• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1330489
審判番号 不服2015-4722  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-11 
確定日 2017-07-12 
事件の表示 特願2013-523353「良好な弾道及び機械特性を有する低コストのα-βチタニウム合金」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月26日国際公開、WO2012/054125、平成25年11月14日国内公表、特表2013-541635〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年8月5日を国際出願日とする出願であって、平成26
年10月24日に拒絶査定がなされ、平成27年3月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において平成28年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月2日付けで拒絶理由が通知され、同年11月1日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1-22に係る発明は、平成28年6月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-22に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】
基本的に、重量%で、4.2?5.4%のアルミニウム、2.5?3.5%のバナジウム、0.5?0.7%の鉄、0.15?0.19%の酸素及び意図しない不純物元素と、残部としてのチタンとからなり、
チタン合金中に存在する前記不純物元素の濃度がいずれも最大で0.1重量%であり、全ての前記不純物元素の合算濃度が0.4重量%以下である、チタン合金。」(以下、「本願発明」という。)

第3 引用刊行物の記載事項
当審において平成28年3月25日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願出願日前に日本国内において頒布された特開平3-134124号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、特開平4-103737号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

1.引用刊行物1
(1a)「【特許請求の範囲】
(1)バナジウム2.0重量%以上8.0重量%以下、鉄0.5重量%以上5.0重量%以下、アルミニウム2.0重量%以上7.0重量%以下及び酸素0.1重量%以上0.3重量%以下を含み残部チタン及び不可避的な不純物よりなる耐エロージョン性に優れたチタン合金。」

(1b)「本発明において組成比の限定理由は以下のとおりである。
まず、バナジウムは第2図に示すように、その含有量5.0重量%で耐エロージヨン性はピークを示し、2.0重量%未満及び8.0重量%以上ではエロージヨン減量が大きくなり優れた耐エロージヨン性を示さない。
鉄は、その含有量が0.5重量%未満では熱処理によっても十分な硬さが得られず優れた耐エロージヨン性を示さない。またその含有量が5.0重量%を越えると硬さ上昇とともに脆化が進み、加工性が悪くなる。
アルミニウムは、その含有量が2.0重量%未満では時効処理によるα相の析出が不足し、十分な硬さが得られないため、優れた耐エロージヨン性を示さない。また、その含有量が7.0重量%を越えると硬さ上昇とともにTi_(3)Alの析出による脆化が進み加工が困難となる。
酸素はその含有量が0.1重量%未満では十分な硬さが得られず優れた耐エロージョン性を示さない。一方、酸素量が0.3重量%を越えると加工性が低下し、板材の製造や肉盛溶接用の溶接棒の製造が困難となる。」(第3頁左上欄第9行-右上欄第11行)

2.引用刊行物2
(2a)「【特許請求の範囲】
(1)重量%にて、
Al:4.0%以上7.0%未満、
V:3.0%以上5.0%未満、
Fe:0.3%以上5.0%以下
Tiおよび不可避的な不純物:残部
からなる高強度高靭性チタン合金。」

(2b)「不可避的な不純物とは、C、H、酸素、N、Y等をさし、これらは、通常、以下の範囲内で含まれることが許される。
C:0.10%以下、 H:0.0125%以下、 酸素:0.20%以下、 N:0.05%以下、 Y:0、005%以下」(第4頁左上欄第17行?右上欄第2行)

上記記載事項(1a)、(1b)によれば、引用刊行物1には、
「バナジウム2.0重量%以上8.0重量%以下、鉄0.5重量%以上5.0重量%以下、アルミニウム2.0重量%以上7.0重量%以下及び酸素0.1重量%以上0.3重量%以下を含み残部チタン及び不可避的な不純物よりなる耐エロージョン性に優れたチタン合金。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第4 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「不可避的な不純物」は、本願発明における「意図しない不純物元素」に相当する。
よって、両者は、基本的に、重量%で、4.2?5.4%のアルミニウム、2.5?3.5%のバナジウム、0.5?0.7%の鉄、0.15?0.19%の酸素及び意図しない不純物元素と、残部としてのチタンとからなるチタン合金である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点)
本願発明では、「チタン合金中に存在する前記不純物元素の濃度がいずれも最大で0.1重量%であり、全ての前記不純物元素の合算濃度が0.4重量%以下である」のに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

上記相違点について検討すると、通常、Ti-Al-V-Fe-O合金にいて、不可避的不純物の濃度は、いずれも最大0.1重量%であり、すべての不純物の合算濃度は0.4重量%以下である(例えば、上記引用刊行物2参照)から、当該相違点は実質的な相違点とはいえない。

したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明である。

なお、審判請求人は、平成28年6月16日付け意見書(「(4)(i)、(ii)」の欄)において、概略以下の主張をしている。
ア.「本願発明1と、刊行物1に記載された発明とは、構成、効果及び技術的思想の点で大きく異なるものであると思料します。・・・特に、本願発明1では「鉄の含有量が0.5?0.7%、酸素の含有量が0.15?0.19%」と非常に限定された範囲であるのに対して、引用文献1に記載された発明では、「鉄の含有量が0.5?5.0%、酸素の含有量が0.1?0.3%」と非常に広いものとなっております。つまり、本願発明については、引用文献1の中に開示された各成分の含有量を大きく限定したものであり、引用文献1に記載された発明とは構成が異なるといえます。
また、上記構成の相違によって、引用文献1に記載された発明については、「弾道特性及び機械特性に」について、本願発明1と同等の効果を奏することができません。・・・刊行物1に記載の発明では、チタン合金内の鉄の含有量が、0.7重量%の上限を超えているため、インゴッド凝固中に過度な溶質偏析が起きて、弾道及び機械特性に不利な影響を与えることとなります(本願明細書の[0025]等を参照。)。このように、組成を特定の範囲に限定した本願発明1に係るチタン合金は、より広い組成範囲を有する刊行物1のチタン合金に比べて、予測できない機械的強度及び弾道特性の結果を示すこととなります。」

イ.「ここで、本願発明1に記載された発明と刊行物1に記載された発明との、機械的強度及び弾道特性の効果の違いを説明するため、追加実験(証拠AA)を行いました。
・・・
上記証拠AAの表1?3及び図1?4から、刊行物1の発明の範囲に属する場合であっても、本願発明1に限定した組成範囲(具体的には、鉄、酸素及び/又はアルミニウムの含有量の範囲)から少しでも外れるだけで、引張特性、最大抗張力、V50弾道限界及び引張伸びについて、大きな差があるといえます。
そして、刊行物1に記載された発明には、アルミニウム、バナジウム、鉄及び酸素の含有量を特定の狭い範囲に限定することによって、低コストな組成であっても、弾道特性及び機械特性に優れたチタン合金の実現を図る、という本願発明1の技術的思想がないことが明らかです。このことは、刊行物1に記載の発明では、「弾道特性及び機械特性の両立」についての考慮はなく、鉄や酸素の含有量が本願発明1と比べて広範囲な数値範囲をとっていることからもわかります。
(ii)したがって、本願発明1と刊行物1に記載の発明とは、構成が大きく異なることから、刊行物1では本願発明1の新規性を否定することができません。加えて、本願発明1と刊行物1に記載された発明とは、効果及び技術思想の点でも大きく異なるため、当業者が刊行物1に記載された発明に基づいて本願発明1を容易に想到できたことの論理づけはできず、刊行物1では本願発明1の進歩性を否定することはできません。」

上記主張について検討する。
・アについて
本願発明で特定される各成分(鉄、酸素を含む)含有量の範囲は、引用発明における同成分の含有量の範囲に比べ限定されたものであるにせよ、同範囲にすべて包含されるものであって、含有量の点において相違するものではない。
そして、本願発明は、合金の成分組成のみを発明特定事項とするものであるから、本願発明と引用発明には、構成上の差異があるとはいえない。
そうすると、引用発明においても、本願発明と同様の機械的強度及び弾道特性を内在しているといえ、この点においても両者が相違しているとはいえない。

・イについて
本願発明における格別な効果であると主張する機械的特性及び弾道特性について見ると、審判請求人の行った追加実験(証拠AA)において、本願発明に相当するとする(「発明(新データ)」)は、本願明細書における実施例1と各成分量が合致するものではなく、機械的特性などは、実施例1に比べ良い結果となっている。にもかかわらず、「引張伸び」などは引用発明と同レベルである。
よって、上記実験の結果をもって、本願発明と引用発明の効果に大きな差があるとは必ずしもいえない。
そして、審判請求人は、「刊行物1に記載された発明には、アルミニウム、バナジウム、鉄及び酸素の含有量を特定の狭い範囲に限定することによって、低コストな組成であっても、弾道特性及び機械特性に優れたチタン合金の実現を図る、という本願発明1の技術的思想がない」と主張するが、上記のとおり、本願発明は、合金の成分組成のみを発明特定事項とするものであり、「弾道特性及び機械特性」や該特性を要する用途等を何ら特定しないものであるから、当該主張は請求項の記載に基づくものではなく採用できない。

第5 拒絶理由(特許法第36条第6項第1号)について
当審において平成28年8月2日付けで下記のとおりの拒絶理由(特許法第36条第6項第1号)が通知され、これに対し同年11月1日付けで意見書が提出されたが、当該拒絶理由を有しないと判断し得る反論がなされているとは認められない(請求人が言う【実施例】には一種類の成分組成の合金が記載されるのみであり、また、【0034】の記載は、合金を製造する際の原材料について述べたものにすぎない。)。

「本願明細書の記載(【0010】-【0011】、【0018】、【0021】、【実施例】等)によれば、本願発明は、低コストで弾道及び機械特性の良いチタン合金を得ることを課題とするものと認められる。
これに対し、請求項1には、チタン合金について成分組成のみが特定されている。
該チタン合金は、Ti-Al-V-Fe-Oを基本成分とし、それ以外の基本成分を含まないことから、低コストであることは理解されるものの、良好な弾道及び機械特性を有することについては何ら記載がない。
通常、合金は、成分組成及び組織によりその特性が変化することが技術常識であるから、成分組成のみを発明特定事項とし、組織あるいは特性などを発明特定事項としない請求項1に記載されるチタン合金が、全て上記課題を解決しているとは限らないということができる。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。」

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2017-01-31 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2013-523353(P2013-523353)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C22C)
P 1 8・ 537- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二天野 斉市川 篤  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 富永 泰規
鈴木 正紀
発明の名称 良好な弾道及び機械特性を有する低コストのα-βチタニウム合金  
代理人 杉村 憲司  
代理人 吉田 憲悟  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ