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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1330886
審判番号 不服2016-16435  
総通号数 213 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-09-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-02 
確定日 2017-08-03 
事件の表示 特願2012-115652「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日出願公開、特開2013-241100〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成24年5月21日の出願であって、平成28年3月17日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成28年5月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年8月3日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年11月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成28年11月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書及び特許請求の範囲について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち平成28年5月24日に提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1を下記の(b)に示す請求項1に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
動力源としてエンジンおよび電動モータを具え、前記エンジンが、該エンジンにより駆動されるポンプからの作動媒体で締結されるクラッチを介し切り離し可能に車輪に駆動結合され、該クラッチを解放すると共に前記エンジンを停止させることで前記電動モータのみで走行する電気走行モードと、前記クラッチを締結することで前記電動モータおよびエンジンで走行するハイブリッド走行モードとを選択可能なハイブリッド車両において、
前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の出力伝達応答遅れ中、車速が設定車速未満である場合、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しないモータ定格出力超制御許可手段を設けて成ることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
動力源としてエンジンおよび電動モータを具え、前記エンジンが、該エンジンにより駆動されるポンプからの作動媒体で締結されるクラッチを介し切り離し可能に車輪に駆動結合され、該クラッチを解放すると共に前記エンジンを停止させることで前記電動モータのみで走行する電気走行モードと、前記クラッチを締結することで前記電動モータおよびエンジンで走行するハイブリッド走行モードとを選択可能なハイブリッド車両において、
前記電動モータは、車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有し、
前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の出力伝達応答遅れ中、車速が前記所定車速と等しい設定車速未満である場合、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しないモータ定格出力超制御許可手段を設けて成ることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求1に係る発明の発明特定事項である「電動モータ」について、「車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有」する点を限定するとともに、「モータ定格出力超制御」を許可するか又は許可しないかを判断する際に用いられる「設定車速」について、「前記所定車速と等しい」点を限定するものである。

よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2008-296907号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用されたハイブリッド型の車両用駆動システムであるハイブリッド駆動装置10の骨子図である。このハイブリッド駆動装置10はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のもので、燃料の燃焼によって作動するガソリンエンジン12と、電気エネルギーで作動する電動モータおよび発電機としての機能を有するモータジェネレータ14と、遊星歯車式の副変速機16と、ベルト式の無段変速機18と、差動装置20とを備えており、出力軸22R、22Lから図示しない左右の前輪(駆動輪)に駆動力が伝達される。エンジン12、モータジェネレータ14、副変速機16、および無段変速機18の入力軸38は、同一の軸線上にその順番で配設されている。エンジン12およびモータジェネレータ14は、移動体である車両を移動させるための移動用駆動力源、走行用駆動力源に相当するもので、エンジン12は第1駆動力源であり、モータジェネレータ14はエンジン12よりも定格出力が小さく且つ始動時間が短い第2駆動力源である。また、無段変速機18は主変速機で、本実施例では出力軸22R、22Lまでの間で3?11程度の変速比が得られるようになっている。」(段落【0019】)

b)「【0022】
副変速機16は、互いに近接して並列に配設されたダブルプラネタリ型の第1遊星歯車装置30およびシンプルプラネタリ型の第2遊星歯車装置32を備えている。これらの遊星歯車装置30、32は、共通のリングギヤRおよびキャリアCを有するとともに、第1遊星歯車装置30のキャリアのリングギヤ側のピニオンギヤと第2遊星歯車装置32のキャリアのピニオンギヤとが一体化されているラビニヨ型である。そして、第1遊星歯車装置30のサンギヤS1には、前記モータジェネレータ14が連結され、第2遊星歯車装置32のサンギヤS2には、第1クラッチC1およびダンパ装置34を介してエンジン12が連結されるようになっている。また、それ等のサンギヤS1およびS2は第2クラッチC2によって連結されるとともに、キャリアCは反力ブレーキBによってハウジング44に連結されて回転が阻止されるようになっており、リングギヤRは出力部材36を介して無段変速機18の入力軸38に連結されている。クラッチC1、C2、反力ブレーキBは、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる摩擦係合式のものである。」(段落【0022】)

c)「【0027】
図3は、クラッチC1、C2、および反力ブレーキBの係合状態と副変速機16の変速モード(一例)との関係を示す図で、エンジン12を駆動力源として使用する場合、モータジェネレータ14を駆動力源として使用する場合、或いはシフトレバーの操作ポジション(図6参照)などにより場合分けして示したものである。・・・・・中略・・・・・
【0028】
図3において、エンジン12を駆動力源として前進走行する「D」、「M」、「B」ポジションでは、クラッチC1、C2を共に係合させるとともに反力ブレーキBを解放することにより、変速比が1の高速前進モード「2nd」が成立させられる。・・・・・中略・・・・・また、「N」ポジションでは、クラッチC1、C2を共に解放するとともに反力ブレーキBを係合させることにより、エンジン12からの動力伝達を遮断する。
【0029】
モータジェネレータ14を駆動力源とする「D」、「M」、「B」ポジションでは、クラッチC1、C2を共に解放するとともに反力ブレーキBを係合させることにより低速前進モード「1st」が成立させられ、車両停止時には前進方向のクリープトルクを発生させるとともにアクセル操作に従って発進する。・・・・・中略・・・・・
【0030】
そして、上記低速前進モード「1st」からエンジン12による高速前進モード「2nd」への移行は、例えば、第2クラッチC2を係合させながら反力ブレーキBを解放して副変速機16を一体回転させるとともに、エンジン12の回転数がサンギヤS2と同期した後に第1クラッチC1を係合させ、その後にモータジェネレータ14への電力供給を停止して無負荷状態にする。
【0031】
また、クラッチC1、C2を共に係合させるとともに反力ブレーキBを解放することにより、エンジン12およびモータジェネレータ14の両方を駆動力源として走行する変速比が1のアシストモード「2nd(アシスト)」が成立させられ、第1クラッチC1および反力ブレーキBを解放するとともに第2クラッチC2を係合させれば、モータジェネレータ14を回生制御して効率良く充電しながら制動力を発生させる変速比が1の回生制動モード「2nd(回生)」が成立させられる。・・・・・後略・・・・・」(段落【0027】ないし【0031】)

d)「【0033】
上記エンジン12およびモータジェネレータ14の使い分けは、例えば車速およびアウトプットトルク(アクセル操作量)をパラメータとして、図4の(a) のマップM1、または(b) のマップM2に示すように定められる。ここで、(a) のマップM1では、高車速、高トルク(アクセル操作量大)の領域ではエンジン12を使用し、低車速、低トルク(アクセル操作量小)の領域ではモータジェネレータ14を使用するが、低電圧のモータジェネレータ14を使用する本実施例では、モータジェネレータ14の使用範囲は比較的狭く、車両停止時のクリープトルクおよび僅かな走行領域に限定されている。マップM1、M2は、バッテリ26の蓄電量SOCなど車両の走行条件等に応じて選択され、例えばバッテリ26の蓄電量SOCが不足している場合はマップM2が選択される。図4は前進走行用のものであるが、後進走行についても同様に定められる。なお、エンジン12を駆動力源とする上記「2nd」、「2nd(低速)」の領域でモータジェネレータ14をアシスト的に使用することも可能である。また、各領域の境界線は、無段変速機18の変速比などに応じて変化する。」(段落【0033】)

e)「【0034】
図5は、本実施例のハイブリッド駆動装置10の作動を制御する制御系統を示す図で、ECU(Electronic Control Unit)50には図5の左側に示すスイッチやセンサ等から各種の信号が入力されるとともに、ROM等に予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行って右側に示す各種の装置等に制御信号などを出力することにより、例えば車速Vやアクセル開度(アクセルペダルの操作量)θ、シフトポジション(シフトレバーの操作位置)、バッテリ蓄電量SOC、フットブレーキの操作量などの運転状態に応じて副変速機16の変速モードを切り換えたり、エンジン12およびモータジェネレータ14の作動を制御したりする。
・・・・・中略・・・・・
【0036】
また、図5のコントローラ(MO)66はエンジン始動用の電動モータ60の出力(トルク)制御を行うもので、コントローラ(MG14)68、コントローラ(MG24)70はモータジェネレータ14、24の出力(トルク)制御および回生制御等を行うインバータで、電動オイルポンプ72は前記クラッチC1、C2やブレーキB、或いはABSアクチュエータ74等に油圧を供給するためのものである。・・・・・後略・・・・・」(段落【0034】ないし【0036】)

f)「【0038】
一方、エンジン12を駆動力源として使用するために始動する際には、前記ECU50により図11のフローチャートに従って信号処理が行われる。ステップS1では、本制御に必要な各種の信号を読み込む等の入力信号処理を行い、ステップS2では、シフトポジションスイッチ82(図5参照)から供給される信号に基づいてシフトレバーの操作位置が走行ポジション、すなわち「D」、「M」、「B」、または「R」であるか否かを判断する。走行ポジションであれば、ステップS3においてエンジン12を走行用の駆動力源として使用するためのエンジン始動条件が成立しているか否か、すなわちモータ走行モードからエンジン走行モード或いはエンジン+モータ走行モードへ移行するか否か、または単純にエンジン12を始動して走行するか否かなどを判断する。具体的には、前記図4の(a) のマップM1において、車速Vおよびアクセル操作量θ等がモータジェネレータ14による低速前進モード「1st」からエンジン12によるエンジン低速前進モード「2nd(低速)」または高速前進モード「2nd」へ移行する条件を満たしているか否か、或いはバッテリ26の蓄電量不足などで図4の(b) のマップM2に切り換えられるなどしてエンジン12によるエンジン低速前進モード「2nd(低速)」または高速前進モード「2nd」を新たに実行する条件を満たしているか否か等である。
【0039】
そして、エンジン始動条件が成立している場合には、ステップS4においてエンジン始動用電動モータ60によりエンジン12をクランキングするとともに点火時期制御や燃料噴射制御などを行う。このエンジン始動処理の実行時には、第1クラッチC1は解放され、エンジン12が駆動力伝達系から切り離されている。ECU50による信号処理のうちステップS4を実行する部分はエンジン始動手段として機能している。次のステップS5では、予め定められた所定の時間内に実際にエンジン12が始動したか否かを判断し、エンジン12が始動すればステップS6においてエンジン12を駆動力源とする通常の走行制御を行うが、故障など何等かの理由で所定の時間内にエンジン12が始動しない場合にはステップS5に続いてステップS7以下を実行し、エンジン始動用の電動モータ60を用いて駆動力を発生させる。ECU50による信号処理のうちステップS5を実行する部分は始動遅れ判断手段として機能している。
【0040】
ステップS7では、電磁クラッチ62を解放して補機64を切り離すことにより、駆動力を発生させる電動モータ60の負担を軽減する。ステップS8では第1クラッチC1を係合させてエンジン12を副変速機16に接続し、エンジン12の回転が副変速機16、ベルト式無段変速機18等の駆動力伝達系を経て出力軸22R、22Lから駆動輪まで伝達されるようにする。第1クラッチC1の他にも前進走行時には第2クラッチC2が係合させられ、後進走行時には反力ブレーキBが係合させられる。そして、ステップS9のMO特殊制御では、電動モータ60をステップS4のエンジン始動時よりも大きなトルクで作動させて、エンジン12を回転させながら駆動力を発生させる。具体的には、電動モータ60の出力を、定格出力を越えて最大限まで引き上げてエンジン12の始動遅れに伴う駆動力不足を補い、車両を走行可能としたり、所定の駆動力を発生させたりするのである。電動モータ60は直流モータであるため、容易にこのような制御が可能である。ECU50による信号処理のうちステップS8およびS9を実行する部分は補助駆動制御手段として機能しており、エンジン始動用の電動モータ60は通常は走行用駆動力源として使用しない第3駆動力源に相当する。また、電動モータ60の始動時間はエンジン12よりも十分に短く、速やかに駆動力を発生させることができる。また、上記クラッチC1、C2、ブレーキBは、第3駆動力源の駆動力が駆動輪へ伝達されるように係合させられる係合装置である。
【0041】
なお、上記電動モータ60の特殊制御時にはモータジェネレータ14も作動させられ、両方の出力を加えた駆動力が発生させられる。すなわち、エンジン+モータ走行モードへ移行する場合は勿論、エンジン走行モードへ移行する場合にも、モータジェネレータ14は所定の出力で作動させられ、電動モータ60と共にエンジン12の代わりに所定の駆動力を発生させるのである。」(段落【0038】ないし【0041】)

g)「【0046】
また、図12は、車両走行用の第2駆動力源として用いられるモータジェネレータ14を特殊制御して、エンジン12の始動遅れに伴う駆動力不足を補う場合で、ステップSS1?SS6は図11のステップS1?S6と実質的に同じであり、ステップSS7ではエンジン12の始動遅れに伴う駆動力不足を補うように、バッテリ26からの電気エネルギー供給量を増大させるなどしてモータジェネレータ14を、その定格出力を越える大トルクで作動させて走行する。モータジェネレータ14は交流モータで、インバータにより制御されるが、予め大電流を流せるように設計することにより、一時的であれば定格出力を越える大きなトルクを発生させることができる。
・・・・・中略・・・・・
【0048】
この場合も前記実施例と同様の効果が得られる。特に、モータ走行モードからエンジン走行モード或いはエンジン+モータ走行モードへの移行時のエンジン始動遅れの場合、モータ走行モードで使用していたモータジェネレータ14をそのまま用いて高トルクまで引っ張って走行することになるため、前記実施例のように別の電動モータ60やモータジェネレータ24を用いて駆動力を発生させる場合に比較して、駆動力を滑らかに増大させることができるとともに制御が容易である。」(段落【0046】ないし【0048】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

a)上記(1)a)及び図1の記載によれば、刊行物1に記載されたハイブリッド型の車両においては、動力源としてエンジン12及びモータジェネレータ14を備えることが分かる。

b)上記(1)a)ないしc)及びe)の記載並びにf)における「このエンジン始動処理の実行時には、第1クラッチC1は解放され、エンジン12が駆動力伝達系から切り離されている。」及び「ステップS8では第1クラッチC1を係合させてエンジン12を副変速機16に接続し、エンジン12の回転が副変速機16、ベルト式無段変速機18等の駆動力伝達系を経て出力軸22R、22Lから駆動輪まで伝達されるようにする。」の記載を図1、3及び5とあわせてみると、刊行物1に記載されたハイブリッド型の車両においては、エンジン12が、電動オイルポンプ72からの作動媒体で締結される第1クラッチC1を介し切り離し可能に駆動輪に駆動結合されていることが分かる。

c)上記(1)c)の記載及びf)における「走行ポジションであれば、ステップS3においてエンジン12を走行用の駆動力源として使用するためのエンジン始動条件が成立しているか否か、すなわちモータ走行モードからエンジン走行モード或いはエンジン+モータ走行モードへ移行するか否か、または単純にエンジン12を始動して走行するか否かなどを判断する。」の記載を図3及び11とあわせてみると、刊行物1に記載されたモータ走行モードにおいては、第1クラッチC1を解放するとともにエンジン12を始動しないで、すなわちエンジン12を停止させることでモータジェネレータ14のみで走行することが分かる。

d)上記(1)c)の記載及びf)における「走行ポジションであれば、ステップS3においてエンジン12を走行用の駆動力源として使用するためのエンジン始動条件が成立しているか否か、すなわちモータ走行モードからエンジン走行モード或いはエンジン+モータ走行モードへ移行するか否か、または単純にエンジン12を始動して走行するか否かなどを判断する。」の記載を図3及び11とあわせてみると、刊行物1に記載されたエンジン+モータ走行モードにおいては、第1クラッチC1を締結することでモータジェネレータ14及びエンジン12で走行することが分かる。

e)上記(1)c)及びd)並びに図3及び4の記載を上記(2)c)及びd)の記載とあわせてみると、刊行物1に記載されたハイブリッド型の車両においては、モータ走行モードと、エンジン+モータ走行モードとを選択可能であることが分かる。

f)上記(1)f)及びg)並びに図12の記載を上記(2)c)ないしe)の記載とあわせてみると、刊行物1に記載されたハイブリッド型の車両においては、モータ走行モードからエンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき、エンジン12始動時の始動遅れ中、モータジェネレータ14が定格出力を越えるトルクで作動する制御を許可する手段を設けて成ることが分かる。

g)上記(1)a)及びe)並びに図1及び5の記載によれば、刊行物1にはハイブリッド型の車両のECU50が記載されていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。

<刊行物1に記載された発明>

「動力源としてエンジン12及びモータジェネレータ14を備え、前記エンジン12が、電動オイルポンプ72からの作動媒体で締結される第1クラッチC1を介し切り離し可能に駆動輪に駆動結合され、該第1クラッチC1を解放すると共に前記エンジン12を停止させることで前記モータジェネレータ14のみで走行するモータ走行モードと、前記第1クラッチC1を締結することで前記モータジェネレータ14及びエンジン12で走行するエンジン+モータ走行モードとを選択可能なハイブリッド型の車両において、
前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき、エンジン12始動時の始動遅れ中、前記モータジェネレータ14が定格出力を越えるトルクで作動する制御を許可する手段を設けて成るハイブリッド型の車両のECU50。」

2.対比・判断

(1)対比

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「エンジン12」、「モータジェネレータ14」、「第1クラッチC1」、「駆動輪」、「モータ走行モード」、「エンジン+モータ走行モード」、「ハイブリッド型の車両」、「定格出力を越えるトルクで作動する制御」及び「ECU50」は、それぞれ、本件補正発明における「エンジン」、「電動モータ」、「クラッチ」、「車輪」、「電気走行モード」、「ハイブリッド走行モード」、「ハイブリッド車両」、「定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御」及び「制御装置」に相当する。

前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「電動オイルポンプ72からの作動媒体で締結される第1クラッチC1」と、本件補正発明における「該エンジンにより駆動されるポンプからの作動媒体で締結されるクラッチ」とは、「ポンプからの作動媒体で締結されるクラッチ」という限りにおいて一致する。

前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「エンジン12始動時の始動遅れ中」と、本件補正発明における「エンジン始動時の出力伝達応答遅れ中」とは、「エンジン始動時の遅れ中」という限りにおいて一致する。

前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき、エンジン12始動時の始動遅れ中、前記モータジェネレータ14が定格出力を越えるトルクで作動する制御を許可する手段」と、本件補正発明における「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の出力伝達応答遅れ中、車速が前記所定車速と等しい設定車速未満である場合、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しないモータ定格出力超制御許可手段」とは、「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の遅れ中、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可するモータ定格出力超制御許可手段」という限りにおいて一致する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「動力源としてエンジンおよび電動モータを具え、前記エンジンが、ポンプからの作動媒体で締結されるクラッチを介し切り離し可能に車輪に駆動結合され、該クラッチを解放すると共に前記エンジンを停止させることで前記電動モータのみで走行する電気走行モードと、前記クラッチを締結することで前記電動モータおよびエンジンで走行するハイブリッド走行モードとを選択可能なハイブリッド車両において、
前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の遅れ中、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可するモータ定格出力超制御許可手段を設けて成るハイブリッド車両の制御装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

a)相違点1

本件補正発明においては、「前記エンジンが、該エンジンにより駆動されるポンプからの作動媒体で締結されるクラッチを介し切り離し可能に車輪に駆動結合され」、
「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき、エンジン始動時の出力伝達応答遅れ中」、「前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可する」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「前記エンジン12が、電動オイルポンプ72からの作動媒体で締結される第1クラッチC1を介し切り離し可能に駆動輪に駆動結合され」、
「前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき、エンジン12始動時の始動遅れ中、前記モータジェネレータ14が定格出力を越えるトルクで作動する制御を許可する」点(以下、「相違点1」という。)。

b)相違点2

本件補正発明においては、「前記電動モータは、車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有し」、
「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき」、「車速が前記所定車速と等しい設定車速未満である場合、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しない」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「前記電動モータは、車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有し」、
「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき」、「車速が前記所定車速と等しい設定車速未満である場合、前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しない」か否かが不明である点(以下、「相違点2」という。)。

(2)判断

a)相違点1について

ハイブリッド車両において、エンジンが、ポンプからの作動媒体で締結されるクラッチを介し切り離し可能に車輪に駆動結合された場合、動力源始動時の出力伝達応答遅れが発生することは、技術常識(例えば、特開平9-286245号公報[特に、段落【0002】及び【0003】。「摩擦係合装置」が「クラッチ」に対応する。]等参照。)である。
このことから、刊行物1に記載された発明において、「前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき」、すなわち、「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき」、動力源である「エンジン12」、すなわち、「エンジン」始動時の出力伝達応答遅れが少なからず発生することは明らかである。

また、刊行物1に記載された発明において、「電動オイルポンプ72」に代えて、「エンジンにより駆動されるポンプ」を設けることは、部品点数の削減等を目的に当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。

してみると、刊行物1に記載された発明において、「電動オイルポンプ72」を「エンジンにより駆動されるポンプ」と設計変更して、「前記エンジン12」(本件補正発明における「エンジン」に相当する。以下、括弧内に本件補正発明における相当する用語を記載する。)が、「エンジンにより駆動されるポンプ」からの作動媒体で締結される「第1クラッチC1」(クラッチ)を介し切り離し可能に「駆動輪」(車輪)に駆動結合されるようにするとともに、「前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき」(前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき)に発生するエンジン始動時の出力伝達応答遅れ中においても、「前記モータジェネレータ14が定格出力を越えるトルクで作動する制御を許可する」(前記電動モータが定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御を許可する)ようにして、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

b)相違点2について

電動モータの定格トルク特性を、回転数に対する定格トルク特性として、回転数が所定回転数未満のとき一定の最大値となり、回転数が前記所定回転数以上のとき回転数の上昇につれて低下するものとすることは、本件出願前に慣用技術であって、刊行物1の図4(a)におけるモータジェネレータ14のみで走行する低速前進モード「1st」の領域においても看取できる。
このことから、上記刊行物1に記載された発明において、「モータジェネレータ14」、すなわち、「電動モータ」は、回転数、すなわち、車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有すると考えるのが自然である。

そして、このような定格トルク特性を有する電動モータにおいて、定格トルク特性が一定の最大値となる範囲においては、定格トルク特性が回転数の上昇につれて低下する範囲と比較して、定格トルクの値が実際に電動モータが出力することができるトルクの上限値よりも小さい値により制限されていることは技術常識であるから、定格トルクを超えたトルクを出力するにあたり、定格トルク特性が一定の最大値となっている範囲で行うことが効果的であることは、当業者にとって明らかな事項である。

してみると、刊行物1に記載された発明において、「前記モータ走行モードから前記エンジン+モータ走行モードへ切り替えるとき」(本件補正発明における「前記電気走行モードから前記ハイブリッド走行モードへ切り替えるとき」に相当する。以下、括弧内に本件補正発明における相当する用語を記載する。)、車速が、定格トルク特性がその車速未満のとき一定の最大値となる所定車速と等しい設定車速未満である場合、「モータジェネレータ14」(電動モータ)が「定格出力を越えるトルクで作動する制御」(定格トルクを超えたトルクで力行するモータ定格出力超制御)を許可し、車速が前記設定車速以上である場合、前記モータ定格出力超制御を許可しないようにして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

c)まとめ

本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成28年11月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成28年5月24日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2008-296907号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「電動モータ」について、「車速に対する定格トルク特性として、車速が所定車速未満のとき一定の最大値となり、車速が前記所定車速以上のとき車速の上昇につれて低下する定格トルク特性を有」する点の限定を削除するとともに、「モータ定格出力超制御」を許可するか又は許可しないかを判断する際に用いられる「設定車速」について、「前記所定車速と等しい」点の限定を削除したものである。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-23 
結審通知日 2017-05-30 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2012-115652(P2012-115652)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
西山 智宏
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 綾田 正道  
代理人 綾田 正道  

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