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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M |
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管理番号 | 1331130 |
審判番号 | 不服2016-17728 |
総通号数 | 213 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-09-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-28 |
確定日 | 2017-08-10 |
事件の表示 | 特願2012- 91445「航空機燃料の脱気システム及び航空機燃料の脱気方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月28日出願公開、特開2013-221410〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は、平成24年4月12日の出願であって、平成28年1月12日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成28年3月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年6月8日付けで、再び、拒絶理由が通知され、これに対して平成28年8月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年9月15日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年11月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年11月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年11月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] [1]補正の内容 平成28年11月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書及び特許請求の範囲について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち平成28年8月1日に提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1を下記の(b)に示す請求項1に補正するものである。 (a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 燃料タンクからエンジンに燃料を移送するための配管と、 前記配管から分岐して前記燃料タンクに前記燃料の一部を戻すリターンラインと、 前記リターンラインを流れる燃料から空気を分離し、分離した前記空気を前記燃料タンクに備えられるベントから放出させることによって前記燃料の脱気を行う脱気手段と、 前記リターンラインを流れる燃料の逆流を防止するための逆止弁と、 を備え、 前記脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いて前記リターンラインを流れる前記燃料から前記空気を分離するように構成される航空機燃料の脱気システム。」 (b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「【請求項1】 燃料タンクからエンジンに燃料を移送するための配管と、 前記配管から分岐して前記燃料タンクに前記燃料の一部を戻すリターンラインと、 前記リターンラインを流れる燃料から空気を分離し、分離した前記空気を前記燃料タンクに備えられるベントから大気中に放出させることによって前記燃料の脱気を行う脱気手段と、 前記リターンラインを流れる燃料の逆流を防止するための逆止弁と、 を備え、 前記脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いて前記リターンラインを流れる前記燃料から前記空気を分離するように構成される航空機燃料の脱気システム。」 (なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。) [2]本件補正の目的 特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、「分離した前記空気」を「放出させる」場所について、「大気中に」であることを限定するものである。 よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 [3]独立特許要件の判断 1.刊行物 (1)刊行物1の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特表2005-525500号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 a)「【請求項1】 システム用に燃料を蓄えておくための燃料タンク、 前記燃料タンクと流体連通し予め決められた速度において作動されるようになっていて、入口及び出口を有するる燃料ポンプ、 前記燃料ポンプにより送込まれる燃料を受けるために前記燃料ポンプの出口に流体連通している少なくとも1つの燃料噴射器、 前記燃料ポンプの出口に流体連通している一端及び前記燃料ポンプの入口、燃料タンク又は両方に流体連通している他端を有し、それによって前記燃料ポンプが燃料バイパスを通る燃料流量を増やし前記燃料噴射器への燃料量を減らす燃料バイパス、及び 前記燃料バイパスを開いたり閉じたりする燃料バイパス・コントロールであって、前記バイパスの開閉がシステムの圧力を高圧状態と低圧状態を含む少なくとも2つの状態の間で変える燃料バイパス・コントロールを有してなる、 エンジンに使用される燃料噴射システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) b)「【0025】 本発明の燃料噴射システムの構造は図1及び図2に示されている。その操作及びその特性の図解は両方の図に関連している。これらの図には図示されてないが、マイクロエレクトロニクスの技術専門家には周知であるのは、このシステムを操作するために使用されるマイクロエレクトロニクスのセットアップである。埋込コントローラ、マイクロプロセッサ又はプログラム可能な論理回路を中枢部として使用することができる。これは独立型ユニット、又は車両のメインCPU(又はECU)のサブルーチンであってもよい。プログラムはROM、PROM、EPROM、又はハードディスク、CD-ROM、テープ・ドライブ等のようなその他の従来の記憶媒体に埋込まれることが可能である。プログラムはRAMを通してマイクロプロセッサによって実行される。シーケンス及び操作の論理は図5及び図6に示されている。 A.(デュアル(dual)圧力を瞬時に生成する基本的流体システム) 【0026】 図1は本発明の一実施形態である。本発明の燃料噴射流体システムは、燃料タンク10;燃料ポンプ11(燃料タンク内に沈められているか又はタンクの外側に取付けられていてもよい);メイン燃料フィルタ13;流体連通におけるシステムの様々な構成部分をつなぐ燃料供給ライン51、52、53、55;全ての燃料噴射器20が接続されている燃料レール17;燃料バイパス・コントロール30;及び燃料噴射プロセスにおける再利用のために、余分なバイパス燃料をメイン燃料ライン53から燃料タンク10へ、又はライン38を通って燃料吸入ライン51、そして、燃料ポンプ11へ供給する燃料バイパスライン35、37の部品からなる。燃料ポンプ11は、ポンプの適当な運転レンジ内で、一定の速度で作動する。 【0027】 燃料バイパス・コントロール30は望ましくは電気機械的にコントロールされたバルブ(その作動に応じてノーマリーオープン又はクローズド)を有する。ライン35、37及びバイパス・コントロール30は燃料の進路を部分的にメイン燃料ライン53から変えるバイパスからなる。燃料バイパス・コントロール30がノーマリクローズドの場合、燃料ポンプ11は燃料を燃料噴射器のみに供給する。バイパス・コントロール30が開いている場合、燃料ポンプ11はさらなる燃料を燃料ライン35、37を通して燃料タンク10へ(又はライン38を通り、燃料吸入ライン51そして燃料ポンプ11へ)通すように送込む。」(段落【0025】ないし【0027】) c)「【0035】 前段落で説明した同じ原理を利用して、図2に図示の追加的燃料戻りを加えることにより、さらに燃料噴射流体システムを改良することができる。燃料戻りライン31は、燃料ポンプ11の出口(又はフィルタ13の流出口)から(ノーマリーオープン)燃料戻りコントロール32、そして燃料タンク10へ戻るライン33へ(又はライン34を通って燃料ポンプの吸入ライン51へ)接続されている。ライン33は、またコスト削減のためにライン37に接続されてもよい。燃料戻りコントロール32は、手動又はマイクロプロセッサ又は埋込コントローラを使用して電気的にコントロールされる電子機械バルブであることができる。燃料戻りを通る燃料量は、2つのリニア・ラインが2つの異なる圧力を表している図3に示すように、異なる圧力P_(H)を得るために調整されてもよい。燃料戻りの 流量が燃料噴射の流量よりも多い場合、この構造は燃料システムの圧力がほぼ一定になるように調整する。 【0036】 この構造は燃料噴射のための正確な燃料量をもたらすための燃料ポンプへの依存を最小化し、圧力の蓄積を防ぐために、未使用の過剰な燃料を燃料レール17(高温燃料)から燃料タンク10へ戻らせる必要性をなくす。この構造は、また、多数の高精度機械部品を含む燃料レギュレータへの危険な依存を減らす。故に、燃料戻りライン31、33を通る少量の燃料は圧力を安定化し、燃料ポンプの運転を安定させることができる。これは、燃料計測中の振動圧力スパイクを最小化する。如何なる高温燃料も燃料タンクに戻らないため、燃料タンク内の燃料温度は、車両の走行時間の長さに関係なく、不変である。 【0037】 燃料戻りライン33により加えられた流量制限は第1静止圧力P_(H)の値を決定する。概して、燃料戻りラインを通流する燃料の量がより少ないほど、静止圧力P_(H)がより高くなる。図3は、異なる燃料戻りの量によ作成された2つの異なる圧力P_(H)を表す座標によって点が決定された2つのラインを有する。また、オペレータが余剰のパワーを急いで得たい場合、ECUは流量を電気機械的に燃料戻りライン31、33及び燃料バイパスライン35、37を通して切ることができ、その結果、短時間に燃料圧力が急激に増加し、急な加速のために追加的最大パワーをオンデマンドで瞬時に送出する。電子機械的「オフ又はオン」操作はマイクロプロセッサにより指示されるか又は手動で操作される。燃料圧力状態をコントロールし、噴射される燃料量を決定するために、様々なセンサから信号を取入れる方法の詳細は以下の段落Dにおいて説明され、図6のフローチャートに図示されている。 C.(両方の発明の特色を取入れた燃料噴射システム) 【0038】 図2は、燃料バイパスコントロール30(ノーマリークローズド)及び燃料戻りコントロール32(ノーマリーオープン)を使用している本発明の両方の特徴を取入れた完全な燃料噴射供給システムである。燃料戻りコントロール32がノーマリーオープンであることにより、燃料ポンプは安定し、また高温燃料を燃料タンクに戻す必要がない。ノーマリークローズドの燃料バイパス・コントロール30については、燃料噴射システムは、現存のシステムのより限定されたダイナミック・レンジを有する一般的なものよりも、より高い圧力P_(H)で運転するよう に任意にデザインされている以外、現存の燃料噴射供給システムと同様である。標準設定下における作動は現存の車両と同様である。これは運転開始、通常走行、エンジン・ウォームアップ等に使用されるが、エンジンが暖まり車両が都市(都会)走行又はアイドリングに使用される際、燃料バイパス・コントロール30は電気的に開かれ、燃料圧力をより高い圧力P_(H)からより低い圧力P_(L)に切換える。車両は燃料節約モードで作動し、自動車排気ガスを減らす。上記のように、新システムはより幅広い燃料噴射ダイナミック・レンジを有しているため、同じエンジンがもう少し多いパワーを送出できるようにするためにP_(H)を僅かに高く設 定することができるが、同じエンジンは、それでもアイドリング時の燃費を減らし、都市走行燃費を改善し燃料排ガス削減を達することができる。」(段落【0035】ないし【0038】) d)「【0047】 本発明は一定の燃料ポンプ速度下において異なる燃料圧力レベルをもたらし、特定のICエンジンに関して説明されてきた。本発明は、しかしながら、如何なる数のICエンジン又は燃料噴射システムを利用している他のエンジンにも適用できる。このように、本発明は、燃料噴射プロセスを使用するディーゼル・エンジン及び航空機エンジンに適用可能である。当業者は、本発明を、容易に他の種のエンジンに適用できるはずである。」(段落【0047】) (2)上記(1)及び図面から分かること a)上記(1)a)及びd)の記載によれば、刊行物1には航空機燃料のシステムが記載されていることが分かる。 b)上記(1)a)及びb)並びに図2の記載を上記a)とあわせてみると、航空機燃料のシステムにおいて、燃料タンク10からエンジンに燃料を移送するための燃料供給ライン51、52及び53を備えることが分かる。 c)上記(1)b)及びc)並びに図2の記載を上記a)とあわせてみると、航空機燃料のシステムにおいて、燃料供給ライン51、52及び53から分岐して燃料タンク10に燃料の一部を戻す燃料バイパスライン35及び37並びに31及び33を備えることが分かる。 (3)刊行物1に記載された発明 したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。 <刊行物1に記載された発明> 「燃料タンク10からエンジンに燃料を移送するための燃料供給ライン51、52及び53と、 燃料供給ライン51、52及び53から分岐して燃料タンク10に燃料の一部を戻す燃料バイパスライン35及び37並びに31及び33を備える航空機燃料のシステム。」 (4)刊行物2の記載事項 原査定の拒絶に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開昭60-259728号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。 a)「航空機燃料はすべて溶解空気を含有し(例えばアブタ燃料は普通の状態で約15%の空気を含有する)、従つて航空機が高度を上げている際燃料の含有空気はその容積を増大し、燃料から空気が徐々に解放されるよう燃料が乱されない限り燃料は空気で過飽和状態を呈する。燃料温度が一定値を上回る場合にもその燃料の過飽和が発生する。空気過飽和状態の下では航空機エンジンに燃料を供給する燃料ポンプは不十分なものとなる。このような問題発生を阻止又は解決するため、上述の分離チヤンバーから排出される前における分離空気の圧力を測定することにより燃料の空気含有率を航空機の飛行中これを連続的にモニターすることができる。若し測定温度におけるこの測定された空気圧力が燃料内に余りにも高い空気含有率が存在することを示すレベルを上回ると、パイロツトが必要動作をとれるよう(例えば高度を下げたり又は補助燃料ポンプを作動させるなど)空気圧測定構成によりパイロツトのコントロール パネルに警告信号が伝達される。 これに関連して述べるが、燃料の空気含有率は又上昇中もしくは燃料温度が余りにも高い時に燃料の適宜撹拌又は撹乱により下げることもできる。この目的のため、燃料モニター装置の出力ベンチユリー装置から排出される脱気した燃料を十分に撹拌し空気を漸次解放せしめ得るように燃料タンクに戻すことができる。」(第3ページ左上欄第3行ないし同ページ右上欄第9行) b)「燃料タイプの確定のためにこれら測定を行う目的のため、本発明により第4図と第5図に見られる如く入力ベンチユリー装置2と出力ベンチユリー装置3を有する円筒形の遠心力型空気分離チヤンバー1が提供される。 入力ベンチユリー装置1にはノズル4が設けられ、このノズルは燃料ライン(図示省略)によりポンプ(図示省略)に接続され燃料を航空機の燃料タンクからベンチユリー・分離チヤンバー構造体に送り込む。通常15%より20%の空気を含む流入燃料はベンチユリー装置のノズルから幅のせまいのど部5に送られる。そこで燃料の速度は増加しそれに応じて燃料の圧力が低下し(例えば約1.029kg/cm^(2)(14.7p.s.i)以下に)、燃料中に溶解した空気が解放されベンチユリー装置ののど部における燃料に通気を施す。」(第3ページ左下欄第16行ないし同ページ右下欄第11行) c)「このベンチユリー装置3から出た燃料は燃料ライン(図示省略)を介して航空機燃料タンクに戻され既述せる目的のため撹拌を受ける。ベント7より排出された空気は燃料タンクに戻される。」(第4ページ左上欄第3ないし6行) (5)上記(4)及び図面の記載から分かること a)上記(4)a)及びc)の記載によれば、刊行物2には、航空機燃料の空気を解放するシステムが記載されていることが分かる。 b)上記(4)b)の記載を上記a)とあわせてみると、刊行物2に記載された航空機燃料の空気を解放するシステムにおいては、燃料タンクから燃料を移送するための第1の燃料ラインを備えることが分かる。 c)上記(4)c)の記載を上記a)とあわせてみると、刊行物2に記載された航空機燃料の空気を解放するシステムにおいては、燃料タンクに燃料を戻す第2の燃料ラインを備えることが分かる。 d)上記(4)b)並びに第4及び5図の記載を上記a)とあわせてみると、刊行物2に記載された航空機燃料の空気を解放するシステムにおいては、第2の燃料ラインを流れる燃料から空気を解放する入力ベンチユリー装置2を備えることが分かる。 e)上記(4)b)並びに第4及び5図の記載を上記a)とあわせてみると、入力ベンチユリー装置2は、内部を通過する燃料の圧力が約1.029kg/cm^(2)(14.7p.s.i)以下まで低下するように設計されたのど部5を用いて第2の燃料ラインを流れる燃料から空気を解放するように構成されることが分かる。 (6)刊行物2に記載された発明 したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認める。 <刊行物2に記載された発明> 「燃料タンクから燃料を移送するための第1の燃料ラインと、 燃料タンクに燃料を戻す第2の燃料ラインと、 第2の燃料ラインを流れる燃料から空気を解放する入力ベンチユリー装置2と、 を備え、 入力ベンチユリー装置2は、内部を通過する燃料の圧力が約1.029kg/cm^(2)(14.7p.s.i)以下まで低下するように設計されたのど部5を用いて第2の燃料ラインを流れる燃料から空気を解放するように構成される航空機燃料の空気を解放するシステム。」 2.対比・判断 (1)対比 本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「燃料タンク10」、「燃料供給ライン51、52及び53」及び「燃料バイパスライン35及び37並びに31及び33」は、それぞれ本件補正発明における「燃料タンク」、「配管」及び「リターンライン」に相当する。 また、刊行物1に記載された発明における「航空機燃料のシステム」と、本件補正発明における「航空機燃料の脱気システム」とは、「航空機燃料のシステム」という限りにおいて一致する。 してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、 「燃料タンクからエンジンに燃料を移送するための配管と、 配管から分岐して燃料タンクに燃料の一部を戻すリターンラインと、 を備える航空機燃料のシステム。」 の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 「航空機燃料のシステム」に関し、 本件補正発明においては、「リターンラインを流れる燃料から空気を分離し、分離した空気を燃料タンクに備えられるベントから大気中に放出させることによって燃料の脱気を行う脱気手段と、 リターンラインを流れる燃料の逆流を防止するための逆止弁と、 を備え、 脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いてリターンラインを流れる燃料から空気を分離するように構成される航空機燃料の脱気システム。」であるのに対し、 刊行物1に記載された発明においては、「リターンラインを流れる燃料から空気を分離し、分離した空気を燃料タンクに備えられるベントから大気中に放出させることによって燃料の脱気を行う脱気手段と、 リターンラインを流れる燃料の逆流を防止するための逆止弁と、 を備え、 脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いてリターンラインを流れる燃料から空気を分離するように構成される航空機燃料の脱気システム。」であるか否か不明である点(以下、「相違点」という。)。 (2)判断 上記相違点について検討する。 本件補正発明と刊行物2に記載された発明とは、ともに、航空機燃料内の空気溶解量を低減する技術に属するものであることが明らかであり、本件補正発明と刊行物2に記載された発明との用語の対応をとると、刊行物2に記載された発明における「第1の燃料ライン」、「空気を解放」、「第2の燃料ライン」、「約1.029kg/cm^(2)(14.7p.s.i)以下」、「のど部5」及び「航空機燃料の空気を解放するシステム」は、それぞれ、本件補正発明における「配管」、「空気を分離」、「リターンライン」、「大気圧以下」、「オリフィス」及び「航空機燃料の脱気システム」に対応することが明らかである。また、刊行物2に記載された発明における「入力ベンチユリー装置2」においても、少なからず脱気をしていることを参酌すると、刊行物2に記載された発明における「入力ベンチユリー装置2」は、本件補正発明における「前記燃料の脱気を行う脱気手段」に対応するといえる。 そうすると、刊行物2に記載された発明を本件補正発明の用語を用いて表現したものから、以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。 <刊行物2に記載された技術> 「航空機燃料の脱気システムにおいて、 燃料タンクから燃料を移送するための配管と、 燃料タンクに燃料を戻すリターンラインと、 リターンラインを流れる燃料から空気を分離することによって燃料の脱気を行う脱気手段と、 を備え、 脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いてリターンラインを流れる燃料から空気を分離するように構成される技術。」 そして、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術は、いずれも航空機燃料のシステムに関する技術に属するものである。 してみると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用して、「航空機燃料の脱気システム」とし、「燃料タンクから燃料を移送するための配管と、燃料タンクに燃料を戻すリターンラインと、リターンラインを流れる燃料から空気を分離することによって燃料の脱気を行う脱気手段と、を備え、脱気手段は、内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いてリターンラインを流れる燃料から空気を分離するように構成される」ようにすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。 そして、刊行物1に記載された発明において、「燃料供給ライン51、52及び53」(本件補正発明における「配管」に相当する。以下、括弧内に本件補正発明における相当する用語を記載する。)から複数の「燃料バイパスライン35及び37並びに31及び33」(リターンライン)が分岐していることを参酌すると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用する場合、刊行物2に記載された技術の「燃料タンクから燃料を移送するための第1の燃料ライン」及び「燃料タンクに燃料を戻す第2の燃料ライン」についても、「燃料供給ライン51、52及び53」(配管)から分岐した構成とすること、すなわち、「燃料タンクから燃料を移送するための配管」及び「燃料タンクに燃料を戻すリターンライン」を「配管から分岐して燃料タンクに燃料の一部を戻すリターンライン」とすることは、ポンプや管路の共用化等を目的に当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。そして、この場合、刊行物2に記載された技術の「入力ベンチユリー装置2」(脱気手段)は、「内部を通過する燃料の圧力が大気圧以下まで低下するように設計されたオリフィスを用いてリターンラインを流れる燃料から空気を分離するように構成される」ものとするのが自然である。さらに、流体の逆流を防止するために逆止弁を用いることは常とう手段(以下、「常とう手段」という。)であり、また、脱気手段により分離された空気を逆流させるべきでないことは当業者にとって明らかであるから、「リターンライン」に「逆止弁」を設けることについても、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。 また、燃料タンク内の気体を燃料タンクに備えられるベントから大気中に放出することは慣用手段(例えば、欧州特許出願公開第915250号明細書[特に、段落[0018]及びFIG 1。「low pressure relief valve 48」が「ベント」に対応する。]及び特開昭51-69714号公報[特に、第1ページ右下欄第13ないし18行。]等参照。以下、「慣用手段」という。)である。 そして、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用する場合、慣用手段を参酌し、分離した空気を燃料タンクに備えられるベントから大気中に放出させるようにすることに格別の困難性はない。 以上を総合すると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段を適用して、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。 そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件発明について 1.本件発明 平成28年11月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成28年8月1日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。 2.刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特表2005-525500号公報)及び刊行物2(特開昭60-259728号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(6)のとおりのものが記載されている。 3.対比・判断 本件発明は、上記[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「分離した前記空気」を「放出させる」場所について、「大気中に」であることの限定を削除したものである。 そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 4.まとめ 以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに常とう手段及び慣用手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件出願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-07 |
結審通知日 | 2017-06-13 |
審決日 | 2017-06-26 |
出願番号 | 特願2012-91445(P2012-91445) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤間 充、堀内 亮吾 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
西山 智宏 槙原 進 |
発明の名称 | 航空機燃料の脱気システム及び航空機燃料の脱気方法 |
代理人 | 山田 毅彦 |