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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1330873
審判番号 不服2016-4723  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-31 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 特願2013-267231「半導体装置の製造方法及びこれを用いて製造されてなる半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月24日出願公開,特開2014- 74181〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成22年2月5日に出願した特願2010-24419号の一部を平成25年12月25日に新たな特許出願としたものであって,平成26年8月13日付けで拒絶理由を通知し,同年10月15日に意見書が提出され,平成27年3月5日に拒絶理由が通知され,同年5月8日に意見書と補正書が提出され,同年12月14日付けで拒絶査定され,平成28年3月31日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され,平成29年3月13日付けで,当審から拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年5月15日に意見書と手続補正書が提出されたものである。
そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成29年5月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
回路部材接続用接着剤を,半導体ウェハに貼り付け,積層体を得る工程と,
前記積層体における前記半導体ウェハをダイシングテープ上に固定し,前記回路部材接続用接着剤側から前記半導体ウェハのダイシングラインを認識し,前記ダイシングラインに沿って個片に切断する工程と,
前記ダイシングテープから,ピックアップすることによって,個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップを得る工程と,
を有するフリップチップされた半導体装置の製造方法であって,
前記回路部材接続用接着剤が,フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂,及び熱硬化性樹脂用硬化剤を含む,半導体装置の製造方法。」

2 当審の拒絶理由
一方,当審において,平成29年3月13日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。
「1 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し,特許を受けることができない。

2 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・理由 1,2
・請求項 1-4
・引用文献 1.国際公開第2008/084811号

・備考
ア 引例1には,以下の記載がある。
・「発明の効果
[0031]本発明により,未硬化状態において,ウェハへの密着性に優れるとともにウェハに付されたアライメントマークの認識性が高く,硬化後は,チップと基板の接着性及び接続信頼性に優れた回路部材接続用接着剤及びこれらを用いた半導体装置が提供される。すなわち,ウェハへの密着性とダイシングテープへの密着性の最適化によるダイシング時の剥がれ抑制とダイシング後の簡便なはく離性の両立,ひげバリ,クラック等の発生を抑制させてダイシングするための未硬化時のフィルムの高弾性化,ダイシング後の接着剤チップを高精度で回路基板と位置合わせすることを可能にする樹脂のアライメントマークの認識性,チップ実装時に低温かつ短時間で硬化できる高反応性,フィラー高充填による低熱膨張化での高接続信頼性化,これら特性を満足するための最適化された回路部材接続用接着剤,これに導電粒子が分散された回路部材接続用異方導電接着剤及びこれらを用いた半導体装置が提供される。
[0032]本発明の回路部材接続用接着剤によれば,狭ピッチ化及び狭ギャップ化に対応可能な先置きのアンダーフィルム工法として,ダイシング時の汚染が無く,さらにダイシング後に簡便にダイシングテープからはく離させて接着剤付半導体付チップを得ることが出来る。さらに,接着剤付チップの高精度な位置合わせを実現する透明性と低熱膨張係数化による高接続信頼性を両立することが可能である。」

・「[0052]回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態は,チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハ,半導体ウェハの突出した接続端子面に配置した回路部材接続用接着剤,回路部材接続用接着剤側に粘着層を配置したダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断し,ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する,ことによって得ることができる。回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態はまた,チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置し,回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断し,ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する,ことによっても得ることができる。」

・「[0054]回路部材接続用接着剤は,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態で,回路部材接続用接着剤を透過してチップの回路面に形成された位置合わせマークを識別できる事が好ましい。位置合わせマークは通常のフリップチップボンダーに搭載されたチップ認識用の装置で識別することができる。」

・「[0058]回路部材接続用接着剤は,未硬化時の平行透過率が15?100%であることが好ましく,18?100%であることがより好ましく,25?100%であることがさらに好ましい。平行透過率が15%未満であると,フリップチップボンダーでの認識マーク識別が行えなくなって,位置合わせ作業ができなくなる傾向がある。」

・「[0100]ダイシングテープ側から半導体ウェハ側に突き上げてダイシングテープと接着剤をはく離させることによって個片化された接着剤付半導体チップを得る工程は,ウェハからチップをピックアップできる装置で実施可能であり,半導体チップが積層されている面とは反対の面からダイシングテープを押し伸ばすように押し当てて回路部材接続用接着剤とUV照射後のダイシングテープの界面ではく離させて引き剥がすことによって行うことができる。」

・「[0101]接着剤付きチップの吸引工程,位置合わせ工程,加熱加圧工程は通常のフリップチップボンダーで行うことができる。また,吸引工程,位置合わせ工程を行い,位置合わせ後の半導体チップを基板に仮固定した後,圧着のみ行う圧着機で加熱加圧して接続することもできる。さらに,加熱加圧だけでなく,超音波を印可しながら接続を行うこともできる。」

・「実施例
[0102]以下,実施例によって本発明を更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[0103](実施例1)
架橋性樹脂としてエポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名)15重量部,この架橋性樹脂と反応する硬化剤としてフェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)15重量部,分子量100万以下,Tg40℃以下,かつ架橋性樹脂と反応可能な官能基を側鎖に少なくとも1カ所含む共重合性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万)20重量部,マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名)50重量部及びシランカップリング剤SH6040(東レ・ダウコーニングシリコーン製,商品名)を用い,表1記載の組成でトルエンと酢酸エチルの混合溶媒中に溶解し,接着樹脂組成物のワニスを得た。」

・「[0107](実施例2?4)
実施例1と同様に表1記載の組成で,実施例1と同様の工程を経て接着樹脂組成物のワニスを作製した後,透過性確認用フィルムを作製すると共に,回路部材接続用接着剤の絶縁性接着剤層を得た。」

・「[0149]回路部材接続用接着剤の特性として,平行透過率,硬化後の線膨張係数,フリップチップボンダーでのアライメントマーク認識の可不可,反応率,さらに圧着後の接続抵抗値及び信頼性試験後の接続抵抗値を各実施例及び各比較例ごとに表5及び表6に示す。」

・[表5]から,実施例1の並行透過率が18%,実施例2ないし4の平行透過率が25ないし33%であって,チップアライメントマーク認識が可能で有り,しかも,高温高湿試験・温度サイクル試験の結果が良好であることを読み取れる。

イ 引例1の上記記載と,本願発明の発明特定事項とを対比すると,引例1の
「チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置」,
「回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断」,
「ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する」は,それぞれ,本願発明の
「回路部材接続用接着剤を,半導体ウェハに貼り付け,積層体を得る工程」,
「前記積層体における前記半導体ウェハをダイシングテープ上に固定して個片に切断する工程」,
「前記ダイシングテープから,ピックアップすることによって,個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップを得る工程」に相当する。

ウ さらに,引例1の実施例の接着樹脂組成物は,
・エポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名),
・フェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名),
・エポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万),
・マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名),及び,
・シランカップリング剤SH6040(東レ・ダウコーニングシリコーン製,商品名)を含むものである。

エ 一方,本願の発明の詳細な説明の【0056】の(実施例1)の記載によれば,本願発明の接着剤樹脂組成物は,例えば,
・フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物としてフェノールノボラック樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名),
・熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂HP-5000(DIC株式会社製,商品名),
・熱可塑性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR-860-P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量80万),
・熱硬化性樹脂用硬化剤(マイクロカプセル型硬化剤)HX-3941-HP(旭化成株式会社製,商品名),及び,
・シランカップリング剤SH6040((東レ・ダウコーニング社製,商品名)を含むものである。

オ そうすると,引例1の上記「フェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)」は,本願発明の「フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物としてフェノールノボラック樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)」と同一の商品名を有する材料であるから,引例1の「フェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)」は,本願発明の「フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物」に相当する材料であると認められる。

カ 同様に,引例1の「エポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名)」,「エポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万),及び,「マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名)」は,それぞれ,本願発明の「熱硬化性樹脂」,「熱可塑性樹脂」,及び,「熱硬化性樹脂用硬化剤」に相当する。

キ してみれば,本願の請求項1?4に係る発明は,引例1に記載された発明である。
仮に,相違点が存在するとしても,当該相違点を本願の請求項1?4に係る発明の構成とすることは当業者が適宜なし得たことであり,その効果も格別のものとは認められないから,本願の請求項1?4に係る発明は引例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。」

3 引用例の記載と引用発明
(1)当審拒絶理由で,「引用文献1」として引用した,本願の優先権主張の日前に外国において頒布された刊行物である国際公開第2008/084811号(以下「引用例1」という。)には,「回路部材接続用接着剤及びこれを用いた半導体装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図11とともに以下の記載がある。(下線は当審において付した。以下同じ。)

(引1a)「技術分野
[0001]本発明は,回路部材接続用接着剤及びこれを用いた半導体装置に関する。より詳しくは,フェイスダウンボンディング方式で半導体素子を回路基板へ加熱,加圧によって接続するための回路部材接続用接着剤,これに導電粒子が分散された回路部材接続用接着剤(回路部材接続用異方導電接着剤)及びこれらを用いた半導体装置に関する。」

(引1b)「[0014]そこで発明の目的は,未硬化状態において,ウェハへの密着性に優れるとともにウェハに付されたアライメントマークの認識性が高く,硬化後は,チップと基板の接着性及び接続信頼性に優れた回路部材接続用接着剤及びこれらを用いた半導体装置を提供することにある。」

(引1c)「発明の効果
[0031]本発明により,未硬化状態において,ウェハへの密着性に優れるとともにウェハに付されたアライメントマークの認識性が高く,硬化後は,チップと基板の接着性及び接続信頼性に優れた回路部材接続用接着剤及びこれらを用いた半導体装置が提供される。すなわち,ウェハへの密着性とダイシングテープへの密着性の最適化によるダイシング時の剥がれ抑制とダイシング後の簡便なはく離性の両立,ひげバリ,クラック等の発生を抑制させてダイシングするための未硬化時のフィルムの高弾性化,ダイシング後の接着剤チップを高精度で回路基板と位置合わせすることを可能にする樹脂のアライメントマークの認識性,チップ実装時に低温かつ短時間で硬化できる高反応性,フィラー高充填による低熱膨張化での高接続信頼性化,これら特性を満足するための最適化された回路部材接続用接着剤,これに導電粒子が分散された回路部材接続用異方導電接着剤及びこれらを用いた半導体装置が提供される。
[0032]本発明の回路部材接続用接着剤によれば,狭ピッチ化及び狭ギャップ化に対応可能な先置きのアンダーフィルム工法として,ダイシング時の汚染が無く,さらにダイシング後に簡便にダイシングテープからはく離させて接着剤付半導体付チップを得ることが出来る。さらに,接着剤付チップの高精度な位置合わせを実現する透明性と低熱膨張係数化による高接続信頼性を両立することが可能である。」

(引1d)「[0052]回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態は,チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハ,半導体ウェハの突出した接続端子面に配置した回路部材接続用接着剤,回路部材接続用接着剤側に粘着層を配置したダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断し,ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する,ことによって得ることができる。回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態はまた,チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置し,回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断し,ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する,ことによっても得ることができる。」

(引1e)「[0054]回路部材接続用接着剤は,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態で,回路部材接続用接着剤を透過してチップの回路面に形成された位置合わせマークを識別できる事が好ましい。位置合わせマークは通常のフリップチップボンダーに搭載されたチップ認識用の装置で識別することができる。
[0055]この認識装置は通常ハロゲンランプを有するハロゲン光源,ライトガイド,照射装置,及びCCDカメラから構成される。CCDカメラで取り込んだ画像は画像処理装置によってあらかじめ登録された位置合わせ用の画像パターンとの整合性が判断され,位置合わせ作業が行われる。」

(引1f)「[0058]回路部材接続用接着剤は,未硬化時の平行透過率が15?100%であることが好ましく,18?100%であることがより好ましく,25?100%であることがさらに好ましい。平行透過率が15%未満であると,フリップチップボンダーでの認識マーク識別が行えなくなって,位置合わせ作業ができなくなる傾向がある。」

(引1g)「[0092]突出した接続端子を有する半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤(又は回路部材接続用異方導電接着剤),UV照射によって硬化するタイプのダイシングテープから構成される積層体は,半導体ウェハと回路部材接続用接着剤を加熱機構及び加圧ローラを有する装置又は加熱機構及び真空プレス機構を有する装置によってラミネートした後,さらにウェハマウンタ等の装置によってダイシングテープとラミネートしても得ることができる。
[0093]また,突出した接続端子を有する半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤(又は回路部材接続用異方導電接着剤),UV照射によって硬化するタイプのダイシングテープから構成される積層体は,回路部材接続用接着剤とダイシングテープをラミネートした積層体を準備した後,加熱機構及び加圧ローラを有するウェハマウンタ又は加熱機構及び真空プレス機構を有するウェハマウンタによって半導体ウェハにラミネートして得ることができる。
[0094]半導体ウェハと回路部材接続用接着剤のラミネート又は半導体ウェハと回路部材接続用接着剤の積層体のラミネートは,回路部材接続用接着剤が軟化する温度で行うことが好ましく,例えば40?80℃に加熱しながら行うことが好ましく,60?80℃に加熱しながら行うことがより好ましく,70?80℃に加熱しながらラミネートすることがさらに好ましい。
[0095]回路部材接続用接着剤が軟化する温度未満でラミネートする場合,半導体ウェハの突出した接続端子の周辺への埋込不足が発生し,ボイドが巻き込まれた状態となり,ダイシング時の剥がれ,ピックアップ時の回路部材接続用接着剤の変形,位置合わせ時の認識マーク識別不良,さらにボイドによる接続信頼性の低下などの原因となる傾向がある。
[0096]半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤,ダイシングテープから構成される積層体をダイシングする際,IR認識カメラを用いることによってウェハを透過して半導体ウェハの回路パターン又はダイシング用の位置合わせマークを認識し,スクライブラインの位置合わせを行うことができる。
[0097]半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤,ダイシングテープから構成される積層体において,半導体ウェハと回路部材接続用接着剤を切断する工程は通常のダイサーを用いて行うことができる。ダイサーによる切断は一般的にダイシングと称される工程を適用できる。」

(引1h)「[0101]接着剤付きチップの吸引工程,位置合わせ工程,加熱加圧工程は通常のフリップチップボンダーで行うことができる。また,吸引工程,位置合わせ工程を行い,位置合わせ後の半導体チップを基板に仮固定した後,圧着のみ行う圧着機で加熱加圧して接続することもできる。さらに,加熱加圧だけでなく,超音波を印可しながら接続を行うこともできる。」

(引1i)「実施例
[0102]以下,実施例によって本発明を更に詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
[0103](実施例1)
架橋性樹脂としてエポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名)15重量部,この架橋性樹脂と反応する硬化剤としてフェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)15重量部,分子量100万以下,Tg40℃以下,かつ架橋性樹脂と反応可能な官能基を側鎖に少なくとも1カ所含む共重合性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万)20重量部,マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名)50重量部及びシランカップリング剤SH6040(東レ・ダウコーニングシリコーン製,商品名)を用い,表1記載の組成でトルエンと酢酸エチルの混合溶媒中に溶解し,接着樹脂組成物のワニスを得た。」

(引1j)「[0107](実施例2?4)
実施例1と同様に表1記載の組成で,実施例1と同様の工程を経て接着樹脂組成物のワニスを作製した後,透過性確認用フィルムを作製すると共に,回路部材接続用接着剤の絶縁性接着剤層を得た。」

(引1k)「[0149]回路部材接続用接着剤の特性として,平行透過率,硬化後の線膨張係数,フリップチップボンダーでのアライメントマーク認識の可不可,反応率,さらに圧着後の接続抵抗値及び信頼性試験後の接続抵抗値を各実施例及び各比較例ごとに表5及び表6に示す。」

(引1l)[表5]から,実施例1の平行透過率が18%,実施例2ないし4の平行透過率が25ないし33%であって,チップアライメントマーク認識が可能で有り,しかも,高温高湿試験・温度サイクル試験の結果が良好であることを読み取れる。

(2)そうすると,上記の記載に照らして,引用例1には,フェイスダウンボンディング方式で半導体素子を回路基板へ加熱,加圧によって接続するための回路部材接続用接着剤を用いた半導体装置を,上記(引1i)ないし(引1l)の「実施例」に記載された回路部材接続用接着剤を用いて,上記(引1d)に記載された「回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態はまた,チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置し,回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断し,ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する,ことによって」で製造する方法である,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置する工程と,
回路部材接続用接着剤を配置していない前記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断する工程と,
ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離することによって,回路部材接続用接着剤を,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態の半導体チップを得る工程と,
を有するフェイスダウンボンディング方式で半導体素子が回路基板へ接続された半導体装置の製造方法であって,
前記回路部材接続用接着剤が,
架橋性樹脂としてエポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名)15重量部,この架橋性樹脂と反応する硬化剤としてフェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)15重量部,分子量100万以下,Tg40℃以下,かつ架橋性樹脂と反応可能な官能基を側鎖に少なくとも1カ所含む共重合性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万)20重量部,マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名)50重量部及びシランカップリング剤SH6040(東レ・ダウコーニングシリコーン製,商品名)を含み,
前記回路部材接続用接着剤の特性として,平行透過率が18ないし33%であって,チップアライメントマーク認識が可能で有り,しかも,高温高湿試験・温度サイクル試験の結果が良好である,
半導体装置の製造方法。」

4 当審の判断
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の
「チップ化する前の突出した接続端子を有する半導体ウェハの接続端子面に回路部材接続用接着剤を配置する工程」,
「回路部材接続用接着剤を配置していない前記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにしてダイシングテープを配置した積層体を,ダイシングによって個片に切断する工程」,及び
「ダイシングテープから個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップをはく離する」は,それぞれ,本願発明1の
「回路部材接続用接着剤を,半導体ウェハに貼り付け,積層体を得る工程」,
「『前記積層体における前記半導体ウェハをダイシングテープ上に固定し,』『前記ダイシングラインに沿って個片に切断する工程』」,及び,
「前記ダイシングテープから,ピックアップすることによって,個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップを得る工程」に相当する。

イ フェイスダウンボンディング方式で半導体素子を回路基板へ接続することは,フリップチップすることに該当する。
そうすると,引用発明1の「フェイスダウンボンディング方式で半導体素子が回路基板へ接続された半導体装置の製造方法」は,以下の相違点1を除いて,本願発明1の「フリップチップされた半導体装置の製造方法」に相当する。

ウ 引用発明1の回路部材接続用接着剤が含む,
・「フェノールアラルキル樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名)」,
・「エポキシ樹脂NC7000(日本化薬株式会社製,商品名)」,
・「エポキシ基含有アクリルゴムHTR-860P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量30万)」,及び,
・「マイクロカプセル型硬化剤としてHX-3941HP(旭化成株式会社製,商品名)」は,それぞれ,本願発明1の
・「フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物」,
・「熱硬化性樹脂」,
・「熱可塑性樹脂」,及び,
・「熱硬化性樹脂用硬化剤」に相当する。
このことは,本願の発明の詳細な説明の【0056】に(実施例1)として記載された,本願発明1に係る接着剤樹脂組成物が,
・フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物としてフェノールノボラック樹脂XLC-LL(三井化学株式会社製,商品名),
・熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂HP-5000(DIC株式会社製,商品名),
・熱可塑性樹脂としてエポキシ基含有アクリルゴムHTR-860-P-3(ナガセケムテックス株式会社製,商品名,重量平均分子量80万),及び,
・熱硬化性樹脂用硬化剤(マイクロカプセル型硬化剤)HX-3941-HP(旭化成株式会社製,商品名)を含むものであると記載されていることからも明らかである。

したがって,上記の対応関係から,本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりといえる。

<一致点>
「回路部材接続用接着剤を,半導体ウェハに貼り付け,積層体を得る工程と,
前記積層体における前記半導体ウェハをダイシングテープ上に固定し,ダイシングラインに沿って個片に切断する工程と,
前記ダイシングテープから,ピックアップすることによって,個片化した回路部材接続用接着剤付半導体チップを得る工程と,
を有するフリップチップされた半導体装置の製造方法であって,
前記回路部材接続用接着剤が,フェノール性水酸基を有するフェノール系化合物,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂,及び熱硬化性樹脂用硬化剤を含む,半導体装置の製造方法。」

<相違点>
・相違点1:ダイシングラインに沿った半導体ウェハの切断が,本願発明1では,回路部材接続用接着剤側から半導体ウェハのダイシングラインを認識して行うものと特定されているのに対して,引用発明1では,そのような特定がされていない点。

(2)判断
・相違点1について
ア 引用例1の[0052]には,(i)半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤,回路部材接続用接着剤側に粘着層を配置したダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断する方法と,(ii)半導体ウェハの接続端子面に配置された回路部材接続用接着剤,半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにして配置されたダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断する方法(引用発明1のダイシング方法はこれにあたる。)との,二通りのダイシング方法が示されている。

イ そして,引用例1の[0096]には,「半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤,ダイシングテープから構成される積層体をダイシングする際」,すなわち,上記(i)のダイシングの際に,IR認識カメラを用いることによってウェハを透過して半導体ウェハの回路パターン又はダイシング用の位置合わせマークを認識し,スクライブラインの位置合わせを行うことができることが記載されている。

ウ 一方,引用例1には,上記(ii)のダイシングの際の,スクライブラインの位置合わせの方法については,具体的に記載されていない。しかしながら,上記(ii)のダイシング,すなわち,半導体ウェハの接続端子面に配置された回路部材接続用接着剤,半導体ウェハ,回路部材接続用接着剤を配置していない上記半導体ウェハの面に粘着層が接触するようにして配置されたダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断する際においても,ダイシングラインの位置合わせが必要なことは,当業者において明らかである。

エ さらに,引用例1の[0032]には,「本発明の回路部材接続用接着剤によれば・・・接着剤付チップの高精度な位置合わせを実現する透明性と低熱膨張係数化による高接続信頼性を両立することが可能である。」ことが,また,[0054],[0055]には,「回路部材接続用接着剤は,半導体チップの突出した接続端子を有する面に貼付けた状態で,回路部材接続用接着剤を透過してチップの回路面に形成された位置合わせマークを識別できる事が好ましい。位置合わせマークは通常のフリップチップボンダーに搭載されたチップ認識用の装置で識別することができる。この認識装置は通常ハロゲンランプを有するハロゲン光源,ライトガイド,照射装置,及びCCDカメラから構成される。CCDカメラで取り込んだ画像は画像処理装置によってあらかじめ登録された位置合わせ用の画像パターンとの整合性が判断され,位置合わせ作業が行われる。」ことが,それぞれ記載されていることから,引用例1には,フリップチップボンドの際に,通常ハロゲンランプを有するハロゲン光源,ライトガイド,照射装置,及びCCDカメラから構成される認識装置を用いることによって,アライメントマークの認識性が高い回路部材接続用接着剤を透過してチップの回路面に形成された位置合わせマークを識別し,高精度な位置合わせを実現することができることが記載されていると認められる。
そして,回路部材接続用接着剤を透過したアライメントマークの認識性が高い場合,すなわち,前記回路部材接続用接着剤の平行透過率が大きく透明な場合に,当該回路部材接続用接着剤を透過して,半導体ウェハのダイシングラインを認識することができるであろうことは当業者が直ちに理解することである。

オ そうすると,回路部材接続用接着剤が,「平行透過率が18ないし33%であって,チップアライメントマーク認識が可能で有」ると特定されている引用発明1において,当該回路部材接続用接着剤,半導体ウェハ,ダイシングテープの順で積層された積層体を,ダイシングによって個片に切断する際に,ダイシングラインの位置合わせを,フリップチップボンドの際のチップの回路面に形成された位置合わせマークを識別する際と同様に,CCDカメラ等から構成される認識装置を用いることによって,回路部材接続用接着剤を透過して,ダイシングラインを認識して行うこと,すなわち,引用発明1において,相違点1について,本願発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

・効果について
引用発明1において,相違点1について,本願発明1の構成を採用したことによる効果は,当業者が予測する範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

(3)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,本願発明1は,引用例1に記載された発明から容易に発明をすることができたものである。
したがって,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-02 
結審通知日 2017-06-06 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2013-267231(P2013-267231)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大嶋 洋一堀江 義隆  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 半導体装置の製造方法及びこれを用いて製造されてなる半導体装置  
代理人 平野 裕之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 阿部 寛  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 清水 義憲  

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