

(3)引用文献1(甲第4号証)の記載
引用文献1(国際公開2011/088987号)には、以下の記載がある。
(引用文献1は、国際出願にかかる国際公開がなされたものであるところ、国内移行(特願2012-549286号)に伴い提出された翻訳文による国内公表(特表2013-517959号公報)がなされたことを踏まえ、この国内公表を翻訳文とし,以下では、この国内公表の記載箇所により説示する。)

ア 【0002】
「【背景技術】
【0002】
非接触チップカードの製造において、金属箔からプリント導体をパンチすることが通例である。これは、特に、チップが後に適用されるキャリア領域(分離領域とも呼ばれる)、及びチップが後に導電性手段で接続される接触領域(アンテナ領域とも呼ばれる)を生成する。キャリア領域は、ブランキングを介して接触領域から大きく空間的に隔てられ、金属箔から提供された2つの狭いフィン(mass fins)を介して残存する金属箔に接続される。
【0003】
細長い箔片としての金属箔に同一のプリント導体パターンの周期的なモジュールの配置を提供することは、チップを提供可能にし、また、自動装置を用いて、通常、接触ワイヤを介して接触領域に電気的に接触することを可能にする。接触の後、チップは、キャスティングコンパウンドにより覆われる。接触ワイヤとの接触及びキャスティングコンパウンドによるカバレージは、キャリア領域を金属箔に固定する。続いて、チップ及び周囲のプリント導体パターンは、箔片からワンピースでパンチされ、チップカードの対応する部位に挿入される。」

イ 【0029】-【0030】
「【0029】
また、接触領域(70)からキャリア領域(60)を隔てるブランキング(80)が提供される。よって、ブランキング(80)は、金属箔(20)が無いキャリア領域(60)と接触領域(70)との間で、凹部となるように理解される。
【0030】
接触領域(70)からキャリア領域(60)を隔てるブランキング(80)だけでなく、所望のプリント導体パターンを生成するブランキングが、さらに提供されうる。前記のさらなるブランキングの形状及びデザインは、制限されない。」

ウ 【0073】-【0076】
「【0073】
本発明は、さらに、上述した金属部品(30)と同様に、金属テープのモジュール(11)を含むサブアセンブリ(10)に関する。
【0074】
モジュール(11)は、電子部品(30)の用途のためのキャリア領域(60)であって、互いに平行かつコーナー(64)により隣接する少なくとも二つの辺(62)を有するキャリア領域と、互いに平行なキャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(62)の周囲、及び互いに平行なキャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(62)のコーナー(64)の周囲全体に延びる接触領域(70)であって、互いに平行なキャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(62)のコーナー(64)の周囲に延びる接触領域(70)の当該領域は、丸くなっている、接触領域(70)と、接触領域(70)からキャリア領域(60)を隔てるブランキング(80)と、を含み、少なくとも前記接触領域(70)は、前記ブランキング(80)に接続されるアンダーカット(50)を含む。
【0075】
モジュール(11)のデザイン及びモジュール(11)の部品については、上記の説明を参照して下さい。
【0076】
サブアセンブリ(10)は、電子部品(30)をさらに含む。好ましくは、前記電子部品(30)は、集積回路であり、特にチップである。」

エ 【0079】-【0080】
「【0079】
したがって、電子部品(30)は、キャスティングコンパウンド(40)により覆われる。キャスティングコンパウンド(40)もまた、接触領域(70)及び適用可能であれば、キャリア領域(60)のアンダーカット(50)に位置される。この文脈において、電子部品(30)を取り囲むキャスティングコンパウンド(40)は、接触領域(70)及び適用可能であれば、キャリア領域(60)に固定される。
【0080】
好ましい実施形態によれば、サブアセンブリ(10)は、接触ワイヤをさらに含み、各接触ワイヤの一端は、電子部品に配置され、他端は、接触領域(70)の一つに配置される。接触ワイヤは、主として電子部品(30)及び接触領域(70)の電気的な接触の役割を果たす。」

オ 図1


図1には,モジュール(11)が示されており,キャリア領域(60)の領域内に一点鎖線で矩形が描かれている。これは,電子部品(30)の設置位置と見て取れる。そして,電子部品(30)の左右の各辺に対し,キャリア領域(60)及び接触領域(70)の各辺が平行であることも見て取れる。
また,モジュール(11)は,接触領域(70)のさらに外側の金属領域(以下「端子部」という。)を有していることが見て取れる。さらに,モジュール(11)は,この端子部と接触領域(70)とは,間隔を開けて計3箇所で接続されている部分(以下「接続部」という。)を有していることが見て取れる。

カ 図2

図2には,サブアセンブリ(10)の断面を示されており,図1の二つの矢印によりマークされた平面の位置のものである。
接触領域(70)とキャリア領域(60)との間,接触領域(70)と端子部との間には凹部が示されている。このことから,図1において実線で囲まれた部分はブランキングであることが見て取れる。
また,キャスティングコンパウンド(40)と接触領域(70)及びブランキングの位置関係から,キャスティングコンパウンド(40)は,電子部品(30),接触領域(70),接続ワイヤ,接続部,及び,端子部の一部を覆っていることが見て取れる。
さらに,接続部がキャスティングコンパウンド(40)に覆われていることから,サブアセンブリと外部回路との接続は端子部を介して行われるものといえる。

キ 上記アからカによれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

非接触チップカードに用いるサブアセンブリ(10)であって,
サブアセンブリ(10)は,
金属テープのモジュール(11)と,電子部品(30)と,接触ワイヤとを含み,
前記金属テープのモジュール(11)は,
前記電子部品(30)の用途のためのキャリア領域(60)であって,互いに平行かつコーナー(64)により隣接する少なくとも二つの辺(62)を有するキャリア領域と,
互いに平行な前記キャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(62)の周囲,及び互いに平行な前記キャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(1)のコーナー(64)の周囲全体に延びる接触領域(70)であって,互いに平行なキャリア領域(60)の少なくとも二つの辺(62)のコーナー(64)の周囲に延びる接触領域(70)の当該領域は,丸くなっている,接触領域(70)と,
前記接触領域(70)から前記キャリア領域(60)を隔てるブランキング(80)と,
前記接触領域(70)よりもモジュールの外側に残された金属箔からなる端子部と,
前記接触領域(70)と前記端子部とを接続する接続部と を含み,
前記電子部品(30)は,集積回路であり,特にチップであり,前記キャリア領域に設置され,
前記接触ワイヤは,その一端が,前記電子部品(30)に設置され,他端が,前記接触領域(70)の一つに配置することにより両者を電気的に接触させるものであって,
前記金属テープのモジュール(11)の接続部は,間隙を有して3本ずつ配置され,
前記電子部品(30),前記接触領域(70),前記接触ワイヤ,及び,接続部はキャスティングコンパウンド(40)により覆われている
ことを特徴とするサブアセンブリ(10)。

(4) 判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア) 本件発明1と引用発明とを対比すると、本件発明1においては、「延出部の長さ」が「アンテナ端子の長さより短く形成され」ているのに対し、引用発明は、「延出部の長さ」が「アンテナ端子の長さより短く形成され」ているものではない。
そして、当該事項により、本件発明1は、1.(2)イにおいて上述したとおり、端子を「幅狭」のものとするのと同様に「端子7」による「封止材10と基板5との接着力低下」が生じなくなるという作用効果を奏するものである。
また、引用文献1においては、チップ及び周囲の導体パターンが薄片からパンチされる((3)ア)ところ、その際、あえて「接触領域(70)」の長さを「端子部」のそれより短くする等の両者の長さを異ならせることを示唆する記載は見当たらないし、取消理由通知で提示した引用文献2乃至7を含め他の文献においても、この点について容易想到であると判断すべき根拠は見当たらない。
以上によれば、本件発明1は、引用発明と同一のものでないし、引用発明に基づいて当業者が容易想到であるとすることはできない。

(イ) 本件発明1を限定した発明である本件発明2についても、アと同様の理由により、引用発明と同一のものでないし、引用発明に基づいて当業者が容易想到であるとすることはできない。

イ 特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、訂正事項2について新規事項追加禁止要件及び実質拡張変更要件に違反する旨、「延出部の長さ」が「アンテナ端子の長さより短く形成され」ている点は引用文献1(甲第4号証)に記載されている旨、及び、訂正事項2について明確性要件に違反する旨を述べているが、以下に示すとおり、いずれも採用することができない。

(ア) 訂正事項2について新規事項追加禁止要件及び実質拡張変更要件に違反する旨について
訂正事項2が新規事項追加禁止要件及び実質拡張変更要件に違反するものでないことは、2.(2)イにおいて上述したとおりである。

(イ) 「延出部の長さ」が「アンテナ端子の長さより短く形成され」ている点は引用文献1に記載されている旨について
特許異議申立人は、引用文献1(甲第4号証)記載の発明の「接触領域70」はアンテナ領域の幅より内側で曲げられており、「接触領域70」の幅はアンテナ領域の幅より短く形成されていると述べている。
しかし、引用文献1の図1によれば、「接触領域70」は、アンテナ領域の幅より内側で曲げられているが、さらに、幅方向外側に延出していることが認められるのであり、チップ及び周囲の導体パターンが薄片からパンチされる((3)ア)際、この「接触領域(70)」の長さを「端子部」の長さと異なるものとすることは、記載されていない。特許異議申立人の意見は、引用文献1の記載内容を正解しないものである。

(ウ)訂正事項2について明確性要件に違反する旨について
特許異議申立人は、訂正事項2の「長さ」とはどの長さを指すのか、「両端部」とは何のどこに対する両端部なのかが不明瞭であると述べている。
しかし、訂正後の請求項1の「延出部」とは、「LSIの相対する辺」と「アンテナ端子」との間に位置して配置された「ワイヤボンディング専用端子」における「前記LSIの辺に沿って延出するように形成され前記ワイヤが接続される延出部」であり、また、「アンテナ端子」は「基板」の「両端部」の上に有るから、「延出部の長さ」は、基板の両端部のアンテナ端子とワイヤボンディングされるLSIの辺に沿って延出した方向の長さであることが、文言上、明らかであり、具体的に本件図面の図3及び11に即していえば、左右方向に延出部が延出していることから、左右方向の「長さ」に対応するものである。
また、「両端部」とは、LSIが搭載される位置が「両端部の上」の「アンテナ端子間」となることを踏まえた「基板」の「両端部」を意味することが、文言上、明らかであり、具体的に本件図面の図3,4,6,7,8及び11に即していえば、アンテナ端子9が設けられた、ICモジュール2の基板5の両端部に対応するものである。

ウ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(ア) 特許異議申立人は、訂正前後の特許請求の範囲の請求項1及び2についての異議申立の理由として、取消理由として通知された理由の主引用例である甲第4号証(引用文献1)に記載された発明に基づく特許法第29条第1項第3号又は同条2項の違反の他、頒布された刊行物である甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基づく特許法第29条第1項3号又は同条2項の違反について述べている。
しかし、甲第1号証(取消理由の引用文献5)、甲第2号証(同引用文献6)又は甲第3号証(同引用文献7)のいずれにおいても、アにおいて述べた「延出部の長さ」が「アンテナ端子の長さより短く形成され」ていることについての記載も示唆も見当たらないから、アと同様の理由により、本件発明1及び本件発明2について、これらの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易想到であるとすることはできない。

(イ) さらに、特許異議申立人は、本件図4では、延出部7a及びアンテナ端子9が隔離されているから、アンテナとしての機能を奏しない、「LSI6のパッド6a」に対応する図示がない等として、実施可能要件違反についても述べている。
しかし、本件図4は、延出部7a及びアンテナ端子9を接続する接続パターンが設けられていない部分の断面図であって延出部7a及びアンテナ端子9が隔離されていることを図示したものではないし、本件特許の明細書は、「LSI6のパッド6a」に対応する図示がなくとも、実施可能であることが明らかである。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを有するカード基材と、
このカード基材上に搭載され、前記アンテナに接続されるICモジュールとを備え、
前記ICモジュールは、
前記アンテナの両端が接続されるアンテナ端子を両端部の上に有する基板と、
この基板上に前記アンテナ端子間に位置して搭載され、一対のパッドを有するLSIと、
前記基板上に前記LSIの相対する辺と前記アンテナ端子との間に位置してそれぞれ配置され、前記アンテナ端子に電気的に接続されるワイヤボンディング専用端子と、
このワイヤボンディング専用端子と前記LSIの前記パッドとを電気的に接続するワイヤとを具備し、
前記ワイヤボンディング専用端子は、前記LSIの辺に沿って延出するように形成され前記ワイヤが接続される延出部、及びこの延出部と前記アンテナ端子とを接続する接続パターンを有し、
前記延出部の長さは前記アンテナ端子の長さより短く形成され、
前記接続パターンは、間隔を存して複数本配設され、
前記LSI、前記ワイヤボンディング専用端子の前記延出部、及び前記ワイヤを前記接続パターンの少なくとも一部分とともに封止材で封止して構成されるICカード。
【請求項2】
前記カード基材の両面にオーバシート材を張り合わせた請求項1に記載のICカード。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-06-01 
出願番号 特願2012-106612(P2012-106612)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G06K)
P 1 651・ 121- YAA (G06K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 正悟  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 相崎 裕恒
石川 正二
登録日 2016-05-13 
登録番号 特許第5932470号(P5932470)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 ICカード  
代理人 峰 隆司  
代理人 峰 隆司  
代理人 森川 元嗣  
代理人 飯野 茂  
代理人 飯野 茂  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 森川 元嗣  
代理人 蔵田 昌俊  

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