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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1330604
審判番号 不服2016-16130  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-28 
確定日 2017-07-20 
事件の表示 特願2011-166461「液体噴射ヘッド及び液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 28101〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成23年7月29日の出願であって、平成27年8月10日付け、及び平成28年2月2日付けで手続補正がなされ、同年7月28日付けで同年2月2日付けの手続補正は却下されると同時に拒絶の査定がなされ、これに対し、同年10月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲等を補正する手続補正がなされたものである。

2.平成28年10月28日付けで提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ノズル孔が形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル孔は、液体を噴射する噴射面に開口する第1ノズル部と、前記第1ノズル部に連通し前記第1ノズル部より内径の大きい第2ノズル部と、を有し、
前記第1ノズル部の内壁面全体に、前記ノズルプレートの基材より撥液性の高い撥液膜が形成されると共に、前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部は、前記撥液膜より撥液性が低く、
前記第1ノズル部の前記内壁面は、前記ノズルプレートの前記基材で構成された凹凸を有し、
前記撥液膜の表面は、前記第1ノズル部の前記内壁面における前記凹凸に対応する凹凸が形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。」
と補正された。(下線は審決で付した。以下同じ。)
上記補正は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「第1ノズル部の内壁面」に関し、「ノズルプレートの基材で構成された凹凸を有し」と限定し、また「撥液膜」に関し、撥液膜の「表面は、第1ノズル部の内壁面における凹凸に対応する凹凸が形成されている」と限定するものであって、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、前記に記載された事項により特定されるところ、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
ア.引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成10年8月18日に頒布された「特開平10-217483号公報 」(以下「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「本発明はインクジェットプリンターヘッドに用いるノズル板の製造方法に関し、特にインク吐出面とインク吐出孔内面へ撥水性を付与するための表面処理方法に関する。」(段落【0001】)
(イ)「次に金属製平板状部材の裏面、すなわちインク吐出裏面に対して垂直方向から蒸着やスパッタリングやイオンプレーティングのいずれかの方法で酸化物あるいは金属を成膜する。この時形成される酸化物や金属は親水性を呈することが知られている。通常インク吐出孔の直径はインク吐出面に筒状に開口した部分で50ミクロン以下と微小であるため、上記の成膜方法ではインク吐出裏面に漏斗状に開口した部分には成膜可能であるが、インク吐出面に筒状に開口した部分には成膜されない。したがってインク吐出面とインク吐出内部の筒状に開口した部分のみは撥水性被膜が露呈して撥水性を呈するが、インク吐出裏面とインク吐出裏面に漏斗状に開口した部分は酸化物や金属が成膜され親水性を呈するようになる。」(段落【0012】)
(ウ)「【発明の実施の形態】以下、図面を用いて本発明の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の製造方法を説明する。図6は本発明の第1の実施例におけるインクジェットプリンターヘッド用ノズル板の構造を示すインク吐出孔部を拡大した模式断面図である。本インクジェットプリンターヘッド用ノズル板はノズル板全体、すなわちインク吐出面3とインク吐出孔4内面とインク吐出裏面5に撥水性被膜6が被覆されており、さらにインク吐出裏面5と漏斗状に開口した部分8に被覆されている撥水性被膜6の上に酸化物あるいは金属膜の膜9が積層されている。」(段落【0013】)
(エ)また、上記「(ア)」、及び「(イ)」の記載から、「ノズル板を備えたインクジェットプリンターヘッド」が示されているといえる。
これらの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェットプリンターヘッド用ノズル板は、インク吐出面とインク吐出孔内面とインク吐出裏面に撥水性被膜が被覆されており、さらにインク吐出裏面と漏斗状に開口した部分に被覆されている撥水性被膜の上に酸化物あるいは金属膜の膜が積層されており、
インク吐出面とインク吐出内部の筒状に開口した部分のみは撥水性被膜が露呈して撥水性を呈し、インク吐出裏面とインク吐出裏面に漏斗状に開口した部分は酸化物や金属が成膜され親水性を呈するようになるノズル板を備えたインクジェットプリンターヘッド。」

イ.引用例2
同様に引用され、本願の出願前である平成10年10月20日に頒布された「特開平10-278277号公報」(以下「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ア)「基板にインク噴射用のノズルが形成されたノズルプレートにおいて、
前記基板の少なくとも前記ノズルが形成された部位の周囲の面は、撥水・撥油性材料で被覆されたフラクタル構造に形成されてなることを特徴とするノズルプレート。」(【請求項1】)
(イ)「本発明は、ノズルから被記録媒体にインク液滴を噴射して記録を行うインクジェット記録ヘッドに用いられるノズルプレートおよびその製造方向に関する。」(段落【0013】)
これらの記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「基板にインク噴射用のノズルが形成されたノズルプレートにおいて、
前記基板の少なくとも前記ノズルが形成された部位の周囲の面は、撥水・撥油性材料で被覆されたフラクタル構造に形成されてなるノズルプレートを用いるインクジェット記録ヘッド。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「インク吐出孔」は、その機能、作用等からみて、前者における「ノズル孔」に相当し、以下同様に、「『インクジェットプリンターヘッド用ノズル板』、及び『ノズル板』」は「ノズルプレート」に、「インクジェットプリンターヘッド」は「液体噴射ヘッド」に、「インク吐出面」は「液体を噴射する噴射面」に、「インク吐出内部の筒状に開口した部分」は「第1ノズル部」に、「インク吐出裏面に漏斗状に開口した部分」は「第2ノズル部」に、「撥水性被膜」は「撥液膜」に、「インクジェットプリンターヘッド」は「液体噴射ヘッド」に、それぞれ相当する。
また、後者の「インク吐出裏面に漏斗状に開口した部分」は、インク吐出内部の筒状に開口した部分からインク吐出裏面に漏斗状に開口しているから、「インク吐出内部の筒状に開口した部分(第1ノズル部)に連通し前記インク吐出内部の筒状に開口した部分(第1ノズル部)より内径の大きい」といえる。
また、後者の「インク吐出内部の筒状に開口した部分」は、撥水性被膜が露呈して撥水性を呈しているから、「インク吐出内部の筒状に開口した部分(第1ノズル部)の内壁面全体に、ノズル板(ノズルプレート)の基材より撥液性の高い撥液膜が形成される」といえる。
また、後者の「インク吐出裏面に漏斗状に開口した部分」は、インク吐出裏面とインク吐出裏面に漏斗状に開口した部分は酸化物や金属が成膜され親水性を呈し、インク吐出内部の筒状に開口した部分は、撥水性被膜が露呈して撥水性を呈しているから、「インク吐出裏面に漏斗状に開口した部分(第2ノズル部)の内壁面の少なくとも一部は、撥水性被膜(撥液膜)より撥液性が低い」といえる。
したがって、両者は、
「ノズル孔が形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル孔は、液体を噴射する噴射面に開口する第1ノズル部と、前記第1ノズル部に連通し前記第1ノズル部より内径の大きい第2ノズル部と、を有し、
前記第1ノズル部の内壁面全体に、前記ノズルプレートの基材より撥液性の高い撥液膜が形成されると共に、前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部は、前記撥液膜より撥液性が低い、
液体噴射ヘッド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明は、「第1ノズル部の内壁面は、ノズルプレートの前記基材で構成された凹凸を有し、撥液膜の表面は、前記第1ノズル部の前記内壁面における前記凹凸に対応する凹凸が形成されている」のに対し、引用発明1は、そのようなものでない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用発明2は、上記「(2)イ.」のとおりであって、引用発明2における「ノズル」は、その構造、機能、作用等からみて、本願補正発明における「ノズル孔」に相当し、以下同様に、「ノズルプレート」は「ノズルプレート」に、「インクジェット記録ヘッド」は「液体噴射ヘッド」に、「基板の少なくともノズルが形成された部位の周囲の面」は「液体を噴射する噴射面」に、「フラクタル構造」は「凹凸」に、それぞれ相当する。
また、後者は、ノズルプレートが、撥水・撥油性材料で被覆されたフラクタル構造に形成されてなるから、ノズルプレートの基材で構成された凹凸を有しているものを包含していることは、明らかであり、撥水・撥油性材料で形成された撥液膜の表面は、前記凹凸に対応する凹凸が形成されているといえる。
してみると、引用発明2には、ノズルプレートの基材で構成された凹凸を有し、撥液膜の表面は、前記凹凸に対応する凹凸が形成されていることが示されている。
そして、引用発明1と引用発明2とは、液体噴射ヘッドという共通の技術分野に属し、液体(インク)噴射特性の向上という共通の課題、及び撥液性を向上させるという共通の機能・作用を有するものであるから、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1におけるインク吐出内部の筒状に開口した部分(第1ノズル部)の内壁面を、さらに撥液性を向上させるために、引用発明2を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願補正発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1、及2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願補正発明は、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成27年8月10日付けで提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ノズル孔が形成されたノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ノズル孔は、液体を噴射する噴射面に開口する第1ノズル部と、前記第1ノズル部に連通し前記第1ノズル部より内径の大きい第2ノズル部と、を有し、
前記第1ノズル部の内壁面全体に、前記ノズルプレートの基材より撥液性の高い撥液膜が形成されると共に、前記第2ノズル部の内壁面の少なくとも一部は、前記撥液膜より撥液性が低く、
前記第1ノズル部の内壁面に形成された凹凸に対応する凹凸が前記撥液膜の表面に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「2.(2)引用例」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、実質的に上記「2.(1)補正後の本願の発明」で検討した本願補正発明の「第1ノズル部の内壁面」に関し、実質的に「ノズルプレートの基材で構成された凹凸を有し」との限定を省いたものである。

そうすると、本願発明を特定する事項の全てを含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「2.(3)対比」及び「2.(4)判断」に記載したとおり、引用発明1、及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-19 
結審通知日 2017-05-23 
審決日 2017-06-05 
出願番号 特願2011-166461(P2011-166461)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高松 大治居島 一仁  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 黒瀬 雅一
畑井 順一
発明の名称 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 西田 圭介  
代理人 仲井 智至  

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