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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1330910 |
審判番号 | 不服2015-7613 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-23 |
確定日 | 2017-08-02 |
事件の表示 | 特願2010-181905「非晶質シリコン膜の結晶化方法,また薄膜トランジスタおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開,特開2011-222936〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は,平成22年8月16日(パリ条約による優先権主張2010年4月8日,大韓民国)の出願であって,平成26年2月19日付けの拒絶理由の通知に対して,同年5月22日に意見書と手続補正書が提出され,同年12月18日付けで拒絶査定され,平成27年4月23日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正書が提出され,平成28年9月2日付けで,当審において,平成27年4月23日付けの手続補正を却下すると共に,拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)を通知し,同年12月2日に意見書と手続補正書が提出されたものである。 そして,その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は,平成28年12月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 非晶質シリコン膜を形成する段階と, 前記非晶質シリコン膜上に互いに離隔するように結晶化触媒粒子を位置させる段階と, 前記結晶化触媒粒子を覆うように絶縁層を形成する段階と, 前記絶縁層をパターニングして除去される部分の絶縁層と共に該部分に覆われた前記結晶化触媒粒子を選択的に除去する段階と, 前記非晶質シリコン膜を熱処理によって結晶化する段階と を含み, 前記熱処理によって,前記絶縁層が除去された部分に対応する前記非晶質シリコン膜の部分に結晶化触媒粒子がゲッタリングされる一方,前記絶縁層の前記除去された部分以外に結晶化触媒粒子が拡散される結晶化方法。」 2 引用例の記載と引用発明 (1)当審拒絶理由で,「引用文献3」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2006-108608号公報(以下「引用例1」という。)には,「薄膜トランジスタ及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図6と共に以下の記載がある。(下線は当審において付した。以下同じ。) (1a)「【請求項7】 基板を準備する段階と, 前記基板上に非晶質シリコン層を形成する段階と, 前記非晶質シリコン層上に金属触媒を含むキャッピング層を形成する段階と, 前記キャッピング層をパターニングする段階,及び 前記基板を熱処理して非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化する段階を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ製造方法。 <途中省略> 【請求項9】 前記非晶質シリコン層上に金属触媒を含むキャッピング層を形成する段階は, 前記非晶質シリコン層上に第1キャッピング層を形成する段階と, 前記第1キャッピング層上に金属触媒層を形成する段階,及び 前記金属触媒層上に第2キャッピング層を形成する段階であることを特徴とする請求項7に記載の薄膜トランジスタ製造方法。 <途中省略> 【請求項14】 前記基板を熱処理して非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化する段階は, 前記基板を第1熱処理してキャッピング層パターン内の金属触媒を拡散または浸透させて多結晶シリコン層とキャッピング層パターンの界面にシードを形成する段階,及び 前記基板を第2熱処理してシードにより非晶質シリコン層が多結晶シリコン層を結晶化する段階であることを特徴とする請求項7に記載の薄膜トランジスタ製造方法。 <途中省略> 【請求項16】 前記第2熱処理は400ないし1300℃の温度範囲で熱処理することを特徴とする請求項14に記載の薄膜トランジスタ製造方法。 <途中省略> 【請求項18】 前記金属触媒はNi,Pd,Ti,Ag,Au,Al,Sn,Sb,Cu,Co,Mo,Tr,Ru,Rh,CdまたはPtのうちいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項7に記載の薄膜トランジスタ製造方法。 <途中省略> 【請求項21】 前記多結晶シリコン層に残留する金属触媒は10^(9)ないし10^(13)atoms/cm^(2)であることを特徴とする請求項7に記載の薄膜トランジスタ製造方法。」 (1b)「【0004】 現在,金属を利用して非晶質シリコンを結晶化する方法は高温で長時間熱処理して結晶化する固相結晶化(Solid Phase Crystallization)より低い温度で迅速な時間内に結晶化させることができる長所を有しているため多く研究されている。金属を利用した結晶化方法は金属誘導結晶化(Metal Induced Crystallization)方法と金属誘導側面結晶化(Metal Induced Lateral Crystallization)方法に区分される。しかし,金属を利用した前記方法の場合にも金属汚染によって漏れ電流が増加して薄膜トランジスタの素子特性が低下する問題点がある。 【0005】 一方,金属量を減らして良質の多結晶シリコン層を形成させるために,イオン注入器を介して金属のイオン濃度を調節して高温処理,急速熱処理またはレーザー照射で良質の多結晶シリコン層を形成させる技術と金属誘導結晶化方法で多結晶シリコン層の表面を平坦にするために粘性がある有機膜と液状の金属を混合してコーティング方法で薄膜を蒸着した次に熱処理工程で結晶化する方法が開発されている。しかし,前記結晶化方法の場合にも多結晶シリコン層で最も重要視されるグレーン大きさの大型化及び均一度側面で問題がある。 【0006】 前記問題を解決するために蓋層を利用した結晶化方法で多結晶シリコン層を製造する方法(特許文献1)が開発された。前記方法は,基板上に金属触媒層を形成して,その上にキャッピング層を形成させた次に,前記キャッピング層上に非晶質シリコン層を形成して熱処理あるいはレーザーを利用して金属触媒をキャッピング層を介して非晶質シリコン層に拡散させてシードを形成させた後,これを利用して多結晶シリコン層を得る方法である。前記方法は金属触媒が蓋層を介して拡散するため必要以上の金属汚染を防止することができるという長所がある。 【0007】 しかし,前記の結晶化方法は金属触媒の均一な濃度制御が難しくて結晶化位置及び結晶粒の大きさを制御するに難しいという問題点があって特に,金属触媒層をパターニングする過程で金属触媒が保護されないこともあって均一な金属触媒層のパターンがむずかしいという問題点がある。」 (1c)「【0020】 図2Aないし図2Dは前記非晶質シリコン層上に金属触媒を含むキャッピング層を形成する工程の断面図である。 【0021】 先に,図2Aは前記非晶質シリコン層上に金属触媒を含むキャッピング層を形成する工程の一実施形態の断面図である。図で見るように非晶質シリコン層が形成された基板上に化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜または窒化膜で第1キャッピング層104aを形成する。 【0022】 続いて,前記第1キャッピング層上に金属触媒を化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用して10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着して金属触媒層105を形成する。この時,前記金属触媒はNi,Pd,Ti,Ag,Au,Al,Sn,Sb,Cu,Co,Mo,Tr,Ru,Rh,CdまたはPtのうちいずれか一つ以上を利用することができるが,望ましくはニッケル(Ni)を利用して金属触媒層106aを形成する。前記ニッケルを利用して金属触媒層を形成することが前記ニッケルが非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化することが容易であるため望ましい。 【0023】 続いて,前記金属触媒層上に化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜またはシリコン窒化膜で第2キャッピング層104bを形成して金属触媒が含まれたキャッピング層105aを形成する。 【0024】 したがって,図に表記した前記キャッピング層の金属触媒の濃度グラフ107で見るように前記第1キャッピング層と第2キャッピング層間の金属触媒層で100%を示していることを見ることができる。したがって,前記金属触媒層の面密度または蒸着量を調節して以後非晶質シリコン層の結晶化を誘導するシード(seed)の量,位置または密度を調節することができる。この時,前記金属触媒の濃度グラフのx軸はキャッピング層内の金属触媒の濃度を示して,y軸は非晶質シリコン層とキャッピング層の界面からの距離,すなわち,キャッピング層の厚さを示している。」 (1d)「【0036】 図3Aないし図3Cは前記金属触媒を含むキャッピング層をパターニングして多様な形態のキャッピング層パターンを形成する工程の断面図である。 【0037】 先に,図3Aはパターニングマスクのパターン間の間隔を制御して間隔が異なるように形成されたキャッピング層パターンの断面図である。図で見るようにパターンマスクまたはフォトレジストパターンを利用して前記キャッピング層105a,105b,105cまたは105dをパターニングしてキャッピング層パターン120aを形成する。この時,前記キャッピング層パターンはキャッピング層パターン間の間の間隔121を調節して形成する。 【0038】 前記のようにキャッピング層パターン間の間隔を調節して形成する場合,前記キャッピング層パターンが形成された領域下部の非晶質シリコン層の結晶粒の大きさ及び均一度はキャッピング層パターンにより形成されたシードにより決定される反面,キャッピング層パターンが存在しない領域下部(以後,“無パターン領域”だと称する)の非晶質シリコン層の結晶粒の大きさ及び均一度は隣接するキャッピング層パターンの結晶粒の大きさ及び均一度だけでなく,隣接するキャッピング層パターン間の距離にも多くの影響を受けるようになる。すなわち,キャッピング層パターン下部の非晶質シリコン層はキャッピング層パターン内部に存在する金属触媒の密度または分布によって形成されたシードにより決定された大きさ及び均一度を有する多結晶シリコン層を形成するようになるが,無パターン領域下部の非晶質シリコン層は最も近いキャッピング層パターンにより形成された多結晶シリコン層の結晶性が側面伝播により結晶性を有するようになることによって,結晶粒の大きさ及び均一度がキャッピング層パターンのシードに影響を受けるだけでなくキャッピング層パターン間の間隔,すなわち,結晶性の伝播の距離にも影響を受けるようになる。したがって,前記パターン間の距離を制御して非晶質シリコン層の結晶化を制御することができる。 【0039】 この時,前記キャッピング層パターン間の間隔は3ないし400μmに形成することが望ましいが,これは前記キャッピング層パターンと隣接するキャッピング層パターンの間に形成された多結晶シリコン層を利用して半導体層を形成したり,キャパシターの電極などで利用するからである。すなわち,キャッピング層パターン間の間隔が狭ければ(すなわち,3μm以下である場合),半導体層やキャパシターの電極等のような素子を形成するのが難しくて,あまり広く形成されると(すなわち,400μm以上である場合)非晶質シリコン層の結晶化が難しかったりあまり多くの工程時間が必要であるという短所がある。」 (1e)「【0040】 先に,図3Bはいろいろなパターニング方法を利用して厚さが異なるように形成されたキャッピング層パターンの断面図である。図で見るようにパターンマスクまたはフォトレジストパターンを利用して前記キャッピング層105a,105b,105cまたは105dをパターニングしてキャッピング層パターン120bを形成する。この時,前記キャッピング層パターンはキャッピング層の厚さ122を調節して形成する。 【0041】 この時,前記キャッピング層パターンの厚さは金属触媒の量,密度及び分布に多くの影響を及ぼす。すなわち,前記図2Aないし図2Dで詳述したようにキャッピング層の厚さによって金属触媒の量または密度が変化するようになるが,これにより,キャッピング層パターンの厚さが変化(すなわち,パターニングされてなくなるようになれば)するようになれば金属触媒の量がさらに変化が大きくなるようになる。結局,結晶化を誘導するシードがキャッピング層内の金属触媒の密度だけでなく,キャッピング層パターンの厚さにも影響を受けるようになるため結晶化をさらに精密に制御することができるようになる。 【0042】 この時,前記キャッピング層パターンの厚さを異なるように形成する方法はハーフトーンマスクを利用したり,部分的にマスクを形成して,全面エッチングを進行してキャッピング層パターンの厚さを調節する方法などがある。 【0043】 この時,前記キャッピング層パターンの厚さは図2Aないし図2Dで詳述したような方法で形成されたキャッピング層をエッチングして完全になくすこともでき,また全くエッチングしないで形成されたキャッピング層そのままを利用することができる。すなわち,キャッピング層パターンの厚さはキャッピング層パターンを形成した後,前記キャッピング層パターン内に存在する金属触媒の量または密度と密接な関係があるので必要により多様に調節することができる。」 (1f)「【0046】 また,前記キャッピング層パターンの幅が所定の大きさ以下になれば,キャッピング層パターン下部にはただし一つのシードだけが生成されるはずで,これによりキャッピング層パターン下部の非晶質シリコン層は結晶粒がただし一つである単結晶領域になることである。そして,このような単結晶領域と隣接した非晶質シリコン層(無パターン領域下部の非晶質シリコン層)も前記単結晶領域の結晶性が伝播されて結晶化されることであって基板全体的には結晶性が優秀な多結晶シリコン層を得ることができることである。 【0047】 この時,前記キャッピング層パターンの幅は1ないし20μmに形成することが望ましいが,これは前記キャッピング層パターンの幅によって結晶化に影響を及ぼす金属触媒の量が直接的に影響を受けるからである。また,キャッピング層パターンの幅があまり大きくなるようになれば,結晶化工程以後,多結晶シリコン層上に残留する金属触媒の量があまり多くなり多結晶シリコン層の特性を低下させるため20μm以下に形成することが望ましい。」 (1g)「【0049】 図4は前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する工程の断面図である。図で見るように図2Aないし図2Dで詳述したような方法でさまざまな形態の密度及び分布を有する金属触媒を含むキャッピング層を形成して,図3Aないし図3Cで詳述したような方法でキャッピング層をパターニングしてさまざまな形態のキャッピング層パターン120を形成した基板を熱処理124して前記非晶質シリコン層103aを多結晶シリコン層103bに結晶化する工程を進行する。 【0050】 この時,前記熱処理工程は第1熱処理工程及び第2熱処理工程で二度の工程にかけて進められることができる。第1熱処理工程は200ないし800℃の温度範囲で熱処理して前記キャッピング層パターン内に含まれている金属触媒を拡散または浸透させて非晶質シリコン層の界面に結晶化を誘導する金属ケイ化物のシードを形成させる。 【0051】 続いて,前記第2熱処理工程を400ないし1300℃の温度範囲で実施して前記シードにより非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化する。この時,前記多結晶シリコン層の結晶粒の大きさは5μmないし400μmを有するようになる。 【0052】 この時,前記多結晶シリコン層の結晶粒大きさ及び均一度は前記シードの量または密度により決定されるが,これは前記キャッピング層パターンの大きさ(幅及び間隔)とキャッピング層パターン内の金属触媒の分布,密度及び量により決定される。したがって,多結晶シリコン層の結晶粒大きさ及び均一度を制御するためにはキャッピング層パターン内の金属触媒の分布,密度及び量を前記図2Aないし図3Cで詳述したような方法で制御することで成すことができる。 【0053】 この時,前記多結晶シリコン層上に残留する金属触媒の量は10^(9)ないし10^(13)atoms/cm^(2)であるが,これは前記キャッピング層パターン内に含まれた金属触媒が熱処理工程により非晶質シリコン層表面に拡散または浸透してシードを形成して,前記シードにより結晶化された後,前記キャッピング層を除去した後にも残留する量としてキャッピング層パターン内に含まれた金属触媒の量に直接的な関連がある。 【0054】 図5は熱処理工程時非晶質シリコン層の結晶化を説明するための断面図及び平面図である。図で見るように図4の第1熱処理工程により図3Aないし図3Cで詳述したキャッピング層パターン内に含まれた金属触媒が拡散または浸透によりシード125a,125b,125c,125d及び125eを形成する。この時,前記シードはキャッピング層パターン126a,126b,126c,126d及び126e内に含まれた金属触媒により形成される。 【0055】 続いて,第2熱処理工程により前記シードにより非晶質シリコン層が多結晶シリコン層に結晶化が誘導される。図5で見るように前記シードの結晶性が非晶質シリコン層に伝播127a,127b,127c,127d及び127eされて多結晶シリコン層を形成するようになるが,図ではシードを中心にして平面的に(四方に)結晶が成長することと描写されているが,実際には垂直的に(深さ方向に)も結晶が成長する。」 (1h)「【0056】 この時,図5の左側で1番目に位置したキャッピング層パターンである第1キャッピング層パターン126aは他のキャッピング層パターンの基準になるパターンであって図2Aないし図2Dのうちいずれか一つ以上の金属触媒の濃度分布を有するキャッピング層パターンである。前記第1キャッピング層パターン下部には第1キャッピング層パターン内に含まれていた金属触媒によりシード125aが形成されて,前記シードの結晶性が第2熱処理工程の間伝播127aされて結晶粒128aを形成するようになるが,前記結晶粒の大きさは第1キャッピング層パターンの下部領域の面積に生成されたシードの個数(図では4個が形成されているのを見ることができる)により決定されるので,第1キャッピング層パターンの下部領域の面積とシードの個数を調節して制御することができる。すなわち,面積は広げて,形成されるシードの個数を一定なようにするならば結晶粒の大きさは大きくなって,面積は固定して,シードの個数を減らしても結晶粒の大きさは大きくなるようになる。また,前記第1キャッピング層パターンと隣接する無パターン領域,すなわち,キャッピング層パターン間の間の領域であって前記第1キャッピング層パターンにより形成された結晶性が伝播されるようになるが,図の第1無パターン領域129aは四つの結晶粒(第1キャッピング層パターンの両側の結晶粒を合わせた個数)から伝播された結晶性により結晶化されて2個の結晶粒を形成するようになる。 【0057】 図5の左側で2番目に位置したキャッピング層パターンである第2キャッピング層パターン126bは図3Cで詳述したようにキャッピング層パターンの幅を制御して形成したパターンであって,その幅を下部領域の非晶質シリコン層上に一つのシード125bだけが形成される幅で形成したキャッピング層パターンである。前記シードにより結晶性が伝播127bされて第2キャッピング層パターン下部領域の非晶質シリコン層は一つの結晶粒128bで成長するようにする。したがって,第2無パターン領域でも結晶粒の結晶性が伝播されて2個の結晶粒だけが形成されて,第2無パターン領域の内部には結晶粒界が存在しない単結晶のようなシリコン層を得ることができる。 【0058】 この時,前記第1キャッピング層パターンと第2キャッピング層パターンの間の領域には第1無パターン領域と第2無パターン領域が存在するようになる。したがって,前記第1キャッピング層パターンと第2キャッピング層パターン間の領域には両側の結晶性が接触する結晶粒界130aを含んで少なくとも一つ以上の結晶粒界(例えば,第1キャッピング層パターンと第2キャッピング層パターン下部領域にそれぞれ一つの結晶粒だけが存在すると仮定しても,それぞれの結晶粒から伝播された結晶性が接触する領域では少なくとも一つの結晶粒界が形成されるからである。)が形成される。また他の無パターン領域が接触する領域でも結晶粒界130b,130c,130dがそれぞれ少なくとも一つ以上形成される。」 ・引用発明1 上記記載に照らして,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。 「基板上に,非晶質シリコン層を形成する段階と, 前記非晶質シリコン層上に,化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜または窒化膜で第1キャッピング層を形成する段階と, 前記第1キャッピング層上に,金属触媒を化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用して10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着して金属触媒層を形成する段階であって,前記金属触媒が,望ましくはニッケル(Ni)である段階と, 前記金属触媒層上に,化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜またはシリコン窒化膜で第2キャッピング層を形成して金属触媒が含まれたキャッピング層を形成する段階と, 前記金属触媒を含むキャッピング層をパターニングして,キャッピング層パターンを形成する段階であって,前記キャッピング層パターンの形成は,前記段階で形成されたキャッピング層をエッチングして,前記キャッピング層パターンの厚さを完全になくすものであって,前記キャッピング層パターンの幅は,1ないし20μmに形成する段階と, 前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階であって,前記熱処理して結晶化する段階は,200ないし800℃の温度範囲で熱処理して前記キャッピング層パターン内に含まれている金属触媒を拡散または浸透させて非晶質シリコン層の界面に結晶化を誘導する金属ケイ化物のシードを形成させる第1熱処理工程,及び,400ないし1300℃の温度範囲で実施して前記シードにより非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化する第2熱処理工程で二度の工程にかけて進められることができる段階と を含み, この時,前記多結晶シリコン層上に残留する金属触媒の量は10^(9)ないし10^(13)atoms/cm^(2)であって, キャッピング層パターン下部の非晶質シリコン層は,キャッピング層パターン内部に存在する金属触媒の密度または分布によって形成されたシードにより決定された大きさ及び均一度を有する多結晶シリコン層を形成し, キャッピング層パターンが存在しない領域下部の非晶質シリコン層は,最も近いキャッピング層パターンにより形成された多結晶シリコン層の結晶性が側面伝播により結晶性を有するように結晶化されて,多結晶シリコン層に形成される 結晶化方法。」 3 当審の判断 (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 ア 引用発明1の「非晶質シリコン層」,「『化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用して10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着』される『望ましくはニッケル(Ni)である』『金属触媒』」,「第2キャッピング層」,及び,「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」は,それぞれ,本願発明1の「非晶質シリコン膜」,「結晶化触媒粒子」,「『前記結晶化触媒粒子を覆う』『絶縁層』」,及び,「前記非晶質シリコン膜を熱処理によって結晶化する段階」に相当する。 そして,引用発明1の「前記金属触媒層上に,化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜またはシリコン窒化膜で第2キャッピング層を形成して金属触媒が含まれたキャッピング層を形成する段階」及び「前記金属触媒を含むキャッピング層をパターニングして,キャッピング層パターンを形成する段階であって,前記キャッピング層パターンの形成は,前記段階で形成されたキャッピング層をエッチングして,前記キャッピング層パターンの厚さを完全になくすものであって,前記キャッピング層パターンの幅は,1ないし20μmに形成する段階」は,それぞれ,本願発明1の「前記結晶化触媒粒子を覆うように絶縁層を形成する段階」及び「前記絶縁層をパターニングして除去される部分の絶縁層と共に該部分に覆われた前記結晶化触媒粒子を選択的に除去する段階」に相当する。 イ 本願明細書の【0031】には,「層・・・などの部分が他の部分の「上」にあるとするとき,これは他の部分の「直ぐ上に」ある場合だけではなく,その中間にさらに他の部分がある場合を含む。」と説明されている。 そうすると,引用発明1は,「前記非晶質シリコン層上に,化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用してシリコン酸化膜または窒化膜で第1キャッピング層を形成する段階」及び「前記第1キャッピング層上に,金属触媒を化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法を利用して10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着して金属触媒層を形成する段階であって,前記金属触媒が,望ましくはニッケル(Ni)である段階」を含むことから,非晶質シリコン層「上」に,金属触媒を蒸着する段階を含むといえる。 したがって,本願発明1と,引用発明1とは,「非晶質シリコン膜上に結晶化触媒粒子を位置させる」構成を有する点で一致する。 ウ そうすると,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「非晶質シリコン膜を形成する段階と, 前記非晶質シリコン膜上に結晶化触媒粒子を位置させる段階と, 前記結晶化触媒粒子を覆うように絶縁層を形成する段階と, 前記絶縁層をパターニングして除去される部分の絶縁層と共に該部分に覆われた前記結晶化触媒粒子を選択的に除去する段階と, 前記非晶質シリコン膜を熱処理によって結晶化する段階と を含む結晶化方法。」 <相違点> ・相違点1:一致点に係る構成の「前記非晶質シリコン膜上に結晶化触媒粒子を位置させる段階」において,本願発明1では,結晶化触媒粒子が,非晶質シリコン膜上に「互いに離隔する」ように位置させられるのに対して,引用発明1では,そのような特定がされていない点。 ・相違点2:本願発明1が,「前記熱処理によって,前記絶縁層が除去された部分に対応する前記非晶質シリコン膜の部分に結晶化触媒粒子がゲッタリングされる一方,前記絶縁層の前記除去された部分以外に結晶化触媒粒子が拡散される」ものであるのに対して,引用発明1では,このような特定がされていない点。 (2)判断 ・相違点1について ア 引用発明1は,第1キャッピング層上に,望ましくはニッケル(Ni)である金属触媒を,10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着するものである。 そして,Ni原子の大きさが,金属結合半径で,1.25Å程度であること,及び,「化学的気相蒸着法または物理的気相蒸着法」を利用して金属触媒層を薄く形成する引用発明1においては,下記周知例1にみられるように,Ni原子は,互いに不規則な位置関係で,第1キャッピング層上に堆積すると認められることに照らせば,10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着した引用発明1のニッケル(Ni)である金属触媒は,第1キャッピング層上に,「互いに離隔する」ように位置するものと理解される。 ・周知例1:特開平6-244105号公報(当審拒絶理由で,「引用文献1」として引用した,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物) (周1a)「【0015】 【実施例】 〔実施例1〕 コーニング7059ガラス基板上のニッケル膜を形成し,これを触媒としてアモルファスシリコン膜の結晶化をおこない,結晶シリコン膜を得る方法について図1をもとに説明する。基板1上に,厚さ2000Åの下地酸化珪素膜2をプラズマCVD法によって形成した。次にスパッタ法によってニッケル膜3を厚さ1000Å以下,例えば50Å堆積した。厚さが100Å以下のニッケル膜は,むしろ膜というよりも粒子,あるいは複数の粒子が合体したクラスターというべき形状を呈していた。」 イ さらに,本願の請求項1を引用する請求項8の「前記結晶化触媒粒子はニッケル(Ni)を含み,前記結晶化触媒粒子を位置させる段階では,前記結晶化触媒粒子が10^(11)?10^(15)個/cm^(2)の量で蒸着される請求項1に記載の結晶化方法。」との記載,及び,本願明細書の「【0021】絶縁層がソースおよびドレイン電極のエッチング終了層として機能してもよい。結晶化触媒粒子はニッケル(Ni)を含み,結晶化触媒粒子を位置させる段階では,結晶化触媒粒子が10^(11)?10^(15)個/cm^(2)の量で蒸着されてもよい。」との記載から,本願発明1において,「非晶質シリコン膜上に互いに離隔するように結晶化触媒粒子を位置させる」ために求められる,結晶化触媒粒子の適正な蒸着の量は,結晶化触媒粒子がニッケル(Ni)である場合に,「10^(11)?10^(15)個/cm^(2)」であることが理解される。 そして,引用発明1の「望ましくはニッケル(Ni)である金属触媒を,10^(11)ないし10^(15)atoms/cm^(2)の面密度で蒸着」とする蒸着の面密度は,本願発明1における,「非晶質シリコン膜上に互いに離隔するように結晶化触媒粒子を位置させる」ために求められる前記適正な蒸着の量と等しい量である。 そうすると,本願発明1における適正な蒸着の量と,引用発明1の金属触媒の蒸着の面密度が等しいのであるから,引用発明1の金属触媒は,第1キャッピング層上に,「互いに離隔する」ように位置すると認められる。 ウ したがって,上記ア及びイより,相違点1は実質的なものとは認められない。 ・相違点2について ア 引用発明1は,「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階であって,前記熱処理して結晶化する段階は,200ないし800℃の温度範囲で熱処理して前記キャッピング層パターン内に含まれている金属触媒を拡散または浸透させて非晶質シリコン層の界面に結晶化を誘導する金属ケイ化物のシードを形成させる第1熱処理工程,及び,400ないし1300℃の温度範囲で実施して前記シードにより非晶質シリコン層を多結晶シリコン層に結晶化する第2熱処理工程で二度の工程にかけて進められることができる段階」を含み, 「キャッピング層パターン下部の非晶質シリコン層は,キャッピング層パターン内部に存在する金属触媒の密度または分布によって形成されたシードにより決定された大きさ及び均一度を有する多結晶シリコン層を形成し, キャッピング層パターンが存在しない領域下部の非晶質シリコン層は,最も近いキャッピング層パターンにより形成された多結晶シリコン層の結晶性が側面伝播により結晶性を有するように結晶化されて,多結晶シリコン層に形成される結晶化方法」に係る発明である。 イ ところで,固体中に不純物が一様でない分布をもって存在するとき,有限温度下では,外的な力を加えなくとも,濃度の濃い方から薄い方に不純物が広がり,無限の時間がたてば,均一な濃度となる現象が,拡散として知られており,拡散が,温度が高くなるほど促進されることは技術常識である。 ウ そこで,引用発明1における金属触媒の挙動を,上記技術常識に基づいて検討する。 エ 基板を熱処理して結晶化する前の段階では,キャッピング層パターンの第1キャッピング層と第2キャッピング層との間に,金属触媒が,濃度100%の金属触媒層として位置し,これに対して,キャッピング層パターンの第1キャッピング層及び第2キャッピング層,並びに,非晶質シリコン層における金属触媒の濃度は0%である。 オ そして,上記アの「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」が始まると,まず最初に,金属触媒層と,これに隣接するキャッピング層パターンの第1キャッピング層及び第2キャッピング層との間の金属触媒の濃度差によって,金属触媒が,金属触媒層から,キャッピング層パターンの第1キャッピング層と第2キャッピング層のうちの金属触媒層に接触する領域に拡散し,前記キャッピング層パターンの第1キャッピング層及び第2キャッピング層の内部において,金属触媒層に近い領域と,金属触媒層から離れた領域との間に金属触媒の濃度差を形成する。 カ 続いて,キャッピング層パターンの第1キャッピング層及び第2キャッピング層の内部における,金属触媒層に近い領域と,金属触媒層から離れた領域との間の金属触媒の濃度差によって,キャッピング層パターンの第1キャッピング層及び第2キャッピング層の内部において,金属触媒は,金属触媒層に近い領域から金属触媒層から離れた領域へと拡散する。 キ 上記カの拡散によって,金属触媒が,キャッピング層パターンの第1キャッピング層の内部における,非晶質シリコン層と接触する領域にまで到達すると,キャッピング層パターンの第1キャッピング層の内部における,非晶質シリコン層と接触する領域と,非晶質シリコン層の内部における,キャッピング層パターンの第1キャッピング層と接触する領域との間の金属触媒の濃度差によって,金属触媒は,第1キャッピング層から,非晶質シリコン層の内部における,第1キャッピング層と接触する領域へと拡散する。 ク そうすると,前記キの拡散によって,非晶質シリコン層の内部においては,第1キャッピング層と接触する領域においてのみ,金属触媒の濃度が高くなり,当該領域と,その他の領域,すなわち,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われた領域であるが第1キャッピング層とは離れた領域(すなわち,非晶質シリコンの深さ方向),及び,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われていない領域(すなわち,非晶質シリコンの幅方法)との間で,金属触媒の濃度差が形成されることになる。 ケ そして,上記イのとおり,固体中に不純物が一様でない分布をもって存在するとき,有限温度下では,濃度の濃い方から薄い方に不純物が広がるのであるから,上記クで特定される金属触媒の濃度差の存在下では,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われた領域においては,金属触媒は,第1キャッピング層と接触する領域から,第1キャッピング層とは離れた領域に向かう方向(すなわち,非晶質シリコン層の深さ方向)へと拡散し,これと同時に,同じく第1キャッピング層と接触する領域から,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われていない領域に向かう方向(すなわち,非晶質シリコン層の幅方法)に向かっても拡散することによって,前記非晶質シリコン層の内部における前記金属触媒の濃度分布が均一なものとなろうとすることは,前記技術常識に照らして明らかである。 コ しかも,前記濃度差は,無限の時間がたてば,均一な濃度となり解消されるが,当該濃度差が無くなるまでは,拡散は継続して生じると共に,温度が高くなるほど促進されるのものである。 サ そして,引用発明1の「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」は,有限の時間で終了することから,前記熱処理して結晶化する段階において,金属触媒の濃度差が,均一な濃度となり解消されることはない。 シ してみれば,上記オの,キャッピング層パターンの第2キャッピング層の内部における,金属触媒層に近い領域と,金属触媒層から離れた領域との間の金属触媒の濃度差,及び,上記クの,非晶質シリコン層の内部における,キャッピング層パターンの第1キャッピング層と接触する領域と,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われていない領域(すなわち,非晶質シリコン層の幅方法)との間の金属触媒の濃度差は,前記「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」において維持される。 ス そうすると,前記それぞれの濃度差による金属触媒の拡散,すなわち,上記カの,キャッピング層パターンの第2キャッピング層の内部における,金属触媒層に近い領域から金属触媒層から離れた領域への金属触媒の拡散,及び,上記ケの,非晶質シリコン層の内部における,第1キャッピング層と接触する領域から,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われていない領域に向かう方向(すなわち,非晶質シリコン層の幅方法)に向かっての金属触媒の拡散もまた,「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」において生じるといえる。 セ そして,引用発明1の「キャッピング層パターン」の「第2キャッピング層」は,本願発明1の「前記絶縁層の前記除去された部分以外」に相当するから,前記スの,「キャッピング層パターンの第2キャッピング層の内部における,金属触媒層に近い領域から金属触媒層から離れた領域への金属触媒の拡散」は,本願発明1の「前記絶縁層の前記除去された部分以外に結晶化触媒粒子が拡散される」ことに相当するといえる。 ソ また,本願明細書には,本願発明1における,結晶化触媒粒子の「ゲッタリング」について,「【0027】本実施形態に係る非晶質シリコン膜の結晶化方法は,結晶化触媒粒子を非晶質シリコン膜上において選択的な領域にのみ位置するようにした状態で熱処理を行い,結晶化触媒粒子が形成されない非晶質シリコン膜の領域に結晶化触媒粒子を拡散させる。すなわち,結晶化触媒粒子が形成されない非晶質シリコン膜の領域が結晶化触媒粒子のゲッタリング(gettering)に利用され,半導体層内に残留する結晶化触媒粒子の量を効果的に低減することができる。」との記載がある。 してみれば,本願明細書の上記の記載より,本願発明1における,結晶化触媒粒子の「ゲッタリング」とは,「結晶化触媒粒子が形成されない非晶質シリコン膜の領域に結晶化触媒粒子を拡散させる」との意味で用いられているものと理解できるから,前記スの,「非晶質シリコン層の内部における,第1キャッピング層と接触する領域から,キャッピング層パターンの第1キャッピング層に覆われていない領域に向かう方向(すなわち,非晶質シリコン層の幅方法)に向かっての金属触媒の拡散」は,本願発明1の「前記絶縁層が除去された部分に対応する前記非晶質シリコン膜の部分に結晶化触媒粒子がゲッタリングされる」ことに相当するといえる。 タ したがって,引用発明1の「前記非晶質シリコン層及び金属触媒を含むキャッピング層が形成された基板を熱処理して結晶化する段階」は,「前記絶縁層の前記除去された部分以外に結晶化触媒粒子が拡散される」一方,「前記絶縁層が除去された部分に対応する前記非晶質シリコン膜の部分に結晶化触媒粒子がゲッタリングされる」ものであると認められるから,相違点2は,実質的なものではない。 チ 審判請求人は,平成28年12月2日に提出した意見書において,以下の主張をする。 「(ii)構成上の相違に基づく本願発明の有利な効果 かかる構成上の相違により,本願発明は引用文献に記載された発明と比較して有利な下記の効果を奏する。 すなわち,本願発明によれば,当初は非晶質シリコン膜と絶縁層との間に存在していた結晶化触媒粒子が,絶縁層が除去された部分に対応する非晶質シリコン膜の部分へとゲッタリングにより取り込まれることと,除去されずに残った絶縁層に拡散により取り込まれることとを一工程で生じさせることができるので,除去されずに残った絶縁層に対応する非晶質シリコン膜の部分に形成される多結晶シリコン領域に残存する結晶化触媒粒子の濃度を低めることにより,その多結晶シリコン領域を半導体層として利用した薄膜トランジスタにおいて,残存結晶化触媒粒子に起因する漏洩電流の発生を抑制することができる。」 しかしながら,本願発明1は,「結晶化方法」に係る発明であって,「除去されずに残った絶縁層に対応する非晶質シリコン膜の部分に形成される多結晶シリコン領域」を「半導体層として利用した薄膜トランジスタ」を発明特定事項として含まないから,「漏洩電流の発生を抑制すること」を,本願発明1の効果として認めることはできない。 また,仮に,本願発明1の効果として,審判請求人の主張を認めたとしても,引用発明1は,上記摘記(1b)に記載された「金属を利用した前記方法の場合にも金属汚染によって漏れ電流が増加して薄膜トランジスタの素子特性が低下する問題点がある。」との問題点を前提とした発明であって,「前記キャッピング層パターンの幅は,1ないし20μmに形成する」等の構成を採用することによって,「多結晶シリコン層上に残留する金属触媒の量」を「10^(9)ないし10^(13)atoms/cm^(2)」と,少なくしたことを特徴とするものであるから,引用発明1の結晶化方法によって得られた多結晶シリコン層は,上記摘記(1f)の「この時,前記キャッピング層パターンの幅は1ないし20μmに形成することが望ましいが,これは前記キャッピング層パターンの幅によって結晶化に影響を及ぼす金属触媒の量が直接的に影響を受けるからである。また,キャッピング層パターンの幅があまり大きくなるようになれば,結晶化工程以後,多結晶シリコン層上に残留する金属触媒の量があまり多くなり多結晶シリコン層の特性を低下させるため20μm以下に形成することが望ましい。」との記載に照らして,特性の優れた多結晶シリコン層が得られることは明らかである。 そうすると,前記多結晶シリコン層を,半導体層として利用した薄膜トランジスタは,残存結晶化触媒粒子に起因する漏洩電流の発生を抑制することができるとする効果を奏するものと認められる。 したがって,審判請求人の主張は採用することはできない。 (3)判断についてのまとめ 以上のとおりであるから,本願発明1は,引用例1に記載された発明である。 したがって,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 4 むすび 以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-03-06 |
結審通知日 | 2017-03-07 |
審決日 | 2017-03-21 |
出願番号 | 特願2010-181905(P2010-181905) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柴山 将隆 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
河口 雅英 加藤 浩一 |
発明の名称 | 非晶質シリコン膜の結晶化方法、また薄膜トランジスタおよびその製造方法 |
代理人 | 辻 徹二 |
代理人 | 松永 宣行 |