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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E21D
管理番号 1330124
異議申立番号 異議2017-700080  
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-08-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-01 
確定日 2017-07-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5960942号発明「セグメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5960942号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5960942号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成21年10月27日に特許出願され、平成28年7月1日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人新日鐵住金株式会社(以下「申立人」という。)より請求項1?3に対して特許異議の申立てがされ、平成29年3月30日付けで取消理由(発送日同年4月7日)が通知され、その指定期間内である同年6月1日に意見書が提出されたものである。

第2 特許異議の申立てについて
1 請求項1ないし3に係る発明
請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」等、あるいはまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された、以下のとおりのものである。

本件発明1
「【請求項1】
周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成するセグメントであって、
前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり、
前記枠体は、外周側に設けられたスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられて前記周方向に延びる一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板と、前記一対の主桁板同士に掛け渡して設けられた複数のリブとを備え、
前記リブの前記内周側又は前記外周側の少なくとも一方の表面に、前記周方向に延びる主鋼材を当接させて前記軸方向に複数配列し、
これら複数の主鋼材の少なくとも一部の配列に巻き付くように前記リブとの間に前記主鋼材を挟んで固定するとともに前記リブに固定される配力筋を設け、更に該配力筋は前記主鋼材を固定させた前記リブの一方の表面とは反対側の他方の表面に延びて前記リブに交差する方向に屈曲されて当接させてなり、
しかも、前記配力筋を前記リブの対向する両面にそれぞれ配設して前記屈曲された部分を互いに逆向きに形成したことを特徴とするセグメント。」

本件発明2
「【請求項2】
前記複数の主鋼材が前記リブの前記内周側及び前記外周側にそれぞれ配列されていることを特徴とする請求項1に記載のセグメント。」

本件発明3
「【請求項3】
前記複数の主鋼材が前記リブの内周側にのみ配列されていることを特徴とする請求項1に記載のセグメント。」

2 取消理由の概要
請求項1ないし3に係る特許に対して平成29年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 甲各号証の記載
(1)甲第1号証(特開2002-121999号公報)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付与。以下同様。)。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は鋼製セグメント、鋳鉄製セグメント、さらには球状黒鉛鋳鉄製セグメント(ダクタイルセグメント)も含む鋳鋼製セグメントなどのメタル系セグメント(以下、「鋼殻」という)とその中に充填されたコンクリートとからなる一体構造の合成セグメントに関し、特に常時、大きな内水圧が作用する下水道幹線や地下河川などとして利用される水路用トンネルの覆工材として開発されたものである。」


「【0015】
【発明の実施の形態】図1?図6は、この発明に係る合成セグメントの一例を示し、図において、トンネルの軸方向の両側部に主桁板1が、トンネルの周方向の両端部に継手板2が、さらにトンネルの地山側に背面板3がそれぞれ配置されている。」


「【0020】また、背面板3のトンネル軸方向の両端部には、後述するせん断補強筋14の定着部として、複数のリブ11がトンネルの周方向に所定間隔おきに突設され、リブ11には定着用の孔11aが形成されている。なお、定着用の孔11aと同様の孔5aが横リブ5の両端にも形成されている。」


「【0023】こうしてトンネルの地山に沿って所定の曲率で弧状に湾曲する鋼殻12が形成され、この鋼殻12内に補強筋として複数の主鉄筋13とせん断補強筋14がそれぞれ配筋され、かつコンクリート15が充填されている。
【0024】なお、鋼殻12は原則として、鋳鉄製または球状黒鉛鋳鉄製をも含む鋳鋼製で、主桁板1と継手板2と背面板3は鋳造により一体的に形成されているが、鋼製の場合は主桁板1と継手板2と背面板3をそれぞれ別々に形成し、後から接合する組み立て式も考えられる。また、鋼殻12の表面には腐食しろや防食塗装などの防食対策が施されている。
【0025】複数の主鉄筋13は、両端の継手板2,2間にトンネルの周方向に沿って弧状に配筋され、その両端部13aは定着板16を介して両端の継手板2にそれぞれ定着されている。」


「【0030】せん断補強筋14は、例えば図5(a),(b)に図示するように背面板3側(地山側)にコの字状をなす門形に曲げ加工などによって形成され、かつ垂直部分14a,14aの下端部にトンネルの周方向に突出するフック14b,14bがそれぞれ形成されている。なお、両側の垂直部分14a,14aは必要に応じて、例えば図5(b)に図示するように内側に少し折り曲げられている。こうすることで、主鉄筋13およびコンクリート15の拘束力はより高められる。
【0031】また、こうして形成された複数のせん断補強筋14は、例えば図5(c)に図示するように、両側の主桁板1,1間に複数の主鉄筋13を抱き込むようにしてトンネルの周方向に所定間隔おきに配筋され、かつ両端のフック14bをリブ11の定着孔11aまたは横リブ5の定着孔5aに挿入して固定されている。
【0032】このように、複数の主鉄筋13の両端が両端の継手板2に定着され、かつせん断補強筋14の両端が背面板3の底部に定着されていることで、鋼殻12と複数の主筋13およびせん断補強筋14との完全な一体化が可能になり、これにより主鉄筋13とせん断補強筋14はともに、コンクリート15の単なるひび割れ防止材としてではなく、鋼殻12と同等に合成セグメントの構造材として評価される。」


「【0035】
【発明の効果】この発明は以上説明したとおりであり、特に鋼殻の継手板に主鉄筋定着用の連結部を設け、この連結部に主鉄筋の端部を定着し、また前記鋼殻の内側部に定着用の孔を有するリブを、せん断補強筋の端部に定着用のフックをそれぞれ突設するとともに、前記孔とフックとを係合して前記せん断補強筋の端部が前記鋼殻の内側部に定着してあるので、鋼殻と複数の主筋およびせん断補強筋との完全な一体化が可能になり、これにより主鉄筋とせん断補強筋はともに、コンクリートの単なるひび割れ防止材としてではなく、鋼殻と同等に合成セグメントの構造材として評価される。」

キ 図1、図6において、合成セグメントは連結されて筒状壁体を構成することが看て取れる。

ク 上記ア、イで摘記した事項を踏まえると、図1から、合成セグメントの鋼殻は一対の主桁板1、一対の継手板2、背面板3により内周側が開口された箱型に形成されていることが看て取れる。

ケ 図2(a)(c)、図3(c)、図5(c)から、リブ11は一対の主桁板1間の一方に連結されていること、及び、せん断補強筋14は、リブ11の主鉄筋13がある側の反対側に伸びて、リブ11に交差する方向に屈曲されてリブ11に当接していることが看て取れる。

コ 図1、図3、図5から、主鉄筋13はリブ11の内周側に比較的大きく空間をあけて、軸方向に複数配列して配筋されていることが看て取れる。

サ 以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

甲1発明
「トンネルの覆工材として連結されて筒状壁体を構成する合成セグメントに関し、合成セグメントはメタル系セグメント(以下、「鋼殻」という)とその中に充填されたコンクリートとからなる一体構造であり、
合成セグメントの鋼殻は、トンネルの軸方向の両側部に配置された主桁板、トンネルの周方向の両端部に配置された継手板、さらにトンネルの地山側に配置された背面板によって、内周側が開口された箱型に形成されており、
背面板のトンネル軸方向の両端部には、せん断補強筋の定着部として複数のリブがトンネルの周方向に所定間隔おきに突設され、リブは一対の主桁板間の一方に連結されており、
鋼殻内に補強筋として複数の主鉄筋とせん断補強筋がそれぞれ配筋され、主鉄筋はトンネルの周方向に沿ってリブの内周側に比較的大きく空間をあけて弧状に軸方向に複数配列して配筋され、せん断補強筋は、両側の主桁板間に複数の主鉄筋を抱き込むようにしてトンネルの周方向に所定間隔おきに配筋され、かつリブの主鉄筋がある側の反対側に伸びて、リブに交差する方向に屈曲されてリブに当接しており、
複数の主鉄筋の両端は、両端の継手板に定着され、かつせん断補強筋の両端が背面板の底部に定着されていることで、鋼殻と複数の主鉄筋およびせん断補強筋との完全な一体化が可能になり、これにより主鉄筋とせん断補強筋はともに、コンクリートの単なるひび割れ防止材としてではなく、鋼殻と同等に合成セグメントの構造材として評価される、
セグメント」

シ さらに、甲第1号証には以下の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)が記載されていると認められる。

甲1技術事項
「リブと横リブの配置分布及びサイズの違いから見て、リブのサイズは充填されるコンクリートの流動性担保も考慮して比較的小さく設定されていること」

(2)甲第2号証(特開2008-223427号公報)には、図面とともに次の記載がある。

「【0009】
曲率を有するトンネルおよびトンネル覆工体の代表としては、シールドトンネル工法,推進工法などにより構築される円形断面のトンネルが知られている。
図1は、シールドトンネル工法により構築された円形トンネルの覆工構造を示している。
この図に示したシールドトンネル覆工体2の場合には、3つのAセグメント1Aと2つのBセグメント1Bと1つのKセグメント(キーセグメント)1Kにより円形のトンネル覆工体(セグメントリング)2が構成されており、各々のセグメント1A,1B,1K同士の接続は、セグメントの継手板を介してボルトにより接続されるのが一般的である。
前記のAセグメント1Aと、Bセグメント1Bと、Kセグメント1Kのうち、いずれの場合も適用可能であるが、特に、Aセグメント1Aを例にして説明する。
【0010】
図2は、セグメントの例としてトンネル覆工体として用いられるコンクリート中詰め鋼製セグメントにおけるAセグメント1Aの構成を示しているが、トンネル周方向に伸びる鋼製の一対の主桁3と、トンネル軸方向に伸びる一対の鋼製の継手板4と複数(図2の場合には4枚)の鋼製の縦リブ5と、一枚の鋼製のスキンプレート6とにより構成される鋼枠(鋼殻)7の内部に中詰めコンクリート8を打設している。」


「【0038】
なお、図示の形態においては、鋼枠7内に、トンネル軸方向に間隔を置くと共にトンネル周方向に延長するように棒状鋼材17が配置され、前記各棒状鋼材17には、トンネル周方向に間隔をおいて並行配置されていると共にトンネル軸方向に延長する組み立て連結用鉄筋18が当接するように配置されて番線等により結束されている。前記各組み立て連結用鉄筋18は、先端部にJ字状に湾曲した脚部19を有し、前記鋼枠7内に配置され、中詰めコンクリート8に埋め込み固定され、中詰めコンクリート8の剥落防止、あるいは中詰めコンクリート8と鋼枠7との一体化を一層確実にするために用いられている。本発明では、前記の棒状部材17あるいは組み立て連結用鉄筋18は、必須の部材ではなく、必要に応じ設けられる。なお、エレクター連結兼裏込め用の雌ねじ管体20が設けられている。」

(3)甲第3号証(特開2006-291597号公報)には、図面とともに次の記載がある。
「【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1?図4は、枠体1と底板材2とを箱状に一体形成してあるダクタイル鋳鉄製ケーシング3を設け、そのケーシング3の内部にコンクリート4を充填して、その充填コンクリート層5側をトンネル内方に向けて設置可能に構成してある道路用の本発明によるトンネルセグメントを示す。
【0014】
前記枠体1は、トンネル周方向端部を形成する二枚の端板部1aと、トンネル長手方向端部を形成する二枚の扇形側板部1bとで、平面視で略矩形、かつ、トンネル長手方向視で扇形に一体形成してあり、この枠体1のトンネル外周側をトンネル長手方向視で円弧状の底板材2で塞いで、枠体1の内側が全面に亘ってトンネル内周側に開口しているケーシング3を形成し、ケーシング3の内側をトンネル周方向に沿う横桁部6とトンネル長手方向に沿う縦桁部7とで補強し、枠体1の全周に亘って一連のシール溝13をセグメント厚さ方向の前後に設けてある。
【0015】
そして、多数の鉄筋8を縦横に配筋して縦桁部7などに係止した上で溶接固定してあるケーシング3の内側に、300℃以下で溶融する合成繊維を配合した耐火コンクリート4aを打設し、もって、埋設鉄筋8で補強してある充填コンクリート層5を設けると共に、設置状態でトンネル内方に向けるセグメント内面9側を、300℃以下で溶融する合成繊維を配合した耐火コンクリート4aで構成してある。」

(4)甲第4号証(特開2000-1883号公報)には、図面とともに次の記載がある。

「【0009】
【発明の実施の形態】以下は本発明による貯水槽用セグメントの実施の形態についての説明である。図1において、符号1は周方向及び軸方向へ複数連結されることで円筒状の貯水槽を構築する円弧版状の貯水槽用セグメントであり、この貯水槽用セグメント1は、上下が開口された箱形に形成された枠体2と、枠体2内に打設されたコンクリート3とからなる(ここでは、上下方向を図2に示すように当該セグメント1の凸部を下側とした状態を基準として定める)枠体2は、図1及び図2に示されるように、貯水槽の軸方向へ接合される隣り合う貯水槽用セグメント1との接合端面を形成する一対の主桁板4と、貯水槽の周方向へ接合される隣り合う貯水槽用セグメント1との接合端面を形成する一対の継手板5と、主桁板4同士の間に、高さ方向の略中央に配された複数の補強リブ6と、補強リブ6のうち主桁板4の両端部近傍同士の間に配された補強リブ6と継手板5とを連結する補強板7とから構成される。」


「【0011】図4に示されるように、枠体2内には、枠体2の形状に沿って、補強リブ6の上下に、補強リブ6を挟み込むようにして引張材9が配される。引張材9は、貯水槽用セグメント1に要求される強度に応じて厚さ及び幅が調節され、主桁板4に全面またはスポット溶接される鋼板10と、これと同じく、その径と格子のピッチが貯水槽用セグメント1に要求される強度に応じて調節される、格子状に組まれた縦筋と横筋とからなり、枠体2の形状に沿って補強リブ6に溶接される鉄筋11からなる。」

(5)甲第5号証(特開2004-270276号公報)には、図面とともに次の記載がある。
「【0043】
図14?図17は本発明の第6実施例の合成セグメント10を示すものである。この実施例では、図17(b)に示すように、鉄筋などの棒状鋼材をほぼ逆M字状にトンネル半径方向に折り曲げて製作した補強部材25を、一つの縦リブ14の内空側を跨いで両隣の縦リブ14とスキンプレート13の固着部付近にトンネル円周方向に配している。図示例では、前記補強部材25は棒状鋼材15に沿って平行に配置され、多数の補強部材25は千鳥状に配置されている。前記補強部材25により縦リブ14または継手板12とスキンプレート13,主桁11で囲まれる内部に充填したコンクリート16の内部に発生する引張力に対して抵抗することができるので、セグメント幅を大きくすることができ、主桁11から離れた位置のコンクリート16の引張力が不足する場合であっても、補強部材25を配置することにより、合成セグメント10の耐力が低下するのを防止することが可能となる。
また、この実施例では、各縦リブ14の長手方向に間隔をおいてU字状の開孔18が設けられ、隣り合う各縦リブ14の開孔18に渡って、異径鋼棒等からなる棒状鋼材15が配置され、前記開孔18を塞ぐように、トンネル内空側および地山寄り押え部材26,26が各縦リブ14に沿って当接配置されて溶接等により固着され、前記開孔18は閉塞した開孔18とされている。前記棒状鋼材15は、開孔18周囲の縦リブ14と押え部材26に溶接により固着される。
なお、図中27は、縦リブ14に挿通されて固着された短尺鋼棒である。
その他の構成は、前記実施例と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略する。」

(6)甲第6号証(特開2000-38709号公報)には、図面とともに次の記載がある。
「【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明のコンクリート床版の構造の実施の形態を図によって説明する。図1?図3において、符号1は、コンクリート床版である。このコンクリート床版1は、コンクリートCと、このコンクリートCの内部に設けられた補強構造体2とから構成されている。図4にも示すように、補強構造体2は、上下に配設された複数の主筋(鉄筋)3と、これら主筋3に対して直交する方向に上下に配設された複数の配力筋(鉄筋)4と、上下の主筋3同士の間に配設された複数の型鋼5と、これら複数の型鋼5間に配設されたトラス筋6とを有している。
【0012】型鋼5は、ウエブ5aの両端に、一方向へ突出したフランジ5bが一体に形成されて、断面視コ字状とされている。また、この型鋼5のウエブ5aには、長手方向へ沿って複数の孔部7が間隔をあけて形成されている。また、これら型鋼5間に配設されたトラス筋6は、波形に形成されており、上方の主筋3と下方の主筋3とを交互に通るように掛け渡されている。そして、上記補強構造体2では、主筋3と配力筋4、主筋3とトラス筋6、及び主筋3と型鋼5とがそれぞれ溶接等により固定されている。」

(7)甲第7号証(筋野三郎著、「おさまり詳細図集○3(当審注;実際は○の中に3)配筋要領編」、理工学社、1986年5月10日、目次5?9頁、101、144、145頁、裏表紙)には、図面とともに次の記載がある。
「この場合,突当たり壁の右側の横筋は,図示のように左側に折り曲げて定着(水平アンカー)し,左側の横筋は右側に折り曲げて定着する。なお,いずれも補強縦筋を抱きかかえるように折り曲げ,接合部の剛性を高める配筋にする」(144頁左欄下から7行?最下行)

4 判断
(1)本件発明1について
ア 甲1発明の「合成セグメント」、「主桁板」、「継手板」、「コンクリート」は、それぞれ本件発明1の「セグメント」、「主桁板」、「継手板」、「コンクリート」に相当する。
また、甲1発明の「合成セグメント」が「トンネルの覆工材として連結されて筒状壁体を構成する」点は、本件発明1の「セグメント」が「周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成する」点に相当する。

イ 甲1発明の「背面板」は、トンネルの地山側に配置された板であり、合成セグメントの外周側に設けられた板であるから、本件発明1の「スキンプレート」に相当する。

ウ 甲1発明の「鋼殻」は、「トンネルの軸方向の両側部に配置された主桁板、トンネルの周方向の両端部に配置された継手板、さらにトンネルの地山側に配置された湾曲板状の背面板によって、内周側が開口された箱型に形成されて」いることから、本件発明1の「枠体」に相当する。

エ 甲1発明の「主鉄筋」は、「トンネルの周方向に沿ってリブの内周側に比較的大きく空間をあけて弧状に軸方向に複数配列して配筋され」るので、本件発明1の「主鋼材」に相当し、本件発明1の「主鋼材」と「前記リブの前記内周側」に「周方向に延び」「軸方向に複数配列」される点で一致する。

オ 甲1発明の「せん断補強筋」は、「両側の主桁板間に複数の主鉄筋を抱き込むようにしてトンネルの周方向に所定間隔おきに配筋され、かつリブの主鉄筋がある側の反対側に伸びて、リブに交差する方向に屈曲され」ることから、本件発明1の「配力筋」に相当し、本件発明1の「配力筋」と「複数の主鋼材の少なくとも一部の配列に巻き付くように前記主鋼材を固定するとともに」「リブに固定される配力筋を設け」「更に該配力筋はリブの前記主鋼材がある側とは反対側に延びて前記リブに交差する方向に屈曲されて当接させて」なる点で一致する。

カ 甲1発明の「リブ」は、「背面板のトンネル軸方向の両端部に」「トンネルの周方向に所定間隔おきに突設され」「一対の主桁板間の一方に連結されて」いることから、本件発明1の「リブ」に相当し、本件発明1の「リブ」と「主桁板に設けられた」点で一致する。

キ これらのことから、本件発明1と甲1発明は
「周方向へ連結され、さらに軸方向へ連結されることにより、掘削穴内に筒状壁体を構成するセグメントであって、
前記セグメントは、内周側が開口された箱型に形成された枠体と、該枠体内に打設されたコンクリートとから構成されてなり、
前記枠体は、外周側に設けられたスキンプレートと、該スキンプレートの前記軸方向両端にそれぞれ設けられて前記周方向に延びる一対の主桁板と、前記スキンプレートの前記周方向両端にそれぞれ設けられた一対の継手板と、前記主桁板に設けられた複数のリブとを備え、
前記リブの前記内周側に、前記周方向に延びる主鋼材を前記軸方向に複数配列し、
これら複数の主鋼材の少なくとも一部の配列に巻き付くように前記主鋼材を固定するとともに前記リブに固定される配力筋を設け、更に該配力筋はリブの前記主鋼材がある側とは反対側に延びて前記リブに交差する方向に屈曲されて当接させてなる、
セグメント。」
の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、リブを「一対の主桁板同士に掛け渡して」設けているのに対し、甲1発明はリブを一方の主桁板に設けている点。
(相違点2)
本件発明1は、主鋼材を「前記リブの前記内周側又は前記外周側の少なくとも一方の表面に」当接させているのに対し、甲1発明は主鉄筋をリブの内周側に比較的大きく空間をあけて設けている点。
(相違点3)
本件発明1は、配力筋により「リブとの間に前記主鋼材を挟んで固定する」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(相違点4)
本件発明1は、配力筋は「リブの前記主鋼材がある側とは反対側の他方の表面に延びて前記リブに交差する方向に屈曲されて当接させてなる」のに対し、甲1発明は「他方の表面に延びて」いるとの特定がなされていない点。
(相違点5)
本件発明1は、「前記配力筋を前記リブの対向する両面にそれぞれ配設して前記屈曲された部分を互いに逆向きに形成」するのに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

相違点2について検討するに、甲1発明において、主鉄筋は、その両端が継手板に定着されており、既に固定されていること、また、リブ、主鉄筋が比較的大きく離れていることや、リブはせん断補強筋の定着部として設けられたものであることから、甲1発明において主鉄筋をリブに当接する必要性、動機付けはないというべきである。さらに、甲1技術事項から見て、充填されるコンクリートの流動性担保の障害となりうる、(主鉄筋と当接させるために)リブのサイズを大きくすることには阻害要因があるといえる。
ここで、申立人は特許異議申立書において、甲第2、4、5、6号証に相違点2に関する技術事項(以下「相違点2技術事項」という。)が開示されており、当該相違点2技術事項を甲1発明に適用することにより、本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到しうることにすぎない旨主張している。
しかしながら、上記検討で説示したように、甲1発明は、主鉄筋端部の固定方法や甲1技術事項から見て、リブと主鉄筋との間に比較的大きな空間を設けることが前提となっているものであるから、相違点2技術事項を甲1発明に適用する動機付けはなく、本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。
なお、甲第3、7号証にも相違点2に関する技術事項は記載されていない。

相違点3について検討するに、相違点3に関する構成は、相違点2に関する構成が前提となっているものであるので、上記検討結果から、相違点3に関しても本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。

よって、相違点1、4、5については検討するまでもなく、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は本件発明1を減縮したものであり、本件発明1と同様の理由(上記(1)キ参照)で、本件発明2、3は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
したがって、本件発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-06-27 
出願番号 特願2009-246288(P2009-246288)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鷲崎 亮越柴 洋哉草野 顕子  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 住田 秀弘
井上 博之
登録日 2016-07-01 
登録番号 特許第5960942号(P5960942)
権利者 株式会社IHI建材工業
発明の名称 セグメント  
代理人 安彦 元  
代理人 越前 昌弘  

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